JP7527215B2 - 船舶 - Google Patents

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Description

本発明は船舶に関する。
船舶は6自由度を有する輸送機器であるため、航行中にピッチング(前後揺れ)、ローリング(横揺れ)、ヨーイング(左右揺れ)、サージング(前後動)、スウェイング(左右動)、ヒービング(上下動)と呼ばれる振動を生じる。特に船舶が船長方向前後に傾くように揺動する縦揺れであるピッチングが生じると、船首付近の船底が上昇して水面上に露出し、その後に自重で水中に没する際に船底が水面に衝突するスラミングと呼ばれる現象が生じる場合がある。
また船体にはピッチング振動が最も大きくなる固有周期があるが、船首が波と衝突する周期である波の出会い周期と船体の固有周期が一致する固有振動では振動の振幅が最も大きくなり、特に荒天下ではスラミングによる船体への衝撃力が大きくなる。衝撃力の大きさによってはスラミングで船底が損傷する可能性もあるため、スラミングによる損傷を防止する構造が求められている。
特許文献1にはスラミングによる船底の損傷防止を目的として、断面がV字形状で先の尖った第1船首の後方に、断面がV字形状で船体外板の幅が第1船首よりも狭い第2船首を設け、船首バウの下端をキールよりも下方に突出させた船舶が記載されている。
この構造では船首の断面をV字形状にして船底の船幅方向の幅を細くし、スラミングの際に船底が水面を切るように着水することで衝撃を緩和できるとしている。
一方で特許文献1の構造では船首の断面をV字形状にしたとしても船首バウを設けるために船首船底に一定の体積を確保する必要がある。そのため、船底の幅を細くするのに限界があり、スラミングによる衝撃を緩和するにも限界がある。また、スラミングによる衝撃を緩和するためにキールライン付近の体積を小さくして船底を細くすると、船首バウの体積が小さくなるため、船首バウによる造波抵抗の軽減効果が弱くなり、推進性能が悪化する。そのため特許文献1の構造は推進性能の向上効果とスラミングによる衝撃の緩和効果とが二律背反する関係にあり、この2つの効果を両立し難い問題があった。さらに特許文献1の構造は断面形状の異なる2種の船首が必要であり、工作性が悪いという問題があった。
特許文献2は船首端を垂直ステムとした船舶において、船尾側から船首側に向けて船底が深くなるように傾斜させることで、ピッチング振動が生じても船首付近の船底が水面上に露出し難いようにしてスラミングの発生を防いだ構造を開示している。
この構造ではフルード数が大きい高速船でもピッチング振動によるスラミングを発生し難くできるが、船底が水平な部分がないため、工作性が悪いという問題があった。
さらに船尾側から船首側に向けて船底が深くなるように傾斜させると船体の水中側面積が増大するため、旋回性能が悪化する問題があった。
特開2005-41435号公報 特表2009-541138号公報
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、推進性能を向上させつつ、旋回性能及び工作性を損なうことなく、かつピッチング振動を生じた場合にスラミングによる被害を最小限に抑えられる船舶を提供することを目的とする。
本発明の船舶は、船首端の形状が側面視で船底から暴露甲板まで鉛直線となる垂直ステム形状である船体を備えた船舶であって、前記船体の船首端から船尾側に向けて船長方向に所定の長さの範囲に設けられ、船体中心線に沿ってキールラインから下方に突出した船底張出部を船底に有し、前記所定の長さの範囲は、航行中に前記船体の固有周期でピッチング振動が生じた際に前記船底張出部の上方のキールラインが水面上に露出する確率が予め定められた所定値以上の範囲であり、前記船底張出部のキールラインからの鉛直方向の突出深さは、航行中のピッチング振動の周期が前記船体の固有周期である場合に前記船底張出部の底面が水面上から露出する確率が予め定められた所定の値以下となる深さであることを特徴とする。
