JP7441760B2 - ブレーキパッド用複合酸化物粉末、ブレーキパッド用摩擦材組成物、及び、ブレーキパッド用摩擦材 - Google Patents

ブレーキパッド用複合酸化物粉末、ブレーキパッド用摩擦材組成物、及び、ブレーキパッド用摩擦材 Download PDF

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Description

本発明は、ブレーキパッド用複合酸化物粉末、ブレーキパッド用摩擦材組成物、及び、ブレーキパッド用摩擦材に関する。
自動車などの制動にはブレーキパッドが多く使用される。従来、ブレーキパッドは、アスベストを添加して所望の性能を得ることが主流であった。しかしながら、近年、環境負荷の問題からアスベストフリーのブレーキパッドが要求され、活発に研究開発されている。
また、従来、一般的に、ブレーキパッドに使用される摩擦材には、ジルコン原鉱石の粉末、又は、原鉱石から珪素等の不純物を除去した酸化ジルコニウムの粉末が用いられることが多い。しかしながら、近年の原料価格の高騰、鉱石由来の放射性元素を含有している等の問題が発生している。
特許文献1には、酸化マグネシウムを含み、さらに、酸化カルシウム(CaO)、アルミナ(Al)、酸化マンガン(Mn)、酸化鉄(Fe)及び硫酸バリウム(BaSO)の一種以上を含む摩擦材パッドが開示されている。
特許文献2には、石綿を除く繊維状物質、無機質摩擦調整剤、有機質摩擦調整剤及び結合剤を含む摩擦材組成物であって、無機質摩擦調整剤として活性アルミナを含み、有機質摩擦調整剤としてフッ素系ポリマーを含んでなる摩擦材組成物の加熱加圧成形物からなる摩擦材成形物が開示されている。
特許文献3には、結合剤、有機充填材、無機充填材および繊維基材を含む摩擦材組成物であって、フェロアロイ粒子を0.1~3質量%含む摩擦材組成物が開示されている。
特表平9-502750号公報 特開2011-17016号公報 特開2017-186469号公報
近年、アスベストを使用しないブレーキパッド(ノンアスベストオーガニックブレーキパッド(NAOブレーキパッド))の研究開発が進められている。また、近年、高いμ値を有するブレーキパッドが求められる傾向にあるが、高μ値にすることで、急ブレーキ時のμ値と軽いブレーキ時のμ値との差が大きくなりやすいという問題が発生する。急ブレーキ時のμ値と軽いブレーキ時のμ値との差が大きくなると、ブレーキング時の違和感につながることとなる。
以下、本明細書では、急ブレーキ時のμ値と軽いブレーキ時のμ値との差が小さいことを摩擦安定性に優れるという。
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ブレーキパッドの摩擦材に使用すると、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れる摩擦材を得ることを可能とする複合酸化物粉末を提供することにある。また、本発明の他の目的は、当該複合酸化物粉末を含む摩擦材組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、当該摩擦材組成物の成形体で構成された摩擦材を提供することにある。
本発明者らは、ブレーキパッドの摩擦材に使用する粉末について鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、アルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンを特定の含有量で含む複合酸化物粉末をブレーキパッドの摩擦材に使用すると、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れる摩擦材が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るブレーキパッド用複合酸化物粉末は、
アルミニウムの含有量が酸化物換算で50質量%以上65質量%以下であり、
ケイ素の含有量が酸化物換算で15質量%以上25質量%以下の範囲内であり、
鉄の含有量が酸化物換算で10質量%以上21質量%以下の範囲内であり、
チタンの含有量が酸化物換算で4質量%以上10質量%以下の範囲内であり、
比表面積が0.5m/g以上6.2m/g以下であり、
結晶子径が100nm以上800nm以下であり、
粒子径D50が0.5μm以上3μm以下であり、
粒子径D99が15μm以下であり、
FeTiO及びFeTiOの結晶相を含むことを特徴とする。
本発明によれば、アルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンを特定の含有量で含むため、当該ブレーキパッド用複合酸化物粉末をブレーキパッドの摩擦材に使用すると、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れる摩擦材が得られる。このことは、実施例の結果からも明らかである。本発明者らは、当該ブレーキパッド用複合酸化物粉末をブレーキパッドの摩擦材に使用すると、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れる摩擦材が得られる理由について、以下のように推察している。
本発明のブレーキパッド用複合酸化物粉末は、アルミナを含むため、μ値を高くすることができる。ここで、FeTiOのモース硬度は5.5であり、FeTiOのモース硬度は6であり、アルミナと比較して低い。本発明のブレーキパッド用複合酸化物粉末では、FeTiO及びFeTiOを含むため、モース硬度の高いアルミナとバランスさせることができ、μ値を適度に高く維持することができるとともに、摩擦安定性を良好とすることができる。
また、本発明のブレーキパッド用複合酸化物粉末によれば、比表面積が0.5m/g以上6.2m/g以下であるため、前記複合酸化物粉末は、所望の結晶性及び強度を有する溶融固化物とし易い。
また、本発明のブレーキパッド用複合酸化物粉末によれば、結晶子径が100nm以上であるため、充分な結晶成長ができており、高μ値であり且つ摩擦安定性を有するブレーキパッド用摩擦材を容易に作製することができる。また、結晶子径が800nm以下であるため、生産性に優れる。
また、本発明のブレーキパッド用複合酸化物粉末によれば、粒子径D50が3μm以下であり、粒子径D99が15μm以下であるめ、高μ値であり且つ摩擦安定性を有するブレーキパッド用摩擦材を容易に作製することができる。
なお、特許文献1~3には、アルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンの4つの元素を特定の含有量で含む複合酸化物粉末は開示されていない。また、特許文献1~3には、高μ値を有し、且つ、摩擦安定性に優れるという特性を兼ね備えるという効果についても開示されていない。
また、本発明に係るブレーキパッド用摩擦材組成物は、摩擦調整剤と、繊維基材と、結合剤とを含み、
前記摩擦調整剤として、前記ブレーキパッド用複合酸化物粉末を含むことを特徴とする。
前記構成によれば、摩擦調整剤として、前記ブレーキパッド用複合酸化物粉末を含むため、当該摩擦材組成物を成形し、ブレーキパッドの摩擦材に使用すると、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れるブレーキパッド用摩擦材を得ることが可能となる。
