JPH0676318B2 - レチノイン酸による歯周組織崩壊症の処置法 - Google Patents

レチノイン酸による歯周組織崩壊症の処置法

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JPH0676318B2
JPH0676318B2 JP1201143A JP20114389A JPH0676318B2 JP H0676318 B2 JPH0676318 B2 JP H0676318B2 JP 1201143 A JP1201143 A JP 1201143A JP 20114389 A JP20114389 A JP 20114389A JP H0676318 B2 JPH0676318 B2 JP H0676318B2
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Description

【発明の詳細な説明】 (産業上の利用分野) 本発明は,歯周組織を冒す疾病の処置法に関する。さら
に詳しくは,本発明は,歯周組織崩壊症および歯肉炎の
局所的な処置法に関する。
(従来の技術) 歯周組織崩壊症(periodontoclasia)とは,歯周組織が
退行し破壊される疾病の一般的な用語である。この歯周
組織崩壊症はヒトの口腔,特に60才以上のヒトの口腔に
ついて広がっている問題である。その病因は複雑であり
〔リンデー ジェイ(Lindhe J.),Textbook of Clinic
al Periodontology(Munksgaard/Saunders 1985年)参
照〕,何年もかかって進行した病状になる。多数の要因
が組み合わさっているが,最も重要なのは細菌である。
この細菌が歯垢を生成して,その結果歯肉炎すなわち歯
肉の炎症を起こす。処置せずに放置すると,歯肉縁上と
歯肉縁下に細菌もしくは歯垢のコロニーが広がり続け,
歯肉の病状を,急性から慢性の歯肉炎に悪化させる。現
在,歯垢の形成と存在を止める方法は,例えば歯科器具
を用いてけずりとることにより機械的に除去する方法以
外にはない。
感染と炎症の慢性段階で,くぼみができて歯と歯肉との
間を引裂くようになる。マクロファージが蓄積して,プ
ロスタグラジン類,インターロイキン類およびコラゲナ
ーゼを分泌しはじめ,これらが周囲の組織に炎症と破壊
とを引き起こす。病変が深くなると,歯肉組織は,歯の
表面に密着しにくくなりまた薄くなり,一層もろくな
り,時には潰瘍を生じる。歯肉の溝もしくはくぼみが深
くなると(歯周疾患の程度をはかるのに用いられる明ら
かな指標),歯肉縁下の細菌の感染が多くなる。このよ
うに溝が深くなったものは,臨床的に歯肉後退症として
知られている。
一般にこの疾病の初期と後期において,特に隙間のくぼ
みの液体中に存在する代表的な細菌は,コラゲナーゼ生
産性細菌である。コラゲナーゼは,タンパク複合体であ
るコラーゲンを破壊する酵素である。コラーゲン,すな
わち皮膚,腱,靭帯,骨およびその他のすべての結合組
織のコラーゲン繊維を構成するタンパクは,個々の歯,
歯周組織および骨を結合させる基本的な要素であって,
歯を取囲み,歯を骨に固定している。細菌が産生するコ
ラゲナーゼは,歯周靭帯を構成するコラーゲン繊維を破
壊し,その結果,歯がゆるみ抜け落ちる。
歯周靭帯が歯を歯槽に取付けている。また歯周靭帯は,
歯周膜とも呼ばれているが,いずれの用語もその構造も
しくは機能を充分に記述していない。歯周靭帯は,歯を
支えているだけでなく,周辺の構造物,固有受容部およ
び児童の歯の崩出の栄養を与える。歯周靭帯が対価しも
しくは破壊されると,歯がゆるみ,咀嚼が困難になり,
痛みがでてくる。歯周の疾病が進行すると,歯槽骨の吸
