JP7515777B2 - ガラス板の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明は、ガラス板の製造方法に関する。
スマートフォンのディスプレイや車載ディスプレイ等のカバーガラスとして、縦横に湾曲した3D形状のガラス板が採用される場合がある。このようなガラス板を製造するにあたっては、一例として、当該ガラス板の元となる湾曲したマザーガラス板(複数面分の3D形状のガラス板を含んだガラス板)から切り出して製造する。
ここで、ガラス板を切断するための手法の一つとして、特許文献1に開示されるようなレーザー割断が知られている。
レーザー割断においては、設定した割断予定線に沿ってガラス板を割断するに際し、まず、ダイヤモンドカッター等を用いて、ガラス板に割断の起点となる初期クラックを形成する。その後、レーザーヘッドからガラス板に炭酸ガスレーザーを照射すると共に、レーザーの照射により加熱された部位に向けて冷媒(空気等)を噴射する。この際にガラス板に加えられる熱衝撃により初期クラックを起点にクラックを割断予定線に沿って進展させることで、ガラス板を割断する。
ところで、上記の湾曲したマザーガラス板を切断するにあたって、上記の形態のレーザー割断を用いた場合には、以下のような解決すべき問題が生じていた。
すなわち、マザーガラス板に炭酸ガスレーザーを照射すると、レーザーによりマザーガラス板の表層部(レーザー入射面側の表層部)のみが加熱される。このように表層部のみしか加熱できない炭酸ガスレーザーにおいては、マザーガラス板の全厚みを切断できる照射条件の範囲が極めて狭い。例えば、レーザーヘッドとマザーガラス板との相互間距離が最適距離から僅かにずれるだけで、熱衝撃が不足して切断は困難なものとなる。そのため、湾曲したマザーガラス板の切断開始から完了までの間に亘って、レーザーの照射条件を全厚みの切断が可能となる条件に維持することが非常に難しい。このとおり全厚みの切断が困難である結果、マザーガラス板の切断のために別途折割り等が必要となり、それに伴ってマザーガラス板から切り出されるガラス板の切断面の性状が悪化しやすいという問題があった。
上述の事情に鑑みなされた本発明は、湾曲したマザーガラス板をレーザー割断により切断するに際して、マザーガラス板から切り出されるガラス板の切断面の性状を向上させることを技術的な課題とする。
上記の課題を解決するための本発明に係るガラス板の製造方法は、湾曲したマザーガラス板に割断の起点となる初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、レーザーヘッドからマザーガラス板にレーザーを照射することで、初期クラックを起点にクラックを割断予定線に沿って進展させるレーザー照射工程と、を備えた方法であって、レーザー照射工程では、マザーガラス板の表層部および内部を加熱するレーザーを用いて、レーザーの照射に伴う熱衝撃によりクラックを割断予定線に沿って進展させると共に、マザーガラス板の厚み方向に沿って進展させることで、マザーガラス板を割断することを特徴とする。
本方法においては、レーザー照射工程にて、マザーガラス板の表層部および内部を加熱するレーザーを用いている。このように表層部に加えて内部も加熱できるレーザーにおいては、表層部のみでなく内部にも熱衝撃を加えることが可能であるため、マザーガラス板の全厚みを切断できるレーザーの照射条件の範囲が広い。これにより、湾曲したマザーガラス板の切断開始から完了までの間に亘って、レーザーの照射条件を全厚みの切断が可能となる条件に容易に維持できる。従って、割断予定線の全区間においてマザーガラス板の全厚みを難なく切断することが可能となる。その結果、マザーガラス板から切り出されるガラス板の切断面の性状を向上させることができる。
上記の方法において、レーザー照射工程では、レーザーヘッドの軸の傾きを一定にした上で、レーザーヘッドとマザーガラス板とを相対移動させることが好ましい。
