JPH07196247A - 耐食性糸道規制ガイド - Google Patents

耐食性糸道規制ガイド

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JPH07196247A
JPH07196247A JP35312893A JP35312893A JPH07196247A JP H07196247 A JPH07196247 A JP H07196247A JP 35312893 A JP35312893 A JP 35312893A JP 35312893 A JP35312893 A JP 35312893A JP H07196247 A JPH07196247 A JP H07196247A
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JP
Japan
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nitriding
layer
stainless steel
guide
yarn
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JP35312893A
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English (en)
Inventor
Masaaki Tawara
正昭 田原
Kenzo Kitano
憲三 北野
Tadashi Hayashida
忠司 林田
Teruo Minato
輝男 湊
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Daido Hoxan Inc
Original Assignee
Daido Hoxan Inc
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 高い耐食性と高い表面硬度の双方を兼ね備え
た耐食性糸道規制ガイドを提供する。 【構成】 母材が、オーステナイト系ステンレスからな
り、表層部の少なくとも一部が、下記の(A),(B)
を備えた窒化硬化層で構成されている。 (A) 結晶質のクロム窒化物を実質的に含有していな
い。 (B) 窒化硬化層最表層部の組織中に2〜12重量%
のN原子が含有されている。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、織機や編み機、ある
いは紡糸機や撚糸機等、各種の糸を扱う装置に用いられ
る耐食性糸道規制ガイドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】織機や編み機、あるいは紡糸機や撚糸機
等の、糸を扱う装置では、走行する糸の糸道を規制する
ために、各種の糸道規制ガイドが設けられている。その
態様は様々であり、例えば図1(a)に示すように、単
にリング状で、中央にあけられた穴1内を糸2が通過す
るようになっているものや、同図(b)に示すように、
糸2の走行に追従して回転するローラ状のもの等があげ
られる。また、単に糸道を規制するだけでなく、糸2に
一定に張力をかけるために、図2に示すように、上下2
枚の円板を組み合わせ、上側の円板の自重で糸2に張力
を与えるよう構成されたテンションガイドも汎用されて
いる。
【0003】これらの糸道規制ガイドの材料としては、
従来から、オーステナイト系ステンレスが汎用されてい
る。しかしながら、上記オーステナイト系ステンレス
は、優れた耐食性を備え、錆びないという特性を有して
いるものの、焼入硬化性を備えていないため、表面が比
較的軟らかく、傷つきやすいという欠点を有する。例え
ば、準安定型のオーステナイトステンレスを加工硬化に
よってある程度硬度を向上させても、ビッカース硬度H
v=500程度が限界であり、高速で走行する糸の糸道
規制ガイドとして使用すると、磨耗が著しく、短時間に
糸が毛羽立ったり糸切れを生じて装置の停止を余儀なく
されてしまうという問題がある。
