(本開示の基礎となった知見)
本開示の実施形態を説明する前に、本開示の基礎となった知見を説明する。
図1は、電界結合方式による無線電力伝送システムの一例を模式的に示す図である。「電界結合方式」とは、複数の送電電極を含む送電電極群と複数の受電電極を含む受電電極群との間の電界結合(「容量結合」とも称する。)により、送電電極群から受電電極群に、無線(すなわち非接触)で電力が伝送される伝送方式をいう。簡単のため、送電電極群および受電電極群の各々が、2つの電極の対によって構成される例をまず説明する。
図1に示す無線電力伝送システムは、移動体200に無線で電力を伝送するシステムである。この例における移動体200は、無人搬送車(Automated Guided Vehicle:AGV)である。移動体200は、例えば工場または倉庫において物品の搬送に用いられ得る。このシステムでは、床面30に平板状の一対の送電電極120a、120bが配置されている。一対の送電電極120a、120bは、第1の方向(図1におけるY方向)に延びた形状を有する。一対の送電電極120a、120bには、送電回路から交流電力が供給される。
移動体200は、一対の送電電極120a、120bに対向する一対の受電電極を備える。移動体200は、送電電極120a、120bから伝送された交流電力を、一対の受電電極によって受け取る。受け取った電力は、移動体200が備えるモータ、二次電池(バッテリ)、または蓄電用のキャパシタなどの負荷に供給される。これにより、移動体200の充電または駆動が行われる。
図1には、互いに直交するX、Y、Z方向を示すXYZ座標が示されている。以下の説明では、図示されているXYZ座標を用いる。送電電極120a、120bが延びる方向をY方向、送電電極120a、120bの表面に垂直な方向をZ方向、Y方向およびZ方向に垂直な方向をX方向とする。X方向は、送電電極120a、120bが並ぶ方向である。なお、本願の図面に示される構造物の向きは、説明のわかりやすさを考慮して設定されており、本開示の実施形態が現実に実施されるときの向きをなんら制限するものではない。また、図面に示されている構造物の全体または一部分の形状および大きさも、現実の形状および大きさを制限するものではない。
図2は、図1に示す無線電力伝送システムの概略的な構成を示す図である。無線電力伝送システムは、送電装置100と、受電装置である移動体200とを備える。
送電装置100は、一対の送電電極120a、120bと、送電電極120a、120bに交流電力を供給する送電回路110とを備える。送電回路110は、例えば、インバータ回路を含む交流出力回路である。送電回路110は、電源400から供給された電力を、電力伝送用の交流電力に変換して一対の送電電極120a、120bに出力する。電源400は、例えば、周波数が50Hzまたは60Hz、電圧が100V、120V、200V、または240Vの交流電力を出力する商用交流電源であり得る。送電回路110は、電源400から供給される交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路と、コンバータ回路から出力される直流電力を送電用の交流電力に変換するインバータ回路とを含み得る。送電回路110は、送電電極120a、120bとインバータ回路との間に、インピーダンス整合のための整合回路を備えていてもよい。
移動体200は、一対の受電電極220a、220bと、受電回路210と、負荷230とを備える。受電回路210は、受電電極220a、220bが受け取った交流電力を負荷230が要求する他の形態の電力に変換して負荷230に供給する。受電回路210は、負荷230が要求する所定の電圧の直流電力または所定の周波数および電圧の交流電力を出力する。受電回路210は、例えば整流回路およびインピーダンス整合回路などの、各種の回路を含み得る。負荷230は、例えばモータ、蓄電用のキャパシタ、または二次電池などの、電力を消費または蓄積する機器、およびそれらの機器を制御する回路を含み得る。一対の送電電極120a、120bと、一対の受電電極220a、220bとの間の電界結合により、両者が対向した状態で電力が無線で伝送される。
送電電極120a、120bおよび受電電極220a、220bの各々は、2つ以上の部分に分割されていてもよい。例えば、図3および図4に示すような構成を採用してもよい。
図3および図4は、送電電極群および受電電極群の各々が4つの電極を含む無線電力伝送システムの例を示す図である。この例では、送電装置100は、2つの第1送電電極120aと、2つの第2送電電極120bとを備える。2つの第1送電電極120aおよび2つの第2送電電極120bは、第2の方向(図3におけるX方向)に沿って交互に並んでいる。移動体200も同様に、2つの第1受電電極220aと、2つの第2受電電極220bとを備える。2つの第1受電電極220aおよび2つの第2受電電極220bも、交互に並んでいる。電力伝送時には、2つの第1受電電極220aは、2つの第1送電電極120aにそれぞれ対向し、2つの第2受電電極220bは、2つの第2送電電極120bにそれぞれ対向する。
送電回路110は、交流電力を出力する2つの端子を備えている。一方の端子は、2つの第1送電電極120aに接続され、他方の端子は、2つの第2送電電極120bに接続される。電力が伝送されるとき、送電回路110は、2つの第1送電電極120aに第1の電圧を印加し、2つの第2送電電極120bに、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧を印加する。これにより、4つの送電電極を含む送電電極群と4つの受電電極を含む受電電極群との間の電界結合によって電力が無線で伝送される。このような構成によれば、隣り合う任意の2つの送電電極の境界上の漏洩電界を抑制する効果を得ることができる。このように、送電装置100および移動体200の各々において、送電または受電を行う電極の数は2個に限定されない。
以下の実施形態では、図1および図2に示すように、送電装置100が2つの送電電極を備え、移動体200が2つの受電電極を備えた構成を主に説明する。以下の各実施形態において、送電電極群および受電電極群の各々は、図3および図4に例示されるように、2つよりも多くの電極を含んでいてもよい。いずれの場合も、ある瞬間に第1の電圧が印加される電極と、第1の電圧とは逆の位相の第2の電圧が印加される電極とが交互に並ぶように配置される。ここで「逆の位相」とは、位相差が180度である場合に限らず、位相差が90度から270度の範囲内である場合を含むものと定義する。以下の説明において、送電装置100が備える複数の送電電極を区別せずに「送電電極120」と称し、移動体200が備える複数の受電電極を区別せずに「受電電極220」と称することがある。
上記のような無線電力伝送システムによれば、移動体200は、送電電極120に沿って移動しながら、無線で電力を受け取ることができる。移動体200は、送電電極120と受電電極220とが近接して対向した状態を保ちながら、送電電極120に沿って移動することができる。これにより、移動体200は、例えばバッテリまたはキャパシタ等の蓄電デバイスを充電しながら移動することができる。
図5は、無線電力伝送システムの利用例を模式的に示す図である。この例における無線電力伝送システムは、倉庫内で利用される。このシステムは、複数の送電装置100と、複数の移動体200とを含む。各送電装置100は、2つの送電電極120を含む送電電極シート120Sと、図2に示す送電回路110とを備える。倉庫には、複数の列を構成する複数の棚40が設けられている。棚40の列の間に複数の送電電極シート120Sが配置されている。各送電電極シート120Sにおける2つの送電電極120には、送電回路110から交流電力が供給される。各移動体200は、倉庫内を所定の経路に沿って自動で走行し、棚40に収納された物品をピックアップし、所定の場所に搬送する作業を行う。各移動体200は、例えば二次電池および駆動用の電気モータを備える。各移動体200は、二次電池に蓄積された電気エネルギーで駆動用電気モータを駆動することによって走行する。各移動体200は、送電電極シート120Sが配置されたエリア(以下、「送電エリア」と称する。)を走行するとき、二次電池の充電を行う。すなわち、各移動体200は、送電電極120から送出される電力を受電電極220で受け取り、その電力で二次電池を充電しながら走行する。これにより、蓄電量の不足によって走行不能になることなく、搬送作業を継続することができる。
