JP7456559B1 - ステンレス鋼と銅の接合体およびその製造方法、ならびに、ステンレス鋼と銅の接合方法 - Google Patents

ステンレス鋼と銅の接合体およびその製造方法、ならびに、ステンレス鋼と銅の接合方法 Download PDF

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銀ロウ付けに代わる信頼性の高い、ステンレス鋼と銅の接合体を提供する。溶接部を、ステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部に形成するとともに、溶接部を、接合体の銅側表面において溶接方向に連なる複数の溶接点により構成し、溶接部のCu/Fe比を10.0以上とし、MFおよびtについて次式(1)の関係を満足させ、MFおよびBについて次式(2)の関係を満足させる。MF ≧ 0.8t ・・・(1)0.10MF ≦ B ≦ 1.25MF ・・・(2)

Description

本発明は、ステンレス鋼と銅の接合体およびその製造方法、ならびに、ステンレス鋼と銅の接合方法に関する。
ステンレス鋼は、耐食性に優れる素材であり、鋼板や鋼管として、自動車用、エアコン用などの各種熱交換器に広く用いられる。また、銅は、熱伝導性に優れる素材であり、銅板や銅管として、各種の熱交換器に広く用いられている。
近年、銅価格の高騰に伴い、銅製の熱交換器において素材を銅からステンレス鋼へと変更することが志向されている。しかしながら、全ての素材を銅からステンレス鋼へと変更することは困難であり、銅製の部品が一部残存する。この場合、ステンレス鋼製の部品と銅製の部品とを組み合わせて製品を製造することになるので、ステンレス鋼と銅の接合が必要となる。
特表2003-523830号公報 特開2005-349443号公報
ところで、熱交換器の製造には、部品同士の接合方法としてロウ付けを用いることが一般的である。ロウ付けは、雰囲気炉内で部材を加熱して多点同時接合を行う炉中ロウ付けと、大気中で接合部をトーチで加熱して一点接合を行う炙りロウ付けに大別される。そして、製品組立の段階に応じて双方の手法が用いられる。
このうち、特に炙りロウ付けでは、被接合材が大気中で高温に曝される。そのため、被接合材がステンレス鋼である場合には、ステンレス鋼の表面にロウ付けを阻害する強固で緻密な酸化皮膜が生成しやすい。そのため、ステンレス鋼製の部品と銅製の部品との炙りロウ付けにおいては、低温でのロウ付けを行うことが必要である。
以上のことから、ステンレス鋼と銅の接合には、一般的に、融点の低い銀ロウ(融点:600~700℃程度)が用いられる。しかしながら、銀ロウは高価である。また、適切な炙りロウ付けには、作業の熟練が要求される。さらに、ステンレス鋼の表面には、600℃程度においてもロウ付けを阻害する酸化皮膜が生成する場合がある。そのため、ステンレス鋼と銅との接合には、フラックスの使用が必要である。しかし、フラックスの使用により、ステンレス鋼および銅の耐食性が低下するおそれがある。また、フラックスを除去するための洗浄には手間がかかり、生産性の低下を招く。
このようなことから、銀ロウを用いた炙りロウ付け(以下、銀ロウ付けともいう)に代わる、ステンレス鋼と銅の接合方法の開発が求められている。
銀ロウ付けに代わるステンレス鋼と銅の接合方法として、例えば、特許文献1には、
「互いに接合される物体の接合面の間に少なくとも1つの中間層を配して、それぞれの中間層を含む接合面を押し合わせ、少なくとも接合領域を加熱して拡散接合を作る銅もしくは銅合金とオーステナイト質の鋼合金との接合方法において、該方法は、第1の中間層(3)を鋼物体(2)の接合面に接して、もしくは該面に対して配して、主として該鋼物体(2)からのニッケルの損失を防ぎ、少なくとも1つの第2の中間層(4)を銅物体(1)の接合面に接して、もしくは該面に対して配して拡散接合の生成を活性化させることを特徴とする銅もしくは銅合金とオーステナイト質の鋼合金との接合方法」
が開示されている。
また、特許文献2には、
「ステンレス鋼と、当該ステンレス鋼に接合される被接合対象と、を接合する方法であって、前記ステンレス鋼及び前記被接合対象の間に、はんだ及び接合金属からなる接合剤を接触させる工程と、当該接合剤を前記ステンレス鋼及び前記被接合対象に接触させながら加熱処理を行う工程と、を含むことを特徴とする接合方法。」
が開示されている。
ここで、特許文献1に記載の技術は、ステンレス鋼と銅の接合面の間にNiなどの中間層を設けるものである。また、特許文献2に記載の技術は、ステンレス鋼と銅の接合面の間にはんだおよび接合金属を設けるものである。しかし、熱交換器などの製品では、使用中、液体との接触や結露が生じる。そのため、このような製品に、特許文献1および2に記載に技術により得たステンレス鋼と銅の接合体を適用すると、中間層ならびにはんだおよび接合金属と、銅またはステンレス鋼との電位差に起因した、異種金属接触腐食の発生が強く懸念される。
このように、ステンレス鋼と銅の接合では、銀ロウ付けに代わる信頼性の高い接合方法が確立されておらず、このような接合方法の開発が望まれているのが現状である。
本発明は、上記現状に鑑み開発されたものであって、銀ロウ付けに代わる信頼性の高いステンレス鋼と銅の接合方法、ならびに、ステンレス鋼と銅の接合体およびその製造方法を提供することを目的とする。
さて、本発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、銀ロウ付けに代わる信頼性の高い接合方法は、溶接によるものとすることが望ましいと考えるに至った。しかしながら、従来、ステンレス鋼と銅との溶接は困難とされる。その1要因としては、溶接部の割れが挙げられる。本発明者らは、この溶接部の割れが発生する要因について検討を重ね、以下の知見を得た。
ステンレス鋼と銅との溶接において、ステンレス鋼と銅とが溶融して混ざり合うと、その液相は、ステンレス鋼成分を主とする第一液相と、銅成分を主とする第二液相との2相に分離する。この時、ステンレス鋼の溶融量が銅に対して多くなるほど、第一液相の割合が増加する。
第一液相が冷却されて生成する凝固組織は脆い。また、溶接後の冷却過程において、ステンレス鋼の母材と銅の母材との熱収縮率差に起因して、接合部には内部応力が生じる。上述した第一液相の量が多いと、上記の内部応力が、第一液相の凝固組織を破壊に至らしめる。すなわち、溶接部の割れの発生を招く。この内部応力は、特に、溶接始端部および終端部に集中しやすい。そのため、溶接部の割れは、特に、溶接始端部および終端部に生成しやすい。また、発生した割れは、多くの場合、進展して溶接部を貫通する。
本発明者らは、上記の知見を基に検討を重ね、ステンレス鋼と銅の融点の差に着目した。すなわち、ステンレス鋼の融点は1400~1500℃程度である。一方、銅の融点は1100℃程度である。そこで、本発明者らは、以下の手法を検討した。すなわち、継手形式を重ね継手としたうえで、電極を、被接合材のステンレス鋼と銅との重ね合わせ部の銅側に配置して銅のみを積極的に溶融させる。そして、溶融した銅をステンレス鋼の表面に接触させて凝固させることにより、溶融部における銅の割合を高める。つまり、ステンレス鋼成分を主とする第一液相の生成量を抑制して溶接部の割れを防ぐことを検討した。ここで、重ね継手とは、溶接部(溶接位置)が、接合体(または被接合材)において、ステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部に位置する継手である。なお、溶接部が重ね合わせ部に位置するとは、溶接部全体が、重ね合わせ部内に位置する、つまり、図3に示すように、溶接直角方向において、重ね合わせ部における銅端部を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-として、溶接部全体が0~+Lの範囲内に位置することを意味する。ここで、Lは、溶接直角方向における重ね合わせ部の幅(mm)である。好適には、溶接部は、重ね合わせ部内に位置し、かつ、溶接直角方向において銅端部およびステンレス鋼端部から離間する。
しかし、一般的な溶接条件により銅のみを溶融させようとしても、溶融した銅の熱がステンレス鋼に伝わってステンレス鋼も多く溶融する場合がある。そのため、一般的な溶接条件では、銅のみを積極的に溶融させることは困難であることが分かった。
上記の点を踏まえ、本発明者らは、入熱の条件を精緻に制御可能な溶接方法、特には、TIG溶接を採用することを検討した。
しかし、銅のみを積極的に溶融させる、換言すれば、ステンレス鋼の溶融を抑制しながら溶接を行う場合にも、十分な接合部の強度(以下、接合強度ともいう)や気密性が得られないことがあることが分かった。すなわち、一般的なTIG溶接のように連続的に入熱すると、たとえステンレス鋼の溶融が抑制されていても、ステンレス鋼の温度が上昇し、ステンレス鋼の表面に強固な酸化皮膜が形成する。そして、この酸化皮膜に溶融した銅がはじかれ、ステンレス鋼の表面で銅が濡れ広がらず、十分な接合強度や気密性が得られないことがあることが分かった。
そこで、発明者らは、銅のみを積極的に溶融させながら、溶接中におけるステンレス鋼表面の酸化皮膜形成を抑制する方法について、さらに検討を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
すなわち、溶接方法としてTIG溶接を採用するとともに、電極を被接合材の銅側に配置する。そのうえで、溶接に伴う入熱を、局所的かつ短時間の複数回の入熱に分割することが有効である。特には、以下の(a)~(e)の条件を満足し、かつ、次式(4)の関係を満足するように、複数回の入熱に分割することが有効である。これにより、銅のみを積極的に溶融させながら、ステンレス鋼の溶融、さらにはステンレス鋼の温度上昇を抑制して溶接中のステンレス鋼表面の酸化皮膜形成を抑制することできる。
(a)電極の傾斜角度α:0°~45°
ここで、被接合材の厚さ方向を基準角度(0°)とし、電極の先端が向く方向と被接合材の厚さ方向とのなす角を電極の傾斜角度とする。
(b)電極高さ:0mm超3.0mm以下
(c)溶接直角方向における各入熱位置:0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下
ここで、Iは溶接電流(A)、dは溶接時間(s)、tは銅の厚さ(mm)、Lはステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部の幅である。また、溶接直角方向における各入熱位置は、重ね合わせ部における銅端部を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-とする。
(d)各入熱点の溶接方向の距離間隔(mm):0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上Dk―1×(1-0.2×t)以下
