以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法または縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
1.第1実施形態
1-1.沸騰冷却器100の構成
図1は、第1実施形態に係る沸騰冷却器100の概略図である。なお、以下では、説明の便宜上、互いに直交する「X軸」、「Y軸」および「Z軸」を適宜に用いて説明する。
また、X軸に沿う一方向を「X1方向」といい、X1方向とは反対の方向を「X2方向」という。同様に、Y軸に沿う一方向を「Y1方向」といい、Y1方向とは反対の方向を「Y2方向」という。Z軸に沿う一方向を「Z1方向」といい、Z1方向とは反対の方向を「Z2方向」という。また、Z1方向またはZ2方向からみることを「平面視」という。なお、Z軸は、鉛直方向に沿う軸であり、Z1方向は鉛直方向の上方に相当し、Z2方向は鉛直方向の下方に相当する。
図1に示す沸騰冷却器100は、発熱体9を冷却する装置である。発熱体9としては、発熱する物体であればよく、特に限定されないが、例えば、インバーターおよび整流器等のパワーエレクトロニクス製品が挙げられる。例えば、パワーエレクトロニクス製品は、ダイオード、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体素子を有する。当該発熱体9および沸騰冷却器100は、例えば、鉄道車両、自動車、および家庭用電気機械等に搭載される。
沸騰冷却器100は、熱輸送媒体M1の沸騰で生じる潜熱を利用する冷却器である。当該潜熱を利用した冷却は、沸騰冷却と称される。沸騰冷却器100は、蒸発部1と、凝縮部2と、蒸気通路3と、液体通路4と、熱輸送媒体M1とを有する。熱輸送媒体M1は、後に詳述するが、発熱体9を冷却させるための熱輸送に用いる液状の媒体である。図1に示す例では、沸騰冷却器100は、熱輸送媒体M1の自然対流を利用したプール沸騰式である。
蒸発部1は、発熱体9からの熱を受ける。蒸発部1は、容器10と伝熱部材5とを有する。容器10は、熱輸送媒体M1を収容する。例えば、容器10の底部には、伝熱部材5が設けられる。伝熱部材5は、発熱体9で生じる熱を熱輸送媒体M1に伝える。伝熱部材5は、取付面59と伝熱面50とを有する。取付面59は、発熱体9を取り付け可能に構成される。伝熱面50は、容器10の内部に露出しており、熱輸送媒体M1と接触している。伝熱面50には、発熱体9から伝熱部材5を介して熱輸送媒体M1に熱が伝わり、伝熱面50の近傍の熱輸送媒体M1の温度が沸点以上に過熱される。このため、伝熱面50では、当該熱により、複数の気泡Bが発生する。
伝熱部材5は、熱伝導率に優れる材料により形成される。具体的には、伝熱部材5の材料は、例えば、アルミニウムおよび銅等の金属、または当該金属を含む合金等である。また、容器10の材料は、特に限定されないが、伝熱部材5の材料と同様に、例えば、アルミニウムおよび銅等の金属、または当該金属を含む合金等である。なお、容器10と伝熱部材5とは、一体で形成されてもよい。また、伝熱部材5は、1部材で構成されてもよいし、複数の部材で構成されてもよい。
凝縮部2は、蒸発部1に対して鉛直方向での上方に配置される。凝縮部2は、気化した熱輸送媒体M1を凝縮することにより、気化した熱輸送媒体M1を液体に戻す。凝縮部2は、冷却部材21とケース20とを有する。冷却部材21は、気化した熱輸送媒体M1を冷却する構造体である。冷却部材21は、例えば、冷却された流体が流れる冷却管である。また、ケース20は、気化した熱輸送媒体M1を液化する空間を形成する。ケース20の材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウムおよび銅等の金属、または当該金属を含む合金等である。
蒸気通路3は、蒸発部1および凝縮部2のそれぞれに接続される配管等である。同様に、液体通路4は、蒸発部1および凝縮部2のそれぞれに接続される配管等である。蒸気通路3よび液体通路4のそれぞれは、蒸発部1内の空間と凝縮部2内の空間とを連通させる。蒸気通路3は、気化した熱輸送媒体M1を蒸発部1から凝縮部2に流すよう構成される。一方、液体通路4は、液化した熱輸送媒体M1を凝縮部2から蒸発部1に流すよう構成される。蒸気通路3および液体通路4の各材料は、特に限定されないが、例えば、アルミニウムおよび銅等の金属、または当該金属を含む合金等である。
以上の構成の沸騰冷却器100では、発熱体9の熱が伝熱部材5を介して熱輸送媒体M1に伝わることにより、熱輸送媒体M1のうち伝熱面50近傍の部分が沸騰する。その結果、伝熱面50に気泡Bが発生する。また、発生した気泡Bは浮力により伝熱面50から離脱し、離脱した気泡Bは熱輸送媒体M1の液面に到達する。その後、気泡Bは蒸気となり、当該蒸気は蒸発部1から蒸気通路3を介して凝縮部2に到達する。当該蒸気は、凝縮部2で凝縮されることにより液体となる。そして、当該液体は、重力により液体通路4を下降し、蒸発部1に戻る。
沸騰冷却器100では、伝熱面50近傍の熱輸送媒体M1の相変化により、伝熱部材5を介して発熱体9を冷却させることができる。また、熱輸送媒体M1から蒸気が発生し、当該蒸気が凝縮されることにより液化するという動作が繰り返される。当該動作が繰り返し行われることで、発熱体9を継続的かつ安定的に冷却することができる。
なお、沸騰冷却器100は、図1に示す構成に限定されず、例えば、蒸発部1、凝縮部2、蒸気通路3および液体通路4が一体で構成されるサーモサイフォンであってもよい。また、沸騰冷却器100は、プール沸騰式に限定されず、熱輸送媒体M1の流れを強制的に生じさせる強制対流沸騰式であってもよい。この場合、例えば、蒸気通路3に、図示しないポンプが接続される。
1-2.熱輸送媒体M1
熱輸送媒体M1は、冷媒と、界面活性剤とを含む。冷媒は、常温で液状となる媒体であり、例えば、純水等の水、または、水とアルコールとの混合液を含む。当該アルコールは、例えば、エタノールまたはメタノールである。なお、冷媒の種類は、上記の種類以外の種類であってもよい。
液体中で気泡が発生・成長するためには、気泡内部の蒸気圧pVが周囲液体の圧力pLよりも表面張力に打ち勝つだけ高くなければならない。気泡Bの内外の圧力差Δp(=pV-pL)は、表面張力γ、気泡の曲率半径Rを用いて以下の式(1)で、圧力差Δpに対応する過熱度ΔTは、気泡を構成する気体の密度ρV、熱輸送媒体M1の液密度ρL、飽和温度Tsat、圧力差Δp、蒸発潜熱hfgを用いて以下の式(2)で表される。
Δp=(2γ/R) ・・・(1)
ΔT=(ρL-ρV)×Tsat×Δp/(hfg×ρL×ρV) ・・・(2)
熱輸送媒体M1は、界面活性剤を含むことにより表面張力を小さくできるので、気泡Bの内外の圧力差Δpならびに過熱度ΔTを小さくすることができる。その結果、気泡Bを成長させ易くなる。
