本発明は、少なくとも一部がポリプロピレンで形成される複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、ドーパミンならびにその塩およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むコート液を調製し、前記コート液に酸素ガスを吹送させながら、前記中空糸膜の内表面または外表面を前記コート液と10時間未満接触させて、前記内表面または外表面に前記化合物の重合体を含む重合体層を形成することを有する、方法に関する。本発明によれば、より簡便な手法により人工肺を提供することが可能となる。なお、本明細書では、ドーパミンならびにその塩およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を、単に「重合体層形成化合物」とも称する。
本発明に係る人工肺の製造方法によると、特開2002-035116号公報に記載されている製造方法と比較して、より簡便な手法で人工肺を提供することが可能となる。本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。なお、下記メカニズムは推測によるものであり、本発明は下記メカニズムに何ら拘泥されるものではない。
本発明の方法では、重合体層形成化合物のコート液に酸素ガスを吹送させながら、コート液を中空糸膜表面と所定時間接触させて、重合体層形成化合物を中空糸膜表面で重合させて、重合体層を中空糸膜表面に形成する。例えば、ドーパミンは、通常、酸化により5,6-ジヒドロキシインドールを生成し、これが重合してドーパミン重合体(ポリドーパミン)が基材上に形成・堆積して、ドーパミン重合体層を形成する。このため、本発明の方法によれば、ドーパミン(またはその塩、オリゴマー)等の重合体層形成化合物を含むコート液を中空糸膜表面と接触させるという簡便な操作によって、人工肺を製造できる。また、本発明によるように、ドーパミン(またはその塩、オリゴマー)等の重合体層形成化合物を含むコート液を中空糸膜表面と酸素ガスを吹送させながら接触させることにより、重合体層形成化合物の反応(例えば、ドーパミンの酸化および重合)がより迅速にかつより効率的に進行する。酸素ガスは小径の中空糸膜内腔および中空糸膜の細孔を介して中空糸膜の厚み方向に容易に通過する。このため、本発明の方法によると、中空糸膜表面で重合体層形成化合物の反応(例えば、ドーパミン等の酸化・重合)が迅速に進行するため、所定の厚みの重合体層を、簡便な操作でかつより短時間で形成できる。ここで、コート液と中空糸膜との接触を10時間以上行うと、重合体層形成化合物の反応が進みすぎて、層が厚くなり、ガス交換能(気体透過速度)が過度に低下する。このため、本発明の方法によって製造される人工肺は、ガス交換能(気体透過性)に優れる。
さらに、本発明の方法によれば、人工肺(または中空糸膜束)を組み立てた後に、酸素ガスを吹送させながら、ドーパミン(またはその塩)等の化合物を含むコート液を中空糸膜表面と接触させることが可能である。このため、本発明の方法は生産性/大量生産の観点からも好ましい。
加えて、本発明に係る重合体層形成化合物の反応物(特にドーパミン重合体(ポリドーパミン))は有機物と高い反応性を有し、本発明に係る重合体層(ドーパミン重合体層;以下同様)は反応性に富む。このため、重合体層はポリプロピレン製の中空糸膜と高い密着性を有する。また、重合体層上に抗血栓剤層を形成した場合には、重合体層中の重合体層形成化合物の反応物(特にポリドーパミン)は抗血栓剤層の抗血栓剤(例えば、ポリメトキシエチル(メタ)アクリレート)とも高い反応性を発揮する。このため、重合体層は抗血栓剤と高い反応性を発揮して、抗血栓剤層とも高い密着性を有する。すなわち、抗血栓剤層は重合体層を介して中空糸膜と強固に一体化できる。ゆえに、本発明の方法によって製造される人工肺は、抗血栓剤による効果(例えば、抗血栓性)や耐血漿リーク性に優れ、また、例えば1か月以上の長期にわたる使用にあってもその抗血栓性および耐血漿リーク性を維持できる(すなわち、抗血栓性、耐血漿リーク性、抗血栓維持性および耐血漿リーク維持性に優れる)。
したがって、本発明の方法によって製造される人工肺は、通常の手術等に使用される人工肺に加えて、重篤な疾患の患者に対する循環・肺補助具としても好適に使用できる。
以下、本発明の好ましい実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみに限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。「Aおよび/またはB」は、AおよびBの少なくとも一方を意味し、「A」、「B」、および「AとBとの組み合わせ」を包含する。
以下、本発明の人工肺の製造方法について詳細に説明するが、本明細書では便宜上、先ず本発明の製造方法により得られうる人工肺について説明した後、本発明の製造方法について説明する。
<人工肺>
本発明の一形態に係る人工肺は、少なくとも一部がポリプロピレンで形成される複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、前記内表面および外表面の少なくとも一方に、本発明の方法によって形成される重合体層および抗血栓剤層をこの順番で(即ち、中空糸膜、重合体層および抗血栓剤層の順で)配置される。本発明に係る人工肺は、高い耐血漿リーク性および抗血栓剤による効果(例えば、抗血栓性)を発揮し、また、例えば1か月以上の長期にわたる使用にあってもその耐血漿リーク性および抗血栓性を維持できる(すなわち、耐血漿リーク性、抗血栓性、耐血漿リーク維持性および抗血栓維持性に優れる)。ゆえに、本発明に係る人工肺は、肺炎、重症呼吸不全、急性心筋梗塞、急性心筋炎等の循環不全にある患者に対して、呼吸・循環をサポートする目的で、ECMO(Extra Corporeal Membrane Oxygenation)やPCPS(Percutaneous Cardio Pulmonary Support)等の体外循環装置として特に好適に使用できる。なお、以下では、本発明の方法によって形成される重合体層を、単に「本発明に係る重合体層」または「重合体層」とも称する。
本発明に係る人工肺の詳細を、図面を参照しながら以下で説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺の断面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る中空糸膜外部血液灌流型人工肺に使用されているガス交換用多孔質中空糸膜の拡大断面図である。
図1に示される実施形態において、中空糸膜外部血液灌流型人工肺1は、多数のガス交換用多孔質中空糸膜3がハウジング2内に収納されている。図2に示すように、中空糸膜3は、中央にガス室を形成する通路(内腔)3dを備えている。ここで、内腔3dに酸素含有ガスが流れる場合には、中空糸膜の外側(外表面3a’側)には血液が流れる(中空糸膜外部血液灌流型人工肺)。同様にして、内腔3dに血液が流れる場合には、中空糸膜の外側(外表面3a’側)には酸素含有ガスが流れる(中空糸膜内部血液灌流型人工肺)。本発明は上記いずれの形態であってもよいが、好ましくは、内腔3dに酸素含有ガスが流れ、中空糸膜の外側(外表面3a’側)に血液が流れる。加えて、中空糸膜3は、その外表面3a’と内表面3c’を連通する開口部3e、3fを有している。中空糸膜3の内表面3c’および外表面3a’の少なくとも一方に、重合体層16および抗血栓剤層18がこの順で(即ち、中空糸膜、重合体層および抗血栓剤層の順で)形成される。ここで、重合体層16及び抗血栓剤層18の配置は、血液が流れる側に少なくとも形成されることが好ましい。すなわち、重合体層16及び抗血栓剤層18は、中空糸膜3の外表面3a’に少なくとも形成されることが好ましく、ガス透過性のさらなる向上効果を考慮すると、中空糸膜3の外表面3a’にのみ形成されることがより好ましい。なお、図2では、重合体層は中空糸膜の外表面に配置されているが、重合体層は中空糸膜の内表面に配置されてもよい。また、図2では、重合体層は中空糸膜の直上に配置されているが、重合体層は別の層を介して中空糸膜に配置されてもよい。好ましくは、重合体層は中空糸膜の外表面に配置され、より好ましくは、重合体層は中空糸膜の外表面の直上に配置される。
本発明に係る重合体層16及び抗血栓剤層18は、中空糸膜3の内表面3c’および/または外表面3a’の少なくとも一部に形成されればよいが、長期間の使用におけるガス交換性能の維持(耐血漿リーク性の向上効果、ウエットラングの抑制効果)などの観点から、内表面3c’および/または外表面3a’全体に形成されることが好ましく、外表面3a’全体に形成されることがより好ましい。また、本発明に係る重合体層16は、図2に示されるように、中空糸膜3の細孔を塞ぐ均質膜として形成されることが好ましい。このような形態をとることにより、血漿が中空糸膜の細孔を介して漏れ出ることが抑えられ、人工肺の耐血漿リーク性をさらに向上できる。ゆえに、このような構造を有する人工肺は、より長期にわたり使用することが可能になる。なお、当該形態をとった場合であっても、重合体層16及び抗血栓剤層18はガス透過性が高いため、十分なガス交換性能を有しうる。
