JPH0669556A - 超電導素子 - Google Patents

超電導素子

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JPH0669556A
JPH0669556A JP5141878A JP14187893A JPH0669556A JP H0669556 A JPH0669556 A JP H0669556A JP 5141878 A JP5141878 A JP 5141878A JP 14187893 A JP14187893 A JP 14187893A JP H0669556 A JPH0669556 A JP H0669556A
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based oxide
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 絶縁層によるショート電流やリーク電流の発
生を防止し、かつ超電導層と絶縁層との界面まで超電導
の秩序パラメータをよく発達させた、良好なジョセフソ
ン特性が再現性よく得られる超電導素子を提供する。 【構成】 下部超電導層2と上部超電導層4との間に中
間層3を介在させて構成した超電導素子である。下部超
電導層2および上部超電導層4は、銅系酸化物超電導体
からなる。中間層3は、例えば [B]AE2 (RE11-y RE
2y m+1 Cu2 O z (式中、 [B]はブロック層、AEはア
ルカリ土類元素、 RE1は価数が 3価よりも高いイオンを
形成するランタン族元素およびアクチノイド元素から選
ばれる少なくとも 1種の元素、 RE2は価数が 3価のイオ
ンを形成するランタン族元素およびイットリウムから選
ばれる少なくとも 1種の元素、 m≧2 、 0≦ y< 1、 z
は酸素量)で表される多重螢石型ブロックを結晶構造中
に含む層状銅系酸化物からなる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高温酸化物超電導体を
用いた超電導素子に係り、メモリ素子、論理演算素子、
SQUID等として利用されるジョセフソン接合素子に
好適な超電導素子に関する。
【0002】
【従来の技術】高温酸化物超電導体を用いたジョセフソ
ン接合としては、超電導薄膜/絶縁体薄膜/超電導薄膜
構造(S/I/S構造)や、超電導薄膜/常伝導薄膜/
超電導薄膜構造(S/N/S構造)の 3層積層型構造が
研究されてきた。ジョセフソン接合をスイッチング素子
やメモリ素子に用いるためにも、またジョセフソン接合
素子の出力電圧を大きくとるためにも、良好なS/I/
Sトンネル型接合を得ることが望まれている。しかし、
高温酸化物超電導体を用いたS/I/Sトンネル型接合
は、従来、再現性よく得ることが困難であった。高温酸
化物超電導体を用いて、S/I/Sトンネル型接合を再
現性よく得るためには、第1に超電導層と絶縁層の界面
まで超電導の秩序パラメータがよく発達していることが
必要である。第2に、厚さ 2nm程度の薄い絶縁層をショ
ートやリーク電流を発生させることなく形成することが
必要である。
【0003】例えば、超電導層としてc軸配向したBi2
Sr2 Ca2 Cu3 O y 薄膜を用いると共に、常伝導層として
超電導性を示さないBi2 Sr2 Cu Oy 薄膜を用いたS/N
/S接合が知られている。しかし、このような 3層積層
型接合には、積層界面に変成層が生じることによって、
その性質を制御しきれないという欠点がある。また、中
間のN層にピンホールが生じ易いと共に、N層がキャリ
ア濃度や組成の変動により容易に超電導体化する等とい
う欠点が存在している。これらによって、上記したよう
なS/N/S接合は、ジョセフソン特性の再現性に乏し
いという問題を有していた。
【0004】同様に、c軸配向したBi2 Sr2 CaCu2 O y
超電導層の間に、超電導性を示さないBi2 Sr2 Cu Oy
膜を挟んだS/N/S接合が、K.Mizuo et al により A
ppl.Phys.Lett.Vol.56,No.15, pp.1469〜1471に報告さ
れている。また他に、c軸配向したBi2 Sr2 CaCu2 O y
超電導層の間に、Bi2 Sr2 (Ca,Sr,Bi)7 Cu8 O20等の長
周期の層状銅系酸化物を絶縁層として挟んだS/I/S
接合が、M.E.Klausme-ier-Brown et al.により Appl. P
hys.Lett.Vol.60,No.22, pp.2806〜2808に報告されてい
る。これらは、超電導層からN層またはI層の中間層に
CaやSrが拡散して、中間層の一部が局所的に超電導体と
なり、リーク電流が発生し易いというという欠点を有し
ている。
【0005】他に、絶縁層として ZrO2 、 MgO等の単純
な酸化物薄膜やフッ化物薄膜をスパッタリング法や真空
蒸着法により形成し、S/I/S接合を構成することも
試みられている。しかし、絶縁層にピンホールが生じ易
く、その上に酸化物超電導体層を膜質よく堆積すること
が難しいため、Tc が低くなる等の問題があった。例え
ば、特開平2-185077号公報には、螢石(CaF2 )を絶縁層
として用いたジョセフソン接合素子が記載されている。
この素子は、絶縁層を酸化物超電導体と格子整合させて
層状に成長させることを考慮していない。よって、上下
の酸化物超電導体の絶縁層との界面付近の超電導特性が
劣化したり、さらに段差やピンホールが発生し易いとい
う欠点を有している。特に、フッ素が上下の酸化物超電
導体層に拡散して、超電導特性を劣化させるという欠点
を有している。特開平3-296283号公報には、ー対のREBa
2 Cu3 O 7-x (REは希土類元素)超電導層間に、 PrO2
やY2 O 3 等のRE2 O w で表される絶縁層を挟んだジョ
セフソン接合が記載されている。この接合は、絶縁層を
層状に成長させることを考慮していないため、段差やピ
ンホールが発生し易いという欠点を有している。
【0006】さらに他に、 SrTiO3 、 PrGaO3 、 NdGaO
3 、 LaSrGaO4 、 BaTiO3 等のペロブスカイト型酸化物
を絶縁層として用いることが試みられている。これらの
単純な絶縁性酸化物を銅系酸化物超電導体とヘテロエピ
タキシャル成長させた場合には、本質的に以下の欠点を
有する。銅系層状酸化物を薄膜として成長させた場合、
その成長単位は伝導を担わないブロック層からブロック
層までである。例えば、Bi2 Sr2 CaCu2 O y の場合に
は、Bi-O面からBi-O面までが成長単位である。また、 Y
Ba2 Cu3 O 7 の場合には、 CuOδChain から CuOδChai
n までが成長単位である。酸化物超電導体からなる下部
超電導電極を成長させた後の表面は、超電導性を担わな
いブロック層になる。その上に中間層を積層し、次に上
部超電導電極を成長させると、中間層の真上にくるのは
やはり超電導性を担わないブロック層になる。従って、
超電導性を担う CuO2 面と絶縁性酸化物(中間層)との
界面に、絶縁体でも超電導体でもない常伝導層ができて
しまう。すなわち、S/I/S接合を作製しようとして
も、本質的にS/N/I/N/S接合になってしまうと
いう欠点を有する。その結果、絶縁層の界面まで超電導
の秩序パラメータがよく発達した良好な特性を持つS/
I/S接合が得られない。
【0007】また、エピタキシャル成長による 3層積層
構造のジョセフソン接合としては、YBa2 Cu3 O 7 /PrB
a2 Cu3 O 7-δ/YBa2 Cu3 O 7 構造の接合が試作されて
いる。この例は、J.B.Barner et alにより Appl. Phys.
