JP7486774B2 - フェライト粉末及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、フェライト粉末及びその製造方法に関する。
フェライト粉末と樹脂とからなるフェライト樹脂複合材料(樹脂組成物)は、電磁波シールド材を始めとする様々の用途で多用されている。複合材料は、フェライト粉末をフィラーとして樹脂と混練することで作製され、シートなどの形状に成形されて成形体(複合体)となる。このときフェライト粉末を構成する粒子の形状が球形に近いと、成形時の流動性が高くなり、複合体中でのフェライト粉末の充填率が高くなる。そのため成形性が良好になるとともに、電磁波遮蔽性能等の特性が優れたものになる。このような観点から、球状粒子からなるフェライト粉末が着目されており、そのような球状粒子を溶射法により作製することが提案されている。
例えば、特許文献1(国際公開第2017/212997号)には、平均粒径が1~2000nmの単結晶であり且つ真球状の粒子形状を備えるフェライト粒子であって、当該フェライト粒子は、Znを実質的に含有せず、Mnを3~25重量%、Feを43~65重量%を含有し、当該フェライト粒子とバインダー樹脂とからなる成形体によって測定した複素透磁率の実部μ’が100MHz~1GHzの周波数帯域において極大値を有することを特徴とするフェライト粒子が開示されている(特許文献1の請求項1)。また特許文献1には、フェライト原料からなる造粒物を大気中で溶射してフェライト化し、続いて急冷凝固した後に、粒径が所定範囲内の粒子のみを回収することにより製造する旨、電子機器の電磁波シールド材料として用いるときに、遮蔽が必要とされる幅広い周波数帯域の電磁波を周波数に関係なく安定して遮蔽できる旨が記載されている(特許文献1の[0039]及び[0078])。
特許文献2(国際公開第2017/169316号)には、平均粒径が1~2000nmの単結晶体であり、真球状の粒子形状を備えるMn系フェライト粒子であり、飽和磁化が45~95Am/kgであることを特徴とするフェライト粒子が開示されている(特許文献2の請求項1)。また特許文献2には、Mn及びFeを含むフェライト原料を大気中で溶射してフェライト化し、続いて急冷凝固した後に、粒径が所定範囲内の粒子のみを回収することにより製造する旨、高い飽和磁化を得ることができるとともに、樹脂、溶媒又は樹脂組成物に対する優れた分散性を得ることができる旨が記載されている(特許文献2の[0033]及び[0089])。
特許文献3(特開2016-060682号公報)には、粒径11μm未満のフェライト粒子を15~30重量%含有し、かつ体積平均粒径が10~50μmであることを特徴とする真球状フェライト粉が開示され、調整された造粒物を大気中で溶射してフェライト化する旨、フィラーとして用いられたときの充填性及び成型性が良好で、優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗であることから、この球状フェライト粉を樹脂と共に樹脂組成物とし、さらに成型した成型体は、電磁波吸収用のIC用封止剤を始めとする種々の用途に使用可能である旨が記載されている(特許文献3の請求項1、[0058]及び[0093])。
特許文献4(特開2005-015303号公報)には、原料粉末と、高級脂肪酸、もしくはその誘導体、高級炭化水素、高級アルコールのうちの少なくとも一つからなる処理剤とを、所定温度に加熱した後に撹拌することで前記原料粉末を表面処理する表面処理工程と、表面処理した前記原料粉末をバーナーで発生する燃焼炎中に投入して溶融させることにより球状化させ、さらに前記原料粉末が燃焼炎外に移動することによって凝固することで球状粉末を得る球状粉末生成工程と、を備えることを特徴とする球状粉末の製造方法が開示されている(特許文献4の請求項1)。
国際公開第2017/212997号 国際公開第2017/169316号 特開2016-060682号公報 特開2005-015303号公報
しかしながら本発明者らが検討を行ったところ、溶射法により作製した球状粒子からなるフェライト粉末は電気抵抗が低く、これを樹脂と混練して樹脂組成物としたときに耐電圧(ブレークダウン電圧)の点で問題になる場合のあることが分かった。特にフェライト粉末の充填率が高い場合に、樹脂組成物の耐電圧が低下してしまった。樹脂組成物の耐電圧が低いと、電圧印加時に樹脂組成物が絶縁破壊を起こしてしまい、素子として問題となる。
本発明者らがさらに検討を進めたところ、球状粒子からなるフェライト粉末において、所定量のα-Feを含ませることで、フェライト粉末の磁気特性(飽和磁化、透磁率)を高く維持したまま、電気抵抗を高めることができること、このフェライト粉末を樹脂組成物に適用すると、充填率が高くても高い耐電圧を維持できることの知見を得た。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、磁気特性及び電気抵抗が高く、充填率の高い樹脂組成物に適用しても高い耐電圧を維持できるフェライト粉末及びその製造方法の提供を課題とする。
本発明は、下記(1)~(6)の態様を包含する。なお、本明細書において、「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
(1)真球状フェライト粒子で構成されるフェライト粉末であって、
前記フェライト粉末が、鉄(Fe):55.0~70.0質量%及びマンガン(Mn):3.5~18.5質量%を含有し、α-Fe量が0.0質量%超7.5質量%以下であり、
前記フェライト粉末は、スピネル相の含有量が80質量%以上であり、
前記フェライト粉末は、その体積平均粒子径(D50)が15.0μm以下である、フェライト粉末。