上述のごとく、マザーガラス板の表層部および内部を加熱するレーザーにおいては、マザーガラス板の全厚みを切断できる照射条件の範囲が広い。従って、マザーガラス板の切断に際し、レーザーヘッドとマザーガラス板とを相対移動させてレーザーで湾曲したマザーガラス板を走査するにあたり、湾曲に合わせてレーザーヘッドの軸の傾きを変化させるようなことを行わなくても、全厚みの切断が可能となる。そのため、軸の傾きは一定にしてよく、これに起因してレーザーヘッドの軸の傾きを変化させるための機構を不要にできるので、設備コストを削減することが可能となる。また、軸の傾きを変化させる必要がないことに伴い、マザーガラス板の切断に要する時間を短縮することもできる。
上記の方法において、レーザー照射工程では、レーザーヘッドのその軸方向における位置を一定にした上で、レーザーヘッドとマザーガラス板とを相対移動させることが好ましい。
上記のレーザーでは、既述のとおりマザーガラス板の全厚みを切断できる照射条件の範囲が広い。これにより、マザーガラス板の切断に際し、マザーガラス板の湾曲に合わせてレーザーヘッドのその軸方向における位置を変化させるようなことを行わなくても、全厚みの切断が可能となる。従って、軸方向における位置は一定にしてよく、これに起因して軸方向における位置を変化させるための機構を不要にできるため、設備コストを更に削減することが可能となる。加えて、軸方向における位置を変化させる必要がないので、マザーガラス板の切断に要する時間を更に短縮することもできる。
上記の方法において、レーザー照射工程では、レーザーとしてCOレーザーを用いることが好ましい。
このようにすれば、COレーザーの出力が高く、安定してマザーガラス板に照射できることから、割断予定線に沿ってクラックを安定して進展させることができる。
上記の方法において、下記の[数1]式で算出されるマザーガラス板の熱応力σT(MPa)が、下記の[数2]式を満足する条件で、レーザー照射工程を実行することが好ましい。
ただし、Eはマザーガラス板のヤング率(MPa)、αはマザーガラス板の熱膨張係数(/K)、νはマザーガラス板のポアソン比、ΔTは、マザーガラス板に対するレーザーの照射位置における温度(K)と、照射位置から離れた離間位置における温度(K)との差である。
ただし、tはマザーガラス板の厚み(mm)である。
ただし、Eはマザーガラス板のヤング率(MPa)、αはマザーガラス板の熱膨張係数(/K)、νはマザーガラス板のポアソン比、ΔTは、マザーガラス板に対するレーザーの照射位置における温度(K)と、照射位置から離れた離間位置における温度(K)との差である。
ただし、tはマザーガラス板の厚み(mm)である。
このようにすれば、マザーガラス板から切り出されるガラス板の切断面の性状を更に向上させることが可能となる。
上記の方法において、レーザー照射工程では、(1)レーザーヘッドとマザーガラス板との相互間距離、及び、(2)マザーガラス板の表面に対するレーザーの入射角、の少なくとも一方を変化させてもよい。
上記のレーザーでは、マザーガラス板の全厚みを切断できる照射条件の範囲が広いことから、上記の(1)、(2)の一方、或いは、双方が変化した場合であっても、全厚みの切断が可能である。つまり、全厚みを切断するために、レーザー照射工程の実行中に上記の(1)や(2)の管理を厳密に行うような必要性が無い。
本発明によれば、湾曲したマザーガラス板をレーザー割断により切断するに際して、マザーガラス板から切り出されるガラス板の切断面の性状を向上させることが可能となる。
以下、本発明の実施形態に係るガラス板の製造方法について、添付の図面を参照しながら説明する。なお、実施形態の説明で参照する図面に示したX方向、Y方向、及びZ方向は、相互に直交する方向である。そして、X方向およびY方向は水平方向であり、Z方向は上下方向である。
実施形態に係るガラス板の製造方法は、湾曲したマザーガラス板1に割断の起点となる初期クラック2を形成するための初期クラック形成工程(図1)と、レーザーヘッド3からマザーガラス板1にレーザー4を照射することで、初期クラック2を起点にクラック5を割断予定線6に沿って進展させるためのレーザー照射工程(図2及び図3)とを備えている。
