JPH06220098A - 新規タンパク質 - Google Patents

新規タンパク質

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JPH06220098A
JPH06220098A JP5011904A JP1190493A JPH06220098A JP H06220098 A JPH06220098 A JP H06220098A JP 5011904 A JP5011904 A JP 5011904A JP 1190493 A JP1190493 A JP 1190493A JP H06220098 A JPH06220098 A JP H06220098A
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JP
Japan
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protein
culture
cells
amino acid
val
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JP5011904A
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English (en)
Inventor
Kunpei Kobayashi
君平 小林
Midori Inoue
ミドリ 井上
Keizaburo Miki
三木  敬三郎
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Terumo Corp
Original Assignee
Terumo Corp
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【目的】神経疾患の治療、特に老年期痴呆症、パーキン
ソン病、及びハンチントン舞踏病など神経細胞の変性・
脱落を伴う中枢神経退行性疾患の進行を阻止し、或いは
学習記憶などの脳機能を賦活する改善剤の用途に使用さ
れる新規なタンパク質を提供すること。 【構成】非還元条件下180kDaのヘテロテトラマー
から構成され特定のアミノ酸組成比と還元条件下で20
kDaと50kDaのサブユニットのN末端アミノ酸の
一時構造がそれぞれAsp−Glu−Thr−Ala−
Ala−Lys−Phe−と、Glu−Gln−Leu
−Val−Val−Trp−Asp−Leu−である新
規タンパク質。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、特定のアミノ酸組成と
アミノ酸配列を有する新規なタンパク質に関するもので
ある。詳しくは、神経栄養因子活性を有し、脳疾患及び
脳機能改善効果を有する組成物の有効成分として使用さ
れる新規タンパク質に関するものである。更に詳しくは
神経疾患の治療、特に老年期痴呆症、パーキンソン病、
及びハンチントン舞踏病など神経細胞の変性・脱落を伴
う中枢性神経退行性疾患の進行を防止し、或いは学習記
憶などの脳機能を賦活する改善剤の用途に使用される新
規タンパク質に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、急激な高齢化社会の到来と共に、
神経疾患とりわけ老年期痴呆が社会的問題としてクロー
ズアップされている。老年期痴呆は主に脳血管性痴呆と
アルツハイマー型痴呆に分類される。脳血管性痴呆は主
に脳梗塞、CO中毒、心不全、脳虚血、低血糖、持続的
痙攣発作を原疾患として、二次的に興奮性神経伝達物質
によってもたらされる神経壊死に起因すると考えられて
いる。脳虚血の障害部位は海馬のCA1領域、小脳Purk
inje細胞、線条体、大脳皮質である(Kirino et al. Bra
in Res. 239:57- (1982))。これに対し、アルツハイマ
ー型痴呆は広範におよぶ老人班やアルツハイマー神経原
線維変化の蓄積が病理的所見であり、原発性の神経細胞
の変性退行として、大脳皮質や海馬へ投射する前脳基底
部(マイネルト基底核、中隔野、ブローカ対角帯)のコリ
ン作動性神経細胞の脱落が報告されている(Coyle et a
l. Science 219:1184-1190(1983), Annu.Rev.Neurosci.
3:77- (1980))。従って、この神経細胞の脱落に伴う著
明なアセチルコリン量の減少が記憶学習障害の原因と考
えられる。他にも、ハンチントン舞踏病では線条体のG
ABA作動性神経細胞が、パーキンソン病でも脳幹部に
ある黒質のドーパミン神経細胞の脱落が報告されている
(Schwarcz, R. et al. Science 219:316-318(1983), Bo
hn, M.C. et al. Science 237:913-916 (1988))。
【0003】現在、これらの各種脳神経疾患の脳機能改
善は特徴的な神経細胞の退行変性・脱落の防止・治療が
最も重要であると考えられている。現在、医療ニーズに
応え、対症療法として神経伝達物質前駆体やその代謝阻
害剤が臨床応用に供されているが、残念ながら期待され
たほどの効果は無い。しかも、神経細胞の変性脱落に伴
う精神神経障害そのものに直接有効といえるものはなく
根本的な治療薬がないのが現状である。従って、神経栄
養因子や神経栄養因子活性を持つ因子が注目され、これ
らの因子を用いて神経退行性疾患を治療する試みが行わ
れている。
【0004】ところで、神経栄養因子は神経細胞の分化
誘導、生存維持、及び神経突起伸長作用を示し、脳の機
能維持や生存に必須不可欠な因子である。特に、195
4年Levi-Montaleiniらによって発見された神経成長因
子(以下NGFと略す)は、分子レベルまで最もよく解
明された分化促進因子である。この因子は末梢神経系で
は交感、知覚神経、中枢では脳基底核のコリン作動性神
経細胞に作用する。従って、老年期痴呆症やアルツハイ
マー病のような中枢退行性疾患、特にコリン作動性神経
細胞に起因する病態に有望であり、神経細胞死の防止効
果や脳機能改善が期待されている。
【0005】すでに、その有用性を示唆する数々の生理
学的実験報告が過去に成されている。例えば、in vivo
において、ラット脳室内注入により生存神経細胞数の増
加、CAT活性の上昇(Williams et al. Pro. Natl. Acad.
