JPH06253843A - Dna配列の増幅法 - Google Patents

Dna配列の増幅法

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JPH06253843A
JPH06253843A JP4300693A JP4300693A JPH06253843A JP H06253843 A JPH06253843 A JP H06253843A JP 4300693 A JP4300693 A JP 4300693A JP 4300693 A JP4300693 A JP 4300693A JP H06253843 A JPH06253843 A JP H06253843A
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耀光 劉
Efu Uitsuteia Robaato
エフ.ウィッティア ロバート
Norihiro Mitsukawa
典宏 光川
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CHIKYU KANKYO SANGYO GIJUTSU
CHIKYU KANKYO SANGYO GIJUTSU KENKYU KIKO
MITSUI GIYOUSAI SHOKUBUTSU BIO
MITSUI GIYOUSAI SHOKUBUTSU BIO KENKYUSHO KK
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CHIKYU KANKYO SANGYO GIJUTSU
CHIKYU KANKYO SANGYO GIJUTSU KENKYU KIKO
MITSUI GIYOUSAI SHOKUBUTSU BIO
MITSUI GIYOUSAI SHOKUBUTSU BIO KENKYUSHO KK
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【目的】 既知配列に隣接する未知配列を、複雑な操作
を必要とせずに効率よく増幅する。 【構成】 DNA配列と、このDNA配列の一部の配列
を有するオリゴヌクレオチドプライマー(特異的プライ
マー)と、特異的プライマーよりもTmが低く任意の配
列を有するオリゴヌクレオチドプライマー(非特異的プ
ライマー)とを、DNAポリメラーゼとデオキシリボヌ
クレオチドを含むDNAポリメラーゼ反応液中で混合
し、DNA配列の変性と、このDNA配列とDNAプラ
イマーとのアニーリングと、DNAポリメラーゼ反応か
らなる増幅サイクルを繰り返す増幅方法において、下記
工程を行う。 (A)非特異的プライマーがDNA配列に非特異的にハ
イブリダイズする温度でアニーリングを行う1回の増幅
サイクル(B)特異的プライマーがDNA配列に特異的
にハイブリダイズする温度でアニーリングを行う複数回
の増幅サイクル(C)非特異的プライマーがその配列と
相補的なDNA配列に特異的にハイブリダイズする温度
でアニーリングを行う複数回の増幅サイクル。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、DNA配列の増幅法に
関し、詳しくは配列既知のDNA配列に隣接するDNA
配列を、簡便、迅速に増幅する方法を提供するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】従来、同一配列を有するDNAを大量に
複製し分子数を増大させる方法、すなわちDNAを増幅
する方法として、いわゆるPCR(Polymerase chain r
eaction)法が広く行われている。この方法は、図1に
示したように、 二本鎖DNAの一本鎖DNAへの熱変性、 増幅を目的とする部位の両端の配列に相当するオリゴ
ヌクレオチド(プライマー1、プライマー2)と、前記
熱変性DNAとのアニーリング、 前記オリゴヌクレオチドをプライマーとしたポリメラ
ーゼ反応、 からなる増幅サイクルを繰り返すことにより、前記DN
A配列を指数関数的に増幅する方法である。
【0003】この方法により、極めて微量のDNAの増
幅が可能となったが、増幅させたい領域の両末端の配列
が知られていないとプライマーを合成することができな
いため、既知配列にしか適用できないものであった。
【0004】そこで、配列既知のDNA配列に隣接する
配列未知のDNA領域を増幅する方法として、上記PC
R法を基本とするいくつかの改良法が報告されている。
一つは、既知配列の両側または片側に隣接する未知配列
を、制限酵素で切断してから環状化し、既知配列部分に
特異的で互いに外向きの2種の特異的プライマーを用
い、通常のPCR法と同様の増幅サイクルを繰り返して
行うという方法であり、逆PCR(inverse PCR)法
と呼ばれている。
【0005】また、"bubble"PCR法と呼ばれる方法
は、既知配列の片側に隣接する未知配列を制限酵素で切
断し、これに2本鎖オリゴヌクレオチドを連結させ、既
知配列に特異的なプライマーとオリゴヌクレオチドに特
異的なプライマーを用い、増幅サイクルを繰り返すとい
う方法である。なお、この方法では、未知配列に連結さ
せるオリゴヌクレオチドは、その中央部に相補的ではな
い配列を含み、既知配列に特異的なプライマーから伸長
して合成された配列にのみプライマーが結合するよう
に、配列が設計されている しかしながら、これらの方法は、適当な制限酵素の選択
やDNAの環状化、あるいはオリゴヌクレオチドの連結
に労力と時間を要する。また、DNA増幅反応の産物を
用いて塩基配列を決定するためには、増幅反応液中に含
まれるプライマーやヌクレオチドを除去するための操作
が必要とされる。
【0006】このような問題を解決するために、DNA
の環状化やオリゴヌクレオチドの連結をせずに、既知配
列に連結する未知配列を、単一のプライマーを用いて増
幅させる方法が開示されている(Parks, C.L., Shenk,
T. et al., Nucleic Acids Res., 19, No.25 (199
1)))。この方法は、既知配列に相当する配列を有する
プライマーを用い、このプライマーが未知配列に非特異
的にハイブリダイズするような温和な条件下での増幅サ
イクル、及び前記プライマーが特異的にハイブリダイズ
するようなストリンジェントな条件下での増幅サイクル
を各々繰り返すことにより前記既知配列及び未知配列を
増幅するという方法である。
