特許文献1に記載された空中像表示装置は、表示装置が射出する画像光を、再帰反射板および偏光フィルタ等の光学素子を用いて、空中像として結像させるが、利用者が視認する空中像に歪みが生じたり、空中像の輝度が低下したりすることがあった。空中像の表示品位が向上した空中像表示装置が求められている。
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら説明がされる。以下で参照する各図は、実施形態に係る空中像表示装置の主要な構成要素を示している。実施形態に係る表示装置は、図示されていない光学素子保持部材、カメラ等の周知の構成要素を備えていてもよい。以下の参照する各図は模式的なものであり、図面上の寸法比率等は現実のものとは必ずしも一致していない。また、一部の図面において、便宜的に、直交座標系XYZを定義する。
図1A,1Bは、本開示の実施形態の空中像表示装置の要部構成を示す側面図であり、図2は、図1Bの空中像表示装置の第1凹面鏡の湾曲度の定義を説明する図であり、図3は、図1Bの空中像表示装置の利用者が視認する空中像の一例を示す図であり、図4は、図1Bの空中像表示装置の利用者が視認する空中像の一例を示す図であり、図5,6は、図1Bの空中像表示装置の変調伝達関数を示すグラフである。
本実施形態の空中像表示装置10は、図1Aに示すように、表示装置2と、表示装置2から射出された画像光Lを反射する凸面鏡4と、凸面鏡4によって反射された画像光Lを、凸面鏡4に向かう方向とは異なる方向に反射し、実像の空中像Rとして結像する凹面鏡5(結像凹面鏡5ともいう)と、を備え、結像凹面鏡5の湾曲度が、凸面鏡4の湾曲度よりも大きい構成である。この構成により、以下の効果を奏する。凸面鏡4の湾曲度が結像凹面鏡5の湾曲度よりも小さいことにより、画像光Lの拡大率が最も大きく空中像Rの歪を増加させやすい凸面鏡4に起因して生じる空中像Rの歪の増大を抑えることができる。その結果、空中像Rの表示品位が向上する。また、凸面鏡4の湾曲度が小さいため、凸面鏡4によって反射された画像光Lの拡がりを抑制できる。その結果、凸面鏡4によって反射された画像光Lを反射する結像凹面鏡5の大型化を抑制できる。凸面鏡4および結像凹面鏡5の湾曲度については、後述する。
図1Aに示す本実施形態の空中像表示装置10は、表示装置2と凸面鏡4との間に他の光学素子があってもよい。例えば、空中像表示装置10は、図1Bに示すように、表示装置2と凸面鏡4との間に第1凹面鏡3が介在する構成であってもよい。なお、表示装置2と凸面鏡4との間に他の光学素子がある場合、光学素子は、凹面鏡に限らず、平面鏡、凸面鏡、ホログラフィック素子、偏光素子、反射型偏光素子等であってもよい。
他の実施形態の空中像表示装置1は、図1Bに示すように、表示装置2と、第1凹面鏡3と、凸面鏡4と、結像凹面鏡としての第2凹面鏡5とを備える。
表示装置2は、表示面2aを有し、画像光Lとして伝播する画像を表示面2aに表示する。言い換えれば、表示装置2は、表示面2aから画像光Lを射出する。
図1Bの構成の場合、表示装置2の表示面2aが、利用者7の目に対向しない位置にある。すなわち、表示装置2の表示面2aは、利用者7の目の側に向いておらず、利用者7の目の側と反対側に向いている。その結果、例えば、利用者7が第2凹面鏡5と空中像Rとの間の上方から、空中像表示装置1の内部を覗いたとしても、表示装置2の表示面2aが見えない。従って、利用者7が表示面2aから射出された画像光Lを直接視認し、表示面2aの画像を直接視認することによって、利用者7が違和感を覚えることを抑えることができる。これにより、空中像表示装置1の表示品位を向上させることができる。
表示装置2は、透過型の表示装置であってもよい。透過型の表示装置は、例えば、バックライトと液晶パネルとを含む液晶表示装置であってもよい。バックライトは、液晶パネルの背面側に2次元的に配列された複数の光源を有する、直下型のバックライトであってもよい。バックライトは、液晶パネルの外周部に配置された複数の光源を有する、エッジライト型のバックライトであってもよい。エッジライト型のバックライトは、液晶パネルを均一に照射するためのレンズアレイ、導光板、拡散板等を有していてもよい。バックライトの光源は、例えば発光ダイオード(Light Emitting Diode:LED)素子、冷陰極蛍光ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ等であってもよい。
液晶パネルは、公知の液晶パネルであってよい。公知の液晶パネルとしては、例えばIPS(In-Plane Switching)方式、FFS(Fringe Field Switching)方式、VA(Vertical Alignment)方式、ECB(Electrically Controlled Birefringence)方式等の液晶パネルが挙げられる。
表示装置2は、透過型の表示装置に限定されず、例えばLED素子、有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro Luminescence;OEL)素子、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode;OLED)素子、半導体レーザ(Laser Diode;LD)素子等の発光素子を含む、自発光型の表示装置であってもよい。
第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5は、表示装置2から射出された画像光Lを利用者7の視野内に結像する反射光学系である。以下では、第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5を纏めて、反射光学系8と記載することがある。
第1凹面鏡3は、表示装置2から射出される画像光Lの光路上に位置している。第1凹面鏡3は、表示装置2から射出される画像光Lを、表示装置2に向かう方向とは異なる方向に反射するように構成されている。即ち、第1凹面鏡3は、表示装置2からの距離、傾斜角度等の表示装置2に対する相対的な空間配置を調整することによって、画像光Lを、表示装置2に向かう方向とは異なる方向に反射する。第1凹面鏡3は、表示装置2に対する相対的な空間配置を調整する調整部材を備えていてもよい。調整部材は、例えば、第1凹面鏡3の背面側に設置されたロッド等の支持部材、支持部材に設けられ、支持部材および第1凹面鏡3を回転させる軸部材、支持部材および第1凹面鏡3を平行移動させるスライド機構等を備えていてもよい。調整部材は、手動によって調整されてもよく、ステッピングモータ等によって電気的に調整されてもよい。
凸面鏡4は、第1凹面鏡3によって反射される画像光Lの光路上に位置している。凸面鏡4は、第1凹面鏡3によって反射される画像光Lを、第1凹面鏡3に向かう方向とは異なる方向に反射するように構成されている。即ち、凸面鏡4は、第1凹面鏡3からの距離、傾斜角度等の第1凹面鏡3に対する相対的な空間配置を調整することによって、画像光Lを、第1凹面鏡3に向かう方向とは異なる方向に反射する。凸面鏡4は、第1凹面鏡3に対する相対的な空間配置を調整する調整部材を備えていてもよい。この調整部材は、第1凹面鏡3に設置された調整部材と同様の構成であってもよい。
第2凹面鏡5は、凸面鏡4によって反射される画像光Lの光路上に位置している。第2凹面鏡5は、凸面鏡4によって反射される画像光Lを、凸面鏡4に向かう方向とは異なる方向に反射し、実像の空中像Rとして結像させるように構成されている。即ち、第2凹面鏡5は、凸面鏡4からの距離、傾斜角度等の凸面鏡4に対する相対的な空間配置を調整することによって、画像光Lを、凸面鏡4に向かう方向とは異なる方向に反射する。第2凹面鏡5は、凸面鏡4に対する相対的な空間配置を調整する調整部材を備えていてもよい。この調整部材は、第1凹面鏡3に設置された調整部材と同様の構成であってもよい。
第1凹面鏡3は、湾曲度がSa1である反射面3aを有している。凸面鏡4は、湾曲度がSbである反射面4aを有している。第2凹面鏡5は、湾曲度がSa2である反射面5aを有している。湾曲度Sa1は、図2に示すように、第1凹面鏡3に入射する画像光Lの光軸に沿う断面において、反射面3aの中心の上を通り両端を結ぶ線分LSの長さを2×Hとし、反射面3a上の点と線分LSとの光軸OAに沿った方向の長さの最大値(最大深度ともいう)をDMAXとするとき、DMAX/Hによって定義される。DMAX/Hが断面の取り方によって変化する場合、断面の位置を変えたときのDMAX/Hの最大値を湾曲度Sa1としてもよい。湾曲度Sbおよび湾曲度Sa2も、湾曲度Sa1と同様に定義される。また、図1Aに示した空中像表示装置10における凸面鏡4および結像凹面鏡5の湾曲度も、湾曲度Sa1と同様に定義される。
空中像表示装置1は、第1凹面鏡3の湾曲度Sa1が第2凹面鏡5の湾曲度Sa2よりも大きく、かつ第2凹面鏡5の湾曲度Sa2が凸面鏡4の湾曲度Sbよりも大きい構成である。第1凹面鏡3の湾曲度Sa1が第2凹面鏡5の湾曲度Sa2および凸面鏡4の湾曲度Sbより大きいことにより、即ち、湾曲度Sa1が反射光学系8を構成する光学素子の湾曲度の中で最大であることにより、表示装置2から射出された画像光Lを凸面鏡4に向けて反射する第1凹面鏡3を、表示装置2に近接して配置することができる。その結果、表示装置2および反射光学系8の占有空間を削減し小さくする(コンパクトにする)ことが可能となるため、空中像表示装置1を小型化できる。さらに、空中像表示装置1が小型化できることにより、表示装置2の表示面2aと第2凹面鏡5の反射面5aとの間の画像光Lの光路長を短くできるため、不所望な散乱、干渉等による画像光Lの損失を抑制できる。その結果、空中像表示装置1の表示品位を向上させることができる。
また、第1凹面鏡3の湾曲度Sa1および第2凹面鏡5の湾曲度Sa2が凸面鏡4の湾曲度Sbよりも大きいことにより、即ち、凸面鏡4の湾曲度Sbが反射光学系8を構成する光学素子の湾曲度の中で最小であることにより、画像光Lの拡大率が最も大きく空中像Rの歪みを増大させやすい凸面鏡4に起因して生じる空中像Rの歪みの増大を抑えることができる。その結果、空中像Rの表示品位が向上する。
空中像表示装置1は、凸面鏡4の湾曲度Sbが比較的小さいため、凸面鏡4によって反射された画像光Lの拡がりを抑制できる。その結果、凸面鏡4によって反射された画像光Lを反射する第2凹面鏡5の大型化を抑制できる。
以上より、本開示の空中像表示装置1は、小型化され、また空中像Rの表示品位が向上る。
空中像表示装置1は、第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5を含む反射光学系8を用いて空中像Rを表示する構成であるため、第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5の反射面3a,4a,5aの形状を適宜設計することによって、空中像Rの歪みを低減することが可能となる。また、空中像表示装置1は、反射光学系8が入射した画像光Lの一部を透過する光学素子(例えばビームスプリッタ、偏光フィルタ等)を含んでいないため、空中像Rの輝度の低下を抑制できる。例えば、反射光学系8の光軸上にビームスプリッタがある場合、ビームスプリッタによって画像光Lのうちの約半分の光が分離されることから、空中像Rの輝度が約半分になる場合がある。空中像表示装置1は、そのような輝度の低下が発生することを抑えることができる。あるいは、空中像表示装置1によれば、空中像Rの十分な輝度を維持しつつ、表示面2aに表示する画像の輝度を低下させることもできる。そのため、空中像表示装置1の消費電力を削減することが可能となる。