本実施形態では、マザーガラス板1を割断予定線6に沿って割断することにより、マザーガラス板1を第一ガラス板7と第二ガラス板8とに分断する。なお、割断予定線6はマザーガラス板1のY方向における中央に位置しており、マザーガラス板1は割断予定線6を基準として対称な形状に形成されている。割断予定線6の一端はマザーガラス板1の割断を開始する始点6aとなり、他端は割断を終了する終点6bとなる。
図1に示すように、マザーガラス板1は、X方向およびY方向のいずれに沿っても湾曲していると共に、上下面1a,1bのうちの上面1aが凸となった3D形状を有する。このマザーガラス板1は、平面視(Z方向から視て)においては矩形状をなしている。本実施形態では、平面視で割断予定線6がX方向に延びている。マザーガラス板1の湾曲により割断予定線6に沿って上面1aには高低差H(Z方向に沿った高さの差)が生じている。詳述すると、割断予定線6の始点6aおよび終点6bにおいて上面1aの高さが最も低く、割断予定線6の中点6cにおいて上面1aの高さが最も高くなっている。高低差Hは、一例として20mm以下であり、好ましくは10mm以下である。本実施形態では、高低差Hが10mmである。
マザーガラス板1の厚みは、一例として0.05mm~5mmである。なお、後に詳述するが、本実施形態では、マザーガラス板1に照射するレーザー4としてCOレーザーを用いており、例えば炭酸ガスレーザーを用いた場合と比較して、厚みの大きいマザーガラス板1を切断することが可能である。そのため、マザーガラス板1の厚みは、0.1mmを上回ることが好ましく、0.2mmを上回ることがより好ましく、0.3mmを上回ることが更に好ましい。一方、マザーガラス板1の厚みは、3mm以下であることが好ましい。本実施形態では、マザーガラス板1の厚みは0.7mmである。
マザーガラス板1は、ケイ酸塩ガラス、シリカガラス、ホウ珪酸ガラス、ソーダガラス、ソーダライムガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、無アルカリガラス等であってよい。ここで、「無アルカリガラス」とは、アルカリ成分(アルカリ金属酸化物)を実質的に含まないガラスのことであり、具体的には、アルカリ成分の重量比が3000ppm以下のガラスのことである。アルカリ成分の重量比は、好ましくは1000ppm以下であり、より好ましくは500ppm以下であり、最も好ましくは300ppm以下である。なお、マザーガラス板1は、化学強化前のアルミノシリケートガラスであってもよく、初期クラック形成工程及びレーザー照射工程によって得られたガラス板に化学強化処理を施してもよい。
図1に示した初期クラック形成工程では、まず、平坦な支持面9aを有する支持テーブル9の上にマザーガラス板1を平置き姿勢で載置する。その後、載置したマザーガラス板1に対し、その上面1aにおける割断予定線6の始点6aが位置する箇所に初期クラック2を形成する。
初期クラック2の形成に際しては、クラック形成部材10を使用する。本実施形態では、クラック形成部材10として、尖端状のスクライバー(焼結ダイヤモンドカッター等)を採用している。勿論この限りではなく、クラック形成部材10として、ダイヤモンドペン、超硬合金カッター、サンドペーパー等を採用してもよい。このクラック形成部材10を上方から降下させてマザーガラス板1の上面1aに接触させることで、初期クラック2が形成される。
ここで、本実施形態では、マザーガラス板1の上下面1a,1bのうちの上面1a(凸となる面)に初期クラック2を形成しているが、この限りではなく、下面1b(凹となる面)に初期クラック2を形成するようにしてもよい。また、マザーガラス板1の端面に初期クラック2を形成してもよい。
図2及び図3に示したレーザー照射工程では、割断予定線6の始点6aに位置した初期クラック2に向けてレーザー4を照射すると共に、その状態から割断予定線6に沿ってマザーガラス板1をレーザー4で走査する。