また、界面活性剤が存在することで表面張力が小さくなるので、気泡Bの伝熱面50への付着力FCが小さくなる。そのため、気泡Bが離脱するための浮力FBが小さくて済み、気泡Bの伝熱面50からの離脱時の体積が小さくなる。このように、各気泡Bが小さな気泡のまま離脱し易くなる。
浮力FB[N]は以下の式(3)で表される。また、離脱直径Dbaseと表面張力との関係は、以下の式(4)で表される。
FB=V(ρL-ρV)g ・・・・・(3)
FC=πDbaseγsinθ ・・・・・(4)
Vは気泡Bの体積、gは、重力加速度である。θは、気泡Bの伝熱面50に対する接触角である。FCは、気泡Bの付着力である。離脱直径Dbaseは、伝熱面50から離脱する際における気泡Bの径である。
ここで、合体により大型化した気泡Bは、合体していない小型な気泡に比べ、1個当たりの気泡が伝熱面50を覆う面積が大きい。そのため、伝熱面50のうち大型な気泡Bが離脱した部分は、小型な気泡Bが離脱した部分に比べ、過熱された熱輸送媒体M1が流れ込み難い。そのため、大型な気泡Bが離脱した部分では、小型な気泡Bが離脱した部分に比べ、次の気泡Bが発生するまでにかかる時間が長くなり易い。その結果、気泡Bの発生周期が長期化するという弊害が生じる。したがって、単位時間あたりの気泡Bの発生数を多くするためには、隣接する気泡B同士の合体を抑制することが好ましい。
前述のように、熱輸送媒体M1は、界面活性剤を含む。そのため、クーロン力等により、隣接する気泡B同士の合体を抑制することができる。その結果、合体した気泡Bにより伝熱面50が覆われることによる前述の弊害を抑制することができる。
界面活性剤は、非イオン性界面活性剤でもよいし、陰イオン界面活性剤または陽イオン界面活性剤等のイオン性界面活性剤でもよい。陰イオン界面活性剤または陽イオン界面活性剤を用いると、例えばクーロン力によって、隣接する気泡B同士の合体が抑制される。また、非イオン性界面活性剤を用いると、例えば非イオン性界面活性剤の立体障害によって、隣接する気泡B同士の合体が抑制される。
界面活性剤の具体例としては、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、および炭化水素系界面活性剤等が挙げられる。冷媒が水である場合、溶解性に優れる炭化水素系界面活性剤を用いることが好ましい。より具体的には、界面活性剤としては、HFC系冷媒、HFO系冷媒、およびCO2冷媒等が挙げられる。
なお、熱輸送媒体M1は、冷媒および界面活性剤以外の材料を含んでいてもよい。ただし、この場合、当該材料は、熱輸送媒体M1の作用に悪影響を与えない範囲内の含有率で熱輸送媒体M1に含まれる。
1-3.伝熱部材5の構成
図2は、第1実施形態に係る沸騰冷却器100が有する伝熱部材5の平面図である。図2には、伝熱部材5の伝熱面50が示される。図2に示すように、伝熱面50は、第1部分52と、第1部分52によって囲まれた複数の第2部分51と、を有する。伝熱面50は、第1部分52によって複数の第2部分51に区切られている。つまり、伝熱面50は、第1部分52によって複数の第2部分51に細分化されている。
複数の第2部分51は、複数の六角形を並べた所謂ハニカム構造を構成する。別の見方をすれば、第1部分52は、ハニカム構造を構成するよう伝熱面50を区切っている。ここで、各第2部分51の平面視での形状は、六角形である。各第2部分51からは気泡Bが発生し、かつ、離脱する。各第2部分51の平面視での面積は、各第2部分51から1個の気泡Bを離脱させ易い程度の大きさである。また、複数の第2部分51の平面視での面積は、互いに等しい。複数の第2部分51は、規則的に配置される。
第1部分52は、伝熱面50に存在する凹部である。当該凹部は、伝熱面50に形成される窪みである。当該凹部は、X-Y平面に沿って延びる溝である。つまり、第1部分52は、伝熱面50を複数の第2部分51に区切る溝である。第1部分52は、平面視で各第2部分51の外縁に沿って全周にわたり、途切れずに、連続的に繋がっている。第1部分52は、例えば、切削加工またはレーザー加工により形成される。また、本実施形態では、伝熱面50の表面粗さは、一様である。
複数の第2部分51の投影面積の合計は、第1部分52の投影面積よりも大きい。よって、伝熱面50の面積に対する複数の第2部分51の投影面積の合計の割合は、伝熱面50における第1部分52の投影面積の割合よりも大きい。別の見方をすると、平面視での伝熱面50における複数の第2部分51の面積占有率は、第1部分52の面積占有率よりも高い。また、投影面積は、伝熱面50に対する法線に沿って光を照射した場合にできる影の面積である。
本実施形態では、複数の第2部分51の表面積の合計は、第1部分52の表面積よりも大きい。よって、伝熱面50における複数の第2部分51の表面積の合計の割合は、伝熱面50における第1部分52の表面積の割合よりも大きい。
図3は、図2中のA-A線断面図である。図3に示す例では、各第2部分51は、XY平面に沿った面である。複数の第2部分51の幅W1は、互いに等しい。幅W1は最大幅である。また、別の見方をすると、幅W1は、隣り合う2つの第2部分51同士の間の最大距離である。図示では、複数の第2部分51は、同一平面上に位置する。なお、各第2部分51の幅W1は異なっていてもよい。また、複数の第2部分51のZ1方向での位置は互いに異なっていてもよく、例えば、複数の第2部分51が曲面に沿って配置されてもよい。
第1部分52は、底面521と、複数の側面522とを有する。底面521は、X-Y平面に沿った面である。底面521のZ1方向での位置は、各第2部分51のZ1方向での位置と異なり、各第2部分51よりもZ2方向に位置する。また、底面521は、平面視で各第2部分51の外縁に沿って全周にわたり、連続的に繋がる面である。
各側面522は、Z軸に沿った面である。複数の側面522は、複数の第2部分51に1対1で対応する。各側面522は、平面視で、対応する第2部分51を囲む。また、各側面522は、対応する第2部分51と底面521とを接続する。前述のように、底面521のZ1方向での位置は、各第2部分51のZ1方向での位置と異なる。そのため、各側面522は、底面521と、対応する第2部分51との間の段差面を構成する。
また、各側面522は、第2部分51で発生する気泡Bが第1部分52に向かう方向に成長することを制限する「制限部」である。したがって、第1部分52は、複数の「制限部」を有する。当該第1部分52に向かう方向とは、図示の例では、X-Y平面に沿って各第2部分51の内側から外側へ向かう方向である。ここで、各側面522は、前述のように段差面であるため、気泡Bの成長に対して立体的な障壁となる。そのため、気泡BがX-Y平面に沿って広がる方向に成長することが制限される。このように気泡Bの成長を制限することで、隣接する第2部分51で発生する気泡B同士の合体が抑制される。