(2)前記α-Fe量が3.0質量%以上6.0質量%以下である、上記(1)のフェライト粉末。
(3)前記体積平均粒子径(D50)が2.0μm以上である、上記(1)又は(2)のフェライト粉末。
(4)前記フェライト粉末は、その平均形状係数SF-1が100~110である、上記(1)~(3)のいずれかのフェライト粉末。
(5)前記フェライト粉末は、その体積抵抗が1.0×10Ω・cm以上である、上記(1)~(4)のいずれかのフェライト粉末。
(6)上記(1)~(5)のいずれかのフェライト粉末の製造方法であって、以下の工程;
フェライト原料を混合して原料混合物を作製する工程、
前記原料混合物を仮焼して仮焼成物とする工程、
前記仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする工程、及び
前記造粒物を溶射して溶射物とする工程を有し、
溶射工程で、原料供給速度を2.5~9.0kg/時間、燃焼ガス流量を3~10m/時間、酸素流量を18~60m/時間とする、方法。
本発明によれば、磁気特性及び電気抵抗が高く、充填率の高い樹脂組成物に適用しても高い耐電圧を維持できるフェライト粉末及びその製造方法が提供される。
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
フェライト粉末
本実施形態のフェライト粉末は真球状フェライト粒子で構成される。すなわちフェライト粉末は多数の真球状フェライト粒子を含む。真球状フェライト粒子で構成することで、フェライト粉末は、これをフィラーとして樹脂組成物(フェライト樹脂複合材料)に適用したときに、成形性及び充填性に優れたものとすることが可能になる。球状粒子は成形時に他の粒子と接触したときに滑らかに回避する。そのため成形時の流動性が良好になるとともに密に充填される。これに対して板状又は針状といった異方形状(不定形状)を有する粒子は成形性及び充填性に劣る。なお本明細書において、不定形状粒子は異方形状粒子を包含し、球状などの定形状粒子と対比して使用される。
本実施形態のフェライト粉末は、鉄(Fe)55.0~70.0質量%及びマンガン(Mn)3.5~18.5質量%を含有する。このフェライト粉末はマンガン(Mn)フェライトの組成を有する。マンガン(Mn)フェライトは、鉄(Fe)含有量が過度に少ない場合やマンガン(Mn)含有量が過度に多い場合には、飽和磁化(σs)が低下したり、透磁率虚部(μ’’)及び損失係数(tanδ)が高くなったりする。そのためフェライト粉末を樹脂組成物に適用した際に、飽和磁束密度が低下したり損失が増大したりする恐れがある。一方で、鉄(Fe)含有量が過度に多い場合やマンガン(Mn)含有量が過度に少ない場合には、フェライト組成がマグネタイトに近くなる。マグネタイト(FeO・Fe)は、不安定な2価鉄イオン(Fe2+)を含むが故に、酸化による飽和磁化(σs)低下の恐れがある。これらの観点から、フェライト粉末の鉄(Fe)及びマンガン(Mn)含有量を上述の範囲に限定する。フェライト粉末は、鉄(Fe)57.0~70.0質量%及びマンガン(Mn)4.5~15.0質量%を含んでもよく、鉄(Fe)58.0~69.0質量%及びマンガン(Mn)6.0~10.0質量%を含んでもよい。鉄(Fe)とマンガン(Mn)を合計した値は73.0重量%を超えることはない。
フェライトは酸化物である。そのためフェライト粉末は鉄(Fe)及びマンガン(Mn)以外に酸素(O)を含む。また上述した組成範囲を満足する限り、鉄(Fe)、マンガン(Mn)及び酸素(O)以外の他の成分を含んでもよい。このような成分として、例えば、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、リチウム(Li)、バリウム(Ba)、イットリウム(Y)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、コバルト(Co)等が挙げられる。しかしながらマンガン(Mn)フェライトの特性を十分に発揮させる観点から、他の成分の含有量は、1.0質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましい。フェライト粉末が鉄(Fe)、マンガン(Mn)及び酸素(O)を含み、残部が不可避不純物の組成を有してもよい。ここで不可避不純物は、製造工程中に不可避的に混入する成分であり、その含有量が5000ppm以下の成分を指す。不可避不純物としてはケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、塩素(Cl)、ホウ素(B)、ジルコニウム(Zr)及びクロム(Cr)等が挙げられる。
本実施形態のフェライト粉末は、α-Fe量が0.0質量%超7.5質量%以下である。α-Fe(ヘマタイト)を含有させることで、フェライト粉末の高い磁気特性を維持したまま、電気抵抗及び耐電圧低下を抑制することができる。その理由は次のとおりである。フェライトは、その製造時に原料たる鉄(Fe)成分とマンガン(Mn)等の遷移金属成分が反応して、強磁性体たるスピネル相などのフェライト成分を形成する。スピネル相は、マンガンフェライト((Mn,Fe)O・(Mn,Fe))やマグネタイト(FeO・Fe)などの2価金属イオンと3価金属イオンとを含む複合酸化物である。ここでマンガン(Mn)イオン及び鉄(Fe)イオンは2価と3価のいずれの価数をもとり得る。そのためスピネル相中で電子のホッピング現象が起こり、電気伝導が生じてしまう。これによりスピネル相のみからなるフェライト、特にマンガン(Mn)フェライトは、その電気抵抗が低くなる傾向にある。
