JP7509741B2 - 連続シート状製品の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、連続シート状製品の製造方法に関する。
従来、連続シート状製品の製造方法には様々なタイプがあり、いずれにおいても連続シート状製品は複数の加工工程を経て製造されている。ここで言う、連続シート状製品とは、不織布やフィルム、紙など、連続的に製造されるシート形状を有する製品である。
例えば、特許文献1には、短繊維の繊維原料から梳繊式ウェブ形成機を用いて一枚以上のウェブを形成し、構成繊維を交絡結合させて不織布を製造する方法が記載されている。前記ウェブの形成方法として、ローラカードによって梳繊(開繊)し、それによって得た繊維集合体をフライコームで叩きながら剥がして形成することが記載されている。ウェブの構成繊維を交絡結合させる方法として、熱融着炉を用いた熱融着交絡結合方法やニードルロックによる機械的な交絡結合方法が示されている。
特許文献2には、カード機を用いてウエブを形成し、該ウエブに熱処理を施して不織布を製造する方法が記載されている。前記カード機のカード条件として、メインシリンダーの周速(S1)/ワーカーの周速(S2)の比(S1/S2)を10~150に設定することが記載されている。
また、スパンボンド不織布やメルトブローン不織布などの紡糸直結タイプの不織布の製造方法がある。この製造方法では、溶融樹脂を複数の紡糸ノズルから射出して堆積させ、エンボス加工等を行って不織布化する。
また、フィルムなどの製造方法は、溶解した樹脂を押し出すインフレーション法などがある。
また、紙の製造方法は、パルプと水を混ぜた原料をシート化、乾燥させる抄紙法などがある。
特開2008-031569号公報 特開2013-124431号公報
上記のように様々な製造方法により製造される各種の連続シート状製品は、適用される製品に応じて要求性能が異なる。例えば、おむつなどの吸収性物品に適用される不織布では液透過性や柔らかい風合いなどが求められ、ワイピングシートをなす不織布では高い捕集性が求められる。また、同種の製品であっても違うブランド毎に不織布に対する要求性能が異なることがある。これに応じて、同じタイプの不織布の同一製造ラインであっても、不織布の品種毎に異なる品質設定がなされることがある。そのため、従来から品質の変動要因の管理をして目的の要求性能を満たす不織布が製造されている。不織布の製造方法におけるこの品質管理としては、例えば坪量や厚み、地合い等の管理が挙げられる。また、衛生面から不織布表面に異物が混入しないよう厳重な品質管理がなされる。
また、他にもおむつなどの吸収性物品に利用されるフィルムとして透湿シートがあり、透湿シートは、水蒸気を透過させる水蒸気透過性、水の透過を妨げる液不透過性、シート厚みの均一性などの品質が求められる。このようなフィルムの品質を安定化させるため、品質の変動要因の管理をして目的の要求性能を満たすフィルムが製造されている。
しかし、このような連続シート状製品の品質を左右する要因は、製造方法において多岐にわたる。
例えば前記不織布の坪量ひとつを取り上げても、特許文献1及び2に記載のカーディング工程において、カード装置のワイヤ形状・ロール間のクリアランス・周速などが重要である。加えて、カード装置へ繊維の集合体(綿ともいう)を供給する開梱・調合・開繊工程(カーディング工程の前工程)や熱処理工程(カーディング工程の後工程)も、所望の坪量形成には重要となる。更に、同一の条件で製造していても、使用する原料繊維(原綿ともいう)の状態、設備の摩耗や汚染などの状態の変化、温湿度などの環境変化などの様々な原因により、製造される坪量が変動することがある。
このように様々な要因により坪量が変動した場合、オペレータの経験により、それぞれの設備や綿の状態、搬送状態を見て、製造プロセスを調整している。従来、カード装置において、ワイヤ形状やロール間クリアランス変更は調整が難しいため、カード装置の速度(特にシリンダ、ワーカー、ストリッパ、ドッファなど)を変更することが一般的であった。その調整量は製造オペレータの経験に依存していた。また、カード装置によるカーディング以外の工程、例えば、カード装置へ原料繊維を供給する前工程の開梱・調合・開繊工程における原因究明と設定の変更及び制御とは、カード装置への対処以上に難しい。
連続シート状製品の製造方法に含まれる複数の加工工程においては、上記の坪量のみならず種々の品質の変動があった場合に、その変動要因をインラインにおいてより的確に迅速に特定し対処することが求められている。また、品質の変動の予兆を掴んで、事前に対処することも必要となる。そのため、連続シート状製品を製造するインラインにおいて品質を監視しながら同時に対処の要否を都度判断する必要がある。
本発明は、上記の点に鑑み、連続シート状製品を製造するに当たり、インラインにおいて加工工程に対する設定の変更及び制御の要否を都度判断して迅速に対処し、品質が要求性能に合った連続シート状製品を安定的に製造する、連続シート状製品の製造方法に関する。
本発明は、複数の加工工程を実施する連続シート状製品の製造方法であって、
前記製造方法の、始動速度段階における第一指令で、前記連続シート状製品の品質データ及び前記加工工程における複数のプロセスデータをインライン測定により取得し、加工速度段階における第二指令で、前記品質データの特徴量及び前記プロセスデータの特徴量を抽出し、
品質予測モデルに基づき、前記プロセスデータの特徴量から、製造される連続シート状製品の品質データを予測して、該品質データの予測値における前記の各プロセスデータの特徴量の寄与度を算出し、
予測した結果の利用可否を判断し、該予測した結果を利用すると判断した場合に、前記予測値における前記プロセスデータの特徴量の寄与度の大きさに基づいて、前記複数の加工工程のうちの対象となる加工工程に対する設定の変更及び制御を行って、前記複数の加工工程を実施する、連続シート状製品の製造方法を提供する。
本発明の連続シート状製品の製造方法によれば、インラインにおいて加工工程に対する設定の変更及び制御の要否を都度判断して迅速に対処し、品質を要求性能に合わせた連続シート状製品を安定的に製造することができる。
本発明の連続シート状製品の製造方法に用いられる製造装置の一例を示す構成図である。 本実施形態の連続シート状製品の製造方法において、インラインにて品質データ及びプロセスデータを所得して利用する工程を示すフロー図である。 本実施形態の連続シート状製品の製造方法において、始動速度段階における第一指令及び加工速度段階における第二指令を発する時期を示すフロー図である。 (A)~(C)は、品質データ及びプロセスデータの取得、特徴量の算出、集計及び抽出の具体例を示す説明図である。 タイムラグ補正を行う対象であるプロセスデータの具体的な一例を示した説明図である。(A)は時系列処理工程においてプロセスデータ同士を対応させる方法の一例を示し、(B)はタイムラグ補正後のプロセスデータの格納状態の一例を示す。 (A)は、インラインで取得する品質データの特徴量の推移、及びインラインで取得するプロセスデータの特徴量から品質予測モデルを用いて算出する品質データの予測値の推移の具体例を示すグラフであり、(B)は(A)における品質データの予測値の内訳である各プロセスデータの特徴量の寄与度を示すグラフである。 本実施形態の連続シート状製品の製造方法において、予測した結果の利用可否を判断する工程を示すフロー図である。 本実施形態の連続シート状製品の製造方法において用いられる品質予測モデルを構築する工程を示すフロー図である。 実施例において実施した不織布の製造方法において、インラインにて取得した品質データの実測値の特徴量の推移と、インラインにてプロセスデータから品質予測モデルを用いて算出した品質データの予測値の推移を示すグラフである。 (A)は、図9に示すグラフの1日目部分を拡大して示すグラフであり、(B)は、(A)に示す品質データの予測値の内訳であるプロセスデータの特徴量の寄与度を示すグラフである。 実施例における品質データの実測値の特徴量、品質データの予測値及びT統計量の推移と共に、品質データの実測値、予測値及びT統計量の異常判断をした時点、加工工程に対する設定の変更及び制御を行った時点を示す説明図である。
