JPH0633195A - 析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法 - Google Patents

析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法

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JPH0633195A
JPH0633195A JP20980892A JP20980892A JPH0633195A JP H0633195 A JPH0633195 A JP H0633195A JP 20980892 A JP20980892 A JP 20980892A JP 20980892 A JP20980892 A JP 20980892A JP H0633195 A JPH0633195 A JP H0633195A
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武志 宇都宮
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貞雄 廣津
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 高強度を維持しつつ、靭性を向上させた析出
硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼を得る。 【構成】 この析出硬化型マルテンサイト系ステンレス
鋼は、C:0.08重量%以下,Si:0.7〜2.5
重量%,Mn:3.0重量%以下,Ni:6.0〜1
0.0重量%,Cr:10.0〜17.0重量%,C
u:0.5〜2.0重量%,Mo:0.5〜3.0重量
%,Ti:0.15〜0.45重量%,N:0.015
重量%以下及びS:0.003重量%以下を含有する。
溶体化処理した後、35%以上の冷間圧延,980〜1
130℃の温度に5分以下加熱する焼鈍、次いで時効処
理が施される。焼鈍後の平均結晶粒径が25μm以下で
あり、マトリックスに析出した粒径5×10-2μm以上
の析出物が6×106 個/mm2以下に抑えられてい
る。 【効果】 疲労予亀裂を設けた試験片を切欠き引張り試
験したときの最大引っ張り応力で表されるJM 値が14
00N/mm2 となり、強度及び靭性共に高レベルの材
料が得られる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、時効処理後に高強度を
発現し、且つ高い強度領域においても靭性に優れた析出
硬化型マルテンサイト系ステンレス鋼及びその製造方法
に関する。
【0002】
【従来の技術】析出硬化型マルテンサイト系ステンレス
鋼は、時効処理前の硬さが低く、打ち抜き加工性や成形
加工性に優れている。他方、時効処理後を施した後で
は、析出硬化によって高強度を発現する。この特徴を活
用して、各種バネ,スチールベルト等として析出硬化型
マルテンサイト系ステンレス鋼が使用されている。
【0003】本出願人も、この種の析出硬化型マルテン
サイト系ステンレス鋼として、高強度で且つ靭性に優れ
たスチールベルト用材料を特公昭59−49303号と
して紹介した。ここで紹介した析出硬化型マルテンサイ
ト系ステンレス鋼においては、溶体化処理状態や溶接後
の熱影響部に多量のオーステナイト相が残留しないよう
にC,Ti,Mn,Ni,Cr,Cu及びAlの間で成
分調整を図っている。これにより、特に溶接部のマルテ
ンサイト化を促進させ、時効処理による強度向上を図っ
ている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】特公昭59−4930
3号で紹介した析出硬化型マルテンサイト系ステンレス
鋼は、強度の面で要求特性を満足するものの、スチール
ベルト等として過酷な使用雰囲気に曝されると靭性が不
足する場合がある。析出硬化型マルテンサイト系ステン
レス鋼の靭性は、Mo添加によって向上させることがで
きる。しかし、使用分野が多岐にわたるに伴って、従来
よりも更に高い靭性が要求されるようになってきてい
る。このように高い靭性が要求される場合、単にMo添
加だけで要求特性を満足させることができない。
【0005】本発明は、このような問題を解消すべく案
出されたものであり、結晶粒が微細で且つ析出物の少な
い組織とすることにより、高強度化に起因して靭性の低
下を引き起こさない析出硬化型マルテンサイト系ステン
レス鋼を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明の析出硬化型マル
テンサイト系ステンレス鋼は、その目的を達成するた
め、C:0.08重量%以下,Si:0.7〜2.5重
量%,Mn:3.0重量%以下,Ni:6.0〜10.
0重量%,Cr:10.0〜17.0重量%,Cu:
0.5〜2.0重量%,Mo:0.5〜3.0重量%,
Ti:0.15〜0.45重量%,N:0.015重量
%以下及びS:0.003重量%以下を含有し、焼鈍後
に平均結晶粒径が25μm以下であり、マトリックスに
析出した粒径5×10-2μm以上の析出物が6×106
個/mm2 以下に抑えられている組織をもつことを特徴
とする。
【0007】この析出硬化型マルテンサイト系ステンレ
ス鋼は、C:0.08重量%以下,Si:0.7〜2.
