JPH0873987A - 耐水素脆化特性に優れる鋼材とその製造方法 - Google Patents

耐水素脆化特性に優れる鋼材とその製造方法

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JPH0873987A
JPH0873987A JP21722894A JP21722894A JPH0873987A JP H0873987 A JPH0873987 A JP H0873987A JP 21722894 A JP21722894 A JP 21722894A JP 21722894 A JP21722894 A JP 21722894A JP H0873987 A JPH0873987 A JP H0873987A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】耐水素脆化特性に優れる鋼材とその製造法を提
供する。 【構成】直径が0.1mm以下の微細空隙をその合計体
積で、鋼材1g当たり1×10-6 cm3以上含有する耐水
素脆化特性に優れる鋼材。微細空隙がメタン気泡であっ
ても良い。 0.03重量%を越えるC量を含有する鋼を、水素分
圧1気圧以上のガス雰囲気中で200℃以上の温度域に
1時間以上加熱して、上記の微細空隙としてメタン気
泡を鋼中に生成させる耐水素脆化特性に優れる鋼材の製
造方法。前記処理の前に、オーステナイト域まで加熱
後、焼入れしても良い。 【効果】耐水素脆化特性に優れる鋼材を得ることができ
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、耐水素脆化特性に優れ
る鋼材とその製造方法に関する。更に詳しくは、水素誘
起割れ、硫化物応力腐食割れや遅れ破壊などの水素脆化
が問題となるラインパイプ、厚板、油井管、ボルトおよ
びバネなどに用いられる鋼材とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】鉄鋼材料にとって水素脆化は極めて重要
な問題である。例えば、湿潤硫化水素(以下、H2 Sと
いう)環境下で使用されるラインパイプ、厚板あるいは
油井管などには、水素誘起割れ(以下、HICという)
あるいは硫化物応力腐食割れ(以下、SSCという)と
呼ばれる水素脆化が生じる。HICとは、外部応力のな
い状態で鋼材に生じる割れであり、SSCは静的な応力
下での割れである。HICやSSCは、湿潤H2 S環境
で鋼が腐食したときに発生する水素が鋼中に侵入するこ
とによって生じる。また、大気中あるいは水中でも高強
度ボルトやバネには遅れ破壊と呼ばれる水素脆化が生じ
る。この遅れ破壊も、使用環境で鋼が腐食したときに発
生する水素が鋼中に侵入することによって生じる。こう
した水素脆化に対する感受性は、一般に鋼の強度が高く
なるほど大きくなるため、その克服に多大の努力が払わ
れてきた。
【0003】すなわち、HIC、SSCおよび遅れ破壊
に関して数多くの研究がなされ、幾多の対策が講じられ
てきた。その対策は大きく2種類に分けられる。1つは
鋼の水素脆化に対する抵抗性を向上させる方法である。
これには例えば、HICが硫化物系介在物(主としてM
nS)からなるA系介在物を起点として発生することか
ら、不純物元素であるSを極力低減する方法や、Ca添
加により硫化物の形態制御を行う方法、これに加えて更
に介在物を低減する方法が、またMnおよびP濃度の高
くなる中心偏析部では硬化組織が形成されてHICやS
SCに対する感受性が高くなることから、均熱拡散によ
り偏析を軽減したり圧延後の加速冷却により硬化組織の
生成を防止するといった方法などが開発されてきた。ま
た、SSCや遅れ破壊に対しては、硬さが重要な因子で
あるため、焼入れ焼戻し処理を行って組織を均一化して
硬さを低減したり、遅れ破壊では粒界強度を上げる目的
からPおよびSを低減することも行われてきた。
【0004】他の1つは水素の鋼中侵入を防止するため
の方法である。湿潤H2 S環境下で鋼に水素が侵入する
ことを抑制して耐HIC性、耐SSC性を向上させるた
めに、鋼にCuを添加する方法がその代表的なものであ
る。この他にもインヒビター(腐食抑制剤)を添加した