このようなシステムにおいて、移動体200は、送電電極シート120Sが配置された送電エリアへの進入と送電エリアからの離脱とを繰り返す。このため、各送電装置100は、検知モードと伝送モードの2つのモードを切り替えて動作する。送電装置100は、移動体200が送電エリアに存在しないときには、微弱な電力を送電電極120から出力し、移動体200の接近を検知する検知モードで動作する。送電装置100は、送電回路110内を流れる電流などの計測値に基づいて、移動体200の接近を検知することができる。送電装置100は、移動体200の接近を検知すると、送電電極120から出力する電力を増加させ、移動体200への電力伝送を行う伝送モードに移行する。移動体200が送電電極シート120S上を走行している間、送電装置100は伝送モードで動作する。移動体200が送電エリアから離脱すると、送電装置100は、伝送モードから検知モードに切り替え、次の移動体200の到来を待機する。
図6は、検知モードと伝送モードとを切り替えることができる無線電力伝送システムの回路構成の一例を示す図である。図6に示す送電回路110は、電圧切替回路130と、インバータ回路160と、整合回路180とを備える。受電回路210は、整合回路280と、整流回路260とを備える。
電圧切替回路130は、第1直流電源131と、DC-DCコンバータ回路135と、スイッチ132とを含む。DC-DCコンバータ回路135は、第1直流電源131から出力された比較的高い電圧(例えば200V)の直流電圧を、より低い電圧(例えば3.3Vから12V)の直流電圧に変換する。DC-DCコンバータ回路135を第2直流電源とも称する。スイッチ132は、検知モードと伝送モードとを切り替えるためのスイッチであり、第1直流電源131およびDC-DCコンバータ回路135に接続されている。スイッチ132は、例えばMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)などの半導体スイッチであり、ゲートドライバを含む制御回路によって制御される。検知モードにおいて、スイッチ132は、開状態(オフ)にされ、DC-DCコンバータ回路135から出力される比較的低い電圧の直流電圧がインバータ回路160に印加される。一方、伝送モードにおいて、スイッチ132は、閉状態(オン)にされ、第1直流電源131から出力される比較的高い電圧の直流電圧がインバータ回路160に印加される。
インバータ回路160は、電圧切替回路130から出力された直流電圧を交流電圧に変換して出力する。整合回路180は、インバータ回路160と送電電極120との間のインピーダンスを整合させる。整合回路180は、必要に応じて配置され、その回路構成には多様な変形が可能である。
受電回路210における整合回路280は、受電電極220と整流回路260との間のインピーダンスを整合させる。整合回路280も、必要に応じて配置され、その回路構成には多様な変形が可能である。整流回路260は、整合回路280から出力された交流電圧を直流電圧に変換して負荷230に出力する。
図7Aから図7Cは、移動体200が送電電極シート120Sに沿って走行するときの送電制御の例を説明するための図である。図7Aは、移動体200が送電電極シート120Sが配置された送電エリアに向かって走行している状況を示している。図7Bは、移動体200の受電電極220が送電電極120に対向し始めた状況を示している。図7Cは、移動体200が送電エリアを通過した後の状況を示している。
図7Aに示すように、移動体200が送電電極シート120Sに向かって走行しているとき、送電装置100は検知モードで動作する。検知モードにおいて、送電回路110は、微弱な電力を送電電極120に供給する。例えば、送電回路110は、図6に示すスイッチ132を開状態(オフ)にすることにより、DC-DCコンバータ回路135から出力される比較的低い電圧(例えば12V)を送電電極120に印加する。その状態で、送電回路110は、例えばインバータ回路160への入力電流Iinを計測し、その計測値の変動に基づき、移動体200の接近を検知することができる。
図7Bに示すように、移動体200の受電電極220が送電電極120に対向し始めると、送電電極120と受電電極220との間の結合容量の増加に伴い、インバータ回路160への入力電流Iinが増加する。送電回路110は、入力電流Iinの変化に基づき、移動体200の受電電極220が送電電極120に対向したことを検知する。例えば、入力電流Iinの計測値が所定の閾値を超えた場合に、移動体200の受電電極220が送電電極120に対向したと判断することができる。送電回路110は、受電電極220が送電電極120に対向したことを検知すると、検知モードから伝送モードに切り替える。伝送モードにおいて、送電回路110は、比較的高い電圧(例えば、200V)の交流電力(例えば1.5kW)を送電電極120に出力する。検知モードから伝送モードへの切り替えは、例えば図6に示すスイッチ132をオフ(非導通状態)からオン(導通状態)に切り替えることによって行われ得る。以後、移動体200が送電エリアを通過するまで、伝送モードによる送電が行われる。移動体200が送電エリアを走行している間、送電回路110は、入力電流Iinの計測値に基づいて、移動体200が送電エリアを通過したか否かを判断する。例えば、入力電流Iinの計測値が、所定の閾値を下回った場合に、移動体200が送電エリアを通過したと判断することができる。
図7Cに示すように、移動体200が送電エリアを通過すると、送電回路110は、伝送モードから検知モードに切り替える。送電回路110は、送電回路110内のスイッチ132をオンからオフに切り替え、出力電圧を、例えば200Vから12Vに低下させることにより、伝送モードから検知モードに切り替える。以後、次の移動体200が送電エリアに接近するまで、送電回路110は検知モードで動作し、移動体200の到来を待機する。
上記のようなシステムにおいて、送電回路110は、移動体200における受電電極220が送電電極120に十分に対向した状態、言い替えれば、送電電極120と受電電極220との結合容量が十分に高い状態でスイッチ132をオンにすることが重要である。これは、伝送モードにおいて高い効率で電力が伝送されるように、結合容量が十分に高い状態でインピーダンス整合が実現されるように整合回路180および280が設計されるからである。
図8は、移動体200における受電電極220と送電電極120との相対位置の例を示す図である。図8において、(a)、(b)、(c)の順に、移動体200が送電電極120上を走行する様子が示されている。図8の(a)は、受電電極220が送電電極120に全く対向していない状態を示している。図8の(b)は、受電電極220が送電電極120にわずかに対向している状態を示している。図8の(c)は、受電電極220が送電電極120に完全に対向している状態を示している。図8の(a)または(b)に示す状態において検知モードから伝送モードに移行した場合、送電電極120と受電電極220との間の結合容量が低いことに起因するインピーダンスの不整合のため、送電装置100内で伝送電力の反射が大きくなる。その結果、送電回路110内の回路素子の破壊などの問題が生じ得る。そのような問題を回避するために、検知モードから伝送モードへの切り替えは、図8の(c)に示すように、受電電極220と送電電極120とが十分に対向した状態で行われることが望ましい。