これに対してα-Fe(ヘマタイト)は、スピネル相にならなかった鉄(Fe)成分に由来する遊離酸化鉄である。α-Feは、3価の鉄イオン(Fe3+)を含むものの、2価の鉄イオン(Fe2+)を含まない。そのため電気抵抗が高い安定な化合物である。したがってフェライト粉末中の真球状フェライト粒子がα-Feを含むことで、スピネル相による導電経路が断ち切られ、電気抵抗及び耐電圧が高くなる。そのためα-Feを必須成分、すなわちα-Fe量を0.0質量%超に限定している。α-Fe量は、0.1質量%以上であってよく、0.5質量%以上であってよく、1.0質量%以上であってよく、2.0質量%以上であってよく、3.0質量%以上であってよく、4.0質量%以上であってよい。一方でスピネル相とは異なり、α-Feは常磁性体である。そのためα-Fe量が過度に多いと、フェライト粉末の磁気特性(飽和磁化、透磁率)が低下する恐れがある。α-Fe量は、7.0質量%以下であってよく、6.0質量%以下であってよい。
フェライト粉末(真球状フェライト粒子)は、α-Feの他に、主としてスピネル相を含む。スピネル相の含有量は、80質量%以上であってよく、85質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、95質量%以上であってよい。またフェライト粉末がスピネル相及びα-Fe以外の他の相や不可避不純物を含んでもよい。このような相として、例えば余剰マンガン酸化物(MnO、Mn、Mn等)やスピネル以外の鉄酸化物(γ-Fe、FeO、MnFeO等)が挙げられる。しかしながらフェライト粉末が他の相を含まなくてもよい。すなわちフェライト粉末がスピネル相及びα-Feを含み、残部が不可避不純物であってもよい。なお不可避不純物は、先述したように含有量5000ppm以下の成分である。さらに本実施形態のフェライト粉末は、これを構成する真球状フェライト粒子がα-Feを含む。例えばα-Feが真球状フェライト粒子の内部に分散していてもよい。したがって、このフェライト粉末はα-Fe非含有フェライト粒子とα-Feとの混合物とは区別される。
本実施形態のフェライト粉末は、その体積平均粒子径(D50)が15.0μm以下である。D50が15.0μmを超えると、損失係数(tanδ)が大きくなり過ぎるとともに、耐電圧低下の問題がある。D50は、10.0μm以下であってよく、7.0μm以下であってよい。D50の下限は特に限定されるものではない。しかしながらD50をある程度に大きくすることで、樹脂組成物の粘度上昇が抑えられ、フィラー充填率を高めることが可能になる。D50は2.0μm以上であってよく、2.5μm以上であってよい。粒度分布は2山以上のピークを持っていてもよい。ここで2山以上のピークを持つとは、体積粒度分布を粒径の関数としてみたときに、その関数の微分(微分係数)または2回以上微分の値が0となるような点(極大点・変曲点・鞍点等)を2点以上持つことを意味する(ただし、粒径は対数表示したものを使用する)。
フェライト粉末は、好ましくは平均形状係数SF-1が100~110である。SF-1は、粒子(粉末)の球形度の指標となるものであり、完全な球形では100となり、球形から離れるほど大きくなる。SF-1を110以下にすることで、粉末の流動性が高くなり、成形性及び充填性がより優れたものとなる。SF-1は、108以下であってよく、105以下であってよく、103以下であってよい。
なお、フェライト粉末の平均形状係数SF-1は、複数のフェライト粒子について、各粒子の形状係数SF-1を求め、その平均値を算出することで求められる。フェライト粒子のSF-1は、この粒子の水平フェレ径R(単位:μm)、投影周囲長L(単位:μm)及び投影面積S(単位:μm)を測定し、下記式(1)にしたがって求めることができる。
Figure 0007486774000001
フェライト粉末は、好ましくはBET比表面積が0.01~3.00m/gである。BET比表面積を3.00m/g以下とすることで、フェライト粉末の凝集を抑制することができ、成形性及び充填性がより優れたものとなる。一方でBET比表面積を0.01m/g以上とすることで、粒子間空隙の発生を抑制することができ、充填性がより優れたものとなる。またBET比表面積を上記範囲内とすることで、フェライト粉末を複合材料や複合体に適用したときに樹脂との密着性がより良好なものとなる。BET比表面積は0.10~2.00m/gであってもよい。
フェライト粉末は、好ましくはタップ密度が0.50~5.00g/cmである。小粒径の粒子と大粒径の粒子を混在させることでタップ密度を高めることができ、その結果、フェライト粉末の充填性が全体としてより優れたものとなる。タップ密度は1.50~3.50g/cmであってもよい。
本実施形態のフェライト粉末は、α-Feを含むが故に電気抵抗が高い。フェライト粉末の体積抵抗は、1.0×10Ω・cm以上であってよく、2.0×10Ω・cm以上であってよく、4.0×10Ω・cm以上であってよい。体積抵抗の上限は、特に限定されるものではないが、1.0×1010Ω・cm以下が典型的である。
フェライト粉末は、これをフィラーとして用いて樹脂と混錬することで、電磁波シールド材等の用途に用いられる樹脂組成物とすることができる。ここで樹脂とα-Fe含有フェライト粉末とα-Fe非含有フェライト粉末とは、この順に電気抵抗が低い。すなわち樹脂の電気抵抗が最も高く、α-Fe非含有フェライト粉末の電気抵抗が最も低い。また樹脂組成物において、フェライト粉末の充填率が高くなると、フェライト粉末間の距離が短くなるとともに、一部のフェライト粉末同士が接触してしまう。そのため高充填率樹脂組成物のフィラーとして電気抵抗の低いα-Fe非含有フェライト粉末を用いると、耐電圧が低くなってしまう。電圧印加時に、電気抵抗の低いフェライト粒子間に導電経路が形成されてしまい、ブレークダウン(絶縁破壊)が起きてしまうからである。これに対して、フィラーとして電気抵抗の高いα-Fe含有フェライト粉末を用いると、このような耐電圧低下を防止することができる。
