JP7492112B2 - 方向性電磁鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、方向性電磁鋼板に関する。
方向性電磁鋼板は、Siを7質量%以下含有し、{110}<001>方位(Goss方位)に集積した二次再結晶集合組織を有する。なお、{110}<001>方位とは、結晶の{110}面が圧延面と平行に配し、且つ結晶の<001>軸が圧延方向と平行に配することを意味する。
方向性電磁鋼板の磁気特性は、{110}<001>方位への集積度に大きく影響される。特に、鋼板の使用時に主たる磁化方向となる鋼板の圧延方向と、磁化容易方向である結晶の<001>方向との関係が重要と考えられている。そのため、近年の実用の方向性電磁鋼板では、結晶の<001>方向と圧延方向とがなす角が5゜程度の範囲内に入るように、制御されている。
方向性電磁鋼板の実際の結晶方位と理想的な{110}<001>方位とのずれは、圧延面法線方向Z周りにおけるずれ角α、圧延直角方向C周りにおけるずれ角β、および圧延方向L周りにおけるずれ角γの3成分により表すことができる。
図1は、ずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γを例示する模式図である。図1に示すように、ずれ角αとは、圧延面法線方向Zから見たときに圧延面に射影した結晶の<001>方向と圧延方向Lとがなす角である。ずれ角βは、圧延直角方向C(板幅方向)から見たときにL断面(圧延直角方向を法線とする断面)に射影した結晶の<001>方向と圧延方向Lとがなす角である。ずれ角γは、圧延方向Lから見たときにC断面(圧延方向を法線とする断面)に射影した結晶の<110>方向と圧延面法線方向Zとがなす角である。
ずれ角α、β、γのうち、ずれ角βは、磁歪に影響を与えることが知られている。なお、磁歪とは、磁性体が磁場印加によって形状変化する現象である。変圧器のトランスなどに用いられる方向性電磁鋼板では、磁歪が振動・騒音の原因となる。方向性電磁鋼板では、磁歪が小さいこと、すなわち、騒音が小さいことが求められている。
例えば、特許文献1~3には、ずれ角βを制御することが開示されている。また、ずれ角βに加えて、ずれ角αを制御することが、特許文献4および5に開示されている。さらに、ずれ角α、ずれ角β、およびずれ角γを指標として用い、結晶方位の集積度をさらに詳細に分類して鉄損特性を向上する技術が特許文献6に開示されている。
また、ずれ角α、β、γの絶対値の大きさ及び平均値を単に制御するだけでなく、変動(偏差)を含めて制御することが、例えば特許文献7~9に開示されている。さらに、特許文献10~12には、方向性電磁鋼板にNbやVなどを添加することが開示されている。
また、方向性電磁鋼板は、騒音に加えて磁束密度にも優れることが求められている。これまで、二次再結晶における結晶粒の成長を制御して磁束密度の高い鋼板を得る方法などが提案されている。例えば、特許文献13および14には、仕上げ焼鈍工程にて、一次再結晶粒を蚕食しつつある二次再結晶粒の先端領域で、鋼板に温度勾配を与えながら二次再結晶を進行させる方法が開示されている。
温度勾配を用いて二次再結晶粒を成長させた場合、粒成長は安定するものの、結晶粒が過度に大きくなりすぎることがある。結晶粒が過度に大きくなれば、コイルによる曲率の影響で磁束密度の向上効果が阻まれてしまうことがある。例えば、特許文献15には、温度勾配を与えながら二次再結晶を進行させる際に、二次再結晶の初期に発生した二次再結晶の自由な成長を抑制する処理(例えば鋼板の幅方向の端部に機械的な歪みを加える処理)が開示されている。
また、方向性電磁鋼板は、騒音および磁束密度に加えて鉄損にも優れることが求められている。これまで、方向性電磁鋼板に対して、局所的な歪を付与するか、局所的な溝を形成するかによって、磁区を細分化して鉄損を改善する方法などが提案されている。例えば、特許文献16には、極小集光されたレーザービームの走査照射によって鋼板に歪を付与して鉄損を低減する方法が開示されている。特許文献17には、鋼板表面に複数の溝を形成して鉄損を低減する方法が開示されている。
日本国特開2001-294996号公報 日本国特開2005-240102号公報 日本国特開2015-206114号公報 日本国特開2004-060026号公報 国際公開第2016/056501号 日本国特開2007-314826号公報 日本国特開2001-192785号公報 日本国特開2005-240079号公報 日本国特開2012-052229号公報 日本国特開昭52-024116号公報 日本国特開平02-200732号公報 日本国特許第4962516号公報 日本国特開昭57-002839号公報 日本国特開昭61-190017号公報 日本国特開平02-258923号公報 国際公開第2004/083465号公報 国際公開第2016/171129号公報
方向性電磁鋼板は様々な変圧器の鉄心素材として使用される。例えば、柱上変圧器など比較的小型の変圧器では、変圧器をさらに小型にすることが要求されている。これに伴い、方向性電磁鋼板に対しては、高磁場領域への対応が要望され、高磁場での磁気特性をさらに向上させることが必要となっている。
本発明者らが検討した結果、特許文献1~9により開示された従来の技術は、結晶方位を制御しているにも関わらず、特に、高磁場での騒音の低減が十分とは言えない。
また、特許文献10~12により開示された従来の技術は、単にNb及びVを含有させただけであるため、高磁場での騒音の低減は十分とは言えない。さらに、特許文献13~15により開示された従来の技術は、生産性の観点で問題があるばかりでなく、高磁場での騒音の低減が十分とは言えない。
また、特許文献16および17により開示された従来の技術は、鋼板に歪を付与することで又は溝を形成することで鉄損低減を試みているが、騒音については十分に検討していない。例えば、従来から、歪の付与または溝の形成による磁区制御を行えば、騒音が増大することが知られている。特許文献16および17では、磁区制御に起因する騒音の増大について十分に検討していない。さらに、磁区制御した場合には磁歪特性と騒音特性との相関が弱くなるため、磁歪を低くしたにも関わらず、騒音が必ずしも改善しない場合があった。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされた。本発明は、騒音の低減が方向性電磁鋼板に求められている現状を踏まえ、騒音を改善した方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。特に、高磁場領域(1.9T程度の磁場)での騒音を改善した方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。
さらに、本発明は、高磁場領域での騒音を改善した上で、磁区制御を行っても(歪の付与または溝の形成を行っても)騒音が増大しにくい方向性電磁鋼板を提供することを課題とする。
本発明の要旨は、次のとおりである。
(1)本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板は、Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、
前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
Si:2.0~7.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%、
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、
Ni:0~1.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ)および(α β γ)と表し、
境界条件BAを|γ-γ|≧0.5°と定義し、
境界条件BBを[(α-α+(β-β+(γ-γ1/2≧2.0°と定義するとき、
前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する。
(2)本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板は、Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、
前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
Si:2.0~7.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%、
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、
Ni:0~1.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ )および(α β γ )と表し、
境界条件BAを|γ -γ |≧0.5°と定義し、
境界条件BBを[(α -α +(β -β +(γ -γ 1/2 ≧2.0°と定義するとき、
前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する。
(3)本発明の一態様に係る方向性電磁鋼板は、Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、
前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
Si:2.0~7.0%、
Nb:0~0.030%、
V:0~0.030%、
Mo:0~0.030%、
Ta:0~0.030%、
W:0~0.030%、
C:0~0.0050%、
Mn:0~1.0%、
S:0~0.0150%、
Se:0~0.0150%、
Al:0~0.0650%、
N:0~0.0050%、
Cu:0~0.40%、
Bi:0~0.010%、
B:0~0.080%、
P:0~0.50%、
Ti:0~0.0150%、
Sn:0~0.10%、
Sb:0~0.10%、
Cr:0~0.30%、
Ni:0~1.0%、
を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ )および(α β γ )と表し、
境界条件BAを|γ -γ |≧0.5°と定義し、
境界条件BBを[(α -α +(β -β +(γ -γ 1/2 ≧2.0°と定義するとき、
前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する。
)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.5以上であってもよい。
)上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、圧延方向の磁束密度Bが、単位Tで、1.910以上であり、
鉄損W17/50が、単位W/kgで、鋼板の板厚を単位mmでtとしたとき、0.71+0.02×(t-0.22)以下であり、
1.9Tでの磁歪速度レベルLvaが、単位dBで、54以下であってもよい。
)上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記化学組成として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030~0.030質量%含有してもよい。
(7)上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
前記粒径RAと前記粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たしてもよい。
(8)上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
前記粒径RBと前記粒径RBとが、1.50≦RB÷RBを満たしてもよい。
(9)上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板では、前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
前記粒径RAと前記粒径RAと前記粒径RBと前記粒径RBとが、
(RB×RA)÷(RB×RA)<1.0を満たしてもよい。
本発明の上記態様によれば、高磁場領域(特に1.9T程度の磁場)での騒音を改善した方向性電磁鋼板が得られる。
特に、本発明の上記態様によれば、高磁場領域での騒音を改善した上で、磁区制御を行っても騒音が増大しにくい方向性電磁鋼板が提供される。
ずれ角α、ずれ角β、およびずれ角γを例示する模式図である。 本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の断面模式図である。 本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の流れ図である。
本発明の好ましい一実施形態を詳細に説明する。ただ、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、下記する数値限定範囲には、下限値及び上限値がその範囲に含まれる。「超」または「未満」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。
一般的に、騒音を小さくするには、ずれ角βが小さくなるように(具体的には、ずれ角βの絶対値|β|の最大値および平均値が小さくなるように)、結晶方位が制御される。実際に、これまで、磁化する際の磁界の強さが、一般的に磁気特性を測定する際の磁界の強さである1.7T近傍の磁場領域(以降、単に「中磁場領域」と記述することがある)では、ずれ角βと騒音との相関は比較的高いことが確認されている。
さらに、本発明者らは、騒音が比較的良好な材料について、結晶方位と騒音との関係を詳細に調査した。その結果、ずれ角βに加え、ずれ角γが騒音に影響を及ぼすことを見出した。特に、ずれ角γが騒音を改善する状況を調査したところ、その挙動が1.9Tでの磁歪速度レベル(Lva)で評価できることを知見した(磁歪速度レベルについては詳しく後述する)。そして、この挙動を最適に制御できれば、変圧器の騒音のさらなる低減が可能であると考えた。
なお、方向性電磁鋼板では、磁化容易軸である<001>方位が圧延方向に一致することが優先され、圧延方向L周りの結晶回転によって生じるずれ角γは、磁気特性へ与える影響が小さいと考えられてきた。そのため、一般的な方向性電磁鋼板は、主にずれ角αおよびずれ角βに関して、精緻な方位制御がなされた二次再結晶粒の核を発生させ、その結晶方位を保ったまま粒成長させるように製造されてきた。一般に、上記のようにずれ角αおよびずれ角βを制御した上で、さらに、ずれ角γを精緻に制御することは困難であると思われていた。
そこで、本発明者らは、二次再結晶粒の成長の段階で結晶方位を保ったまま成長させるのではなく、方位変化を伴いながら結晶を成長させることを検討した。その結果、二次再結晶粒の成長の途中で、従来は粒界と認識されなかったほどの局所的で小傾角な方位変化を多数発生させ、一つの二次再結晶粒をずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割した状態が、高磁場領域での騒音低減に有利となることを知見した。
また、上記の方位変化の制御には、方位変化自体を発生し易くする要因と、方位変化が一つの結晶粒の中で継続的に発生するようにする要因との考慮が重要であることを知見した。そして、方位変化自体を発生し易くさせるためには、二次再結晶をより低温から開始させることが有効で、例えば、一次再結晶粒径を制御し、Nb等の元素を活用できることを確認した。さらに、従来から用いられるインヒビターであるAlNなどを適切な温度および雰囲気中で利用することによって、方位変化を二次再結晶中の一つの結晶粒の中で高温領域まで継続的に発生させることができることを確認した。
さらに、本発明者らは、上記した方位制御による高磁場騒音の低減に加えて、磁区制御を行っても騒音の増大を抑制することを検討した。従来知見によれば、鋼板に歪を付与するか又は溝を形成すれば磁区が細分化されて鉄損が低減することが期待されるが、一方、歪の付与または溝の形成によって騒音が増大することが懸念される。
ただ、本発明者らは、上記した方位変化の制御を行った場合には、これまで粒界と認識されなかったほどの局所的で小傾角な方位変化が一つの二次再結晶粒内で多数発生した状態となるので(すなわち、従来とは異なる材料構造となるので)、歪の付与または溝の形成に起因する騒音の増大に対して、従来知見が当てはまらないと考えた。そこで、本発明者らは、上記した方位変化の制御を行った上で、鋼板に歪を付与したときの又は溝を形成したときの騒音特性を詳細に検討した。
その結果、上記した方位変化の制御を行った場合には、従来知見とは異なって、鋼板に歪を付与しても又は溝を形成しても、騒音の増大を抑制できる場合があることを知見した。具体的には、上記した方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒をさらに小さな領域に分割すれば、歪の付与または溝の形成に起因する騒音の増大を抑制できることを知見した。
すなわち、本発明者らは、方位変化の制御を行うことで高磁場領域での騒音を改善し、二次再結晶粒をさらに小さな領域に分割することで磁区制御されても騒音の増大を抑制できることを知見した。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒が、ずれ角γがわずかに異なる複数の領域に分割されている。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒の粒界に相当する比較的に角度差が大きい粒界に加えて、二次再結晶粒内を分割している局所的で小傾角な粒界を有する。
加えて、この第1実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒の粒界に相当する比較的に角度差が大きい粒界数と、二次再結晶粒内を分割している局所的で小傾角な粒界数とを、特定範囲内に制御する。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板であって、
質量%で、Si:2.0~7.0%、Nb:0~0.030%、V:0~0.030%、Mo:0~0.030%、Ta:0~0.030%、W:0~0.030%、C:0~0.0050%、Mn:0~1.0%、S:0~0.0150%、Se:0~0.0150%、Al:0~0.0650%、N:0~0.0050%、Cu:0~0.40%、Bi:0~0.010%、B:0~0.080%、P:0~0.50%、Ti:0~0.0150%、Sn:0~0.10%、Sb:0~0.10%、Cr:0~0.30%、Ni:0~1.0%、を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。
また、圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、圧延直角方向(板幅方向)Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、並びに、
板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角をそれぞれ(α β γ)および(α β γ)と表し、境界条件BAを|γ-γ|≧0.5°と定義し、境界条件BBを[(α-α+(β-β+(γ-γ1/2≧2.0°と定義するとき、
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記境界条件BBを満足する粒界(二次再結晶粒界に相当する粒界)に加えて、上記境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を有し、且つ境界条件BAを満足する境界数を、境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上となる。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する。