しかし、受電電極220と送電電極120とが十分に対向した状態を高い精度で検知することは容易ではない。図7Aから図7Cに示す例では、送電回路110は、インバータ回路160の入力電流Iinに基づいて、受電電極220と送電電極120との重なりの程度を推定する。しかし、本発明者らが検証したところ、受電電極220が送電電極120に十分に対向していないにもかかわらず、入力電流Iinが著しく大きくなり、閾値を超える場合があることが判明した。
図9Aおよび図9Bを参照して、この課題を説明する。図9Aは、受電電極220の面積に対する送電電極120と受電電極220との重なり面積の割合(以下、「電極重なり割合」と称する。)と、インバータ回路160への入力電流Iinとの関係の例を示すグラフである。送電電極120と受電電極220との重なり面積は、受電電極220の表面のうち、当該表面に垂直な方向から見た場合に送電電極120と重なる部分の面積を意味する。図9Aは、電極重なり割合が増加するほど、入力電流Iinが増加する理想的な例を示している。このような場合には、入力電流Iinが閾値を超えた場合に受電電極220が送電電極120に十分に重なったと判定する上記の方法が有効である。閾値は、例えば受電電極220の70%以上が送電電極120に重なった場合における入力電流Iinの値に設定され得る。
しかし、実際には、図9Aのような特性が必ずしも得られるとは限らない。図9Bは、ある実証機における電極重なり割合と入力電流Iinとの関係の例を示すグラフである。図9Bの例では、電極重なり割合の増加に対して入力電流Iinが単調に増加していない。この例では、電極重なり割合がおよそ0.55から0.8の範囲において入力電流Iinが突出して高くなっている。電極重なり割合がおよそ0.4から0.5の範囲において、入力電流Iinは、電極重なり割合が1の場合における値と同程度の値になる。このような場合には、電極重なり割合がおよそ0.4の状態であっても、入力電流Iinが閾値を超え、受電電極220が送電電極120に十分に重なったと誤判定され得る。図9Bに示す特性は一例であり、整合回路180などの構成に依存して、入力電流Iinと電極重なり割合との関係は大きく異なり得る。
したがって、インバータ回路160の入力電流Iinと閾値との比較に基づく方法では、送電電極120と受電電極220とが十分に対向した状態を検知することが難しい。より高い精度で検知するために、例えば、送電回路110が、移動体200から送信されるフィードバック情報に基づいて、受電電極220が送電電極120に十分に対向したことを検知する方法も考えられる。しかし、移動体200からのフィードバック情報を利用する方法では、通信に比較的長い時間を要するため、検知に時間を要し、伝送モードへの移行が遅くなり得る。移動体200が走行中に充電するシステムでは、充電時間をできるだけ長く確保するために、充電開始までの時間を可能な限り短縮することが求められる。また通信手段を別途持つことはコストアップにもなる。このため、移動体200からのフィードバック情報を用いずに、送電装置100内の回路の挙動に基づいて、受電電極220と送電電極120とが十分に対向したことを検知できることが望ましい。
本発明者らは、上記の考察に基づき、受電電極220が送電電極120に十分に対向した状態にあることを検知するために、入力電流Iinとは別の指標を導入することを検討した。本発明者らは、インバータ回路160の出力電圧Voutおよび出力電流Iout(図6参照)の位相差、位相差の時間的なバラツキ、または出力電圧Voutもしくは出力電流Ioutのノイズ量と、送電電極120と受電電極220との結合容量とが相関を持つことを見出し、本開示の技術に想到した。
送電電極120と受電電極220との結合容量の変動は、インバータ回路160の後段の回路の入力インピーダンスの変動をもたらす。当該入力インピーダンスの変動は、インバータ回路160の出力電圧Voutと出力電流Ioutとの位相差の変動をもたらす。上記のような無線電力伝送システムでは、送電電極120と受電電極220との結合容量が高い状態で、電流が電圧に対して遅れる遅相状態になり、回路損失が小さく、伝送効率が高くなる。反対に、送電電極120と受電電極220との結合容量が低い状態では、電圧に対する電流の位相の遅れが小さく、電流が電圧に対して進む進相状態になる場合もある。
図10は、インバータ回路160の出力電圧Voutおよび出力電流Ioutの時間変化の例を示すグラフである。この例では、出力電流Ioutの位相が出力電圧Voutの位相に対してΔθ=2πΔt/Tだけ遅れている。ここで、Δtは、出力電圧Voutの波形と出力電流Ioutの波形との時間差であり、Tは、出力電圧Voutおよび出力電流Ioutの周期である。本明細書では、出力電流Ioutが出力電圧Voutに対して遅れる遅相状態において、位相差Δθおよび時間差Δtが正の値をとるものとする。以下の説明において、ΔθだけでなくΔtも「位相差」と称することがある。
図11は、ある実証機における出力電圧Voutと出力電流Ioutとの位相差と、電極重なり割合との関係の例を示すグラフである。図11において、時間差Δtが位相差として表されている。図11には、比較のため、図9Bに示す入力電流Iinの波形も示されている。電極重なり割合が1(100%)に近付くほど、結合容量が大きくなる。このグラフからわかるように、電極重なり割合が増加するに従って、位相差Δtが増加する。このため、位相差ΔtまたはΔθに基づいて、受電電極220が送電電極120に十分に対向したと判定することができる。例えば、電極重なり割合が0.7を超える場合のΔtまたはΔθの範囲を予め記録しておき、動作時のΔtまたはΔθの値が記録された範囲内にあるか否かに基づいて、受電電極220が送電電極120に十分に対向しているか否かを判定することができる。
さらに、受電側の装置の状態変動が大きい場合(例えば、電極重なり割合が小さく、結合容量の時間変化が大きい場合)または入力電流Iinが小さい場合には、出力電圧Voutおよび出力電流Ioutの波形にノイズが多く発生し、検出される位相差のバラツキが大きくなることがわかった。そこで、出力電圧Voutもしくは出力電流Ioutの波形のノイズ量、または位相差の時間的なバラツキ量に基づいて、受電電極220が送電電極120に十分に対向しているか否かを判定することも可能である。出力電圧Voutもしくは出力電流Ioutの波形のノイズ量は、例えばそれぞれの波形をフーリエ変換し、高周波成分を抽出することによって評価することができる。また、位相差のバラツキ量は、例えば短い時間間隔で位相差を繰り返し計算し、得られた位相差の分散または標準偏差などの、バラツキの程度を示す指標値を計算することによって評価され得る。
以下、本開示の実施形態の概要を説明する。
本開示の例示的な実施形態による送電装置は、複数の受電電極を備える受電装置に無線で電力を伝送する。前記送電装置は、第1直流電圧、および前記第1直流電圧よりも小さい第2直流電圧を切り替えて出力することが可能な電圧切替回路と、前記電圧切替回路から出力された前記第1直流電圧または前記第2直流電圧を交流電圧に変換して出力するインバータ回路と、前記インバータ回路から出力される前記交流電圧および交流電流を計測する計測器と、前記計測器の計測値に基づいて前記電圧切替回路を制御する制御回路と、前記インバータ回路から出力された前記交流電圧に基づく電力を前記受電装置の前記複数の受電電極に伝送する複数の送電電極と、を備える。前記制御回路は、前記受電装置の接近を検知する検知モード、および前記受電装置に前記第1直流電圧に基づく電力を伝送する伝送モードで動作し、前記検知モードにおいて、前記電圧切替回路に前記第2直流電圧を出力させ、(a)前記計測器によって計測された前記交流電圧と前記交流電流との位相差が第1範囲内にあること、を含む所定の条件を満たす場合に、前記電圧切替回路から出力される電圧を前記第2直流電圧から前記第1直流電圧に切り替えることによって前記検知モードから前記伝送モードに切り替える。