本発明の連続シート状製品の製造方法の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。本発明において、「連続シート状製品」とは、不織布やフィルム、紙など、連続的に製造されるシート形状を有する様々な製品を意味する。
図1は、本発明の連続シート状製品の製造方法の一例を示している。
図1に示す連続シート状製品の製造装置100は、第1加工装置11、第2加工装置12、第3加工装置13、検査装置14及び巻取装置15を含む。
検査装置14は、形成された連続シート状製品の品質(例えば、坪量、表面状態など)を検査する。この検査装置14としては検査する品質項目に応じて種々のものを用いることができ、例えば、坪量測定装置、異物検査装置、幅計測装置などが挙げられる。
巻取装置15は、検査を終えた連続シート状製品をロール軸に巻き取って製品化する。また、巻取装置15は、上記の巻き取りの前にスリットして分割処理を行ってもよい。
製造装置100には、上記の各装置11~13に対して、第1加工装置処理CPU(Central Processing Unit)21、第2加工装置処理CPU22及び第3加工装置処理CPU23がそれぞれ接続されている。
上記の各処理CPUは、接続される夫々の装置の動作を制御する。加えて、夫々の装置の圧力、温度、速度、電流値などのプロセスデータを時系列で取得し、格納する。
また、製造装置100には、検査装置処理CPU24及び巻取装置処理CPU25が接続されている。検査装置処理CPU24は検査装置14に接続され、巻取装置処理CPU25は巻取装置15に接続されている。
検査装置処理CPU24は、検査装置14による前述の種々の検査処理を制御する。また、検査装置処理CPU24は、検査装置14が取得する品質データを時系列で取得し、格納する。該品質データには、例えば連続シート状製品の坪量、地合い、連続シート状製品表面の異物の数などが含まれる。
巻取装置処理CPU25は、巻取装置15による前述の種々の処理を制御する。また、巻取装置処理CPU25は、巻取装置15が取得する各種のデータを時系列で取得し、格納する。前記各種のデータには、連続シート状製品の巻取り径、巻取りモータ速度などが含まれる。
加えて、製造装置100には、全体管理CPU31、データ収集CPU32及び解析CPU33が接続されている。
全体管理CPU31は、連続シート状製品の品種条件(品種データ)を格納して管理するとともに、各装置に係る処理CPUへ品種条件指令を行う。この品種条件は、例えばシート状製品の原材料の使用量、種類、坪量などが挙げられる。この品種条件の指令とは、第1加工装置、第2加工装置、第3加工装置毎の温度、速度、圧力などの設定条件を変更することを意味する。具体的には、例えば不織布製造であれば、混打綿装置のモータ速度、カード装置のモータ速度、熱処理装置の温度、巻取装置のモータ速度などの変更を行うことを意味する。また、全体管理CPU31は、各装置に係る処理CPUに対して運転指令、停止指令及び運転速度指令を送信する。同時に、各装置の運転状態を管理・監視する。
更に、全体管理CPU31は、後述の解析CPU33による解析結果、例えば品質データの予測値及び該予測値に対するプロセスデータの特徴量の寄与度のデータを取得して格納する。全体管理CPU31は、前述の品種条件(品種データ)と共に、前記品質データの予測値及び該予測値に対するプロセスデータの特徴量の寄与度のデータに基づいて、対象となる装置に係る処理CPUに対して、該装置が行う加工工程に対する設定の変更及び制御の指令を送信する。また、全体管理CPU31にはモニター(図示せず)が接続されていてもよい。該モニターによって、前記品質データの予測値及び該予測値に対するプロセスデータの特徴量の寄与度のデータを時系列で表示することができる。
データ収集CPU32は、各装置に係る処理CPUが格納する各種データを取得し、解析CPU33に送信する。また、データ収集CPU32は、解析CPU33で解析した結果を受信する。解析結果には、前述の品質データの予測値及び該予測値に対するプロセスデータの特徴量の寄与度のデータが含まれる。該解析結果は、データ収集CPU32によって全体管理CPU31に送信される。これと同時に又はこれに代えて、データ収集CPU32が、前記解析結果に基づいて、各装置に係る処理CPUに対して制御指令、例えば各装置が行う加工工程に対する設定の変更及び制御の指令を送信するようにしてもよい。なお、データ収集CPU32が各処理CPUに前記設定の変更及び制御の指令を送信する場合、全体管理CPU31は前述の設定の変更及び制御の指令を送信せずに、各装置の動作の管理・監視のみを行うようにしてもよい。ただ、全体管理CPUが品種条件(品種データ)を格納して各装置を管理・監視していることから、該管理・監視の一貫性及び利便性の観点から、全体管理CPU31が前述の設定の変更及び制御の指令を送信することが好ましい。
解析CPU33は、各種CPUからのデータを蓄積する。該データには、第1加工装置処理CPU21、第2加工装置処理CPU22及び第3加工装置処理CPU23が時系列で取得するプロセスデータ、検査装置処理CPU24が時系列で取得する品質データ、全体管理CPU31に格納されている品種条件(品種データ)が含まれる。また、解析CPU33は、連続シート状製品の品質の品質予測モデルの構築及び格納、インラインで連続シート状製品の品質データを予測するための前記品質予測モデルの選定及び該品質予測モデルの利用、並びに品質予測モデルの監視を行う。前記品質予測モデルは、プロセスデータと連続シート状製品の品質データとを結びつけた機械学習モデルであり、プロセスデータの特徴量(X)から連続シート状製品の品質データ(Y)を予測する。詳細は後述する。
上記の品質予測モデルの選定は次のようにして行う。解析CPU33は、予め品種ごとに品質予測モデルを格納しており、インラインにて随時受信されるプロセスデータと、これに対応して全体管理CPU31から送信される品種データとに基づいて、現在製造されている連続シート状製品の品種条件に適合する品質予測モデルを選定する。すなわち、解析CPU33では、品種データ等に基づいて品質予測モデルが自動で切り替わる。