収が起こり,歯が脱落するに至る。
一般に60才を超える多くの人に,細菌で始まった歯周組
織崩壊症が悪化するか,または歯周組織崩壊症が独自に
歯周組織の一般的な劣化,一般に老年性萎縮,すなわち
老化もしくは退行性変化と呼ばれている劣化で誘発され
る。組織の萎縮は,老齢化過程の特徴的な避けられない
結果である。老年性萎縮では,皮膚が薄くなり,特に口
腔の粘膜組織と歯周組織では,老齢者ほど心臓血管流の
低下を経験し;粘液腺がねじ曲って腺の活性が一般に減
少し;増殖活性または細胞再生活性が減退し;血管の数
が減少し;そして歯周組織が,一層薄く,もろくなり,
感染症に対して弱くなり;その結果,年令とともに有病
率が増大するようになる。
従来の方法においては,クロルヘキシジンおよびテトラ
サイクリンのような静菌剤を使うことによって歯周組織
崩壊症を処置しようと試みてきた。しかし,このような
静菌剤による処置は,歯周組織崩壊症の疾病には付随す
る炎症反応を全く緩和しない。例えばクロルヘキシジン
による処置は,クロルヘキシジンが歯を黒く染めるの
で,ヒトに実際に用いるには,一般に不適当である。そ
の上,静菌剤は効力に限度があり,一般に長期間の投与
は(すなわち慢性の疾病に対しては)適切ではなく,疾
病の急性段階でのみ投与するのが最も良い。歯周疾患と
および歯周組織の退行性変化は,何年にもわたって断続
的に起こるので,静菌剤は,歯周組織崩壊症に対して充
分な処置効果を与えない。
その他の従来の方法においては,歯周組織および周囲の
すき間の炎症反応を緩和しようと試みてきた。アップジ
ョン社などのメーカーで生産されているイブプロフェン
(Ibuprofen)は,主として関節炎の炎症を緩和するよ
う設計された薬剤の一例である。イブプロフェンなどを
用いる抗炎症処置法,例えばモトリン(Motrin),アド
ビル(Advil)およびステロイド類(例えばコルチゾ
ン)の投与は,感染を強めることが知られている。しか
し,イブプロフェンは歯肉炎をほとんど緩和せず,結果
は矛盾している。さらに歯周抗炎症作用をさせるには,
典型的には1,600〜2,400mgもの高投与量が必要である。
イブプロフェンは,一般に,突発時の急性段階に用いら
れ得るが,慢性段階には用いられない。患者の多くは,
胃内出血および胃潰瘍のために,イブプロフェン投与に
は不適当である。
抗炎症剤と静菌剤とを事前に使用しても老年性萎縮に対
して無効であり,かつ一般に歯周組織崩壊症を修復した
り回復させたりすることはない。抗生物質および抗炎症
剤は,一般に,退行性で破壊滴な疾病に対する予防滴処
置法として使用するのに不適当である。
スクライヤーら(Sklyar et al)のロシヤ特許第950,38
7号には,虫歯および口腔粘膜の炎症の処置にビタミン
A(レチノール)とビタミンEとを使用することが開示
されている。本願発明者がレチノール(0.5重量%濃
度)を使用した結果によれば,ビタミンAは歯周組織崩
壊症には全く効果がないことが証明された。レチノール
は,口腔に局所的に付与されると急速にレチナールに代
謝されて歯周組織崩壊症の処置には無効になると考えら
れる。
クメレブスキー(Khmelevskii et al)ら,“VliianieV
itaminov A, E, K na Pokazateli Glutationovoi Antip
erekisnoi Sistemy v Tkaniakh Desny pri Parodontoz
e,"Vopr Pitan,4巻,54頁,1985年には,ビタミンA,Eおよ
びKの混合物が,歯周組織の状態を改善することがクレ
ームされている。これらのビタミン類は,有用な抗酸化
剤として検討された。しかしレチノールは,上記のよう