【0007】また、特異的プライマーに加えて任意の配
列を有する非特異的プライマーを用い、異なる温度でア
ニーリングして増幅サイクルを行うことにより未知配列
を増幅する方法が提案されている(Parker, J.D. et a
l., Nucleic Acids Res., 19,No.11 (1991)))。すな
わち、図2に示すように、特異的プライマーを増幅させ
たいDNA配列にハイブリダイズする温度で、かつ、非
特異的プライマーがミスマッチを含みながらハイブリダ
イズする温度でアニーリングを行い、増幅サイクルを繰
り返して既知配列近傍のDNAを増幅することができ
る。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記観点か
らなされたものであり、既知配列に隣接する配列を、D
NAの環状化やオリゴヌクレオチドの連結といった複雑
な操作を必要とせずに、しかも、効率よく増幅させるこ
とができる方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を
解決するために鋭意研究を行った結果、オリゴヌクレオ
チドプライマーが非特異的に標的DNA配列にハイブリ
ダイズさせる増幅サイクルを1回のみ行い、しかる後に
プライマーが特異的にハイブリダイズする温度でアニー
リングを行う増幅サイクルを繰り返すと、効率よくDN
A配列を増幅できることを見出し、本発明に至った。
【0010】すなわち本発明は、DNA配列とこのDN
A配列の一部の配列を有するオリゴヌクレオチドプライ
マーとを、DNAポリメラーゼとデオキシリボヌクレオ
チドを含むDNAポリメラーゼ反応液中で混合し、前記
DNA配列の変性と、このDNA配列とDNAプライマ
ーとのアニーリングと、DNAポリメラーゼ反応からな
る増幅サイクルを繰り返すことにより前記DNA配列を
増幅する方法において、(A)オリゴヌクレオチドプラ
イマーがDNA配列の任意の位置に非特異的にハイブリ
ダイズする温度で前記アニーリングを行う1回の増幅サ
イクルと、(B)オリゴヌクレオチドプライマーがその
配列と相補的なDNA配列に特異的にハイブリダイズす
る温度で前記アニーリングを行う複数の増幅サイクル、
とを含むことを特徴とするDNA配列の増幅法である。
【0011】また本発明は、DNA配列と、このDNA
配列の一部の配列を有するオリゴヌクレオチドプライマ
ー(特異的プライマー)と、特異的プライマーよりもT
mが低く任意の配列を有するオリゴヌクレオチドプライ
マー(非特異的プライマー)とを、DNAポリメラーゼ
とデオキシリボヌクレオチドを含むDNAポリメラーゼ
反応液中で混合し、前記DNA配列の変性と、このDN
A配列とDNAプライマーとのアニーリングと、DNA
ポリメラーゼ反応からなる増幅サイクルを繰り返すこと
により前記DNA配列を増幅する方法において、(A)
非特異的プライマーがDNA配列に非特異的にハイブリ
ダイズする温度でアニーリングを行う1回の増幅サイク
ル、(B)特異的プライマーがDNA配列に特異的にハ
イブリダイズする温度でアニーリングを行う複数回の増
幅サイクル、(C)非特異的プライマーがその配列と相
補的なDNA配列に特異的にハイブリダイズする温度で
アニーリングを行う複数回の増幅サイクル、を含むこと
を特徴とするDNA配列の増幅法。
【0012】尚、本発明においては、「ハイブリダイ
ズ」とは、一本鎖DNA配列とオリゴヌクレオチドプラ
イマーとが水素結合により部分的二本鎖を形成すること
をいい、「アニール」あるいは「アニーリング」とは、
一本鎖DNA配列とオリゴヌクレオチドプライマーとが
ハイブリダイズするような条件に置くことをいう。
【0013】また、特記しない限り、「特異的」とはプ
ライマーとDNA配列とがミスマッチを含まずにハイブ
リダイズすることをいい、「非特異的」とは、これらが
ミスマッチを含んでハイブリダイズすることをいう。以
下、本発明を詳細に説明する。
【0014】<1>本発明のDNA配列の増幅法に使用
するプライマー 特異的プライマーは、DNA配列の一部の配列に特異的
な、すなわちDNA配列の一部と同一の配列を有するオ
リゴヌクレオチドプライマーであり、その配列は未知配
列に隣接する既知配列から選択する。
【0015】一方、非特異的プライマーは、任意の配列
を有するオリゴヌクレオチドであり、既知配列に隣接す
る未知配列上で、特異的プライマーと同一の配列を有す
るストランドでない方のストランドのうち相補的な部位
(以下、「標的部位」という)にハイブリダイズし、D
NAポリメラーゼ(以下、単に「ポリメラーゼ」とい
う)反応のプライマーとしての役割を果たすためのもの
である。
【0016】非特異的プライマーは、特異的プライマー
よりもTm(melting temperature:相補的な配列との
二本鎖形成及び解離が平衡となる温度)が低くなるよう
に設計することが好ましく、この温度差としては5℃以
上、好ましくは10〜15℃が挙げられる。尚、Tm値
は、下記計算式により予想できる。
【0017】
【数1】Tm = 69.3℃ + 0.41(%GC比)
℃−650/L℃ (但し、Lはプライマーの塩基数を表す)
【0018】尚、上式により得られるTm値は、塩を含
まない水溶液中での値であり、実際は塩濃度やpH等に
よって左右される。通常のポリメラーゼ反応に用いられ
る緩衝液中では、上記で得られる値よりも高い場合が多
い。
【0019】ところで、本発明は、非特異的プライマー
から始まるポリメラーゼ反応により合成させるストラン
ドに特異的プライマーをハイブリダイズさせ、他方のス
トランドを合成することを基本とする。したがって非特
異的プライマーは、上記ポリメラーゼ反応により特異的
プライマーがハイブリダイズする部位に到達できる位置
に結合しなければならない。
【0020】一般に、ポリメラーゼ反応により合成され
るDNA鎖長は、限定された条件下で約10kbであ
り、一般的な条件下では5kb前後が限界であることか
ら、この観点からは非特異的プライマーは鎖長が短い方
が好ましい。例えば、未知配列が均一な配列である場
合、非特異的プライマーは、既知配列から5000〜1
0000塩基以内の未知配列にハイブリダイズできる必
要がある。すなわち、ヌクレオチドは4種類であるか
ら、5〜10kb以内の位置に非特異的配列がハイブリ
ダイズできるためには、ミスマッチ部分を除いて、6
(=log44094)ないしは7(=log416)塩基の非特異的