品質予測モデルの構築及び利用において、解析CPU33は、蓄積したデータの前処理(例えば、外れ値の除去、統計値の算出)を行う。また、解析CPU33は、品質予測モデルを利用して、蓄積したデータを基に連続シート状製品の品質データの予測を行う。すなわち、連続シート状製品の品質データの予測値と該予測値における前記プロセスデータの特徴量の寄与度とを算出する。この詳細は後述する。なお、品質予測モデルの利用においては、前処理するデータ(例えばプロセスデータ)は、品質予測対象の連続シート状製品を製造するインラインにて取得するものである。一方、品質予測モデルの構築においては、前処理するデータ(例えばプロセスデータ)は、過去の連続シート状製品の製造において取得し蓄積したデータであってもよい。
また、解析CPU33は、上記の品質予測モデルの利用によって予測した結果の利用可否を判断する。この予測した結果の利用可否の判断の基準となる閾値は解析CPU33に設定しておくことができる。該閾値は、予め設定されていてもよく、インラインで取得する各種のデータに応じて設定、変更できるようにしていてもよい(この点は後述する)。前記予測した結果を利用すると判断した場合に、解析CPU33は、前記予測値における前記プロセスデータの特徴量の寄与の大きさに基づいて、各装置が行う加工工程に対する設定の変更及び制御の指令を発する。各装置は、全体管理CPUの管理・制御の基にて、前述の指令に適合した前記加工工程を実施する。
本実施形態の連続シート状製品の製造方法は、上記の製造装置100を用いて、図2に示すステップS1からステップS5までの工程を実施する。
下記に詳述するステップS1及びステップS2は、加工機の運転速度を基準に実行される。前記「運転速度」は、各加工機(図1においては、第1加工装置11、第2加工装置12、第3加工装置13)を同期させて動かすモータの基準速度である。
前記「運転速度」は、図3に示すように、連続シート状製品の生産に入る前の調整運転期間VIを経て、加工のための速度設定値の100%の運転速度に移行される。すなわち、100%の運転速度に入った段階が生産期間VIIとなる。生産期間VII中の運転速度は、加工のための速度設定値の100%を基本とするが、連続シート状製品の品質や搬送状態、生産量に応じて若干の加減速が生じ得る。その部分も含めて生産期間VIIとなる。その後、運転速度が加工のための速度設定値よりも下回り、その後下降する期間は運転停止期間VIIとなり、生産及び加工機の運転の停止に向かう。
(ステップS1)
まず、ステップS1において、製造方法の始動速度段階における第一指令で、前記連続シート状製品の品質データ及び前記加工工程における複数のプロセスデータをインライン測定により取得開始する。前記「始動速度段階」は、前述の調整運転期間VIの運転速度の段階を意味する。前記第一指令によって、連続シート状製品の生産期間VIIだけではなく調整運転期間VI中のデータも全て取得する。これにより、生産期間VII中以外の運転の状態も確認することができる。また、調整運転期間VI中のデータは、後から可視化することもでき、必要に応じて低運転速度での解析も可能となる。例えば、速度依存のトラブル原因を特定するために利用することができる。すなわち、生産期間VIIの加工速度には到達しない調整運転期間VIの運転速度の範囲にて該運転速度を増減するなどして、連続シート状製品の品質データに影響を与えるプロセスデータを突き止めるのに利用することができる。これは、特に坪量を連続シート状製品の品質データとする場合に有効である。また、連続シート状製品の品種等によって、生産期間VIIの加工速度には到達しない調整運転期間VIで製造しなければならない場合(例えば、連続シート状製品の成形性を確認する場合)にも有効に使用することができる。
前記第一指令は、前述のデータ収集CPU32で作成される指令フラグであり、各処理CPU21~25に送信される。この第一指令は、図3に示すように、加工機の運転速度が0(ゼロ)よりも大きくなる時点(加工機が運転を開始する時点)TA1で発せられることが好ましい。該第一指令は、生産期間VIIの後、加工機の運転速度が0(ゼロ)になる時点TA2で終了することが好ましい。
第一指令を契機に取得を開始した前記連続シート状製品の品質データ及び前記加工工程における複数のプロセスデータは、各処理CPU21~25から時系列でデータ収集CPU32に送信される。
データ収集CPU32にて受信した時系列の品質データ及び複数のプロセスデータと、品種条件(品種データ)とは、解析CPU33に送信され蓄積される。
(ステップS2)
ステップS2において、加工速度段階における第二指令で、前記品質データの特徴量及び前記プロセスデータの特徴量を抽出する。前記「加工速度段階」は、前述の生産期間VIIの運転速度の段階を意味する。すなわち、前記第二指令は、図3に示すように、連続シート状製品の生産期間VIIの段階に入るタイミングで発せられる。第二指令を発することにより、調整運転期間VIの品質データ及び複数のプロセスデータと、生産期間VIIの品質データ及び複数のプロセスデータとを区分して把握することができる。主には、生産期間VIIの品質データ及び複数のプロセスデータから前記特徴量を抽出する。これにより、実際に製造される連続シート状製品の品質データの予測を精度良く行うことができる。またこれと共に、前述のように調整運転期間VIの品質データ及び複数のプロセスデータを解析し、特徴量を抽出するようにしてもよい。なお、上記のようにインラインにて取得する品質データのことを、後述の品質データの予測値に対する「品質データの実測値」ともいう。
第二指令は、前述のデータ収集CPU32で作成される指令フラグであり、解析CPUに送信される。この第二指令は、図3に示すように、加工機の運転速度が、加工のための速度設定値の95%よりも大きくなった時点TA3で発せられることが好ましい。95%以上の速度であれば通常生産されていると判断し、その時点TA3で第二指令を発する。なお、第二指令が発信されて上記の特徴量を抽出している間、速度調整は基本的には行わない。これは、速度調整によって坪量等の連続シート状製品の品質が変動(例えば、増速で坪量減、減速で坪量増や搬送不良などが発生)することを回避するためである。ただし、通常の生産期間に行われる数%の範囲での調整はあり得る。そして、前記第二指令は、加工のための速度設定値の95%以下となった時点TA4で終了することが好ましい。
第二指令が発せられている期間(TA3-TA4)が、特徴量抽出期間Wとなる。
第二指令を契機とする特徴量抽出期間Wにおける特徴量の算出処理は、解析CPU33において行う。ここで言う「特徴量」とは、時系列で蓄積されていく品質データ及び各プロセスデータについて時系列データを任意の時間領域に分割し、変換したデータのことをいう。このような特徴量は、製造する連続シート状製品の品種に応じて算出することが好ましい。
ステップS2の特徴量の算出処理の好ましい態様について、図4に示す具体例を基に説明する。この具体例では、時系列で取得する品質データ及びプロセスデータを、所定の時間領域毎にデータ分割し、時間領域毎の統計値を特徴量として算出する。ただし、本実施形態の連続シート状製品の製造方法における特徴量の算出処理は図4に示すものに限定されるものでなく、連続シート状製品の製造方法における加工工程の内容、装置条件、気象条件、連続シート状製品の品種、原材料の種類等によって適宜変更され得る。