【0004】そこで、表面硬度をより向上させるため
に、例えば、化学蒸着方法(CVD)によるTiNコー
ティングや硬質クロムめっきを施す方法も行われている
が、めっき層やコーティング層と母材との密着性が低い
ため、高速走行する糸によって糸道規制ガイドに大きな
負荷がかかると、上記めっき層やコーティング層が母材
から剥離して糸を汚染したり糸切れを生じたりするとい
う問題を有している。また、これらの方法はコストが高
いため、一台の装置に多数個用いられる糸道規制ガイド
の全てにこの処理を施すと、装置全体が大幅にコストア
ップするという問題も有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】一方、めっき層やコー
ティング層を形成するのではなく、オーステナイト系ス
テンレスに窒化処理を施してステンレス表面に窒化硬化
層を形成することによって、その表面硬度を高めること
が考えられ試みられている。この種の窒化処理方法とし
ては、塩浴窒化,イオン窒化およびガス窒化等の各種の
方法があるが、これらの窒化方法では、窒化温度が通常
550〜570℃程度に設定され、低温でも480℃に
設定されている。このような窒化方法によって、上記オ
ーステナイト系ステンレスからなる糸道規制ガイドを窒
化処理すると、表面硬度は向上するものの、オーステナ
イト系ステンレス本来の耐食性が損なわれることがわか
った。すなわち、織機や編み機等は、通常、糸切れ防止
のために高湿度下におかれるため、高湿度下で長時間上
記糸道規制ガイドを用いると、その表面窒化層が経時的
に錆びて耐磨耗性が低下し、糸が錆で汚染されたり糸切
れが生じる。
【0006】この発明は、このような事情に鑑みなされ
たもので、高い耐食性と高い表面硬度の双方を兼ね備え
た耐食性糸道規制ガイドの提供をその目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
め、この発明の耐食性糸道規制ガイドは、母材がオース
テナイト系ステンレスからなり、表層部の少なくとも一
部が、下記の(A),(B)を備えた窒化硬化層で構成
されているという構成をとる。 (A) 結晶質のクロム窒化物を実質的に含有していな
い。 (B) 窒化硬化層最表層部の組織中に2〜12重量%
(以下「%」と略す)のN原子が含有されている。
【0008】
【作用】すなわち、本発明者らは、先に述べた窒化処理
によって耐食性の劣化が生ずる原因を突き止めるため一
連の研究を行った。その結果、上記耐食性の劣化は、形
成された窒化層中に結晶クロム窒化物(CrN)が析出
生成することにより、母相(オーステナイト相)中の固
溶クロム(Cr)濃度が大幅に低下し、オーステナイト
系ステンレス本来の耐食性保持機能を果たすべき不働態
皮膜の形成に必要不可欠な活性Crが、母相において殆
ど無くなってしまうことに起因することを突き止めた。
そして、さらに研究を重ねた結果、上記オーステナイト
系ステンレスに対する窒化処理をかなりの低温(前記従
来の窒化法の窒化温度である480〜580℃の温度領
域より100〜200℃下げた温度領域)で行うと、結
晶クロム窒化物(CrN)や、鉄窒化物を析出生成させ
ることなく、窒素原子がオーステナイト系ステンレスの
母相(γ相)中に浸透し、その浸透量(含有量)を2〜
12%の範囲内に規制すると、耐食性の劣化が生じず、
しかも上記窒素原子の浸透によって、表面硬度の高い窒
化硬化層が形成されることを見出し、この発明に到達し
た。この場合、上記窒素原子は、γ相中に単に浸透する
だけの状態であり、それによって格子歪は形成するが、
結晶クロム窒化物の析出生成までには至らないものと考
えられる。そして、上記窒素原子の含有量が上限を超え
ると、浸透窒素原子とクロムとによって、結晶クロム窒
化物が生成してしまい、耐食性の低下が生起する。ま
た、上記範囲を下回ると、表面硬度の高い窒化硬化層の
生成が不充分となる。
【0009】なお、この発明の耐食性糸道規制ガイド
が、結晶質のクロム窒化物を実質的に含有していないこ