前記構成において、前記ブレーキパッド用複合酸化物粉末の含有量が、ブレーキパッド用摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、5質量%以上20質量%以下の範囲内であることが好ましい。
前記ブレーキパッド用複合酸化物粉末の含有量が、ブレーキパッド用摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、5質量%以上20質量%以下の範囲内であると、高μ値等の特性をより容易に得ることができる。
また、本発明に係るブレーキパッド用摩擦材は、前記ブレーキパッド用摩擦材組成物の成形体で構成されていることを特徴とする。
前記構成によれば、前記ブレーキパッド用摩擦材組成物の成形体で構成されているため、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れるブレーキパッド用摩擦材を得ることが可能となる。
前記構成においては、自動車技術会規格JASO C406に準じて下記測定条件Bにて測定される摩擦係数の平均値であるすり合わせμ値が0.43以上であることが好ましい。
<測定条件B>
制動初速度65km/h
制動前ブレーキ温度120℃
制動減速度0.35G
測定回数200回
前記すり合わせμ値が0.43以上であると、少ない押圧でより強い制動力が得られる。
前記構成においては、自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Cにて測定される第2効力試験での測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Xとし、
自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Dにて測定される第2効力試験での測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Yとしたとき、
摩擦係数の差[(摩擦係数X)-(摩擦係数Y)]が、0.12以下であることが好ましい。
<測定条件C>
制動初速度100km/h
制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.2G
測定回数8回
<測定条件D>
制動初速度100km/h
制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.7G
測定回数8回
前記摩擦係数の差[(摩擦係数X)-(摩擦係数Y)]が、0.12以下であると、ブレーキング時の違和感をさらに低減することができる。
本発明によれば、ブレーキパッドの摩擦材に使用すると、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れる摩擦材を得ることを可能とするブレーキパッド用複合酸化物粉末を提供することができる。また、当該ブレーキパッド用複合酸化物粉末を含むブレーキパッド用摩擦材組成物を提供することができる。また、当該ブレーキパッド用摩擦材組成物の成形体で構成されたブレーキパッド用摩擦材を提供することができる。
実施例1~実施例5に係るブレーキパッド用複合酸化物粉末のX線回折スペクトルである。
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。なお、本明細書において、ジルコニア(酸化ジルコニウム)とは一般的なものであり、ハフニアを含めた10質量%以下の不純物金属化合物(不可避不純物)を含むものである。
[ブレーキパッド用複合酸化物粉末]
本実施形態に係るブレーキパッド用複合酸化物粉末(以下、「複合酸化物粉末」ともいう)は、
アルミニウムの含有量が酸化物換算で50質量%以上65質量%以下であり、
ケイ素の含有量が酸化物換算で15質量%以上25質量%以下の範囲内であり、
鉄の含有量が酸化物換算で10質量%以上21質量%以下の範囲内であり、
チタンの含有量が酸化物換算で4質量%以上10質量%以下の範囲内であり、
比表面積が0.5m/g以上6.2m/g以下であり、
結晶子径が100nm以上800nm以下であり、
粒子径D50が0.5μm以上3μm以下であり、
粒子径D99が15μm以下であり、
FeTiO及びFeTiOの結晶相を含む。
(複合酸化物粉末の組成)
本実施形態に係る複合酸化物粉末は、全体としてアルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンを含んでおり、複数種の酸化物の複合体として形成されている。複数種の酸化物の複合体とは、組成比率の異なる2つ以上の酸化物が合わさって一体となったものをいう。
なお、本実施形態に係る複合酸化物粉末は、アルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンを含む複合酸化物の粉末であり、アルミナ、シリカ、酸化鉄、チタニアの混合物ではないが、これらを含んでいても構わない。
前記複合酸化物粉末に含まれるアルミニウムの含有量は、酸化物換算で50重量%以上であり、好ましくは52重量%以上、より好ましくは54重量%以上、さらに好ましくは56重量%以上である。
前記複合酸化物粉末に含まれるアルミニウムの含有量は、酸化物換算で65重量%以下であり、好ましくは62重量%以下、より好ましくは61重量%以下、さらに好ましくは60重量%以下である。
前記複合酸化物粉末に含まれるケイ素の含有量は、酸化物換算で15重量%以上であり、好ましくは17重量%以上、より好ましくは18重量%以上、さらに好ましくは19重量%以上である。
前記複合酸化物粉末に含まれるケイ素の含有量は、酸化物換算で25重量%以下であり、好ましくは24重量%以下、より好ましくは23重量%以下、さらに好ましくは22重量%以下である。
前記複合酸化物粉末に含まれる鉄の含有量は、酸化物換算で10重量%以上であり、好ましくは11重量%以上、より好ましくは12重量%以上、さらに好ましくは13重量%以上である。
前記複合酸化物粉末に含まれる鉄の含有量は、酸化物換算で21重量%以下であり、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは18重量%以下、さらに好ましくは17重量%以下、特に好ましくは16重量%以下である。
前記複合酸化物粉末に含まれるチタンの含有量は、酸化物換算で4重量%以上であり、好ましくは5重量%以上、より好ましくは6重量%以上、さらに好ましくは6.5重量%以上である。
前記複合酸化物粉末に含まれるチタンの含有量は、酸化物換算で10重量%以下であり、好ましくは9重量%以下、より好ましくは8重量%以下、さらに好ましくは7.5重量%以下である。
前記複合酸化物粉末は、アルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンを上記の含有量で含むため、当該複合酸化物粉末をブレーキパッドの摩擦材に使用すると、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れる摩擦材が得られる。このことは、実施例の結果からも明らかである。