り、塗料や皮膜などの表面処理により防食して水素侵入
を防止する方法が行われてきた。
【0005】このように、従来は、耐食性を向上させて
水素侵入を防止する方法、不純物、偏析元素あるいは介
在物を極力低減して鋼の耐水素脆化特性を向上させる方
法、更には適正な熱処理(焼入れ焼戻しや加速冷却)に
よって鋼の耐水素脆化特性を向上させる方法が検討され
てきており、本発明者らもこのような方法をベースにし
て更なる知見を組み合わせることによって、耐HICラ
インパイプとして最も高強度のX80(規格最小降伏強
度:80ksi )級までの、また耐SSC油井管として最
も高強度のC110〜125(規格最小降伏強度:11
0〜125ksi)級までの製造方法をそれぞれ特願平6
−26285号の出願および特開平6−49588号公
報で提案した。
【0006】ところで、この範疇に含まれない新しい耐
水素脆化特性に優れた鋼材の製造方法が特公昭63−6
4492号公報に開示されている。この方法は、微細な
炭窒化物を必要量鋼中に析出させて侵入した水素をそこ
でトラップして無害化し、耐HIC性を向上させるとい
うものである。
【0007】また、溶接後の水素割れを防止するには鋼
中の硫化物(MnS)が多い方が望ましいという報告も
あり、これもMnSが溶接時に侵入した水素をトラップ
するためであると考えられている。
【0008】ところが、近年のエネルギー事情、あるい
は社会情勢から更に耐水素脆化特性に優れた鋼に対する
要請が大きくなっている。例えば、良質な石油資源の枯
渇に伴い、H2 S濃度が高く過酷な環境にあってかつ深
い油井・ガス井の開発が進められる結果、より高強度の
油井管が必要とされてきた。また、ラインパイプに関し
ても、よりpHが低くかつH2 S圧力の高い苛酷な環境
が課せられるようになり、併せて、輸送コスト削減の観
点から高圧操業が進められる結果、より高強度のライン
パイプが必要とされてきた。ボルト、バネに関しても、
重量低減とコスト削減の観点から更なる高強度鋼が必要
とされている。
【0009】しかし、前記した従来の方法では、耐水素
脆化特性に優れる鋼の高強度化には自ずと限界があっ
た。例えば、ラインパイプ用鋼の高強度化を目的にMn
など合金元素の添加量を増加させると、偏析が助長され
る結果HIC感受性も高くなってしまう。あるいは、油
井用鋼や高強度ボルト用鋼を高強度化する目的でC量を
増加させると焼き割れの問題が生じるため製造自体が困
難になる。Cu、CrやMoといった元素の増量による
高強度化はある程度までは効果があるが、製造コストが
極めて高くなる。更に、インヒビターや表面処理による
水素脆化の防止も確実ではないというように、いずれも
問題の多いものであった。
【0010】また、炭窒化物や硫化物を生じさせる方法
では、鋼の溶製時に、窒素や硫黄などの不純物元素ある
いはTiやNbなどの炭窒化物形成元素を添加する必要
があることに加えて、特に硫化物は先に述べたようにH
IC発生の点で問題が大きく、一方微細な炭窒化物を鋼
中に析出させるためには熱間での加工条件に制約を設け
る必要がある上に熱間加工のままの組織を利用しなけれ
ばならないため、高強度化の点で問題であった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、HI
C、SSCや遅れ破壊といった水素脆化に対して耐久性
を有する鋼とその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記の課題
を解決するため鋭意研究を行った結果、水素脆化を防止
するためには、侵入した水素を鋼中でトラップすれば良
いが、トラップサイトとして微細空隙(以下ポロシティ
ーという)を利用すればあらゆる組織の鋼材に適用でき
かつそのトラップ効果は炭窒化物や硫化物に比べてはる
かに大きいとの結論に達し、次にポロシティーについて
検討を重ねた結果、下記(1)〜(10)を知見した。
【0013】(1)鋼材は定期的な補修あるいは取り替
えを前提として、使用期間を10年と見積もった場合、
この間に水素をトラップするために必要なポロシティー
の合計量(体積)は実験と計算から、鋼材1g当たり1
×10-6 cm3以上であること。
