JP7861925B2 - 糖鎖調製方法及び糖鎖分析方法 - Google Patents

糖鎖調製方法及び糖鎖分析方法

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本発明は、糖鎖調製方法及び糖鎖分析方法に関する。
本願は、2023年9月29日に出願された日本国特願2023-169184号、2024年4月26日に出願された日本国特願2024-072974号、2024年7月16日に出願された日本国特願2024-113192号、2023年9月29日に出願された日本国特願2023-168984号、2024年4月26日に出願された日本国特願2024-072852号、2024年7月16日に出願された日本国特願2024-113238号、に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
生体を構成するタンパク質の多くは糖鎖修飾を受け、糖鎖が結合した糖タンパク質として存在している。糖タンパク質の糖鎖の構造及び分布は、タンパク質の機能発現に関与し、数多くの疾患の発症や進行に伴って糖鎖構造が変化することが知られている。
そのため、糖タンパク質の構造解析は、糖鎖構造変化を伴う種々の疾患の発症機構の解明や、疾患治療及び診断技術の開発等、生命科学や医療、創薬等の種々の技術分野において重要な役割を果たすことが期待されている。一般に、糖タンパク質に結合した糖鎖の分析は、糖タンパク質から糖鎖を遊離させた後、得られた遊離糖鎖に対して行われている。
糖タンパク質から遊離糖鎖を調製するために、糖タンパク質から遊離させた糖鎖を、糖鎖に特異的に結合する担体に捕捉させて回収する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法では、電気泳動で用いられる泳動ゲルに保持された糖タンパク質から糖鎖を遊離させ、遊離させた糖鎖を捕捉担体で捕捉した後、捕捉担体に結合した糖鎖を再遊離させる方法を含む。この方法においては、糖鎖の再遊離をラベル化試薬との交換反応によって行う。
また、本発明者らは、安全かつ安価な薬品を用いて、また特別なシステムを用いることなく短時間の処理時間でO結合型糖鎖をタンパク質から遊離し遊離糖鎖を調製する方法として、ヒドロキシルアミン存在下、水溶液中で塩基性触媒を用いて糖タンパク質から糖鎖を遊離させる方法を提案している(例えば、特許文献2参照)。特許文献1には、得られた遊離糖鎖をさらに標識する方法も記載されている。
特開2009-156587号公報 国際公開第2018/062167号公報
特許文献1のように電気泳動を用いる場合、泳動分離された糖タンパク質の検出のため、糖タンパク質のバンドを、ゲル上で同位体標識又は染色によって可視化するか、メンブレン上に転写させた後に抗原抗体反応又は染色によって可視化する工程が必要となる。
また、糖鎖を得るためには、上記可視化のために用いた成分の分離が必要となる。
さらに、得られた糖鎖を分析する際には、分析に適した標識基で糖鎖を修飾する標識工程が必要となる。
このように、糖タンパク質から得られた糖鎖を分析するには、多くの工程を要し、非常に多くの時間が必要となる。
また、糖タンパク質を結合させて固定することが可能な固相(例えば、抗体を特異的に捕捉するプロテインAセファロース)が知られているが、このような固相は、もっぱら糖タンパク質の精製に用いられる。つまり、このような固相は、糖タンパク質を捕捉して夾雑物から分離し、その後、捕捉した糖タンパク質を再び固相から遊離させるために用いられる。糖タンパク質から糖鎖を遊離させる工程は、このようにして精製された糖タンパク質に対して行われるため、糖鎖を得るためにはやはり時間を要する。
一方で、糖タンパク質からの糖鎖調製は、常に迅速化が求められている。
また、これまでO結合型糖鎖については、キャピラリー電気泳動等で分析できる手法は無かった。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、糖タンパク質から、標識された糖鎖を迅速に調製する糖鎖調製方法を提供することを目的とする。また、O結合型糖鎖をキャピラリー電気泳動等で分析可能な糖鎖調製方法を提供することを目的とする。また、調製された試料に含まれる糖鎖を分析する糖鎖分析方法を提供することを合わせて目的とする。
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、以下の態様を包含する。
[1]容器内で、固相に固定された糖タンパク質に糖鎖遊離酵素を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、前記容器内の前記遊離生成物に標識反応試薬を加え、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含み、前記糖タンパク質が抗体であり、前記固相が、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有し、前記標識反応試薬は、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acidのナトリウム塩及び9-aminopyrene-1,4,6-trisulfonic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種と、還元剤と、溶液とを含む糖鎖調製方法。
[2]容器内で、固相に固定された糖タンパク質に糖鎖遊離酵素を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、前記容器内の前記遊離生成物に標識反応試薬を加え、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含み、前記糖タンパク質が抗体であり、前記固相が、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有し、前記標識反応試薬は、2-aminobenzoic acid及び3-aminobenzoic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種と、還元剤と、溶液とを含む糖鎖調製方法。
[3]前記還元剤がピコリンボランである、[1]又は[2]に記載の糖鎖調製方法。
[4]前記遊離工程を開放系かつ加熱条件下で行う、[1]から[3]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[5]前記溶液が有機酸を含む、[1]から[4]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[6]前記溶液が、前記有機酸とは異なる極性溶媒を更に含む、[5]に記載の糖鎖調製方法。
[7]前記遊離工程の後に、固液分離によって前記遊離生成物を含む分離液を得る分離工程を更に含む、[1]から[6]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[8]前記標識工程の後に、固液分離によって前記糖鎖の標識体を含む分離液を得る分離工程を更に含む、[1]から[6]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[9]前記分離液を精製用固相に通液して前記標識体を前記精製用固相に捕捉させ、前記精製用固相を混合溶媒で洗浄した後に捕捉された前記標識体を再溶出する精製工程をさらに含み、前記混合溶媒は、有機溶媒及び水を含む[8]に記載の糖鎖調製方法。
[10]前記混合溶媒の混合割合は、体積割合でアセトニトリル:アルコール:水=20~98:0~60:2~15(合計100体積%)である[9]に記載の糖鎖調製方法。
[11]前記精製工程では、前記分離液から溶媒を除去して生じる前記標識生成物を、イオン性水溶液に溶解させて前記分離液を再調製し、再調製された前記分離液を前記精製用固相に通液する[9]又は[10]に記載の糖鎖調製方法。
[12]前記遊離工程を、酸由来型陰イオン性界面活性剤を含む脱糖鎖促進剤の存在下で行う[1]から[11]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[13][1]から[12]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法で調製された試料を分析する分析工程を有する、糖鎖分析方法。
[14]前記分析工程は、以下の(1)~(3)の工程を含む、[13]に記載の糖鎖分析方法。
(1)分離に用いるキャピラリーに前記試料を充填した後、キャピラリーの下流端からキャピラリー内に先行電解質液を充填する工程
(2)キャピラリーの両端を泳動液に浸漬させた状態で、キャピラリーの下流側を正、上流側を負として電圧を印加して、前記試料に含まれる複数の前記標識体をキャピラリーの上流側に濃縮する工程
(3)濃縮された複数の前記標識体を、キャピラリー電気泳動法により前記標識体のそれぞれを分離する工程
[15]前記分析工程において、レーザー励起蛍光により前記標識体を分析する[14]に記載の糖鎖分析方法。
[16]前記先行電解質液に含まれる電解質の泳動速度は、前記標識体の泳動速度よりも速い[12]から[14]のいずれか1項に記載の糖鎖分析方法。
また、本発明の一態様は、以下の態様も包含する。
[17]糖タンパク質を含む試料に糖鎖遊離試薬を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、前記遊離生成物を含む混合液に精製剤を接触させ、前記精製剤に前記糖鎖を吸着させる吸着工程と、前記精製剤から前記糖鎖を溶出させる溶出工程と、得られた溶出液と、標識反応試薬とを反応させ、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含み、前記標識反応試薬は、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acidのナトリウム塩及び9-aminopyrene-1,4,6-trisulfonic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種と、有機酸の水溶液と、を含む第1試薬と、還元剤と、溶媒とを含む第2試薬と、を有し、前記標識工程は、前記溶出液を乾固させた後に、前記第1試薬を加えて加熱する第1工程と、前記第1工程で得られた反応液に前記第2試薬を加え加熱する第2工程と、を有する糖鎖調製方法。
[18]糖タンパク質を含む試料に糖鎖遊離試薬を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、前記遊離生成物を含む混合液に精製剤を接触させ、前記精製剤に前記糖鎖を吸着させる吸着工程と、前記精製剤から前記糖鎖を溶出させる溶出工程と、得られた溶出液と標識反応試薬とを反応させ、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含み、前記標識反応試薬は、2-aminobenzoic acid及び3-aminobenzoic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種と、還元剤と、溶液とを含み、前記溶液は、アルコール、有機酸、超純水の混合溶液であり、前記標識反応試薬における前記還元剤の濃度は、0.1mmol/L以上20mmol/L以下である糖鎖調製方法。
[19]前記標識反応試薬の溶液における前記有機酸の含有率は、10体積%以下である[17]又は[18]に記載の糖鎖調製方法。
[20]前記精製剤は、ベタイン構造を有するポリマー、又は前記ポリマーと前記ポリマーを担持する支持体とを有する複合体の少なくともいずれか一方である[17]から[19]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[21]前記糖鎖遊離試薬は、ヒドロキシルアミン化合物と塩基性試薬とを含み、前記ヒドロキシルアミン化合物は、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミンの塩、O置換ヒドロキシルアミン及びO置換ヒドロキシルアミンの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記塩基性試薬は、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の弱酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水溶液に溶解したアルカリ土類金属の塩及び有機塩基からなる群より選ばれる少なくとも1種である[17]から[20]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[22]前記分離液を精製用固相に通液して前記標識体を前記精製用固相に捕捉させ、前記精製用固相を混合溶媒で洗浄した後に捕捉された前記標識体を再溶出する精製工程をさらに含み、前記混合溶媒は、有機溶媒及び水を含む[17]から[21]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法。
[23]前記混合溶媒の混合割合は、体積割合でアセトニトリル:アルコール:水=20~98:0~60:2~15(合計100体積%)である[22]に記載の糖鎖調製方法。
[24]前記精製工程では、前記試料溶液から溶媒を除去して生じる前記標識生成物を、イオン性水溶液に溶解させて前記試料溶液を再調製し、再調製された前記試料溶液を前記精製用固相に通液する[22]又は[23]に記載の糖鎖調製方法。
[25][17]から[24]のいずれか1項に記載の糖鎖調製方法で調製された試料を分析する分析工程を有する、糖鎖分析方法。
[26]前記分析工程は、以下の(1)~(3)の工程を含む、[25]に記載の糖鎖分析方法。
(1)分離に用いるキャピラリーに前記試料を充填した後、キャピラリーの下流端からキャピラリー内に先行電解質液を充填する工程
(2)キャピラリーの両端を泳動液に浸漬させた状態で、キャピラリーの下流側を正、上流側を負として電圧を印加して、前記試料に含まれる複数の前記標識体をキャピラリーの上流側に濃縮する工程
(3)濃縮された複数の前記標識体を、キャピラリー電気泳動法により前記標識体のそれぞれを分離する工程
[27]前記分析工程において、レーザー励起蛍光により前記標識体を分析する[26]に記載の糖鎖分析方法。
[28]前記先行電解質液に含まれる電解質の泳動速度は、前記標識体の泳動速度よりも速い[26]又は[27]に記載の糖鎖分析方法。
本発明によれば、糖タンパク質から、標識された糖鎖を迅速に調製する糖鎖調製方法を提供することができる。また、O結合型糖鎖をキャピラリー電気泳動等で分析可能な糖鎖調製方法を提供することができる。また、調製された試料に含まれる糖鎖を分析する糖鎖分析方法をあわせて提供することができる。
図1は、第1実施形態の糖鎖調製方法を実施する装置の一例を説明する模式図である。 図2は、第2実施形態の精製方法で用いる精製剤の一例を示す模式図である。 図3は、実施例1-1のHPLC分析の結果を示すLCチャートである。 図4は、実施例1-2のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図5は、実施例1-3のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図6は、実施例1-4のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図7は、参考例1-1のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図8は、実施例1-5のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図9は、参考例1-2のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図10は、実施例1-7及び参考例1-3において検出された未反応の標識化合物の面積値を示すグラフである。 図11は、実施例1-7及び参考例1-3において検出された糖鎖標識体の面積値を示すグラフである。 図12は、実施例1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12及び参考例1-3において検出された未反応の標識化合物の面積値を示すグラフである。 図13は、実施例2-1、比較例2-1のHPLC分析の結果を示すLCチャートである。 図14は、LCチャートから求めたfetuinの主要O型糖鎖の総ピーク面積値を示すグラフである。 図15は、実施例2-2、比較例2-2,2-3のHPLC分析の結果を示すLCチャートである。 図16は、LCチャートから求めたfetuinの主要O型糖鎖の総ピーク面積値を示すグラフである。 図17は、実施例2-3のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図18は、参考例2-1のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図19は、実施例2-4のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。 図20は、参考例2-2のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。
[第1実施形態]
《糖鎖調製方法》
本実施形態の糖鎖調製方法は、容器内で、固相に固定された糖タンパク質に糖鎖遊離酵素を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、容器内の遊離生成物に標識反応試薬を加え、糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含む。
本実施形態の方法によれば、固相に固定された糖タンパク質を溶出することなく、固相上で糖鎖を遊離させ、かつ、得られた遊離生成物を分離することなく標識反応試薬を重ねて加えることで、糖タンパク質から、標識された糖鎖を極めて迅速に調製することができる。
なお、本実施形態の方法において、遊離工程に供される糖タンパク質は固相に固定されている。この場合における固定の態様としては、特異的結合による非共有結合(水素結合及びイオン結合)、並びに共有結合が含まれ、例えば泳動ゲルへのアプライ又はブロッティングメンブレンへ転写されることより単に保持されるに過ぎない態様は含まない。
以下、順に説明する。
[遊離工程]
遊離工程では、固相に固定された糖タンパク質に糖鎖遊離酵素を作用させて糖鎖を遊離し、遊離生成物を得る。好ましくは、脱糖鎖促進剤の存在下で糖鎖遊離酵素を作用させる。本工程は、化学的断片化又は酵素学的断片化等によるタンパク質の断片化工程を実質的に含まない。
(固相に固定された糖タンパク質)
《糖タンパク質》
第1実施形態において、糖タンパク質は、少なくともN型糖鎖(N結合型糖鎖)を複合成分として含むタンパク質であればよい。すなわち、糖タンパク質は、N型糖鎖を含む「糖鎖部分」と、「タンパク質部分」とで構成されている。
第1実施形態において、「糖タンパク質」とは、タンパク質のアミノ酸配列中にN型糖鎖が少なくとも一つ以上結合しているタンパク質をいう。糖タンパク質から糖鎖を調製する方法に対象となる糖タンパク質は、特に制限されず、天然由来であっても、合成したものでもよい。
第1実施形態において、「糖鎖」には、N型糖鎖が含まれ、N型糖鎖の何れの糖鎖も糖タンパク質からの調製の対象とすることができる。N型糖鎖は、タンパク質のアスパラギン残基の側鎖のアミド基の窒素原子に結合する糖鎖を指す。N型糖鎖はマンノースを基点として分岐を形成しているものが含まれ、例えば2本分岐鎖、3本分岐鎖、4本分岐鎖等がある。また、N型糖鎖は、その構造により、基本型、高マンノース型、ハイブリッド型、複合型等に分類することができる。
なお、「糖鎖」は単糖を含むものとする。
(糖タンパク質の構造、例示)
糖タンパク質において、糖鎖部分は、天然の構造を有していてもよいし、人工的に改変されていてもよい。また、糖鎖部分は、中性糖鎖であってもよいし、酸性糖鎖であってもよい。
糖タンパク質のタンパク質部分は、変性前の状態において、糖鎖部分をその内部に取り込むようにフォールディングしていてもよい。このようなタンパク質部分の分子量は、例えば1kDa以上であってもよく、10kDa以上であってもよい。タンパク質部分の分子量範囲内の上限は特に限定されず、例えば1000kDaであってもよい。
また、糖タンパク質のタンパク質部分において、糖鎖部分が結合する部位(糖鎖結合部位)は、天然物と同じ部位であってもよいし、天然物では糖鎖が結合していない部位であってもよい。
