JP7849030B2 - バイオフィルムの透明化試薬、及び、その透明化試薬を使用するバイオフィルムの観察方法 - Google Patents

バイオフィルムの透明化試薬、及び、その透明化試薬を使用するバイオフィルムの観察方法

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Description

本発明は、バイオフィルムの透明化試薬、及び、その透明化試薬を使用するバイオフィルムの観察方法に関する。
バイオフィルムとは、細菌が菌体外に分泌する多糖類等のマトリクスと菌の集合体から成る構造物である。細菌が付着・増殖すると、マトリクスに覆われた状態、即ちバイオフィルムを形成して薬剤に抵抗性を示し、また生体の防御機構からも逃れやすくなるために治療が困難になる。
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)は、医療機関では主に易感染患者において手術部位感染、血流感染、呼吸器感染、尿路感染等の起因菌となり、感染部位によっては難治性となって時に死因となる場合もある。特に、院内感染の原因菌とされるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus:MRSA)の進入経路は、48%が血液留置カテーテル、14%が尿路カテーテル留置によるといわれており、難治化すると同時に、重症化することが問題となる。
黄色ブドウ球菌では、浮遊細菌がカテーテル等の表面に付着・増殖し、菌体外マトリクスを産生し、バイオフィルムが成熟する。やがてバイオフィルムから浮遊細菌が遊離し感染が拡大する。近年、中心静脈カテーテルや人工関節等の人工医療材料を用いた治療に伴い、バイオフィルムに関連した感染症(バイオフィルム感染症)が増加している。
これまでのバイオフィルムに関する研究は、実験室レベルで行われているものの、感染部位におけるバイオフィルムがどのような細菌種で構成されているのか、またそれらが採取部位や臨床所見とどのような関連性を持つか等、臨床における重要な基礎的データが得られていないのが現状である(非特許文献1,2)。
バイオフィルムは菌種のみならず菌株レベルで性質が異なり、個々のバイオフィルムの細胞外マトリクス(ECM, extracellular matrix)を構成する成分を正確に評価することは、バイオフィルム形成の分子メカニズムの理解とそれぞれの性質に合わせた柔軟なバイオフィルム感染症対策の立案に重要であると考えられる(非特許文献3,4,5,6,7)。
バイオフィルムの三次元構造観察は、共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いた観察が一般的である(非特許文献8)。しかしながら蛍光顕微鏡観察では厚みが20マイクロメートルを超えるバイオフィルムの三次元構造を観察するのは困難である。
水之江義充, 杉本真也, 岩瀬忠行: 常在細菌による黄色ブドウ球菌排除メカニズム. 呼吸器内科. 26(1):49-52, 2014 水之江義充, 杉本真也, 奥田賢一: バイオフィルム感染症制圧に向けての展望. 家畜感染症学会誌.5(4): 113-120. 2016 水之江義充, 千葉明生, 岩瀬忠行, 杉本真也: バイオフィルム細胞外マトリクスの分離・解析.化学療法の領域. 31(11): 2158-2165, 2015 Sugimoto S, Sato F, Miyakawa R, Chiba A, Onodera S, Hori S, Mizunoe Y: Broad impact of extracellular DNA on biofilm formation by clinically isolated Methicillin-resistant and -sensitive strains of Staphylococcus aureus. Sci Rep. 8(1): 2254, 2018 Sugimoto S, Okuda K, Miyakawa R, Sato M, Arita-Morioka K, Chiba A, Yamanaka K, Ogura T, Mizunoe Y, Sato C: Imaging of bacterial multicellular behaviour in biofilms in liquid by atmospheric scanning electron microscopy. Sci Rep. 6: 25889, 2016 Chiba A, Sugimoto S, Sato F, Hori S, Mizunoe Y: A refined technique for extraction of extracellular matrices from bacterial biofilms and its applicability.Microb Biotechnol. 