JPH0762132B2 - コークス炉装入原料炭の抽気溝形成方法 - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は、室炉式コークス炉にてコークスを製造するに
際し、炭化室内部において原料炭から発生する水蒸気
を、炉の上部空間に抽気する溝を形成する方法に関す
る。

〔従来技術〕

炭化室に装入された原料炭を、該炭化室の幅方向両側の
炉壁を介して加熱，乾留せしめて、コークスを製造する
室炉式コークス炉においては、乾留効率の向上と、炉体
の延命化とを実現しつつ、成品として得られるコークス
の品質向上を達成することが要求されており、そのため
の技術開発が進められている。

ところで、乾留効率の向上と炉体の延命化とは相反する
ものであり、これらを両立させることは難しい。乾留効
率を向上させる方法としては調湿炭法及び予熱炭法等が
あり、前者は、本来８〜11％である原料炭の含有水分量
を、炭化室への装入前に予め５〜６％に低減させる方法
であり、後者は、170〜200℃に予熱された原料炭を用い
る方法である。ところがこれらの方法を採用した場合、
原料炭の嵩密度が増大するため、コークス炉内部での加
熱の際に、炉壁に多大の石炭膨張圧が作用し、炉壁を損
傷する虞がある。事実、予熱炭法を採用した室炉式コー
クス炉において、多発する炉壁損傷と、それに伴う操業
休止のために、操業停止に至った例も報告されている。
更にこれらの方法の実施には、原料炭の調湿又は予熱用
の大規模な設備が必要であり、莫大な設備投資が要求さ
れるという問題点もある。

また乾留効率の向上は、炉高及び炉の長さを拡大して処
理量を増大させること、または、炉壁を薄肉化して伝熱
性を改善すること等、によっても実現可能であるが、こ
れら方法はいずれも、新設されるコークス炉においての
み実施可能な方法であり、既設のコークス炉における乾
留効率の向上を図り得るものではない。その上、炉壁の
薄肉化は、炉体の堅牢性を損ない、炉体の延命化に逆行
するという難点もある。

一方、炉体の延命化を図る最も有効な方法は、操業時の
炉温を低下させることであるが、これが乾留効率の向上
に逆行することは言うまでもない。従って、炉体の延命
化は、炉壁の補修技術の向上に依存しているのが実情で
ある。

さて、室炉式コークス炉における原料炭の乾留は、炉壁
に接触する部分から炉心に向けて進行し、この乾留の過
程において、原料炭の含有水分は水蒸気として放出され
る。本願発明者らは、炭化室内部におけるこの水蒸気の
流れ挙動に着目し、室炉式コークス炉における乾留効率
の向上と炉体の延命化とを同時に実現し得る方法を、特
願昭63-299273号及び特願昭63-317015号において提案し
た。

前記水蒸気は、その大部分が炉壁に向けて流れ、炉壁か
ら炉心への伝熱を阻害して、炉心部における乾留効率の
低下を招来する一方、前記流れにより炉壁に圧力が加え
られ、これが炉体の延命化を阻害する原因となってい
る。前記発明は、炭化室へ装入された原料炭の上面をレ
ベラにて平滑化した後に、該炭化室の上部に開口する装
炭口から金棒を差込み、直ちにこれを引き抜いて、原料
炭の内部を炉の上部空間に連通させる孔（抽気孔）を複
数個形成することにより、原料炭が発する水蒸気を上部
空間に抽気し、炉壁に向かう水蒸気の流れの抑制を図っ
たものである。これにより、乾留に要する時間が短縮さ
れ、乾留効率が向上すること、及び、乾留済のコークス
を押出す際の押出電流値が低減し、炉壁からの肌離れが
良好となって、炉体の延命化に効果があることが実証さ
れている。更に、成品として得られるコークスの品質も
高い範囲において安定化することも明らかとなった。

