JPH06264188A - 繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼 - Google Patents

繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼

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JPH06264188A
JPH06264188A JP5055976A JP5597693A JPH06264188A JP H06264188 A JPH06264188 A JP H06264188A JP 5055976 A JP5055976 A JP 5055976A JP 5597693 A JP5597693 A JP 5597693A JP H06264188 A JPH06264188 A JP H06264188A
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聡 安本
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俊幸 星野
Akihiro Matsuzaki
明博 松崎
Kenichi Amano
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 過酷な使用条件下での繰り返し応力負荷によ
るミクロ組織変化が少ない軸受鋼を提供する。 【構成】 繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化遅延
を促進するために、B50高負荷転動疲労寿命改善成分と
して、とくにMo:0.5 超〜2.0 wt%およびSi:0.5 超〜
2.5 wt%, Ni:1.0 超〜3.0 wt%,N:0.012 超〜0.0
50 wt%, V:0.05〜1.0 wt%,Nb:0.05〜1.0 wt%,
W:0.05〜1.0 wt%, Zr:0.02〜0.5 wt%, Ta:0.
02〜0.5 wt%, Hf:0.02〜0.5 wt%, Co:0.05〜1.5
wt%のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を
含む軸受鋼。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ころ軸受あるいは玉軸
受といった転がり軸受の要素部材として用いられる軸受
鋼に関し、とくにCrを含まず多量のMoを添加することに
よって、繰り返し応力負荷によって転動接触面下に発生
するミクロ組織変化(劣化)に対する遅延特性を改善し
てなる軸受鋼について提案する。
【0002】
【従来の技術】自動車ならびに産業機械等で用いられる
ころがり軸受としては、従来、高炭素クロム軸受鋼(JI
S:SUJ 2)が最も多く使用されている。一般に軸受鋼と
いうのは、転動疲労寿命の長いことが重要な性質の1つ
であるが、この転動疲労寿命に与える要因としては、鋼
中の硬質な非金属介在物の影響が大きいと考えられてい
た。そのため、最近の研究の主流は、鋼中酸素量の低減
を通じて非金属介在物の量, 大きさを制御することによ
って軸受寿命を向上させる方策がとられてきた。
【0003】例えば、軸受の転動疲労寿命の一層の向上
を目指して開発されたものとしては、特開平1−306542
号公報や特開平3−126839号公報などの提案があり、こ
れらは、鋼中の酸化物系非金属介在物の組成, 形状ある
いは分布状態をコントロールする技術である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、非金属
介在物の少ない軸受鋼を製造するには、高価な溶製設備
の設置あるいは従来設備の大幅な改良が必要であり、経
済的な負担が大きいという問題があった。また、本発明
者らが行った最近の研究成果を整理したところによれ
ば、転動寿命を決めている要因としては、従来から一般
に論じられてきた現象;すなわち、熱処理時に生じる
“脱炭層”(低C濃度領域)や上述した“非金属介在
物”の存在以外の要因もあるということが判った。とい
うのは、従来技術の下で単に脱炭層や非金属介在物を減
少させても、軸受の転動疲労寿命、特に、高負荷あるい
は高温といった過酷な条件下での軸受寿命の向上には大
きな効果が得られないことを多く経験したからである。
このことから、特有の軸受寿命を律する他の要因の存在
を確信したのである。
【0005】そこで、本発明者らは、転がり軸受の剥離
の発生原因について調査を行った。その結果、軸受の内
・外輪と転動体と転動体との回転接触時に発生する繰り
返し剪断応力により、転動接触面の下層部分(表層部)
に、図1(a) に示すような、帯状の白色生成物と棒状の
析出物からなるミクロ組織変化層が発生し、これが転動
回数を増すにつれて次第に成長し、終いにはこのミクロ
組織変化部から、図1(b) に示すような疲労剥離が生じ
て軸受寿命につながることがわかった。さらに軸受使用
環境の苛酷化すなわち, 高面圧化(小型化), 使用温度
の上昇は、これらミクロ組織変化が発生するまでの転動
回数を短縮し、著しい軸受寿命の低下につながるという
ことをつきとめた。すなわち、軸受寿命というのは、従
来技術のような、脱炭層や非金属介在物の制御だけでは
不十分であり、例えば、単に非金属介在物を低減させた