具体的な糖タンパク質としては、例えば、抗体、ホルモン、酵素及びこれらを含む複合体からなる群より選ばれる生理活性物質が挙げられる。ここで、複合体としては、抗原と抗体との複合体、ホルモンと受容体との複合体、酵素と基質との複合体等が挙げられる。これらの糖タンパク質は細胞培養工学的に調製される生理活性物質であることから、得られる糖鎖部分は不均一な状態であり、糖鎖分析の時間を短縮することの意義が特に大きい。
また、糖タンパク質が抗体を含む場合は、糖鎖解析の重要性が特に高い。この場合、抗体の活性等に影響を及ぼす糖鎖を迅速に遊離することができる。
抗体としては、
IgG、IgM、IgA、IgD、IgE等の免疫グロブリン;
Fab、F(ab’)、F(ab’)、一本鎖抗体(scFv)、二重特異性抗体(diabody)等の低分子抗体;
Fc領域と他の機能性タンパク質又はペプチドとの融合により構成されるFc融合タンパク質又はペプチド等のFc含有分子;
放射性同位元素配位性キレート、ポリエチレングリコール等の化学修飾基を付加した化学的修飾抗体等が挙げられる。
また、抗体は、モノクローナル抗体であってもよく、ポリクローナル抗体であってもよい。
また、抗体は、抗体医薬品候補又は抗体医薬品であってもよい。
抗体医薬品候補は、抗体医薬品の開発途上にある物質であり、抗体医薬品としての活性及び安全性等の評価に供される物質である。抗体医薬品候補から糖鎖遊離を行う場合は、抗体医薬品の開発を迅速化することができ、抗体医薬品から糖鎖遊離を行う場合は、抗体医薬品の品質管理を迅速化することができる。
《固相》
本実施形態の方法において、糖タンパク質は、固相に固定されている。固定の態様としては、特異的結合による非共有結合(水素結合及びイオン結合)、並びに共有結合が含まれ、例えば泳動ゲルにアプライ又はブロッティングメンブレンに転写されることより単に保持されるに過ぎない態様は含まれない。非共有結合による固定である場合、結合速度定数ka(単位M-1-1)が、例えば10以上、例えば10以上、例えば10~10、例えば10~10の親和性を有することが好ましい。
糖タンパク質を固定している固相は、糖タンパク質のタンパク質部分と非共有結合的又は共有結合的に連結可能なリンカーを表面に有する担体であれば特に限定されない。
・リンカー
担体がその表面に有するリンカーとしては、例えば、糖タンパク質のタンパク質部分を捕捉可能なリガンドが挙げられる。リガンドとしては、
(i)糖タンパク質のタンパク質部分に親和性のある分子(以下、単に糖タンパク質に親和性のある分子という場合がある。)、(ii)イオン交換基、(iii)疎水性基が挙げられる。
(i)糖タンパク質に親和性のある分子
糖タンパク質に親和性のある分子は特に限定されず、捕捉すべき糖タンパク質に応じて当業者が容易に決定することができる。例えば、ペプチド性又はタンパク質性リガンド、アプタマー(糖タンパク質に特異的に結合可能な合成DNA、合成RNA又はペプチド)、化学合成性リガンド(チアゾール誘導体等)が挙げられる。
例えば、糖タンパク質が抗体である場合、糖タンパク質に親和性のある分子は、抗体又は抗体の定常領域であるFc含有分子に特異的に結合するものであってもよい。
より具体的には、ペプチド性又はタンパク質性リガンドとして、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArp等の微生物由来リガンド;
それらのリガンドの組換え発現により得られる機能的改変体(類縁物質);
抗体のFcレセプター等の組換えタンパク質等が挙げられる。
これにより、糖鎖解析の重要性が特に高い抗体について、スループット性の高い糖鎖試料調製及び解析が可能となる。なかでも、リガンドとしては、微生物由来リガンドが好ましい。
(ii)イオン交換基
イオン交換基は、イオン交換機能により糖タンパク質を捕捉可能であり、かつ、カウンターイオンによってイオン強度依存的に糖タンパク質を脱離可能である官能基であれば特に限定されない。好ましくは、カルボキシル基(より具体的には、カルボキシメチル基等)、スルホン酸基(より具体的には、スルホエチル基、スルホプロピル基等)等の陽イオン交換基が挙げられ、四級アミノ基等の陰イオン交換基であってもよい。
(iii)疎水性基
疎水性基としては、例えば、炭素数2~8のアルキル基又はアリール基が挙げられる。
より具体的には、ブチル基、フェニル基、オクチル基等が挙げられ、これらの基は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
担体がその表面に有するリンカーとしては、上記の他、糖タンパク質のタンパク質部分の構成要素であるC末端アミノ酸残基のC末端と共有結合した連結基であってもよい。このような連結基としては、ペプチド固相合成で用いられる固相表面修飾試薬であるアミノ基含有化合物から誘導される連結基が挙げられる。
・担体
担体は、水に不溶な基材であって、上記のリンカーを固定化できるものであれば特に限定されず、有機担体、無機担体及びそれらの複合担体が挙げられる。有機担体としては、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子;架橋セファロース、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アミロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類からなる担体が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機担体としては、ガラスビーズ、シリカゲル、モノリスシリカ等が挙げられる。
有機担体が水を含みやすい性質であるのに対して、無機担体は水を含みにくい。本実施形態の方法では、固相上で種々の反応を行うため、水を含みにくい無機担体を用いることが好ましい。これにより、固相から染み出る水に起因して、処理に用いる酵素及び/又は試薬が希釈されず、酵素や試薬の効果が低減しないため好ましい。酵素及び/又は試薬の効果の希釈防止は、分析における不要なシグナルの検出の防止に寄与する。
また、担体が無機担体であると、例えば、糖鎖遊離酵素により担体の一部が遊離することがなく、糖由来の樹脂を使用した場合に初めから樹脂に残存する糖の溶出が起こることがない。このため、遊離された糖鎖の分析において、不要なシグナルの出現を抑制しやすい。
担体の形状としては特に限定されず、粒子状であってもよく、非粒子状であってもよい。粒子状の担体(ビーズ)の場合、多孔質担体であってもよい。粒子状の担体の場合、平均粒子径は例えば1~100μmであってもよい。平均粒子径が上記下限値以上であることは、通液性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましい。
非粒子状の担体としては、モノリスタイプのシリカゲル及び膜体等が挙げられる。モノリスタイプのシリカゲルは、マイクロメートルサイズの三次元網目状細孔(マクロ孔)と、ナノメートルサイズの細孔(メソ孔)とを有する、シリカゲルのバルク体である。マクロ孔の径は例えば1~100μmであってもよく、1~50μmであってもよく、1~30μmであってもよく、1~20μmであってもよい。マクロ孔が上記下限値以上であることは通液性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましい。メソ孔の径は例えば1~100nmであってもよく、1~50nmであってもよい。これによって糖を効率的に捕捉することができる。
担体の使用体積(粒子状担体にあっては、担体自体の体積に、充填時の空隙の体積も含み、非粒子状担体にあっては、担体自体の体積に、メソ孔及びマクロ孔の体積も含む)は、例えば0.001~0.1cmであってもよく、例えば0.001~0.01cmであってもよい。上記下限値以上であることは、理論断数の低下を防ぐ点で好ましく、上記上限値以下であることは、通液性の点で好ましい。また、上記の体積であることにより、溶出後の分離液を、HPLC分析に適した濃度で得ることも容易となる。
固相は、カラム、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等の容器の中に充填された状態で使用されてもよい。
(固相に固定された糖タンパク質の調製)
糖タンパク質を含む試料(以下、「試料」と略称することがある)を、上記の固相に接触させることにより、試料に含まれる糖タンパク質を固相に捕捉する(固定する)ことができる。
固相に接触させるべき糖タンパクを含む試料は、糖鎖調製を迅速に行う観点から、糖タンパク質の精製(糖タンパク質をその夾雑物から分離すること)が行われていないものであってもよい。このような試料としては、例えば、血液(例えば、血清、血漿)、リンパ液、腹腔浸出液、組織間液、脳脊髄液、腹水等の体液;B細胞、ハイブリドーマ、CHO細胞等の抗体産生細胞の培養上清;抗体産生細胞を移植した動物の腹水等が挙げられる。試料は、培養上清等の細胞培養工学的な糖タンパク質の調製物のように、タンパク質部分が均一であり、かつ糖鎖部分が非均一である、糖タンパク質のバリエーションの混合物であってもよい。
糖タンパク質を固定した固相は、上記固相に糖タンパク質を捕捉させた複合体の他に、糖タンパク質の固相合成によって得られる生成物、すなわち、固相合成に用いられる固相に、固相合成で得られた糖タンパク質が結合した状態の複合体であってもよい。
糖タンパク質を含む試料において、糖タンパク質の濃度は特に限定されず、例えば、0.1μg/mL~50mg/mLであってもよい。上記下限値以上であることは、検出の点で好ましく、上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
固相に接触させるべき糖タンパク質は、容器1つあたり0.001μg~100mgであってもよく、0.001μg~5mgであってもよい。糖タンパク質の量が上記下限値以上であることは検出の点で好ましい。本実施形態の方法は工程数が少なく試料のロスが非常に少ないため、糖タンパク質が小スケール(特に0.001~500μg)である場合に特に有用である。糖タンパク質の量が上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
固相に固定された糖タンパク質は、固相に固定された糖タンパク質が液体成分中に分散された状態で用意されてもよいし、液体成分が分離された状態で用意されてもよい。
また、糖タンパク質を固定した固相には、上記の試料を固相に接触させ糖タンパク質の捕捉が完了した時点、又は固相合成が完了した時点で、夾雑物が付着していると考えられる。夾雑物としては、固相に固定される前の試料に含まれていた成分、糖タンパク質の固相合成に用いた試薬等が挙げられる。夾雑物としてより具体的には、塩、低分子化合物、タンパク質(当該固相への結合性を有さないタンパク質)その他の生体分子が挙げられる。
したがって、糖タンパク質を固定した固相は、糖タンパク質の捕捉が完了した後、又は固相合成が完了した後に、洗浄処理が行われたものであってよい。これによって、糖タンパク質を固相に固定したまま、共雑物を除去することができる。洗浄は、固相に洗浄液を通液させることによって行うことができる。通液の方法としては、自然落下、吸引、加圧、遠心等の方法が挙げられる。
洗浄液としては、糖タンパク質のタンパク質部分と固相表面のリンカーとの結合を切断しない液性及び組成のものが当業者によって適宜選択される。具体的には、緩衝液その他の水溶液又は水であってもよい。水溶液を用いる場合、pHが5~10であるものが好ましい。水溶液のpHがこの範囲内であれば、後の工程で用いる糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。また、糖タンパク質が非共有結合によって固相に固定されている場合には、糖タンパク質の遊離を防止しやすい。
洗浄液として緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;トリスヒドロキシメチルアンモニウム等のトリス緩衝剤;リン酸塩等が挙げられる。
(容器)
糖タンパク質を固定した固相は、容器内に用意される。糖タンパク質を固定した固相は、当該容器内で調製されることが効率的で好ましい。容器は、液体及び固相の保持並びに固相を保持した状態での液体の分離(通液)が可能な容器であれば特に限定されず、例えば、カラム、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等が挙げられる。
(糖鎖遊離酵素)
固相に固定された糖タンパク質に作用させる糖鎖遊離酵素としては、ペプチドN-グリカナーゼ(PNGase F、PNGase A)、エンド-β-N-アセチルグルコサミニダーゼ(Endo-H、Endo-F、Endo-A、Endo-M)等が挙げられる。
糖鎖遊離酵素は、水又は緩衝液中に分散された状態で用意されてもよい。緩衝液を用いる場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等が挙げられる。緩衝液は、pHが5~10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。水又は緩衝液は、金属塩等の塩類、グリセロール等のタンパク質の安定化剤等の成分を含有していてもよい。
(脱糖鎖促進剤)
遊離工程は、脱糖鎖促進剤の存在下で行われてもよい。これによって、糖タンパク質からの糖鎖の遊離を促進し、糖鎖の回収率を向上させることができる。
脱糖鎖促進剤は、酸由来型陰イオン性界面活性剤を含有することが好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤により、糖タンパク質のタンパク質部分が変性して三次構造が変化し、糖鎖遊離酵素が分解標的部位(例えば、糖鎖結合部位)に作用しやすくなる。これによって、分解標的部位が容易に分解され、糖鎖が遊離する。
酸由来型陰イオン性界面活性剤は、有機酸から誘導される陰イオン性界面活性剤である。例えば、カルボン酸型陰イオン性界面活性剤、スルホン酸型陰イオン性界面活性剤、硫酸エステル型陰イオン性界面活性剤、リン酸エステル型陰イオン性界面活性剤等が挙げられる。中でも、カルボン酸型陰イオン性界面活性剤が好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤がカルボン酸型陰イオン性界面活性剤であると、糖タンパク質のタンパク質部分を変性させるが、糖鎖遊離酵素を変性させにくい傾向にあると考えられる。
脱糖鎖促進剤としては、糖鎖遊離酵素と共に用いられ、糖鎖の遊離を促進する界面活性剤として公知の化合物を適宜用いることができる。
《脱糖鎖促進剤の組成》
脱糖鎖促進剤は、水又は緩衝液中に酸由来型陰イオン性界面活性剤が溶解又は分散された状態で用意されてもよい。
緩衝液に含まれる緩衝剤としては、上記洗浄液として用いられる緩衝剤と同じ化合物を挙げることができる。緩衝液は、pHが5~10であるものが好ましい。緩衝液のpHがこの範囲内であると、糖鎖遊離酵素の活性を保ちやすい。
脱糖鎖促進剤において、水又は緩衝液中に含まれる酸由来型陰イオン性界面活性剤以外の成分としては、界面活性剤以外の金属塩等の塩類が挙げられる。
(遊離工程の操作及び反応条件)
遊離工程では、糖鎖遊離酵素の至適条件(温度及びpH)が満たされた、糖タンパク質と糖鎖遊離酵素とを含む遊離反応液が調製されればよい。
脱糖鎖促進剤を用いる場合は、糖鎖遊離酵素の至適条件(温度及びpH)が満たされた、糖タンパク質と酸由来型陰イオン性界面活性剤と糖鎖遊離酵素とを含む遊離反応液が調製されればよい。したがって、脱糖鎖促進剤を用いる場合には、糖タンパク質が固定された固相、脱糖鎖促進剤、及び糖鎖遊離酵素はどのような操作手順で混合されてもよい。
例えば、糖タンパク質が固定された固相と、脱糖鎖促進剤と、糖鎖遊離酵素とを同じタイミングで互いに混合して遊離反応液を調製してもよい。また、先に脱糖鎖促進剤を加え、その後に糖鎖遊離酵素を加えることで遊離反応液を調製してもよい。さらに、固相に固定された糖タンパク質が後述する前処理を経て得られたものである場合で、かつ、脱糖鎖促進剤と前処理に用いられる界面活性剤とが同一物質である場合には、前処理の時に、脱糖鎖促進剤に相当する分量の界面活性剤を、前処理剤に相当する分量の界面活性剤に上乗せして先に加えておき、引き続く遊離工程で(すでに脱糖鎖促進剤が存在している状態であるため)糖鎖遊離酵素のみを加えてもよい。
具体的には、すべての成分を混合させた遊離反応液を調製し、その後、至適温度に設定して、糖タンパク質から糖鎖を遊離させる反応を行うことができる。この場合、反応時間は例えば5秒~24時間であってもよい。
脱糖鎖促進剤を用いる場合には、糖タンパク質が固定された固相と、酸由来型陰イオン性界面活性剤とを先に混合して糖タンパク質のタンパク質部分を変性させた後に、糖鎖遊離酵素と混合してもよい。
この場合、タンパク質部分の変性時間は、例えば5秒~24時間であってもよい。
また、糖鎖遊離酵素と糖タンパク質との反応時間は、例えば5秒~24時間であってもよい。
遊離反応液において、糖タンパク質の濃度は、例えば0.1μg/mL~100mg/mLであってもよく、例えば1μg/mL~10mg/mLであってもよい。遊離反応液中の糖タンパク質の濃度が上記下限値以上であることは、検出性の点で好ましく、上記上限値以下であることは、定量性の点で好ましい。
脱糖鎖促進剤を用いる場合、遊離反応液において、酸由来型陰イオン性界面活性剤の濃度は、例えば0.01~30質量%であってもよく、例えば0.2~1.0質量%であってもよく、例えば0.2~0.3質量%であってもよく、例えば0.22~0.27質量%であってもよい。あるいは、酸由来型陰イオン性界面活性剤は、糖タンパク質1μgに対して0.001μg~100mg以下となるように用いてもよい。
酸由来型陰イオン性界面活性剤の使用量を上記の範囲に設定することによって、糖鎖遊離酵素の活性維持の点及び遊離した糖鎖(以下、遊離糖鎖)の回収量の点で良好となり、かつ、回収量の安定性の点でも良好となる。また、例えば遊離糖鎖の精製を固相担体によって行う場合に、乾燥時間の冗長を防止する点でも好ましい。
遊離反応液において、糖鎖遊離酵素の濃度は、例えば0.001μU/mL~1000mU/mLであってもよく、例えば0.01μU/mL~100mU/mLであってもよい。あるいは、糖鎖遊離酵素を糖タンパク質1μgに対して0.001μU~1000mUとなるように用いてもよい。糖鎖遊離酵素の使用量を上記の範囲に設定することによって、効率的な糖鎖遊離が可能となる。
反応pHは、糖鎖遊離酵素の至適pHに合わせればよいが、例えば5~10であってもよい。反応温度も、糖鎖遊離酵素の至適温度に合わせればよいが、例えば4~90℃であってもよい。
遊離工程は、反応系を開放系にして、且つ溶液中の溶媒が蒸発するように加熱条件下で行うと好ましい。加熱温度としては、例えば40℃以上、例えば45℃以上であってもよい。これによって、遊離工程の進行中に溶液中の溶媒が蒸発して反応液の濃度が徐々に上昇するため、本実施形態の方法に供された糖タンパク質のスケールにかかわらず、糖鎖の遊離が効率的に進む濃度に供することが容易である。さらに、遊離反応とともに溶液中の溶媒除去が併せて行われるため、遊離工程と別に溶液中の溶媒除去工程を行うための時間が短縮され又は不要となり、更に迅速な糖鎖調製が可能となる。加熱温度の範囲内の上限としては、糖鎖遊離酵素の変性を防ぐ観点から、例えば80℃であってもよい。
(遊離生成物)
遊離工程によって得られる遊離生成物は、遊離糖鎖と、固相に結合したタンパク質とを含む。遊離糖鎖は、糖タンパク質における糖鎖部分に対応し、固相に結合したタンパク質は、糖タンパク質におけるタンパク質部分に対応する。
固相に結合したタンパク質は、糖タンパク質を構成していたタンパク質部分におけるアミノ酸残基間のペプチド結合が切断されていない。遊離生成物は、有機溶媒を含む状態で得られてもよいし、特に遊離工程において開放系かつ加熱条件に供する場合には、有機溶媒が完全に蒸発した蒸発乾固物の状態で得られてもよい。
[分離工程1]
本実施形態の方法では、糖鎖が遊離する一方、タンパク質部分は固相に固定されたままであるため、当該固相を分離するだけでタンパク質部分が除去される。そのため、遊離工程の後、固液分離によって固相を分離し、遊離生成物(遊離糖鎖)を含む分離液を得る分離工程(分離工程1)を有してもよい。
固相を分離して得られる分離液は、遊離糖鎖とともに前処理工程(後述)で用いられた界面活性剤及び遊離工程で用いられた脱糖鎖促進剤が共に溶存した混合液となっている。糖鎖の分析手法によっては、糖鎖が上述の界面活性剤等と共存している混合液の状態で分析に供してもよい場合もあるが、例えば質量分析等で分析する場合には、分析前に混合液から糖鎖を精製することが好ましい。