また本実施形態のフェライト粉末は、常磁性体たるα-Fe量及び体積平均粒子径(D50)が限定されているため、高い磁気特性(飽和磁化、透磁率)が維持されるとともに、損失係数(tanδ)を低く抑えることができる。そのため樹脂組成物の磁気特性を優れたものとすることが可能である。フェライト粉末の飽和磁化(σs)は、65emu/g以上であってよく、70emu/g以上であってよく、75emu/g以上であってよく、80emu/g以上であってよく、85emu/g以上であってよい。飽和磁化(σs)の上限は、特に限定されるものではないが、典型的には95emu/g以下である。またフェライト粉末の100MHzにおけるtanδは、0.20以下であってよく、0.13以下であってよく、0.06以下であってもよい。tanδの下限は、特に限定されるものではないが、典型的には0.001以上である。
フェライト粉末の製造方法
本実施形態のフェライト粉末の製造方法は、以下の工程;フェライト原料を混合して原料混合物を作製する工程(原料混合工程)、得られた原料混合物を仮焼して仮焼成物とする工程(仮焼工程)、得られた仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物とする工程(造粒工程)、及び得られた造粒物を溶射して溶射物とする工程(溶射工程)を有する。また溶射工程で、溶射原料供給速度を2.5~9.0kg/時間、燃焼ガス流量を3~10m/時間、酸素流量を18~60m/時間にする。各工程の詳細について以下に説明する。
<原料混合工程>
フェライト原料を混合して原料混合物を作製する。フェライト原料として、酸化物、炭酸塩、水酸化物及び/又は塩化物などの公知のフェライト原料を使用すればよい。例えば、鉄(Fe)原料及びマンガン(Mn)原料として、酸化鉄(Fe)、四酸化三マンガン(Mn)及び/又は二酸化マンガン(MnO)等を用いることができる。原料の混合割合は、所望組成のフェライト粉末が得られるように行う。原料の混合は、ヘンシェルミキサー等の公知の混合機を用いて行えばよく、乾式及び湿式のいずれか一方または両方で行う。またローラーコンパクター等の造粒装置を用いて原料混合物を造粒(仮造粒)してもよい。
<仮焼成工程>
仮焼成工程では、得られた原料混合物を仮焼成して仮焼成物とする。仮焼成は公知の手法で行えばよい。例えば、ロータリーキルン、連続炉又はバッチ炉などの炉を用いて行えばよい。仮焼成の条件も公知の条件でよい。例えば、大気等の雰囲気下で700~1300℃で0.5~12時間保持する条件が挙げられる。
<造粒工程>
造粒工程では、得られた仮焼成物を粉砕及び造粒(本造粒)して造粒物(本造粒物)とする。粉砕方法は特に限定されない。例えば、振動ミル、ボールミル又はビーズミルなどの公知の粉砕機を用い、乾式及び湿式のいずれか一方又は両方で行えばよい。造粒方法も公知の手法でよい。例えば粉砕後の仮焼成物に、水と、必要に応じて、ポリビニルアルコール(PVA)等のバインダー樹脂、分散剤及び/又は消泡剤などの添加剤と、を加えて粘度を調整し、その後、スプレードライヤー等の造粒機を用いて造粒する。
<溶射工程>
溶射工程では造粒物を溶射する。溶射では燃焼ガスと酸素との混合気体を可燃性ガス燃焼炎源として用いる。溶射原料たる造粒物は高温の燃焼炎を通過する。その際にフェライト化反応が起こるとともに、造粒物の一部が熔融して真球状のフェライト粒子になる。燃焼ガスとして、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等の可燃性ガスを用いることができ、その中でもプロパンガスが好適に用いられる。
溶射の際に燃焼ガス流量を3~10m/時間、酸素流量を18~60m/時間にする。これにより真球状のフェライト粒子を効率的に製造することが可能となる。
また溶射原料の供給速度は2.5~9.0kg/時間にする。供給速度(供給量)が高いと、造粒物のスピネル化が進行して、フェライト粉末中のα-Fe量が少なくなる。供給速度が高いと火炎中の原料量が増加して火炎の温度が下がるためである。火炎温度が下がると、溶射後の粒子が冷却されるまでの時間が短くなり、生成した2価鉄イオン(Fe2+)がフェライト粒子中に残りやすい。これに対して供給速度(供給量)が低いと、α-Feの生成が進行しやすい。火炎中の原料量が減少して火炎の温度が上がり、その結果、溶射後に粒子が冷却されるまでの時間が長くなるためである。このように供給速度を制御することで、得られるフェライト粉末中のα-Fe量を調整することができる。また供給速度が過度に高い場合には、造粒物同士が癒着しやすくなったり、フェライト化反応を粒子内部にまで十分に進めることが困難となる。そのため真球状の粒子が得られにくくなったり、所望の磁気特性とならない恐れがある。一方で供給速度が過度に低い場合には、製造コスト上昇の原因となる。これらの観点から、本実施形態では溶射原料の供給速度を規定している。供給速度は、4.0~8.0kg/時間であってよい。
溶射によりフェライト化された粒子を大気雰囲気下で急冷及び凝固し、これをサイクロン又はフィルターによって回収して溶射物を得る。
<分級工程>
必要に応じて、得られた溶射物を分級してもよい。分級では、風力分級(気流分級)、メッシュ分級、ふるい(篩)分級などの公知の手法を用いて、所望の粒径に粒度調整すればよい。なお、サイクロン等の気流分級で粒径の大きい粒子と粒径の小さい粒子とを1つの工程の中で分離して回収することも可能である。このようにしてフェライト粉末を得ることができる。