とは、X線回折法によって確認することができ、また、
オーステナイト相中に含有されている窒素原子の量は、
エスカ(Electron Spectroscopy
for Chemical Analysis)また
はEPMA(Electron Probe Micr
o Analyzer)によって確認することができ
る。ここで、この発明において、「結晶質のクロム窒化
物を実質的に含有していない」とは、結晶質のクロム窒
化物の含有量が微量(数%)以下であることをいう。
【0010】つぎに、この発明を詳しく説明する。
【0011】この発明の耐食性糸道規制ガイドは、オー
ステナイト系ステンレスを母材とするもので、一般に、
このオーステナイト系ステンレスを、所定の方法で適宜
の形状(例えば図1,図2に示す形状)に加工して、研
磨工程等を経由することにより得られる。
【0012】上記オーステナイト系ステンレスとして
は、略クロム18%,ニッケル8%の18−8系オース
テナイト系ステンレスのみならず、これを基本とし、耐
食性,加工硬化性,耐熱性,切削性,非磁性等の要求特
性に応じ、元素,成分量を適宜変更させたオーステナイ
ト系ステンレスがあげられる。また、クロムを22%以
上含有するCr−Ni−Mo系オーステナイト系、ある
いは一部のニッケルをマンガンで代用したようなステン
レスや、クロムが22%未満でモリブデンを1.5%以
上含有するオーステナイト系ステンレス等も、この発明
の対象となる。
【0013】この発明の耐食性糸道規制ガイドは、上記
糸道規制ガイド材料となるオーステナイト系ステンレ
ス、もしくはこれを糸道規制ガイドの形状に成形した成
形品(以下、これらを「ステンレス品」という)に対
し、まず、フッ化処理を行い、ついで窒化処理を行うこ
とによって得られる。
【0014】上記フッ化処理は、あとで行う窒化の際に
N原子がステンレス品に浸透しやすくなるようにするた
めのもので、上記ステンレス品を、フッ素系ガス雰囲気
下において加熱状態で保持することによって行われる。
【0015】上記フッ素系ガスとしては、NF3 ,BF
3 ,CF4 ,HF,SF6 ,C2 6 ,WF6 ,CHF
3 ,SiF4 等からなるフッ素化合物ガスがあげられ、
単独でもしくは併せて使用される。また、これら以外
に、分子内にフッ素を含む他のフッ素化合物ガスもフッ
素系ガスとして用いることができる。このようなフッ素
化合物ガスは、それのみで用いることもできるが、通常
は、N2 ガス等の不活性ガスで希釈されて使用される。
このような希釈されたガスにおけるフッ素系ガス自身の
濃度は、例えば10000〜100000ppmであ
り、好ましくは20000〜70000ppm、より好
ましくは30000〜50000ppmである。この種
のフッ素系ガスとして最も実用性を備えているのはNF
3 である。NF3 は常温でガス状であり化学的安定性が
高く、取り扱いが容易である。
【0016】上記フッ化処理における加熱温度は、上記
ステンレス品自体を300〜550℃の温度に昇温させ
ることによって行われる。このようなフッ素系ガス雰囲
気中でのステンレス品の保持時間は、その形状寸法等に
よって適当な時間が選択される。通常は、十数分〜数十
分の範囲内に設定される。このフッ化処理により、N原
子がステンレス品の表面層に浸透しやすくなる。この理
由については、現段階では充分に明らかではないが、お
よそつぎのように考えられる。すなわち、上記ステンレ
ス品の表面には、窒化作用を奏するN原子の浸透拡散を
阻害する不働態皮膜が形成されている。このため、従来
は不働態皮膜(酸化皮膜)の存在により、窒化処理の際
の温度をかなり高くしないと窒素原子が浸透しなかった
のであり、その結果、表面硬化層中に結晶クロム窒化物
が析出生成することとなった。ところが、この発明で
は、窒化処理に先立って、フッ素系ガス雰囲気下でフッ
素処理をする。このように表面に不働態皮膜が形成され
たステンレス品を上記のようなフッ素系ガス雰囲気下に
おいて加熱状態で保持すると、上記不働態皮膜がフッ化
膜に変換する。このフッ化膜は不働態皮膜に比べてN原