また、抗血栓剤を含む抗血栓剤層18は、重合体層16の少なくとも一部に形成されればよいが、抗血栓性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、および血小板の活性化の抑制・防止効果)および抗血栓維持性(耐久性)、さらには耐血漿リーク性などの観点から、重合体層16全体に形成されることが好ましい。なお、図2に示される実施形態において、重合体層16及び抗血栓剤層18は、中空糸膜3の内部層3b(場合によっては、内部層3bおよび内面層3c)に存在してもよいが、中空糸膜3の内部層3b(場合によっては、内部層3bおよび内面層3c)には実質的に存在していないことが好ましい。抗血栓剤が実質的に存在していないと、中空糸膜の内部層3bまたは内面層3cが膜の基材自身が持つ疎水性の特性がそのまま保持され、血漿成分の漏出(リーク)を有効に防止できる。本明細書において、「抗血栓剤を含む抗血栓剤層18が中空糸膜3の内部層3b(場合によっては、内部層3bおよび内面層3c)には実質的に存在していない」とは、中空糸膜3の内表面3c’(酸素含有ガスが流れる側の表面)付近に、抗血栓剤の浸透が観察されないことを意味する。なお、後述する人工肺の製造方法の好ましい実施形態で説明するように重合体層を形成する場合には、重合体層形成化合物は、中空糸膜3の内部層3bまたは内面層3cに実質的に存在していない形態とすることができる。同様にして、後述する人工肺の製造方法の好ましい実施形態で説明するように、抗血栓性高分子化合物のコロイド液を塗布することで被膜を形成することにより、抗血栓性高分子化合物が中空糸膜3の内部層3bまたは内面層3cに実質的に存在していない形態とすることができる。
すなわち、本発明の特に好ましい形態によると、中空糸膜の内腔に酸素含有ガスが流れ、中空糸膜の外側(外表面)には血液が流れ、重合体層及び抗血栓剤層が中空糸膜の外表面(血液接触部)全面にこの順で形成される(外部灌流型人工肺)。
なお、重合体層16はドーパミン重合体(ポリドーパミン)に加えて他の成分を含んでもよい。ここで、他の成分としては、特に制限されないが、ポリオレフィン、脂肪族炭化水素、無機微粒子、親水性高分子などが挙げられる。好ましくは、重合体層16は実質的にドーパミン重合体(ポリドーパミン)から構成され、ドーパミン重合体(ポリドーパミン)のみから構成されることがより好ましい。なお、本明細書において、「重合体層が実質的にドーパミン重合体(ポリドーパミン)から構成される」とは、重合体層がドーパミン重合体(ポリドーパミン)以外の成分(例えば、ドーパミンまたはその塩)を5質量%(固形分換算)未満の割合で含むことを意味する。
同様に、抗血栓剤層18は抗血栓剤(例えば、式(1)の抗血栓性高分子化合物、ヘパリン)に加えて他の成分を含んでもよい。ここで、他の成分としては、特に制限されないが、架橋剤、増粘剤、防腐剤、pH調整剤、両親媒性物質などが挙げられる。好ましくは、抗血栓剤層18は実質的に抗血栓剤から構成され、抗血栓剤のみから構成されることがより好ましい。なお、本明細書において、「抗血栓剤層が実質的に抗血栓剤から構成される」とは、抗血栓剤層が抗血栓剤以外の成分を5質量%(固形分換算)未満の割合で含むことを意味する。
本実施形態に係る中空糸膜型人工肺1は、血液流入口6と血液流出口7とを有するハウジング2と、ハウジング2内に収納された多数のガス交換用多孔質中空糸膜3からなる中空糸膜束と、中空糸膜束の両端部をハウジング2に液密に支持する一対の隔壁4,5とを有し、隔壁4,5とハウジング2の内面および中空糸膜3の外面間に形成された血液室12と、中空糸膜3の内部に形成されたガス室と、ガス室と連通するガス流入口8およびガス流出口9とを有するものである。
具体的には、本実施形態の中空糸膜型人工肺1は、筒状ハウジング2と、筒状ハウジング2内に収納されたガス交換用中空糸膜3の集合体と、中空糸膜3の両端部をハウジング2に液密に保持する隔壁4,5とを有し、筒状ハウジング2内は、第1の流体室である血液室12と第2の流体室であるガス室とに区画され、筒状ハウジング2には血液室12と連通する血液流入口6および血液流出口7が設けられている。
そして、筒状ハウジング2の端部である隔壁4の上方には中空糸膜3の内部空間であるガス室に連通する第2の流体流入口であるガス流入口8を有するキャップ状のガス流入側ヘッダー10が取り付けられている。よって、隔壁4の外面とガス流入側ヘッダー10の内面により、ガス流入室13が形成されている。このガス流入室13は、中空糸膜3の内部空間により形成されるガス室と連通している。
同様に、隔壁5の下方に設けられ中空糸膜3の内部空間に連通する第2の流体流出口であるガス流出口9を有するキャップ状のガス流出側ヘッダー11が取り付けられている。よって、隔壁5の外面とガス流出側ヘッダー11の内面により、ガス流出室14が形成されている。
中空糸膜3は、少なくとも一部がポリプロピレンからなる多孔質膜である。ここで、中空糸膜は、一部がポリプロピレンからなりかつ他の部位がポリプロピレン以外の材料(他の材料)から構成されても、または一部または全部がポリプロピレン及び他の材料から構成されてもよい。好ましくは、中空糸膜はポリプロピレンのみから構成される。なお、上記他の材料としては、公知の人工肺に使用される中空糸膜と同様のものが使用され、特に制限されない。中空糸膜(特に中空糸膜の内表面)が疎水性高分子材料からなることにより、血漿成分の漏出を抑制することができる。多孔質膜に使用される材質としては、公知の人工肺に使用される中空糸膜と同様の疎水性高分子材料が使用できる。具体的には、ポリエチレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロースアセテート等の高分子材料などが挙げられる。これらのうち、ポリオレフィン樹脂が好ましく使用され、ポリメチルペンテンがより好ましい。なお、中空糸膜がポリプロピレン及び上記したような他の材料から構成される場合の、ポリプロピレンの含有量は、中空糸膜を構成する全材料に対して、通常、70質量%(固形分換算)を超え、好ましくは80質量%(固形分換算)以上であり、より好ましくは90質量%(固形分換算)以上(上限:100質量%未満)である。
中空糸膜の内径は、特に制限されないが、好ましくは50~300μm、より好ましくは80~200μmである。中空糸膜の外径は、特に制限されないが、好ましくは100~400μm、より好ましくは130~200μmである。中空糸膜の肉厚(膜厚)は、好ましくは20μm以上50μm未満、より好ましくは25μm以上50μm未満、さらにより好ましくは25~45μm、さらに好ましくは25~40μm、さらに好ましくは25~35μm、特に好ましくは、25~30μmである。なお、本明細書において、「中空糸膜の肉厚(膜厚)」とは、中空糸膜の内表面と外表面との間の肉厚を意図し、式:[(中空糸膜の外径)-(中空糸膜の内径)]/2で算出される。中空糸膜の肉厚の下限を上記のようにすることによって、中空糸膜の強度を十分確保できる。また、製造上の手間やコストの点でも満足でき、大量生産の観点からも好ましい。また、中空糸膜の空孔率は、好ましくは5~90体積%、より好ましくは10~80体積%、特に好ましくは30~60体積%である。中空糸膜の細孔径は、好ましくは0.01~5μm、より好ましくは0.05~1μmである。中空糸膜の製造方法は、特に制限されず、公知の中空糸膜の製造方法が同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。例えば、中空糸膜は、延伸法または固液相分離法により壁に微細孔が形成されてなることが好ましい。
なお、本明細書中、「中空糸膜の細孔径」とは、抗血栓剤によって被覆される側(外表面側)の開口部の平均直径を指す。中空糸膜の細孔径は、以下に記載の方法によって測定される。
まず、走査型電子顕微鏡(SEM)で中空糸膜について、抗血栓剤によって被覆される側(外表面)を撮影する。次に、得られたSEM像について画像処理を行い、細孔部分(開口部)を白く、それ以外を黒く反転させ、白い部分のピクセル数を測定する。なお、二値化の境界レベルは、最も白い部分と最も黒い部分の差の中間の値とする。
続いて、白く表示された細孔(開口部)のピクセル数を測定する。このようにして求めた各細孔のピクセル数およびSEM像の解像度(μm/ピクセル)に基づいて細孔面積を算出する。得られた細孔面積から、細孔を円形とみなして各細孔の直径を算出し、無作為に、統計学的に有意な数、例えば、500個の細孔の直径を抽出し、その算術平均を「中空糸膜の細孔径」とする。
筒状ハウジング2を構成する材料もまた、公知の人工肺のハウジングに使用されるのと同様の材料が使用できる。具体的には、ポリカーボネート、アクリル・スチレン共重合体、アクリル・ブチレン・スチレン共重合体などの疎水性合成樹脂が挙げられる。ハウジング2の形状は、特に制限されないが、例えば円筒状であり、透明体であることが好ましい。透明体で形成することにより、内部の確認を容易に行うことができる。
本実施形態における中空糸膜の収納量は、特に制限されず、公知の人工肺と同様の量が適用できる。例えば、ハウジング2内に、その軸方向に向けて並列に約5,000~100,000本の多孔質中空糸膜3が収納されている。さらに、中空糸膜3は、ハウジング2の両端に中空糸膜3の両端がそれぞれ開口した状態で隔壁4,5により液密状態に固定されている。隔壁4,5は、ポリウレタン、シリコーンゴムなどのポッティング剤で形成される。ハウジング2内の上記隔壁4,5ではさまれた部分は、中空糸膜3の内部側のガス室と中空糸膜3の外側の血液室12とに仕切られている。
本実施形態では、ガス流入口8を有するガス流入側ヘッダー10およびガス流出口9を有するガス流出側ヘッダー11が、ハウジング2に液密に取り付けられている。これらヘッダーも、いずれの材料で形成されてもよいが、例えば、上述のハウジングに用いられる疎水性合成樹脂により形成されうる。ヘッダーはいずれの方法によって取り付けられてもよいが、例えば、ヘッダーは、超音波、高周波、誘導加熱などを用いた融着、接着剤を用いた接着または機械的に嵌合させることによって、ハウジング2に取り付けられる。また、締め付けリング(図示しない)を用いて行ってもよい。中空糸膜型人工肺1の血液接触部(ハウジング2の内面、中空糸膜3の外面)は、全て疎水性材料により形成されることが好ましい。