空中像表示装置1は、例えば図1Bに示すように、制御装置6を備える。制御装置6は、空中像表示装置1の各構成要素に接続され、各構成要素を制御する。制御装置6によって制御される構成要素は、表示装置2を含む。
制御装置6は、上記の調整部材を調整する機能を有していてもよい。また制御装置6は、表示装置2をオン、オフする機能、表示装置2に画像信号を送信する機能、また画像の輝度、色度、フレーム周波数等を調整する機能等を有していてもよい。また、表示装置2に放熱部材または冷却部材が備わっている場合、制御装置6は、放熱部材または冷却部材の温度を調整する機能を有していてもよい。
制御装置6は、1以上のプロセッサを含んで構成されていてもよい。プロセッサは、特定のプログラムを読み込ませて特定の機能を実行するように構成される汎用のプロセッサ、および特定の処理に特化した専用のプロセッサを含んでいてもよい。専用のプロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を含んでいてもよい。プロセッサは、PLD(Programmable Logic Device)を含んでいてもよい。PLDは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を含んでいてもよい。制御装置6は、1以上のプロセッサが協働するように構成されるSoC(System-on-a-Chip)またはSiP(System In a Package)であってもよい。
空中像表示装置1は、第2凹面鏡5のサイズ(例えば、直径等)が第1凹面鏡3のサイズ(例えば、直径等)よりも大きい構成であってもよい。この構成により、拡大された空中像Rを表示させることが容易になる。即ち、画像光Lは、第1凹面鏡3、凸面鏡4によって順次拡大された画像を空間伝搬しており、第2凹面鏡5によって最終的に最も拡大された画像を、空中像Rの仮想結像面に向けて反射することが容易になる。また、第2凹面鏡5が比較的大きい場合、反射面5aの形状を、画像光Lに含まれる複数の部分光のそれぞれに応じた形状とすることが容易になる。その結果、空中像Rの歪みを効果的に低減することが可能となる。
第1凹面鏡3のサイズは、第1凹面鏡3の反射面3aの最大径の長さ(正面視における最大径の長さともいえる)で規定してもよい。第2凹面鏡5のサイズは、第2凹面鏡5の反射面5aの最大径の長さ(正面視における最大径の長さともいえる)で規定してもよい。例えば、第1凹面鏡3が部分球面状である場合、第1凹面鏡3の反射面3aの正面視形状は円形になる。この場合、第1凹面鏡3のサイズ、所謂寸法は、反射面3aの中心の上を通り両端を結ぶ線分LSの長さである2H(図2に示す。直径ともいう)であってもよい。なお、反射面3aの中心は、湾曲した反射面3aの最下点(最大突出点)で規定される。第1凹面鏡3が部分楕円面状である場合、第1凹面鏡3の反射面3aの正面視形状は楕円形になる。この場合、第1凹面鏡3のサイズは、反射面3aの中心の上を通り両端を結ぶ線分のうち長径の長さであってもよい。第1凹面鏡3の反射面3aの正面視形状が矩形状等の形状である場合、第1凹面鏡3のサイズは、反射面3aの中心の上を通り両端を結ぶ線分のうち最大径(例えば、対角径等)の長さであってもよい。
第1凹面鏡3の最大径の長さは、例えば150mm~200mm程度であってもよい。第2凹面鏡5の最大径の長さは、例えば200mm~350mm程度であってもよい。凸面鏡4の最大径の長さは、例えば100mm~150mm程度であってもよい。
第1凹面鏡3のサイズは、第1凹面鏡3の反射面3aの面積、または第1凹面鏡3の反射面3aの正面視における面積で規定してもよい。第2凹面鏡5のサイズは、第2凹面鏡5の反射面5aの面積、または第2凹面鏡5の反射面5aの正面視における面積で規定してもよい。
第1凹面鏡3および第2凹面鏡5は、反射面3a,5aの形状が自由曲面である自由曲面凹面鏡であってもよい。凸面鏡4は、反射面4aの形状が自由曲面である自由曲面凸面鏡であってもよい。第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5の反射面3a,4a,5aの形状が自由曲面である場合、反射面3a,4a,5aの形状を、空中像Rの歪みを効果的に低減する形状とすることが容易になる。その結果、空中像Rの歪みを効果的に低減することが可能となる。
反射面3a,4a,5aを規定する自由曲面は、以下に示す式(1)および式(2)によって規定されるXY多項式面(SPS XYP面ともいう)であってもよい。XY多項式面は、基準コーニック面に追加される10次までの多項式に展開される。したがって、式(1)および式(2)において、mとnとの和は、10以下である。式(1)において、zはz軸(光軸)に平行な面のサグ量であり、cは頂点曲率であり、rは半径方向の距離(即ち、r2=x2+y2)であり、kはコーニック定数であり、Cjは単項式xmynの係数である。
空中像Rの仮想結像面に平行な方向(図1BにおけるY方向)に沿って、第2凹面鏡5の背面側(図1Bで符号Yaで示す矢印の方向)から第2凹面鏡5を見たとき、第2凹面鏡5は、表示装置2と、第1凹面鏡3と、凸面鏡4とに重なっている構成であってもよい。この構成の場合、表示装置2および反射光学系8の占有空間を削減し小さくすることができるため、空中像表示装置1を小型化できる。その結果、空中像表示装置1の内部における画像光Lの光路長を短くできるため、不所望な散乱、干渉等による画像光Lの損失を抑制できる。ひいては、空中像表示装置1の表示品位を向上させることができる。また、第2凹面鏡5の反射面5aは、表示装置2の表示面2aと、第1凹面鏡3の反射面3aと、凸面鏡4の反射面4aとに重なっている構成であってもよい。即ち、反射光学系8の光路に直接関係する部位の位置関係を規定してもよい。
空中像Rの仮想結像面にほぼ直交する方向から視認者が視認することから、空中像Rの仮想結像面に平行な方向は、空中像表示装置1の高さ方向となる。また、空中像Rの仮想結像面に直交する方向は、空中像表示装置1の厚さ方向(奥行方向)になる。上記の構成により、空中像表示装置1の少なくとも厚さ(奥行)を薄くすることができる。
空中像Rの仮想結像面に平行な方向(図1BにおけるY方向)に沿って、第2凹面鏡5の背面側(図1Bで符号Yaで示す矢印の方向)から第2凹面鏡5を見たとき、第2凹面鏡5は、表示装置2と、第1凹面鏡3と、凸面鏡4とを内包している構成であってもよい。この構成の場合、表示装置2および反射光学系8の占有空間をより削減し小さくすることができるため、空中像表示装置1をより小型化できる。その結果、空中像表示装置1の内部における画像光Lの光路長をより短くできるため、不所望な散乱、干渉等による画像光Lの損失を効果的に抑制できる。ひいては、空中像表示装置1の表示品位を効果的に向上させることができる。また、第2凹面鏡5の反射面5aは、表示装置2の表示面2aと、第1凹面鏡3の反射面3aと、凸面鏡4の反射面4aとを内包している構成であってもよい。即ち、反射光学系8の光路に直接関係する部位の位置関係を規定してもよい。この構成により、空中像表示装置1の少なくとも厚さ(奥行)をより薄くすることができる。
図3,4は、空中像表示装置1の利用者7が視認する空中像Rを示すシミュレーション結果である。図3,4では、空中像Rの歪みの視覚的理解を容易にするために、空中像Rを格子状パターンの空中像とするとともに、歪み方向および歪み量を示す座標軸を記載している。図3,4において、実線は利用者7が視認する空中像Rを示し、破線は歪みのない理想的な空中像IRを示す。なお、空中像Rの歪みは、平面方向(紙面に平行な方向)の歪み、および奥行方向(紙面に垂直な方向)の歪みを含みうるが、図3,4は、平面方向の歪みのみを示している。
図3に示すように、空中像Rの歪みは、空中像Rの外周部に生じやすく、特に空中像Rの四隅の角部(右下角部LR,右上角部UR,左下角部LL,左上角部UL)において歪みが大きくなりやすい。表1は、角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。空中像表示装置1は、表1に示すように、角部LR,UR,LL,ULにおける歪みを5%以内に抑えることができる。なお、「歪が5%以内である」といったとき、「歪が絶対値で5%以内である」という意味であり、以下同様とする。
なお、X方向の+(プラス)方向は図3における右方向であり、X方向の-(マイナス)方向は図3における左方向である。また、Y方向の+(プラス)方向は図3における上方向であり、Y方向の-(マイナス)方向は図3における下方向である。ただし、表1において、空中像Rの歪は、X方向およびY方向のそれぞれについて、理想的な空中像IRの外側に歪んだ場合を正の値とし、理想的な空中像IRの内側に歪んだ場合を負の値としている。例えば、右下角部LRにおいて、X方向で外側方向(右方向:広がる方向)を+(プラス)方向、X方向で内側方向(左方向:縮む方向)を-(マイナス)方向とし、Y方向で外側方向(下方向:広がる方向)を+(プラス)方向、Y方向で内側方向(上方向:縮む方向)を-(マイナス)方向とする。右上角部UR、左下角部LL、および左上角部ULにおいても、同様である。また、空中像Rの歪を示す以下の各表においても同様である。
角部LR,UR,LL,ULにおける歪みは、以下のように算出する。角部LR,UR,LL,ULのX方向の歪は、矩形状の理想的な空中像IRの上辺(下辺は上辺と同じ長さ)の長さLXに対する、X方向のずれ長さで規定する。空中像IRの下辺の長さは、上辺の長さLXと同じ長さであることから、上辺の長さLXを基準とする。例えば、角部URのX方向の歪は、上辺の長さLXに対する、空中像IRの右上角CURからのX方向のずれ長さΔXURで規定する。すなわち、角部URのX方向の歪は、(ΔXUR/LX)×100(%)で規定する。角部URは、X方向において、空中像IRの内側に歪んでいることから、-(マイナス)の値となる。角部LR,LL,ULのX方向における歪みも同様に規定する。空中像IRが矩形状以外の形状である場合、X方向の基準長さは、平均長さ、最大長さであってもよい。
角部LR,UR,LL,ULのY方向の歪は、矩形状の理想的な空中像IRの右辺(左辺は右辺と同じ長さ)の長さLYに対する、Y方向のずれ長さで規定する。空中像IRの左辺の長さは、右辺の長さLYと同じ長さであることから、右辺の長さLYを基準とする。例えば、角部URのY方向の歪は、右辺の長さLYに対する、空中像IRの右上角CURからのY方向のずれ長さΔYURで規定する。すなわち、角部URのY方向の歪は、(ΔYUR/LY)×100(%)で規定する。角部URは、Y方向において、空中像IRの内側に歪んでいることから、-(マイナス)の値となる。角部LR,LL,ULのY方向における歪みも同様に規定する。空中像IRが矩形状以外の形状である場合、Y方向の基準長さは、平均長さ、最大長さであってもよい。