子の浸透が容易であることから、上記ステンレス品の表
面は、フッ化処理によってN原子の浸透が容易になると
考えられる。
【0017】上記フッ化処理がなされたステンレス品に
対する窒化処理は、窒化雰囲気下において加熱状態で保
持することによって行われる。
【0018】上記窒化雰囲気をつくる窒化ガスとして
は、NH3 のみからなる単体ガス、または炭素源を有す
るガス(例えばRXガス)とNH3 との混合ガス(例え
ばNH3 とCOとCO2 との混合ガス)が用いられる。
通常は、上記単体ガスまたは混合ガスにN2 等の不活性
ガスを混合して使用される。場合によっては、これらの
ガスにH2 ガスを混合して使用することも行われる。こ
のような窒化雰囲気下に、フッ化処理によってN原子が
浸透しやすい表面状態になったステンレス品が加熱状態
で保持されると、窒化ガス中のN原子が、ステンレス品
の表面から一定の深さで均一に浸透するため、深く均一
な窒化硬化層が形成される。
【0019】上記窒化処理における加熱温度は、従来の
窒化処理のそれよりも大幅に低い温度の450℃以下の
温度に設定される。特に好ましいのは370〜420℃
の範囲内である。すなわち、上記温度が450℃を超え
ると、結晶CrNが窒化硬化層中に生成して母相中の活
性Cr濃度が低下し、ステンレス自体の有する耐食性が
損なわれるからである。特に、420℃以下の温度で窒
化処理することにより、母材となるオーステナイト系ス
テンレス自身の有する耐食性と同程度の耐食性を保持で
き、しかも硬度の大な窒化硬化層がステンレス品の表面
に形成されることとなるため、このような温度域に設定
することが好ましい。なお、370℃以下の窒化処理温
度では、24時間窒化処理しても窒化硬化層が深さ10
μm以下に生成するに過ぎず、工業的価値に乏しいこと
から余り実用的ではない。そして、上記窒化処理時間
は、通常10〜20時間に設定される。このように、窒
化処理時の加熱温度と処理時間とを制限することによ
り、N原子を、単にγ相中に浸透するだけの状態に規制
し、その浸透によってγ相の格子歪が形成されるもの
の、結晶CrN等が析出生成されるまでには至らないよ
うにすることができる。
【0020】このような窒化処理により、上記ステンレ
ス品の表面層が緻密で均一な、厚み20〜40μm程度
の窒化硬化層(全体が一層からなる)に形成される。上
記窒化処理によれば、オーステナイト系ステンレス品
に、処理後の寸法変形や面荒れが殆ど生じない。すなわ
ち、従来の窒化処理では、結晶クロム窒化物が析出生成
すること等によって、ステンレス品の外形が膨張して寸
法変化が生じたり、面粗度が悪くなるという欠点が生
じ、最終加工仕上げに多大のコストを有する。これに対
し、この発明の窒化硬化層は、結晶クロム窒化物を含有
せず、緻密な組織からなっていることから、寸法変化や
面粗度の悪化が生じず、最終仕上げ加工をする必要がな
い。
【0021】また、この窒化硬化層には、結晶クロム窒
化物が実質的に含有されていず、かつその最表層部の組
織中に2〜12%のN原子が含有されているため、処理
済のステンレス品は、窒化硬化前のオーステナイト系ス
テンレスとほぼ同程度の耐食性を備え、しかも、上記窒
化硬化層の存在によって表面硬度が大幅に向上してい
る。このような窒化処理済のステンレス品の耐食性は、
窒化前の表面状態が精密研磨状態であるほど高い。ま
た、材質的には、SUS310(クロム25%,ニッケ
ル20%)のようにクロム含有量が高いほど耐食性が良
い。また、18−8系オーステナイト系ステンレスにつ
いては、モリブデンを含むほど良好となる。なお、従来
の窒化処理によれば、結晶クロム窒化物が析出生成する
ことによって、オーステナイト系ステンレス自体の有す
る非磁性が損なわれ、窒化硬化層が磁性を帯びるように
なるのであるが、この発明では、上記窒化硬化層に結晶
クロム窒化物を実質的に含有していないことから、非磁
性を保ったままになる。
【0022】このようにして得られた窒化処理済の糸道
規制ガイドは、窒化前のオーステナイト系ステンレスと