プライマーを使用しなければならない。
【0021】しかし、6〜7塩基程度の鎖長の非特異的
プライマーを用いると、DNA配列上の多数の目的とし
ない部位にハイブリダイズし、非特異的プライマーが反
対側のストランドに結合して起こるポリメラーゼ反応に
よるる副産物を生じ、それらの反応が目的とする配列を
増幅する反応と拮抗するために目的産物の増幅が阻害さ
れてしまう恐れがある。
【0022】上記の条件を満足するためには、配列の異
なるオリゴヌクレオチド混合物、又は複数種のヌクレド
チドと水素結合を形成できるイノシン残基を含むオリゴ
ヌクレオチドを非特異的プライマーとして用いて水素結
合を形成できる塩基数を増加させるとともに、長鎖のプ
ライマーを用いてTm値よりもかなり低温で多数のミス
マッチを起こさせて既知配列近傍にハイブリダイズさ
せ、以後の反応においては、プライマーのTm近傍でハ
イブリダイズさせることによって、配列特異性を向上さ
せることが好ましい。この場合、特異的プライマーの鎖
長としては20〜25が好ましい。一方、非特異的プラ
イマーの鎖長は14〜17が好ましい。いずれのプライ
マーも、プライマー内で2次構造を形成せず、またプラ
イマーどうしが互いにハイブリダイズしない配列である
ことが好ましい。
【0023】<2>本発明のDNA配列の増幅法 本発明は、非特異的プライマー(特異的プライマーのみ
を使用する場合は特異的プライマー)が、DNA配列の
任意の位置に非特異的にハイブリダイズする温度でアニ
ーリングを行う増幅サイクルを1回行うことを特徴と
し、従来知られている異なる温度で増幅サイクルを行う
種々の方法に適用することができる。
【0024】尚、以下の記載において、非特異的プライ
マー(特異的プライマーのみを使用する場合は特異的プ
ライマー)がDNA配列に非特異的にハイブリダイズす
る温度(「低温」)でアニーリングを行う増幅サイクル
を「低温サイクル」、特異的プライマーのみ(特異的プ
ライマーのみを使用する場合を含む)がDNA配列に特
異的にハイブリダイズする温度(「高温」)でアニーリ
ングを行う増幅サイクルを「高温サイクル」、非特異的
プライマーがその配列と相補的なDNA配列に特異的に
ハイブリダイズする温度(「中温」)でアニーリングを
行う増幅サイクルを「中温サイクル」という。
【0025】以下に、上記各サイクルを、図3に基づい
て説明する。図3において、DNA配列のうち、特異的
プライマーと同一の配列を有するストランド(図中、細
線)を「+鎖」、他方のストランド(図中、「太線」)
を「−鎖」と呼ぶ。
【0026】(1)増幅サイクル 高温サイクル 高温サイクルは、特異的プライマーのみを選択的に−鎖
上の対応する部位にハイブリダイズさせ、ポリメラーゼ
反応により未知配列を増幅させるための反応である。こ
のサイクルが、最も特異性の高い反応であり、副産物の
生成量が少ない。特異的プライマーはより低い温度でも
ハイブリダイズできるので、DNA配列を増幅させるた
めには高温サイクルは必ずしも必要ではないが、増幅産
物の特異性を高めるためには行うことが好ましい。ま
た、複数種の特異的プライマーを使用することにより、
増幅産物の収率を高めることができる。
【0027】低温サイクル 低温サイクルは、非特異的プライマーを+鎖上の非特異
的な位置にハイブリダイズさせ、−鎖を合成させるため
の反応である。非特異的プライマーは、複数の部位にハ
イブリダイズし、さらに−鎖にもハイブリダイズするの
で、このサイクルでは副産物が多く生成する。低温サイ
クルを行った後に高温サイクルを行い、さらに再び低温
サイクルを行うと、非特異的増幅が起こり(図3中、
*、**印)、その結果、+鎖、−鎖共に非特異的プラ
イマーにより増幅されるものが生じる(図中、**印:
以下、「両方向非特異的増幅産物」という)。このよう
な増幅産物は、DNA配列のうち目的としない多数の部
位で生成されるので、目的産物の収率が悪くなる。
【0028】中温サイクル 低温サイクルを行った後に高温サイクルを行うと、+鎖
のうち非特異的プライマーに対応する部位は、非特異的
プライマーに完全に相補的な配列に置換される。非特異
的プライマーは、低温では非特異的にDNA配列にハイ
ブリダイズすることができるが、中温ではハイブリダイ
ズできない。しかし、中温であっても上記の置換された
配列は相補的であるのでハイブリダイズすることができ
るので、−鎖の合成が可能となる。これに対し、低温サ
イクルで生成する*印や**印に相当する産物は中温サ
イクルでは理論上生成しないので、両方向非特異的増幅
産物の生成を抑制することが可能となる。
【0029】尚、低温サイクル及び中温サイクルでも特
異的プライマーはDNA配列にハイブリダイズできるの
で、特異的プライマーから始まるポリメラーゼ反応も起
こるが、この反応では非特異的増幅は起こらないので、
図中では二回目の低温サイクルと中温サイクルでは省略
してある。ただし、特異的プライマーの配列に近似する
配列が、染色体DNA上の既知配列以外の部位に存在す
る場合には、非特異的増幅が起こり得る。この増幅産物
も、特異的プライマーに近似するDNA配列を増幅する
という意味では目的産物である。
【0030】(2)本発明の態様 本発明の方法は、上記の各サイクルを組み合せることに
より行われ、基本的には1回の低温サイクルと、これに
続く高温サイクル及び中温サイクルの繰り返しからな
る。上述したように、高温サイクルは必ずしも必要では
ないが、中温においても非特異的プライマーがミスマッ
チを含みながらDNA配列にハイブリダイズするものが
ある程度存在するために、両方向非特異的増幅産物の生
成を抑制するためには、高温サイクルを含むことが好ま
しい。また、低温サイクルを行う前に、高温サイクルを
複数回行うと、さらに増幅産物の特異性を高めることが
できる。
【0031】各サイクルの最適な組み合せ及び回数は、
使用するプライマーの種類や増幅を目的とするDNA配
列のGC含量等により異なるが、いくつかの態様を以下
に例示する。
【0032】(i)特異的プライマーのみを使用する場合 特異的プライマー自体も低温では非特異的にDNA配列
にハイブリダイズすることができるので、非特異的プラ
イマーを用いなくても増幅できる場合がある。
【0033】特異的プライマーのみを使用する場合は、
低温サイクルを1回行い、その後に、高温サイクルを繰
り返すことが好ましく、低温サイクルの前に高温サイク
ルを複数回行うことがさらに好ましい。