図4は、表示装置2の位置を最適化された位置から移動させた場合に、利用者7が視認する空中像Rを示している。図4は、第1凹面鏡3に入射する前の画像光Lの伝播方向に沿って、表示装置2を後方に1.5mm移動させた場合を示している。なお、「後方」とは、第1凹面鏡3に入射する前の画像光Lの伝播方向に沿って、第1凹面鏡3から遠ざかる方向を指す。
図4に示すように、空中像Rの歪みは、空中像Rの外周部に生じやすく、特に空中像Rの四隅の角部LR,UR,LL,ULにおいて歪みが大きくなりやすい。表2は、角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。空中像表示装置1は、表2に示すように、表示装置2が後方に移動した場合であっても、角部LR,UR,LL,ULにおける歪みを5%以内に抑えることができる。
表3は、第1凹面鏡3に入射する前の画像光Lの伝播方向に沿って、表示装置2を前方に1.5mm移動させた場合に、空中像Rの角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。なお、「前方」とは、第1凹面鏡3に入射する前の画像光Lの伝播方向に沿って、第1凹面鏡3に近づく方向を指す。表3に示すように、空中像表示装置1は、表示装置2が前方に移動した場合であっても、角部LR,UR,LL,ULにおける歪みを5%以内に抑えることができる。
表3,4に示すように、空中像表示装置1は、第1凹面鏡3に入射する前の画像光Lの伝播方向に沿って、表示装置2を最適化された位置から1.5mm程度移動した場合であっても、空中像Rの歪みを抑制できる。したがって、空中像表示装置1は、空中像表示装置1の製造における表示装置2と反射光学系8との位置合わせの負担を軽減することが可能となる。
図5は、反射光学系8が第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5で構成された空中像表示装置1における変調伝達関数(Modulation Transfer Function:MTF)値と空間周波数(サイクル/ミリメートル)との関係を示すグラフである。図5のグラフは、シミュレーションによって得られたものである。シミュレーションは、第1凹面鏡3の湾曲度Sa1を0.39とし、凸面鏡4の湾曲度Sbを0.20とし、第2凹面鏡5の湾曲度Sa2を0.27として行った。空中像表示装置1のMTF値は、表示面2aに表示した画像と、表示面2aから射出された画像光Lが結像されてなる空中像Rとに基づいて、算出することができる。MTF値を算出する際、市販の面輝度計(例えば、Radiant Vision Systems社製 製品名「イメージング色彩輝度計 ProMetric Iシリーズ:IC-PMI8 Model:IC-PMI8-ND3」)を用いてもよい。図5では、比較のために、反射光学系が1つの凹面鏡のみで構成された、本発明の特徴を有さない空中像表示装置(以下、空中像表示装置Cと記載する)におけるMTF値と空間周波数との関係を破線で示している。空中像表示装置Cについては、凹面鏡の湾曲度を約0.36とした。図5において、MTF値は、最大値が1になるように正規化している。一般に、MTF値が0.2以上であれば、高コントラスト比の空中像が表示できていると言える。
具体的なMTF値の算出方法は、以下のようになる。MTF値は、光学系の性能を評価する指標の一つで、0から1までの数字で表され、1に近いほど性能(解像度)が良い。バーコードのような梯子状パターン(ラダーパターン)を撮影して評価する。黒線と白線のラインペア(黒線と白線の対を1本とする)が、6.3ラインペア(6.3本)である場合、1mm当たり6.3本ある(6.3(本/mm:サイクル/ミリメートル))とする。この場合、黒線と白線の各線幅は同じであり、線幅は79μm(1÷6.3÷2=0.079mm)、ピッチは158μm(1÷6.3=0.158mm)となる。このようなラダーパターンを面輝度計で読み込み、どのくらいの精度(解像度)で再現できるかを評価する。精度が劣化すると、黒線と黒線との間の白線が徐々につぶれていき、やがては隣接する黒線同士が繋がって見えるようになる。例えば、ラダーパターンの画像の歪が大きいと、MTF値が低下し0に近づく。ラダーパターンの画像の歪が小さいと、MTF値が大きくなり1に近づく。MTF値は、(黒線の濃度-白線の濃度)/(黒線の濃度)、という算出式によって算出される。濃度は、輝度または階調で表してもよい。MTF値が1に近いほど解像度が高いとされる。なお、黒線と白線のラインペアの空間周波数(サイクル/ミリメートル)を用いた、デジタルカメラの解像度を見るためのチャートは、ISO12233解像度チャートで規定されている。ISO12233解像度チャートを用いて、MTF値を算出し、MTF値から歪を導出してもよい。MTF値からの歪の導出は、歪に対応するMTF値をデータテーブル等に記憶させておく方法等によってもよい。
歪みを5%以内に抑えるとともに、MTF値が空間周波数3~10サイクル/ミリメートルにおいて0.2以上であるという目的に適したSa1は、例えば、0.35~0.45程度であってもよい。同様の目的に適したSbは、例えば、0.15~0.25程度であってもよい。同様の目的に適したSa2は、例えば、0.25~0.35程度であってもよい。なお、Sa1,Sb,Sa2の各湾曲度は、表示装置2の表示面2aのサイズ、形状、画角(光の広がり)等の要因によって変わることがあることから、必ずしも上記の範囲に限るものではない。
図5に示すように、比較例の空中像表示装置Cは、空間周波数が1~9サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.2以上となる。これに対して、本実施の形態の空中像表示装置1は、空間周波数が1~13サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.2以上となる。このように、反射光学系8を第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5で構成することによって、空間周波数の広い範囲で、高コントラスト比の空中像Rを表示できる。
なお、本開示の空中像表示装置1は、空間周波数が1~11サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.3以上のコントラスト比を有するものであってもよく、空間周波数が1~9サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.4以上のコントラスト比を有するものであってもよい。さらには、本開示の空中像表示装置1は、空間周波数が1~7サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.5以上のコントラスト比を有するものであってもよい。
図6は、空中像表示装置1のMTF値と空中像表示装置CのMTF値との差分ΔMTFと、空間周波数との関係を示している。差分ΔMTFは、空中像表示装置1のMTF値から空中像表示装置CのMTF値を引いたものである。図6に示すように、空中像表示装置1は、空中像表示装置Cと比べて、空間周波数が1~15サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が向上している。反射光学系8を第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5で構成することによって、空間周波数の広い範囲で、空中像Rのコントラスト比を向上させることができる。また、図6に示すように、空間周波数が5~10サイクル/ミリメートルの範囲でΔMTFが0.2以上と大きくなっていることから、本開示の空中像表示装置1は、空間周波数が5~10サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.2以上のコントラスト比を有するものであってもよい。
次に、本開示の他の実施形態の空中像表示装置について説明する。図7は、本開示の他の実施形態の空中像表示装置の構成を示す図であり、図8は、図7の空中像表示装置の利用者が視認する空中像の一例を示す図であり、図9,10は、図7の空中像表示装置の変調伝達関数を示すグラフである。本実施形態の空中像表示装置1Aは、上記実施形態の空中像表示装置1に対して、反射光学系の構成が異なっており、その他については、同様の構成であるので、同様の構成には空中像表示装置1と同じ参照符号を付して詳細な説明は省略する。
本実施形態の空中像表示装置1Aは、図7に示すように、表示装置2と、反射光学系8Aとを備える。反射光学系8Aは、表示装置2から射出される画像光Lの光路上に位置している。反射光学系8Aは、表示装置2から射出される画像光Lを、表示装置2に向かう方向とは異なる方向に反射し、実像の空中像Rとして結像する。
空中像表示装置1Aによって結像される空中像Rは、歪みが5%以下である。また、空中像Rは、MTFで表される、最大値を1に正規化したコントラスト値が、空間周波数3~10サイクル/ミリメートルにおいて、0.2以上である。したがって、後述するように、第1凹面鏡3および第2凹面鏡5を備え、第1凹面鏡3の湾曲度Sa1が第2凹面鏡5の湾曲度Sa2よりも大きい構成である、本実施形態の空中像表示装置1Aの場合、空中像Rは、MTFで表されるコントラスト値が、空間周波数3~10サイクル/ミリメートルにおいて、0.2以上であってもよい。これにより、空中像表示装置1Aは、歪みが低減された、高コントラスト比の空中像Rを表示できる。
反射光学系8Aは、第1凹面鏡3と、第2凹面鏡5とを含んで構成されていてもよい。第1凹面鏡3は、表示装置2から射出される画像光Lの光路上に位置している。第1凹面鏡3は、表示装置2から射出される画像光Lを、表示装置2に向かう方向とは異なる方向に反射する。第2凹面鏡5は、第1凹面鏡3によって反射される画像光Lの光路上に位置している。第2凹面鏡5は、第1凹面鏡3によって反射される画像光Lを、第1凹面鏡3に向かう方向とは異なる方向に反射する。
第1凹面鏡3は、湾曲度がSa1である反射面3aを有している。第2凹面鏡5は、湾曲度がSa2である反射面5aを有している。第1凹面鏡3の湾曲度Sa1は、第2凹面鏡5の湾曲度Sa2よりも大きくてもよい。これにより、表示装置2から射出された画像光Lを第2凹面鏡5に向けて反射する第1凹面鏡3を、表示装置2に近接して配置することができる。その結果、表示装置2および反射光学系8Aの占有空間を削減し小さくすることが可能となるため、空中像表示装置1Aを小型化できる。さらに、空中像表示装置1Aが小型化できることにより、表示装置2の表示面2aと第2凹面鏡5の反射面5aとの間の画像光Lの光路長を短くできるため、不所望な散乱、干渉等による画像光Lの損失を抑制できる。その結果、空中像表示装置1Aの表示品位を向上させることができる。