Lett.Vol.59,No.6, pp.742〜744に報告されている。し
かし、この接合は YとPrの相互拡散によって、中間層が
容易に導体化または超電導体化するという欠点を有して
いた。
【0008】さらに、特開平4-105373号公報には、 1重
の螢石型ブロック(Ln2 O 2 )を介して向かいあった C
uO5 ピラミッドおよびピラミッドの頂点に隣接したアル
カリ土類元素からなる部分と、PbとCuの酸化物からなる
部分とを、交互に積層した物質を、N層またはI層とし
て用いた超電導素子が記載されている。この超電導素子
は、 1重の螢石型ブロックを有する物質を用いている。
このため、N層またはI層として機能させるためには、
中間層の厚さを 2単位胞分以上の厚さ(典型的には50nm
の厚さ)にしなければならない。 1重の螢石型ブロック
を含む物質は、組成変動や超電導層からの元素拡散によ
って、容易に超電導体となる。また、 1重の螢石型ブロ
ックの厚さは CuO2 面間隔で測って、約 0.6nmとc軸方
向のコヒーレンス長に比べて十分に長くない。従って、
この物質が超電導体化すると、c軸方向にも超電導の結
合が起き、リーク電流が発生し易いという欠点を招いて
しまう。
【0009】一方、高温酸化物超電導体の粒界を用い
て、再現性と特性のよいS/N/Sジョセフソン接合が
できることが、D.Dimos, P.Chaudhari, J.Mannhartらに
より、Physical Review B, Vol.41,No.7,pp.4038〜404
9,(1990) に報告されている。他に、 P.GrossらによりS
upercond.Sci.Technol.Vol.4, pp.S253〜255,(1991)
に、同様なジョセフソン接合が報告されている。これら
は、基板の双晶境界上にできる YBa2 Cu3 O 7 薄膜の粒
界を利用したものである。
【0010】しかし、このような粒界ジョセフソン接合
は、以下に示すような欠点を有している。第1に、双晶
基板を貼り合わせ等の方法で作製するため、基板作製工
程が煩雑となる。第2に、基板の双晶界面上でしか接合
を形成することができず、基板上の任意の場所に接合を
形成することができない。第3に、平面型の接合しかで
きず、基板面に垂直な方向に超電導電流が流れる積層型
の接合は作製不可能である。第4に、弱結合ジョセフソ
ン接合であるため、本来のS/I/S接合ほどには、I
c n 積を大きくすることができない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来
の積層型ジョセフソン接合は、酸化物超電導体層と中間
層との界面の整合性が不十分であると共に、中間層自体
に段差やピンホール等の欠陥が発生し易いため、リーク
電流が発生し易いという欠点を有していた。さらには、
中間層が組成変動等によって、容易に導体化または超電
導体化するという欠点があった。これらによって、従来
の積層型ジョセフソン接合では、良好なジョセフソン特
性を再現性よく得ることができなかった。一方、粒界ジ
ョセフソン接合は、従来の積層型接合に比べて特性的に
は優れるものの、作製工程が繁雑であると共に、形成形
態や形成箇所に制約が多く、実用性に欠けるという難点
を有していた。
【0012】このようなことから、実用性の高い積層型
ジョセフソン接合の構造および材質上の問題点を解消す
ることによって、ジョセフソン特性の向上を図ると共
に、その再現性を高めることが強く望まれていた。
【0013】本発明は、このような課題に対処するため
になされたもので、絶縁層の構造および特性の安定化を
図ると共に、積層界面の整合性を高める等によって、絶
縁層によるショート電流やリーク電流の発生を防止し、
かつ超電導層と絶縁層との界面まで超電導の秩序パラメ
ータをよく発達させた、良好なジョセフソン特性が再現
性よく得られる超電導素子を提供することを目的として
いる。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の超電導素子は、
銅系酸化物超電導体からなる下部超電導層と、前記下部
超電導層上に積層形成され、多重螢石型ブロックを結晶
構造中に含む層状銅系酸化物からなる中間層と、前記中
間層上に積層形成され、銅系酸化物超電導体からなる上
部超電導層とを具備することを特徴としている。
【0015】本発明の超電導素子に用いる銅系酸化物超
電導体は、超電導状態を発現し得るものであれば特にそ
の材質に限定されるものではない。ただし、層状成長し
易い銅系酸化物超電導体が好ましく用いられる。このよ
うな銅系酸化物超電導体としては、例えばBiを含む銅系
酸化物超電導体、Tlを含む銅系酸化物超電導体、Pbを含
む銅系酸化物超電導体、希土類を含む銅系酸化物超電導
体等が例示される。これら銅系酸化物超電導体の具体例
としては、下記の化学式で実質的に組成が表されるもの
が挙げられる。
【0016】 化学式:Bi2 Sr2 Can-1 Cun O z (n=1〜4) ………(1) :Tl2 Ba2 Can-1 Cun O z (n=1〜4) ………(2) :TlBa2 Can-1 Cun O z (n=1〜4) ………(3) : (Pb2 Cu) Sr2 (Ca,RE)n-1 Cun O z (n=1〜4) ………(4) : (Pb,Cu)Sr2 (Ca,RE)n-1 Cun O z (n=1〜4) ………(5) :REBa2 Cu3 O 7+δ ………(6) (上記式中、REは Yを含む希土類元素を示し、 zは酸素
数を表す)また、銅系酸化物超電導体層の形態として
は、c軸がランダムな方向に向いた形態では本発明の効
果を十分に発揮させることができないため、c軸を基板
面に垂直に配向させることが好ましい。このような配向
状態は、よく制御された薄膜形成法によって得ることが
できる。
【0017】ここで、銅系酸化物超電導体では、結晶構
造に共通して含まれる CuO2 面が電気伝導、ひいては超
電導を担っている。この CuO2 面に挟まれた部分を抽出
して、通常、ブロック層と呼ばれている(Tokura and Ar
ima,Jpn.J.Appl.Phys. Vol.29,p.2388〜(1990)等参
照)。現在発見されているTc が 40K以上の酸化物超電
導体は、いずれも 1〜 2種類のブロック層と、その間に
CuO2 面が積層した構造と見なすことができる。上記
(1)式〜 (6)式で表される酸化物超電導体は、それぞれ
ブロック層として、 [Bi2 O 2 ] 2+、 [Tl2 O 2 ] 2+
[TlO]1+、[PbO-Cu-PbO]1+、[(Pb,Cu)O]1+、 CuOδChai
n 等を含んでいる。このようなブロック層(以下、 [B]
と記す)を含むことから、銅系酸化物超電導体は層状成
長し易いといえる。特に、 [Bi2 O 2 ] 2+や[PbO-Cu-Pb
O]1+においては、Bi3+とPb2+が6s2 孤立電子対を持ち、
イオンが強く分極しているために結合に異方性が生じ、
層状結晶構造を取り易く、層状に結晶成長し易い。ま
た、他のブロック層として、(Ce,RE)O2 (代表的な螢石
型ブロック、REは希土類元素)が知られている。
【0018】上述したようなブロック層は、一般的には
CuO2 面を挟まずにブロック層だけを多重に積層するこ
とはできない。ただし、上記螢石型ブロックだけは例外
であり、成膜条件の制御や成膜源の適切な選択により、
螢石型ブロックだけを多層化する(多重螢石型ブロッ
ク)ことができ、かつその層数の選択によって絶縁層と
して機能させることができることを、本発明者らは見出
した。
【0019】本発明の超電導素子は、上述したような多
重螢石型ブロックを含む層状銅系酸化物を中間層として
用いたものである。この多重螢石型ブロックを任意の厚
さで層状成長させることにより、良好なジョセフソン接
合等が得られる。
【0020】なお、結晶構造中に螢石型ブロックを 2重
または 3重に積層した部分を含んだ層状銅系酸化物は、
バルクの焼結体としては既に合成されている。例えばT.