【0034】(ii)特異的プライマー及び非特異的プライ
マーを用いる場合 この場合も、上記と同様に、低温サイクルを1回行い、
その後に、高温サイクルと中温サイクルを繰り返すこと
が好ましく、低温サイクルの前に高温サイクルを複数回
行うことがさらに好ましい。
【0035】また、各増幅サイクルを行った後に、使用
した特異的プライマーがDNA配列にハイブリダイズす
る部位よりも下流(3’側)の部位に相当する他の特異
的プライマーを使用して、再び増幅を行うと、増幅産物
の特異性をより向上させることができる。尚、高温サイ
クルと中温サイクルを繰り返す代わりに、両プライマー
のTmの中間温度で中温サイクルを複数回行うことも可
能である。
【0036】(3)本発明に用いる反応条件等 本発明の方法に用いる各反応は、従来のPCR法あるい
はその改良法と特に変わるところはなく、通常用いられ
ている条件を採用すればよい。
【0037】例えば、DNA配列の変性は、二本鎖DN
Aを一本鎖に変性することができる温度に置けばよく、
例えば、90〜94℃、30秒〜2分が挙げられる。
尚、DNAポリメラーゼがこの段階やアニーリングの段
階で失活しないように、Taq DNA polymerase等の耐熱性
ポリメラーゼを使用することが好ましい。
【0038】アニーリングは、変性を行った後に、高温
サイクルでは特異的プライマーの予想Tm〜+10℃の
範囲に、中温サイクルでは非特異的プライマーの予想T
m程度に、低温サイクルでは非特異的プライマーの予想
Tmよりも20℃前後低い温度に、各々1〜5分置くこ
とにより行われるのが通常である。又、アニーリングが
起こり易いように、特に低温サイクルでは変性の後に経
時的に上記温度まで下げるとよい。尚、理論的にはアニ
ーリングはTmよりも低い温度で行われるが、前述した
ように予想Tmは塩を含まない水溶液中での値であるの
で、ポリメラーゼ反応液中では特異的プライマーは、上
記温度以上でアニーリングすることができる。
【0039】ポリメラーゼ反応は、反応に使用するDN
A合成酵素の反応至適温度で行い、例えばTaq DNA poly
meraseを使用するときは70〜72℃の範囲で2〜4分
程度反応させる。
【0040】また、反応温度の設定、調整は、市販のP
CR用の装置を用いて行うことができる。尚、各ステッ
プの保持時間は酵素の反応速度、耐熱性、使用する機器
の加熱、冷却速度等により適宜設定する。例えば、酵素
の反応速度が高い場合は反応時間を短く、酵素の耐熱性
が高い場合には変性時間を長くすることができる。
【0041】さらに、上記の方法でDNA配列を増幅し
た後に、使用した特異的プライマーの標的部位よりも下
流の部位にハイブリダイズする他の特異的プライマーを
用意し、高温サイクルと中温サイクルを繰り返すことに
より、目的産物をより選択的に増幅することができる。
【0042】<4>本発明のDNA配列の増幅法の応用 (1)塩基配列決定への応用 上記のDNA配列の増幅法を、ジデオキシ法による塩基
配列決定に応用することにより、未標識のプライマーを
用いて塩基配列を決定することができる。
【0043】ジデオキシ法は、塩基配列を決定しようと
するDNAと、この塩基配列の一部に対し相補的な配列
を有するオリゴヌクレオチドプライマーと、デオキシヌ
クレオチドと、ジデオキシヌクレオチドと、DNAポリ
メラーゼとを緩衝液中で共存させてポリメラーゼ反応を
行い、DNA合成産物を電気泳動により解析することに
よって塩基配列を決定する方法である。デオキシヌクレ
オチドに対して少量加えられたジデオキシヌクレオチド
がポリメラーゼ反応で取り込まれると、DNA合成が停
止するので、DNA合成産物を電気泳動により解析する
ことにより、塩基配列を決定することができる。この方
法では、合成産物の検出は、通常RI標識プライマーを
用いたオートラジオグラフィー、あるいは蛍光標識プラ
イマーを用いた光学的方法により行われる。
【0044】本発明を応用して塩基配列を決定するに
は、例えば、塩基配列を決定しようとするDNA配列を
特異的プライマー及び非特異的プライマーを用いて増幅
した後、増幅反応液に適量のジデオキシヌクレオチドを
加え、高温サイクルを繰り返せばよい。こうすることに
より、ポリメラーゼ反応による合成産物を、サイクルの
回数に比例して増幅させながら、ジデオキシヌクレオチ
ドの取り込みを行うことができる。
【0045】従来のPCR法による増幅産物をジデオキ
シ法で塩基配列決定する場合には、塩基配列決定用のプ
ライマーを添加する前に、PCR法に用いたプライマー
を反応液から除く必要があるが、この方法によると、特
異的プライマーと非特異的プライマーのTmが異なるた
め、これらのプライマーを除くことなく、特異的プライ
マーを塩基配列決定用のプライマーとしてそのまま使用
することができる。この点では、種々の改良法でも同様
であるが、これらは副産物の含量が高いので、直接配列
決定に用いることはできない。これに対し、本発明の方
法では、目的産物の純度が高いので、増幅反応液をその
まま塩基配列決定に使用することができる。
【0046】(2)その他 本発明は、増幅産物をプローブとした染色体歩行や、形
質転換生物の同一性の鑑定、レトロウイルスの挿入部位
の決定等にも応用することができる。
【0047】本発明の方法は、既知配列に隣接する未知
配列を増幅することができるので、cDNAの配列を基
に、プロモーターやイントロン等の配列を得ることがで
きる。また、タンパクのアミノ酸配列から推定される配
列を有する特異的プライマーを使用して、そのタンパク
をコードする遺伝子を増幅することができる。
【0048】
【作用】以下に、本発明の態様として特異的プライマー
と非特異的プライマーを用い、 複数回(x回)の高温サイクルからなる第1工程と、 1回の低温サイクルからなる第2工程と、 複数回(y回)の高温サイクルと複数回(z回)の中
温サイクルからなる複合サイクルの反復(n回)である
第3工程、 からなる方法を例として、作用を図4に基づいて具体的
に説明する。尚、理解を容易にするために、出発物質で
あるDNA配列を1コピーとして説明する。ここで1コ
ピーとは、ゲノムDNA等のように、出発物質が極めて
長いDNAが分断されたものである場合、それぞれが1
分子づつであることをいう。したがって、通常は、増幅
を目的とする既知配列に隣接する未知配列以外に、多数
のDNA配列が混在している。
【0049】<1>第1工程 第1工程は、高温サイクルをx回行うことにより行われ
