JPH08322412A - アンチセンス遺伝子を導入した植物及びその作出方法 - Google Patents

アンチセンス遺伝子を導入した植物及びその作出方法

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JPH08322412A
JPH08322412A JP7151118A JP15111895A JPH08322412A JP H08322412 A JPH08322412 A JP H08322412A JP 7151118 A JP7151118 A JP 7151118A JP 15111895 A JP15111895 A JP 15111895A JP H08322412 A JPH08322412 A JP H08322412A
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plant
gene
self
slg
antisense
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JP7151118A
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English (en)
Inventor
Hiroshi Shiba
博史 柴
Akinori Suzuki
昭憲 鈴木
Akira Isogai
彰 磯貝
Kokichi Hiuga
康吉 日向
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SAISHIYU JITSUYOU GIJUTSU KENK
SAISHIYU JITSUYOU GIJUTSU KENKYUSHO KK
Original Assignee
SAISHIYU JITSUYOU GIJUTSU KENK
SAISHIYU JITSUYOU GIJUTSU KENKYUSHO KK
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  • Micro-Organisms Or Cultivation Processes Thereof (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【構成】 アンチセンスS糖タンパク質遺伝子を有する
植物、及び、該植物の作出方法、並びに、アンチセンス
S糖タンパク質遺伝子を利用した植物の形質転換法。 【効果】 自家不和合性を打破する方法を提供する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アンチセンスS糖タン
パク質遺伝子を有する植物、及び該植物の作出方法、並
びに、アンチセンスS糖タンパク質遺伝子を利用した植
物の形質転換法に関する。
【0002】
【従来の技術】アブラナ科植物の自家不和合性を制御し
ている遺伝子については、遺伝学、生理学、分子生物学
の見地から多くの研究がされてきた。半数以上の被子植
物が遺伝的多様性を広げるため、自家不和合性と呼ばれ
る機構を発達させている。自家不和合性とは、1つの花
に雌しべと雄しべを有する両全花において、自家受粉し
た花粉の発芽及び花粉管の伸長が阻害されて自家受精で
きない機構である。
【0003】アブラナ科植物の自家不和合性は胞子体型
自家不和合性を示し、1遺伝子座のS複対立遺伝子系
(S1,S2,・・・・,Si)により制御されている(Batem
an, A.j. Heredity 9: 52-68 (1955))。雌しべと花粉
の遺伝子型が同じ場合不和合となる。このS遺伝子と対
応した柱頭側のS遺伝子特異物質の存在が、免疫学的手
法を用いて最初に確かめられた(Nasralla, M. E. and
D. H. Wallace. Heredity 22: 519-527 (1967), Hinat
a, K. et al Genetics 100: 649-697(1982))。柱頭の
タンパク質の等電点電気泳動分析から、このS遺伝子特
異的タンパク質は、S糖タンパク質(S-locus specific
glycoprotein;以下「SLG」という)と呼ばれ(Nish
io, T. and K. Hinata. Heredity 38: 391-396 (197
7))、S遺伝子に対応して異なった等電点を有する糖タ
ンパク質で、Sヘテロ個体における発現量はSホモ個体
の約半分で(Hinata, K and T. Nishio. Heredity 41:
93-100 (1978))、このSLGは例外なくS遺伝子と行
動をともにする(Nou et al. Jap. J.Genet 66: 227-23
9 (1991))。SLGは開花数日前に発現が始まり、その
発現時期は自家不和合性の発現時期と一致していた。こ
の状況証拠から、SLGがS遺伝子の産物であり、自家
不和合性の認識反応に関連した第1候補である。
【0004】Brassica campestrisの3つのS遺伝子系統
からSLGが単離され、アミノ酸配列が決定された(Ta
kayama et al. Nature 326: 102-104 (1987), Isogai e
t al. Plant Cell Physiol 28: 1279-1291 (1987))。
アミノ酸配列を比較すると、非常に類似しており、これ
らが同じ遺伝子座の対立遺伝子であると考えられた。こ
れらの糖タンパク質の糖鎖はSLG間で非常に類似し、
差異が見られないので、100を越すSLGの特異性は糖
鎖ではなくタンパク質部分にある。
【0005】現在までに自家不和合性系統のB.oleracea
において7つのSLG遺伝子のcDNAが(特開昭62-1
43688号)、 B.campestrisにおいて3つのSLG遺伝子
のcDNAが(Yamakawa et al. Biosci. Biotech. Bio
chem 58: 921-925 (1994), Watanabe et al. Plant Cel
l Physiol 35 (1994))クローニングされ、アミノ酸配
列が推定された。更に、SLG遺伝子cDNAの3'非翻
訳領域をプローブとして、SLGに対応するゲノミック
クローンがB.oleraceaから3つ単離され(Nasrallah et
al. Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 5551-5555 (198
8))、B.campestrisからも1つが単離されている(Dwye
r et al. Plant Mol Biol 16: 481-486 (1991): 本発明
で使用したプロモーターを含む)。
【0006】SLGと自家不和合性の関係を直接的に示
す証拠として自家和合性の突然変異体scf1が挙げられ
る。この突然変異体はSLG発現量の減少により自家和
合になったと考えられている(Nasrallah et al. Plant
J. 2: 497-506 (1992))。近年トウモロコシからセリ
ン/スレオニン型レセプタープロテインキナーゼ遺伝子
がクローニングされ、その細胞外ドメインのアミノ酸配
列とBrassicaのSLGのアミノ酸配列との間に高いホモ
ロジーがあることが示された(Walker,J. C.,and R. Zh
ang. Narure 345:743-746 (1990))。この報告後B.oler
aceaのS6系統からS6系統のSLGと89%の相同性のあ
る細胞外ドメイン、疎水性の膜貫通ドメインとプロテイ
ンキナーゼの触媒ドメインを有するプロテインキナーゼ
に対応する遺伝子がクローニングされた。この遺伝子は
Sレセプターキナーゼ(S-receptor Kinase;以下「SR
K」という)遺伝子と呼ばれ、これはS遺伝子座上に存
在した(Stein et al. Proc. Natl. Acad. Sci. 88: 88
16-8820 (1991))。
【0007】SRK遺伝子と自家不和合性の関係を直接
的に示す証拠として、自家和合性のB.napusと自家和合
性のB.oleraceaから単離したSRK遺伝子が挙げられ
る。自家和合性のB.napusから単離されたSRK遺伝子
はSドメインの3'末端に1bp欠失が生じていた。この欠
失によりフレームシフトが起き、その結果としてSRK
遺伝子の翻訳産物が短くなり、自家和合になったと考え
られる(Goring et al.Plant Cell 5: 531-539 (199
3))。S遺伝子座上の突然変異を持つ自家和合性のB.ol
eraceaではSLGの発現は自家不和合のものと同程度で
あるが、SRKの発現は全く見られなかった。この突然
変異体のSRK遺伝子について詳細に検討してみると、
SRK遺伝子の第1、第2エクソンが欠失していた(Na
srallah et al. Plant J. 5: 373-384 (1994))。いず
れの場合もSRK遺伝子の機能を失っていた。
【0008】以上のことから、アブラナ科植物の自家不
和合性反応は、SLGが花粉側からの認識物質と結合
し、SRKを介するリン酸化を介したシグナル伝達系に