同程度の優れた耐食性を有しているうえ表面硬度も大幅
に向上しているため、高速で走行する糸の糸道規制に用
いた場合、優れた耐磨耗性を有し、従来のように磨耗に
よる糸の毛羽立ちや糸切れを生じることがなく、錆によ
る糸汚染も発生しない。したがって、糸の品質が低下す
ることがなく、糸を用いる各種装置の稼働率の向上を実
現することができる。そして、上記糸道規制ガイドの耐
久性も向上するため、交換の手間が減少するという効果
も奏する。
【0023】なお、この発明の糸道規制ガイドは、窒化
処理後に、HNO3 を含む強混酸処理を施して得るよう
にしてもよい。この処理によって、窒化を終えたステン
レス品の表面に付着している酸化スケールが除去される
と同時に、硝酸の作用によって、ステンレス窒化品の表
面に、固溶クロムに起因する不働態皮膜(酸化皮膜)が
早期に厚めに形成されるようになり、酸化皮膜の強化が
可能となる。より詳しく述べると、前記窒化処理によっ
て、場合によって、ステンレス窒化品の表面部分に酸化
スケールが生ずることがあり、この酸化スケールは発錆
しやすいため、窒化硬化層の耐食性は、酸化スケールの
存在によって低下する。したがって、上記のような強混
酸処理を施すことによって酸化スケールが除去でき、耐
食性の低下が防止される。また、オーステナイト系ステ
ンレス素材の耐食性は、母相中の固溶クロムに基づく不
働態皮膜(酸化皮膜)の生成に起因するものであるが、
上記のような強混酸処理によって不働態皮膜の早期生成
および強化が行われ、耐食性の向上が見られるようにな
る。このような強混酸としては、HNO3 −HFからな
る混酸,HNO3 −HClからなる混酸等のHNO3
含む酸が用いられる。これら強混酸におけるHNO3
濃度は、10〜20%、HFは1〜10%、HClは5
〜25%の範囲に設定される。強混酸の残部は水とな
る。そして、上記処理は、強混酸の液温を、20〜50
℃に制御し、20〜60分間、上記強混酸液にステンレ
ス窒化品を浸漬することによって行われる。このような
強混酸処理を行うと、全窒化硬化層の20〜30%を占
める最表面層が除去されることとなるが、残された部分
の表面硬度は高いことから、充分な剛性を保っている。
この場合、残存する窒化硬化層は、最表面相の上記除去
により完全な非磁性となる。すなわち、窒化硬化層の最
表面層は、場合によって、多少磁性を帯びることもある
が、そのような場合でも、上記強混酸処理によって磁性
を帯びた最表面層が除去されるようになることから、強
混酸処理済のステンレス窒化品は、オーステナイト系ス
テンレス(母材)と同等の透磁率を示すようになる。ま
た、上記最表面層部分には窒素原子の浸透量が多く、こ
の窒素原子の浸透量の多さに基づき、上記最表面層部分
は、他の部分より多少錆びやすくなっているので、最表
面層部分の除去により、その下側の、比較的窒素原子の
浸透量の少ない層(N原子2〜5%)が表面層を形成す
るようになる。この層は、上記最表面部分に比べて硬度
が多少低いものの、なお充分な硬度を有しており、しか
も、より錆びにくいという特性を有する。したがって、
このようにして処理されたものは、高い防錆性が要求さ
れる糸道規制ガイドとして最適である。
【0024】
【発明の効果】以上のように、この発明の耐食性糸道規
制ガイドは、表面層を構成する窒化硬化層に、結晶クロ
ム窒化物を実質的に含有していないため、窒化硬化層に
結晶クロム窒化物を含むステンレス窒化品にくらべ、γ
相中の固溶クロムが結晶クロム窒化物の析出生成によっ
て消費されていない。したがって、母相の固溶クロムの
作用によって生ずる不働態皮膜(酸化皮膜)が充分に生
成し、それによって上記母相と同等の優れた耐食性を有
するようになる。また、窒化硬化層に結晶クロム窒化物
が析出生成していないことから、上記結晶クロム窒化物
の析出生成に基づく、ステンレス窒化品の寸法変化や面
粗度の悪化が生じない。その結果、窒化処理後に、最終
仕上げ加工を行う必要がない。そして、この発明の耐食
性糸道規制ガイドは、表面層の母相中に2〜12%のN
原子が浸透含有されていることによって、表面硬度が高