この構成では、船首端を垂直ステム形状として垂線間長Lppと型幅Bの比であるL/Bを大きくすることで推進性能を向上させる。また固有周期でピッチング振動が生じた際にキールラインが水面上に露出する確率が予め定められた所定の値以上になる範囲に船底張出部を設ける。船底張出部の鉛直方向深さは、固有周期でピッチング振動が生じた際に船底張出部の底面が水面上に露出する確率が予め定められた所定の値以下となる深さとする。これにより、ピッチング振動の際にキールラインが水面上に露出しても船底張出部の底面が水面上に露出しない限りはスラミングが生じない。よって船底張出部を設けた部分でスラミングが生じる確率を下げられる。また船底張出部を設けるのは固有周期でピッチング振動が生じた際にキールラインが水面上に露出する可能性がある船首部のみなので、船底張出部を設けない部分の船形は既存の船舶と同様の形状にできる。よって船底張出部を設けることによる船体の水中側面積の増大を最小限にでき、旋回性能を損なうこともなく、工作性を損なうこともない。
本発明によれば、推進性能を向上させつつ、旋回性能及び工作性を損なうことなく、かつピッチング振動を生じた場合にスラミングによる被害を最小限に抑えられる船舶を提供できる。
本実施形態に係る船舶の概要を示す側面図である。 図1の船首付近の拡大図であって、(a)はピッチング振動が生じていない場合を示し、(b)はピッチング振動が生じて船首側が上方に持ち上げられている状態を示す。 図1の船首付近の拡大図である。 図3の断面A~Dの正面断面図及び正面図を示す正面線図である。 図3の断面Cにおけるサイドスラスターの配置を示す図であって、(a)は船底張出部がある場合、(b)は船底張出部がない場合を示す。 図3の断面1~3及びベースラインB.L.における平面断面を示す平面線図である。
以下、図面に基づき本発明に好適な実施形態を詳細に説明する。まず図1を参照して本実施形態に係る船舶100の概略構成を説明する。
図1に示す船舶100は船体4、舵7、及びプロペラ9を備える。
船体4は船舶100の船殻となる構造体であり、船底3a、側壁3b、及び暴露甲板17で船内を囲むように構成される。具体的な船殻構造、あるいは水密隔壁の配置等は船舶100の用途に応じて適宜設計される。なお、船舶100の暴露甲板17上には船舶100の操船や推進に必要な図示しない上部構造物が設置されるが、上部構造物の設置位置や種類は船舶100の用途によって異なるため、記載と説明を省略する。
舵7は船舶100の針路を変更する際に鉛直方向を軸中心として回動する水中板である。プロペラ9は船長方向を軸中心に回転することで船舶100を船長方向に推進させる推進器である。図1では船舶100の操舵機構として舵7を例示し、推進機構としてプロペラ9を例示しているが、アジマススラスターのように操舵機構と推進機構の両方の機構を併せ持つ装置を舵7とプロペラ9の代わりに用いてもよい。
以上が船舶100の概略構成の説明である。
次に図1~6を参照して船舶100の船体4の構造の詳細を説明する。
図1に示すように船体4は、船首端21の形状が、側面視で船底3aから暴露甲板17まで鉛直線となる垂直ステム形状である。船首端21の形状を垂直ステム形状とすると、クリッパーステムのように船首端21の形状を船底3aから暴露甲板17に向けて斜め上方に突出するように傾斜した形状とする場合と比べて、全長Loaが同じ場合は船首端21における吃水の位置が前方寄りになる。そのため垂線間長Lppが長くなり、垂線間長Lppと船体4の型幅Bの比であるL/Bが大きくなる。L/Bは大きい方が、船体抵抗が小さく推進性能に優れる。
図2~図4に示すように船体4は、船首端21から船尾側に向けて船長方向に所定の長さL1の範囲に設けられ、船体中心線C.L.に沿ってキールラインから下方に突出した船底張出部5を船底3aに有する。
なお、図1~図4では、船底張出部5はベースラインB.L.から下方に突出した部分である。これは、船舶100は船首吃水と船尾吃水が同じであるため、船底3aが水平になり、キールラインがベースラインB.L.と一致するためである。よって以後の説明ではキールラインとベースラインB.L.を同じ位置を示すものとして扱う。ただし船首吃水と船尾吃水が異なるトリム船の場合はキールラインとベースラインB.L.が異なるため、船底張出部5はベースラインB.L.から下方に突出した部分ではなく、キールラインから下方に突出した部分である。
船底張出部5は航海中の船体4がピッチング振動を起こした際にスラミングの発生確率を下げる部材である。
スラミングはピッチング振動で船体4の船首側の底部が水面上に持ち上げられ、その後、自重で水中に没する際に水面に衝突する現象である。