5重量%,Mn:3.0重量%以下,Ni:6.0〜1
0.0重量%,Cr:10.0〜17.0重量%,C
u:0.5〜2.0重量%,Mo:0.5〜3.0重量
%,Ti:0.15〜0.45重量%,N:0.015
重量%以下及びS:0.003重量%以下を含有する鋼
を溶体化処理した後、35%以上の冷間圧延を施し、次
いで980〜1130℃の温度に5分以下加熱する焼鈍
を施し、更に時効処理を行うことにより製造される。
【0008】
【作 用】特開昭59−493030号公報で紹介した
マルテンサイト系ステンレス鋼について、更なる靭性の
向上を図るためには焼鈍時の再結晶によって結晶粒を微
細化させると共に、靭性低下の要因であるTiC等の析
出物をマトリックスに再固溶させる必要があると考え
た。この前提の下で、焼鈍後の結晶粒を平均粒径で25
μm以下とし、析出物の分布量を6×106 個/mm2
以下に抑えるとき、高い強度を維持しながら靭性の向上
が図られることが実験的に確認された。
【0009】結晶粒が細かく且つTiC等の析出が抑制
された組織は、特定された成分をもつマルテンサイト系
ステンレス鋼に高い圧延率で冷間圧延を施し、次いで9
80〜1130℃の温度域で焼鈍することによって得ら
れる。また、靭性は、疲労予亀裂を付けた試験片の常温
引張り試験における最大引張り応力で表される指標JM
に基づいて正確に評価することができる。JM 値が14
00/mm2 以上のとき、焼鈍後の結晶粒が平均粒径で
25μm以下であり、析出物の分布量が6×106 個/
mm2 以下に抑えられた組織が得られている。
【0010】以下、本発明の析出硬化型マルテンサイト
系ステンレス鋼に含まれる合金成分及びその含有量につ
いて説明する。 C: 鋼の強度を向上させ、且つ高温で生成するδフェ
ライト相を抑制する上で有効な元素である。しかし、C
含有量が多量になるに従って、焼入れにより生成したマ
ルテンサイト相の硬度が上昇し、冷間加工変形能が低下
する。その結果、成形加工性が不十分になると共に、溶
体化処理後の冷却でマルテンサイト単相組織を得ること
が困難になる。更に、焼鈍状態でTiCの生成を促進さ
せ、靭性を低下させる。したがって、本発明において
は、C含有量の上限を0.08重量%に規定した。
【0011】Si: 固溶強化能が大きく、マトリック
スを強化する作用を呈する。また、Ti及びNiと複合
添加することによって、時効処理時にSi,Ti,Ni
等の元素からなる金属間化合物の微細整合析出が生じ、
鋼の強度を向上させる。このような作用は、Si含有量
が0.7重量%以上で顕著に現れる。しかし、2.5重
量%を超える多量のSiを含有させるとき、δフェライ
ト相の生成が助長され、強度及び靭性が低下する。した
がって、Si含有量は、0.7〜2.5重量%の範囲に
設定した。 Mn: 高温域でδフェライト相が生成することを抑制
する作用を呈する。しかし、多量のMn添加は、溶接部
の靭性低下や溶接作業性低下を引き起こし易い。そこ
で、本発明においては、Mn含有量の上限を3.0重量
%に規定した。
【0012】Ni: 析出硬化に寄与し、δフェライト
相の生成を抑制する。本発明の合金系においては、時効
硬化能を低下させず、高強度で且つ高靭性を維持するた
めに、最低6.0重量%のNi含有が必要である。しか
し、10.0重量%を超える多量のNiを含有させると
き、焼入れ以後の残留オーステナイト相の量が増加し、
必要とする強度が得られない。そこで、Ni含有量は、
6.0〜10.0重量%の範囲に設定した。 Cr: ステンレス鋼としての耐食性を得るため、少な
くとも10.0重量%以上のCrを含有させることが必
要である。しかし、17.0重量%を超える多量のCr
を含有させると、δフェライト相及び残留オーステナイ
ト相が生成し、溶接部の強度を低下させる原因となる。
そこで、Cr含有量は、10.0〜17.0重量%の範
囲に設定した。
【0013】Cu: 本発明の合金系においては、Cu
の析出強化作用を特に重視しなくても高い強度を得るこ