くなり、結晶クロム窒化物からなる窒化硬化層によって
形成されるものとほぼ同等の高い表面硬度を備えるよう
になる。したがって、高速で走行する糸の規制に用いた
場合、優れた耐磨耗性を有し、従来のように磨耗による
糸の毛羽立ちや糸切れを生じることがなく、錆による糸
汚染も発生しない。したがって、糸の品質が損なわれる
ことがなく、また、その糸を用いた装置の稼働率の向上
を実現することができる。そして、糸道規制ガイドの耐
久性も向上するため、交換の手間が減少するという効果
も奏する。
【0025】つぎに、実施例について比較例と併せて説
明する。
【0026】
【実施例1】SUS304板片(Cr18%,Ni8
%)を冷間打抜き成形して図1(a)に示すような形状
の糸道規制ガイドを作製した。また、同様にして、SU
S316板片(Cr18%,Ni12%,Mo2%,芯
部硬度Hv=310)からなる糸道規制ガイドと、SU
S310板片(Cr25%,Ni20%,芯部硬度Hv
=370)からなる糸道規制ガイドを作製した。つい
で、これらをマッフル炉に入れて炉内を充分に真空パー
ジした後、400℃に昇温させた。そして、その状態で
フッ素系ガス(NF3 10vol%+N2 90vol
%)を入れて炉内を大気圧の状態にし、その状態で15
分間保持しフッ化処理した。つぎに、上記フッ素系ガス
を炉から排出した後、窒化ガス(NH3 25vol%+
2 60vol%+CO5vol%+CO2 5vol
%)を導入し、炉内を410℃に保ったまま24時間保
持し窒化処理して取り出した。
【0027】このようにして、窒化処理された上記各試
験品(SUS304製糸道規制ガイド,SUS316製
糸道規制ガイド,SUS310製糸道規制ガイド)につ
いて表面硬度を測定したところ、SUS304製糸道規
制ガイドでHv=880,SUS316製糸道規制ガイ
ドでHv=1050,SUS310製糸道規制ガイドで
Hv=1120であった。また、窒化硬化層深さはそれ
ぞれ、SUS304製糸道規制ガイドで18μm,SU
S316製糸道規制ガイドで20μm,SUS310製
糸道規制ガイドで18μmであった。
【0028】
【実施例2】実施例1において、窒化処理の温度を44
0℃に変えるとともに、処理時間を12時間に変更し
た。それ以外は実施例1と同様に行った。得られた3種
類の窒化処理済み糸道規制ガイドについて、同様の測定
を行ったところ、表面硬度は3者ともHv=1100以
上で窒化硬化層の厚みはそれぞれ、SUS304製糸道
規制ガイドが23μm、SUS316製糸道規制ガイド
が25μm、SUS310製糸道規制ガイドが20μm
であった。
【0029】
【実施例3】実施例1において、窒化処理の温度を38
0℃に変えるとともに、処理時間を15時間に変更し
た。それ以外は実施例1と同様に行った。得られた3種
類の窒化処理済み糸道規制ガイドについて、同様の測定
を行ったところ、表面硬度は3者ともHv=950以上
で窒化硬化層の厚みはそれぞれ、SUS304製糸道規
制ガイドが15μm、SUS316製糸道規制ガイドが
15μm、SUS310製糸道規制ガイドが12μmで
あった。
【0030】
【比較例1】実施例1で用いた3種類の糸道規制ガイド
を対象とし、いずれも400℃でフッ化処理をしたの
ち、実施例1で用いたと同様の窒化ガスを用い、実施例
1で用いたと同様の炉に入れ、550℃で5時間窒化処
理して取り出した。得られた3種類の窒化処理済み糸道
規制ガイドの表面硬度は、それぞれ順に、Hv=128
0,Hv=1280,Hv=1300であり、硬化層深
さは30〜35μmであった。
【0031】つぎに、上記実施例1〜3で得られた試験
品を40℃の5%HF−18%HNO3 の強混酸溶液に
60分間浸漬したのち、取出して調べたところ、各試験
品の窒化硬化層の最表面層(3〜6μm)が除去されて
いた。また、比較例1についても、同様に処理したとこ
ろ、窒化硬化層の全体が消失除去されていた。
【0032】つぎに、以上の実施例1〜3および比較例
1で得られた試験品およびそれを強混酸溶液で処理した