る。最初の反応サイクルでは、変性により2本の一本鎖
DNAが得られ、そのうち一方が鋳型となって、その既
知配列部分に特異的プライマーが完全にマッチした状態
でハイブリダイズし、鋳型の配列と相補的なDNAが合
成される。もう一方の一本鎖DNAは、ここでは鋳型と
ならない。
【0050】2回目の反応サイクルでは、最初の反応サ
イクルで得られた部分二本鎖DNAが変性により再び一
本鎖DNAとなり、以下最初の反応サイクルと同様にし
て、特異的プライマーがプライマーとなってDNAが合
成される。これがx回繰り返されると、特異的プライマ
ーが末端となる一本鎖DNAがx個生成する。上記以外
の部分では、特異的プライマーは、高温サイクルでは標
的部位以外には結合できず、非特異的反応は起こらない
ので副産物は生成しない。
【0051】この段階では、目的産物は、(1+x)個
となる。
【0052】<2>第二工程 第二工程は、1回の低温サイクルからなり、DNA配列
の任意の部位に非特異的プライマーがミスマッチを含ん
でハイブリダイズし、DNA合成が行われる。ここで新
たに生成するDNAの末端は非特異的プライマー自体で
あり、鋳型の相当する部分の配列が非特異的プライマー
の配列に置換されたことになる。以降の中温・高温サイ
クルで特異的プライマーからDNAが合成されると非特
異的プライマーに相補的な配列が生成し、この部位に非
特異的プライマーが特異的にハイブリダイズできるの
で、低温でのアニーリングを必要とせず、副産物の生成
を抑制することができる。
【0053】一方、染色体DNA中には、非特異的プラ
イマーの配列と完全に一致又は近似する配列が確率的に
存在するので、この配列の近傍に非特異的プライマーが
ハイブリダイズすると、両方向非特異的増幅産物が生成
し、その産物が増幅する。また、目的以外の部位にも非
特異的プライマーがハイブリダイズする結果、副産物の
増幅が起こるが、生成するストランドの反対側のストラ
ンドには特異的プライマーがハイブリダイズできないの
で、それ以上の増幅は理論上起こらない。しかし、その
一方で、中温サイクルでも非特異的プライマーがミスマ
ッチを含みながらある程度ハイブリダイズするので、中
温サイクルでも副産物の増幅が起こり得る。
【0054】従来の方法では、低温サイクルを反復して
行うので副産物がかなり生成するが、本発明では低温サ
イクルを1回としたことで、副産物の生成を抑制するこ
とができる。
【0055】この段階で、目的産物は(1+x+1)個
となるが、鋳型分子自体は非特異的プライマーの配列に
置換していないので、以降の反応の鋳型となるものは
(x+1)である。
【0056】<3>第3工程 第3工程は、y回の高温サイクルとz回の中温サイクル
からなる複合サイクルを、n回反復して行われる。この
工程では、高温サイクルでは目的産物のみが増幅し、中
温サイクルでは目的産物及び低温サイクルで生じた両方
向非特異的産物の両者が増幅される。その結果、複合サ
イクルをn回行った後には、目的産物は、(x+1)
{(y+2)2(z-1)n個となり、副産物は2zn個とな
る。
【0057】上記の反応以外に、特異的プライマーが低
温サイクルで非特異的にハイブリダイズしてできる増幅
産物も生じる。こうして生じる産物1分子につき、第3
工程では2(y+z)n倍に増幅される。また、低温サイクル
で、非特異的プライマーが、特異的プライマーの標的部
位に近い部位や遠い部位にハイブリダイズする結果、長
さの異なる増幅産物ができることがある。このような産
物も、目的とする未知配列が増幅されたものであるの
で、その意味では目的産物であり、増幅産物の単一化を
目指す場合を除いて問題とはならない。
【0058】第3工程では、目的産物に対する両方向非
特異的増幅産物の生成量が最少となるようにx、y、
z、nを決定するのが好ましい。全ての工程における全
サイクル数a=x+1+n(y+z)は、酵素の耐熱性
によって制限され、Thermus aquaticus由来のポリメラ
ーゼ(Perkin-Elmer社製:AmpliTaq DNA polymerase)
を使用する場合には、a=50程度が限界であるのでa
を一定と考えると、(x+1){(y+2)2(z-1)n
/2znが最大になるのは、x=4、y=2、z=1のと
きである。また、nはaを何回にするかによって決定さ
れる。
【0059】上記第1〜3工程からなるサイクル(以下
の実施例では、「大サイクル」という)終了後に、別の
非特異的プライマーを用いて大サイクルを行うと、増幅
産物の特異性を向上することができる。
【0060】
【実施例】以下に、本発明のDNA配列の増幅法及びそ
の応用についての実施例を説明する。
【0061】
【実施例1】 T−DNA挿入配列に隣接する植物ゲノ
ム配列の増幅 本発明のDNA配列の増幅法の実施例として、植物ゲノ
ムにT−DNAを挿入し、このT−DNA配列を既知配
列として、これに隣接する植物ゲノムを増幅した例を説
明する。
【0062】(1)T−DNA挿入配列を持つ植物の作
製 シロイヌナズナに、Tiプラスミドのバイナリーベクタ
ーであるpGDW32を持つアグロバクテリウム(Agro
bacterium tumefacience)を、リーフデスク法などの方
法で感染させ、T−DNA挿入配列を持つ形質転換植物
を得た。これらの形質転換植物から、尿素−フェノール
法などによりゲノムDNAを抽出した。
【0063】(2)増幅反応の反応液の組成 T−DNA挿入配列の末端近傍にハイブリダイズする特
異的プライマーとして3種のオリゴヌクレオチドTR
1、TR2、TR3を用意した。これらの配列は、配列
表に、各々配列番号1、配列番号2及び配列番号3とし
て記載した通りであり、T−DNA挿入配列の5’側か
ら3’側に順にハイブリダイズする。尚、これらのプラ
イマーは23塩基からなり、各々Tm値はTR1が6
0.6℃、TR2とTR3が57.1℃である。これら
のプライマーが、既知配列にハイブリダイズする位置を
図5に示す。尚、この配列は、プライマーと同一の配列
を有するストランドを示している。
【0064】非特異的プライマーとしては、配列番号
4、5、6に示した配列を有する3種のオリゴヌクレオ
チド混合物W1、W2、W3を用意した。各配列中、W
はA又はT、SはG又はCを表す。
【0065】W1は15塩基からなる64種類のオリゴ
ヌクレオチドの混合物であり、Tm値は43.7℃、W
2は16塩基からなる128種類のオリゴヌクレオチド
