JP7430381B2 - バイオフィルム破壊能の評価方法 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 平成31年2月13日 平成30年度 プロジェクトデザインIII公開発表審査会 予稿集 第33頁(IBB35)に発表
特許法第30条第2項適用 平成31年2月13日 平成30年度 プロジェクトデザインIII公開発表審査会 金沢工業大学において発表
特許法第30条第2項適用 令和元年9月25日 日本防菌防黴学会 第46回年次大会 要旨集 第46頁(1P-AC03)に発表
特許法第30条第2項適用 令和元年9月25日 日本防菌防黴学会 第46回年次大会 千里ライフサイエンスセンター A会場5階 ライフホールにおいて文書(ポスター 1P-AC03)をもって発表
本発明は、固体表面に形成されたバイオフィルム(多糖などの菌体外高分子層に覆われた微生物叢)中の微生物菌体(以下「バイオフィルム菌体」と称する)に対する抗菌成分の殺菌効果(すなわち、バイオフィルム破壊能)を定量化し得る方法に関する。
肺粘膜などの生体組織や体内に留置した医療器具(インプラント)の表面、エアコンや洗濯機などの家電製品の内部表面、建造物の内壁または外壁表面、クーリングタワー内部表面や循環水配管内表面などに増殖する細菌または酵母等の微生物は、増殖に伴って菌体外多糖やタンパク質等の高分子を菌体外に分泌して自らを覆い、肥厚化したバイオフィルムを形成する。
このようなバイオフィルム中の菌体(バイオフィルム菌体)の生理および生化学的性質が遊離菌体のそれらと大きく異なることは、古くからよく知られている。例えばバイオフィルム菌体は、遊離菌体に比べて著しく高い薬剤耐性を示すため(非特許文献1)、一般に、感染症起因菌やインプラント汚染菌のバイオフィルムを除去することは甚だ困難である(非特許文献2)。
上記の薬剤耐性の発現には、菌体を取り巻く高分子層が薬剤の透過拡散や菌体内への取り込みを阻害すること(非特許文献3)、薬剤排出ポンプの発現量が増加して菌体中から薬剤を効果的に排出すること(非特許文献4)、薬剤分解酵素が大量発現し、薬剤を効果的に分解すること(非特許文献5)、あるいは薬剤作用点が突然変異を起こすため薬剤の薬効が消失してしまうこと(非特許文献6)などの機構が関与していると考えられている。これらの要因のうち、特に、菌体外高分子層の薬剤に対するバリヤ化は、バイオフィルム菌体に共通な最も特徴的な現象である。
一方、菌体を取り巻く高分子層は食細胞による攻撃などの免疫系の攻撃から菌体を守るため、その感染症は慢性的な難治化を招くことになるが(非特許文献7)、この高分子層中に存在する大量の食細胞自体が、免疫系による攻撃に対してバリヤとして機能しているという報告もある(非特許文献8)。このような免疫系からの菌体防御もまた、バイオフィルムに特有の現象と言える。
バイオフィルムは、上記のような医療分野においてのみ問題となっているのではなく、建造物の外壁や内装の汚染、循環水の配管や貯水槽の内壁汚染、エアコンや洗濯機などの家電製品の汚染、船底や石油パイプラインの汚染など、非常に幅広い産業分野で深刻な問題を招来している。バイオフィルムを、カビも含んだ微生物膜にまで拡大して捉えるならば、バイオフィルムによる建造物の外壁や内装の汚染は、美観の喪失や塗膜の損傷といった問題(非特許文献9)のみならず、院内感染の元凶ともなっている(非特許文献10)。
また、循環水の配管や貯水槽、エアコンの内部にバイオフィルムが形成された場合には、遊離してきたバイオフィルム菌体を吸気することにより、例えばレジオネラ症のような重篤な感染症に罹患することもある(非特許文献11)。
さらに、船底へのバイオフィルムの形成がフジツボや貝類などの水棲生物の付着と成長の引き金になることはよく知られているが(非特許文献12)、この問題とともに、エネルギープラントや石油パイプラインに発生したバイオフィルムによる微生物腐食によっても莫大な経済的損失が生じていることも事実である(非特許文献13)。
このように有害なバイオフィルムの形成抑止あるいは破壊技術に関しては、これまでに様々な手法が提案されてきた。バイオフィルム形成には固体表面への微生物菌体の初期付着がまずは重要であるが、この付着現象に関しては、様々な高分子材料表面(非特許文献14)あるいは抜歯表面への付着性の評価(非特許文献15)、菌体表面疎水性と高分子材料の表面疎水性との関係(非特許文献16)、表面電荷と菌体付着との関係(非特許文献17)、微生物の培養条件(培地条件並びに酸素条件)とステンレス鋼板への付着量との関係(非特許文献18)、初期付着に対するpHとイオン強度の影響(非特許文献19)、温度(非特許文献20)ならびに表面自由エネルギーの影響(非特許文献21)など、様々な研究報告がなされてきた。
上記の微生物菌体の初期付着の抑制も含めたバイオフィルム形成抑止の方法に関しては、固体材料として、抗菌剤を配合した熱可塑性樹脂(特許文献1)、抗菌性を示す銀/チタン合金(特許文献2)、アルキレンテレフタレート/アルキレンアミンアルキレンオキシド系共重合体よりなる抗菌材料(特許文献3)、ベタイン構造を有する抗バイオフィルム性ビニル系ポリマーよりなる抗菌材料(特許文献4)、アクリル系ポリマーブロックとポリエチレンオキサイドブロックよりなる抗菌材料(特許文献5)、塩化銀と酸化チタンナノ粒子よりなる抗菌材料(非特許文献22)、抗菌性ペプチド担持ステンレス鋼板(非特許文献23)、抗菌性ペプチドを共有結合させた親水性グラフトポリマー(非特許文献24)、4級アンモニウム塩をグラフト化させたビニル系共重合体(非特許文献25)、酸化チタンナノ粒子/界面活性剤/抗酸化剤を含んだシロキサン系抗菌材料(非特許文献26)、窒化チタンコーティング材(非特許文献27)、直鎖状カチオン性ポリマーを共有結合した抗菌材料(非特許文献28)、アシラーゼをコートしたカテーテル(非特許文献29)など、多岐に渡る非常に多くの提案がなされてきた。
これに対し、固体表面への微生物付着によるバイオフィルム形成を抑止する薬剤もしくは物質としては、β-フェニルエチルアミン誘導体含有抗菌剤(特許文献6)、アルキルグリコシド系非イオン性界面活性剤(特許文献7)、塩素系漂白剤/アルカリ剤/キレート剤よりなる自動食器洗浄機用洗浄剤(特許文献8)、薬用植物Quercus cerrisからのエタノール抽出物あるいはブタノール抽出物(非特許文献30)、ペパーミントとレモングラス由来の精油(非特許文献31)、酸化銅と酸化亜鉛(非特許文献32)、イソチオシアネート類(非特許文献33、34)、植物オーキシンである3-インドリルアセトニトリル(非特許文献35)、クロロヘキシジン(非特許文献36)など、非常に多くの提案がなされてきた。