ものの表面硬度および窒化硬化層の最表面のN原子の含
有量を求め、下記の表1〜表3にまとめて示した。表1
〜表3中、酸処理有は、強混酸処理を施したものを示
し、酸処理無は、窒化を終えた段階のものを示す。ま
た、N原子の含有量は、上記各試料をEPMA線分析に
供し、得られたチャートから求めた。耐食性は、JIS
2371に基づく塩水噴霧試験(SST試験)に供し、
発錆までの時間を求めた。また、結晶質クロムの存在の
有無は、各試料をX線回折試験に供し、得られたチャー
トから判断した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】上記の表1〜表3から下記のことがわか
る。 実施例2のSUS310製糸道規制ガイド(酸処理
有)と、比較例1のSUS316製糸道規制ガイド(酸
処理無)との対比から明らかなように、窒化硬化層中に
結晶クロム窒化物がなく、かつN原子濃度が、12%以
内であれば耐食性は実用化できる程度に得られるが、1
2%を境にし、これを超えると、結晶クロム窒化物の析
出がみられるようになり耐食性が大幅に低下する。逆
に、実施例3のSUS316製糸道規制ガイド(酸処理
有)から明らかなように、N原子濃度が、2%を下回る
と、表面硬度が通常、Hv700以下となり、表面剛性
が不充分となる。 実施例1〜3と比較例1との対比から明らかなよう
に、窒化温度が高くなる程、窒化硬化層中のN原子の濃
度(含有量)が多くなる。 強混酸処理すると、窒化硬化層中の最表面層部(N
原子の濃度最大)が溶解除去され、その下の層が現れる
ため、N原子濃度および表面硬度が下がる。 窒化硬化層中のN原子濃度は、SUS316製糸道
規制ガイドよりもSUS310製糸道規制ガイドの方が
高いことから、窒化に際しては、母材中のCr濃度に比
例して、N原子の濃度が高くなる。 比較例は、窒化硬化層の全体にわたって結晶クロム
窒化物が析出していて耐食性に欠けることから、強混酸
処理によって、耐食性に欠ける窒化硬化層の全体が消失
し、母材が露呈している。
【0037】なお、上記EPMA線分析の結果を、実施
例1(SUS316製糸道規制ガイド、酸処理無)と比
較例1(SUS316製糸道規制ガイド、酸処理無)と
を代表させて図3(実施例1)および図4(比較例1)
に示した。この図3と図4のN原子の濃度曲線から明ら
かなように、実施例1では、窒化硬化層の最表面層のN
原子の濃度(含有量)は、7.6%であるのに対し、比
較例1では、12.8%と著しく高くなっている。な
お、上記EPMAのN原子濃度は、基準検量線を用いて
測定したものである。
【0038】また、X線回折試験の結果を、上記実施例
1および比較例1(いずれもSUS316製、酸処理
無)とを代表させて図5(実施例1)および図6(比較
例1)に示した。これらの図において、曲線(イ)が実
施例1のX線回折曲線、曲線(ロ)が窒化処理をしてい
ないSUS316(SUS316生材)のX線回折曲
線、曲線(ハ)が比較例1のX線回折曲線である。図5
において、γnは、窒化によって窒素原子が含有された
γ相(母相)を示す。曲線(イ)と曲線(ロ)との対比
から、曲線(イ)のγn(母相)が、それに対応する曲
線(ロ)のγ−Fe相(母相)よりも左(低角度側)に
ずれ、格子常数が大きくなっていて、格子歪の発生がみ
られ、これが実施例品の表面硬度の向上原因であること
がうかがえる。他方、比較例の曲線(ハ)では、CrN
のような結晶クロム窒化物のピークが多数みられ、これ
が、窒化硬化層の耐食性を低減させていることがうかが
える。
【0039】また、上記のようにして得られた実施例1
および比較例1の糸道規制ガイド(いずれもSUS31
6製、酸処理無)について、電気化学的腐食性を調べる
ために、アノード分極試験(JIS G 0579に準
ずる)に供した。その結果を図7に示す。図7から、不
働態領域近傍(破線X)での不働態保持電流密度レベル
のオーダーを比較すると、実施例1(曲線A)は窒化処
理していないSUS316母材(曲線B)と比べてあま
り劣化していないことがわかる。これに対して比較例1