【0014】(2)水素のトラップ量はポロシティーの
合計体積だけで決定されるが「最も長い長軸の長さ」と
定義する直径が大きすぎるポロシティーは鋼の靭性を損
ない、更に鋼中のマトリックスに固溶した水素濃度を不
均一化して水素濃度の高い部分を生じさせること。
【0015】(3)インゴットや連続鋳造スラブの最終
凝固部に生じる通常のポロシティーは圧下比の大きな熱
間加工により消失するので、最終製品ではこのポロシテ
ィーによる水素のトラップ効果は認められないこと。ま
たこの通常のポロシティーは圧下比を小さくして熱間加
工すれば鋼材中に残存することになるが、この場合ポロ
シティーは最終凝固部の限られた領域にしか存在しない
ので、最終製品でのこのポロシティーによる水素のトラ
ップ効果は極めて乏しいこと。
【0016】(4)高温高圧水素中で鋼中の炭化物が固
溶した水素と反応してメタンガスとなり、そのメタン気
泡が粒界に成長して鋼の靭性・強度を低下させる所謂水
素侵食によって生じたメタン気泡を、水素をトラップす
るポロシティーとして利用できること。すなわち、メタ
ン気泡の中には高圧のメタンガスがたまっているが、水
素ガスのトラップには全く障害にはならないこと。
【0017】(5)水素侵食を避けるために、鋼は通常
炭化物が水素と反応しない温度と水素分圧以下で使用さ
れ、一方鋼中炭化物の安定性は鋼に含有されるCr、M
o量で大きく左右されるため、鋼の種別によって使用可
能な温度と水素雰囲気がネルソン線図に明かにされてい
るが、従来とは全く逆の水素侵食現象を積極的に利用し
ようという発想から、メタン気泡を生成させる方法とし
て、水素分圧:1気圧以上、温度:200℃以上の一般
的な熱処理条件を見い出したこと。
【0018】(6)なお、ネルソン線図から各鋼種が水
素侵食を受ける温度が分かるので、それに応じて温度を
高めることが望ましいこと。
【0019】(7)このとき、C量0.03重量%以下
の鋼では充分なメタン気泡が生成しないこと。
【0020】(8)最終製品をこのような高温高圧水素
雰囲気で熱処理してメタン気泡を生成させると水素侵食
による劣化が問題となるが、適正な条件の高温高圧水素
雰囲気で熱処理した後、最終熱処理を実施すると機械的
特性の劣化の問題は解決できること。
【0021】(9)特に、オーステナイト単相温度領域
から焼入れた後、炭化物が析出せずCがマトリックスに
固溶した状態で高温高圧水素雰囲気で熱処理すると、メ
タン気泡の生成が容易であり、さらに粒内粒界を問わず
微細均一に生成するので、水素トラップの効果の面から
も、最終熱処理後の機械的性質の面からも最も望ましい
こと。
【0022】(10)ただし、この際、メタン気泡の生
成速度が大きいので、温度は400℃未満、加熱時間は
10時間未満が望ましいこと。
【0023】上記知見に基づく本発明は下記(1)〜
(4)に示す耐水素脆化特性に優れる鋼材とその製造方
法を要旨とする。
【0024】(1)直径が0.1mm以下の微細空隙を有
する鋼材であって、その微細空隙の合計体積が鋼材1g
当たり1×10-6 cm3以上であることを特徴とする耐水
素脆化特性に優れる鋼材。ここで微細空隙の直径は、最
も長い長軸の長さと定義する。
【0025】(2)微細空隙がメタン気泡であることを
特徴とする(1)に記載の耐水素脆化特性に優れる鋼
材。
【0026】(3)重量%で0.03%を超えるC量を
含有する鋼を、水素分圧1気圧以上のガス雰囲気中で2
00℃以上の温度域に1時間以上加熱することを特徴と
する(2)に記載の耐水素脆化特性に優れる鋼材の製造
方法。
【0027】(4)重量%で0.03%を超えるC量を
含有する鋼を、オーステナイト単相温度領域まで加熱し
て焼入処理を実施した後、水素分圧1気圧以上のガス雰
囲気中で、200℃以上400℃未満の温度域で1時間
以上10時間未満の加熱処理を施すことを特徴とする
(2)に記載の耐水素脆化特性に優れる鋼材の製造方
法。
【0028】
【作用】以下、本発明についてその作用効果とともに詳
細に説明する。
【0029】[ポロシティーの量と大きさ]10年を前
提とした使用期間中、ポロシティーがその中に水素ガス
として水素をトラップし続け水素脆化を防止するために