まず、図4(A)に示すように、解析CPU33は、各処理CPU21~25のセンサーによって時系列で取得され蓄積される生データを所定の時間領域(T1、T2、T3、・・・)毎にデータ分割する。すなわち、品質データ及び各プロセスデータを時系列で繋いだ波形データを所定の時間領域毎に分割する。図4(A)において、センサーAのラベルの下に示される波形データは、図1に示す検査装置処理CPU24が備えるセンサーによって取得される連続シート状製品の品質データを示している。また、センサーB~Dのラベルの下に示される波形データは、図1に示す第1加工装置処理CPU21、第2加工装置処理CPU22、第3加工装置処理CPU23それぞれが備えるセンサーによって取得される、各装置における各プロセスデータを示している。なお、取得する生データは図4(A)に示すものに限定されず、連続シート状製品の製造方法における加工工程の内容等によって適宜決めることができる。
上記の所定の時間領域はデータ収集周期や加工速度などに基づいて適宜設定することができ、例えば、データ収集周期が1秒で加工速度が100m/分である場合、時間領域を60秒のようにして設定することができる。この場合、100m毎の特徴量を抽出したことになる。このように時間領域毎に生データを分割することによって、連続シート状製品の任意長毎の特徴を表すことが出来、時間領域が短いほど、短い連続シート状製品長さでの特徴を表している。反対に時間領域が長いほど、長い連続シート状製品長さでの特徴を表している。これにより予測精度は良くなる傾向にある。一方、時間領域が短いほど、予測結果を迅速に反映することが可能である。予測精度と予測結果の迅速な反映との兼ね合いで時間領域が設定される。
また、上記の生データの時間領域毎の分割の後にデータ前処理を行ってもよい。前記データ前処理としては、種々の統計処理方法を用いることができ、例えば、外れ値除去(例えば5σ)、スケーリング等が挙げられる。外れ除去処理により、明らかに異常なデータを除去し、モデルの精度を向上することが出来る上、モデルの学習時間の短縮にもつながる。スケーリングにより、取得した各種データをそれぞれの標準偏差で除して、各変数の重みが同等になるようにする。このようなデータ前処理を行うことにより、次の特徴量の算出の精度を高めることができる。
次いで、図4(B)に示すように各種の特徴量の算出、集計を行う。該特徴量は、時系列で取得され推移していく各種の生データに対して算出される統計量である。具体的には、センサーAにより取得した連続シート状製品の品質データ、及びセンサーB~Dにより取得した各プロセスデータに対して上記の時間領域毎に統計値を算出し、該統計値を特徴量とする。
前記統計値は、例えば、時間領域毎の、最大値(MAX)、最小値(MIN)、最大値と最小値との差(R)、平均値(AVG)、標準偏差(STD)、合計(SUM)、中央値(MED)、個数などがある。その他、差分値、傾き、周波数分析値及び主成分分析値や、特徴量間の積、和、乗、除などが挙げられる。前記「差分値」は、ある時刻に取得したデータから、その前の時刻に取得したデータの差分値を意味する。前記「傾き」は前記差分値を時刻の変化量で割った値を意味する。前記統計値はこれらに限定されず、通常用いられる種々の統計値を用いることができる。最大値(MAX)、最小値(MIN)、平均値(AVG)及び標準偏差(STD)、中央値(MED)を含むことが好ましい。
このようにして特徴量を算出することで、瞬時値にばらつきが生じやすい時系列の各プロセスデータの特徴を適切に捉えて、後述の精度良い品質データの予測を可能にする。
次いで、図4(C)に示すように、分割した時間領域毎に最適な特徴量を抽出する。すなわち、すなわち上記のように算出した統計値の中から、品質データ及び各プロセスデータのデータの形状(波形)の特徴を最も表しているものを適宜選択して抽出する。このとき、同一のセンサーにて取得した1種のプロセスデータの生データから2種以上の統計値を特徴量として抽出するようにしてもよい。
このようにして時間領域毎に、品質データの実測値の特徴量とこれに対応する各プロセスデータの特徴量とを紐づけして解析CPU33に格納する。図4(C)の具体例においては、品質データの実測値の特徴量(YR)は、時間領域(T1、T2、T3)毎に、センサーAにより取得された生データの平均値(AVG)としている。プロセスデータの特徴量(X1、X2、X3、X4、X5、X6)はそれぞれ、時間領域(T1、T2、T3)毎に、センサーBにより取得された生データの標準偏差(STD)と平均値(AVG)、センサーCにより取得された生データの最大値(MAX)と差分値(dif)、センサーDにより取得された生データの中央値(MED)と合計値(SUM)としている。なお、特徴量の抽出は、図4(C)に示すものに限定されず、連続シート状製品の製造方法における加工工程の内容、装置条件、気象条件、連続シート状製品の品種、原材料の種類等によって適宜決めることができる。
また、品質データとプロセスデータでは、同時刻に取得した場合に時間的遅れ(タイムラグ)が発生する。このタイムラグを補正することにより、品質データとプロセスデータとを対応させて整理することが出来、正確なデータ解析が可能となる。なお、このタイムラグ補正は、ステップS1で予め実施してもよい。
このタイムラグ補正は、例えば次のようにして行う。
図1に示す製造装置100においては、プロセスデータは、第1加工装置処理CPU21、第2加工装置処理CPU22及び第3加工装置処理CPU23がそれぞれ、第1加工装置11、第2加工装置12及び第3加工装置13から取得する。品質データは、検査装置処理CPU24が検査装置14から取得する。品質データと各種のプロセスデータとを対応させる場合、検査装置14と、第1加工装置11、第2加工装置12及び第3加工装置13との距離(時間)は、加工機長から算出される。
一例として、第3加工装置13は検査装置14から5分前である。第2加工装置12は検査装置14から10分前である。第1加工装置11は検査装置14から30分前である。
上記の一例において、例えば図5(A)に示すように、連続シート状製品の品質データY40のタイミングにおけるプロセスデータとして、第3加工プロセスデータXC40、第2加工プロセスデータXB40、第1加工プロセスデータXA40が取得される。しかし、これらのプロセスデータはデータY40が観測された製品に対応するデータではない。検査装置14から第3装置13までの製品枚数は5分前である。従って、機械流れの速度(運転速度)に応じて、5分前の時間を遡ったタイミングで取得されるデータXC12が、データY40が観測された製品に対応する第3加工プロセスデータとなる。同様に、第2加工装置12のモータ回転数については、検査装置14から第2加工装置12までの製品枚数10分前の時間を遡ったデータXBが、データY40が観測された製品に対応する第2加工装置12の第2加工プロセスデータとなる。第1加工プロセスデータについては、検査装置14から第1加工装置11までの30分前の時間を遡ったデータXAが、データY40が観測された製品に対応する第1加工プロセスデータとなる。