本実施形態によれば、組成及びα-Fe量が所定範囲内に限定されたフェライト粉末及びその製造方法が提供される。このフェライト粉末は磁気特性及び電気抵抗が高い。そのため充填率の高い樹脂組成物に適用しても、高い耐電圧を維持できる。
フェライト樹脂複合材料
本実施形態のフェライト粉末をフェライト樹脂複合材料(樹脂組成物)に適用することができる。フェライト樹脂複合材料はフェライト粉末と樹脂とを含む。本実施形態のフェライト粉末をフィラーとして用いることで、フィラー充填率が高くても磁気特性及び耐電圧に優れた複合材料を得ることができる。
複合材料を構成する樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂及び/又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。ここで、シリコーン樹脂は、アクリル、ウレタン、エポキシ及び/又はフッ素等で変性した変性シリコーン樹脂であってもよい。
複合材料中の全固形分に対するフェライト粉末の割合は、50~95質量%が好ましく、80~95質量%がより好ましい。また複合材料中の全固形分に対する樹脂の割合は、5~50質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましい。フェライト粉末や樹脂の割合を上記範囲内とすることで、複合材料中のフェライト粉末の分散安定性、並びに複合材料の保存安定性及び成形性が優れるとともに、複合材料を成形して得られる複合体(成形体)の機械的強度や電磁波遮蔽性能等の特性がより優れたものとなる。
複合材料は、フェライト粉末及び樹脂以外の他の成分を含んでもよい。このような成分として、例えば、溶媒、充填剤(有機充填剤、無機充填剤)、可塑剤、酸化防止剤、分散剤、含量等の着色剤、熱伝導性粒子などが挙げられる。
このようなフェライト樹脂複合材料を電磁波シールド材、電子材料又は電子部品に適用することができる。電磁波シールド材、電子材料又は電子部品は、複合材料を公知の手法で成形して作製すればよい。成形手法は特に限定されるものではなく、例えば、圧縮成形、押出成形、射出成形、ブロー成形又はカレンダー成形が挙げられる。また、複合材料の塗膜を基体上に形成する手法であってもよい。
本発明を、以下の実施例を用いて更に詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)フェライト粉末の作製
例1
<原料混合及び仮造粒工程>
原料として酸化鉄(Fe)と二酸化マンガン(MnO)とを用い、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比がFe:Mn=8:1となるように原料の秤量及び混合を行った。混合にはヘンシェルミキサーを用いた。得られた混合物を、ローラーコンパクターを用いて仮造粒して、仮造粒物とした。
<仮焼工程>
仮造粒した原料混合物(仮造粒物)を仮焼して、仮焼成物とした。仮焼は、ロータリーキルンを用い、大気中900℃×1時間の条件で行った。
<本造粒工程>
得られた仮焼成物を粉砕及び造粒して造粒物(本造粒物)とした。まず得られた仮焼成物を乾式ビーズミル(3/16インチφの鋼球ビーズ)を用いて粗粉砕した後、水を加えて、湿式ビーズミル(0.65mmφのジルコニアビーズ)を用いて微粉砕した。得られたスラリーは固形分濃度が50質量%であり、粉砕粉の粒径(スラリー粒径)は2.367μmであった。得られたスラリーに分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して60ccの割合で加えてスラリー粘度を調整し、その後、スプレードライヤーを用いて造粒した。得られた造粒物は、体積平均粒径が51.04μmであった。
<溶射及び分級工程>
得られた造粒物を可燃性ガス燃焼炎中で溶射及び急冷した。溶射の際、プロパンガス流量を7m/時間、酸素流量を38m/時間とし、プロパンガス7m/時間に対して原料供給速度を6.5kg/時間とした。続いて冷却した粒子を気流の下流側に設けたサイクロンによって回収して溶射物を得た。さらに得られた溶射物から篩を用いて粗粉を取り除くとともに、気流分級により微粉を除去して、フェライト粉末を作製した。フェライト粉末の製造条件を表1に示す。
例2
本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して60ccの割合で加え、さらにバインダーとしてポリビニルアルコール(PVA)の10質量%水溶液を50ccの添加量で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.84μmであった。
例3
本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して10ccの割合で加え、さらにポリビニルアルコール(PVA)の10質量%水溶液を150ccの添加量で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が50.55μmであった。
例4
本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して10ccの割合で加え、さらにポリビニルアルコール(PVA)の10質量%水溶液を300ccの添加量で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が50.70μmであった。
例5(比較)