Sci. USA 83:9231-9235 (1986)、Kromer L F. Scienc
e 235:214-216(1986))、更に4週間のNGFの脳室内注入
による記憶障害の改善が老齢ラットに報告されている(F
isher et al. Nature329:65-68 (1989))。加えて、海馬
采の切断後に起きる中隔神経細胞の逆行性変性がNGFに
より防止されること(Kromer LF. Science 235:214-216
(1987))、砂ネズミの脳虚血後、海馬神経細胞の遅延性
神経細胞死も抑制されることなどが明らかにされてい
る。
【0006】他にも神経栄養因子として、NGFのファミ
リータンパク質でブタ脳より精製された脳由来神経栄養
因子(brain-derived neurotrophic factor:以下BDNFと
略す)がある。事実、BDNFは培養下で中枢神経系の中隔
野コリン作動性神経細胞、網膜神経節神経細胞、さらに
黒質ドーパミン作動性神経細胞の生存維持を示すことが
報告されている。(Alderson RF et al. Neuron 5:297-
(1990)、Hyman C. et al. Nature 350:230-232 (199
1))。興味あることに、BDNFはパーキンソン病の作製に
用いる神経毒MPP+によるドーパミン作動性神経細胞死を
防止することが示唆されている。さらに、NGFファミリ
ータンパク質以外に、毛様体神経栄養因子(Ciliary neu
rotrophic factor:以下CNTFと略す)にin vivo及びin v
itroで脊髄運動神経細胞に顕著な生存維持作用が確認さ
れている(Sendtner M. et al. Nature345:440-441(199
0))。加えて、神経栄養因子活性を持つ因子として、IL-
6にコリン作動性神経細胞や黒質ドーパミン作動性神経
細胞の生存維持効果が(Hama T.et al. Neurosci.40:445
(1991)、塩基性線維芽細胞成長因子(以下bFGFと略す)
に、in vitroにおける神経細胞の生存延長作用、並びに
in vivoにおいて、虚血性神経細胞障害に対する保護効
果が報告されている(Morrison et al. Proc. Natl. Sc
i. USA 83:7537-7541(1986)、Shigeno T etal. J. Neu
rosci. 11:2914-2919(1991))。
【0007】以上の様に、神経栄養因子及び神経栄養因
子活性を持つタンパク質は、ある種の神経細胞に対して
細胞壊死を抑止し、さらに神経機能が残されている細胞
を賦活し、積極的に生存神経細胞の代償機転やシナプス
可塑性を促進すると考えられる。従って、これらの因子
の枯渇が神経細胞の退行変性・脱落の原因であるとする
神経退行性疾患の根本的な予防・治療法として有用であ
る。しかし、NGFファミリータンパク質は薬理学及び薬
剤学上の制約が大きく、しかも生体からの単離精製やク
ローニングによる多量産生が極めて困難であり開発の目
処が立っていない。さらに、NGFファミリータンパク質
はその作動神経や発現時期に特異性があり、その機能も
限定されている。加えて、CNTFやFGFは分泌シグナルを
持たず、しかも発現時期や発現細胞の特異性に生理的問
題が含まれている。
【0008】従って、複雑な脳機能を保証するため、脳
内には既知因子以外に各種の神経細胞にそれぞれ特有な
多様な神経栄養因子が存在し、これらによって総合的に
脳機能の恒常性が調節されていると考えられている。例
えば、NGFと類似した生存維持活性や神経細胞の機能亢
進を促す因子はこれまでに細胞組織や培養細胞の抽出物
に多数報告されているが、各種の因子はその存在が確認
されているだけで、まだ分子としての実体は依然明確に
されていない。そこで、脳機能、特に痴呆の中核症状で
ある知的機能を改善する抗痴呆効果を目的に神経細胞壊
死を防止し、神経細胞を賦活する内因性物質として、新
しい神経栄養因子や神経栄養因子活性物質を探索するこ
とが必要である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記の状況において、
老年期痴呆、パーキンソン病及びハンチントン舞踏病な
どの神経退行性疾患は部位特異的な神経細胞の変性・脱
落を伴う。従ってこれらの疾患の予防・治療には、それ
ぞれの神経細胞に特有な神経栄養因子や神経栄養因子活
性タンパク質が効果的であり、切望されている。しかし
ながら、既知因子以外に多様な神経栄養因子の存在が確
認されているが依然分子として明確に同定されていな
い。
【0010】従って本発明の目的は、種々の組織細胞や
培養細胞に神経栄養因子を見いだし、痴呆、アルツハイ
マー病、脳虚血障害及び各種神経損傷などの神経退行性
疾患の治療薬としての脳神経改善剤の有効成分として、
新規な神経栄養因子活性を有するタンパク質を提供する
ことである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、多種の生
化学的精製法を駆使し、バイオアッセイ系の生存維持活
性や神経突起伸展活性を指標として新規な神経栄養因子
関連物質を探索した結果、初代神経細胞培養の培養上清
に著明な生存維持活性を持ち、既知因子と構造的に異な
る2個の新規タンパク質を単離精製し、本発明を完成す
るに至った。
【0012】本発明の第1の発明は神経栄養因子活性タ
ンパク質は非還元条件下で分子量180KDaのヘテロテトラ
マーから構成され、 (i) 次のアミノ酸組成を有する: Ala 5.8 Asp 6.6 Arg 3.5 Glu 12.4
Gly 8.7 His 1.8 Ile 2.8 Leu 7.9 Phe 3.2
Pro 8.5 Ser 14.5 Thr 10.8 Tyr 4.2 Val 10.7 (ii) 該ヘテロテトラマーは2−メルカプトエタノール
還元条件下、分子量の異なる2分子のサブユニット(20K
Da及び50KDa)に分離し、各サブユニットのN末端アミノ
酸の一次構造が次のアミノ酸配列を有する: 20KDaサブユニット Asp-Glu-Thr-Ala-Ala-Ala-Lys-