本実施形態では、抗血栓剤層は、中空糸膜の外表面(外部灌流型)に選択的に形成される。このため、血液(特に血漿成分)が中空糸膜の細孔内部に浸透しにくいか、または浸透しない。ゆえに、中空糸膜からの血液(特に血漿成分)の漏出を有効に抑制・防止できる。特に抗血栓剤が中空糸膜の内部層3bおよび中空糸膜の内面層3cに実質的に存在しない場合には、中空糸膜の内部層3bおよび中空糸膜の内面層3cは、素材の疎水性状態を維持しているため、高い血液(特に血漿成分)の漏出(リーク)をさらに有効に抑制・防止できる。したがって、本発明の方法により得られる人工肺は、高いガス交換能を長期間にわたって維持できる。
本実施形態に係る抗血栓剤の被覆(抗血栓剤層の形成)は、人工肺の中空糸膜の内表面および/または外表面の重合体層上に形成されるが、上記に加えて、他の構成部材(例えば、血液接触部全体)に形成されてもよい。当該構成をとることにより、人工肺の血液接触部全体において、血小板の粘着/付着および活性化をさらにより有効に抑制・防止できる。また、血液接触面の接触角が低くなるので、プライミング作業が容易となる。なお、この場合には、本発明に係る抗血栓剤の被覆は血液が接触する他の構成部材に形成されることが好ましいが、血液接触部以外の中空糸膜もしくは中空糸膜の他の部分(例えば、隔壁中に埋没する部分)には、抗血栓剤が被覆されていなくてもよい。このような部分は、血液と接触しないので、抗血栓剤を被覆しなくても特に問題とならない。
また、本発明の方法により得られる人工肺は、図3に示すようなタイプのものであってもよい。図3は、本発明の方法により得られる人工肺の他の実施形態を示す断面図である。また、図4は、図3のA-A線断面図である。
図3において、人工肺(中空糸膜外部血液灌流型人工肺)20は、側面に血液流通用開口32を有する内側筒状部材31と、内側筒状部材31の外面に巻き付けられた多数のガス交換用多孔質中空糸膜3からなる筒状中空糸膜束22と、筒状中空糸膜束22を内側筒状部材31とともに収納するハウジング23と、中空糸膜3の両端を開口した状態で、筒状中空糸膜束22の両端部をハウジングに固定する隔壁25,26と、ハウジング23内に形成された血液室17と連通する血液流入口28および血液流出口29a、29bと、中空糸膜3の内部と連通するガス流入口24およびガス流出口27とを有するものである。
本実施形態の人工肺20は、図3および図4に示されるように、ハウジング23は、内側筒状部材31を収納する外側筒状部材33を備え、筒状中空糸膜束22は内側筒状部材31と外側筒状部材33間に収納されており、さらに、ハウジング23は、内側筒状部材内と連通する血液流入口または血液流出口の一方と、外側筒状部材内部と連通する血液流入口または血液流出口の他方とを備えている。
具体的には、本実施形態の人工肺20では、ハウジング23は、外側筒状部材33、内側筒状部材31内に収納され、先端が内側筒状部材31内で開口する内筒体35を備える。内筒体35の一端(下端)には、血液流入口28が形成されており、外側筒状部材33の側面には、外方に延びる2つの血液流出口29a,29bが形成されている。なお、血液流出口は、一つであってもまたは複数であってもよい。
そして、筒状中空糸膜束22は、内側筒状部材31の外面に巻き付けられている。つまり、内側筒状部材31が筒状中空糸膜束22のコアとなっている。内側筒状部材31の内部に収納された内筒体35は、先端部が第1の隔壁25付近にて開口している。また、内側筒状部材31より、突出する下端部に血液流入口28が形成されている。
そして、内筒体35、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31、さらに、外側筒状部材33は、それぞれがほぼ同心的に配置されている。そして、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31の一端(上端)および外側筒状部材33の一端(上端)は、第1の隔壁25により、両者の同心的位置関係が維持されるとともに、内側筒状部材内部および外側筒状部材33と中空糸膜の外面との間により形成される空間が外部と連通しない液密状態となっている。
また、内筒体35の血液流入口28より若干上方となる部分、中空糸膜束22が外面に巻き付けられた内側筒状部材31の他端(下端)および外側筒状部材33の他端(下端)は、第2の隔壁26により、両者の同心的位置関係が維持されるとともに、内筒体35と内側筒状部材31との間に形成される空間および外側筒状部材33と中空糸膜の外面との間により形成される空間が外部と連通しない液密状態となっている。また、隔壁25,26は、ポリウレタン、シリコーンゴムなどのポッティング剤で形成される。
よって、本実施形態の人工肺20では、内筒体35の内部により形成される血液流入口17a、内筒体35と内側筒状部材31との間に形成される実質的に筒状空間となっている第1の血液室17b、中空糸膜束22と外側筒状部材33との間に形成される実質的に筒状空間となっている第2の血液室17cを備え、これらにより血液室17が形成されている。
そして、血液流入口28から流入した血液は、血液流入口17a内に流入し、内筒体35(血液流入口17a)内を上昇し、内筒体35の上端35a(開口端)より流出し、第1の血液室17b内に流入し、内側筒状部材31に形成された開口32を通過して、中空糸膜に接触し、ガス交換がなされた後、第2の血液室17cに流入し、血液流出口29a,29bより流出する。
また、外側筒状部材33の一端には、ガス流入口24を備えるガス流入用部材41が固定されており、同様に、外側筒状部材33の他端には、ガス流出口27を有するガス流出用部材42が固定されている。なお、内筒体35の血液流入口28は、このガス流出用部材42を貫通して外部に突出している。
外側筒状部材33としては、特に制限されないが、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、外側筒状部材の内径は、特に制限されず、公知の人工肺に使用される外側筒状部材の内径と同様でありうるが、32~164mm程度が好適である。また、外側筒状部材の有効長(全長のうち隔壁に埋もれていない部分の長さ)もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される外側筒状部材の有効長と同様でありうるが、10~730mm程度が好適である。
また、内側筒状部材31の形状は、特に制限されないが、例えば、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、内側筒状部材の外径は、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内側筒状部材の外径と同様でありうるが、20~100mm程度が好適である。また、内側筒状部材の有効長(全長のうち隔壁に埋もれていない部分の長さ)もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内側筒状部材の有効長と同様でありうるが、10~730mm程度が好適である。
内側筒状部材31は、側面に多数の血液流通用開口32を備えている。開口32の大きさは、筒状部材の必要強度を保持する限り、総面積が大きいことが好ましい。このような条件を満足するものとしては、例えば、正面図である図5、図5の中央縦断面図である図6、さらに図5のB-B線断面図である図7に示されるように、開口32を筒状部材の外周面に等角度間隔で複数(例えば、4~24個、図では、長手方向に8個)設けた環状配置開口を、筒状部材の軸方向に等間隔で複数組(図では、8組/周)設けたものが好適である。さらに、開口形状は、丸、多角形、楕円形などでもよいが、図5に示すような、長円形状のものが好適である。
また、内筒体35の形状は、特に制限されないが、例えば、円筒体、多角筒、断面が楕円状のものなどが使用できる。好ましくは円筒体である。また、内筒体35の先端開口と第1の隔壁25との距離は、特に制限されず、公知の人工肺に使用されるのと同様の距離が適用できるが、20~50mm程度が好適である。また、内筒体35の内径もまた、特に制限されず、公知の人工肺に使用される内筒体の内径と同様でありうるが、10~30mm程度が好適である。
筒状中空糸膜束22の厚さは、特に制限されず、公知の人工肺に使用される筒状中空糸膜束の厚さと同様でありうるが、5~35mmが好ましく、特に10mm~28mmであることが好ましい。また、筒状中空糸膜束22の外側面と内側面間により形成される筒状空間に対する中空糸膜の充填率もまた、特に制限されず、公知の人工肺における充填率が同様にして適用できるが、40~85%が好ましく、特に45~80%が好ましい。また、中空糸膜束22の外径は、公知の人工肺に使用される中空糸膜束の外径と同様でありうるが、30~170mmが好ましく、特に、70~130mmが好ましい。ガス交換膜としては、上述したものが使用される。
そして、中空糸膜束22は、内側筒状部材31に中空糸膜を巻き付けること、具体的には、内側筒状部材31をコアとして、中空糸膜ボビンを形成させ、形成された中空糸膜ボビンの両端を、隔壁による固定の後、コアである内側筒状部材31とともに中空糸膜ボビンの両端を切断することにより、形成することができる。なお、この切断により、中空糸膜は、隔壁の外面において開口する。なお、中空糸膜の形成方法は、上記方法に限定されるものではなく、他の公知の中空糸膜の形成方法を同様にしてあるいは適宜修飾して使用してもよい。
特に、中空糸膜は、1本あるいは複数本同時に、実質的に平行でかつ隣り合う中空糸膜が実質的に一定の間隔となるように内側筒状部材31に巻きつけられることが好ましい。これにより、血液の偏流をより有効に抑制できる。また、中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が、以下に制限されないが、中空糸膜の外径の1/10~1/1となっていることが好ましい。さらに、中空糸膜は、隣り合う中空糸膜との距離が、30~200μmであると好ましい。