Wadaらは、Physica C,Vol.179, pp.455 〜460(1991)
に、螢石型ブロックの 2重積層部分を含んだ (Pb,Cu)Sr
2 (Ho,Ce)3 Cu2 O 11+ δの多結晶バルクを合成できた
ことを報告している。T.Wadaらは他に、Physica C, Vo
l.175, pp.529〜 533(1991)に、 (Tl,Cu)Sr2 (RE,Ce)
3 Cu2 O 11+ δの多結晶バルクを合成できたことを報告
している。また、A.Tokiwaらは、Physica C, Vol.181,
pp.311〜 319(1991)に、Pb2 Sr2 (Y,Ce)n Cu3 O
6+2n+δ(n=3,4)の多結晶バルクを合成したこと、また
これらの試料を透過型電子顕微鏡で観察すると、 n=5,
6,7に相当するinter growth があることを報告してい
る。A.Tokiwaらは、同時に Pb(Ba,Sr)2(Y,Ce)3 Cu3 O
11+δの多結晶バルクを合成したことを報告している。
【0021】これらは、いずれもバルクとして合成した
ものに関する報告である。本発明は、層状の結晶構造を
有する酸化物超電導体や上記した層状銅系酸化物を使用
し、薄膜の層状成長によって、バルクでは得られにくい
結晶構造を作り込むことを可能としたものである。
【0022】本発明で中間層として用いる層状銅系酸化
物(中間層物質)は、 式:[(RE11-y RE2y )O2 ] m+1 ………(7) (式中、 RE1は価数が 3価よりも高いイオンを形成する
ランタン族元素およびアクチノイド元素から選ばれる少
なくとも 1種の元素を、 RE2は価数が 3価のイオンを形
成するランタン族元素およびイットリウムから選ばれる
少なくとも 1種の元素を示し、 yは 0≦ y< 1を満足す
る数である)で表される多重(m重)螢石型ブロックを結
晶構造中に含むものである。すなわち、本発明の超電導
素子における中間層は、基本的には0.27nmを単位にその
m倍の厚さで多重(m重)螢石型ブロックを形成し、例え
ば膜厚方向にオーミック電流が流れない絶縁層としての
働きをもたせたものである。
【0023】上記中間層物質としての層状銅系酸化物中
のもう一つブロック層 [B]としては、銅系酸化物超電導
体層中に含まれるブロック層と同様なもの(例えば [Bi
2 O2 2+、 [Tl2 O2 ] 2+、[TlO] 1+、[PbO-Cu-PbO]
1+、[(Pb,Cu)O]1+、 CuOδChain 等)が例示される。特
に、使用した銅系酸化物超電導体層中に含まれているブ
ロック層と同一のブロック層とすることが好ましい。こ
れによって、エピタキシャル成長させ易いと共に、製造
工程における成膜源の数(例えば分子線エピタキシー法
におけるクヌーセン・セルの数)を少なくすることがで
きる。
【0024】中間層となる層状銅系酸化物の代表的な化
学式としては、 化学式: [B]AE2 (RE11-y RE2y m+1 Cu2 O z ………(8) (式中、 [B]はブロック層を、AEはアルカリ土類元素
を、 RE1は価数が 3価よりも高いイオンを形成するラン
タン族元素およびアクチノイド元素から選ばれる少なく
とも 1種の元素を、 RE2は価数が 3価のイオンを形成す
るランタン族元素およびイットリウムから選ばれる少な
くとも 1種の元素を示し、 mは m≧2 を満足する数、 y
は 0≦ y< 1を満足する数であり、 zは酸素量を表す)
が例示される。 m=1の化合物は、キャリア濃度によって
は超電導体化してc軸方向に超電導の結合が起きるた
め、 mは 2以上に設定するものとする。またAEとして
は、全てのアルカリ土類元素を用いることができるが、
イオン半径を考慮すると、SrまたはBaが好ましい。中間
層物質の代表的な例の 1ユニット分(結晶構造の [B]か
ら [B]までを 1ユニットとする)を図1に示す。図1に
示す中間層物質は、 [B]として[PbO-Cu-PbO]1+を用いた
ものであり、かつ 8重螢石型ブロックを含むものであ
る。
【0025】上述した多重螢石型ブロックは、絶縁層と
して安定に機能する。よって、本発明における中間層
は、多重螢石型ブロックを含む層状銅系酸化物を、 1ユ
ニットだけ堆積すればその効果を得ることができる。ま
た、層状銅系酸化物を 2〜12ユニット程度の範囲で積層
して用いることもできる。
【0026】多重螢石型ブロックを含む層状銅系酸化物
は、上記したように、基本的には多重螢石型ブロックが
絶縁層として機能するものであるが、層状銅系酸化物全
体(1ユニット)を絶縁層とすることもできる。また、多
重螢石型ブロックのみを絶縁層とし、その上下の CuO2
面を電気的に活性な状態、すなわち導電性または超電導
性を持つ状態とすることもできる。本発明の超電導素子
で、ジョセフソン接合素子を作製する場合には、 1ユニ
ット分の層状銅系酸化物で中間層を構成し、かつ多重螢
石型ブロックのみを絶縁層とする形態、言い換えれば絶
縁層が CuO2 面を含まない形態が最適である。なぜなら
ば、 CuO2 面は僅かな組成変動で導電性を持ちやすく、
絶縁層としての機能を低下させるおそれがあるからであ
る。また、後に詳述するが、多重螢石型ブロックのみを
絶縁層とし、その上下の CuO2 面が超電導性を示す状態
とすることにより、超電導層と絶縁層の界面まで超電導
の秩序パラメータがよく発達する。この点からも、中間
層を 1ユニットの層状銅系酸化物とする形態は、ジョセ
フソン接合を形成する上で好ましいと言える。
【0027】S/I/S構造のジョセフソン接合の場
合、絶縁層(I層)の厚さは 1〜 4nm程度とすることが
好ましい。ここで、多重螢石型ブロックの厚さを CuO2
面からCuO2 面までの距離で測ると、 0.595+0.27(m-1)n
mとなる。よって、 1ユニットの層状銅系酸化物でS/
I/S接合の絶縁層を形成する場合、多重螢石型ブロッ
クの厚さは、 0.8〜 3.5nm(m=2〜12)程度とすることが
好ましい。より好ましいmの値は 4〜10程度であり、 m=
7近傍が最も好ましい。
【0028】上述した多重螢石型ブロックは、 CuO2
の間に陽イオンだけの面と酸素だけの面が交互に積層し
た構造とみなせる。上記 (7)式で表されるように、多重
螢石型ブロック内の陽イオンサイト(A1サイト)は、 R
E1と RE2が占有する。 RE1は、価数が 3価よりも高いイ
オンを形成するランタン族元素やアクチノイド元素であ
り、例えばCe4+、Pr4+、Tb4+、Th4+、Pa4+、 U4+であ
る。それぞれのイオンのイオン半径から考えると、Ce4+
が最も望ましく、次いで U4+、Pr4+、Th4+の順で好まし
い。なぜなら、多重螢石型ブロックとその上下に位置す
る CuO2 面との格子整合がよく、中間層化合物が化学的
に安定になると共に、中間層に含まれるCuO2 面上のキ
ャリアが局在しにくくなるからである。 RE1は、多重螢
石型ブロックを化学的に安定に形成するために必要であ
る。
【0029】また RE2は、価数が 3価のイオンを形成す
る元素であり、ランタン族元素全て(La、Pr、Nd、Sm、
Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)と Yが使用し得
る。ただし、層状銅系酸化物の中で、La3+だけは 9〜10
配位を好み、それ以外のイオンは 8配位を好むことか
ら、La3+はあまり好ましくない。 RE2は多重螢石ブロッ
クを形成するために必ずしも必要ではない。すなわち y
=0でもよい。ただし、後に詳述するように、超電導層と
絶縁層との界面まで超電導の秩序パラメータを発達させ
るためには必要となる。また、多重螢石型ブロックを化
学的に安定とするためには、 yの値を 0.6以下とするこ
とが好ましい。
【0030】ところで、螢石型結晶構造は、A1サイト(8
配位)の平均イオン半径R(A1) が酸素のイオン半径R(O)
の0.73倍以上0.84倍以下の場合に安定である。R(A1)/R
(O)が0.73未満になると、陽イオンの周りに酸素が 6配
位したルチル構造やC型希土類構造(C-rare earth str
ucture:F.S.Galasso,”Structure and Properties ofI
norganic Solids (Pergamon, Oxford,1970))を好むよ
うになる。そこで、本発明においては、ある陽イオンだ
けの面に着目したときに、平均イオン半径R(A1)が0.099
1〜 0.11592nm(最も好ましくは 0.10074〜0.108nm)の
範囲になるように、 RE1と RE2の種類とその組成比を選
ぶことが望ましい。ただし、Ce4+、Pr4+、Tb4+、Th4+
Pa4+、 U4+がA1サイトの 70%以上を占める場合には、そ
もそもこれらの二酸化物は螢石型構造を取るため、上記
の範囲に限定されるものではない。また、比較的小さい
イオン半径を持つ RE2(例えばEr3+)を用いて、その組
成比が RE1の 2倍を超すと、その上下の酸素が規則的に
欠損して部分的に Y2 O 3 と同じ結晶構造(C型希土類
構造と呼ばれる結晶構造)になることがある。本発明の
中間層物質中の多重螢石型ブロックは、上記C型希土類
構造を一部含んでいてもよい。
【0031】上記 (7)式および (8)式中の RE1元素と R
E2元素との組成比y は、キャリア濃度p をも考慮して範
囲を決めることが好ましい。ここで、キャリア濃度p と
は、陽イオンと陰イオンの組成から電荷中性の条件を用
いて求めた、 [CuO]+p当たりの過剰電荷p である。中間
層全体を半導体または絶縁体とする場合には、 p=0とな
るように yを選ぶ必要がある。また、多重螢石型ブロッ
クを十分厚くして、絶縁層として安定に機能させると共
に、中間層に含まれる CuO2 面を電気的に活性な(すな
わち超電導性をもつ)状態としたい場合には、p=0.15〜
0.25となるように yを選ぶことが好ましい。例えば、中
間層の構成材料として、 (Pb2 Cu) Sr2(Ce1-y Euy )
m+1 Cu2 O 8+2m- δを用いる場合、中間層全体を半導体
または絶縁体とする場合にはy=(1+2δ)/(m+1) 付近に設
定し、中間層に含まれる CuO2 面を電気的に活性な状態
にしたい場合にはy=(1.4+2δ)/(m+1) 付近に設定する。
【0032】高温酸化物超電導体でS/I/Sトンネル
型接合を得るためには、超電導層と絶縁層の界面まで超
電導の秩序パラメータがよく発達していることが必要で
ある。そのためには、中間層に含まれる CuO2 面を電気
的に活性な状態、すなわち導電性のある状態、または超
電導性を持つ状態にすることが望ましい。すなわち、中
間層に含まれる CuO2 面にキャリアをドープすることが
望ましい。そのためには、上記したように、p=0.15〜0.