とができる。しかし、亜硫酸ガス系の腐食環境下におけ
る耐食性を確保するためにはCrの含有だけでは不十分
であり、この点でCuの添加が有効である。Cu含有量
が0.5重量%以上になると、耐食性の向上が顕著にな
る。しかし、2.0重量%を超えて多量のCuを含有さ
せるとき、熱間加工性が劣化し、加工された素材表面に
ひび割れ等の欠陥が発生することがある。また、多量の
Cu添加に伴って、高強度化した場合に靭性が低下する
傾向がみられる。そこで、0.5〜2.0重量%の範囲
にCu含有量を設定した。
【0014】Mo: 強度及び靭性を向上させる上で、
有効な合金元素である。有効な硬化能を発現するために
は、0.5重量%以上のMoを含有させることが必要で
ある。しかし、3.0重量%を超えるMoを含有させて
も、Mo含有量の増加に見合った強度及び靭性の向上が
得られない。しかも、多量のMoを含有させると、δフ
ェライト相の生成が助長され、溶接部の強度が低下し易
くなる。そこで、Mo含有量は、0.5〜3.0重量%
の範囲に設定した。 Ti: 析出硬化に寄与する合金元素であり、高強度を
得るために0.15重量%以上のTiを含有させること
が必要である。しかし、0.45重量%を超えて多量の
Tiを含有させると、過度の析出硬化反応によって強度
の向上が図られるものの靭性の低下が生じる。そこで、
0.15〜0.45重量%の範囲にTi含有量を設定し
た。
【0015】N: Tiとの親和力が大きく、析出硬化
元素として働く有効TiをTiNの生成によって消費す
る。また、N含有量の増加に応じTiN介在物が大きく
なり、疲労強度や靭性を低下させる原因となる。したが
って、N含有量は低いほど好ましく、本発明においては
N含有量の上限を0.015重量%に規定した。 S: MnS等の非金属介在物として鋼中に存在し、疲
労強度,靭性,耐食性等に悪影響を与える。この点で、
S含有量は低いほど好ましく、上限を0.003重量%
に規定した。
【0016】本発明で使用される鋼は、以上の化学成分
範囲で溶体化処理後に実質的にマルテンサイト単相組織
が生成するように成分調整される。この鋼の残部は、基
本的にはFeであるが、不可避的に混入する不純物を除
き、脱酸を目的として添加されたAl,脱硫を目的とし
て添加されたCa,希土類金属,熱間加工性を向上させ
るために添加された0.01重量%以下のB等を含有す
ることもできる。Alは、Tiと同様な作用を呈するの
で、Tiの一部を置換して0.45重量%以下の割合で
含有させても良い。本発明で規定された合金元素を含有
するステンレス鋼は、溶体化処理され、冷間圧延が施さ
れた後、焼鈍される。このとき、圧延率35%未満で冷
間圧延を行うと、焼鈍時に一部或いは全体に粗大な結晶
粒が発生する。粗大結晶粒に成長した組織をもつステン
レス鋼に時効処理を施すと、高強度化に伴って靭性が低
下する。
【0017】高強度を維持しながら高い靭性を確保する
ためには、焼鈍時に均一で微細な再結晶粒を生成させる
ことが必要である。焼鈍時に生成する再結晶粒を平均粒
径で25μm以下の細粒にするとき、JM 値で1400
/mm2 以上の高い靭性が得られる。微細な組織を得る
ためには、焼鈍に先立って行われる冷間加工により多数
の加工歪みを導入することが重要である。この点で、圧
延率35%以上の冷間加工を採用した。冷間圧延された
ステンレス鋼は、再結晶及び析出物固溶化のため、98
0〜1130℃の温度域で焼鈍される。1130℃を超
える高温で焼鈍すると、再結晶の成長が促進され、粗大
な再結晶粒が生成し易くなる。逆に980℃未満の焼鈍
温度では、鋼中に存在するTiC等の析出物がマトリッ
クスに十分に固溶せず、靭性低下の原因となる。この点
で、1000〜1100℃の温度域で焼鈍することが好
ましい。また、長時間をかけて焼鈍すると、再結晶粒が
粗大化し易い。そのため、焼鈍時間の上限を5分とし
た。
【0018】焼鈍により、析出していたTiC等の大半
がマトリックスに固溶するものの、完全に析出物を固溶
させようとすると焼鈍温度を高くしたり、焼鈍時間を長