なお、各側面522は、段差面を構成していればよく、Z軸に対して傾いていてもよい。各第2部分51および底面521のそれぞれは、X-Y平面に対して傾いていてもよい。また、各第2部分51、底面521および各側面522は、平坦面でなくてもよく、湾曲していてもよい。
第1部分52の幅W2は、前述の各第2部分51の幅W1よりも小さい。そのため、幅W1が幅W2よりも小さい場合に比べ、複数の第2部分51の配置密度を高めることができる。なお、幅W2は、第1部分52の最大幅である。
なお、本実施形態では、第1部分52の幅W2は一定であるが、一定でなくてもよい。また、図示では、底面521の幅は、各側面522の高さT2以下である。また、図示では、底面521の幅は、第1部分52の幅W2と一致する。また、図示では、Z軸に沿う各側面522の長さである高さT2は、底面521から第2部分51までの側面522の長さに等しい。ただし、底面521の幅は、高さT2よりも大きくてもよい。
図4は、図2中の第1部分52の一部を説明するための図である。図4では、複数の第2部分51のうちの任意の1個の第2部分51を「第2部分51a」とする。任意の1個の第2部分51は、「一の第2部分」に相当する。図4に示すように、第2部分51aの投影面積は、第1部分52のうちの第2部分51aを囲む部分520の投影面積よりも大きい。部分520は、図4中の太線で示す側面522と、図4中のグレースケールで示す底部5210とで構成される。当該側面522は、第1部分52と第2部分51aとの境界を形成する面である。底部5210は、図3に示す底面521のうちの当該1個の第2部分51を囲む部分である。底部5210の平面視での外縁の形状と、側面522の平面視での形状とは、相似である。
また、第2部分51aの表面積は、部分520の表面積よりも大きい。よって、第2部分51aの表面積は、部分520が有する側面522の表面積よりも大きい。
1-4.気泡Bの挙動
図5は、気泡Bの発生を説明するための図である。なお、以下では、複数の第2部分51のうちの任意の1個の第2部分51を「第2部分51a」とし、第2部分51aに隣接する第2部分51を「第2部分51b」とする。また、第2部分51aに隣接し、かつ第2部分51bとは異なる第2部分51を「第2部分51c」とする。また、平面視で、第2部分51bと第2部分51cとの間に第2部分51aが存在する。また、第2部分51a上の気泡Bを「気泡Ba」とし、第2部分51b上の気泡Bを「気泡Bb」とし、第2部分51c上の気泡Bを「気泡Bc」とする。
第2部分51a上の気泡Baと、第2部分51b上の気泡Bbと、第2部分51c上の気泡Bcとが同時に発生する場合を例に説明する。前述のように熱輸送媒体M1は界面活性剤を含むため、気泡Ba、BbおよびBcのそれぞれは発生し易い。また、図5に示すように、気泡Ba、BbおよびBcは、界面活性剤の作用により互いの合体が抑制されつつ、成長する。
図6は、気泡Bの成長を説明するための図である。図6に示すように、気泡Ba、BbおよびBcのそれぞれの成長が進行すると、気泡Baは、気泡BbおよびBcによりXY平面に沿う方向での成長が制限される結果、Z1方向に成長し易くなる。ここで、前述のように、気泡Baは、界面活性剤の作用により気泡Bbおよび気泡Bcのそれぞれとの合体が抑制される。その上、気泡Baは、側面522の存在によりX-Y平面に沿う方向での成長が制限される。さらに、第2部分51aの投影面積が第1部分52の部分520の投影面積よりも大きい。第2部分51bおよび第2部分51cのそれぞれの投影面積についても同様である。そのため、気泡Baは、気泡BbおよびBcによってX-Y平面に沿う方向での成長が制限される。このようなことから、気泡Baは、Z1方向に成長し易くなる。以上のように、気泡Baは、界面活性剤の作用と第1部分52の存在との相乗効果により、Z1方向に成長し易くなる。また、複数の第2部分51の投影面積の合計が第1部分52の投影面積よりも大きいため、気泡Baは、成長に伴って、気泡Bbおよび気泡Bcに挟まれた状態で浮力が作用する。当該作用により、気泡Baは、くびれた形状に変形していく。
図7は、気泡Bの離脱を説明するための図である。図7に示すように、気泡Ba、BbおよびBcのそれぞれの成長がさらに進行すると、気泡Baが伝熱面50から離脱する。このとき、図7に示すように、気泡Baは、気泡Ba1と気泡Ba2とに分離し得る。気泡Ba1は伝熱面50から離脱する。気泡Ba1は、界面活性剤の作用により、界面活性剤が存在しない場合に比べて離脱し易い。また、気泡Ba2は、伝熱面50上に残る。つまり、気泡Baの一部が残存気泡となる。その後、気泡Ba2が核となり、新たな気泡の成長が始まる。このように、伝熱面50からの離脱時に気泡Baが分離することにより、伝熱面50上に、気泡Baの一部である残存気泡を存在させることができる。その結果、気泡Bの発生周期を短くすることができる。よって、単位時間あたりに離脱する気泡数を増加させることができる。
以上の説明のように、熱輸送媒体M1は、界面活性剤を含む。そのため、表面張力を小さくできるので、気泡Bの発生、成長および離脱を促進させることができる。さらに、側面522の存在により、気泡Bが第1部分52に向かう方向に成長することが制限される。その上、第2部分51aの投影面積は、第1部分52のうちの部分520の投影面積よりも大きい。第2部分51bおよび第2部分51cのそれぞれの投影面積についても同様である。そして、複数の第2部分51の投影面積の合計が第1部分52の投影面積よりも大きい。そのため、気泡Bは、隣接する気泡Bの影響により、伝熱面50から上方に向かって成長し易く、かつ伝熱面50から離脱し易くなる。したがって、界面活性剤の作用と第1部分52の存在との相乗効果により、隣接する気泡B同士の合体が抑制される。よって、気泡Bの大型化が抑制される。その結果、多くの気泡Bを伝熱面50から効率良く離脱させることができる。そのため、蒸発部1から蒸気が発生し、当該蒸気が凝縮されることにより液化するというサイクルが効率良く行われる。よって、沸騰冷却器100の冷却性能の向上を図ることができる。
さらに、気泡Bの大型化が抑制されるので、伝熱面50のうち熱輸送媒体M1が接触せずに伝熱に寄与しない乾いた領域が拡大することが抑制される。また、気泡Bの大型化が抑制されるので、過熱された熱輸送媒体M1が伝熱面50の近傍に存在し易い状態となる。そのため、伝熱面50のうち気泡Bが離脱した部分に、過熱された熱輸送媒体M1が流れ込み易くなる。よって、次の気泡Bを発生させ易くなる。さらに、前述のように、気泡Bが、それに隣接する気泡Bの影響により分離することで、後続する気泡Bの発生の核となる残存気泡を伝熱面50上に残し易くなる。このようなことから、次の気泡Bを発生させ易い。そのため、気泡Bの離脱から発生までの周期を短くすることができる。したがって、沸騰冷却器100の冷却性能の更なる向上を図ることができる。