糖鎖を精製する場合、例えば、ヒドラジド基を有するポリマーを精製用固相担体として用い、当該精製用固相担体に上記分離液を接触させることができる。分離液中では、遊離糖鎖は環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡状態を生じている。精製用固相担体に分離液を接触させると、遊離糖鎖が有するアルデヒド基-CHOと、精製用固相担体が有するヒドラジド基-NH-NHとが特異的に反応し、安定的な結合-C=N-NH-を形成する。これによって、精製用固相担体に遊離糖鎖を捕捉させることができる。
精製用固相担体に捕捉された糖鎖は、再遊離させられてもよい。再遊離の手法としては、酸と有機溶媒との混合溶媒又は酸と水と有機溶媒の混合溶媒を固相担体に接触させて反応させることが挙げられる。当該混合溶媒の酸性度は例えばpH2~9であってもよく、pH2~7であってもよく、pH2~6であってもよい。弱酸性から中性付近で反応させる場合には、シアル酸残基の脱離等、糖鎖の加水分解を抑制することができる点で好ましい。しかしながら、さらにpHが低い強酸条件も許容される。
後述するように、遊離糖鎖は、低分子化合物(標識化合物)で修飾することができる。低分子化合物は、分析手法に応じて適宜選択することができる。なお、低分子化合物とは、固相担体を構成する高分子化合物と区別されるものであり、好ましくは水又は緩衝液、有機溶媒に溶解可能な化合物であることが好ましい。
分離工程1を実施する場合、後述する分離工程2は不要となる。
[前処理工程]
本実施形態の方法において、遊離工程の前に前処理工程を更に備えていてもよい。これにより、タンパク質部分の分解処理を行うことなく、糖タンパク質からの糖鎖の遊離が容易になる。その結果、糖鎖遊離処理に要する時間を大幅に短縮することができる。
前処理工程では、固相に固定された糖タンパク質に界面活性剤を含む前処理剤を接触させる。前処理工程は、試料を固相に接触させ糖タンパク質の捕捉が完了した後、又は、固相合成が完了した後若しくは更に洗浄処理が行われた後であって、糖鎖遊離酵素に接触させられる前に行われてもよい。前処理工程を実施することにより、界面活性剤が糖タンパク質のタンパク質部分を変性して三次構造を変化させる。これにより、糖鎖遊離酵素が分解標的部位(例えば、糖鎖結合部位)に作用しやすくなり、遊離工程において糖タンパク質に糖鎖遊離酵素が作用しやすくなる。
前処理剤に含まれる界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
陰イオン界面活性剤としては特に限定されず、石鹸等の脂肪酸の塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α-スルホ脂肪酸エステル、α-オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩等が挙げられるが、上述した遊離工程で用いられる脱糖鎖促進剤として用いることができる陰イオン性界面活性剤(本明細書では、脱糖鎖促進剤としても用いることができる陰イオン性界面活性剤を、特に酸由来型陰イオン性界面活性剤という。)であることが好ましい。酸由来型陰イオン性界面活性剤を前処理工程で用いる場合、遊離工程で用いられる脱糖鎖促進剤として挙げた界面活性剤と同じ界面活性剤であってもよいし、異なる界面活性剤であってもよい。
陽イオン界面活性剤としては特に限定されず、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アミン塩系等が挙げられる。両性界面活性剤としては特に限定されず、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。非イオン界面活性剤としては特に限定されず、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
前処理剤は、界面活性剤が、水又は緩衝液中に溶解した状態で用いられてもよい。緩衝液としては、上述した脱糖鎖促進剤が含み得る緩衝液と同様の緩衝液を用いることができる。
前処理剤中の界面活性剤の濃度は、例えば0.01~30質量%であってもよく、例えば0.2~1.0質量%であってもよく、例えば0.2~0.3質量%であってもよく、例えば0.22~0.27質量%であってもよい。当該濃度が上記下限値以上であること、及び上記上限値以下であることによって、上述した遊離工程において遊離させた糖鎖を、良好な回収率で得ることができる。
前処理剤は、固相に接触させた後は、固相に固定された糖タンパク質から分離される。分離は、所定の使用量の全てを容器内に入れた後に一度に行ってもよいし、所定の使用量の一部を何回かに分けて入れ、その都度行ってもよい。前処理剤の分離は、減圧又は遠心分離等によって行うことができる。
前処理工程の後、糖タンパク質を固定した固相は、迅速調製の観点で、洗浄されることなく後述の遊離工程に供することができる。また、糖タンパク質を固定した固相は、前処理工程の後、遊離工程の前に洗浄されてもよい。洗浄には、上述の洗浄液を用いることができる。
[標識工程]
標識工程では、遊離工程を行った容器内の遊離生成物に標識化合物を含む標識反応試薬(標識反応液)を加え、糖鎖の標識体(以下、糖鎖標識体と称することがある)を含む標識生成物を得る。
(標識化合物)
標識化合物は、糖鎖に対する反応性基と、糖鎖に付すべき修飾基とを有する。本実施形態において、標識化合物は、いずれも反応性基としてアミノ基を有し、修飾基として芳香族基を有する。アミノ基及び芳香族基を有する標識化合物を用いると、糖鎖に対して還元アミノ化による修飾が行われる。
アミノ基は、還元アミノ化による修飾において、糖鎖の還元末端に形成されるアルデヒド基と反応し、シッフ塩基を形成する。形成されたシッフ塩基は、別途加える還元剤により還元されることで糖鎖の還元末端においてペプチド結合を形成する。これにより、標識化合物は、反応性基であるアミノ基を介して糖鎖に修飾基を導入し、効率的に標識することができる。
芳香族基は、紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有するため、UV検出又は蛍光検出での検出感度が向上する点で好ましい。
具体的には、本実施形態で用いられる標識化合物は、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acidのナトリウム塩及び9-aminopyrene-1,4,6-trisulfonic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ナトリウム塩は、好ましくは3ナトリウム塩(8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid trisodium、APTS)である。これらの標識化合物は、硫酸基(スルホン酸基)を含む。
または、標識化合物としては、2-aminobenzoic acid(2-AA)及び3-aminobenzoic acid(3-AA)からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの標識化合物は、カルボキシ基を含む。
(標識反応試薬)
標識反応試薬は、標識化合物の他、標識化合物を溶解させる溶液、還元剤を含む。
溶液としては、水、緩衝液及び/又は有機溶媒を用いることができる。
緩衝液としては、前述の遊離工程で用いられるものと同様の緩衝剤の水溶液が挙げられる。
有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性有機溶媒、有機酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等)及びアルコール(メタノール、エタノール、プロパノール等)等のプロトン性極性有機溶媒、並びにヘキサン等の非プロトン性非極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボラン、ピリジンボラン等が挙げられる。
中でも、安全性及び反応性の両方の観点から、ピコリンボラン(2-ピコリンボラン)を用いることが好ましい。
(標識工程の操作及び反応条件)
標識工程では、遊離生成物に対して標識反応試薬を加える。標識工程においては、遊離工程が行われた容器を引き続いて用いるが、標識反応試薬を加える際に、遊離生成物に対して洗浄等、その相対的組成(溶媒以外の成分比)を変化させる処置は行われない。なお、遊離生成物に対して、水、緩衝液及び/又は有機溶媒を加えて溶解又は希釈することは許容される。
標識化反応系は、水、緩衝液及び/又は有機溶媒を溶液とし、当該溶媒中に糖鎖及び標識化合物を含む標識反応試薬が、遊離工程の残存物と混在した状態で構築される。上述の分離工程1を実施していない場合、標識化反応系は、固相に固定されたタンパク質を含む。
標識工程において、標識反応試薬は、例えば担体の使用体積の0.1~10倍体積で用いてもよく、例えば0.5~5倍体積で用いてもよい。また、標識反応試薬中の標識化合物の濃度は、例えば0.1~5.0mol/Lであってもよく、例えば0.1~1.0mol/Lであってもよい。標識化合物の量が上記下限値以上であることは標識が定量的に行われる点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
標識反応試薬中の還元剤の濃度は、例えば0.1~5.0mol/Lであってもよく、例えば0.1~1.5mol/Lであってもよい。還元剤の量が上記下限値以上であることは標識が定量的に行われやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
標識反応試薬中の溶液の量は、担体の使用体積の0.5~10倍体積で用いてもよく、例えば1~5倍体積で用いてもよい。溶媒の量が上記下限値以上であることは溶解性の点で好ましく、上記上限値以下であることは標識が定量的に行われる点で好ましい。
標識反応試薬の反応温度は例えば4~80℃であってもよく、例えば25~70℃であってもよい。反応温度が上記下限値以上であることは反応時間が短くなる点で好ましく、上記上限値以下であることは高温による糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。標識反応試薬の反応時間は、例えば5~600分であってもよく、例えば30~300分であってもよい。反応時間が上記下限値以上であることは定量的な標識の点で好ましく、上記上限値以下であることは糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。
標識化反応は常温で速やかに進むため、標識反応試薬を加えたときから標識化合物が作用して糖鎖標識体が生成する。したがって、標識反応試薬を加えた後、当該反応の完了の如何によらず任意のタイミングで後述の分離工程を行うことができる。
以下、還元剤としてピコリンボランを用いた場合について説明する。還元剤としてピコリンボランを用いた場合は、標識反応試薬は、溶液として有機酸を含むことが好ましい。これによって、標識化合物及びピコリンボランを高濃度で溶解することができるため、標識工程に要する時間が短縮される。
標識工程に要する時間の短縮効果をより好ましく得る観点から、有機酸は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等であることが好ましい。また、有機酸は標識反応系中で液体であることが好ましい。中でも、操作容易性の観点から、有機酸はクエン酸であることが好ましい。なお、前記有機酸が常温で固体の場合、水溶液として使用してもよい。
溶媒中の有機酸の濃度は、例えば40~100体積%であってもよい。これによって、良好な標識効率が得られる。より良好な標識効率を得る観点から、溶液中の有機酸の濃度は、50~100体積%以下であってもよく、75~100体積%であってもよい。
上述した有機酸に加えて、当該有機酸とは異なる極性溶媒を併用してもよい。これによって、還元剤の溶解性を向上させることができる。このことによって、収量よく糖鎖標識体を得ることができる。
上述の極性溶媒としては、例えばメタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
極性溶媒を併用する場合、有機酸の4体積%以上100体積%未満であってもよく、4~70体積%であってもよい。極性溶媒の量が上記下限値以上であることは、有機酸の揮発速度を遅延させやすい点で好ましく、上記上限値以下であることは、有機酸の効果(標識化合物及び還元剤の溶解性・反応性を向上させる効果)を得やすい点で好ましい。
還元剤としてピコリンボランを用いる場合には、溶媒としてクエン酸水溶液とメタノールの混合溶液、又は酢酸とメタノールと水の混合溶液を用いることが最も好ましい。
還元剤としてピコリンボランを用いる場合には、標識反応試薬中の標識化合物の濃度は0.1~5.0mol/Lであってもよく、0.1~1.5mol/Lであってもよい。標識化合物の濃度が上記下限値以上であることは標識工程の時間短縮の点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
標識反応試薬中のピコリンボランの量は、例えば0.05~2.5mol/Lであってもよく、例えば0.05~0.75mol/Lであってもよい。ピコリンボランの量が上記下限値以上であることは標識工程の時間短縮の点で好ましく、上記上限値以下であることは過剰試薬の除去が容易になる点で好ましい。
還元剤としてピコリンボランを用いた場合は、溶媒の量は、担体の使用体積の0.1~10倍体積であってもよく、0.5~5倍体積であってもよい。溶媒の量が上記下限値以上であることは溶解性の点で好ましく、上記上限値以下であることは標識工程の時間短縮の点で好ましい。
標識反応試薬の反応温度は例えば4~80℃であってもよく、例えば25~70℃であってもよい。反応温度が上記下限値以上であることは反応時間が短くなる点で好ましく、上記上限値以下であることは高温による糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。標識反応試薬の反応時間は、例えば30~600分であってもよく、例えば90~300分であってもよい。反応時間が上記下限値以上であることは定量的な標識の点で好ましく、上記上限値以下であることは糖鎖の部分分解が抑制される点で好ましい。
(標識生成物)
標識工程後の容器内には、糖鎖標識体が存在する。また、上記分離工程1を実施しない場合、標識工程後の容器内には、固相に結合したタンパク質が存在する。したがって、標識工程によって得られる標識生成物は、糖鎖標識体及び固相に結合したタンパク質を含むということもできる。固相に結合したタンパク質は、糖タンパク質を構成していたタンパク質部分におけるアミノ酸残基間のペプチド結合が依然として切断されていない。標識生成物は、水、緩衝液及び/又は有機溶媒中に含まれていてよい。
[分離工程2]
(糖鎖標識体の溶出)
上記分離工程1を実施しない場合、標識工程の後、標識生成物から固液分離によって糖鎖の標識体を含む分離液を得る分離工程(分離工程2)を行ってもよい。これにより、糖鎖標識体を容易に分離することができる。例えば、標識生成物に溶離液を通液することで、糖鎖標識体を溶出することができる。この場合に用いる溶離液は、水、水溶液、コロイド溶液等の水系溶液であってよい。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有する性質を具備するものを選択してもよい(糖鎖標識体の分析を例えばクロマトグラフィーによって行う場合等)し、そのような性質を具備しないものを選択してもよい(糖鎖標識体の分析を例えば質量分析によって行う場合等)。これによって、糖鎖の標識体を含む分離液が得られる。
分離液中には、糖鎖標識体とともに、標識工程で用いた余剰の標識化合物、及び遊離工程で脱糖鎖促進剤を用いた場合には酸由来型陰イオン性界面活性剤等の不要物が存在している。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有するものを選択した場合は、分離液中にタンパク質も混入する。溶離液として、固相とタンパク質部分との結合に対する切断能を有さないものを選択した場合は、分離液中にタンパク質は実質的に含まれない。
(精製工程)
糖鎖の分析手法によっては、分離液から不要物を除去することで糖鎖標識体を精製してもよい。不要物の除去は、分離液を精製用固相に通液して糖鎖標識体を捕捉し、捕捉された糖鎖標識体を再溶出することで行われてよい。
(精製用固相)
精製用固相の一例として、糖鎖標識体を非共有結合によって捕捉する固相が挙げられる。具体的には、シリカゲルカラム、アミノカラム、その他の順相固相を用いることができる。
このような精製用固相としては、市販の抗体糖鎖分析キット(住友ベークライト製、品番:BS-X4410)に付属のクリーンアップカラムを用いることができる。
精製用固相の他の例として、糖鎖標識体を共有結合によって捕捉する固相が挙げられる。
これによって、タンパク質が混在している場合等において糖鎖標識体の精製度を向上させることができる。具体的には、ヒドラジド基を有するポリマーを精製用固相担体として用いることができる。分離液中では、遊離糖鎖は環状のヘミアセタール型と非環状のアルデヒド型との平衡状態を生じているため、このアルデヒド基-CHOとヒドラジド基-NH-NHとが特異的に反応し、安定な結合-C=N-NH-を形成する。これによって、精製用固相担体に遊離糖鎖を捕捉することができる。
(分離液の再調製)
精製用固相に糖鎖標識体を捕捉させる際には、糖鎖標識体及び余剰の標識化合物を含む混合物にイオン性水溶液を添加して、分離液を再調製してもよい。このような操作により、分離液に含まれる余剰の標識化合物の除去が促進される。
イオン性水溶液のpHとしては、例えば、pH1以上13以下とすることができる。イオン性水溶液としては、例えば、塩化アンモニウム水溶液(pH約5)、塩化ナトリウム水溶液(pH約7)、炭酸水素アンモニウム水溶液(pH約8)、アンモニア水溶液(pH約11)、炭酸ナトリウム水溶液(pH約11)、水酸化ナトリウム水溶液(pH約13)を挙げることができる。
pH6.5以上7.5以下を中性と定義したとき、イオン性水溶液はpH1以上6.5以下の酸性であってもよく、pH6.5以上7.5以下の中性であってもよく、pH7.5以上13以下の塩基性であってもよい。イオン性水溶液が塩基性である場合、pHは12以下であってもよく、11以下であってもよく、10以下であってもよい。
イオン性水溶液として炭酸水素アンモニウム水溶液を用いる場合、水溶液の濃度は、50mmol/L以上であると好ましく、150mmol/L以上であるとより好ましく、200mmol/L以上であるとさらに好ましい。また、上記水溶液の濃度は、500mmol/L以下であると十分な効果が得られ、400mmol/L以下であるとしてもよい。水溶液の濃度の上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。
イオン性水溶液として炭酸水素アンモニウム水溶液を用いる場合、例えば、200mmol/L以上400mmol/L以下とすることができる。
発明者らは、余剰のAPTSを含む分離液について、イオン性化合物を含まない場合(条件1)と、イオン性化合物を場合(条件2)とで比較を行い、条件1よりも条件2の方が明らかに精製工程後の不純物(APTS)が低減することを確認している。
また、発明者らは、余剰のAPTSを含む分離液にイオン性化合物を含まない状態で、分離液を精製用固相に通液させると、固相の上面に黄色い固形物が析出することを確認している。一方で、イオン性化合物を含む分離液を精製用固相に通液させると、上記黄色い固形物の析出は確認できない。この固形物は、余剰のAPTSであると想定している。
上述のように、本実施形態で用いる標識化合物は、酸基(スルホン酸基、カルボキシ基)を有する。このような標識化合物を含む混合物を、イオン性水溶液に溶解させると、標識化合物が溶液中に溶解した状態を維持しやすいと考えられる。そのため、イオン性水溶液を添加した分離液を精製用固相に通液させると、標識化合物は精製用固相を通過する一方で、捕捉対象である糖鎖標識体は固相に捕捉されることとなる。これにより、標識化合物と糖鎖標識体とを効率的に分離する(精製する)ことが可能となると考えられる。
(洗浄)
上記精製においては、糖鎖標識体を精製用固相担体に捕捉させた後、精製用固相担体を溶媒で洗浄するとよい。このとき、用いる溶媒は、有機溶媒及び水を含む混合溶媒が好ましく、アセトニトリルと水とアルコールとの混合溶媒がより好ましい。アルコールとして、メタノール又はエタノールのいずれか一方又は両方を採用することができる。
精製においては、疎水性の異なる上記3種の溶媒を、体積割合でアセトニトリル:アルコール:水=20~98:0~60:2~15(合計100体積%)で混合した混合溶媒を用いて洗浄すると好ましい。