境界条件BBを満足する粒界は、従来の方向性電磁鋼板をマクロエッチングしたときに観察される二次再結晶粒界に実質的に対応する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記の境界条件BBを満足する粒界に加えて、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界を比較的高い頻度で有する。この境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界は、二次再結晶粒内を分割している局所的で小傾角な粒界に対応する。すなわち、本実施形態では、二次再結晶粒が、ずれ角γがわずかに異なる小さな領域により細かく分割された状態となる。
従来の方向性電磁鋼板は、境界条件BBを満足する二次再結晶粒界を有するかもしれない。また、従来の方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒の粒内でずれ角γの変位を有しているかもしれない。ただ、従来の方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒内でずれ角γが連続的に変位する傾向が強いため、従来の方向性電磁鋼板に存在するずれ角γの変位は、上記の境界条件BAを満足しにくい。
例えば、従来の方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒内の長範囲領域でずれ角γの変位を識別できるかもしれないが、二次再結晶粒内の短範囲領域ではずれ角γの変位が微小なために識別しにくい(境界条件BAを満足しにくい)。一方、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、ずれ角γが短範囲領域で局所的に変位して粒界として識別できる。具体的には、二次再結晶粒内で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点の間に、|γ-γ|の値が0.5°以上となる変位が比較的高い頻度で存在する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、後述するように製造条件を緻密に制御することによって、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を意図的に作り込む。本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒がずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割された状態となり、高磁場領域での騒音が低減される。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAを満足する境界数を、境界条件BBを満足する境界数で割った値が1.3以上となるように制御する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記したように材料構造が従来とは異なるので、騒音特性に関する従来知見も当てはまらず、鋼板が局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を詳しく説明する。
1.結晶方位
まず、本実施形態における結晶方位の記載を説明する。
本実施形態では、「実際の結晶の{110}<001>方位」と「理想的な{110}<001>方位」との2つの{110}<001>方位を区別する。この理由は、本実施形態では、実用鋼板の結晶方位を表示する際の{110}<001>方位と、学術的な結晶方位としての{110}<001>方位とを区別して扱う必要があるためである。
一般的に再結晶した実用鋼板の結晶方位の測定では、±2.5°程度の角度差は厳密に区別せずに結晶方位を規定する。従来の方向性電磁鋼板であれば、幾何学的に厳密な{110}<001>方位を中心とする±2.5°程度の角度範囲域を、「{110}<001>方位」とする。しかし、本実施形態では、±2.5°以下の角度差も明確に区別する必要がある。
このため、本実施形態では、実用的な意味で方向性電磁鋼板の方位を意味する場合には、従来通り、単に「{110}<001>方位(Goss方位)」と記載する。一方、幾何学的に厳密な結晶方位としての{110}<001>方位を意味する場合には、従来の公知文献などで用いられる{110}<001>方位との混同を回避するため、「理想{110}<001>方位(理想Goss方位)」と記載する。
したがって、本実施形態では、例えば、「本実施形態に係る方向性電磁鋼板の{110}<001>方位は、理想{110}<001>方位から2°ずれている」との記載が存在することがある。
また、本実施形態では、方向性電磁鋼板で観測される結晶方位に関連する以下の4つの角度α、β、γ、φを使用する。
ずれ角α:方向性電磁鋼板で観測される結晶方位の、圧延面法線方向Z周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
ずれ角β:方向性電磁鋼板で観測される結晶方位の、圧延直角方向C周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
ずれ角γ:方向性電磁鋼板で観測される結晶方位の、圧延方向L周りにおける理想{110}<001>方位からのずれ角。
上記のずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γの模式図を、図1に示す。
角度φ:方向性電磁鋼板の圧延面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位の上記ずれ角を、それぞれ(α、β、γ)および(α、β、γ)と表したとき、φ=[(α-α+(β-β+(γ-γ1/2により得られる角度。
この角度φを、「空間3次元的な方位差」と記述することがある。
2.方向性電磁鋼板の結晶粒界
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、ずれ角γを制御するために、特に、二次再結晶粒の成長中に起こる、従来では、粒界とは認識されなかった程度の局所的な結晶方位の変化を利用する。以降の説明では、一つの二次再結晶粒内をずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割するように生じる上記の方位変化を「切り替え」と記述することがある。
さらに、ずれ角γの角度差を考慮した結晶粒界(境界条件BAを満足する粒界)を「γ粒界」、γ粒界を境界として区別した結晶粒を「γ結晶粒」と記述することがある。
また、本実施形態に関連する特性である1.9Tで励磁した際の磁歪速度レベル(Lva)に関して、以降の説明では、単に「高磁場(での)騒音」と記述することがある。
上記の切り替えは、結晶方位の変化が1°程度(2°未満)であり、二次再結晶粒の成長が継続する過程で発生すると考えられる。詳細は、製造法との関連で後述するが、切り替えが発生し易い状況で二次再結晶粒を成長させることが重要である。例えば、一次再結晶粒径を制御することで二次再結晶を比較的低温で開始させ、インヒビターの種類と量とを制御することで二次再結晶を高温まで継続させることが重要である。
ずれ角γの制御が高磁場騒音に影響を及ぼす理由は必ずしも明確ではないが、以下のように推定される。
二次再結晶が完了した方向性電磁鋼板では結晶方位がGoss方位に制御されているが、実際には、結晶粒界を挟む両側の結晶粒でわずかに結晶方位が異なる。そのため、方向性電磁鋼板を励磁した際には、結晶粒界近傍に、磁区構造を調整するための特別な磁区(還流磁区)が誘発される。この還流磁区では、磁区内の磁気モーメントが外部磁場の方向に揃いにくく、そのため、還流磁区が磁化過程で高磁場領域まで残存して磁壁の移動を抑制する。一方、結晶粒界近傍での還流磁区の発生を少なくできれば、高磁場領域で鋼板全体の磁化が容易に進行し、その結果、騒音の低減につながると考えられる。結晶粒界では結晶方位の不連続性に起因して還流磁区が誘発されるが、本実施形態では、切り替えを伴う比較的緩やかな方位変化によって、粒界近傍での結晶方位変化が緩やかになり、その結果、還流磁区の生成が抑制されると考えられる。
本実施形態では、切り替えを含めた結晶方位の変化に関して、2種類の境界条件を規定する。本実施形態では、これらの境界条件に基づく「粒界」の定義が重要である。
現在、実用的に製造されている方向性電磁鋼板の結晶方位は、圧延方向と<001>方向とのずれ角が、概ね5°以下となるよう制御されている。この制御は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板でも同様である。このため、方向性電磁鋼板の「粒界」を定義するとき、一般的な粒界(大傾角粒界)の定義である「隣接する領域の方位差が15°以上となる境界」を適用することができない。例えば、従来の方向性電磁鋼板では、鋼板面のマクロエッチングにより粒界を顕出するが、この粒界の両側領域の結晶方位差は通常、2~3°程度である。
本実施形態では、後述するように、結晶と結晶との境界を厳密に規定する必要がある。このため、粒界の特定法として、マクロエッチングのような目視をベースとする方法は採用しない。
本実施形態では、粒界を特定するために、圧延面上に1mm間隔で少なくとも500点の測定点を含む測定線を設定して結晶方位を測定する。例えば、結晶方位は、X線回折法(ラウエ法)により測定すればよい。ラウエ法とは、鋼板にX線ビームを照射して、透過または反射した回折斑点を解析する方法である。回折斑点を解析することによって、X線ビームを照射した場所の結晶方位を同定することができる。照射位置を変えて複数箇所で回折斑点の解析を行えば、各照射位置の結晶方位分布を測定することができる。ラウエ法は、粗大な結晶粒を有する金属組織の結晶方位を測定するのに適した手法である。
なお、結晶方位の測定点は少なくとも500点であればよいが、二次再結晶粒の大きさに応じて、測定点を適切に増やすことが好ましい。例えば、結晶方位を測定する測定点を500点としたときに測定線内に含まれる二次再結晶粒が10個未満となる場合、測定線内に二次再結晶粒が10個以上含まれるように1mm間隔の測定点を増やして上記の測定線を延長することが好ましい。
圧延面上にて1mm間隔で結晶方位を測定し、その上で、各測定点に関して、上記したずれ角α、ずれ角β、及びずれ角γを特定する。特定した各測定点でのずれ角に基づいて、隣接する2つの測定点間に粒界が存在するか否かを判断する。具体的には、隣接する2つの測定点が、上記の境界条件BAおよび/または境界条件BBを満足するか否かを判断する。
具体的には、隣接する2つの測定点で測定した結晶方位のずれ角をそれぞれ(α、β、γ)および(α、β、γ)と表したとき、境界条件BAを|γ-γ|≧0.5°と定義し、境界条件BBを[(α-α+(β-β+(γ-γ1/2≧2.0°と定義する。隣接する2つの測定点間に、境界条件BAおよび/または境界条件BBを満足する粒界が存在するか否かを判断する。
境界条件BBを満足する粒界は、粒界を挟む2点間の空間3次元的な方位差(角度φ)が2.0°以上であり、この粒界は、マクロエッチングで認識されていた従来の二次再結晶粒の粒界とほぼ同じであると言える。
上記の境界条件BBを満足する粒界とは別に、本実施形態に係る方向性電磁鋼板には、「切り替え」に強く関連する粒界、具体的には、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界が比較的高い頻度で存在する。このように定義される粒界は、一つの二次再結晶粒内をずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割する粒界に対応する。
上記した2つの粒界は、別の測定データを使用して求めることも可能である。ただ、測定の手間及びデータが異なることによる実態とのずれを考慮すれば、同じ測定線(圧延面上にて1mm間隔で少なくとも500点の測定点)から得られた結晶方位のずれ角を用いて、上記2つの粒界を求めることが好ましい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、境界条件BBを満足する粒界に加えて、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界を比較的高い頻度で有するので、二次再結晶粒内がずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割された状態となり、その結果、高磁場領域での騒音が低減される。具体的には、1.9Tで励磁した際の磁歪速度レベル(Lva)が低減される。
ここで、磁歪速度レベル(Lva)とは、交流励磁時の磁歪波形を時間微分し速度に変換して人の聴覚の周波数特性であるA特性聴感補正を適用した値のことである。人間が知覚できる音の特性は必ずしも全ての周波数で一定ではなく、A特性と呼ばれる聴感特性で表現できる。実際の磁歪波形は、正弦波ではなく、様々な周波数成分が重なった波形となる。このため、磁歪波形をフーリエ変換し、それぞれの周波数ごとの振幅を求め、且つA特性を乗じることによって、実際の人間の聴感特性に近い指標となる磁歪速度レベル(Lva)を得ることができる。この磁歪速度レベル(Lva)を低減すれば、変圧器騒音のうちで人間が知覚する周波数に起因する鉄心振動を抑制でき、その結果、変圧器騒音を有効的に低減できると考えられる。
上記したように、高磁場領域(1.9T程度の磁場)の騒音を低減するために、本実施形態では、鋼板中に「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在すればよい。ただ、実質的には、高磁場領域の騒音を低減するために、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界が比較的高い頻度で存在することが好ましい。
例えば、本実施形態では、二次再結晶粒内をずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割することを特徴とするので、γ粒界が、従来の二次再結晶粒界よりも比較的高い頻度で存在することが好ましい。
具体的には、圧延面上にて1mm間隔で少なくとも500点の測定点で結晶方位を測定し、各測定点でずれ角を特定し、隣接する2つの測定点で境界条件を判定したとき、「境界条件BAを満足する粒界」が、「境界条件BBを満足する粒界」よりも1.1倍以上の割合で存在すればよい。すなわち、上記のように境界条件を判定したとき、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が、1.1以上となればよい。本実施形態では、上記の値が1.1以上である場合、方向性電磁鋼板に「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在すると判断する。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在するときに、例えば「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が1.1以上であるときに、高磁場領域での騒音が低減される。このように、高磁場領域での騒音の低減を目的とする場合には、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が1.1以上であればよい。
ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、磁区制御に起因する騒音の増大を抑制することを目的として、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値を1.3以上に制御する。この値が1.3以上であるとき、鋼板が局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
上述したように、従来の知見として、鋼板に歪を付与するか又は溝を形成すれば、磁区が細分化されて鉄損が低減することが期待される。ただ、鋼板に歪を付与するか又は溝を形成することによって、騒音が増大することも知られている。
一方、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、従来知見とは異なって、騒音の増大を抑制できる。
従来知見とは異なる上記の効果が得られるメカニズムの詳細は、現時点では明確ではない。ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に作り込むので従来とは材料構造が異なり、そのため従来知見とは異なる効果が得られると考えられる。例えば、本発明者らは、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むことによって、これらの小傾角な粒界が磁区の細分化に寄与していると考えている。実際、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、鋼板に付与する歪を従来より小さくしても、または鋼板に形成する溝深さを従来より浅くしても、従来と同等の磁区細分化効果が得られることが確認できる。
上述のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値が1.3以上であるとき、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。そのため、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値を1.3以上に制御する。この値は、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましい。
なお、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値の上限は、特に限定されない。例えば、この値は、80以下であればよく、40以下であればよく、30以下であればよい。
3.磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
鋼鈑に局所的な歪を付与する方法は、特に限定されない。例えば、鋼板にレーザーや電子ビームを照射して歪を付与すればよい。これらのレーザーや電子ビームの照射によって、鋼板が溶融しなくてもよく、または鋼板が一部溶融してもよい。
同様に、鋼鈑に局所的な溝を形成する方法も、特に限定されない。例えば、鋼板にレーザーや電子ビームを照射し、照射部の鋼を溶融・蒸発させて溝を形成すればよい。また、鋼板表面に歯車をプレスして、機械的に溝を形成してもよい。また、鋼板表面に所定の穴を開けたレジスト膜を印刷して、電解エッチングすることで溝を形成してもよい。また、溝形成は冷延工程以降の公知の任意の時点で実施すればよい。
磁区を細分化するために、上記した歪や溝は、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状または点状に、且つ圧延方向の間隔が2mm~10mmになるように配される。例えば、上記の歪は、レーザーや電子ビームの照射径が10~500μmとなるように局所的に鋼板に付与され、上記の溝は、溝深さが10~50μmとなるように局所的に鋼板に形成される。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、以下の方法によって、鋼板が局所的な歪または局所的な溝を有するか否かを判断する。まず、方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合、これらの被膜を除去する。被膜は後述する方法によって除去すればよい。被膜を除去した電磁鋼板の表面を目視または顕微鏡で観察する。鋼板表面に、線状または点状に延伸した溝が、間隔2mm~10mmで配されていれば、この鋼板が局所的な溝を有していると判断する。また、鋼板表面に、線状または点状に延伸したレーザーや電子ビームの照射痕が、間隔2mm~10mmで観察されれば、この鋼板が局所的な歪を有していると判断する。当業者ならば、線状または点状に延伸した溝や、レーザーや電子ビームの照射痕が、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝であるかを判別できる。
なお、レーザーや電子ビームの照射痕は、観察しにくいことがある。その際は、この試料を800℃で120分間熱処理し、熱処理前後の鉄損値を比較すればよい。この熱処理により鉄損W17/50の値が0.02W/kg以上増加する場合、熱処理前の鋼板が局所的な歪を有していると判断する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、磁束密度、鉄損特性、および騒音特性の何れもが同時に好ましい値となる。具体的には、圧延方向の磁束密度Bが1.910(単位:T)以上であり、鉄損W17/50が、鋼板の板厚を単位mmでtとしたとき、0.71+0.02×(t-0.22)(単位:W/kg)以下であり、1.9Tでの磁歪速度レベルLvaが54(単位:dB)以下となる。
方向性電磁鋼板の磁束密度は、JIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(SST:Single Sheet Tester)に基づいて測定すればよい。磁束密度B(T)は、800A/mで励磁したときの鋼板の圧延方向の磁束密度を測定すればよい。鉄損W17/50(W/kg)は、交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.7Tの条件で、鋼板の単位重量(1kg)あたりの電力損失を求めればよい。
さらに、磁気特性として、交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.9Tの条件下で鋼板に生じる磁歪λp-p@1.9Tを測定すればよい。具体的には、上記の励磁条件下での試験片(鋼板)の最大長さLmaxおよび最小長さLmin、並び磁束密度0Tでの試験片の長さLを用いて、λp-p@1.9T=(Lmax-Lmin)÷Lにより算出すればよい。
上記した磁気特性値に基づいて、1.9Tでの磁歪速度レベル(Lva@1.9T)を求めればよい。磁歪速度レベルLva(dB)は、2周期以上の磁歪波形、6.4kHzのサンプリング周波数で取得した波形をフーリエ変換して、得られたそれぞれの周波数ごとの磁歪量λ(fi)(0Hz~3.2kHz)を用いて、以下の式1で導出すればよい。
Lva=20×log10[{ρc×{Σ(21/2π×fi×λ(fi)×α(fi))1/2}/P] ・・・(式1)
ここで、
ρ:空気の密度(kg/m
c:音速(m/s)
:1kHzの音を人間が聞き取ることのできる最小の圧力(Pa)、
fi:周波数(Hz)
λ(fi):フーリエ変換した周波数ごとの磁歪量
α(fi):周波数fiのA特性
π:円周率
なお、Lva@1.9Tをそれぞれ求めるにあたり、次の値を代入すればよい。
ρ=1.185(kg/m
c=346.3(m/s)
=2×10-5(Pa)
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
[第2実施形態]
続いて、本発明の第2実施形態に係る方向性電磁鋼板について以下に説明する。また、以下で説明する各実施形態では、上記第1実施形態との相違点を中心に説明し、その他の特徴については上記第1実施形態と同様であるとして重複する説明を省略する。
本発明の第2実施形態に係る方向性電磁鋼板では、γ結晶粒の圧延方向の粒径が、二次再結晶粒の圧延方向の粒径よりも小さい。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、圧延方向に対して粒径が制御されているγ結晶粒および二次再結晶粒を有する。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たす。また、RB÷RA≦80であることが好ましい。
この規定は、圧延方向に対する、上述の「切り替え」の状況を表す。つまり、角度φが2°以上となる境界を結晶粒界とする二次再結晶粒の中に、|γ-γ|が0.5°以上で且つ角度φが2°未満となる境界を少なくとも一つ含む結晶粒が、圧延方向に対して相応の頻度で存在することを意味している。本実施形態では、この切り替えの状況を、圧延方向の粒径RA及び粒径RBにより評価し規定する。
粒径RBが小さいために、または粒径RBは大きくても切り替えが少なく粒径RAが大きいために、RB/RA値が1.10未満になると、切り替え頻度が十分でなくなり、高磁場騒音が十分に改善できないことがある。RB/RA値は、好ましくは1.30以上、より好ましくは1.50以上、さらに好ましくは2.0以上、さらに好ましくは3.0以上、さらに好ましくは5.0以上である。
RB/RA値の上限については特に限定されない。切り替えの発生頻度が高くRB/RA値が大きくなれば、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性が高くなるため、騒音の改善にとっては好ましい。一方で、切り替えは結晶粒内での格子欠陥の残存でもあるため、あまりに発生頻度が高いと、特に鉄損への改善効果が低下する可能性が懸念される。そのため、RB/RA値の実用的な最大値としては80が挙げられる。特に鉄損についての配慮が必要であれば、RB/RA値の最大値として、好ましくは40、より好ましくは30が挙げられる。
なお、RB/RA値は、1.0未満になる場合がある。RBは角度φが2°以上となる粒界に基づいて規定された圧延方向の平均粒径である。一方で、RAは|γ-γ|が0.5°以上となる粒界に基づいて規定された圧延方向の平均粒径である。単純に考えると、角度差の下限が小さい粒界の方が検出される頻度が高いように思われる。つまり、RBは常にRAよりも大きくなり、RB/RA値は常に1.0以上になるように思われる。
しかしながら、RBは角度φに基づく粒界によって求められる粒径であり、RAはずれ角γに基づく粒界によって求められる粒径であって、RBおよびRAでは粒径を求めるための粒界の定義が異なる。そのため、RB/RA値が1.0未満になる場合がある。
例えば、|γ-γ|が0.5°未満(例えば、0°)であっても、ずれ角αおよび/またはすれ角βが大きければ、角度φは十分に大きくなる。すなわち、境界条件BAを満たさないが、境界条件BBを満たす粒界が存在することになる。このような粒界が増えれば、粒径RBの値が小さくなり、結果として、RB/RA値が1.0未満になりえる。本実施形態では、ずれ角γによる切り替えが起きる頻度が高くなるように各条件を制御する。切り替えの制御が十分でなく、本実施形態からのかい離が大きい場合には、ずれ角γの変化が起きなくなり、RB/RA値が1.0未満になる。なお、本実施形態ではγ粒界の発生頻度を十分に高め、RB/RA値が1.10以上であることが好ましいことは、既に説明した通りである。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に関して、圧延面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点間の境界は、表1のケース1からケース4に分類される。上記の粒径RBは、表1のケース1および/またはケース2を満足する粒界に基づいて求め、粒径RAは、表1のケース1および/またはケース3を満足する粒界に基づいて求める。例えば、圧延方向に沿って少なくとも500測定点を含む測定線上で結晶方位のずれ角を測定し、この測定線上でケース1および/またはケース2の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RBとする。同様に、上記の測定線上で、ケース1および/またはケース3の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RAとする。
Figure 0007492112000001
RB/RA値の制御が高磁場騒音に影響を及ぼす理由は必ずしも明確ではないが、一つの二次再結晶粒内で切り替え(局所的な方位変化)が生じることで、隣接粒との相対的な方位差を小さくし(結晶粒界近傍での結晶方位変化が緩やかになり)、その結果、還流磁区の生成が抑制されると考えられる。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、高磁場領域での騒音の低減を目的とする場合には、RB/RA値が1.10以上であればよい。
ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、磁区制御に起因する騒音の増大を抑制することを目的として、RB/RA値を1.30以上に制御してもよい。この値が1.30以上であるとき、鋼板が局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。この値は、1.50以上であることが好ましく、1.80以上であることがより好ましい。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
[第3実施形態]
続いて、本発明の第3実施形態に係る方向性電磁鋼板について以下に説明する。以下では、上記の実施形態との相違点を中心に説明し、重複する説明を省略する。
本発明の第3実施形態に係る方向性電磁鋼板では、γ結晶粒の圧延直角方向の粒径が、二次再結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さい。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、圧延直角方向に対して粒径が制御されているγ結晶粒および二次再結晶粒を有する。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たす。また、RB÷RA≦80であることが好ましい。
この規定は、圧延直角方向に対する、上述の「切り替え」の状況を表す。つまり、角度φが2°以上となる境界を結晶粒界とする二次再結晶粒の中に、|γ-γ|が0.5°以上で且つ角度φが2°未満となる境界を少なくとも一つ含む結晶粒が、圧延直角方向に対して相応の頻度で存在することを意味している。本実施形態では、この切り替えの状況を、圧延直角方向の粒径RA及び粒径RBにより評価し規定する。
粒径RBが小さいために、または粒径RBは大きくても切り替えが少なく粒径RAが大きいために、RB/RA値が1.10未満になると、切り替え頻度が十分でなくなり、高磁場騒音が十分に改善できないことがある。RB/RA値は、好ましくは1.30以上、より好ましくは1.50以上、さらに好ましくは2.0以上、さらに好ましくは3.0以上、さらに好ましくは5.0以上である。
RB/RA値の上限については特に限定されない。切り替えの発生頻度が高くRB/RA値が大きくなれば、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性が高くなるため、騒音の改善にとっては好ましい。一方で、切り替えは結晶粒内での格子欠陥の残存でもあるため、あまりに発生頻度が高いと、特に鉄損への改善効果が低下する可能性が懸念される。そのため、RB/RA値の実用的な最大値としては80が挙げられる。特に鉄損についての配慮が必要であれば、RB/RA値の最大値として、好ましくは40、より好ましくは30が挙げられる。
なお、RBは角度φに基づく粒界によって求められる粒径であり、RAはずれ角γに基づく粒界によって求められる粒径である。RBおよびRAでは粒径を求めるための粒界の定義が異なるため、RB/RA値が1.0未満になる場合がある。
上記の粒径RBは、表1のケース1および/またはケース2を満足する粒界に基づいて求め、粒径RAは、表1のケース1および/またはケース3を満足する粒界に基づいて求める。例えば、圧延直角方向に沿って少なくとも500測定点を含む測定線上で結晶方位のずれ角を測定し、この測定線上でケース1および/またはケース2の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RBとする。同様に、上記の測定線上で、ケース1および/またはケース3の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RAとする。
RB/RA値の制御が高磁場騒音に影響を及ぼす理由は必ずしも明確ではないが、一つの二次再結晶粒内で切り替え(局所的な方位変化)が生じることで、隣接粒との相対的な方位差を小さくし(結晶粒界近傍での結晶方位変化が緩やかになり)、その結果、還流磁区の生成が抑制されると考えられる。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、高磁場領域での騒音の低減を目的とする場合には、RB/RA値が1.10以上であればよい。
ただ、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、磁区制御に起因する騒音の増大を抑制することを目的として、RB/RA値を1.30以上に制御してもよい。この値が1.30以上であるとき、鋼板が局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。この値は、1.50以上であることが好ましく、1.80以上であることがより好ましい。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
[第4実施形態]
続いて、本発明の第4実施形態に係る方向性電磁鋼板について以下に説明する。以下では、上記の実施形態との相違点を中心に説明し、重複する説明を省略する。
本発明の第4実施形態に係る方向性電磁鋼板では、γ結晶粒の圧延方向の粒径が、γ結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さい。すなわち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、圧延方向および圧延直角方向に対して粒径が制御されているγ結晶粒を有する。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
粒径RAと粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たす。また、RA÷RA≦10であることが好ましい。
以後の説明で、結晶粒の形状について「(面内)異方性」又は「扁平(形状)」と記述することがある。これらの結晶粒の形状は、鋼板の表面(圧延面)から観察した際の形状について記述している。つまり、結晶粒の形状は、板厚方向の大きさ(板厚断面での観察形状)について考慮していない。ちなみに、方向性電磁鋼板では、ほぼすべての結晶粒が板厚方向に鋼板板厚と同じサイズを有している。つまり方向性電磁鋼板では、結晶粒界近傍など特異な領域を除いて鋼板板厚がひとつの結晶粒で占められることが多い。
上記したRA/RA値の規定は、圧延方向および圧延直角方向に対する、上述の「切り替え」の状況を表す。つまり、切り替えと認識される程度の局所的な結晶方位の変化が起きる頻度が、鋼板の面内方向により異なることを意味している。本実施形態では、この切り替えの状況を、鋼板面内で直交する2つの方向の粒径RA及び粒径RAにより評価し規定する。
RA/RA値が1超であるということは、切り替えで規定されるγ結晶粒は平均的にみると、圧延直角方向に延伸し、圧延方向につぶれた扁平形態を有することを示している。つまり、γ粒界により規定される結晶粒の形態が異方性を有することを示す。
γ結晶粒の形状が面内異方性を持つことにより、高磁場騒音が向上する理由は明確ではないが、以下のように考えられる。高磁場では、180°磁区が移動する際、隣接する結晶粒との「連続性」が重要であることは前述の通りである。例えば、一つの二次再結晶粒を切り替えによって小領域に分割した場合、この小領域の数が同じ(小領域の面積が同じ)であれば、小領域の形状は等方性であるよりも、異方性であるほうが、切り替えによる境界(γ粒界)の存在比率は大きくなる。つまり、RA/RA値の制御によって局所的な方位変化である切り替えの存在頻度が増加することになり、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性を高めると考えられる。
このような切り替え発生の異方性は、二次再結晶前の鋼板に存在する何らかの異方性:例えば、一次再結晶粒の形状の異方性;熱延板結晶粒の形状の異方性を起因とする一次再結晶粒の結晶方位分布の異方性(コロニー的な分布);熱延で延伸した析出物及び破砕されて圧延方向に列状となった析出物の配置;コイル幅方向や長手方向の熱履歴の変動に起因する析出物分布;結晶粒径分布の異方性;などにより生ずると考えられる。しかしながら、発生メカニズムの詳細は不明である。ただし、二次再結晶中の鋼板が温度勾配を有すれば、結晶粒の成長(転位の消失および粒界の形成)に直接的な異方性を与える。すなわち、二次再結晶での温度勾配は、本実施形態で規定する上記異方性を制御する非常に有効な制御手段となる。詳細は製造法と関連して説明する。
また、上述の二次再結晶時の温度勾配により異方性を与えるプロセスとも関連するが、本実施形態でγ結晶粒を延伸させる方向は、圧延直角方向であることが現状の一般的な製造法も考慮すると好ましい。この場合、圧延方向の粒径RAが、圧延直角方向の粒径RAよりも小さな値となる。圧延方向および圧延直角方向の関係については、製造法と関連して説明する。なお、γ結晶粒を延伸させる方向は、温度勾配ではなく、あくまでも、γ粒界の発生頻度により決定される。
粒径RAが小さいために、または粒径RAは大きくても粒径RAが大きいために、RA/RA値が1.15未満になると、切り替え頻度が十分でなくなり、高磁場騒音が十分に改善できないことがある。RA/RA値は、好ましくは1.50以上、より好ましくは1.80以上、さらに好ましくは2.10以上である。
RA/RA値の上限については特に限定されない。切り替えの発生頻度および延伸方向が特定の方向に制限され、RA/RA値が大きくなれば、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性が高くなるため、騒音の改善にとっては好ましい。一方で切り替えは結晶粒内での格子欠陥の残存でもあるため、あまりに発生頻度が高いと、特に鉄損への改善効果が低下する可能性が懸念される。そのため、RA/RA値の実用的な最大値としては10が挙げられる。特に鉄損についての配慮が必要であれば、RA/RA値の最大値として、好ましくは6、より好ましくは4が挙げられる。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、上記したRA/RA値の制御に加えて、第2実施形態と同様に、粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たすことが好ましい。
この規定は、「切り替え」が発生していることを明確にする。例えば、粒径RAおよびRAは、隣接する2つの測定点間で|γ-γ|が0.5°以上となる粒界に基づく粒径であるが、「切り替え」がまったく発生しておらず、すべての粒界の角度φが2.0°以上であったとしても、上記したRA/RA値が満足されることがある。たとえRA/RA値が満足されても、すべての粒界の角度φが2.0°以上であれば、一般的に認識されている二次再結晶粒が単に扁平形状になっただけであるので、本実施形態の上記効果は好ましく得られない。本実施形態では、境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界(二次再結晶粒を分割する粒界)を有することを前提とするため、すべての粒界の角度φが2.0°以上であるという状況は生じにくいが、上記したRA/RA値を満足することに加えて、RB/RA値を満足することが好ましい。
また、本実施形態では、圧延方向に関してRB/RA値を制御することに加えて、圧延直角方向についても、第3実施形態と同様に、粒径RAと粒径RBとが1.10≦RB/RAを満たすことは何ら問題とならず、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性を高める観点ではむしろ好ましい。