に,歯周組織崩壊症の処置には有効でないと考えられ
る。
従来技術の重大な欠陥からみて,一般に歯周組織崩壊症
および歯肉炎,および特に老年性萎縮による歯周組織崩
壊症および歯肉炎を阻止し回復する方法であって,予防
処置もしくは維持処置に安全で調整的で便利な方法が望
まれている。
(発明の要旨) 本発明によれば,歯周組織崩壊症および歯肉炎は,その
進行を遅らせて回復させるのに効果的な量ではあるが,
歯周組織を過度に刺激しない量のレチノイン酸をヒトの
歯肉へ局所的に付与することにより,その進行が遅れ,
部分的には回復する。特に,本発明は,新しい血管と新
しいコラーゲンとの生成を含めて,歯肉を厚くするのに
効果的な量ではあるが,歯周組織を過度に刺激しない量
のレチノイン酸を,歯肉へ局所的に付与することによ
り,老年性萎縮,歯周組織崩壊症,および歯肉炎を包含
する疾患を有する60歳以上のヒトの歯肉の治療法に関す
る。
(発明の構成) レチノイン酸(トレチノインまたはビタミンA酸とも称
される)は,ビタミンA(当該技術分野では,ビタミン
Aのアルコール形であるレチノールとして知られてい
る)の誘導体であるが,レチノールの末端のヒドロキシ
メチル基をカルボキシル基で置換して得られる。レチノ
ール,すなわちビタミンAアルコールは,β−カロテン
から誘導され,一般的にはニンジンなどのいくつかの野
菜中に見い出される。レチノイン酸は,ジョンソン・ア
ンド・ジョンソン社から入手可能であり,商品名「RETI
N A」で瘡の治療用に販売されている。
予想外のことであるが,レチノイン酸は,ヒトの歯肉へ
局所的に付与すると,歯周組織崩壊症は,その進行が遅
れ,回復する。局所的な付与は,薬理学の技術分野の当
業者には明らかな多くの方法で実施することができる。
本発明のある実施態様では,レチノイン酸は,綿棒もし
くは歯ブラシのような付与具を用いて歯肉へ局所的に付
与される。他の実施態様では,レチノイン酸は,口内の
すすぎによって局部的に付与される。手,歯科矯正器
具,および当該技術分野で知られている他の塗布具によ
る塗布を含む他の局所的付与法が,本発明に使用し得る
ことは,当業者に明らかである。
歯肉に対する過度の刺激を避けながら,歯周組織崩壊症
を効果的に治療するのに必要なレチノイン酸の投与量
(これについては以下で考察する)は予想外に少ない。
従って,レチノイン酸は,薬学的に適切な媒体,好まし
くは溶液形の液体媒体の担持させるべきである。
本発明のある実施態様によれば,好ましくは,薬学的に
容認され,非毒性かつ非刺激性で,経口使用が可能なレ
チノイン酸の担体もしくは溶媒を含む緩和媒体(emolli
ent vehicle)に,レチノイン酸を含有させて局所的に
付与する。緩和媒体としては,グリセリン(二価アルコ
ール)およびプロピレングリコール(多価アルコール)
を含有するものが好ましいが,他の薬学的に容認される
緩和媒体も本発明に従って用いることができることは,
当業者に理解されている。
グリセリンはプロピレングリコールよりも優れた生体適
合性を示す。他方,レチノイン酸は,一般に,プロピレ
ングリコールの方に溶解しやすい。さらに,20重量%よ
り高い濃度のプロピレングリコールは,グラム陽性菌お
よびグラム陰性菌に対する抗菌剤として知られ,また抗
真菌剤でもある。緩和媒体としては,約5〜約50重量%
のグリセリンと,約50〜約95重量%のプロピレングリコ
ールとからなるものが,本発明では好ましい。さらに好
ましいのは,グリセリンおよびプロピレングリコール
が,重量を基準として約20:80のグリセリン:グリコー
ル比で存在する場合である。
緩和媒体が,薬学的に容認され,非毒性かつ非刺激性
で,経口使用可能な潤滑剤,着香剤などの薬理学の分野