よって、船体4の底部が水面上に露出しなければスラミングは生じないので、船体4は船首近傍の底部が水面上に露出し難い構造を採用している。具体的には船底張出部5をベースラインB.L.よりも下方に設けている。この構造では、ピッチング振動で船首近傍のベースラインB.L.が水面上に持ち上げられても、その下方の船底張出部5の底面5cが水面上に持ち上げられない限りは船体4の船首側の底部が水面上に露出しない。船体4の船首側の底部が水面上に露出しなければスラミングは生じないので、船底張出部5をベースラインB.L.よりも下方に設けることでスラミングが生じる確率を下げられる。
船底張出部5の船長方向長さL1は、少なくとも、航行中に船体4の固有周期でピッチング振動が生じた際に船底張出部5の上方のキールライン、ここではベースラインB.Lが水面上に露出する確率が予め定められた所定値以上の範囲である。所定値とは例えば10%であり、船舶100が航行する水域の波高や気象を考慮して適宜設定する。
固有周期とは、船体4が自由振動を行う際の振動の周期である。固有周期が波の出会い周期と一致すると船体4は固有周期でピッチング振動し、かつ振幅が最も大きくなるため、船底3aが最も高く持ち上げられる。
よって固有周期でピッチング振動が生じた場合でもキールラインが水面上に露出しない部分ではスラミングが生じないため、船底張出部5を設けてもスラミングの発生確率は変わらず、設置が無駄になる。また船底張出部5を設けた部分は吃水が深くなり、乾ドックに入渠する際に船底張出部5がドックに接触しやすくなる。さらに船底張出部5を設けた部分は船体4の水中側面積が増大するため、船舶100の旋回性能が悪化する原因となる。そのため、船底張出部5はスラミングが生じる可能性がある部分にのみ設ける。
このように、スラミングが生じる可能性がある部分にのみ船底張出部5を設けることで、スラミングが生じる可能性がない部分の船体形状は従来と同様にできる。そのため船底張出部5を設けることによる船体4の水中側面積の増大を最小限にでき、旋回性能を損なうこともない。またスラミングが生じる可能性がない部分の船体形状を従来と同様にできるため、建造の際の工作性を損なうことがない点も有利である。
図2(a)に示す船底張出部5のベースラインB.L.からの鉛直方向の突出深さH1は、ピッチング振動が生じて図2(b)に示すように、船首が持ち上げられた場合に船底張出部5の底面5cが水面上に露出する確率が所定の値以下となる深さである。
具体的には突出深さH1は、航行中のピッチング振動の周期が船体4の固有周期である場合に船底張出部5の底面5cが水面上に露出する確率が予め定められた所定の値以下となる深さである。ここでいう所定の値とは例えば10%であり、船舶100が航行する水域の波高や気象を考慮して適宜設定する。
固有周期が波の出会い周期と一致すると船体4は固有周期でピッチング振動し、ピッチング振動の振幅が最も大きくなるため、船底3aが最も高く持ち上げられる。よってピッチング振動の周期が固有周期の際に船底張出部5の底面5cが水面上に露出する確率が予め定められた所定の値以下となる深さとすれば、船底3aが最も高く持ち上げられた場合でも船底張出部5の底面5cは水面上に露出し難い。船底張出部5の底面5cが水面上に露出しなければ、その位置でのスラミングは生じないので、底面5cの露出確率を下げることで、スラミングが生じる確率を下げられる。
このように、船体4は船首端21の形状を垂直ステム形状とすることで推進性能を向上させるとともに、ピッチング振動の際に船体4の船底3aが水面上に持ち上げられる可能性がある部分に、持ち上げられる高さに応じた船底張出部5を設ける。そのため推進性能を向上させつつ、旋回性能及び工作性を損なうことなく、かつピッチング振動が生じた場合にスラミングによる被害を最小限に抑えられる。
また、船底張出部5を設けた部分は船体4の内部においてはボイドスペース、あるいは固定バラストや燃料が搭載されるスペースとなるため、船底張出部5を設けない場合と比べて排水量が増える。そのため、排水量が増えた分、船体4の方形係数Cb等の肥せき係数を下げる等して船体4を痩せた船形にし易い点も有利である。
なお、ピッチング振動が生じた際に船底張出部5が持ち上げられる高さは船体4の船長方向位置によって異なる。具体的にはピッチング振動は船長方向の中心位置付近を中心とした揺動であるため、船長方向において船首端21に近いほどピッチング振動が生じた際の船底張出部5が持ち上げられる高さが高くなり、船首端21から遠くなるほど低くなる。よって突出深さH1は一定でもよいが、必ずしも一定である必要はなく、船首側から船尾側に向けて浅くなるように傾斜してもよい。図2(a)では船底張出部5の船尾側の端部5aは、船首側から船尾側に向けて浅くなるように傾斜している。
