JPH0617820A - 摺動部材 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 摺動接触面での微小な往復相対運動によりハ
ウジング部材側にフレッチング摩耗が発生するのを防止
することができる摺動部材を提供する。 【構成】 軸受メタル１ａの背面にある鋼製基体１ｂの
アルミニウムまたはアルミニウム合金製ハウジング部材
３側表面に、銅，ニッケル，金のうちの１種または２種
以上よりなる中間層１ｄを介して、銀または銀合金のめ
っき層１ｃを設けた摺動部材１。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】本発明は、各種の摺動部分に用い
られる摺動部材に関し、例えば、内燃機関用すべり軸受
メタルやブッシュなどとして利用するのに好適な摺動部
材に関するものである。

【０００２】

【従来の技術】近年、特に、自動車の燃費向上，性能向
上が強く求められるようになってきており、そのための
ひとつの手段として自動車部品の軽量化が進められてい
る。

【０００３】その中で、自動車エンジンのピストンとク
ランクシャフトとを連結するのに用いるコネクティング
ロッド（以下「コンロッド」とする。）においては、ア
ルミニウム合金の適用が活発に検討されており、なかで
も、高強度，高剛性を有するアルミニウム粉末合金材料
やアルミニウム合金粉末とセラミックス粉末との複合材
料などが注目されている。

【０００４】一方、内燃機関用に用いられるすべり軸受
およびブッシュは、通常の場合、複層構造になってお
り、裏金と称する鋼板上に、銅−鉛系等のケルメット合
金やアルミニウム−錫系，アルミニウム−錫−鉛系等の
アルミニウム合金などからなる摺動材が設けられ、さら
に必要に応じて、耐焼付性およびなじみ性を付与するた
めに、鉛系や錫系の低融点合金が被覆されているものが
用いられる。また、背面には、耐食性や相手材とのなじ
み性を向上させるために錫のフラッシュめっきあるいは
鉛−錫系めっきがなされている場合もある。

【０００５】

【発明が解決しようとする課題】しかしながら、アルミ
ニウム合金よりなるコンロッドが、より高速かつ高負荷
下にて使用されるようになると、コンロッドの大端孔と
従来の軸受メタル背面との接触面での微小な往復相対運
動により、コンロッド側にフレッチング摩耗が発生し、
その摩耗部分を起点としたフレッチング疲労により破損
する可能性があるという問題点があった。

【０００６】また、コンロッドの小端孔と従来のブッシ
ュ背面との接触面にも同様の問題点があった。

【０００７】もちろん、これらの問題点は、コンロッド
の形状変更により解決することが可能な場合もあるが、
剛性向上などの解決策はいずれもコンロッドの重量増加
につながり、軽量化効果が低減してしまうという問題点
があることから、これらの問題点を解決することが課題
として存在していた。

【０００８】

【発明の目的】本発明は、上記したような従来の課題に
かんがみてなされたものであって、摺動接触面での微小
な往復相対運動によりハウジング部材側にフレッチング
摩耗が発生するのを防止し、フレッチング摩耗部分を起
点としたフレッチング疲労による破損を生じがたい摺動
部材を提供することを目的としている。

【０００９】

【課題を解決するための手段】本発明に係わる摺動部材
は、アルミニウムまたはアルミニウム合金製ハウジング
部材に摺動接触するのに使用されるものであって、軸受
層を支持する鋼製基体のハウジング部材側表面に銀また
は銀合金のめっき層を設けた構成としたことを特徴とし
ており、実施態様においては、鋼製基体のハウジング部
材側表面に厚さ１〜３０μｍの銀または銀合金のめっき
層を設けた構成とし、また、同じく実施態様において
は、鋼製基体とめっき層との間に、銅，ニッケル，金の
うちの１種または２種以上よりなる中間層を設けた構成
としたことを特徴としている。