一方、形成されたバイオフィルムを破壊する薬剤もしくは物質に関しても、非常に多くの提案がこれまでになされてきた。エリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質を含んだ歯周病原性細菌のバイオフィルム除去剤(特許文献9、非特許文献37)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル/ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロテアーゼを含む義歯洗浄剤(特許文献10)、α-オレフィンスルホン酸(特許文献11)、ポリリジン(特許文献12)、4級アンモニウム塩(特許文献13)、含アミド基脂肪酸(塩)(特許文献14)、多糖分解酵素(特許文献15)、ポリエチレンイミン/界面活性剤(特許文献16)、エリスリトール/還元デキストリン(特許文献17)、アニオン界面活性剤/アルギニン(特許文献18)、長鎖不飽和脂肪酸カリウム塩(特許文献19)、プロテアーゼ/キレート剤(特許文献20)、アミノカルボン酸キレート剤/陽イオン殺菌剤/陰イオン界面活性剤(特許文献21)、α-オレフィンスルホン酸塩/デキストラナーゼ/糖アルコール/アルキルスルホン酢酸塩(特許文献22)、リファンピシンとバンコマイシンとの組み合わせのような異種抗生物質の併用(非特許文献38)、4級アンモニウム塩と多糖分解酵素(非特許文献39)もしくは銅イオンとの併用(非特許文献40)、エチレンジアミン四酢酸と殺菌剤との併用(非特許文献41)、マンデル酸と乳酸との併用(非特許文献42)、塩基性ポリペプチドであるプロタミン(非特許文献43)、微生物酵素ディスペルシンB(非特許文献44)の利用など、極めて多くの提案がなされてきた。
さらには、バイオフィルムの破壊に関しては、上記のような薬剤もしくは物質の使用のみならず、パルスレーザーの照射(特許文献23)やアルギン酸粉砕物による剥離(特許文献24)、水道水のキャビテーションによる剥離(特許文献25)やプラズマ処理(特許文献26)、そして超音波処理(特許文献27)などの多様な物理的手法も提案されている。
以上述べたように、バイオフィルムの形成を抑止する固体材料や薬剤もしくは物質、物理的除去に関する手法については、極めて多くの提案がなされているが、一方、これら手法の効果を評価する手段としては、光学顕微鏡や蛍光顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡(CLM)や原子間力顕微鏡(AFM)、走査型(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)などの形態学的観察手法が挙げられる(非特許文献45)。
CLMの利点には、無処理のバイオフィルムの三次元構造が解析可能であること、蛍光タンパク質を発現できれば、生きたバイオフィルムの三次元構造を解析可能であること、そして蛍光色素で染色すればバイオフィルムの構成要素の分布を可視化可能なことなどが挙げられる。しかしその一方で、蛍光色素を用いるためにバイオフィルムの継時的な観察には不向きであるという短所がある。
AFMの利点としては、バイオフィルム表面の凹凸構造がナノオーダーでイメージング可能なこと、大気中や液体中、または高温~低温に至る様々な環境条件下で自然に近い状態で解析可能なことが挙げられる。しかし、AFM解析には数十分に及ぶ長い測定時間が可能であること、得られる情報はあくまでも表面形状に関してのみであり、バイオフィルム内部の情報を得ることはできないという限界がある。
SEMは、バイオフィルム表面近傍の構造を高解像度で解析可能であるという大きな長所がある。しかし、バイオフィルムの内部に関する情報がほとんど得られないこと、試料の脱水処理が必要であり、前処理が煩雑である上に、生きたバイオフィルムの形状を把握することは不可能であるという欠点がある。
TEMの大きな利点は、バイオフィルム菌体の内部構造を超高解像度で解析可能なことである。しかし、TEMについても試料の前処理が非常に煩雑であるうえに、バイオフィルムそのものの解析には不向きである。さらに付け加えると、CLM、AFM、SEMおよびTEMを用いても、バイオフィルムに関する定量的なデータ、例えばバイオフィルム菌体の生存率やバイオフィルムの薬剤感受性などについての定量化は不可能であるといった限界がある。
バイオフィルム菌体の生存率に関する定量的な評価法としては、コロニー計測法、染色/比色法(非特許文献46)やATP測定法(非特許文献47)などの化学的手法による生菌体数の計測が一般的である。
バイオフィルム菌体における薬剤感受性の定量的な評価法に関しては、遊離菌体を対象とする現行の液体希釈法やディスク拡散法(非特許文献48)とは異なる手法が用いられる。マイクロタイター/生菌体染色法(非特許文献49)や、剥離させたバイオフィルム菌体の薬剤処理/生菌数の測定(非特許文献50)、またはポリカーボネート製メンブレンフィルター上に形成させたバイオフィルムを含薬剤寒天平板上に設置して薬剤処理し、該バイオフィルム中の生菌体数を計測する手法(非特許文献51)などの多様な手法が採用されている。また、特殊な方法として、ラット体内の空気嚢中に形成されたバイオフィルムを薬剤処理するラット空気嚢炎症モデル(非特許文献52)も提案されている。
しかし、これら手法の多くは操作が煩雑であるために定量性に難があり、熟練度が強く要求されること、マイクロタイターはポリスチレン製のものしか市販されておらず、付着対象の多様性が全くないこと、そして実験動物を使用することなど、操作の煩雑さや定量性、汎用性に難があった。その意味で、より簡便かつ高精度なバイオフィルム菌体に対する薬剤感受性試験法の開発が強く望まれていた。
特開2019-137791号公報 特開2010-121153号公報 特開2019-163242号公報 特開2019-178200号公報 特開2019-183021号公報 特開平8-134035号公報 特開2006-347941号公報 特開2019-183162号公報 特開平7-267868号公報 特開2011-241167号公報 特開2012-72265号公報 特開2012-72266号公報 特開2012-92320号公報 特開2012-126758号公報 特開2012-213364号公報 特開2013-94759号公報 特開2013-129603号公報 特開2013-151474号公報 特開2013-185036号公報 特開2014-5417号公報 特開2014-91805号公報 特開2015-20970号公報 特開2004-275979号公報 特開2008-156389号公報 特開2019-195386号公報 特表2019-531105号公報 特開2014-161620号公報