本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して10ccの割合で加え、さらにポリビニルアルコール(PVA)の10質量%水溶液を600ccの添加量で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.59μmであった。
例6(比較)
原料混合工程で、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比がFe:Mn=14:1となるように原料の秤量及び混合を行った。また本造粒工程で、スラリーに分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム塩)を加えずにポリビニルアルコール(PVA)の10重量%水溶液を30ccの添加量で加えた。さらに溶射工程での原料供給速度を2.0kg/時間とした。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.17μmであった。
例7
原料混合工程で、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比がFe:Mn=14:1となるように原料の秤量及び混合を行った。また本造粒工程で、スラリーに分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム塩)を加えずにポリビニルアルコール(PVA)の10重量%水溶液を300ccの添加量で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が50.97μmであった。
例8
原料混合工程で、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比がFe:Mn=3:1となるように原料の秤量及び混合を行った。また本造粒工程で、スラリーに分散剤(ポリカルボン酸アンモニウム塩)を加えずにポリビニルアルコール(PVA)の10重量%水溶液を30ccの添加量で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.45μmであった。
例9(比較)
原料混合工程で、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比がFe:Mn=2.5:1となるように原料の秤量及び混合を行った。また本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して10ccの割合で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が50.54μmであった。
例10(比較)
原料混合工程で、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比がFe:Mn=2:1となるように原料の秤量及び混合を行った。また本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して10ccの割合で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.69μmであった。
例11(比較)
原料混合工程で、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のモル比がFe:Mn=1:0となるように原料の秤量及び混合を行った。また本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して10ccの割合で加え、さらにポリビニルアルコール(PVA)の10重量%水溶液を50ccの添加量で加えた。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.28μmであった。
例12(比較)
本造粒工程で、スラリーにポリカルボン酸アンモニウム塩をスラリー中固形分25kgに対して60ccの割合で加え、さらにポリビニルアルコール(PVA)の10重量%水溶液を50ccの添加量で加えた。また溶射後の分級工程で粗粉除去に用いる篩の目開きを変えるとともに、篩を用いて微粉を除去した。それ以外は例1と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.84μmであった。
例13(比較)
溶射工程で、バグフィルターによって粒子を回収して溶射物を得た。また分級工程で溶射物から気流分級により粗粉を取り除いたが、微粉除去は行わなかった。それ以外は例12と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.84μmであった。
例14
溶射後の分級工程で溶射物から気流分級により粗粉及び微粉を除去した。それ以外は例12と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.84μmであった。
例15
溶射後の分級工程で粗粉除去に用いる篩の目開きをさらに変えた。それ以外は例12と同様にしてフェライト粉末を作製した。本造粒工程で得られた造粒物は、体積平均粒径が51.84μmであった。
(2)フェライト粉末の評価
例1~例15のフェライト粉末について、以下に示す評価を行った。
<成分分析‐金属成分量>
フェライト粉末の金属成分含有量を化学分析(ICP)により求めた。まず試料(フェライト粉末)0.2gを秤量し、これに純水60mlと1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えた後に加熱して、試料を完全溶解させた水溶液を準備した。得られた水溶液をICP分析装置(株式会社島津製作所、ICPS-10001V)にセットし、金属成分含有量を測定した。