は、後に[ポロシティー中への水素ガスのトラップ効
果]の項にて詳述するように、鋼材1g当たりのポロシ
ティーの合計体積で1×10-6 cm3以上必要であるた
め、ポロシティーの合計体積の下限を1×10-6 cm3
した。なお以下では「鋼材1g当たりのポロシティーの
合計体積」を「ポロシティー密度」または「ポロシティ
ー量」と呼び cm3/g の単位で表記することとする。と
ころで、大気中あるいは水中での遅れ破壊を防止するた
めには1×10-5 cm3/g 以上、SSCを防止するには
1×10-4 cm3/g以上、HICを防止するには1×1
-3 cm3/g 以上のポロシティー密度とすることが望ま
しい。なおこのポロシティー密度の上限値は特に規定さ
れるものではないが、最終製品に要求される強度や靭
性、密度などを勘案して1×10-2 cm3/g 程度にすれ
ば良い。
【0030】なお、水素のトラップ量はポロシティーの
密度だけで決定されるが直径が 0.1mmを超えるポロシテ
ィーは鋼の靭性を損ない、更に鋼中のマトリックスに固
溶した水素濃度を不均一化して水素濃度の高い部分を生
じさせ耐水素脆化特性を劣化させるのでポロシティーの
直径の上限を0.1mmとした。なおこの直径の値は、
0.01mm以下とすることが望ましい。この下限値は特
に規定されるものではなく細かく分散している方が水素
をトラップしやすくまた水素のトラップ効果も大きい
が、後で述べる最終加工時にあまりにも小さいポロシテ
ィーは圧着してしまう恐れがあるので、ポロシティーの
直径はおよそ0.0005mm以上とすることが好まし
い。
【0031】[メタン気泡をポロシティーとして利用す
る場合の鋼の組成]C量0.03重量%以下の鋼では、
鋼中にメタン気泡の核となる炭化物が少なく充分な量の
メタン気泡が生成せず、加えて大きなメタン気泡が生成
して鋼の靭性を損なったり水素濃度の高い部分を生じさ
せるので、鋼が含有するCの量は重量%で0.03%を
超える量が必要である。C量の上限値は特に規定しない
が、鋼の加工性や焼割れ感受性、ポロシティーの成長速
度の点などから0.60重量%以下とするのが望まし
い。
【0032】なおメタン気泡生成のメカニズムは次の化
学反応によるものである。 M3 C+2H2 →CH4 +3M ここでMはFeおよびFeと置換したCr、Moなどの
合金元素を意味する。
【0033】[水素侵食反応を利用した熱処理条件]水
素侵食反応を実用的時間内で起こすためには水素分圧1
気圧以上の雰囲気が必要であるため水素分圧の下限を1
気圧とした。これを下回る水素分圧でも水素侵食反応は
起こるが、必要なメタン気泡を生成させるのに極めて長
時間を要するので実際的でない。また、分圧で1気圧以
上あればよく、純水素ガスでも、窒素、アルゴンなどの
不活性ガス、H2 S、水、あるいは二酸化硫黄などの腐
食性のガスが混入していても問題はない。
【0034】また温度は200℃以上が必要であり、こ
れを下回る温度では水素侵食反応は生じない。従って、
加熱の下限温度は200℃とした。ところで、炭化物の
安定性は鋼に含有されるCr、Mo量に大きく左右され
るので、鋼の種別によって熱処理温度を選択するのが望
ましい。すなわち、炭素鋼は200℃以上、1重量%程
度のCrを含む鋼は300℃以上、2重量%程度のCr
を含む鋼は400℃以上の温度で熱処理することが望ま
しい。なお後述するように、焼入れままの鋼ではCはマ
トリックスに固溶した状態であり、高温高圧水素に対す
る反応性は極めて高いので、Cr鋼でも200℃の処理
温度で充分である。加熱温度の上限は表面脱炭の防止と
鋼の著しい軟化を防止する点から600℃程度とすれば
良い。なお焼入れままの鋼の場合には、後述するように
400℃未満の温度で処理すれば良い。
【0035】更に、温度と鋼の厚みにもよるが水素雰囲
気での加熱は少なくとも1時間行うことが必要であっ
て、これを下回るとポロシティー(メタン気泡)が必要
量成長しない。従って、加熱時間の下限は1時間と定め
た。この時間の上限は特に規定しないが作業性や効率の
点から24時間程度とすれば良い。なお焼入れままの鋼
の場合には後述するように加熱時間は10時間未満とす
れば良い。
【0036】[高温高圧水素雰囲気で暴露する前の鋼の