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上述したように、バイオフィルム菌体の薬剤感受性を定量的に評価できる簡便かつ有効な手法には、現状では満足できるものはない。(超)多剤耐性菌症が世界的に拡大しつつある今日、それらに対して有効な新規抗菌剤の開発が急務となってきているが、この開発を促進していくためにも、現行の諸法を凌ぐより簡便かつ高精度なバイオフィルム破壊能の定量法が強く望まれている。
さらには、バイオフィルム破壊能を有する抗菌材料に関しても、その能力を簡便かつ正確に定量化できる手法の登場が、世界的に待たれている。
従って、本発明の目的は、抗菌成分のバイオフィルム破壊能を簡便かつ正確に定量化できるバイオフィルム破壊能の評価方法を提供することにある。
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、親水性ゲルの表面に形成したバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させた後、転写材を用いて前記バイオフィルムを転写して形成した新たなバイオフィルムの非増殖ゾーンのサイズを計測する方法や、親水性ゲルの表面に形成したバイオフィルムと抗菌成分とを接触させた後、増殖した微生物を抽出して、生育する微生物の生菌数をコロニーカウント法で計測する方法によって、抗菌成分のバイオフィルム破壊能を簡便かつ正確に定量化できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の方法では、水および栄養源を含む第1の親水性ゲルの表面に微生物を植菌して第1のバイオフィルムを形成する第1のバイオフィルム形成工程、得られた第1のバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させる浸透工程、転写材を用いて、前記抗菌成分が浸透した第1のバイオフィルムを、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に転写する転写工程、前記第2の親水性ゲルの表面で前記第1のバイオフィルム中の微生物による第2のバイオフィルムを形成する第2のバイオフィルム形成工程、第1のバイオフィルムが占める領域における第2のバイオフィルムが増殖していない領域のサイズを計測する計測工程を経て、前記抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価する。前記浸透工程において、第1のバイオフィルムの上に、抗菌成分を含む抗菌媒体を積層して前記第1のバイオフィルム中に前記抗菌成分を浸透させた後、浸透後の抗菌媒体残渣を除去してもよい。前記抗菌媒体は、抗菌成分としての抗菌剤と、この抗菌剤を担持する多孔性担体とを含んでいてもよい。この方法において、前記転写材は繊維構造体であってもよい。前記浸透工程において、筒状部材の開口部を、第1のバイオフィルムを貫通させて第1の親水性ゲルに埋設させることにより抗菌成分が浸透する領域を制限してもよい。
また、本発明では、水および栄養源を含む第1の親水性ゲルの表面に微生物を接種してバイオフィルムを形成するバイオフィルム形成工程、得られたバイオフィルムと抗菌成分とを接触させる接触工程、増殖した微生物を水性媒体中に抽出する抽出工程、抽出した微生物を含む水性媒体を、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に植菌して培養してコロニーを形成するコロニー形成工程、形成されるコロニー数をカウントすることで生菌体数を計測する計測工程を経て、前記抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価する。前記接触工程において、バイオフィルムの上に、抗菌成分で形成された抗菌成形体または抗菌成分を含む抗菌媒体を積層して前記バイオフィルムと前記抗菌成分とを接触させた後、前記抗菌成形体または抗菌媒体と前記バイオフィルムと前記第1の親水性ゲルとの積層体を切り出し、前記抽出工程において、前記積層体から微生物を水性媒体中に抽出してもよい。
前記方法において、前記抗菌成分は、有機系抗菌剤または無機系抗菌剤であってもよい。前記微生物は細菌または酵母であってもよい。
本発明では、親水性ゲルの表面に形成したバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させた後、転写材を用いて前記バイオフィルムを転写して形成した新たなバイオフィルムの非増殖ゾーンのサイズを計測する方法や、親水性ゲルの表面に形成したバイオフィルムと抗菌成分を接触させた後、増殖した微生物を抽出して、生育する微生物の生菌数をコロニーカウント法で計測する方法によって、抗菌成分のバイオフィルム破壊能を簡便かつ正確に定量化できる。そのため、微生物の種類に応じて、前記微生物が形成するバイオフィルムに対して有効な抗菌成分の種類や濃度、バイオフィルム形成時間とバイオフィルム破壊能との関係などを容易に探索できる。
図1は、本発明のバイオフィルム破壊能の評価方法における一例の手順を説明するための概略工程図である。 図2は、本発明のバイオフィルム破壊能の評価方法におけるの他の例の手順を説明するための概略工程図である。 図3は、実施例1の評価結果を示すグラフである。 図4は、実施例2の評価結果を示すグラフである。 図5は、実施例3の評価結果を示すグラフである。 図6は、実施例4の評価結果を示す写真である。 図7は、実施例5の評価結果を示すグラフである。 図8は、実施例6の評価結果を示すグラフである。
本発明の方法には、親水性ゲルの表面に形成したバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させた後、転写材を用いて前記バイオフィルムを転写して形成した新たなバイオフィルムの非増殖ゾーンのサイズを計測する第1の評価方法、親水性ゲルの表面に形成したバイオフィルムと抗菌成分とを接触させた後、増殖した微生物を抽出して、生育する微生物の生菌数をコロニーカウント法で計測する第2の評価方法が含まれる。本発明の方法は、固体表面に形成されたバイオフィルム中の生菌体の薬剤感受性を簡便かつ正確に評価でき、かつ抗菌成分によるバイオフィルム破壊量を定量化し得る新規な方法である。
