JPH08283729A - コークス炉の操業方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 コークス炉の操業において、炭化室内コーク
スケーキの押出不良を防止し、ひいては炉壁の損傷を未
然に防止する。 【構成】 炭化室から押出しラムによりコークスケーキ
を押出すにあたり、コークスケーキの押出し中に押出し
ラムの駆動を少なくとも1 回以上停止させる。さらに加
えて駆動時押出しラムの押出し速度を３００ｍｍ／s 以
上とする。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この発明は、コークス炉炭化室内
コークスケーキの押出し性を改善するコークス炉の操業
方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】高炉用コークスは、還元材として、熱源
として、また通気性を保つための支持材として機能して
おり、高炉に良質なコークスを安定して供給することが
必要不可欠である。しかし、２１世紀初頭には日本国内
のコークス炉の大半が、現在コークス炉の寿命とされて
いる築後３５年を迎えるため、現在コークス炉の代替炉
の検討が鉄鋼会社を始めとして行われている。例えば、
連続式成形コークス炉（例えば、奥原ら：鉄と鋼、Ｓ５
８４〜５８７、１９７９）等である。しかるに、いずれ
の技術においても設備の投資額は莫大なものとなるう
え、現状では高炉に１００％使用できる次世代コークス
製造技術は開発されていない。

【０００３】このような事情から、現状のコークス炉の
寿命を延長することが、最も重要であることは論議を待
たない。コークス炉の寿命を決定する要因としては、炭
化室炉壁（特に側壁）れんがの損傷度、バックステー等
の炉体変形、ドア部のシール不良等の設備上の問題が挙
げられているが、特に操業中の抜本的な補修が不可能
な、炉壁れんがの損傷が致命的となると考えられる。こ
のれんがの損傷は、経年劣化による以外に、コークスケ
ーキ押出し時の炉壁への負荷発生時、特にコークスケー
キが炭化室内で閉塞して押出しが困難あるいは不能とな
る状況（以下、それぞれ押止り、押詰り、まとめて言う
場合には押出し不良という）時に著しく進行するとされ
ている。さらに、この炉壁の損傷はさらなる押出し不良
を誘発しやすいため炉寿命にとって悪循環となるばかり
でなく、調湿炭や弱粘結炭の増配合などにより炉壁への
負荷は一層増大する。

【０００４】コークスの押出し特性に関する基礎的な研
究はいくつかなされているが（例えば、V.I.Addes : AI
ME 45th Ironmaking Conference 、1986) 、原料特性や
操業条件から根本的に押止り、押詰りを防止する技術は
得られていなく、また上記のように損傷に厳しい炉壁状
態や劣質原料使用の観点から検討された例はない。

【０００５】このため、操業中に得られる情報から炉
壁、炉底の損傷を事前に察知して補修を行い、押止り、
押詰りを未然に防止し、またそれによって炉壁、炉底の
さらなる損傷を防ぐ技術が指向されている。例えば、特
開平３−146589号公報（コークス炉炭化室炉壁の異常診
断方法）には、押出し時のモーターにかかる負荷情報か
ら炉壁異常を診断する技術が開示されている。

【０００６】炭化室炉壁の補修はSi, SiO₂等のレンガ原
料を溶射することによって可能であり、実際に実操業で
実施されて押出し不良の低減に大きな効果をあげてい
る。そのため、上記に開示されているような診断方法を
用いて炉壁状態を診断して損傷部の溶射補修を行う技術
は有意義なものであるが、炭化室がある程度損傷してか
らの対策であり、押出し不良の根本的な解決方法とはい
えない。さらに、炉団当りの窯数は数１０から１００と
多いため、この溶射補修は効率的にも経済的にも多大な
負荷を伴う。

【０００７】一方、通常のコークス炉の操業は、押出し
中の押出しラムの速度を一定にして行われる。基本的な
速度パターンを図１に示す。図１は、押出し速度および
押出し電力と炉長さ方向の押出しラムヘッド位置との関
係を示すグラフである。押出しラムの平均押出し速度は
３００〜４００ｍｍ／s 程度であり、モーターの電力負
荷を抵抗ノッチの切替えによって変更し、速度を一定に
制御するのが一般的である。そして、予めモーター電力
の過負荷や、炉壁への過荷重を防止するために定めたモ
ーター電力の上限値を超えた場合に押出しを停止するの
がコークスケーキの押出し不良である。しかるに、押出
しラム速度とコークスケーキの押出し性との関係は明ら
かにされていず、またこれに着目してコークスケーキの
押出し性を改善する技術も得られていない。

【０００８】

【発明が解決しようとする課題】この発明は、前記した
事情に鑑み、コークスケーキの押出しにおいて、押止
り、押詰りを未然に防止できるコークス炉の操業方法を
提案することを目的とする。