ここで「位相差」は、前記交流電圧の位相から前記交流電流の位相を減じた値を指す。位相は、典型的にはラジアン(rad)または度(°)の単位で表されるが、時間に換算された値を位相として扱ってもよい。「第1範囲」は、下限値θminと上限値θmaxとによって規定される範囲であり得る。あるいは、上限値θmaxが定められず、下限値θminのみによって第1範囲が規定されていてもよい。その場合、θminを閾値として、位相差がθmin以上である場合に、位相差が第1範囲内にあると判定される。
上記の構成によれば、インバータ回路から出力される交流電圧と交流電流との位相差に基づいて、適切なタイミングで検知モードから伝送モードに切り替えることができる。前述のように、インバータ回路から出力される交流電圧と交流電流との位相差は、送電電極と受電電極との重なり面積の割合と相関を持つ。位相差に基づいて伝送モードに切り替えることにより、受電電極が送電電極に対向する適切なタイミングで伝送モードに切り替えることができる。
前記制御回路は、前記検知モードにおいて、前記条件(a)かつ(b)前記位相差の時間的なバラツキの程度を示すバラツキ量が第2範囲内にあること、を満たす場合に、前記電圧切替回路から出力される電圧を前記第2直流電圧から前記第1直流電圧に切り替えることによって前記検知モードから前記伝送モードに切り替えてもよい。位相差に加えて、位相差の時間的なバラツキ量も考慮することにより、受電電極が送電電極に対向する状態をより高い精度で検出することができる。
「第2範囲」は、下限値σminと上限値σmaxとによって規定される範囲であり得る。あるいは、下限値σminが定められず、上限値σmaxのみによって第2範囲が規定されていてもよい。その場合、σmaxを閾値として、バラツキ量がσmax以下である場合に、バラツキ量が第2範囲内にあると判定される。
前記制御回路は、前記検知モードにおいて、前記条件(a)かつ(c)前記交流電圧および/または前記交流電流の波形に含まれるノイズ量が第3範囲内にあること、を満たす場合に、前記電圧切替回路から出力される電圧を前記第2直流電圧から前記第1直流電圧に切り替えることによって前記検知モードから前記伝送モードに切り替えてもよい。位相差に加えて、電圧または電流のノイズ量も考慮することにより、受電電極が送電電極に対向する状態をより高い精度で検出することができる。
「第3範囲」は、下限値nminと上限値nmaxとによって規定される範囲であり得る。あるいは、下限値nminが定められず、上限値nmaxのみによって第3範囲が規定されていてもよい。その場合、nmaxを閾値として、ノイズ量がnmax以下である場合に、バラツキ量が第3範囲内にあると判定される。
前記制御回路は、前記検知モードにおいて、前記条件(a)かつ(b)前記位相差の時間的なバラツキの程度を示すバラツキ量が第2範囲内にあること、かつ(c)前記交流電圧および/または前記交流電流の波形に含まれるノイズ量が第3範囲内にあること、を満たす場合に、前記電圧切替回路から出力される電圧を前記第2直流電圧から前記第1直流電圧に切り替えることによって前記検知モードから前記伝送モードに切り替えてもよい。位相差に加えて、位相差の時間的なバラツキ量および電圧または電流のノイズ量も考慮することにより、受電電極が送電電極に対向する状態をさらに高い精度で検出することができる。
前記制御回路は、前記計測器によって計測された前記交流電圧および前記交流電流の計測値に基づき、前記交流電圧と前記交流電流との位相差を繰り返し計算し、単位時間内に計算した前記位相差の値の分散に応じた量を前記バラツキ量として計算してもよい。そのようなバラツキ量に基づいて伝送モードへの切り替えタイミングを決定することにより、誤判定を防ぎやすくなる。
前記制御回路は、前記インバータ回路から出力される前記交流電圧の計測値がゼロになる時点である電圧ゼロ交差点、および/または、前記インバータ回路から出力される前記交流電流の計測値がゼロになる時刻である電流ゼロ交差点を検出し、前記インバータ回路の駆動周波数における半周期の間に検出される前記電圧ゼロ交差点、および/または前記電流ゼロ交差点の頻度に応じた量を、前記ノイズ量として計算してもよい。そのようなノイズ量を用いることにより、誤判定を防ぎやすくなる。
前記送電装置は、前記インバータ回路の入力電流を計測する電流計測器をさらに備えていてもよい。前記制御回路は、前記電流計測器によって計測された前記入力電流の値が第4範囲内にあり、かつ、少なくとも前記条件(a)を満たす場合に、前記電圧切替回路から出力される電圧を前記第2直流電圧から前記第1直流電圧に切り替えることによって前記検知モードから前記伝送モードに切り替えてもよい。インバータ回路の入力電流をさらに考慮することにより、誤判定をさらに防ぎやすくなる。この場合、さらに、上記条件(b)および(c)の少なくとも一方が、モード切替の条件に含まれていてもよい。
「第4範囲」は、下限値Iminと上限値Imaxとによって規定される範囲であり得る。あるいは、上限値Imaxが定められず、下限値Iminのみによって第4範囲が規定されていてもよい。その場合、Iminを閾値として、入力電流の計測値がImin以上である場合に、入力電流の値が第4範囲内にあると判定される。
本開示の実施形態による無線電力伝送システムは、前述のいずれかに記載の送電装置と、前記受電装置とを備える。
前記受電装置は、前記複数の受電電極が受け取った交流電力を直流電力に変換して出力する整流回路と、前記整流回路から出力された前記直流電力によって動作し、前記直流電力の電圧が所定の起動電圧を越えたときに起動する負荷と、前記整流回路と前記負荷との間に接続された抵抗回路であって、前記負荷に並列に接続された抵抗器を含む抵抗回路と、前記受電装置が前記送電装置に接近し、前記負荷が起動することによって生じる前記整流回路の負荷インピーダンスの変動を抑制するように、前記抵抗回路のインピーダンスを制御する受電制御回路と、を備えていてもよい。そのような構成によれば、検知モードから伝送モードへの移行の過程で、負荷インピーダンスの変動を抑制し、インバータ回路の出力電圧および出力電流の変動を抑制することができる。このため、位相差またはノイズ量に基づく判定の誤りを低減することができる。
本開示における「受電装置」は、移動体に限らず、移動または持ち運びが可能な任意の機器であり得る。受電装置は、例えば携帯電話機のような持ち運びが可能な電子機器、または移動可能なコンセント(充電ポール)に搭載されてもよい。
本開示における「移動体」は、前述の無人搬送車(AGV)のような車両に限定されず、電力によって駆動される任意の可動物体を意味する。移動体には、例えば、電気モータおよび1以上の車輪を備える電動車両が含まれる。そのような車両は、例えば、前述のAGV、搬送ロボット、電気自動車(EV)、電動カート、電動車椅子であり得る。本開示における「移動体」には、車輪を有しない可動物体も含まれる。例えば、二足歩行ロボット、マルチコプターなどの無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV、所謂ドローン)、および有人の電動航空機、およびエレベータも、「移動体」に含まれる。 以下、本開示のより具体的な実施形態を説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明および実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。以下の説明において、同一または類似する機能を有する構成要素については、同じ参照符号を付している。
(実施形態)
図12は、本開示の例示的な実施形態による無線電力伝送システムの構成を示す図である。この無線電力伝送システムは、図1から図7Cに示す例と同様、移動体に無線で電力を伝送するシステムである。無線電力伝送システムは、1台以上の送電装置と、1台以上の移動体とを備える。
図12に示す無線電力伝送システムは、送電装置100と、移動体200とを備える。図12には、無線電力伝送システムの外部の要素である交流電源400も示されている。