[第1の評価方法]
第1の評価方法では、水および栄養源を含む第1の親水性ゲルの表面に微生物を植菌して第1のバイオフィルムを形成する第1のバイオフィルム形成工程、得られた第1のバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させる浸透工程、転写材を用いて、前記抗菌成分が浸透した第1のバイオフィルムを、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に転写する転写工程、前記第2の親水性ゲルの表面で前記第1のバイオフィルム中の微生物による第2のバイオフィルムを形成する第2のバイオフィルム形成工程、第1のバイオフィルムが占める領域における第2のバイオフィルムが増殖していない領域のサイズを計測する計測工程を経て、前記抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価する。
(第1のバイオフィルム形成工程)
第1のバイオフィルム形成工程では、水および栄養源を含む第1の親水性ゲルの表面に微生物を植菌して増殖させることにより第1のバイオフィルムを形成する。
微生物は、バイオフィルムを形成する微生物であれば特に限定されず、細菌(バクテリア)などの原核生物であってもよく、酵母やカビなどの真核生物であってもよい。これらのうち、放線菌を含む細菌、酵母が汎用され、細菌が好ましい。
細菌は、グラム陽性菌およびグラム陰性菌のいずれであってもよく、グラム陽性菌とグラム陰性菌との組み合わせであってもよい。
グラム陽性菌としては、バチルス(Bacillus)属細菌(例えば、Bacillus coagulans、Bacillus anthracis炭疽菌、Bacillus atrophaeus、Bacillus cereusセレウス菌、Bacillus megaterium、Bacillus pumilus、Bacillus subtilis枯草菌など)、クロストリジウム(Clostridium)属細菌(例えば、Clostridium botulinumボツリヌス菌、Clostridium difficile、Clostridium perfringensウェルシュ菌、Clostridium sporogenes、Clostridium tetani破傷風菌など)、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌(例えば、Enterococcus faecalisフェカリス菌、Enterococcus faeciumフェシウム菌など)、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌(例えば、Lactobacillus brevis、Lactobacillus fructivorans、Lactobacillus plantarumなど)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)属細菌(例えば、Mycobacterium bovis、Mycobacterium lepraeライ菌、Mycobacterium terrae、Mycobacterium tuberculosisヒト型結核菌など)、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属細菌(例えば、Propionibacterium acnesアクネ菌など)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属細菌(例えば、Staphylococcus aureus黄色ブドウ球菌、Staphylococcus epidermidis表皮ブドウ球菌、Staphylococcus lugdunensis、Staphylococcus saprophyticus腐性ブドウ球菌など)、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌(例えば、Streptococcus mitis、Streptococcus mutansミュータンス菌、Streptococcus oralis、Streptococcus pneumoniae肺炎レンサ球菌、Streptococcus pyogenes化膿レンサ球菌など)などが挙げられる。これらのグラム陽性菌は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
グラム陰性菌としては、ボルデテラ(Bordetella)属細菌(例えば、Bordetella pertussis百日咳菌など)、カンピロバクター(Campylobacter)属細菌(例えば、Campylobacter jejuniなど)、エンテロバクター(Enterobacter)属(例えば、Enterobacter cloacaeなど)、エスケリキア(Escherichia)属細菌(例えば、Escherichia coli大腸菌など)、フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌(例えば、Fusobacterium nucleatumなど)、ヘリコバクター(Helicobacter)属細菌(例えば、Helicobacter pyloriピロリ菌など)、クレブシエラ(Klebsiella)属細菌(例えば、Klebsiella pneumoniae肺炎桿菌など)、ナイセリア(Neisseria)属細菌(例えば、Neisseria gonorrhoeae淋菌、Neisseria meningitidis髄膜炎菌など)、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌(例えば、Pseudomonas aeruginosa緑膿菌、Pseudomonas putidaなど)、サルモネラ(Salmonella)属細菌(例えば、Salmonella enterica serovar Typhi、Salmonella enterica serovar Paratyphi A、Salmonella enterica serovar Typhimurium、Salmonella enterica serovar Enteritidisなど)、セラチア(Serratia)属細菌(例えば、Serratia marcescensセラチア菌など)、ビブリオ(Vibrio)属細菌(例えば、Vibrio choleraeコレラ菌、Vibrio parahaemolyticus腸炎ビブリオなど)などが挙げられる。これらのグラム陰性菌は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