ここで、Dk―1は、被接合材の銅側表面における、直前の入熱により形成された溶接点の直径(mm)である。tは、銅の厚さ(mm)である。
(e)各入熱の時間間隔:直前の入熱における溶接時間(s)の100%以上
1.5/(1-0.2×t)÷0.03 ≦ I×d0.5 ≦ t1.5/(1-0.2×t)÷0.03×6 ・・・(4)
ここで、
I:溶接電流(A)
d:溶接時間(s)
t:銅の厚さt(mm)
である。
また、本発明者らは、溶接に伴う入熱を、上記した局所的かつ短時間の複数回の入熱に分割することにより、溶接部の割れも抑止されることを併せて知見した。
すなわち、溶接部の割れは、溶接後の冷却過程においてステンレス鋼の母材と銅の母材との熱収縮率差に起因して生じる接合部の内部応力に起因する。特に、重ね継手では、重ねすみ肉継手などの継手形状と比較して、この内部応力(換言すれば、拘束応力)が大きくなりやすい。この点、溶接に伴う入熱を、局所的かつ短時間の複数回の入熱に分割することにより、内部応力の分散および低減が実現される。また、溶接に伴う入熱を、局所的かつ短時間の複数回の入熱に分割することにより、ステンレス鋼の過度な溶融が抑制される。その結果、溶融部へのステンレス鋼の溶け込み、ひいては、上述した第一液相の生成量を抑制することができる。これらの効果が相乗することにより、溶接部の割れが十分に抑止される。
なお、溶接に伴う入熱を分割したとしても、入熱箇所同士が過度に近い場合や、入熱の時間間隔が過度に短い場合には、ステンレス鋼への入熱量が過剰となる。これにより、ステンレス鋼の溶融が過度に生じ、溶接部に割れが生じることがある。このような溶接部の割れを防止する観点、さらには溶接中のステンレス鋼表面の酸化皮膜形成を抑制する観点からも、入熱量そのものに加えて、上記した(d)各入熱点の溶接方向の距離間隔、および、(e)各入熱の時間間隔を適切に制御することが重要である。
また、本発明者らは、上記の知見を基にさらに検討を重ね、以下の点を同時に満足させることにより、十分な接合強度と気密性とをそなえ、溶接部の割れのない、ステンレス鋼と銅の接合体が得られることを知見した。
・溶接部を、ステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部に位置させる、すなわち、重ね継手とする。同時に、溶接部を、接合体の銅側表面において溶接方向に連なる複数の溶接点から構成する。
・溶接部のCu/Fe比を10.0以上とする。
・MFおよびtについて、次式(1)の関係を満足させる。また、MFおよびBについて、次式(2)の関係を満足させる。
MF ≧ 0.8t ・・・(1)
0.10MF ≦ B ≦ 1.25MF ・・・(2)
ここで、
MF:接合体のステンレス鋼と銅の重ね合わせ面における、溶接直角方向での溶接部と銅との溶融境界間の距離(mm)
B:接合体の銅側表面での溶接点の平均距離間隔(mm)
t:銅の厚さ(mm)
である。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.ステンレス鋼と、銅と、該ステンレス鋼と該銅との溶接部と、をそなえる、ステンレス鋼と銅の接合体であって、
前記ステンレス鋼および前記銅が板状または管状であり、
前記溶接部は、前記ステンレス鋼と前記銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部に位置し、かつ、前記溶接部は、前記接合体の銅側表面において溶接方向に連なる複数の溶接点を有し、
前記溶接部のCu/Fe比が10.0以上であり、
MFおよびtが、次式(1)の関係を満足し、
MFおよびBが、次式(2)の関係を満足する、ステンレス鋼と銅の接合体。
MF ≧ 0.8t ・・・(1)
0.10MF ≦ B ≦ 1.25MF ・・・(2)
ここで、
MF:接合体のステンレス鋼と銅の重ね合わせ面における、溶接直角方向での溶接部と銅との溶融境界間の距離(mm)
B:接合体の銅側表面での溶接点の平均距離間隔(mm)
t:銅の厚さ(mm)
である。
2.Dmax/Dminが、次式(3)の関係を満足する、前記1に記載のステンレス鋼と銅の接合体。
max/Dmin≦1.4 ・・・(3)
ここで、
min:接合体の銅側表面での溶接点の最小直径(mm)
max:接合体の銅側表面での溶接点の最大直径(mm)
である。
3.ステンレス鋼と銅とを重ね合わせた被接合材を溶接して接合する、ステンレス鋼と銅の接合方法であって、
前記溶接をTIG溶接により行い、
前記TIG溶接では、
電極を、前記被接合材の銅側に配置し、かつ、以下の(a)~(e)を満足する条件で複数回の入熱を行い、
(a)電極の傾斜角度α:0°~45°
ここで、被接合材の厚さ方向を基準角度(0°)とし、電極の先端が向く方向と被接合材の厚さ方向とのなす角を電極の傾斜角度とする。
(b)電極高さ:0mm超3.0mm以下
(c)溶接直角方向における各入熱位置:0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下
ここで、Iは溶接電流(A)、dは溶接時間(s)、tは銅の厚さ(mm)、Lはステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部の幅である。また、溶接直角方向における各入熱位置は、重ね合わせ部における銅端部を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-とする。
(d)各入熱点の溶接方向の距離間隔(mm):0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上Dk―1×(1-0.2×t)以下
ここで、Dk―1は、被接合材の銅側表面における、直前の入熱により形成された溶接点の直径(mm)である。tは、銅の厚さ(mm)である。
(e)各入熱の時間間隔:直前の入熱における溶接時間(s)の100%以上
さらに、各入熱において、次式(4)の関係を満足する、ステンレス鋼と銅の接合方法。
1.5/(1-0.2×t)÷0.03 ≦ I×d0.5 ≦ t1.5/(1-0.2×t)÷0.03×6 ・・・(4)
ここで、
I:溶接電流(A)
d:溶接時間(s)
t:銅の厚さt(mm)
である。
4.以下の(f)~(h)のうちの少なくとも1つを行う、前記3に記載のステンレス鋼と銅の接合方法。
(f)各入熱において、入熱の溶接電流を、直前の入熱の溶接電流以下とする。
(g)各入熱において、入熱の溶接時間を、直前の入熱の溶接時間以下とする。
(h)一部の入熱間において、長時間の入熱の時間間隔を設ける。
ただし、各入熱の溶接電流、溶接時間、および、入熱間の時間間隔が一定となる場合を除く。
5.前記3または4に記載のステンレス鋼と銅の接合方法により、ステンレス鋼と銅とを接合する、ステンレス鋼と銅の接合体の製造方法。
本発明によれば、銀ロウ付けに代わる信頼性の高い(換言すれば、十分な接合強度と十分な気密性の双方が得られるとともに、溶接部の割れが生じない)ステンレス鋼と銅の接合方法、ならびに、ステンレス鋼と銅の接合体が得られる。また、本発明のステンレス鋼と銅の接合体は、銀ロウ付けに比べて大幅に低いコストで製造することができるので、各種機器、例えば、熱交換器のステンレス鋼と銅との接合対象部に適用して極めて有利である。
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体の溶接部における溶接方向に垂直な断面(Y-Z平面)の光学顕微鏡写真の一例である。 本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体の溶接部の外観写真の一例であり、厚さ方向銅側から接合体を撮影したものである。 本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法において、被接合材の空間配置の一例を示す模式図である。 本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法において、電極の空間配置の一例を示す模式図である。
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。
[1]ステンレス鋼と銅の接合体
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体は、
ステンレス鋼と、銅と、該ステンレス鋼と該銅との溶接部と、をそなえる、ステンレス鋼と銅の接合体であって、
前記ステンレス鋼および前記銅が板状または管状であり、
前記溶接部は、前記ステンレス鋼と前記銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部に位置し、かつ、前記溶接部は、前記接合体の銅側表面において溶接方向に連なる複数の溶接点を有し、
前記溶接部のCu/Fe比が10.0以上であり、
MFおよびtが、上掲式(1)の関係を満足し、
MFおよびBが、上掲式(2)の関係を満足する。
なお、図1~4のX方向、Y方向およびZ方向は、それぞれ以下のとおりである。
X方向:溶接方向(ステンレス鋼と銅の重ね合わせ面内における銅端部辺方向、および、溶接部の長手方向ということもできる。)
Y方向:溶接直角方向(溶接方向に直角であり、かつ、後述する厚さ方向(Z方向)に直角な方向)
Z方向:接合体または被接合材の厚さ方向(ステンレス鋼と銅の重ね合わせ面を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-とする。また、ステンレス鋼と銅の重ね合わせ面に対し垂直な方向ということもできる。以下、単に、厚さ方向ともいう。)
ここで、図1は、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体の溶接部における溶接方向に垂直な断面(Y-Z平面)の光学顕微鏡写真の一例である。
図2は、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体の溶接部の外観写真の一例であり、厚さ方向銅側から接合体を撮影したものである。
図3は、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法において、被接合材の空間配置の一例を示す模式図である。
図4は、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法において、電極の空間配置の一例を示す模式図である。
(1)ステンレス鋼
母材となるステンレス鋼であり、その形状は板状(ステンレス鋼板)または管状(ステンレス鋼管)となる。なお、ここでいう板状には、平板に加え、曲面状の板(湾曲した板)も含まれる。ステンレス鋼の厚さ(板厚または管厚)については特に限定されないが、接合性の観点から、0.1mm以上とすることが好適である。また、ステンレス鋼の厚さは4.0mm以下とすることが好適である。ステンレス鋼の厚さは、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上である。また、ステンレス鋼の厚さは、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。