組織]析出した炭化物が安定化している焼戻し後の組織
でも、CrあるいはMo含有量を考慮した温度で水素雰
囲気に暴露すればメタン気泡は生成するが、このとき粒
界の炭化物が優先的に反応してしまう。メタン気泡生成
後の鋼の機械的性質を考慮すると粒内・粒界を問わず均
一にメタン気泡を生成させるのが望ましく、この目的の
ためには、炭化物が析出せずCがマトリックスに固溶し
た状態の組織を高温高圧水素雰囲気で熱処理すれば良
い。従って、オーステナイト単相温度領域に加熱してC
をマトリックス中に固溶させた後で焼入れしたままの組
織とすれば効果が著しい。Cが固溶した状態で高温高圧
雰囲気に暴露すると水素侵食反応が容易に起こり、メタ
ン気泡が粒内および粒界に微細均一に生成し、このよう
なメタン気泡は水素トラップの効果の面からも優れてい
る。
【0037】ただしこの際、メタン気泡の生成速度が大
きいので、水素雰囲気で暴露処理するときの温度は40
0℃未満、加熱時間は10時間未満に制限する必要があ
る。
【0038】これを越えると直径0.1mmを超えるメタ
ン気泡が粒界に生成するので、そのままでは靭性や耐水
素脆化特性が不良であり、たとえ後で熱処理しても鋼の
機械的性質並びに耐水素脆化特性は回復しないからであ
る。
【0039】なお、水素侵食によりメタン気泡を生成さ
せる条件として上記のような一般的方法を明らかにした
が、これを外れる条件でも、鋼種、その熱処理、高温高
圧水素雰囲気の条件(混合ガスの種類と濃度)、更には
温度・時間の組合せよっては、機械的性質を損なうこと
なく、耐水素脆化特性を向上させることは可能である。
【0040】[水素侵食反応後の熱処理および加工]適
正な寸法・量のポロシティーは鋼の靭性を決して損なう
ことはないが、水素侵食反応を加速するために焼入れし
たままの組織では必要な靭性が得られないことが多い。
従ってこの場合には、水素侵食反応後に最終製品に要求
される機械的性質を付与するために、熱処理、熱間加
工、温間加工や冷間加工を施すのが望ましい。
【0041】なお最終凝固部などに生じるポロシティー
は大きな圧下比の熱間加工により消失するが、メタンは
鋼中に固溶せず、従って、ある程度の大きさを有するメ
タン気泡は鍛造あるいは熱間圧延などによっては消失し
ないので、水素侵食反応後に熱処理や各種の加工を行っ
ても良い。
【0042】[ポロシティー中への水素ガスのトラップ
効果]図1は、900℃に加熱して焼入れし550℃で
焼戻しした、重量%で、C:0.15%、Si:0.25%、Mn:
0.35%、P:0.003 %、S:0.001 %、Cr:2.27%、M
o:0.99%、Ti:0.022 %、Al:0.057 %、B:0.0009
%の化学組成の鋼Aを用いて、ポロシティー量と水素侵
入条件によるポロシティー中への水素ガスのトラップの
効果を調べた結果である。なおここでは、水素侵食反応
によりメタンの気泡(ポロシティー)を発生させるため
の条件を、水素分圧:300気圧、加熱時間: 200時間
と一定にし、水素雰囲気の温度を500〜600℃で変
えてポロシティー量を変化させた。ポロシティー量は鋼
の密度を測定し、水素侵食処理をしないためにポロシテ
ィーを含んでいない鋼の密度との差から算出した。その
量は、水素雰囲気温度が600、550、500℃の各
々について1×10-3、3×10-4および2×10-5 c
m3/g である。また、ポロシティーの直径はそれぞれ0.
005 、0.004 および0.001mm であった。
【0043】またポロシティー中の水素ガス圧は、先ず
200℃に鋼を加熱してマトリックス中に固溶した水素
を放出させ、次いで、300℃に加熱してポロシティー
中の水素ガスを再び水素原子としてマトリックスに固溶
させてから放出させることにより求めた量と、ポロシテ
ィーの体積から計算した。
【0044】水素の侵入条件としては、HICを発生
させる環境に相当する水素の侵入条件として、濃度1.
4 g/lのチオ尿素を含む5%硫酸環境下で、試験片を陰
極として対極との間に電流密度30mA/cm2 の定電流を
流して試験片に水素をチャージする条件を、同様に、
SSCを発生させる環境に相当する条件として、濃度1.
