JPH0119098B2 - - Google Patents

Description

【発明の詳細な説明】 本発明は、種々な環境条件下で不感蒸泄から発
汗領域までの種々な人体条件が連続的に形成で
き、衣服内気候、即ち、衣服の水分と熱のトラン
スポート特性の両方を同時に、且つ、経時的に計
測できる衣服内気候シミユレーシヨン方法および
装置に関するものである。繊維製品を設計する場
合、快適性は重要な対象である。快適性は、環
境、人体の活動状態、被服・布の性質、個々人の
イメージなどの要因が関与する。これらの要因の
なかで衣服は水分や熱や空気の移動を遮断するの
ではなく、皮膚面を生理学的な意味で快適と感じ
る状態に保つように移動速度を制御する手段であ
る点から、水分と熱のトランスポート特性が衣服
の快適性にとつて重要となる。ここで、「人間と
技術社」が1973年に発行した日本人間工学会衣服
部会編の「衣服と人体」によれば、種々な気候状
態の中で、人間が快適と感じる衣服内気候は温度
32±１℃、湿度50±10％RH、気流25±15cm／
secのときである。

従来から、水分と熱のトランスポート特性に関
しては、(1)人間に衣服を着装させ、衣服内気候要
因、生体要因を検討したもの(2)保温性、吸放湿
性、透湿性、吸水性などの１つの特性を個々に取
り上げ定常状態を測定するものなどがあるが、こ
れらは(1)人間が複雑な要因をはらみすぎる(2)人
体、環境ともに刻々と状況が変化しており、日常
経験していることは過渡現象であり、水分、熱併
存系の現象であることから、着装あるいは個々の
定常状態の特性の測定からの水分と熱のトランス
ポート特性の解析は困難であつた。このため、水
分、熱のトランスポート特性の解析には、環境―
衣服―人体系を装置実験的ないしは電気的にシミ
ユレートする方法が望ましく、人間が置かれる環
境条件や人体の活動状態によつてもたらされる発
汗量に相当する水分量を単純化した条件で皮膚モ
デルを介して試料に強制的に与えるシミユレーシ
ヨン装置が開発されている。このシミユレーシヨ
ン装置としては、(1)擬似皮膚として素焼き板を用
い、布の水分の毛管伝導度、拡散抵抗および等温
吸着曲線を測定するもの、(2)擬似皮膚として焼結
ステンレスを用い布の水分移動を測定するもの、
(3)穴あき銅板になめし皮を乗せたものを擬似皮膚
とし、皮膚温及び布表面温度を測定するもの、(4)
擬似皮膚として濡れたセロフアンを用い、皮膚温
を測定するもの、(5)擬似皮膚としてガラスフイル
ターを用い、発汗シミユレーシヨン装置により衣
服内気候部の湿度を測定するものなどがある。し
かしながら、これらはいずれも発汗状態のみを扱
つたものであり、水分と熱のトランスポート特性
は互いに独立ではなく、それぞれ関連しながら挙
動するが、水分あるいは熱の一方の特性のみに着
目して定常状態における特性を測定したものが主
である。そのため、これらの装置、測定方法では
実際の着用状態や条件と一致せず水分と熱のトラ
ンスポート特性ひいては快適性を総合的に把握で
きたものとは云い難い。

本発明の方法と装置においては、種々な環境条
件下で不感蒸泄〜発汗領域までの種々な人体条件
が連続的に形成でき、衣服内気候、即ち、衣服の
水分と熱のトランスポート特性が両方同時に（水
分と熱の併存系）経時的に過渡状態も含め計測し
うる。このようにして得られた水分と熱のトラン
スポート特性のうち、用途に応じて衣服内の整流
速度定数、温度速度定数、水分量（湿度）速度定
数、快適温度到達時間、快適温度維持時間などを
適宜パラメーターとすることにより、快適性のあ
る衣服の設計が容易に行える。

本発明は風洞部と人体条件再現部からなる装置
を用いて、前記人体条件再現部に溌水性多孔質フ
イルム製の擬似皮膚と衣服に相当する試料からな
る衣服内気候部を導入し、前記風洞部の環境条件
を制御し、次いで前記人体条件再現部にて不感蒸
排泄から発汗領域までの人体条件を形成しつつ衣
服内気候部にて水分と熱のトランスポート特性を
同時に、かつ経時的に計測することを特徴とする
衣服内気候シミユレーシヨン方法および温度、湿
度、気流などの環境条件を制御する装置を有する
風洞部の中に表面温度、相対湿度の可変調整機能
を有するボツクスの上面に、溌水性多孔質フイル
ムよりなる擬似皮膚を展張固定して形成した人体
条件再現部、および前記擬似皮膚に接近した上面
に衣服に相当する試料を展張し、擬似皮膚面と試
料面とで形成された空隙部の中に、温度、湿度、
熱流を測定するセンサーを設けた衣服内気候を形
成したことを特徴とする衣服内気候シミユレーシ
ヨン装置である。