母材となるステンレス鋼の形状が板状の場合、板の大きさについては特に限定されない。例えば、溶接時の伝熱および放熱の観点から、溶接方向に対して直交する方向の長さは、10mm以上であることが好適である。より好ましくは、溶接方向に対して直交する方向の長さは30mm以上である。
母材となるステンレス鋼の形状が管状の場合、管の大きさ(外径および長さ)については特に限定されない。例えば、溶接時の伝熱および放熱の観点から、管の外径は、管厚(肉厚)の4倍以上であることが好適である。管の長さは、10mm以上であることが好適である。より好ましくは、管の長さは30mm以上である。
また、ステンレス鋼の成分組成は、特に限定されず、ステンレス鋼として一般的な成分であればよい。例えば、Crを10.5質量%以上、かつ、Feを50質量%以上含有する鉄基合金であればよい。一例としては、JIS G 4305:2021に規定されるオーステナイト系ステンレス鋼板、オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼板、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板、および、析出硬化系ステンレス鋼板、および、それらの加工品を用いることができる。また、JIS G 3447:2015、JIS G 3448:2016、JIS G 3459:2021、JIS G 3463:2019およびJIS G 3468:2021に規定される、ステンレス鋼サニタリー管、一般配管用ステンレス鋼管、配管用ステンレス鋼管およびボイラ・熱交換器用ステンレス鋼鋼管、ならびに、それらの加工品を用いることができる。なお、ステンレス鋼板には、No.2B仕上げ(焼鈍酸洗スキンパス仕上)、No.2D仕上(焼鈍酸洗仕上)、No.4仕上げ(研磨仕上げ)、No.8仕上げ(鏡面研磨仕上げ)、BA仕上げ(光輝焼鈍仕上げ)、HL(ヘアライン)仕上げ、ダル仕上げ、エンボス仕上げ、ブラスト仕上を始めとした、各種表面仕上げを有する鋼板を用いることができる。
(2)銅
母材となる銅であり、その形状は板状(銅板)または管状(銅管)となる。なお、ここでいう板状には、平板に加え、曲面状の板(湾曲した板)も含まれる。銅の厚さ(板厚または管厚)については特に限定されないが、接合性の観点から、0.1mm以上とすることが好適である。また、銅の厚さは4.0mm以下とすることが好適である。銅の厚さは、より好ましくは0.3mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上である。また、銅の厚さは、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。
母材となる銅の形状が板状の場合、板の大きさについては特に限定されない。例えば、溶接時の伝熱および放熱の観点から、溶接方向に対して直交する方向の長さは、10mm以上であることが好適である。より好ましくは、溶接方向に対して直交する方向の長さは30mm以上である。
母材となる銅の形状が管状の場合、管の大きさ(外径および長さ)については特に限定されない。例えば、溶接時の伝熱および放熱の観点から、管の外径は、管厚(肉厚)の4倍以上であることが好適である。管の長さは、10mm以上であることが好適である。より好ましくは、管の長さは30mm以上である。
なお、ここでいう銅には、Cuおよび不可避的不純物からなるいわゆる純銅だけでなく、Cuを50質量%以上含有する銅合金も含むものとする。一例としては、JIS H 3100:2018に規定される、無酸素銅、タフピッチ銅、りん脱酸銅をはじめとした各種の銅の板および条管、ならびに、それらの加工品を用いることができる。また、例えば、JIS H 3300:2018およびJIS H 3320:2006に規定される銅の継目無管および溶接管、ならびに、それらの加工品を用いることができる。なお、銅板には、HL(ヘアライン)仕上げ、梨地仕上げ、ブラスト仕上げ、槌目加工仕上げを始めとした、各種表面仕上げを有する銅板を用いることができる。
(3)溶接部
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体では、図1に示すように、溶接部により、母材となるステンレス鋼と銅とが接合される。また、溶接部は、ステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部に位置する。すなわち、上述したように、溶接部全体が、重ね合わせ部内に位置する。好適には、溶接部は、重ね合わせ部内に位置し、かつ、溶接直角方向において銅端部およびステンレス鋼端部から離間する。なお、ここでいう溶接部には、いわゆる熱影響部は含まれない。
溶接部は、例えば、以下のようにして画定する。すなわち、後述する要領で作成した図1のような断面試料に対して、倍率:100倍でSEMによる観察を行う。そして、反射電子像にて認められる、断面の形状、各組織のコントラスト差、界面のコントラスト、結晶粒サイズ、および、結晶粒の異方性(アスペクト比)より、溶接部と(母材となる)ステンレス鋼との界面、および、溶接部と(母材となる)銅との界面(以下、溶融境界ともいう)を決定し、溶接部を画定する。
例えば、(母材となる)銅やステンレス鋼は、断面の上下面が平行であり、かつ、結晶粒が等方的である。これに対して、溶接部は断面の上下面が平行ではなく、かつ、結晶粒が細長く異方性が高い。また、例えば、銅と溶接部の界面にはコントラストの変化部(以下、フュージョンラインともいう)が存在する。さらに、ステンレス鋼と溶接部の界面は周囲とコントラストが異なっていたり、または、上述したようなフュージョンラインが存在する場合が多い。また、図2に示すように、溶接部は、接合体の銅側表面において溶接方向に連なる複数の溶接点により構成される。なお、溶接点の数は特に限定されるものではないが、2点以上であればよく、好ましくは5点以上である。特には、溶接点の数を、溶接方向10mmあたりで8~16点とすることがより好ましい。また、溶接方向に連なるとは、図2に示すように、溶接部の表面において、各溶接点が、溶接方向に隣接する溶接点とその一部が互いに重なり合っていることを意味する。
また、溶接部を厚さ方向銅側から見た場合、溶接ビード全体が、溶接直角方向において、銅端部とステンレス鋼端部の間に位置する。すなわち、ここでいう溶接部は、重ねすみ肉溶接部と異なり、銅端部が溶融せずに残存している。
なお、上述した溶接部が被接合材の重ね合わせ部に位置するか否かは、例えば、以下のようにして判定する。まず、接合体のステンレス鋼側表面から接合体を観察し、ステンレス鋼端部を確認する。パイプなど、接合体の構造上、ステンレス鋼側表面からステンレス鋼端部を確認することが困難な場合には、接合体を切断して切断面を観察するなどの破壊検査、または、X線検査などの非破壊検査により、確認することができる。次いで、接合体の銅側表面から接合体を観察し、銅端部を確認する。また、ステンレス鋼端部を接合体の銅側表面に投影して転記する。そして、接合体の銅側表面から接合体を観察して確認される溶接部(溶接ビード)全体が、溶接直角方向において銅端部とステンレス鋼端部(上記の転記部分)の間に位置する場合に、当該溶接部が重ね合わせ部に位置する、と判定する。
そして、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体では、特に、溶接部のCu/Fe比、ならびに、溶接部を構成する溶接点のサイズおよび配置を適切に制御することが重要である。
溶接部のCu/Fe比:10.0以上
溶接部が重ね合わせ部に位置するいわゆる重ね溶接部は、突合せ溶接部や重ねすみ肉溶接部などの溶接部と比較して、拘束応力が大きくなりやすい。ここで、拘束応力とは、溶接後の冷却過程においてステンレス鋼の母材と銅の母材との熱収縮率差に起因して生じる接合部の内部応力を意味する。また、この拘束応力は、溶接部の割れを招く一因子である。このような重ね溶接部において、溶接部の割れを抑制するためには、溶接部のCu/Fe比を十分に高める必要がある。溶接部のCu/Fe比が高いことは、溶接中に、上述した第一液相の生成量が低減されていることを意味する。第一液相の生成量が低減されることにより、溶接部の割れの発生が有効に抑制される。
ここで、溶接部のCu/Fe比が10.0未満であると、ステンレス鋼成分を主とする第一液相の生成量が多く、溶接部の割れの発生を招く。そのため、溶接部のCu/Fe比は10.0以上とする。溶接部のCu/Fe比は、好ましくは20.0以上である。溶接部のCu/Fe比の上限は特に限定されるものではない。溶接部のCu/Fe比は、例えば、100.0以下が好ましい。
ここで、溶接部のCu/Fe比は、銅の厚さ1/2位置において測定する。例えば、溶接部のCu/Fe比は、以下のようにして算出する。まず、図1のような溶接部の厚さ方向の断面試料(溶接方向であるX方向に垂直な面(YZ平面)を断面とする試料)を、鏡面研磨仕上げとして作製する。次いで、当該断面試料を、ピクリン酸塩酸(100mLエタノール-1gピクリン酸-5mL塩酸)を用いてエッチングする。次いで、当該断面試料に対して、倍率:100倍でSEMによる観察を行った上で、SEM-EDS分析を行う。当該分析においては、断面の溶接部、すなわち、凝固組織部を対象に、EDSポイントスキャンを行う。分析対象元素は、FeおよびCuの2元素とする。そして、これら2元素の質量比率(質量%)より、次式(5)によりCu/Fe比を測定する。EDSのスキャンポイントは、銅の厚さ1/2位置(ステンレス鋼と銅の重ね合わせ面を基準位置(0)として、1/2tの位置)において無作為に選択した10ポイントとする。そして、各ポイントで計測されたCu/Fe比を平均し、1断面試料のCu/Fe比とする。この測定を、溶接部から無作為に採取して作製した5つの断面試料で行い、得られた各断面試料のCu/Fe比の平均値を、溶接部のCu/Fe比とする。
Cu/Fe比 = Cu/Fe ・・・(5)
ここで、式右辺中のCuおよびFeはそれぞれ、EDSポイントスキャンにより求めたCuおよびFeの質量比率(質量%)を意味する。
MF ≧ 0.8t ・・・(1)
図1に示すように、接合体の溶接方向に垂直な断面(Y-Z平面)では、銅と溶接部の溶融境界(フュージョンライン)に挟まれて、溶接部が配置される。そして、銅の裏面にあたるステンレス鋼と銅の重ね合わせ面における、溶接直角方向での溶接部と銅との溶融境界間の距離MF(mm)(以下、単に、溶融境界間の距離MF、または、MFともいう)について、銅の厚さt(mm)(以下、単にtともいう)に応じて上掲式(1)の関係を満足させることが不可欠である。