混合溶媒において、アセトニトリルは、30体積%以上70体積%以下含まれることが好ましく、40体積%以上65体積%以下含まれることが好ましい。
混合溶媒において、アルコールは、30体積%以上60体積%以下含まれることが好ましく、30体積%以上55体積%以下含まれることが好ましい。用いるアルコールは、エタノールが好ましい。
混合溶媒において、水は、3体積%以上15体積%以下含まれることが好ましく、2体積%以上10体積%以下含まれることが好ましい。
混合溶媒の一例として、アセトニトリル:アルコール:水=50:40:10(合計100体積%)で混合した混合溶媒を挙げることができる。
精製用固相担体に上記混合溶媒を通液させた後、遠心して精製用固相担体から溶媒を除去する操作により、精製用固相担体を洗浄するとよい。この洗浄操作により、未反応の標識化合物の他、上述した不要物を除去することができる。また、洗浄操作は、1回のみ行ってもよく、2回以上行ってもよい。洗浄操作を繰り返すと、不要物を除去できる一方で、精製用固相担体に付着する糖鎖標識体も洗い流してしまい、糖鎖標識体の収率が低下する懸念が生じる。そのため、洗浄操作は、3回以下とするとよい。
再遊離では、酸と有機溶媒との混合溶媒又は酸と水と有機溶媒の混合溶媒を固相担体に接触させて反応させることができる。当該混合溶媒の酸性度は、例えばpH2~9であってもよく、pH2~7であってもよく、pH2~6であってもよい。弱酸性から中性付近で反応させると、シアル酸残基の脱離等糖鎖の加水分解を抑制することができる点で好ましい。しかしながら、更にpHが低い強酸条件も許容される。
《糖鎖分析方法》
本実施形態の方法によって調製された糖鎖標識体は、質量分析法(例えば、MALDI-TOF MS)、クロマトグラフィー(例えば、高速液体クロマトグラフィーやHPAE-PADクロマトグラフィー)、電気泳動(例えば、キャピラリー電気泳動)等の公知の方法により、定性的及び/又は定量的に分析することができる。糖鎖の分析においては、各種データベース(例えば、GlycoMod、Glycosuite、SimGlycan(登録商標)等)を利用することができる。本実施形態の方法によって調製された糖鎖標識体は、特に、キャピラリー電気泳動に適している。
このような糖タンパク質の糖鎖分析によって、例えば、抗体医薬品の研究開発、製造及び品質保証等の際に行われる抗体医薬品の糖鎖修飾分析;糖鎖バイオマーカーの検索研究等の際に行われる血清等の検体中の糖タンパク質の分析;幹細胞の糖鎖分析;電気泳動ゲルバンド中の糖鎖分析;植物組織の糖鎖分析等を迅速に行うことが可能となる。
上述の方法にて得られる糖鎖標識体が少量である場合、分析工程では、公知のキャピラリー電気泳動装置を用い、以下の(1)~(3)の工程を順に行うとよい。
(1)分離に用いるキャピラリーに試料を充填した後、キャピラリーの下流端からキャピラリー内に先行電解質液を充填する工程
(2)キャピラリーの両端を泳動液に浸漬させた状態で、キャピラリーの下流側を正、上流側を負として電圧を印加して、試料に含まれる複数の糖鎖標識体をキャピラリーの上流側に濃縮する工程
(3)濃縮された複数の糖鎖標識体を、キャピラリー電気泳動法により糖鎖標識体のそれぞれを分離する工程
すなわち、分析工程においては、工程(1)及び工程(2)において、試料に含まれる糖鎖標識体を濃縮した後、工程(3)において分離させるとよい。
(工程(1))
先行電解質液には、電解質が含まれる。先行電解質液に含まれる電解質の電気泳動速度は、同じ印加条件で比較したときに、糖鎖標識体の電気泳動速度よりも速い。このような先行電解質液として、Clイオンを含む電解質液が好ましい。例えば、先行電解質液としては塩化ナトリウム水溶液が好ましい。
先行電解質液の濃度は、0.5mmol/L以上300mmol/L以下であってもよく、5mmol/L以上100mmol/L以下であってもよい。
すなわち、先行電解質液としては、濃度0.5mmol/L以上300mmol/L以下の塩化ナトリウム水溶液が好ましい。
キャピラリー内への試料及び先行電解質液の充填は、キャピラリーの端部から各液体を圧入することにより行う。先行電解質液の充填は、キャピラリーに充填する際の圧力と加圧時間とを制御することにより行う。先行電解質液の充填量は、キャピラリー全長の0.05%以上20%以下であると好ましい。
(工程(2))
工程(2)では、例えば、泳動液を充填したバイアル瓶にキャピラリーの両端を浸漬させ、キャピラリーに電圧を印加する。これにより、キャピラリーの下流側に充填した先行電解質液がキャピラリーの上流側に移動するとともに、試料中の糖鎖標識体もキャピラリーの上流側に移動し濃縮される。
(工程(3))
工程(3)では、公知のキャピラリー電気泳動法により糖鎖標識体を分離する。
その後、分離された糖鎖標識体について検出する。分析工程では、検出方法として、本発明の技術分野において用いられ、目的物の検出が可能な方法であれば採用することができる。採用可能な検出方法として、例えば、レーザー励起(誘起)蛍光検出法や質量分析法を挙げることができる。中でも、本実施形態においては、レーザー励起蛍光検出法により糖鎖標識体を検出することが好ましい。
以上のような分析方法により、低濃度のサンプルから好適に糖鎖標識体を検出することができる。
[キット]
本実施形態において、糖タンパク質を固定するための固相、固相を保持し糖鎖の遊離及び標識を行うための容器、並びに糖鎖遊離酵素を備える、糖タンパク質の糖鎖を調製するキットを提供する。
本実施形態のキットは、上述した糖タンパク質の糖鎖を調製する方法を実施するためのものである。本実施形態のキットは、キット使用のためのプロトコル情報を含んでいてもよい。キット使用のためのプロトコル情報は、上述の本発明の糖タンパク質の糖鎖を調製する方法が示された印刷物であってもよいし、当該方法が示されたウェブ上の情報へのアクセスを可能とするアクセス情報であってもよい。
また、本実施形態のキットは、界面活性剤を含む前処理剤、酸由来型陰イオン性界面活性剤を含む脱糖鎖促進剤、標識反応試薬、クリーンアップ用固相、クリーンアップ用固相を充填するための容器のいずれか1つ又は全部を更に備えていてもよい。
ここで、前処理剤に含まれる界面活性剤と脱糖鎖促進剤に含まれる酸由来型陰イオン界面活性剤とは同一の化合物であってもよい。この場合には、前処理剤と脱糖鎖促進剤とが区別されずに1つの容器に収容されていてもよい。
糖タンパク質を固定するための固相を保持し糖鎖の遊離及び標識を行うための容器、又はクリーンアップ用固相を充填するための容器は、カラム、マルチウェルプレート、フィルタープレート、マイクロチューブ等であってよいが、好ましくはスピンカラムである。スピンカラムは、遠心分離により固液分離された分離液を回収するコレクションチューブを更に備えていてもよい。容器は、固相を充填した状態でキットに含まれていてもよいし、固相と別個のアイテムとして含まれていてもよい。
糖タンパク質を固定するための固相は、糖タンパク質と結合可能な特異的結合性の非共有結合性基(水素結合性基及びイオン結合性基)及び共有結合性基等の結合性官能基を表面に有する固相である。固相としては、例えば、陽イオン交換担体、疎水性相互作用担体、無機担体等が挙げられ、例えば電気泳動ゲル又は転写用メンブレン等、単に糖タンパク質を保持するに過ぎない固相は含まない。
固相は、無機担体であってもよい。担体が無機担体であると、例えば、糖鎖遊離酵素により担体の一部が遊離することがない。このため、遊離された糖鎖の分析において、不要なシグナルの出現を抑制しやすい。
糖タンパク質が抗体である場合、固相は、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有していてもよい。これにより、糖鎖解析の重要性が特に高い抗体について、スループット性の高い糖鎖試料調製及び解析が可能となる。
また、標識反応試薬は、標識化合物、還元剤及び溶媒を含んでいてもよい。また、標識化合物、還元剤及び溶媒は別々の容器に収容されており、使用時に混合されてもよい。
本実施形態のキットによって、タンパク質部分の分解処理を行うことなく、糖タンパク質からの糖鎖の遊離が可能となる。したがって、糖鎖遊離処理にかかる時間を大幅に短縮することができる。また、糖鎖遊離処理において糖鎖遊離酵素を作用しやすくすることができる。
また、キットが標識反応試薬を含む場合には、遊離生成物を分離することなく標識反応試薬を重ねて加えることで、糖タンパク質から糖鎖を分析用試料(標識された態様)で極めて迅速に調製することができる。
[装置]
図1は、本実施形態の糖鎖調製方法を実施する装置の一例を説明する模式図である。装置100は、固相10に固定された糖タンパク質が収容される容器15を保持する保持部20と、容器15に試薬を導入する導入部30と、を備える。
保持部20は、固相10に固定された糖タンパク質を収容すべき容器15を保持するためのものである。保持部20が容器15を保持する態様は特に限定されず、例えば、保持部20の保持穴又は保持孔に容器の大部分を嵌入させて保持する態様が挙げられる。このほかにも、保持部の係合凸部(係合凹部)に容器の係合凹部(係合凸部)を係合させて保持する態様、保持部の挟持部で容器を挟持保持する態様等が挙げられる。
導入部30は、保持部20に保持された容器15内に液体類を導入するためのものである。図1の例では、導入部30は、糖鎖遊離酵素31、標識反応試薬32、前処理剤/脱糖鎖促進剤33を収容したタンク34と、タンク34が収容した各試薬を送液する送液管35aと、各試薬の送液を制御する弁(36,37,38)と各試薬を容器15の内部に導入するノズル35とを備えている。
導入部30は、少なくとも、遊離工程で用いられる糖鎖遊離酵素31を導入する糖鎖遊離酵素導入部と、標識工程で用いられる標識反応試薬32を導入する標識反応試薬導入部とを含む。
導入部30は、同一の容器15内に糖鎖遊離酵素31と標識反応試薬32とを添加する。導入部30が容器15内へ液体を導入する態様は特に限定されず、例えば、送液すべき液体が貯留されているタンク34から管状部材を介して容器15内へ送液する態様が挙げられる。このほかにも、管状部材中に採取した液体を容器内へ注入する態様等が挙げられる。
導入部30において、糖鎖遊離酵素導入部と標識反応試薬導入部とは、別個独立した構成部材として構成されてよい。この場合、糖鎖遊離酵素31と標識反応試薬32とは、この順番で逐次的に導入されてもよいし、同じタイミングで導入されてもよい。標識反応試薬導入部は自動制御されてよく、両試薬が逐次的に導入される場合、標識反応試薬導入部の作動のタイミングは、遊離工程に要する反応時間等に基づいて制御されてよい。
あるいは、導入部30において、糖鎖遊離酵素導入部と標識反応試薬導入部とは、同一の構成部材として構成されてもよい。この場合、糖鎖遊離酵素31と標識反応試薬32とは混合された状態で導入されてもよいし、この順番でそれぞれ逐次的に導入されてもよい。両試薬が逐次的に導入される場合、標識反応試薬が送液されるタイミング、つまり導入部30を標識反応試薬導入部として機能させるタイミングは、遊離工程に要する反応時間等に基づいて制御されてよい。
装置100は、容器15の収容物を固液分離する分離部40を更に備えていてもよい。装置100が分離部40を含む場合、分離部40は、容器15中に含まれる収容物から固体と液体とを分離する。固体は容器15中に残されるものであり、実質的には、固相10及びそれに固定されている物質である。この場合、容器15としては、固液分離可能なフィルタを具えるもの(例えばスピンカラム、フィルタ付きマイクロプレート等)が用いられる。さらに、容器15には、回収容器16(例えばコレクションチューブ、コレクションプレート等)が装着されて用いられてよい。さらにこの場合、保持部20は、容器15に装着された回収容器16を保持する回収保持部を含んで構成されてよい。図1の例では、回収保持部と保持部20は同一の部材から構成されている。
分離部40の具体的な分離形式としては特に限定されず、遠心ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過のいずれであってもよい。図1の例では、分離部40の分離形式は遠心ろ過である。分離部40は、容器15(又は16)を保持するラック41と、ドライブシャフト42と、モーター43とを備えている。
図1の例のように、分離部40は、遊離工程及び標識工程が行われる保持部20から独立した構成部材として構成されていてもよい。この場合、装置100は、保持部20から分離部40へ、容器15(及び16)を自動移送させる移送部50を含んでいてもよい。
移送部50は、容器15(及び16)の移送において、容器15のみが移送されるように構成されてもよいし、容器15が回収容器16を装着した状態で移送されるように構成されてもよい。移送部50は、容器15を直接的又は間接的に(つまり回収容器16を介して)把持及び開放し、かつ移動するように作動するアームと、当該アームの作動を制御するアーム制御部とを含んで構成されていてもよい。
分離部40を作動させることで、液体が回収容器16に回収される。したがって、例えば糖鎖遊離酵素31と標識反応試薬32とを導入することによって得られた反応容器中の反応物(つまり反応後の反応容器の収容物)から、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心分離等によって、糖鎖標識体を含む分離液を回収容器16中に回収することができる。また、例えば固相10に固定された糖タンパク質を調製する際、試料を固相に接触させて得られる調製物から、固相10に固定された糖タンパク質を容器15内に残すとともに、試料から糖タンパク質を除いた残部を回収容器16内に廃棄することができる。
また、装置100が分離部40を有する場合、上述の導入部30が、さらに洗浄液を容器15内に導入可能となるように構成されてもよい。これによって、容器15に洗浄液を通液することができる。
装置100は、容器15の収容物の温度を調節する温度調節部60を更に備えていてもよい。装置100が温度調節部60を含む場合、温度調節部60は、少なくともヒータ機能を有していればよい。温度調節部60は、容器15を、遊離工程及び標識工程それぞれに必要な温度に加温する。
さらに、装置100は、反応容器内部の空間と連通する開放空間が確保されるように構成されていてもよい。これによって、遊離工程を開放系で行った場合に容器15内の溶媒が蒸発するため、糖タンパク質の量にかかわらず、糖鎖遊離が効率的に進む濃度に供することが容易である。さらに、遊離反応とともに溶媒除去が併せて行われるため、遊離工程と別に溶媒除去工程を行うための時間が不要となり、さらに迅速な糖鎖調製が可能となる。
装置100は、標識工程後の固液分離によって回収容器内に回収された糖鎖標識体を含む分離液を、精製用固相を収容した精製用カラムに自動移送する液体移送部(不図示)を含んでいてもよい。精製用カラムは、上述の分離部40に設置して用いてもよい。
装置100は、作動しうる構成部分(例えば、導入部30、分離部40、移送部50、温度調節部60、液体移送部)の少なくともいずれか、好ましくは全てが自動制御されてもよい。これによって、糖タンパク質の糖鎖の調製をより迅速に行うことができる。
以上のような構成によれば、糖タンパク質から、標識された糖鎖を迅速に調製する糖鎖調製方法を提供することができる。
また、以上のような糖鎖分析方法によれば、分析に用いる糖鎖の量が少量であっても好適に分析可能となる。
[第2実施形態]
《糖鎖調製方法》
本実施形態の糖鎖調製方法は、糖タンパク質を含む試料に糖鎖遊離試薬を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、遊離生成物を含む混合液に精製剤を接触させ、精製剤に糖鎖を吸着させる吸着工程と、精製剤から糖鎖を溶出させる溶出工程と、得られた溶出液と、標識反応試薬とを反応させ、前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、を含む。
詳しくは後述するが、本実施形態においては、糖鎖を標識する標識反応試薬として、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acidのナトリウム塩及び9-aminopyrene-1,4,6-trisulfonic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種の標識化合物を含む試薬を用いる。
本実施形態の方法によれば、糖タンパク質から、標識された糖鎖を迅速に調製する糖鎖調製方法を提供することができる。
以下、順に説明する。
[遊離工程]
遊離工程では、糖タンパク質を含む試料(以下、単に試料と称することがある)に糖鎖遊離酵素を作用させて糖鎖を遊離し、遊離生成物を得る。本工程は、化学的断片化又は酵素学的断片化等によるタンパク質の断片化工程を実質的に含まない。
《糖タンパク質》
第2実施形態において、糖タンパク質は、少なくともO型糖鎖(O結合型糖鎖)を複合成分として含むタンパク質であればよい。すなわち、糖タンパク質は、O型糖鎖を含む「糖鎖部分」と、「タンパク質部分」とで構成されている。
第2実施形態において、「糖タンパク質」とは、タンパク質のアミノ酸配列中にO型糖鎖が少なくとも一つ以上結合しているタンパク質をいう。糖タンパク質から糖鎖を調製する方法に対象となる糖タンパク質は、特に制限されず、天然由来であっても、合成したものでもよい。
また、第2実施形態において、「糖鎖」には、O型糖鎖が含まれ、O型糖鎖の何れの糖鎖も糖タンパク質からの調製の対象とすることができる。O糖鎖は、タンパク質のセリン(Ser)又はスレオニン(Thr)のアミノ酸残基において、各アミノ酸側鎖に含まれる-OH基を介して糖鎖が結合した構造である。また、O糖鎖は、コアの構造により1~8種に分類される。
なお、「糖鎖」は単糖を含むものとする。
第2実施形態の糖タンパク質について、構造や糖タンパク質の例としては、第1実施形態の(糖タンパク質の構造、例示)で示した例と同じものが挙げられる。
《糖鎖遊離試薬》
糖鎖遊離試薬は、糖タンパク質における糖鎖結合部位に作用し、糖タンパク質から糖鎖を遊離させる。糖鎖遊離試薬は、ヒドロキシルアミン化合物と塩基性試薬とを含む。
糖鎖遊離試薬は、最終的に、糖タンパク質、ヒドロキシルアミン類、及び、塩基性試薬が接触した状態になればよい。例えば、下記(i)~(iii)のいずれであっても構わない。O型糖鎖の分解(ピーリング)を抑制するために、(i)が好ましい。
(i)糖タンパク質にヒドロキシルアミン類を添加した後、塩基性試薬を添加。
(ii)糖タンパク質に塩基性試薬を添加した後、ヒドロキシルアミン類を添加。
(iii)ヒドロキシルアミン類と塩基性試薬とを混合した後、糖タンパク質に添加。
・ヒドロキシルアミン類
ヒドロキシルアミン類としては、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシルアミンの塩、O置換ヒドロキシルアミン、O置換ヒドロキシルアミンの塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。
具体的には、ヒドロキシルアミン水溶液;
ヒドロキシルアミン塩酸塩、ヒドロキシルアミン硫酸塩、ヒドロキシルアミンリン酸塩;
O-(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)ヒドロキシルアミン、O-ターシャルブチルジメチルシリルヒドロキシルアミン、O-トリメチルシリルヒドロキシルアミン;
O-メチルヒドロキシルアミン塩酸塩、O-エチルヒドロキシルアミン塩酸塩、ニトロベンジルヒドロキシルアミン塩酸塩;
からなる群より選択される少なくとも一つの化合物を挙げることができる。
ヒドロキシルアミン類としては、ヒドロキシルアミン水溶液が好ましい。
糖タンパク質と糖鎖遊離試薬とを混合した混合液(反応液)における、ヒドロキシルアミン類の最終濃度は、2体積%以上70体積%以下としてもよく、5体積%以上70体積%以下としてもよく、10体積%以上60体積%以下としてもよい。しかしながら、上記した濃度範囲に限定されず、当業者であれば、対象とする糖タンパク質の種類や他の成分(アミン類、塩基性試薬、その他の添加剤)、接触条件(時間、温度等)等により適宜調製することができる。
・塩基性試薬
塩基性試薬としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の弱酸塩、アルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア水に溶解したアルカリ土類金属の塩、及び、有機塩基からなる群より選択される少なくとも一つの化合物を挙げることができる。
アルカリ金属の水酸化物としては、以下に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを挙げることができる。