で知られている適切な賦形剤をさらに含有していてもよ
いことは,当業者に理解されている。
本発明の他の実施態様では,レチノイン酸が,液体口腔
すすぎ剤として局所的に付与される。このすすぎ剤は,
薬学的に容認され,非毒性で,経口使用可能なレチノイ
ン酸の溶媒を含有するものが好ましい。歯肉全体にレチ
ノイン酸を効果的に送達するが,着色したり過度に刺激
したりするなどの副作用を口腔に与えないようなすすぎ
剤を用いることが望ましい。また,よい味で口当りがよ
く,飲んでもよい濃度のすすぎ剤が望ましい。液体口腔
すすぎ剤の溶媒の適切な例は,アルコールと水である。
他の薬学的に容認される成分として液体口腔すすぎ剤に
望ましいものには,エリスロマイシンやグリセリンのよ
うな第四級塩,静菌剤が含まれる。本発明のある実施態
様では,液体口腔すすぎ剤は,エタノールおよび水を,5
0:50の重量比で含有している。
本発明の他の実施態様では,レチノイン酸は,練り歯磨
に入れて局所的に付与される。練り歯磨の一例として,
約84.8重量%のグリセリン,約15重量%のキャボシルM-
5(Cabosil M-5),約0.05重量%のテノックスBHA(Ten
ox BHA),約0.10重量%のEDTA二ナトリウム,および約
0.05重量%のレチノイン酸からなるものが挙げられる。
レチノイン酸が,本発明によれば,当該分野で周知の他
の練り歯磨の組成物で居所的に付与できるということは
当業者に理解されている。
本発明を実施する際には,レチノイン酸の治療上効果的
な量を毎日投与して付与することが好ましい。例えば,
緩和媒体もしくは練り歯磨が用いられる場合,レチノイ
ン酸は,綿棒,吸収性スポンジ,歯ブラシ,または手で
付与することができる。また,当業者には明らかなこと
であるが,本発明に従って,投与回数を増減させる処方
を行うことができる。個々の患者に対する最適な付与回
数を決定するには,年齢,歯周組織の一般的状態,個々
の患者の歯周の経歴,および歯周組織崩壊症または歯肉
炎の程度のような要因が考慮される。
本発明の治療効果は,歯周組織崩壊症または歯肉炎の進
行がいったん遅れるか,あるいは回復すると,持続され
る。減量維持投与(reduced main−tainence dosage)
の場合は,本発明のレチノイン酸投与量の居所的付与を
1週間に3回行うことが好ましい。また,減量維持投与
における1週間の投与回路を,本発明に従って増減させ
得ることは,当業者にとって明らかである。
粘膜組織および歯周組織は,60才以上であるが,これよ
り若いにかかわらず,例えば曝露された皮膚については
特に敏感である。従って,本発明によって過剰のレチノ
イン酸が原因の刺すような痛み,乾燥,およびひりひり
する痛みのような過度の刺激を避けることが望ましい。
一般に,本発明による緩和媒体または液体口腔すすぎ剤
中のレチノイン酸の量によっては,患者にうずく感覚を
与える場合がある。
レチノイン酸は,本発明の方法に従って,治療上効果的
な量で使用される。本発明において,「治療上効果的な
量」とは,歯周組織崩壊症および歯肉炎の進行を遅らせ
るか,あるいは回復させ,特に老年性萎縮の場合には,
歯肉を厚くするようなレチノイン酸の量であると理解す
べきである。
本発明のある実施態様として,レチノイン酸の治療上効
果的な量は,約0.01〜約0.5重量%の濃度が好ましい。
さらに好ましくは,レチノイン酸を緩和媒体に含有させ
て局所的に付与する場合,レチノイン酸の治療上効果的
な量は約0.025重量%の濃度である。年令,歯周組織の
全般的状態,およびレチノイン酸に対する感受性のよう
な要因が,本発明に用いられるレチノイン酸の濃度の選
択を左右し,個々の患者によってその濃度を増減させて
もよいことは,当業者に認識されている。