【０００９】

【課題を解決するための手段】この発明の要旨は以下の
通りである。コークス炉炭化室内へ原料炭を装入したの
ち炭化させたコークスケーキを、押出し機の押出しラム
により炭化室から押出すにあたり、コークスケーキの押
出し中に、押出しラムの駆動を少なくとも１回以上１時
停止させることを特徴とするコークス炉の操業方法（第
１発明）であり、第１発明において、駆動時押出しラム
の押出し速度を３００ｍｍ／s 以上とするもの（第２発
明）である。

【００１０】ここで、コークスケーキの押出し中の押出
しラムの駆動停止は、コークスケーキが押出されている
状態すなわち押止りや押詰りが発生する以前の段階で行
うことをいい、押止りや押詰りによる押出しラムの駆動
停止は含まない。

【００１１】

【作用】この発明の作用を実験例をもとにして以下に詳
細に述べる。炭化室を構成する片側の側壁と他の炭化室
炉体との拘束をなくし、コークスケーキを押出しラムで
圧縮したときの該側壁に作用する側壁荷重（側壁面に対
し垂直方向）を測定できるようにした試験炉において、
押出しラムの押力とコークス圧縮中の側壁荷重との関係
を調査した。

【００１２】ここで、押出しラムの押力はコークスケー
キの推力と側壁荷重とに分散され、その側壁荷重の押力
に対する比（以下、βという）が大きくなって、ある値
を超えると押出し不良が発生することになる。

【００１３】そこで、上記調査結果をもとにして、押出
しラムの押力から換算したコークスケーキの圧縮応力お
よびβ（側壁荷重／押力）と圧縮方向のコークスケーキ
の圧縮ひずみとの関係を図２に示す。図２から明らかな
ように、コークスケーキの圧縮ひずみが一定値を超える
と圧縮応力およびβは急激に増加する。このときの圧縮
応力と、通常の実機での実操業における押出しラムの押
出し応力の最大レベル（押止り、押詰りが生じる寸前の
レベル）とがほぼ一致することから、圧縮応力やβすな
わち側壁荷重が急増領域に入ると押出し不良が発生する
ことが考えられる。

【００１４】つぎに、押出しラムの駆動を停止した場合
の押力と側壁荷重の経時変化について調査した。その結
果を図３に示す。図３は押出しラムの駆動を途中で停止
した場合の、コークスケーキの圧縮開始からの時間経過
にともなう側壁荷重、押力の変化および押出しラム変位
を示すグラフである。図３から明らかなように、押出し
ラムの駆動を停止すると、押力と側壁荷重が時間と共に
減少することが分る。

【００１５】この現象は、押出しラムの駆動を停止する
と、コークスケーキの圧縮の進行が止まるばかりでな
く、コークスケーキの内部変形が時間と共に進行し、そ
の内部応力状態が緩和されるためと考えられる。したが
って、押出しラムの駆動を一時的に停止し再駆動させる
ことは、側壁荷重と押力すなわちコークスケーキの圧縮
応力が低減した内部変形状態から再駆動するため、押出
しラムの駆動を連続させる場合に比し、コークスケーキ
の圧縮応力や側壁荷重が急増する変形領域に至るまでの
余裕を生じ、コークスケーキの押止り、押詰りにたいし
有利になることが期待できる。

【００１６】発明者らは、これらの知見をもってこの発
明を達成するに至ったものであり、その内容は以下のと
おりである。

【００１７】上記したように、コークスケーキの押出し
中に押出しラムの駆動を停止すると、側壁荷重やコーク
スケーキの圧縮応力が減少する。したがって、押出し不
良が発生する以前の段階で押出しラムの一時駆動停止を
適宜実行することによって押出し不良を防止することが
可能になる。なお、押出し不良が発生するか否かの判定
基準は、コークスケーキの圧縮強度、すなわち押力とコ
ークスケーキの変形量との関係から定めることができる
が、これらは、コークスケーキの品質すなわち力学的な
性状によって異なる。

【００１８】一方、押出しラムの駆動中の押出し速度を
変化させる実験を行った結果、押出し速度を増加するこ
とによって押出し不良の発生頻度がより低下し、押出し
速度が３００ｍｍ／s 以上で上記効果がより顕著になる
ことが明らかとなった。

【００１９】したがって、コークスケーキの押出し中に
押出しラムの駆動を少なくとも１回以上１時停止させる
ことは押出し不良防止に極めて効果的であり、これに加
えて駆動中の押出しラムの押出し速度を３００ｍｍ／s
以上とすればさらにその効果が向上し、ほぼ完全に押出
し不良を防止できる。

【００２０】上記において、押出しラムの駆動停止時間
は、１秒間未満では駆動停止中のコークスケーキの圧縮
応力等の減少が少なくその効果が十分でなく、圧縮応力
等の減少は時間と共に進行するものの１０秒間を超える
とさほど減少しなくなり、稼動率低下の問題も生じてく
る。したがってその駆動停止時間は１〜１０秒間の範囲
とすることが好ましい。