このように船底張出部5を船首側から船尾側に向けて浅くすることで、船底張出部5を設けることにより吃水が深くなるのを最小限にできる。
なお、突出深さH1は深いほどスラミングが発生する確率が下がるが、船底張出部5の吃水が深くなり、乾ドックに入渠する際に船底張出部5が乾ドックに接触しやすくなったり、航行時や入港時に座礁しやすくなったりする。また突出深さH1が深くなるほど船体4の水中側面積が増大するため、船舶100の旋回性能が悪化する。そのため、突出深さH1の上限は入渠する乾ドックのサイズ、航行する水域の水深、停泊する港の水深、船舶100に求められる旋回性能等を考慮して決定する。
ただし、船底張出部5の吃水が深くなると、仮に船舶100が座礁した場合でも舵7やプロペラ9のような船尾側の推進機構よりも船底張出部5が先に水底に接触する。そのため、船底張出部5を設けない部分よりも船底張出部5の吃水が深いことは、座礁時に船尾側の推進機構を保護できる点では有用である。
図4及び図5(a)に示すように、船底張出部5の船幅方向の幅は、船底張出部5の上方のキールライン、ここではベースラインB.L.における船体4の幅W以下であるのが好ましい。
この構成では船底張出部5が船幅方向に膨出しないので、仮にスラミングが生じても、船底張出部5の両側面が水面を切るようにして着水する。そのため仮にスラミングが生じた場合でも船体4へのダメージを抑制できる。
なお、船底張出部5の船幅方向の幅は細い方が、スラミングが生じた場合でも船体4へのダメージを抑制する効果が増すが、細すぎると強度が下がる。そのため、スラミングが生じた場合の船体4へのダメージ抑制効果と、強度との兼ね合いで幅を決定する。
図4及び図5(a)に示すように船底張出部5は、キールライン、ここではベースラインB.L.よりも上方の船首部分と一体に形成され、ベースラインB.L.との接続部5bが折れ目なく連続した曲面形状であるのが好ましい。図5(a)ではベースラインB.L.よりも上方の船首部分は船底側に向けて先細りの形状であるため、船底張出部5も底面5cに向けて先細りの形状である。
このように接続部5bを折れ目なく連続した曲面形状とすることで、船底張出部5を設けても接続部5bで水流の向きや大きさが変化しないので、船底張出部5を設けても船体抵抗が増加し難い。
図2(a)に示す船底張出部5の船首側の端部31aは垂直ステム形状の船首端21の直下にあるため、側面視で鉛直線であり、船底3aに対して直角である。ただし完全な直角にすると、船底張出部5の底面5cと端部31aが交差する角部で水流の向きや大きさが変化して船体抵抗が大きくなる可能性があるため、図1~図3に示すように角部に多少のRをつけて角を丸くしてもよい。
一方で、船底張出部5の船尾側の端部31bは船底3aに対して直角ではなく、S字曲線であるのが好ましい。
具体的には、図2(a)に示すように船底張出部5の船長方向における船尾側の端部31bは、側面視で、船底張出部5が設けられていない船底3aとの接続部33が上に凸の曲線であるのが好ましい。船底張出部5の底面5cとの接続部35は下に凸の曲線であるのが好ましい。さらに2つの曲線の接続部34が変曲点となるS字曲線であるのが好ましい。
このように、船底張出部5の船長方向における船尾側の端部31bをS字曲線とすると、端部31bを船底3aに対して直角にして船底3aとの間に段差を生じる形状とする場合と比べて端部31bで水流が渦を発生し難くなる。そのため、船底張出部5を設けても船体抵抗が大きくなり難い。
図1~3に示すように船体4にはバウスラスター19が設けられてもよい。バウスラスター19は、方舷から逆舷に向かう水流を生成することで船体4に横力を加えて、船幅方向に船体4を移動させる推進機構である。
図2(a)に示すようにバウスラスター19はトンネル19a及びバウスラスタープロペラ19bを備える。トンネル19aは船体4の両舷を船幅方向にかつ水平方向に貫通する円筒状のダクトである。バウスラスタープロペラ19bはトンネル19a内に設けられた回転式のプロペラであり、トンネル19aの円筒の軸方向を軸中心として羽根が回転することで方舷から逆舷に向かう水流を生成する。
バウスラスター19は船首を移動させる推進機構であるため、図1~図3に示すように船首側に設けられる。より正確には船長方向における船体4の中心よりも船首端21側に設けられる。また、バウスラスター19は水中でないと水流を生成できないため、図1に示すように満載吃水線LWL(load water line)より下方に設けられる。