さらに、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、二次再結晶粒の圧延方向および圧延直角方向の粒径が制御されていることが好ましい。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RBと粒径RBとが、1.50≦RB÷RBを満たすことが好ましい。また、RB÷RB≦20であることが好ましい。
この規定は、上述の「切り替え」とは無関係であり、二次再結晶粒が圧延直角方向に延伸していることを表す。従って、この特徴それ自体は特別ではない。ただし、本実施形態では、RA/RA値を制御した上で、RB/RB値が上記の数値範囲を満たすことが好ましい。
本実施形態では、上記の切り替えに関係して、γ結晶粒のRA/RA値が制御される場合、二次再結晶粒の形態も面内異方性が大きくなる傾向がある。逆の見方をすると、本実施形態のようにずれ角γの切り替えを発生させる場合、二次再結晶粒の形状が面内異方性を持つように制御することで、γ結晶粒の形状も面内異方性を持つ傾向がある。
RB/RB値は、好ましくは1.80以上、より好ましくは2.00以上、さらに好ましくは2.50以上である。RB/RB値の上限については特に限定されない。
RB/RB値を制御する実用的な方法として、例えば、仕上げ焼鈍時にコイル幅の端部からの優先的な加熱を行い、コイル幅方向(コイル軸方向)への温度勾配を付与して二次再結晶粒を成長させるプロセスが挙げられる。このとき、二次再結晶粒のコイル周方向(例えば圧延方向)の粒径を50mm程度に維持したまま、二次再結晶粒のコイル幅方向(例えば圧延直角方向)の粒径をコイル幅と同じに制御することも可能である。例えば、幅1000mmのコイルの全幅を一つの結晶粒で占めることができる。この場合、RB/RB値の上限値として、20が挙げられる。
なお、圧延直角方向ではなく圧延方向に温度勾配を持たせるように連続焼鈍プロセスによって二次再結晶を進行させれば、二次再結晶粒の粒径の最大値はコイル幅に制限されず、さらに大きな値とすることも可能である。この場合であっても、本実施形態によれば、切り替えによるγ粒界により結晶粒が適度に分割されることで、本実施形態の上記効果を得ることが可能である。
さらに、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、ずれ角γに関する切り替えの発生頻度が圧延方向および圧延直角方向に対して制御されていることが好ましい。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RAと粒径RAと粒径RBと粒径RBとが、(RB×RA)÷(RB×RA)<1.0を満たすことが好ましい。また、下限は特に限定しないが、現状の技術を前提にすれば、0.2<(RB×RA)÷(RB×RA)であればよい。
この規定は、上述の「切り替え」の発生頻度の面内異方性を表す。つまり、上記の(RB・RA)/(RB・RA)は、「二次再結晶粒を圧延直角方向に分割する切り替えの発生程度:RB/RA」と、「二次再結晶粒を圧延方向に分割する切り替えの発生程度:RB/RA」との比になっている。この値が1未満であるということは、一つの二次再結晶粒が、切り替え(γ粒界)により、圧延方向に数多く分割されていることを示している。
また、見方を変えると、上記の(RB・RA)/(RB・RA)は、「二次再結晶粒の扁平の程度:RB/RB」と、「γ結晶粒の扁平の程度:RA/RA」との比になっている。この値が1未満であるということは、一つの二次再結晶粒を分割するγ結晶粒は、二次再結晶粒よりも扁平な形状になることを示している。
すなわち、γ粒界は二次再結晶粒を圧延直角方向に分断するよりも圧延方向に分断する傾向がある。つまり、γ粒界は二次再結晶粒が延伸する方向に延伸する傾向がある。γ粒界のこの傾向は、二次再結晶粒が延伸する際に、切り替えが特定方位の結晶の占有面積を増大させるように作用していると考えられる。
(RB・RA)/(RB・RA)の値は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下である。上記のように、(RB・RA)/(RB・RA)の下限は、特に制限されないが、工業的な実現性も考慮すると、0.2超であればよい。
上記の粒径RBおよび粒径RBは、表1のケース1および/またはケース2を満足する粒界に基づいて求める。上記の粒径RAおよび粒径RAは、表1のケース1および/またはケース3を満足する粒界に基づいて求める。例えば、圧延直角方向に沿って少なくとも500測定点を含む測定線上で結晶方位のずれ角を測定し、この測定線上でケース1および/またはケース3の粒界に挟まれる線分長さの平均値を粒径RAとする。粒径RA、粒径RB、粒径RBも同様に求めればよい。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
また、本実施形態に係る方向性電磁鋼板では、RB/RA値を1.30以上に制御し、且つRB/RA値を1.30以上に制御してもよい。これらの値が共に1.30以上であるとき、鋼板表面が平滑であっても被膜密着性がさらに好ましく向上する。この値は共に、1.50以上であることが好ましく、1.80以上であることがより好ましい。
[各実施形態に共通する技術特徴]
続いて、上記した各実施形態に係る方向性電磁鋼板について、共通する技術特徴を以下に説明する。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BBに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、境界条件BBに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
粒径RBおよび粒径RBが、22mm以上であることが好ましい。
切り替えは、二次再結晶粒の成長の過程で蓄積する転位により生じると考えられる。すなわち、一度切り替えが起きた後、次の切り替えが起きるためには、二次再結晶粒が相当程度にまで成長することが必要となる。このため、粒径RBおよび粒径RBが15mm未満であると、切り替えが発生しにくく、切り替えによる高磁場騒音の十分な改善が困難になるおそれがある。粒径RBおよび粒径RBは、15mm以上であることが好ましい。粒径RBおよび粒径RBは、好ましくは22mm以上であり、より好ましくは30mm以上であり、さらに好ましくは40mm以上である。
粒径RBおよび粒径RBの上限は特に限定しない。例えば、一般的な方向性電磁鋼板の製造では、一次再結晶が完了した鋼板をコイルに巻き、圧延方向に曲率を有した状態で二次再結晶により{110}<001>方位の結晶粒を生成・成長させる。そのため、圧延方向の粒径RBが増大すれば、ずれ角γが増加し、騒音が増大することにもなりかねない。このため、粒径RBを無制限に大きくすることは避けることが好ましい。工業的な実現性も考慮すると、粒径RBについて、好ましい上限として400mm、さらに好ましい上限として200mm、さらに好ましい上限として100mmを挙げることができる。
また、一般的な方向性電磁鋼板の製造では、一次再結晶が完了した鋼板をコイルに巻いた状態で加熱し、二次再結晶により{110}<001>方位の結晶粒を生成・成長させるので、二次再結晶粒は温度上昇が先行するコイル端部側から温度上昇が遅延するコイル中心側に向かって成長する。このような製造法では、例えばコイル幅を1000mmとすれば、コイル幅の半分程度となる500mmを粒径RBの上限として挙げることができる。もちろん各実施形態では、コイルの全幅が粒径RBとなることを除外しない。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、境界条件BAに基づいて求める圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、境界条件BAに基づいて求める圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
粒径RAが30mm以下であり、粒径RAが400mm以下であることが好ましい。
粒径RAの値が小さいほど、圧延方向で切り替えの発生頻度が高いことを意味する。粒径RAは、40mm以下であればよいが、30mm以下であることがより好ましく、20mm以下であることがより好ましい。
また、十分な切り替えが起きない状況で粒径RAが増大すれば、ずれ角γが増加し、騒音が増大することにもなりかねない。このため、粒径RAを無制限に大きくすることは避けることが好ましい。工業的な実現性も考慮すると、粒径RAについて、好ましい上限として400mm、さらに好ましい上限として200mm、さらに好ましい上限として100mm、さらに好ましい上限として40mm、さらに好ましい上限として30mmを挙げることができる。
粒径RAおよび粒径RAの下限は特に限定しない。各実施形態では、結晶方位の測定間隔を1mmとしていることから、粒径RAおよび粒径RAの最低値は1mmとなる。しかし、各実施形態では、例えば測定間隔を1mm未満とすることにより、粒径RAおよび粒径RAが1mm未満となるような鋼板を除外しない。ただし、切り替えは、僅かとは言え結晶中の格子欠陥の存在を伴うので、切り替えの頻度があまりに高い場合には、磁気特性への悪影響も懸念される。また、工業的な実現性も考慮すると、粒径RAおよび粒径RAについて、好ましい下限として5mmを挙げることができる。
なお、各実施形態に係る方向性電磁鋼板における結晶粒径の測定では、結晶粒一つについて、粒径が最大で2mmの不明確さを含む。そのため、粒径測定(圧延面上にて1mm間隔で少なくとも500点の方位測定)は、粒径を規定する方向と鋼板面内で直交する方向に十分離れた位置、つまり異なる結晶粒の測定となるような位置について、計5箇所以上で実施することが好ましい。その上で、計5箇所以上の測定によって得られる全ての粒径を平均することにより、上記の不明確さを解消できる。例えば、粒径RAおよび粒径RBについては圧延方向に十分離れた5箇所以上で、粒径RAおよび粒径RBについては圧延直角方向に十分離れた5箇所以上で測定を実施し、計2500点以上の測定点で方位測定を行って平均粒径を求めればよい。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、ずれ角γの絶対値の標準偏差σ(|γ|)が、0°以上3.50°以下であることが好ましい。
切り替えがあまり起きない場合、高磁場騒音は十分に低減しない。このことは、高磁場騒音の低減が、ずれ角が特定方向に揃うことを示していると考えられる。すなわち、高磁場騒音の低減は、二次再結晶の核生成を含めた発生初期または成長段階での蚕食による方位選択に起因していないと考えられる。つまり、上記実施形態の効果を得るために、従来の方位制御のように結晶方位を特定の方向に近づける、例えば、ずれ角の絶対値及び標準偏差を小さくすることは、特に必要な条件ではない。ただ、上述のような切り替えが十分に起きている鋼板では、「ずれ角」についても特徴的な範囲に制御されやすい。例えば、ずれ角γに関する切り替えにより少しずつ結晶方位が変化する場合、ずれ角の絶対値がゼロに近づくことは上記実施形態の支障とはならない。また、例えば、ずれ角γに関する切り替えにより少しずつ結晶方位が変化する場合、結晶方位自体が特定の方位に収斂することで、結果として、ずれ角の標準偏差がゼロに近づくことは、上記実施形態の支障とはならない。
そのため、各実施形態では、ずれ角γの絶対値の標準偏差σ(|γ|)が、0°以上3.50°以下であってもよい。
ずれ角γの絶対値の標準偏差σ(|γ|)は、以下のように求める。
方向性電磁鋼板は、数cm程度の大きさに成長した結晶粒が形成される二次再結晶により{110}<001>方位への集積度を高めている。各実施形態では、このような方向性電磁鋼板にて結晶方位の変動を認識する必要がある。このため、少なくとも二次再結晶粒を20個含む領域について、500点以上の結晶方位を測定する。
なお、各実施形態では、「一つの二次再結晶粒を単結晶と捉え、二次再結晶粒内は厳密に同じ結晶方位を有する」と考えるべきではない。つまり、各実施形態では、一つの粗大な二次再結晶粒内に従来は粒界として認識しない程度の局所的な方位変化が存在し、この方位変化を検出することが必要になる。
このため、例えば、結晶方位の測定点を、結晶粒の境界(結晶粒界)とは無関係に設定した一定面積内に等間隔で分布させることが好ましい。具体的には、鋼板面にて、少なくとも20個以上の結晶粒を含むように、Lmm×Mmm(ただしL、M>100)の面積内に、縦横5mm間隔で等間隔に測定点を分布させ、各測定点での結晶方位を測定し、計500点以上のデータを得ることが好ましい。測定点が結晶粒界及び何らかの特異点である場合には、そのデータは用いない。また、対象となる鋼板の磁気特性を決定するために必要な領域(例えば、実機のコイルであれば、ミルシートに記載する磁気特性を測定する範囲)に応じて、上記の測定範囲を広げる必要がある。
そして、各測定点について、ずれ角γを決定し、さらにずれ角γの絶対値の標準偏差σ(|γ|)を計算する。各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、σ(|γ|)が、上記した数値範囲内であることが好ましい。
なお、ずれ角βは、一般的に、1.7T程度の中磁場での磁気特性または騒音を改善するために小さくすべきと考えられている因子である。ただ、ずれ角βだけの制御では到達する特性に限界があった。上記実施形態では、ずれ角γに着目して、1.9T程度の高磁場での騒音を改善する。また、上記した各実施形態では、上記の技術特徴に加えて、σ(|γ|)を合わせて制御することで、方向性電磁鋼板全体での結晶方位の連続性にさらに好ましく影響を及ぼす。
ずれ角γの絶対値の標準偏差σ(|γ|)は、より好ましくは3.00以下であり、さらに好ましくは2.50以下であり、さらに好ましくは2.00以下である。σ(|γ|)は、もちろん0であっても構わない。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、鋼板上に中間層や絶縁被膜などを有してもよいが、上記の結晶方位、粒界、平均結晶粒径などは、被膜等を有さない鋼板に基づいて特定してもよい。すなわち、測定試料となる方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、被膜等を除去してから結晶方位などを測定してもよい。
例えば、絶縁被膜の除去方法として、被膜を有する方向性電磁鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬すればよい。具体的には、NaOH:30~50質量%+HO:50~70質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80~90℃で5~10分間、浸漬した後に、水洗して乾燥することで、方向性電磁鋼板から絶縁被膜を除去できる。なお、絶縁被膜の厚さに応じて、上記の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬する時間を変えればよい。
また、例えば、中間層の除去方法として、絶縁被膜を除去した電磁鋼板を、高温の塩酸に浸漬すればよい。具体的には、溶解したい中間層を除去するために好ましい塩酸の濃度を予め調べ、この濃度の塩酸に、例えば30~40質量%塩酸に、80~90℃で1~5分間、浸漬した後に、水洗して乾燥させることで、中間層が除去できる。通常は、絶縁被膜の除去にはアルカリ溶液を用い、中間層の除去には塩酸を用いるように、処理液を使い分けて各被膜を除去する。
次いで、各実施形態に係る方向性電磁鋼板の化学組成を説明する。各実施形態の方向性電磁鋼板は、化学組成として、基本元素を含み、必要に応じて選択元素を含み、残部がFe及び不純物からなる。
各実施形態に係る方向性電磁鋼板は、基本元素(主要な合金元素)として、質量分率で、Si(シリコン):2.00%~7.00%を含有する。
Siは、結晶方位を{110}<001>方位に集積させるために、含有量が2.0~7.0%であることが好ましい。
各実施形態では、化学組成として、不純物を含有してもよい。なお、「不純物」とは、鋼を工業的に製造する際に、原料としての鉱石やスクラップから、または製造環境等から混入する元素を指す。不純物の合計含有量の上限は、例えば、5%であればよい。
また、各実施形態では、上記した基本元素および不純物に加えて、選択元素を含有してもよい。例えば、上記した残部であるFeの一部に代えて、選択元素として、Nb、V、Mo、Ta、W、C、Mn、S、Se、Al、N、Cu、Bi、B、P、Ti、Sn、Sb、Cr、Niなどを含有してもよい。これらの選択元素は、その目的に応じて含有させればよい。よって、これらの選択元素の下限値を限定する必要がなく、下限値が0%でもよい。また、これらの選択元素が不純物として含有されても、上記効果は損なわれない。
Nb(ニオブ):0~0.030%
V(バナジウム):0~0.030%
Mo(モリブデン):0~0.030%
Ta(タンタル):0~0.030%
W(タングステン):0~0.030%
Nb、V、Mo、Ta、及びWは、各実施形態で特徴的な効果を有する元素として活用することができる。以降の説明では、Nb、V、Mo、Ta、及びWのうちの一種または二種以上の元素をまとめて、「Nb群元素」と記述することがある。
Nb群元素は、各実施形態に係る方向性電磁鋼板の特徴である切り替えの形成に好ましく作用する。ただし、Nb群元素が切り替え発生に作用するのは製造過程であるので、Nb群元素が各実施形態に係る方向性電磁鋼板に最終的に含有される必要はない。例えば、Nb群元素は、後述する仕上げ焼鈍における純化により系外に排出される傾向が少なからず存在している。そのため、スラブにNb群元素を含有させ、製造過程でNb群元素を活用して切り替えの頻度を高めた場合でも、その後の純化焼鈍によりNb群元素が系外に排出されることがある。そのため、最終製品の化学組成として、Nb群元素が検出できない場合がある。
そのため、各実施形態では、最終製品である方向性電磁鋼板の化学組成として、Nb群元素の含有量の上限についてのみ規定する。Nb群元素の上限は、それぞれ0.030%であればよい。一方、上述の通り、製造過程でNb群元素を活用したとしても、最終製品ではNb群元素の含有量がゼロになることがある。そのため、Nb群元素の含有量の下限は特に限定されず、下限がそれぞれ0%であってもよい。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、化学組成として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030~0.030質量%含有することが好ましい。
Nb群元素の含有量が製造途中で増加することは考えにくいので、最終製品の化学組成としてNb群元素が検出されれば、製造過程でNb群元素による切り替え制御が行われたことが示唆される。製造過程で切り替えを好ましく制御するには、最終製品のNb群元素の合計含有量が、0.0030%以上であることが好ましく、0.0050%以上であることがさらに好ましい。一方、最終製品のNb群元素の合計含有量が0.030%を超えると、切り替えの発生頻度を維持できるが磁気特性が低下することがある。そのため、最終製品のNb群元素の合計含有量が、0.030%以下であることが好ましい。なお、Nb群元素の作用は製造法と関連して後述する。
C(炭素):0~0.0050%
Mn(マンガン):0~1.0%
S(硫黄):0~0.0150%
Se(セレン):0~0.0150%
Al(酸可溶性アルミニウム):0~0.0650%
N(窒素):0~0.0050%
Cu(銅):0~0.40%
Bi(ビスマス):0~0.010%
B(ボロン):0~0.080%
P(燐):0~0.50%
Ti(チタン):0~0.0150%
Sn(スズ):0~0.10%
Sb(アンチモン):0~0.10%
Cr(クロム):0~0.30%
Ni(ニッケル):0~1.0%
これらの選択元素は、公知の目的に応じて含有させればよい。これらの選択元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。なお、S及びSeの含有量が合計で0~0.0150%であることが好ましい。S及びSeの合計とは、S及びSeの少なくとも一方を含み、その合計含有量であることを意味する。