(曲線C)は、SUS316母材(曲線B)と比べて3
桁以上の差を有し、窒化処理によって耐食性が著しく劣
化していることがわかる。
【0040】
【実施例4】さらに、上記実施例1で得られた3種類の
窒化処理済み糸道規制ガイドをショットブラストに供
し、表面に付着していた酸化スケールを除去してSST
試験に供した。発錆は、いずれも72時間以内で生じ
た。
【0041】つぎに、これらの試験品を、20%HCl
−13%HNO3 の強混酸溶液に、液温45℃で60分
浸漬し、その後、硬度を測定したところ、いずれも、表
面硬度Hv=850〜900であり、窒化硬化層の厚み
は、強混酸によって浸され5〜8μm減少し12〜15
μmとなっていた。ついで、上記酸処理済の試験品をS
ST試験に供した結果、耐腐食性が向上しており、18
00時間を超えても全く発錆しなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a),(b)はいずれもこの発明の対象とな
る糸道規制ガイドの斜視図である。
【図2】この発明の対象となる糸道規制ガイドの他の例
の斜視図である。
【図3】実施例品に対するEPMA線分析曲線図であ
る。
【図4】比較例品に対するEPMA線分析曲線図であ
る。
【図5】実施例品に対するX線回折曲線図である。
【図6】比較例品に対するX線回折曲線図である。
【図7】実施例品および比較例品に対する電流密度−電
圧曲線図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 D04B 27/02

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 母材がオーステナイト系ステンレスから
    なり、表層部の少なくとも一部が、下記の(A),
    (B)を備えた窒化硬化層で構成されていることを特徴
    とする耐食性糸道規制ガイド。 (A) 結晶質のクロム窒化物を実質的に含有していな
    い。 (B) 窒化硬化層最表層部の組織中に2〜12重量%
    のN原子が含有されている。
  2. 【請求項2】 オーステナイト系ステンレスが、クロム
    を22重量%以上含有している請求項1記載の耐食性糸
    道規制ガイド。
  3. 【請求項3】 オーステナイト系ステンレスが、モリブ
    デンを1.5重量%以上含有している請求項1または2
    記載の耐食性糸道規制ガイド。
  4. 【請求項4】 構成要素(B)のみが、下記のように制
    限されている請求項1記載の耐食性糸道規制ガイド。 (B) 窒化硬化層最表層部の組織中に2〜5重量%の
    N原子が含有されている。
  5. 【請求項5】 窒化硬化層が14〜40μmの厚みで形
    成されている請求項1記載の耐食性糸道規制ガイド。
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Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
EP0707104A3 (de) * 1994-08-24 1997-10-08 Dornier Gmbh Lindauer Verfahren zur Standzeiterhöhung von Webblattlamellen
US6375111B1 (en) * 1998-11-10 2002-04-23 E. I. Du Pont De Nemours And Company Apparatus for high speed beaming of elastomeric yarns
CN103061032A (zh) * 2012-12-17 2013-04-24 吴江市金平华纺织有限公司 一种经编机盘头
CN111607691A (zh) * 2020-05-26 2020-09-01 东南大学 一种具有梯度组织的321奥氏体不锈钢管及制备方法

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