送電装置100は、送電回路110と、2つの送電電極120と、電流および電圧を計測する計測器140と、送電制御回路150とを備える。送電回路110は、電圧切替回路130と、インバータ回路160と、整合回路180とを備える。
電圧切替回路130は、インバータ回路160に入力される電圧を切り替える回路である。図13は、電圧切替回路130の構成例を示すブロック図である。図13に示す電圧切替回路130は、伝送モード用の第1直流電源131と、スイッチ132と、検知モード用の第2直流電源136と、ダイオード137と、電解コンデンサ139とを含む。第1直流電源131、第2直流電源136、および電解コンデンサ139は、互いに並列に接続されている。ダイオード137は、第2直流電源136に直列に接続され、第2直流電源136への電流の逆流を防止する。スイッチ132は、半導体スイッチであり、第1直流電源131と第2直流電源136との間に接続されている。電解コンデンサ139は、第2直流電源136とインバータ回路160との間に並列に接続されている。電解コンデンサ139は、第1直流電源131または第2直流電源136から出力される直流電圧を平滑化し、一定の電圧の直流電圧をインバータ回路160に供給する。
第1直流電源131および第2直流電源136は、外部の交流電源400から出力された交流電力を直流電力に変換して出力するAC-DCコンバータ回路であり得る。第1直流電源131および第2直流電源136は、例えば、交流電源400に接続された整流回路と、DC-DCコンバータ回路とを含み得る。第2直流電源136は、図6に示すDC-DCコンバータ回路135のように、第1直流電源131から出力された電圧を降圧するDC-DCコンバータ回路であってもよい。第1直流電源131は、伝送モード用の比較的高い電圧V1(例えば200V)の直流電力を出力する。第2直流電源136は、検知モード用の比較的低い電圧V2(例えば12V)の直流電力を出力する。スイッチ132は、検知モードと伝送モードとを切り替えるためのスイッチである。図13に示すスイッチ132は、Nチャネル型MOSFETである。スイッチ132のソースは、ダイオード137、電解コンデンサ139、およびインバータ回路160に接続されている。スイッチ132のドレインは、第1直流電源131に接続されている。スイッチ132のゲートは、送電制御回路150に接続されている。送電制御回路150は、ゲートドライバを含む。スイッチ132は、ゲートドライバから入力されるゲート駆動信号によって制御される。なお、スイッチ132は、Nチャネル型MOSFETに限らず、例えばPチャネル型MOSFETまたはIGBT(Insulated-Gate Bipolar Transistor)などの他の種類の半導体スイッチであってもよい。
送電制御回路150におけるゲートドライバは、検知モードにおいて、スイッチ132を開状態(オフ)にし、伝送モードにおいて、スイッチ132を閉状態(オン)にするゲート駆動信号を出力する。これにより、検知モードにおいては、第2直流電源136から電解コンデンサ139およびインバータ回路160に、比較的小さい直流電流が流れる。一方、伝送モードにおいては、第1直流電源131から電解コンデンサ139およびインバータ回路160に比較的大きい直流電流が流れる。
インバータ回路160は、電圧切替回路130から出力された直流電力を交流電力に変換して出力する。図14は、インバータ回路160の構成例を模式的に示す図である。この例では、インバータ回路160は、4つのスイッチング素子を含むフルブリッジ型のインバータ回路である。各スイッチング素子は、例えばIGBT、MOSFET、またはGaN等のトランジスタによって実現され得る。各スイッチング素子は、送電制御回路150によって制御される。送電制御回路150は、各スイッチング素子のオン(導通)およびオフ(非導通)の状態を制御する制御信号を出力するゲートドライバと、ゲートドライバに駆動信号を出力させるマイクロコントローラ(MCU)等のプロセッサとを備え得る。送電制御回路150は、各スイッチング素子のオンおよびオフの状態を制御することにより、インバータ回路160から所望の周波数および電圧を有する交流電力を出力させる。図示されるフルブリッジ型のインバータ回路の代わりに、ハーフブリッジ型のインバータ回路、または、E級などの他の種類の発振回路を用いてもよい。
電力伝送の周波数は、例えば50Hz~300GHz、ある例では20kHz~10GHz、他の例では20kHz~20MHz、さらに他の例では80kHz~14MHzに設定され得る。ただしこれらの周波数範囲に限定されない。
整合回路180は、インバータ回路160と送電電極120との間のインピーダンスを整合させる。整合回路180は、例えば図6に示す整合回路180と同様の構成を備え得る。整合回路180は、図6に示す構成とは異なる構成を備えていてもよい。
計測器140は、インバータ回路160から出力される電流および電圧を計測する。送電制御回路150は、計測器140によって計測された電流と電圧との位相差に基づいて、移動体200の接近を検知し、前述の検知モードから伝送モードに移行することができる。
移動体200は、複数の受電電極220と、受電回路210と、充放電制御回路310と、電気モータ320と、蓄電デバイス330とを備える。受電回路210は、整合回路280と、整流回路260とを備える。
整合回路280は、受電電極220と整流回路260との間のインピーダンスを整合させる。整合回路280は、例えば図6に示す整合回路280と同様の構成を備え得る。整合回路280は、図6に示す構成とは異なる構成を備えていてもよい。
整流回路260は、整合回路280から出力された交流電力を直流電力に変換する。図15は、整流回路260の構成例を模式的に示す図である。この例における整流回路260は、ダイオードブリッジと平滑コンデンサとを含む全波整流回路である。整流回路260は、例えば半波整流回路などの、他の構成を有していてもよい。整流回路260は、受け取った交流エネルギーを蓄電デバイス330およびモータ320などの負荷が利用可能な直流エネルギーに変換する。
充放電制御回路310は、受電回路210と蓄電デバイス330との間に接続され、蓄電デバイス330の充電および放電を制御する。
電気モータ320は、充放電制御回路310に接続され、蓄電デバイス330に蓄積されたエネルギーによって駆動される。モータ320は、例えば直流モータ、永久磁石同期モータ、誘導モータ、ステッピングモータ、またはリラクタンスモータなどの、任意のモータであり得る。モータ320は、シャフトおよびギア等を介して移動体の車輪を回転させ、移動体200を移動させる。モータの種類に応じて、整流回路、インバータ回路、インバータ制御回路などの、各種の回路がモータ320の前段に設けられ得る。
蓄電デバイス330は、例えば二次電池または蓄電用のキャパシタであり得る。二次電池として、例えばリチウムイオン電池またはニッケル水素電池を用いることができる。蓄電用のキャパシタは、例えば電気二重層キャパシタまたはリチウムイオンキャパシタなどの、高容量かつ低抵抗のキャパシタであり得る。移動体200は、キャパシタまたは二次電池に蓄えられた電力によってモータ320を駆動して移動する。
本実施形態における移動体200の筐体、送電電極120、および受電電極220のそれぞれのサイズは、特に限定されないが、例えば以下のサイズに設定され得る。各送電電極120の長さ(すなわちY方向のサイズ)は、例えば50cm~20mの範囲内に設定され得る。各送電電極120のそれぞれの幅(すなわちX方向のサイズ)は、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。移動体200の筐体の移動方向および横方向におけるそれぞれのサイズは、例えば20cm~5mの範囲内に設定され得る。送電電極120から同時に2台以上の移動体200に給電できるように、移動体200の筐体の移動方向におけるサイズは、各送電電極120の長さの半分未満に設定されてもよい。受電電極220aの長さ(すなわち移動方向におけるサイズ)は、例えば5cm~2mの範囲内に設定され得る。受電電極220aの幅(すなわち横方向におけるサイズ)は、例えば2cm~2mの範囲内に設定され得る。送電電極120間のギャップ、および受電電極220間のギャップは、例えば1mm~40cmの範囲内に設定され得る。但し、これらの数値範囲に限定されない。