情報が伝達され、その反応に引き続き花粉管の侵入・不
侵入が起こると考えられている。そこで、SLGとSR
Kの発現を遺伝的抑制することにより、自家不和合性の
植物を自家和合に変えられる可能性がある。
【0009】近年、植物組織培養技術の向上と遺伝子導
入技術の開発により形質転換植物の作出が報告されてい
る。アブラナ科植物においてはアグロバクテリウムによ
り外来遺伝子を導入した例が報告されている。タンパク
質合成の情報となるmRNAに対して相補的な塩基配列
を有するRNAが、そのRNAの機能を抑制する働きが
あることが知られている。これはアンチセンスRNAと
称されるものであり、遺伝子組換え技術の導入によっ
て、アンチセンスRNAを人工的に作り出す研究も進め
られている(特開昭62-296880号)。
【0010】例えば、花色色素合成に関与しているカル
コン合成酵素のアンチセンスRNAを生産する組換えペ
チュニアを作製し、野生型とは花色の異なるペチュニア
が得られている(欧州特許公開第341885号)。また、ト
マト果実の軟質化に重要な役割を果たしているポリガラ
クツロナーゼ遺伝子が、導入されたアンチセンスRNA
によって発現が抑制され、野生型よりも保存の効くトマ
トが作り出され、バイオトマトとして市場に出回ってい
る(欧州特許公開第891115号)。
【0011】配偶体型自家不和合性を示すペチュニアで
も、S遺伝子と行動を共にする遺伝子がクローニングさ
れた。この遺伝子に対応するタンパク質はRNase活性を
有することからS-RNaseと名付けられた。S-RNase遺伝
子のアンチセンス遺伝子を導入した組換えペチュニア
は、自家和合性となり自家受粉でも受精可能になってい
る(Lee et al. Nature 367: 560 (1994))。
【0012】しかし、S-RNaseは、アブラナ科のSLG
とはアミノ酸配列の相同性が低く、S遺伝子に対応する
タンパク質は、配偶体型自家不和合性植物と胞子体型自
家不和合性植物とでは全く異なるものと考えられた。こ
れまでのところアンチセンスRNA技術を胞子体自家不
和合性植物に応用した例はない。油科ナタネ(B.napu
s)は自家和合性であるが、カナダ、インドなどで栽培
される油科ナタネ(B.campestris)は自家不和合性であ
る。そのため採種には雄性不稔系統を用いたF1 採種が
行われている。この際、雄性不稔系統を用いたF1採種
量が低いことや、雄性不稔系統と花粉親系統間のS遺伝
子型の一致などが問題となり、遺伝的に雄性不稔系統を
自家和合性に変え、採種量を増加させる方法が望まれて
いる。
【0013】アブラナ科野菜の多くは自家不和合性を利
用した一代雑種品種(F1)が主流になっている。その
反面、F1親品種の育成や原種採種の過程で自家不和合
性は障害となっている。自家不和合性を示すF1親品種
の原種採種は蕾交配や炭酸ガス処理などで行われてい
る。しかし、蕾交配で原種採種を行う際、熟練した交配
手の確保、交配労力、交配手の賃金等が問題となる。ま
た、炭酸ガス処理で原種採種を行う際、蕾交配に比較し
て原種採種の効率は良く、原種採種労力コストは低くな
る。しかし、炭酸ガス発生装置等を常設するために採種
面積が限定される点や系統により炭酸ガス効果が一定で
はなく安定した原種量を確保できない場合もある。そこ
で、これらの方法よりも廉価でより効率の良い方法の開
発が望まれている。
【0014】また、自家不和合性を有する野菜の純系育
種に際しても同様の問題が生じている。一般にアンチセ
ンスによる目的遺伝子の抑制には、目的遺伝子の約10倍
の発現量のアンチセンスRNAを組織特異的に発現させ
る必要性がある。このため、SLGアンチセンスRNA
を作らせるプロモーターとして、SLGプロモーター単
独では効率の良いSLG及びSRKの低減は期待できな
い。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、SL
G遺伝子の発現を抑制した形質転換植物を作出し、集団
採種及び雄性不稔系統を用いたF1 採種における採種量
を増加させる方法を提供すると共に、従来の蕾交配や炭
酸ガス処理よりも、廉価でより効率よく、自殖種子を獲
得する方法を提供することである。
【0016】
【課題を解決するための手段】本願発明者らは、上記課
題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、アンチセンスS
糖タンパク質遺伝子をエンハンサーとともに、植物のゲ
ノムDNA中に組み込むことにより、自家不和合性の植