だけでは、上述した転動接触面下で発生するミクロ組織
変化が発生するまでの時間を遅延させることはできな
い。その結果として、軸受寿命の今まで以上の向上は図
り得ないということを知見したのである。
【0006】そこで、本発明の目的は、過酷な使用条件
の下での転動疲労寿命特性を向上させるために、高負荷
での軸受使用中に生成が予想されるミクロ組織変化を遅
延させることができ、ひいては軸受寿命の著しい向上を
もたらす軸受鋼を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】さて、本発明者らは、上
述した知見に基づき軸受寿命として新たに“ミクロ組織
変化遅延特性”というものに着目し、それの向上を図る
には、当然そのための新たな合金設計(成分組成)が必
要であり、このことの実現なくして軸受のより一層の寿
命向上は図れないという認識に立って、さらに種々の実
験と検討とを行った。その結果、意外にもMoを多量に添
加すれば、繰り返し応力負荷による転動接触面下に生成
する上述したミクロ組織変化を著しく遅延でき、ひいて
は軸受寿命を著しく向上させることができることを見い
出し、本発明軸受鋼を開発した。
【0008】すなわち、本発明軸受鋼は、以下の如き要
旨構成を有するものである。 (1) C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0 wt%,
O:0.0020wt%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的
不純物からなる、繰り返し応力負荷によるミクロ組織変
化の遅延特性に優れた軸受鋼(第1発明)。 (2) C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0 wt%,
O:0.0020wt%以下を含有し、さらに、Si:0.05〜0.5
wt%, Mn:0.05〜2.0 wt%,Ni:0.05〜1.0 wt%, C
u:0.05〜1.0 wt%,B:0.0005〜0.01wt%, Al:0.00
5 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%のうちから選
ばれるいずれか1種または2種以上を含み、残部がFeお
よび不可避的不純物からなる、繰り返し応力負荷による
ミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼(第2発
明)。 (3) C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0 wt%,
O:0.0020wt%以下を含有し、さらにSi:0.5 超〜2.5
wt%, Ni:1.0 超〜3.0 wt%,N:0.012 超〜0.050 w
t%, V:0.05〜1.0 wt%, Nb:0.05〜1.0 wt%,
W:0.05〜1.0 wt%,Zr:0.02〜0.5 wt%, Ta:0.02
〜0.5 wt%,Hf:0.02〜0.5 wt%及びCo:0.05〜1.5 wt
%のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含
み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる、繰り返し
応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受
鋼(第3発明)。 (4) C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0 wt%,
O:0.0020wt%以下を含有し、さらにSi:0.05〜0.5 wt
%, Mn:0.05〜2.0 wt%,Ni:0.05〜1.0 wt%, C
u:0.05〜1.0 wt%,B:0.0005〜0.01wt%, Al:0.00
5 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%のうちから選
ばれるいずれか1種または2種以上を含み、さらにま
た、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Ni:1.0 超〜3.0 wt%,
N:0.012 超〜0.050 wt%, V:0.05〜1.0 wt%,N
b:0.05〜1.0 wt%, W:0.05〜1.0 wt%,Zr:0.02〜
0.5 wt%, Ta:0.02〜0.5 wt%,Hf:0.02〜0.5 wt%
及びCo:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか1
種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純
物からなる、繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化の
遅延特性に優れた軸受鋼(第4発明)。
【0009】
【作用】以下に、上記合金設計になる本発明軸受鋼に想
到した背景につき、本発明者らが行った実験結果に基づ
いて説明する。まず、実験に当たり、 SUJ 2 ( C:1.02wt%, Si:0.25wt%, Mn:0.45wt
%, Cr:1.35wt%, Ni:0.0040wt%, O:0.0012wt%)