4 g/lのチオ尿素を含む0.5%硫酸中で、試験片を陰
極として対極との間に電流密度3mA/cm2 の定電流を流
して試験片に水素をチャージする条件を、遅れ破壊を
生じさせる水素侵入条件として、3%食塩水中でSCE
(飽和カロメル電極)に対して、−1.5Vの電位にな
るように試験片に電圧をかけて水素をチャージする条件
を、それぞれ選択した。なおこれらの条件は、電流密度
で表す水素透過速度に板厚をかけた水素透過能として
は、それぞれ10、1、0.1μA/cmとなる。
【0045】図1に示すように、ポロシティー中の水素
分圧は水素をチャージした時間とともに増加する。室温
における平衡状態では、 Sievert則により、固溶水素濃
度が1ppm に対して水素分圧は10000 気圧以上になるこ
とが知られている。図1ではHICを想定した最も厳し
い水素侵入条件でも、1000時間経過後のポロシティー中
水素分圧はたかだか 100気圧のオーダーであり、100000
時間(約11年)で飽和するかしないかのオーダーとな
る。また、各時間における水素分圧は前記の水素透過能
に比例した。従って、少ない水素の侵入量ではそれだけ
飽和に達するまでに時間がかかることになるので、使用
期間として10年を前提した場合、大気中あるいは水中の
遅れ破壊を防止するためには1×10-5 cm3/g 以上、
SSCを防止するには1×10-4 cm3/g 以上、HIC
を防止するには1×10-3 cm3/g以上のポロシティー
が必要となる。ただし、実際の腐食環境では水素侵入量
は一定でなく、時間と共に減衰するので、その1/10もあ
れば充分である。
【0046】
【実施例】表1に示す化学組成の鋼を通常の方法によっ
て溶製した。表1において鋼Bおよび鋼CはX80級の
ラインパイプ用鋼、鋼Dは125ksi級の油井管用低合金
鋼、鋼Eは130kgf/mm2級のボルト用鋼である。なお表2
〜4に従来例として示したようにこれらの鋼は通常の処
理のままでは、それぞれHIC、SSC、遅れ破壊が問
題となる鋼である。
【0047】次いで、これらの鋼を連続鋳造法あるいは
造塊・分塊法によって鋼片となした後、1200〜1250℃の
温度に加熱してから、25mm厚さの板(鋼B、Cおよび
D)または15mm直径の丸棒(鋼E)に熱間圧延した。
鋼B、CおよびDは熱間圧延材から25mm厚さ×25mm
幅×120mm長さの板を切り出しその状態で水素侵食処
理(水素雰囲気での熱処理)を行い、これを素材として
平行部6.35mmφ×25.4mm(ネジを含む全長は 100mm)の
丸棒引張り試験片を加工し、ポロシティーの量および直
径を測定し、また引張り試験と鋼B、CについてはHI
C特性の調査を、鋼DについてはSSC特性調査を行っ
た。更に、JIS4号衝撃試験片を用いたシャルピー試
験を行った。鋼Eは熱間圧延材から15mm直径×120
mm長さの丸棒を切り出し、焼入れ処理を行った後水素侵
食処理を行い、その後更に焼戻しまたは焼入れ焼戻しを
施し、これを素材として中心部に深さ1.42mmでR 0.1mm
の環状切欠を有する平行部6.66mmφ×25.4mm(ネジを含
む全長は 100mm)の丸棒引張り試験片を加工し、ポロシ
ティーの量および直径を測定し、また切欠引張り試験と
遅れ破壊特性の調査を行った。更に、JIS3号衝撃試
験片を用いたシャルピー試験と平行部6.66mmφ×25.4mm
(ネジを含む全長は 100mm)の丸棒引張り試験片を用い
た引張り試験を行った。
【0048】なお、HIC特性は、NACE浴(液温:
25℃の1気圧H2 Sを飽和させた0.5%酢酸と5%
食塩水の混合液)に96時間浸漬した後の割れ面積率
(超音波探傷法で測定)により評価し、割れ面積率が3
%未満のとき耐HIC性が良好と判定した。SSC特性
は上記のNACE浴中で規格最小降伏強度の80%の付
加応力(100ksi)の下で試験時間 720時間における破断
の有無から、また遅れ破壊特性は、pH2のワルポール
液(液温:25℃の塩酸と酢酸ナトリウム水溶液の混合
液)中でNTS(切欠引張強さ)の50%の付加応力下
で試験時間 200時間における破断の有無からそれぞれ判
定した。
【0049】表2〜4に水素雰囲気での熱処理条件、そ
の前後の熱処理条件と合わせて、ポロシティーの量と直
径、強度(降伏強度)、耐水素脆化特性並びに靭性の調
査結果を示す。なおこれらの表における靭性はシャルピ
