JP7549860B2 - 水素の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、水素の製造方法等に関する。より具体的には、本発明は、チオフェン類を添加分子と共存させて導電性基板上で酸化重合することによって得られたチオフェン重合体を、光吸収および水還元触媒層(以下、光吸収水還元触媒層と記載する。)として、水酸化イオン含有水の酸化触媒(以下、水・酸化触媒と記載する。)と組み合わせ、これを水酸化イオン含有水に浸漬し、前記光吸収水還元触媒層に光照射することを含む、水素の製造方法、前記光吸収水還元触媒層を有する光吸収水還元触媒基板の製造方法、及び光吸収水還元-水・酸化基板に関する。
水素は、アンモニア合成、石油精製、製鉄などにおいて幅広く工業利用され、産業上きわめて重要なガスである。また、燃焼しても水しか排出しないことから、クリーンなエネルギー源や燃料電池の燃料などとして実用されている。
水素は従来は主に化石資源から製造されているが、将来的には化石燃料に依存しない、環境適合な、水素の製造法が求められる(非特許文献1)。
このような水素の製造法の例として、「無機半導体を光触媒として水分解することにより水素を製造する方法」が開発されている。特に、硫化カドミウム、バナジン酸ビスマスなど無機半導体に光照射し、それによる光吸収と触媒反応により水分解し水素を製造する研究・開発は、環境に適合した理想的な水素製造法として、環境・エネルギーの制約を突破すべく、強力に進められている。しかし、長波長 (600nm以上)の可視光への応答、半導体の対による2光子1電子機構、白金などの助触媒を半導体との界面含む組み合わせなど工夫されているが、吸収光エネルギーから水素発生反応への変換効率は3%以下に留まっている(非特許文献2、3)。また水分解から生成する水素と酸素から水素のみを分離する膜と装置設計も解決に至っていない。
これに対し、「有機半導体を光触媒として水分解することにより水素を製造する方法」も開発されている。このような研究例は、フェニルトリアジンオリゴマー、窒化炭素、有機フレームワーク(非特許文献4、5、6)などがあるが、いずれの場合も紫外光の照射下、大きな過電圧の印加や犠牲試薬の添加が不可欠であり、しかもそれらの補助条件下でも水素発生速度は10水素mmol/触媒g・時間以下の低値である。
一方、本発明者らは、永年に亘り水の光電気化学的分解と水素発生について研究を積み重ねてきており(非特許文献7、8、9)、最近チオフェン重合体層をヨウ素蒸気による独自の重合法により作製し、これを水中に浸して可視光を照射すると、0.5V程度の印加電圧(または印加なしでも反応速度は低いものの)水の分解により、水素ガスが発生してくることを学術誌に報告した(非特許文献8、9)。
Staffell, L., et al., Energy Environ. Sci. 12, 463-491 (2019). Wang, Q., et al., Chem. Rev. (2019). 10.1021/acs.chemrev.9b00201. NEDO報告書 二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発 https://www.nedo.go.jp/content/100800289.pdf Banerjee, T., et al., J. Am. Chem. Soc. 139, 16228-16234 (2017). Schwinghammer, K., et al., Energy Environ. Sci. 8, 3345-3353 (2015). Staffell, L., et al., Energy Environ. Sci. 12, 463-491 (2019). C. H. Ng, O. Winther-Jensen, et al., J. Mater. Chem. A, 3, 11358 (2015). Oka, K., et al., Energy Environ. Sci. 11, 1335-1342 (2018). Oka, K., et al., Adv. Energy Mater. 9, 1803286, (2019).
上記の発明者らによる水素の製造法を格段に改良・発展させ、印加電圧や犠牲試薬の補助がない場合でも、光照射により極めて生成速度高く水素を製造することができる技術を提供することを課題とする。
上記の本発明者らが国内外で先駆ける光照射による水分解の知見と、独自のチオフェン重合体層の形成方法をもとに、光照射による水からの効率高い水素の簡便な製造方法の開発に向け鋭意研究を重ねた結果、導電性基板上に添加分子を共存させてチオフェン類を重合することにより、チオフェン重合体層の上下方向(厚み方向)の電気抵抗が低いという特性を有し、新規なチオフェン重合体層を得ることに成功し、これを光吸収および水還元触媒層(以下、光吸収水還元触媒層と記載する。)として水酸化イオン含有水の酸化触媒(以下、「水・酸化触媒」と記載する。)と組み合わせることで、本発明を完成させた。これによって大きな過電圧の印加や犠牲試薬の添加等の補助なく、水素の生成速度を既知の方法と比較して大幅に増加することができる。
具体的には、本発明は、チオフェン類を添加分子と共存させ導電性基板上で酸化重合反応させることによって得られたチオフェン重合体からなる光吸収水還元触媒層と、水酸化イオン含有水の酸化触媒とを組み合わせて、これらを水酸化イオン含有水に浸漬し、前記光吸収水還元触媒層に光照射することを含むことを特徴とする水素の製造方法を提供する。
本発明の水素の製造方法において、前記導電性基板と前記光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられている場合がある。
本発明の水素の製造方法において、前記導電性基板に対して、前記光吸収水還元触媒層を片面上に、前記水酸化触媒を他面上に形成した光吸収水還元-水・酸化基板が用いられる場合がある。
また、本発明は、チオフェン類を添加分子と共存させて、酸化重合反応により導電性基板上にチオフェン重合体からなる光吸収水還元触媒層を形成する工程を含む光吸収水還元触媒基板の作製方法を提供する。