〔発明が解決しようとする課題〕

ところがこの発明においては、前記抽気孔の形成個数が
装炭口の個数により限定されるという難点があり、高々
４〜５個の装炭口個数に対応して形成される４〜５個の
抽気孔では、原料炭から発生する水蒸気量に対し、抽気
能力が不足し、乾留効率の向上及び炉体の延命化を阻害
する炉壁に向かう水蒸気の流れを、常時十分に抑制し得
るとは限らない。この難点は、炉の長手方向に多数の抽
気孔を設けること、更に望ましくは、炉の長手方向に延
びる抽気用の溝、即ち連続的に連なる抽気孔を形成する
ことにより実現されるが、このような溝をコークス炉の
操業に影響を及ぼすことなく、短時間にて、しかも確実
に形成する方法は従来実現されていない。

本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、原料
炭から発生する水蒸気を炉の上部空間に抽気する抽気溝
を、原料炭上面に速やかに、しかも確実に形成すること
が可能な方法を提供することを目的とする。

〔課題を解決するための手段〕

本発明に係るコークス炉装入原料炭の抽気溝形成方法
は、室炉式コークス炉の炭化室内を、長手方向略全長に
亘って進退動作し、前記炭化室への装入原料炭の上面を
平滑化するレベラに、これの先端近傍の幅方向中央に位
置し、下方への突出が自在で、その形状が略刀状の開溝
体を装着し、前記レベラの炉外への退却動作を、該開溝
体を突出させた位置に固定して行い、平滑化後の前記原
料炭の上面に、該原料炭の内部を前記炭化室の上部空間
に連通する抽気溝を形成することを特徴とする。

〔作用〕

本発明においては、原料炭から発生する水蒸気を炭化室
の上部空間に抽気するための抽気溝が、該炭化室の長手
方向に進退動作し、装入原料炭の上面を平滑化するレベ
ラの炉外への退却動作の際に、該レベラから下方に突出
される開溝体によって、炭化室の略全長に亘って形成さ
れる。

〔実施例〕

以下本発明をその実施例を示す図面に基づいて詳述す
る。第１図は本発明に係るコークス炉装入原料炭の抽気
溝形成方法（以下本発明方法という）が実施される室炉
式コークス炉の模式的縦断面図、第２図はその要部の拡
大斜視図である。

室炉式コークス炉１は、その長手方向両側を開閉自在な
表扉２と裏扉３とにて、また幅方向両側を耐火煉瓦製の
炉壁4,5（第２図参照）にて夫々囲繞されて、短幅長寸
の矩形形状をなす炭化室６を備えてなる。該炭化室６の
上部は、天井煉瓦７にて閉塞されており、該天井煉瓦７
には、炉内外に貫通する態様にて複数個の装炭口7a,7a
…が形成されている。炉壁4,5の外側には、図示しない
燃焼室が夫々設けてあり、前記装炭口7a,7a…から炭化
室６内部に装入される原料炭８は、前記燃焼室からの伝
熱により、炉壁4,5を介して加熱，乾留せしめられる。
そして、乾留終了後、表扉２及び裏扉３が開放され、生
成コークスは、裏扉３側に設置された押出機９の動作に
より表扉２側に押出され、図示しない消火車に搭載され
て搬送され、後工程での処理に供せられる。

さて、炭化室６への装入直後の原料炭８は、第１図に示
す如く、各装炭口7aの形成位置に対応する複数の山形を
なして堆積するから、これの上面を均らして平滑化し、
前記乾留の際に原料炭８が発生する種々のガスの通流空
間を、炭化室６の上部に確保することが必要であり、レ
ベラ10によるレベリングが行われる。