<結晶相>
フェライト粉末をX線回折法により分析して、粉末中の結晶相の同定を行った。結晶相のうちスピネル相(Fe、MnO・Fe)とα-Fe相の含有割合を求めた。分析条件は以下に示すとおりとした。
‐X線回折装置:パナリティカル社製X’pertMPD(高速検出器含む)
‐線源:Co-Kα
‐管電圧:45kV
‐管電流:40mA
‐スキャン速度:0.002°/sec(連続スキャン)
‐スキャン範囲(2θ):15~90°
さらに分析結果を解析して、フェライト粉末の結晶相のうちスピネル相(Fe、MnO・Fe等)とα-Fe相の含有割合を求めた。解析は次のようにして行った。すなわち解析ソフトウエア(パナリティカル社、HighScorePlus3.0)を用いてバックグラウンドとCo-Kβ線のピークを除去したのちプロファイルのピークを自動で検出した。検出した各ピークについて半値幅と位置をリートベルト解析で最適化(精密化)し、得られた結果に基づきスピネル相とα-Fe相の含有割合を算出した。
<粒度分布>
フェライト粉末の粒度分布を測定した。まず試料10g及び水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを2滴添加した。次いで、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテー、UH-150型)を用いて分散を行った。このとき、超音波ホモジナイザーの出力レベルを4に設定し、20秒間の分散を行った。その後、ピーカー表面にできた泡を取り除き、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所株式会社、SALD-7500nano)に導入して測定を行った。この測定により、体積粒度分布における10%径(D10)、50%径(体積平均粒子径、D50)、90%径(D90)及び最大径(Dmax)を求めた。測定条件は、ポンプスピード7、内蔵超音波照射時間30、屈折率1.70-050iとした。
<BET比表面積>
フェライト粉末のBET比表面積を、比表面積測定装置(株式会社マウンテック、Macsorb HM model-1208)を用いて測定した。まず得られたフェライト粉末約10gを薬包紙に載せ、真空乾燥機で脱気して真空度が-0.1MPa以下であることを確認した。その後、200℃で2時間加熱することにより、粒子表面に付着している水分を除去した。水分除去したフェライト粉末を測定装置専用の標準サンプルセルに約0.5~4g入れ、精密天秤で正確に秤量した。次いで秤量したフェライト粒子を測定装置の測定ポートにセットして測定を行った。測定は1点法で行った。測定雰囲気は、温度10~30℃、相対湿度20~80%(結露なし)とした。
<タップ密度>
フェライト粉末のタップ密度を、USPタップ密度測定装置(ホソカワミクロン株式会社、パウダテスタPT-X)を用いて、JIS Z 2512-2012に準拠して測定した。
<形状係数(SF-1)>
フェライト粉末の平均形状係数(SF-1)を次のようにして求めた。粒子画像分析装置(Malvern Panalytical社、モフォロギG3)を用いてフェライト粉末を解析した。解析の際には粉末中30000粒子について1粒子ごとの画像解析を行い、最大長(水平フェレ径)R(単位:μm)、投影周囲長L(単位:μm)及び投影面積S(単位:μm)を自動測定した。次いで下記式(1)にしたがって各粒子についてのSF-1を算出し、その平均値をフェライト粉末のSF-1とした。
Figure 0007486774000002
<磁気特性‐飽和磁化、残留磁化及び保磁力>
フェライト粉末の磁気特性(飽和磁化、残留磁化及び保磁力)を、次のようにして測定した。まず内径5mm、高さ2mmのセルに試料を詰めて、振動試料型磁気測定装置(東英工業株式会社、VSM-C7-10A)にセットした。印加磁場を加えて5kOeまで掃引し、次いで印加磁場を減少させて、ヒステリシスカーブを描かせた。得られたカーブのデータより、試料の飽和磁化(σs)、残留磁化(σr)及び保磁力(Hc)を求めた。
<磁気特性‐透磁率>
フェライト粉末の透磁率を、RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(アジレントテクノロジー株式会社、E4991A)と磁性材料測定電極(16454A)を用いて測定した。まずフェライト粉末9gとバインダー樹脂(Kynar301F:ポリフッ化ビニルデン)1gをポリエチレン製容器(内容量100ml)に入れ、ボールミルを用いて、回転数100rpmの条件で撹拌及び混合を行った。得られた混合物0.6g程度をダイス(内径4.5mm、外径13mm)に充填し、プレス機を用いて40MPaの圧力で1分間の加圧を行って成形体とした。得られた成形体を、熱風乾燥機を用いて140℃で2時間の加熱硬化を行って測定用サンプルとした。得られた測定用サンプルをRFインピーダンス/マテリアル・アナライザにセットし、事前に測定しておいた測定用サンプルの外径、内径及び高さを入力した。振幅100mV、測定周波数1MHz~3GHzの範囲を対数スケールで掃引することで測定を行った。周波数100MHzでの複素透磁率の実部μ’及び虚部μ’’を求め、損失係数(tanδ)を下記式(2)にしたがって算出した。
Figure 0007486774000003
<電気特性‐体積抵抗>
底辺に電極がついたテフロン(登録商標)製容器(内径17.6mm)と上部電極を用いてフェライト粉末の体積抵抗を測定した。まず測定時の高さが4mmとなるようにフェライト粉末を容器に投入・加圧し、その上部に電極を取り付けた。測定は上部電極の上に1kgの荷重をかけた状態で行い、絶縁抵抗計(ケースレーインスツルメンツ、6517A)を用いて50V刻み、5秒間隔で階段状に1000Vまで電圧を上げながら流れる電流を求めた。100V電圧下での電流と印加電圧の関係を求め、これから体積抵抗を算出した。