と、Moを添加する一方でクロムレスとした2種の材料 (C:1.00wt%, , Si:0.20wt%, Mn:0.42wt%,
Mo:0.80wt%, O:7ppm , N:32ppm ) (C:1.03wt%, , Si:0.21wt%, Mn:0.41wt%,
Mo:1.52wt%, O:8ppm , N:35ppm ) についての供試鋼材を作製した。ついで、これらの供試
材を焼ならし、球状化焼ならし、焼入れ焼もどしの各処
理を施したのち、それぞれの供試材から12mmφ×22mmの
円筒型の試験片を作製した。
【0010】次に、これらの試験片をラジアルタイプ型
の転動疲労寿命試験機を用い、ヘルツ最大接触応力:60
kgf/mm2 , 46500 cpm の負荷条件の下で転動疲労寿命の
試験を行った。試験結果は、ワイブル分布確立紙上にプ
ロットし, 材料強度の上昇による転動疲労寿命の向上を
示す数値と見られるB10(10%累積破損確率) と高負荷
転動時の繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化発生を
遅延させることによる転動疲労寿命の向上を示す数値と
見られるB50(50%累積破損確率)とを求めた。
【0011】その結果、表1に示すように、高Mo添加材
については、前記B10値についての改善はそれほど大き
くないが、B50値については著しく高い数値を示し、軸
受平均寿命はSUJ 2 に比べてB10値で約1.5 倍、B50
で約7倍もの改善を示すことが認められた。とくに、Mo
の多量添加は高負荷転動中に生成するミクロ組織変化の
遅延特性に対して顕著な効果を示し、その分破損(寿
命)を遅延させることが期待できる。
【0012】
【表1】
【0013】図2は、上記実験結果をまとめたものであ
って、非金属介在物に起因する軸受寿命とミクロ組織変
化に起因する寿命の変化との関係を示す模式図である。
この図に明らかなように、従来のように累積破損確率10
%のB10値で示される軸受寿命(以下、これを「B10
動疲労寿命」という)によれば、Moを多量に添加しても
その効果は期待した程には顕れない。しかし、これをB
50値でみると、Moの多量添加の効果は極めて顕著なもの
となり、苛酷な条件下, すなわちミクロ組織変化生成環
境の下での軸受寿命を意識する限り、かかるB50に優れ
ているという評価は不可欠のものであることが判った。
【0014】そこで、本発明においては、繰り返し応力
負荷によるミクロ組織変化遅延特性の改善を図るという
観点から、以下に説明するような成分組成の範囲を決定
した。
【0015】C: 0.5〜1.5 wt% Cは、基地に固溶してマルテンサイトの強化に有効に作
用する元素であり、焼入れ焼もどし後の強度確保と、そ
れによる転動疲労寿命を向上させるために含有させる。
その含有量が0.5 wt%未満ではこうした効果が得られな
い。一方、 1.5wt%超では非酸化性, 鍛造性が低下する
ので、 0.5〜1.5 wt%の範囲に限定した。
【0016】Si:0.05〜0.5 wt%, 0.5 超〜2.5 wt%以
下 Siは、鋼の溶製時の脱酸剤として用いられる他、基地に
固溶して焼もどし軟化抵抗の増大により焼入れ, 焼もど
し後の強度を高めて転動疲労寿命を向上させる元素とし
て有効である。こうした目的の下に添加されるSiの含有
量は、0.05〜0.5 wt%の範囲とする。さらに、このSi
は、0.5 %wt%超を添加すると、繰り返し応力負荷の下
でのミクロ組織変化の遅延をもたらして転動疲労寿命を
向上させる効果がある。しかし、その含有量が 2.5wt%
を超えると、その効果が飽和する一方で加工性や靱性を
低下させるので、ミクロ組織変化遅延特性のより一層の
向上のためには、 0.5超〜2.5 wt%を添加することが有
効である。
【0017】Mn:0.05〜2.0 wt% Mnは、鋼の溶製時に脱酸剤として用いられ、鋼の低酸素
化に寄与する元素である。また、鋼の焼入れ性を向上さ
せることにより基地マルテンサイトの靱性, 硬度を向上
させる他、B10転動疲労寿命の向上に対して有効に作用
する。しかし、この添加量が0.05wt%に満たないと効果
が顕れないし、2.0 wt%を超えると被削性, 鍛造性が著
しく低下するので、0.05〜2.0 wt%の範囲内に限定し
た。
【0018】O:0.0020wt%以下 Oは、硬質な非金属介在物を形成するので、たとえ他の
成分の制御によって繰り返し応力負荷によるミクロ組織
変化の遅延が得られたとしても、転動疲労寿命の低下を
招くことがあるから、可能なかぎり低いことが望まし
い。しかし、0.0020wt%以下の含有量であれば許容でき
る。
【0019】Mo:0.5 超〜2.0 wt% このMoは、本発明において最も重要な役割を担っている
元素であり、とくにこのMoの添加量が 0.5wt%を超える
多量の添加により、高負荷転動に伴う繰り返し応力の負
荷に因って発生するミクロ組織変化を遅らせる効果が著
しくなり、このミクロ組織変化を原因とする転動疲労寿
命を向上させる。しかし、この添加量が2.0 wt%を超え
ると、切削性, 鍛造性を低下させ、コストアップの因と
もなるため、 0.5超〜2.0 wt%の範囲内で添加すること
が必要である。
【0020】Ni:0.05〜1.0 wt%, 1.0 超〜3.0 wt% Niは、焼入れ性の増大により焼入れ焼もどし後の強度を
高め靱性を向上させるとともに、転動疲労寿命を向上さ