物を自家和合性に形質転換できることを見出し、本発明
を完成した。
【0017】即ち、本発明の第一は、アンチセンスS糖
タンパク質遺伝子を有することを特徴とする植物であ
る。また、本発明の第二は、アンチセンスS糖タンパク
質遺伝子と遺伝子のエンハンサーとを含むベクターを構
築し、該ベクターを植物のゲノムDNAに組み込むこと
を特徴とするアンチセンスS糖タンパク質遺伝子を有す
る植物の作出方法である。
【0018】更に、本発明の第三は、アンチセンスS糖
タンパク質遺伝子と遺伝子のエンハンサーとを含むベク
ターを構築し、該ベクターを自家不和合性の植物のゲノ
ムDNAに組み込み、該植物を自家和合性に形質転換す
ることを特徴とする植物の形質転換法である。以下、本
発明を詳細に説明する。 〔作出される植物の種類〕植物の種類としては、胞子体
型自家不和合性の植物であれば特に限定されない。具体
的には、アブラナ科、ヒルガオ科、キク科植物等を挙げ
ることができる。これらの中でもアブラナ科植物が好ま
しく、特にブラシカ属植物が好ましい。 〔作出された植物の特徴となる遺伝子もしくは特性〕本
発明の植物の特徴は、ゲノムDNA中にアンチセンスS
LG遺伝子を有することである。ここで、アンチセンス
SLG遺伝子とは、アンチセンスRNAを転写しうる遺
伝子のことをいい、プロモーターにSLG遺伝子のcD
NAを逆向きにつなぐことにより得られる。このアンチ
センスSLG遺伝子から転写されるアンチセンスRNA
は、SLG遺伝子のmRNAと対合し、翻訳を阻害し、
SLG遺伝子の発現を抑制する。このため、アンチセン
スSLG遺伝子が柱頭で発現している植物では、自家不
和合性に関与するSLG及びSRKの発現量が減少する
ので、自家不和合性が打破され、自家受精が可能とな
る。 〔植物の作出過程〕本発明の植物は、プロモーターにc
DNAを逆向きにつないだアンチセンスSLG遺伝子、
エンハンサーの2者を含むベクターを構築し、該ベクタ
ーを植物のゲノムDNAに組み込むことにより作出する
ことができる。
【0019】このベクターは、以下のようにして構築す
ることができる。まず、SLG遺伝子のcDNAを本来
の向きと逆向きにしてプロモーターと連結させる。プロ
モーターと連結させるcDNAは、例えば、プラスミド
ベクターpUCS8に含まれており、このプラスミドベ
クターは、奈良先端科学技術大学院大学細胞間情報学研
究室より入手することができる。プロモータとしては、
植物内で導入遺伝子を発現する際に常用されているCa
MVの35Sのプロモータを使用することもできるが、
該プロモーターは柱頭での活性が低く、柱頭でのSLG
の発現を抑えるのには向いていない。このため、本発明
においては、ゲノムSLG遺伝子中に含まれるSLG遺
伝子のプロモーターを使用することが好ましい。SLG
遺伝子のプロモーターは、公知のSLG遺伝子のcDN
AやゲノムDNAの塩基配列を基にプライマーを合成
し、PCR法により合成することができる。また、該プ
ロモータを含むベクターも入手可能なので、これを直接
利用することもできる。例えば、SLG遺伝子のS8
統のプロモータを含むプラスミドベクターpSLG8
roは、奈良先端科学技術大学院大学細胞間情報学研究
室より入手することができる。
【0020】このようにして得られたアンチセンスSL
G遺伝子を植物ゲノムDNA中にそのまま組み込むこと
によってもmRNAの翻訳をある程度阻止することもで
きるが、好ましくは、プロモーターの上流にエンハンサ
ーを連結させる。ここで、用いるエンハンサーとして
は、植物の外来遺伝子導入に常用されるものを使用する
ことができるが、好ましくは、CaMVの35Sプロモ
ーターのエンハンサーを使用する。該エンハンサーは、
プラスミドpΔ35Sproに含まれており、このプラ
スミドベクターは奈良先端科学技術大学院大学細胞間情
報学研究室より入手することができる。
【0021】次に、上記のアンチセンスSLG遺伝子、
及びエンハンサーを適当なベクターに挿入し、アグロバ
クテリウムを用いて植物細胞を形質転換する。ここで用
いるベクターとしては、植物の外来遺伝子導入に常用さ
れるものを使用することができるが、好ましくはpBI
121のようなバイナリーベクターを用いる。アグロバ
クテリウムのT-DNAはライトボーダー側から植物のゲ
ノムに組み込まれるので、ライトボーダー側にアンチセ
ンス遺伝子、プロモータ、エンハンサーを配置し、レフ
トボーダー側に選抜マーカーとして薬剤耐性を発現する
遺伝子を配置する。このように、薬剤耐性遺伝子をベク
ターに配置することにより、アンチセンス遺伝子が導入