レベラ10は、第２図に示す如く、両側の側板11,11間
に、これらと略直交する態様にて、矩形平板状をなす多
数の均し板12,12…を架け渡し、梯子状の構造を有する
ものが一般的であり、これは、裏扉３側の外部に押出機
９に並設されており、図示しない駆動手段の動作に応じ
て炭化室６の長手方向に水平面内にて往復動作するよう
になっている。裏扉３には、炭化室６内の原料炭８の上
面位置に対応させて挿入孔3aが形成されており、前述し
た如く往復動作するレベラ10は、この挿入孔3aを経て炭
化室６の内部に挿入され、これの略全長に亘って進退動
作するから、原料炭８上面の山部は、レベラ10の均し板
12,12…によって突き崩され、該上面が平滑化される。
この平滑化のためのレベラ10の進退動作は通常数回行わ
れ、その後レベラ10は、炉外に退却せしめられ、第１図
に実線にて示す待機位置に保持される。

本願発明者らは、前記の乾留過程において原料炭８から
発生する水蒸気を炭化室６の上部空間に抽気するための
抽気溝を確実にしかも速やかに形成する方法を種々検討
した結果、前記レベラ10に開溝体を取付け、該レベラ10
が待機位置にまで退却せしめられる際の動作を利用し
て、抽気溝を形成する方法を創案した。

第３図及び第４図は、レベラ10の先端近傍の拡大側断面
図であり、いずれも開溝体の取付状態を示している。ま
た、第５図は開溝体の形状の一例を示す斜視図である。

第５図に示す如く、開溝体20は、幅方向一側に尖端を有
する矩形平板状をなし、長手方向一側の前記尖端側に支
持ブラケット20aを、同じく尖端の逆側に連結ブラケッ
ト20bが夫々突設させてある。一方、レベラ10には、こ
れの先端近傍の下部に位置して、前記開溝体20を支持す
る枢軸13が、両側板11,11間に水平に架設されている。
第３図及び第４図に示す如く、前記開溝体20は、その長
手方向をレベラ10の長手方向に一致させ、尖端を下に向
け鉛直に立てた状態にて、前記支持ブラケット20aを前
記枢軸13に回動自在に枢支せしめることにより、レベラ
10に装着されている。また前記連結ブラケット20bは、
レベラ10に沿って延設された駆動軸21の先端に、連結部
材22を介して連結させてある。駆動軸21は、図示しない
駆動手段の動作に応じて、レベラ10の長手方向に水平に
摺動するようになっており、駆動軸21が摺動した場合、
この摺動は、連結部材22及び連結ブラケット20bを介し
て開溝体20に伝達され、該開溝体20は枢軸13回りに回動
する。駆動軸21は、その摺動位置を所定の２位置にて固
定できるようになっており、これの摺動に応じて回動す
る開溝体20は、駆動軸21が１方の固定位置にある場合、
第３図に示す如く、側板11に略整合した状態となる格納
位置にて固定され、他方の固定位置にある場合、第４図
に示す如く、側板11の下方に尖端側を所定長突出せしめ
た突出位置にて固定される。

従って、開溝体20は、これが前記格納位置にある場合、
レベラ10内に収納された状態となり、炭化室６内部の原
料室８上面を均らす作業は、開溝体20を格納位置に固定
せしめた状態にてレベラ10を進退動作させることによ
り、開溝体20により影響されることなく、従来と全く同
様に行える。そして本発明方法においては、レベラ10に
よる前記作業が終了し、該レベラ10が炉外に退却せしめ
られる前に、駆動軸21をレベラ10の先端に向けて移動せ
しめ、開溝体20が突出位置に固定する。これにより、開
溝体20が回動し、これの尖端が下方に突出されて、該尖
端は、レベラ10にて均らされた原料炭８内にこれを切り
裂くように侵入し、開溝体20をこの状態にて固定して行
われるレベラ10の退却動作に応じて、原料炭８の上面
に、第２図に示す如き抽気溝Ｇが形成される。この開溝
体20は、これの枢軸13が挿入孔3aを通過する直前まで前
記突出位置に固定されるから、前記抽気溝Ｇは、炭化室
６の略全長に亘って形成されることになる。