前記複合酸化物粉末は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、その他の元素が含まれていても構わない。前記その他の元素としては、アルカリ元素、アルカリ土類元素、遷移金属元素が挙げられる。
アルカリ土類元素としては、カルシウムが好ましい。カルシウムを含む場合には、当該複合酸化物粉末は結晶相が安定し、より高μを得ることができる。カルシウムを含める場合、前記複合酸化物粉末に含まれるカルシウムの含有量は、酸化物換算で0.01重量%以上0.7重量%以下、0.1重量%以上0.5重量%以下、0.2重量%以上0.4重量%以下等とすることができる。
(比表面積)
前記複合酸化物粉末の比表面積は、0.5m/g以上6.2m/g以下である。前記比表面積は、1m/g以上であることが好ましく、1.5m/g以上であることがより好ましく、1.8m/g以上であることがさらに好ましく、2m/g以上であることが特に好ましい。
前記比表面積は、5.7m/g以下であることが好ましく、5.5m/g以下であることがより好ましく、5.3m/g以下であることがさらに好ましく、5m/g以下であることが特に好ましく、4.7m/g以下であることが特別に好ましい。
前記比表面積が0.5m/g以上6.2m/g以下であると、前記複合酸化物粉末は、所望の結晶性及び強度を有する溶融固化物とし易い。なお、製法の特性上、溶融固化物の中には半溶融固化物も含み得る。
前記比表面積を有する複合酸化物粉末を得る方法としては、アルミナ粉末、シリカ粉末、酸化鉄粉末、及び、チタニア粉末を混合し、溶融、粉砕する方法が挙げられる。
前記複合酸化物粉末の比表面積は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。
(結晶子径)
前記複合酸化物粉末の結晶子径は、100nm以上800nm以下の範囲内である。前記結晶子径は、好ましくは200nm以上、より好ましくは300nm以上、さらに好ましくは350nm以上である。前記結晶子径は、好ましくは700nm以下、より好ましくは600nm以下、さらに好ましくは550nm以下である。
前記結晶子径が100nm以上であると、充分な結晶成長ができており、高μ値等の特性を容易に得ることができる。一方、結晶成長を過度に促進する必要はない。前記結晶子径に特に上限はないが、生産性を考慮すると、前記結晶子径が800nm以下であると好ましい。
前記結晶子径は、XRD測定における2θが42°のピークの測定結果を次のScherrerの式に当てはめ、算出する。
Dp=(K×λ)/βcosθ
ここで、Dpは複合酸化物粉末の結晶子径、λはX線の波長、θは回折角、Kは形状因子とよばれる定数、βは装置による回折線の広がりを補正したあとのピーク幅である。
2θが43.3°のピークは、Alの(113)に由来するピークである。
XRD測定条件の詳細は実施例に記載の通りである。
前記結晶子径を有する複合酸化物粉末を得る方法としては、アルミナ粉末、シリカ粉末、酸化鉄粉末、及び、チタニア粉末を混合し、溶融、粉砕する方法が挙げられる。
(結晶相)
上述したように、前記複合酸化物粉末は、全体としてアルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンを含んでおり、複数種の酸化物の複合体として形成されている。複合体を構成する各酸化物は、少なくともアルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタンのうちの1種を含んでいればよく、4種全部を含んでいる必要はない。前記複合体は、さらに、アルミニウム、ケイ素、鉄、及び、チタン以外の酸化物を複合体の一部として含んでいてもよい。前記複合体は、酸化物以外の化合物(元素)を複合体の一部として含んでいてもよい。
前記複合酸化物粉末は、FeTiO及びFeTiOの結晶相を含む。FeTiOは、イルメナイトと呼ばれる。イルメナイトのモース硬度は5.5と低く、モース硬度の高いアルミナとバランスさせることができ、μ値を適度に高く維持することができるとともに、摩擦安定性を良好とすることができる。FeTiOは、擬ブルッカイトやシュードブルッカイトと呼ばれる。擬ブルッカイトのモース硬度は、イルメナイトと同じく6と比較的低く、モース硬度の高いアルミナとバランスさせることができ、μ値を適度に高く維持することができるとともに、摩擦安定性を良好とすることができる。
前記複合酸化物粉末は、アルミナの結晶相を含むことが好ましい。アルミナの結晶相は、コランダム相であることが好ましい。コランダムはモース硬度が9と高く、摺り合わせμを高くすることができる。
前記複合酸化物粉末は、シリカの結晶相を含むことが好ましい。シリカはアモルファスシリカとして存在すると考えられる。アモルファスシリカのモース硬度は、5程度であるので、FeTiO、FeTiOの結晶相と同様に、モース硬度の高いアルミナとバランスさせることができ、μ値を適度に高く維持することができるとともに、摩擦安定性を良好とすることができる。
前記複合酸化物粉末は、FeTiOの結晶相、FeTiOの結晶相、アルミナの結晶相、及び、シリカの結晶相の4つの結晶相を含むことが好ましい。これら4つの結晶相を含むと、モース硬度の高いアルミナとより良好にバランスさせることができ、μ値を適度に高く維持することができるとともに、摩擦安定性を良好とすることができる。
(粒子径D50
前記複合酸化物粉末の粒子径D50は、0.5μm以上3μm以下である。前記粒子径D50は、好ましくは0.7μm以上、より好ましくは0.9μm以上、さらに好ましくは1μm以上、特に好ましくは1.2μm以上、特別に好ましくは1.3μm以上である。前記粒子径D50は、好ましくは2.8μm以下、より好ましくは2.6μm以下、さらに好ましくは2.4μm以下、特に好ましくは2.2μm以下、特別に好ましくは2μm以下である。
前記粒子径D50が3μm以下であるため、高μ値等の特性をさらに容易に得ることができる。
(粒子径D90
前記複合酸化物粉末の粒子径D90は、8μm以下であることが好ましい。前記粒子径D90は、より好ましくは7μm以下、さらに好ましくは6.5μm以下、特に好ましくは6μm以下、特別に好ましくは5.5μm以下、格別に好ましくは5μm以下である。前記粒子径D90は、好ましくは3μm以上、より好ましくは3.2μm以上、さらに好ましくは3.4μm以上、特に好ましくは3.6μm以上、特別に好ましくは3.8μm以上である。
前記粒子径D90が8μm以下であると、高μ値等の特性をさらに容易に得ることができる。
(粒子径D99
前記複合酸化物粉末の粒子径D99は、15μm以下である。前記粒子径D99は、好ましくは13μm以下、より好ましくは11μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは9.5μm以下、特別に好ましくは9μm以下である。前記粒子径D99は、好ましくは5μm以上、より好ましくは6μm以上、さらに好ましくは6.5μm以上、特に好ましくは7μm以上、特別に好ましくは7.5μm以上である。
前記粒子径D99が15μm以下であるため、高μ値等の特性をさらに容易に得ることができる。