された植物体を効率よく選抜することが可能になる。こ
こで用いる選抜マーカー遺伝子としては、例えば、カナ
マイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子など
を挙げることができる。
【0022】上記のように構築されたベクターは、大腸
菌に導入した後、大腸菌からアグロバクテリウムに移
す。アグロバクテリウムとしては、植物の外来遺伝子導
入に常用されるものであればどのようなものでもよく、
例えば、Agrobacterium tumefasience EH101株(Hood e
t al. J.Bacteriol 168:1291-1301)を用いることがで
きる。アグロバクテリウムにベクターを導入する方法
は、特別な方法を用いる必要はなく、例えば、エレクト
ロポレーション法によって行うことができる。具体的に
は、Current Protocols in Molecular Biology: Wiley
Interscience記載の大腸菌のエレクトロポレーション法
を適宜修正して行うことができる。
【0023】形質転換したアグロバクテリウムは、ベク
ターに配置した薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤を含む培
地中で培養する。この培養により、前記ベクターが導入
されたものだけを選抜することができる。アグロバクテ
リウムを用いて植物を形質転換する方法は、Radkeらの
方法(Radke et al., Plant Cell Rep.11:499-505(199
2))に従って行うことができる。即ち、播種から数日経
過した胚軸を取り出し、これを適当なフィーダーレーヤ
ー細胞による前培養を行った後、アグロバクテリウムの
培養液に浸す。次いで、再びフィーダーレーヤー細胞と
共培養を行った後、抗生物質を含む培地中で培養し、発
根、成熟させて植物体を得る。
【0024】植物体にアンチセンスSLG遺伝子が導入
されているかどうかは、植物体よりゲノムDNAを抽出
し、サザンハイブリダイゼーションを行うことにより確
認できる。以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的
に説明する。もっとも、本発明は下記の実施例に限定さ
れるものではない。
【0025】
【実施例】
〔実施例1〕アンチセンスSLG遺伝子導入ベクターの
設計と構築 アンチセンス遺伝子はS8 系統のSLG遺伝子(以下、
「SLG8 」という)のcDNAをSLG8 プロモータ
ーの後ろに逆向きに導入することで得られる。SLG8
プロモーターは柱頭または葯特異的な発現を示すことが
知られている(Sato et al.,Plant Cell 3:867-876(199
1))。完全長のSLG8 遺伝子cDNA断片(約1.5k
b)を含むプラスミドpUCS8(図1)(Yamakawa et
al., Biosci. Biotech. Biochem. 58:921-925、奈良先
端科学技術大学院大学細胞間情報研究室より入手)をEc
o RIで切断後、平滑末端処理を行いさらにBam HIで切断
することで約1.3kbの完全長cDNAを切り出した。こ
の断片を、SLG8 ゲノムDNAのプロモーター領域約
1.9kbを含むプラスミドp SLG8pro(図1)(奈良
先端科学技術大学院大学細胞間情報研究室より入手)を
Not Iで切断後平滑末端処理を行い、続いてBam HIで切
断した部位に、導入してアンチセンスSLG遺伝子pA
NTI1(図1)を作製した。
【0026】次に、アンチセンス遺伝子とエンハンサー
配列を連結するため、pANTI1をSac IIで切断後、
平滑末端処理を行い、さらにHind IIIで切断してアンチ
センス遺伝子部分を切り出した。この断片を、Eco RV処
理で5'上流域-100〜-1を切除して基本転写因子を除いた
CaMV 35Sプロモーター領域を含むプラスミドp
Δ35Spro(図1)(奈良先端科学技術大学院大学
細胞間情報研究室より入手)をXho Iで切断後平滑末端
処理を行い、続いてHind IIIで切断した部位に、導入し
てpANTI2(図1)を作製した。
【0027】さらに、これをKpn Iで切断後平滑末端処
理を行い、Sac IIで切断してエンハンサー、アンチセン
ス遺伝子部分を切り出した。この断片を、植物導入ベク
ターであるpBI 121(Clontec 社製)をSac I で
切断後平滑末端処理を行い、Sac IIで部分分解を行った
部位に、挿入してpANTI3(図1)を作製した。さ
らにカナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンB耐性
遺伝子を含むプラスミドpKH1をSac I、Kpn Iで切断
後、平滑末端処理を行って両遺伝子を切り出し、pAN
TI3をEco RIで切断後平滑末端処理を行った部位に挿
入してアンチセンス遺伝子導入ベクターpANTI4
(図1)を作製した。なお、このpANTI4を含む大
腸菌(E.coli pANTI4 )は工業技術院生命工学工業技術
研究所に受託番号FERM P-14922として寄託されている
(寄託日平成7年5月15日)。 〔実施例2〕アグロバクテリウムの形質転換 植物へ遺伝子を導入する手法として植物病原菌のアグロ
バクテリウムを用いたバイナリーベクター法による遺伝
子の組み換えを行った。アグロバクテリウム株はAgroba
cterium tumefasience EHA101株(Hood et al., J.Bact
eriol 168:1291-1301)を用い、遺伝子導入法としてエ
レクトロポレーション法を採用した。
【0028】コンピテントセルの調製、アグロバクテリ
ウムの遺伝子導入法は大腸菌のエレクトロポレーション
法を基に若干の改良を加えた(Current Protocols in M
olecular Biology : Wiley Interscience)。コンピテ
ントセルの調製は本培養を16〜24時間行ったものを用い
た。大腸菌で調製したプラスミドpANTI4 50μg/m
L 1μLを、予め氷中で溶解したcompetent cell液に加
えよく混合した。これをプラスチックセルに移し直流パ
ルスの設定を2.5kv、25μFのコンデンサー、400オーム
の抵抗にして形質転換を行った。形質転換後、直ちに1
mlのSOC培地を加えパスツールピペットを用いて培養
液をエッペンドルフチューブに移し30℃で2時間穏やか
に振盪培養した。そして培養液100μL を50μg/mLハイ
グロマイシンBを添加したLB培地上に塗り広げて37℃
で24h 培養を行い陽性コロニーを検出し、サザン分析に
よってプラスミドの存在を確認した。 〔実施例3〕 Brassicaの形質転換 実験はRadke(Radke et al., Plant Cell Rep.11:499-5
05(1992))記載の方法を基に改良を加えて行った。
【0029】B. rapa ssp. oleifera(syn. B. camestr
is)の一品種"Candle"(東北大学農学部植物育種学研究
室より入手)を無菌播種後、4−6日経過している実生
から胚軸を切り出した。胚軸は中央部分を選んで1cm長
に切り出した。これをタバコのフィーダーレーヤー細胞
(奈良先端科学技術大学院大学細胞間情報研究室より入
手)による前培養を行った。培地はMS培地に1mg/L
2.4-Dと10mM グルコースを添加したものを用い、25℃、
約3000lux、の条件で18−24h培養した。この外植片を24
h培養したアグロバクテリウムの培養液に10分間浸し、
余計な液をろ紙で除いた後、再びフィーダーplateに戻
し先の条件で2日間共培養を行った。次に外植片をB5
培地に1mg/L 2.4-Dと500μg/mLカルベニシリン、25μg
/mlカナマイシンを添加したものに移し、25℃、約3000
lux、16h light、8h darkの条件で3−4日培養した。
温度、光量、照射時間に関して以後もこの条件で培養を
行った。
【0030】次にB5培地に1mg/L ゼアチン(Zeati
n)、5mg/l AgNO3、500 μg/ml カルベニシリンと10μg/
ml カナマイシンを添加した培地上に1プレート当たり4
0−45外植片を置床し培養した。本培地で2週間培養し
た後、AgNO3を含まない上記培地に移した。以後シュー
トを形成するまで1週間ごとに新しい培地に交換した。
4−9週間後、外植片から分化したシュートを切り出
し、B5培地に300μg/mL カルベニシリンと50μg/mL
カナマイシンを添加したものに移し2週間培養した。シ
ュートは5mm以上の大きさになったものを切り出した。
【0031】2週間後、B5培地に2mg/L インドール-
3-酪酸(indole-3-butyric acid) 、300 μg/mL カルベ
ニシリンと50μg/mL カナマイシンを添加したものに移
したところ10日ほどで根の形成がみられた。さらにシュ
ートをポットに移して生育させたところ成熟した完全な