これらのうち、スタフィロコッカス属細菌などのグラム陽性菌、エスケリキア属細菌、シュードモナス属細菌などのグラム陰性菌が好ましい。
微生物の植菌方法は、親水性ゲル表面に均一に植菌できる方法であれば特に限定されないが、簡便な方法で均一に植菌できる点から、微生物の培養液(懸濁液)を親水性ゲルの表面に塗布または散布する方法が好ましい。培養液の植菌量は、平板の表面性1cm当たりに換算して、例えば1~30μl/cm、好ましくは3~20μl/cm、さらに好ましくは5~10μl/cmである。培養液中の菌体濃度は、例えば10~10CFU/ml、好ましくは10~10CFU/ml、さらに好ましくは10~10CFU/mlである。
第1の親水性ゲルは、水および栄養源を含み、微生物を増殖させ、かつバイオフィルムを形成できるゲル状物質であれば特に限定されないが、通常、寒天培地(栄養寒天平板)である。寒天培地としては、微生物の種類に応じて、慣用的に利用されている一般的な増殖用寒天培地を利用できる。増殖用寒天培地は、細菌については、例えば、ポリペプトンや酵母エキス、ミネラル等を含む培地などを利用でき、酵母については、例えば、ペプトンや麦芽エキス、ミネラル等を含む培地を利用できる。寒天培地中の寒天含量は、例えば0.3~5%(w/v)、好ましくは0.5~3%、さらに好ましくは1~2%である。
第1のバイオフィルムを形成するための培養温度は、微生物の種類に応じて選択でき、例えば25~38℃、好ましくは28~37℃、さらに好ましくは29~35℃である。
第1のバイオフィルムを形成するための培養時間は、微生物の種類に応じて選択でき、例えば6時間~10日、好ましくは12時間~8日、さらに好ましくは1~5日である。微生物の種類によっては、1日程度でバイオフィルムを形成する菌種もあるが、一般的に、養日数が5日間~1週間程度と長くなるほどバイオフィルムは成熟し、成熟度合に応じて薬剤感受性が変化する。そのため、培養時間を調整して、探索する目的に応じたバイオフィルムを形成するのが望ましい。
(浸透工程)
浸透工程では、得られた第1のバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させる。抗菌成分の浸透方法としては、特に限定されず、抗菌成分を含む水溶液を第1のバイオフィルムの表面に直接塗布して浸透する方法や、抗菌成分で形成された抗菌成形体(例えば、銀などの後述する無機系抗菌剤で形成された抗菌シート)を第1のバイオフィルムの表面に積層して浸透する方法などであってもよいが、第1のバイオフィルム中に抗菌成分を簡便かつ均一に拡散し易い点から、第1のバイオフィルムの上に、抗菌成分を含む抗菌媒体を積層して前記第1のバイオフィルム中に前記抗菌成分を浸透させる方法が好ましい。これらの方法では、浸透後の抗菌成分で形成されたシートや抗菌媒体残渣は除去してもよく、前記シートや抗菌媒体残渣を浸透工程では除去せず、後述する転写工程の転写材として用いてもよい。これらの方法のうち、抗菌成分を簡便かつ均一に拡散し易い点から、第1のバイオフィルムの上に、抗菌成分を含む抗菌媒体を積層して前記第1のバイオフィルム中に前記抗菌成分を浸透させた後、浸透後の抗菌媒体残渣を除去する方法が特に好ましい。
抗菌媒体は、抗菌成分と、この抗菌成分を担持した担体とを含む。抗菌媒体の形状は、第1のバイオフィルムの上に積層するために、通常、シート状またはフィルム状である。シート状またはフィルム状抗菌媒体の平面形状は、特に限定されないが、通常、円形状や、正方形状などの四角形状である。
抗菌成分は、微生物の種類に応じて適宜選択でき、慣用の抗菌剤、殺菌剤、抗菌抗カビ剤、抗カビ剤、防カビ剤などを利用できる。微生物が細菌である場合、抗菌成分は、有機系抗菌剤、無機系抗菌剤のいずれであってもよい。
有機系抗菌剤としては、慣用の抗生物質、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、アンピシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質;ストレプトマイシン、カナマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質;テトラサイクリン、ミノサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生物質;エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質;ピューロマイシンなどの核酸系抗生物質;クロラムフェニコールなどのクロラムフェニコール系抗生物質などが挙げられる。
無機系抗菌剤としては、銀、銅、錫などの金属単体または金属化合物(酸化物、ハロゲン化物、ハロゲン酸塩や過ハロゲン酸塩、無機酸塩、有機酸塩、錯体など)、酸化チタンなどの光触媒系金属酸化物などが挙げられる。
担体は、多孔質担体であってもよく、非多孔質担体であってもよい。多孔質担体には、無機系多孔質担体、有機系多孔質担体が含まれる。
無機系多孔質担体としては、ガラス繊維や炭素繊維などの無機繊維で形成された繊維構造体、例えば、ガラス繊維板、ガラス繊維不織布、炭素繊維板、炭素繊維不織布などの無機系繊維構造体等が挙げられる。
有機系多孔質担体としては、セルロース繊維で形成された繊維構造体、例えば、ペーパーディスク、厚紙、濾紙、濾過板等の有機系繊維構造体等が挙げられる。
これらのうち、担体に抗菌成分を担持し易く、バイオフィルム中に抗菌成分を均一に浸透および拡散できる点から、多孔質担体が好ましく、有機系多孔質担体が特に好ましい。なかでも、抗菌剤の力価試験に汎用されるペーパーディスクなどのセルロース繊維で形成された繊維構造体が特に好ましい。
多孔質担体に抗菌成分を担持させる方法としては、多孔質担体に抗菌成分を含浸させる方法などが挙げられる。