前記複合酸化物粉末の粒子径D50、粒子径D90、粒子径D99は、実施例に記載の方法により得られた値をいう。なお、本明細書に記載の前記前記粒子径D50、前記粒子径D90、前記粒子径D99は体積基準で測定されており、前記粒子径D50はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値50%にあたる粒子径であり、前記粒子径D90はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値90%にあたる粒子径であり、前記粒子径D99はレーザー回折法により測定される、最少粒径値より累積値99%にあたる粒子径である。
前記粒子径D50、前記粒子径D90、前記粒子径D99を有する複合酸化物粉末を得る方法としては、アルミナ粉末、シリカ粉末、酸化鉄粉末、及び、チタニア粉末を混合し、溶融、粉砕して複合酸化物粉末を得る際の粉砕条件をコントロールする方法が挙げられる。
(密度(真比重))
前記複合酸化物粉末の真比重は、3.0g/cm以上4.0g/cm以下であることが好ましい。前記真比重は、より好ましくは3.1g/cm以上、さらに好ましくは3.2g/cm以上、特に好ましくは3.4g/cm以上である。前記真比重は、にり好ましくは3.9g/cm以下、さらに好ましくは3.8g/cm以下、特に好ましくは3.7g/cm以下である。
前記真比重が3.0g/cm以上4.0g/cm以下であると、高μ値等の特性をさらに容易に得ることができる。
前記真比重は、JIS Z8807:2012に準拠して測定した値をいう。
前記真比重を有する複合酸化物粉末を得る方法としては、アルミナ粉末、シリカ粉末、酸化鉄粉末、及び、チタニア粉末を混合し、溶融、粉砕する方法が挙げられる。
以上、本実施形態に係る複合酸化物粉末について説明した。
[複合酸化物粉末の製造方法]
以下、複合酸化物粉末の製造方法の一例について説明する。ただし、本発明に係る複合酸化物粉末の製造方法は、以下の例示に限定されない。
本実施形態に係る複合酸化物粉末の製造方法は、
出発原料を準備する工程1と、
前記出発原料に所定の熱量を与えることにより、前記出発原料を溶融させる工程2と、
前記工程2で得られた溶融物を冷却してインゴットを形成する工程3と、
前記工程3で得られたインゴットを粉砕して粉体とする工程4と、
前記工程4で得られた粉体を400~1100℃の雰囲気下で加熱する工程5とを含む。
<工程1>
本実施形態に係る複合酸化物粉末の製造方法においては、まず、出発原料を準備する。具体的には、例えば、アルミニウム原料と、ケイ素原料と、鉄原料と、チタン原料とを準備する。
前記、アルミニウム原料は、複合酸化物粉末に、アルミニウム元素を主として導入するための材料である。「複合酸化物粉末にアルミニウム元素を主として導入する」とは、他の元素と比較して多く導入する(等モルよりも多く導入する)ことをいう。つまり、前記アルミニウム原料は、アルミニウム元素よりも少ない量(少ないモル数)であれば、他の元素を含んでいてもよい。
前記アルミニウム原料としては、特に限定されないが、酸化アルミニウムを含むことが好ましい。酸化アルミニウムは、水酸化物や各種塩類から合成することができる。前記アルミニウム原料は、アルミニウムとその他の成分との複合酸化物であってもよい。前記アルミニウム原料は、他の成分の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物等の化合物を含んでいてもよい。
前記ケイ素原料は、複合酸化物粉末にケイ素元素を主として導入するための材料である。「複合酸化物粉末にケイ素元素を主として導入する」とは、他の元素と比較して多く導入する(等モルよりも多く導入する)ことをいう。つまり、前記ケイ素原料は、ケイ素元素よりも少ない量(少ないモル数)であれば、他の元素を含んでいてもよい。
前記ケイ素原料としては、特に限定されないが、酸化シリコン(シリカ)が好ましい。シリカは、各種塩類等から合成することができる。前記ケイ素原料は、は、他の成分の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物等の化合物を含んでいてもよい。
前記鉄原料は、複合酸化物粉末に鉄元素を主として導入するための材料である。「複合酸化物粉末に鉄元素を主として導入する」とは、他の元素と比較して多く導入する(等モルよりも多く導入する)ことをいう。つまり、前記鉄原料は、鉄元素よりも少ない量(少ないモル数)であれば、他の元素を含んでいてもよい。
前記鉄原料としては、特に限定されないが、酸化鉄が好ましい。酸化鉄は、各種塩類等から合成することができる。前記鉄原料は、は、他の成分の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物等の化合物を含んでいてもよい。
前記チタン原料は、複合酸化物粉末にチタン元素を主として導入するための材料である。「複合酸化物粉末にチタン元素を主として導入する」とは、他の元素と比較して多く導入する(等モルよりも多く導入する)ことをいう。つまり、前記チタン原料は、チタン元素よりも少ない量(少ないモル数)であれば、他の元素を含んでいてもよい。
前記チタン原料としては、特に限定されないが、酸化チタン(チタニア)が好ましい。酸化チタンは、各種塩類等から合成することができる。前記チタン原料は、は、他の成分の硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、臭化物等の化合物を含んでいてもよい。
本明細書において、「原料を準備する工程1」とは、この工程1において、アルミニウム元素を導入するための材料と、ケイ素元素を導入するための材料と、鉄元素を導入するための材料と、チタン元素を導入するための材料とが最終的に全体として準備されていればよく、アルミニウム原料と、ケイ素原料と、鉄原料と、チタン原料とに明確に区別して準備する必要はない。
前記アルミニウム原料と、前記ケイ素原料と、前記鉄原料と、前記チタン原料の純度は、特に限定されるものではないが、目的生成物の純度を高くできるという点で99.9%以上の純度であることが好ましい。なお、上述した通り、前記アルミニウム原料と、前記ケイ素原料と、前記鉄原料と、前記チタン原料には、複合酸化物粉末の特性が阻害されない程度であればその他の元素が含まれていてもよい。その他の元素としては、アルカリ元素、アルカリ土類元素、遷移金属元素等が挙げられる。なかでも、アルカリ土類元素が好ましい。
アルカリ土類元素としては、Ca、Mg、Sr、Baが好ましく、Ca、Mg、Srがより好ましく、Ca、Mgがさらに好ましく、Caが特に好ましい。
前記原料を準備した後、アルミニウム、ケイ素、鉄、チタンの含有量が所定の範囲内となるように各原料を配合する。
<工程2>
次に、前記出発原料に所定の熱量を与えることにより、前記出発原料を溶融させる。工程2では、すべての原料を溶融させることが好ましい。すべての原料を溶融させた場合、得られる複合酸化物粉末の結晶構造が安定し、高μ等の特性を得ることができる。すべての原料を溶融させるには、出発原料に含まれる各種原料の融点のうちの最も高い融点以上の温度となるように、出発原料に熱量を与えるようにすればよい。ただし、工程2は、この例に限定されず、例えば、アルミニウム原料と、ケイ素原料と、鉄原料と、チタン原料とのうちの少なくとも一種を溶融させればよい。