ー試験による破面遷移温度と引張試験の絞りで判定し
た。
【0050】試験番号2は、水素侵食処理の加熱温度が
低くポロシティーが生成していないので、耐HIC性は
不良であり、試験番号6、7および9では水素侵食処理
の時間が短くポロシティーが充分成長していないので、
同様に耐HIC性は不良である。試験番号12は水素分
圧が低く、ポロシティーが生じていないので、同様に耐
HIC性は不良である。
【0051】鋼Cに関する試験番号14〜16の条件
は、鋼Bにおける試験番号5、3および4の場合には効
果のある条件であったが、鋼CのC量が少なくポロシテ
ィーが充分生成しないために耐HIC性は改善されなか
った。
【0052】鋼Dにおいては、焼入れ後、水素雰囲気中
に暴露してメタン気泡を生成させ、次いで焼戻しにより
強度を調整し、各種の調査を行った。鋼Bの場合と同
様、水素雰囲気での暴露時間の短い条件(試験番号1
8)や、水素分圧の低い条件(試験番号27)では効果
がなく、SSCを発生した。一方、水素侵食処理の加熱
温度が400℃以上の条件(試験番号21)あるいはそ
れ未満の温度でも加熱時間の長い条件(試験番号24)
では耐SSC性は良好なものの靭性が劣化した。
【0053】鋼Eにおいては、焼入れ後、水素雰囲気中
に暴露してメタン気泡を生成させ、次いで焼入れ焼戻し
により鋼の均一化と強度調整を図った後、各種の調査を
実施した。鋼Dの場合と同様、水素侵食処理の加熱温度
の低い条件(試験番号29)および加熱時間の短い条件
(試験番号34)では効果がなく、遅れ破壊が発生し
た。一方、水素侵食処理の加熱温度が400℃以上の条
件(試験番号33)あるいはそれ未満の温度でも加熱時
間の長い条件(試験番号37および38)では靭性が劣
化した。特に、試験番号33と38では0.1mmを超え
る大きなポロシティーが生成して、耐遅れ破壊性自体も
良好ではない。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によって湿
潤H2 S環境で使用されるラインパイプ、厚板や油井
管、あるいは遅れ破壊が問題となるボルトやバネ用鋼な
ど高強度鋼の耐水素脆化特性が改善でき、省資源、省エ
ネルギー更には、より過酷な環境にあるエネルギー資源
の開発などの要請に応えることが可能である。更に本発
明は、原子力機器用などで水素透過防止材としても使用
できる、産業上有効な発明である。
【図面の簡単な説明】
【図1】ポロシティー量と水素侵入条件によるポロシテ
ィー中への水素ガスのトラップの効果を調べた結果を示
す図である。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】直径が0.1mm以下の微細空隙を有する鋼
    材であって、その微細空隙の合計体積が鋼材1g当たり
    1×10-6 cm3以上であることを特徴とする耐水素脆化
    特性に優れる鋼材。ここで微細空隙の直径は、最も長い
    長軸の長さと定義する。
  2. 【請求項2】微細空隙がメタン気泡であることを特徴と
    する請求項1に記載の耐水素脆化特性に優れる鋼材。
  3. 【請求項3】重量%で0.03%を超えるC量を含有す
    る鋼を、水素分圧1気圧以上のガス雰囲気中で200℃
    以上の温度域に1時間以上加熱することを特徴とする請
    求項2に記載の耐水素脆化特性に優れる鋼材の製造方
    法。
  4. 【請求項4】重量%で0.03%を超えるC量を含有す
    る鋼を、オーステナイト単相温度領域まで加熱して焼入
    処理を実施した後、水素分圧1気圧以上のガス雰囲気中
    で、200℃以上400℃未満の温度域で1時間以上1
    0時間未満の加熱処理を施すことを特徴とする請求項2
    に記載の耐水素脆化特性に優れる鋼材の製造方法。
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JP2007136496A (ja) * 2005-11-17 2007-06-07 Sumitomo Metal Ind Ltd 連続鋳造方法および連続鋳造鋳片
WO2018139400A1 (ja) * 2017-01-24 2018-08-02 新日鐵住金株式会社 鋼材、及び、鋼材の製造方法

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