非多孔質担体としては、ガラスシートまたはガラス板、セラミックスシートなどの無機系シート、プラスチックシートなどの有機系シートなどが挙げられる。非多孔質担体に抗菌成分を担持させる方法としては、酸化チタンや銀などの無機系抗菌剤を含む塗料で非多孔質担体の表面を被覆する方法などが挙げられる。
多孔質担体と非多孔質担体とを組み合わせてもよく、例えば、抗菌成分を担持させた多孔質担体と非多孔質担体とを積層した積層体であってもよい。
抗菌成分の割合は、担体100質量部に対して、例えば0.0001~10質量部、好ましくは0.005~5質量部、さらに好ましくは0.001~1質量部である。
抗菌媒体を用いて第1のバイオフィルム中に前記抗菌成分を浸透させる方法は、抗菌成分の種類に適宜選択でき、例えば、第1のバイオフィルムの上に積層して所定時間(例えば30分以上、好ましくは1~10時間、さらに好ましくは2~8時間程度)放置すればよいが、光触媒系金属酸化物の場合は、抗菌媒体の上方および/または下方から光を照射することにより光触媒を活性化して第1のバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させるのが好ましい。光触媒に光を照射すると、抗菌成分としてスーパーオキシドアニオンやヒドロキシラジカル、過酸化水素などの活性酸素種が発生し、抗菌成分を第1のバイオフィルム中に浸透させて拡散できる。しかし、400nm以下の低波長の紫外光線は、微生物の種類によっては紫外光線自体が抗菌作用を有するため、抗菌成分の作用を評価するためには適していない。
浸透工程では、筒状部材(チューブ)の開口部を、第1のバイオフィルムを貫通させて第1の親水性ゲルに埋設することにより抗菌成分が拡散する領域を制限してもよい。第1のバイオフィルムの体積が大きくなるほど、後述する転写後の菌体の非増殖ゾーン(ハロー)は小さく不明瞭となるためである。筒状部材を用いると、抗菌成分の拡散は筒状部材によって遮蔽され、筒状部材の内側で拡散するため、ハローを明瞭に形成でき、抗菌成分のMIC(最小発育阻止濃度)を求めることにより、バイオフィルム破壊能を正確に定量できる。筒状部材は、抗菌成分の浸透を遮蔽できる材質で形成されていればよく、例えば、プラスチックチューブなどを利用できる。開口部の形状は、抗菌媒体の形状に応じて適宜選択でき、抗菌媒体の形状と同一形状、例えば、円形状や正方形状などである。
(転写工程)
転写工程では、転写材を用いて、前記抗菌成分が浸透した第1のバイオフィルムを、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に転写(レプリカ)する。本発明では、転写材によってバイオフィルムを転写するレプリカ法を採用することにより、前記抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価できる。レプリカ法により抗菌成分のバイオフィルム破壊能を簡便かつ正確に定量化できるメカニズムは以下の通りである。
すなわち、前記浸透工程において、抗菌成分が第1のバイオフィルム中に浸透することにより、前記抗菌成分に感受性を示すバイオフィルム菌体は死滅することになる。しかし、肥厚化した第1のバイオフィルムが寒天平板を覆っているために、その内部に存在するバイオフィルム菌体が死滅しているか否かの判定は、目視では全く不可能である。
通常の抗菌試験法であるペーパーディスク法(ディスク拡散法)では、ペーパーディスクより寒天平板中に拡散してくる抗菌成分によって菌体が死滅せしめられた領域は、ハロー(阻止円)と称される非増殖ゾーンとして目視で確認することができる。この阻止円の直径をノギスで計測することにより、抗菌剤の力価を容易に数値化することができる。しかし、本発明が対象とする状況、すなわち、抗菌成分を浸透させる前に菌体増殖によってバイオフィルムが形成された状態では、抗菌成分でバイオフィルム菌体を死滅させることができたとしても、その死滅領域をハローとして目視で確認することは全く不可能である。
このような状況に対して、本発明の第1の評価方法では、転写材にバイオフィルムを付着させ、このバイオフィルムを新鮮な栄養寒天平板に転写するレプリカ法を採用している。転写されたバイオフィルム菌体は、新鮮な栄養寒天平板上で活発に増殖し、再び新たなバイオフィルムを形成するが、転写前のバイオフィルム中に拡散した抗菌成分によって死滅している領域(死滅ゾーン)では転写後に菌体は増殖せず、その結果、バイオフィルムは形成されずに非増殖ゾーン(死滅ゾーンに対応する)として確認でき、バイオフィルムの破壊能を評価可能となる。
転写材としては、第1のバイオフィルムの第2の親水性ゲルの表面に転写できれば特に限定されず、前記浸透工程において浸透後の抗菌成分で形成されたシートや抗菌媒体残渣を除去せずに転写材として用いてもよく、抗菌成分が浸透した第1のバイオフィルムと接触させて第2の親水性ゲル表面に移動させるための新たな転写材(転写工程用転写材)を用いてもよい。前記シートや抗菌媒体残渣を利用する場合は、抗菌成分は無機系抗菌剤であってもよい。これらのうち、転写性などの点から、転写工程用転写材を用いるのが好ましい。
転写工程用転写材は、非多孔質体であってもよいが、転写性に優れる点から、多孔質体が好ましく、繊維構造体が特に好ましい。繊維構造体としては、無機系繊維構造体、有機系繊維構造体を利用できるが、転写性などの点から、有機系繊維構造体が好ましい。有機系繊維構造体としては、セルロース繊維で形成された繊維構造体、例えば、濾紙、不織布、メッシュ、ガーゼ、ビロード布などが挙げられる。
転写工程用転写材を用いて第1のバイオフィルムを転写する方法としては、この転写材に第1のバイオフィルムを付着させた後、第2の親水性ゲルの表面に第1のバイオフィルムを付着させて第1のバイオフィルムから転写材を剥離する方法を利用できる。
前記転写材に第1のバイオフィルムを付着させる方法としては、第1のバイオフィルム表面に転写材を積層して付着させる方法を利用できる。転写材を積層する際には、必要に応じて圧力を付与して転写材にバイオフィルムを付着させてもよい。バイオフィルムは一般に、転写材に容易に付着するため、付与する圧力は、例えば、手で軽く転写材を押す程度であってもよい。
第2の親水性ゲルの表面に転写材に付着した第1のバイオフィルムを付着させる方法としては、第1のバイオフィルムの剥離面を第2の親水性ゲルの表面と接触させて第2の親水性ゲルの表面に積層して付着させる方法を利用できる。転写材に付着した第1のバイオフィルムを積層する際には、必要に応じて圧力を付与して第2の親水性ゲルの表面に第1のバイオフィルムを付着させてもよい。転写材から親水性ゲルへのバイオフィルム菌体の付着も容易であるため、付与する圧力は、例えば、手で軽く転写材全体を均一な力で押す程度であってもよい。