出発原料を溶融させる方法は、特に限定されないが、例えば、アーク式、高周波熱プラズマ式等の溶融方法が例示される。中でも一般的な電融法、すなわち、アーク式電気炉(溶融装置)を用いた溶融方法を採用することが好ましい。
出発原料を加熱するには、例えば、電力原単位換算で3~30kWh/kgの電力によって熱を加えればよい。この加熱により、出発原料に含まれる各種原料の融点のうちの最も高い融点を超える温度にまで出発原料を昇温させることができ、出発原料の溶融物を得ることができる。
上記アーク式電気炉を用いた溶融方法を採用する場合、加熱工程(工程2)を行うにあたっては、あらかじめ出発原料に初期の通電を促すためにコークス等を導電材として所定量添加しておいてもよい。ただし、コークスの添加量等は、工程1で使用する各原料の混合割合に応じて適宜決定することができる。
工程2における出発原料の溶融時の雰囲気については、特に限定されず、大気、窒素雰囲気の他、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気を採用できる。また、溶融時の圧力も特に限定されず、大気圧、加圧、減圧のいずれでもよいが、通常は大気圧下で行われる。
<工程3>
次に、工程2で得られた溶融物を冷却(好ましくは、徐冷却)してインゴットを形成する。インゴットを形成する方法は、特に限定されないが、例えば、工程2の溶融を電気炉で行った場合には、この電気炉に炭素蓋を装着し、10~60時間かけて徐冷却する方法が挙げられる。徐冷却時間は、好ましくは20~50時間であり、より好ましくは30~45時間であり、さらに好ましくは35~40時間である。また、溶融物を徐冷却するにあたっては、例えば、大気中にて、溶融物の温度が100℃以下、好ましくは50℃以下となるように放冷すればよい。溶融物の温度が急激に下がって徐冷却時間が20~60時間より短くなるおそれがある場合には、適宜、徐冷却工程中に溶融物を加熱するなどして溶融物の急激な温度低下を回避すればよい。
上記のように徐冷却工程中における溶融物の急激な温度低下を回避しながら徐冷却を行うことで、原料中に含まれる元素が互いに均一に化合しやすくなる。
<工程4>
次に、工程3で得られたインゴットを粉砕して粉体とする。インゴットを粉砕する方法は特に限定されないが、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー等の粉砕機で粉砕する方法が例示される。粉砕は、複数の粉砕機を併用して行ってもよい。インゴットを粉砕するにあたっては、後工程での粉体の取り扱い性を考慮して、粉砕後の粉体の平均粒子径が3mm以下、必要に応じて1mm以下になるように粉砕してもよい。粉砕後は分級を行ってもよく、例えば、篩等を使用して所望の平均粒子径の粉体を捕集することが可能である。
<工程5>
次に、工程4で得られた粉体を400~1100℃の雰囲気下で加熱する。前記加熱をするにあたって、あらかじめ粉体を磁力選鉱して不純物などを分離しておくことが好ましい。その後、電気炉等を用いて、粉体を400~1100℃の雰囲気下で加熱すればよい。この加熱によって粉体は加熱焼成され、工程3における溶融工程で生成した亜酸化物や過冷却によって発生した結晶内の歪みが除去され得る。上記加熱温度は、好ましくは400℃~1000℃、より好ましくは600℃~800℃であり、いずれの場合も亜酸化物や結晶内の歪みが除去されやすくなる。また、加熱の時間は、特に限定されないが、例えば、1~5時間、好ましくは2~3時間とすることができる。上記加熱は、大気下で行ってもよいし、酸素雰囲気下で行ってもよい。
以上により、固体状又は粉末状の複合酸化物が得られる。粉末状の複合酸化物が得られた場合には、これを本実施形態に係る複合酸化物粉末としてもよい。
<工程6>
上記工程5によって得られた固体状又は粉末状の複合酸化物は、遊星ミル、ボールミル、ジェットミル等の粉砕機でさらに微粉砕してもよい。微粉砕は、複合酸化物の使用用途に応じて適宜行えばよい。微粉砕する場合、複合酸化物を上記粉砕機で5~60分程度処理すればよい。また、複合酸化物を上記微粉砕する場合、複合酸化物の平均粒径は、上記の範囲が好ましい。
以上により、本実施形態に係る複合酸化物粉末を得ることができる。
[摩擦材組成物]
本実施形態に係る摩擦材組成物は、摩擦調整剤と、繊維基材と、結合剤とを含み、前記摩擦調整剤として、前記複合酸化物粉末を含む。
摩擦調整剤として、前記複合酸化物粉末を含むため、当該摩擦材組成物を成形し、ブレーキパッドの摩擦材に使用すると、耐フェード性に優れ、高μ値を有しながらも、摩擦安定性に優れる摩擦材を得ることが可能となる。
(摩擦調整剤)
前記摩擦調整剤は、無機充填剤と有機充填剤とを含む。
前記無機充填剤は、摩擦材の耐熱性の悪化を避ける、耐摩耗性を向上させる、摩擦係数を向上する、潤滑性を向上させる等の目的で添加される。
前記無機充填剤は、前記複合酸化物粉末を含む。
前記摩擦材組成物中における、前記複合酸化物粉末の含有量は、摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、7質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。前記複合酸化物粉末の含有量が、摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、5質量%以上20質量%以下の範囲内であると、高μ値等の特性をより容易に得ることができる。
また、前記無機充填剤は、前記複合酸化物粉末以外に、例えば、硫化錫、硫化ビスマス、二硫化モリブデン、硫化鉄、三硫化アンチモン、硫化亜鉛、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、硫酸バリウム、コークス、マイカ、バーミキュライト、硫酸カルシウム、タルク、クレー、ゼオライト、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、シリカ、黒鉛、雲母、ドロマイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、粒状または板状のチタン酸塩、珪酸カルシウム、二酸化マンガン、酸化亜鉛、四三酸化鉄、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。粒状または板状のチタン酸塩としては、6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸ナトリウムなどを用いることができる。
前記摩擦材組成物中における、無機充填剤の含有量(前記複合酸化物粉末を含む無機充填剤全体の含有量)は、摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、20~70質量%であることが好ましく、30~65質量%であることがより好ましく、35~60質量%であることが特に好ましい。無機充填剤の含有量を上記の範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けることができ、摩擦剤のその他成分の含有量バランスの点でも好ましい。
前記有機充填剤は、摩擦材の音振性能や耐摩耗性などを向上させるための摩擦調整用として添加される。