の混合物であり、Tm値は46.6℃、W3は16塩基
からなる256種類のオリゴヌクレオチドの混合物であ
り、Tm値は45.3℃である。
【0066】DNAの増幅は、使用するプライマーを変
えて本発明の方法を2回以上行うのが好ましい。各反応
における反応液は、鋳型とプライマー以外は共通した組
成のものを使用した。この基本組成は、10 mM Tris-HCl
(pH8.3)、50mM KCl、2mM MgCl2、0.001%ゼラチン、1
00μM dNTPとした。
【0067】1回目の大サイクルでの反応液は、上記基
本組成に10ngの鋳型ゲノムDNA、0.7単位のD
NAポリメラーゼ(Perkin-Elmer Cetus社製 AmpliTaq
DNApolymerase)、0.2μMのTR1、非特異的プライ
マー(2μM W1、3μMW2、4μM W3のうちいず
れか1種)を添加して最終的に20μlとした。反応
は、これに20μlのミネラルオイルを重層して行っ
た。
【0068】2回目以降の大サイクルでのDNA増幅反
応は、1回目と同じ非特異的プライマーを使用したが、
特異的プライマーは1回目の反応に使用した特異的プラ
イマーよりも、3’側にハイブリダイズできる特異的プ
ライマー(TR2、TR3)を使用した。この反応液に
は、1回目の反応液0.1μlと3.5単位のAmpliTaq
DNA polymerase、0.2μMの特異的プライマー(T
R2又はTR3)、非特異的プライマーを添加して計1
00μlとし、これに20μlのミネラルオイルを重層
して反応を行った。
【0069】また、各回の反応を通じて使用する非特異
的プライマーの選定においては、まず、W1を使用して
反応し、好ましい増幅産物が得られない場合には、順次
W2、W3を使用して1回目の反応から再度実施すると
よい。
【0070】(3)増幅反応の反応温度サイクル 1回目の大サイクルのDNA増幅反応は、市販の装置
(Perkin-Elmer Cetus社製 thermal cycler)を使用し
て、以下の工程で行った。
【0071】(第1工程)DNAの変性(94℃1
分)、アニーリング(65℃1分)、ポリメラーゼ反応
(72℃3分間)からなる高温サイクルを、5回繰り返
した。
【0072】(第2工程)94℃1分でDNAの変性を
行った後、5分間で25℃まで冷却し、25℃5分保持
してアニーリングを行い、5分間で72℃まで加熱して
から72℃で3分ポリメラーゼ反応を行い、低温サイク
ルとした。
【0073】(第3工程)DNA変性(94℃30
秒)、アニーリング(65℃1分)、ポリメラーゼ反応
(72℃3分)からなる高温サイクルを2回と、DNA
変性(94℃30秒)、アニーリング(45℃1分)、
ポリメラーゼ反応(72℃3.5分)からなる中温サイ
クル1回を行う複合サイクルを、15回繰り返した。
【0074】2回目以降の大サイクルでの増幅反応は、
94℃1分、62℃1分、72℃3分の高温サイクルが
2回、94℃30秒、45℃1分、72℃3.5分の中
温サイクル1回からなる複合サイクルを13回繰り返す
ことにより行った。
【0075】各々の反応後の反応液のうち、5μlをと
り、1.2〜1.5%のアガロースゲル電気泳動を行
い、増幅産物のDNAを分析を行った。結果を図6
(A)に示す。レーン1は大サイクル1回目の増幅産
物、レーン2、3はこれをさらに2回目の大サイクルで
増幅して得られた産物についての結果である。
【0076】さらに、出発DNA配列1ngに対し、1
50ngの小麦クロモゾームDNAを加え、同様にして
増幅させて得られた産物を解析した。結果を図6(B)
に示す。レーン1は大サイクル1回についてのもの、レ
ーン2、3はさらに2回目の大サイクルを行ったもの、
レーン4は、レーン2の試料について3回目の大サイク
ルを行ったものである。
【0077】図中、「M」は分子量マーカーを示し、図
の左に各バンドの分子量を示した。また、各試料につい
て、大サイクルの回数及び最終サイクルに用いたプライ
マーの種類を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】(解析結果)大サイクル1回のみのもの
(レーン1)では、主要な増幅産物は3種類(3本のバ
ンド)あるが、特異的プライマーを代えてさらに増幅サ
イクルを行うと、1本のバンドになる。このバンドは、
レーン2、3で大きさが異なる位置に泳動されるが、こ
れは特異的プライマーがハイブリダイズする位置が、レ
ーン3のものではより3’側であるためである。これら
のバンドはレーン1ではほとんど認められないが、2回
目の大サイクルを行うことによって、目的産物の特異性
が向上した結果、1本のバンドのみが増幅されたものと
考えられる。
【0080】尚、T−DNA挿入配列の場合では、大サ
イクル1回目では、非特異的プライマーが結合する部位
が異なる結果生じる増幅産物の種類は、平均2.2個で
あり、通常は最大5種類程度である。
【0081】レーン1で認められるバンドは、2回目の
大サイクルでは消失し、両端が特異的プライマーである
増幅産物であると推定される。これらの増幅産物は、レ
ーン2、3で得られるバンドとは大きさは異なるが、単
に低温サイクルで特異的プライマーがハイブリダイズし
た結果得られたものであり、既知配列に隣接する未知配
列が増幅されたという意味においては目的産物であると
いうことができる。
【0082】また、染色体DNAにTR1の配列に類似
する配列が存在し、その近傍にTR1がハイブリダイズ
した結果、両端が特異的プライマーである増幅産物とし
て生成した可能性もある。これらは、既知配列とは近傍
の配列が異なるために、TR2やTR3を使用した場合
には増幅されず、バンドが消失したと考えられる。
【0083】いずれにしても、シロイヌナズナ染色体D
NAのように長いDNA配列(約1018塩基)を材料に
用いても、本発明の方法により、目的とするDNA配列
の特異的増幅が可能であることがわかった また、出発材料にさらに多様性に富んだ小麦クロモゾー
ムDNA(約1.5×1010)を大量に加えても、特異
的な増幅が認められ(レーン2〜4)、本発明の方法が
極めて特異性の高いものであることがわかる。
【0084】
【実施例2】 増幅産物を直接鋳型とする塩基配列の決
定 次に、本発明の応用として、増幅産物を直接鋳型として
用いた塩基配列決定の例を説明する。
【0085】実施例1で得られた大サイクル2回目反応
液10μl(100〜200ngのDNAを含む)に対し、0.