さらに、中空糸膜束22は、中空糸膜が、1本あるいは複数本(好ましくは、2~16本)同時に、かつ隣り合うすべての中空糸膜が実質的に一定の間隔となるように内側筒状部材31に巻きつけられることによって、形成されたものであるとともに、中空糸膜を内側筒状部材上に巻き付ける際に、内側筒状部材31を回転させるための回転体と中空糸膜を編み込むためのワインダーとが、下記式(1)の条件で動くことによって内側筒状部材31に巻きつけられることにより形成されたものであることが好ましい。
上記条件とすることによって、血液偏流の形成をより少ないものとすることができる。このときの巻取り用回転体の回転数とワインダー往復数の関係であるnは、特に制限されないが、通常、1~5であり、好ましくは2~4である。
また、中空糸膜型人工肺20においても、図2に示すように、酸素含有ガスが流れる中空糸膜3の内表面3c’および血液接触部となる中空糸膜3の外表面3a’(場合によっては、外表面3a’および外面層3a)の少なくとも一方に、重合体層及び16および抗血栓剤層18がこの順で(即ち、中空糸膜、重合体層および抗血栓剤層の順で)形成される。ここで、重合体層16及び抗血栓剤層18の配置は、血液が流れる側に少なくとも形成されることが好ましい。すなわち、重合体層16及び抗血栓剤層18は、中空糸膜3の外表面3a’に少なくとも形成されることが好ましく、ガス透過性のさらなる向上効果を考慮すると、中空糸膜3の外表面3a’にのみ形成されることがより好ましい。ここで、中空糸膜の好ましい形態(内径、外径、肉厚、空孔率、細孔の孔径など)は、特に制限されないが、上記図1において記載したものと同様の形態が採用できる。
<人工肺の製造方法>
次に、本発明の人工肺の製造方法について詳細に説明する。当該製造方法は、少なくとも一部がポリプロピレンで形成される複数のガス交換用多孔質中空糸膜を有する人工肺の製造方法であって、前記中空糸膜は、内腔を形成する内表面と、外表面とを有しており、ドーパミンならびにその塩およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むコート液を調製し、前記コート液に酸素ガスを吹送させながら、前記中空糸膜の内表面または外表面を前記コート液と10時間未満接触させて、前記内表面または外表面に前記化合物の重合体を含む重合体層を形成することを特徴とする。
本形態の製造方法では、まず、ドーパミンならびにその塩およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むコート液を調製する((1)コート液調製工程)。そして、上記にて調製されたコート液に酸素ガスを吹送させながら、中空糸膜の内表面または外表面をコート液と10時間未満接触させる((2)コート液塗布工程)。以下、各工程について説明する。
(1)コート液調製工程
本工程では、ドーパミンならびにその塩(ドーパミンの塩)およびオリゴマー(ドーパミンのオリゴマー)からなる群より選択される少なくとも一種の化合物(重合体層形成化合物)を含むコート液を調製する。このコート液は、中空糸膜の内表面または外表面(以下、単に「中空糸膜表面」とも称する)に塗布するために使用される。コート液は、ドーパミンならびにその塩およびオリゴマーからなる群より選択される少なくとも一種の化合物(重合体層形成化合物)および溶媒を含む。
重合体層形成化合物は本工程で中空糸膜表面に塗布後、下記(2)のコート液塗布工程で重合体層を均質膜として形成する。これにより、中空糸膜の一方の面から他方の面(外表面側から内表面側または内表面側から外表面側)へと血漿が漏出するのを抑制する機能を有する(ゆえに、耐血漿リーク性に優れる)。また、以下に詳述する抗血栓剤層との密着性を向上する機能を有する(ゆえに、長期にわたる使用下でも抗血栓性および耐血漿リーク性を維持できる)。ここで、重合体層形成化合物は、ドーパミンならびにその塩およびオリゴマーからなる群より選択される。ドーパミンの塩としては、特に制限されないが、例えば、ドーパミンの塩酸塩(2-(3,4-ジヒドロキシフェニル)エチルアミン塩酸塩)などが挙げられる。ドーパミンのオリゴマーとしては、例えば、5,6-ジヒドロキシインドールが2~50個程度繰り返された重合体が使用できる。これらのうち、耐血漿リーク性や抗血栓剤層との密着性のさらなる向上効果などの観点から、ドーパミン、ドーパミン塩を使用することが好ましく、ドーパミン、ドーパミン塩酸塩を使用することがより好ましく、ドーパミンの塩酸塩を使用することが特に好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、化合物は、ドーパミンまたはドーパミン塩である。本発明の好ましい形態では、化合物は、ドーパミンまたはドーパミン塩酸塩である。本発明の特に好ましい形態では、化合物は、ドーパミン塩酸塩である。
重合体層形成化合物は、市販品または合成品のいずれを使用しても構わない。重合体層形成化合物は、例えば、東和薬品株式会社、ナカライテスク株式会社、シグマアルドリッチジャパン合同会社などから購入できる。
重合体層形成化合物は、1種が単独で使用されてもよいし、2種以上が組み合わされて使用されてもよい。
また、コート液を調製するのに使用される溶媒は、重合体層形成化合物を溶解できるものであれば特に制限されず、重合体層形成化合物の種類に応じて適宜選択される。具体的には、リン酸緩衝液(PBS)、炭酸緩衝液、トリス緩衝液、グリシン緩衝溶液、トリシン緩衝液等の緩衝液;HEPES緩衝液などが挙げられる。
コート液中の重合体層形成化合物の濃度は、特に制限されないが、中空糸膜の内腔におけるコート液の通液性の向上、コスト、重合速度などの観点から、好ましくは0.1~50mg/mLであり、より好ましくは0.5~10mg/mLである。また、コート液のpHは、特に制限されないが、操作性、重合体層形成化合物の反応(特にドーパミンの重合速度)などの観点から、5.0~10.0、より好ましくは中性付近(例えば、6.0~8.0、特に6.5~7.5)であることが好ましい。
コート液は、上記重合体層形成化合物および溶媒以外に、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、ポリオレフィン、脂肪族炭化水素、無機微粒子、水溶性高分子などが挙げられる。
(2)コート液塗布工程
本工程では、上記にて調製されたコート液に酸素ガスを吹送させながら、中空糸膜の内表面または外表面をコート液と10時間未満接触させて、中空糸膜の外表面または内表面にコート液を塗布(被覆)する。ここで、コート液の塗布対象となる中空糸膜の形態(材料、内径、外径、肉厚、空孔率、細孔の孔径))は、上記の<人工肺>の項目において説明したので、ここでは詳細な説明を省略する。
具体的には、人工肺(例えば、図1または図3のような構造のもの)を組み立てた後、上記のようにして調製したコート液を中空糸膜の外表面及び内表面の少なくとも一方と接触させ(または流通させ)、直接または中空糸膜の開口部を介して酸素ガスを流通させる。これによって、中空糸膜の外表面または内表面(すなわち、血液接触部)で重合体層形成化合物の反応(例えば、ドーパミンの酸化・重合)が進行して、中空糸膜の外表面または内表面に重合体層形成化合物の重合体を含む塗膜(重合体層)が形成される。また、中空糸膜に対するコート液の塗布は、人工肺の組立前に行ってもよい。生産性/大量生産などの観点から、人工肺(または中空糸膜束)を組み立てた後、酸素ガスを流通させながら、コート液を中空糸膜の外表面及び内表面の少なくとも一方と接触させる(または流通させる)ことが好ましい。
上述したように、本発明に係る方法により製造される人工肺の好ましい一実施形態は、外部灌流型人工肺である。よって、コート液を中空糸膜の外表面に塗布すると好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、中空糸膜の外表面を重合体層形成化合物を含むコート液と接触させ、中空糸膜の内腔(内表面)から開口部を介して酸素ガスを流通させる。
中空糸膜表面をコート液と接触させる前に、コート液に酸素ガスを封入することが好ましい。これにより、重合体層形成化合物の反応(例えば、ドーパミンの酸化・重合)がより迅速かつ効率的に進行できる。ここで、酸素ガスの封入条件は、特に制限されないが、コート液の酸素濃度(25℃)が0.5~1.5容積%、特に0.8~1.2容積%程度となるような条件であることが好ましい。
また、中空糸膜表面をコート液と接触させる方法としては、特に制限されない。例えば、中空糸膜をコート液中に浸漬する方法;中空糸膜内腔にコート液を流す(充填する)方法;中空糸膜外面にコート液を塗布する方法などが使用できる。なお、コート液を中空糸膜の一方の面とのみ接触させる場合には、例えば、中空糸膜をコート液中に浸漬した後、中空糸膜内腔に酸素ガスを流通させる(当該形態によれば、中空糸膜外表面に選択的に重合体層を形成できる);中空糸膜内腔の内径とほぼ同じ線材を中空糸膜内腔に挿入するまたは中空糸膜の両端を塞ぎ、内腔にコート液が侵入しないようにした後、中空糸膜をコート液と接触させる(当該形態によれば、中空糸膜外表面に選択的に重合体層を形成できる);中空糸膜の外表面をフィルム等で密封した後、中空糸膜をコート液と接触させる(当該形態によれば、中空糸膜内表面に選択的に重合体層を形成できる);あらかじめ非極性溶媒で中空糸膜内腔を満たした状態で、コート液と接触させるなどの方法を使用できる。