8(3): 392-403, 2015. Sugimoto S, Iwamoto T, Takada K, Okuda K, Tajima A, Iwase T, Mizunoe Y: Staphylococcus epidermidis Esp degrades specific proteins associated with Staphylococcus aureus biofilm formation and host-pathogen interaction. J Bacteriol. 195(8): 1645-55, 2013. Yawata, Y., H. Uchiyama, and N. Nomura. 2010. Visualizingthe effects of biofilm structures on the influx of fluorescent material using combined confocal reflection and fluorescent microscopy. Microbe. Environ. doi: 10.1264/jsme2.ME09169
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、厚みのあるバイオフィルムであっても瞬時に透明化することで三次元構造の観察を可能とするバイオフィルムの透明化試薬を提供することを目的とする。またその透明化試薬を使用するバイオフィルムの観察方法を提供することを目的とする。
本発明にかかるバイオフィルムの透明化試薬は、X線造影剤を有することを特徴とする。
本発明にかかるバイオフィルムの観察方法は、観察対象のバイオフィルムにX線造影剤を作用させることで前記バイオフィルムを透明化することを特徴とする。
本発明によれば、厚みのあるバイオフィルムであっても瞬時に透明化を促進させることができるのでバイオフィルムの三次元構造の観察が容易となる。また透明化させることで、形成後はもちろん形成過程のバイオフィルムの観察も可能となる。
イオヘキソールを使用した場合におけるMRSAバイオフィルムの透明化を示す写真図である。 イオヘキソールを使用した場合におけるMRSAバイオフィルムにおけるタンパク質の局在を示す写真図であり、そのうち(A)はSasGタンパク質の局在を示す写真図であり、(B)はMRSA細胞の局在を示す写真図であり、(C)は(A)と(B)との重ね合わせである。 イオヘキソールを使用した場合におけるMRSAバイオフィルムにおける糖の局在を示す写真図であり、そのうち(A)は細胞膜上の複合糖質の局在を示す写真図であり、(B)はMRSA細胞の局在を示す写真図であり、(C)は(A)と(B)との重ね合わせである。 イオベルソールを使用した場合におけるMRSAバイオフィルムの透明化を示す写真図であり、そのうち(A)は低倍率像であり(B)は高倍率像である。 イオヘキソールを使用した場合における大腸菌バイオフィルムの透明化を示す写真図である。 イオジキサノールを使用した場合における真菌(Candida albicans)のバイオフィルムの透明化を示す写真であり、そのうち(A)は培養皿の上部から撮影した水平面図であり、(B)はXZ平面による断面図である。 イオヘキソールを使用した場合における枯草菌(Bacillus subtilis)のバイオフィルムの透明化を示す写真であり、そのうち(A)は低倍率像であり、(B)は高倍率像である。 イオジキサノールを使用した場合において、固定剤を使用せず生きたまま表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)のバイオフィルムを透明化させた写真である。
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
本発明にかかるバイオフィルムの透明化試薬は、X線造影剤を有する。X線造影剤はX線撮影の際にコントラストをつけるために使用されるものであるが、本発明者はX線造影剤をバイオフィルムに作用させることにより瞬時にバイオフィルムを透明化できることを新知見として見出し、かかる事実に基づいて本発明を完成させた。
透明化を妨げる主要因は可視光の散乱であるが、本発明の透明化試薬をバイオフィルムに作用させることにより、バイオフィルムの可視光の散乱を抑制することができる。即ち、バイオフィルムの構成成分は、微生物細胞、多糖、DNA、タンパク質によりなっていると考えられており、本発明の透明化試薬(屈折率が1.4前後)を作用させることで、散乱の主な原因である構成成分中の微生物細胞の屈折率(約1.4)と溶液の屈折率を合わせることができ、これにより可視光の散乱を抑制できる。
本発明の透明化試薬を使用した場合バイオフィルムの透明化は透過率において75~99%好ましくは80~90%とすることができる。例えば本発明の透明化試薬においてX線造影剤としてイオヘキソールを使用した場合MRSAのバイオフィルムならば瞬時に透過率を80~90%とすることができる。