植物体が3個体得られた。 〔実施例4〕形質転換体の確認 上記実施例3で得られた3個体の植物体の緑葉よりPich
ら(Pich et al., Nude Acid Res.21:3328(1993))記載
の方法を用いてゲノムDNAを抽出し、サザンハイブリ
ダイゼーション法を行い導入した遺伝子の存在を確認し
た。その結果、3個体中1個体がカナマイシン耐性遺伝
子およびSLG8 遺伝子を保持していることが確認され
た。 〔実施例5〕形質転換アブラナ植物体の分析 アンチセンスSLG遺伝子の導入によって自家不和合性
の形質に変化を与えたかどうかを確認するため自家受粉
を行った。その結果、種子形成率が80%程度と形質転換
していないCandleにおける種子形成率1−3%(5/317=
0.0157)の値と異なる結果を得た。また自家受粉時にお
ける花粉管の伸長を観察した。受粉後2時間経過した雌
ずいをエタノール:酢酸=3:1に混合した固定液中に
5時間浸した後、1N 水酸化ナトリウム水溶液中60℃で
1.5時間処理した。これを0.01%アニリンブルーを含む
2%リン酸カリウム水溶液に2時間浸し、蛍光顕微鏡で
観察した。対照として形質転換していないCandleに関し
ても同様の実験を行った。結果を図2に示す。図2aは
形質転換体における自家受粉の結果、図2bはコントロ
ールにおける自家受粉の結果である。コントロールでは
花粉管の伸長が抑制され、しかも乳頭突起細胞上には自
家不和合性の現象にともなって観察されるカロース栓の
形成が観察されている。一方、形質転換体では花粉管の
伸長が観察され、またカロース栓の形成は観察されなか
った。しかし花粉管の数は1柱頭当たり50-100本程度と
他家受粉を行った場合の花粉管数(1柱頭当たり200本
以上)に比べてやや低かった。 〔実施例6〕形質転換アブラナ植物体のSLGの転写レ
ベルでの分析 形質転換体から開花2日前の柱頭50個を採取し、Micro-F
astTrack (Invitrogen社)を用いて1.5μgのmRNAの
抽出を行い、ノーザンハイブリダイゼーション法を行っ
てSLGの転写レベルでの変化を調べた。プローブはS
LG8 遺伝子cDNA(奈良先端科学技術大学院大学細
胞間情報研究室より入手)を用い、対象として形質転換
していないCandleを用いて同様の条件でmRNAの調製
を行い、ノーザンハイブリダイゼーションを行った。結
果を図3に示す。レーン1がコントロールを、レーン2
が形質転換体を示す。図3aはイメージングプレートに
感光後2時間の結果であり、図3bは感光後12時間経過
した結果を示している。長時間の感光はSLGに比べて
200分の1程度の発現量であるSRKを検出するために
行った。形質転換体ではSLGの発現は観察されるもの
のコントロールと比較して非常に低い値であった。また
SLGだけでなくSLGと相同な細胞外ドメインを有す
るSRKの発現量も低下していることが示唆された。 〔実施例7〕形質転換アブラナ植物体のSLGの翻訳レ
ベルでの分析 形質転換体から開花直後の柱頭5個を採取し、エッペン
ドルフチューブに入れ、氷温下で50mM Tris-HCl (pH
7.5)緩衝液を加えアクリル棒を用いて磨細した後、120
00rpm. 20min. 4℃で遠心した。その上清をとり、10%
SDS、2-メルカプトエタノール、ブロモフェノールブ
ルー(BPB)を加えて混合し、12%ポリアクリルアミ
ドゲル電気泳動で分離した。ゲル中の分離したタンパク
質をPVDF膜(Millipore)に転写し、抗S8モノクロ
ーナル抗体を用いてSLGの検出を行った。
【0032】対照として、形質転換していないCandleお
よびBrassica campestris S8ホモ系統株を用い、同様
の条件でS糖タンパク質の検出を行った。結果を図4に
示す。レーン1がコントロール、レーン2が形質転換
体、レーン3がS8ホモ系統体である。コントロールのC
andleおよびS8ホモ系統株では抗S8モノクローナル抗
体と反応するバンドが55kd付近に数本見られるが、形質
転換体では検出されなかった。また等電点電気泳動によ
るS糖タンパク質の検出を行った。形質転換体から開花
直後の柱頭30個を採取し、エッペンドルフチューブに入
れ、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動の場合と
同様の操作を行って粗抽出液を回収した。粗抽出液をポ
リアクリルアミド薄層ゲル板(Ampholine PAG plates p
H 3.5-9.5; LKB)で泳動し、タンパク質を分離した。ゲ
ルからPVDF膜にタンパク質の転写を行い、抗S8