また、前述のように、第2部分51aの表面積は、第1部分52の部分520の表面積よりも大きい。第2部分51bおよび第2部分51cのそれぞれの表面積についても同様である。第2部分51aの表面積が部分520の表面積よりも大きいことで、小さい場合に比べ、気泡Bは、隣接する気泡Bの影響によりZ1方向に成長し易くなる。また、複数の第2部分51の表面積の合計が第1部分52の表面積よりも大きいことで、複数の気泡Bのそれぞれが隣接する気泡Bの影響によりZ1方向に成長し易くなる。よって、多くの気泡Bを伝熱面50から効率良く離脱させることができ、その結果、沸騰冷却器100の冷却性能の更なる向上を図ることができる。なお、複数の第2部分51の表面積の合計が、第1部分52の表面積以下となるようにしてもよい。
また、前述のように、第1部分52は凹部である。熱輸送媒体M1のうち凹部内に位置する部分は過熱され易い。そのため、第1部分52が凸部である場合に比べ、第2部分51の近傍に過熱された熱輸送媒体M1が存在し易い。よって、第2部分51から気泡Bが離脱した後、当該第2部分51に過熱された熱輸送媒体M1が供給され易い。そのため、気泡Bの離脱から発生までの周期をより短くすることができる。
特に、本実施形態では、当該凹部は、複数の第2部分51の各外縁に沿って設けられる溝である。本実施形態では、第1部分52は、底面521の幅が各側面522の高さT2以下の溝である。そのため、底面521の幅が各側面522の高さよりも大きい場合に比べ、凹部内で熱輸送媒体M1が過熱され易い。よって、気泡Bの離脱から発生までの周期をさらに短くすることができる。
また、第1部分52が凹部であることで、第1部分52が各第2部分51に対して凸となる場合に比べて、各第2部分51に異物が留まることが抑制される。そのため、当該異物の影響により、各第2部分51での気泡Bの発生が阻害されるおそれを抑制することができる。また、第1部分52が凹部であることで、多孔質形状等の他の構造を形成する場合に比べて、伝熱面50に第1部分52を簡単に形成することができる。そのため、伝熱面50を簡単な加工で細分化することができる。したがって、伝熱面50を複雑な構成にせずとも、気泡BのX-Y平面に広がる方向の成長を制限することができる。特に、底面521の幅が各側面522の高さよりも大きい場合に比べ、複数の第2部分51の配置密度を高めることができる。そのため、伝熱面50で発生する気泡数を増大させることができる。
また、各第2部分51の幅W1の具体的な値は、特に限定されないが、各第2部分51の幅W1は、第2部分51で離脱する気泡Bの離脱直径Dbaseよりも小さいことが好ましい。さらに、各第2部分51の平面視での面積は、離脱直径Dbaseから算出される気泡Bの断面積よりも小さいことが好ましい。当該面積が当該断面積よりも小さいことで、当該面積が当該断面積よりも大きい場合に比べて、各第2部分51で発生した気泡Bが側面522による成長の制限を受け易く、その結果、各第2部分51から気泡Bを離脱させ易い。
離脱直径Dbaseは、例えば、カメラ等の撮像装置を用いて計測される。離脱直径Dbaseは、熱輸送媒体M1に強制対流が生じていない状態で計測される。また、離脱直径Dbaseの計測には、伝熱部材5の第2部分51と同一の材料および表面粗さの部材上で生成した気泡が用いられる。
また、本実施形態では、複数の第2部分51の幅W1は、互いに等しいが、互いに異なっていてもよい。ただし、複数の第2部分51の幅W1が互いに等しいことで、複数の気泡B間で体積のバラつきが抑制される。
また、伝熱面50が第1部分52によって複数の第2部分51に区切られているため、伝熱面50の一部に気泡Bが偏って発生することが抑制される。そのため、伝熱面50における冷却に関わる作用の面内バラつきが抑制される。よって、品質に優れる沸騰冷却器100を提供することができる。また、例えば、各第2部分51を所望の面積に設定することで、所望の径の気泡Bを形成させ易くなる。したがって、第1部分52の各側面522は、対応する第2部分51で発生する気泡Bの径を設定する設定部としても機能する。
複数の第2部分51は、規則的に配置される。そのため、伝熱面50内での場所による気泡Bの離脱のし易さにバラつきが生じることを抑制することができる。そのため、伝熱面50での沸騰冷却のバラつきが抑制される。また、各第2部分51は、六角形であることで、各第2部分51が例えば四角形である場合に比べ、複数の気泡Bの配置密度を高めることができる。このような観点から、当該配置密度を高めるためには、各第2部分51は正六角形であることがより好ましい。なお、複数の第2部分51は、本実施形態では規則的に配置されるが、不規則に配置されてもよい。
2.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
図8は、第2実施形態における伝熱部材5Aの断面図である。なお、以下の説明では、第2実施形態の伝熱部材5Aの説明は第1実施形態の伝熱部材5との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。
図8に示す伝熱部材5Aは、伝熱面50Aを有する。伝熱面50Aは、複数の第2部分51Aと、第1部分52Aとを有する。第1部分52Aは、底面521Aおよび複数の側面522Aを有する。以下、伝熱面50Aについて、第1実施形態における伝熱面50との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。また、複数の第2部分51Aについて、第1実施形態における複数の第2部分51との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。同様に、第1部分52Aについて、第1実施形態における第1部分52との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。底面521Aについて、第1実施形態における複数の底面521との相違点を説明し、同じ事項の説明は省略する。複数の側面522Aについて、第1実施形態における複数の側面522との相違点を説明し、同じ事
項の説明は適宜省略する。
第1部分52Aの表面粗さは、複数の第2部分51Aのそれぞれの表面粗さよりも小さい。つまり、第1部分52Aは、各第2部分51Aよりも平滑性が高い。したがって、底面521Aおよび複数の側面522Aのそれぞれの表面粗さは、各第2部分51Aの表面粗さよりも小さい。表面粗さは、例えば算術平均粗Raである。例えば、各第2部分51Aには、ブラスト加工が施される。また、例えば、第1部分52Aが研磨処理により平滑化されてもよい。