このようにして、プロセスデータ同士を個々の製品毎に対応させ、時間的遅れを補正することができる。
(ステップS3)
次に、ステップS3において、解析CPU33は、保有する品質予測モデルに基づき下記の予測を行う。すなわち、前記品質予測モデルに基づき、前記プロセスデータの特徴量から、製造される連続シート状製品の品質データを予測して、該品質データの予測値における前記の各プロセスデータの特徴量の寄与度を算出する。
この品質予測モデルは、連続シート状製品の品質データの特徴量を目的変数とし、各装置に係る各プロセスデータの特徴量を説明変数とする、両変数間の品質予測モデルY=F(X)である。この品質予測モデルの構築については後述する。
品質予測モデルは、解析CPU33に複数保有されていることが好ましい。該複数の品質予測モデルは、製造される連続シート状製品の複数の品種に対応するものであることが好ましい。この場合、解析CPU33は、前述のとおり、インラインにて随時受信されるプロセスデータと、これに対応して全体管理CPU31から送信される品種データとに基づいて、現在製造されている連続シート状製品の品種条件に適合する品質予測モデルを選定することが好ましい。
また、運転速度に応じて品質予測モデルを選択するようにしてもよい。解析CPU33は、主には、生産期間VII中の運転速度に対応した品質予測モデルを保有する。ただし、これに限らず、調整運転期間V1中の運転速度に対応した品質予測モデルを保有していてもよい。この場合、例えば、連続シート状製品の品種によって生産期間VIIの加工速度には到達しない調整運転期間VIで製造しなければならない場合(例えば、連続シート状製品の成形性を確認する場合)等に使用することができる。
上記の品質予測モデルを用いて、ステップS2で抽出したプロセスデータの特徴量(X)から、連続シート状製品の品質データを予測する。品質予測モデルを用いて品質データの予測値を算出することにより、前述の連続シート状製品の品質データの実測値の特徴量(YR)では分かり得ない各プロセスデータの特徴量(X)の寄与度(K)が算出される。これにより、寄与度(K)に基づく各加工工程に対する設定の変更及び制御を行うための判断データを取得することができる。
各プロセスデータの特徴量の寄与度(K)は次のようにして算出される。すなわち、前記品質予測モデルにおいては、説明変数であるプロセスデータの特徴量(X)の値と該説明変数の係数とを積算する式により、品質データの予測値が算出される。前記係数は品質予測モデルの構築時に予め算出されている。その各係数とこれに対応する各説明変数とを積算した値が、品質データの予測値(Y)における寄与度になる。例えば、品質予測モデルが3変数の重回帰分析の式「Y=aX1+bX2+cX3」である場合に、予め算出された係数a、b、cに各プロセスデータの特徴量(X1、X2、X3)をそれぞれ積算した前記「aX1」、「bX2」、「cX3」が、品質データの予測値(Y)における寄与度(K)となる。
品質予測モデルを用いて算出した品質データの予測値(Y)と品質データの実測値の特徴量(YR)とは、多少の乖離が生じることがあっても、同様の推移傾向を示す。そのため、品質データの予測値(Y)の内訳である寄与度を分析することにより、品質データの実測値の特徴量(YR)に影響を与える要因を特定することができる。例えば、図6(A)に示すグラフ(横軸:時間、縦軸:品質データ(YR、Y))のように、品質データの実測値の特徴量(YR)の時系列での推移(J1;破線)と品質データの予測値の時系列での推移(J2;実線)とは多少の乖離を有しながらも同様の傾向を示す。そのため、図6(B)に示すように、品質データの予測値(Y)の内側である各プロセスデータの特徴量(X)毎の寄与度(K1、K2、K3)を分析して品質データの実測値の特徴量(YR)に影響を与える要因を特定することができる。
(ステップS4)
ステップS4では、解析CPU33は、上記のステップS3にて行った予測した結果の利用可否を判断する。利用可否の判断には、種々の方法を用いることができる。例えば、予測精度(予測誤差)の変化や、予測値の変化(データドリフト)、説明変数の分散性の確認などがある。特に、高速に加工される連続シート状製品などのシート加工設備において、素早い対応が求められることから、品質データの実測値の特徴量(YR)と各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量とで判断することが好ましい。
上記の各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量は、主成分分析(Principal Component Analysis、PCA)を行って各主成分をスケーリングした後(それぞれの標準偏差で除した後)の、原点からのユーグリッド距離を意味する。原点からの距離が大きい、すなわちT統計量が大きいとき、そのプロセスデータの特徴量はデータ分布から外れているといえる。したがって、T統計量が大きいプロセスデータの特徴量は、連続シート状製品の品質データの予測値(Y)の異常に結びつくプロセスの異常を示すデータとなり得る。一般的に、T統計量が大きい場合には予測モデルを利用できないが、データ間の線形性が強い場合には、T統計量が大きくても利用することが出来る。本実施形態の連続シート状製品の製造方法においては、連続シート状製品設備の系は、データ間の線形性が強くなる傾向にあり、後者に該当し得る。
上記のT統計量は、下記式によって求められる。
Figure 0007509741000001
上記式中、tは第i主成分の主成分値を示し、σは第i主成分の標準偏差を示し、mは考慮する主成分の数を示す。
品質データの実測値の特徴量(YR)と各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量との2つを用いた、予測した結果の利用可否の判断について、図7を参照してより詳細に説明する。
図7に示すように、予測結果利用判断のステップS4は、品質データの実測値の特徴量(YR)が正常か否かを判断する(ステップS41)。異常と判断されれば、次のステップ5の加工工程の設定値の変更及び制御を行う。正常と判断されると、各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量が正常か否かを判断する(ステップS42)。異常と判断されれば、次のステップ5の加工工程の設定値の変更及び制御を行う。ステップS42で正常と判断されると、次のステップ5の加工工程の設定値の変更及び制御にはいかず、現状の加工条件にて連続シート状製品の製造を継続する(ステップS43)。継続する連続シート状製品の製造において、特徴量抽出期間Wにある限りステップS2からステップS4の上記の処理は絶え間なく行い、ステップS41又はステップS42で異常と判断される時点でステップS5の加工工程の設定値の変更及び制御を行う。
以上のように、特徴量抽出期間Wに絶え間なく行われるステップS4の中で、ステップS41及びステップS42によって、品質データの実測値の特徴量(YR)及び各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量のうち少なくともいずれかに異常がある場合に、次のステップ5の加工工程の設定値の変更及び制御を行う。