前記有機充填剤は、上記性能を発揮できるものであれば特に制限はなく、通常に使用される有機充填剤が用いられる。例えば、カシューダストやゴム成分などが挙げられる。
上記カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを硬化させたものを粉砕して得られる。
上記ゴム成分としては、例えば、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、などが挙げられ、これらから選択される1種又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
前記摩擦材組成物中における、有機充填剤の含有量は、摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、1~25質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましく、2~7質量%であることが特に好ましい。有機充填剤の含有量を上記の範囲とすることで、摩擦材の弾性率が高くなり、ブレーキ鳴きなどの音振性能の悪化を効果的に抑制することができ、さらに耐熱性の悪化や熱履歴による強度低下においても効果的に抑制することができる。
(繊維基材)
前記繊維基材は、摩擦材において補強作用を示すものである。
前記摩擦材組成物は、通常、繊維基材として用いられる、有機繊維、無機繊維、金属繊維、炭素系繊維などを用いることができ、これらを単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
前記有機繊維としては、アラミド繊維、セルロース繊維、アクリル繊維、フェノール樹脂繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
前記無機繊維としては、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、ガラス繊維、シリケート繊維などを用いることができ、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記金属繊維としては、通常、摩擦材に用いられるものであれば特に制限はなく、例えば、アルミ、鉄、鋳鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン、銅、黄銅などの金属または合金を主成分とする繊維を用いることができる(ただし、2020年の規制対応のため銅は5%以下が望ましい)。
前記炭素系繊維としては、耐炎化繊維、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、活性炭繊維などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
前記摩擦材組成物中における、前記繊維基材の含有量は、摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、5~40質量%であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましく、5~15質量%であることが特に好ましい。前記繊維基材の含有量を5~40質量%の範囲とすることで、摩擦材としての最適な気孔率が得られ、鳴き防止ができ、適正な材料強度が得られ、耐摩耗性を発現し、成形性をよくすることができる。
(結合材)
前記結合材は、摩擦材組成物を構成する各材料を結合、一体化し、摩擦材(ブレーキ摩擦材)としての強度を向上させる機能を有するものである。
前記結合材としては、熱硬化性樹脂を通常用いられる結合材として用いることができる。
前記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂;アクリル系樹脂;シリコン樹脂;熱硬化性フッ素系樹脂;フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹などが挙げられ、これらを単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。特に、優れた耐熱性、成形性及び摩擦係数を得ることできる、フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂を用いることが好ましい。
前記摩擦材組成物中における、前記結合材の含有量は、摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、3~20質量%であることが好ましく、5~10質量%であることがより好ましい。この範囲内とすることで、摩擦材の強度を高く維持でき、また、摩擦材の気孔率を低減し、弾性率が高くなることによるブレーキ鳴きなどの音振性能の悪化をより効果的に抑制できる。
前記摩擦材組成物は、前記各成分、及び、必要に応じた任意成分を所定の比率で配合して得ることができる。この際、前記各成分、及び、前記任意成分を、分散媒中でボールミル等により所定時間粉砕混合した後、乾燥して分散媒を除去し、ふるい等を用いて整粒する工程を含むことが好ましい。
[摩擦材]
本実施形態に係る摩材は、前記摩擦材組成物の成形体で構成されている。
前記摩擦材は、前記摩擦材組成物を成形し、必要に応じて、焼結することにより得ることができる。上記成形工程及び焼結工程では、公知のセラミックスの成形方法及び焼結方法を用いることができる。前記成形方法としては例えば、一軸加圧成形、冷間静水圧成形等の乾式成形法が挙げられる。前記成形方法としては上記乾式成形法の他、射出成形、押出成形、泥漿鋳込み、加圧鋳込み、回転鋳込み、ドクターブレード法等も適用することができる。前記焼結方法としては、例えば、雰囲気焼結法、反応焼結法、常圧焼結法、熱プラズマ焼結法等が挙げられる。また、焼結温度及び焼結温度での保持時間は使用原料に応じて適宜設定することができる。なお、焼結は、セラミックスの種類や添加する材料の種類によって、大気中や、窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガス中で行ってもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガス等のような還元性ガス中で行ってもよい。また、真空中で行ってもよい。さらに、加圧しながら、焼結してもよい。その後、必要に応じて切削、研削、研摩等の処理を施すことにより本実施形態に係る摩擦材が得られる。
前記摩擦材は、鉄等の金属のバックプレートと貼り合わせて一体化し、摩擦材とバックプレートとを備えるブレーキパッドとすることができる。また、前記摩擦材組成物と共に熱成形して摩擦材とバックプレートとを備えるブレーキパッドとすることもできる。
前記摩擦材は、自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Aにて測定される第1フェード試験を9回実施し、得られた挙動ピークにおいて、最小摩擦係数を示したときの最大値μ値と最小値μ値の平均値を算出し、その平均値が0.20μ以上であることが好ましく、0.22μ以上であることがより好ましく、0.24μ以上であることがさらに好ましく、0.25μ以上であることが特に好ましく、0.27μ以上が特別に好ましく、0.28μ以上が格別に好ましい。この数値が高いほど、ブレーキング時の違和感をより低減することができる。前記摩擦係数の平均値は、大きいほど好ましいが、例えば、0.4以下、0.35以下、0.33以下等が挙げられる。