各側面522Aの表面粗さが各第2部分51Aの表面粗さよりも小さいことで、大きい場合に比べ、側面522Aの「制限部」としての機能が顕著に発揮される。気泡B同士の合体を特に効果的に抑制することができる。よって、単位時間あたりに離脱する気泡数を特に増加させることができる。一方、各第2部分51Aの表面粗さが各側面522Aの表面粗さよりも大きいことで、小さい場合に比べ、各第2部分51Aで気泡Bを発生させ易くなる。そのため、単位時間あたりに離脱する気泡数をより増加させることができる。
また、底面521Aの表面粗さが各第2部分51Aの表面粗さよりも小さいことで、底面521Aは、各第2部分51Aよりも気泡が発生し難い。そのため、熱輸送媒体M1のうち第1部分52A内に位置する部分が過熱され易くなる。よって、底面521Aの表面粗さが各第2部分51Aの表面粗さよりも大きい場合に比べ、第2部分51Aに過熱された熱輸送媒体M1が供給され易くなる。その結果、気泡Bの離脱から発生までの周期をさらに短くすることができる。
以上の第2実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様に、冷却性能の向上を図ることができる。
3.第3実施形態
以下、本発明の第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
図9は、第3実施形態における伝熱部材5Bの断面図である。図10は、第3実施形態における第1部分52Bの一部を説明するための図である。なお、以下の説明では、第3実施形態の伝熱部材5Bの説明は第1実施形態の伝熱部材5との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。
図9に示す伝熱部材5Bは、伝熱面50Bを有する。伝熱面50Bは、複数の第2部分51Bと、第1部分52Bとを有する。以下、伝熱面50Bについて、第1実施形態における伝熱面50との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。また、複数の第2部分51Bについて、第1実施形態における複数の第2部分51との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。同様に、第1部分52Bについて、第1実施形態における複数の第1部分52との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。
伝熱面50Bは、段差の無い連続的な面である。ただし、伝熱面50Bの表面粗さは、一様でない。第1部分52Bの表面粗さは、各第2部分51Bの表面粗さよりも小さい。つまり、第1部分52Bは、各第2部分51Bよりも平滑性が高い。表面粗さは、例えば算術平均粗Raである。例えば、各第2部分51Bには、ブラスト加工が施される。また、例えば、第1部分52Bが研磨処理により平滑化されてもよい。
また、第1部分52Bは、各第2部分51Bとの接続部分523を有する。各接続部分523は、対応する第2部分51Bと第1部分52Bとの境界を形成する。当該境界では、伝熱面50Bの表面粗さが変化する。つまり、当該境界で伝熱面50Bの表面状態が変化する。したがって、当該表面状態が変化する部分である接続部分523は、「制限部」として機能する。また、第1部分52B全体は各第2部分51Bよりも平坦性が高いので、第1部分52B全体が「制限部」として機能しているとも捉えられる。かかる第1部分52Bの存在により、気泡Bが第1部分52Bに向かう方向に成長すること制限される。
図10では、複数の第2部分51Bのうちの任意の1個の第2部分51Bを「第2部分51Ba」とする。第2部分51Baの投影面積は、第1部分52Bのうちの第2部分51Baを囲む部分520Bの投影面積よりも大きい。部分520Bは、図10中のドットパターンが付される部分である。部分520Bの平面視での外縁の形状と、第2部分51Bの平面視での外縁の形状とは、相似である。また、第2部分51Baの表面積は、部分520Bの表面積よりも大きい。また、第1実施形態と同様に、複数の第2部分51Bの投影面積の合計は、第1部分52Bの投影面積よりも大きい。また、第1実施形態と同様に、複数の第2部分51Bの表面積の合計は、第1部分52Bの表面積よりも大きい。
複数の第2部分51の投影面積の合計が第1部分52Bの投影面積よりも大きいことで、気泡Bは、隣接する気泡Bの影響により、伝熱面50Bから上方に向かって成長し易く、かつ伝熱面50Bから離脱し易くなる。よって、多くの気泡Bを伝熱面50Bから効率良く離脱させることができる。その結果、単位時間あたりに離脱する気泡数を増加させることができる。
以上の第3実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様に、冷却性能の向上を図ることができる。
4.第4実施形態
以下、本発明の第4実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
図11は、第4実施形態における伝熱部材5Cの断面図である。なお、以下の説明では、第4実施形態の伝熱部材5Cについて、第1実施形態の伝熱部材5との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。
図11に示す伝熱部材5Cは、板状の本体部56と、本体部56の上面に配置される撥液膜57とを有する。本体部56は、第1実施形態の伝熱部材5と同じ材料で形成される。撥液膜57は、冷媒に界面活性剤が添加された熱輸送媒体M1に対する撥液性を有する。撥液膜57は、例えば、本体部56に撥液材を塗布することにより形成される塗膜である。
伝熱部材5Cは、伝熱面50Cを有する。伝熱面50Cは、複数の第2部分51Cと、第1部分52Cとを有する。以下、伝熱面50Cについて、第1実施形態における伝熱面50との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。また、複数の第2部分51Cについて、第1実施形態における複数の第2部分51との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。同様に、第1部分52Cについて、第1実施形態における複数の第1部分52との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。
伝熱面50Cは、撥液膜57の上面と、本体部56の上面のうちの撥液膜57が存在しない複数の部分とで構成される。当該複数の部分のそれぞれは、第2部分51Cである。また、撥液膜57の上面は、第1部分52Cである。したがって、第1部分52Cは、各第2部分51Cに比べて熱輸送媒体M1に対する撥液性に優れる。