ここで、MFが0.8t未満であると、溶接時にステンレス鋼に伝わる入熱量が不十分となり、ステンレス鋼と銅との接合が不十分となる。その結果、十分な接合強度が得られない。そのため、MFは0.8t以上とする。MFは、好ましくは1.6t以上である。MFの上限は特に限定されるものではない。銅の歪み防止の観点から、MFは、例えば、6.0t以下が好ましい。また、MFは、0.3×L以下であることが好ましい。ここで、Lは、接合体においてステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部の幅(溶接直角方向の長さ)である。Lは、後述する被接合材においてステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部の幅と実質的に同じものとなる。
ここで、MFは、以下のように測定する。
上述の要領で作成した図1のような断面試料に対して、倍率:100倍でSEMによる観察を行う。次いで、上述の要領により、溶接部と銅との溶融境界を決定し、溶接部を画定する。そして、ステンレス鋼と銅の重ね合わせ面、すなわち、厚さ方向の基準位置(0)での溶接部の溶接直角方向の幅(厚さ方向の基準位置(0)での図1に示す2つの溶融境界間の距離)を測定し、1断面試料のMFとする。この測定を、対象とする接合体を溶接方向に8等分に切断して作製した各断面試料で行い、得られた各断面試料のMFの平均値を、MFとする。
0.10MF ≦ B ≦ 1.25MF ・・・(2)
接合体の銅側表面での溶接点の平均距離間隔B(mm)(以下、単に溶接点の平均距離間隔B、または、Bともいう)が0.10MF未満であると、同一箇所への入熱回数が多くなり、実質的に同一箇所への入熱量が過剰となる。これにより、ステンレス鋼の表面における酸化皮膜の形成が十分に抑制されず、十分な接合強度が得られない。また、ステンレス鋼成分を主とする第一液相の生成量が多くなり、溶接部の割れの発生を招く場合もある。
一方、Bが1.25MFを超えると、溶接部の表面上では溶接点が連続していたとしても、ステンレス鋼と銅の重ね合わせ面にあたる銅の裏面ではステンレス鋼と銅との接合が途切れ途切れとなる。そのため、十分な気密性が得られない。
従って、Bは、0.10MF以上1.25MF以下とする。Bは、好ましくは0.20MF以上である。Bは、好ましくは1.00MF以下である。
ここで、Bは、次式(6)により算出する。
B = A/n ・・・(6)
ここで、Aは、溶接部の溶接方向の長さである。nは、溶接点の数である。なお、Aは、例えば、ノギスなどを用いて測定すればよい。
形状によっては、Aを、例えば、(D+D)/2+(B+B+・・・B)として求めてもよい。ここで、DおよびDはそれぞれ、1番目およびn番目の溶接点の直径である。また、Bは、k番目の溶接点とその直前に形成されたk-1番目の溶接点との最短の中心間距離(mm)である。
また、例えば、ステンレス鋼管と銅管の接合体であり(ステンレス鋼と銅が管状である)、溶接点が1周している、つまり、最初に溶接された溶接点と最後に溶接された溶接点とが隣接する(重なり合う)場合、Aは、溶接部の溶接方向の全周の長さとなる。この場合、Aを、例えば、B+B+B+・・・Bとして求めてもよい。なお、Bは、1番目の溶接点とn番目の溶接点との最短の中心間距離(mm)である。
また、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体では、上記の構成により、溶接部の割れやステンレス鋼と銅の重ね合わせ面での接合不連続を防止することができるので、良好な気密性、好適には、0.2MPa以上の気密性が得られる。
ここで、気密性は、例えば、以下のようにして測定する。
・ステンレス鋼板と銅板の接合体である(ステンレス鋼と銅が板状である)場合
接合体の表面(溶接部が配置されている側の面)の溶接部の中央部より、溶接方向の長さが20mmとなるように、気密性評価用試験片を切り出す。次いで、当該試験片に含まれるステンレス鋼と銅の重ね合わせ部の溶接方向の端面に、配管補修パテ等(以下、パテともいう)を盛る。次いで、当該試験片の銅端部の溶接方向中央を中心に、半径10mm(直径20mm)の円(以下、基準円ともいう)を描き、その基準円上に、パテをドーナッツ状に盛る。次いで、外径20mm肉厚1mmの銅管の管端部(端面は銅管長手方向に垂直な平面内に形成)をドーナッツ状に盛ったパテに垂直に押し当てる。さらに、後述のように銅管に空気を送り込んでも銅管と接合体の隙間から空気が漏れないように、パテを追加で塗布して銅管と接合体の隙間を封止する。次いで、銅管の他方の端部にレギュレータとコンプレッサーを接続し、後述する管状の場合と同じ要領で、気密性を測定する。なお、接合体が小さく、その表面に上記のサイズの基準円を描けない場合には、接合体に補助板を取り付けるなどして、銅管の片方の管端部を封止すればよい。
・ステンレス鋼管と銅管の接合体である(ステンレス鋼と銅が管状である)場合
接合体の片方の管端部を、配管補修パテ等を用いて封止し、他方の端部にレギュレータとコンプレッサーを接続する。次いで、大気環境下において、接合体を水中に水深20cmに浸漬し、接合体内部へ空気を送り込んで接合体の内部を所定の圧力(例えば、0.2MPa)に設定する。なお、溶接部が平面を形成していないなどの理由で、溶接部の位置によって水深が異なるものとなる場合には、溶接部全体が水中に浸漬され、かつ、その最深点が水深20cmとなるようにすればよい。接合体内部が所定の圧力に到達した後、10分間経過するまでに、接合体からの気泡の発生がなければ、接合体の気密性は所定の圧力以上であるものとする。
加えて、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体では、接合強度が、好適には母材となるステンレス鋼と銅の強度(引張強さ)のうち、低い方の強度の60%以上であり、より好適には80%以上である。
特に、溶接部のCu/Fe比を20.0以上とし、かつ、MFを1.6t以上とすることによって、より高い接合強度、具体的には、母材となるステンレス鋼と銅の強度のうち、低い方の強度の80%以上となる接合強度を得ることができる。この理由について、発明者らは次のように考えている。すなわち、溶接部のCu/Fe比を20.0以上とすることによって、より有効に、ステンレス鋼の表面における酸化皮膜の形成が抑制され、かつ、ステンレス鋼成分を主とする第一液相の生成量を低減できる。また、MFを1.6t以上とすることによって、銅とステンレス鋼の接合界面の面積が増大する。その結果、より高い接合強度が得られる。
ここで、接合強度は、JIS Z 2241:2011に従って測定する。ただし、引張試験片は、試験片の平行部に接合部(溶接部)があり、試験片の長手方向(引張方向)が溶接直角方向となるように、接合体から採取する。引張試験により得られた最大試験力を試験片の平行部幅で除し、単位幅(溶接部の長手方向の単位長さ)あたりの最大試験力を算出する。そして、算出した単位幅あたりの最大試験力を、接合強度とする。なお、接合体から採取した引張試験片の掴み部(ステンレス鋼の掴み部、および、銅の掴み部)には、ステンレス鋼および銅と引張軸が平行となるよう、引張試験前にスペーサーを取り付ける。また、ステンレス鋼と銅の重ね合わせ部分は掴み部にはしない。
また、母材となるステンレス鋼と銅の強度は、例えば、以下のようにして測定する。接合体の接合部近傍のステンレス鋼および銅の母材部からそれぞれ、試験片の長手方向が上述の接合強度の測定で用いた試験片の長手方向(溶接直角方向)と一致するように、引張試験片を採取する。そして、接合強度の測定と同様の要領で引張試験を行い、当該引張試験により得られた最大試験力を試験片の平行部幅で除し、単位幅あたりの最大試験力を算出する。そして、算出した単位幅あたりのそれぞれの最大試験力を、ステンレス鋼と銅それぞれの強度とする。
なお、上記の試験片形状はいずれも、平行部の幅が1mm以上かつ平行部の長さが5mm以上の範囲内であれば、接合体の形状に応じて任意に決定すればよい。
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅との接合体は、各素材の一部が重なり合って上記の溶接部を有する限り、板状(平板に加え、曲面状の板(湾曲した板)も含む)または管状のいずれであってもよい。管状である場合には、ステンレス鋼管と銅管との接合体である。例えば、ステンレス鋼管の外径と銅管の内径が概ね等しい組合せ、ステンレス鋼管の外径と概ね等しくなるように端部に拡管加工が施された銅管とステンレス鋼管の組合せ、および、銅管の内径と概ね等しくなるように端部に縮管加工が施されたステンレス鋼管と銅管の組合せ等において、ステンレス鋼管の一部が銅管に挿入されて接合された形態があり得る。また、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅との接合体には、複数の接合部を有し、そのうちの少なくとも1つが上記の溶接部である接合体を含むものとする。
max/Dmin≦1.4
接合体の銅側表面での溶接点の最小直径Dmin(mm)に対する最大直径Dmax(mm)の比であるDmax/Dmin(以下、ビード幅変化率ともいう)が1.4以下であれば、ビード幅の変化が少ない優れた外観が得られる。そのため、Dmax/Dminは1.4以下が好ましい。Dmax/Dminは、より好ましくは1.2以下である。Dmax/Dminの下限は特に限定されない。例えば、Dmax/Dminは1.0以上であればよい。
なお、DminおよびDmaxはそれぞれ、溶接点の直径D(k=1~n)のうちの最小値と最大値である。
ここで、溶接点の直径Dは、例えば、以下のように算出する。図2に示すように、接合体の銅側表面において、接合体の溶接部の溶接点を、観察面に垂直な方向、換言すれば、厚さ方向銅側から10倍のルーペを用いて観察する。そして、溶接直角方向における各溶接点の最大長さLを測定する。そして、このLをそれぞれの溶接点の直径Dとする。なお、各溶接点の最大長さの測定には、ノギスを用いればよい。なお、図2に示すように、溶接点の輪郭は、以降に形成された溶接点によって、その一部が消失していることから、上記の測定方法とした。なお、kは、各溶接点(各入熱回)を示す数字で1~nまでの整数である。nは、溶接点の数(入熱回数)である。
[2]ステンレス鋼と銅の接合方法
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法は、
ステンレス鋼と銅とを重ね合わせた被接合材を溶接して接合する、ステンレス鋼と銅の接合方法であって、
前記溶接をTIG溶接により行い、
前記TIG溶接では、
電極を、前記被接合材の銅側に配置し、かつ、以下の(a)~(e)を満足する条件で複数回の入熱を行い、
(a)電極の傾斜角度α:0°~45°