くすることが必要になる。その結果、再結晶粒が粗大化
し、強度低下を引き起こす。本発明者等の研究によると
き、焼鈍後に固溶せずに残留している析出物のうち、粒
径5×10-2μm以上の析出物を6×106 個/mm2
以下の分布割合に抑え、且つ平均粒径で25μm以下の
微細な結晶粒を維持することにより、時効処理後の強度
及び靭性の双方が改善されることが判明した。焼鈍され
たステンレス鋼は、必要に応じ調質圧延によって良好な
形状に成形される。形状特性を改善するためには、3%
以上の圧延率で調質圧延を行うことが好ましい。しか
し、調質圧延の圧延率を余り高くしても形状改善効果は
小さく、却って靭性を低下させることにもなる。したが
って、調質圧延は、圧延率3〜50%で行うことが好ま
しい。
【0019】本発明では、疲労予亀裂を付けた試験片の
切欠き引張り試験における最大応力JM により靭性を評
価している。JM 値は、従来の切欠き引張り試験に比較
して、合金元素,加工熱処理等の諸因子が靭性に与える
影響の詳細な調査を可能にする。このJM 値が1400
N/mm2 以上であると、前述した微細で析出物の少な
い組織が形成されており、強度及び靭性共に優れた材料
が得られる。焼鈍後のステンレス鋼は、適宜の調質圧延
を経て時効処理される。時効処理としては、一般的に析
出硬化型鋼で行われている425〜550℃で10分以
上加熱する熱処理が採用される。時効処理によって、高
強度が発現され、JM 値が1400N/mm2 以上の靭
性に優れた材料が得られる。
【0020】JM 値が1400N/mm2 以上であるこ
とから、引張り強さも少なくとも1400N/mm2
上になっている。たとえば、引張り強さが1650N/
mm2 程度であっても、JM 値が1400N/mm2
上であれば、相当に優れた靭性が得られる。しかし、1
400N/mm2 未満のJM 値では、靭性が急激に低下
する。すなわち、高強度の領域において高い靭性を得る
ためには、1400N/mm2 以上のJM 値が必要であ
る。
【0021】
【実施例】
実施例1:表1に示した成分をもつ各ステンレス鋼につ
いて、100kgの鋼塊から熱間圧延を経て板厚6mm
の熱延板を製造した。熱延板を切削加工した後、圧延率
40%の冷間圧延及び1030℃に180秒加熱する焼
鈍を施し、更に15%の調質圧延により板厚2mmの鋼
帯に成形した。なお、表1におけるJ1〜J5は、本発
明の対象となる鋼である。他方、a〜cは比較鋼であ
り、Mo含有量又はCu含有量が本発明で規定した成分
範囲を外れている。
【表1】
【0022】480℃に1時間加熱する時効処理を15
%調質圧延材に施した後、硬さ,引張り強さ,切欠き引
張り強さ,JM 値等の機械的性質を調べた。切欠き引張
り強さは、ASTM E338−81に準拠して従来と
同様な方法により測定した。JM 値の測定には、図1に
示す試験片1を使用した。試験片1は、長さ160mm
及び幅45mmの矩形状に成形し、それぞれの両端から
28mmの位置に直径16mmの円形孔2,3を穿設し
た。また、試験片1の中央部に直径4mmの中心孔4を
穿設し、中心孔4から幅方向に延びた長さ2.5mm及
び幅0.3mmのノッチ5,6を放電加工により切り込
んだ。そして、疲労試験機で長さ3.5mmの疲労予亀
裂7,8を導入した。この試験片1を切欠き引張り試験
にかけると、亀裂の発生及び進展抵抗が同時に評価され
る従来の切欠き引張り試験と異なり、亀裂の進展抵抗の
みが評価される。また、疲労予亀裂7,8への応力集中
度の方が高いことから、亀裂底における材料の靭性がよ
り厳しく評価される。
【0023】測定結果を、表2に示す。また、引張り強
さTSに対する切欠き引張り強さNTSの比NTS/T
S及びJM 値の比JM /TSを引張り強さTSで整理し
たところ、比率NTS/TS及びJM /TSと引張り強
さTSとの間に図2に示す関係が成立していることが判
った。なお、図2において、○印は比率NTS/TSを
示し、△印は比率JM /TSを示す。また、白抜きが本