また、第1部分52Cは、各第2部分51Cとの接続部分524を有する。本実施形態では、接続部分524は、「制限部」である。各接続部分524は、対応する第2部分51Cと第1部分52Cとの境界を形成する。当該境界で伝熱面50Bの熱輸送媒体M1に対する撥液性が変化する。つまり、当該境界で伝熱面50Bの表面状態が変化する。したがって、当該表面状態が変化する部分である接続部分524は、「制限部」として機能する。また、第1部分52C全体は各第2部分51Cよりも撥液性に優れるため、第1部分52C全体が「制限部」として機能しているとも捉えられる。かかる第1部分52Cの存在により、気泡Bが第1部分52Cに向かう方向に成長することが制限される。
また、第1部分52Cは、任意の1個の第2部分51Cを囲む部分520Cを有する。部分520Cの形状は、第3実施形態における部分520Bと同様である。1個の第2部分51Cの投影面積は、部分520Cの投影面積よりも大きい。また、当該1個の第2部分51Cの表面積は、部分520Cの表面積よりも大きい。また、第1実施形態と同様に、複数の第2部分51Cの投影面積の合計は、第1部分52Cの投影面積よりも大きい。また、第1実施形態と同様に、複数の第2部分51Cの表面積の合計は、第1部分52Cの表面積よりも大きい。
複数の第2部分51Cの投影面積の合計が第1部分52Cの投影面積よりも大きいことで、気泡Bは、隣接する気泡Bの影響により、伝熱面50Cから上方に向かって成長し易く、かつ伝熱面50Cから離脱し易くなる。よって、多くの気泡Bを伝熱面50Cから効率良く離脱させることができる。その結果、単位時間あたりに離脱する気泡数を増加させることができる。
以上の第4実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様に、冷却性能の向上を図ることができる。
5.第5実施形態
以下、本発明の第5実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
図12は、第5実施形態における伝熱部材5Hが有する伝熱面50Hの斜視図である。なお、以下の説明では、第1実施形態の伝熱部材5との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。第5実施形態における伝熱部材5Hは、第1部分52Hが第2部分51から突出していることが、第1実施形態における伝熱部材5と異なる。
図12に示すように、第1部分52Hは、伝熱面50Hに存在する凸部である。第1部分52Hは、第2部分51からZ1方向に突出する。第1部分52Hは、各第2部分51の周囲に沿って配置され、伝熱面50Hを複数の第2部分51に区切る。第1部分52Hは、平面視で各第2部分51の外縁に沿って全周にわたり、途切れずに、連続的に繋がっている。また、本実施形態では、伝熱面50の表面粗さは、一様である。また、複数の第2部分51の投影面積の合計は、第1実施形態と同様に、第1部分52の投影面積よりも大きい。
図13は、図12に示す伝熱部材5Hの断面図である。図13に示すように、第1部分52Hは、上面521Hと、複数の側面522Hとを有する。上面521Hは、X-Y平面に沿った面である。上面521HのZ1方向での位置は、各第2部分51よりもZ1方向に位置する。上面521Hは、平面視で各第2部分51の外縁に沿って全周にわたり、連続的に繋がる面である。
各側面522Hは、Z軸に沿った面である。複数の側面522Hは、複数の第2部分51に1対1で対応する。各側面522Hは、平面視で、対応する第2部分51を囲む。また、各側面522Hは、対応する第2部分51と、上面521Hとを接続する。各側面522Hは、対応する第2部分51と上面521Hとの間の段差面を構成する。各側面522Hは、第1実施形態における側面522と同様に、第2部分51で発生する気泡Bが第1部分52Hに向かう方向に成長することを制限する「制限部」として機能する。そのため、気泡BがX-Y平面に沿って広がる方向に成長することが制限される。このように気泡Bの成長を制限することで、隣接する第2部分51で発生する気泡B同士の合体が抑制される。
前述のように、第1部分52Hは、途切れずに、連続的に繋がっている。各第2部分51は、第1部分52Hによって囲まれている。このため、各第2部分51が第1部分52Hによって囲まれていない場合に比べ、隣接する第2部分51で発生する気泡B同士が合体することを効果的に抑制することができる。
図14は、平坦面で構成される場合の伝熱面50xに発生し、成長過程にある気泡Bを示す図である。図14に示す伝熱部材5xが有する伝熱面50xは、例えば平坦な面である。
図15は、界面活性剤が添加されていない冷媒を用いた場合での図14中の領域Aを示す図である。図16は、界面活性剤が添加されていない冷媒中で発生した気泡Bを底部(下方)からみた図である。なお、便宜上、ミクロ液膜B0にドットパターンを付す。図15および図16に示すように、伝熱面50x上に気泡Bが発生すると、気泡底部(気泡Bと伝熱面50xとの間)に、ミクロ液膜B0が形成される。ミクロ液膜B0の厚さδは、一般的に、1μm以上10μm以下である。また、気泡Bの成長に伴ってミクロ液膜B0は蒸発損耗し、伝熱面50x上にドライパッチと呼ばれる乾き部58が形成され、時間経過とともに拡大していく。
ミクロ液膜B0は、薄い液膜の厚さδの両端に大きな温度差(伝熱面温度と飽和温度との差)がつくために、高い除熱性能を有する。一方で、乾き部58では、伝熱面50x(固相)と気泡B(気相)間での熱伝達となるため、乾き部58での伝熱は、ミクロ液膜B0の表面での伝熱よりも悪い。このように、ミクロ液膜B0が存在することで、存在しない場合に比べ、伝熱効率の促進を図ることができる。
図17は、界面活性剤が添加された冷媒を用いた場合での図14中の領域Aを示す図である。図18は、界面活性剤が添加された冷媒中で発生した気泡Bを底部からみた図である。図17および図18に示すように、熱輸送媒体M1が界面活性剤を含む場合、ミクロ液膜B0が減少または消失し、かつ、乾き部58の割合が増大している。これは、界面活性剤の添加による表面張力の低下と、濡れ性が変化したことによると考えられる。よって、界面活性剤の添加により、気泡Bの1個あたりの冷却性能が低下するおそれがある。
図19は、図12に示す伝熱面50Hで発生するミクロ液膜B0を説明するための図である。図19に示すように、伝熱面50Hが第1部分52Hを有することで、気泡BがX-Y平面に沿って広がる方向に成長することが制限される。その結果、気泡Bの底部にくびれが形成される。このため、冷媒に界面活性剤が添加されていても、気泡Bと伝熱面50Hとの間にミクロ液膜B0が形成され、ミクロ液膜B0の減少または消失による気泡Bの1個あたりの冷却性能の低下を抑制することができる。
伝熱面50Hが幅W1よりも小さい幅W2の第1部分52Hを有することで、冷媒に界面活性剤が添加されていても、ミクロ液膜B0の減少または消失を抑制することができる。したがって、界面活性剤の添加によって微細な気泡Bを多数発生させることができるとともに、気泡Bの1個あたりの冷却性能の低下を抑制することができる。このため、沸騰冷却器100の冷却性能を特に効果的に向上させることができる。