抽気溝Ｇの深さは、水蒸気の流れを阻害する軟化層が、
原料炭８の上表面から50cmを超えない範囲に形成される
ことから、50cm以上とすれば十分であり、また抽気溝Ｇ
の幅は、軟化層の膨らみにより該抽気溝Ｇが閉塞されな
いという条件から、30mm以上とされるべきである。この
ような抽気溝Ｇの幅及び深さは、開溝体20の厚さ及び下
方への突出長により決定されるから、開溝体20には30mm
以上の厚さが必要であり、また、50cm以上の突出長さが
得られるように、開溝体20の長さ及び突出位置における
回動角度を設定する。なお、開溝された抽気溝Ｇは、原
料炭８が含有する水の表面張力により、崩壊することな
く維持される。

また原料炭８の乾留は、両炉壁4,5から炉の中央に向け
て進行するから、乾留中の長い時間に亘っての軸気を可
能とするためには、抽気溝Ｇは、原料炭８上面の幅方向
中央に形成されるべきであるが、本発明方法において
は、このことを、開溝体20をレベラ10の幅方向中央に装
着することにより容易に達成することができる。

最後に炉高7.125m,炉長16.5m,炉幅460mmの工業規模の室
炉式コークス炉において、フリュー温度1210℃，平均乾
留時間22時間の操業条件のもとにてコークスを製造する
際に、本発明方法を実施した場合における操業結果を、
該溝Ｇを形成しない従来法と比較して第２表に示す。但
し、抽気溝Ｇは、前述した如き開溝体20により、炭化室
６の幅方向中央に長手方向全長に亘って形成された深さ
70cm,幅80mmの溝とし、また、原料炭８としては、第１
表に示す如く、9.2％の水分を含有するものを使用し
た。

この結果から明らかな如く、本発明方法によった場合、
原料炭８の内部に至るまで乾留が進行したことを示す90
0℃到達時間が、従来法に比較して1.5時間程度短縮され
ており、乾留促進効果が大きく、乾留効率の向上が実現
されることがわかる。また、生成コークスを押出す際の
押出機９における押出電流値も従来法に比較して低下し
ており、生成コークスの肌離れが良好であり、押出時に
おける炉壁4,5の損傷が少く、炉体の延命化に効果があ
ることが実証された。更に、本発明方法によった場合、
生成コークスが高強度であり、しかもそのばらつきが低
減しており、高品質のコークスが安定的に得られるとい
う効果もある。

なお、レベラ10に装着される開溝体20の形状、及びこれ
を突出させるための機構は、本実施例に示すものに限ら
ないことは言うまでもない。

〔効果〕

以上詳述した如く、本発明方法によれば、室炉式コーク
ス炉に挿入される原料炭の上面に、速やかにしかも確実
に抽気溝を形成することができるから、室炉式コークス
炉の操業における乾留効率の大幅な向上が図れ、また、
炉体の延命化が実現される上、生成コークスの品質が高
い範囲にて安定する等、本発明は優れた効果を奏する。

【図面の簡単な説明】

第１図は本発明方法が実施される室炉式コークス炉の模
式的縦断面図、第２図は同じく要部拡大斜視図、第３図
及び第４図は開溝体の装着状態を示すレベラ先端近傍の
拡大側断面図、第５図は開溝体の形状例を示す斜視図で
ある。 １……室炉式コークス炉、4,5……炉壁 ６……炭化室、８……原料炭、10……レベラ 20……開溝体

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】室炉式コークス炉の炭化室内を、長手方向
   略全長に亘って進退動作し、前記炭化室への装入原料炭
   の上面を平滑化するレベラに、これの先端近傍の幅方向
   中央に位置し、下方への突出が自在で、その形状が略刀
   状の開溝体を装着し、前記レベラの炉外への退却動作
   を、該開溝体を突出させた位置に固定して行い、平滑化
   後の前記原料炭の上面に、該原料炭の内部を前記炭化室
   の上部空間に連通する抽気溝を形成することを特徴とす
   るコークス炉装入原料炭の抽気溝形成方法。