第1凹面鏡3および第2凹面鏡5は、反射面3a,5aの形状が自由曲面である自由曲面凹面鏡であってもよい。第1凹面鏡3および第2凹面鏡5の反射面3a,5aの形状が自由曲面である場合、反射面3a,5aの形状を、空中像Rの歪みを効果的に低減する形状とすることが容易になる。その結果、空中像Rの歪みを効果的に低減することが可能となる。
空中像Rの仮想結像面に平行な方向(図7におけるY方向)に沿って、第2凹面鏡5の背面側(図7で符号Ybで示す矢印の方向)から第2凹面鏡5を見たとき、第2凹面鏡5は、表示装置2と、第1凹面鏡3とに重なっていてもよい。この場合、表示装置2および反射光学系8Aの占有空間を削減し小さくすることができるため、空中像表示装置1Aを小型化できる。その結果、空中像表示装置1Aの内部における画像光Lの光路長を短くできるため、不所望な散乱、干渉等による画像光Lの損失を抑制できる。ひいては、空中像表示装置1Aの表示品位を向上させることができる。また、第2凹面鏡5の反射面5aは、表示装置2の表示面2aと、第1凹面鏡3の反射面3aとに重なっていてもよい。即ち、反射光学系8Aの光路に直接関係する部位の位置関係を規定してもよい。
空中像Rの仮想結像面に平行な方向(図7におけるY方向)に沿って、第2凹面鏡5の背面側(図7で符号Ybで示す矢印の方向)から第2凹面鏡5を見たとき、第2凹面鏡5は、表示装置2と、第1凹面鏡3とを内包していてもよい。この場合、表示装置2および反射光学系8Aの占有空間をより削減し小さくすることができるため、空中像表示装置1Aをより小型化できる。その結果、空中像表示装置1Aの内部における画像光Lの光路長をより短くできるため、不所望な散乱、干渉等による画像光Lの損失を効果的に抑制できる。ひいては、空中像表示装置1Aの表示品位を効果的に向上させることができる。また、第2凹面鏡5の反射面5aは、表示装置2の表示面2aと、第1凹面鏡3の反射面3aとを内包していてもよい。即ち、反射光学系8Aの光路に直接関係する部位の位置関係を規定してもよい。
反射光学系8Aは、第1凹面鏡3および第2凹面鏡5に加えて、反射部材をさらに有していてもよく、この場合、空中像Rの歪みをより低減することが可能になる。反射光学系8Aが第1凹面鏡3、第2凹面鏡5および反射部材を有する場合、第1凹面鏡3および第2凹面鏡5の位置は、図7に示す位置と異なっていてもよい。反射部材は、画像光Lの、第1凹面鏡3と第2凹面鏡5との間の光路上に位置していてもよい。反射部材は、凸面鏡であり、第1凹面鏡3によって反射された画像光Lを、第2凹面鏡5に向けて反射するように構成されていてもよい。
図8は、空中像表示装置1Aの利用者7が視認する空中像Rを示すシミュレーション結果である。図8では、図3,4と同様に、空中像Rの歪みの視覚的理解を容易にするために、空中像Rを格子状パターンの空中像とするとともに、歪み方向と歪み量とを示す座標軸を記載している。図8において、実線は利用者7が視認する空中像Rを示し、破線は歪みのない理想的な空中像IRを示す。なお、空中像Rの歪みは、平面方向(紙面に平行な方向)の歪み、および奥行方向(紙面に垂直な方向)の歪みを含みうるが、図8は、平面方向の歪みのみを示している。
図8に示すように、空中像の歪みは、空中像Rの外周部に生じやすく、特に空中像Rの四隅の角部LR,UR,LL,ULにおいて歪みが大きくなりやすい。表4は、角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。空中像表示装置1Aは、表4に示すように、角部LR,UR,LL,ULにおける歪みを5%以内に抑えることができる。
図9は、反射光学系8Aが第1凹面鏡3および第2凹面鏡5で構成された空中像表示装置1AにおけるMTF値と空間周波数との関係を示すグラフである。図9のグラフは、図5に示したグラフと同様に、シミュレーションによって得られたものである。シミュレーションは、第1凹面鏡3の湾曲度Sa1を0.25とし、第2凹面鏡5の湾曲度Sa2を0.12として行った。図9では、比較のために、空中像表示装置CにおけるMTF値と空間周波数との関係を破線で示している。図9において、MTF値は、最大値が1になるように正規化している。
図9に示すように、空中像表示装置Cは、空間周波数が1~9サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.2以上となる。これに対して、空中像表示装置1Aは、空間周波数が1~10サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.2以上となる。このように、反射光学系8Aを第1凹面鏡3および第2凹面鏡5で構成することによって、空間周波数の広い範囲で、高コントラスト比の空中像Rを表示できる。
図10は、空中像表示装置1AのMTF値と空中像表示装置CのMTF値との差分ΔMTFと、空間周波数との関係を示している。差分ΔMTFは、空中像表示装置1AのMTF値から空中像表示装置CのMTF値を引いたものである。図10に示すように、空中像表示装置1Aは、空中像表示装置Cと比べて、空間周波数が1~10サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が向上している。反射光学系8Aを第1凹面鏡3および第2凹面鏡5で構成することによって、空間周波数の広い範囲で、空中像Rのコントラスト比を向上させることができる。
図11は、本開示の他の実施形態の空中像表示装置1Bの要部構成を示す側面図である。図12,13は、図11の空中像表示装置1Bの利用者7が視認する空中像Rの一例を示す図である。図14は、図11の空中像表示装置1Bの利用者7が視認する空中像Rを示すシミュレーション結果である。図15,16は、図11の空中像表示装置1Bの変調伝達関数を示すグラフである。
本実施形態の空中像表示装置1Bは、上記実施形態の空中像表示装置1に対して、反射光学系の構成が異なっている。すなわち、表示装置2の表示面2aと、空中像Rの結像面と、が略平行である。換言すると、表示装置2の表示面2aを含む第1仮想面PI1と、空中像Rの結像面を含む第2仮想面PI2と、が略平行である構成である。さらに換言すると、空中像表示装置1Bは、テレセントリック光学系である反射光学系8Bを備える構成である。
テレセントリック光学系は、主光線と光軸とが平行となる光学系である。例えば、表示装置2の表示面2aから射出された画像光Lの主光線Lcと光軸Laxとが平行となる光学系である。画像光Lの主光線Lcは、図11に示すように、表示面2aの或る発光点から第1凹面鏡3と凸面鏡4と第2凹面鏡5を経由して空中像Rの結像面に到達する光束Lsであって、発光点から放射される所定の立体角(画角に基づく)の範囲内の光束Lsの、中心軸に位置する光である。光軸Laxは、表示面2aに直交している。1つの発光点でみた場合、主光線Lcと光軸Laxとは一致する。主光線Lcと光軸Laxとが平行となることから、第1仮想面PI1と第2仮想面PI2とが略平行となる。
上記の構成により、以下の効果を奏する。主光線Lcと光軸Laxとが平行となることから、主光線Lcが光束Lsの最大強度光となる。従って、表示面2aのあらゆる発光点から放射された光束Lsの最大強度光のほぼすべてが、空中像Rの結像面に到達する。その結果、空中像Rの全体の輝度が向上する。また、空中像Rの輝度均一度も向上する。輝度均一度は、{(空中像Rの最小輝度)/(空中像Rの最大輝度)}×100(%)で表わされる。
また、表示面2aの或る発光点から放射される光束Lsの放射強度分布は、ランベルトの余弦則に従った、縦長の近似的余弦曲面形状となる。ランベルトの余弦則は、理想的な拡散放射体で観測される光の放射強度が、放射面(本実施形態の空中像表示装置1Bにおいては表示面2a)の法線との間の角度の余弦と正比例するという法則である。なお、余弦曲面形状は、光の放射強度分布を縦断面でみたとき、放射強度分布の形状が余弦曲線となっている形状である。光束Lsの中心軸に位置する主光線Lcが最大強度光となることから、主光線Lcの強度を光束Lsの全光量の50%以上とすることもできる。従って、空中像表示装置1Bは、表示面2aから放射される画像光Lの全光量の50%以上を空中像Rとして結像させてもよく、70%以上を空中像Rとして結像させてもよく、90%以上を空中像Rとして結像させてもよい。
第1仮想面PI1と第2仮想面PI2とは完全な平行でなくてもよく、-5°~+5°の範囲内で交差していてもよく、-3°~+3°の範囲内で交差していてもよく、-1°~+1°の範囲内で交差していてもよい。すなわち、主光線Lcと光軸Laxとは、-5°~+5°の範囲内で交差していてもよく、-3°~+3°の範囲内で交差していてもよく、-1°~+1°の範囲内で交差していてもよい。
空中像表示装置1Bの第1の構成例と、空中像表示装置1Bの第2の構成例と、について、空中像Rの輝度均一度のシミュレーションを行った。第1の構成例は、第1仮想面PI1と第2仮想面PI2とのなす角度を5.0°としたものであり、第2の構成例は、第1仮想面PI1と第2仮想面PI2とのなす角度を0.7°としたものである。輝度均一度のシミュレーションは、光学シミュレーションプログラムソフト(シノプス社製「Light Tools」)を用いて行った。図12は、第1の構成例についての結果を示す図であり、図13は、第2の構成例についての結果を示す図である。なお、図12,13において、白っぽい部分は輝度が低いことを示し、黒っぽい部分は輝度が高いことを示す。図12に示すように、第1の構成例は、全体的に輝度が低下しており、輝度均一度が64.2%であった。図13に示すように、第2の構成例は、全体的に輝度が向上しており、輝度均一度が80.4%であった。第1仮想面PI1と第2仮想面PI2とを平行に近づけることにより、輝度均一度を向上させることができる。
図14は、空中像表示装置1Bの利用者7が視認する空中像Rを示すシミュレーション結果である。図14は、図3,4,8と同様の表示としている。図14に示すように、空中像Rの歪みは、外周部に生じやすく、特に空中像Rの四隅の角部LR,UR,LL,ULにおいて歪みが大きくなりやすい。表5は、角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。空中像表示装置1Bは、表5に示すように、角部LR,UR,LL,ULにおける歪みを5%以内に抑えることができる。
図15は、空中像表示装置1BにおけるMTF値と空間周波数との関係を示すグラフである。図15のグラフは、シミュレーションによって得られたものである。シミュレーションは、第1凹面鏡3の湾曲度Sa1、第2凹面鏡5の湾曲度Sa2、および凸面鏡4の湾曲度Sbは、図1Bの空中像表示装置1と同様とし、第1仮想面PI1と第2仮想面PI2とのなす角度を0.7°として行った。図15では、比較のために、空中像表示装置CにおけるMTF値と空間周波数との関係を破線で示している。図15において、MTF値は、最大値が1になるように正規化している。