レーザー4の走査に際しては、レーザーヘッド3の軸の傾き、及び、レーザーヘッド3のその軸方向における位置(ここではZ方向における位置)を一定にした上で、レーザーヘッド3をX方向に移動させる。なお、マザーガラス板1を載置した支持テーブル9は静止しており、これによりマザーガラス板1は静止した状態にある。本実施形態では、レーザーヘッド3の軸はZ方向と平行に延びており、レーザー4の光軸もまたZ方向と平行に延びている。
ここで、本実施形態では、レーザー4の走査に際して、マザーガラス板1を静止させた状態でレーザーヘッド3を移動させているが、この限りではない。逆にレーザーヘッド3を静止させた状態でマザーガラス板1を移動させてもよい。なお、マザーガラス板1とレーザーヘッド3とは、両者が相対移動していればよく、例えばレーザー4の走査に際して、マザーガラス板1とレーザーヘッド3との両者を移動させてもよい。
レーザー4としては、マザーガラス板1の表層部(上面1a側の表層部)および内部を加熱するレーザーを用い、本実施形態ではCOレーザーを用いている。ここで、「表層部」とは、マザーガラス板1の上面1aから深さ10μmまでの領域を意味する。これに対して、「内部」とは、表層部を超えた深さの領域を意味する。COレーザーの波長は、一例として5.25μm~5.75μmであり、本実施形態では5.5μmである。レーザー4はパルス発振であってもよいし、連続発振であってもよい。
ここで、レーザー4は、マザーガラス板1の表層部および内部を加熱できるレーザーであれば、COレーザー以外であってもよい。例えば、レーザー4として、Erレーザー(Er:YAGレーザー)、Hoレーザー(Ho:YAGレーザー)又はHFレーザー等を用いることが可能である。
以下、レーザー照射工程におけるレーザー4の照射条件の詳細について説明する。
レーザー4の焦点4aは、レーザーヘッド3とマザーガラス板1の上面1aとの間に位置させている。レーザースポット4bの形状は特に限定されるものではなく、円形、楕円形、長円形、長方形等としてよいが、本実施形態では、レーザースポット4bの形状が円形となるように照射している。
ここで、マザーガラス板1が湾曲していることから、レーザーヘッド3のX方向への移動中において、レーザーヘッド3とマザーガラス板1との相互間距離、及び、マザーガラス板1の上面1aに対するレーザー4の入射角は連続的に変化する。これにより、レーザースポット4bの直径(以下、照射径と表記)もまた連続的に変化する。詳述すると、照射径は、割断予定線6の始点6aおよび終点6bの付近で相対的に大きくなり、中点6cの付近で相対的に小さくなる。照射径の大きさの変化は、1mm~8mmの範囲内に収めることが好ましく、2mm~6mmの範囲内に収めることがより好ましい。
上述の照射径の変化を考慮して、本実施形態では、レーザー照射工程におけるレーザー4の出力、及び、走査速度(ここではレーザーヘッド3がX方向に移動する速度)を以下のように決定している。なお、以下に例示するのは、照射径の大きさが4mm~6mmの範囲内で変化する場合である。
最初に、上記の湾曲したマザーガラス板1と同じ厚みを有すると共に、平坦に形成されたガラス板(以下、平坦ガラス板と表記)を準備する。次に、平坦ガラス板を上記のレーザー4(レーザーヘッド3)を用いて切断する場合に、照射径の大きさを4mmとして切断が可能となる出力、及び、走査速度の範囲を割り出す。さらに、同様にして、照射径の大きさを6mmとして平坦ガラス板の切断が可能となる出力、及び、走査速度の範囲を割り出す。これにより、図4に示すように、照射径を4mmとした場合の範囲11と、照射径を6mmとした場合の範囲12とが明らかとなる。最後に、範囲11と範囲12との両者が重複する範囲13(図4において太線で囲った範囲)内に収まった出力、及び、走査速度を、レーザー照射工程におけるレーザー4の出力、及び、走査速度として決定する。なお、本実施形態では、レーザー4の出力を38Wとし、走査速度を20mm/sとした。