25となるように yを選んだ上で、多重螢石型ブロック内
で 3価の RE2を CuO2 面の近傍に局在させることが望ま
しい。現在まで、多重螢石型ブロックを含んだ層状銅系
酸化物がバルクの多結晶体で合成されているが、いずれ
も超電導にはならず、電気抵抗は温度低下と共に増大す
るという特性を持っている。バルクの多結晶試料で多重
螢石型ブロックを含む一連の化合物、例えばPb2 Sr2 Y
1 Cem Cu3 O 8+2m-δ:m=1,2,3 が合成されているが、
mが増大するに従い抵抗率が増大することが報告されて
いる(A.Tokiwa et al.,Physica C 181, 311(1991))。こ
れは、多重螢石型ブロック内で、Ce4+と Y3+がランダム
に分布しているために、 mの増大と共に酸素欠損δが増
大するためであることを、本発明者らは見出した。
【0033】酸素欠損等の格子欠陥を減少させ、かつ y
をそれほど大きくせず(多重螢石型ブロックが化学的に
安定な範囲のy)に、有効に CuO2 面にキャリアドープす
るには、以下に示す手段が有効である。すなわち、 3価
の RE2を CuO2 面に隣接したA1サイトに局在させ、 3価
よりも高い価数を持つ RE1がなるべく多重螢石型ブロッ
クの中央付近に入るようにすることが有効である。その
結果、多重螢石型ブロック内で酸素欠損が生成しにくく
なり、かつ CuO2 面に有効にキャリアドープすることが
できる。さらに、中間層に含まれる CuO2 面を導電性の
ある状態、または超電導性を持つ状態にするには、 CuO
2 面に隣接したA1サイトの平均イオン半径が0.1007〜
0.108nmの範囲(最も望ましくは 0.102〜 0.106nmの範
囲)になるように、 RE1と RE2の種類とその組成比を選
ぶことが望ましい。
【0034】中間層の CuO2 面に有効にキャリアドープ
するには、もう一つのブロック層[B] にも望ましい条件
が存在する。すなわち、 [B]の電荷はなるべく小さい方
が望ましい。 [B]としては、 [Bi2 O 2 ] 2+や [Tl2 O
2 ] 2+よりも、[TlO] 1+、[PbO-Cu-PbO]1+、[(Pb,Cu)O]
1+、[(Tl0.5 Cu0.5 )O]0.5+、 [(Tl,Pb)O]0.5+〜 1.5+
の方が望ましい。
【0035】上述したような条件を満たすことによっ
て、超電導層と絶縁層の界面まで超電導の秩序パラメー
タがよく発達する。これにより、特性やその再現性に優
れたS/I/Sトンネル型接合を得ることができる。こ
こで、超電導の秩序パラメータ(ψ)とは、局所的にそ
この電子が超電導になっている度合いを示し、下記の式
で表される。
【0036】 秩序パラメータ(ψ)=(超電導電子密度)2 =(超電導電子の巨視的な波動関係の振幅) 超電導の秩序パラメータが超電導層(S)と絶縁層
(I)との界面までよく発達している状態を、図2
(a)に示す。また、図2(b)は超電導の秩序パラメ
ータがよく発達していない状態を示している。図2
(a)に示すように、S/I界面まで超電導の秩序パラ
メータがよく発達していることにより、良好な超電導ギ
ャップ△が得られる。
【0037】本発明によれば、第1に超電導層と絶縁層
の界面まで超電導の秩序パラメータがよく発達している
こと、第2に絶縁層にショートが発生しにくいことによ
って、良好な特性を持つS/I/Sトンネル型ジョセフ
ソン接合が得られる。また、本発明によるジョセフソン
接合は、超電導3端子素子にも使用することができる。
超電導3端子素子の一つとして、S/I/S/I/S型
のものが提唱されている。これは、S/I/S接合を二
つ積み重ねたものである。本発明の薄膜を 3層積層した
S/I/Sトンネル型ジョセフソン接合を、二つ積み重
ねることにより、このような3端子素子が実現できる。
さらに、本発明の薄膜を 3層積層したS/I/Sトンネ
ル型ジョセフソン接合の上(または下)に半導体層を積
層することにより、超電導ベーストランジスタを実現す
ることができる。また、本発明の薄膜を 3層積層したS
/I/Sトンネル型ジョセフソン接合の上(または下)
に、S/N/S接合を積層することにより、S/I/S
/N/S構造の準粒子注入型3端子素子を実現すること
ができる。また、本発明の超電導素子は、直流トランス
フォーマー等に適用することもできる。さらに、本発明
における中間層物質は、 mを 100以上として素子分離の
ための絶縁層として用いることもできる。
【0038】
【作用】本発明の超電導素子において、中間層として用
いる層状銅系酸化物中の多重(m重)螢石型ブロックは、
mの数を 2以上とすることにより、絶縁層として安定に
機能させることができる。また、多重(m重)螢石型ブロ
ックは、相互拡散、キャリア濃度や組成の変動等によっ
ても、容易に導体化または超電導体化することがない。
すなわち、 CuO2 面を含んでいない多重螢石型ブロック
は、Cu、Pb、Bi、AE等が拡散により一部混入しても、ま
たキャリアが注入されても導体化しない。よって、安定
性に優れたS/I/S接合が得られる。
【0039】また、多重螢石型ブロック層を含んだ層状
銅系酸化物は、銅系酸化物超電導体との格子マッチング
性に優れるため、中間層および上下の酸化物超電導体層
をそれぞれエピタキシャル成長させることができる。こ
こで、特に銅系酸化物超電導体層と同じブロック層[B]
を含む中間層を用いることにより、上下の超電導層と整
合性よくエピタキシャル成長させることができる。その
結果、超電導層と中間層の界面付近に変成層が生成しに
くくなり、絶縁層の界面まで超電導のオーダーパラメー
タを良好に維持することができる。さらに、多重螢石型
ブロック内において、 RE1と RE2のイオン半径と組成比
を適性化すること、 3価の RE2の占める位置を CuO2
の近傍に局在させること、 [B]として電荷の小さいもの
を選ぶこと等により、超電導層/絶縁層界面であるとこ
ろの中間層内の CuO2 面まで超電導のオーダーパラメー
タを良好に維持することができる。
【0040】さらに、中間層はブロック層 [B]を含むこ
とにより層状成長し易い。多重螢石型ブロック層も、
(RE1,RE2)の陽イオン層と O2-層が交互に積層した結晶
構造を持つため、層状成長し易い。このような層状成長
し易い物質をエピタキシャル成長させることによって、
段差や欠陥の少ない積層膜が得られ、絶縁層が薄くとも
ショート電流の発生しにくいジョセフソン接合が得られ
る。また、多重螢石型ブロックは、0.27nmを単位に任意
の厚さに作製することができるため、用途に応じて絶縁
バリヤの厚さを変ることができる。
【0041】
【実施例】以下、本発明の実施例について説明する。
【0042】図3は、本発明の一実施例による超電導素
子の要部構成を示す断面図である。同図において、1は
SrTiO3 単結晶体等からなる基板である。この基板1上
には、下部超電導層2として、結晶のc軸が基板面に垂
直に揃った銅系酸化物超電導体層、例えば前述した (1)
式〜 (6)式で実質的に表されるような酸化物超電導体層
が設けられている。この下部酸化物超電導体層2上に
は、中間層3として、前述した (8)式で実質的に表され
るような、多重螢石型ブロックを含む層状銅系酸化物層
が積層形成されている。さらに、その上には上部超電導
層4として、同様な銅系酸化物超電導体層が積層形成さ
れている。これら各層2、3、4によって、 3層積層構
造が構成されている。
【0043】図4に、上記超電導素子の 3層積層構造の
一例を、結晶構造の観点から表した図を示す。なお、図
4中では酸素イオンの配位を分かり易くするために、酸
素イオン同士を実線で結んである。図4は、まず基板1
上に下部超電導層2として、(Pb0.65Cu0.35) Sr2 (Ca
0.5 Dy0.5 ) Cu2 O 7-δ超電導体(超電導転移温度Tc
=80K) を成長させ、その上に中間層3として、 6重螢石
型ブロックを含んだ、 (Pb0.65Cu0.35) Sr2 (Ce,Eu)7