Phe- 50KDaサブユニット Glu-Gln-Leu-Val-Val-Trp-Asp-
Leu- 新規タンパク質である。
【0013】また、第2の発明は分子量60KDaの一本鎖
ポリペプチドから構成され、該タンパク質のN末端アミ
ノ酸の一次構造が、次のアミノ酸配列を有する新規タン
パク質である。 Glu-Gln-Thr-Val-Val-Trp-Trp-
Asp-
【0014】また、本発明の目的は上記第1または第2
の発明の新規タンパク質を有効成分として含有する医薬
組成物によっても達成される。更に、本発明の目的は上
記第1または第2の発明の新規タンパク質を有効成分と
して含有することを特徴とする細胞培養を目的とする無
血清完全合成培地によっても達成される。
【0015】これらの本発明の神経栄養因子活性タンパ
ク質は、構造上のみならず生物活性においても、既存の
因子、NGFファミリータンパク質、b-FGF、インスリン、
インスリン様成長因子(IGI-1)、α2-マクログロブリ
ンとまったく異なり、いずれも文献未載の新規タンパク
質であることが確認されている。特に、PC12細胞(副腎
褐色芽細胞腫)を用い、NGFの分化誘導作用と比較検討
した結果、NGF様の神経突起伸展活性がまったく認めら
れず、NGFファミリータンパク質と相違した神経栄養因
子活性を有するタンパク質であることが示された。これ
らの神経栄養因子活性タンパク質は初代神経細胞培養の
培養液中に存在し、濃縮後、後述する試験例1−2に記
載したバイオアッセイ系の検定法にて確認できる。さら
に、種々の生化学的手法、イオン交換クロマトグラフィ
ー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過法、及び逆相
高速液体クロマトグラフィーで効率的に単離精製が可能
である。
【0016】後述する実施例では、神経培養細胞は胎生
期のラット脳胎児胚を使用したが、他の組織、例えば成
熟脳及び神経腫瘍細胞や血清中に由来する構造的に一致
する該神経栄養因子活性のタンパク質が存在することも
可能であり、これを検体材料として、本発明の神経栄養
因子活性タンパク質を単離精製することが可能である。
本発明の神経栄養因子活性タンパク質はN末端アミノ酸
構造の特徴を失わない限り、構造的に一致するペプチド
やポリペプチドの一部を使用し、また遺伝子工学的手法
によって製造されたものでも神経栄養因子作用を期待す
ることができる。
【0017】さらに、神経栄養因子活性タンパク質の物
理化学的特性として、陰イオン交換カラムやフェニール
疎水性カラムに吸着する性質から、陰イオンに荷電する
比較的疎水性のタンパク質であることも判明している。
加えて、高分子神経栄養因子活性タンパク質は神経細胞
同士の吸着を高め、細胞凝集を惹起する特性を併せて持
つことが明らかになった。次に、本発明の神経栄養因子
活性を有する新規タンパク質を有効成分として含有する
中枢性神経退行性疾患の防止及び治療剤の有効性を下記
の試験によって検討した。即ち、バイオアッセイ系の神
経細胞の初代培養を用い、該新規タンパク質の神経突起
伸展活性と生存維持活性を測定した。
【0018】これらの試験により、該新規タンパク質は
非常に作用が強く、既知の血清や無血清完全合成培地
(トランスフェリン(100μg/ml)、インスリン(5μg/m
l)、プロゲステロン(20nM)を含むDF培養液)と生存維
持活性を指標として比較しても優れた効力を発揮するこ
とが明らかになった。さらに、該タンパク質の神経突起
伸展活性において、培養神経細胞の突起伸展活性を他の
生存条件(血清添加や無血清完全合成培地)と比較して
も、何等抑制効果は無く、神経細胞による顕著な神経回
路網の構築が確認された。従って、該神経栄養因子活性
タンパク質は著明な神経突起伸展作用と生存維持作用を
併せ示すことが発見され、よって神経細胞の変性・脱落
を防止し、さらにシナプス可塑性を促進し、神経突起修
復ないし生存細胞による回路の再構築を介して、神経細
胞機能を改善させる依拠となることが期待できる。依っ
て、中枢性神経退行性疾患、とりわけアルツハイマー病
などに対し有効な根本的な治療法の確立になり、記憶学
習障害の改善治療が期待される。
【0019】さらに、本発明の新規タンパク質は神経細
胞に対する突起伸展活性や生存維持活性の特性を利用
し、神経培養に用いる培地中に添加し安定した培養法を
提供するための無血清培地に好適である。現在、神経細
胞の機能の研究に神経細胞の培養法の確立は必要不可欠
である。しかし、血清の添加と混在するグリア細胞や上
衣細胞の存在が避けられず、これらの因子が細胞の同
定、並びに実験結果とその解釈を困難にしている。これ
らの弊害を除去するため、無血清培養法やグリア細胞増
殖を抑制する種々の薬剤、例えばcytosinarabinocyde(a
ra C)やfluorodioxyuridine (Fdu)の添加が使用されて
いる。さらに、現在、神経細胞の無血清完全合成培地と
してはトランスフェリン、インスリン、プロゲステロン
を含む培養液のみで、その効力も必ずしも有効とは限ら
ない。また、グリア細胞の増殖抑制剤は強力な毒性故
に、必然的に神経細胞に対し多大な影響を与えることが
知られている。加えて、神経細胞の初代細胞培養の樹立
に際し、脳組織の機械的な分散により神経突起の切断や
酸素不足等の損傷を受け神経細胞自体が脆弱になり、容
易に退行性壊死の過程を辿り、生存細胞数の減少の原因
と成っている。従って、該神経栄養因子活性タンパク質
のみを添加した無血清完全合成培地(トランスフェリ
ン、インスリン、プロゲステロンを除去)を用いること
により、実施例5記載の実験結果に示すごとく、従来の
培地に代わり、より生存維持作用が強化され、神経細胞
が生育し易い環境を与えることは明らかである。しかも
グリア細胞の増殖が抑制され、純粋な神経細胞培養を提
供することができ、安定し、且つ簡略化された神経細胞
培養法となる。
【0020】本発明の新規タンパク質は、優れた生存維
持作用や突起伸展作用を促進し、神経細胞の変性・脱落
を病因とする神経疾患、例えば老人性痴呆症、アルツハ
イマー病、及びパーキンソン病の予防や治療剤として、
また脳機能改善剤として有用である。他に、脳梗塞や一