次に、コート液に酸素ガスを吹送する。これにより、コート液中の重合体層形成化合物が反応(例えば、ドーパミンの酸化・重合)して、重合体層形成化合物の反応物(例えば、ポリドーパミン)が中空糸膜表面に形成・堆積して、重合体層を形成する。ここで、酸素ガスの接触(吹送)時間は、10時間未満である。コート液と中空糸膜との接触を10時間以上行うと、重合体層形成化合物の反応(例えば、ドーパミンの酸化・重合)が進みすぎて、層(例えば、ドーパミン重合体層)が厚くなり、ガス交換能(気体透過速度)が過度に低下して、得られる中空糸膜は人工肺に適さない。また、コスト面から考えた場合でも不利であり、好ましくない。中空糸膜や下記に詳述する抗血栓剤層との密着性およびガス交換能(気体透過速度)、さらにはこれらのバランスなどの観点から、酸素ガスの接触(吹送)時間は、好ましくは8時間以下、より好ましくは6時間未満、さらに好ましくは5時間以下、特に好ましくは4時間以下である。なお、酸素ガスの接触(吹送)時間の下限は、中空糸膜や下記に詳述する抗血栓剤層との密着性の観点から、好ましくは15分超、より好ましくは30分超、さらに好ましくは40分以上、さらにより好ましくは60分以上、特に好ましくは120分以上である。したがって、酸素ガスの接触(吹送)時間は、好ましくは15分超10時間未満、より好ましくは30分超8時間以下、さらに好ましくは40分以上6時間未満、さらにより好ましくは60分以上5時間以下、特に好ましくは120分以上4時間以下である。このような接触(吹送)時間であれば、十分な耐血漿リーク性およびガス交換能(気体透過速度)は確保しつつ、中空糸膜および抗血栓剤層が重合体層を介してより強固に密着できる。
酸素ガスの吹送方法は、上記反応が効率よく進行する方法であれば特に制限されない。例えば、中空糸膜の一端を酸素ガスタンクと連結して、中空糸膜内腔に酸素ガスを吹送する方法;コート液中に酸素ガスをバブリングして、重合体層形成化合物を酸素ガスと接触させる方法などが挙げられる。
なお、中空糸膜の内腔を陰圧下とした状態で中空糸膜表面をコート液と接触させてもよい。当該方法によると、コート液をより均一にかつ確実に中空糸膜表面(特に中空糸膜内腔)と接触できる。なお、当該形態において、陰圧の程度は、特に制限されないが、中空糸膜の内腔が50hPa以上150hPa以下、好ましくは50hPa以上100hPa以下の陰圧下になる程度であることが好ましい。ここで、中空糸膜の内腔を陰圧にする方法は、特に制限されないが、例えば、真空ポンプ(例えば、ダイヤフラムポンプ)と中空糸膜の一方の末端を気密に接続し、真空ポンプを作動させることにより陰圧とすることができる。なお、本明細書において、「陰圧の程度(気圧)」は、真空ポンプの表示圧力の値を採用するものとする。
また、酸素ガスは、純粋な酸素ガスに加えて、酸素ガスを含む混合気体であってもよい。好ましくは、酸素ガスは純粋な酸素ガスである(他のガスの含有量:実質的に0体積%(全体積に対して5体積%未満)。ここで、混合気体を使用する場合に使用できる他のガスは、本発明による効果を阻害しない限り、特に制限されない。例えば、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスが使用できる。他のガスの含有量は、上記反応の効率よい進行などの観点から、混合気体の全流通量(体積)に対して、好ましくは0体積%を超えて50体積%未満、より好ましくは0体積%を超えて20体積%未満である。
酸素ガスの他の吹送条件は、特に制限されない。例えば、吹送温度は、好ましくは10~60℃、より好ましくは25~40℃である。また、酸素ガスの吹送速度は、好ましくは0.05~0.7L/分、より好ましくは0.25~0.5L/分である。このような条件であれば、十分量の酸素ガスを重合体層形成化合物に供給して、重合体層形成化合物の反応(例えば、ドーパミンの酸化・重合)を十分行うことができる。
これにより、重合体層形成化合物は反応して、層(例えば、ドーパミン重合体層)が中空糸膜表面に形成されるが、必要であれば、酸素ガスの吹送後に、その状態を保持してもよい。このような操作により、重合体層形成化合物の反応がさらに進行して、重合体層をより効率よく中空糸膜表面に形成できる。ここで、保持条件は、特に制限されない。例えば、保持温度は、好ましくは10~60℃、より好ましくは25~40℃である。また、保持時間は、好ましくは30分~24時間、より好ましくは1~12時間である。このような条件であれば、重合体層形成化合物の反応がさらに十分進行して、重合体層をさらにより効率よく中空糸膜表面に形成できる。なお、上記保持操作は、大気雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。
その後、必要に応じて、塗膜を洗浄、乾燥させる。洗浄方法は特に制限されないが、例えば、水、アルコール系溶剤(例えば、エタノール)などで洗浄する。これにより、未反応の重合体層形成化合物を除去できる。また、乾燥方法は特に制限されないが、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、常圧における高温乾燥といった方法が挙げられる。
このようにして、重合体層が中空糸膜表面に形成される。重合体層の膜厚(乾燥膜厚)は、特に制限されないが、好ましくは10~500nmであり、より好ましくは100~400nmであり、さらに好ましくは150~300nmである。重合体層の膜厚が10nm以上であると、十分な中空糸膜表面や抗血栓剤層との密着性ならびに十分な耐血漿リーク性が得られる。重合体層の膜厚が500nm以下であると、ガス交換性能の低下を防ぐことができる。なお、本明細書において、重合体層の膜厚は、熱重量測定(TG測定)による質量変化からコートされた重合体の質量を、重合体の密度で割って体積を算出し、その体積を表面積で除することにより測定された値を採用する。重合体層がポリドーパミン(PDA)から構成される(ポリドーパミン層である)場合には、TG測定による質量変化からコートされたPDAの質量をPDAの密度(1.00g/cm3)で割って体積を算出し、その体積を表面積で除した値が、その重合体層の厚みとなる。
以上の工程(1)および(2)により中空糸膜表面に重合体層が形成される。本形態に係る人工肺の製造方法は、工程(1)および(2)に加えて、任意にさらに他の工程を有しうる。他の工程としては、下記の(3)抗血栓剤層形成工程が挙げられる。当該工程は工程(1)および(2)の後に行われることが好ましい。
(3)抗血栓剤層形成工程
本工程では、重合体層上に抗血栓剤を含む被膜(抗血栓剤層)を形成する。一実施形態では、抗血栓剤を含む水性コート液を調製し、前記水性コート液を、上記(2)にて中空糸膜の外表面又は内表面に形成された重合体層に塗布する。上述したように、重合体層及び抗血栓剤層は、中空糸膜の外表面に形成することが好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、本発明の製造方法は、中空糸膜の外表面に重合体層を形成し、前記重合体層上に抗血栓剤を有する抗血栓剤層を形成することをさらに有する。抗血栓剤および抗血栓剤層(被膜)の形成方法は特に制限されず、公知の手法を適宜採用することが可能である。
抗血栓剤は、血液接触部である中空糸膜表面(例えば、中空糸膜の外表面)に形成された重合体層に塗布されることにより、人工肺に抗血栓性を付与する化合物である。
抗血栓剤は、抗血栓性や生体適合性を有するものであれば、特に制限なく用いることができる。なかでも、上記特性に優れるという観点から、抗血栓剤は、下記式(1)で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有すると好ましい。すなわち、本発明の好ましい形態では、抗血栓剤は、下記式(1)で示される構成単位(1)を有する。
上記式(1)中、R1は、炭素原子数1~4のアルキレン基を表わし;R2は、炭素原子数1~4のアルキル基を表わし;およびR3は、水素原子またはメチル基を表わす。
式(1)で示される構成単位を有する化合物は、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、及び血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れる。ゆえに、上記構成単位を有する化合物を用いることにより、抗血栓性生体適合性(血小板の粘着/付着の抑制・防止効果、及び血小板の活性化の抑制・防止効果)、特に血小板の粘着/付着の抑制・防止効果に優れた人工肺を製造することが可能となる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよび/またはメタクリレート」を意味する。すなわち、「アルコキシアルキル(メタ)アクリレート」は、アルコキシアルキルアクリレートのみ、アルコキシアルキルメタクリレートのみ、ならびにアルコキシアルキルアクリレート及びアルコキシアルキルメタクリレートすべての場合を包含する。
式(1)において、R1は、炭素数1~4のアルキレン基を表す。ここで、炭素数1~4のアルキレン基としては、特に制限されず、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、プロピレン基の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基がある。これらのうち、エチレン基、プロピレン基が好ましく、抗血栓性及び生体適合性のさらなる向上効果を考慮すると、エチレン基が特に好ましい。R2は、炭素数1~4のアルキル基を表す。ここで、炭素数1~4のアルキル基としては、特に制限されず、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基の直鎖又は分岐鎖のアルキル基がある。これらのうち、メチル基、エチル基が好ましく、抗血栓性及び生体適合性のさらなる向上効果を考慮すると、メチル基が特に好ましい。R3は、水素原子またはメチル基を表す。
なお、抗血栓剤が2種以上のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有する場合には、各構成単位は、同一であってもあるいは異なるものであってもよい。