また、アルカリ金属の弱酸塩としては、以下に限定されないが、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウムを挙げることができる。
また、アルカリ土類金属の水酸化物としては、以下に限定されないが、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ストロンチウムを挙げることができる。
また、アンモニア水に溶解したアルカリ土類金属の塩としては、以下に限定されないが、例えば、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウムを挙げることができる。
これらの中でも、特に、水酸化リチウムが好ましい。
有機塩基としては、以下に限定されないが、例えば、
DBU:1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene)
TBD:1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカン-5-エン(1,5,7-Triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、
MTBD:7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(7-Methyl-1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)、
TMG:1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(1,1,3,3-Tetramethylguanidine)、
t-BuTMG:2-tert-ブチル-1,1,3,3-テトラメチルグアニジン(2-tert-Butyl-1,1,3,3-tetramethylguanidine)、
DBN:1,5-ジアザビシクロ[4.3.0]ノン-5-エン(1,5-diazabicyclo[4.3.0]non-5-ene)、
CTAH:セチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(cetyltrimethylammonium hydroxide)
等を挙げることができる。
有機塩基として挙げる化合物は、単独で用いてもよく二つ以上を組み合わせて使用してもよい。
有機塩基は、有機強塩基(pKa12以上)が好ましく、具体的には、DBU、TBD、MTBD、TMG、CTAHを挙げることができる。有機塩基として、DBU、TMG、TBD、MTBD、CTAHを用いると、遊離工程の後、有機溶媒で洗浄することで反応後の塩基の除去がより容易になり好ましい。
反応液における塩基性試薬の最終濃度は、例えば、2mmol/L以上10mol/L以下の濃度範囲とすることができる。しかしながら、上記した濃度範囲に限定されず、当業者であれば、対象とする糖タンパク質の種類や反応液中の他の成分(ヒドロキシルアミン類、その他の添加剤)、反応条件(時間、温度等)等により適宜調製することができる。例えば、塩基性試薬として水酸化リチウムを用いる際には、6mmol/L以上8mol/L以下とすることができる。
塩基性試薬の濃度を上記下限値以上とすることで、反応時間を短時間とすることができる。また、塩基性試薬の濃度を上記上限値以下とすることで、残存した塩基性試薬の次工程への影響を抑えられる。
ヒドロキシルアミン類と塩基性試薬とのモル比は、1:2以上300:1以下とすることが好ましく、1:1以上100:1以下とすることがより好ましい。ヒドロキシルアミン類と塩基性試薬とのモル比を上記した範囲とすることにより、遊離した糖鎖の分解(ピーリング)反応を抑制すると共に、糖鎖の収率を向上することができる。
糖タンパク質と糖鎖遊離試薬を接触させる温度(反応温度)や時間(反応時間)等の条件は、対象となるタンパク質から糖鎖が遊離できる限りにおいて特に限定されず、対象となる糖タンパク質、ヒドロキシルアミン類、塩基性試薬の種類や濃度等の条件により当業者は適宜設定することができる。
反応温度は、例えば、室温以上80℃以下とすることができる。反応温度を低くすることで糖鎖分解(ピーリング)率を抑制できる。特に、Nグリコリル基等は、高温で反応させると分解されやすいため、未知の糖鎖を有する糖タンパク質を対象とする場合は、50℃以下とすることが好ましく、例えば37℃程度とすることができる。
反応時間は、例えば、約5分~16時間とすることができる。
・アミン類
糖鎖遊離試薬に、アミン類を更に加えてもよい。アミン類としては、以下に限定されないが、例えば、アンモニア水、メチルアミン水溶液、ジメチルアミン水溶液、エチルアミン、ジエチルアミン、エタノールアミン、エチレンジアミン、ブチルアミン、モルホリン、DABCO、アントラニル酸からなる群より選択される少なくとも一つの化合物を挙げることができる。
アミン類は、アンモニア水、モルホリン、DABCO、アントラニル酸が好ましい。アンモニア水、モルホリン、DABCO、アントラニル酸等をアミン類として用いることで、ピーリング、異性化やアミドの分解が抑制される。
反応液におけるアミン類の最終濃度は、例えば、40mmol/L以上15mol/L以下の濃度範囲とすることができる。しかしながら、上記した濃度範囲に限定されず、当業者であれば、対象とする糖タンパク質の種類や反応液中の他の成分(ヒドロキシルアミン類、塩基性試薬、その他の添加剤)、反応条件(時間、温度等)等により適宜調製することができる。
アミン類としてアンモニア水を用いる際には、反応液中のアンモニアの最終濃度を2体積%以上25体積%以下とすることができ、好ましくは、10体積%以上20体積%以下とすることができる。より好ましくは、20体積%である。
(ヒドロキシルアミン類を除去する工程)
上記した通り、特にO結合型糖鎖を遊離させる場合には、ヒドロキシルアミン類の最終濃度はできるだけ高いことが好ましい。しかしながら、糖タンパク質と反応液との混合液が、高濃度のヒドロキシルアミン類を含む場合、糖鎖を遊離後の混合液に未反応のヒドロキシルアミン類が残存する場合がある。未反応のヒドロキシルアミン類は、糖鎖を標識して分析する場合に標識反応を阻害してしまうため、除去することが好ましい。
そこで、遊離工程においては、糖タンパク質から糖鎖を遊離させた後、未反応のヒドロキシルアミン類を除去する工程を更に含んでいてもよい。除去する工程では、糖鎖を遊離させた反応液に、ケトン、アルデヒド又は酸無水物を添加する。
反応液にケトンを添加することにより、ヒドロキシルアミン類とケトンとを反応させ、ケトキシムに変換することができる。ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、4-ヒドロキシブタノン等を用いることができる。
反応液にアルデヒドを添加することにより、ヒドロキシルアミン類とアルデヒドを反応させ、アルドキシムに変換することができる。アルデヒドとしては、サリチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、4-ヒドロキシベンズアルデヒド等を用いることができる。
反応液に酸無水物を添加することにより、ヒドロキシルアミン類と酸無水物を反応させ、アミドに変換することができる。酸無水物としては無水酢酸、無水コハク酸等を用いることができる。
(遊離生成物)
遊離工程によって得られる遊離生成物は、糖タンパク質における糖鎖部分に対応した遊離糖鎖と、糖タンパク質におけるタンパク質部分に対応したタンパク質とを含む混合物である。
[吸着工程]
吸着工程では、遊離生成物を含む混合液に精製剤を接触させ、精製剤に糖鎖(遊離糖鎖)を吸着させる。
《精製剤》
精製剤は、「糖鎖に親和性を有する固相」である。精製剤は、混合液に接触することで、混合液に含まれる糖鎖を吸着することができる。
このような精製剤は、例えば、グラファイトカーボン、結晶性セルロース、シリカ、モノリスシリカ等の親水性担体等が挙げられる。モノリスシリカとは、3次元網目構造を持つフィルター状の多孔質連続体シリカであり、従来の粒子状シリカと比較して通液性が良好であり、デッドボリュームが少ない等の長所がある。モノリスシリカは、カラム状の容器に固定されていてもよく、例えばマルチウェルプレートに固定されていてもよい。
モノリスシリカのポアサイズは、互いに連続した細孔(スルーポア)径が1~100μmであることが好ましく、1~50μmであることがより好ましく、1~30μmであることが更に好ましく、1~20μmであることが特に好ましい。
また、精製剤は、以下の(A)(B)の少なくともいずれか一方であると好ましい。
(A)ベタイン構造を有するポリマー
(B)ベタイン構造を有するポリマーと、当該ポリマーを担持する支持体と、を有する複合体
「ベタイン構造」とは、下記(a)~(c)の要件を満たす分子構造を意味する。
(a)正電荷と負電荷を同一分子構造内の隣り合わない位置に有する。
(b)正電荷を持つ原子には解離しうる水素が結合していない。
(c)分子構造全体としては電荷を持たない。
ベタイン構造は、具体的には、下記式(1)又は式(2)のいずれかの構造である。下記式(1)又は式(2)のいずれかの構造を分子内に有する化合物は、分子末端にベタイン構造を有する。
-Z-L-A …(1)
-A-L-Z …(2)
[式(1)(2)中、Zは、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基、イミノ基及びイミニウム基からなる群より選択されるカチオン基を表す。
Lは、炭素数1~10のアルキレン基を表す。
Aは、リン酸基、カルボキシル基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホン酸基、スルフィン基、スルフェン基、水酸基、チオール基及びボロン酸基からなる群より選択されるアニオン基を表す。]
すなわち、精製剤におけるベタイン構造は、アニオン基と、カチオン基と、アニオン基とカチオン基とを連結するリンカーと、を有する。
カチオン基としては、2級アミノ基(-NHR)、3級アミノ基(-NR)、4級アンモニウム基(-N)、イミノ基(-C(=NR)-)及びイミニウム基(-C(=N)-)が挙げられるが、これらに限定するものではない。
カチオン基が有するRは、アルキル基又はアリール基であり、アルキル基が好ましい。
アルキル基は直鎖状であってもよく、分岐していてもよい。カチオン基が複数のRを有する場合、複数のRはそれぞれ異なっていてもよく同一であってよい。Rは、例えば炭素数1~3のアルキル基が好ましい。
カチオン基として、4級アンモニウム基が好ましい。上記式(2)においては、カチオン基は、トリメチルアンモニウム基がより好ましい。
カチオン基は、陰イオンとイオン結合し、塩を形成してもよい。このようなカチオン基であっても、混合液中では陰イオンが脱離し、カチオン基として機能する。カチオン基とイオン結合する陰イオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、塩酸イオン、酢酸イオン、硫酸イオン、フッ化水素酸イオン、及び炭酸イオンを挙げることができる。
式(1)(2)中、Lで表される基は、カチオン基とアニオン基とを接続するリンカーである。リンカーであるアルキレン基は、直鎖状であってもよく、環状であってもよく、分岐構造を有していてもよいが、直鎖状が好ましい。アルキレン基の炭素数は、2~5が好ましい。
アニオン基としては、例えば、リン酸基(-OP(=O)(OH))、カルボキシル基(-COOH)、ホスホン酸基(-P(=O)(OH))、ホスフィン酸基(-P(=O)R(OH))、スルホン酸基(-SOH)、スルフィン基(-S(=O)OH)、スルフェン基(-SOH)、水酸基(-OH)、チオール基(-SH)、及びボロン酸基(-B(OH))等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
アニオン基としては、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基及びカルボキシル基が好ましく、リン酸基及びカルボキシル基がより好ましい。
アニオン基は、陽イオンとイオン結合し、塩を形成してもよい。このようなアニオン基であっても、混合液中では陽イオンが脱離し、アニオン基として機能する。アニオン基とイオン結合する陽イオンとしては、ナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属イオン、及びカルシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等を挙げることができる。
精製剤におけるベタイン構造において、カチオン基とアニオン基の組み合わせは特に制限はない。好ましい組み合わせは、アニオン基が、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群より選択される基であり、カチオン基が4級アンモニウム基であり、リンカーが炭素数1~4のアルキレン基である。
また、精製剤が有するベタイン構造において、アニオン基はリン酸基がより好ましい。
さらに、精製剤が有するベタイン構造において、ベタイン構造を示す部分は、ホスホリルコリン基であると好ましい。
((A)ベタイン構造を有するポリマー)
精製剤は、上記式(1)又は(2)で表されるベタイン構造を有するポリマー(高分子)であってもよい。以下の説明では、「ベタイン構造を有するポリマー」を「ポリマーA」と称することがある。
ポリマーAは、直鎖状であってもよく、分岐構造を有していてもよい。
ポリマーAが分岐構造を有する場合、主鎖がベタイン構造を有していてもよく、側鎖がベタイン構造を有していてもよい。側鎖がベタイン構造を有する場合、ポリマーAは、全ての側鎖がベタイン構造を有してもよく、側鎖の一部がベタイン構造を有してもよい。ベタイン構造を有していない側鎖は、電荷を有していてもよく、有していなくてもよい。
ポリマーAの主鎖には、特に制限はない。主鎖は、(メタ)アクリル化合物に由来する繰り返し単位を含むことが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリル酸エステルの誘導体に由来する繰り返し単位を含むとより好ましい。
さらに、主鎖には、上記繰り返し単位と共重合可能な繰り返し単位を含んでもよい。このような共重合可能な繰り返し単位としては、ビニル基、アリル基、α-アルコキシメチルアクリロイル基、マレイン酸残基、フマル酸残基、イタコン酸残基、クロトン酸残基、イソクロトン酸残基、及びシトラコン酸残基に由来する繰り返し単位を挙げることができる。
ポリマーAは、ベタイン構造を有する重合性単量体の重合体であると好ましい。ベタイン構造を有する重合性単量体としては、公知の単量体を用いることができる。例えば、(i)ホスホベタイン基を有するホスホベタイン系単量体、(ii)カルボキシベタイン基を有するカルボキシベタイン系単量体、(iii)スルホベタイン基を有するスルホベタイン系単量体等が挙げられる。
(i)ホスホベタイン系単量体としては、ホスホリルコリン基を有する重合性単量体が好ましい。例えば、
2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、
2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエチルホスホリルコリン、
6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、
10-(メタ)アクリロイルオキシエトキシノニルホスホリルコリン、
2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、
2-(メタ)アクリロイルオキシブチルホスホリルコリンが挙げられる。以上の単量体は、式(2)におけるAがリン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基であるベタイン構造を有する。
なかでも、入手が容易であることから、ホスホベタイン系単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンが好ましく、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)がより好ましい。
更に、ホスホベタイン系単量体として、上記式(1)で表されるベタイン構造を有する単量体を用いることもできる。例えば、
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(ホスホナトメチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(ホスホナトメチル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがメチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(2-ホスホナトエチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(2-ホスホナトエチル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(3-ホスホナトプロピル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(3-ホスホナトプロピル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがプロピレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(4-ホスホナトブチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(4-ホスホナトブチル)アミニウム(上記式(1)のAがホスホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがブチレン基)
が挙げられる。
カルボキシベタイン系単量体としては、上記式(1)で表されるベタイン構造を有する単量体を用いることができる。例えば、
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(カルボキシラトメチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(カルボキシラトメチル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがメチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(2-カルボキシラトエチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(2-カルボキシラトエチル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(3-カルボキシラトプロピル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(3-カルボキシラトプロピル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがプロピレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(4-カルボキシラトブチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(4-カルボキシラトブチル)アミニウム(上記式(1)のAがカルボキシル基、Zが4級アンモニウム基、Lがブチレン基)
が挙げられる。
スルホベタイン系単量体としては、上記式(1)で表されるベタイン構造を有する単量体を用いることができる。例えば、
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(スルホナトメチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(スルホナトメチル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがメチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(2-スルホナトエチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(2-スルホナトエチル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがエチレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(3-スルホナトプロピル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(3-スルホナトプロピル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがプロピレン基)
・ジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)(4-スルホナトブチル)アミニウム、ジメチル(2-アクリロイルオキシエチル)(4-スルホナトブチル)アミニウム(上記式(1)のAがスルホン酸基、Zが4級アンモニウム基、Lがブチレン基)
が挙げられる。
これらのベタイン構造を有する重合性単量体としては、ホスホベタイン系単量体が好ましく、ホスホリルコリン基を有するホスホベタイン系単量体がより好ましい。
((B)ベタイン構造を有するポリマーと、ポリマーを担持する支持体と、を有する複合体)
精製剤としては、上記ポリマーAを単独で用いてもよく、ポリマーAを不溶性の支持体に担持させた複合体として用いてもよい。上記ポリマーAを不溶性の支持体に担持させた複合体は、糖鎖を吸着させた後、混合液から分離しやすく、精製操作が簡便になるため好ましい。
図2は、本実施形態の精製方法で用いる精製剤の一例を示す模式図である。図2に示すように、精製剤1は、ベタイン構造を有するポリマー(ポリマーA)と、当該ポリマーを担持する支持体2とを有する複合体である。図2に示す精製剤1では、支持体2が球状(粒子状)であり、ベタイン構造を有するポリマーは、支持体2の表面に層状に設けられている。図2では、層状に設けられたポリマーの層を符号3で示しており、層3を構成するベタイン構造を有するポリマーを符号3aで示している。
(支持体)
図2では、支持体2を、球状であることとして示したがこれに限らない。例えば、支持体の形状は、基板やマルチウェルプレート等の板状、シートやフィルム、メンブレン等の膜状、繊維状であってもよい。
支持体2が球状であり、精製剤1が球状である場合、精製剤1の平均粒径は、0.5μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下がさらに好ましく、3μm以上10μm以下が特に好ましい。精製剤1の平均粒径が上記下限値以上であると、取り扱いが容易となり好ましい。また、精製剤1の平均粒径が上記上限値以下であると、遊離工程で調製する混合液中で、糖鎖と精製剤1とを良好に接触させ、精製剤1に糖鎖を吸着させやすいため好ましい。
精製剤1の平均粒径は、例えば、粒度分布計等で測定することができる。
精製剤1は、スピンカラム等のフィルターカップ、マルチウェルプレートの各ウェル、フィルタープレートの各ウェル、マイクロチューブ等の容器の中に充填された状態で用いてもよい。
また、図2では、ポリマー3aが支持体2の表面の全体を覆っているが、これに限らず、支持体2の表面が露出していてもよい。
支持体2の材料は、糖鎖の精製過程で使用する有機溶媒及び水に不溶な基材であり、上述のベタイン構造を有するポリマー(ポリマーA)を担持できるものを採用できる。このような支持体2の材料は、無機材料であってもよく、有機材料であってもよく、無機材料と有機材料との複合材料であってもよい。
無機材料としては、ガラス、酸化鉄(フェライト、マグネタイト等)、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物、鉄、銅、金、銀、白金、コバルト、アルミニウム、パラジウム、イリジウム、ロジウム等の金属及びその合金、グラファイト等の炭素材料等が挙げられる。
これらの材料は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機材料としては、架橋ポリビニルアルコール、架橋ポリアクリレート、架橋ポリアクリルアミド、架橋ポリスチレン等の合成高分子、架橋セファロース、結晶性セルロース、架橋セルロース、架橋アミロース、架橋アガロース、架橋デキストラン等の多糖類等が挙げられる。
これらの材料は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
支持体2としては、無機材料を用いることが好ましい。支持体2となりうる有機材料は比重が1前後であり、精製で用いる混合液との比重差が小さい。そのため、支持体2の材料として有機材料を採用すると、固液分離が煩雑になることがある。一方、支持体2の材料として無機材料を用いると、容易かつ簡便に混合液と精製剤とを固液分離できる。これにより、作業効率の向上に寄与することができる。
支持体2の材料としては、シリカが特に好ましい。
支持体2は、多孔質体であってもよい。多孔質の支持体2を用いることにより、支持体2表面に固定するベタイン構造を有するポリマーAの量を増加できる。これにより、作業効率の向上に寄与することができる。
また、空隙を有する支持体と空隙を有さない支持体とを併用する、または、多孔質体である支持体の空隙の量を調製することにより、精製剤全体の比重を調製することもできる。
ポリマーAを支持体の表面に担持させる方法は、物理吸着、又は、化学結合のいずれであってもよい。糖鎖の精製過程において、支持体からポリマーAが遊離し難いため、上記担持させる方法は、化学結合が好ましい。
例えば、表面に水酸基等の反応点を有する支持体の存在下、上述した重合性単量体を重合させることにより、支持体表面に重合体を結合させ担持させることができる。その他、WO2019/088167に記載の公知の方法により、支持体の表面にポリマーAを担持させることができる。
このような精製剤1において、支持体2に結合しているポリマーAの重量は、支持体2の単位表面積(m)当たり0.5mg以上1.5mg以下が好ましく、0.6mg以上1.3mg以下がより好ましく、0.7mg以上1.2mg以下がさらに好ましい。単位表面積当たりのポリマー重量が上記範囲であると、ポリマーAの重合時に支持体2からポリマーAを成長させやすく、ポリマー合成時のハンドリングが良好となる。また、精製剤1において、ポリマーAと糖鎖とを接触させやすく、糖鎖を効率よく吸着させることができる。
支持体2に結合しているポリマーAの重量は、精製剤を熱重量分析することで求められる重量減少率と、支持体2について窒素吸着法で求めるBET比表面積とから、求めることができる。
このような精製剤の比重は、1.05~3.00であると好ましく、1.1~2.7であるとより好ましく、1.5~2.5であるとさらに好ましい。精製剤の比重が下限値以上であることにより、精製剤を沈降させやすく固液分離の操作が容易となる。また、精製剤の比重が上限以下であることにより、遊離工程で調製する混合液において精製剤を分散させやすい。これにより、遊離工程で調製する混合液において、精製剤と糖鎖とを接触させやすく、精製剤に糖鎖を吸着させやすい。
このような精製剤と、遊離生成物を含む混合液とを接触させる。混合液は、公知の方法により、脱塩等の処理を行ったものであってもよい。精製剤は、混合液に含まれる糖鎖を吸着する。また、混合液中に存在するタンパク質やペプチド断片等は、精製剤に吸着せず遊離状態で残存する。
混合液の溶媒としては、有機溶媒、又は、有機溶媒と水の混合溶媒を用いることができる。溶媒は、濃縮対象となる糖鎖の種類等により適宜選択することができる。有機溶媒としては、糖鎖を溶解可能なものである限り特に制限はないが、例えば、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、アセトン、ジオキサン、ピリジン、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、及び1-ブタノール等を挙げることができる。好ましくは、1-ブタノール、エタノール等の有機溶媒が好適に用いられる。pH調製のために各種緩衝液を用いることができる。また、有機溶媒と水の混合溶媒を用いる場合、有機溶媒と水の混合比率は、例えば体積比で3:1以上1000:1以下である。
必要に応じて、糖鎖を吸着させた精製剤を洗浄することができる。洗浄により、精製剤に吸着した糖鎖以外の夾雑物、例えば、タンパク質、ペプチド断片、脂質、塩等を除去することができる。
洗浄液としては、例えば上記した溶媒を用いることができる。溶媒としてアセトニトリルを用いると、糖鎖の溶出を抑制しつつ夾雑物を溶出させることが可能であり好ましい。
[溶出工程]
溶出工程では、糖鎖を吸着した精製剤から糖鎖を溶出させる。精製剤から糖鎖を溶出させる溶離液には、有機溶媒、又は、有機溶媒と水の混合溶媒を用いることができ、溶出対象となる糖鎖や精製剤の種類等により適宜選択することができる。
有機溶媒としては、上記したものを用いることができる。
溶出工程では、親水性を高めた溶媒を用いることで、効率よく糖鎖を溶出させることができる。例えば、有機溶媒を使用せず水のみを用いることもできるし、有機溶媒と水の混合溶媒を用いることもできる。混合溶媒を用いる場合は、水に対して有機溶媒は体積比で3倍以下であることが挙げられるが、特に好ましくは、有機溶媒を使用せず水のみを用いることができる。
精製剤から糖鎖を溶出させる溶離液としては、超純水が特に好ましい。なお、「超純水」とは、例えば超純水製造装置(型番:MilliQ EQ7000、メルク社製)を用いて作製した超純水、又はこれと同等の水を指す。
本実施形態において、上記吸着工程及び溶出工程は、一部の工程又は全工程を、バッチ法や、スピンカラム法等により行うことができる。バッチ法及びスピンカラム法について下記に詳述するが、試薬類及び反応条件等は上記した通りである。
(バッチ法)
バッチ法では、まず、遊離工程で得た遊離生成物と上記精製剤とを、適当な容器(例えば、マイクロチューブや遠心管、マイクロプレート等)中で接触させ、当該精製剤に糖鎖を吸着させる(吸着工程)。
精製剤は不溶性支持体に固定されていることが好ましい。
続いて、糖鎖を吸着させた精製剤を固液分離し、タンパク質、ペプチド断片、脂質、塩等の夾雑物を含む液相部分を除去するとともに、糖鎖を吸着させた精製剤を回収する。固液分離は、重力による自然沈降や遠心分離、濾過、磁力(精製剤の支持体が磁性材料の場合)を用い、公知の方法で行うことができる。
続いて、糖鎖を吸着させた精製剤を洗浄する。洗浄により、精製剤に吸着した糖鎖以外のタンパク質やペプチド断片等の夾雑物を除去することができる。洗浄は、糖鎖を吸着した精製剤を適当な容器中で洗浄液に浸漬し、洗浄液の交換を繰り返すことにより行うことができる。
洗浄後、糖鎖を吸着させた精製剤から糖鎖を溶出させる(溶出工程)。
糖鎖の溶出は、糖鎖を吸着させた精製剤を溶出液に浸漬することによって行うことができる。例えば、十分に洗浄液を取り除いた後、糖鎖を吸着させた担体に溶出液を適当量加えて振とう又は撹拌する。続いて、固液分離により当該担体を回収し、溶出液を新しい適当な容器(例えば、コレクションチューブやコレクションプレート等)に収集する必要に応じて溶出液を留去することにより、糖鎖を濃縮することができる。
(スピンカラム法)
スピンカラム法による場合には、フィルター等を内蔵した容器、例えば、フィルターカップ等を用いて行うことができる。フィルターカップとしては、例えば上部と下部に開口部を有し、下部の開口部がフィルターで被覆されているものを用いることができる。
フィルターカップを用いる場合、まず、精製剤を充填したフィルターカップに、遊離工程で得た遊離生成物を投入して通液させ、精製剤と遊離生成物とを接触させる(吸着工程)。
精製剤は不溶性支持体に固定されていることが好ましい。
通液は、重力による自然落下、及び遠心分離等を行ってもよく、また、減圧下若しくは加圧下で通液させてもよい。通液後、当該精製剤を通過した遊離のタンパク質やペプチド断片、脂質、塩等が含まれる排液を除去する。
続いて、糖鎖を吸着した精製剤を洗浄する。洗浄は、フィルターカップ内の当該精製剤に洗浄液を通液させることによって行うことができ、糖鎖の吸着から連続的に洗浄を行うことができる。
洗浄後、糖鎖を吸着した精製剤から糖鎖を溶出させる(溶出工程)。
糖鎖の溶出は、フィルターカップ内の精製剤に溶出液を通液させることによって行うことができ、糖鎖の吸着から洗浄操作を経て連続的に行うことができる。精製剤を通液後の溶出液を適当な容器(例えば、コレクションチューブやコレクションプレート等)に収集する。必要に応じて溶出液を留去することにより、糖鎖を濃縮することができる。
[標識工程]
標識工程では、溶出工程で得られた溶出液と、標識化合物を含む標識反応試薬とを反応させ、糖鎖の標識体(以下、糖鎖標識体と称することがある)を含む標識生成物を得る。
(標識化合物)
標識化合物は、糖鎖に対する反応性基と、糖鎖に付すべき修飾基とを有する。本実施形態において、標識化合物は、いずれも反応性基としてアミノ基を有し、修飾基として芳香族基を有する。アミノ基及び芳香族基を有する標識化合物を用いると、糖鎖に対して還元アミノ化による修飾が行われる。
アミノ基は、還元アミノ化による修飾において、糖鎖の還元末端に形成されるアルデヒド基と反応し、シッフ塩基を形成する。形成されたシッフ塩基は、別途加える還元剤により還元されることで糖鎖の還元末端においてペプチド結合を形成する。これにより、標識化合物は、反応性基であるアミノ基を介して糖鎖に修飾基を導入し、効率的に標識することができる。
芳香族基は、紫外可視吸収特性又は蛍光特性を有するため、UV検出又は蛍光検出での検出感度が向上する点で好ましい。
上述したように、本実施形態で用いられる標識化合物は、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acidのナトリウム塩及び9-aminopyrene-1,4,6-trisulfonic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ナトリウム塩は、好ましくは3ナトリウム塩(8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid trisodium、APTS)である。これらの標識化合物は、硫酸基(スルホン酸基)を含む。以下の説明においては、これらの標識化合物を「標識化合物1」とする。
(標識反応試薬)
本実施形態で用いる標識反応試薬は、標識化合物1の他、標識化合物1を溶解させる溶液、還元剤を含む。
・溶液
標識反応試薬における溶液は、アルコール、有機酸、超純水の混合液である。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸の他、シュウ酸、マロン酸、琥珀酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸等のジカルボン酸、クエン酸等のトリカルボン酸が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、トリカルボン酸であるクエン酸を用いること好ましい。
還元剤としては、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリアセトキシホウ素ナトリウム、メチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、ピコリンボラン、ピリジンボラン等が挙げられる。
中でも、安全性及び反応性の両方の観点から、ピコリンボラン(2-ピコリンボラン)を用いることが好ましい。
標識反応試薬は、緩衝液を含んでもよい。緩衝液を含む場合、緩衝剤としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸水素二アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等が挙げられる。緩衝液のpHには特に制限はないが、pHが5~10であるものが好ましい。
本実施形態においては、標識反応試薬を、標識化合物1と有機酸の水溶液とを含む第1試薬と、還元剤と溶媒とを含む第2試薬と、に分けて用いる。具体的には、標識工程を以下に示す第1工程と第2工程に分け、それぞれの工程において第1試薬、第2試薬を添加する。
・第1工程
第1工程では、溶出工程で得られた溶出液を乾固させた後に、第1試薬を加えて加熱する。
溶出液を乾固させる方法は、公知の方法を採用することができる。具体的には、乾燥(低湿度)、加熱、減圧、送風及びこれらを組み合わせたいずれかの環境において、溶出液に含まれる溶媒を除去する。
第1試薬における標識化合物1の濃度は、例えば100mmol/L以上500mmol/L以下とすることができる。
第1試薬における有機酸の濃度は、例えば100mmol/L以上1000mmol/L以下とすることができる。
第1試薬には、標識化合物1、有機酸、水の他、アルコールが含まれていてもよい。
第1工程の加熱温度は、例えば、40℃以上80℃以下とすることができる。
また、第1工程の加熱時間は、例えば、10分以上24時間以下とすることができる。
・第2工程
第2工程は、第1工程で得られた反応液に第2試薬を加え加熱する。
第2試薬における還元剤の濃度は、10mmol/L以上500mmol/L以下とすることができる。
第2試薬における溶媒は、アルコールを含む。
第2工程の加熱温度は、例えば、40℃以上80℃以下とすることができる。
また、第2工程の加熱時間は、例えば、1時間以上24時間以下とすることができる。
標識化合物1を用いる場合、上記第1工程、第2工程を経ることにより、第1試薬と第2試薬とが当初から混ざった標識反応試薬を用いる場合と比べ、糖鎖を標識しやすくなる。第1工程において酸性条件下で加熱することにより、標識化合物1と糖鎖とが反応しやすく、その結果、第2工程における還元反応により還元アミノ化が進行しやすいと想定される。
上記標識工程により、糖鎖標識体を含む反応液が得られる。
(精製工程)
得られた反応液には、糖鎖標識体とともに、標識工程で用いた余剰の標識化合物1等の不要物が存在している。そのため、反応液(標識生成物を含む試料溶液)から不要物を除去することで糖鎖標識体を精製してもよい。不要物の除去は、試料溶液を精製用固相に通液して糖鎖標識体を捕捉し、捕捉された糖鎖標識体を再溶出することで行われてよい。
第2実施形態の精製工程において、精製用固相としては、第1実施形態の(精製用固相)で示した精製用固相と同じものを用いることができる。
第2実施形態の精製工程において、試料溶液は、第1実施形態の(分離液の再調製)で示した方法と同様にイオン性水溶液を添加して、分離液を再調製してもよい。
上記精製においては、糖鎖標識体を精製用固相担体に捕捉させた後、精製用固相担体を溶媒で洗浄するとよい。このとき、用いる溶媒は、有機溶媒及び水を含む混合溶媒が好ましく、アセトニトリルと水とアルコールとの混合溶媒がより好ましい。アルコールとして、メタノール又はエタノールのいずれか一方又は両方を採用することができる。
精製においては、疎水性の異なる上記3種の溶媒を、体積割合でアセトニトリル:アルコール:水=20~98:0~60:2~15(合計100体積%)で混合した混合溶媒を用いて洗浄する。
混合溶媒において、アセトニトリルは、45体積%以上98体積%以下含まれることが好ましく、70体積%以上98体積%以下含まれることが好ましい。
混合溶媒において、アルコールは、0体積%以上40体積%以下含まれることが好ましく、0体積%以上20体積%以下含まれることが好ましい。アルコールを用いる場合は、エタノールが好ましい。
混合溶媒において、水は、3体積%以上15体積%以下含まれることが好ましく、2体積%以上10体積%以下含まれることが好ましい。
混合溶媒の一例として、アセトニトリル:アルコール:水=50:40:10(合計100体積%)で混合した混合溶媒を挙げることができる。
精製用固相担体に上記混合溶媒を通液させた後、遠心して精製用固相担体から溶媒を除去する操作により、精製用固相担体を洗浄するとよい。この洗浄操作により、未反応の標識化合物の他、上述した不要物を除去することができる。また、洗浄操作は、1回のみ行ってもよく、2回以上行ってもよい。洗浄操作を繰り返すと、不要物を除去できる一方で、精製用固相担体に付着する糖鎖標識体も洗い流してしまい、糖鎖標識体の収率が低下する懸念が生じる。そのため、洗浄操作は、3回以下とするとよい。
《糖鎖分析方法》
本実施形態の方法によって調製された糖鎖標識体は、第1実施形態の《糖鎖分析方法》に記載の方法にて分析することができる。そのため、低濃度のサンプルから好適に糖鎖標識体を検出することができる。
以上のような構成の糖鎖調製方法によれば、糖タンパク質から、標識された糖鎖を迅速に調製することができる。
また、以上のような糖鎖分析方法によれば、分析に用いる糖鎖の量が少量であっても好適に分析可能となる。
[第3実施形態]