また、各第2部分51の幅W1は隣接する第1部分52Hの幅W2よりも大きいが、さらに、図13に示す例では、各第2部分51の幅W1は、隣接する第1部分52Hの幅W2の2倍以上である。この場合、幅W1が幅W2よりも小さい場合に比べ、ミクロ液膜B0の減少または消失を効果的に抑制することができる。さらに、各幅W1は、幅W2に対して3倍以上30倍以下であることが好ましく、幅W2に対して5倍以上20倍以下であることがより好ましい。幅W1が前述の範囲内にあることで、ミクロ液膜B0の減少または消失を効果的に抑制することができ、かつ、伝熱面50Hでの複数の第2部分51の配置密度を高めることができるので気泡Bをより多く発生させることができる。そのため、沸騰冷却器100の冷却性能をより効果的に向上させることができる。
具体的には、第1部分52Hの幅W2としては、特に限定されないが、0.1mm以下であることが好ましい。これにより、ミクロ液膜B0の消失を特に効果的に抑制することができる。さらに、幅W2は、0.001mm以上0.02mm以下であることがより好ましく、0.001mm以上0.01mm以下であることがさらに好ましい。幅W2がかかる範囲内であることで、界面活性剤および冷媒のそれぞれの種類の選択の幅が広がり、かつ、ミクロ液膜B0の消失の効果をより顕著に発揮することができる。
各第2部分51の幅W1としては、特に限定されないが、第2部分51で離脱する気泡Bの離脱直径Dbaseよりも小さいことが好ましい。これにより、各第2部分51で発生した気泡Bが側面522による成長の制限を受け易く、ミクロ液膜B0の減少または消失を抑制するという効果を顕著に発揮することができる。
具体的には、幅W1は、特に限定されないが、10.0mm以下であることが好ましく、0.2mm以上4.0mm以下であることがより好ましく、0.1mm以上1.0mm以下であることがさらに好ましい。幅W1がかかる範囲内であることで、界面活性剤および冷媒のそれぞれの種類の選択の幅が広がり、かつ、微細な気泡Bを多数発生させることができる。
また、図13に示すように、第2部分51の幅W1は、隣接する第1部分52Hの高さT2よりも大きい。そのため、冷媒に界面活性剤が添加されていても、ミクロ液膜B0の減少または消失を抑制することができる。したがって、界面活性剤の添加によって微細な気泡Bを多数発生させることができるとともに、気泡Bの1個あたりの冷却性能の低下を抑制することができる。このため、沸騰冷却器100の冷却性能を特に効果的に向上させることができる。
また、図13に示す例では、各第2部分51の幅W1は、隣接する第1部分52Hの高さT2の2倍以上である。この場合、幅W1が高さT2よりも小さい場合に比べ、ミクロ液膜B0の減少または消失を効果的に抑制することができる。さらに、各幅W1は、高さT2の3倍以上30倍以下であることが好ましく、高さT2の5倍以上20倍以下であることより好ましい。幅W1が前述の範囲内にあることで、ミクロ液膜B0の減少または消失を効果的に抑制することができ、かつ、伝熱面50Hでの複数の第2部分51の配置密度を高めることができるので気泡Bをより多く発生させることができる。そのため、沸騰冷却器100の冷却性能をより効果的に向上させることができる。
図13に示す例では、第1部分52Hの幅W2は、同一部位における第1部分52Hの高さT2以下であることが好ましい。この場合、界面活性剤および冷媒のそれぞれの種類の選択の幅を広げることができ、かつ、ミクロ液膜B0の消失を効果的に抑制することができる。また、高さT2は、幅W2の1.1倍以上3.0倍以下であることが好ましく、幅W2の1.2倍以上2.0倍以下であることがより好ましい。前述の範囲を満足することで、ミクロ液膜B0の減少または消失を効果的に抑制することができる。特に、冷却性能の向上を最も高めるためには、幅W1と幅W2と高さT2との関係が、W2≦T2<W1を満足することが好ましい。
具体的には、第1部分52Hの高さT2としては、特に限定されないが、0.2mm以下であることが好ましい。これにより、ミクロ液膜B0の消失を特に効果的に抑制することができる。さらに、高さT2は、0.001mm以上0.05mm以下であることがより好ましく、0.001mm以上0.02mm以下であることがさらに好ましい。高さT2がかかる範囲内であることで、界面活性剤および冷媒のそれぞれの種類の選択の幅が広がり、かつ、ミクロ液膜B0の消失の効果をより顕著に発揮することができる。
なお、幅W2は、高さT2を超えてもよい。また、本実施形態では、第1部分52Hの幅W2は一定であるが、一定でなくてもよい。同様に、第1部分52Hの高さT2は一定であるが、一定でなくてもよい。第1部分52H内で、幅W2および高さT2が一定でない場合は、第1部分52H全体において、幅W2が高さT2よりも小さい領域の方が、幅W2が高さT2よりも大きい領域よりも多くの割合を占めることが望ましい。また、各側面522Hは、段差面を構成していればよく、Z軸に対して傾いていてもよい。各第2部分51および上面521Hのそれぞれは、X-Y平面に対して傾いていてもよい。また、各第2部分51、上面521Hおよび各側面522Hは、平坦面でなくてもよく、湾曲していてもよい。
以上の第5実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様に、冷却性能の向上を図ることができる。
6.第6実施形態
以下、本発明の第6実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
図20は、第6実施形態における伝熱部材5Fの平面図である。図21は、図20に示す伝熱面50Fの斜視図である。図22は、図20に示す第2部分51Fを説明するための図である。なお、以下の説明では、第6実施形態の伝熱部材5Fについて、第1実施形態の伝熱部材5との相違点を説明し、同じ事項の説明は適宜省略する。
図20に示す伝熱部材5Fの伝熱面50Fは、複数の第1部分52Fと、複数の第2部分51Fと、複数の流路部53と、を有する。複数の第1部分52Fは、連続的に繋がっておらず、互いに離間する。複数の第2部分51Fは、複数の第1部分52Fによって断続的に区切られている。
図21に示すように、各第1部分52Fは、伝熱面50Fに形成される凸部である。各第1部分52Fは、各第2部分51Fに対して突出する。各第1部分52Fは、上面521Fと、側面522Fとを有する。図示の例では、上面521Fの形状は、四角形である。上面521Fは、X-Y平面に沿った面である。上面521FのZ1方向での位置は、各第2部分51のZ1方向での位置と異なり、各第2部分51FよりもZ1方向に位置する。図示の例では、側面522Fは、4個の面で構成される。4個の面のそれぞれは、上面521Fと第1部分52Fとに接続される。4個の面のそれぞれは、上面521Fと第2部分51Fとの間の段差面である。