発明の対象鋼,黒塗りが比較鋼である。本発明が対象と
する鋼は、表2及び図2に示されているように、強度面
では比較鋼と大差がない。また、従来の切欠き引張り試
験により靭性を評価するとき、本発明の対象鋼は、比較
鋼と同じ靭性レベルにある。しかし、JM 値で靭性を評
価するとき、本発明の対象鋼は、比較鋼よりも優れた靭
性を示し、亀裂に対して強い進展抵抗をもっていること
が判る。なお、鋼J1〜J5は、何れも従来の析出硬化
型鋼と同様な強度レベルにあり、従来のマルテンサイト
鋼の加工と同様な加工方法によって各種の加工を施すこ
とが可能である。
【表2】
【0024】実施例2:表1に示した鋼J1の熱延板を
切削加工し、20〜60%の圧延率で冷間圧延した。次
いで、1030℃に3分加熱する焼鈍を行った後、圧延
率15%の調質圧延により板厚2mmの帯材を製造し
た。480℃に1時間加熱する時効処理を帯材に施し、
時効材の引張り強さ及びJM 値を測定した。測定結果を
焼鈍前の冷間圧延率で整理したところ、引張り強さTS
及びJM 値と冷間圧延率との間に図3に示す関係が成立
していた。図3から明らかなように、引張り強さTS
は、冷間圧延率が大きくなるに従って上昇する傾向を示
すが、それほど大きな変化はない。他方、JM 値は、冷
間圧延率35%を境として大きく変化している。冷間圧
延率が35%未満の試験片について、その組織を観察し
たところ、焼鈍時に結晶粒が大きく成長していることが
判明した。これに対し、冷間圧延率35%以上の試験片
では、結晶粒の成長が抑えられ、平均粒径で25μm以
下の微細な結晶組織をもっていた。このことから、焼鈍
前に35%以上の圧延率で冷間圧延を施すことが、JM
値を1400N/mm2 以上にし、時効処理後の強度及
び靭性を高いレベルにする上で有効であることが判る。
【0025】実施例3:表1の鋼J1に対し、焼鈍温度
を950〜1150℃の範囲で変えながら3分加熱する
焼鈍を行った。その他は実施例1と同様な加工熱処理を
施した480℃時効材について、JM 値を測定した。測
定結果を焼鈍温度で整理したところ、JM 値と焼鈍温度
との間に図4に示す関係が成立していた。図4から明ら
かなように、980℃未満の低い焼鈍温度ではJM 値が
低くなっている。これは、析出物が十分に再固溶してい
ないことに起因するものと推察される。また、1130
℃を超える高い焼鈍温度では、結晶粒の成長が活発に行
われ、JM 値が低下している。これに対し、980〜1
130℃の温度域に焼鈍温度を維持したものでは、14
00N/mm2 を超える高いJM 値が得られている。こ
のことから、強度及び靭性の双方共に優れた材質とする
ためには、980〜1130℃の温度域で焼鈍を行う必
要があることが判る。
【0026】実施例4:表1に示した鋼J1の熱延板に
切削加工,冷間圧延,焼鈍を順次施した後、圧延率15
%の調質圧延により板厚2mmの帯材を製造した。48
0℃に1時間加熱する時効処理を帯材に施し、時効材の
引張り強さ及びJM 値を測定した。このとき、圧延率及
び焼鈍温度を種々変更することによって、焼鈍後の組織
における再結晶粒の平均結晶粒径及び析出物の分布量を
調整した。測定結果を焼鈍後の結晶粒径及び析出物分布
量で整理したところ、引張り強さTS及びJM 値と結晶
粒径及び析出物分布量との間にそれぞれ図5及び図6に
示す関係が成立していた。なお、析出物分布量は、非水
溶媒系電解液を用いて母相を数μm溶解し、母相上に残
存した析出物について、2万倍の視野で検出可能な析出
物の個数をカウントし、単位面積当りの平均個数(個/
mm2)で表した。析出物はTiC,Ti422 等か
らなり、この視野では粒径5×10-2μm以上の析出物
が観察された。
【0027】図5から明らかなように、引張り強さ及び
M 値共に、平均結晶粒径が大きくなるに従って低下す
る傾向を示した。引張り強さの低下度はごく僅かである
が、JM 値は平均結晶粒径が25μmを超えると大きく
低下した。また、引張り強さは、図6に示すように析出