【００１０】図１は本発明に係わる摺動部材の一実施態
様を示しており、摺動部材１がすべり軸受メタルである
場合を示している。

【００１１】すなわち、図１に示す摺動部材１は、軸部
材２と摺動接触する軸受メタル１ａの背面に鋼製基体１
ｂをそなえ、この鋼製基体１ｂのハウジング部材側表面
に銀または銀合金のめっき層１ｃを設け、このめっき層
１ｃでアルミニウムまたはアルミニウム合金製ハウジン
グ部材３と摺動接触するようにした構成をなすものであ
る。

【００１２】図２は本発明に係わる摺動部材の他の実施
態様を示すものであって、摺動部材１が前記と同じくす
べり軸受メタルである場合を示している。

【００１３】すなわち、図２に示す摺動部材１は、軸部
材２と摺動接触する軸受メタル１ａの背面に鋼製基体１
ｂをそなえ、この鋼製基体１ｂのハウジング部材側表面
に銅，ニッケル，金のうちの１種または２種以上よりな
る中間層１ｄを設け、前記鋼製基体１ｂのハウジング部
材側表面に、前記中間層１ｄを介して、銀または銀合金
のめっき層１ｃを設け、このめっき層１ｃでアルミニウ
ムまたはアルミニウム合金製ハウジング部材３と摺動接
触するようにした構成をなすものである。

【００１４】図３は本発明に係わる摺動部材のさらに他
の実施態様を示すものであって、摺動部材１１がブッシ
ュである場合を示している。

【００１５】すなわち、図３に示す摺動部材１１は、軸
部材１２に設けられる鋼製基体１１ｂの摺動相手部材側
表面に銀または銀合金のめっき層１１ｃを設け、このめ
っき層１１ｃでアルミニウムまたはアルミニウム合金製
ハウジング部材１３と摺動接触するようにした構成をな
すものである。

【００１６】図４は本発明に係わる摺動部材のさらに他
の実施態様を示すものであって、摺動部材１１が上記と
同じくブッシュである場合を示している。

【００１７】すなわち、図４に示す摺動部材１１は、軸
部材１２に設けられる鋼製基体１１ｂの摺動相手部材側
表面に銅，ニッケル，金のうちの１種または２種以上よ
りなる中間層１１ｄを設け、前記鋼製基体１１ｂのハウ
ジング部材側表面に、前記中間層１１ｄを介して、銀ま
たは銀合金のめっき層１１ｃを設け、このめっき層１１
ｃでアルミニウムまたはアルミニウム合金製ハウジング
部材１３と摺動接触するようにした構成をなすものであ
る。

【００１８】本発明に係わる上記すべり軸受メタルやブ
ッシュなどの摺動部材１，１１は、鋼製基体１ｂ，１１
ｂのハウジング部材側表面に、場合によっては銅，ニッ
ケル，金のうちの１種または２種以上よりなる中間層１
ｄ，１１ｄを介して、銀または銀合金のめっき層１ｃ，
１１ｃを設けた構造をなすものであるが、前記摺動部材
１，１１の表面に設けた銀または銀合金のめっき層１
ｃ，１１ｃは、フレッチング摩耗の原因となる鋼製基体
１ｂ，１１ｂとアルミニウムまたはアルミニウム合金製
ハウジング部材３，１３との接触を防ぐ目的で施すもの
であって、固体潤滑剤として摩擦係数を減少させる点、
および銀または銀合金のめっき層１ｃ，１１ｃ自身はア
ルミニウムまたはアルミニウム合金と接触してもこのア
ルミニウムまたはアルミニウム合金を摩耗させない点が
他のめっき層と比較して優れている。

【００１９】また、例えば、自動車エンジンのクランク
シャフトとコンロッド大端部との間で用いられるすべり
軸受メタルや、ピストンピンとコンロッド小端部との間
で用いられるブッシュである場合に、コンロッドの軸受
メタル背面やブッシュ背面は、エンジン中でのコンロッ
ドの加熱に加え、すべりによる摩擦熱によって局所的に
高温になるため、めっき層には高融点でかつ高熱伝導率
であることも要求されるが、銀および銀合金はその要求
も満足するものとなる。