次に、検知モードにおいて送電装置100が移動体200の接近を検知し、伝送モードに切り替える動作をより詳細に説明する。
図16は、送電制御回路150による検知モードにおける動作の例を示すフローチャートである。この例では、検知モードにおいて、送電制御回路150は、図16に示すステップS101からS105の動作を実行する。
ステップS101において、送電制御回路150は、計測器140によって計測されたインバータ回路160の出力電圧および出力電流の計測値に基づいて、出力電圧と出力電流との位相差を取得する。計測器140は、出力電圧および出力電流の周期よりも十分に短い周期で出力電圧および出力電流を計測し、図10に例示されるような電圧および電流の波形のデータを記録する。送電制御回路150は、それらの波形のデータから、位相差を計算する。ここで、現在の計測をt回目の計測とし、t回目の計測で得られた位相差をΔθtと表記する。位相差Δθtは、例えば図10に示すように、出力電圧Voutの計測値がゼロになる時点と出力電流Ioutの計測値がゼロになる時点との時間差Δtから計算され得る。送電制御回路150は、出力電圧Voutおよび出力電流Ioutのそれぞれの値がゼロになるゼロ交差点を検出し、それぞれのゼロ交差点が検出された時刻を記録することにより、時間差Δtおよび位相差Δθtを計算できる。なお、ゼロ交差点に限らず、ピーク点の時刻に基づいて位相差を計算してもよい。なお、位相差Δθtに代えて時間差Δtを位相差として用いてもよい。
ステップS102において、送電制御回路150は、位相差Δθtが予め設定された第1範囲内にあるか否かを判定する。第1範囲は、下限値θminおよび上限値θmaxによって定められる範囲である。下限値θminおよび上限値θmaxは、例えばキャリブレーションによって事前に決定され、送電制御回路150内の記録媒体に記録され得る。送電制御回路150は、θmin≦Δθt≦θmaxが成立するか否かを判定する。この判定がYesの場合は、ステップS103に進む。この判定がNoの場合は、ステップS101に戻る。なお、上限値θmaxが定められず、下限値θminのみによって第1範囲が規定されていてもよい。その場合、θminを閾値として、Δθtがθmin以上であるか否かが判定される。
ステップS103において、送電制御回路150は、位相差バラツキ量σtを取得する。位相差バラツキ量σtは、n回前(nは、例えば5以上の整数)から今回までに取得された位相差(Δθt-n,・・・,Δθt)のバラツキの程度を表す量である。位相差バラツキ量σtは、所定の関数f(Δθt-n,・・・,Δθt)によって計算される。関数fとして、例えば分散または標準偏差が用いられ得るが、それらに限定されず、バラツキの程度を表す任意の関数が関数fとして用いられ得る。
ステップS104において、送電制御回路150は、位相差バラツキ量σtが、予め定められた第2範囲内にあるか否かを判定する。第2範囲は、下限値σminおよび上限値σmaxによって定められる範囲である。下限値σminおよび上限値σmaxは、例えばキャリブレーションによって事前に決定され、送電制御回路150内の記録媒体に記録され得る。送電制御回路150は、σmin≦σt≦σmaxが成立するか否かを判定する。この判定がYesの場合はステップS105に進む。この判定がNoの場合は、ステップS101に戻る。なお、下限値σminが定められず、上限値σmaxのみによって第2範囲が規定されていてもよい。その場合、σmaxを閾値として、σtがσmax以下であるか否かが判定される。
ステップS105において、送電制御回路150は、検知モードから伝送モードに移行する。具体的には、送電制御回路150は、電圧切替回路130におけるスイッチ132をオンにする信号を送る。これにより、スイッチ132がオンすなわち導通状態になる。以後、第1直流電源131から、相対的に大きい電圧V1がインバータ回路160に印加され、移動体200への大電力の伝送が開始される。
以上の動作により、インバータ回路160の出力電圧と出力電流との位相差、および位相差のバラツキに基づいて、伝送モードへの移行タイミングを適切に決定することができる。上記の動作によれば、例えば、位相差Δθtが小さすぎる場合、または位相差バラツキ量σtが大きすぎる場合に、移動体200がまだ送電電極120上に到達していないと推定され、検知モードが維持される。このため、送電電極120と受電電極220との結合容量が低い状態で伝送モードに移行することが回避される。結果として、送電装置100内の回路素子へのダメージを軽減することができる。
なお、上記の例において、ステップS101およびS102の動作と、ステップS103およびS104の動作の順序を入れ替えたり、並列して行ったりしてもよい。また、ステップS103およびS104を省略し、位相差のみに基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定してもよい。図17は、位相差のみに基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定する動作の例を示すフローチャートである。図17の例では、ステップS102でYesと判定された場合に、位相差バラツキ量を評価することなく伝送モードに移行する。
送電制御回路150は、図16の例における位相差バラツキ量に代えて、または加えて、ゼロ交差点のバラツキに基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定してもよい。送電電極120と受電電極220との結合容量が小さい場合、計測される出力電圧および出力電流の波形に含まれるノイズが大きくなり、それぞれのゼロ交差点が、インバータ回路160の駆動周波数における半周期の間に複数回検出される場合がある。したがって、出力電圧および出力電流の一方または両方のゼロ交差点のバラツキ量を、前述の位相差バラツキ量の代わりに用いることができる。例えば、出力電圧および出力電流の一方または両方について、半周期の間に検出されるゼロ交差点の数をバラツキ量またはノイズ量としてカウントし、バラツキ量が第3範囲内にある場合にのみ、伝送モードに移行し、バラツキ量が第3範囲内にない場合には検知モードを継続するようにしてもよい。また、計測された出力電圧または出力電流の波形のゼロ交差点のバラツキ量に限らず、任意の方法で出力電圧または出力電流の波形に含まれるノイズ量を評価してもよい。例えば、出力電圧または出力電流の波形に高速フーリエ変換を行うことによって抽出される所定次数以上の高周波成分の量をノイズ量としてもよい。
図18は、図16の例における位相差バラツキ量に代えて、インバータ回路160の出力電圧または出力電流の波形に含まれるノイズ量に基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定する処理の例を示すフローチャートである。このフローチャートは、図16に示すフローチャートにおけるステップS103およびS104を、ステップS113およびS114にそれぞれ置換したものである。ステップS101およびS102の動作は図16における動作と同様である。
ステップS113において、送電制御回路150は、計測器140によって計測されたインバータ回路160の出力電圧および出力電流の波形の少なくとも一方におけるノイズ量nを計算によって取得する。ノイズ量は、例えば、インバータ回路160の駆動周波数における半周期の間に検出されるゼロ交差点の数であり得る。あるいは、高速フーリエ変換によって得られる所定次数以上の高周波成分の量をノイズ量としてもよい。