以下、本発明を図面に記載した一実施例により
詳細に説明する。

第１図は本発明のシミユレーシヨン装置を示す
模式縦断側面図である。本装置は温度、湿度、気
流など外界の環境条件を制御（変化）する装置を
有する風洞部Ａ、人体条件再現部Ｂおよび擬似皮
膚と衣服（試料）とで形成される衣服内気候部Ｃ
とからなる。風洞部Ａでは送風機４に組み込んだ
ヒーター１とサーモスタツト２により温度が０〜
50℃に、調湿液３により相対湿度が20〜100％
RHに、送風機４、整流器５による気流を日本工
学社製アネモマスター風速計６で検知し、調節す
ることにより風速０〜５ｍ／secに制御でき、そ
れらの組み合せにより寒冷環境、暑熱環境などの
種々な環境条件が形成でき、衣服の用途に応じた
環境条件下での測定を可能にしている。

第２図は、第１図に示した人体条件再現部Ｂお
よび衣服内気候部Ｃの拡大詳細側面図である。表
面温度、相対湿度を可変調整し得るようにしたボ
ツクスＤの上面に撥水性多孔質フイルムよりなる
擬似皮膚７を展張固定して人体条件再現部を形成
する。表面温度、相対湿度を可変調整するため
に、擬似皮膚７直下のボツクス内の水をヒーター
８で加熱し、水温をサーモスタツト９及びマグネ
チツクスターラー１０で撹拌コントロールする。
こうすることにより、擬似皮膚表面温度を10〜40
℃、擬似皮膚面の相対湿度を30〜100％RHに設
定でき、不感蒸泄〜発汗領域までの人体条件を連
続的に形成しうる。前述した擬似皮膚７として用
いる撥水性多孔質フイルムは、孔径0.2〜100μの
微小孔を多数有するポリテトラフルオロエチレ
ン、ポリエチレン、ポリプロピレン、高密度ポリ
エステルなどが適当であるが、特にポリテトラフ
ルオロエチレン、ポリプロピレンが好ましい。擬
似皮膚として用いるフイルムが撥水性で、水の分
子の数万分の１、水蒸気の数百倍の大きさの微小
孔を多数有するため、環境、衣服内気候に応じて
不感蒸泄〜発汗領域までの発汗状態が形成でき
る。撥水性でないフイルムあるいは孔径が100μ
を越えるフイルムを用いた場合には、徐々に水が
浸透し、発汗の程度のうち、不感蒸泄のみの場合
が形成できない。前記擬似皮膚７に接近して、例
えば、０〜６mm離れた上面に衣服に相当する試料
１１を展張し、擬似皮膚７と試料１１とで形成さ
れた空隙部、即ち、衣服内気候部Ｃを形成する。
衣服と皮膚との間隔を０〜６mmと設定したのは実
際着用時の衣服間隔が衣服の濡れている程度によ
り０〜６mmの間隔を保つためである。該衣服内気
候部Ｃの中に可変調整しうる公知の熱流計センサ
ー１２、温湿度センサー１３を組み込むことによ
つて、熱流量および衣服内温度と衣服内湿度（水
分量）、即ち、水分と熱のトランスポート特性を
両方同時に、かつ、経時的に過渡状態も含め計測
できる。

以上述べた如き本発明のシミユレーシヨン方法
および装置は、種々な環境条件下で、不感蒸泄〜
発汗領域までの種々な人体条件が形成可能であ
り、衣服内気候部の水分と熱のトランスポート特
性を同時に且つ経時的に計測することができる。
また、人間が置かれる環境条件や人体の活動状態
によつてもたらされる発汗の程度は不感蒸泄のみ
の場合、汗をかいているがわずかの場合、衣服が
ぬれる程汗をかいている場合の３つに区分できる
が、本発明においてはどのような発汗状態を想定
した測定も可能である。また、従来の皮膚モデル
を使つたシミユレーシヨン装置では、発汗状態の
みを想定し、水分あるいは熱の一方の特性のみに
着目して定常状態における特性を測定したものが
主で快適性との適合度が低いのに対し、本発明に
よると、衣服内気候部の温湿度、熱流量すなわ
ち、水分と熱のトランスポート特性が両方同時に
経時的に過渡状態も含め計測できる。この結果、
水分と熱のトランスポート特性が容易に解析で
き、快適性との適合度が高められ、用途に応じて
衣服内気候部の熱流速度定数、トータルの熱流
量、温度速度定数、水分量（湿度）速度定数、快
適温度到達時間、快適温湿度維持時間などを適宜
パラメーターとすることにより衣服材料、組織な
どを適宜選ぶことによつて快適性のある衣服の設
計が容易に行なえる。