ここで、レーザー4の照射に伴ってマザーガラス板1に加えられる熱衝撃を顕著にするため、マザーガラス板1におけるレーザースポット4bの周辺を冷却してもよい。具体例としては、レーザースポット4bを基準として走査方向(X方向)の後方に位置する部位に向かって冷媒(空気等)を吹き付けることで、当該部位を冷却してもよい。
上述のレーザー4の照射条件に加え、本実施形態では、第一ガラス板7および第二ガラス板8の切断面の性状を向上させるため、下記の[数3]式で算出されるマザーガラス板1の熱応力σT(MPa)が、下記の[数4]式を満足する条件で、レーザー照射工程を実行する。
上記の[数3]式におけるEはマザーガラス板1のヤング率(MPa)、αはマザーガラス板1の熱膨張係数(/K)、νはマザーガラス板1のポアソン比、ΔTは、マザーガラス板1に対するレーザー4の照射位置における温度(K)と、照射位置から離れた離間位置における温度(K)との差である。また、上記の[数4]式におけるtはマザーガラス板1の厚み(mm)である。
ここで、上記のΔTについて詳述すると、レーザー4の照射位置と、当該照射位置からレーザー4の走査方向(X方向)の前方に10mmだけ離れた離間位置との各々において、マザーガラス板1の上面1aの温度をガラス温度測定用サーモグラフィ(Optris社製:PI450G7)で測定し、両位置間の温度差をΔTとした。レーザー4の照射中におけるマザーガラス板1の温度は、上記のレーザー4の出力や走査速度の条件を変更することで変化させることが可能である。なお、離間位置の温度は、室温と同程度となる。ここで、上述のごとくレーザーヘッド3の移動中において、レーザーヘッド3とマザーガラス板1との相互間距離、及び、マザーガラス板1の上面1aに対するレーザー4の入射角は連続的に変化する。これにより、レーザー4の照射位置における温度、ひいては、上記のΔTもまた変化する。そのため、これらの変化を考慮し、熱応力σTが割断の開始から終了までの間に亘って、上記の[数4]式の条件を満たすようにすることが好ましい。
以上に説明した条件の下、マザーガラス板1を割断予定線6の始点6aから終点6bまでレーザー4で走査する。このとき、割断予定線6上の各位置において、レーザー4の照射に伴う熱衝撃がマザーガラス板1の表層部および内部に加えられる。これにより、クラック5が割断予定線6に沿って進展すると共に、マザーガラス板1の厚み方向に沿って進展し、マザーガラス板1の全厚みが切断される。
以下、上記のガラス板の製造方法による主たる作用・効果について説明する。
上記の製造方法では、マザーガラス板1の表層部および内部を加熱するレーザー4を用いており、マザーガラス板1の表層部のみでなく内部にも熱衝撃を加えることが可能である。このため、マザーガラス板1の全厚みを切断できるレーザー4の照射条件の範囲が広くなる。従って、湾曲したマザーガラス板1の切断開始から完了までの間に亘って、照射条件を全厚みの切断が可能となる条件に容易に維持できる。これにより、割断予定線6の全区間においてマザーガラス板1の全厚みを難なく切断することが可能となる。その結果、マザーガラス板1から切り出される第一ガラス板7および第二ガラス板8の切断面の性状を向上させることができる。
以下、本発明の熱応力σTに係る実施例について説明する。
上記の実施形態と同様の形態により、下記の[表1]に示した種々のマザーガラス板1を切断した。そして、特に性状の優れた切断面(以下、優良切断面と表記)が得られた場合について、マザーガラス板1に作用させた熱応力σT(MPa)を上記の[数3]式により算出した。なお、切断面の性状の良否については、目視で観察を行うことにより判定を行った。
熱応力σTを算出した結果を[表1]に示す。ここで、上述のごとく、マザーガラス板1の湾曲に起因してレーザー4の照射径およびΔTは変化する。[表1]に示した照射径およびΔTは、割断予定線6上の中点6cにレーザー4が照射されている際における照射径およびΔTである。
[表1]に示す結果のとおり、厚みが0.5mm程度であるマザーガラス板1について、優良切断面を得るためには、ガラスの種類によらず、切断時におよそ100MPa程度の熱応力σTをマザーガラス板1に作用させることが望ましいことが分かる。