ここで、被接合材の厚さ方向を基準角度(0°)とし、電極の先端が向く方向と被接合材の厚さ方向とのなす角を電極の傾斜角度とする。
(b)電極高さ:0mm超3.0mm以下
(c)溶接直角方向における各入熱位置:0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下
ここで、Iは溶接電流(A)、dは溶接時間(s)、tは銅の厚さ(mm)、Lはステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部の幅である。また、溶接直角方向における各入熱位置は、重ね合わせ部における銅端部を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-とする。
(d)各入熱点の溶接方向の距離間隔(mm):0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上Dk―1×(1-0.2×t)以下
ここで、Dk―1は、被接合材の銅側表面における、直前の入熱により形成された溶接点の直径(mm)である。tは、銅の厚さ(mm)である。
(e)各入熱の時間間隔:直前の入熱における溶接時間(s)の100%以上
さらに、各入熱において、上掲式(4)の関係を満足する。
以下、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法を、図3の被接合材の空間配置の一例を示す模式図および図4の電極の空間配置の一例を示す模式図を用いつつ、説明する。
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法では、図3のようなステンレス鋼と銅とを重ね合わせた被接合材を、溶接して接合する。例えば、板状の場合には、銅板をステンレス鋼板の鉛直方向上側に配置して重ね合わせることが好ましい。管状の場合には、ステンレス鋼管を内側、銅管を外側として、重ね合わせる(例えば、ステンレス鋼管の一部を銅管の内部に挿入する)ことが好ましい。特に限定されるものではないが、ステンレス鋼と銅の重ね合わせ部の幅(溶接直角方向の幅)は、5~20mmとすることが好ましい。特に限定されるものではないが、ステンレス鋼と銅の重ね合わせ部の隙間厚みは、銅の厚みの1/2以下とすることが好ましい。なお、ステンレス鋼および銅の好適な厚さや形状、成分組成などは[1]で述べたとおりである。
溶接方式:TIG溶接
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法では、ステンレス鋼の溶融を抑制して銅のみを積極的に溶融させるため、入熱の条件を精緻に制御する必要がある。そのため、重ね溶接で採用する溶接方式は、TIG溶接とする。
電極配置:被接合材の銅側
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法では、TIG溶接による各入熱において、銅を溶融してステンレス鋼上で凝固させることにより、ステンレス鋼と銅を接合する。そのためには、銅に対し優先的に入熱を行えるよう、図4に示すように、入熱点は被接合材の重ね合わせ部の銅側の面に設定する。すなわち、電極を被接合材の銅側に配置する。
また、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法では、溶接に伴う入熱を、局所的かつ短時間の複数回の入熱に分割し、以下の(a)~(e)の条件を満足させることが重要である。なお、入熱回数は特に限定されるものではないが、2回以上であればよく、好ましくは5回以上である。特には、入熱回数を、溶接方向10mmあたりで8~16回とすることがより好ましい。
(a)電極の傾斜角度α:0°~45°
電極の傾斜角度α(以下、電極傾斜角度αともいう)は、良好な溶接部を形成する観点から重要である。ここで、電極傾斜角度αは、図4に示すように、電極先端と入熱点を結ぶ直線の厚さ方向(被接合材の重ね合わせ面の垂直方向)からの傾斜角度である。また、電極傾斜角度αは、厚さ方向を基準角度(0°)とする。なお、電極の傾斜方向は特に限定されない。
上述したように、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法では、局所的に銅の全厚を溶融させ、ステンレス鋼上で凝固させる。ここで、電極傾斜角度αが45°超になると、入熱領域が広くなり、入熱部周辺の温度が過度に上昇する。これにより、熱膨張および熱収縮による接合部周辺の歪みが発生して、接合部の形状や以降の接合に不具合が生じる。そのため、電極傾斜角度αは、45°以下とする。電極傾斜角度αは、好ましくは25°以下である。電極の傾斜角度αの下限は、0°である。すなわち、電極先端と入熱点を結ぶ直線が、厚さ方向に平行となる。
(b)電極高さ:0mm超3.0mm以下
電極高さ(つまり、厚さ方向における電極先端と被接合材との距離)が0mmであると、アークが発生せず溶接ができない。また、電極高さが3.0mmを超えると、入熱領域が広くなり、入熱が分散する。これにより、銅の溶融量が不足し、接合が不十分となる。そのため、電極高さは0mm超3.0mm以下とする。また、電極高さが0.5mm未満であると、接合時に電極先端と溶融した銅が接触し、これが凝固して電極に固着する場合がある。この場合、電極を凝固した銅から引き剥がす作業が必要となり、製造効率が低下する。そのため、電極高さは0.5mm以上とすることが好ましい。また、電極高さが2.0mmを超えると、銅と電極先端との距離を把握し難くなり、電極高さの制御が難しくなる。そのため、電極高さは2.0mm以下が好ましい。
(c)溶接直角方向における各入熱点の位置:0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下
被接合材の重ね合わせ部の銅端部の極近傍で入熱を行うと、銅端部が溶融して所望の気密性および接合強度が得られない。一方、重ね合わせ部のステンレス鋼端部の極近傍で入熱を行うと、銅溶融部直下の一部にステンレス鋼が存在しなくなって所望の接合強度が得られない。そのため、溶接直角方向における各入熱点の位置は、0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下の範囲とする。
ここで、tは銅の厚さ(mm)、Iは溶接電流(A)、dは溶接時間(s)、Lは被接合材においてステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部の幅(各入熱点における、溶接直角方向のステンレス鋼と銅の重ね合わせ面の長さ)である。また、溶接直角方向における各入熱位置は、重ね合わせ部における銅端部を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-とする。
また、Lは、特に限定されるものではないが、例えば、5~30mmが好適である。
(d)各入熱点の溶接方向の距離間隔(mm):0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上Dk―1×(1-0.2×t)以下
上述したように、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法では、溶接に伴う入熱を、局所的かつ短時間の複数回の入熱に分割することが重要である。特に、各入熱点の溶接方向の距離間隔(以下、入熱点間隔ともいう)を、直前の入熱により形成された溶接点の直径Dk-1(以下、溶接点直径Dk-1もいう)および銅の厚さt(mm)との関係で、0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上Dk―1×(1-0.2×t)以下とする。
ここで、入熱点間隔が0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}に満たないと、同一箇所への入熱回数が多くなり、実質的に同一箇所への入熱量が過剰となる。これにより、ステンレス鋼の表面における酸化皮膜の形成が十分に抑制されず、十分な接合強度が得られない。また、ステンレス鋼成分を主とする第一液相の生成量が多くなり、溶接部の割れの発生を招く。一方、入熱点間隔がDk―1×(1-0.2×t)を超えると、ステンレス鋼と銅の重ね合わせ面に当たる裏面ではステンレス鋼と銅との接合が途切れ途切れとなって、十分な気密性が得られない。そのため、入熱点間隔は0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上Dk―1×(1-0.2×t)以下とする。入熱点間隔は、好ましくは0.2×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上である。入熱点間隔は、好ましくは0.8×{Dk―1×(1-0.2×t)}以下である。
ここで、入熱点間隔は、隣接する入熱点の中心間距離とする。また、各溶接点の直径は、上述した要領により、算出すればよい。
(e)各入熱の時間間隔(s):直前の入熱における溶接時間(s)の100%以上
上述したように、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法では、溶接に伴う入熱を、局所的かつ短時間の複数回の入熱に分割することが重要である。特に、各入熱の時間間隔(以下、入熱時間間隔ともいう)を、直前の入熱における溶接時間(以下、入熱時間ともいう)の100%以上とする。ここで、入熱時間間隔が過度に短くなる、具体的には、入熱時間間隔が入熱時間の100%未満になると、入熱部周辺への伝熱量が、入熱部周辺からの抜熱量を超え、入熱部周辺の温度が上昇する。これにより、ステンレス鋼の表面における酸化皮膜の形成が十分に抑制されず、十分な接合強度が得られない。また、ステンレス鋼成分を主とする第一液相の生成量が多くなり、溶接部の割れの発生を招く。さらに、熱膨張および熱収縮による接合部周辺の歪みが発生して、接合部の形状や以降の接合に不具合が生じる場合もある。そのため、入熱時間間隔は入熱時間の100%以上とする。入熱時間間隔は、好ましくは入熱時間の250%以上である。また、入熱時間間隔の上限は特に限定されるものではない。入熱時間間隔は、製造効率の観点から、入熱時間の20000%以下とすることが好ましい。
各入熱における溶接電流I(A)と溶接時間d(s)と銅の厚さt(mm)の関係:
1.5/(1-0.2×t)÷0.03 ≦ I×d0.5 ≦ t1.5/(1-0.2×t)÷0.03×6 ・・・(4)