過性脳虚血による脳虚血障害、さらに外傷性脳障害も予
防・治療の対象疾患である。
【0021】投与形態としては、本発明の新規タンパク
質のいずれかを有効成分として含有する水溶性剤や生理
食塩水に溶解する水溶性溶剤として、浸透圧ポンプ等に
よる脳内微量連続投与する非経口投与を挙げることがで
きる。もしくは公知の薬学的に許容されうる適当な担体
賦形剤などを混合し、さらに適当な脳関門透過形の担体
と共に、通常の製剤法で有用な医薬組成物として製剤化
できる。投与量は、投与対象、投与ルート、病状、年齢
等によって異なるが、その種類、処理頻度、期待する効
果などにより決定されるが、例えば通常成人1日当たり
0.1-1μg/capita/dayを数日間隔で数回投与することに
より、中枢性退行性疾患の早期症状の望ましい改善が可
能となる。
【0022】また、本発明の神経栄養因子活性タンパク
質は、組織培養用培地、特に無血清完全混合培地の用途
としても有用であり、その有効濃度が培地中の最終濃度
で10-100nMになるよう調整することが好ましく、液体及
び粉末培地として提供できる。
【0023】
【実施例】次に、実験及び実施例を挙げて本発明を具体
的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例のみ
に限定されるものではない。
【0024】<実施例1> 神経培養上清の採取 試験例1−4記載の調整法に従い、神経栄養因子活性タ
ンパク質の単離精製用の検体として、培養上清(3L)
を確保した。初代神経培養法に則り、DF培養液(10%
血清)を用いて神経細胞の高密度培養(>106個/cm2
を行い、2日毎に培地交換を繰り返し、10日間培養を
継続し回収した。検体中の生存維持活性はセントリプレ
ップ10(分画分子量10,000、商品名:アミコン社製、
以下同様)を用いて培養上清(10ml)の限外濾過によ
る約40倍簡易濃縮後、脱イオン水の洗浄処理を施し、
試験例1−2に記載したバイオアッセイ系の検定法に
て、濃縮液と濾液中の活性を確認した。その結果、濃縮
液に顕著な生存維持活性の存在が確認され、分子量1万
以上に帰属する因子であることも示唆された。
【0025】 <実施例2> 神経栄養因子活性タンパク質の単離精製 顕著な神経細胞の生存維持活性を呈するタンパク質の単
離精製は、分離能に優れ、且つ効率的な生化学的手法を
駆使した第1図の精製工程に従い完遂した。即ち、神経
高密度培養の培養上清(3L)からの神経栄養因子活性
タンパク質の単離精製工程を示した。イオン交換クロマ
トグラフィー、疎水性クロマトグラフィー及びゲル濾過
法はFPLC全自動システム(商品名:ファルマシア
製)を用いた。疎水性クロマトグラフィーで二画分に生
存維持活性が示唆され、ゲル濾過法と逆相HPLCにお
いて別々に精製を実施した。
【0026】以下、精製工程を詳細に説明する。始め
に、血清タンパク質の除去の目的で、アフィニティクロ
マトグラフィーを行った。培養上清(500ml)をBlue
Sepharoseカラム(7×30cm、商品名:ファルマシア社
製)に1ml/minの流速で付し、カラム容積の2倍量の1
0mM リン酸緩衝液(10mM NaH2PO4/0.1M NaH2PO4+2MN
aCl pH7.0)で洗浄後、素通り画分(約1,300ml)を回収
した。
【0027】タンパク質の溶出パターンはUV−1モニ
ター(ファルマシア社製)を用い吸光度280nmで分析し
た。生存維持活性の検定は試験例1−2に記載した測定
法に従い、各画分(5ml)を限外濾過(セントリプレッ
プ10)により濃縮後(約25倍)、培地中に10−1
50μlを添加し、生存細胞数を測定した。その結果を
第2図に示した。蛋白量はLowryの方法に従い、神
経生存維持活性は試験例1−3に記述した測定法を用
い、塩濃度は電導度計によって測定した。この精製過程
ですでに35%蛋白量の除去と共に、大部分の活性(6
7%)が素通り画分に確保され、比活性で約1.8倍の
上昇を達成した。
【0028】次に、この素通り画分をFPLC全自動シ
ステムを用いたイオン交換クロマトグラフィーにアプラ
イし粗精製した。まず、検体の塩濃度(<0.05M NaCl)
を減らす目的で、超純水で5倍希釈後、約5Lの溶液を
20mM triethanolamine(pH 7.4)で予め平衡化した陰イオ
ンQ-SepharoseHPカラム(2.6×10cm、商品名:ファルマ
シア社製)に1.5ml/minの流速で吸着させた。溶出は2
0mM triethanolamine+1M NaCl、pH 7.4の直線的塩勾配
溶出法(0-90min 50%、90-120min 100%)を用い、1.5
ml/minの流速で行い、フラクションコレクターで4.5m
lづつ分取した。各分画2mlを採取し、限外濾過(セン
トリプレップ10)により約20倍濃縮後、脱塩し、そ
の0.1mlを用い試験例1−3記載の検定法に従って各
分画の生存維持活性を測定した。
【0029】第3図にこの測定結果と併せて、電導度計
(M&S Instrument Inc.社製)を使用し分析した塩濃度
の変化を加え、吸光度280nmのタンパク質の溶出パタ
ーンを示した。顕著な生存維持活性が50-60min(75-90m
l溶出容量)の画分に1つの主なるピークとして観察さ
れ、タンパク質の最大溶出ピークの前半に溶出されるこ
とが判明した。さらに、この探索タンパク質は陽イオン
Mono S HRカラム(1×10cm、ファルマシア社製)に吸着
しない特性から、陰イオンに荷電したタンパク質である
結果が支持された。
【0030】活性画分(20ml)(48min-63min溶出時
間、0.1-0.19M NaCl)を回収し、硫酸アンモニウム濃度
を1Mに調整後、FPLCシステムによる疎水性クロマ
トグラフィーでさらに精製を進めた。1.5M (NH4)2SO4
含む0.1M NaH2PO4 pH 7.4で平衡化したPhenyl Sepharos
e HPカラム(2.6×10cm、商品名:ファルマシア社製)
に吸着させ、溶出は 0.1M NaH2PO4、 硫酸イオン濃度の
逆勾配溶出法(0-30min 100%、30-45min 50%、45-165mi