X線造影剤は、ヨウ素含有X線造影剤であることが好ましい。ヨウ素含有X線造影剤はトリヨードベンゼン環構造を備える化合物を含有する。水溶性をもたせる基(側鎖)のタイプにより、イオン性と非イオン性に分類され、さらに1分子中のベンゼン環の数によりモノマー型とダイマー型に分類される。
ヨウ素含有X線造影剤は、特に限定されるものではないが、例えばイオヘキソール、イオベルソール、イオパミドール、イオメプロール、イオトロラン、イオキシラン、イオジキサノール、イオキサグル酸又はイオタラム酸ナトリウムであり、好ましくはイオヘキソールである。
ヨウ素含有X線造影剤は組み合わせて使用することも可能であり、その場合は分子量が大きく異なるヨウ素含有X線造影剤を組み合わせることが好ましい。例えば分子量777.1のイオパミロンと分子量1626.2のイオトロランとを組み合わせることで複雑な構成成分のバイオフィルムの深部までヨウ素含有X線造影剤を浸透させることが可能である。
本発明の透明化試薬の対象となるバイオフィルムの由来は、特に限定されるものではないが、グラム陽性球菌に属するブドウ球菌属細菌(Staphylococcus)により形成されるものに対して好ましく使用される。
本発明の透明化試薬は、ブドウ球菌属のうち好ましくは、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)や腐性ブドウ球菌(S. saprophyticus)由来のバイオフィルムの透明化に好ましく使用される。
そして黄色ブドウ球菌のうち更にはMRSA、MSSAやバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(vancomycin-resistant Staphylococcus aureus:VRSA)由来のバイオフィルムの透明化に好ましく使用される。
また本発明の透明化試薬の対象となるバイオフィルムの由来は、グラム陰性菌により形成されるものに対しても好ましく使用される。
本発明の透明化試薬は、グラム陰性菌のうち好ましくは、エシェリヒア・コリ(大腸菌)(Escherichia coli)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・シリンガエ(Pseudomonas syringae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、又は、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)由来のバイオフィルムの透明化に好ましく使用される。
また本発明の透明化試薬の対象となるバイオフィルムの由来は、カンジダ属真菌により形成されるものに対しても好ましく使用される。
本発明の透明化試薬は、カンジダ属真菌のうち好ましくは、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、カンジダ・クルーセイ(Candida krusei)、カンジダ・パラプシローシス(Candida parapsilosis)、又はカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)由来のバイオフィルムの透明化に使用される。
また本発明の透明化試薬の対象となるバイオフィルムの由来は、バチルス属細菌により形成されるものに対しても好ましく使用される。
本発明の透明化試薬は、バチルス属細菌のうち好ましくは、枯草菌、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)又はバチルス・ブレビス(Bacillus brevis)由来のバイオフィルムの透明化に使用される。
本発明の透明化試薬が使用されるバイオフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、例えば10μm~550μmであり、好ましくは20μm~450μmであり、より好ましくは30μm~350μmである。
本発明の透明化試薬は、pH調整剤、緩衝液、浸透圧調整剤等の更なる成分を含有していることも可能である。緩衝液としては、例えば、PBS緩衝液、HEPES緩衝液、Tris緩衝液などが挙げられる。
本発明の透明化試薬のpHはバイオフィルムを迅速に透明化させる観点とバイオフィルムの構造を損なわせない観点から決定され、特に限定されるものではないが例えばpH4.5~7.0、好ましくはpH5.0~6.5、より好ましくはpH5.5~6.0である。pH調整剤としては、例えば、リン酸、クエン酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、ピロリン酸、硫酸、硝酸、酢酸、グリコール酸、ホウ酸、乳酸、ケイ酸、ホスホン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