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、具体的には、メトキシメチルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メトキシプロピルアクリレート、エトキシメチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、エトキシプロピルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、プロポキシメチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、メトキシメチルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシメチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、プロポキシメチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、抗血栓性及び生体適合性のさらなる向上効果の観点から、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシブチルアクリレートが好ましく、メトキシエチルアクリレート(MEA)が特に好ましい。すなわち、抗血栓剤はポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)であることが好ましい。上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートは、単独で使用されてもあるいは2種以上を混合して使用してもよい。
本発明に係る抗血栓剤は、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を有していると好ましく、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位の1種もしくは2種以上から構成される重合体(単独重合体)であっても又は1種もしくは2種以上のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位及び当該アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る1種もしくは2種以上の単量体由来の構成単位(他の構成単位)から構成される重合体(共重合体)であってもよい。なお、本発明に係る抗血栓剤が2種以上の構成単位から構成される場合には、高分子(共重合体)の構造は特に制限されず、ランダム共重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。また、重合体の末端は特に制限されず、使用される原料の種類によって適宜規定されるが、通常、水素原子である。
ここで、本発明に係る抗血栓剤がアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位に加えて他の構成単位を有する場合の、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る単量体(共重合性単量体)としては、特に制限されない。例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘキシルメタクリレート、エチレン、プロピレン、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アミノメチルアクリレート、アミノエチルアクリレート、アミノイソプロピルアクリレート、ジアミノメチルアクリレート、ジアミノエチルアクリレート、ジアミノブチルアクリレート、メタアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、アミノメチルメタクリレート、アミノエチルメタクリレート、ジアミノメチルメタクリレート、ジアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらのうち、共重合性単量体としては、分子内にヒドロキシル基やカチオン性基を有しないものが好ましい。共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれでもよく、ラジカル重合やイオン重合、マクロマーを利用した重合等の公知の方法により合成することができる。ここで、共重合体の全構成単位中、共重合性単量体に由来する構成単位の割合は、特に制限されないが、抗血栓性及び生体適合性などを考慮すると、共重合性単量体に由来する構成単位(他の構成単位)が、共重合体の全構成単位中、0モル%を超えて50モル%以下であることが好ましい。50モル%を超えると、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートによる効果が低下してしまう可能性がある。
ここで、抗血栓剤の重量平均分子量は特に制限されないが、好ましくは80,000以上である。本形態に係る人工肺の製造方法において、抗血栓剤は、水性コート液の形態で中空糸膜の外表面又は内表面に形成された重合体層に塗布される。したがって、所望の水性コート液を調製しやすいという観点から、抗血栓剤の重量平均分子量は、800,000未満であると好ましい。上記範囲とすることにより、抗血栓剤を含む溶液中で、当該化合物が凝集又は沈殿することを抑制し、安定した水性コート液を調製することができる。さらに、抗血栓剤の重量平均分子量は、200,000を超えて800,000未満であると好ましく、210,000以上600,000以下であるとより好ましく、220,000以上500,000以下であるとさらにより好ましく、230,000以上450,000以下であると特に好ましい。
本明細書において、「重量平均分子量」は、標準物質としてポリスチレンを、移動相としてテトラヒドロフラン(THF)をそれぞれ使用するゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography、GPC)により測定する。具体的には、分析対象となるポリマーをTHFに溶解し10mg/mlの溶液を調製する。このように調製されたポリマー溶液について、株式会社島津製作所製GPCシステムLC-20にShodex社製GPCカラムLF-804を取り付け、移動相としてTHFを流し、標準物質としてポリスチレンを用いて、分析対象となるポリマーのGPCを測定する。標準ポリスチレンで較正曲線を作製した後、この曲線に基づいて分析対象となるポリマーの重量平均分子量を算出する。
抗血栓剤の分子量を大きくすることによって、被膜中に含まれる、分子量が比較的小さい高分子の含有量を低減でき、その結果、比較的分子量が小さい高分子が、血液中へ溶出することを抑制・防止するという効果も得られると推測される。したがって、抗血栓剤の重量平均分子量が上記範囲に含まれる場合には、被膜(特に低分子量の高分子)の血液中への溶出を更に有効に抑制・防止できる。また、抗血栓性及び生体適合性の点からも好ましい。また、本明細書において、「低分子量の高分子」とは、重量平均分子量が60,000未満の高分子を意味する。なお、重量平均分子量の測定方法は、上記の通りである。
また、上記式(1)で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート由来の構成単位を含む抗血栓剤は、公知の方法によって製造できる。具体的には、下記式(2)で示されるアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、及び必要に応じて添加される上記アルコキシアルキル(メタ)アクリレートと共重合し得る単量体(共重合性単量体)の1種又は2種以上とを重合溶媒中で重合開始剤と共に撹拌して、単量体溶液を調製し、上記単量体溶液を加熱することにより、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート、又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要に応じて添加される共重合性単量体を(共)重合させる方法が好ましく使用される。
なお、上記式(2)において、置換基R1、R2及びR3は、上記式(1)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記単量体溶液の調製で使用できる重合溶媒は、用いられる上記式(2)のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要に応じて添加される共重合性単量体を溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、ポリエチレングリコール類などの水性溶媒;トルエン、キシレン、テトラリン等の芳香族系溶媒;及びクロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒などが挙げられる。これらのうち、アルコキシアルキル(メタ)アクリレートの溶解しやすさ、上記したような重量平均分子量を有する高分子の得やすさなどを考慮すると、メタノールが好ましい。
単量体溶液中の単量体濃度は、特に制限されないが、濃度を比較的高く設定することによって、得られる抗血栓剤の重量平均分子量を大きくすることができる。このため、上記したような重量平均分子量を有する高分子の得やすさなどを考慮すると、単量体溶液中の単量体濃度は、好ましくは50質量%未満であり、より好ましくは15質量%以上50質量%未満である。さらに、単量体溶液中の単量体濃度は、より好ましくは20質量%以上48質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以上45質量%以下である。なお、上記単量体濃度は、単量体を2種以上使用する場合には、これらの単量体の合計濃度を意味する。