n 0%)を用い、流速1.5ml/minで溶出させ、4.5mlづ
つ分取した。生存維持活性の測定は、前記同様に試験例
1−3に準じ、各分画2mlの採取で行い硫酸アンモニウ
ム濃度は電導度計を使用し検定した。
【0031】それらの分析結果とタンパク質の溶出パタ
ーン(吸光度280nm)および溶出時間を第4図に示し
た。生存維持活性が二つの画分60min(0.5M 硫酸イオ
ン濃度)と強力な活性が認められる120min(0.05M
硫酸イオン濃度)に検出され、今までの活性が2つの因
子の相加的なものであることが判明した。これらの2活
性画分[54−72min 溶出時間、0.65−0.48M 硫酸イオ
ン]と[105−129min 溶出時間、<0.18M 硫酸イオン]
を限外濾過(セントリプレップ10)により約5倍濃縮
後、FPLCによるゲル濾過法にて別々に精製した。各
々10mlの検体を10mM NaH2PO4+0.15M NaCl pH 7.4で
予め平衡化したSuperdex75カラム(1.6×60cm、商品
名:ファルマシア社製)に重層し、流速1.5ml/minで
溶出し、1.5mlづつ分画した。タンパク質の溶出時間
はゲル濾過用低分子量マーカー(商品名:ファルマシア
社製)を用い検定した。
【0032】その分析結果と生存維持活性、及び吸光度
280nmにおける溶出パターンを第5A図、第5B図に
示した。尚、神経生存維持活性は試験例1−3の検定法
に従って測定した。ゲル濾過用低分子量マーカーを用い
タンパク質の溶出分子量を検定した。ゲル濾過用分子量
マーカー(ファルマシア社製):キモトリプシノーゲン
(25,000)、オブアルブミン(43,000)、アルブミン
(67,000)、アルドラーゼ(158,000)、カタラーゼ(2
32,000)。弱疎水性画分(第5A図参照)の生存維持活
性は低分子量領域(70KDa、55min 溶出時間)に、
強疎水性画分(第5B図参照)は高分子領域(175KD
a、37min 溶出時間)にそれぞれ認められた。
【0033】最終精製は逆相高速液体クロマトグラフィ
ー(SPD7ADシステム、島津製作所社製)により行
った。前段階で得られた高分子活性画分(30−39min 溶
出時間)と低分子活性画分(54−63min 溶出時間)をそ
れぞれ限外濾過により濃縮脱塩後、0.1%(容量比)
トリフルオロ酢酸水溶液で平衡化した逆相用カラム(V
P−304、0.8×15cm、センシュー科学)に吸着させ
た。次に、アセトニトリル(0.1%トリフルオロ酢
酸)の直線濃度勾配(5-45min 100%)で流速0.7ml/mi
n、280nmの波長で吸収測定を行い、順次溶出させ
た。その最終精製の結果を第6A図及び第6B図に示し
た。
【0034】その結果、低分子と高分子のタンパク質が
単一ピークとしてそれぞれ55.6%と60.3%アセト
ニトリルに単離精製され、優れた分離能が得られた。さ
らに、Marysol電気泳動システム(Atto社製)を用
いSDS−ポリアクリルアミド電気泳動法と銀染色法を
行い、標準タンパク質マーカー(商品名:ファルマシア
社製)と比較し、これらのタンパク質の分子量と精製度
を決定した。その結果を第6A図及び第6B図に示す。
さらに生存維持活性、及びタンパク質の溶出パターン
(吸光度280nm)と溶出時間を示した。尚、神経生
存維持活性は試験例1−3記載の検定法に従って測定し
た。SDS−PAGE分析はLaemmliの系で作成
したポリアクリルアミドグラジェントゲル(4−20
%)を使用し、60mA定電流、60分間電気泳動を行
い、銀染色法によりタンパク質を検出した。タンパク質
分子量マーカー(シグマ社製)、カーボニック アンハ
イドラーゼ(29,000)、オボアルブミン(45,000)、ア
ルブミン(66,000)、ホスホリラーゼb(97,400)、β
−ガラクトシダーゼ(116,000)、ミオシン(205,00
0)。第6A図、第6B図の如く、低分子と高分子のタ
ンパク質がそれぞれ約60KDaと約180KDaに単一ピー
クとして得られ、ゲル濾過法の溶出分子量の結果と一致
していた。
【0035】さらに、高分子タンパク質は2−メルカプ
トエタノールによる還元条件下、約50KDaと約20KDa
のサブユニットに分離することよりヘテロテトラマーか
ら構成されるものであることが判明した。一方、低分子
タンパク質はメルカプトエタノール還元条件下、単一ピ
ークのままであり、一本鎖のポリペプチドからなること
が示唆された。第7図は系統的精製法により各ステップ
の比活性と分離効率のまとめであり、低分子と高分子の
最終精製タンパク質の比活性はそれぞれ534、325
3倍の上昇、精製度で1335、8133倍の大幅な増
加が確認され、最終収率は2.6×10-3、2.0×10-3
であった。尚、神経生存維持活性は試験例1〜3の検定
法に従って測定した。比活性及び分離能は生存維持活性
から算出した。収率は測定したタンパク量から計算し
た。
【0036】 <実施例3> アミノ酸組成と一次構造の決定 3−1 精製タンパク質のアミノ酸組成の決定 実施例2の精製法で最終精製した高分子タンパク質1nm
oleを6規定塩酸により加水分解し、凍結乾固後、測定
用バッファー(クエン酸リチウム緩衝液)に溶解し、L
C−6Aアミノ酸分析システム(島津製作所社製)を使
用して、各アミノ酸の含有量の測定を行った。その結
果、高分子タンパク質は次のアミノ酸組成を有すること
が判明した。 Ala 5.8 Asp 6.6 Arg 3.5 Glu 12.4
Gly 8.7 His 1.8 Ile 2.8 Leu 7.9 Phe 3.2
Pro 8.5 Ser 14.5 Thr 10.8 Tyr 4.2 Val 10.7 グルタミン酸、セリン、スレオニン、バリンの含有量が
比較的多いことを特徴とする高分子タンパク質であるこ
とが確認された。
【0037】3−2 精製タンパク質のN末端アミノ酸
の一次構造決定 実施例2記載の精製法で最終精製したタンパク質を用
い、気相プロテインシークエンサーModel 473
A(Applied Biosystems社製)にて、N末端アミノ酸の
一次構造決定を行った。同一条件下、標準アミノ各0.