I×d0.5が上掲式(4)の左辺値未満であると、銅の溶融量が不足してMFが0.8t未満となり、ステンレス鋼と銅の接合が不十分となる。一方、I×d0.5の値が上掲式(4)の右辺値を超えると、溶接部のCu/Fe比が10.0未満となる。すなわち、ステンレス鋼が、溶接金属に多く溶け込む。これにより、ステンレス鋼成分を主とする第一液相の生成量が多くなり、溶接部の割れの発生を招く。また、ステンレス鋼の表面における酸化皮膜の形成が十分に抑制されず、十分な接合強度が得られない。そのため、各入熱における溶接電流I(A)と溶接時間d(s)と銅の厚さt(mm)について、上掲式(4)の関係を満足させる。I×d0.5は、好ましくはt1.5/(1-0.2×t)÷0.03×2以上である。また、I×d0.5は、好ましくはt1.5/(1-0.2×t)÷0.03×5以下である。特に、より高い接合強度を得るべく、溶接部のCu/Fe比を20.0以上とし、かつ、MFを1.6t以上とするには、I×d0.5の値をt1.5/(1-0.2×t)÷0.03×2~t1.5/(1-0.2×t)÷0.03×5の範囲とすることが好ましい。
なお、dが0.05s未満であると、アークが安定しない場合がある。また、dが2.00sを超えると、入熱部周辺に熱が伝達して周辺の温度が上昇しやすくなる。これにより、熱膨張および熱収縮による接合部周辺の歪みが発生して、接合部の形状や以降の接合に不具合が生じる場合がある。そのため、dは0.05s以上2.00s以下とすることが好ましい。
Iは、tおよび上述したdから、上掲式(4)を満たすように選択する。例えば、Iは、上掲式(4)を満たすように、50A以上500A以下の範囲から選択すればよい。なお、溶接部の歪み防止の観点から、dおよびIに設定可能な値に幅がある場合には、dは可能な限り低く、Iは可能な限り高く、設定することが好ましい。
なお、各入熱において、パルスモード、アップスロープ、ダウンスロープ、および、クレーター処理を用いる場合には、アップスロープ時間、溶接時間、ダウンスロープ時間、およびクレーター処理時間を合わせた時間をdに代入し、その時間内における溶接電流の時間平均値をIに代入して、I×d0.5の値を算出する。
また、各入熱の開始は、タッチスタート方式としても、高周波スタート方式としてもよい。入熱開始時にはホットアークを用いてもよい。ただし、これらの入熱開始時にかかる電流や時間は、各入熱における溶接電流I(A)と溶接時間d(s)には含めない。
TIG溶接に係る上記以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。例えば、シールドガスおよびバックシールドガスについては、一般的な不活性ガスを用いることが可能であり、100%Arが好ましい。
また、シールドガス流量が1L/min未満であると、アークが不安定になりやすい。一方、シールドガス流量が30L/minを超えると、シールドガスが被接合材上で乱流を形成する。この乱流が、大気を巻き込むことにより、入熱部周辺の不活性ガス雰囲気が乱れ、溶接部に欠陥が生成しやすくなる。そのため、シールドガス流量は、1~30L/minが好ましい。シールドガス流量は、より好ましくは25L/min以下である。
また、バックシールドガス流量が1L/min未満であると、入熱箇所裏面のステンレス鋼表面上に酸化皮膜が生成してステンレス鋼の耐食性が低下しやすくなる。一方、バックシールドガス流量が30L/minを超えると、バックシールドガスが被接合材上で乱流を形成する。この乱流が大気を巻き込むことにより、入熱箇所裏面のステンレス鋼表面上に酸化皮膜が生成してステンレス鋼の耐食性が低下しやすくなる。そのため、バックシールドガス流量は、1~30L/minが好ましい。バックシールドガス流量は、より好ましくは25L/min以下である。
プリフロー時間を0.05秒以上とすると、入熱部周辺に十分な不活性ガス雰囲気が形成された状態で入熱が開始される。これにより、アークが安定しやすくなる。そのため、プリフロー時間は0.05秒以上とすることが好ましい。プリフロー時間は、より好ましくは、0.15秒以上である。プリフロー時間の上限は特に限定されるものではない。プリフロー時間は、例えば、10秒以下が好ましい。
アフターフロー時間を0.10秒以上とすると、溶接部直上の酸化皮膜の生成を抑制し、溶接線の外観を良好とできる。そのため、アフターフロー時間は0.10秒以上とすることが好ましい。アフターフロー時間は、より好ましくは、2.0秒以上である。アフターフロー時間の上限は特に限定されるものではない。アフターフロー時間は、例えば、10秒以下が好ましい。
また、複数回の入熱が繰り返されることにより、被接合材である銅の温度が過度に高まる。これにより、銅の溶融が促進されやすくなって、溶接の進行に伴いビード幅、すなわち、被接合材の銅側表面における溶接点の溶接直角方向の最大長さが、徐々に広がる場合がある。この場合には、例えば、冷やし金や冷却チューブを用いて、被接合材である銅およびステンレス鋼を冷却することが好ましい。これにより、ビード幅の広がりが抑制され、ビード幅安定性に優れた溶接部を得ることができる。ここで、「ビード幅安定性に優れた」とは、Dmax/Dminで表されるビード幅変化率が1.4以下、特には1.2以下であることを意味する。
また、被接合材である銅およびステンレス鋼を冷却する以外にも、例えば、以下の(f)~(h)のうちの少なくとも1つを行うことにより、ビード幅安定性に優れた溶接部が好適に得られる。
(f)各入熱において、入熱の溶接電流を、直前の入熱の溶接電流以下とする。
(g)各入熱において、入熱の溶接時間を、直前の入熱の溶接時間以下とする。
(h)一部の入熱間において、長時間の入熱の時間間隔を設ける。
ただし、各入熱の溶接電流、溶接時間、および、入熱間の時間間隔が一定となる場合を除く。
(f)各入熱において、入熱の溶接電流を、直前の入熱の溶接電流以下とする。
溶接の進行に伴い、各入熱の溶接電流を維持または減少させる。すなわち、各入熱において、入熱の溶接電流を、直前の入熱の溶接電流以下とすることが好適である。ただし、全ての入熱において、溶接電流が同じとなる場合は除く。換言すれば、全ての入熱において、入熱の溶接電流を直前の入熱の溶接電流以下とし、全ての入熱のうち少なくとも1回、入熱の溶接電流を、直前の入熱の溶接電流未満とすることが好適である。これにより、銅の高温化に応じて、入熱量を減少させる。すなわち、銅の過度の溶融を抑制する。その結果、ビード幅の広がりが抑制され、ビード幅安定性に優れた溶接部が得られる。
(g)各入熱において、入熱の溶接時間を、直前の入熱の溶接時間以下とする。
溶接の進行に伴い、各入熱の溶接時間を維持または減少させる。すなわち、各入熱において、入熱の溶接時間を、直前の入熱の溶接時間以下とすることが好適である。ただし、全ての入熱において、溶接時間が同じとなる場合は除く。換言すれば、全ての入熱において、入熱の溶接時間を直前の入熱の溶接時間以下とし、全ての入熱のうち少なくとも1回、入熱の溶接時間を、直前の入熱の溶接時間未満とすることが好適である。これにより、銅の高温化に応じて、入熱量を減少させる。すなわち、銅の過度の溶融を抑制する。その結果、ビード幅の広がりが抑制され、ビード幅安定性に優れた溶接部が得られる。
(h)一部の入熱間において、長時間の入熱の時間間隔を設ける。
一部の入熱間において、長時間の入熱の時間間隔を設ける。例えば、所定回数の入熱を行う毎に、長時間の入熱の時間間隔を設けることにより、被接合材の過度の高温化を抑止することが好適である。より具体的には、「1秒間隔で3回の入熱を行い、3回目の入熱後には5秒の時間(長時間の入熱の時間間隔)を取る」というようなパターンを繰り返すものが例示できる。これにより、被接合材の過度の高温化を抑止し、特に、銅の過度の溶融を抑制する。その結果、ビード幅の広がりが抑制され、ビード幅安定性に優れた溶接部が得られる。
ここで、長時間の入熱の時間間隔は、通常の入熱の時間間隔よりも長い入熱の時間間隔を意味する。また、長時間の入熱の時間間隔は、好適には3.00~6.00sである。なお、通常の入熱の時間間隔は、0.8~2.0sを例示できる。また、長時間の入熱の時間間隔を設ける頻度は、好適には2~4回の入熱の時間間隔ごとに1回である。長時間の入熱の時間間隔を設ける頻度は、一定であっても、一定でなくてもよい。
溶接ノズルからの溶接電極の突き出し長さ(以下、突き出し長さともいう)は、-1mm以上10mm以下が好ましい。特に、手溶接を行い、溶接ノズルの一部を被接合材の銅表面上にあてて溶接トーチの位置や角度を制御しやすくする場合には、突き出し長さは-1mm以上3mm未満が好ましい。また、上記のような制御を行わず一般的な形態で手溶接を行う場合、または、自動溶接を行う場合には、溶接トーチを操作しやすくするため、または、電極先端を容易に視認可能として電極高さを設定しやすくするため、突き出し長さは3mm以上が好ましい。また、不活性ガス雰囲気を適切に形成するため、突き出し長さは10mm以下が好ましい。
また、溶接電極の先端角度は、電極先端が溶融池に固着した場合の外しやすさの観点から45°以下が好ましい。一方、溶接電極の先端角度は、電極の研磨頻度を低減して製造効率を高める観点から15°以上が好ましい。溶接電極の電極径は、入熱位置の狙いの定めやすさの観点から2.4mm以下が好ましい。一方、溶接電極の電極径は、スポット溶接径確保の観点から1.2mm以上が好ましい。溶接電極の種類は任意に選択可能である。例えば、トリタン、セリタン、ランタン、および、純タンなど汎用の電極から選択して用いればよい。
なお、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法は、例えば、アークスポットタイムを精緻に制御可能なTIG溶接機のアークスポットモードを用いることで、実施可能である。また、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法は、パルス幅およびパルス周波数を幅広く精緻に調整可能なTIG溶接機において、パルス幅を調整した上で低速パルス溶接モードを用いることでも、実施可能である。また、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法は、下向き姿勢、立向き姿勢、横向き姿勢、および、上向き姿勢の各姿勢において実施可能である。そのため、管の周溶接においては、管を回転させることなく溶接を行うことも可能である。
[3]ステンレス鋼と銅の接合体の製造方法
次に、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体の製造方法を、説明する。
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体の製造方法は、
上記の本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合方法により、ステンレス鋼と銅とを接合する工程をそなえる。
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体の製造方法により、本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体を製造することができる。
(実施例1)