物の分布量が増加するに伴って若干低下する傾向を示し
た。一方、JM 値は、析出物分布量6×106 個/mm
2 を境として急激に低下した。このことから、引張り強
さを高レベルに維持した状態でJM 値が1400N/m
2 以上の優れた靭性を付与するためには、焼鈍後の平
均結晶粒径を25μm以下にし且つ析出物分布量を6×
106 個/mm2 以下に抑えることが有効であることが
判る。すなわち、同じ成分をもつステンレス鋼であって
も、冷間圧延によって導入される応力歪みの量及び焼鈍
により解放される歪みや再結晶の成長度を調整すること
により、高強度で且つ靭性に優れた析出硬化型マルテン
サイト系ステンレス鋼が得られる。
【0028】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明において
は、C,Si,Mn,Ni,Cr,Cu,Mo,Ti等
の成分調整を図ると共に、焼鈍後の組織における結晶粒
の平均粒径及び析出物分布量を調整している。これによ
り、高強度を維持しつつ、従来よりも更に靭性を向上さ
せた材料が得られる。しかも、従来と同等の製造コスト
で、性質改善を行うことができる。得られた析出硬化型
マルテンサイト系ステンレス鋼は、従来鋼と同等の強度
や耐食性が要求され、更に高い靭性が要求される各種バ
ネ,スチールベルト,その他の構造材料として使用され
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 靭性を評価する指標JM 値の測定に使用した
試験片
【図2】 引張り強さTSに対する切欠き引張り強さN
TSの比率NTS/TS及びJM 値の比率JM /TSと
引張り強さTSとの関係を表したグラフ
【図3】 冷間圧延率が引張り強さTS及びJM 値に与
える影響を表したグラフ
【図4】 焼鈍温度がJM 値に与える影響を表したグラ
【図5】 焼鈍後の平均結晶粒径が引張り強さ及びJM
値に与える影響を表したグラフ
【図6】 焼鈍後の析出物分布量が引張り強さ及びJM
値に与える影響を表したグラフ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 大橋 誠一 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新製 鋼株式会社鉄鋼研究所内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.08重量%以下,Si:0.7
    〜2.5重量%,Mn:3.0重量%以下,Ni:6.
    0〜10.0重量%,Cr:10.0〜17.0重量
    %,Cu:0.5〜2.0重量%,Mo:0.5〜3.
    0重量%,Ti:0.15〜0.45重量%,N:0.
    015重量%以下及びS:0.003重量%以下を含有
    し、焼鈍後に平均結晶粒径が25μm以下であり、マト
    リックスに析出した粒径5×10-2μm以上の析出物が
    6×106 個/mm2 以下に抑えられている組織をもつ
    ことを特徴とする強度及び靭性に優れた析出硬化型マル
    テンサイト系ステンレス鋼。
  2. 【請求項2】 C:0.08重量%以下,Si:0.7
    〜2.5重量%,Mn:3.0重量%以下,Ni:6.
    0〜10.0重量%,Cr:10.0〜17.0重量
    %,Cu:0.5〜2.0重量%,Mo:0.5〜3.
    0重量%,Ti:0.15〜0.45重量%,N:0.
    015重量%以下及びS:0.003重量%以下を含有
    する鋼を溶体化処理した後、35%以上の冷間圧延を施
    し、次いで980〜1130℃の温度に5分以下加熱す
    る焼鈍を施し、更に時効処理を行うことを特徴とする強
    度及び靭性に優れた析出硬化型マルテンサイト系ステン
    レス鋼の製造方法。
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