このように品質データの実測値の特徴量(YR)と各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量との2つの判断基準を用いることにより、迅速で正確な対応が可能となり、次のステップS5での加工工程に対する設定の変更及び制御を誤って操作してしまうことを未然に防ぐことができる。通常は、T統計量のみで判断されることがあるが、本実施形態の連続シート状製品の製造方法においては実測値も常に測定しており、T統計量と実測値の変動とを組み合わせて2段階で確認することにより、加工工程に対する設定の変更及び制御を精度よく迅速に行うことができる。
上記の2段階の判断においては、品質データの実測値の特徴量(YR)及び各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量それぞれの閾値を、判断基準として解析CPU33に設定することが好ましい。該閾値として、各特徴量の上限値及び下限値を設定することが好ましい。
品質データの実測値の特徴量(YR)に関する閾値は、例えば、品質管理目標が規定値の±15%とされている場合、その内側の±10%を上限及び下限の閾値としてもよい。
各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量に関する閾値は適宜設定できる。連続シート状製品の品種データによって、T統計量も変ってくるため、それぞれの品種に合わせたT統計量の閾値設定を設定することが好ましい。例えば、連続シート状製品を製造するインラインで各プロセスデータを時系列で取得していく中で、解析CPU33がこれらのデータを解析して最適な上限及び下限の閾値を設定し、適宜変更することができる。例えば、T統計量の平均値に対して10倍の値などを設定することができる。
(ステップS5)
ステップS5では、前述のとおり、予測した結果を利用すると判断した場合行う。具体的には、品質データの予測値(Y)における各プロセスデータの特徴量(X)の寄与度(K)の大きさに基づいて、前記複数の加工工程のうちの対象となる加工工程に対する設定の変更及び制御を行って、前述の複数の加工工程を実施する。すなわち、加工条件を適宜変更しながら連続シート状製品の製造方法を継続する。
前記寄与度(K)の大きさに基づく前記加工工程に対する設定の変更及び制御は、例えば次のようにして行う。すなわち、前記寄与度(K)の大きさに基づいて、寄与度に関わる各プロセスデータの特徴量(X)の値、もしくは各プロセスデータの特徴量(X)に関連するパラメータを変更することで、該当の加工工程に対する設定の変更及び制御を行う。例えば、前記寄与度(K)がモータ回転数のように、直接制御変更可能な変数である場合は、対象となるモータ回転数を変更すればよい。これにより綿の解繊状態を良好に制御できる。また、前記寄与度(K)が、圧力値のように、直接変更が不可能な変数である場合は、圧力を変更することが可能なパラメータ(例えば吸引風量など)や圧力と相関が高いプロセスパラメータを変更すればよい。
前記加工工程に対する設定の変更及び制御の方法としては種々取り得る。例えば、全体管理CPU31が、解析PU33からデータ収集CPU32を介して各プロセスデータの特徴量(X)の寄与度(K)を受信し、該受信データに基づいて各装置の処理PCUのプロセス値を変更する自動制御を行ってもよい。また、全体管理CPU31にモニターが接続され、該モニターに解析PU33から受信する品質データの予測値(Y)及び各プロセスデータの特徴量(X)の寄与度(K)を表示して、オペレータに操作指示を伝えるようにしてもよい。このとき、品質データの実測値の特徴量(YR)を併せて表示してもよい。モニターに表示する画像は上記の情報を含む種々の形態とすることができ、例えば、図6(A)及び(B)に示すもの、後述の図11に示すものが挙げられる。
また前述のとおり、データ収集CPU32が、解析PU33から各プロセスデータの特徴量(X)の寄与度(K)を受信したあと、該受信データと制御指令とを各装置の処理CPUに直接送信してもよい。このデータは全体管理CPU31も送信されることが好ましい。この場合、全体管理CPU31は、前記制御指令に基づく各装置の処理CPUの設定変更等の動きを監視することが好ましい。
また、ステップS5において、ステップS4の2段階の利用可否の判断プロセス内容に応じて、加工工程に対する設定の変更及び制御の内容を変えるようにしてもよい。すなわち、品質データの実測値の特徴量(YR)が異常と判断された場合と、各プロセスデータの特徴量(X)のT統計量が異常と判断された場合とで、加工工程に対する設定の変更及び制御の内容を変えるようにしてもよい。例えば、品質データの実測値の特徴量(YR)が異常と判断された場合には、既に発生している異常に対する迅速な対応が求められ、寄与度(K)の大きさを設定変更量として設定の変更及び制御を行う。T統計量が異常と判断された場合には、異常発生のシグナルと捉え、寄与度(K)の大きさに対して小さい、例えば寄与度(K)の大きさの半分程度を設定変更量として設定の変更及び制御を行うようにしてもよい。
以上のようにして本実施形態の連続シート状製品の製造方法を実施することにより、連続シート状製品を製造するインラインにおいて、適宜、品質に悪影響を与える要因を修正して、品質が要求性能に合った連続シート状製品を安定的に製造することができる。
また、インラインにおいて、品質データの予測値(Y)とその内訳であるプロセスデータの特徴量(X)の寄与度(K)を適宜算出するため、従来の連続シート状製品の製造方法よりも早くプロセスへの対処が可能となる。また、オペレータの経験値に寄らない設定の変更及び制御ができるので、オペレータの負担を軽減できる。オペレータの経験値に寄らないため、例えば連続シート状製品が不織布である場合の品質を坪量とした場合に、従来の設定の変更及び制御の中心であったカード装置以外の要因、例えば混打綿装置の要因が明確となり、より迅速かつ的確に不織布の品質制御を行うことが可能となる。
更に、プロセスの異常状態を監視して品質予測モデルの利用可否を判断できるので、誤った操作を未然に防ぐことができる。
以上のような対処をインラインで適宜行うことができるため、異常の原因究明やその対処に伴う加工工運転への影響(例えば停止時間等)も大幅に低減でき、品質が要求性能に合った連続シート状製品をより迅速に歩留まり良く製造することができる。
次に、本実施形態の連続シート状製品の製造方法に利用される品質予測モデルの構築工程について、図8を参照して説明する。この品質予測モデルの構築工程は、連続シート状製品の製造方法の実施の前に予め行われる。
(ステップB1、B2)
図8に示すように、ステップB1で品質予測モデルの構築を開始し、ステップB2にて品質予測モデルの構築に必要なデータの取得を行う。該ステップB2は、前述の連続シート状製品の製造方法における(ステップS1)と同様にして行う。これにより、連続シート状製品の品質データ及び加工工程における複数のプロセスデータを時系列で取得し、解析CPU33に格納する。また、全体管理CPU31の格納されている連続シート状製品の品種条件(品種データ)を解析CPU33に格納することが好ましい。