本発明の光吸収水還元触媒基板の作製方法は、前記チオフェン重合体を形成する工程に続いて、さらに前記添加分子を洗浄・除去する工程を含み、
前記添加分子は、前記チオフェン重合体に取り込まれず、除去される場合がある。
本発明の光吸収水還元触媒基板の作製方法は、前記酸化重合反応が、ヨウ素蒸気による酸化重合反応である場合がある。
本発明の光吸収水還元触媒基板の作製方法は、さらに前記チオフェン重合体を形成する工程の前に、前記導電性基板上にホール輸送薄層を設ける工程を含み、
前記導電性基板と前記光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられる場合がある。
さらに、本発明は、導電性基板に対して、光吸収水還元触媒層を片面上に、水・酸化触媒層を他面上に構成される水素の製造のための光吸収水還元-水・酸化基板を提供する。
本発明により、新規で環境適合かつ水素生成速度が極めて高い水素の製造技術を提供することができる。
本発明の、チオフェン重合体を光吸収水還元触媒層とし、ホール輸送薄層と水・酸化触媒を組合せて成る、水酸化イオン含有水から光照射により水素を製造する方法の一例について、要件となるエネルギー準位を示す図である。 光吸収水還元触媒層となるチオフェン重合体層をホール輸送薄層を塗布した導電性基板上に形成し、導電性基板の反対面に水・酸化触媒層を形成させた導電性基板を水中に設置してなる光照射下での簡便な反応槽を表す。 酸化重合反応によりチオフェン重合体を形成する手順の模式図を表す。 酸化重合反応によって作製したチオフェン重合体の断面SEM像である。(a)本発明によって作製されたチオフェン重合体層、(b)添加分子を使用しない従来の方法によって作製されたチオフェン重合体層、(c)鉄触媒による重合によって作製されたチオフェン重合体層、(d)電解重合によって作製されたチオフェン重合体層。 光吸収水還元触媒層となるチオフェン重合体層を形成した導電性基板と、水・酸化触媒層を形成した別の導電性基板を、水中に設置し、両者を導線で連結してなる光照射下での簡便な反応槽を表す。水・酸化触媒層基板を設置した右側の槽では、水素生成が進む光吸収水還元触媒を設置した左側の槽に対して、補償反応として作動する。
1.水素の製造方法
本発明の実施形態の1つは、水素の製造方法である。
より具体的には、導電性基板上にチオフェン類を添加分子と共存させて酸化重合することによって得られたチオフェン重合体からなる光吸収および水還元触媒層(以下、光吸収水還元触媒層と記載する。)を、水酸化イオン含有水の酸化触媒(以下、水・酸化触媒と記載する。)と組み合わせ、これを水酸化イオン含有水に浸漬し、前記光吸収水還元触媒層に光照射することを含む、水素の製造方法である。
チオフェン重合体を、チオフェン類を添加分子と共存させて酸化重合することによって得ることにより、厚み方向の電気抵抗の低いという特性を有し、新規なチオフェン重合体層を得ることができ、これを光吸収水還元触媒層として用いて水素を製造することにより、高い速度で水素を製造することができる。
また、導電性基板と光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられていることが好ましい。このようにホール輸送薄層が設けられていることにより光吸収水還元触媒層からのホールの抜き取りがさらに促進され、さらに高い速度で水素を製造することができる。
なお、本明細書において、「からなる」の用語は「から形成される」との意味で用いられ、「のみからなる」の意味で使用されるものではない。すなわち、「チオフェン重合体からなる」とは、「チオフェン重合体から形成される」との意味であり、「チオフェン重合体のみからなる」の意味を表すものではない。
また、本明細書において、光吸収水還元触媒層は光吸収活性および水還元触媒活性の両活性を有する材料からなる層を意味するものであり、光吸収活性を有する材料と水還元活性を有する別の材料とを重層又は混合させて形成させた層は含まない。
また、本明細書において、添加分子とは、チオフェン類を酸化重合反応によって重合する際に添加され共存する化合物であり、酸化重合反応においては共存するが化学反応を起こさないため、得られるチオフェン重合体の高分子中に重合などで取り込まれない化合物をいう。
以下、本発明の光照射により水素を製造する方法について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明のチオフェン類を添加分子と共存させた酸化重合により得られた、チオフェン重合体を光吸収水還元触媒とし、ホール輸送薄層と水・酸化触媒を組み合せて成る、水酸化イオン含有水での光照射により水素を製造する方法の一実施の形態について、要件となるエネルギー準位を、図1に示した。
図1の右側から説明する。水を還元(すなわち2電子を供与)して水素を生成する電位は、反応式2H2O + 2e- → H2 + 2OH- (中性-アルカリ性)で、酸化還元電位が銀/塩化銀電極を参照電極とする値(以下、対銀/塩化銀と記載)で-0.91V(pH12)である。
本発明の最重要な構成物は、図1の右側2列目のチオフェン重合体層であり、光を吸収し電荷分離し、励起電子を触媒的に水の還元に供する役割を果たす。そのために同層はπ共役高分子であるチオフェン重合体からなるが、(1)光の吸収係数が高く、かつ(2)最低空軌道(LUMO)の準位が水の還元電位より適度に高いチオフェン重合体が要件となる。(1)については可視光吸収のためにバンドギャップが2.0eV程度であることが望ましい。合わせて、同層は(3)電荷分離により生じた電子とホールを左右の界面まで拡散させる電荷輸送性、(4)水・酸化触媒にホールを受け渡せる適度に低い最高被占軌道(HOMO)の準位も要件となる。さらに(5)水への電子注入効率が高い、いわば触媒能が要求される。加うるに(6)この触媒能が水のpHによらず、例えば水・酸化触媒が効率高く作動するアルカリ性でも保持されていることが望まれる。