ここで、優良切断面を得るための熱応力σTは、マザーガラス板1の厚みにより相違することが判明している。そこで、発明者は、厚み(肉厚)の異なる複数のマザーガラス板1をCOレーザーによって切断する試験を行った。そして、優良切断面を得るための熱応力σTとマザーガラス板1の厚みとの関係を確認した。本試験では、マザーガラス板1の試料として、無アルカリガラス、ソーダガラス、ホウケイ酸ガラスを用いた。本試験における熱応力σTとマザーガラス板1の厚みとの関係を図7に示す。
図7に示した結果から、発明者は、COレーザーでマザーガラス板1を切断する場合に、優良切断面を得るためには、上記の[数3]式により算出されるマザーガラス板1の熱応力σT(MPa)が上記の[数4]式を満足するように、レーザー照射工程を実行するのが望ましいということを見出した。
ここで、本発明に係るガラス板の製造方法は、上記の実施形態で説明した形態に限定されるものではない。
例えば、上記の実施形態では、レーザー4の走査に際して、レーザーヘッド3の軸の傾き、及び、レーザーヘッド3のその軸方向における位置を一定にしているが、この限りではない。割断予定線6に沿ってマザーガラス板1の上面1aに生じている高低差Hが大きい場合(例えば、高低差Hが20mmを超える場合)には、図5や図6に示すような形態を採用してもよい。
図5に示す形態では、マザーガラス板1の湾曲に合わせて、レーザーヘッド3の軸の傾きを変化させている。詳述すると、マザーガラス板1の上面1aに対するレーザー4の入射角を小さくすることを目的として、レーザーヘッド3の軸の傾きを変化させている。この場合、レーザーヘッド3とマザーガラス板1との相互間距離、及び、マザーガラス板1の上面1aに対するレーザー4の入射角は一定である。なお、上記の入射角の上限値は45°とすることが好ましい。さらに、同図に示す形態では、レーザーヘッド3の軸の傾きを変化させることに加え、レーザーヘッド3の高さ位置についても変化させている。すなわち、レーザー4で割断予定線6の始点6aおよび終点6bの付近を走査する際には相対的にレーザーヘッド3の高さ位置を低くし、割断予定線6の中点6cの付近を走査する際には相対的にレーザーヘッド3の高さ位置を高くしている。
図6に示す形態では、レーザーヘッド3の軸の傾きを一定にする一方で、マザーガラス板1の湾曲に合わせて、レーザーヘッド3のその軸方向における位置(ここではZ方向における位置)を変化させている。詳述すると、レーザーヘッド3の高さ位置について、レーザー4で割断予定線6の始点6aおよび終点6bの付近を走査する際には相対的に低くし、割断予定線6の中点6cの付近を走査する際には相対的に高くしている。この場合、レーザーヘッド3とマザーガラス板1との相互間距離は一定であるが、マザーガラス板1の上面1aに対するレーザー4の入射角は連続的に変化する。
勿論ではあるが、レーザー4の走査に際して、レーザーヘッド3の軸の傾きと、レーザーヘッド3のその軸方向における位置との双方を変化させる形態を採用してもよい。例えば、レーザーヘッド3とマザーガラス板1との相互間距離を連続的に変化させ、マザーガラス板1の上面1aに対するレーザー4の入射角を一定にする形態を採用してもよい。このような形態や図5や図6に示す形態は、ロボット(多関節ロボット、単軸ロボットの組み合わせ等)、直動アクチュエータ、回転機構等を用いて実現することが可能である。
また、上記の実施形態では、湾曲したマザーガラス板1の凸となる面を上面1aとした上でマザーガラス板1を切断しているが、この限りではない。マザーガラス板1の表裏を反転させ、凹となる面を上面1aとした上でマザーガラス板1を切断してもよい。この場合、初期クラック2を形成する面は、上面1a(凹となる面)であってもよいし、下面1b(凸となる面)であってもよいし、端面であってもよい。さらに、上記の実施形態では、平置き姿勢にしたマザーガラス板1を切断しているが、この限りではない。保持部材等によって縦置き姿勢や傾斜姿勢にしたマザーガラス板1を切断してもよい。