<電気特性‐ブレークダウン電圧>
体積抵抗測定時に、測定装置(絶縁抵抗計)の出力電流である20mAを超える直前の印加電圧を求め、この印加電圧をブレークダウン電圧(VBD)とした。
<樹脂硬化性能‐粘度>
フェライト粉末を樹脂組成物に適用し、樹脂組成物の粘度を測定した。まずフェライト粉末70質量部と主剤(エポキシ系樹脂)27質量部と硬化剤3重量部とを自転公転型混合器を用いて分散混合して、樹脂組成物を作製した。得られた樹脂について作製直後の粘度と5秒間経過後の粘度を、B型粘度計を用いて測定した。なお例5は体積抵抗が低かったため、樹脂硬化性能の評価は行わなかった。
<樹脂硬化性能‐硬化時間>
得られた樹脂組成物を120℃×5分間の条件で乾燥させた。乾燥後の樹脂組成物を180℃で加熱して硬化を促し、樹脂硬化度が95%以上となる硬化時間を求めた。得られた硬化時間に基づき、以下に示すように格付けした。
A:硬化時間がstd×1.00以上std×2.00未満
B:硬化時間がstd×2.00以上std×3.00未満
ここで、樹脂硬化度とは、樹脂の硬化反応の進行の度合い(反応率)を示すものである。未反応材料の樹脂硬化度は0%であり、反応後材料の樹脂硬化度は100%である。樹脂硬化度は、FT-IR(フ―リエ変換型赤外分光)装置を用いて求めた。具体的には、樹脂に赤外線を照射し、透過又は分光させてFT-IRスペクトルを得、このスペクトルを用いて樹脂の硬化反応の進行を解析した。そして未反応材料と100%反応後材料と測定対象の樹脂とのスペクトルを比較し、最も違いが見られる領域での各試料のピーク強度を比較することで樹脂硬化度を求めた。例1の硬化時間を基準(std)として、各試料の硬化時間を算出した。
(3)結果
例1~例15について得られた評価結果を表2及び表3に示す。例1~例4、例7、例8、例14及び例15が実施例サンプルであり、例5、例6及び例9~例13が比較例サンプルである。
表2及び表3に示されるように、いずれのサンプルもフェライト粉末が真球状粒子から構成されていた。しかしながら比較例たる例5は、フェライト粉末がα-Feを含まず、その結果、体積抵抗及びブレークダウン電圧が低く、耐電圧の点で問題があった。
一方で比較例たる例6、例11及び例13は、α-Fe量が過剰であり、その結果、飽和磁化(σs)が低かった。その上、例13は体積平均粒径が小さく樹脂組成物の粘度が高すぎるとともに樹脂硬化性能に劣る問題があった。比較例たる例9~例11は、フェライト粉末の鉄(Fe)含有量及び/又はマンガン(Mn)含有量が本実施形態の範囲外である結果、磁気特性(飽和磁化、透磁率、損失係数)の点で問題があった。特にマンガン(Mn)を殆ど含まないとともにα-Fe量が過剰である例11は、飽和磁化(σs)が低い一方で保磁力(Hc)が高く、そのため透磁率実部(μ’)が小さく損失係数(tanδ)が増大した。比較例たる例12は、体積平均粒子径(D50)が過度に大きいため、損失係数(tanδ)が高くブレークダウン電圧が低い問題があった。
これに対して実施例たる例1~例4、例7、例8、例14及び例15は、磁気特性(飽和磁化、保磁力、透磁率、損失係数)の点で優れるとともに、体積抵抗及び耐電圧(ブレークダウン電圧)が高かった。特に例1~例3、例8及び例14は測定時にブレークダウンせず、耐電圧の点で非常に優れていた。また例1~例4、例7、例8及び例15は、フェライト粉末を樹脂組成物に適用したときの粘度が低かった。そのためフィラー充填率の高い樹脂組成物への適用に好適であることが分かった。
Figure 0007486774000004
Figure 0007486774000005
Figure 0007486774000006

Claims (7)

  1. 真球状フェライト粒子で構成されるフェライト粉末であって、
    前記フェライト粉末が、鉄(Fe):55.0~70.0質量%及びマンガン(Mn):3.5~18.5質量%を含有し、α-Fe量が0.1質量%以上7.5質量%以下であり、
    前記フェライト粉末は、スピネル相の含有量が80質量%以上であり、
    前記フェライト粉末は、その体積平均粒子径(D50)が15.0μm以下である、フェライト粉末。
  2. 前記α-Fe量が3.0質量%以上6.0質量%以下である、請求項1に記載のフェライト粉末。
  3. 前記体積平均粒子径(D50)が2.0μm以上である、請求項1又は2に記載のフェライト粉末。
  4. 前記フェライト粉末は、その平均形状係数SF-1が100~110である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
  5. 前記フェライト粉末は、その体積抵抗が1.0×10Ω・cm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
  6. 前記フェライト粉末は、鉄(Fe):58.0~69.0質量%及びマンガン(Mn):6.0~10.0質量%を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
  7. 前記フェライト粉末は、鉄(Fe)、マンガン(Mn)及び酸素(O)以外の他の成分の含有量が0.5質量%以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載のフェライト粉末。
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