【００２０】さらに、高温下においては、コンロッドで
あるアルミニウム合金と軸受メタル材料との相互拡散を
抑えることが重要であるが、拡散係数の小さい銀はこの
点においても有効であり、同様に拡散係数の低いＳｂ，
Ｚｎを銀中に例えば２０％以下の範囲で加えても同様な
効果がある。

【００２１】すなわち、フレッチング防止のために施す
層には面圧に耐える強度と潤滑に必要な柔らかさのバラ
ンスが広い温度域にわたって要求されるのであるが、こ
の点に関し、本発明者は、低融点のＰｂ，Ｓｎをめっき
としても溶け出しや軟化によるめっき層の偏肉によりフ
レッチング摩耗の発生を防止できないことを実験により
確認している。

【００２２】次に、銀または銀合金のめっき層の厚さで
あるが、１μｍ未満であると僅かの摩耗によりアルミニ
ウムまたはアルミニウム合金（よりなるハウジング部
材）と鋼（よりなる鋼製基体）とが接触してしまうよう
になるので好ましくなく、３０μｍを超えると、めっき
層が偏肉した場合に、例えば自動車エンジンのコンロッ
ドに用いたときに、軸受メタルの内側のクランクシャフ
トとのクリアランス、ブッシュの内側とピストンピンと
のクリアランスが適性値に保てず、焼き付き等の原因と
なるので好ましくない。

【００２３】また、自動車エンジンの摺動部に用いられ
るめっきは、一般の作動状態と異なり、高温でかつ高負
荷の厳しい環境におかれる。このため、めっきの密着状
態が不十分の場合には、めっき層のはくりや脱落が起こ
るので問題となる。したがって、鋼（よりなる鋼製基
体）と銀または銀合金（のめっき層）との間に、中間層
（密着層）として銅，ニッケル，金のいずれかをめっき
したり、鋼側から銅，ニッケルあるいは銅，金の順で複
層めっきすることが望ましい。

【００２４】

【発明の作用】本発明に係わる摺動部材では、鋼製基体
のハウジング部材側表面に銀または銀合金のめっき層を
設け、前記銀または銀合金のめっき層を介してアルミニ
ウムまたはアルミニウム合金製ハウジング部材と摺動接
触させるようにしているので、銀または銀合金のめっき
層の介在によって、固体潤滑剤として作用することによ
り摩擦係数が減少することになると共に、アルミニウム
またはアルミニウム合金と接触してもこれらの摺動相手
部材を摩耗させないこととなり、高温環境や摩擦熱の発
生により高温となったときでも銀および銀合金は高融点
でかつ高熱伝導率のために十分な耐熱性を有しているこ
とから、摺動特性のより一層の向上がもたらされるもの
となる。

【００２５】

【実施例】この実施例では、通常のコンロッド用軸受メ
タルおよびブッシュの背面に、以下のめっき方法によっ
て銀めっきを施して本発明の実施例とした。

【００２６】図１および図３に示すように、軸受メタル
（１）およびブッシュ（１１）の裏金としての鋼製基体
１ｂ，１１ｂの背面、すなわちハウジング部材（３，１
３）側表面に、アルカリ脱脂，塩酸処理など通常のめっ
き前処理を施した後、表１に示す浴組成のシアン化銀め
っき浴を用いて銀めっきを施した。この場合、２０分間
の通電で５μｍの厚さの銀皮膜よりなるめっき層１ｃ，
１１ｃを得た。また、銀めっきと反対側の軸部材２，１
２側には、銀めっきがまわらないように、市販のめっき
防止剤を塗布し、めっき後にはこれをはがした。さら
に、図２，図４に示すように、密着層としての中間層１
ｄ，１１ｄを介在させる場合には、前処理の終了後、銅
の場合は通常のシアン化銅めっき浴、ニッケルの場合は
硫酸浴、金の場合はシアン浴で行い、０．１〜１μｍの
厚さに付着させた。また、合金めっきを行う場合には、
シアン化銀浴中に必要量の添加元素のシアン化合物を添
加した。