<測定条件A>
制動初速度100km/h
制動間隔35秒
第1回目測定時の制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.45G
制動回数9回
前記摩擦材は、自動車技術会規格JASO C406に準じて下記測定条件Bにて測定される摩擦係数の平均値であるすり合わせμ値が0.43以上であることが好ましく、0.45以上であることがより好ましく、0.47以上であることがさらに好ましく、0.48以上であることが特に好ましく、0.49以上であることが特別に好ましい。前記すり合わせμ値は、大きいほど好ましいが、例えば、0.6以下、0.55以下、0.53以下等が挙げられる。前記すり合わせμ値が0.43以上であると、少ない押圧でより強い制動力が得られる。
<測定条件B>
制動初速度65km/h
制動前ブレーキ温度120℃
制動減速度0.35G
測定回数200回
前記摩擦材は、自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Cにて測定される第2効力試験での測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Xとし、自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Dにて測定される第2効力試験での測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Yとしたとき、摩擦係数の差[(摩擦係数X)-(摩擦係数Y)]が、0.12以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましく、0.08以下であることがさらに好ましく、0.06以下が特に好ましく、0.05以下であることが特別に好ましく、0.04以下であることが格別に好ましい。前記摩擦係数の差[(摩擦係数X)-(摩擦係数Y)]は小さいほど好ましいが、例えば、0以上、0.01以上、0.03以上等が挙げられる。前記摩擦係数の差[(摩擦係数X)-(摩擦係数Y)]が、0.12以下であると、ブレーキング時の違和感をさらに低減することができる。
<測定条件C>
制動初速度100km/h
制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.2G
測定回数8回
<測定条件D>
制動初速度100km/h
制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.7G
測定回数8回
以下、本発明に関し実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における複合酸化物粉末、摩擦材組成物、及び、摩擦材には、不可避不純物として酸化ハフニウムを酸化ジルコニウムに対して1.3~2.5質量%含有(下記式(Z)にて算出)している。
<式(Z)>
([酸化ハフニウムの質量]/([酸化ジルコニウムの質量]+[酸化ハフニウムの質量]))×100(%)
(実施例1)
<複合酸化物粉末の作製>
アルミナ(純度98.0%、日本軽金属株式会社製)と、珪石粉(純度98.0%、東罐マテリアル・テクノロジー製)と、酸化鉄(純度99.9%、戸田工業株式会社製)と、高純度チタニア(純度99.9%、テイカ株式会社製)とを表1に示す配合比率に従って均一となるように混合した。
次に、アーク式電気炉を用い、電力原単位換算で20kwh/kgを2時間印加し、2200℃以上で溶融を行った。なお、初期の通電を促すためにコークス300gを使用した。溶融終了後、大気中で10時間以上徐冷し、インゴットを得た。得られたインゴットをジョークラッシャー及びロールクラッシャーで粒径(直径)3mm以下まで粉砕した後、篩で1mm以下の粉末を捕集した。
溶融工程で発生した亜酸化物や過冷却による結晶内の歪みを除去するために、捕集した粉末を熱処理した。熱処理は、電気炉を用いて大気中、600℃で3時間行った。その後、遊星ミル(フリッチュジャパン社製、装置名:PULVERISETTE 6)で15分間粉砕した。
具体的には、下記の条件で粉砕した。
<乾式粉砕条件>
粉砕装置:遊星型ボールミル
ZrOポット:500cc
ZrOビーズ(φ5mm):900g
回転数:400rpm
粉砕時間:15min
以上により、実施例1に係る複合酸化物粉末を得た。
<摩擦材組成物の作製>
表2に示す配合比率に従って各材料を均一となるように混合し、実施例1に係る摩擦材組成物を得た。混合には、(株)日本アイリッヒ製のアイリッヒ インテンシブルミキサーを用いた。
<摩擦材及びブレーキパッドの作製>
得られた摩擦材組成物を成形プレス(Preform machine)で予備成形した。得られた予備成形物を鉄製のパックプレートと共に熱成形した。熱成形条件は、摩擦面155℃、B/P側160℃、中型140℃、成形圧力500kg/cmとした。ガス抜き条件は、摩擦面8回(計300秒)、B/P側10秒8回とした。熱成形は、熱成形プレス((株)マルシチ製、製品名:MA250型)を用いた。
次に、得られた成形品を熱処理した。熱処理条件は、温度250℃、圧力5kg/cm、5時間とした。以上により、バックプレートと摩擦材組成物の成形体(摩擦材)との積層体を得た。
ロータリー研磨機を用い、得られたバックプレートと摩擦材との積層体を研磨し、続いて、500℃でスコーチ処理を行い、さらにミゾ切りを行って実施例1に係るブレーキパッドを得た。
(実施例2~実施例5)
<複合酸化物粉末、摩擦材組成物、摩擦材及びブレーキパッドの作製>
出発原料の混合比率を表1に示す配合比率に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~実施例5に係る複合酸化物粉末、摩擦材組成物、摩擦材及びブレーキパッドを得た。
(比較例1~比較例4)
<複合酸化物粉末、摩擦材組成物、摩擦材及びブレーキパッドの作製>
出発原料の混合比率を表1に示す配合比率に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1~比較例4に係る複合酸化物粉末、摩擦材組成物、摩擦材及びブレーキパッドを得た。
[複合酸化物粉末の組成測定]
実施例、比較例で作製した複合酸化物粉末の組成(酸化物換算)を、ICP-AES(「ULTIMA-2」HORIBA製)を用いて分析した。その結果、表1の配合比率通りであることが確認できた。
[複合酸化物粉末の比表面積の測定]
実施例、比較例の複合酸化物粉末の比表面積を、比表面積計(「マックソーブ」マウンテック製)を用いてBET法にて測定した。結果を表3に示す。
[複合酸化物粉末の結晶子径の測定、及び、結晶相の特定]
実施例、比較例の複合酸化物粉末について、X線回折装置(「RINT2500」リガク製)を用い、X線回折スペクトルを得た。測定条件は下記の通りとした。
<測定条件>
測定装置:X線回折装置(リガク製、RINT2500)
線源:CuKα線源
サンプリング間隔:0.02°
スキャン速度:2θ=1.0°/分
発散スリット(DS):1°
発散縦制限スリット:5mm