5μlの(α-32P)dCTP(〜110TBq/mmol)、1単位のA
mpliTaq DNA polymerase、4μlのジメチルスルホキシ
ド(DMSO)と10 pmoleの特異的プライマー(TR2)を
含む緩衝液30μlを加えた。この反応液を各9μlず
つに4分割し、各分割液に対し1μlの0.5mM ddGTP, 5m
M ddATP, 5mM ddTTP,5mM ddCTPのいずれかを添加し、9
4℃20秒、60℃1分、72℃2分のサイクルを40
回繰り返す反応を行った。この反応液を、通常のジデオ
キシ法に用いる塩基配列決定と同様に電気泳動を行って
塩基配列を決定した。
【0086】得られた塩基配列を配列番号7に示す。塩
基番号69までは形質転換に用いたTiプラスミドの配
列で、塩基番号70〜251まではゲノムDNA中に挿
入されたT−DNAに隣接する未知のシロイヌナズナゲ
ノムDNA配列であった。尚、得られた未知配列は、シ
ロイヌナズナゲノムDNAのサザン分析の結果から、約
200塩基対を基本単位とする繰り返し配列であること
が解明された。
【0087】図7に、他の塩基配列決定例における電気
泳動の結果を示す。本発明では、ジデオキシヌクレオチ
ドの取り込みとDNA合成産物の増幅を同時に行ってい
るが、通常のジデオキシ法と同様にシークエンスラダー
が形成されていることがわかる。
【0088】
【実施例3】 P1ベクター挿入断片の増幅 次に、本発明の実施例として、P1ベクターに挿入され
たDNAの配列の増幅の例を説明する。
【0089】(1)P1ベクターが挿入された大腸菌ゲ
ノムDNAの調製 シロイヌナズナ染色体DNA断片を含むP1ベクターを
保有する大腸菌のコロニーを爪楊枝等で取り、直接反応
液中に懸濁し、増幅反応に用いる鋳型とした。また、液
体培地で培養した大腸菌からアルカリリシス法などによ
りP1プラスミドDNAを調製してもよい。
【0090】(2)増幅反応の反応液の組成 P1ベクターのクローニングサイトの近傍に存在するS
p6プロモーターの配列の1部を有するオリゴヌクレオ
チドを3種用意し、特異的プライマーとした。各々のプ
ライマーは、ハイブリダイズする部分がクローニングサ
イトから挿入配列方向である順に、Sp6−1(配列番
号8:22塩基、Tm62.1℃)、Sp6−2(配列
番号9:17塩基、Tm52.8℃)、及びSp6−3
(配列番号10:15塩基、Tm42.4℃)である。
【0091】一方、非特異的プライマーとしては、実施
例1に用いたW3を使用した。DNA増幅反応は、特異
的プライマーを変えて2回以上行った。各反応における
反応液組成は、特異的プライマー以外は実施例1と同様
であり、特異的プライマーには、1回目の大サイクルに
はSp6−1を、2回目の大サイクルにはSp6−2又
はSp6−3を、各々0.2μM使用した。
【0092】(3)増幅反応の反応温度サイクル 1回目のDNA増幅反応は、実施例1と同様にして行っ
た。また、2回目の増幅反応は、94℃1分、45℃1
分、72℃3.5分の中温サイクルを22回繰り返すこ
とにより行った。
【0093】各々の反応後の反応液のうち、5μlをと
り、1.2〜1.5%のアガロースゲル電気泳動を行
い、増幅産物のDNAを分析を行った。結果を図8に示
す。レーン1、2は、各々異なるP1クローンを鋳型と
して、Sp6−1を特異的プライマーとした1回の大サ
イクルにより増幅を行った結果である。レーン3、4
は、レーン1の試料を特異的プライマーにSp6−2、
Sp6−3を各々用いて2回目の大サイクルを行ったも
の、レーン5、6はレーン2の試料をSp6−2、Sp
6−3を各々用いて2回目の大サイクルを行ったものに
ついての結果である。
【0094】(解析結果)レーン1の試料では、多数の
バンドが認められるが、プライマーを代えて大サイクル
を繰り返すと1本のバンドになる(レーン3、4)。こ
れに対し、レーン2の試料では、大サイクル1回ですで
に一本のバンドに集約されている。この結果は、増幅に
用いる材料によっては、1回の大サイクルのみで充分で
あることを示している。特に、P1クローンのように鋳
型配列が105塩基程度の長さのものについては、1回
で充分な場合が多いと考えられる。したがって、大サイ
クル1回目終了後の反応液について増幅産物の解析を行
い、不十分であればさらにプライマーを代えて大サイク
ルを2回、あるいは3回行えばよい。
【0095】
【実施例4】次に、本発明の実施例としてP1ベクター
に挿入されたDNAの配列を、実施例3とは異なる反応
温度サイクルで増幅した例を説明する。
【0096】(1)P1ベクターが挿入された大腸菌ゲ
ノムDNAの調製 実施例3と同様にして行なった。
【0097】(2)増幅反応の反応液の組成 特異的プライマーは実施例3に用いたSp6−1を使用
した。一方、非特異的プライマーとしては、実施例1に
用いたW2を使用した。DNA増幅反応における反応液
組成は、実施例3と同様の組成を使用した。
【0098】(3)増幅反応の反応温度サイクル 1回目のDNA増幅反応は、実施例1の(第3工程)を
DNA変性(94℃30秒)、アニーリング(58℃1
分)、ポリメラーゼ反応(72℃3分)からなる中温サ
イクルを30回繰り返した。反応後の反応液のうち、5
μlをとり、1.2〜1.5%のアガロースゲル電気泳
動を行い、増幅産物のDNAの分析を行なった。結果を
図9に示す。
【0099】(解析結果)この結果は、第3工程を中温
サイクルのみで行なった場合も、目的とする増幅産物が
得られることを示している。実施上特に、単一のバンド
とすることを必要としない場合には、本実施例の方法で
目的を達することが可能である。
【0100】
【実施例5】続いて、実施例1で得られたT−DNAを
挿入したシロイヌナズナの染色体ライブラリーのうちの
1株について、第3工程を中温サイクルのみで行った増
幅例を説明する。
【0101】(1)T−DNA挿入配列を持つ植物の作
製 実施例1と同様にして行った。
【0102】(2)増幅反応の反応液の組成 特異的プライマーは実施例1に用いたTR2あるいはT
R3を使用した。一方、非特異的プライマーとしては、
実施例1に用いたW3を使用した。DNA増幅反応にお
ける反応液組成は、実施例1と同様の組成を使用した。
【0103】(3)増幅反応の反応温度サイクル 増幅反応は、実施例1の(第3工程)をDNA変性(9
4℃30秒)、アニーリング(58℃1分)、ポリメラ
ーゼ反応(72℃3分)からなる中温サイクルを30回
繰り返した。特異的プライマーとしてTR2あるいはT
R3を用いた増幅反応液から各々5μlをとり、1.2
〜1.5%のアガロースゲル電気泳動を行い、増幅産物
のDNAの分析を行なった。結果を図10に示す。
【0104】(解析結果)いずれの特異的プライマーを
用いた場合でも、増幅産物は、ほぼ単一のバンドとして
得られた。TR3を用いた場合の増幅産物(レーン2)
は、TR2を用いた場合の増幅産物(レーン1)よりも
小さく、その差はT−DNA中のTR2及びTR3と同
一の配列を有する部位の距離64塩基と一致していた。
このことから、上記で得られた各々の増幅産物は、いず
れも目的産物であることがわかった。
【0105】この結果は、シロイヌナズナのように大き
な染色体を材料にした場合でも、中温サイクルのみで目
的とする増幅産物が得られることを示している。
【0106】
【発明の効果】本発明の方法により、既知配列に隣接す
る未知配列を、DNAの環状化やオリゴヌクレオチドの