図22に示すように、1個の第2部分51Fに対して、6個の第1部分52Fが配置される。図22では、複数の第2部分51Fのうちの任意の1個の第2部分51Fを「第2部分51Fa」とする。また、複数の第1部分52Fのうち第2部分51Faを囲む6個の第1部分52Fのそれぞれを「第1部分52Fa」とする。6個の第1部分52Faは、第2部分51Faの周囲に沿って例えば等間隔で並ぶ。第1部分52Faは、6個の第1部分52Faの並ぶ方向に沿って形成される閉じられた領域である。
本実施形態では、各第1部分52Fは、図22中の破線で示される六角形である。各第1部分52Fは、6個の第1部分52Fの内側に位置する。また、図22の例では、六角形の第1部分52Fの角に、流路部53が存在する。複数の第1部分52Fは互いに離間していることで、複数の第1部分52F同士の間には、流路部53が存在する。流路部53は、直線L1を避ける位置に存在する。直線L1は、隣り合う2個の第1部分52Fの中心O1同士を結ぶ線である。流路部53が存在することで、過熱された熱輸送媒体M1が複数の第2部分51Fに供給され易くなる。一方、第1部分52Fは、直線L1上に存在する。そのため、第1部分52Fが直線L1上に存在しない場合に比べ、隣接する気泡B同士の合体を効果的に抑制することができる。
また、第2部分51Faの投影面積は、6個の第1部分52Faの投影面積の合計よりも大きい。また、複数の第2部分51Fの投影面積の合計は、複数の第1部分52Fの投影面積の合計よりも大きい。また、全ての第2部分51Fの表面積の合計は、全ての第1部分52の表面積の合計よりも大きい。
複数の第2部分51Fの投影面積の合計が複数の第1部分52Fの投影面積の合計よりも大きいことで、気泡Bは、隣接する気泡Bの影響により、伝熱面50Cから上方に向かって成長し易く、かつ伝熱面50Cから離脱し易くなる。
なお、図示の例では、1個の第2部分51Faに対応する第1部分52Faの数は、6であるが、当該数は、1以上であればよい。そのため、当該数は、1~5、または7以上であってもよい。
以上の第6実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様に、冷却性能の向上を図ることができる。
第6実施形態における各第1部分52Fは、各第2部分51Fに対して吐出している凸部であるが、各第1部分52Fは、各第2部分51Fとほぼ同一平面上に位置していてもよい。その場合、例えば、各第1部分52Fの表面粗さは、各第2部分51Fの表面粗さよりも小さいことが好ましい。これにより、第3実施形態と同様に、隣接する気泡B同士の合体を効果的に抑制することができる。また、例えば、各第1部分52Fは、界面活性剤で添加された冷媒に対する撥液性を有することが好ましい。これにより、第4実施形態と同様に、隣接する気泡B同士の合体を効果的に抑制することができる。以上の各構成によっても、前述の第1実施形態と同様に、冷却性能の向上を図ることができる。
7.変形例
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。以下の第1実施形態の各変形の態様は、第2~6実施形態のそれぞれに適用可能である。
前述の第1実施形態では、各第2部分51の平面視での形状は、六角形であるが、当該形状は六角形に限定されない。各第2部分51の平面視での形状は、六角形以外の多角形であってもよいし、円形等であってもよい。また、各第2部分51の平面視での形状は、互いに同一であるが、互いに異なっていてもよい。ただし、当該各形状が、互いに同一であることで、異なる場合に比べ、複数の第2部分51の配置効率を高めることができる。また、前述の第1実施形態では、複数の第2部分51の配置は、行列状であるが、当該配置は行列状に限定されない。例えば、複数の第2部分51の配置は、千鳥状であってもよい。
例えば、図23に示す例が挙げられる。図23は、変形例における伝熱面50Dの平面図である。図23に示す伝熱面50Dは、複数の第2部分51Dと、第1部分52Dとを有する。各第2部分51Dの平面視での形状は円形である。複数の第2部分51Dは、千鳥状に配置される。各第2部分51Dの平面視での形状が円形である場合、千鳥状であることで、行列状である場合に比べ、複数の第2部分51Dの配置効率を向上させることができる。
例えば、図24に示す例が挙げられる。図24は、変形例における伝熱面50Gの平面図である。図24に示す伝熱面50Gは、複数の第2部分51Gaおよび複数の第2部分51Gbと、第1部分52Gとを有する。各第2部分51Gaの平面視での形状は五角形である。各第2部分51Gbの平面視での形状は六角形である。このように、互いに形状の異なる第2部分51Gaおよび第2部分51Gbが存在していてもよい。
また、前述した各実施形態の任意の構成同士が組み合わされてもよい。例えば、第1実施形態における第1部分52が、撥液性を有してもよい。また、第2実施形態における第1部分52Bが、撥液性を有してもよい。また、第3実施形態における第1部分52Cが、撥液性を有してもよい。また、第4実施形態における撥液膜57の上面の表面粗さが、第2部分51Dの表面粗さよりも小さくてもよい。また、第5実施形態における第1部分52Hが、撥液性を有してもよい。第5実施形態における第1部分52Hの表面粗さが、第2部分51の表面の粗さよりも小さくてもよい。また、第6実施形態における第1部分52Fが、撥液性を有してもよい。第6実施形態における第1部分52Fの表面粗さが、第2部分51Fの表面の粗さよりも小さくてもよい。
8.参考例
図25は、参考例における伝熱面50Eの平面図である。伝熱面50Eは、複数の第2部分51Eと、複数の第1部分52Eとを有する。図25では、説明の便宜上、複数の第2部分51Eがグレースケールで示される。複数の第2部分51Eおよび複数の第1部分52Eのそれぞれの平面視での形状は、四角形である。複数の第2部分51Eは、千鳥状に配置される。同様に、複数の第1部分52Eは、複数の第2部分51Eの間を埋めるように、千鳥状に配置される。このような複数の第1部分52Eによって、伝熱面50Eは、複数の第2部分51Eに区分けされてもよい。
また、前述した図3で示す例では、第1部分52の幅W2は、第2部分51の幅W1と等しいが、幅W2は、幅W1より大きくてもよい。
図26は、図25中のB-B線断面図である。複数の第1部分52Eは、底面5251と、側面5252と、を有する。側面5252は、「制限部」として機能する。例えば、複数の第2部分51Eおよび複数の底面5251のそれぞれから、気泡Bが発生する。
以上、本発明の沸騰伝熱器について図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。また、本発明の各部の構成は、前述した実施形態の同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。