Cu2 O z を成長させ、さらに上部超電導層4として、
(Pb0.65Cu0.35) Sr2 (Ca0.76Dy0.24) 2 Cu3 O 9-δ
電導体 (Tc =90K)を成長させた状態を示している。同
図に示すように、中間層3としての層状銅系酸化物に含
まれる多重螢石型ブロックは、 (RE1,RE2)(具体的には
(Ce,Eu))の陽イオン層と O2-層が交互に積層した結晶構
造を有している。また、上記した上部超電導層4は、バ
ルクでは得られない、単位胞内に CuO2 面を 3枚含んだ
酸化物超電導体である。これは、分子線エピタキシー技
術等によって初めて得られる酸化物超電導体である。図
4に示す 3層積層構造においては、 3層の格子マッチン
グがよく、層状にエピタキシャル成長させることが可能
である。
【0044】次に、上記したような構成を有する超電導
素子を作製するための、薄膜の具体的な形成例とその評
価結果について述べる。
【0045】図5は、この実施例で薄膜の形成に用い
た、分子線エピタキシーによる成膜装置の構成を模式的
に示す図である。同図において、11は成膜室であり、
この成膜室11内にはそれぞれ蒸発源、例えばPb、Sr、
Ca、RE、Cu等が収容されたクヌーセン・セル12、1
3、14、15、16が配置されている。また、ガスソ
ース用ノズル17が併置されている。各クヌーセン・セ
ル12、13、14、15、16、およびガスソース用
ノズル17には、図示しない加熱用ヒータが設置されて
いる。またこれらは、基板ホルダ18にセットさせた基
板1に向けて、金属元素または金属元素を含むガスが蒸
発するよう配置されている。各クヌーセン・セル12、
13、14、15、16、およびガスソース用ノズル1
7の前方には、それぞれシャッタ19、20、21、2
2、23、24が備えられており、各元素の基板1への
供給を止められるようになっている。基板ホルダ18
は、その後方に設けられた基板加熱ヒータ25によって
加熱される。
【0046】また、成膜室11内には、石英管からなる
酸素ガス導入管26が設置されている。この酸素ガス導
入管26の周囲には、コイル27が巻回されている。そ
して、高周波電源28から供給される電力によって、酸
素ガス導入管26内に酸素プラズマを生成し、その活性
酸素を基板ホルダ18にセットされた基板1に向けて供
給するよう構成されている。なお、図中29は、活性酸
素を直接基板1に照射しない時に用いるシャッタであ
り、通常は開いておく。
【0047】この実施例においては、多重螢石型ブロッ
クの形成に不可欠な RE1元素、例えばCeを有機金属ガス
ソースにより供給するよう構成している。Ceソースとし
て、Ce(DPM)3 や Ce(DPM)4 をクヌーセン・セルから昇
華させる方法を用いてもよいが、有機金属ガスソースの
方が安定度が高い。図中30は原料加熱用オーブンであ
る。ステンレス製の原料容器31内には、Ceを含んだ有
機金属原料、例えばβ-ジケトン金属錯体(Ce(DPM) 3
や Ce(DPM)4 )が投入されている。原料容器31とガス
ソース用ノズル17に接続された配管32は、大気圧以
下の減圧状態に保持されている。配管32内の圧力は圧
力計33によりモニターし、 2つのバリアブル・リーク
・バルブ34、35によって、原料容器31と配管32
内の圧力が制御される。配管、圧力計、バルブ類等に有
機金属原料が凝集しないように、それらも加熱用オーブ
ン30内に配置されている。ガスソース用ノズル17か
ら基板1に向けて供給されるCe含有有機金属ガスの供給
量は、配管32内の圧力と原料加熱用オーブン31の温
度により制御する。例えば、原料として Ce(DPM)3を用
いた場合、原料加熱用オーブン31の温度を 130℃〜 2
00℃、配管31内の圧力を0.01Torr〜10Torrの条件に設
定する。
【0048】多重螢石型ブロック層の形成にはCe等の R
E1元素が不可欠であり、また本発明の超電導素子の作製
には分子線エピタキシー法が有効である。そして、分子
線エピタキシー法を用いて多重螢石型ブロックを形成す
る場合には、CeソースとしてCeを含んだ有機金属のガス
を基板に向けて供給することが有効である。これによっ
て安定にCeを供給することができる。Ceは高温でも蒸気
圧が低いために、クヌーセン・セルで蒸発させることが
困難であり、また電子ビーム蒸着によっても蒸発量が安
定しないという欠点があった。有機金属ガスソースの使
用により、これらの欠点を克服することができる。ま
た、分子線エピタキシー法を用いて多重螢石型ブロック
層を形成する場合には、 (RE1,RE2)と活性酸素を別々に
交互に供給することによって、より層状成長し易くな
る。
【0049】上述した構成を有する成膜装置(分子線エ
ピタキシー装置)を使用して、まず上部および下部超電
導層として用いる、単層のPb-Sr-Ca-RE-Ca-O酸化物超電
導体薄膜を堆積した例について説明する。なお、基板1
としては SrTiO3 の (100)面を用い、以下の手順で酸化
物超電導体薄膜を成膜した。
【0050】まず、成膜室11内を10-8Torr未満まで排
気した後、各クヌーセン・セル12、13、14、1
5、16を各蒸発源の必要な蒸発速度に見合った温度ま
で加熱する。Pb、Sr、Ca、RE2(EuまたはDy)、Cuそれぞ
れのソース温度は、例えば 600℃、 480℃、 526℃、 5
32℃(または1033℃)、1060℃である。活性酸素を供給
しながら基板1を 800℃に加熱した。この後、活性酸素
を供給しながら金属成分の蒸着を開始した。酸素の導入
流量は約 0.3〜 0.6SCCM、成膜室11内の酸素分圧は約
1.1〜 2×10-5Torr、投入高周波電力は40〜100Wにて行
った。成膜後、各クヌーセン・セルの直上にあるシャッ
ター19、20、21、22、23を閉めて金属成分の
蒸着を止め、活性酸素の供給は持続したまま基板温度を
600℃〜300℃まで下げた。その後、高周波放電を止
め、基板温度を 280℃以下まで下げてから試料を取り出
した。
【0051】このような手法を用いることによって、
(Pb2 Cu)Sr 2 (Ca0.5 Eu0.5 ) Cu2O8-δ超電導薄膜
や、 (Pb0.65Cu0.35) Sr2 (Ca0.5 Dy0.5 ) Cu2 O 7-δ
超電導薄膜を形成することができる。これら 2種類の酸
化物超電導体は、組成や活性酸素の照射条件を変えるこ
とにより作り分けることができる。さらには、シャッタ
を自動制御し、結晶構造に応じて成分を分けて積層する
ことにより、結晶性と超電導特性に優れた薄膜を得るこ
とができる。さらに、単位胞内の CuO2 面の枚数が 3枚
に増えた、 (Pb0.65Cu0.35) Sr2 (Ca0.76Eu0.24) 2 Cu
3 O 9-δ超電導薄膜や、 (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.8 E
u0.2 ) 2 Cu3 O 10- δ超電導薄膜等の、バルクでは得
られない酸化物超電導体を得ることができる。
【0052】また、一具体例として (Pb2 Cu) Sr2 (Ca
0.5 Eu0.5 ) Cu2 O 8-δ超電導薄膜を作製した例につい
て述べる。酸素分圧 2×10-5Torr、投入高周波電力100W
の活性酸素条件にて、シャッタ19、20、21、2
2、23を自動制御し、結晶構造に応じて成分を分けて
積層した。積層順序は、Pb+Sr(40sec)/Pb+Sr+Cu(40sec)
/Pb+Sr(40sec)/Ca+Eu+Cu(40sec)/Ca+Eu(40sec)/Ca+Eu+C
u(40sec)で単位胞分であり、これを30サイクル繰り返し
た。その結果、膜厚47nmの (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu
0.5 ) Cu2 O 8-δ超電導薄膜を得た。この試料をX線デ
ィフラクトメータで調べた結果を図6に示す。c軸長1.