5nmolを用い、各PTHアミノ酸の溶出時間から検体の
各アミノ酸のピークをアミノ酸配列自動解析コンピュー
タシステム610A(Applied Biosystems社製)により
同定し、一次構造解析を行った。
【0038】初めに、低分子タンパク質0.5nmolを用
い、常法に従い気相プロテインシークエンサーにてN末
端アミノ酸の一次構造解析を行った結果、次のアミノ酸
配列を有することが判明した。 Glu−Gln−Thr−Val−Val−Trp−T
rp−Asp−
【0039】次に、高分子タンパク質のサブユニットの
N末端アミノ酸の一次構造解析を検討した。第6B図の
SDS−PAGEの結果、ME(+)のカラムに2つの
タンパク質ピークが見られ、このタンパク質はヘテロテ
トラマーからなるサブユニット構造を呈することから、
タンパク質を2−メルカプトエタノールで還元後、4−
ビニルピリジンによりシステインとシスチンの修飾反応
を行い、気相プロテインシークエンサーにて、N末端ア
ミノ酸の一次構造解析を行った。実験的には、最終精製
したタンパク質1mgを0.6mlの5mMトリス緩衝液
(pH 8.3)に溶解し、30μlの2−メルカプトエタノ
ール(5%容量比)を添加し、撹拌しつつ30゜Cで2
時間反応させた。還元後、反応液に50μlの4−ビニ
ルピリジンを追加し、撹拌しつつ30゜Cで2時間反応
を継続した。
【0040】ピリジル化タンパク質(1mg)の単離精製
はプレップセル連続SDS−PAGEシステム(mod
el491、バイオラッド社製)を用い行った。反応混
合物に等量のサンプルバッファー(63mM TrisHCl、
10%glycerol、2%SDS、1.25×10-3%bromophenol blu
e、pH 6.8)を加え、10%のポリアクリルアミド分離
ゲル(3.7×10cm)に重層後、model3000xi
パワーサプライ(バイオ・ラッド社製)を用い、定電力
12W、15時間電気泳動を行った。エリューションバ
ファー(25mM Tris-base、192mM glycerol 0.1%SD
S pH8.3)により、流速1ml/minで溶出し、フラクショ
ンコレクターにて4.5mlづつ分取した。目的のタンパ
ク質はそれぞれ180min(20KDa)と270min(5
0KDa)にそれぞれ単一ピークとして単離された。タン
パク質の濃縮脱塩は実施例2記載の方法に従い、同一条
件下、逆相高速液体クロマトグラフィー(SPD7AD
システム、島津製作所社製)により行った。分取した目
的タンパク質の画分を凍結乾燥し、超純水に溶解後、フ
ァストSDS−PAGEシステム(ファルマシア社製)
を利用し確認後、精製タンパク質0.5nmolを用いシ−
クエンサーによる一次構造の解析を行った。
【0041】その結果、各サブユニット(20KDa、5
0KDa)の一次構造はそれぞれ次のアミノ酸配列を含有
することが判明した。 20KDaサブユニット Asp−Glu−Thr−Ala−Ala−Ala−L
ys−Phe− 50KDaサブユニット Glu−Gln−Leu−Val−Val−Trp−A
sp−Leu−
【0042】上記N末端アミノ酸の一次構造をDNAS
ISのデ−タ検索システム(日立ソフトウエアエンジニ
アリング社製)を使用し相同性検索を行い、アミノ酸8
残基に70%の高相同性をpancreatic ribonuclease
(Mt=13,700)に確認した。しかし、試験例1−3記
載の検定法に従いこの酵素の生存維持活性を測定し、ま
ったく認められなかったことより精製した因子と異なる
ことが確認された。さらに、この精製タンパク質をリシ
ルエンドペプチダーゼ酵素で消化したペプチド断片にも
既存の相同性を示すタンパク質が何等確認できなかっ
た。さらに、試験例1−3記載の検定法に従い、β−N
GF(1−200ng/ml)、b−FGF(30−80μg/ml)、
IGF−I(10−200nM)、インスリン(5−20μg/m
l)、α2−マクログロブリン(38−78μg/ml)などの
因子の生存維持活性を測定したがまったく活性が認めら
れず、いずれの因子も精製高分子タンパク質と異なるこ
とが明らかにされた。以上、新規な一次構造を有するタ
ンパク質であることが確証された。
【0043】本明細書におけるアミノ酸及びペプチドの
表記はIUPAC−IUB生化学委員会(CBN)で採
用された方法により略記し、次の略号を意味する。Al
a=L−アラニン、Arg=L−アルギニン、Asn=
L−アスパラギン、Asp=L−アスパラギン酸、Cy
s=L−システイン、Gln=L−グルタミン、Glu
=L−グルタミン酸、Gly=L−グリシン、His=
L−ヒスチジン、Ile=L−イソロイシン、Leu=
L−ロイシン、Lys=L−リジン、Met=L−メチ
オニン、Phe=L−フェニルアラニン、Pro=L−
プロリン、Ser=L−セリン、Thr=L−スレオニ
ン、Trp=L−トリプトファン、Tyr=L−チロシ
ン、Val=L−バリン
【0044】 <実施例4> 精製タンパク質の突起伸展作用の検討 精製タンパク質の神経突起伸展作用に対する影響をPC
12(phechromocytoma)細胞を用いて比較検討した。
試験例2に記載の検定法に従い、PC12細胞をポリ−
L−オルニチンで前処理したプラスチック培養皿に低密
度培養(104個/培養孔)し、検体をDMEM培地に
添加後、一週間培養し突起伸展活性を測定した。尚、検
体として実施例2で最終精製した高分子タンパク質10
nM(1.8mg/ml、180KDa)と限外濾過(セントリプ