さらに、本実施形態ではバウスラスター19は図1~3に示すように船底張出部5の上方に設けるのが好ましい。理由は以下の通りである。
例えば図5(a)に示す船体4に右舷3dから左舷3cに向かう横力を発生させる場合、バウスラスター19は片舷である左舷3cから同図のF1の向きに水を吸い込み、吸い込んだ水を逆舷である右舷3dからF2の向きに吐出する。これにより、F1、F2の向きに流れる水流が生じて右舷3dから左舷3cに向かう横力が発生する。
一方で、右舷3dから吐出した水は左舷3c側で水を吸引しようとする力も受けるため、一部がC1の向きに示すように、左舷3c側に戻ろうとする。
この水が図5(b)に示すようにC2の向きに移動して左舷3c側に戻ってしまうと、左舷3cから吸い込んで右舷3dから吐出した水が、再び左舷3cから吸い込まれるループ状の水流を形成してしまい、横力が十分に発生しなくなる。この状態をショートサーキットとも呼ぶ。
ショートサーキットを避けるためには船底3aとバウスラスター19の鉛直方向距離を離して、C1の向きに移動する水流を船体4に衝突させて方舷に戻るのを阻止する必要がある。しかしながら、船底3aとバウスラスター19の鉛直方向距離を離しすぎるとバウスラスター19の高さが吃水線に近くなり、航行条件によっては水面上にバウスラスター19が露出して水を吸引できなくなる可能性がある。
そこで、本実施形態ではバウスラスター19を図1~3、及び図5(a)に示すように船底張出部5の上方に設けている。この場合、図5(b)に示すように船底張出部5を設けない場合と比べて、同じ高さにバウスラスター19を設けても、C1の向きに移動する水流が船底張出部5に衝突するため、水を吸い込んだ舷側に戻り難くなり、ショートサーキットを形成し難い。
よって、船底張出部5は、スラミングの発生確率を下げるだけでなく、バウスラスター19のショートサーキットの防止にも利用できる。
また、バウスラスター19を船底張出部5の上方に設ける場合、船底張出部5がない船舶に比べてバウスラスター19を下方に装備することができる。そのためバウスラスター19が水面から露出しない範囲で、より軽い航海状態、具体的にはバラストタンクに搭載するバラストの量が少ないバラスト状態を作ることが可能であり、空荷の状態で航走する際の燃費を向上させられる。この点についてより具体的に説明する。
通常の船舶は空荷の状態で航走する際、バラストタンク中のバラスト水を排出する等してできるだけ浅い吃水にした状態で航走することで船体抵抗を下げて燃料消費量を抑制する。しかしながらバウスラスター19を有する船舶の場合、吃水が浅すぎるとバウスラスター19が水面上に露出してしまい、露出部分が抵抗になり逆に燃料消費量が増えることがある。そのため、バウスラスター19を有する船舶は、空荷の状態で航走する場合でもバラストタンクに海水を注入し、バウスラスター19を水面下に没水させて航走することがあり、この場合は吃水を浅くできないので燃料消費量を十分に抑制できない場合がある。
一方で本実施形態に係る船舶100は船底張出部5がない船舶よりもバウスラスター19の設置位置を下方にできるため、バウスラスター19が水面上に露出しない範囲で吃水をより浅くできる。そのためバウスラスター19を水面下に沈めるためだけに船首バラストタンクに海水を注入する状況が生じる可能性が減り、空荷の状態で航走する際の燃費を向上させられる。
船体4の船形は船底張出部5を所望の位置に設けられるのであれば船舶100の用途に応じて適宜設定できる。例えば図6に示すように船首の平面形状は船首端21に向けた先細りの形状でよい。
ただし、船体4は図4に示すように、船長方向における船体4の中心よりも船首側の舷側の形状が正面視でV字型のフレーム形状であるのが好ましい。
船体4がV字型のフレーム形状であると、スラミングが生じた際に船底3aが水面を切るようにして着水するので、仮にスラミングが生じた場合でも船体4へのダメージを抑制できる。なお、V字型ではないフレーム形状としては、U字型がある。
なお、船体4が船首バウを有する形状の場合、船体4をV字型にすると船首バウの体積が小さくなり、船首バウを設けた効果が得難いため、船体4をV字型にし難い場合がある。ただし、本実施形態の船体4は船首バウを設けずに垂直ステム形状の船首端21と、船底張出部5の組み合わせで推進性能の向上効果とスラミングの発生確率の抑制効果を両立しているため、船体4をV字型にしやすい。なお、船体4の全体をV字型のフレーム形状にしてもよい。