58nmに対応する (00n)ピークのみが観察され、c軸が基
板面に垂直に強く配向していることを確認した。この薄
膜の超電導転移温度Tc は約70K であった。また、この
薄膜の成長過程を反射高速電子線回折(RHEED) によって
モニターした。その結果、 6サイクル目から20サイクル
目までストリークパターンとその反射強度の振動が観測
され、 (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu0.5 ) Cu2 O 8-δが単
位胞毎に層状成長していることが分かった。
【0053】ここで、膜厚35nm以上まで平坦に層状成長
させるために最も重要なことは、成長初期のPb堆積時に
島状に成長させないことである。成長条件が最適値から
ずれると最初のPb酸化物堆積時に、Pbソースのシャッタ
を開けて数秒の内に RHEEDパターンがスポット状になっ
てしまい、その後の層状成長を妨げる。このスポットパ
ターンは、 SrPbO3 ベースの化合物が基板とエピタキシ
ャルな関係を保ったまま島状成長したものと考えられ
る。最もよくない場合には、酸化物超電導体の結晶構造
ができず、 PbO1.57(JCPDSカード26-577) のb軸配向膜
となってしまう。これに対して、最初のPb酸化物堆積時
に、Pbソースのシャッタを開けた後にストリークパター
ンが弱くなり、ほとんど何の回折パターンも見えなくな
った状態から、Pbが 1/2原子層程度付着する時間を経過
させた後、ストリークパターンが復活してくる場合に、
その後も層状成長しやすい。
【0054】このように、層状の初期成長を実現するた
めには、以下のいずれかの成長条件を満足させることが
有効である。第1に、薄膜試料中のSrの組成を化学量論
組成以上にすることである。Srが 2割欠乏すると層状成
長しにくくなり、逆にSrが 1割過剰であると層状成長し
やすくなる。ただし、Srが 3割以上過剰になると、不純
物相として (Pb,Cu)(Sr,Ca,RE)2 CuO5-δが混じる。第
2に、基板上にまずSrO層を 1原子層分を超えて 3原子
層分以下程度バッファ層として堆積し、その後にPb系酸
化物超電導体を堆積する。他のバッファ層としては、 S
r/Cu/(Eu0.5Ca0.5 )/Cu/Sr の順で 1原子層分ずつ(た
だし、Srは 1割程度過剰にして)堆積させた層も有効で
ある。第3に、初期成長時のみ酸素分圧を下げる。例え
ば、最初の 1〜 3単位胞の成長を行っている時だけ、そ
の後の酸素分圧の 1/2程度にする。第4に、初期成長時
のみ基板温度を20℃程度上げる。初期成長時に基板温度
を20℃程度下げると、逆に層状成長しにくくなる。
【0055】上記した初期成長条件のうち、第1と第2
の成長条件を用いて、 (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu0.5 )
Cu2 O 8-δ超電導薄膜を、成膜室11の酸素分圧を約
1.1×10-5Torr、投入高周波電力を100Wとして作製し
た。 (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu0.5 ) Cu2 O 8-δは、後
述するBi2 Sr2 CaCu2 O 8-δよりも低い酸素分圧で合成
できる。膜全体の組成としてSrを約 1割過剰にした。ま
た、バッファ層は、 Sr/Cu/(Ca0.5 Eu0.5 )/Cu/Sr/Pb/C
u/Pb/Sr/Cu/(Ca0.5 Eu0.5 )/Cu/Sr/Pb/Cu/Pb/Srの順で
積層した。その後、図7中の下部に示したシャッターシ
ークエンスで25単位胞分の (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu
0.5 ) Cu2 O 8-δを堆積した。成長過程は、RHEEDによ
ってモニターした。その結果、成長開始から成長終了ま
でストリークパターンが観測され、平坦に層状成長して
いることが確認された。
【0056】図7に、中央のストリークの反射強度の時
間変化を示す。成長終了時まで単位胞毎に反射強度が振
動し、c軸長1.58nmの単位胞を成長単位として層状成長
していることが分かる。特に、Ca-Eu-Cu-Oのペロブスカ
イト部分の成長終了時に反射強度が最大となり、平坦面
が形成される。[PbO-Cu-PbO]ブロック層の成長を開始す
ると、反射強度が弱まる。この試料のX線回折パターン
を図8に示す。図6よりも回折強度が強く、シャープな
ピークが得られており、よく配向し結晶性のよい酸化物
超電導体が得られていることが分かる。ところで、 RHE
EDで成長過程を観察していると、反射強度のみならず回
折パターンも周期的に変化する場合もある。例えば Pb-
Sr-O堆積中にスポット状のパターンがストリークに重畳
するが、後にストリークのみになる等である。
【0057】また比較のために、Bi2 Sr2 CaCu2 O 8-δ
超電導薄膜をシャッターコントロールにより、結晶構造
に応じて成分を分けて積層して成長させながら RHEED観
察を行った。酸素分圧は約 2×10-5Torr、投入高周波電
力は100Wにて成膜した。 (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 E
u0.5 ) Cu2 O 8-δとは異なり、この系では [Bi2 O 2 ]
2+ブロック層堆積中の中点で反射強度が最大となる。
すなわち、 BiOから BiOの1/2単位胞が成長単位であ
る。Bi2 Sr2 CaCu2 O 8-δに比べて、 (Pb2 Cu) Sr2(Ca
0.5 Eu0.5 ) Cu2 O 8-δの方がストリークパターンとそ
の反射強度の周期的変動が明瞭に観察され、層状成長し
やすいことが判明した。従って、本発明の超電導素子に
は [Bi2 O 2 ] 2+ブロック層よりも、[PbO-Cu-PbO]1+
ロック層の方が好適である。この原因は以下のように考
えられる。
【0058】すなわち、基板温度(約 800℃)程度の高
温では、PbおよびPb酸化物の蒸気圧が高いために、Pbが
基板に付着しても再蒸発が激しい。そこで、 (Pb2 Cu)
Sr2(Ca0.5 Eu0.5 ) Cu2 O 8-δを作製する場合のクヌー
セン・セルからのPbの蒸発量は、Bi2 Sr2 CaCu2 O 8-δ
を作製する場合のBiの蒸発量に比べて約10〜20倍に設定
する必要があり、Pb過剰の雰囲気で結晶が成長してい
る。膜成長表面では、PbまたはPb酸化物が頻繁に吸着と
再蒸発を繰り返していると考えられるが、ひとたび結晶
の入るべきサイトにPbが入れば再蒸発しにくくなる。つ
まり、結晶構造の形成に必要なPbだけが膜中に取り込ま
れ、それ以外の吸着鉛は再蒸発していくことから、重い
元素 (PbやBi)のマイグレーションや拡散を待たずに結
晶が形成される。その結果、平坦に層状成長しやすいと
考えられる。
【0059】(Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu0.5 ) Cu2 O
8-δ超電導薄膜を他の積層方法で作製した例について述
べる。酸素分圧は 2×10-5Torr、投入高周波電力は100W
にて成膜した。シャッターコントロールにより Sr/Pb/C
u/Pb/Sr/Cu/(Ca0.5 Eu0.5 )/Cuの順で 1元素毎に30単位
胞分積層して作製した。成膜後、基板温度が 600℃に下
がった時点で活性酸素の基板への供給を中止した。この
活性酸素の供給を中止した温度は、Bi2 Sr2 CaCu2 O
8-δ超電導体を得る温度より高い。 1元素毎に積層して
も平坦に層状成長した超電導薄膜が得られた。ただし、
Pbだけを基板に供給した場合は、最初の例のように、Sr
やCuと同時に供給したPb+Sr/Pb+Sr+Cu/Pb+Srの積層の場
合に比べて、Pbの基板への付着率が約 1/3に減少する。
作製した膜の組成を化学分析した結果、Pb0.56Sr1.47Ca
0.55Eu0.45Cu2.83 Oy であった。この試料の超電導転移
温度を調べるために、電気抵抗率の温度依存性を測定し
た。その結果を図9に示す。温度を下げていくと約 70K
から抵抗が減少し初め、約9Kで抵抗が零となった。Pbが
欠乏しているにも拘らず超電導になることを確認した。
また、単位胞内の CuO2 面の枚数が 3枚に増えた、 (Pb
2 Cu) Sr2 (Ca0.8 Eu0.2 ) 2 Cu3 O 10- δ超電導体
を、シャッタを自動制御することにより、単位胞分とし
てPb+Sr/Pb+Sr+Cu/Pb+Sr/Ca+Eu+Ca/Ca+Eu/Ca+Eu+Ca/Ca+
Eu/Ca+Eu+Ca の積層を25サイクル繰り返して作製した。