第1のバイオフィルムから転写材を剥離する方法としては、第2の親水性ゲルの表面に第1のバイオフィルムが付着した状態で、転写材のみを第1のバイオフィルムから剥離する方法を利用できる。転写材のみを簡便に剥離する方法としては、ピンセットを利用して転写材の端を摘んで剥離初期の剥離速度を遅くして剥離する方法などが挙げられる。
(第2のバイオフィルム形成工程)
第2のバイオフィルム形成工程では、前記第2の親水性ゲルの表面で前記第1のバイオフィルム中の微生物による第2のバイオフィルムを形成する。
第2の親水性ゲルとしては、第1の親水性ゲルとして例示された親水性ゲルを利用でき、通常、第1の親水性ゲルと同一である。
第2のバイオフィルムの形成するための培養条件は、第1のバイオフィルムの培養温度および培養時間として記載された培養温度および培養時間から選択できる。培養温度は、好ましい態様も第1のバイオフィルムの培養温度と同様であるが、培養時間は、第1のバイオフィルムの培養時間よりも短い方が好ましく、具体的には4~8時間程度が好ましい。転写後のバイオフィルム形成時間が長すぎると、非増殖ゾーン内で死滅していない菌体(薬剤耐性を有し、生き残った菌体)が増殖し易いため、非増殖ゾーンのサイズが縮小したり、境界が不明瞭となる虞がある。
(計測工程)
計測工程では、第1のバイオフィルムが占める領域における第2のバイオフィルムが増殖していない領域(第2のバイオフィルムの非増殖ゾーン)のサイズを計測する。この非増殖ゾーンのサイズをノギスで計測することにより、抗菌成分のバイオフィルム菌体に対する殺菌効果を数値化することができる。抗菌媒体として、円形状のペーパーディスクを用いた場合に形成される非増殖ゾーンは円形状に形成され、正方形状の抗菌媒体を用いた場合に形成される非増殖ゾーンは正方形状に形成される。また、抗菌媒体中に含まれる抗菌成分の濃度を変動させることにより、該抗菌成分のバイオフィルム破壊能(バイオフィルム菌体に対する抗菌力)を最小発育阻止濃度(MIC)として定量化することも可能となる。
(図面による説明)
以下、図1を参照しながら、本発明の第1の評価方法の一例について説明する。図1は、このような本発明の第1の評価方法の一例を示す工程図である。
図1に示されるように、工程1および2では、バイオフィルム形成菌である試験対象の細菌や酵母の増殖に適した寒天培地表面に、これら供試菌の菌体懸濁液1aを所定量植菌して全面に広げ(工程1)、所定の温度と日数で静置培養を行う(工程2)。
次に、工程3および4では、抗菌媒体を、寒天培地表面に形成された第1のバイオフィルムの上部に積層して(工程3)、所定時間(例えば6~16時間)培養を継続しつつ抗菌成分を第1のバイオフィルム中に拡散させる(工程4)。前記抗菌媒体としては、例えば、抗菌成分を含浸させた直径8mmのペーパーディスク(含抗菌成分ペーパーディスク)2aや抗菌性塗板3aなどを利用でき、図1の工程図としては、含抗菌成分ペーパーディスク2aを使用した工程図を示している。なお、工程3において、抗菌成分の拡散を制限させるために、筒状部材(例えば、内径20mmのポリプロピレン製チューブ)をバイオフィルムおよび寒天培地に埋設させてもよい(図示せず)。
工程5および6では、第1のバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させた後、浸透後の抗菌媒体残渣(筒状部材を用いた場合は、抗菌媒体残渣および筒状部材)を除去した後(工程5)、適当なサイズの転写材(例えば、濾紙や不織布)4aを抗菌成分が浸透した第1のバイオフィルムに押し付けて、前記第1のバイオフィルムを剥ぎ取り、新鮮な寒天平板上に、前記第1のバイオフィルムを押し付けて転写を完了する(工程6)。
工程7では、転写した第1のバイオフィルムを所定の温度で1~2日間静置培養を行って第2のバイオフィルムを形成させると、抗菌成分によって第1のバイオフィルム菌体が死滅した部分が非増殖ゾーン(ハロー)として明瞭に確認できる。なお、図1の工程図で示されているように、ペーパーディスクのような円形状の抗菌媒体を利用すると、クリヤゾーンであるハローは円形状に形成されるが、抗菌媒体が図1の抗菌性塗板3aのように正方形状である場合は、クリヤゾーンは正方形状に形成される。
工程8では、形成された非増殖ゾーンのサイズをデジタルノギスで計測することにより、抗菌成分のバイオフィルム破壊能を正確に数値化することができる。また、ノギスによる計測を実体顕微鏡下で拡大計測することにより、その精度を向上できる。
[第2の評価方法]
第2の評価方法では、水および栄養源を含む第1の親水性ゲルの表面に微生物を接種してバイオフィルムを形成するバイオフィルム形成工程、得られたバイオフィルムと抗菌成分とを接触させる接触工程、増殖した微生物を水性媒体中に抽出する抽出工程、抽出した微生物を含む水性媒体を、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に植菌して培養してコロニーを形成するコロニー形成工程、形成されるコロニー数をカウントすることで生菌体数を計測する計測工程を経て、前記抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価する。
(バイオフィルム形成工程)
バイオフィルム形成工程は、第1の評価方法における第1のバイオフィルム形成工程と、好ましい態様も含めて同一である。
(接触工程)
接触工程では、得られたバイオフィルムを抗菌成分と接触させる。第2の評価方法において、抗菌成分は、バイオフィルム破壊能の評価に有効な点から、有機系抗菌剤であってもよいが、無機系抗菌剤が好ましい。有機系抗菌剤および無機系抗菌剤としては、第1の評価方法で例示された有機系抗菌剤および無機系抗菌剤などを利用できる。
抗菌成分の接触方法としては、無機系抗菌剤で形成された抗菌成形体または無機系抗菌剤を含む抗菌媒体をバイオフィルムの表面に積層する方法が好ましい。
抗菌成形体としては、有機系抗菌成分を含浸させた厚紙にカバーガラスを積層した積層体などであってもよいが、銀などの無機系抗菌剤で形成されたシートが好ましく、抗菌媒体としては、酸化チタンや銀などの無機系抗菌剤を担持した多孔質担体や、前記無機系抗菌剤を含む抗菌性プラスチックが好ましい。多孔質担体としては、第1の評価方法で例示された多孔質担体などを利用できる。