次に、本発明の第１図に示す装置を用いて、冬
用肌着、特にスキー用肌着の水分、熱のトランス
ポート特性を測定した測定例を示す。第１図に示
す如きシミユレーシヨン装置を低温室に入れ、温
度４±0.5℃、調湿液として硫酸アンモニウム飽
和水溶液を用いることにより相対湿度83％RH、
気流0.1ｍ／secの寒冷環境条件に制御する。人体
条件再現部は孔径5μのポリテトラフルオロエチ
レンからなる多孔質フイルムを擬似皮膚とし、皮
膚表面温は35±0.5℃、皮膚面の湿度100％RHで
不感蒸泄〜発汗状態まで連続的に変化させた。擬
似皮膚と試料とは６mmの間隔をもたせ、試料が肌
着のため、実際の着装状態に近づけるため、試料
とさらに６mmの衣服間隔を保つて、ダウンジヤケ
ツト用布あるいは、３枚のポリエステル繊維布を
配置した。肌着の試料としては、(1)表ナイロン
100％、裏綿100％の二重メリヤス編地、(2)ウール
２／４８′^S100％16ゲージスムース編地、(3)綿：ナイ
ロン：綿が40：20：40である三層構造フライス編
地の３種類を用いた。第３図は表ナイロ100％、
裏綿100％の二重メリヤス編地の肌着を着て、そ
の上に、ダウンジヤケツトあるいはポリエステル
繊維布３枚を着用した状態、第４図は、ウール2/
４８′^S100％の16ゲージスムース編地よりなる肌着
を着て、その上にダウンジヤケツトを着用した状
態、第５図は、綿：ナイロン：綿が40：20：40で
ある三層構造フライス編地よりなる肌着を着て、
その上にダウンジヤケツトを着用した状態のそれ
ぞれ衣服内温間―時間の関係を示す図である。こ
れによつて冬用肌着のような用途に対しては、快
適温度（前述したように快適温度は32±１℃）到
達時間および快適温度維持時間をパラメーターと
することにより快適性のある衣服設計が容易に行
なえる。また、上記の例においては本発明によつ
て快適温度到達時間および快適温度維持時間をパ
ラメーターとして把握したが、目的用途によつ
て、衣服内の熱流速度定数、温度速度定数、水分
量（湿度）速度定数などパラメーターとすること
ができる。

【図面の簡単な説明】

第１図〜第２図は本発明装置の一実施例を示す
ものであつて、第１図は模式縦断側面図、第２図
は人体条件再現部および衣服内気候部の拡大詳細
側面図である。第３図〜第５図は、本発明方法お
よび装置を用いて測定した衣服内温度―時間の関
係を示す図である。 Ａ…風洞部、Ｂ…人体条件再現部、Ｃ…衣服内
気候部、Ｄ…ボツクス、７…擬似皮膚、１１…試
料。

Claims (1)

1. 【特許請求の範囲】 １ 風洞部と人体条件再現部からなる装置を用い
   て、前記人体条件再現部に溌水性多孔質フイルム
   製の擬似皮膚と衣服に相当する試料からなる衣服
   内気候部を導入し、前記風洞部の環境条件を制御
   し、次いで前記人体条件再現部にて不感蒸排泄か
   ら発汗領域までの人体条件を形成しつつ衣服内気
   候部にて水分と熱のトランスポート特性を同時
   に、かつ経時的に計測することを特徴とする衣服
   内気候シミユレーシヨン方法。 ２ 温度、湿度、気流などの環境条件を制御する
   装置を有する風洞部の中に表面温度、相対湿度の
   可変調整機能を有するボツクスの上面に、溌水性
   多孔質フイルムよりなる擬似皮膚を展張固定して
   形成した人体条件再現部、および前記擬似皮膚に
   接近した上面に衣服に相当する試料を展張し、擬
   似皮膚面と試料面とで形成された空隙部の中に、
   温度、湿度、熱流を測定するセンサーを設けた衣
   服内気候部を形成したことを特徴とする衣服内気
   候シミユレーシヨン装置。