レップ10)により濃縮脱塩(約20倍)した牛胎児血
清(Gibco社製)を使用した。神経突起の位相差顕
微鏡観察を行った結果、神経成長因子NGF(1−10ng/
ml)に用量依存的な神経突起伸長と突起形成が観察され
たが、いずれの精製タンパク質や血清にもまったく神経
突起伸展が認められなかった。従って、精製高分子タン
パク質はPC12細胞の神経突起伸展活性の無い、神経
成長因子NGFと異なる強力な生存維持活性を持つ神経
栄養因子活性タンパク質であることが判明した。
【0045】 <実施例5> 精製タンパク質の生物活性の比較検討 前記の実施例2で得たタンパク質を神経維持活性を指標
として生物活性を比較評価した。試験例1−2に記載し
た検定方法に従い、神経細胞はポリ−L−オルニチンで
前処理したプラスチック培養皿(12孔、コーニング社
製)に0.5×105個/培養孔の低密度で播植し、2日
毎に培地交換を行い、一週間単層培養した。血清培地は
10%血清を含んだDF培養液、無血清完全合成培地は
トランスフェリン、インスリン、プロゲステロンを含む
DF培養液を使用した。精製高分子タンパク質10nM
(1.8μg/ml、180KDa)は植え込み前にDF培地に
添加した。各培養条件下、生存神経細胞数は経時的に試
験例1−2に記載した検定法に従い測定した。
【0046】神経培養2日後の位相差顕微鏡観察によっ
て、無血清培養群では神経突起の伸展も遅れ、24時間
経過後、完全な神経細胞死が観察された。反対に、神経
細胞生存条件下、培養開始後2時間で一部の細胞から突
起の伸延が、24時間経過後神経突起によるネットワー
クの形成が観察された。10%血清、或いは精製高分子
タンパク質(10nM)添加群の培養細胞は良好な生存
状態が維持されていた。詳細な神経突起の写真観察か
ら、精製タンパク質添加により顕著な神経突起伸展が観
察された。
【0047】一方、精製高分子タンパク質を添加し、ポ
リ−L−オルニチンの前処理しないプラスチック培養皿
で培養した神経細胞は凝集し生存している様子が観察さ
れた。この結果から、高分子神経栄養因子活性タンパク
質は神経細胞の接着を促進する特性があることが示唆さ
れた。次に、生存維持活性の経時的変化の検討結果を第
8図に示した。即ち、試験例1−2に従い神経細胞をD
F培地に低密度培養し、種々の検体を添加し、経時的に
生存維持活性を試験例1〜3の検定法で測定した。DF
培地(●)、トランスフェリン、インスリン、プロゲス
テロンを含む無血清DF培養液(●)、10%血清を含
むDF培養液(〇)、高分子神経栄養因子活性タンパク
質(10nM、180KDa)(◇)、測定値は6回試行の
平均値±標準誤差として示した。低密度細胞培養(0.
5×105個/cm2)において、完全な神経細胞死が無血
清培地の培養1日後に観察されたが、血清添加はこの神
経細胞死を抑制し、生存維持活性を培養3日まで延長し
た。高分子神経栄養因子活性タンパク質の添加は神経細
胞の生存活性をさらに培養5日間まで延長し、顕著な保
護作用による促進効果が明らかになった。尚、同一条件
下トランスフェリンやカタラーゼのEC50はそれぞれ
13μMと425μMであり、精製した神経栄養因子活
性タンパク質が、より強力な促進効果を持つ因子である
ことも示唆された。
【0048】 <試験例1> 初代神経細胞培養とPC12細胞培養1−1 ラット胎児の摘出と酵素処理による細胞分散 胎生15−17日齢ラットの胎仔脳の神経細胞を単個化
し、初代培養として使用した。まず、妊娠ラットをエ−
テル麻酔し、回腹後、子宮を無菌的に摘出し、70%ア
ルコ−ルに浸し、PBS(−)で洗浄後、組織表面に付
着した血液を除去した。洗浄後、氷冷したカルシウム、
マグネシウム不含リン酸緩衝生理食塩水(以下PBS
−)混合液中で胎児から前脳を摘出し、さらに実体顕微
鏡下、氷上シャーレ内、残存している硬脳膜、随膜を除
去後、大脳を緩衝液の入った遠沈管に集めた。尚、この
混合液は他に10mMグルコース、1mM ピルビン酸、
20mM Hepes、3mM マグネシウム(pH 7.4)を含
有する緩衝液である。トリプシン(0.25%)を添加
し、37゜C、時々振盪しながらインキュベートした。
20分後、トリプシン処理液を除き、熱非働化した10
%胎児牛血清(5%馬血清)(Gibco社製)を含ん
だDF培養液を加え、トリプシンを不活性化した。尚、
DF培養液(大日本製薬社製)はダルベッコ変法イーグ
ル培地(以下DMEM)とハムF12培地(以下F−1
2)の1:1の混合培地で他にグルタミン(2mM)、
ピルビン酸(1mM)、Hepes(20mM)、ペニシ
リン(100u/ml)、ストレプトマイシン(100μg/
ml)、セレニウム(30nM)を含有する。
【0049】次に、DNase(0.1mg/ml、シグマ社
製)を添加後、組織塊をゆっくりとピペット用チップで
5回ピペッチングし、機械的に小片化、分散した。次
に、金属メッシュ(70μm)で未処理組織塊を濾過除
去後、1,000rpm(500g)、2分間遠沈し、
細胞及び細胞凝集体を回収した。さらに培養液で二回洗
浄後浮遊させ、最終的に金属メッシュ(30μm)で再
濾過した。細胞数の算定は血球計算盤(EDS社製)を
用い106個/mlにDF培養液を用い調整後、初代細胞
培養に使用した。
【0050】1−2 神経細胞培養 前記の試験例1−1で得た神経細胞をポリ−L−オルニ
チンかポリ−L−リジン(0.1mg/ml、0.1Mホウ酸
緩衝液、pH8.3)で前処理したプラスチック培養皿(1
2孔、3.8cm2培養面積、コーニング社製)に必要な