図15に示すように、空中像表示装置Cは、空間周波数が1~9サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.2以上となる。これに対して、空中像表示装置1Bは、空間周波数が1~14サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が0.2以上となる。このように、空中像表示装置1Bは、空間周波数の広い範囲で、高コントラスト比の空中像Rを表示できる。
図16は、空中像表示装置1BのMTF値と空中像表示装置CのMTF値との差分ΔMTFと、空間周波数との関係を示している。差分ΔMTFは、空中像表示装置1BのMTF値から空中像表示装置CのMTF値を引いたものである。図16に示すように、空中像表示装置1Bは、空中像表示装置Cと比べて、空間周波数が1~14サイクル/ミリメートルの範囲でMTF値が向上している。空中像表示装置1Bは、空間周波数の広い範囲で、空中像Rのコントラスト比を向上させることができる。
図17は、本開示の他の実施形態の空中像表示装置1Cの要部構成を示す側面図である。空中像表示装置1Cは、図17に示すように、表示装置2と、第1凹面鏡3と、第2凹面鏡5と、を備え、表示面2aを含む第1仮想平面Pi1に対する第1凹面鏡3の傾斜角度θ1が、空中像の仮想結像面9を含む第2仮想平面Pi2に対する第2凹面鏡5の傾斜角度θ2よりも小さい。
第1凹面鏡3の大きさ(サイズ)は第2凹面鏡5の大きさよりも小さく、第1凹面鏡3の大きさは表示装置2の表示面2aの大きさに近い構成であってもよい。この構成の場合、第1凹面鏡3は、表示面2aから射出された画像光Lのほぼ全部をカバーし、かつ画像光Lをある程度拡大した拡大像として第2凹面鏡5へ向かわせることができる。第1凹面鏡3のサイズは、第1凹面鏡3の反射面3aの最大径の長さ(正面視における最大径の長さともいえる)で規定してもよい。第2凹面鏡5のサイズは、第2凹面鏡5の反射面5aの最大径の長さ(正面視における最大径の長さともいえる)で規定してもよい。第1凹面鏡3の湾曲度が第2凹面鏡5の湾曲度よりも大きい構成であってもよい。この場合、第1凹面鏡3を表示装置2に近接させて配置することができるとともに、第1凹面鏡3で反射された画像光Lが拡散し過ぎることを抑えて、第2凹面鏡5に収まる拡大像として第2凹面鏡5へ向かわせることができる。その結果、画像光Lの拡散による損失を抑えて、画像光Lを効率良く利用することができる。従って、小型の空中像表示装置1Cとすることができるとともに、画像光Lの輝度の低下を抑えることができ、空中像Rの表示品位が向上する。
表示面2aを含む第1仮想平面Pi1に対する第1凹面鏡3の傾斜角度θ1が、空中像の仮想結像面9を含む第2仮想平面Pi2に対する第2凹面鏡5の傾斜角度θ2よりも小さいことから、第1凹面鏡3の傾斜による空中像Rの歪の増大を抑えることができる。第1凹面鏡3の傾斜角度θ1が大きいと、空中像Rの部位による、表示面2aから仮想結像面9に至る光路長の差が大きくなりやすい。特に、空中像Rの中心部と周縁部(矩形状の空中像Rである場合、その4隅部)とで、光路長の差が大きくなりやすい。その結果、空中像Rの周縁部の歪が大きくなりやすい。本実施形態の空中像表示装置1は、空中像Rの部位による、光路長の差を小さくして、空中像Rの特定の部位(例えば、周縁部)の歪を小さくすることができる。
第1凹面鏡3および第2凹面鏡5は、表示装置2から射出された画像光Lを利用者7の視野内に結像する反射光学系である。
第1凹面鏡3は、反射面3aを有する。反射面3aは、図18に示すように、第1湾曲度S1および第2湾曲度S2を有している構成であってもよい。この構成の場合、第1湾曲度S1および第2湾曲度S2は、次のように定義される。図18に示すように、第1凹面鏡3の反射面3aと、反射面3aの頂点(自由曲面の原点ともいう)Oにおいて接する平面を、接平面T1とする。さらに、頂点Oを通り、画像光Lの伝播方向に平行な切断面で切断した第1凹面鏡3の断面を見たときに、反射面3aの両端に位置する点をE1,E2とし、点E1および点E2から接平面T1に対して鉛直に下した垂線の接平面T1との交点をそれぞれH1およびH2とする。また、頂点Oと点H1との距離をL1とし、頂点Oと点H1との距離をL2とし、点E1と点H1との距離をD1とし、点E2と点H2との距離をD2とする。但し、距離L1は距離L2以上とする。以上の場合、第1湾曲度S1は、D1/L1によって定義され、第2湾曲度S2は、D2/L2によって定義される。なお、第1湾曲度S1が断面の取り方によって変化する場合、断面の位置を変えたときのD1/L1の最大値を第1湾曲度S1としてもよい。また、第2湾曲度S2が断面の取り方によって変化する場合、断面の位置を変えたときのD2/L2の最大値を第2湾曲度S2としてもよい。
第1凹面鏡3の湾曲度は、第1湾曲度S1および第2湾曲度S2で定義してもよい。また第1凹面鏡3の湾曲度は、第1湾曲度S1および第2湾曲度S2の平均値で定義してもよい。また第1凹面鏡3の湾曲度は、第1湾曲度S1および第2湾曲度S2のうち大きい方で定義してもよい。
第2凹面鏡5は、反射面5aを有する。反射面5aは、第3湾曲度S3および第4湾曲度S4を有している。第3湾曲度S3は、第1湾曲度S1と同様に定義される。第4湾曲度S4は、第2湾曲度S2と同様に定義される。
第1凹面鏡3は、図17に示すように、表示面2aを含む第1仮想平面Pi1に対して、傾斜角度θ1で傾斜している。傾斜角度θ1は、表示面2aと第1凹面鏡3の接平面T1がなす角度である。第2凹面鏡5は、図17に示すように、空中像Rの仮想結像面9を含む第2仮想平面Pi2に対して、傾斜角度θ2で傾斜している。傾斜角度θ2は、空中像Rの仮想結像面9と第2凹面鏡5の接平面T2とがなす角度である。接平面T2は、第2凹面鏡5の頂点(自由曲面の原点ともいう)において反射面5aと接する平面である。
第1仮想平面Pi1、第2仮想平面Pi2、接平面T1、および接平面T2は、空間において定義される面であるが、コンピュータ援用設計(Computer-Aided Design:CAD)プログラムソフト等によって、パーソナルコンピュータ(PC)端末の表示装置等に表示される設計図面に、明確に図示され得る。
空中像表示装置1Cは、第1凹面鏡3の湾曲度が第2凹面鏡5の湾曲度よりも大きく、かつ傾斜角度θ1が傾斜角度θ2よりも小さい構成であってもよい。なお、本実施形態において、第1凹面鏡3の湾曲度が第2凹面鏡5の湾曲度よりも大きいとは、第1湾曲度S1が第3湾曲度S3よりも大きく、かつ第2湾曲度S2が第4湾曲度S4よりも大きいことを指す。
図19Aは、空中像表示装置1Cの要部構成を斜視図であり、図19Bは、図19AのXIXB部を拡大して示す拡大斜視図である。図19A,19Bに示すように、空中像Rの周縁部に位置する2点をP1,P2とし、空中像Rにおける点P1と点P2とを結ぶ辺部の中点をP3とする。反射面5aから点P1に至る画像光Lの光路長をOL1とする。反射面5aをから点P2に至る画像光Lの光路長をOL2とする。反射面5aから点P3に至る画像光Lの光路長をOL3とする。発明者らは、光路長OL1と光路長OL3との差の絶対値、および、光路長OL2と光路長OL3との差の絶対値を、所定値以下とすることによって、利用者が視認する空中像Rの歪みを低減し得ることを見出した。
以下では、光路長OL1と光路長OL3との差の絶対値、および、光路長OL2と光路長OL3との差の絶対値のうちの大きい方を光路差OPDと称する。発明者らは、第1凹面鏡3の湾曲度を第2凹面鏡5の湾曲度よりも大きくし、かつ傾斜角度θ1を傾斜角度θ2よりも小さくすることによって、光路差OPDを所定値以下とし得ることを見出した。第1凹面鏡3の湾曲度を第2凹面鏡5の湾曲度よりも大きくし、かつ傾斜角度θ1を傾斜角度θ2よりも小さくすることで、第1凹面鏡3によって反射された画像光Lが表示装置2に向かって伝播することを抑えつつ、第1凹面鏡3に入射する画像光Lの入射角を小さくできるため、空中像Rの歪みが低減されると考えられる。空中像表示装置1Cが、図19Aに示すように、利用者7に矩形状の空中像Rを視認させるように構成される場合、図19Bに示すように、点P1および点P2を空中像Rの上辺の両端に位置する点(最も歪が大きくなりやすい点)とすることで、空中像Rの歪みを効果的に低減することができる。また、所定値は、例えば2mmであってもよい。
表6は、光路差OPDを2mm以下とし得る傾斜角度θ1,θ2、第1湾曲度S1、第2湾曲度S2、第3湾曲度S3および第4湾曲度S4の組み合わせの幾つかの例を示している。表6に示すように、第1凹面鏡3の湾曲度が第2凹面鏡5の湾曲度よりも大きくなり、かつ傾斜角度θ1が傾斜角度θ2よりも小さくなるように、傾斜角度θ1,θ2ならびに第1凹面鏡3および第2凹面鏡5の湾曲度を適宜設計することで、光路差OPDを2mm以下とすることができる。その結果、利用者が視認する空中像Rの歪みを低減することができる。表6に示すように、第1凹面鏡3の傾斜角度θ1は35°程度以下であってもよく、30°程度以下であってもよい。また、第2凹面鏡5の傾斜角度θ2は50°程度以下であってもよい。なお、装置No.2の空中像表示装置1は、装置No.1,3,4の空中像表示装置1と比べて、第1凹面鏡3および第2凹面鏡5のサイズが小さい小型の空中像表示装置1に対応する。
第1凹面鏡3の傾斜角度θ1は約22°~約31°であってもよい。第2凹面鏡5の傾斜角度θ2は約35°~約49°であってもよい。θ1が22°未満では、第1凹面鏡3で反射された画像光Lの一部が、第2凹面鏡5の側へ向かわずに表示面2aに戻る傾向がある。θ1が31°を超えると、第1凹面鏡3で反射された画像光Lの歪が大きくなる傾向がある。θ2が35°未満では、空中像Rの仮想結像面9が利用者7の視線方向に対して傾く傾向がある。θ2が49°を超えると、第2凹面鏡5で反射された画像光Lの歪が大きくなる傾向がある。ただし、表示装置2の表示面2aの大きさ、形状、画像光Lの画角(光の広がり)等の要因によって、θ1,θ2は変化する場合があることから、必ずしも上記範囲に限るものではない。
本実施形態においては、例えば、以下のようなθ1、θ2の組合せ値を採用し得るが、これらの組合せ値に限らない。
組合せ値1:θ1=29.64°,θ2=37.92°
組合せ値2:θ1=30.41°,θ2=46.82°
組合せ値3:θ1=22.79°,θ2=37.94°
組合せ値4:θ1=24.25°,θ2=36.67°
尚、θ1は-1.5°~+1.5°程度のずれがあってもよく、θ2は-1.0°~2.0°程度のずれがあってもよい。これらのずれの範囲内であれば、空中像Rの歪を所定値(例えば、10%)以下に抑えることが容易になる。
空中像表示装置1Cでは、第1凹面鏡3の湾曲度S1,S2が第2凹面鏡5の湾曲度S3,S4よりも大きいことから、表示装置2から射出された画像光Lを第2凹面鏡5に向けて反射する第1凹面鏡3を、表示装置2に近接して配置することができる。その結果、表示装置2および反射光学系8の占有空間を削減し小さくする(コンパクトにする)ことが可能となるため、空中像表示装置1Cを小型化できる。さらに、空中像表示装置1Cが小型化できることにより、表示装置2の表示面2aと第2凹面鏡5の反射面5aとの間の画像光Lの光路長を短くできるため、不所望な散乱、干渉等による画像光Lの損失を低減できる。その結果、空中像表示装置1Cの表示品位を向上させることができる。