本実施形態の糖鎖調製方法は、第2実施形態の糖鎖調製方法と遊離工程、吸着工程が共通し、溶出工程及び標識工程が異なっている。そのため、以下の説明では、第2実施形態と共通する操作については省略し、異なる操作について詳述する。
[溶出工程]
溶出工程では、糖鎖を吸着した精製剤から糖鎖を溶出させる。精製剤から糖鎖を溶出させる溶離液には、上述の有機溶媒、又は、有機溶媒と水の混合溶液を用いることができ、溶出対象となる糖鎖や精製剤の種類等により適宜選択することができる。
本実施形態の溶出工程では、溶離液として、後述の標識工程で用いる標識反応試薬を用いることができる。標識反応試薬を用いて溶出工程を行うことにより、溶離液を別途用いて溶出する場合と比べて操作が簡略化される。
また、標識反応試薬以外の溶離液を用いて糖鎖を溶出し、得られた溶出液に標識反応試薬を加えて標識工程を実施する場合と比べると、標識反応試薬を用いて糖鎖を溶出することにより相対的に高濃度で標識工程を実施することとなる。そのため、遊離糖鎖と標識反応試薬との反応を生じさせやすくなる。
さらに、標識反応試薬以外の溶離液を用いて糖鎖を溶出し、得られた溶出液から溶媒を除去して糖鎖を濃縮した後に標識工程を実施する場合と比べると、標識反応試薬を用いて糖鎖を溶出することにより操作が簡略化される。
[標識工程]
本実施形態の標識工程においては、標識反応試薬に含まれる標識化合物として、2-aminobenzoic acid(2-AA)及び3-aminobenzoic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる。これらの標識化合物は、カルボキシ基を含む。以下の説明においては、これらの標識化合物を「標識化合物2」とする。
標識反応試薬における還元剤の濃度は、0.1mmol/L以上20mmol/L以下である。
また、一例として、標識反応試薬の溶液は、標識反応試薬の溶媒における有機酸の含有率を1体積%以上15体積%以下とすることができる。標識反応試薬の溶液における有機酸の含有率は10体積%以下が好ましい。
用いるアルコールはメタノールが好ましく、用いる還元剤はピコリンボランが好ましい。
以上のような構成の糖鎖調製方法であっても、糖タンパク質から、標識された糖鎖を迅速に調製することができる。
[キット]
本実施形態にかかる精製キットは、糖タンパク質から糖鎖を遊離させる糖鎖遊離試薬と、遊離させた糖鎖を精製する精製剤と、糖鎖を標識する標識反応試薬とを有する。
糖鎖遊離試薬及び精製剤は、上述の実施形態において記載した試薬、精製剤と同様のものを用いる。
第1実施形態の糖鎖調製方法を実施するためのキットにおいては、標識反応試薬として、上述の第1試薬及び第2試薬を用いる。
第3実施形態の糖鎖調製方法を実施するためのキットにおいては、標識反応試薬として、標識化合物2を含む標識反応試薬を用いる。
本実施形態のキットによれば、上述した糖鎖調製方法を容易に実施することができ、糖タンパク質から糖鎖標識体を迅速に調製することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計、仕様等に基づき種々変更可能である。
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
《N型糖鎖分析》
N型糖鎖分析に係る実施例においては、市販の抗体糖鎖分析キット(住友ベークライト製、品番:BS-X4410)を用いた。キットには、本実施例において用いる以下の構成が含まれていた。
カラム1:Antibody Capturing Column(抗体捕捉カラム)
試薬2:Antibody Capturing Solution(捕捉溶液)
試薬3:Washing Buffer(洗浄溶液)
試薬4:Glycan Release Enhancer(促進溶液、脱糖鎖促進剤)
試薬5A:PNGase F溶液(糖鎖遊離酵素)
試薬5B:Diluting Buffer(希釈用緩衝液)
上記カラム1は、本発明における「固相」に該当する。カラム1は、上記実施形態において説明したリガンドを表面に有する。
[実施例1-1:APTS標識。HPLC分析による確認]
(遊離工程)
カラム1を2.0mLのチューブに挿し、遠心力500×gで3分遠心した。次いで、カラム1に試薬2を600μL加え、遠心力500×gで3分遠心した。
抗体(ヒトIgG(シグマアルドリッチ製、品番:I4506))40μgを試薬2で希釈し、40μg/600μLの抗体含有液を調製した。得られた抗体含有液をカラム1に加え、遠心力500×gで3分遠心し、カラム1に抗体を捕捉させた。さらに、試薬3をカラム1に加え、遠心力500×gで3分遠心して洗浄し、「固相に固定された糖タンパク質」を調製した。
100μLの試薬4をカラム1に加え、遠心力3000×gで1分遠心した。その後、カラム1を1.5mLチューブに挿し、50℃で30分間加熱した(前処理工程)。
その後、加熱したカラム1の担体に試薬5Aと試薬5Bとの混合液(体積比1:1)3μLを染みこませ、50℃30分間加熱した(遊離工程)。
(標識工程)
8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid trisodium(3ナトリウム塩、APTS)(BIOSYNTH製、品番:FA45174)と、500mmol/Lクエン酸水溶液とを混合し、濃度400mmol/Lの標識化合物溶液1を調製した。クエン酸は、本発明における「有機酸」に該当する。
また、2-ピコリンボラン(純正化学製。品番:59096-1610)をメタノールに溶解し、濃度600mmol/Lの還元剤溶液1を調製した。メタノールは、本発明における「有機酸とは異なる極性溶媒」に該当する。
遊離工程後のカラム1に、10μLの標識化合物溶液1と、10μLの還元剤溶液1とを添加して標識反応試薬とした後、遠心力3000×gで1分遠心した。
得られた溶液をチューブの蓋を開けた状態(開放系)で、50℃で3時間加熱し、標識生成物を得た。
加熱後のチューブの内容物(乾固物)に超純水を40μL添加し、希釈したサンプル溶液を調製した。超純水は、超純水製造装置(型番:MilliQ EQ7000、メルク社製)を用いて作製した。
得られたサンプル溶液を用い、下記表1の条件でHPLC分析を行った。図3は、実施例1-1のHPLC分析の結果を示すLCチャートである。
評価の結果、APTS標識されたヒトIgGの主要N型糖鎖のピークを検出できていることが確認できた。
[実施例1-2:キャピラリー電気泳動分析による確認1]
APTSと500mmol/Lクエン酸水溶液とを混合し、濃度250mmol/Lの標識化合物溶液2を調製した。
Reducing Reagent(住友ベークライト製、品番:BS-X4410に付属)(試薬7)をメタノール800μLに溶解し、還元剤溶液2を調製した。
(標識工程、分離工程)
上記(遊離工程)の後のカラム1に標識化合物溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。次いで、カラム1に還元剤溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。
得られた溶液をチューブの蓋を開けた状態(開放系)で、50℃で2時間加熱した。
(精製工程)
加熱後のサンプルに超純水を30μL添加した後、アセトニトリル600μLを添加した。得られた溶液をクリーンアップカラム(住友ベークライト製、品番:BS-X4410に付属)に全量添加してクリーンアップカラムに糖鎖標識体を捕捉させた後、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。クリーンアップカラムは、本発明における精製用固相に該当する。
その後、95%アセトニトリル/水混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。さらに、再度95%アセトニトリル/水混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力3000×gで1分遠心して溶液を除去した。
クリーンアップカラムに超純水50μLを加え、クリーンアップカラムに捕捉していた糖鎖標識体を溶出させた後に遠心し、糖鎖標識体を含む水溶液(サンプル溶液)をマイクロチューブに回収した。
得られたサンプル溶液を超純水で2倍に希釈し、以下の条件にてキャピラリー電気泳動(CE)分析を行った。以下の条件のCE分析は、キャピラリーゲル電気泳動分析である。
(条件)
CE装置:P/ACE MDQ Plus(エービー・サイエックス社)
キャピラリー:N-CHOキャピラリー(エービー・サイエックス製、品番:477601)
緩衝液 :N-Linked Carbohydrate Separation Gel Buffer(エービー・サイエックス製。品番:477623)
蛍光検出 :励起波長488nm、蛍光波長520nm
試料を0.5psi(ただし、1psi=6894.76Pa)で3秒間にわたってキャピラリー中に注入した。分離は、30kVの電圧を用いて13分間にわたって行った。
[実施例1-3:キャピラリー電気泳動分析による確認2]
キャピラリー電気泳動分析において用いた緩衝液を50mmol/L HEPES(pH7.25)とし、試料を0.3psiで3秒間にわたってキャピラリー中に注入したこと以外は実施例1-2と同様にして分析を行った。実施例1-3のCE分析は、キャピラリーゾーン電気泳動分析である。
なお、HEPESは、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸を表す。
図4は、実施例1-2のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートであり、図5は、実施例1-3のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。評価の結果、いずれにおいても、APTS標識されたヒトIgGの主要N型糖鎖のピークを検出できていることが確認できた。
実施例1-1から1-3の結果から、本発明の糖鎖調製方法により、N型糖鎖のAPTS標識が可能であること、及び得られた標識生成物により好適に分析可能であることが確認できた。
[実施例1-4:キャピラリー電気泳動分析による確認3]
実施例1-4においては、APTS標識された市販品を用い、モデル実験を行った。
購入したNA2F Glycan, APTS Labeled(Ludger製、品番:CAPTS-NA2F-01)を純水に再溶解し、0.25pmol/μLのモデル試料を調製した。
得られたモデル試料を用い、以下の条件にてキャピラリー電気泳動(CE)分析を行った。
(条件)
CE装置:P/ACE MDQ Plus(エービー・サイエックス社)
キャピラリー:N-CHOキャピラリー(エービー・サイエックス製、品番:477601)
緩衝液 :50mmol/L HEPES(pH7.25)
先行電解質液:12mmol/L塩化ナトリウム水溶液
蛍光検出 :励起波長488nm、蛍光波長520nm
試料を20psiで30秒間にわたってキャピラリー中に注入した後、キャピラリーの下流側から先行電解質液を0.5psiで20秒間にわたって注入した。
その後、キャピラリーの下流側を正、上流側を負として30kVの電圧を印加し試料の濃縮を22分間にわたって行った。続いてキャピラリー電気泳動を18分間にわたって行った。
[参考例1-1]
実施例1-4で調製したモデル試料を、実施例1-3の条件にてキャピラリー電気泳動分析を行った。
図6は、実施例1-4のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートであり、図7は、参考例1-1のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。評価の結果、参考例1-1の結果に対し、実施例1-4の結果では、NA2F Glycanのピーク面積値が約400倍にまで向上しており、実施例1-4の条件により高感度の分析が可能であることを確認できた。
実施例1-4で確認した結果に基づいて、N型糖鎖の分析及びO型糖鎖の分析のいずれにおいても、高感度の分析が可能であると推認することができる。
[実施例1-5:キャピラリー電気泳動分析による確認4]
(標識工程、分離工程)
上記(遊離工程)の後のカラム1に標識化合物溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。次いで、カラム1に還元剤溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。
得られた溶液をチューブの蓋を開けた状態(開放系)で、50℃で2時間加熱した。
(精製工程)
加熱後のサンプルに超純水を60μL添加した後、エタノール600μLを添加した。得られた溶液をクリーンアップカラム(住友ベークライト製、品番:BS-X4410に付属)に全量添加後、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。その後、95%エタノール/水混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。さらに、再度95%エタノール/水混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力3000×gで1分遠心して溶液を除去した。
クリーンアップカラムに超純水100μLを加え、クリーンアップカラムに捕捉していた糖鎖標識体を溶出させた後に遠心し、糖鎖標識体を含む水溶液(サンプル溶液)をマイクロチューブに回収した。
得られたサンプル溶液を超純水で20倍に希釈し、先行電解液濃度を10mmol/Lとしたこと以外は実施例1-4と同様の条件にてキャピラリー電気泳動分析を行った。
[参考例1-2]
実施例1-5で調製したモデル試料を、実施例1-3の条件にてキャピラリー電気泳動分析を行った。
図8は、実施例1-5のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートであり、図9は、参考例1-2のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。評価の結果、参考例1-2の結果に対し、実施例1-5の結果では、ヒトIgGのN型糖鎖の総ピーク面積値が約400倍にまで向上しており、実施例1-4の条件により高感度の分析が可能であることを確認できた。
[実施例1-6:混合溶媒による洗浄の効果確認]
(糖鎖標識体の準備)
実施例1-2と同様に、上記(遊離工程)の後のカラム1に標識化合物溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。次いで、カラム1に還元剤溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。得られた溶液をチューブの蓋を開けた状態(開放系)で、50℃で2時間加熱し反応混合液を得た。得られた反応混合液には、糖鎖標識体の他、未反応の標識化合物が含まれる。
(精製工程~糖鎖分析、予備実験)
上記反応混合液に超純水を30μL添加した後、エタノール600μLを添加した。得られた溶液をクリーンアップカラム(住友ベークライト製、品番:BS-X4410に付属)に全量添加後、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。その後、有機溶媒及び水を含む混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。混合溶液の混合割合を表2に示す。さらに、再度下表2に示す混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力3000×gで1分遠心して溶液を除去した。
クリーンアップカラムに超純水50μLを加え、クリーンアップカラムに捕捉していた糖鎖標識体を溶出させた後に遠心し、糖鎖標識体を含む水溶液をマイクロチューブに回収した。得られたサンプル溶液を実施例1-2と同様にしてキャピラリー電気泳動分析を行い、得られたサンプル溶液に含まれる未反応の標識化合物と、糖鎖標識体との量を測定した。結果を表3に示す。
表3において、予備実験1の未反応標識化合物の面積値は概算値である。
表3における「残存率」は、予備実験1(アセトニトリルと水との混合溶媒)の結果を100としたときの割合を示す。表3に示すように、洗浄時の混合溶媒をアセトニトリルと水との混合溶媒から、アルコールと水との混合溶媒に変更すると、未反応の標識化合物は大きく低減することが確認できた。一方で、目的とする糖鎖標識体も大きく減少してしまうことが確認できた。微量の糖鎖を測定可能とするためには、得られたサンプル溶液において未反応の標識化合物は低減し、且つ糖鎖標識体は多く残る洗浄条件が好ましい。
(精製工程~糖鎖分析)
上記(糖鎖標識体の準備)と同様にして得た反応混合液に超純水を60μL添加した後、エタノール600μLを添加したこと、洗浄を下表4に記載の混合溶媒を用いたこと以外は、上記予備実験と同様にしてサンプル溶液を調製し、キャピラリー電気泳動分析を行った。結果を表5に示す。ただし、No.5,6,12は参考例とする。
表5における「残存率」は、精製無しのサンプル溶液に含まれる未反応の標識化合物、又は糖鎖標識体の量(面積値)を100としたときの割合を示す。
評価の結果、精製無しのサンプル溶液に対し、精製工程にて有機溶媒と水との混合溶媒を用いて糖鎖標識体を洗浄することで、いずれの条件においても未反応の標識化合物が減少することが確認できた。
中でも、No.1,3,4,5,6,8,9,11,12,16,17の混合溶媒を用いて洗浄することで、未反応の標識化合物の残存率が17%以下、糖鎖標識体の残存率が75%以上となり、高い精製の効果が得られることが分かった。No.1,3,4,5,6,8,9,11,12,16,17の各サンプル溶液においては、精製無しのサンプル溶液と比べて未反応の標識化合物が低減し、且つ糖鎖標識体が十分に残存していることから、精度よく分析が可能であると評価できる。
[実施例1-7:イオン性水溶液の添加による精製効果確認]
(糖鎖標識体の準備)
実施例1-2と同様に、上記(遊離工程)の後のカラム1に標識化合物溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。次いで、カラム1に還元剤溶液2を添加し、遠心力3000×gで1分遠心した。得られた溶液をチューブの蓋を開けた状態(開放系)で、50℃で2時間加熱し反応混合物を得た。得られた反応混合物には、糖鎖標識体の他、未反応の標識化合物が含まれる。
(精製工程)
上記反応混合物に炭酸水素アンモニウム水溶液(pH約8)を60μL添加した後、アセトニトリル600μLを添加した。得られた溶液をクリーンアップカラム(住友ベークライト製、品番:BS-X4410に付属)に全量添加後、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。「炭酸水素アンモニウム水溶液」は、本発明におけるイオン性水溶液に該当する。
反応混合物に加える炭酸水素アンモニウム水溶液として、0,10,50,100,250,400mmol/Lの各濃度のものを用意し、それぞれについて同じ操作を行って糖鎖標識体を含む水溶液(サンプル溶液)をマイクロチューブに回収した。
遠心後のクリーンアップカラムに、アセトニトリル/エタノール/水=50/40/10(体積割合)600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。さらに、再度アセトニトリル/エタノール/水=50/40/10(体積割合)600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心力3000×gで1分遠心して溶液を除去した。
クリーンアップカラムに超純水100μLを加え、クリーンアップカラムに捕捉していた糖鎖標識体を溶出させた後に遠心し、糖鎖標識体を含む水溶液(サンプル溶液)をマイクロチューブに回収した。
反応混合物に加える炭酸水素アンモニウム水溶液について、濃度を変化させた複数種を用意し、それぞれについて同じ操作を行ってサンプル溶液をマイクロチューブに回収した。
[実施例1-8]
上記反応混合物に250mmol/L塩化アンモニウム水溶液(pH約5)60μL添加したこと以外は実施例1-7と同様にして、サンプル溶液をマイクロチューブに回収した。
[実施例1-9]
上記反応混合物に250mmol/L塩化ナトリウム水溶液(pH約7)60μL添加したこと以外は実施例1-7と同様にして、サンプル溶液をマイクロチューブに回収した。
[実施例1-10]
上記反応混合物に250mmol/Lアンモニア水溶液(pH約11)60μL添加したこと以外は実施例1-7と同様にして、サンプル溶液をマイクロチューブに回収した。
[実施例1-11]