重合開始剤は特に制限されず、公知のものを使用すればよい。好ましくは、重合安定性に優れる点で、ラジカル重合開始剤であり、具体的には、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過酸化水素、t-ブチルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジスルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロリド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン)]ハイドレート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、α-クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3-テトラブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシピバレート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(セカンダリーブチル)パーオキシジカーボネート、アゾビスシアノ吉草酸等のアゾ化合物が挙げられる。また、例えば、上記ラジカル重合開始剤に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸等の還元剤を組み合わせてレドックス系開始剤として用いてもよい。重合開始剤の配合量は、単量体(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び必要に応じて添加される共重合性単量体;以下、同様)の合計量に対して、0.0001~1モル%が好ましく、0.001~0.8モル%であるとより好ましく、0.01~0.5モル%であると特に好ましい。又は、重合開始剤の配合量は、100質量部の単量体(複数種の単量体を用いる場合は、その全体)に対して、好ましくは0.005~2質量部であり、より好ましくは0.05~0.5質量部である。このような重合開始剤の配合量であれば、所望の重量平均分子量を有する高分子がより効率よく製造できる。
上記重合開始剤は、単量体及び重合溶媒とそのまま混合されてもよいが、予め他の溶媒に溶解した溶液の形態で単量体及び重合溶媒とそのまま混合されてもよい。後者の場合、他の溶媒としては、重合開始剤を溶解できるものであれば特に制限されないが、上記重合溶媒と同様の溶媒が例示できる。また、他の溶媒は、上記重合溶媒と同じであっても又は異なってもよいが、重合の制御のしやすさなどを考慮すると、上記重合溶媒と同じ溶媒であることが好ましい。また、この場合の他の溶媒における重合開始剤の濃度は、特に制限されないが、混合のしやすさなどを考慮すると、重合開始剤の添加量が、他の溶媒100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.15~5質量部、さらにより好ましくは0.2~1.8質量部である。
次に、上記単量体溶液を加熱することにより、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び他の単量体を(共)重合する。ここで、重合方法は、例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの公知の重合方法が採用でき、好ましくは製造が容易なラジカル重合を使用する。
重合条件は、上記単量体(アルコキシアルキル(メタ)アクリレート又はアルコキシアルキル(メタ)アクリレート及び共重合性単量体)が重合できる条件であれば特に制限されない。具体的には、重合温度は、好ましくは30~60℃であり、より好ましくは40~55℃である。また、重合時間は、好ましくは1~24時間であり、好ましくは3~12時間である。かような条件であれば、上記したような高分子量の重合体がより効率的に製造できる。また、重合工程におけるゲル化を有効に抑制・防止すると共に、高い製造効率を達成できる。
また、必要に応じて、連鎖移動剤、重合速度調整剤、界面活性剤、及びその他の添加剤を、重合の際に適宜使用してもよい。
重合反応を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、大気雰囲気下、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気等で行うこともできる。また、重合反応中は、反応液を攪拌してもよい。
重合後の重合体は、再沈殿法、透析法、限外濾過法、抽出法など一般的な精製法により精製することができる。水性コート液の調製に適した(共)重合体が得られるという理由から、上記の中でも、再沈殿法による精製を行うと好ましい。このとき、再沈殿を行うために用いる貧溶媒としては、エタノールを用いると好ましい。
精製後の重合体は、凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、又は加熱乾燥等、任意の方法によって乾燥することもできるが、重合体の物性に与える影響が小さいという観点から、凍結乾燥又は減圧乾燥が好ましい。
上述したように、本発明の一実施形態では、抗血栓剤を含む水性コート液を調製し、前記水性コート液を、上記(2)にて中空糸膜の外表面又は内表面に形成された重合体層に塗布することにより、抗血栓剤を含む被膜(抗血栓剤層)を重合体層上に形成する。
(水性コート液の調製)
ここでは、本発明に係る水性コート液の調製方法について説明する。
抗血栓剤を含む溶液(水性コート液)の調製に使用される溶媒は、抗血栓剤を適度に分散させて水性コート液を調製することができるものであれば特に制限されない。中空糸膜の細孔の外表面又は内表面(酸素含有ガスが流れる側の表面)までの水性コート液の浸透をより有効に防止する観点から、溶媒が水を含むことが好ましい。ここで、水は、純水、イオン交換水又は蒸留水であると好ましく、なかでも、蒸留水であると好ましい。
また、水性コート液の調製に使用される水以外の溶媒は、特に制限されないが、抗血栓剤の分散性等の制御のしやすさを考慮すると、メタノール、アセトンであることが好ましい。上記水以外の溶媒は、1種単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。これらのうち、抗血栓剤の分散性等のさらなる制御のしやすさを考慮すると、メタノールであることが好ましい。すなわち、溶媒は、水及びメタノールから構成されることが好ましい。ここで、水及びメタノールの混合比は、特に制限されないが、抗血栓剤の分散性及びコロイドの平均粒子径のさらなる制御のしやすさを考慮すると、水:メタノールの混合比(質量比)が、6~32:1であることが好ましく、10~25:1であることがより好ましい。すなわち、溶媒は、6~32:1の混合比(質量比)で水及びメタノールから構成されることが好ましく、10~25:1の混合比(質量比)で水及びメタノールから構成されることがより好ましい。
なお、上記のように、水と水以外の溶媒との混合溶媒を用いて水性コート液を調製する際、溶媒(例えば、水及びメタノール)、抗血栓剤を添加する順序は特に制限されないが、以下の手順で水性コート液を調製すると好ましい。すなわち、抗血栓剤を水以外の溶媒(好ましくは、メタノール)に添加して抗血栓剤含有溶液を調製し、続いて、水に対して上記抗血栓剤含有溶液を添加する方法で水性コート液を調製すると好ましい。このような方法によれば、抗血栓剤を分散させやすい。また、上記方法によれば、粒子径が均一なコロイドを形成することができ、均一な被膜が形成しやすくなるという利点もある。
上記方法において、水に対する抗血栓剤含有溶液の添加速度は、特に制限されないが、水に対し、上記抗血栓剤含有溶液を5~100g/分の速度で添加すると好ましい。
水性コート液を調製する際の撹拌時間や撹拌温度は特に制限されないが、粒子径が均一なコロイドを形成しやすく、コロイドを均一に分散できるという観点から、水に抗血栓剤含有溶液を添加した後、1~30分間撹拌すると好ましく、5~15分間撹拌するとより好ましい。また、撹拌温度は、10~40℃であると好ましく、20~30℃であるとより好ましい。
水性コート液中の抗血栓剤の濃度は、特に制限されないが、コート量を増加させやすいという観点から、0.01質量%以上であると好ましい。さらに上記観点から、水性コート液は、抗血栓剤を、0.05質量%以上の濃度で含むとより好ましく、0.1質量%以上の濃度で含むと特に好ましい。一方、水性コート液中の抗血栓剤の濃度の上限は、特に制限されないが、被膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、0.3質量%以下であると好ましく、0.2質量%以下であるとより好ましい。また、このような範囲であれば、抗血栓剤の被膜が厚くなりすぎることによる、ガス交換能の低下も抑制される。
(水性コート液の塗布工程)
次に、上記の通り調製した水性コート液を、上記(2)にて中空糸膜の外表面又は内表面に形成された重合体層に塗布(被覆)する。具体的には、人工肺(例えば、図1又は図3のような構造のもの)を組み立てた後、重合体層を中空糸膜の内または外表面に形成し、水性コート液を上記重合体層と接触させ(又は重合体層が形成された側に流通させ)ることによって、重合体層(好ましくは、中空糸膜の外表面(すなわち、血液接触部)上に形成された重合体層)を、抗血栓剤で被覆する。これにより、抗血栓性剤層が重合体層上に形成される。なお、中空糸膜に対する水性コート液の塗布は人工肺の組立前に行ってもよい。
重合体層を、抗血栓剤を含む水性コート液と接触させる方法は、特に制限されないが、充填、ディップコート(浸漬法)等、従来公知の方法を適用することができる。なかでも、抗血栓剤のコート量を多くするため、充填が好ましい。
抗血栓剤を含む水性コート液と重合体層とを接触させる方法として充填を採用する場合、水性コート液の充填量は、中空糸膜の膜面積(m2)に対して、50g/m2以上、より好ましくは80g/m2以上となるような量であることが好ましい。充填量が50g/m2以上であると、中空糸膜表面に十分な量の抗血栓剤を含む被膜(抗血栓剤層)を形成することができる。一方、充填量の上限値は特に制限されないが、中空糸膜の膜面積(m2)に対して、200g/m2以下、より好ましくは150g/m2以下となるような量であることが好ましい。