表1に記載の厚さを有するステンレス鋼板(JIS G 4305:2021に規定されるSUS443J1)および表1に記載の厚さを有するりん脱酸銅板(JIS H 3100:2018に規定されるC1220)(以下、単に「銅板」と称する)を120mm角に切り出した。次いで、表1に記載の重ね合わせ幅Lで溶接方向の端部をそろえてステンレス鋼板上に銅板を設置し、被接合材とした。次いで、被接合材のステンレス鋼と銅との重ね合わせ部の銅側に電極を配置して表1に記載の条件でTIG溶接による溶接を行い、ステンレス鋼板と銅板の接合体を得た。なお、(株)ダイヘン製のTIG溶接機であるDA-300Pを用いて溶接を行った。シールドガスおよびバックシールドガスには100%Arを使用し、シールドガス流量およびバックシールドガス流量をそれぞれ25L/minとした。プリフローは0.5s、アフターフローは3.0sとした。上記以外の条件は、常法に従った。また、試験No.1-1~1-5および1-9~1-17では、被接合材の過度の高温化を抑止するため、被接合材を冷やし金により冷却しながら溶接を実施した。一方、試験No.1-6~1-8および1-18では、冷やし金や冷却チューブを用いた被接合材の冷却は行わなかった。なお、表1ならびに後述する表2、表3、表4および表5中の数値は、適宜、四捨五入により、丸めた数値を表示している。また、表1および表2に記載の「入熱点位置の適正範囲」は、「溶接直角方向における各入熱点の位置」の適正範囲を示しており、重ね合わせ部における銅端部を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-として示している。
なお、各試験No.1-1~1-16では、複数回の入熱をいずれも同じ条件で行った。また、試験No.1-17および1-18は、溶接電流180Aおよび140Aの条件で、アーク長を1.5mmとして、75mm/minの溶接速度にて、TIG溶接を連続的に行った(複数回の入熱に分けずに行った)ものである。
かくして得られたステンレス鋼板と銅板の接合体を用いて、上記の要領で、
(I)溶接部の位置(重ね合わせ部に位置するか否か)、
(II)溶接部のCu/Fe比、
(III)溶融境界間の距離MF、
(IV)各溶接点の直径
(V)溶接点の平均距離間隔B
を測定した。結果を表1に併記する。なお、(I)溶接部の位置の欄の「重ね合わせ部」は、溶接直角方向において、溶接部全体が重ね合わせ部に位置することを意味する。また、「重ね合わせ部外」は、溶接直角方向において、溶接部の少なくとも1部が、重ね合わせ部外に位置することを意味する。加えて、(IV)各溶接点の直径については、最小直径Dminおよび最大直径Dmaxのみを代表して記載している。
なお、(II)溶接部のCu/Fe比、および、(III)溶融境界間の距離MFの測定では、日立ハイテク(株)製の走査型電子顕微鏡(SEM)であるMiniscope(登録商標)TM3030plus、および、オックスフォード・インストゥルメンツ製のエネルギー分散型X線分光装置(EDS)であるAZtecOneを用いた。
また、上記の要領で、(VI)気密性、および、(VII)接合強度を測定し、以下の基準により評価した。結果を表1に併記する。
(ヘ)気密性
合格:0.2MPa以上
不合格:0.2MPa未満
(ト)接合強度
合格(特に優れる、表中では「優」と表記している):接合強度が、ステンレス鋼と銅の強度のうち、低い方の強度の80%以上
合格:接合強度が、ステンレス鋼と銅の強度のうち、低い方の強度の60%以上80%未満
不合格:接合強度が、ステンレス鋼と銅の強度のうち、低い方の強度の60%未満
なお、(VI)気密性の評価においては、パテとしてRectorseal Corporation製のレクターシール(登録商標)を用いた。
Figure 0007456559000001
Figure 0007456559000002
表1に示したように、発明例ではいずれも、所望の気密性および接合強度が得られていた。すなわち、溶接部の割れや接合不連続が生じることなく、十分な接合強度を有するステンレス鋼と銅の接合体が得られた。特に、試験No.1-1~1-3および1-6~1-8では、特に優れた接合強度が得られた。なお、上述したように、上記の発明例はいずれも、複数回の入熱をいずれも同じ条件で行ったものである。また、別途、複数回の入熱をそれぞれ異なる条件で行った。具体的には、これらの発明例の試験条件をベースとして、入熱ごとに入熱条件を変化させた。この場合にも、上記(a)~(e)および(4)式に係る条件を満足していれば、所望とする溶接部のCu/Fe比、溶融境界間の距離MFおよび溶接点の平均距離間隔Bが得られるとともに、所望の気密性および接合強度が得られることを確認した。
一方、比較例ではいずれも、気密性および接合強度の少なくとも一方が不十分であった。
すなわち、試験No.1-9の比較例では、入熱点位置が適正範囲未満であったために、銅端部に近すぎる位置で入熱を行うこととなり、溶接部の少なくとも1部が、重ね合わせ部外に位置することになった。また、溶接部にステンレス鋼が多く溶け込んで溶接部に割れが生じ、所望の気密性が得られなかった。また、接合強度も不十分であった。
試験No.1-10の比較例では、入熱点位置が適正範囲を超えていたために、ステンレス鋼端部に近すぎる位置で入熱を行うこととなり、溶接部の少なくとも1部が、重ね合わせ部外に位置することになった。また、銅の溶融部直下の一部にステンレス鋼が存在せず、所望の接合強度が得られなかった。
試験No.1-11の比較例では、式(4)の下限値未満であったために、溶融境界間の距離MFが式(1)の下限値未満となって、所望の接合強度が得られなかった。
試験No.1-12の比較例では、式(4)の上限値を超えたために、入熱量が過剰となり、溶接部のCu/Fe比が適正範囲に満たなかった。その結果、溶接部に割れが生じ、所望の気密性が得られなかった。また、接合強度も不十分であった。
試験No.1-13の比較例では、入熱距離間隔が過大で、溶接点の平均距離間隔Bが適正範囲を超えたために、ステンレス鋼と銅との接合が不連続となり、所望の気密性が得られなかった。
試験No.1-14の比較例では、入熱距離間隔が過少で、溶接点の平均距離間隔Bが適正範囲に満たなかったために、入熱量が過大となった。その結果、溶接部のCu/Fe比が適正範囲に満たず、溶接部に割れが生じ、所望の気密性が得られなかった。また、接合強度も不十分であった。
試験No.1-15の比較例では、電極高さが適正範囲を超えたために、銅の溶融が不足し、溶融境界間の距離MFが式(1)の下限値未満となって所望の接合強度が得られなかった。
試験No.1-16の比較例では、入熱時間間隔が適正範囲に満たなかったために、溶接部のCu/Fe比が適正範囲に満たず、溶接部に割れが生じ、所望の気密性が得られなかった。また、接合強度も不十分であった。
試験No.1-17および1-18の比較例では、TIG溶接を一般的な条件で連続的に行った(複数回の入熱に分けずに行った)ために、ステンレスが過剰に溶融した。その結果、溶接部のCu/Fe比が適正範囲に満たず、溶接部に割れが生じ、所望の気密性が得られなかった。また、接合強度も不十分であった。
(実施例2)
表2に記載の外径および厚さ(肉厚)を有するステンレス鋼管(JIS G 4305:2021に規定される、SUS304、SUS316L、SUS443J1、SUS445J1、SUS430J1L、および、SUS444の各ステンレス鋼板から製造した溶接管)、および、表2に記載の外径および厚さ(肉厚)を有する銅管(JIS H 3300:2018に規定されるりん脱酸銅管(C1220T))を300mm長さに切り出した。次いで、表2に記載の重ね合わせ幅Lとなるように、銅管内にステンレス管を挿入し、被接合材とした。次いで、被接合材のステンレス鋼と銅との重ね合わせ部の銅側に電極を配置して表2に記載の条件でTIG溶接による溶接を行い、ステンレス鋼管と銅管の接合体を得た。なお、溶接部が全周にわたり形成されるように、重ね合わせ部の全周(1周)に溶接点を形成した。また、ハイガー産業(株)製のTIG溶接機であるYS-TIG200PACDCを用いて溶接を行った。シールドガスおよびバックシールドガスには100%Arを使用し、シールドガス流量およびバックシールドガス流量をそれぞれ25L/minとした。プリフローは0.5s、アフターフローは3.0sとした。上記以外の条件は、常法に従った。また、試験No.2-1~2-6および2-8~2-10では、被接合材の過度の高温化を抑止するため、被接合材にチラーへ接続した冷却チューブを巻き付けて、被接合材を冷却しながら溶接を実施した。一方、試験No.2-7では、冷やし金や冷却チューブを用いた被接合材の冷却は行わなかった。
かくして得られたステンレス鋼板と銅板の接合体を用いて、上記の要領で、
(I)溶接部の位置(重ね合わせ部に位置するか否か)、
(II)溶接部のCu/Fe比、
(III)溶融境界間の距離MF、
(IV)各溶接点の直径
(V)溶接点の平均距離間隔B
を測定した。結果を表2に併記する。
また、上記の要領で、(VI)気密性、および、(VII)接合強度を測定し、実施例1と同じ基準により評価した。結果を表2に併記する。
なお、上記および表2に記載した以外の条件は、実施例1と同様である。
Figure 0007456559000003
Figure 0007456559000004
表2に示したように、発明例ではいずれも、所望の気密性および接合強度が得られていた。すなわち、溶接部の割れや接合不連続が生じることなく、十分な接合強度を有するステンレス鋼と銅の接合体が得られた。また、いずれの発明例でも、特に優れた接合強度が得られた。なお、上記の発明例はいずれも、複数回の入熱をいずれも同じ条件で行ったものである。また、別途、複数回の入熱をそれぞれ異なる条件で行った。具体的には、上記の発明例の試験条件をベースとして、入熱ごとに入熱条件を変化させた。この場合にも、上記(a)~(e)および(4)式に係る条件を満足していれば、所望とする溶接部のCu/Fe比、溶融境界間の距離MFおよび溶接点の平均距離間隔Bが得られるとともに、所望の気密性および接合強度が得られることを確認した。
一方、比較例ではいずれも、気密性および接合強度の少なくとも一方が不十分であった。
すなわち、試験No.2-8の比較例は、式(4)の下限値未満であったために、溶融境界間の距離MFが式(1)の下限値未満となって、所望の接合強度が得られなかった。
試験No.2-9の比較例は、式(4)の上限値を超えたために、入熱量が過剰となり、溶接部のCu/Fe比が適正範囲に満たなかった。その結果、溶接部に割れが生じ、所望の気密性が得られなかった。また、接合強度も不十分であった。
試験No.2-10の比較例は、入熱距離間隔が過大で、溶接点の平均距離間隔Bが適正範囲を超えたために、ステンレス鋼と銅との接合が不連続となり、所望の気密性が得られなかった。
(実施例3)