本発明にかかる透明化試薬におけるX線造影剤の濃度は、特に限定されるものではないが例えば100~800mg/mL、好ましくは200~600mg/mLとすることが可能である。
本発明にかかるバイオフィルムの使用方法は、本発明の透明化試薬を対象となるバイオフィルムに作用させる工程を含む。透明化試薬をバイオフィルムに作用させるとは透明化試薬をバイオフィルムに浸潤させること意味する。
本発明の透明化試薬をバイオフィルムに作用させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、バイオフィルムに本発明の透明化試薬を滴下させて本発明の透明化試薬にバイオフィルムを含浸させる方法が挙げられる。
含浸させる時間は短い場合でもバイオフィルムを透明化させることが可能であり、例えば1分~120分、好ましくは2分~60分、より好ましくは3分~10分である。なお、本発明の透明化試薬を滴下させる温度は、特に限定されるものではないが、例えば20℃~40℃であり、好ましくは25℃~30℃である。
観察対象のバイオフィルムを固定液で固定してバイオフィルムを透明化することも可能であり、また固定液を使用することなくバイオフィルムを生きたまま透明化させ、形成後はもちろん形成過程のバイオフィルムの観察も可能である。
(1)実施例1
X線造影剤としてイオヘキソールを使用してMRSAバイオフィルムの透明化を試みた。下記手順にて実験を進めた。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)臨床分離株MR23を2 mLのBrain Heart Infusion(BHI)培地(BD社製)に接種し、37℃で一晩振とう培養した。
前培養液を2 mLの1%グルコース含有BHI(BHIG)培地に2μL添加した。
全ての菌液をガラス底培養皿(松浪硝子社製)に移し、37℃で24時間静置培養した。
培養液を除き、ガラス表面に形成したバイオフィルムに固定液(1%グルタールアルデヒド、PBS)を添加し、室温で30分間固定した。
固定液を除去し、PBSバッファーで3回洗浄した。
終濃度5 μg/mLとなるようにPBSバッファーに希釈したFilmTracerTM FMTM 1-43 Green Biofilm Cell Stain(Life Technology社製)をバイオフィルムに添加し、室温で30分染色した。
染色液を除き、0wt%(即ちイオヘキソールを不添加)、28wt%、35wt%、56wt%及び70wt%の各濃度のイオヘキソール溶液を添加した。
各濃度のイオヘキソール溶液を添加して5分後に共焦点レーザー顕微鏡LSM880(Carl Zeiss社製)を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。共焦点レーザー顕微鏡のレンズ部分は培養皿の底部側に当て、培養皿の底部側から開口部側方向へ観察を試みた。
図1はイオヘキソールを使用するMRSAバイオフィルムの透明化を示す写真図である。図1上部は培養皿の上部から撮影した水平面図であり、図1下部はXZ平面によるバイオフィルムの断面図を示す。
図1に示されるように、イオヘキソール不添加の場合は、MRSAバイオフィルムは不透明な部分があるため培養皿の底部側は見えるものの培養皿の上の部分(即ち培養皿の開口部側の部分)は見えない。
しかしながらイオヘキソールが28wt%、35wt%、56wt%及び70wt%の各濃度の場合は、MRSAバイオフィルムは不透明な部分がほとんどなくなり、培養皿の底部側から培養皿の開口部側まで透明化が促進されていた。
(2)実施例2
X線造影剤としてイオヘキソールを使用してMRSAバイオフィルムを透明化し、更に透明になったMRSAバイオフィルムにおいて、バイオフィルム形成促進に不可欠なタンパク質であるSasGの局在の視覚化を試みた。下記手順にて実験を進めた。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)臨床分離株MR23を2 mLのBHI培地に塗布し、37℃で一晩振とう培養した。
前培養液を2 mLのBHIG培地に2 μL添加した。
全ての菌液をガラス底培養皿に移し、37℃で24時間静置培養した。
培養液を除き、ガラス表面に形成したバイオフィルムに前固定液(4%パラホルムアルデヒド、PBS)を添加し、室温で30分間固定した。
固定液を除去し、PBSバッファーで3回洗浄した。
バイオフィルムを1 mLのブロッキングバッファー(3% BSA、0.05% Triton X100、1% goat serum, PBS)に浸し、室温で30分間インキュベートした。
ブロッキングバッファーを除去した。
ブロッキングバッファーで200倍希釈した抗体SasG抗血清(一次抗体溶液)を1 mL添加し、室温で2時間反応させた。