ノクローナル抗体を用いてS糖タンパク質の検出を行っ
た。対照として、形質転換していないCandleおよびBras
sica campestris S8ホモ系統株を用い、同様の条件で
S糖タンパク質の検出を行った。結果を図5に示す。レ
ーン1がコントロール、レーン2が形質転換体、レーン
3がS8ホモ系統体である。コントロールのS8ホモ系統
株ではpI 8.45付近に、またCandleではpI 8.15付近に抗
8モノクローナル抗体と反応するバンドがみられる
が、形質転換体では検出されなかった。
【0033】上記実施例5、6、7の結果はアンチセン
スSLG遺伝子の導入による内在性のSLGおよびSR
K遺伝子の発現低下とそれに伴う自家不和合性の低減を
示している。得られた形質転換体はSLGおよびSRK
の発現を完全には打破できなかったため部分的な自家不
和合性を有していると考えられる。アンチセンス遺伝子
の導入とそれに伴う形質の部分的な変化は種々の報告が
なされており(van der Krol et al., 1988)、上記の
結果は妥当であると結論づけた。これらの結果からアン
チセンス遺伝子を用いた自家不和合性の打破または低減
の有用性は明らかである。
【0034】
【発明の効果】本発明により、遺伝子工学的手法によ
り、SLG及びSRKの発現量を低減させ、自家不和合
性を打破する方法が提供される。本発明の方法は、従来
の蕾交配や炭酸ガス処理を利用する方法に比べ、確実
に、かつ、低コストで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 アンチセンスSLG遺伝子導入ベクターの設
計と構築の概要を示す図である。
【図2】 形質転換アブラナ植物体の生物の形態を示す
写真である。
【図3】 SLG遺伝子のmRNAの電気泳動を示す写
真である。
【図4】 SLGの電気泳動(SDS−PAGE)を示
す写真である。
【図5】 SLGの電気泳動(IEF)を示す写真であ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 磯貝 彰 奈良県生駒市高山町8916−5 奈良先端技 術大学院大学 バイオサイエンス学科 (72)発明者 日向 康吉 宮城県仙台市青葉区堤通雨宮町1−1 東 北大学農学部 植物育種学研究室

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 アンチセンスS糖タンパク質遺伝子を有
    することを特徴とする植物。
  2. 【請求項2】 植物が、ブラシカ(Brassica)属に属す
    る植物であることを特徴とする請求項1記載の植物。
  3. 【請求項3】 アンチセンスS糖タンパク質遺伝子と遺
    伝子のエンハンサーとを含むベクターを構築し、該ベク
    ターを植物のゲノムDNAに組み込むことを特徴とする
    アンチセンスS糖タンパク質遺伝子を有する植物の作出
    方法。
  4. 【請求項4】 植物が、ブラシカ(Brassica)属に属す
    る植物であること特徴とする請求項3記載の作出方法。
  5. 【請求項5】 アンチセンスS糖タンパク質遺伝子と遺
    伝子のエンハンサーとを含むベクターを構築し、該ベク
    ターを自家不和合性の植物のゲノムDNAに組み込み、
    該植物を自家和合性に形質転換することを特徴とする植
    物の形質転換法。
  6. 【請求項6】 植物が、ブラシカ(Brassica)属に属す
    る植物であることを特徴とする請求項5記載の植物の形
    質転換法。
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Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO1998035052A1 (en) * 1997-02-07 1998-08-13 University Of Guelph Production of self-compatible brassica hybrids using a self-incompatible pollination control system

Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
MIKHALL E NASRALLAH MUTHUGAPATTI K KANDASAMY=1992 *

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