長さ:40mm、幅:50mm、厚さ:1.5mmのステンレス鋼板(JIS G 4305:2021に規定されるSUS443J1)および長さ:40mm、幅:40mm、厚さ:0.5mmのりん脱酸銅板(JIS H 3100:2018に規定されるC1220)(以下、単に「銅板」と称する)を切り出した。次いで、幅:20mmの領域が重なり合うよう、すなわち、重ね合わせ幅L=20mmとなるように、ステンレス鋼板上に銅板を設置し、被接合材とした。次いで、被接合材のステンレス鋼と銅との重ね合わせ部の銅側に電極を配置して表3および4に記載の条件でTIG溶接による溶接を行い、ステンレス鋼板と銅板の接合体を得た。また、(a)電極傾斜角度:0°、(b)電極高さ:1.0mm、(c)入熱点位置:+10.0mmとした。(c)入熱点位置はいずれも、0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下の範囲であった。入熱回数はいずれも16回とした。溶接機は、ハイガー産業(株)製のTIG溶接機であるYS-TIG200PACDCを用いた。シールドガスおよびバックシールドガスには、100%Arをガス流量25L/minでそれぞれ使用した。プリフローは0.3s、アフターフローは2.0sとした。上記以外の条件は、常法に従った。なお、試験No.3-3およびNo.3-4では、冷やし金を用いた被接合材の冷却を行った。一方、試験No.3-1およびNo.3-2では、冷やし金や冷却チューブを用いた被接合材の冷却は行わなかった。
ここで、表4の条件Aは、上記(f)~(h)のいずれも行わず、各入熱の溶接電流、溶接時間、および、入熱間の時間間隔を一定とした条件である。また、表4の条件Bは、上記(f)および(h)を行った条件である。
かくして得られたステンレス鋼管と銅管の接合体を用いて、上記の要領で、
(I)溶接部の位置(重ね合わせ部に位置するか否か)、
(II)溶接部のCu/Fe比、
(III)溶融境界間の距離MF、
(IV)各溶接点の直径
(V)溶接点の平均距離間隔B
を測定した。結果を表3に併記する。
また、上記の要領で、(VI)気密性、および、(VII)接合強度を測定し、実施例1と同じ基準により評価した。結果を表3に併記する。
さらに、接合体の銅側表面における溶接点の最小直径Dminおよび最大直径Dmaxからビード幅の変化率(Dmin/Dmax)を算出した。結果を表3に併記する。
Figure 0007456559000005
Figure 0007456559000006
Figure 0007456559000007
Figure 0007456559000008
表3に示したように、発明例ではいずれも、所望の気密性および接合強度が得られていた。すなわち、溶接部の割れや接合不連続が生じることなく、十分な接合強度を有するステンレス鋼と銅の接合体が得られた。また、いずれの発明例でも、優れた気密性および特に優れた接合強度が得られた。さらに、被接合材の冷却を行わなかった試験No.3-1ではビード幅の変化率が1.5であったが、同じく被接合材の冷却を行わなかった試験No.3-2では、上記(f)および(h)を行うことにより、溶接の進行に伴うビード幅の広がりが抑制され、ビード幅安定性に特に優れるステンレス鋼と銅の接合体が得られた。なお、被接合材の冷却を行った試験No.3-3では、冷却を行わなかった試験No.3-1に対して、ビード幅の広がりが抑制された。さらに、被接合材の冷却を行うとともに上記(f)および(h)を行った試験No.3-4では、最もビード幅の広がりが小さかった。
(実施例4)
外径:10mm、厚さ(肉厚):0.5mm、長さ:500mmのステンレス鋼管(JIS G 4305:2021に規定される、SUS304のステンレス鋼板から製造した溶接管)、および、外径:12mm、厚さ(肉厚):1.0mm、長さ:500mmの銅管(JIS H 3300:2018に規定されるりん脱酸銅管(C1220T))を切り出した。次いで、10mmの長さが重なり合うよう、すなわち、重ね合わせ幅L=10mmとなるように、銅管内にステンレス管を挿入し、被接合材とした。次いで、被接合材のステンレス鋼と銅との重ね合わせ部の銅側に電極を配置して表4および5に記載の条件でTIG溶接による溶接を行い、ステンレス鋼管と銅管の接合体を得た。なお、溶接部が全周にわたり形成されるように、重ね合わせ部の全周(1周)に溶接点を形成した。また、(a)電極傾斜角度:0°、(b)電極高さ:1.0mm、(c)入熱点位置:+5.0mmとした。(c)入熱点位置はいずれも、0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下の範囲であった。入熱回数はいずれも13回とした。溶接機は、マツモト機械(株)製のTIG溶接機であるパイプエースを用いた。シールドガスおよびバックシールドガスには、100%Arをガス流量25L/minでそれぞれ使用した。プリフローは5.0s、アフターフローは6.0sとした。上記以外の条件は、常法に従った。なお、冷やし金や冷却チューブを用いた被接合材の冷却は行わなかった。
ここで、表4の条件Cは、上記(f)~(h)のいずれも行わず、各入熱の溶接電流、溶接時間、および、時間間隔を一定とした条件である。また、表4の条件Dは、上記(g)を、条件Eは上記(f)を、条件Fは上記(h)を、条件Gは上記(f)および(g)を、条件Hは上記(g)および(h)を、条件Iは上記(f)、(g)および(h)を、それぞれ行った条件である。
かくして得られたステンレス鋼管と銅管の接合体を用いて、上記の要領で、
(I)溶接部の位置(重ね合わせ部に位置するか否か)、
(II)溶接部のCu/Fe比、
(III)溶融境界間の距離MF、
(IV)各溶接点の直径
(V)溶接点の平均距離間隔B
を測定した。結果を表5に併記する。
また、上記の要領で、(VI)気密性、および、(VII)接合強度を測定し、実施例1と同じ基準により評価した。結果を表5に併記する。
さらに、接合体の銅側表面における溶接点の最小直径Dminおよび最大直径Dmaxからビード幅の変化率(Dmin/Dmax)を算出した。結果を表5に併記する。
Figure 0007456559000009
表5に示したように、発明例ではいずれも、所望の気密性および接合強度が得られていた。すなわち、溶接部の割れや接合不連続が生じることなく、十分な接合強度を有するステンレス鋼と銅の接合体が得られた。また、いずれの発明例でも、優れた気密性および特に優れた接合強度が得られた。さらに、試験No.4-2~4-7では、上記(f)~(h)のうちの少なくとも1つを行うことにより、溶接の進行に伴うビード幅の広がりが抑制され、ビード幅安定性に特に優れるステンレス鋼と銅の接合体が得られた。
本発明の一実施形態に従うステンレス鋼と銅の接合体は、熱交換器配管、電子機器部品、家庭用電化製品をはじめとした各種製品への適用に好適である。

Claims (5)

  1. ステンレス鋼と、銅と、該ステンレス鋼と該銅との溶接部と、をそなえる、ステンレス鋼と銅の接合体であって、
    前記ステンレス鋼および前記銅が板状または管状であり、
    前記溶接部は、前記ステンレス鋼と前記銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部に位置し、かつ、前記溶接部は、前記接合体の銅側表面において溶接方向に連なる複数の溶接点を有し、
    前記溶接部のCu/Fe比が10.0以上であり、
    MFおよびtが、次式(1)の関係を満足し、
    MFおよびBが、次式(2)の関係を満足する、ステンレス鋼と銅の接合体。
    MF ≧ 0.8t ・・・(1)
    0.10MF ≦ B ≦ 1.25MF ・・・(2)
    ここで、
    MF:接合体のステンレス鋼と銅の重ね合わせ面における、溶接直角方向での溶接部と銅との溶融境界間の距離(mm)
    B:接合体の銅側表面での溶接点の平均距離間隔(mm)
    t:銅の厚さ(mm)
    である。
  2. max/Dminが、次式(3)の関係を満足する、請求項1に記載のステンレス鋼と銅の接合体。
    max/Dmin≦1.4 ・・・(3)
    ここで、
    min:接合体の銅側表面での溶接点の最小直径(mm)
    max:接合体の銅側表面での溶接点の最大直径(mm)
    である。
  3. ステンレス鋼と銅とを重ね合わせた被接合材を溶接して接合する、ステンレス鋼と銅の接合方法であって、
    前記溶接をTIG溶接により行い、
    前記TIG溶接では、
    電極を、前記被接合材の銅側に配置し、かつ、以下の(a)~(e)を満足する条件で複数回の入熱を行い、
    (a)電極の傾斜角度α:0°~45°
    ここで、被接合材の厚さ方向を基準角度(0°)とし、電極の先端が向く方向と被接合材の厚さ方向とのなす角を電極の傾斜角度とする。
    (b)電極高さ:0mm超3.0mm以下
    (c)溶接直角方向における各入熱位置:0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以上L-0.5×0.03×I×d0.5/t0.5(mm)以下
    ここで、Iは溶接電流(A)、dは溶接時間(s)、tは銅の厚さ(mm)、Lはステンレス鋼と銅とが互いに重なりあう重ね合わせ部の幅である。また、溶接直角方向における各入熱位置は、重ね合わせ部における銅端部を基準位置(0)とし、銅側を+、ステンレス鋼側を-とする。
    (d)各入熱点の溶接方向の距離間隔(mm):0.1×{Dk―1×(1-0.2×t)}以上Dk―1×(1-0.2×t)以下
    ここで、Dk―1は、被接合材の銅側表面における、直前の入熱により形成された溶接点の直径(mm)である。tは、銅の厚さ(mm)である。
    (e)各入熱の時間間隔:直前の入熱における溶接時間(s)の100%以上
    さらに、各入熱において、次式(4)の関係を満足する、ステンレス鋼と銅の接合方法。
    1.5/(1-0.2×t)÷0.03 ≦ I×d0.5 ≦ t1.5/(1-0.2×t)÷0.03×6 ・・・(4)
    ここで、
    I:溶接電流(A)
    d:溶接時間(s)
    t:銅の厚さt(mm)
    である。
  4. 以下の(f)~(h)のうちの少なくとも1つを行う、請求項3に記載のステンレス鋼と銅の接合方法。
    (f)各入熱において、入熱の溶接電流を、直前の入熱の溶接電流以下とする。
    (g)各入熱において、入熱の溶接時間を、直前の入熱の溶接時間以下とする。
    (h)一部の入熱間において、長時間の入熱の時間間隔を設ける。
    ただし、各入熱の溶接電流、溶接時間、および、入熱間の時間間隔が一定となる場合を除く。
  5. 請求項3または4に記載のステンレス鋼と銅の接合方法により、ステンレス鋼と銅とを接合する、ステンレス鋼と銅の接合体の製造方法。
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