この試料をX線ディフラクトメータで調べた結果、c軸
長 1.9nm〜 2.0nmに対応する (00n)ピークが観察され
た。
【0060】次に、前述した成膜装置を用いて、中間層
として (Pb2 Cu) Sr2 (Ce1-y Euym+1 Cu2 O
8+2m- δを堆積した例について説明する。なお、分子線
エピタキシー法を用いる場合には、螢石型ブロック内の
RE2元素として、高温での蒸気圧が高いEu、Sm、Dy等を
用いることが望ましい。
【0061】まず、Pb、Cu、Sr、Euをクヌーセン・セル
から蒸発させると共に、 Ce(DPM)3有機金属ガスを供給
した。また同時に、上述した例と同条件で活性酸素を基
板に照射した。 Ce(DPM)3 は加熱された基板上で分解
し、基板にはCeが堆積する。なお、従来のバルクにおい
ては、 m≧3 の化合物を単一相で合成することはできな
かった(A.Tokiwa et al.,Physica C, Vol.181, pp.311
〜319(1991) 等参照) 。これに対して、本発明において
は、シャッタ19、20、21、22、23、24を自
動制御し、結晶構造に応じて成分を分けて積層すること
によって、 mが 2から 100までのものを単一相として合
成することを可能としている。さらに、下部超電導層上
にエピタキシャルに層状成長させることを可能としてい
る。
【0062】まず予備実験として、中間層として用いる
化合物層のみを30単位胞分積層する実験を繰り返すこと
によって、単一相が得られ、かつ層状成長し易い成膜条
件(基板温度、活性酸素照射条件等)を把握した。 6重
螢石型ブロックを含んだ、(Pb2 Cu) Sr2 (Ce1-y Euy )
7 Cu2 O 20- δを成長させた場合の積層順序は、Pb+Sr
(40sec)/Pb+Sr+Cu(40sec)/Pb+Sr(40sec)/Cu(40sec)/Ce+
Eu(18sec)/Ce(300sec)/Ce+Eu(18sec)/Cu(40sec) で単位
胞分であり、これを30サイクル繰り返した。ここで、中
間層に含まれる CuO2 面を電気的に活性な状態とするた
め、酸素欠損δ=0を仮定して y=0.2と設定し、Euは CuO
2 面に隣接したA1サイトを占有するようにした。また、
CuO2 面に隣接したA1サイトの平均イオン半径R(A1) は
0.1037nmである。 RHEEDによって成長過程をモニターし
た結果、図7の場合と同様に、単位胞毎に層状成長する
ことを確認した。また、多重螢石型ブロック [(Ce,Eu)O
2 ] m+1 の堆積中にもストリークパターンが観察され、
層状に平坦に成長していることを確認した。これは、単
位胞の中を局所的にみた場合に、 CeO2 の格子定数(a=
0.5409nm)と銅系層状酸化物との格子ミスマッチが1%以
下であるためと考えられる。
【0063】また、(Ce,RE2)と活性酸素を別々に交互に
供給することにより、ストリークパターンがより明瞭に
なり、層状成長し易くなる。このような場合には、例え
ば活性酸素用シャッタ29を閉めた状態で、Eu用クヌー
セン・セル上のシャッタ22とCeガスソース用シャッタ
24を、 1原子層堆積に相当する時間(約60秒)だけ開
け、これを閉めた後に活性酸素用シャッタ29を例えば
10〜60秒開けるという動作を繰り返えせばよい。
【0064】上述した中間層としての層状銅系酸化物層
上に、上部超電導層として銅系酸化物超電導体膜を、前
述した条件と同様な条件で成長させることによって、層
状にエピタキシャル成長させることができた。これらに
よって、格子マッチングに優れ、層状にエピタキシャル
成長させた 3層の積層構造が得られる。
【0065】なお、上述した実施例においては、本発明
の一実施例による 3層積層型ジョセフソン接合の作製に
分子線エピタキシー法を用いた例について説明したが、
他の成膜方法例えばスパッタリング法、クラスターイオ
ンビーム法、CVD法等であっても、結晶構造に応じて
成分を分けて積層すれば、同様に本発明の超電導素子を
作製することが可能である。
【0066】次に、前述した成膜方法および成膜条件を
用いて、本発明の一実施例による 3層積層型ジョセフソ
ン接合を作製した具体例について述べる。
【0067】実施例1 基板1として SrTiO3 単結晶の (100)面を用い、まず下
部超電導層2として、(Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu0.5 ) C
u2 O 8-δ超電導薄膜を50単位胞分(79nm)堆積した。基
板温度を高温に保持したまま、引き続き中間層3とし
て、 (Pb2 Cu) Sr2 (Ce1-y Euy ) m+1 Cu2 O 8+2m- δ
(m=7) を 1ユニット分だけ堆積した。この場合の絶縁層
として働く多重螢石型ブロックの厚さは、 CuO2 面から
CuO2 面までの距離で測ると約 2.2nmとなる。中間層3
を堆積する際には、上述した予備実験で把握した、単一
相が得られ、かつ層状成長し易い成膜条件(基板温度、
活性酸素照射条件、積層順序等)を用いた。さらに、引
き続き上部超電導層4として、 (Pb2 Cu)Sr2 (Ca0.5
Eu0.5 ) Cu2 O 8-δ超電導薄膜を50単位胞分(79nm)堆積
した。薄膜の堆積は全て、 RHEEDによって層状に成長し
ていることを確認しながら行った。この後、上記積層膜
をメタルマスクとイオンミリングによりパターニング
し、下部超電導層2と上部超電導層4から電極を取り出
した。このようにして得たジョセフソン接合の電流−電
圧特性を温度 40Kで測定した。その結果を図10に示
す。図10から明らかなように、明瞭なジョセフソン効
果が観測された。実施例2 基板1として SrTiO3 単結晶の (100)面を用い、まず下
部超電導層2として、(Pb0.65Cu0.35) Sr2 (Ca0.5 Dy
0.5 ) Cu2 O 7-δ超電導薄膜(Tc =80K) を成長させ
た。その上に中間層3として、 6重螢石型ブロックを含
む (Pb0.65Cu0.35)Sr2 (Eu,Ce)7 Cu2 O z を 1ユニッ
ト分成長させた。さらに、その上に上部超電導層4とし
て、 (Pb0.65Cu0.35) Sr2 (Ca0.76Dy0.242 Cu3 O
9-δ超電導薄膜(Tc =90K)を形成した。なお、この積層
構造を結晶構造の観点から表したものが図4である。こ
の積層膜をメタルマスクとイオンミリングによりパター
ニングし、下部超電導層2と上部超電導層4から電極を
取り出した。このようにして得たジョセフソン接合の電
流−電圧特性を測定した結果、明瞭なジョセフソン効果
が観測された。
【0068】実施例3 基板1として SrTiO3 単結晶の (100)面を用い、まず下
部超電導層2として、Bi2 Sr2 Ca2 Cu3 O 10- δ超電導
体を成長させた。その上に中間層3として、 8重螢石型
ブロックを含むBi2 Sr2 (Sm,Ce)9 Cu2 O z を 1ユニッ
ト分成長させた。さらに、その上に上部超電導層4とし
て、Bi2 Sr2 CaCu2 O 8-δ超電導薄膜を形成した。この
積層膜をメタルマスクとイオンミリングによりパターニ
ングし、下部超電導層2と上部超電導層4から電極を取
り出し、ジョセフソン接合の電流−電圧特性を測定した
ところ、ジョセフソン効果が観測された。
【0069】上述した各実施例においては、本発明の超
電導素子をS/I/Sトンネル型接合素子に適用した例
について説明したが、本発明の超電導素子は超電導3端
子素子に適用することもできる。例えば、S/I/S/
I/S型の超電導3端子素子は、S/I/S接合を二つ
積み重ねたものである。一方のS/I/S接合を電圧発
生状態にして電流を流し、トンネルした準粒子が真ん中
のS層に溜まることにより、他方のS/I/S接合の電
流−電圧特性が変化して3端子素子として動作する。こ
こでは、二つの接合のI層の厚さを変えて、それぞれの
接合に最適な電流−電圧特性を持つようにする必要があ
る。本発明の薄膜を 3層積層したS/I/Sトンネル型
ジョセフソン接合を、二つ積み重ねることにより、この
ような3端子素子が実現できる。また、二つの接合の多
重螢石型ブロックの厚さを変えることにより、二つの接
合で互いに異なった特性を持ち、かつそれぞれの接合に
最適な電流−電圧特性を持つ超電導素子を作製すること
ができる。
【0070】特に、本発明においては、例えば図11に
示すように、 2単位胞分の多重螢石型ブロックを含む中
間層(中間層物質Aと中間層物質B)を積層することに
より、真ん中のS層が非常に薄い3端子素子(S/I1
/S/I2 /S)が実現できる。また、それぞれの絶縁