以上が本実施形態に係る船舶100の船体4の構造の詳細な説明である。
このように本実施形態の船舶100は船首端21の形状が垂直ステム形状であり、船首端21から船尾側に向けて船長方向に所定の長さL1の範囲に設けられ、船体中心線に沿ってキールラインから下方に突出した船底張出部5を船底3aに有する。
この構成では、船首端21を垂直ステム形状として垂線間長Lppと型幅Bの比であるL/Bを大きくすることで推進性能を向上させる。また固有周期でピッチング振動が生じた際にキールラインが水面上に露出する可能性がある範囲に船底張出部5を設ける。さらに、船底張出部5の突出深さH1は、固有周期でピッチング振動が生じた際に底面5cが水面上に露出する確率が予め定められた所定の値以下となる深さとする。これにより、ピッチング振動の際にキールラインが水面上に露出しても船体4の底部が水面上に露出し難くなり、スラミングが生じる確率を下げられる。よって船底張出部5を設けた部分でスラミングが生じる確率を下げられる。また船底張出部5を設けるのは固有周期でピッチング振動が生じた際にキールラインが水面上に露出する可能性がある船首部のみなので、船底張出部5を設けない部分の船形は既存の船舶と同様に設計できる。そのため、船底張出部5を設けることによる船体4の水中側面積の増大を最小限にでき、旋回性能を損なうこともない。またスラミングが生じる可能性がない部分の船体形状を従来と同様にできるため、建造の際の工作性を損なうこともない。
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されない。当業者であれば、本発明の技術思想の範囲内において各種変形例及び改良例に想到するのは当然のことであり、これらも本発明に含まれる。
3a :船底
3b :側壁
3c :左舷
3d :右舷
4 :船体
5 :船底張出部
5a :端部
5b :接続部
5c :底面
7 :舵
9 :プロペラ
17 :暴露甲板
19 :バウスラスター
19a :トンネル
19b :バウスラスタープロペラ
21 :船首端
31a :端部
31b :端部
33、34、35 :接続部
100 :船舶

Claims (7)

  1. 船首端の形状が側面視で船底から暴露甲板まで鉛直線となる垂直ステム形状である船体を備えた船舶であって、
    前記船体の船首端から船尾側に向けて船長方向に所定の長さの範囲に設けられ、船体中心線に沿ってキールラインから下方に突出した船底張出部を船底に有し、
    前記所定の長さの範囲は、航行中に前記船体の固有周期でピッチング振動が生じた際に前記船底張出部の上方のキールラインが水面上に露出する確率が予め定められた所定値以上の範囲であり、
    前記船底張出部のキールラインからの鉛直方向の突出深さは、航行中のピッチング振動の周期が前記船体の固有周期である場合に前記船底張出部の底面が水面上から露出する確率が予め定められた所定の値以下となる深さであることを特徴とする船舶。
  2. 前記船底張出部の底面は、キールラインからの鉛直方向の突出深さが船首側から船尾側に向けて浅くなるように傾斜している請求項1に記載の船舶。
  3. 前記船底張出部の船幅方向の幅は、前記船底張出部の上方のキールラインにおける前記船体の幅以下である請求項1又は2に記載の船舶。
  4. 前記船底張出部は、キールラインよりも上方の船首部分と一体に形成され、キールラインとの接続部が折れ目なく連続した曲面形状である請求項1~3のいずれか一項に記載の船舶。
  5. 前記船底張出部の船長方向における船尾側の端部は、側面視で、
    前記船底張出部が設けられていない船底との接続部が上に凸の曲線であり、前記船底張出部の底面との接続部が下に凸の曲線であり、2つの前記曲線の接続部が変曲点となるS字曲線である請求項1~4のいずれか一項に記載の船舶。
  6. 船長方向における前記船体の中心より船首側で満載吃水線より下方に配置され、両舷を船幅方向に貫通する円筒状のトンネルと、前記トンネル内に配置され前記トンネルの円筒の軸中心に回転して方舷から逆舷に向かう水流を生成するプロペラを有するバウスラスターを備え、
    前記バウスラスターは、前記船底張出部の上方に設けられる請求項1~5のいずれか一項に記載の船舶。
  7. 船長方向における前記船体の中心よりも船首側の舷側の形状が正面視でV字型のフレーム形状である請求項1~6のいずれか一項に記載の船舶。
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