以上のように、本開示の空中像表示装置1Cによれば、空中像Rの表示品位が向上した、小型の空中像表示装置を提供することができる。
図20は、空中像表示装置1Cの利用者7が視認する空中像Rを示すシミュレーション結果である。図20では、空中像Rの歪みの視覚的理解を容易にするために、空中像Rを格子状パターンの空中像とするとともに、歪み方向および歪み量を示す座標軸を記載している。図20において、実線は利用者7が視認する空中像Rを示し、破線は歪みのない理想的な空中像IRを示す。
図20に示すように、空中像Rの歪みは、空中像Rの外周部に生じやすく、特に空中像Rの四隅の角部(右下角部LR,右上角部UR,左下角部LL,左上角部UL)において歪みが大きくなりやすい。表7は、図4の空中像Rについて、角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。空中像表示装置1Cは、表7に示すように、角部LR,UR,LL,ULにおける歪みを7%以内に抑えることができる。
図21は、空中像表示装置1Cの特徴を有さず、光路差OPDが2mmより大きい空中像表示装置の利用者が視認する空中像Rを示すシミュレーション結果である。図21において、実線は利用者7が視認する空中像Rを示し、破線は歪みのない理想的な空中像IRを示す。表8は、図21の空中像Rについて、角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。
表8に示すように、光路差OPDが2mm以上となる場合、四隅における歪み、特に右上角部URおよび左上角部ULにおける歪みのY成分が大きくなっている。
以上のように、空中像表示装置1Cは、利用者7が視認する空中像Rの歪みを低減することができる。したがって、空中像表示装置1Cによれば、空中像の表示品位が向上した空中像表示装置を提供することができる。
図22は、小型の空中像表示装置1Cの利用者7が視認する空中像Rを示すシミュレーション結果である。小型の空中像表示装置1Cは、表6の装置No.2に対応する空中像表示装置1である。図22において、実線は利用者7が視認する空中像Rを示し、破線は歪みのない理想的な空中像IRを示す。
図22に示すように、空中像Rの歪みは、空中像Rの外周部に生じやすく、特に空中像Rの四隅の角部(右下角部LR,右上角部UR,左下角部LL,左上角部UL)において歪みが大きくなりやすい。表9は、図22の空中像Rについて、角部LR,UR,LL,ULにおける理想的な空中像IRからの歪みを示している。空中像表示装置1は、表9に示すように、角部LR,UR,LL,ULにおける歪みを3%以内に抑えることができる。このように、空中像表示装置1Cは、小型化された場合であっても、空中像Rの歪みを低減できる。
図23は、図1Bの空中像表示装置1における光線の広がりを説明する要部構成の側面図である。図23に示すように、空中像Rの光線の広がり(視野角)は、表示装置の光線の広がりに依存する。例えば、空中像Rのある光点の主光線の周囲に広がる、コントラスト比が90%の周辺光の光線角度(画角ともいう)α2は、表示装置2における同様の光線角度α1の約1/2となる。図24に示すように、表示装置2としての液晶表示装置における主光線に対してコントラスト比が90%の周辺光の光線角度α1は、20°である。従って、空中像Rにおける主光線に対してコントラスト比が90%の周辺光の光線角度α2は、約10°となる。このように、空中像Rのコントラストを向上させるためには、表示装置2から射出される画像光の光線の広がりを抑えることが重要となる。
図25Aは、他の実施形態の空中像表示装置1Dを示す。空中像表示装置1Dは、図1Bの空中像表示装置1に対して、表示装置2の構成が異なり、その他については同様の構成であるので、同様の構成については、詳細な説明を省略する。図25Aは、図1Bの空中像表示装置1において、視野角制御部材としての視野角制御フィルム23を付加した表示装置2の側面図である。空中像表示装置1Dの表示装置2は、バックライト21、液晶表示パネル22、視野角制御フィルム(ルーバーともいう)23を備える。視野角制御フィルム23は、例えば、透明シリコーンゴム等から成る透光層と黒色シリコーンゴム等から成る遮光層を、厚さ方向と直交する方向(面方向)において、交互に積層したルーバーフィルムと、ルーバーフィルムの表面および裏面のそれぞれに貼り合わされた透明樹脂フィルムと、を備える構成であってもよい。このような視野角制御フィルム23として、信越ポリマー株式会社製製品名「シンエツVCF」等がある。視野角制御フィルム23は、液晶表示パネル22の表示面に、透明粘着層、透明粘着テープ、透明粘着フィルム等を介して貼り合わせてもよい。視野角制御フィルム23は、液晶表示パネル22との間に隙間ができるように、液晶表示パネル22から離して配置してもよい。
視野角制御フィルム23は、液晶表示パネル22の表示面から射出される画像光の光線の広がりを抑えて、視野角を狭い範囲に絞ることができる。例えば、視野角制御フィルム23を用いることにより、液晶表示パネル22における、主光線に対してコントラスト比が90%の周辺光の光線角度α1を、最大輝度である中心の光の光軸方向に対して-20°~+20°程度の範囲に狭めることができる。従って、空中像Rにおける、主光線に対してコントラスト比が90%の周辺光の光線角度α2は、α1の半分程度となる。その結果、空中像Rのコントラストが向上する。
図25Aの構成において、バックライト21および液晶表示パネル22に代えて、自発光型表示パネルを用いてもよい。自発光型表示パネルは、ガラス基板等の基板上に、LED素子、有機エレクトロルミネッセンス(Organic Electro Luminescence;OEL)素子、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode;OLED)素子、半導体レーザ(Laser Diode;LD)素子等の自発光素子を、複数個マトリックス状に配列した構成であってもよい。
図25Bは、他の実施形態の空中像表示装置1Eを示す。空中像表示装置1Eは、図1Bの空中像表示装置1に対して、表示装置2の構成が異なり、その他については同様の構成であるので、同様の構成については、詳細な説明を省略する。図25Bは、図1Bの空中像表示装置1において、視野角制御フィルム23を付加した表示装置2の側面図である。表示装置2は、バックライト21と液晶表示パネル22との間に、視野角制御フィルム23が位置する構成である。視野角制御フィルム23は、バックライト21の発光面または液晶表示パネル22の反表示面に、透明粘着層、透明粘着テープ、透明粘着フィルム等を介して貼り合わせてもよい。視野角制御フィルム23は、バックライト21と液晶表示パネル22との間の空間に、バックライト21および液晶表示パネル22から離して配置してもよい。
視野角制御フィルム23は、バックライト21の発光面から出力される光の光線の広がりを抑えて、視野角を狭い範囲に絞ることができる。例えば、視野角制御フィルム23を用いることにより、バックライト21における、主光線に対してコントラスト比が90%の周辺光の光線角度α1を、最大輝度である中心の光の光軸方向に対して-20°~+20°程度の範囲に狭めることができる。従って、空中像Rにおける、主光線に対してコントラスト比が90%の周辺光の光線角度α2は、光線角度α1の半分程度となる。その結果、空中像Rのコントラストが向上する。
図26は、MTF測定装置(解像度測定装置ともいう)31の斜視図である。MTF測定装置31は、空中像表示装置32と、カメラ等の撮像装置37と、検出部38とを含む。MTF測定装置31は、装置台40を含んでよい。空中像表示装置32および撮像装置37は、装置台40上に位置してよい。空中像表示装置32は、図27に示すように、画像表示部33を含み、画像表示部33から射出された画像光Lpを、実像の空中像Rとして結像させる。MTF測定装置31は、空中像Rの結像面(仮想結像面ともいう)Rp内の撮像画像に基づいて、空中像RのMTFまたはMTFの面積を算出する検出部38を備える。MTFの面積は、輝度分布波形の線広がり関数(図31に示す)およびMTFの値と比較して、数値的に10倍~20倍程度以上と大きくなる。例えば、図32のグラフにおいて、空間周波数が6でMTFの値は約0.4であるが、MTFの面積は約8(MTF値の約20倍)である。従って、MTFの面積を解像度の高低を比較する指標として用いると、精度の高い解像度の高低の比較をすることができる。
図27に示すように、空中像表示装置32は筐体36を備えていてもよい。その場合、空中像表示装置32の画像表示部33、光学系35等の構成部材32aは、筐体36に収容される。筐体36は、樹脂製、金属製、セラミック製のものであってもよい。構成部材32aは、回路基板、配線、ケーブル、ヒートシンク等の放熱部材、第1凹面鏡35aを保持する枠状の保持部材、第2凹面鏡35bを保持する枠状の保持部材、第1凹面鏡35aの角度及び位置を調整する調整部材、第2凹面鏡35bの角度及び位置を調整する調整部材等を含んでいてもよい。筐体36は、撮像装置37に臨む部位の少なくとも一部が、構成部材32aから射出される画像光Lpを透過する透光性部材36aで構成されている。空中像表示装置32は、構成部材32a全体を回転させる第2回転装置43を備えていてもよい。第2回転装置43は、空中像表示装置32の構成部材32a全体を、第2回転軸A2まわりに回転させるよう制御する。これにより、空中像Rの光軸方向Daを調整することができる。画像表示部33は、表示パネル34を含む。表示パネル34は、表示面34aを有しており、表示面34aに空中像Rとして結像される画像を表示する。
空中像Rの光軸方向Daは、仮想結像面Rpに直交する方向であってよい。仮想結像面Rpは、空間における空中像Rが結像する仮想的な面である。撮像装置37は、例えば図27に示す利用者7の眼7eとして想定され、空中像表示装置32が結像する空中像Rを撮像する。撮像装置37は、空中像表示装置32の正面の方向に位置している。即ち、撮像装置37は、空中像表示装置32から、空中像Rの光軸方向Daにおいて離隔して位置するように配置される。撮像装置37は、空中像Rを撮像方向37dにおいて撮像してよい。撮像方向37dは、空中像Rの光軸方向Daに一致してよい。撮像方向37dと空中像Rの光軸方向Daを一致させるために、検出部38は、第1回転装置42(図26に示す)が、撮像装置37を所定の回転軸(例えば、図26に示す第1回転軸A1)まわりに回転させるよう制御してよい。
撮像装置37は、複数の撮像素子を含んで構成されてよい。撮像素子は、例えばCCD(Charge Coupled Device)撮像素子であってよいし、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)撮像素子であってよい。撮像装置37は、撮像素子と、対物レンズ等の光学装置と、を含むカメラ(例えば、CCDカメラ)であってもよい。撮像装置37は、絞り値(F値ともいう)が変更可能であってよい。撮像装置37は、例えば、絞り値を2~22の範囲内において変更可能であってよい。撮像装置37は、装置台40の上面40aに対して傾斜して位置していてもよい。即ち、撮像装置37は、その高さ方向(例えば、撮像装置37の上面に直交する方向)が奥行方向(Z1軸方向)と平行な回転軸まわりに3°~5°程度傾斜していてよい。