なお、方向性電磁鋼板では、脱炭焼鈍および二次再結晶時の純化焼鈍を経ることで、比較的大きな化学組成の変化(含有量の低下)が起きる。元素によっては純化焼鈍によって、一般的な分析手法では検出できない程度(1ppm以下)にまで含有量が低減することもある。各実施形態に係る方向性電磁鋼板の上記化学組成は、最終製品における化学組成である。一般に、最終製品の化学組成と、出発素材であるスラブの化学組成とは異なる。
各実施形態に係る方向性電磁鋼板の化学組成は、鋼の一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、方向性電磁鋼板の化学組成は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。具体的には、方向性電磁鋼板から採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。
なお、上記の化学組成は、方向性電磁鋼板の成分である。測定試料となる方向性電磁鋼板が、表面に絶縁被膜等を有している場合は、被膜等を上記の方法で除去してから化学組成を測定する。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板は、二次再結晶粒がずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割されていることを特徴とし、この特徴によって、高磁場領域での騒音が低減され、尚且つ磁区制御に起因する騒音の増大が抑制される。そのため、各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、鋼板上の被膜構成や、磁区細分化処理の有無などは特に制限されない。各実施形態では、目的に応じて任意の被膜を鋼板上に形成し、必要に応じて磁区細分化処理を施せばよい。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、中間層上に接して配された絶縁被膜とを有してもよい。
図2は、本発明の好適な実施形態に係る方向性電磁鋼板の断面模式図である。図2に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板10(珪素鋼板)は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板10(珪素鋼板)上に接して配された中間層20と、中間層20上に接して配された絶縁被膜30とを有してもよい。
例えば、上記の中間層は、酸化物を主体とする層、炭化物を主体とする層、窒化物を主体とする層、硼化物を主体とする層、珪化物を主体とする層、りん化物を主体とする層、硫化物を主体とする層、金属間化合物を主体とする層などであればよい。これらの中間層は、酸化還元性を制御した雰囲気中での熱処理、化学蒸着(CVD)、物理蒸着(PVD)などによって形成できる。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記中間層が平均厚さ1~3μmのフォルステライト被膜であってもよい。なお、フォルステライト被膜とは、MgSiOを主体とする被膜である。このフォルステライト被膜と方向性電磁鋼板との界面は、上記断面で見たとき、フォルステライト被膜が鋼板に嵌入した界面となる。
本発明の各実施形態に係る方向性電磁鋼板では、上記中間層が平均厚さ2~500nmの酸化膜であってもよい。なお、酸化膜とは、SiOを主体とする被膜である。この酸化膜と方向性電磁鋼板との界面は、上記断面で見たとき、平滑界面となる。
また、上記の絶縁被膜は、りん酸塩とコロイド状シリカとを主体とし平均厚さが0.1~10μmの絶縁被膜や、アルミナゾルと硼酸とを主体とし平均厚さが0.5~8μmの絶縁被膜であればよい。
[方向性電磁鋼板の製造方法]
次に、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を説明する。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造する方法は、下記の方法に限定されない。下記の製造方法は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板を製造するための一つの例である。
図3は、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を例示する流れ図である。図3に示すように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の製造方法は、鋳造工程と、熱間圧延工程と、熱延板焼鈍工程と、冷間圧延工程と、脱炭焼鈍工程と、焼鈍分離剤塗布工程と、仕上げ焼鈍工程とを備える。また、必要に応じて、脱炭焼鈍工程から仕上げ焼鈍工程までの任意のタイミングで窒化処理を行ってもよく、仕上げ焼鈍工程後に絶縁被膜形成工程や磁区制御工程をさらに有してもよい。
具体的には、本実施形態に係る方向性電磁鋼板(珪素鋼板)の製造方法は、
鋳造工程で、化学組成として、質量%で、Si:2.0~7.0%、Nb:0~0.030%、V:0~0.030%、Mo:0~0.030%、Ta:0~0.030%、W:0~0.030%、C:0~0.0850%、Mn:0~1.0%、S:0~0.0350%、Se:0~0.0350%、Al:0~0.0650%、N:0~0.0120%、Cu:0~0.40%、Bi:0~0.010%、B:0~0.080%、P:0~0.50%、Ti:0~0.0150%、Sn:0~0.10%、Sb:0~0.10%、Cr:0~0.30%、Ni:0~1.0%を含有し、残部がFeおよび不純物からなるスラブを鋳造し、
脱炭焼鈍工程で、一次再結晶粒径を24μm以下に制御し、
仕上げ焼鈍工程で、
上記スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%であるとき、加熱過程にて、700~800℃でのPHO/PHを0.10~1.0とするか、又は1000~1050℃でのPHO/PHを0.0020~0.030とするか、のうちの少なくとも一方を制御し、且つ850~950℃での保持時間を120~600分とし、
上記スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%でないとき、加熱過程にて、700~800℃でのPHO/PHを0.10~1.0とし、1000~1050℃でのPHO/PHを0.0020~0.030とし、且つ850~950℃での保持時間を120~600分とする。
上記のPHO/PHは、酸素ポテンシャルと呼ばれ、雰囲気ガスの水蒸気分圧PHOと水素分圧PHとの比である。
本実施形態の「切り替え」は、主として、方位変化(切り替え)自体を発生し易くする要因と、方位変化(切り替え)が一つの二次再結晶粒の中で継続的に発生するようにする要因との二つによって制御される。
切り替え自体を発生し易くさせるためには、二次再結晶をより低温から開始させることが有効である。例えば、一次再結晶粒径を制御し、Nb群元素を活用することによって、二次再結晶の開始をより低温に制御できる。
切り替えを一つの二次再結晶粒の中で継続的に発生させるためには、二次再結晶粒を低温から高温まで継続的に成長させることが有効である。例えば、従来から用いられるインヒビターであるAlNなどを適切な温度および雰囲気中で利用することによって、低温で二次再結晶粒を発生させ、インヒビター効果を高温まで継続して作用させ、切り替えを一つの二次再結晶粒の中で高温まで継続的に発生させることができる。
すなわち、切り替えを好ましく発生させるためには、高温での二次再結晶粒の発生を抑制したまま、低温で発生した二次再結晶粒を高温まで優先的に成長させることが有効となる。
また、本実施形態では、上記の二つの要因に加え、γ結晶粒の形状に面内異方性を付与するため、最終的な二次再結晶過程で、二次再結晶粒の成長に異方性を持たせる方法を採用してもよい。
本実施形態の特徴である切り替えを制御するには、上記の要因が重要である。その他の製造条件は、従来の公知の方向性電磁鋼板の製造方法を適用することができる。例えば、高温スラブ加熱によって形成するMnSやAlNをインヒビターとして利用する製造方法や、低温スラブ加熱とその後の窒化処理によって形成するAlNをインヒビターとして利用する製造方法などがある。本実施形態の特徴である切り替えは、何れの製造方法でも適用が可能であり、特定の製造方法に限定されない。以下では、窒化処理を適用する製造方法にて切り替えを制御する方法を一例として説明する。
(鋳造工程)
鋳造工程では、スラブを準備する。スラブの製造方法の一例は次のとおりである。溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いてスラブを製造する。連続鋳造法によりスラブを製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されない。スラブの厚さは、たとえば、150~350mmである。スラブの厚さは、好ましくは、220~280mmである。スラブとして、厚さが10~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。薄スラブを用いる場合、熱間圧延工程にて、仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
スラブの化学組成は、一般的な方向性電磁鋼板の製造に用いられるスラブの化学組成を用いることができる。スラブの化学組成はたとえば、次の元素を含有する。
C:0~0.0850%
炭素(C)は、製造過程では一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、最終製品のC含有量が過剰であると磁気特性に悪影響を及ぼす。したがって、スラブのC含有量は0~0.0850%であればよい。C含有量の好ましい上限は0.0750%である。Cは後述の脱炭焼鈍工程及び仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.0050%以下となる。Cを含む場合、工業生産における生産性を考慮すると、C含有量の下限は0%超であってもよく、0.0010%であってもよい。
Si:2.0~7.0%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて鉄損を低下させる。Si含有量が2.0%未満であれば、仕上げ焼鈍時にオーステナイト変態が生じて、方向性電磁鋼板の結晶方位が損なわれてしまう。一方、Si含有量が7.0%を超えれば、冷間加工性が低下して、冷間圧延時に割れが発生しやすくなる。Si含有量の好ましい下限は2.50%であり、さらに好ましくは3.0%である。Si含有量の好ましい上限は4.50%であり、さらに好ましくは4.0%である。
Mn:0~1.0%
マンガン(Mn)は、S又はSeと結合して、MnS、又は、MnSeを生成し、インヒビターとして機能する。Mn含有量は0~1.0%であればよい。Mnを含有させる場合、Mn含有量が0.05~1.0%の範囲内にある場合に、二次再結晶が安定するので好ましい。本実施形態では、インヒビターの機能の一部をNb群元素の窒化物によって担うことが可能である。この場合は、一般的なインヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、Mn含有量の好ましい上限は0.50%であり、さらに好ましくは0.20%である。
S:0~0.0350%
Se:0~0.0350%
硫黄(S)及びセレン(Se)は、Mnと結合して、MnS又はMnSeを生成し、インヒビターとして機能する。S含有量は0~0.0350%であればよく、Se含有量は0~0.0350%であればよい。S及びSeの少なくとも一方を含有させる場合、S及びSeの含有量が合計で0.0030~0.0350%であれば、二次再結晶が安定するので好ましい。本実施形態では、インヒビターの機能の一部をNb群元素の窒化物によって担うことが可能である。この場合は、一般的なインヒビターとしてのMnS、又は、MnSe強度は弱めに制御する。このため、S及びSe含有量の合計の好ましい上限は0.0250%であり、さらに好ましくは0.010%である。S及びSeは仕上げ焼鈍後に残留すると化合物を形成し、鉄損を劣化させる。そのため、仕上げ焼鈍中の純化により、S及びSeをできるだけ少なくすることが好ましい。
ここで、「S及びSeの含有量が合計で0.0030~0.0350%」であるとは、スラブの化学組成がS又はSeのいずれか一方のみを含有し、S又はSeのいずれか一方の含有量が0.0030~0.0350%であってもよいし、スラブがS及びSeの両方を含有し、S及びSeの含有量が合計で0.0030~0.0350%であってもよい。
Al:0~0.0650%
アルミニウム(Al)は、Nと結合して(Al、Si)Nとして析出し、インヒビターとして機能する。Al含有量は0~0.0650%であればよい。Alを含有させる場合、Alの含有量が0.010~0.065%の範囲内にある場合に、後述の窒化により形成されるインヒビターとしてのAlNは二次再結晶温度域を拡大し、特に高温域での二次再結晶が安定するので好ましい。Al含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.0250%である。二次再結晶の安定性の観点から、Al含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.030%である。
N:0~0.0120%
窒素(N)は、Alと結合してインヒビターとして機能する。N含有量は0~0.0120%であればよい。Nは製造過程の途中で窒化により含有させることが可能であるため下限が0%でもよい。一方、Nを含有させる場合、N含有量が0.0120%を超えれば、鋼板中に欠陥の一種であるブリスタが発生しやすくなる。N含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.0090%である。Nは仕上げ焼鈍工程で純化され、仕上げ焼鈍工程後には0.0050%以下となる。
Nb:0~0.030%
V:0~0.030%
Mo:0~0.030%
Ta:0~0.030%
W:0~0.030%
Nb、V、Mo、Ta、及びWは、Nb群元素である。Nb含有量は0~0.030%であればよく、V含有量は0~0.030%であればよく、Mo含有量は0~0.030%であればよく、Ta含有量は0~0.030%であればよく、W含有量は0~0.030%であればよい。
また、Nb群元素として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030~0.030質量%含有することが好ましい。
Nb群元素を切り替えの制御に活用する場合、スラブでのNb群元素の合計含有量が0.030%以下(好ましくは0.0030%以上0.030%以下)であると、適切なタイミングで二次再結晶を開始させる。また、発生する二次再結晶粒の方位が非常に好ましいものとなり、その後の成長過程で、本実施形態が特徴とする切り替えが起きやすくなり、最終的に磁気特性にとって好ましい組織に制御できる。
Nb群元素を含有することにより、脱炭焼鈍後の一次再結晶粒径は、Nb群元素を含有しない場合に比べて好ましく小径化する。この一次再結晶粒の微細化は、炭化物、炭窒化物、窒化物等の析出物によるピン止め効果、および固溶元素としてのドラッグ効果などにより得られると考えられる。特に、Nb及びTaはその効果が強く好ましく得られる。
Nb群元素による一次再結晶粒径の小径化によって、二次再結晶の駆動力が大きくなり、二次再結晶が従来よりも低温で開始する。また、Nb群元素の析出物は、AlNなどの従来インヒビターよりも比較的低温で分解するため、仕上げ焼鈍の昇温過程にて、二次再結晶が従来よりも低温で開始する。これらのメカニズムについては後述するが、低温で二次再結晶が開始することで、本実施形態の特徴である切り替えが起き易くなる。
なお、二次再結晶のインヒビターとしてNb群元素の析出物を活用する場合、Nb群元素の炭化物及び炭窒化物は、二次再結晶が可能な温度域よりも低い温度域で不安定となるため、二次再結晶開始温度を低温にシフトさせる効果が小さいと考えられる。このため、二次再結晶開始温度を好ましく低温にシフトさせるためには、二次再結晶が可能な温度域まで安定であるNb群元素の窒化物を活用することが好ましい。
二次再結晶開始温度を好ましく低温シフトさせるNb群元素の析出物(好ましくは窒化物)と、二次再結晶開始後も高温まで安定なAlN、(Al、Si)Nなどの従来インヒビターとを併用することにより、二次再結晶粒である{110}<001>方位粒の優先成長温度域を従来よりも拡大することができる。そのため、低温から高温までの幅広い温度域で切り替えが発生し、方位選択が広い温度域で継続する。その結果、最終的なγ粒界の存在頻度が高まるとともに、方向性電磁鋼板を構成する二次再結晶粒の{110}<001>方位集積度を効果的に高めることができる。
なお、Nb群元素の炭化物や炭窒化物などのピン止め効果により、一次再結晶粒の微細化を指向する場合は、鋳造時点でスラブのC含有量を50ppm以上としておくことが好ましい。ただし、二次再結晶におけるインヒビターとしては、炭化物もしくは炭窒化物よりも、窒化物が好ましいことから、一次再結晶完了後は、脱炭焼鈍によりC含有量を30ppm以下、好ましくは20ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下にして、鋼中のNb群元素の炭化物や炭窒化物を十分に分解しておくことが好ましい。脱炭焼鈍にて、Nb群元素の大部分を固溶状態にしておくことで、その後の窒化処理にて、Nb群元素の窒化物(インヒビター)を、本実施形態にとって好ましい形態(二次再結晶が進行しやすい形態)に調整することができる。
Nb群元素の合計含有量は、0.0040%以上であることが好ましく、0.0050%以上であることがより好ましい。また、Nb群元素の合計含有量は、0.020%以下であることが好ましく、0.010%であることがより好ましい。
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。なお、ここでいう「不純物」は、スラブを工業的に製造する際に、原材料に含まれる成分、又は製造の過程で混入する成分から不可避的に混入し、本実施形態の効果に実質的に影響を与えない元素を意味する。
また、スラブは、製造上の課題解決のほか、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、上記Feの一部に代えて、公知の選択元素を含有してもよい。選択元素として、たとえば、次の元素が挙げられる。
Cu:0~0.40%
Bi:0~0.010%
B:0~0.080%
P:0~0.50%
Ti:0~0.0150%
Sn:0~0.10%
Sb:0~0.10%
Cr:0~0.30%
Ni:0~1.0%
これらの選択元素は、公知の目的に応じて含有させればよい。これらの選択元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程は、所定の温度(例えば1100~1400℃)に加熱されたスラブの熱間圧延を行い、熱間圧延鋼板を得る工程である。熱間圧延工程では、例えば、鋳造工程後に加熱された珪素鋼素材(スラブ)の粗圧延を行った後、仕上げ圧延を行って所定厚さ、例えば、1.8~3.5mmの熱間圧延鋼板とする。仕上げ圧延終了後、熱間圧延鋼板を所定の温度で巻き取る。
インヒビターとしてのMnS強度はそれほど必要でないため、生産性を考慮すれば、スラブ加熱温度は1100℃~1280℃とすることが好ましい。
なお、熱延工程にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内で温度勾配を設けることにより、結晶組織、結晶方位、及び析出物について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なγ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、スラブ加熱にて、板幅方向に温度勾配を設けて高温部の析出物を微細化し、高温部のインヒビター機能を高めることで、二次再結晶時に低温部から高温部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(熱延板焼鈍工程)
熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程で得た熱間圧延鋼板を所定の温度条件(例えば750~1200℃で30秒間~10分間)で焼鈍して、熱延焼鈍板を得る工程である。
なお、熱延板焼鈍工程にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内で温度勾配を設けることにより、結晶組織、結晶方位、及び析出物について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なγ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、熱延板焼鈍にて、板幅方向に温度勾配を設けて高温部の析出物を微細化し、高温部のインヒビター機能を高めることで、二次再結晶時に低温部から高温部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程は、熱延板焼鈍工程で得た熱延焼鈍板を、1回の冷間圧延、又は焼鈍(中間焼鈍)を介して複数回(2回以上)の冷間圧延(例えば総冷延率で80~95%)により、例えば、0.10~0.50mmの厚さを有する冷間圧延鋼板を得る工程である。
(脱炭焼鈍工程)
脱炭焼鈍工程は、冷間圧延工程で得た冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍(例えば700~900℃で1~3分間)を行い、一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板を得る工程である。冷間圧延鋼板に脱炭焼鈍を行うことで、冷間圧延鋼板中に含まれるCが除去される。脱炭焼鈍は、冷間圧延鋼板中に含まれる「C」を除去するために、湿潤雰囲気中で行うことが好ましい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法では、脱炭焼鈍鋼板の一次再結晶粒径を24μm以下に制御することが好ましい。一次再結晶粒径を微細化することによって、二次再結晶開始温度を好ましく低温にシフトさせることができる。
例えば、前述の熱間圧延および熱延板焼鈍の条件を制御したり、脱炭焼鈍温度を必要に応じて低温化したりすることによって、一次再結晶粒径を小さくすることができる。または、スラブにNb群元素を含有させ、Nb群元素の炭化物や炭窒化物などのピン止め効果によって、一次再結晶粒を小さくすることができる。
なお、脱炭焼鈍に起因する脱炭酸化量及び表面酸化層の状態は、中間層(グラス被膜)の形成に影響を及ぼすため、本実施形態の効果を発現するために従来の方法を使って適宜調整してもよい。
切り替えを起きやすくする元素として含有させてもよいNb群元素は、この時点では、炭化物や炭窒化物や固溶元素などとして存在し、一次再結晶粒径を微細化するように影響を及ぼす。一次再結晶粒径は、23μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、18μm以下であることがより好ましい。また、一次再結晶粒径は、8μm以上であればよく、12μm以上であってもよい。
なお、脱炭焼鈍工程にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内での温度勾配や脱炭挙動差を設けることにより、結晶組織、結晶方位、及び析出物について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なγ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、スラブ加熱にて、板幅方向に温度勾配を設けて低温部の一次再結晶粒径を微細化して二次再結晶開始の駆動力を高め、低温部での二次再結晶を早期に開始させることで、二次再結晶粒の成長時に低温部から高温部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(窒化処理)
窒化処理は、二次再結晶におけるインヒビターの強度を調整するために実施する。窒化処理では、上述の脱炭焼鈍の開始から、後述する仕上げ焼鈍における二次再結晶の開始までの間の任意のタイミングで、鋼板の窒素量を40~300ppm程度に増加させればよい。窒化処理としては、例えば、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で鋼板を焼鈍する処理や、MnN等の窒化能を有する粉末を含む焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板を仕上げ焼鈍する処理等が例示される。
スラブがNb群元素を上記の数値範囲で含有する場合は、窒化処理によって形成されるNb群元素の窒化物が比較的低温で粒成長抑止機能が消失するインヒビターとして機能するので、二次再結晶が従来よりも低温から開始する。この窒化物は、二次再結晶粒の核発生の選択性に関しても有利に作用し、高磁束密度化を実現している可能性も考えられる。また、窒化処理ではAlNも形成され、このAlNが比較的高温まで粒成長抑止機能が継続するインヒビターとして機能する。これらの効果を得るためには、窒化処理後の窒化量を130~250ppmとすることが好ましく、さらには150~200ppmとすることが好ましい。
なお、窒化処理にて、鋼帯の幅または長手方向に上記範囲内で窒化量に差を設けることにより、インヒビター強度について、鋼板面内位置での不均一性を生じさせてもよい。これにより、最終的な二次再結晶過程での二次再結晶粒の成長に異方性を持たせ、本実施形態にとって必要なγ結晶粒の形状に面内異方性を好ましく付与することが可能である。例えば、板幅方向に窒化量の差を設けて高窒化部のインヒビター機能を高めることで、二次再結晶時に低窒化部から高窒化部に向けた優先的な粒成長を誘起することが可能である。
(焼鈍分離剤塗布工程)
焼鈍分離剤塗布工程は、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する工程である。焼鈍分離剤としては、例えば、MgOを主成分とする焼鈍分離剤や、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いることができる。
なお、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍によって中間層としてフォルステライト被膜(MgSiOを主体とする被膜)が形成されやすく、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を用いた場合には、仕上げ焼鈍によって中間層として酸化膜(SiOを主体とする被膜)が形成されやすい。これらの中間層は、必要に応じて除去してもよい。
焼鈍分離剤を塗布後の脱炭焼鈍鋼板は、コイル状に巻取った状態で、次の仕上げ焼鈍工程で仕上げ焼鈍される。
(仕上げ焼鈍工程)
仕上げ焼鈍工程は、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を施し、二次再結晶を生じさせる工程である。この工程は、一次再結晶粒の成長をインヒビターにより抑制した状態で二次再結晶を進行させることによって、{100}<001>方位粒を優先成長させ、磁束密度を飛躍的に向上させる。
仕上げ焼鈍は、本実施形態の特徴である切り替えを制御するために重要な工程である。本実施形態では、仕上げ焼鈍にて、以下の(A)、(B)、(D)の3つの条件を基本として、ずれ角γを制御する。
なお、仕上げ焼鈍工程の説明における「Nb群元素の合計含有量」は、仕上げ焼鈍直前の鋼板(脱炭焼鈍鋼板)のNb群元素の合計含有量を意味する。つまり、仕上げ焼鈍条件に影響するのは、仕上げ焼鈍直前の鋼板の化学組成であり、仕上げ焼鈍および純化が起きた後の化学組成(例えば方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の化学組成)とは無関係である。
(A)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、700~800℃の温度域での雰囲気についてのPHO/PHをPAとしたとき、
PA:0.10~1.0
(B)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、1000~1050℃の温度域での雰囲気についてのPHO/PHをPBとしたとき、
PB:0.0020~0.030
(D)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、850~950℃の温度域での保持時間をTDとしたとき、
TD:120~600分
なお、Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%の場合は、条件(A)、(B)のうちの少なくとも一つ、かつ条件(D)を満足すればよい。
Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%でない場合は、条件(A)、(B)、(D)の3つを満足すればよい。
条件(A)および(B)に関して、Nb群元素を上記範囲で含有する場合、Nb群元素が持つ回復再結晶抑制効果のため、「低温域での二次再結晶の開始」と「高温域までの二次再結晶の継続」の二つ要因が強く作用する。その結果、本実施形態の効果を得るための制御条件が緩和する。
PAは、0.30以上であることが好ましく、0.60以下であることが好ましい。
PBは、0.0050以上であることが好ましく、0.020以下であることが好ましい。
TDは、180分以上であることが好ましく、240分以上であることがより好ましく、480分以下であることが好ましく、360分以下であることがより好ましい。
切り替えが発生するメカニズムの詳細は、現時点では明確ではない。ただし、二次再結晶過程の観察結果および切り替えを好ましく制御できる製造条件を考慮し、「低温域での二次再結晶の開始」と「高温域までの二次再結晶の継続」との二つの要因が重要であると推察している。
この二つの要因を念頭に、上記(A)、(B)、(D)の限定理由について説明する。なお、以下の説明で、メカニズムについての記述は推測を含む。
条件(A)は、二次再結晶が起きる温度よりも十分に低い温度域での条件であり、この条件は二次再結晶と認識される現象に直接的には影響しない。ただし、この温度域は、鋼板表面に塗布された焼鈍分離剤が持ち込む水分等で鋼板表層が酸化する温度域であり、すなわち、一次被膜(中間層)の形成に影響を及ぼす温度域である。条件(A)は、この一次被膜の形成を制御することを介して、その後の「高温域までの二次再結晶の継続」を可能とするために重要となる。この温度域を上記雰囲気とすることで、一次被膜は緻密な構造となり、二次再結晶が生じる段階にてインヒビターの構成元素(例えば、Al、Nなど)が系外に排出されるのを阻害するバリアとして作用する。これにより二次再結晶が高温まで継続し、切り替えを十分に起こすことが可能になる。
条件(B)は、二次再結晶の粒成長の中期段階に相当する温度域での条件であり、この条件は二次再結晶粒が成長する過程でのインヒビター強度の調整に影響する。この温度領域を上記雰囲気とすることで、粒成長の後期段階にて、二次再結晶粒の成長がインヒビター分解に律速されて進行するようになる。詳細は後述するが、条件(B)によって、二次再結晶粒の成長方向前面の粒界に転位が効率的に蓄積するので、切り替えの発生頻度が高まり且つ切り替えが継続的に発生する。
条件(D)は、
二次再結晶の核形成から粒成長の初期段階に相当する温度域での条件である。
この温度域での保持は良好な二次再結晶を起こすために重要であるが、保持時間が長くなると、一次再結晶粒の成長も起きやすくなる。例えば、一次再結晶粒の粒径が大きくなると、切り替え発生の駆動力となる転位の蓄積(二次再結晶粒の成長方向前面の粒界への転位蓄積)が起きにくくなってしまう。この温度域での保持時間を600分以下とすれば、一次再結晶粒の粗大化を抑制した状態で
二次再結晶粒の初期段階の成長を進行させることができるので、特定のずれ角の選択性を高めることとなる。
本実施形態では、一次再結晶粒の微細化やNb群元素の活用などにより二次再結晶開始温度を低温にシフトさせることを背景とし、ずれ角γでの切り替えを多く発生させ且つ継続させる。
本実施形態の製造方法では、Nb群元素を活用する場合、条件(A)および(B)の両方を満足しなくても一方を選択的に満足すれば、本実施形態の切り替え条件を満たす方向性電磁鋼板を得ることが可能である。すなわち、二次再結晶初期に特定のずれ角(本実施形態の場合はずれ角γ)での切り替え頻度を高めるように制御すれば、切り替えによる方位差を保ったままで二次再結晶粒が成長し、その影響は後期まで継続して最終的な切り替え頻度も高くなる。さらにその影響は後期まで継続して新たな切り替えが発生するとしても、ずれ角γの変化が大きい切り替えが発生し、最終的なずれ角γの切り替え頻度も高くなる。もちろん、Nb群元素を活用したとしても、条件(A)および(B)の両方を満たすことが最適である。
上記した本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を基本として、二次再結晶粒をずれ角γがわずかに異なる小さな領域に分割された状態に制御すればよい。具体的には、上記方法を基本として、第1実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板中に、境界条件BBを満足する粒界に加えて、境界条件BAを満足し且つ上記境界条件BBを満足しない粒界を作り込めばよい。
次に、本実施形態に係る製造方法に関する好ましい製造条件を説明する。
本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%でないとき、加熱過程にて、1000~1050℃での保持時間を300~1500分とすることが好ましい。
同様に、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%であるとき、加熱過程にて、1000~1050℃での保持時間を150~900分とすることが好ましい。
以下では、上記の製造条件を、条件(E-1)とする。
(E-1)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、1000~1050℃の温度域での保持時間(総滞留時間)をTE1としたとき、
Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%の場合、
TE1:150分以上
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、
TE1:300分以上
Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%の場合、TE1は、200分以上であることが好ましく、300分以上であることがより好ましく、900分以下であることが好ましく、600分以下であることがより好ましい。
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、TE1は、好ましくは、360分以上であることが好ましく、600分以上であることがより好ましく、1500分以下であることが好ましく、900分以下であることがより好ましい。
条件(E-1)は、切り替えが起きているγ粒界の鋼板面内の延伸方向を制御する因子となる。1000~1050℃で、十分な保持を行うことで、圧延方向での切り替え頻度を高めることが可能となる。上記温度域での保持中に、インヒビターを含む鋼中析出物の形態(例えば、配列及び形状)が変化することに起因して、圧延方向での切り替え頻度が高まると考えられる。
仕上げ焼鈍に供される鋼板は、熱間圧延および冷間圧延を経ているので、鋼中の析出物(特にMnS)の配列及び形状は、鋼板面内で異方性を有し、圧延方向に偏向する傾向を有すると考えられる。詳細は不明であるが、上記の温度域での保持は、このような析出物の形態の圧延方向への偏向程度を変化させ、二次再結晶粒の成長時にγ粒界が鋼板面内のどの方向に延伸しやすいかに影響を及ぼしていると考えられる。具体的には、1000~1050℃という比較的高温で鋼板を保持すると、鋼中で析出物の形態の圧延方向への偏向が消失し、このためγ粒界が圧延方向に延伸する割合が低下して圧延直角方向に延伸する傾向が強くなる。その結果として、圧延方向で計測するγ粒界の頻度が高くなると考えられる。
なお、Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%の場合は、γ粒界の存在頻度自体が高いため、条件(E-1)の保持時間が短くても本実施形態の効果を得ることが可能である。
上記した条件(E-1)を含む製造方法によって、γ結晶粒の圧延方向の粒径を、二次再結晶粒の圧延方向の粒径よりも小さく制御できる。具体的には、上記した条件(E-1)を合わせて制御することによって、第2実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板にて、粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たすように制御できる。
また、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%でないとき、加熱過程にて、950~1000℃での保持時間を300~1500分とすることが好ましい。
同様に、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程で、スラブの化学組成のNb、V、Mo、Ta、およびWの合計含有量が0.0030~0.030%であるとき、加熱過程にて、950~1000℃での保持時間を150~900分とすることが好ましい。
以下では、上記の製造条件を、条件(E-2)とする。
(E-2)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、950~1000℃の温度域での保持時間(総滞留時間)をTE2としたとき、
Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%の場合、
TE2:150分以上
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、
TE2:300分以上
Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%の場合、TE2は、200分以上であることが好ましく、300分以上であることがより好ましく、900分以下であることが好ましく、600分以下であることがより好ましい。
Nb群元素の合計含有量が上記範囲外の場合、TE2は、360分以上であることが好ましく、600分以上であることがより好ましく、1500分以下であることが好ましく、900分以下であることがより好ましい。
条件(E-2)は、切り替えが起きているγ粒界の鋼板面内の延伸方向を制御する因子となる。950~1000℃で、十分な保持を行うことで、圧延直角方向での切り替え頻度を高めることが可能となる。上記温度域での保持中に、インヒビターを含む鋼中析出物の形態(例えば、配列及び形状)が変化することに起因して、圧延直角方向での切り替え頻度が高まると考えられる。
仕上げ焼鈍に供される鋼板は、熱間圧延および冷間圧延を経ているので、鋼中の析出物(特にMnS)の配列及び形状は、鋼板面内で異方性を有し、圧延方向に偏向する傾向を有すると考えられる。詳細は不明であるが、上記の温度域での保持は、このような析出物の形態の圧延方向への偏向程度を変化させ、二次再結晶粒の成長時にγ粒界が鋼板面内のどの方向に延伸しやすいかに影響を及ぼしていると考えられる。具体的には、950~1000℃という比較的低温で鋼板を保持すると、鋼中で析出物の形態の圧延方向への偏向が増長し、このためγ粒界が圧延直角方向に延伸する割合が低下して圧延方向に延伸する傾向が強くなる。その結果として、圧延直角方向で計測するγ粒界の頻度が高くなるものと考えられる。