一次抗体溶液を除き、ブロッキングバッファー1 mLを用いてバイオフィルムを3回洗浄した。
ブロッキングバッファーで200倍希釈したAlexa 647標識坑ウサギIgG二次抗体(Life Technology社製)(二次抗体溶液)を1 mL添加し、室温で2時間反応させた。
二次抗体溶液を除き、1 mLのPBSを用いてバイオフィルムを3回洗浄した。
後固定液(1%グルタールアルデヒド、4%パラホルムアルデヒド、PBS)を添加し、室温で10分間固定した。
PBSで3回洗浄した。
終濃度5 μg/mLとなるようにPBSバッファーに希釈したFilmTracerTM FMTM 1-43 Green Biofilm Cell Stainをバイオフィルムに添加し、室温で30分染色した。
染色液を除き、56wt%イオヘキソール溶液を添加し、共焦点レーザー顕微鏡LSM880を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。
図2(A)はSasGタンパク質の局在を示す写真図である。SasGは細胞壁へのアンカリングによりバイオフィルムの形成を促進しており、更にSasGは細胞外DNAと結合することでバイオフィルムの安定化に寄与している。図2(B)はMRSA細胞の局在を示す写真図である。図2(C)は(A)と(B)との重ね合わせである。
図2(A)(B)(C)の写真図からMRSAバイオフィルムにおいて、バイオフィルム形成促進に不可欠なタンパク質であるSasGの局在が適切に視覚化されていることが判明した。
(3)実施例3
X線造影剤としてイオヘキソールを使用してMRSAバイオフィルムを透明化し、更に透明になったMRSAバイオフィルムにおいて、細胞表層の糖質の局在の視覚化を試みた。下記手順にて実験を進めた。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)臨床分離株MR10を2 mLのBHI培地に塗布し、37℃で一晩培養した。
前培養液を2 mLのBHIG培地に2 μL添加した。
全ての菌液をガラス底培養皿に移し、37℃で24時間静置培養した。
培養液を除き、ガラス表面に形成したバイオフィルムに固定液(1%グルタールアルデヒド、PBS)を添加し、室温で30分間固定した。
固定液を除去し、PBSバッファーで3回洗浄した。
終濃度5 μg/mLとなるようにPBSバッファーに希釈したAlexa 647標識Wheat Germ Agglutinin(Alexa 647-WGA)(Life Technology社製)をバイオフィルムに添加し、室温で16時間以上染色した。
染色液を除いた。
終濃度5 μg/mLとなるようにPBSバッファーに希釈したFilmTracerTM FMTM 1-43 Green Biofilm Cell Stainをバイオフィルムに添加し、室温で30分染色した。
染色液を除き、56wt%イオヘキソール溶液を添加し、共焦点レーザー顕微鏡LSM880を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。
図3(A)は細胞表層の複合糖質(即ちN-アセチルグルコサミン及びN-アセチル神経アミン酸)の局在を示す写真図である。コムギ胚芽凝集素(WGA)はレクチンの1つでありAlexa Fluor(登録商標)色素にコンジュゲートすることで、コムギ胚芽凝集素は細胞膜上の複合糖質を検出する。図3(B)はMRSA細胞の局在を示す写真図である。図3(C)は(A)と(B)との重ね合わせである。
図3(A)(B)(C)の写真図からMRSAバイオフィルムにおいて、細胞膜上の複合糖質の局在が適切に視覚化されていることが判明した。
(4)実施例4
実施例1ではX線造影剤としてイオヘキソールを使用してMRSAバイオフィルムの透明化を試みたが、実施例4ではイオベルソールを使用してMRSAバイオフィルムの透明化を試みた。下記手順にて実験を進めた。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)臨床分離株MR23を2 mLのBHI培地に塗布し、37℃で一晩振とう培養した。
前培養液を2 mLのBHIG培地に2 μL添加した。
全ての菌液をガラス底培養皿に移し、37℃で24時間静置培養した。
培養液を除き、ガラス表面に形成したバイオフィルムに固定液(1%グルタールアルデヒド、PBS)を添加し、室温で30分間固定した。
固定液を除去し、PBSバッファーで3回洗浄した。
終濃度5 μg/mLとなるようにPBSバッファーに希釈したFilmTracerTM FMTM 1-43 Green Biofilm Cell Stainをバイオフィルムに添加し、室温で30分以上染色した。
染色液を除き、74wt%オプチレイ(一般名イオベルソール)溶液(オプチレイ350、ゲルベ・ジャパン社製)を添加し、共焦点レーザー顕微鏡LSM880を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。