検出部38は、制御部および演算処理部としての機能を備えていてもよい。また、MTF測定装置31は、取得部44を備えていてもよい。取得部44は、画像データの記憶装置としての機能を備えていてもよい。検出部38および取得部44は、測定装置48(図26に記載)に含まれていてもよい。測定装置48は、パーソナルコンピュータ(Personal Computer:PC)装置等の計算装置に含まれていてもよく、撮像装置37に含まれていてもよい。また、測定装置48は、制御回路部および演算処理回路部を含む回路基板装置であってもよい。検出部38と撮像装置37との信号の送受信の方式、取得部44と撮像装置37との信号の送受信の方式、取得部44と検出部38との信号の送受信の方式は、有線通信方式、無線通信方式、および赤外線通信方式等の少なくとも一種を用いたものであってもよい。
検出部38は、MTF測定装置31の制御部として機能し得る。即ち、検出部38は、MTF測定装置31の各構成要素に接続され、各構成要素を制御し得る。検出部38は、1つまたは複数のプロセッサを含んでよい。プロセッサは、特定のプログラムを読み込ませて特定の機能を実行するように構成される汎用のプロセッサ、および特定の処理に特化した専用のプロセッサの少なくとも一方を含んでよい。専用のプロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)を含んでいてもよい。プロセッサは、PLD(Programmable Logic Device)を含んでよい。PLDは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)を含んでいてもよい。検出部38は、1つまたは複数のプロセッサが協働するように構成されるSoC(System-on-a-Chip)、およびSiP(System In a Package)の少なくとも一方を含んでよい。
検出部38は、空中像Rのテストパターン等の撮像画像の画像データに基づいて、MTFまたはMTFの面積を求めるための演算処理を実行する演算部を有していてもよい。即ち、撮像装置37が、結像面Rp内の少なくとも1つの撮像部位を撮像した撮像画像を生成したときに、検出部38は、撮像画像の画像データを取得する。この取得の制御は、取得部44(図26に記載)を介して実行してもよい。取得部44は、バッファメモリ等の一時記憶装置であってもよい。例えば、撮像装置37が撮像画像を生成したら、撮像画像の画像データを、取得部44に自動的に出力してもよい。また、取得部44の記憶領域が空いているか否か、取得部44から検出部38への前回の画像データの出力が終わっているか否かの確認を、確認信号のやり取りによって行った後に、撮像装置37から画像データを取得部44に出力してもよい。検出部38は、撮像装置37から撮像画像の画像データを取得し、画像データに基づいて演算処理し、撮像画像のMTFまたはMTFの面積を算出する。
MTFまたはMTFの面積を算出するためのテストパターン39は、図28に示すように、第1帯状画像39aおよび第2帯状画像39bの繰り返しパターンであってよい。尚、図28は、ぼけ(解像度劣化)ない理想的なテストパターン39を示している。第1帯状画像39aおよび第2帯状画像39bは、結像面Rp内の幅方向(Y1軸方向)に略直交する高さ方向(X1軸方向)に細長い画像であってよい。テストパターン39は、少なくとも3つの第1帯状画像39aを含んでよい。図28は、第1帯状画像39aが白画像であり、第2帯状画像39bが黒画像である例を示しているが、これに限定されない。第1帯状画像39aと第2帯状画像39bとは、輝度および色のうちの少なくとも一方が異なっていればよい。図29は、撮像装置37の高さ方向(例えば、撮像装置37の上面に直交する方向)が奥行方向(Z1軸方向)と平行な回転軸まわりに3°~5°程度傾斜している場合のテストパターン39を示す。図30は、ぼけ(解像度劣化)が生じているテストパターン39を示している。
奥行方向(Z1軸方向)における撮像装置37と空中像Rとの距離(撮像距離ともいう)は、例えば300mm~700mmであってよいし、500mmであってよい。撮像距離は、撮像装置37と空中像Rの中心付近との距離であってよい。撮像装置37の焦点距離は、所定の焦点距離に固定されている。所定の焦点距離は、撮像距離に一致してよい。以下では、特に断らない限り、撮像距離は、撮像装置37の焦点距離に設定されているものとする。尚、撮像距離は、変更可能であってもよい。例えば、移動装置41が撮像距離を変更するように、検出部38が制御してもよい。検出部38は、撮像装置37の焦点距離と撮像距離が一致する位置を検出するために、移動装置41を制御してもよい。
検出部38は、撮像装置37の絞り値を3以下(例えば2.3)に設定するよう制御してよい。撮像装置37の絞り値を比較的小さい値に設定することで、撮像装置37の被写界深度(被写界焦点深度ともいう)を浅く(短く)することができる。即ち、奥行方向において被写体に焦点の合う範囲を小さく(狭く)することができる。その結果、奥行方向における空中像Rの位置を精度よく検出することができる。
MTF測定装置31は、図26に示すように、撮像装置37を奥行方向に沿って移動させる移動装置41を含んでよい。移動装置41は、撮像装置37を所定距離ΔZ単位で移動させうるように構成される。所定距離ΔZは、例えば、1mm~5mm程度であってよいし、1mm~2mm程度であってよい。移動装置41は、例えば、レール41rと、保持部材(支持部材ともいう)41hと、保持部材41hを上面の側に設置した移動台(スライダーともいう)41tと、を含んで構成される。レール41rは、装置台40の上面40aに位置し、奥行方向に沿って延びている。保持部材41hは、撮像装置37を支持し保持している。保持部材41hが撮像装置37を保持した状態で、移動台41tがレール41r上を奥行方向に沿って移動することができる。奥行方向に沿った移動台41tの移動は、検出部38によって制御されてもよい。
MTFは、以下の方法によって算出してよい。第1の算出方法は、テストパターン39の第1帯状画像(白線部)39aの輝度分布波形(図31に示す)に基づいて、MTFを求める方法である。第2の算出方法は、図33,34に示すチャート法によって算出する方法である。
第1の算出方法について説明する。まず、例えば、撮像装置37によって図30に示す第1帯状画像(白線部)39aの撮像部位F1を撮像し、撮像画像C1の画像データを取得する。撮像画像C1の画像データを検出部38によって演算処理し、図31に示すような輝度分布波形を算出する。輝度分布波形は、1つの第1帯状画像39aの複数の撮像部位について、それぞれ算出し、平均化処理してもよい。また、輝度分布波形は、複数の第1帯状画像39aの各撮像部位について、それぞれ算出し、平均化処理してもよい。輝度分布波形は、Y1軸方向の位置による輝度の変化を表すパルス状の波形である。図31の横軸は、Y1軸方向の位置の変化を表す。図31は、Y1軸方向における複数の画素(例えば、60個の画素)内において、30個目の画素の位置に輝度分布波形の最高値(ピーク値)が位置するように表示している。輝度分布波形は、線広がり関数(Line Spread Function:LSF)とも称される。線広がり関数LSFは、図31に示すように、略ガウス型の形状を有する。線広がり関数は、ピーク値Hおよび半値幅Wで特徴付けられてもよい。ピーク値Hは、線広がり関数の最大値である。例えば、線広がり関数のピーク値Hが大きいほど、撮像距離が撮像装置37の焦点距離に近いと判断できる。半値幅Wは、ピーク値Hの略50%の輝度を有する線広がり関数の幅であり、画素数を単位として表される。例えば、線広がり関数の半値幅Wが小さいほど、撮像距離が撮像装置37の焦点距離に近いと判断できる。また、ピーク値Hを半値幅Wで除算して得られる組み合わせ値が大きいほど、撮像距離が撮像装置37の焦点距離に近いと判断できる。
尚、線広がり関数LSFの半値幅(half width)は、パルス状(山形状)の関数の広がりの程度を表す指標である。半値全幅(full width at half maximum:FWHM)と、その半分の値の半値半幅(half width at half maximum:HWHM)とがあるが、一般に単に半値幅という場合、半値幅は半値全幅のことを指す。従って、本開示において、特にことわらない場合、半値幅は半値全幅のことを意味する。具体的には、半値幅(半値全幅)は、図31に示す輝度分布波形において、ピーク値Hの周囲で単調に減少する分布の広がりを示す数値で、ピーク値Hの両側でピーク値Hの半分の値が示す位置の間の距離である。
次に、線広がり関数LSFをフーリエ変換することによって、変調伝達関数MTFを算出する。尚、フーリエ変換は、例えば、パルス状の波形で表される関数を、周波数領域で連続的な値で表される曲線(正弦波形曲線、余弦波形曲線、またはそれらの合成曲線で表される連続的な曲線)に変換する操作である。
式(3)において、LSF(x)は、撮像画像内の位置xの関数としての線広がり関数LSFを総括的に表し、MTF(ν)は、空間周波数νの関数としてのMTFを総括的に表し、Cは、MTF(0)を「1」に正規化するための定数である。図32は、MTF(ν)の一例を示すグラフである。MTF(ν)は、撮像画像のコントラストに基づく解像度を表す指標である。例えば、空間周波数νが高い領域(6/mm~16/mm程度)におけるMTFの値が大きいほど、撮像距離が撮像装置37の焦点距離に近いと判断できる。式(1)における積分区間の上限および下限はそれぞれ、有限値(例えば、空間周波数0~18(1/mm))に置き換えてよく、この場合、検出部38の処理負担を軽減することができる。式(1)によってMTFを算出する際、離散フーリエ変換または高速フーリエ変換等の手法を用いてよい。
図32において、実線で示すMTF1は、空中像RのMTFが画像表示部33のMTFと同等である場合のMTFであり、理想的なMTFを示す。破線で示すMTF2は、空中像RのMTFが画像表示部33のMTFから低下している(解像度が低下している)場合のMTFである。
尚、検出部38は、次の式(4)で表されるように、MTFを空間周波数軸において積分して成る面積(以下、MTF面積ともいう)Sを算出してもよい。式(4)における積分区間の上限は、有限値(例えば、空間周波数0~18(1/mm))に置き換えてよく、この場合、検出部38の処理負担を軽減することができる。
MTFの面積は、例えば、図32のグラフの実線で表したMTF1の面積(斜線部)で示す。空中像Rの解像度が劣化した場合、撮像部位のMTFの面積(図32のグラフの破線で表したMTF2の面積)は上限値(図32のグラフの実線で表したMTF1の面積)から低下する。MTFの面積は撮像装置37の絞り値によって変化するため、一概に特定の値にはならないが、例えば図32の例では7~9程度が上限値(理想値)である。