また、上記の実施形態では、平面視で割断予定線6がX方向に延びているが、この限りではない。割断予定線6は蛇行した線であってもよいし、閉ループをなすような線(例えば、平面視で円を描くような線)であってもよい。
また、上記の実施形態では、X方向およびY方向の二方向に沿って湾曲したマザーガラス板1を切断の対象としているが、この限りではない。一方向に沿ってのみ湾曲したマザーガラス板1を切断する場合においても、本発明を適用することが可能である。
1 マザーガラス板
1a マザーガラス板の上面
2 初期クラック
3 レーザーヘッド
4 レーザー
5 クラック
6 割断予定線
1a マザーガラス板の上面
2 初期クラック
3 レーザーヘッド
4 レーザー
5 クラック
6 割断予定線
Claims (5)
- 湾曲したマザーガラス板に割断の起点となる初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、
レーザーヘッドから前記マザーガラス板にレーザーを照射することで、前記初期クラックを起点にクラックを割断予定線に沿って進展させるレーザー照射工程と、を備えたガラス板の製造方法であって、
前記レーザー照射工程では、前記マザーガラス板の表層部および内部を加熱する前記レーザーを用いて、前記レーザーの照射に伴う熱衝撃により前記クラックを前記割断予定線に沿って進展させると共に、前記マザーガラス板の厚み方向に沿って進展させることで、前記マザーガラス板を割断し、
前記レーザー照射工程では、前記レーザーヘッドの軸の傾きを一定にした上で、前記レーザーヘッドと前記マザーガラス板とを相対移動させ、
前記レーザーの照射に伴って前記マザーガラス板に形成されるレーザースポットの形状は円形であり、
下記の[数1]式で算出される前記マザーガラス板の熱応力σ T (MPa)が、下記の[数2]式を満足する条件で、前記レーザー照射工程を実行することを特徴とするガラス板の製造方法。
- 前記レーザー照射工程では、前記レーザーヘッドのその軸方向における位置を一定にした上で、前記レーザーヘッドと前記マザーガラス板とを相対移動させることを特徴とする請求項1に記載のガラス板の製造方法。
- 湾曲したマザーガラス板に割断の起点となる初期クラックを形成する初期クラック形成工程と、
レーザーヘッドから前記マザーガラス板にレーザーを照射することで、前記初期クラックを起点にクラックを割断予定線に沿って進展させるレーザー照射工程と、を備えたガラス板の製造方法であって、
前記レーザー照射工程では、前記マザーガラス板の表層部および内部を加熱する前記レーザーを用いて、前記レーザーの照射に伴う熱衝撃により前記クラックを前記割断予定線に沿って進展させると共に、前記マザーガラス板の厚み方向に沿って進展させることで、前記マザーガラス板を割断し、
前記レーザー照射工程では、前記レーザーヘッドのその軸方向における位置を一定にした上で、前記レーザーヘッドと前記マザーガラス板とを相対移動させ、
前記レーザーの照射に伴って前記マザーガラス板に形成されるレーザースポットの形状は円形であり、
下記の[数3]式で算出される前記マザーガラス板の熱応力σ T (MPa)が、下記の[数4]式を満足する条件で、前記レーザー照射工程を実行することを特徴とするガラス板の製造方法。
- 前記レーザー照射工程では、前記レーザーとしてCOレーザーを用いることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
- 前記レーザー照射工程では、(1)前記レーザーヘッドと前記マザーガラス板との相互間距離、及び、(2)前記マザーガラス板の表面に対する前記レーザーの入射角、の少なくとも一方を変化させることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のガラス板の製造方法。
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Patent Citations (4)
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