図4はイオベルソールを使用するMRSAバイオフィルムの透明化を示す写真図でありそのうち(A)は低倍率像であり(B)は高倍率像である。図4(A)(B)に示されるようにイオベルソールを使用する場合にあってもMRSAバイオフィルムは不透明な部分がほとんどなくなり透明化が促進されていた。本明細書ではイオヘキソール及びイオベルソールについて実施例が示されているが、他のX線造影剤であるイオパミドール、イオメプロール、イオトロラン、イオキシラン、イオジキサノール、イオキサグル酸又はイオタラム酸ナトリウムであってもバイオフィルムの透明化は可能である。
(5)実施例5
実施例1ではX線造影剤としてイオヘキソールを使用してMRSAバイオフィルムの透明化を試みたが、実施例5ではイオヘキソールを使用して大腸菌バイオフィルムの透明化を試みた。下記手順にて実験を進めた。
大腸菌K-12株を2 mLのLB培地に塗布し、37℃で一晩振とう培養した。
前培養液を2 mLのYESCA培地(1% casamino acids、0.1% yeast extract)に2 μL添加した。
全ての菌液をガラス底培養皿に移し、25℃で7日間静置培養した。
培養液を除き、ガラス表面に形成したバイオフィルムに固定液(1%グルタールアルデヒド、PBS)を添加し、室温で30分間固定した。
固定液を除去し、PBSバッファーで3回洗浄した。
終濃度5 μg/mLとなるようにPBSバッファーに希釈したFilmTracerTM FMTM 1-43 Green Biofilm Cell Stainをバイオフィルムに添加し、室温で30分以上染色した。
染色液を除き、56wt%イオヘキソール溶液を添加し、共焦点レーザー顕微鏡LSM880を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。
図5はイオヘキソールを使用する大腸菌バイオフィルムの透明化を示す写真図である。図5に示されるように大腸菌バイオフィルムに対しても透明化が促進されていた。本明細書ではMRSAバイオフィルム及び大腸菌バイオフィルムについて実施例が示されているが、他のグラム陽性菌やグラム陰性菌由来のバイオフィルムであっても透明化は可能である。
(6)実施例6
X線造影剤であるイオジキサノールを使用して、真菌(Candida albicans)のバイオフィルムの透明化を試みた。下記手順にて実験を進めた。
Candida albicans標準株(SC5314)を2 mLのYPD平板培地(1%酵母エキス、2%ペプトン、2%グルコース、2%寒天)に塗布、25℃で3日間培養した。
YPD平板培地に生育したコロニーを5 mLのRPMI-MOPS培地[10.4 mg/mL RPMI-1640 powder (glutamine+, phenol red+, bicarbonate-)、165 mM MOPS (pH 7.0)]に1×106 CFU/mLとなるように懸濁した。
2 mLの菌液をガラス底培養皿(松浪硝子社製)に移し、37℃で24時間静置培養した。
培養液を除き、ガラス表面に形成したバイオフィルムに固定液(1%グルタールアルデヒド、4%パラホルムアルデヒド、PBS)を添加し、室温で30分間固定した。
固定液を除去し、滅菌水で3回洗浄した。
終濃度5μg/mLとなるように滅菌水に希釈したFilmTracerTM FMTM 1-43 Green Biofilm Cell Stain(Life Technology社製)をバイオフィルムに添加し、室温で30分染色した。
染色液を除き、0wt%(即ちイオジキサノールを不添加)、30wt%、45wt%及び60wt%の各濃度のイオジキサノール溶液を添加した。
各濃度のイオジキサノール溶液を添加して5分後に共焦点レーザー顕微鏡LSM880(Carl Zeiss社製)を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。共焦点レーザー顕微鏡のレンズ部分は培養皿の底部側に当て、培養皿の底部側から開口部側方向へ観察を試みた。
図6はイオジキサノールを使用するCandida albicansバイオフィルムの透明化を示す写真図である。図6Aは培養皿の上部から撮影した水平面図であり、図6BはXZ平面によるバイオフィルムの断面図を示す。
図6に示されるように、イオジキサノール不添加の場合は、Candida albicansバイオフィルムは不透明な部分があるため培養皿の底部側は見えるものの培養皿の上の部分(即ち培養皿の開口部側の部分)は見えない。
しかしながらイオジキサノールが45wt%の場合は、Candida albicansバイオフィルムは不透明な部分がほとんどなくなり、培養皿の底部側から培養皿の開口部側まで透明化が促進されていた。
(7)実施例7