図1の右側から3列目のホール輸送薄層は、光照射下のチオフェン重合体層からホール(正孔)を受け取り、3列目の水酸化イオン含有水の酸化触媒(水・酸化触媒)に受け渡す役割を果たす。本層は、以下の実施の形態および実施例にて必要に応じて導電性基板上に塗布して使用される。ホール輸送薄層が、チオフェン重合体層と導電性基板の間に存在することにより、チオフェン重合体層からのホールの抜き取りが促進され、その結果、水素の製造速度がさらに上昇する。
図1の右側から4列目の水酸化イオン含有水の酸化触媒は、光照射下のチオフェン重合体層からホールを受け取り、触媒的に水の酸化に供する役割を果たす。汎用廉価で活性高い触媒としては酸化マンガンが代表例であるが、これらの触媒は水酸化イオン含有水で作用する。水酸化イオンを酸化(すなわち4OH-から4電子を引き出し)して酸素を生成する電位は反応式4OH- → O2 + 2H2O + 4e-で+ 0.32V対銀/塩化銀(pH12)である。チオフェン重合体のHOMO準位が、例えば、およそ+ 1.0V対銀/塩化銀にあれば、理想的な電子(またはホール)の授受が連鎖して作動するカスケードが成り立つ。
以下に、本発明の水素の製造方法における構成物について具体的に説明する。
本発明の水素の製造方法における、チオフェン類の例としては、チオフェン、ビチオフェン、2-フェニルチオフェン、ターチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、1,4-ジ(2-チエニル)ピロール、1,4-ジ(2-チエニル)ピリジン、1,4-ジ(2-チエニル)ビぺリジン、1,4-ジ(2-チエニル)ナフタレン、1,4-ジ(2-チエニル)-2-フルオロベンゼン、3-フェニル-ターチオフェンなどが挙げられる。これらのチオフェン類の1種または2種以上を酸化重合することによりチオフェン重合体を得ることができる。チオフェン重合体は、チオフェン類のいずれか1種のホモポリマーであることが好ましい。
チオフェン類を重合することにより得られたチオフェン重合体は、π共役高分子であるため、高いバンドギャップを有する。チオフェン重合体のバンドギャップが1.2~2.5eVであることが、可視光を効率よく吸収するという観点から好ましい。また、得られたチオフェン重合体は、一般的に本発明の上述した水素の製造方法のために必要なLUMO準位とHOMO準位を有するが、LUMO準位が-4.0~-3.0eV、HOMO準位が-5.0~-4.0eVであることが好ましい。また、水に接して作動する触媒層として、親水性の付与できるものが好ましい。合わせて、後述の重合時の反応性および重合条件に適した溶媒溶解性、融点、並びに、薄層形成能を有することが好ましい。
前記チオフェン重合体の好ましい重合度は、2~30の範囲であり、より好ましくは4~15の範囲である。チオフェン重合体を上記の範囲の重合度とすることより、厚み方向の電気抵抗をより低く、基板との接着性と強靭さをより向上することができる。また、好ましい平均分子量としては500~7500の範囲であり、より好ましくは1000~4000の範囲である。
本発明の水素の製造方法における添加分子の例としては、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、トリフェニル、p-セキシフェニル、1,3,5-トリフェニルベンゼン、1,3,5-トリス(4-ビフェニリル)ベンゼン、1,3,5-トリ(p-トリル)ベンゼン、ヘントリアコンタン、ピペリン、ジギトキシン、p-ターフェニル、及び1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンなどが挙げられる。これらの添加分子は、1種のみで、または2種以上を併用して用いることができる。添加分子としては、上記に例示した化合物のように、主として、ドーピング能(酸化還元能)を有さず、また対イオンとして機能しない化合物が用いられる。
前記添加分子は、上記の化合物から重合反応に用いられる他の材料や試薬の性質に基づき、以下の特性を考慮して選択されることが好ましい。
・前記チオフェン類と同一の有機溶媒に可溶であること、
・その溶液を導電性基板上に塗布可能であること、
・これを例えば減圧等によって乾燥する際に蒸散しないこと、
・この固相塗布体をヨウ素蒸気などに晒してチオフェン類を酸化重合する際に重合を妨害せず、
・また共重合などチオフェン重合体に組み込まれないこと、及び、
・反応性基の置換がないこと。
また、前記添加分子が、上記したチオフェン類を酸化重合する際、チオフェン類と添加分子の合計を100質量%としたとき、添加分子が5~70質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。チオフェン類の質量に対する添加分子の質量を、上記した範囲内とすることで、粒塊の大きさ、粒塊間の境界などのチオフェン重合体の構造を最適化することができ、これにより厚み方向の電気抵抗をより低くすることができる。この結果、より高い速度で水素を製造することができる。
また、添加分子はチオフェン重合体が得られた後に、チオフェン重合体の層から有機溶媒等により洗浄・除去されることが好ましい。酸化重合反応において、添加分子はチオフェン類との反応性が低いため形成されるチオフェン重合体の高分子中に重合など取り込まれていないため溶解・除去することができる(図3参照)。添加分子がチオフェン重合体の層に残存すると電荷輸送を抑制する効果を有するが、これを除去することにより、導電性高分子間の電荷輸送が促進され、チオフェン重合体の厚み方向の電気抵抗をより低くすることができる。この結果、より高い速度で水素を製造することができる。
チオフェン重合体を得る方法の例としては、気相重合、電解重合、化学酸化重合などが知られている(高分子学会編、高分子の合成・反応(2)縮合系高分子の合成 新高分子実験学3、共立出版株式会社、1996年)。それらのなかで、本発明者らが開発してきたヨウ素気相重合があり、他の重合法と比較して、(1)金属触媒を用いず残存もない、(2)簡易な重合容器、(3)容易な精製工程、および(4)大スケール化が容易、等の優位性がある(須賀、西出「EDOTの気相重合」、PEDOTの材料物性とデバイス応用 2.6節、S&T出版, 東京(2012)と非特許文献8)酸化重合反応である。