【００２１】なお、押出しラムの駆動の１時停止は、押
出し不良が発生してから停止した場合は、コークスケー
キの圧縮応力等の多少の減少はあっても、この領域では
内部変形の緩和が起こらないためその圧縮応力および側
壁荷重が大きく残留し、上記したような１時停止による
効果は得られなくなる。したがって、この発明では、一
たん押出し不良が発生してから１時停止し、再度コーク
スケーキを押し出すいわゆる再押出しとは基本的に異な
る技術であり、コークスケーキが正常に押出されている
状態、すなわちコークスケーキの押出し中に押出しラム
の駆動の１時停止を行うものである。

【００２２】ついで、この発明を図面にもとづいて説明
する。図４はこの発明例を適用した場合の、押出し開始
からの時間と押出ラムの変位との関係を示すグラフであ
る。

【００２３】この発明では、押出しラムの変位を図４に
示す折れ線のようにする。そして、ガイド車等の移動機
械のサイクルタイムや稼働率等の操業条件によって１回
当りの押出し時間が決まっている場合、図４の折れ線
（押出しラムの駆動を１時停止した場合）と点線（押出
しラムの押出し速度を１定速度とした場合）との関係の
ように、押出しラムの駆動停止による押出し時間の増加
を押出し速度を増加させることによって調整することが
でき、押出しラムの駆動停止時間および押出し速度のい
ずれの増加も押出し不良防止に有効に作用するので、こ
れらは操業条件によって適当に定めることでよい。

【００２４】

【実施例】コークス炉実機（９１門、炉高：５．９ｍ、
炉幅：４６０ｍｍ、奥行き：１４．９ｍ）において、種
々の条件の押出しラム速度パターン制御によるコークス
ケーキの押出し実験を行い押出し不良発生頻度を調査し
た。これらの実験は各条件とも５０窯についてそれぞれ
１０回合計５００本のコークスケーキの押出しを行っ
た。

【００２５】それらの押出しラム速度パターン条件と調
査結果を表１にまとめて示す。

【表１】

【００２６】表１から明らかなように、実験Ｎｏ．１の
比較例（実工程条件）では押出し不良が１００本当り
４．４本発生し、駆動時の押出しラム速度を３７５ｍｍ
／s に増速した実験Ｎｏ．３の比較例でも増速の効果は
多少あるものの１００本当り３．２本の押出し不良が発
生している。

【００２７】これらに対し、押出しラムの１時駆動停止
を１回以上したこの発明の適合例は、押出しラムの押出
し速度が３００ｍｍ／s 未満の実験Ｎｏ．３および４に
て、１００本当りそれぞれ０．４および０．３本の押出
し不良が発生しているものの、押出しラムの押出し速度
を３００ｍｍ／s 以上とした実験Ｎｏ．４〜１３の適合
例では、押出し不良の発生は皆無であり、押出しラムの
１時駆動停止、さらに加えて押出しラムの押出し速度を
３００ｍｍ／s 以上とすることがコークスケーキの押出
不良防止に極めて有効であることを示している。

【００２８】

【発明の効果】この発明は、コークスケーキを炭化室か
ら押出すにあたり、コークスケーキの押出し中に、押出
しラムの駆動を少なくとも１回以上１時停止させるこ
と、さらには押出しラムの押出し速度を３００ｍｍ／s
以上とするものであって、この発明によれば、コークス
ケーキの押止り、押詰りを防止でき、ひいてはコグス炉
の炉壁の損傷を未然に防止して炉壁の補修サイクルを延
長できるなど、作業性、生産性の向上とともに、優れる
経済的効果を有する。

【図面の簡単な説明】

【図１】押出し速度および押出し電力と炉長さ方向の押
出しラムヘッド位置との関係を示すグラフである。

【図２】コークスケーキの圧縮応力およびβ（側壁荷重
／押力）と圧縮方向のコークスケーキの圧縮ひずみとの
関係を示すグラフである。

【図３】押出しラムの駆動を途中で停止した場合の、コ
ークスケーキの圧縮開始からの時間経過にともなう側壁
荷重、押力の変化および押出しラムの変位を示すグラフ
である。

【図４】この発明例を適用した場合の、押出し開始から
の時間と押出しラムの変位との関係を示すグラフであ
る。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 武田 幹治 千葉県千葉市中央区川崎町１番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 板谷 宏 千葉県千葉市中央区川崎町１番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 コークス炉炭化室内へ原料炭を装入した
   のち炭化させたコークスケーキを、押出し機の押出しラ
   ムにより炭化室から押出すにあたり、 コークスケーキの押出し中に、押出しラムの駆動を少な
   くとも１回以上１時停止させることを特徴とするコーク
   ス炉の操業方法。
2. 【請求項２】 駆動時押出しラムの押出し速度が３００
   ｍｍ／s 以上である請求項１に記載のコークス炉の操業
   方法。