せるので、この目的のためには0.05〜1.0 wt%の範囲内
で添加する。さらに、このNiは、 1.0wt%を超えて添加
した場合には、転動時のミクロ組織変化を遅らせ、それ
により転動疲労寿命を向上させる。しかし、この場合で
も3wt%を超えて添加すると、多量の残留γを析出して
強度の低下ならびに寸法安性を害することになる他、コ
ストアップになるため、この作用効果を期待する場合に
は、1.0 超〜3.0 wt%の範囲内で添加することが必要で
ある。
【0021】Cu:0.05〜1.0 wt% Cuは、焼入れの増大により焼入れ焼もどし後の強度を高
め、転動疲労寿命を向上させるために添加する。この目
的のために添加するときは、0.05〜1.0 wt%の範囲で十
分である。
【0022】B:0.0005〜0.01wt% Bは、焼入れ性の増大により焼入れ焼もどし後の強度を
高め、転動疲労寿命を向上させるので、0.0005wt%以上
を添加する。しかしながら、0.01wt%を超えて添加する
と加工性を劣化させるので、0.0005〜0.01wt%の範囲に
限定する。
【0023】Al:0.05〜0.07wt% Alは、鋼の溶製時の脱酸剤として用いられると同時に、
鋼中Nと結合して結晶粒を微細化して鋼の靱性向上に寄
与する。また、焼入れ焼もどし後の強度を高めることに
よる転動疲労寿命の向上にも有効に作用する。このよう
な作用のためにAlは、0.05〜0.07wt%添加することが有
効である。
【0024】N:0.0005〜0.012 wt%, 0.012 超〜0.05
wt% Nは、窒化物形成元素と結合して結晶粒を微細化すると
共に、基地に固溶して焼入れ焼もどし後の強度を高め、
転動疲労寿命を向上させる。この目的のためには0.0005
〜0.012 wt%の範囲内で添加する。また、このNは、0.
012 wt%を超えて添加した場合には、繰り返し応力によ
るミクロ組織変化を遅らせることにより転動疲労寿命を
向上させる。ただし、その量が0.05wt%を超えると、加
工性が低下するため、この目的のためには0.012 超〜0.
05wt%を添加する。
【0025】P≦0.025 wt% Pは、鋼の靱性ならびに転動疲労寿命を低下させること
から可能なかぎり低いことが望ましく、その許容上限は
0.025 wt%である。
【0026】S≦0.025 wt% Sは、Mnと結合してMnSを形成し、被削性を向上させ
る。しかし、多量に含有させると転動疲労寿命を低下さ
せることから、0.025 wt%を上限としなければならな
い。
【0027】以上、繰り返し応力の負荷によって発生す
るミクロ組織変化を遅延させることによる転動疲労寿命
を改善すると共に、強度の上昇を通じて転動疲労寿命を
改善するための主要成分(MoおよびSi, Mn, Ni, Cu,
B, Al, N)およびC,P,Sの限定理由について説明
したが、本発明ではさらに、V, Nb, W, Zr, Ta, Hfお
よびCoのうちから選ばれるいずれか1種または2種以上
を添加することにより、高負荷時の転動疲労寿命を改善
させるようにしてもよい。
【0028】上記各元素の好適添加範囲と添加の目的、
上限値、下限値限定の理由につき、表2にまとめて示
す。
【表2】
【0029】なお、本発明においては、被削性を改善す
るために、さらに、S,Se, Te, REM, Pb, Bi, Ca, Ti,
Mg,P,Sn, As等を添加しても、上述した本発明の目的
である繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化による遅
延特性を阻害することはなく、容易に被削性を改善する
ことができるので、必要に応じて添加してもよい。
【0030】
【実施例】表3, 表4, 表5に示す成分組成の鋼を常法
にて溶製し、得られた鋼材につき1240℃で30h の拡散焼
鈍の後に65mmφの棒鋼に圧延した。次いで、焼ならし−
球状化焼なまし−焼入れ−焼もどしの順で熱処理を行
い、ラッピング仕上げにより12mmφ×22mmの円筒型転動
疲労寿命試験片を作製した。そして、上記各試験片につ
いて、軸受平均寿命であるB50転動疲労寿命の試験を行
った。このB50転動疲労寿命試験は、ラジアルタイプの
転動疲労寿命試験機を用いて、ヘルツ最大接触応力:60
0 kgf/mm2 , 繰り返し応力数約46500 cpm の条件で行っ
たものである。試験結果は、ワイブル分布に従うものと
して確率紙上にまとめ、鋼材No.1 (従来鋼である SUJ
2) の平均寿命 (累積破損確率:50%における、剥離発
生までの総負荷回数) を1として、その他の鋼種のもの
を対比して評価した。その評価結果を、表3, 表4, 表
5にそれぞれ示した。
【0031】
【表3】
【0032】
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】表3, 表4, 表5に示す結果から明らかな
ように、鋼中C量が本発明範囲外である鋼材No.2、鋼中
Mo量が本発明範囲外である鋼材No.3,5ならびに鋼中O量
が本発明範囲外である鋼材No.4の平均寿命は、いずれも
従来鋼(鋼材No.1)に比べて低い。これに対し、本発明
鋼である鋼材No.6〜 46 の平均寿命は、従来鋼(鋼材N
o.1)に比較して3.1 〜15.4倍も優れている。すなわ
ち、軸受鋼へのMoの添加がミクロ組織変化を著しく遅延
し、その結果転動疲労寿命の向上に有効に作用したこと
が窺える。