本発明の水素の製造方法においては、チオフェン重合体を得るための酸化重合反応としては、蒸気として用いることができる酸化剤を用いた酸化重合反応が好ましく、上記した理由から、ヨウ素蒸気を用いた酸化重合反応が好ましい。
本発明の水素の製造方法においては、上記したようにホール輸送薄層が、光吸収水還元触媒層と導電性基板の間に存在することが好ましい。これにより、チオフェン重合体層からのホールの抜き取り速度が加速され、その結果、水素の製造速度がさらに上昇する。
導電性基板上に塗布されるホール輸送薄層を形成する化合物の例としては、PSS(ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))、ヨウ化銅(I)、チオシアン酸銅(I)、酸化銅(I)、酸化タングステン(VI)、五酸化バナジウム(V)、酸化ニッケル(II)が挙げられる。これらの化合物の1種を、または2種以上混合して用いることができる。ホール輸送薄層はエネルギー準位がチオフェン重合体のHOMO準位よりも高いことがチオフェン重合体からのホールの抜き取りの促進の観点から好ましい。また、その厚みは1~100nm、望ましくは1~10nm程度であることが導電性基板へのホール輸送の観点から好ましい。また、チオフェン重合体を得る際にチオフェン類と添加分子を溶解する有機溶媒に不溶であることが好ましい。
また、本発明の水素の製造方法においては、光吸収水還元触媒層を形成させる基板として導電性基板が用いられる。導電性基板の例としては、グラッシーカーボン、カーボンペーパー、導電性ガラス(例えばITO(酸化インジウムスズ)で表面被覆された透明ガラス)、導電性透明プラスチックフィルム(例えば導電性のPSS(ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))で表面被覆されたポリエチレンテレフタレートフィルム)が挙げられる。
本発明の水素の製造方法における水・酸化触媒の例としては、酸化マンガン、イリジウム、酸化イリジウムおよび酸化ルテニウム、ニッケル/コバルト/鉄が挙げられる。代表例の酸化マンガンは、例えば、酢酸マンガンのイオン液体中での電解酸化により作製される(Zhou, F., et al, Advanced Energy Materials 2, 1013-1021, (2012))。
本発明の水素の製造方法における水素の製造の際の反応液としては、水酸化イオン含有水が用いられる。水酸化イオン含有水のpHは、光吸収水還元触媒層と水・酸化触媒の反応効率の観点から、中性ないしアルカリ性であり、好ましくはpH8以上、より好ましくはpH11以上であり、さらに好ましくはpH11.5~pH12.5である。水酸化イオン含有水の例としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液およびリン酸緩衝液が挙げられる。
本発明の水素の製造方法における水素の製造の際に照射する光としては、紫外光、または可視光が使用される。光照射する光源としては、紫外ないし可視光を供するものであればいずれでもよく、太陽光が経費および効率の上で最も有効であり、疑似太陽光も使用できる。
本発明の水素の製造方法には、光吸収水還元触媒層を形成した導電性基板と水・酸化触媒を組み合わせた装置が用いられる。例えば、図5に示すように、光吸収水還元触媒層を形成した導電性基板と、水・酸化触媒層を形成した別の導電性基板を導線で連結して、水酸化イオン含有水に浸漬し、光照射により水素を製造する装置、または、図2に示すように、導電性基板に対して、チオフェン重合体からなる光吸収水還元触媒層をホール輸送薄層が塗布された面上に、水酸化触媒層を他面上に形成して成る基板を、水酸化イオン含有水に浸漬し、光照射により水素を製造する装置が用いられる。後者が装置構成の簡便さの観点から好ましい。
2.光吸収水還元触媒基板の作製方法
本発明のもう1つの実施形態は、光吸収水還元触媒基板の作製方法である。
より具体的には、前記「1.水素の製造方法」で説明した、チオフェン類を添加分子とともに導電性基板上で共存させ、これを重合することによって、前記チオフェン重合体からなる光吸収水還元触媒層を形成する工程を含む、光吸収水還元触媒基板の作製方法である。それぞれの使用される材料は「1.水素の製造方法」と同様の材料が使用される。以下に順を追って本発明の光吸収水還元触媒基板の作製方法について詳細に説明する。
まず、光吸収水還元触媒基板の作製方法の最初に、任意の工程として、導電性基板上にホール輸送薄層を形成する工程が含まれる。この工程により、導電性基板と後の工程で形成される光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられる。この工程を含むことにより、チオフェン重合体層からのホールの抜き取り速度が加速され、得られた光吸収水還元触媒基板はさらに高い触媒性能を有する。
続いて、チオフェン類を添加分子とともに共存させ、導電性基板上に塗布し、酸化重合反応させることによりチオフェン重合体からなる光吸収水還元触媒層を形成する工程が含まれる。上記のように光吸収水還元触媒層を形成することにより、電子が移動する上方向(表面方向)、ホールが移動する下方向(導電性基板の方向)の厚み方向に均質緻密で欠損や境界面がない、厚み方向の電気抵抗が低い、新規なチオフェン重合体層を得ることができる。
本工程においてチオフェン類と添加分子は、有機溶媒に溶解した状態で塗布される。このような有機溶媒としてはクロロベンゼン、アニソール、1,4-ジオキサンなどが挙げられる。また、酸化重合反応としては、蒸気として用いることができる酸化剤を用いた酸化重合反応が好ましく、ヨウ素蒸気による酸化重合反応が用いられることが前記した理由からより好ましい。
光吸収水還元触媒層を形成する工程に続いて、任意の工程としてさらに前記添加分子を洗浄・除去する工程が含まれる。先の酸化重合反応において、添加分子はチオフェン類との反応性が低いため形成されるチオフェン重合体の高分子中に重合など取り込まれておらず、この工程において、有機溶媒により溶解され除去される。