層の厚さ(I1 層とI2 層の厚さ)が異なるものを容易
に作製することができる。そして、真ん中のS層を非常
に薄くすることができるため、そこに溜まる準粒子密度
が増大し、動作効率が高くなる。この他、真ん中のS層
が非常に薄いことにより、最上端のS層から最下端のS
層までトンネルする準粒子電流や超電導電流をも素子動
作に利用することが可能となる。例えば、ギャップトン
ネルトランジスタと呼ばれる3端子素子においては、最
上端超電導電極から最下端超電導電極にトンネルする電
流を、真ん中に挟んだS層(ベース)の電位を変化させ
ることにより、トンネル確率を変化させるものである。
この素子においては、真ん中のS層が非常に薄いことが
利点となる。
【0071】また、本発明の薄膜を 3層積層したS/I
/Sトンネル型ジョセフソン接合の上(または下)に半
導体層を積層することにより、超電導ベーストランジス
タを実現することができる。この場合のS/I/S接合
は、半導体層に注入するための準粒子を発生させる役割
を持つ。さらに、本発明の薄膜を 3層積層したS/I/
Sトンネル型ジョセフソン接合の上(または下)に、S
/N/S接合を積層することにより、S/I/S/N/
S構造の準粒子注入型3端子素子を実現することができ
る。この場合のS/I/S接合は、S/N/S接合に注
入するための準粒子を発生させる役割を持つ。
【0072】次に、本発明の超電導素子を直流トランス
フォーマーに適用した例について説明する。
【0073】図12に示すように、基板として SrTiO3
単結晶の (100)面を用い、まず下部超電導層41とし
て、 (Pb2 Cu) Sr2 (Ca0.5 Eu0.5 ) Cu2 O 8-δ超電導
体を50ユニット分(79nm)堆積した。引き続き中間層42
として、 (Pb2 Cu) Sr2 (Ce1-y Euy m+1 Cu2 O
8+2m- δ(m= 70)を 1ユニット分堆積した。この場合の
絶縁層として働く多重螢石型ブロックの厚さは、 CuO2
面から CuO2 面までの距離で測ると約19.5nmとなる。さ
らに引き続き、上部超電導層43として、 (Pb2 Cu)Sr
2 (Ca0.5 Eu0.5 ) Cu2 O 8-δ超電導体を50ユニット分
(79nm)堆積した。下部超電導層41と上部超電導層43
から電極を取り出して、電流−電圧特性を測定した。そ
の結果、ジョセフソン効果は観測されなかった。すなわ
ち、上部超電導層43から下部超電導層41に向けてク
ーパー対のトンネル現象が起きず、超電導電流が流れな
かった。
【0074】次に、上記積層膜試料を、上部超電導層4
3や下部超電導層41の抵抗が零になる温度よりも約5K
低い温度に保持し、膜面に垂直に0.003Tの磁場をかけ
た。この試料に、図12に示したように、下部超電導層
41に電流Iを流し、下部超電導層41の電圧V0 と上
部超電導層43の電圧V1 を測定した。下部超電導層4
1には、フラックスクリープによる電圧V0 が発生し
た。上部超電導層43には電流を流していないにも拘ら
ず、電圧V1 がV0 と同じオーダーで発生した。すなわ
ち、直流のトランスフォーマーとして働くことが確認さ
れた。下部超電導層41を貫いたボルテックスが電流I
からローレンツカを受けて動くのに従って、上部超電導
層43を貫いたボルテックスが動き、その結果、上部超
電導層43に電圧が発生したと考えられる。
【0075】このように、銅系酸化物超電導体を上地層
および下地層として用い、かつ CuO2 面に垂直に磁場を
印可した場合には、磁束のピンニング力が弱いために、
効率のよい直流トランスフォーマーが実現できる。な
お、直流トランスフォーマーを実現するには、中間層の
厚さを10nm〜20nm程度とすることが望ましい。この場
合、中間層の層状銅系酸化物層は 1ユニット分ではな
く、 2〜12ユニット程度積層したものを用いてもよい。
【0076】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、構
造および特性的な安定性や銅系酸化物超電導体との格子
マッチングに優れ、層状成長しやすく、かつ絶縁層とし
て機能する多重螢石型ブロックを結晶構造中に含む層状
銅系酸化物を中間層として用いているため、良好なジョ
セフソン特性が得られると共に、その再現性に優れた超
電導素子を提供することが可能となる。特に、絶縁層が
薄くともショート電流等の発生しにくいジョセフソン接
合を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の超電導素子における中間層物質の一
例の結晶構造を模式的に示す図である。
【図2】 S/I/S接合における超電導の秩序パラメ
ータを説明するための図である。
【図3】 本発明の一実施例による超電導素子の要部構
成を模式的に示す断面図である。
【図4】 本発明のー実施例による超電導素子の 3層積
層構造を結晶構造の観点から模式的に示す図である。
【図5】 本発明の実施例で用いた成膜装置の構成を模
式的に示す図である。
【図6】 本発明の実施例で作製した一例の酸化物超電
導体薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図7】 本発明のー実施例で作製した酸化物超電導体
薄膜の成長過程における反射高速電子線回折強度の時間
依存性を示す図である。
【図8】 本発明の他の実施例で作製した酸化物超電導
体薄膜のX線回折パターンを示す図である。
【図9】 本発明の他の実施例で作製した酸化物超電導
体薄膜の電気抵抗率の温度依存性を示す図である。
【図10】 本発明の一実施例による積層型ジョセフソ
ン素子の電流−電圧特性を示す図である。
【図11】 本発明の超電導素子をS/I/S/I/S
接合を有する超電導3端子素子に適用した例を結晶構造
の観点から示す模式図である。
【図12】 本発明の一実施例による直流トランスフォ
ーマーの構成を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1……基板 2……下部超電導層 3……中間層 4……上部超電導層

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 銅系酸化物超電導体からなる下部超電導
    層と、前記下部超電導層上に積層形成され、多重螢石型
    ブロックを結晶構造中に含む層状銅系酸化物からなる中
    間層と、前記中間層上に積層形成され、銅系酸化物超電
    導体からなる上部超電導層とを具備することを特徴とす
    る超電導素子。
  2. 【請求項2】 銅系酸化物超電導体からなる下部超電導
    層と、前記下部超電導層上に積層形成され、 化学式: [B]AE2 (RE11-y RE2y m+1 Cu2 O z (式中、 [B]はブロック層を、AEはアルカリ土類元素
    を、 RE1は価数が 3価よりも高いイオンを形成するラン
    タン族元素およびアクチノイド元素から選ばれる少なく
    とも 1種の元素を、 RE2は価数が 3価のイオンを形成す
    るランタン族元素およびイットリウムから選ばれる少な
    くとも 1種の元素を示し、 mは m≧2 を満足する数、 y
    は 0≦ y< 1を満足する数であり、 zは酸素量を表す)
    で表される、多重螢石型ブロックを結晶構造中に含む層
    状銅系酸化物からなる中間層と、前記中間層上に積層形
    成され、銅系酸化物超電導体からなる上部超電導層とを
    具備することを特徴とする超電導素子。
  3. 【請求項3】 銅系酸化物超電導体から実質的になる下
    部超電導層と、前記下部超電導層上に積層形成され、 化学式: [B]AE2 (RE11-y RE2y m+1 Cu2 O z (式中、 [B]はブロック層を、AEはアルカリ土類元素
    を、 RE1は価数が 3価よりも高いイオンを形成するラン
    タン族元素およびアクチノイド元素から選ばれる少なく
    とも 1種の元素を、 RE2は価数が 3価のイオンを形成す
    るランタン族元素およびイットリウムから選ばれる少な
    くとも 1種の元素を示し、 mは m≧2 を満足する数、 y
    は 0≦ y< 1を満足する数であり、 zは酸素量を表す)
    で表される、多重螢石型ブロックを結晶構造中に含む層
    状銅系酸化物からなり、その絶縁層部分には CuO2 面を
    含まない中間層と、前記中間層上に積層形成され、銅系
    酸化物超電導体からなる上部超電導層とを具備すること
    を特徴とする超電導素子。
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