ステップS114において、送電制御回路150は、ノイズ量nが、予め設定された第3範囲内にあるか否かを判定する。第3範囲は、下限値nminおよび上限値nmaxによって定められる範囲である。下限値nminおよび上限値nmaxは、例えばキャリブレーションによって事前に決定され、送電制御回路150内の記録媒体に記録され得る。送電制御回路150は、nmin≦n≦nmaxが成立するか否かを判定する。この判定がYesの場合はステップS105に進む。この判定がNoの場合は、ステップS101に戻る。なお、下限値nminが定められず、上限値nmaxのみによって第3範囲が規定されていてもよい。その場合、nmaxを閾値として、nがσmax以下であるか否かが判定される。
なお、上記の例において、ステップS101およびS102の動作と、ステップS113およびS114の動作の順序を入れ替えたり、並列して行ったりしてもよい。また、ステップS101およびS102を省略し、ノイズ量のみに基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定してもよい。
以上の各例における送電制御回路150は、インバータ回路160の出力電圧および/または出力電流のみに基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定する。そのような動作に限らず、例えばインバータ回路160の入力電流の計測値も利用して伝送モードへの移行タイミングを決定してもよい。
図19は、インバータ回路160の入力電流に基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定するシステムの構成例を示すブロック図である。図19の例では、送電装置100が、インバータ回路160の入力電流を計測する電流計測器142をさらに備える。この例における送電制御回路150は、検知モードにおいて、計測器140の計測値だけでなく、電流計測器142の計測値に基づいて、伝送モードへの移行タイミングを決定する。
図20は、図19の例における送電制御回路150の動作を示すフローチャートである。図20に示すフローチャートは、図16に示すフローチャートにおけるステップS101の前に、ステップS121およびS122が追加されたものである。
ステップS121において、送電制御回路150は、電流計測器142によって計測された、インバータ回路160の入力電流Iinの計測値を取得する。
ステップS122において、送電制御回路150は、入力電流Iinが予め設定された第4範囲内にあるか否かを判定する。第4範囲は、下限値Iminおよび上限値Imaxによって定められる範囲である。下限値Iminおよび上限値Imaxは、例えばキャリブレーションによって事前に決定され、送電制御回路150内の記録媒体に記録され得る。送電制御回路150は、Imin≦Iin≦Imaxが成立するか否かを判定する。この判定がYesの場合は、ステップS101に進む。この判定がNoの場合は、ステップS121に戻る。なお、上限値Imaxが定められず、下限値Iminのみによって第4範囲が規定されていてもよい。その場合、Iminを閾値として、IinがImin以上であるか否かが判定される。Iminは、位相差Δθtをある程度高い精度で取得できる程度の値に設定され得る。
以降のステップS101からS105の動作は、図16に示す動作と同様である。ただし、ステップS102およびS104においてNoと判定された場合、ステップS121に戻る。
以上の動作により、インバータ回路160の出力電圧と出力電流との位相差、および位相差のバラツキに加えて、インバータ回路160の入力電流に基づいて、伝送モードへの移行タイミングを適切に決定することができる。上記の動作によれば、例えば、入力電流Iinが小さすぎる場合、位相差Δθtが小さすぎる場合、または位相差バラツキ量σtが大きすぎる場合に、移動体200がまだ送電電極120上に到達していないと推定され、検知モードが維持される。このため、送電電極120と受電電極220との結合容量が低い状態で伝送モードに移行することが回避される。結果として、送電装置100内の回路素子へのダメージを軽減することができる。
なお、上記の例において、ステップS121およびS122の動作と、ステップS101およびS102の動作と、ステップS103およびS104の動作の順序を入れ替えたり、これらの動作を並列して行ったりしてもよい。また、ステップS103およびS104を省略し、インバータ回路160の入力電流および位相差のみに基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定してもよい。また、送電制御回路150は、位相差バラツキ量に代えて、または加えて、前述のようにゼロ交差点のバラツキ量または高周波成分の量などのノイズ量に基づいて伝送モードへの移行タイミングを決定してもよい。
図16、図17、図18、および図20に示す各例において、インバータ回路160の出力電圧と出力電流との位相差に基づいて、検知モードから伝送モードへの移行のタイミングが決定される。インバータ回路160の出力電圧と出力電流との位相差は、移動体200における負荷インピーダンスの変動に伴って変動する。位相差を正確に検出するためには、負荷インピーダンスが一定に近いことが望ましい。しかし、負荷インピーダンスは、移動体200の動作状態に応じて大きく変動する。例えば、移動体200が送電電極120に接近し、移動体200内の負荷に一定以上の電圧が印加されると、負荷に含まれる各種の電子回路が起動し、その前後で負荷インピーダンスが大きく変動する。その状態では、インバータ回路160の出力電圧と出力電流との位相差も大きく変動する。さらに、その状態では、送電回路110および受電回路210での損失が増え、受電回路210の出力電圧が上昇し、回路素子の発熱または損傷を招く可能性がある。
そこで、移動体200は、負荷インピーダンスの変動を抑制する構成を備えていてもよい。以下、そのような移動体200の構成例を説明する。以下の説明において、負荷に含まれる電子回路が起動することを「負荷が起動する」と表現する。
図21は、負荷インピーダンスを調整することが可能な移動体200の構成例を示す図である。この移動体200は、複数の受電電極220と、受電回路210と、抵抗回路270と、受電制御回路250と、負荷230とを備える。受電回路210は、図12に示す整合回路280および整流回路260を含み得る。負荷230は、図12に示す充放電制御回路310、電気モータ320、および蓄電デバイス330を含み得る。図21に示す移動体200は、例えば図12または図19に示す送電装置100と組合せて使用され得る。
抵抗回路270は、受電回路210と負荷230との間に接続されている。抵抗回路270は、互いに直列に接続された抵抗器272とスイッチ274とを含む。抵抗器272およびスイッチ274は、負荷230に並列に接続されている。図21には1つの抵抗器272が示されているが、抵抗器272は、複数の抵抗器の集合体であってもよい。
移動体200が送電装置100から離れている状態では、送電装置100から見た移動体200のインピーダンスは、実質的に無限大である。この状態では、送電装置100は、検知モードで動作し、伝送モードにおいて出力する電力よりも小さい電力を出力する。移動体200が送電装置100に接近すると、負荷230に供給される電力が徐々に増加する。負荷230の入力電圧が所定の起動電圧を超えると、負荷230に含まれる充放電制御回路310およびDC-DCコンバータなどの電子回路が起動を開始する。負荷の起動中は、負荷230のインピーダンスが変動しながら低下する。起動が完了すると、負荷230のインピーダンスは特定の値になる。このように、負荷230に含まれる電子回路の起動に伴い、受電回路210の負荷インピーダンスが低下する。受電制御回路250は、電子回路の起動によって生じる受電回路210の負荷インピーダンスの変動を抑制するように、抵抗回路270のインピーダンスを制御する。受電制御回路250は、負荷230の状態によらず、受電回路210の負荷インピーダンスが、予め設定された範囲内に維持されるように、抵抗回路270のインピーダンスを制御する。このような制御により、移動体200内の電圧を適正な範囲に維持することができる。抵抗回路270のインピーダンスは、例えばスイッチ274を制御することによって制御され得る。