前記したように添加分子がチオフェン重合体の層に残存すると電荷輸送を抑制する効果を有するが、これを除去することにより、さらに導電性高分子間の電荷輸送が促進され、チオフェン重合体の厚み方向の抵抗をより低くすることができる。この洗浄・除去する工程により、添加分子は実質的に完全に除去されることが好ましい。
本発明の光吸収水還元触媒基板の作製方法は、さらに具体的には、前記「1.水素の製造方法」および下記実施例に記載した方法で実施することができる。
3.光吸収水還元-水・酸化基板
本発明のもう1つの実施形態は、水素の製造のための光吸収水還元-水・酸化基板である。
より具体的には、前記した作製方法で作製した光吸収水還元触媒層を導電性基板面上に、水・酸化触媒層を他面上に構成される水素の製造のための光吸収水還元-水酸化基板である。光吸収水還元触媒層と導電性基板の間にホール輸送薄層が設けられていることが、水素の製造速度をさらに上昇させるという観点から好ましい。
このような光吸収水還元-水・酸化基板とすることにより、装置構成を簡便にできるという効果を得ることができる。
本発明の光吸収水還元-水・酸化基板に使用される導電性基板の種類、光吸収水還元触媒層の作製方法等、水・酸化触媒層の作製方法等、水素製造用の基板の作製方法等、および、これらを用いて水素を製造する方法等については、前記「1.水素の製造方法」、「2.光吸収水還元触媒基板の作製方法」で詳細に説明した。また、下記実施例で実際に実施した例を記載した。
本発明の光吸収水還元-水・酸化基板は、前記「1.水素の製造方法」、「2.光吸収水還元触媒基板の作製方法」および下記実施例の記載に基づいて、水素製造のための基板を作製し、水素の製造に使用することができる。
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。ここに記述される実施例は本発明の実施形態を例示するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
<チオフェン重合体としてポリ(ターチオフェン)を、導電性基板としてグラッシーカーボンを使用した水素の製造>
グラッシーカーボン基板上に、ターチオフェンと添加分子として1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンを塗布し、これをヨウ素蒸気に曝し、これを重合(下記で詳細に記載する。)し、のちに添加分子等を洗浄・除去することによって、光吸収水還元触媒層として形成した基板を、グラッシーカーボン基板上に水・酸化触媒層を形成した別の基板と導線で連結し、水酸化イオン含有水に浸漬し、光照射により水素を製造した(実施例1)。また、比較例1として、添加分子を使用せず、そして、添加分子の洗浄・除去の工程を含まない以外は同様の方法で光吸収水還元触媒層を作製し、同様に光照射により水素を製造した。以下に詳細に説明する。
(1)グラッシーカーボン基板上でのターチオフェンのヨウ素蒸気による重合
図3に示すように、ターチオフェン 100mg、1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼン 50mgをクロロベンゼン 15mLに溶解させ、同溶液3mLを、グラッシーカーボン基板(ALLIANCE Biosystems Inc.製)10cm角にドロップキャストした(添加分子の比率:33質量%)。これをベルジャー内に設置、同じく別シャーレ上に置いたヨウ素 0.5gとともに密閉して70℃、2時間加熱した。基板を取り出しホットプレート(70℃)に静置した後、基板のポリ(ターチオフェン)塗布面をクロロベンゼン 200mLで添加分子を洗浄・除去しポリ(ターチオフェン)の層を形成した。
得られた実施例1のチオフェン重合体層の紫外可視赤外吸収は、300~600nmの光波長域に強い吸収帯をもった。近赤外域での吸収は無く、ヨウ素などによってドープされていない純粋なチオフェン重合体であることを示した。MALDI-TOF質量分析法では、最大分子量約2,000の高分子量体であり、主な成分の分子量は987、重合度は4であった。ラマン分光測定(励起波長532nmおよび785nm)では、1219cm-1に強い吸収があり、直鎖状高分子の生成が支持された。汎用多機能X線回折装置(RINT-Ultima III型、株式会社リガク製)による測定(斜入射平行法での4°からの測定)では、結晶域を含む高分子の生成が示された。
図4は酸化重合によって作製したチオフェン重合体の断面SEM像であり、両矢印はチオフェン重合体層を示す。実施例1のチオフェン重合体層は、断面走査電子顕微鏡(SEM)観察から得られた像(図4(a))により、SEM上では、従来より大きな均質緻密な、幅で20~50nmで縦30~100nmの高分子の粒塊が密に詰まった新規なチオフェン重合体であることが示された。チオフェン重合体層への光照射で電子が移動する上方向、ホールが移動する下方向の縦方向に均質緻密で欠損や境界面がない構造が観察された。このことは、光電荷分離と電荷輸送の効率が高いことを裏付けている。一方、比較例1のチオフェン重合体層では、幅及び縦10~30nmの高分子の粒塊が観察され、また、これらの粒塊は密に詰まっておらず、欠損や境界面が多い構造が観察された(図4(b))。なお、実施例1のチオフェン重合体層の構造は、従来の他の重合法で作製されたチオフェン重合体層、図4(c)に示す鉄触媒による重合により作製された小粒塊の析出物で粒塊界面が多く存在するチオフェン重合体層や、図4(d)に示す電解重合により作製された多孔体のチオフェン重合体層と大きく異なっている。
また、インピーダンス測定による実施例1のチオフェン重合体層の厚み方向の電気抵抗は、5Ωであった。一方、比較例1のチオフェン重合体層の電気抵抗は280Ωであった。チオフェン重合体層の膜厚は、実施例1で35nmであり、比較例1で50nmであった。
0.1M過塩素酸テトラブチルアンモニウムのアセトニトリル溶液を電解液として、チオフェン重合層のサイクリックボルタモグラム(掃引速度 50mV/s)から、最高被占軌道(HOMO)の準位を-5.4eVと算出した。さらに紫外吸収スペクトルより算出したバンドギャップ(2.1eV)から最低空軌道(LUMO)の準位を-3.3eVと算出した。