連結といった複雑な操作を必要とせずに、しかも、効率
よく増幅させることができる。
【0107】
【配列表】
【0108】配列番号:1 配列の長さ:23 配列の形:核酸 鎖の数:1本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 GCAACAAGTC ACGGATATTC GTG 23
【0109】配列番号:2 配列の長さ:23 配列の形:核酸 鎖の数:1本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 GTGAAAACGA CAAAAACTGC GAA 23
【0110】配列番号:3 配列の長さ:23 配列の形:核酸 鎖の数:1本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 TTTGACACCA GTTGCTATCA TTG 23
【0111】配列番号:4 配列の長さ:15 配列の形:核酸 鎖の数:1本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 NTCGASTWTS GWGTT 15
【0112】配列番号:5 配列の長さ:16 配列の形:核酸 鎖の数:1本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 NGTCGASWGA NAWGAA 16
【0113】配列番号:6 配列の長さ:16 配列の形:核酸 鎖の数:1本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 WGTGNAGWAN CANAGA 16
【0114】配列番号7 配列の長さ:251 配列の形:核酸 鎖の数:2本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:Genomic DNA 配列の種類:起源: 生物名:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana(アラヒ゛ト
゛フ゜シス サリアナ)) 組織の種類:葉 配列 GACACCAGTT GCTATCATTG CGGCCAAGCT CAGGATCAGA TTGTCGTTTC CCGCCTTCGG 60 TTTAAACTAA CCAAAATGCT TGCTTCTTCA TCAAAGCTTT CTTGGTTCTT TGCTGTGAGT 120 GAATTTGGCA GGTCAGAAGC TGTGAGTGAG CTTGCCATGT CAAAGACCAT GGCAGAGCAA 180 CGGCAGTATC TTCCCATATT TTCTGTTAGA GATGAACTAT TGCTGGTTGG TGGTCTTTCC 240 TTTTTATGGC C 251
【0115】配列番号:8 配列の長さ:22 配列の形:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 TACGTAGGCC TAATTGGCCG TC 22
【0116】配列番号:9 配列の長さ:17 配列の形:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 CCGTCGACAT TTAGGTG 17
【0117】配列番号:10 配列の長さ:15 配列の形:核酸 鎖の数:一本鎖 トポロジー:直鎖状 配列の種類:他の核酸 合成DNA 配列 GTGACACTAT AGAAG 15
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来のPCR法の原理を示す図。
【図2】 公知の改変PCR法の原理を示す図。
【図3】 本発明に用いる増幅サイクルを示す図。
【図4】 本発明の方法の概念を示す図。
【図5】 T−DNAの配列の一部と、これに特異的プ
ライマーがハイブリダイズする位置を示す図。
【図6】 DNA増幅産物の解析結果を示す電気泳動
図。
【図7】 塩基配列決定の電気泳動図。
【図8】 DNA増幅産物の解析結果を示す電気泳動
図。
【図9】 DNA増幅産物の解析結果を示す電気泳動
図。
【図10】 DNA増幅産物の解析結果を示す電気泳動
図。
【符号の説明】
図中、Mはマーカーを、図の左の数字は分子量を示す。
フロントページの続き (72)発明者 光川 典宏 茨城県つくば市東新井10番1号 スカイノ ブルー320号

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 DNA配列とこのDNA配列の一部の配
    列を有するオリゴヌクレオチドプライマーとを、DNA
    ポリメラーゼとデオキシリボヌクレオチドを含むDNA
    ポリメラーゼ反応液中で混合し、前記DNA配列の変性
    と、このDNA配列とDNAプライマーとのアニーリン
    グと、DNAポリメラーゼ反応からなる増幅サイクルを
    繰り返すことにより前記DNA配列を増幅する方法にお
    いて、(A)オリゴヌクレオチドプライマーがDNA配
    列の任意の位置に非特異的にハイブリダイズする温度で
    前記アニーリングを行う1回の増幅サイクルと、(B)
    オリゴヌクレオチドプライマーがその配列と相補的なD
    NA配列に特異的にハイブリダイズする温度で前記アニ
    ーリングを行う複数の増幅サイクル、とを含むことを特
    徴とするDNA配列の増幅法。
  2. 【請求項2】 DNA配列と、このDNA配列の一部の
    配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー(特異的プ
    ライマー)と、特異的プライマーよりもTmが低く任意
    の配列を有するオリゴヌクレオチドプライマー(非特異
    的プライマー)とを、DNAポリメラーゼとデオキシリ
    ボヌクレオチドを含むDNAポリメラーゼ反応液中で混
    合し、前記DNA配列の変性と、このDNA配列とDN
    Aプライマーとのアニーリングと、DNAポリメラーゼ
    反応からなる増幅サイクルを繰り返すことにより前記D
    NA配列を増幅する方法において、(A)非特異的プラ
    イマーがDNA配列に非特異的にハイブリダイズする温
    度でアニーリングを行う1回の増幅サイクル、(B)特
    異的プライマーがDNA配列に特異的にハイブリダイズ
    する温度でアニーリングを行う複数回の増幅サイクル、
    (C)非特異的プライマーがその配列と相補的なDNA
    配列に特異的にハイブリダイズする温度でアニーリング
    を行う複数回の増幅サイクル、を含むことを特徴とする
    DNA配列の増幅法。
  3. 【請求項3】 請求項1において、前記オリゴヌクレオ
    チドプライマーと同一の配列を有するDNA配列の部位
    よりも下流側の近傍の配列を有するオリゴヌクレオチド
    プライマーをポリメラーゼ反応液中に加えることを特徴
    するDNA配列の増幅法。
  4. 【請求項4】 請求項2において、特異的プライマーと
    同一の配列を有するDNA配列の部位よりも下流側の近
    傍の配列を有するオリゴヌクレオチドプライマーをポリ
    メラーゼ反応液中に加えることを特徴するDNA配列の
    増幅法。
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