なお、Nb群元素の合計含有量が0.0030~0.030%の場合は、γ粒界の存在頻度自体が高いため、条件(E-2)の保持時間が短くても本実施形態の効果を得ることが可能である。
上記した条件(E-2)を含む製造方法によって、γ結晶粒の圧延直角方向の粒径を、二次再結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さく制御できる。具体的には、上記した条件(E-2)を合わせて制御することによって、第3実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板にて、粒径RAと粒径RBとが、1.10≦RB÷RAを満たすように制御できる。
また、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍の加熱過程にて、鋼板中の一次再結晶領域と二次再結晶領域との境界部位に0.5℃/cm超の温度勾配を与えながら二次再結晶を生じさせることが好ましい。例えば、仕上げ焼鈍の加熱過程の800℃から1150℃の温度範囲内で二次再結晶粒が成長中に上記の温度勾配を鋼板に与えることが好ましい。
また、上記温度勾配を与える方向が圧延直角方向Cであることが好ましい。
仕上げ焼鈍工程は、γ結晶粒の形状に面内異方性を付与する工程として有効に活用できる。例えば、箱型の焼鈍炉を用い、コイル状の鋼板を炉内に設置して加熱する際に、コイルの外部と内部とに十分な温度差が生じるように、加熱装置の位置や配置、焼鈍炉内の温度分布を制御すればよい。または、誘導加熱、高周波加熱、通電加熱装置などを配置してコイルの一部のみを積極的に加熱することで、焼鈍されるコイル内に温度分布を形成してもよい。
温度勾配を付与する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用すれば良い。鋼板に温度勾配を付与すれば、早期に二次再結晶開始状態に到達したコイル内の部位から尖鋭な方位を持つ二次再結晶粒が生成し、この二次再結晶粒が温度勾配に起因して異方性を示して成長する。例えば、二次再結晶粒をコイルの全体にわたり成長させることもできる。そのため、γ結晶粒の形状の面内異方性を好ましく制御することが可能となる。
コイル状の鋼板を加熱する場合、コイルエッジ部が加熱されやすいことから、幅方向(鋼板の板幅方向)の一端側から他端側に向けて温度勾配を付与して二次再結晶粒を成長させることが好ましい。
なお、Goss方位へ制御して目的の磁気特性を得ることを考慮すれば、さらには工業的な生産性も考慮すれば、0.5℃/cm超(好ましくは0.7℃/cm以上)の温度勾配を与えながら仕上げ焼鈍を施して二次再結晶粒を成長させればよい。温度勾配を与える方向は、圧延直角方向Cであることが好ましい。温度勾配の上限は特に限定されないが、温度勾配を維持した状態で二次再結晶粒を継続的に成長させることが好ましい。鋼板の熱伝導と二次再結晶粒の成長速度とを考慮すると、一般的な製造プロセスであれば、例えば温度勾配の上限は10℃/cmであればよい。
上記した条件の温度勾配を含む製造方法によって、γ結晶粒の圧延方向の粒径を、γ結晶粒の圧延直角方向の粒径よりも小さく制御できる。具体的には、上記した条件の温度勾配を合わせて制御することによって、第4実施形態として記述したように、方向性電磁鋼板にて、粒径RAと粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たすように制御できる。
また、本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍の加熱過程にて、1050~1100℃の保持時間を300~1200分としてもよい。
以下では、上記の製造条件を、条件(F)とする。
(F)仕上げ焼鈍の加熱過程にて、1050~1100℃の温度域での保持時間をTFとしたとき、
TF:300~1200分
仕上げ焼鈍の加熱過程で1050℃までに二次再結晶が完了していない場合には、1050~1100℃の加熱速度を低く(徐加熱)することで、具体的には、TFを300~1200分とすることで、二次再結晶が高温まで継続して磁束密度が好ましく高まる。例えば、TFは、400分以上であることが好ましく、700分以下であることが好ましい。なお、仕上げ焼鈍の加熱過程で1050℃までに二次再結晶が完了している場合には、条件(F)を制御しなくてもよい。例えば、1050℃までに二次再結晶が完了している場合には、1050℃以上の温度域にて従来よりも昇温速度を速くして仕上げ焼鈍時間を短縮すれば、低コスト化が図れる。
本実施形態に係る製造方法では、仕上げ焼鈍工程にて、上記のように条件(A)、条件(B)、および条件(D)の3つを基本として制御し、必要に応じて、条件(E-1)、条件(E-2)、および/または温度勾配の条件を組み合わせればよい。例えば、条件(E-1)、条件(E-2)、または温度勾配の条件のうちの複数の条件を組み合わせてもよい。また、必要に応じて条件(F)を組み合わせてもよい。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、上記した各工程を有する。
上記した各工程の各条件を制御することによって、方位変化の制御を行うことができる。その上で、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、磁区制御に起因する騒音の増大を抑制するために、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込む。例えば、鋳造工程でスラブがNb群元素を含有することで、または熱間圧延工程でスラブ加熱温度をより高温にすることで、または仕上げ焼鈍工程で温度勾配を与えながら二次再結晶を生じさせることで、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込めばよい。
上記のように、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
本実施形態に係る製造方法は、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程後に絶縁被膜形成工程をさらに有してもよい。
(絶縁被膜形成工程)
絶縁被膜形成工程は、仕上げ焼鈍工程後の方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)に絶縁被膜を形成する工程である。仕上げ焼鈍後の鋼板に、りん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜や、アルミナゾルと硼酸とを主体とする絶縁被膜を形成すればよい。
例えば、仕上げ焼鈍後の鋼板に、りん酸あるいはりん酸塩、無水クロム酸あるいはクロム酸塩およびコロイド状シリカを含むコーティング溶液を塗布して焼き付けて(例えば、350℃~1150℃で5~300秒間)、絶縁被膜を形成すればよい。被膜形成時には、必要に応じて、雰囲気の酸化度や露点などを制御すればよい。
または、仕上げ焼鈍後の鋼板に、アルミナゾルおよびホウ酸を含むコーティング溶液を塗布して焼き付けて(例えば、750℃~1350℃で10~100秒間)、絶縁被膜を形成すればよい。被膜形成時には、必要に応じて、雰囲気の酸化度や露点などを制御すればよい。
また、本実施形態に係る製造方法は、磁区制御工程をさらに有する。
(磁区制御工程)
磁区制御工程は、方向性電磁鋼板の磁区を細分化する処理を行う工程である。例えば、レーザー、プラズマ、機械的方法、エッチングなどの公知の手法により、方向性電磁鋼板に局所的な歪または局所的な溝を形成すればよい。
なお、上記の局所的な歪及び局所的な溝は、本実施形態で規定する結晶方位及び粒径の測定の際に異常点となる。このため、結晶方位の測定では、測定点が局所的な歪及び局所的な溝に重ならないようにする。また、粒径の測定では、局所的な歪及び局所的な溝を粒界とは認識しない。
(切り替え発生のメカニズムについて)
本実施形態で規定する切り替えは、二次再結晶粒が成長する過程で起きる。この現象は、素材(スラブ)の化学組成、二次再結晶粒の成長に至るまでのインヒビターの造り込み、一次再結晶粒の粒径の制御など、多岐の制御条件に影響される。このため、切り替えは、単に一つの条件を制御すればよいわけではなく、複数の制御条件を複合的に且つ不可分に制御する必要がある。
切り替えは、隣接する結晶粒の間の粒界エネルギーおよび表面エネルギーに起因して生じると考えられる。
上記の粒界エネルギーについては、角度差を有する2つの結晶粒が隣接していると、その粒界エネルギーが大きくなるため、二次再結晶粒が成長する過程で粒界エネルギーを低減するように、つまり特定の同一方位に近づくように切り替えが起きることが考えられる。
また、上記の表面エネルギーについては、対称性がそれなりに高い{110}面から方位がわずかにでもずれると、表面エネルギーを増大させることになるため、二次再結晶粒が成長する過程で表面エネルギーを低減するように、つまり{110}面方位に近づきずれ角が小さくなるように切り替えが起きることが考えられる。
ただし、これらのエネルギー差は、一般的な状況では二次再結晶粒が成長する過程で切り替えを起こしてまで方位変化を生じさせるようなエネルギー差ではない。このため、一般的な状況では角度差またはずれ角を有したままで二次再結晶粒が成長する。例えば、一般的な状況で二次再結晶粒が成長する場合、ずれ角γの切り替えは起きず、ずれ角γは二次再結晶粒の発生時点での方位ばらつきに起因した角度に対応する。また、最終的なずれ角γの絶対値の標準偏差σ(|γ|)も、二次再結晶粒の発生時点での方位ばらつきに起因した値に相当する。すなわち、ずれ角γは、二次再結晶粒の成長過程で殆ど変化しない。
一方、本実施形態に係る方向性電磁鋼板のように、二次再結晶をより低温から開始させ、かつ二次再結晶粒の成長を高温まで長時間に亘って継続させる場合、切り替えが顕著に起きるようになる。この理由は明確ではないが、二次再結晶粒が成長する過程で、その成長方向の前面部つまり一次再結晶粒に隣接する領域に、比較的高密度で幾何学的な方位のずれを解消するための転位が残存することが考えられる。この残存する転位が、本実施形態の切り替えおよびγ粒界に対応すると考えられる。
本実施形態では、二次再結晶が従来よりも低温で開始するため、転位の消滅が遅れ、成長する二次再結晶粒の成長方向前面の粒界に転位が掃き溜められるような形で蓄積して転位密度が増す。このため成長する二次再結晶粒の前面で原子の再配列が起き易くなり、その結果、隣接する二次再結晶粒との角度差を小さくするように、すなわち粒界エネルギーを小さくするように、または表面エネルギーを小さくするように切り替えを起こすものと考えられる。
この切り替えは、特別な方位関係を有する粒界(γ粒界)を二次再結晶粒内に残すこととなる。なお、切り替えが起きる前に、別の二次再結晶粒が発生して、成長中の二次再結晶粒がこの生成した二次再結晶粒に到達すれば、粒成長が止まるため、切り替え自体が起きなくなる。このため、本実施形態では、二次再結晶粒の成長段階で、新たな二次再結晶粒の発生頻度を低くし、インヒビター律速で既存の二次再結晶のみが成長を継続する状態に制御することが有利となる。このため、本実施形態では、二次再結晶開始温度を好ましく低温シフトさせるインヒビターと、比較的高温まで安定なインヒビターとを併用することが好ましい。
なお、本実施形態にて、ずれ角γを主要な方位変化とする切り替えが起きる理由は明確ではないが、以下のように考えている。切り替えがどのような方位変化で起きるかは、切り替えの基本単位とも言える転位の種類(つまり、成長の過程で二次再結晶粒の前面に掃き溜められる転位におけるバーガースベクトルなど)に影響すると考えられる。本実施形態では、ずれ角γの制御に関して、二次再結晶過程の比較的高温でのインヒビター制御(上記条件(B))の影響が大きい。例えば、1000℃以下の温度域での雰囲気によりインヒビター強度が変化すると、切り替えにおけるずれ角γの寄与は小さくなる。すなわち、インヒビターの弱化時期が、一次再結晶組織の変化(方位および粒径変化)、掃き溜められる転位の消失、および二次再結晶粒の成長速度に影響し、その結果として、成長する二次再結晶粒内に形成される切り替えの方位(つまり、二次再結晶粒内に取り込まれる転位の種類と量)を変化させると考えている。
なお、本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、方位変化の制御を行った上で、二次再結晶粒内を分割する小傾角な粒界を意図的に数多く作り込むので、磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝を有していても、騒音の増大を抑制できる。
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に詳細に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表2に示す化学組成を有するスラブを素材として、表3に示す化学組成を有する方向性電磁鋼板(珪素鋼板)を製造した。なお、これらの化学組成は、上記の方法に基づいて測定した。表2および表3で、「-」は含有量を意識した制御および製造をしておらず、含有量の測定を実施していないことを示す。また、表2および表3で、「<」を付記する数値は、含有量を意識した制御および製造を実施して含有量の測定を実施したが、含有量として十分な信頼性を有する測定値が得られなかったこと(測定結果が検出限界以下であること)を示す。
Figure 0007492112000002
Figure 0007492112000003
方向性電磁鋼板は、例えば表4~表6に示す製造条件に基づいて製造した。具体的には、スラブを鋳造し、熱間圧延、熱延板焼鈍、冷間圧延、脱炭焼鈍を実施し、必要に応じて脱炭焼鈍後の鋼板に、水素-窒素-アンモニアの混合雰囲気で窒化処理(窒化焼鈍)を施した。
さらに、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板に塗布し、仕上げ焼鈍を施した。仕上げ焼鈍の最終過程では、鋼板を水素雰囲気にて1200℃で20時間保持(純化焼鈍)して、冷却した。
Figure 0007492112000004
Figure 0007492112000005
Figure 0007492112000006
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に形成された一次被膜(中間層)の上に、りん酸塩とコロイド状シリカを主体としクロムを含有する絶縁被膜形成用のコーティング溶液を塗布し、水素:窒素が75体積%:25体積%の雰囲気で加熱して保持し、冷却して、絶縁被膜を形成した。
製造した方向性電磁鋼板は、歪付与部および溝形成部を除いて、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ2μmのフォルステライト被膜であり、絶縁被膜は平均厚さ1μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
また、磁区細分化のために、圧延方向と交差する方向に延伸するように線状または点状に、次の条件で、局所的な歪を付与するか、または局所的な溝を形成した。なお、ピッチは圧延方向の間隔であり、Uaはエネルギー密度であり、機械的溝形成は歯車プレス法であり、化学的溝形成は電解エッチング法である。
レーザー照射-条件A:照射ピッチ=5mm、Ua=1.0mJ/mm
レーザー照射-条件B:照射ピッチ=5mm、Ua=2.0mJ/mm
レーザー照射-条件I:照射ピッチ=3mm、Ua=2.5mJ/mm
電子ビーム照射-条件C:照射ピッチ=7mm、Ua=5.0mJ/mm
電子ビーム照射-条件D:照射ピッチ=7mm、Ua=10mJ/mm
電子ビーム照射-条件J:照射ピッチ=5mm、Ua=7mJ/mm
機械的溝形成-条件E:ピッチ=4mm、溝深さ=10μm、溝下粒あり。
機械的溝形成-条件F:ピッチ=4mm、溝深さ=20μm、溝下粒あり。
機械的溝形成-条件K:ピッチ=7mm、溝深さ=20μm、溝下粒なし。
化学的溝形成-条件G:ピッチ=5mm、溝深さ=10μm。
化学的溝形成-条件H:ピッチ=5mm、溝深さ=20μm。
化学的溝形成-条件L:ピッチ=6mm、溝深さ=20μm。
なお、機械的溝形成および化学的溝形成の後に、次の条件で絶縁被膜を形成した。
機械的溝形成-条件E:リン酸塩-コロイダルシリカ系絶縁被膜。焼付焼鈍850℃×30秒。
機械的溝形成-条件F:リン酸塩-コロイダルシリカ系絶縁被膜。焼付焼鈍850℃×30秒。
機械的溝形成-条件K:アルミナ-ホウ酸系絶縁被膜。焼付焼鈍900℃×10秒。
化学的溝形成-条件G:リン酸塩-コロイダルシリカ系絶縁被膜。焼付焼鈍850℃×60秒。
化学的溝形成-条件H:リン酸塩-コロイダルシリカ系絶縁被膜。焼付焼鈍850℃×60秒。
化学的溝形成-条件L:アルミナ-ホウ酸系絶縁被膜。焼付焼鈍900℃×60秒。
方向性電磁鋼板が、局所的な歪または局所的な溝を有するか否かは、上記の方法によって確認した。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。評価結果を表7~表9に示す。
(1)方向性電磁鋼板の結晶方位
方向性電磁鋼板の結晶方位を上記の方法で測定した。この測定した各測定点の結晶方位からずれ角を特定し、このずれ角に基づいて隣接する2つの測定点間に存在する粒界を特定した。なお、表中で示す「BA/BB」とは、「境界条件BAを満足する境界数」を「境界条件BBを満足する境界数」で割った値を意味する。「境界条件BAを満足する境界数」とは、上記した表1のケース1および/またはケース3の粒界に対応し、「境界条件BBを満足する境界数」とは、ケース1および/またはケース2の粒界に対応する。BA/BB値が1.1以上である場合、方向性電磁鋼板に「境界条件BAを満足し且つ境界条件BBを満足しない粒界」が存在すると判断した。また、必要に応じて、特定した粒界に基づいて平均結晶粒径を算出し、ずれ角γの絶対値の標準偏差σ(|γ|)を上記の方法で測定した。
(2)方向性電磁鋼板の磁気特性
方向性電磁鋼板の磁気特性は、JIS C 2556:2015に規定された単板磁気特性試験法(SST:Single Sheet Tester)に基づいて測定した。
磁気特性として、交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.7Tの条件で、鋼板の単位重量(1kg)あたりの電力損失として定義される鉄損W17/50(W/kg)を測定した。また、800A/mで励磁したときの鋼板の圧延方向の磁束密度B(T)を測定した。なお、Bが1.910T以上であるとき、鋼板の板厚を単位mmでtとして0.71+0.02×(t-0.22)W/kg以下であるとき、合格と判断した。
さらに、磁気特性として、交流周波数:50Hz、励磁磁束密度:1.9Tの条件下で鋼板に生じる磁歪λp-p@1.9Tを測定した。具体的には、上記の励磁条件下での試験片(鋼板)の最大長さLmaxおよび最小長さLmin、並び磁束密度0Tでの試験片の長さLを用いて、λp-p@1.9T=(Lmax-Lmin)÷Lにより算出した。
上記した磁気特性値に基づいて、1.9Tでの磁歪速度レベル(Lva@1.9T)を求めた。磁歪速度レベルLva(単位:dB)は、2周期以上の磁歪波形、6.4kHzのサンプリング周波数で取得した波形をフーリエ変換して、得られたそれぞれの周波数ごとの磁歪量λ(fi)(0Hz~3.2kHz)を用いて、以下の式1で導出した。Lva@1.9Tが54dB以下であるとき、合格と判断した。
Lva=20×log10[{ρc×{Σ(21/2π×fi×λ(fi)×α(fi))1/2}/P] ・・・(式1)
ここで、
ρ:空気の密度(kg/m
c:音速(m/s)
:1kHzの音を人間が聞き取ることのできる最小の圧力(Pa)、
fi:周波数(Hz)
λ(fi):フーリエ変換した周波数ごとの磁歪量
α(fi):周波数fiのA特性
π:円周率
なお、Lva@1.9Tをそれぞれ求めるにあたり、次の値を代入した。
ρ=1.185(kg/m
c=346.3(m/s)
=2×10-5(Pa)
Figure 0007492112000007
Figure 0007492112000008
Figure 0007492112000009