(2)グラッシーカーボン基板への酸化マンガン層の形成
酸化マンガン層は、公知の文献(Zhou, F., et al., Advanced Energy Materials 2, 1013-1021, doi:10.1002/aenm.201100783 (2012))に記載されている手順に従って作製した。200 mLのエチルアミンを4Mの希硝酸で中和し、続いて70℃で2時間、ロータリーエバポレーターを用いて減圧下で水を除去することによって、硝酸エチルアンモニウムを調製した。1:9の水:硝酸エチルアンモニウム混合液100mLに0.2gの酢酸マンガンを溶解し、電解液を調製した。0.25mLの4Mの希硝酸を添加して酸性とした。10cm角のグラッシーカーボン基板を電解液中に設置し、白金を対極として、200μA/cm2の定電流密度で5分間、120℃で通電した。グラッシーカーボン基板に堆積した酸化マンガン層を、蒸留水で十分洗浄した。
(3)光照射による水素の製造
前記ターチオフェンのヨウ素蒸気による重合によって得られたチオフェン重合体を用い、該チオフェン重合体の薄層で被覆されたグラッシーカーボン10cm角基板と酸化マンガン層で被覆されたグラッシーカーボン10cm角基板を、図5の各槽(幅12cm、深さ3cm、奥行0.3cm(各内寸))に別々に設置し、両者を銅線でつなぎ、該チオフェン重合体の薄層で被覆されたグラッシーカーボン基板を照射面として30mLのpH12の水酸化ナトリウム水溶液で満たし、光照射(疑似太陽光、放射照度量として1000W/m2、朝日分光株式会社製)することにより水素を製造した。
製造した水素の量は、ガスクロマトグラフィーによって定量した。
光照射開始から2、5、10時間後に、水素ガス約2.0、3.8、7.9mLが生成した。この結果を、触媒g当たりでモル換算すると12水素mmol/触媒g・時間であった。一方、添加分子を使用せずに重合した比較例1では、光照射開始から10時間後においても水素は製造されず、触媒g当たりでモル換算した結果は0水素mmol/触媒g・時間であった。
なお、光照射に加えて、図5の銅線を介して1.23Vの電圧を印加して水素を製造した場合、光照射開始から10時間後に、水素ガス約2.2Lを得た(触媒当たりでモル換算すると1水素mol/触媒g・時間)。これは、ほぼ同条件(多くは印加電圧1~3V)における無機半導体を用いた類似法での公知の値(10水素mmol/触媒g・時間以下)を約2桁大きく上回り、本発明の作製方法で作製された光吸収水還元触媒層の高い性能を示している。
また、光照射のみ、または電圧を印加した場合の両者において、一か月作動しても光吸収水還元触媒層の性能は低下しなかった。
<添加分子としてp-ターフェニルを使用した水素の製造>
グラッシーカーボン基板10cm角の片面上に、水・酸化触媒層として電解酸化法により酸化マンガンの薄層を形成した。この基板の反対面上に、ターチオフェン150mgと添加分子としてp-ターフェニル50mgをクロロベンゼン20mLに溶解した溶液を塗布し(添加分子の比率:25質量%)、これをヨウ素蒸気に曝し、これを重合し、その後、添加分子等を洗浄・除去することによって、ポリ(ターチオフェン)の層を形成した。ヨウ素蒸気による重合法などは実施例1に従って実施した。インピーダンス測定によるチオフェン重合体層の厚み方向の電気抵抗は、7Ωであった。また、チオフェン重合体層の膜厚は、40nmであった。
得られた基板を水酸化イオン含有水に浸漬し、光照射により水素を製造した。実施例1と同様の反応条件で水素を製造したところ、2、5、10時間後に、水素ガス約1.4、3.1、5.9mLが生成した。この結果を、触媒g当たりでモル換算すると10水素mmol/触媒g・時間)であった。
<ホール輸送薄層としてPEDOT/PSSを被覆した導電性基板を使用した水素の製造>
実施例2で示した水素の製造方法において、さらに導電性基板と光吸収水還元触媒層の間にホール輸送薄層を設け、同様に水素の製造を行った。以下に詳細を示す。
導電性のPSS(ポリ(4-スチレンスルホン酸)をドープしたPEDOT(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン))(以下、PEDOT/PSSと略する)で表面被覆されたグラッシーカーボン基板は以下のように作製した。
PEDOT/PSS水分散液(Aldrich-Sigma Inc.、製品コード:483095)をグラッシーカーボン基板10cm角上にスピンコート成膜(1000rpm、60sec)し、120℃で15分間加熱乾燥することでPEDOT/PSSを被覆した。PEDOT/PSS被覆板を耐酸性テープで固定し、硫酸(純正化学株式会社、製品コード:83010-2550)に常温で1分間浸漬させた。超純水で2回洗浄後、90℃で10分間加熱乾燥し、酸処理した。この基板の表面抵抗を測定したところシート抵抗、層厚、導電率はそれぞれ89Ω/sq、60nm、1048S/cmになった。
グラッシーカーボン基板の片面上に、水・酸化触媒層として電解酸化法により酸化マンガンの薄層を形成した。この基板の反対面上に、前記ホール輸送薄層を作製、ターチオフェン150mgと添加分子としてp-ターフェニル50mgをクロロベンゼン20mLに溶解した溶液を塗布し(添加分子の比率:25質量%)、これをヨウ素蒸気に曝し、これを重合し、その後、添加分子等を洗浄・除去することによって、ポリ(ターチオフェン)の層を形成した。ヨウ素蒸気による重合法などは実施例1に従って実施した。インピーダンス測定によるチオフェン重合体層の厚み方向の電気抵抗は、7Ωであった。また、チオフェン重合体層の膜厚は、40nmであった。
得られた基板を水酸化イオン含有水に浸漬し、光照射により水素を製造した。実施例1と同様の反応条件で水素を製造したところ、光照射開始から2、5、10時間後に、水素ガス約3.9、9.4、18.9mLが生成した。この結果を、触媒g当たりでモル換算すると95水素mmol/触媒g・時間であり、ホール輸送薄層を設けない実施例2の結果(10水素mmol/触媒g・時間)を約1桁大きく上回った。この結果により、導電性基板と光吸収水還元触媒層の間にホール輸送薄層を設けることにより、水素の製造速度がさらに上昇することが確認された。