【0035】なかでも、強度上昇による寿命改善成分と
ミクロ組織変化遅延による寿命改善成分とを併せて添加
してなる鋼No.34 〜46の場合には、上記平均寿命(B50
転動疲労寿命)は、低くとも7.6 倍もの寿命比を示し
た。
【0036】
【発明の効果】以上説明したとおり、本発明によれば、
基本的には≧ 0.5wt%超の高Mo含有軸受鋼とすることに
より、繰り返し応力負荷に伴うミクロ組織変化の遅延を
もたらすことによる転動疲労寿命の向上を達成して、高
寿命の軸受用の鋼を提供することができる。従って、従
来技術の下では不可欠とされていた、より一層の鋼中酸
素量の低減あるいは鋼中に存在する酸化物系非金属介在
物の組成, 形状, ならびにその分布状態をコントロール
するために必要となる製鋼設備の改良あるいは建設が不
必要である。また、本発明にかかる軸受鋼の開発によっ
て、転がり軸受の小型化ならびに軸受使用温度のより以
上の上昇が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】繰り返し応力負荷の下に、発生するミクロ組織
変化の様子を示す金属組織の顕微鏡写真。
【図2】介在物に起因する軸受寿命とミクロ組織変化に
起因する軸受寿命とに及ぼすMoの影響を示す説明図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 松崎 明博 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究本部内 (72)発明者 天野 虔一 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究本部内

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0
    wt%,O:0.0020wt%以下を含有し、残部がFe および
    不可避的不純物からなる、繰り返し応力負荷によるミク
    ロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼。
  2. 【請求項2】C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0
    wt%,O:0.0020wt%以下を含有し、さらに、Si:0.05
    〜0.5 wt%, Mn:0.05〜2.0 wt%,Ni:0.05〜1.0 wt
    %, Cu:0.05〜1.0 wt%,B:0.0005〜0.01wt%, A
    l:0.005 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%のう
    ちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、残
    部がFeおよび不可避的不純物からなる、繰り返し応力負
    荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れた軸受鋼。
  3. 【請求項3】C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0
    wt%,O:0.0020wt%以下を含有し、さらにSi:0.5 超
    〜2.5 wt%, Ni:1.0 超〜3.0 wt%,N:0.012 超〜
    0.050 wt%, V:0.05〜1.0 wt%,Nb:0.05〜1.0 wt
    %, W:0.05〜1.0 wt%,Zr:0.02〜0.5 wt%, T
    a:0.02〜0.5 wt%,Hf:0.02〜0.5 wt%及びCo:0.05〜
    1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか1種または2種以
    上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる、繰
    り返し応力負荷によるミクロ組織変化の遅延特性に優れ
    た軸受鋼。
  4. 【請求項4】C: 0.5〜1.5 wt%, Mo:0.5 超〜2.0
    wt%,O:0.0020wt%以下を含有し、さらにSi:0.05〜
    0.5 wt%, Mn:0.05〜2.0 wt%,Ni:0.05〜1.0 wt%,
    Cu:0.05〜1.0 wt%,B:0.0005〜0.01wt%, Al:
    0.005 〜0.07wt%及びN:0.0005〜0.012 wt%のうちか
    ら選ばれるいずれか1種または2種以上を含み、さらに
    また、Si:0.5 超〜2.5 wt%, Ni:1.0 超〜3.0 wt
    %,N:0.012 超〜0.050 wt%, V:0.05〜1.0 wt%,N
    b:0.05〜1.0 wt%, W:0.05〜1.0 wt%, Zr:0.02
    〜0.5 wt%, Ta:0.02〜0.5 wt%, Hf:0.02〜0.5 wt
    %及びCo:0.05〜1.5 wt%のうちから選ばれるいずれか
    1種または2種以上を含み、残部がFeおよび不可避的不
    純物からなる、繰り返し応力負荷によるミクロ組織変化
    の遅延特性に優れた軸受鋼。
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