No.1~50のうち、本発明例はいずれも、磁束密度、鉄損、および高磁場騒音に優れた。一方、比較例は、磁束密度、鉄損、または高磁場騒音が十分でなかった。
例えば、
No.1は、磁区細分化されていないので鉄損を満たさず、またBA/BBが小さいので高磁場騒音を満たさなかった。
No.2およびNo.3は、磁区細分化されているので鉄損を満たしたが、BA/BBが小さいので高磁場騒音が増大した。
No.4は、磁区細分化されていないので鉄損を満たさなかった。ただ、No.4は、BA/BBが制御されているので高磁場騒音を満たしていた。
No.5およびNo.6は、磁区細分化されているので鉄損を満たし、且つBA/BBが制御されているので局所的な歪を有するにもかかわらず高磁場騒音の増大が抑制された。
No.7は、磁区細分化されていないので鉄損を満たさなかった。ただ、No.7は、BA/BBが好ましく制御されているので高磁場騒音を満たしていた。
No.8およびNo.9は、磁区細分化されているので鉄損を満たし、且つBA/BBが好ましく制御されているので局所的な歪を有するにもかかわらず高磁場騒音の増大が好ましく抑制された。
なお、すべての本発明例および比較例について考察しないが、上記と同様の考察ができる。
(実施例A)
表1Aに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Aに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板(珪素鋼板)を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 0007492112000010
Figure 0007492112000011
方向性電磁鋼板は、例えば表3A~表7Aに示す製造条件に基づいて製造した。表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
Figure 0007492112000012
Figure 0007492112000013
Figure 0007492112000014
Figure 0007492112000015
Figure 0007492112000016
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射の条件Bによって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の局所的な歪を付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ2μmのフォルステライト被膜であり、絶縁被膜は平均厚さ1μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表8A~表12Aに示す。
Figure 0007492112000017
Figure 0007492112000018
Figure 0007492112000019
Figure 0007492112000020
Figure 0007492112000021
No.1001~1103のうち、本発明例はいずれも、磁束密度、鉄損、および高磁場騒音に優れた。一方、比較例は、磁束密度、鉄損、または高磁場騒音が十分でなかった。
(実施例B)
表1Bに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Bに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 0007492112000022
Figure 0007492112000023
方向性電磁鋼板は、表3B~表7Bに示す製造条件に基づいて製造した。表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
Figure 0007492112000024
Figure 0007492112000025
Figure 0007492112000026
Figure 0007492112000027
Figure 0007492112000028
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射の条件Bによって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の局所的な歪を付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ1.5μmのフォルステライト被膜であり、絶縁被膜は平均厚さ2μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表8B~表12Bに示す。
Figure 0007492112000029
Figure 0007492112000030
Figure 0007492112000031
Figure 0007492112000032
Figure 0007492112000033
No.2001~2101のうち、本発明例はいずれも、磁束密度、鉄損、および高磁場騒音に優れた。一方、比較例は、磁束密度、鉄損、または高磁場騒音が十分でなかった。
(実施例C)
表1Cに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Cに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 0007492112000034
Figure 0007492112000035
方向性電磁鋼板は、表3C~表6Cに示す製造条件に基づいて製造した。なお、仕上げ焼鈍では、切り替えの発生方向の異方性を制御するため、鋼板の圧延直角方向に温度勾配をつけて熱処理を行った。この温度勾配および表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
Figure 0007492112000036
Figure 0007492112000037
Figure 0007492112000038
Figure 0007492112000039
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射の条件Bによって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の局所的な歪を付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。なお、中間層は平均厚さ3μmのフォルステライト被膜であり、絶縁被膜は平均厚さ3μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表7C~表10Cに示す。
ほとんどの方向性電磁鋼板は、温度勾配の方向に結晶粒が延伸し、γ結晶粒の結晶粒径もこの方向が大きくなった。すなわち、圧延直角方向に結晶粒が延伸していた。ただし、温度勾配が小さかった一部の方向性電磁鋼板では、γ結晶粒について圧延直角方向の粒径が圧延方向の粒径より小さくなっていた。圧延直角方向の粒径が圧延方向の粒径より小さい場合、表中の「温度勾配方向が不一致」の欄に「*」で示した。
Figure 0007492112000040
Figure 0007492112000041
Figure 0007492112000042
Figure 0007492112000043
No.3001~3071のうち、本発明例はいずれも、磁束密度、鉄損、および高磁場騒音に優れた。一方、比較例は、磁束密度、鉄損、または高磁場騒音が十分でなかった。
(実施例D)
表1Dに示す化学組成を有するスラブを素材として、表2Dに示す化学組成を有する方向性電磁鋼板を製造した。なお、化学組成の測定方法や、表中での記述方法は上記の実施例1と同じである。
Figure 0007492112000044
Figure 0007492112000045
方向性電磁鋼板は、表3Dに示す製造条件に基づいて製造した。表に示す以外の製造条件は上記の実施例1と同じである。
なお、No.4011以外では、焼鈍分離剤として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板に塗布し、仕上げ焼鈍を施した。一方、No.4011では、焼鈍分離剤として、アルミナを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板に塗布し、仕上げ焼鈍を施した。
Figure 0007492112000046
製造した方向性電磁鋼板(仕上げ焼鈍鋼板)の表面に、上記の実施例1と同じ絶縁被膜を形成した。
絶縁被膜を形成後に、レーザー照射の条件Bによって、鋼板の圧延面上で圧延方向と交差する方向に延伸するように線状の局所的な歪を付与した。
製造した方向性電磁鋼板は、切断方向が板厚方向と平行な切断面で見たとき、方向性電磁鋼板(珪素鋼板)上に接して配された中間層と、この中間層上に接して配された絶縁被膜とを有していた。
なお、No.4011以外の方向性電磁鋼板では、中間層が平均厚さ1.5μmのフォルステライト被膜であり、絶縁被膜が平均厚さ2μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。一方、No.4011の方向性電磁鋼板では、中間層が平均厚さ20nmの酸化膜(SiOを主体とする被膜)であり、絶縁被膜が平均厚さ2μmのりん酸塩とコロイド状シリカとを主体とする絶縁被膜であった。
得られた方向性電磁鋼板について、各種特性を評価した。なお、評価方法は上記の実施例1と同じである。評価結果を表4Dに示す。
Figure 0007492112000047
No.4001~4013のうち、本発明例はいずれも、磁束密度、鉄損、および高磁場騒音に優れた。一方、比較例は、磁束密度、鉄損、または高磁場騒音が十分でなかった。
本発明の上記態様によれば、高磁場領域(特に1.9T程度の磁場)での騒音を改善した上で、磁区制御を行っても騒音が増大しにくい方向性電磁鋼板の提供が可能となるので、産業上の利用可能性が高い。
10 方向性電磁鋼板(珪素鋼板)
20 中間層
30 絶縁被膜

Claims (9)

  1. Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板において、
    前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
    Si:2.0~7.0%、
    Nb:0~0.030%、
    V:0~0.030%、
    Mo:0~0.030%、
    Ta:0~0.030%、
    W:0~0.030%、
    C:0~0.0050%、
    Mn:0~1.0%、
    S:0~0.0150%、
    Se:0~0.0150%、
    Al:0~0.0650%、
    N:0~0.0050%、
    Cu:0~0.40%、
    Bi:0~0.010%、
    B:0~0.080%、
    P:0~0.50%、
    Ti:0~0.0150%、
    Sn:0~0.10%、
    Sb:0~0.10%、
    Cr:0~0.30%、
    Ni:0~1.0%、
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
    圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
    圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
    板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ)および(α β γ)と表し、
    境界条件BAを|γ-γ|≧0.5°と定義し、
    境界条件BBを[(α-α+(β-β+(γ-γ1/2≧2.0°と定義するとき、
    前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
    前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
    磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する、
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
  2. Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板において、
    前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
    Si:2.0~7.0%、
    Nb:0~0.030%、
    V:0~0.030%、
    Mo:0~0.030%、
    Ta:0~0.030%、
    W:0~0.030%、
    C:0~0.0050%、
    Mn:0~1.0%、
    S:0~0.0150%、
    Se:0~0.0150%、
    Al:0~0.0650%、
    N:0~0.0050%、
    Cu:0~0.40%、
    Bi:0~0.010%、
    B:0~0.080%、
    P:0~0.50%、
    Ti:0~0.0150%、
    Sn:0~0.10%、
    Sb:0~0.10%、
    Cr:0~0.30%、
    Ni:0~1.0%、
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
    圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
    圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
    板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ )および(α β γ )と表し、
    境界条件BAを|γ -γ |≧0.5°と定義し、
    境界条件BBを[(α -α +(β -β +(γ -γ 1/2 ≧2.0°と定義するとき、
    前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
    前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
    磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する、
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
  3. Goss方位に配向する集合組織を有する方向性電磁鋼板において、
    前記方向性電磁鋼板が、質量%で、
    Si:2.0~7.0%、
    Nb:0~0.030%、
    V:0~0.030%、
    Mo:0~0.030%、
    Ta:0~0.030%、
    W:0~0.030%、
    C:0~0.0050%、
    Mn:0~1.0%、
    S:0~0.0150%、
    Se:0~0.0150%、
    Al:0~0.0650%、
    N:0~0.0050%、
    Cu:0~0.40%、
    Bi:0~0.010%、
    B:0~0.080%、
    P:0~0.50%、
    Ti:0~0.0150%、
    Sn:0~0.10%、
    Sb:0~0.10%、
    Cr:0~0.30%、
    Ni:0~1.0%、
    を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    圧延面法線方向Zを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をαと定義し、
    圧延直角方向Cを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をβと定義し、
    圧延方向Lを回転軸とする理想Goss方位からのずれ角をγと定義し、
    板面上で隣接し且つ間隔が1mmである2つの測定点で測定する結晶方位のずれ角を(α β γ )および(α β γ )と表し、
    境界条件BAを|γ -γ |≧0.5°と定義し、
    境界条件BBを[(α -α +(β -β +(γ -γ 1/2 ≧2.0°と定義するとき、
    前記境界条件BAを満足し且つ前記境界条件BBを満足しない粒界が存在し、且つ前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.3以上であり、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
    前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RA と定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RB と定義するとき、
    前記粒径RA と前記粒径RB とが、1.10≦RB ÷RA を満たし、
    磁区細分化のための局所的な歪または局所的な溝の少なくとも1つを有する、
    ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
  4. 前記境界条件BAを満足する境界数を、前記境界条件BBを満足する境界数で割った値が、1.5以上である、ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  5. 圧延方向の磁束密度Bが、単位Tで、1.910以上であり、
    鉄損W17/50が、単位W/kgで、鋼板の板厚を単位mmでtとしたとき、0.71+0.02×(t-0.22)以下であり、
    1.9Tでの磁歪速度レベルLvaが、単位dBで、54以下である、
    ことを特徴とする請求項1~4の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  6. 前記化学組成として、Nb、V、Mo、Ta、およびWからなる群から選択される少なくとも1種を合計で0.0030~0.030質量%含有する、
    ことを特徴とする請求項1~の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  7. 前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義するとき、
    前記粒径RAと前記粒径RAとが、1.15≦RA÷RAを満たす、
    ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  8. 前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
    前記粒径RBと前記粒径RBとが、1.50≦RB÷RBを満たす、
    ことを特徴とする請求項1~7の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
  9. 前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延方向Lの平均結晶粒径を粒径RBと定義し、
    前記境界条件BAに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RAと定義し、
    前記境界条件BBに基づいて求める前記圧延直角方向Cの平均結晶粒径を粒径RBと定義するとき、
    前記粒径RAと前記粒径RAと前記粒径RBと前記粒径RBとが、
    (RB×RA)÷(RB×RA)<1.0を満たす、
    ことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の方向性電磁鋼板。
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