細胞密度(105-106個/培養孔)で播植し、週二回培地
交換を行い、95%O2、5%CO2、37°Cで一週間単
層培養した。必要に応じグリア系細胞の生育抑制はAr
aC(10μM)を培地中に添加し行った。この条件
下、生存細胞は98%以上が神経細胞であった。血清培
地は5%胎児牛血清と5%馬血清を含んだDF培養液、
無血清完全合成培地はトランスフェリン(100μg/m
l)、インスリン(5μg/ml)、プロゲステロン(20n
M)を含むDF培養液を使用した。他の薬剤は記載され
た濃度を植え込み前や、培養2日目に培地中に添加し、
培養を継続した。神経栄養因子活性タンパク質の単離精
製の際、生存維持活性の検定は各画分をセントリプレッ
プ10(分画分子量10,000、アミコン社製)を用
い、限外濾過による濃縮脱塩後、10μl−150μl範囲の
検体を培地中に添加し、生存神経細胞数の測定を行っ
た。
【0051】1−3 神経生存維持活性の検定 試験例1−2記載の初代神経細胞培養を用い、検体を細
胞植え込み前に添加し、経時的に、生存細胞数をトリパ
ン ブルー(0.4%)染色後位相差像観察により算定
した。位相差像観察は位相差顕微鏡下、培養孔当たり4
視野の生存神経細胞数を定量的に計測し、播植時の総細
胞数当たりの割合を算出した。或いは、血清の添加によ
り生存した神経細胞を用い、培養2〜3日目、それぞれ
の条件除去による神経細胞死を惹起し、検体の添加によ
る影響を上記の検定法に従い、生存細胞数を測定した。
試行は4回行い、その平均値±平均誤差を測定値として
算定した。
【0052】1−4 神経培養上清の調整 神経細胞をポリ−L−オルニチンの前処理を施したプラ
スチック培養フラスコ(75cm2培養面積、ファルコン
社製)に高密度(>106cells/cm2)で播植し、50mlの
5%胎児牛血清、5%馬血清、グルタミン(2mM)、
ピルビン酸(1mM)、Hepes(20mM)、ペニシ
リン(100u/ml)、ストレプトマイシン(100μg/
ml)、セレニウム(30nM)を含有するDF培養液(D
MEM:F−12、1:1)を用いて、二日毎に培地交
換を行い、95%O2、5%CO2、37°Cで一週間単
層培養し、培養上清を回収した。
【0053】<試験例2> PC12細胞培養2−1 神経突起伸展活性の検定 副腎随質由来のPC12(phechromocytoma)細胞をポ
リ−L−オルニチン(0.1mg/ml、0.1Mホウ酸緩衝
液、pH8.3)で前処理したプラスチック培養皿(12
孔、3.8cm2培養面積、コ−ニング社製)に104個を
植え込み検体や10%牛胎児血清を含むDMEM培地で
95%O2、5%CO2、37゜Cで一週間単層培養し
た。対照液として、神経成長因子NGFを1−10ng/m
l添加し、神経突起の伸長を確認して行った。検体の神
経突起伸展活性は位相差顕微鏡下で神経突起の有無を調
べ、NGF(1−3ng/ml)添加群による最大突起形成
と比較し、検定した。
【0054】
【配列表】
配列番号:1 配列の長さ:8 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列番号:2 配列の長さ:8 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド 配列番号:3 配列の長さ:8 配列の型:アミノ酸 トポロジー:直鎖状 配列の種類:ペプチド
【図面の簡単な説明】
【図1】 神経栄養因子活性タンパク質の単離精製法。
【図2】 アフィニティークロマトグラフィーにおける
神経栄養因子活性タンパク質の比活性。
【図3】 イオン交換クロマトグラフィーによる神経栄
養因子活性タンパク質の溶出パタ−ン。
【図4】 疎水性クロマトグラフィーによる神経栄養因
子活性タンパク質の溶出パターン。
【図5】 ゲル濾過法による神経栄養因子活性タンパク
質の溶出パターン。
【図6】 神経栄養因子活性タンパク質の逆相HPLC
とSDS−PAGE分析。
【図7】 神経栄養因子活性タンパク質の比活性、精製
及び収率。
【図8】 神経栄養因子活性タンパク質の生存維持活性
の比較検討。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 非還元条件下で分子量180KDaのヘテロテ
    トラマーから構成され、 (i) 次のアミノ酸組成を有し: Ala 5.8 Asp 6.6 Arg 3.5 Glu 12.4
    Gly 8.7 His 1.8 Ile 2.8 Leu 7.9 Phe 3.2
    Pro 8.5 Ser 14.5 Thr 10.8 Tyr 4.2 Val 10.7 (ii) 該ヘテロテトラマーの各サブユニット(2−メル
    カプトエタノール還元条件下で20KDa及び50KDa)のN末
    端アミノ酸の一次構造が、次のアミノ酸配列を有する: 20KDaサブユニット Asp-Glu-Thr-Ala-Ala-Ala-Lys-
    Phe- 50KDaサブユニット Glu-Gln-Leu-Val-Val-Trp-Asp-
    Leu- ものであることを特徴とする新規タンパク質。
  2. 【請求項2】 非還元条件下で分子量60KDaの一本鎖ポ
    リペプチドから構成され、N末端アミノ酸の一次構造が
    次のアミノ酸配列を有する新規タンパク質。 Glu-Gln-Thr-Val-Val-Trp-Trp-
    Asp-
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