受電制御回路250は、負荷230が起動する前は、スイッチ274をオンにし、負荷230が起動した後、抵抗回路270のインピーダンスが増加するようにスイッチ274を制御し、送電装置100から送電用の電力が供給された後、スイッチ274をオフにする。受電制御回路250は、送電装置100から移動体200への送電が終了した後、スイッチ274を再びオンにする。抵抗器272の抵抗値は、送電装置100から移動体200に送電用の電力が供給されているときの負荷230の抵抗値に実質的に等しい値に設定され得る。このような動作により、受電回路210の負荷インピーダンスを適正な範囲内に維持することができる。
次に、図22から図25を参照しながら、抵抗回路270の制御方法のいくつかの例を説明する。
図22は、受電制御回路250による抵抗回路270の制御方法の一例を示す図である。この例では、スイッチ274はMOSFETなどの半導体スイッチであり、抵抗器272は固定の抵抗値を有する。受電制御回路250は、半導体スイッチのゲートに入力される電圧を調整することにより、抵抗回路270の抵抗値すなわちインピーダンスを制御する。
図23は、受電制御回路250による抵抗回路270の制御方法の他の例を示す図である。この例では、受電制御回路250は、スイッチ274のオン/オフのデューティ比すなわちオン時間と周期との比率を調整することにより、抵抗回路270のインピーダンスを制御する。
図24は、受電制御回路250による抵抗回路270の制御方法のさらに他の例を示す図である。この例では、抵抗回路270は、負荷300に並列に接続された可変抵抗器273を含む。受電制御回路250は、可変抵抗器273の抵抗値を制御することにより、抵抗回路270のインピーダンスを制御する。この例においても、受電制御回路250は、負荷300の起動前はスイッチ274をオンにし、本送電開始後、スイッチ274をオフにしてもよい。あるいは、スイッチ274を省略し、可変抵抗器273の抵抗値の調整のみで同様の機能を実現してもよい。
図25は、受電制御回路250による抵抗回路270の制御方法のさらに他の例を示す図である。この例では、抵抗回路270は、各々が抵抗器272とスイッチ274とを含み、負荷300に並列に接続された複数のモジュールを備える。受電制御回路250は、各モジュールにおけるスイッチ274に図22または図23の例と同様の制御を行うことにより、全モジュールの合成抵抗すなわち合成インピーダンスを調整する。これにより、抵抗回路270全体の合成インピーダンスを制御する。なお、図24の例のように、抵抗器272に代えて可変抵抗器273を設け、各可変抵抗器273の抵抗値を調整することによって抵抗回路270の合成インピーダンスを制御してもよい。その場合、スイッチ274を省略してもよい。
上記の構成により、移動体200の負荷インピーダンスの変動を抑制し、結果として、インバータ回路160の出力電圧および出力電流の計測値の変動を抑制することができる。
以上の実施形態では、送電電極120は、地面または床面に敷設されているが、送電電極120は、壁などの側面、または天井などの上面に敷設されていてもよい。送電電極120が敷設される場所および向きに応じて、移動体200の受電電極220の配置および向きが決定される。
図26Aは、送電電極120が壁などの側面に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体200の側方に配置される。図26Bは、送電電極120が天井に敷設された例を示している。この例では、受電電極220は、移動体200の天板に配置される。これらの例のように、送電電極120および受電電極220の配置には様々なバリエーションがある。
本開示の実施形態における無線電力伝送システムは、前述のように、例えば倉庫または工場内における物品の搬送用のシステムとして利用され得る。移動体200は、物品を積載する荷台を有し、工場内を自律的に移動して物品を必要な場所に搬送する台車として機能する。しかし、本開示における無線電力伝送システムおよび移動体は、このような用途に限らず、他の様々な用途に利用され得る。例えば、移動体は、AGVに限らず、他の産業機械、サービスロボット、電気自動車、マルチコプター(ドローン)等であってもよい。無線電力伝送システムは、工場または倉庫に限らず、例えば、店舗、病院、家庭、道路、滑走路その他のあらゆる場所で利用され得る。また、受電装置は、移動体に限定されず、例えば充電ポール、スマートフォン、タブレットコンピュータ、またはラップトップコンピュータなどの、持ち運びが可能な任意の機器であり得る。
以下、受電装置が移動のための動力装置を備えていない無線電力伝送システムの例を説明する。
図27は、可搬型の受電装置500に電力を供給する無線電力伝送システムの例を模式的に示す斜視図である。図28は、このシステムの模式断面図である。
図27に示すように、このシステムでは、移動体ではなく、可搬型の受電装置500が送電装置100から電力を受け取って動作する。図27には、2つの受電装置500が例示されているが、受電装置500の個数は任意である。受電装置500は、例えば持ち運びが可能な充電ポールであり得る。受電装置500は、送電装置100が備える送電電極シート120Sの上に配置されて使用される。送電電極シート120Sは、一方向に延びる一対の送電電極120を備える。受電装置500は、使用時に送電電極シート120Sに対向する受電電極シート220Sを備える。受電電極シート220Sは、一対の受電電極220を備える。一対の受電電極220が一対の送電電極120にそれぞれ対向する状態で、電力が無線で伝送される。受電装置500は、持ち運びが可能であり、送電電極120が延びる方向に沿ってスライドさせることもできる。送電電極120が延びる方向における受電装置500の寸法は、送電電極120の長さの半分未満である。このため、同時に2台以上の受電装置500を送電電極シート120Sの上に配置することができる。
図28に示すように、一対の送電電極120は、送電回路110に接続されている。前述の実施形態と同様、送電回路110は、一対の送電電極120に交流電力を供給する。これにより、送電電極120から交流エネルギが空間に送出される。受電装置500は、受電電極シート220Sに加えて、受電回路210と、蓄電デバイス330と、負荷350とを備える。受電回路210は、一対の受電電極220に接続され、受電電極220が受け取った交流電力を直流電力に変換して出力する。蓄電デバイス330は、受電回路210から出力された直流電力を蓄える。負荷350は、蓄電デバイス330に接続され、蓄電デバイス330に蓄積された電力によって動作する。負荷350は、電力で動作する任意の機器であり、例えば、電気モータ、動力装置、または照明装置を含み得る。受電装置500が充電ポールである場合、受電装置500は、他の機器に電力を供給するための1つ以上のコンセント(outlet)を備えていてもよい。図28には示されていないが、受電装置500は、図21から図25などに示す例と同様に、インピーダンスを調整する機能を備えていてもよい。
図29は、受電装置500の他の例を示す図である。図29に示すように、受電装置500は、スマートフォン400A、タブレットコンピュータ400B、またはラップトップコンピュータ400Cであってもよい。これらの例に限らず、受電装置500は、持ち運びが可能な任意の機器であり得る。受電装置500の種類に関わらず、本開示の技術を適用することにより、受電装置500への送電開始のタイミングを適切に決定することができる。