X線造影剤であるイオヘキソールを使用して、枯草菌(Bacillus subtilis)のバイオフィルムの透明化を試みた。下記手順にて実験を進めた。
Bacillus subtilis JKBS01株を2 mLのTryptic Soy Broth(TSB)培地に塗布し、37℃で一晩振とう培養した。
前培養液を2 mLのTSB培地に2μL添加した。
全ての菌液をガラス底培養皿に移し、37℃で24時間静置培養した。
培養液を除き、ガラス表面に形成したバイオフィルムに固定液(1%グルタールアルデヒド、PBS)を添加し、室温で30分間固定した。
固定液を除去し、PBSバッファーで3回洗浄した。
終濃度5μg/mLとなるようにPBSバッファーに希釈したFilmTracerTM FMTM 1-43 Green Biofilm Cell Stainをバイオフィルムに添加し、室温で30分以上染色した。
染色液を除き、56wt%イオヘキソール溶液を添加し、共焦点レーザー顕微鏡LSM880を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。
図7はイオヘキソールを使用して透明化したBacillus subtilisバイオフィルムを示す写真図であり、そのうち(A)は低倍率像であり(B)は高倍率像である。
図7(A)(B)に示されるように、厚さ約90μmのBacillus subtilisバイオフィルムを観察できた。
(8)実施例8
X線造影剤であるイオジキサノールを使用して、表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)のバイオフィルムを生きたまま透明化し、ライブセルイメージングを行った。下記手順にて実験を進めた。
Staphylococcus epidermidis SE21株を2 mLのBHI培地に塗布し、37℃で一晩培養した。
前培養液(3 μL)を30wt%のイオジキサノール溶液および10 μMチオフラビンTを含むBHIG培地(3 mL)に添加した。
全ての菌液をガラス底培養皿に移した。
37℃で18時間静置培養しながら30分ごとに共焦点レーザー顕微鏡LSM880(Carl Zeiss社製)を用いてバイオフィルムの三次元構造を観察した。共焦点レーザー顕微鏡のレンズ部分は培養皿の底部側に当て、培養皿の底部側から開口部側方向へ観察を試みた。
図8はイオジキサノールを使用するStaphylococcus epidermidisバイオフィルムの形成過程を観察した写真図である。それぞれの図には撮影した時間を示す。
図8に示されるように、Staphylococcus epidermidisバイオフィルムの形成過程を菌が生きたまま観察することができた。まず、バイオフィルム形成の初期過程において矢印で示したマイクロコロニーが形成される。その後、周辺部にも菌が付着・増殖し盛り上がっていくことで、厚みのあるバイオフィルムが形成されていく様子がわかる。
バイオフィルム感染症の予防法、治療法及び診断法の開発等に利用できる。

Claims (5)

  1. ヨウ素含有X線造影剤からなり、バイオフィルムを光学顕微鏡観察する際の前記バイオフィルムの透明化試薬であって、
    前記バイオフィルムは、黄色ブドウ球菌、カンジダ属真菌、表皮ブドウ球菌、枯草菌、又は、大腸菌由来のバイオフィルムであり、
    前記ヨウ素含有X線造影剤が、イオヘキソール、イオベルソール、イオパミドール、イオメプロール、イオトロラン、イオキシラン、イオジキサノール、イオキサグル酸又はイオタラム酸ナトリウムであることを特徴とする、バイオフィルムの透明化試薬。
  2. 前記バイオフィルムの厚みは10μm~550μmであることを特徴とする請求項1に記載のバイオフィルムの透明化試薬。
  3. 前記黄色ブドウ球菌が、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)、又は、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)である請求項1に記載のバイオフィルムの透明化試薬。
  4. 観察対象の黄色ブドウ球菌、カンジダ属真菌、表皮ブドウ球菌、枯草菌、又は、大腸菌由来のバイオフィルムにヨウ素含有X線造影剤からなるバイオフィルムの透明化試薬を浸潤させることで前記バイオフィルムを瞬時に透明化して光学顕微鏡観察する、バイオフィルムの観察方法であって、
    前記ヨウ素含有X線造影剤が、イオヘキソール、イオベルソール、イオパミドール、イオメプロール、イオトロラン、イオキシラン、イオジキサノール、イオキサグル酸又はイオタラム酸ナトリウムであることを特徴とする、バイオフィルムの観察方法。
  5. 固定液で固定化することなく前記バイオフィルムを観察する、請求項4に記載のバイオフィルムの観察方法。
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