ステップB2において、品質予測モデルの構築に必要なデータ量を確保する観点から、過去に実施された連続シート状製品の製造方法において第1指令に基づいて蓄積されたデータを取得することが好ましい。また、品質データとしては、より短い時間で調整や制御を実施する観点から、インラインにて測定される値であることが好ましい。
(ステップB3)
取得した品質データ及び各プロセスデータ群の中からデータ範囲を指定する。このとき、製造される連続シート状製品の品質データ毎にデータ範囲を指定することが好ましい。
また、品質予測モデルによる予測の精度を高める観点から、データ範囲の指定と同時に、複数のプロセスデータの中から必要なものを適宜選択することが好ましい。
なお、ここで選択されるプロセスデータの種類が、前述の連続シート状製品の製造方法におけるステップS1にて取得されるプロセスデータの種類となる。
(ステップB4)
前述の連続シート状製品の製造方法におけるステップS2と同様にして特徴量の抽出を行う。このとき、時系列で取得する品質データ及び複数のプロセスデータを、所定の時間領域毎にデータ分割し、時間領域毎の統計値を特徴量として算出することが好ましい。該統計値には、種々のものを採用することができ、例えば前述のステップS2にて示したものが挙げられる。前記統計値には、前述の通り、最大値(MAX)、最小値(MIN)、平均値(AVG)及び標準偏差(STD)を含むことが好ましい。
ステップB4においても、前述のステップS2と同様に、主には、第二指令を契機として区分される生産期間VIIの品質データ及び複数のプロセスデータから前記特徴量を抽出する。これにより、精度良い品質予測モデルを構築することができる。またこれと共に、前述のように調整運転期間VIの品質データ及び複数のプロセスデータを解析し、特定量を抽出するようにしてもよい。
また、品質データとプロセスデータでは、前述のように、同時刻に取得した場合に時間的遅れ(タイムラグ)が発生する。これに対し、前述のタイムラグを補正することにより、品質データとプロセスデータとを対応させて整理することが出来、正確なデータ解析が可能となる。なお、このタイムラグ補正は、ステップB1で予め実施してもよい。
(ステップB5)
上記ステップB4にて抽出した特徴量のデータ群から、機械学習により品質予測モデルを構築する。すなわち、連続シート状製品の品質データの特徴量を目的変数とし、各装置に係る各プロセスデータの特徴量(X)を説明変数とする、両変数間の品質予測モデルY=F(X)を構築する。
品質予測モデルの構築にあたっては、種々の回帰アルゴリズムを用いることができる。また、品質予測モデルを構築は、1種の回帰アルゴリズムを用いて行ってもよく、複数の回帰アルゴリズムを用いて行ってもよい。
前記回帰アルゴリズムとしては、各種の線形回帰や各種の非線形回帰が挙げられる。
線形回帰の具体例として、重回帰分析、PLS回帰分析、ラッソ回帰分析、リッジ回帰分析、エラスティックネット回帰分析、sgd回帰分析、サポートベクター回帰分析等が挙げられる。
非線形回帰の具体例として、非線形サポートベクター回帰分析、カーネルリッジ回帰分析、ランダムフォレスト回帰分析、MLP回帰分析等が挙げられる。
(ステップB6)
上記ステップB5にて作成される品質予測モデルの中から、最良のものを選択する。最良の品質予測モデルを選択するにあたり、種々のスコアを指標として用いることが好ましい。
前記スコアは例えば、R(決定係数)、R(相関係数)、MSE(Mean Square Error)、RMSE(Root Mean Square Error)、MAE(Mean Absolute Error)、AIC(Akaike’s Information Criterion)、BIC(Bayesian Information Criterion)等が挙げられる。
選択基準としては、例えば、スコアが一定基準を満たすかどうか(例えばR>0.6)を一つの尺度として採択してもよい。この選択基準を満たす説明変数であるプロセスデータの組み合わせとして、回帰係数の上位の変数を選択するようにしてもよい。
ステップB6において、スコアを用いるなどして品質予測モデルの予測精度を確認し、再構築が必要か否かを判断する。再度構築が必要と判断すれば、ステップB3に戻る。すなわち、上記のステップB3~B5は、トライアンドエラーで実施しながら予測精度が高い品質予測モデルを構築するまで繰り返す。ステップB3に戻ると、プロセスデータの選択をしながら、データ範囲の指定を行う。プロセスデータの選択は、トライアンドエラーで行いながら、上記のスコアによる予測精度との兼ね合いで行うこととなる。
(ステップB7)
上記のステップB6において予測精度を確認して、本実施形態の連続シート状製品の製造方法において用いる品質予測モデルを選択できれば、品質予測モデル構築を終了する。
前記品質予測モデルは、前述のとおり製造される連続シート状製品の品種データ毎に複数構築されることが好ましい。また、前述のとおり、生産期間VII中の運転速度に対応した品質予測モデルのみならず、調整運転期間V1中の運転速度に対応した品質予測モデルが構築されてもよい。このようにして複数の品質予測モデルが解析CPU33に格納されることが好ましい。
また、本実施形態の連続シート状製品の製造方法においてインラインで取得する各種データは、一度構築された品質予測モデルにフィードバックされて、該品質予測モデルを適宜バージョンアップするようにしてもよい。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳しく説明するが、本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
図1に示す連続シート状製品の製造装置100の具体例として、不織布の製造装置を用いて、品質予測モデルを構築し、該品質予測モデルを用いてエアスルー不織布の製造方法を実施した。不織布の製造装置において、図1に示す第1加工装置11は混打綿装置、第2加工装置はカード装置、第3加工装置は熱処理装置とした。
品質予測モデルの構築のためのデータ蓄積期間を6か月とした。加工機の運転速度が0よりも大きくなった時点で第一指令を発してデータを取得開始し、加工のための速度設定値の95%超となった時点で第二指令を発して特徴量を抽出した。
データ取得時間を1秒毎、特徴量抽出のための時間領域分割を1分毎とした。品質予測モデルにおける品質データの特徴量を不織布の坪量の平均値とし、プロセスデータの特徴量を上記の製造装置100における混打綿装置(第1加工装置11)とカード装置(第2加工装置12)から取得する、計200変数から選定し、それぞれに対して、標準偏差で除算するスケーリングを行った。モデル構築には、重回帰分析、PLS回帰分析、ラッソ回帰分析、リッジ回帰分析、エラスティックネット回帰分析、sgd回帰分析、サポートベクター回帰分析等を用いて、予測精度を比較した。構築したモデルの中で最も予測精度の高かった、ラッソ回帰分析を用いた。モデルの係数が高い上位変数として、混打綿装置(第1加工装置11)から取得する9変数及びカード装置(第2加工装置12)から取得する7変数の合計16変数それぞれの平均値を説明変数とし、実施例の不織布の品種に対応する品質予測モデルを作成し、該品質予測モデルを実施例における不織布の製造方法における品質予測モデルとして決定した。ラッソ回帰モデルの決定係数はR2=0.60であり、予測精度は十分であった。