<チオフェン重合体としてポリ(1,4-ジ(2-チエニル)ナフタレン)を使用した水素の製造>
実施例3と同様にグラッシーカーボン基板10cm角の片面上に、水・酸化触媒層として電解酸化法により酸化マンガンの薄層を形成した。この基板の反対面上に、チオフェンとナフタレンの3量体(1,4-ジ(2-チエニル)ナフタレン)150mgと添加分子としてp-ターフェニル50mgをクロロベンゼン20mLに溶解した溶液を塗布し(添加分子の比率:25質量%)、これをヨウ素蒸気に曝し、これを重合し、その後、添加分子等をクロロベンゼンにより洗浄・除去することによって、ポリ(1,4-ジ(2-チエニル)ナフタレン)の層を形成した。インピーダンス測定によるチオフェン重合体層の厚み方向の電気抵抗は、7Ωであった。また、チオフェン重合体層の膜厚は、40nmであった。
実施例1と同様の条件で水素を製造したところ、光照射開始から18時間後に水素ガス約3.0mLを得た。この結果を、触媒g当たりでモル換算すると8水素mmol/触媒g・時間であった。
ターチオフェンと1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼン(添加分子)をクロロベンゼンに溶解させる際の添加分子の比率を25質量%(実施例5a)と50質量%(実施例5b)に変化させてチオフェン重合体を重合した以外は実施例1と同様の条件でポリ(ターチオフェン)の層を形成した。インピーダンス測定によるチオフェン重合体層の厚み方向の電気抵抗は、実施例5aで4Ω、実施例5bで9Ωであった。また、チオフェン重合体層の膜厚は、実施例5aで45nm、実施例5bで50nmであった。
実施例1と同様の装置構成と条件で水素を製造したところ、光照射開始から10時間後に、実施例5aでは水素ガス約4.8mLを、実施例5bでは約4.0mLを得た。この結果を、触媒g当たりでモル換算すると実施例5aでは9水素mmol/触媒g・時間、実施例5bでは7水素mmol/触媒g・時間であった。これらの結果を実施例1と比較例1の結果と共に表1に示す。
Figure 0007549860000001
実験の結果、チオフェン重合体の酸化重合反応の際に共存させる添加分子の比率を変化させることにより、水素の製造速度が変化することが観察された。このことは添加分子の比率を最適化することにより、チオフェン重合体の構造を最適化し、水素の製造速度を上昇させることができることを示唆している。
全実施例で水素の発生速度を、触媒g当り、単位時間で発生する水素モル数で換算し、同じ条件下での公知方法(比較例1)と比較した表を示す。
Figure 0007549860000002
以上の結果より、本発明による水素の製造法は、次に列記する特徴を有する。
(1)水素の製造速度が十分に大きい( 類似法での公知の値を2桁以上上回る)。これはL
UMO準位が水を還元して水素を生成するに対して充分に高く、強い駆動力を有することに
合わせ、チオフェン類を添加分子と共存させた酸化重合により作製されることにより厚み方向の電気抵抗が低いという特性を有することによる。この効果はホール輸送薄層を塗布した導電性基板の使用によりさらに大きくなる。
(2)光吸収水還元触媒層を形成した導電性基板と水・酸化触媒層を形成した導電性基板
を導線で連結してなる(図5)、または光吸収水還元触媒と水・酸化触媒層とで導電性基
板を挟んでなる(図2)、これらを水中に設置して成る光照射下での簡便な反応槽を可能に
している。
なお、本開示においては以下の態様も含まれている。
(態様1)
チオフェン類と、
ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、トリフェニル、p-セキシフェニル、1,3,5-
トリフェニルベンゼン、1,3,5-トリス(4-ビフェニリル)ベンゼン、1,3,5-トリ(p-ト
リル)ベンゼン、ヘントリアコンタン、ピペリン、ジギトキシン、p-ターフェニル、及び
1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンから選択される添加分子とを、
前記チオフェン類と前記添加分子の合計を100質量%としたとき、前記添加分子が5~70質量%割合で共存させ、導電性基板上で酸化重合反応させてチオフェン重合体の層を得、
前記添加分子を前記チオフェン重合体の層から有機溶媒等により洗浄・除去することによ
って得られたチオフェン重合体からなる光吸収および水還元触媒層(以下、光吸収水還元
触媒層と記載する。)と、
水酸化イオン含有水の酸化触媒(以下、「水・酸化触媒」と記載する。)とを組み合わ
せて、
これらを水酸化イオン含有水に浸漬し、前記光吸収水還元触媒層に光照射することを含
むことを特徴とする水素の製造方法。
(態様2)
前記導電性基板と前記光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられている
ことを特徴とする、態様1に記載の水素の製造方法。
(態様3)
前記導電性基板に対して、前記光吸収水還元触媒層を片面上に、前記水・酸化触媒を他
面上に形成した光吸収水還元-水酸化基板が用いられることを特徴とする態様1または
2に記載の水素の製造方法。
(態様4)
チオフェン類と、
ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、トリフェニル、p-セキシフェニル、1,3,5-
トリフェニルベンゼン、1,3,5-トリス(4-ビフェニリル)ベンゼン、1,3,5-トリ(p-ト
リル)ベンゼン、ヘントリアコンタン、ピペリン、ジギトキシン、p-ターフェニル、及び
1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンから選択される添加分子とを、
前記チオフェン類と添加分子の合計を100質量%としたとき、添加分子が5~70質量%割合で共存させ、酸化重合反応により導電性基板上にチオフェン重合体の層を得、前記添加