上記反応混合物に250mmol/L炭酸ナトリウム水溶液(pH約11)60μL添加したこと以外は実施例1-7と同様にして、サンプル溶液をマイクロチューブに回収した。
[実施例1-12]
上記反応混合物に250mmol/L水酸化ナトリウム水溶液(pH約13)60μL添加したこと以外は実施例1-7と同様にして、サンプル溶液をマイクロチューブに回収した。
[参考例1-3]
上記反応混合物に純水60μL添加したこと以外は実施例1-7と同様にして、サンプル溶液をマイクロチューブに回収した。
実施例1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12及び参考例1-3の各サンプル溶液について、実施例1-2と同様にしてキャピラリー電気泳動分析を行い、得られたサンプル溶液に含まれる、未反応の標識化合物量と、糖鎖標識体の量を測定した。
図10は、実施例1-7及び参考例1-3において検出された未反応の標識化合物の面積値を示すグラフである。図11は、実施例1-7及び参考例1-3において検出された糖鎖標識体の面積値を示すグラフである。図10,11において、横軸は炭酸水素アンモニウム水溶液の濃度を示し、縦軸は検出されたピーク面積値を示す。炭酸水素アンモニウムの濃度0mmol/Lの結果は、参考例1-3の結果に対応する。図12は、実施例1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12及び参考例1-3において検出された未反応の標識化合物の面積値を示すグラフである。図12において、縦軸は検出されたピーク面積値を示す。
図10、図12に示すように、精製工程において純水を用いた参考例1-3と比べ、イオン性水溶液を用いた実施例1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12では、サンプル溶液に含まれる未反応の標識化合物の量が大きく低減した。また、図11に示すように、実施例1-7では、サンプル溶液に含まれる未反応の標識化合物の量が低減したにもかかわらず、回収した糖鎖標識体の量が参考例1-3よりも増加していた。
なお、実施例1-7、1-8、1-9、1-10、1-11、1-12では、N型糖鎖の糖鎖標識体と未反応の標識化合物(APTS)との分離精製において、イオン性溶液添加による効果を確認したが、未反応の標識化合物を分離し除去するという点においては、糖鎖の種類を問わないと考えられる。そのため、実施例1-7で確認した結果に基づいて、O型糖鎖の糖鎖標識体と未反応の標識化合物との分離精製においても効果が得られると推認することができる。
《O型糖鎖分析》
O型糖鎖分析に係る実施例においては、市販の抗体糖鎖分析キット(住友ベークライト製、品番:BS-41601))を用いた。キットには、本実施例において用いる以下の構成が含まれていた。
試薬1:Glycan Reagent A(50%濃度のヒドロキシルアミン溶液を含む溶液)
試薬2:Glycan Reagent B(ジアザビシクロウンデセン(有機塩基)を含む溶液)
精製剤:Glycan Capturing Beads
カラム1:フィルターカラム
カラム2:クリーンアップカラム
試薬7:Reducing Reagent(還元剤 ピコリンボラン)
糖鎖遊離試薬は、試薬1と試薬2とを5:2(体積比)で混合して調製した。
精製剤は、上記実施形態において図1を用いて説明した精製剤に該当する。
また、実施例で用いる超純水は、超純水製造装置(型番:MilliQ EQ7000、メルク社製)を用いて作製した。
[実施例2-1:APTS標識。HPLC分析による確認]
(遊離工程)
ウシ胎児fetuin(シグマアルドリッチ製、品番:F3004)を超純水に溶解させ、10mg/mLのfetuin溶液を調製した。この溶液を1.5mLチューブに10μL添加した後、糖鎖遊離溶液15μLを添加して混合した。得られた混合溶液を37℃で75分加熱した。
(吸着工程)
遊離工程の後、混合溶液にアセトニトリル(富士フイルム和光純薬製。製品コード:018-19853、純度99.9%)を1000μL加えてよく混合した。
得られた混合溶液に、精製剤を添加して懸濁させた後、得られた懸濁液をスピンカラム(フィルターカラム)に加えた。その後、卓上遠心機を用い、フィルターカラムを遠心力3000×gで1分間遠心し、精製剤と溶液とを分離して溶液を除去した。以下の説明において、遠心条件は同じとした。
続いて、フィルターカラムにアセトニトリル200μLを加え、遠心により溶液を除去した。その後、フィルターカラムに再度アセトニトリル200μLを加え、遠心により溶液を除去した。
(溶出工程)
カラムに残留した固体(精製剤)に超純水50μLを加え、精製剤から糖鎖を溶出させた。その後、糖鎖を溶出させた溶出液(糖鎖溶液)を、遠心によりPCRチューブに回収した。
(標識工程)
8-Aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid trisodium(3ナトリウム塩、APTS)(BIOSYNTH製、品番:FA45174)と、500mmol/Lクエン酸水溶液とを混合し、濃度250mmol/Lの第1試薬を調製した。クエン酸は、本発明における「有機酸」に該当する。
また、キットに付属の試薬7(還元剤)にメタノール1200μLを加え、濃度330mmol/Lの第2試薬を調製した。
溶出工程にてPCRチューブに回収した溶出液を凍結させた後、遠心乾燥機に1時間かけることで乾固させた。次いで、PCRチューブに第1試薬を5μL加えて、50℃で1時間加熱した(第1工程)。
加熱終了後のPCRチューブに、第2試薬を5μL添加して、70℃で3時間加熱し、標識生成物を得た(第2工程)。加熱後のチューブの内容物に超純水を40μL添加し、希釈したサンプル溶液を調製した。
[比較例2-1]
標識工程において、溶出液を乾固させたPCRチューブに、第1試薬と第2試薬とを添加して混合し、70℃で3時間して標識生成物を得たこと以外は、実施例2-1と同様にしてサンプル溶液を調製した。
実施例2-1、比較例2-1においてそれぞれ調製したサンプル溶液を用い、下記表6の条件でHPLC分析を行った。図13は、実施例2-1、比較例2-1のHPLC分析の結果を示すLCチャートである。
評価の結果、比較例2-1と比べ、実施例2-1ではウシ胎児fetuinの主要O型糖鎖のピーク強度が明らかに強いことが確かめられた。
図14は、LCチャートから求めたfetuinの主要O型糖鎖の総ピーク面積値を示すグラフである。図14に示す値は、各サンプルの糖鎖収量に対応する。評価の結果、実施例2-1では比較例2-1と比べ、O型糖鎖の収量が多いことが確認された。
すなわち、本発明の糖鎖調製方法により、O型糖鎖のAPTS標識が可能であること、及び得られた標識生成物により好適に分析可能であることが確認できた。また、標識工程において、第1工程と第2工程とに分けて段階的に反応させることにより、糖鎖収量を大幅に増加させることが可能であることが示された。
[実施例2-2:2AA標識。HPLC分析による確認]
ウシ胎児fetuin(シグマアルドリッチ製、品番:F3004)を超純水に溶解させ、2mg/mLのfetuin溶液を調製した。調製したfetuin溶液を用い、実施例2-1と同様に、遊離工程、吸着工程を行った。
(溶出工程)
2-Aminobenzoic Acid(2-AA)(東京化成製、品番:A0497)をメタノール:酢酸:超純水=49:2:49である混合溶液に溶解させ、濃度300mmol/Lの溶液1を調製した。
その後、キットに付属の試薬7(還元剤)にメタノール:酢酸:超純水=49:2:49である混合溶液1mLを加え、溶液2を調製した。溶液2の15μLを上記溶液1の1mLに溶解させ、標識反応試薬を調製した。標識反応試薬における還元剤の濃度は、5mmol/Lであった。
吸着工程後のフィルターカラムに残留した精製剤に、上記標識反応試薬50μLを加えて、標識反応試薬に糖鎖を溶出させた。その後、遠心により溶液(糖鎖を溶出させた標識反応試薬)をマイクロチューブに回収した。
(標識工程)
マイクロチューブに回収した溶液を50℃で3時間加熱し、標識生成物を得た。加熱後のマイクロチューブにアセトニトリル1mLを加え、攪拌した。
(精製工程)
得られた溶液をカラム2(クリーンアップカラム)に全量添加してクリーンアップカラムに糖鎖(糖鎖標識体)を捕捉させた後、遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。次いで、クリーンアップカラムにアセトニトリル600μLを加え、遠心力500×gで1分遠心して溶液を除去した。その後、クリーンアップカラムに再度アセトニトリル600μLを加え、遠心力3000×gで1分遠心して溶液を除去した。クリーンアップカラムは、本発明における精製用固相に該当する。
クリーンアップカラムに超純水50μLを加え、クリーンアップカラムから糖鎖を溶出させた。遠心して、糖鎖標識体を含む水溶液(サンプル溶液)をマイクロチューブに回収した。
[比較例2-2]
標識反応試薬における還元剤の濃度が25mmol/Lであったこと以外は実施例2-2と同様にして、糖鎖標識体を含む水溶液(サンプル溶液)を調製した。
[比較例2-3]
標識反応試薬における還元剤の濃度が0.05mmol/Lであったこと以外は実施例2-2と同様にして、糖鎖標識体を含む水溶液(サンプル溶液)を調製した。
実施例2-2、比較例2-2,2-3においてそれぞれ調製したサンプル溶液を用い、下記表7の条件でHPLC分析を行った。図15は、実施例2-2、比較例2-2,2-3のHPLC分析の結果を示すLCチャートである。
濃度勾配条件の記載は、100%移動相Bを100%移動相Aの濃度にまで、50分かけて連続的に一定速度で変化させたことを意味する。
評価の結果、比較例2-2,2-3と比べ、実施例2-2ではウシ胎児fetuinの主要O型糖鎖のピーク強度が明らかに強いことが確かめられた。
図16は、LCチャートから求めたfetuinの主要O型糖鎖の総ピーク面積値を示すグラフである。図16に示す値は、各サンプルの糖鎖収量に対応する。評価の結果、実施例2-2では比較例2-2,2-3と比べ、O型糖鎖の収量が多いことが確認された。
[実施例2-3:キャピラリー電気泳動分析による確認1]
実施例2-1のサンプル溶液を超純水で2倍に希釈し、以下の条件にてキャピラリー電気泳動(CE)分析を行った。以下の条件のCE分析は、キャピラリーゲル電気泳動分析である。
(条件)
CE装置:P/ACE MDQ Plus(エービー・サイエックス社)
キャピラリー:N-CHOキャピラリー(エービー・サイエックス製、品番:477601)
緩衝液 :N-Linked Carbohydrate Separation Gel Buffer(エービー・サイエックス製。品番:477623)
蛍光検出 :励起波長488nm、蛍光波長520nm
試料を0.5psi(ただし、1psi=6894.76Pa)で3秒間にわたってキャピラリー中に注入した。分離は、30kVの電圧を用いて13分間にわたって行った。
[参考例2-1]
市販のO型糖鎖標品Sialylated Core 1 O Glycan(Ludger製。品番:CO-C1(S3)1-20U)10ugを上述の第1試薬5μLに溶解させ、PCRチューブに移し替えた。PCRチューブに第2試薬を5μL添加して、70℃で3時間加熱し、標識生成物を得た。加熱後のチューブの内容物に超純水を40μL添加し、希釈したサンプル溶液を調製した。
得られたサンプル溶液について、実施例2-3と同様にしてCE分析を行った。
図17は、実施例2-3のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートであり、図18は、参考例2-1のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。評価の結果、実施例2-3においては、参考例2-1におけるSialylated Core 1の溶出時間と同様の位置にピークが確認できた。
[実施例2-4:キャピラリー電気泳動分析による確認2]
キャピラリー電気泳動分析において用いた緩衝液を50mmol/LのHEPES(pH7.25)とし、試料を0.3psiで3秒間にわたってキャピラリー中に注入したこと以外は実施例2-3と同様にして分析を行った。実施例2-4のCE分析は、キャピラリーゾーン電気泳動分析である。
[参考例2-2]
キャピラリー電気泳動分析において用いた緩衝液を50mmol/LのHEPES(pH7.25)とし、試料を0.3psiで3秒間にわたってキャピラリー中に注入したこと以外は参考例2-1と同様にして分析を行った。参考例2-2のCE分析は、キャピラリーゾーン電気泳動分析である。
図19は、実施例2-4のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートであり、図20は、参考例2-2のキャピラリー電気泳動分析にて得られたチャートである。評価の結果、実施例2-4においても、参考例2-2におけるSialylated Core 1の溶出時間と同様の位置にピークが確認できた。
実施例2-3,2-4、参考例2-1,2-2の結果より、ウシ胎児fetuinの主要O型糖鎖が本発明の糖鎖調製方法によって標識され、CE分析にて分析可能であることが確認できた。
すなわち、本発明の糖鎖調製方法により、O型糖鎖のAPTS標識が可能であること、及び得られた標識生成物により好適に分析可能であることが確認できた。また、2AA標識工程において、標識反応試薬における還元剤濃度を0.1mmol/L以上20mmol/L以下とすることにより、糖鎖収量を大幅に増加させることが可能であることが示された。
[実施例2-5:混合溶媒による洗浄の効果確認]
(糖鎖標識体の準備)
実施例2-1と同様の手順で標識生成物を含む反応混合物を得た。得られた反応混合物には、糖鎖標識体の他、未反応の標識化合物が含まれる。
(精製工程~糖鎖分析)
上記反応混合物に超純水を60μL添加した後、エタノール600μLを添加した。得られた溶液をクリーンアップカラム(住友ベークライト製、品番:BS-X4410に付属)に全量添加後、クリーンアップカラムを遠心して溶液を除去した。その後、下表8に示す混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心して溶液を除去した。さらに、再度下表8に示す混合溶液600μLを加え、クリーンアップカラムを遠心して溶液を除去した。
クリーンアップカラムに超純水50μLを加えて遠心し、糖鎖標識体を含む水溶液をマイクロチューブに回収した。得られたサンプル溶液を実施例2-3と同様にしてキャピラリー電気泳動分析を行い、得られたサンプル溶液に含まれる未反応の標識化合物と、Sialylated Core 1糖鎖標識体との量を測定した。結果を表9に示す。
表9における「残存率」は、精製無しのサンプル溶液に含まれる未反応の標識化合物、又は糖鎖標識体の量(面積値)を100としたときの割合を示す。
評価の結果、精製無しのサンプル溶液に対し、精製工程にて有機溶媒と水との混合溶媒を用いて糖鎖標識体を洗浄することで、いずれの条件においても未反応の標識化合物が減少することが確認できた。
中でも、No.1~3の混合溶媒を用いて洗浄することで、未反応の標識化合物の残存率が15%以下、糖鎖標識体の残存率が40%以上となり、高い精製の効果が得られることが分かった。No.1~3の各サンプル溶液においては、精製無しのサンプル溶液と比べて未反応の標識化合物が低減し、且つ糖鎖標識体が十分に残存していることから、精度よく分析が可能であると評価できる。
以上の結果より、本発明が有用であることが確認できた。
1…精製剤、2…支持体、3…ポリマーの層、3a…ポリマー、10…固相、15…容器、16…回収容器、20…保持部、30…導入部、31…糖鎖遊離酵素、32…標識反応試薬、33…前処理剤/脱糖鎖促進剤、34…タンク、35…ノズル、35a…送液管、36,37,38…弁、40…固液分離部、41…ラック、42…ドライブシャフト、43…モーター、50…容器移送部(液体移送部)、60…温度調節部、100…糖タンパク質の糖鎖を調製する装置

Claims (11)

  1. 容器内で、固相に固定された糖タンパク質に糖鎖遊離酵素を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、
    前記容器内の前記遊離生成物に標識反応試薬を加え、固液分離により前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、
    前記標識生成物を含む溶液を精製用固相に通液して前記標識体を前記精製用固相に捕捉させ、前記精製用固相を混合溶媒で洗浄した後に、前記精製用固相に超純水を加え捕捉された前記標識体を前記超純水に溶出させる精製工程と、を含み、
    前記糖タンパク質が抗体であり、
    前記固相が、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有し、
    前記標識反応試薬は、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acidのナトリウム塩及び9-aminopyrene-1,4,6-trisulfonic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種と、還元剤と、溶液とを含み、
    前記混合溶媒は、有機溶媒及び水を含み、
    前記混合溶媒の混合割合は、体積割合でアセトニトリル:アルコール:水=20~65:30~60:2~15(合計100体積%)であり、
    前記アルコールは、メタノールまたはエタノールである糖鎖調製方法。
  2. 容器内で、固相に固定された糖タンパク質に糖鎖遊離酵素を作用させ、糖鎖を含む遊離生成物を得る遊離工程と、
    前記容器内の前記遊離生成物に標識反応試薬を加え、固液分離により前記糖鎖の標識体を含む標識生成物を得る標識工程と、
    前記標識生成物を含む溶液を精製用固相に通液して前記標識体を前記精製用固相に捕捉させ、前記精製用固相を混合溶媒で洗浄した後に、前記精製用固相に超純水を加え捕捉された前記標識体前記超純水に溶出させる精製工程と、を含み、
    前記糖タンパク質が抗体であり、
    前記固相が、プロテインA、プロテインG、プロテインL、プロテインH、プロテインD、プロテインArpからなる群より選ばれるリガンドを表面に有し、
    前記標識反応試薬は、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acid、8-aminopyrene-1,3,6-trisulfonic acidのナトリウム塩及び9-aminopyrene-1,4,6-trisulfonic acidからなる群から選ばれる少なくとも1種と、還元剤と、溶液とを含み、
    前記混合溶媒は、有機溶媒及び水を含み、
    前記混合溶媒の混合割合は、体積割合でアセトニトリル:アルコール:水=20~65:30~60:2~15(合計100体積%)であり、
    前記精製工程では、前記標識生成物をイオン性水溶液に溶解させた溶液を前記精製用固相に通液する糖鎖調製方法。
  3. 前記還元剤がピコリンボランである、請求項1又は2に記載の糖鎖調製方法。
  4. 前記溶液が有機酸を含む、請求項1又は2に記載の糖鎖調製方法。
  5. 前記溶液が、前記有機酸とは異なる極性溶媒を更に含む、請求項に記載の糖鎖調製方法。
  6. 前記遊離工程の後に、固液分離によって前記遊離生成物を含む分離液を得る分離工程を更に含む、請求項1又は2に記載の糖鎖調製方法。
  7. 前記遊離工程を、酸由来型陰イオン性界面活性剤を含む脱糖鎖促進剤の存在下で行う請求項1又は2に記載の糖鎖調製方法。
  8. 請求項1又は2に記載の糖鎖調製方法で調製された試料を分析する分析工程を有する、糖鎖分析方法。
  9. 前記分析工程は、以下の(1)~(3)の工程を含む、請求項に記載の糖鎖分析方法。
    (1)分離に用いるキャピラリーに前記試料を充填した後、キャピラリーの下流端からキャピラリー内に先行電解質液を充填する工程
    (2)キャピラリーの両端を泳動液に浸漬させた状態で、キャピラリーの下流側を正、上流側を負として電圧を印加して、前記試料に含まれる複数の前記標識体をキャピラリーの上流側に濃縮する工程
    (3)濃縮された複数の前記標識体を、キャピラリー電気泳動法により前記標識体のそれぞれを分離する工程
  10. 前記分析工程において、レーザー励起蛍光により前記標識体を分析する請求項に記載の糖鎖分析方法。
  11. 前記先行電解質液に含まれる電解質の泳動速度は、前記標識体の泳動速度よりも速い請求項に記載の糖鎖分析方法。
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