実施例において、上記の不織布の製造方法の実施にあたり、上記の品質予測モデルを用いたインライン予測の期間を3日間とした。
不織布の製造方法の実施中に、インラインにて上記と同様のデータ取得(ステップS1)及び特徴量抽出(ステップS2)を行った。同時にインラインにて、随時、不織布の品種に対応する上記の品質予測モデルに基づいて、前記品質データの特徴量及び前記プロセスデータの特徴量から、不織布の品質データの予測値と該予測値における前記の各プロセスデータの特徴量の寄与度を算出した(ステップS3)。
その結果は、図9及び図10に示される通りであった。図9に示すように、第1日目から第3日目までの3日間において、品質データの実施値と予測値とが同様の推移傾向を示した。図10(A)は前記第1日目の品質データの実施値及び予測値の推移であり、図10(B)は、第1日目最初の時間帯の品質データの予測値における各プロセスデータの特徴量の寄与度を示している。図10(B)に示すように、従来のカーディング工程を行うカード装置(第2加工装置12)の速度だけでなく、その前工程(開梱・調合・開繊する工程)を行う混打綿装置(第1加工装置11)の速度が、不織布の坪量品質の決定に大きく寄与していることが分かった。なお、図10(B)に記載の「混打綿A速度」、「混打綿B速度」とはそれぞれ、カード工程直前の綿を供給する混打綿装置内の2か所のロール速度を意味する。
次いで、ステップS4(予測した結果の利用可否の判断)とステップS5(加工工程に対する設定の変更及び制御)を行った。品質データの特徴量の閾値は、規定坪量値に対して±11%とした。
図11に示すように、品質データの特徴量が前記閾値を越えて異常と判断される時点(P1及びP2)、品質データの特徴量は正常だが、各プロセスデータの特徴量のT統計量が前記閾値を超えて異常と判断される時点(Q2~Q4、Q6、Q7)において、加工工程に対する設定の変更及び制御を行った。具体的には、前述の寄与度の大きさに基づいて、混打綿工程のモータ回転数の変更及び制御を行った。
以上のステップS1~S5を行いながら実施例1の不織布の製造方法を行った。この不織布の製造方法により、インラインにおいて加工工程に対する設定の変更及び制御の要否を都度判断して迅速に対処し、品質が要求性能に合った不織布を安定的に製造することができた。また、従来から設定変更の対象であったカード装置(第2加工装置12)の速度だけでなく、その前工程に位置する混打綿装置(第1加工装置11)の速度が坪量変動の大きな要因であることが判明した。そのため、混打綿装置装置(第1加工装置11)の設定の変更及び制御をも行って、より迅速かつ的確に坪量制御を行って、品質が要求性能に合った不織布を安定的に製造することができた。
11 第1加工装置
12 第2加工装置
13 第3加工装置
14 検査装置
15 巻取装置
21 第1加工装置処理CPU
22 第2加工装置処理CPU
23 第3加工装置処理CPU
24 検査装置処理CPU
25 巻取装置処理CPU
31 全体管理CPU
32 データ収集CPU
33 解析CPU
100 製造装置

Claims (9)

  1. 複数の加工工程を実施する連続シート状製品の製造方法であって、
    連続シート状製品の品質回帰予測モデルを構築する工程と、前記品質回帰予測モデルを利用して品質を予測する工程を含み、
    前記品質回帰予測モデルを構築する工程は、
    前記製造方法の、始動速度段階における第一指令で、前記連続シート状製品の品質データ及び前記加工工程における複数のプロセスデータをインライン測定により取得開始し、
    前記取得したデータから、データ範囲を指定すると共に、前記品質回帰予測モデルの構築に必要なデータを選択し、
    加工速度段階における第二指令で、前記品質データの特徴量及び前記プロセスデータの特徴量を抽出し、
    前記特徴量のデータ群から、回帰アルゴリズムを用いて、機械学習により品質回帰予測モデルを構築し、
    前記品質回帰予測モデルの中から最良なものを選択し、
    前記選択したモデルを格納する、ことを特徴とし、
    前記品質回帰予測モデルは、製造される連続シート状製品の品種データ毎に構築されて格納され、
    前記品質回帰予測モデルを利用して品質を予測する工程は、
    前記製造方法の、始動速度段階における第一指令で、前記連続シート状製品の品質データ及び前記加工工程における複数のプロセスデータをインライン測定により取得開始し、加工速度段階における第二指令で、前記品質データの特徴量及び前記プロセスデータの特徴量を抽出し、
    前記格納された品質回帰予測モデルの中から連続シート状製品の品種条件に適合するものを選定し、該選定した品質回帰予測モデルに基づき、前記プロセスデータの特徴量から、製造される連続シート状製品の品質データを予測して、該品質データの予測値における前記の各プロセスデータの特徴量の寄与度を算出し、
    予測した結果の利用可否を判断し、該予測した結果を利用すると判断した場合に、前記予測値における前記プロセスデータの特徴量の寄与度の大きさに基づいて、前記複数の加工工程のうちの対象となる加工工程に対する設定の変更及び制御を行って、前記複数の加工工程を実施する、連続シート状製品の製造方法。
  2. 前記第一指令は、加工機の運転速度が0よりも大きくなる時点で発せられる、請求項1記載の連続シート状製品の製造方法。
  3. 前記第二指令は、加工機の運転速度が、加工のための速度設定値の95%よりも大きくなった時点で発せられる、請求項1又は2記載の連続シート状製品の製造方法。
  4. 前記予測した結果の利用判断は、前記品質データの実測値の特徴量と前記プロセスデータの特徴量のT統計量とで判断する、請求項1~3のいずれか1項に記載の連続シート状製品の製造方法。
  5. 前記回帰アルゴリズムが、線形回帰又は非線形回帰である、請求項1~4のいずれか1項に記載の連続シート状製品の製造方法。
  6. 前記品質回帰予測モデルを利用して品質を予測する工程においてインラインで取得する前記品質データ及び前記プロセスデータを前記品質回帰予測モデルにフィードバックして、該品質回帰予測モデルをバージョンアップする、請求項1~5のいずれか1項に記載の連続シート状製品の製造方法。
  7. 前記品質回帰予測モデルの構築段階及び該品質回帰予測モデルを利用して予測を行う段階において、時系列で取得する品質データ及びプロセスデータを、所定の時間領域毎にデータ分割し、時間領域毎の統計値を特徴量として算出する、請求項1~6のいずれか1項に記載の連続シート状製品の製造方法。
  8. 前記時間領域毎の統計値は、前記品質データ及び前記プロセスデータの最大値、最小値、平均値、標準偏差を含む、請求項7記載の連続シート状製品の製造方法。
  9. 前記連続シート状製品が不織布である、請求項1~8のいずれか1項に記載の連続シート状製品の製造方法。
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