【００２７】

【表１】

【００２８】次いで、上記実施例による軸受メタルとブ
ッシュを組み込んだコンロッド、および比較例として銀
めっきを施さない通常の軸受メタルとブッシュを組み込
んだコンロッドを供試材とし、表２に示すフレッチング
テスト条件により油圧式疲労試験機でコンロッドに繰り
返し荷重を負荷した。

【００２９】

【表２】

【００３０】その結果、銀めっきを施さない通常の軸受
メタルおよびブッシュを用いたコンロッドの大端孔およ
び小端孔には、２×１０^６サイクル後にすでにフレッチ
ング摩耗が発生していたのに対して、背面に銀あるいは
銀合金めっきを施しかつ場合によっては中間層を設けた
実施例の軸受メタルおよびブッシュを用いたコンロッド
の大端孔および小端孔には、１０^７サイクル後でもフレ
ッチング摩耗が発生していなかった。

【００３１】なお、上記実施例では、摺動部材がリング
状をなす軸受メタルおよびブッシュである場合を例にと
って説明したが、このようなものにのみ限定されないも
のであり、摺動面が円弧形状をなす場合に限らず、平面
形状をなす摺動部材などに適用してもフレッチング摩耗
の防止，フレッチング疲労による破損の防止をはかるこ
とができる。

【００３２】

【発明の効果】以上説明してきたように、本発明に係わ
る摺動部材では、鋼製基体のハウジング部材側表面に銀
または銀合金のめっき層を設け、前記銀または銀合金の
めっき層を介してアルミニウムまたはアルミニウム合金
製ハウジング部材と摺動接触させるようにしているの
で、銀または銀合金のめっき層の介在により固体潤滑剤
として作用することによって摩擦係数が減少することに
なると共に、アルミニウムまたはアルミニウム合金と接
触してもこれらのハウジング部材を摩耗させないことと
なり、高温環境や摩擦熱の発生により高温となったとき
でも銀および銀合金は高融点かつ高熱伝導率のために十
分な耐熱性を有していることから、摺動特性のより一層
の向上を実現することが可能となり、例えば、自動車エ
ンジンのコンロッド大端部における軸受メタルおよびコ
ンロッド小端部におけるブッシュとして使用された場合
において、アルミニウム合金よりなるコンロッドがより
高速かつ高負荷下にて使用されたときでも、コンロッド
大端孔と軸受メタル背面との接触面、およびコンロッド
小端孔とブッシュ背面との接触面においてフレッチング
摩耗が発生するのを防止することが可能になるという著
しく優れた効果がもたらされる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の一実施態様を示す摺動部材（すべり軸
受メタル）の部分縦断面説明図である。

【図２】本発明の他の実施態様を示す摺動部材（すべり
軸受メタル）の部分縦断面説明図である。

【図３】本発明のさらに他の実施態様を示す摺動部材
（ブッシュ）の部分縦断面説明図である。

【図４】本発明のさらに他の実施態様を示す摺動部材
（ブッシュ）の部分縦断面説明図である。

【符号の説明】

１，１１ 摺動部材 １ｂ，１１ｂ 鋼製基体 １ｃ，１１ｃ 銀または銀合金のめっき層 １ｄ，１１ｄ 中間層 ３，１３ アルミニウムまたはアルミニウム合金製ハウ
ジング部材

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 大 川 広 衛 千葉県習志野市実籾町１ノ687 エヌデー シー株式会社内 (72)発明者 梅 山 辰 雄 千葉県習志野市実籾町１ノ687 エヌデー シー株式会社内

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 アルミニウムまたはアルミニウム合金製
   ハウジング部材に摺動接触する摺動部材であって、軸受
   層を支持する鋼製基体のハウジング部材側表面に銀また
   は銀合金のめっき層を設けたことを特徴とする摺動部
   材。
2. 【請求項２】 鋼製基体のハウジング部材側表面に厚さ
   １〜３０μｍの銀または銀合金のめっき層を設けた請求
   項１に記載の摺動部材。
3. 【請求項３】 鋼製基体とめっき層との間に、銅，ニッ
   ケル，金のうちの１種または２種以上よりなる中間層を
   設けた請求項１または２に記載の摺動部材。