レチノイン酸を液体口腔すすぎ剤もしくは練り歯磨で局
所的に付与する場合,液体口腔すすぎ剤中のレチノイン
酸の治療上効果的な量として好ましいのは,約0.01〜約
0.5重量%の濃度であり,さらに好ましいのは約0.05重
量%の量である。緩和媒体中に含有させて付与されるレ
チノイン酸の場合と同様に,当業者は,個々の患者に基
づいて,その濃度を容易に決定し増減させることができ
る。
本発明によれば,レチノイン酸は,特に老年性萎縮が誘
発する歯周組織崩壊症および歯肉炎のような60才以上の
ヒトの歯肉の年令による障害を治療するのに使用され
る。このような年令に関連する歯肉の障害の治療は,上
記の治療法,濃度,および投与量と同様にして実施する
ことができる。上記のような減量維持投与法を用いて,
本発明の治療効果を維持することは,老年性萎縮,すな
わち自然の老化過程の場合に,特に適切である。本発明
によるレチノイン酸の局所的付与を利用しても,一般的
には有意の残留効果が得られないので,本発明の治療法
を不定期に継続するような,すなわち維持治療法のプロ
グラムを利用するような維持投与法が一般的に必要であ
る。
歯周組織崩壊症または歯肉炎のいずれの段階でも,レチ
ノイン酸の局所付与を,開始することができる。当業者
は,歯周組織崩壊症の状態がより慢性化している場合,
レチノイン酸付与の効力が全面的に減少するということ
が分かるであろう。しかし本発明によるレチノイン酸の
付与は,歯周組織崩壊症または歯肉炎のどの段階でも有
効であると考えられる。当業者には,一旦歯周組織崩壊
症が慢性段階を超えて進行してしまったならば外科治療
を勧めることが最もよいということは明らかである。
一般的な歯周組織崩壊症と歯肉炎,および特に老年性萎
縮による歯周組織崩壊症と歯肉炎の本発明による治療の
経過は,当該技術分野で通常の技術と分析法によって監
視することができる。歯肉溝の深さのプロービングや肉
眼による検査のような全体的な臨床分析法,生体組織分
析のような顕微鏡による検査,ならびにX線分析法は,
当業者が治療の経過を監視するために用いる通常技術の
例である。
本願発明者は,特定の理論にとらわれたくないが,レチ
ノイン酸が,下記のような要因の組み合わせによって歯
周組織の疾患の長びく過程を阻止すると考えられる。
(1)レチノイン酸は,抗炎症剤および抗慢性炎症剤と
して作用する。一般に歯肉炎および歯肉組織崩壊症で起
こる炎症は,レチノイン酸を付与した後に減退すること
が見出された。レチノイン酸は,肉芽腫内にマクロファ
ージが移入するのを阻止すると考えられる。
(2)レチノイン酸は,マクロファージによるコラゲナ
ーゼの産生を阻止する。歯垢,歯の肉芽腫,および,歯
と歯肉との間のすき間の液体の入った裂けたくぼみより
進行した段階の歯周組織崩壊症に見られる中に存在する
細菌もコラゲナーゼを産生し,このコラゲナーゼが,
歯,周辺の組織および靭帯のマトリックスを破壊する。
レチノイン酸はこのコラゲナーゼ活性を抑制してコラー
ゲンの破壊を防止する。
(3)レチノイン酸は,歯周組織の表皮細胞の増殖活性
を増大させる。この活性の増大によって,歯周組織が厚
くなり,口腔の他の粘膜組織も厚くなり得る。歯周組織
成長に対するこのような刺激は,迅速な傷の治癒と,感
染に対する迅速な反応とをもたらすものと考えられる。
さらに,レチノイン酸は繊維芽細胞の代謝を増大させる
と考えられる。繊維芽細胞は,コラーゲンを産生するこ
と,コラーゲン芽細胞と骨芽細胞に分化することとによ
って,歯周組織の繊維を合成する。このように代謝が増
大することによって損傷した歯周組織の回復と修復が促
進される。
(4)レチノイン酸は,血流を刺激し,リンパ組織と細
胞および血管組織の形成(脈管形成)を促進する。その