なお、本明細書において、「膜面積」とは、中空糸膜の外表面の面積をいい、中空糸膜の外径、円周率、本数および有効長の積から算出される。
重合体層を抗血栓剤を含む水性コート液と接触させる時間も、特に制限されないが、コート量、塗膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、0.5分以上70分以下であることが好ましく、1分以上5分以下であることがより好ましい。また、水性コート液と重合体層との接触温度(水性コート液の流通温度)は、コート量、塗膜の形成しやすさ、コートむらの低減効果などを考慮すると、5~40℃が好ましく、15~30℃がより好ましい。
上記水性コート液との接触後に、塗膜を乾燥させることによって、本発明に係る抗血栓剤による被覆(抗血栓剤層)が重合体層上に形成される。ここで、乾燥条件は、抗血栓剤による被覆(抗血栓剤層)が重合体層に形成できる条件であれば特に制限されない。具体的には、乾燥温度は、5~50℃が好ましく、15~40℃がより好ましい。また、乾燥時間は、60~300分が好ましく、120~240分がより好ましい。又は、好ましくは5~40℃、より好ましくは15~30℃のガスを中空糸膜に連続して又は段階的に流通させることによって、塗膜を乾燥させてもよい。ここで、ガスの種類は、塗膜に何ら影響を及ぼさず、塗膜を乾燥できるものであれば特に制限されない。具体的には、空気、及び窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスなどが挙げられる。また、ガスの流通量は、塗膜を十分乾燥できる量であれば特に制限されないが、好ましく5~150Lであり、より好ましく30~100Lである。
以上の工程により、中空糸膜の内または外表面に重合体層および抗血栓剤層が形成された人工肺が得られる。よって、本形態に係る製造方法によると、所望の抗血栓性および耐血漿リーク性を兼ね備えた人工肺を提供することができる。また、本形態に係る方法によって製造される人工肺は、例えば1か月以上の長期にわたる使用にあってもその抗血栓性および耐血漿リーク性を維持できる(すなわち、耐久性(抗血栓維持性および耐血漿リーク維持性)にも優れる)。したがって、本形態に係る方法によって製造される人工肺は、通常の手術等に使用される人工肺に加えて、重篤な疾患の患者に対する肺補助具としても好適に使用できる。
本発明の効果を、以下の実施例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。
実施例1~4
ドーパミン塩酸塩(dopamine hydrochloride)(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を、PBS溶液(組成:8g/L NaCl、0.2g/L KCl、1.15g/L Na2HPO4、0.2g/L KH2PO4、pH 7.4)中に2mg/mLの濃度となるように添加した。この混合溶液を密閉容器内に入れ、酸素濃度(25℃)が1.12容積%となるように酸素ガスを封入し、DA/PBS溶液1(pH 7.4)を調製した。
ポリプロピレン製の多孔質中空糸膜51(外径:170μm、内径:112μm、肉厚:29μm、細孔径:0.05μm、空孔率:30体積%、膜面積:0.05m2)を、上記にて調製したDA/PBS溶液1に浸漬した。次に、中空糸膜の一方の末端をウレタン樹脂により塩化ビニルチューブ内にポッティングし、エアーホースおよび継手により酸素ガスタンクと連結し、酸素ガスタンクから中空糸膜の内腔に酸素ガスを0.3L/分の速度で、240分(実施例1)、120分(実施例2)、60分(実施例3)および30分(実施例4)、吹送した後、この状態で37℃で1時間保持した。これにより、ドーパミンを酸化・重合して、中空糸膜表面にドーパミン重合体層(重合体層)を形成した(保持中空糸膜1~4)。なお、上記操作において、37℃で1時間保持する以外の操作は、25℃で行った。保持中空糸膜1~4をDA/PBS溶液1から取り出し、RO水で洗浄し、室温(25℃)で自然乾燥して、コート済み中空糸膜1~4を得た。
また、保持中空糸膜1~4を取り出した後のDA/PBS溶液1について、一定量抜きとり、紫外可視分光法(UV-vis)を用い、測定波長(200~800nm)にて溶液の吸光度を測定した。結果を図8に示す。なお、図8中、450nmでの高い吸光度(abs.)は溶液中のドーパミンの重合度の示す指標であり、酸素の吹送によりドーパミンの重合が促進されていることを示唆する(即ち、中空糸膜表面にも同様にドーパミンが重合し、大気中に保持するよりも迅速にドーパミン層の形成をしている)ことを意味する。
比較例1
実施例1~4において、酸素ガスを吹送しない(即ち、酸素ガス吹送時間=0分)以外は、実施例1~4と同様にして、比較コート済み中空糸膜1を作製した。
すなわち、実施例1~4と同様にして、DA/PBS溶液1(pH 7.4)を調製した。
ポリプロピレン製の多孔質中空糸膜(外径:170μm、内径:112μm、肉厚:29μm、細孔径:0.05μm、空孔率:30体積%、膜面積:0.05m2)を、上記にて調製したDA/PBS溶液1に浸漬して、中空糸膜の内腔をDA/PBS溶液1で満たし、この状態で37℃で1時間保持した。これにより、ドーパミンを酸化・重合して、中空糸膜表面にドーパミン重合体層(重合体層)を形成した(比較保持中空糸膜1)。また、比較保持中空糸膜1をDA/PBS溶液1から取り出し、RO水で洗浄し、室温(25℃)で自然乾燥して、比較コート済み中空糸膜1を得た。
比較保持中空糸膜1を取り出した後のDA/PBS溶液1について、実施例1~4と同様にして、溶液中のドーパミン量を測定した。結果を図8に示す。
比較例2
ドーパミン塩酸塩(dopamine hydrochloride)(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を、PBS溶液(組成:8g/L NaCl、0.2g/L KCl、1.15g/L Na2HPO4、0.2g/L KH2PO4、pH 7.4)中に2mg/mLの濃度となるように添加して、DA/PBS溶液2(pH 7.4)を調製した。
ポリプロピレン製の多孔質中空糸膜(外径:170μm、内径:112μm、肉厚:29μm、細孔径:0.05μm、空孔率:30体積%、膜面積:0.05m2)を上記にて調製したDA/PBS溶液2に24時間浸漬して、中空糸膜の内腔をDA/PBS溶液で満たして、ドーパミンを酸化・重合して、中空糸膜表面にドーパミン重合体層(重合体層)を形成して、比較コート済み中空糸膜2を得た。
比較保持中空糸膜2を取り出した後のDA/PBS溶液2について、実施例1~4と同様にして、溶液中のドーパミン量を測定した。結果を図9に示す。
図8から、実施例によるように酸素ガスを吹送しながらドーパミンの酸化・重合を行うことにより、酸素ガスを吹送しない比較例1に比して、ドーパミンの重合が、より効率よく進行することがわかる。このため、本願実施例により形成されたドーパミン重合体層上に抗血栓剤を含む抗血栓剤層を形成する場合には、抗血栓剤層は、比較例のドーパミン重合体層に比して、ドーパミン重合体層とより密着する(ゆえに、人工肺はより高い耐久性を発揮できる)と考察される。
また、図8と図9との比較から、実施例によれば、より短時間で、同等以上にドーパミン重合体層を形成できることがわかる。
比較例3
ポリプロピレン製の多孔質中空糸膜(外径:170μm、内径:112μm、肉厚:29μm、細孔径:0.05μm、空孔率:30体積%、膜面積:0.05m2)を、未コートの中空糸膜として準備した。
<評価>
実施例3で得られたコート済み中空糸膜3、比較例1で得られた比較コート済み中空糸膜1及び未コートの中空糸膜について、気体透過性および耐血漿リーク性を評価した。
[気体透過性]
コート済み中空糸膜をエポキシ樹脂でポッティングし、酸素ガスで中空糸膜の外側を満たした。当該ガスに50mmHgの圧力をかけ、中空糸膜の外側から内腔へと流れるガスの量を測定し、気体透過性を評価した。また、比較コート済み中空糸膜1及び未コートの中空糸膜についても同様の方法で気体透過性を評価した。結果を図10に示す。図10は、縦軸に単位(面積・時間)あたりのガス流量(mL/m2・min・mmHg)をとった棒グラフである。縦軸の値が大きいほど、気体透過性に優れることを示す。
図10に示すように、コート済み中空糸膜3は、未コートの中空糸膜(図10中の「未コート」)や比較コート済み中空糸膜1よりも気体透過性が低下するものの、人工肺に求められる気体透過性(1.0mL/m2・min・mmHg以上)を十分に備えるものであることが確認された。
[耐血漿リーク性]
コート済み中空糸膜をエポキシ樹脂でポッティングし、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液(saline溶液)に1mg/mLの濃度となるように溶解した溶液(SDS/saline溶液)で中空糸膜の外側を満たした。SDS/saline溶液に760mmHgの圧力をかけ、中空糸膜の外側から内腔へと透過するSDS/saline溶液の量を測定し、耐血漿リーク性を評価した。また、比較コート済み中空糸膜1及び未コートの中空糸膜についても同様の方法で耐血漿リーク性を評価した。結果を図11に示す。図11は、縦軸に単位(面積・時間)あたりのSDS/saline溶液の透過量を、横軸に時間をとったグラフである。縦軸の値が小さいほど、耐血漿リーク性に優れることを示す。
図11に示すように、コート済み中空糸膜3は、未コートの中空糸膜(図11中の「未コート」)や比較コート済み中空糸膜1よりも耐血漿リーク性が有意に向上することが示された。
本出願は、2020年3月12日に出願された日本特許出願番号2020-043497号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として、組み入れられている。