次に、第2の算出方法について説明する。検出部38は、MTFをチャート法によって算出する場合、空中像表示装置32が、図33に示すような空中像39’を結像するよう制御する。尚、図33は、ぼけ(解像度劣化)がない理想的な空中像39’を示している。空中像39’は、撮像部位が、空間周波数(白画像部分のピッチ)が互いに異なる複数の矩形波チャート9c,9d,9e,9fを含むように構成される。従って、撮像画像は、図34に示すように、空間周波数νが互いに異なる複数の矩形波チャート9c~9fの像を含む。検出部38は、撮像装置37が、空中像39’を撮像し、撮像部位を撮像した撮像画像を生成し、撮像画像の画像データを出力するよう制御する。撮像装置37は、空中像39’を撮像する際、装置台40の上面40aに対して傾斜いなくてよい。検出部38は、撮像画像について、各矩形波チャート9c~9fを撮像した部分像の輝度の最大値aνおよび最小値bν、ならびにコントラストcν=(aν-bν)/(aν+bν)を算出する。さらに、検出部38は、各空間周波数νのコントラストcνを最も低い空間周波数νのコントラストcνで正規化し、矩形波レスポンス関数(Square Wave Response Function:SWRF)を算出する。検出部38は、矩形波レスポンス関数を正弦波レスポンス関数に変換し、MTFを算出する。矩形波レスポンス関数を正弦波レスポンス関数に変換する際、コルトマンの式を用いてよい。コルトマンの式は、第4項まで用いてよいし、第12項まで用いてもよい。
空間周波数をu、コントラスト比をCont(u)、最大輝度をImax(u)、最小輝度をImin(u)とすると、Cont(u)は下記式で表される。
矩形波レスポンス関数(Square Wave Response Function)SWRF(u)は、空間周波数0におけるコントラスト比をCont(0)とすると、式(6)で表される。
コルトマンの変換の式を用いることで、式(7)で表される正弦波レスポンス関数(MTF)を求めることができる。
ただし、m=nのとき、Bk=(-1)n(-1)k-1であり、m>nのとき、Bk=0である。ここで、mは、(2k-1)を素因数分解したときの素数の総数であり、nは、(2k-1)を素因数分解したときの素数の種類の数である。たとえば、式(7)を第12項まで展開した場合、MTFは、以下の式(8)で表される。
空中像表示装置10,1,1A,1B,1C,1D,1Eは、車両、船舶、航空機等の移動体、すなわち乗り物に搭載されていてもよい。車両は、例えば、自動車、産業車両、鉄道車両、生活車両、滑走路を走行する固定翼機等を含む。自動車は、例えば、乗用車、トラック、バス、二輪車、トロリーバス等を含む。産業車両は、例えば、農業および建設向けの産業車両等を含む。産業車両は、例えば、フォークリフト、ゴルフカート等を含む。農業向けの産業車両は、例えば、トラクター、耕耘機、移植機、バインダー、コンバイン、芝刈り機等を含む。建設向けの産業車両は、例えば、ブルドーザー、スクレーパー、ショベルカー、クレーン車、ダンプカー、ロードローラ等を含む。車両は、人力で走行するものを含んでいてもよい。船舶は、例えば、マリンジェット、ボート、タンカー等を含む。航空機は、例えば、固定翼機、回転翼機等を含む。空中像表示装置10,1,1A,1B,1C,1D,1Eは、移動体のダッシュボード内に配置されていてもよい。
空中像表示装置10,1,1A,1B,10C,10D,10Eを含む移動体は、利用者(例えば、移動体の運転者)に歪みが少なく、高輝度および高コントラスト比を有する空中像Rを視認させることができる。空中像Rは、移動体の状態(例えば、移動体の速度、加速度、姿勢等)、移動体の周囲状況等に関する情報を含んでいてもよい。
空中像表示装置10,1,1A,1B,1C,1D,1Eは、利用者7の顔を撮像するカメラを備えていてもよい。カメラは、赤外光カメラであってもよく、可視光カメラであってもよい。カメラは、CCDイメージセンサ、またはCMOSイメージセンサを含んでいてもよい。制御装置6は、カメラから出力される撮像データに基づいて、利用者7の眼の位置を検出してもよい。制御装置6は、検出した眼の位置に基づいて、表示面2aに表示する画像を変形させてもよい。この場合、利用者7の眼の位置が移動したときも、空中像Rの歪みを低減することが可能となる。空中像表示装置10,1,1A,1B,1C,1D,1Eが移動体に搭載される場合、カメラは移動体に取り付けられていてもよい。カメラは、例えば、移動体のダッシュボード内に位置していてもよく、ダッシュボード上に位置していてもよい。
空中像表示装置10は、凸面鏡4および結像凹面鏡5のうちの少なくとも1つを移動させる駆動装置を備えていてもよい。空中像表示装置1,1B,1D,1Eは、第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5のうちの少なくとも1つを移動させる駆動装置を備えていてもよい。空中像表示装置1A,1Cは、第1凹面鏡3および第2凹面鏡5のうちの少なくとも1つを移動させる駆動装置を備えていてもよい。駆動装置は、上記の調整部材を含んでもよい。制御装置6は、検出した眼の位置に基づいて、空中像表示装置10の凸面鏡4および結像凹面鏡5のうちの少なくとも1つを移動させるように駆動装置を制御してもよく、空中像表示装置1,1B,1D,1Eの第1凹面鏡3、凸面鏡4および第2凹面鏡5のうちの少なくとも1つを移動させるように駆動装置を制御してもよく、空中像表示装置1A,1Cの第1凹面鏡3および第2凹面鏡5のうちの少なくとも1つを移動させるように駆動装置を制御してもよい。この場合、利用者7の眼の位置が移動したときも、空中像Rの歪みを低減することが可能となる。駆動装置は、例えばモータ、圧電素子等を含んで構成されていてもよい。
空中像表示装置10,1,1A,1B,1C,1D,1Eは、乗り物に設置されるヘッドアップディスプレイであってもよい。この場合、例えば、乗り物のフロントウィンドシールドの一部を反射部材とし、その反射部材を結像凹面鏡5または第2凹面鏡5に代えて使用してもよい。空中像表示装置10,1,1A,1B,1C,1D,1Eは、その反射部材を介して利用者が空中像Rを視認する構成であってもよい。反射部材は、半透過反射型(約半分の光を透過させ、約半分の光を反射するもの)であってもよい。
空中像表示装置1,1A,1Bは、図1B,図7,図11に示すように、空中像表示装置1,1A,1Bを側方からみたときに、第1凹面鏡3と第2凹面鏡5との間に、表示装置2(および凸面鏡4)が位置している構成であってもよい。換言すると、空中像表示装置1,1A,1Bは、第1凹面鏡3が最下位置または最上位置にあり、第2凹面鏡5が最上位置または最下位置にある構成であってもよい。この場合、空中像表示装置1,1A,1Bの高さを低くし、小型化することが容易になる。
本開示の空中像表示装置によれば、空中像の表示品位が向上した空中像表示装置を提供することができる。
以上、本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示は上述の実施の形態に限定されず、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更、改良等が可能である。
本開示は、以下の(1)~(10)の構成で実施可能である。
(1)表示装置と、
前記表示装置から射出された画像光を反射する凸面鏡と、
前記凸面鏡によって反射された前記画像光を、前記凸面鏡に向かう方向とは異なる方向に反射し、実像の空中像として結像する凹面鏡と、を備え、
前記凹面鏡の湾曲度が、前記凸面鏡の湾曲度よりも大きい、空中像表示装置。
(2)表示装置と、
前記表示装置から射出された画像光を、前記表示装置に向かう方向とは異なる方向に反射する第1凹面鏡と、
前記第1凹面鏡によって反射された前記画像光を、前記第1凹面鏡に向かう方向とは異なる方向に反射する凸面鏡と、
前記凸面鏡によって反射された前記画像光を、前記凸面鏡に向かう方向とは異なる方向に反射し、実像の空中像として結像する第2凹面鏡と、を備え、
前記第1凹面鏡の湾曲度をSa1とし、前記凸面鏡の湾曲度をSbとし、前記第2凹面鏡の湾曲度をSa2としたとき、Sa1>Sa2>Sbである、空中像表示装置。
(3)前記第2凹面鏡の反射面の最大径の長さが、前記第1凹面鏡の反射面の最大径の長さよりも大きい、上記構成(2)に記載の空中像表示装置。
(4)前記第1凹面鏡および前記第2凹面鏡は、自由曲面凹面鏡であり、
前記凸面鏡は、自由曲面凸面鏡である、上記構成(2)または(3)に記載の空中像表示装置。
(5)前記空中像の仮想結像面に平行な方向に沿って、前記第2凹面鏡の背面側から前記第2凹面鏡を見たとき、前記第2凹面鏡が、前記表示装置と、前記第1凹面鏡と、前記凸面鏡とに重なっている、上記構成(2)~(4)のいずれかに記載の空中像表示装置。
(6)前記空中像の仮想結像面に平行な方向に沿って、前記第2凹面鏡の背面側から前記第2凹面鏡を見たとき、前記第2凹面鏡は、前記表示装置と、前記第1凹面鏡と、前記凸面鏡とを内包している、上記構成(2)~(5)のいずれかに記載の空中像表示装置。
(7)前記表示装置の表示面と前記空中像の仮想結像面とが略平行である、上記構成(2)~(6)のいずれかに記載の空中像表示装置。
(8)前記表示装置から射出された前記画像光の主光線と光軸とが略平行である、上記構成(2)~(7)のいずれかに記載の空中像表示装置。
(9)表示装置と、
前記表示装置から射出された画像光を反射し、実像の空中像として結像する反射光学系と、を備え、
前記空中像は、歪みが5%以下であるとともに、変調伝達関数で表される、最大値を1に正規化したコントラスト値が、空間周波数3~10サイクル/ミリメートルにおいて、0.2以上である、空中像表示装置。
(10)前記反射光学系は、前記表示装置から射出された画像光を、前記表示装置に向かう方向とは異なる方向に反射する第1凹面鏡と、
前記第1凹面鏡によって反射された前記画像光を、前記第1凹面鏡に向かう方向とは異なる方向に反射し、実像の空中像として結像する第2凹面鏡と、を備え、
前記第1凹面鏡の湾曲度が前記第2凹面鏡の湾曲度よりも大きい、構成(9)に記載の空中像表示装置。
(11)前記第1凹面鏡および前記第2凹面鏡は、自由曲面凹面鏡である、上記構成(10)に記載の空中像表示装置。
産業上の利用分野
本開示の空中像表示装置は、空中像をタッチレスで操作することを可能にし、その結果以下のような種々の製品分野において利用できるが、以下に限るものではない。例えば、空中像を伴って会話・通信等を行う通信装置、医師が患者に空中像を通して問診を行う医療用の問診装置、自動車等の乗り物用のナビゲーション装置・運転制御装置、店舗等用の注文発注受注装置・レジスタ装置、建築物・エレベーター等用の操作パネル、空中像を伴って授業をし、または授業を受ける学習装置、空中像を伴って業務連絡・指示等を行う事務機器、空中像を伴って遊戯を行う遊戯機、遊園地・ゲームセンター等で地面・壁面等に画像を投影する投影装置、大学・医療機関等において空中像によって模擬実験等を行うためのシミュレーター装置、市場・証券取引所等で価格等を表示する大型ディスプレイ、空中像の映像を鑑賞する映像鑑賞装置などである。