結果,周辺の歯周組織は栄養を与えられる大きな容量を
持ち;細胞が仲介する免疫反応が一層容易に起こり;さ
らに毒素と刺激物が一層速やかに排除される。
他の薬剤は,このような多重効果を持っておらず,こら
れの効果はすべて歯周組織崩壊症と歯肉炎を阻止し回復
させるのに有益である。
一旦,歯周靭帯が冒され,崩壊され,かつ歯槽骨が吸収
され始めると,レチノイン酸を付与しても,殆ど効果が
ない。しかし,慢性の歯周組織崩壊症がこのように進ん
だ段階になる前であれば,レチノイン酸による治療によ
って,退行と破壊は効果的にその進行が遅れ,回復する
と考えられる。特に自然に起こる老年性萎縮の場合に,
投与量を減らして行う維持治療法によって,それ以上の
損傷と疾病が起こることが防止され,連続的に歯肉が厚
くなると考えられる。
(実施例) 管理されていない(uncontrolled)実験で,慢性の歯周
組織疾病と歯槽骨萎縮の症状のある60才を超えた女性46
名について,米国,ペンシルヴェニア州,フィラデルフ
ィアのthe Aging Skin Clinicで処置を行なった。約4
〜9ヶ月間にわたって,約20:80の重量比のグリセリン
/プロピレングリコール溶剤に溶解させたレチノイン酸
(約0.01〜約0.5重量%,しかし主として約0.025重量%
を用いた)を歯肉に綿棒で付与した。付与は歯を磨いた
後,毎日1回ずつ行った。
上記とほぼ同じ歯周状態の8名の女性を,レチノイン酸
を用いず,グリセリン/プロピレングリコール溶剤だけ
を用いて同様に処置した。
レチノイン酸で治療された約80%の女性が歯肉の容積が
増大したこと,歯肉の退行が抑制されこと,および歯肉
の感受性と出血が少ないことを含む明瞭な利点を報告し
た。これらの女性の歯肉は,脆さが少なく,青白くな
く,よりピンク色であった。その上数人の女性は口臭が
減少したと報告した。これは恐らく硫化物産生細菌の活
性が減少したことによるものであろう。
レチノイン酸で治療を受けた女性の約30%は,歯の周囲
の溝の深さが,著しく減少した。
溶剤だけで治療を受けた女性は,慢性の歯肉の病状に全
く変化がなかった。1名の女性が,ある種の回復が起っ
たと考えたが,何も観察されなかった。
本発明は,その思想またはその本質から逸脱することな
く,他の特定の形態で実施することができる。従って,
本発明の範囲を示す場合は,明細書の内容よりも特許請
求の範囲を参照すべきである。
(発明の要旨) 歯周組織崩壊症および歯肉炎,および60才を超えるヒト
の歯肉の疾患の進行を遅らせ,回復させる方法が提供さ
れる。この方法は,レチノイン酸をヒトの歯肉に局所的
に付与することを包含する。レチノイン酸の量は,歯周
組織崩壊症および歯肉炎の進行を遅らせ,回復させるに
効果的な量であり,かつ過剰な刺激を与えるほど多くは
ない。この方法の実施を容易にする緩和媒体,ねり歯み
がきおよび液体すすぎ剤もまた,包含される。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】歯周組織崩壊症および歯肉炎を遅延させる
    ための薬剤組成物であって, 該歯周組織崩壊症および歯肉炎を遅延させ回復させるの
    に効果的な量でレチノイン酸を含有する,薬剤組成物。
  2. 【請求項2】前記レチノイン酸が,グリセリンおよびプ
    ロピレングリコールの混合物を含有する緩和媒体中に存
    在する,請求項1に記載の薬剤組成物。
  3. 【請求項3】前記レチノイン酸がエタノールおよび水を
    含有する水性媒体中に存在する,請求項1に記載の薬剤
    組成物。
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