散乱スリット(SS):1°
受光スリット(RS):0.3mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
管電圧:50kV
管電流:300mA
その後、XRD測定における2θが43.3°のピークの測定結果を次のScherrerの式に当てはめ、結晶子径を算出した。
Dp=(K×λ)/βcosθ
ここで、Dpは複合酸化物粉末の結晶子径、λはX線の波長、θは回折角、Kは形状因子とよばれる定数、βは装置による回折線の広がりを補正したあとのピーク幅である。
2θが43.3°のピークは、Alの(113)に由来するピークである。
結果を表3に示す。
図1は、実施例1~実施例5に係るブレーキパッド用複合酸化物粉末のX線回折スペクトルである。図1に示すにように、実施例1~実施例5に係るブレーキパッド用複合酸化物粉末は、FeTiO及びFeTiOの結晶相を有している。
[複合酸化物粉末の粒子径D50、粒子径D90、及び粒子径D99の測定]
実施例、比較例の複合酸化物粉末の粒子径を、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-950」((株)堀場製作所製)を用いて測定した。より詳細には、サンプル0.15gと40mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液とを50mlビーカーに投入し、装置(レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置「LA-950」)に投入して測定した。
測定条件は下記の通りとした。結果を表3に示す。
分散条件:100Wで2分超音波分散
屈折率:1.70-0.0i
[複合酸化物粉末の真比重の測定]
実施例、比較例の複合酸化物粉末の真比重を、JIS Z8807:2012に準拠して測定した。結果を表3に示す。
[すり合わせμ値の測定]
自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Bにて200回の各摩擦係数を得た。その200回の摩擦係数の平均値を求め、これをすり合わせμ値とした。結果を表4に示す。
<測定条件B>
制動初速度65km/h
制動前ブレーキ温度120℃
制動減速度0.35G
測定回数200回
200回の各測定には、それぞれ、製造後、他の試験に使用していないものを用いた。
[摩擦安定性評価]
自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Cにて第2効力試験を行い、測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Xとして求めた。
また、自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Dにて第2効力試験を行い、測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Yとして求めた。
その後、摩擦係数の差[(摩擦係数X)-(摩擦係数Y)]を求めた。
結果を表4に示す。
<測定条件C>
制動初速度100km/h
制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.2G
測定回数8回
<測定条件D>
制動初速度100km/h
制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.7G
測定回数8回
8回の各測定には、それぞれ、製造後、他の試験に使用していないものを用いた。
[耐フェード性評価]
自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Aにて第1フェード試験を行い、9回の各摩擦係数を得た。その中の、摩擦係数の最も大きい値と、摩擦係数の最も小さい値、及び、摩擦係数の最も大きい値と摩擦係数の最も小さい値との差を表4に示す。
<測定条件A>
制動初速度100km/h
制動間隔35秒
第1回目測定時の制動前ブレーキ温度80℃
制動減速度0.45G
制動回数9回
[ロータ磨耗性評価]
ブレーキ一般性能試験項目(JASO-C406ベース)の条件で全項目の試験を行なった後のロータのインナー側、アウター側のロータ磨耗量の平均値を求めた。ロータ磨耗量は少ないほど性能がよいことを示す。

Claims (6)

  1. アルミニウムの含有量が酸化物換算で50質量%以上65質量%以下であり、
    ケイ素の含有量が酸化物換算で15質量%以上25質量%以下の範囲内であり、
    鉄の含有量が酸化物換算で10質量%以上21質量%以下の範囲内であり、
    チタンの含有量が酸化物換算で4質量%以上10質量%以下の範囲内であり、
    比表面積が0.5m/g以上6.2m/g以下であり、
    結晶子径が100nm以上800nm以下であり、
    粒子径D50が0.5μm以上3μm以下であり、
    粒子径D99が15μm以下であり、
    FeTiO及びFeTiOの結晶相を含むことを特徴とするブレーキパッド用複合酸化物粉末。
  2. 摩擦調整剤と、繊維基材と、結合剤とを含み、
    前記摩擦調整剤として、請求項1に記載のブレーキパッド用複合酸化物粉末を含むことを特徴とするブレーキパッド用摩擦材組成物。
  3. 前記ブレーキパッド用複合酸化物粉末の含有量が、ブレーキパッド用摩擦材組成物全体を100質量%としたときに、5質量%以上20質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載のブレーキパッド用摩擦材組成物。
  4. 請求項2又は3に記載のブレーキパッド用摩擦材組成物の成形体で構成されていることを特徴とするブレーキパッド用摩擦材。
  5. 自動車技術会規格JASO C406に準じて下記測定条件Bにて測定される摩擦係数の平均値であるすり合わせμ値が0.43以上であることを特徴とする請求項4に記載のブレーキパッド用摩擦材。
    <測定条件B>
    制動初速度65km/h
    制動前ブレーキ温度120℃
    制動減速度0.35G
    測定回数200回
  6. 自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Cにて測定される第2効力試験での測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Xとし、
    自動車技術会規格JASO C406に準じて、下記測定条件Dにて測定される第2効力試験での測定回数8回における摩擦係数の平均値を摩擦係数Yとしたとき、
    摩擦係数の差[(摩擦係数X)-(摩擦係数Y)]が、0.12以下であることを特徴とする請求項4又は5に記載のブレーキパッド用の摩擦材。
    <測定条件C>
    制動初速度100km/h
    制動前ブレーキ温度80℃
    制動減速度0.2G
    測定回数8回
    <測定条件D>
    制動初速度100km/h
    制動前ブレーキ温度80℃
    制動減速度0.7G
    測定回数8回
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