分子を前記チオフェン重合体の層から有機溶媒等により洗浄・除去して光吸収水還元触媒
層を形成する工程を含むことを特徴とする光吸収水還元触媒基板の作製方法。
(態様5)
前記光吸収水還元触媒層を形成する工程に続いて、さらに前記添加分子を洗浄・除去す
る工程を含み、
前記添加分子は、前記チオフェン重合体に取り込まれず、除去されることを特徴とする
態様4に記載の光吸収水還元触媒基板の作製方法。
(態様6)
前記酸化重合反応が、ヨウ素蒸気による酸化重合反応であることを特徴とする態様4
または5に記載の光吸収水還元触媒基板の作製方法。
(態様7)
さらに前記光吸収水還元触媒層を形成する工程の前に、前記導電性基板上にホール輸送
薄層を設ける工程を含み、
前記導電性基板と前記光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられること
を特徴とする態様4~6のいずれか1項に記載の光吸収水還元触媒基板の作製方法。
(態様8)
導電性基板に対して、光吸収水還元触媒層を片面上に、水・酸化触媒層を他面上に構成
される水素発生用基板において、
前記光吸収水還元触媒層は、
チオフェン類と、
ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、トリフェニル、p-セキシフェニル、1,3,5-
トリフェニルベンゼン、1,3,5-トリス(4-ビフェニリル)ベンゼン、1,3,5-トリ(p-ト
リル)ベンゼン、ヘントリアコンタン、ピペリン、ジギトキシン、p-ターフェニル、及び
1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンから選択される添加分子とを、
前記チオフェン類と添加分子の合計を100質量%としたとき、添加分子が5~70質量%割合で共存させ、前記導電性基板上で酸化重合反応させることによってチオフェン重合体の層を形成し、前記添加分子を前記チオフェン重合体の層から有機溶媒等により洗浄・除去
したことを特徴とする水素発生用基板。
(態様9)
光吸収水還元触媒層を形成した第一の導電性基板と水・酸化触媒層を形成した第二の導
電性基板を電気的に接続した水素発生用基板であって、
前記光吸収水還元触媒層は、チオフェン類と、
ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、トリフェニル、p-セキシフェニル、1,3,5-
トリフェニルベンゼン、1,3,5-トリス(4-ビフェニリル)ベンゼン、1,3,5-トリ(p-ト
リル)ベンゼン、ヘントリアコンタン、ピペリン、ジギトキシン、p-ターフェニル、及び
1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンから選択される添加分子とを、
前記チオフェン類と添加分子の合計を100質量%としたとき、添加分子が5~70質量%割合で共存させ、第一の導電性基板上で酸化重合反応させることによってチオフェン重合体の層を得、前記添加分子を前記チオフェン重合体の層から有機溶媒等により洗浄・除去す
ることによって形成されたことを特徴とする水素発生用基板。
(態様10)
態様9に記載の水素発生用基板を水酸化イオン含有水に浸漬した水素発生装置。

Claims (7)

  1. チオフェン類と、
    p-ターフェニルまたは1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンのいずれかから選択される添加分子とを、
    前記チオフェン類と前記添加分子の合計を100質量%としたとき、前記添加分子が5~70質量%割合で共存させ、導電性基板上で酸化重合反応させてチオフェン重合体の層を得、前記添加分子を前記チオフェン重合体の層から有機溶媒等により洗浄・除去することによって得られたチオフェン重合体からなる光吸収および水還元触媒層(以下、光吸収水還元触媒層と記載する。)と、
    水酸化イオン含有水の酸化触媒(以下、「水・酸化触媒」と記載する。)とを組み合わせて、
    これらを水酸化イオン含有水に浸漬し、前記光吸収水還元触媒層に光照射することを含むことを特徴とする水素の製造方法。
  2. 前記導電性基板と前記光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の水素の製造方法。
  3. 前記導電性基板に対して、前記光吸収水還元触媒層を片面上に、前記水・酸化触媒を他面上に形成した光吸収水還元-水酸化基板が用いられることを特徴とする請求項1または2に記載の水素の製造方法。
  4. チオフェン類と、
    p-ターフェニルまたは1,4-ジ(2-チエニル)ベンゼンのいずれかから選択される添加分子とを、
    前記チオフェン類と添加分子の合計を100質量%としたとき、添加分子が5~70質量%割合で共存させ、酸化重合反応により導電性基板上にチオフェン重合体の層を得、前記添加分子を前記チオフェン重合体の層から有機溶媒等により洗浄・除去して光吸収水還元触媒層を形成する工程を含むことを特徴とする光吸収水還元触媒基板の作製方法。
  5. 前記光吸収水還元触媒層を形成する工程に続いて、さらに前記添加分子を洗浄・除去する工程を含み、
    前記添加分子は、前記チオフェン重合体に取り込まれず、除去されることを特徴とする請求項4に記載の光吸収水還元触媒基板の作製方法。
  6. 前記酸化重合反応が、ヨウ素蒸気による酸化重合反応であることを特徴とする請求項4または5に記載の光吸収水還元触媒基板の作製方法。
  7. さらに前記光吸収水還元触媒層を形成する工程の前に、前記導電性基板上にホール輸送薄層を設ける工程を含み、
    前記導電性基板と前記光吸収水還元触媒層との間に、ホール輸送薄層が設けられることを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の光吸収水還元触媒基板の作製方法。
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