接触時間としては、例えば30分以上、好ましくは1~10時間、さらに好ましくは2~8時間程度である。無機系抗菌剤が光触媒系金属酸化物の場合は、第1の評価方法と同様に、光触媒に光照射してもよい。
(抽出工程)
抽出工程では、増殖した微生物を水性媒体中に抽出する。微生物の抽出方法としては、微生物を水性媒体中に抽出できればよく、特に限定されないが、抗菌成形体または抗菌媒体をバイオフィルムの上に積層した場合、簡便性の点から、抗菌成形体または抗菌媒体とバイオフィルムと第1の親水性ゲルとの積層体を水性媒体中に投入して抽出するのが好ましく、前記積層体を切り出して水性媒体中に投入して抽出するのが好ましい。抗菌成分が無機系抗菌剤である場合、抗菌成形体または抗菌媒体とバイオフィルムとの接触領域で抗菌作用が発現するため、バイオフィルム破壊能の評価の点から、前記積層体を切り出す方法(すなわち、前記抗菌成形体または抗菌媒体の形状に切り出す方法)が効果的である。
微生物の抽出方法では、微生物を効率的に抽出するために、水性媒体中に前記積層体を投入し、撹拌処理や超音波処理(簡便に抽出効率を向上できる点から、特に、超音波処理)を施して微生物を抽出する方法が好ましい。なかでも、超音波処理を用いると、簡便な方法によって、前記抗菌成形体または抗菌媒体、バイオフィルムおよび親水性ゲル表面に付着している全微生物を剥離して水性媒体中に懸濁させることができる。前記水性媒体としては、例えば、生理食塩水、緩衝液などが挙げられる。
(コロニー形成工程および計測工程)
コロニー形成工程では、抽出した微生物を含む水性媒体を、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に植菌して培養してコロニーを形成する。微生物の培養条件としては、第1の評価方法における第1のバイオフィルムの培養温度および培養時間として記載された培養温度および培養時間から選択でき、好ましい態様も同一である。
また、抽出した微生物を含む水性媒体は、コロニー数を容易に測定するために、段階的に希釈した懸濁液を用いてもよい。
計測工程では、形成されたコロニー数をカウントすることで生菌体数を計測する。
(図面による説明)
以下、図2を参照しながら、本発明の第2の評価方法の一例について説明する。図2は、このような本発明の第2の評価方法の一例を示す工程図である。
図2に示されるように、工程1および2では、バイオフィルム形成菌である試験対象の細菌や酵母の増殖に適した寒天培地表面に、これら供試菌の菌体懸濁液1bを所定量植菌して全面に広げ(工程1)、所定の温度と日数で静置培養を行う(工程2)。
次に、工程3および9では、抗菌成形体または抗菌媒体を、寒天培地表面に形成された第1のバイオフィルムの上部に積層して(工程3)、所定時間(例えば6~16時間)培養を継続しつつバイオフィルムに抗菌成分を接触させる(工程9)。前記抗菌媒体としては、例えば、無機系抗菌成分を含む抗菌性プラスチック3bなどを利用できる。
工程10および11では、前記抗菌性プラスチック3bを、その直下の寒天平板とともに抗菌性プラスチック-寒天積層体5bとして切り出して(工程10)、水性媒体(生理食塩水もしくは緩衝液)中で超音波処理してバイオフィルム菌体を剥離して懸濁させる(工程11)。
工程12~15では、バイオフィルム菌体を含む懸濁液を適度に段階希釈後(工程12)、新鮮寒天平板上に塗抹して(工程13)、所定温度で所定時間培養し(工程14)、形成されたコロニー数を計測することで生菌数を定量化する(工程15)。対照として非抗菌材料を設定することで、前記抗菌性プラスチックのバイオフィルム破壊能を数値化できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
直径90mmのディスポシャーレにポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム1g、寒天15g、逆浸透膜濾過水1LよりなるpH7.0の寒天平板(30ml)を調製した。抗菌剤としてクロラムフェニコールを用い、多孔性担体であるペーパーディスク(アドバンテック社製、直径8mmφ、厚手)への含浸量250μg/disk、500μg/disk、1,250μg/diskとなるように設定した。なお、各群4枚の試験片を用い、各群間での有意差検定(t-検定)を行った。供試菌としてPseudomonas putida NBRC 14164、バイオフィルムの転写材としてNo.2濾紙(直径55mm)を用いた。
P.putida NBRC 14164の24時間培養液を3倍希釈して上記寒天平板表面に300μl植菌し、30℃で1日間、2日間、3日間静置培養して、寒天平板表面にバイオフィルムを形成させた。その後、含抗菌剤ペーパーディスクをバイオフィルムの中央に設置して、30℃、4時間放置して抗菌剤をバイオフィルム中に浸透および拡散させた。ペーパーディスクをバイオフィルム表面から抜去した後、No.2の濾紙を用いてバイオフィルムを新鮮寒天平板上に転写(レプリカ)した。そのまま30℃で16時間培養し、新たに形成されたバイオフィルム中に形成されたハロー径(非増殖ゾーン)の直径をデジタルノギスで計測した。
その結果を図3に示すが、クロラムフェニコールのペーパーディスクへのチャージ量が多いほど転写後のハロー径(非増殖ゾーン)の直径が大きくなる傾向にあり、遊離菌体の数百倍~千倍近い高濃度ではあるものの、抗菌剤濃度が高くなるほどバイオフィルム菌体の生菌体数を低下させ得ることが確認された。
一方、バイオフィルム形成時間が長くなるほどハロー径は小さくなる傾向が認められた。この現象は、バイオフィルムの成長が長くなるほどバイオフィルム菌体の抗菌剤に対する抵抗性が向上することを示唆するものである。
(実施例2)
直径90mmのディスポシャーレにポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム1g、寒天15g、逆浸透膜濾過水1LよりなるpH7.0の寒天平板(30ml)を調製した。抗菌剤としてクロラムフェニコールを用い、多孔性担体であるペーパーディスク(アドバンテック社製、8mmφ、厚手)への含浸量250μg/diskとなるように設定した。
供試菌としてStaphylococcus epidermidis NBRC 12993の15時間培養液を3倍希釈して300μl植菌、バイオフィルムの転写材としてNo.2濾紙(直径55mm)を用いた。上記の実験系について、ペーパーディスク設置時間(抗菌剤の浸透および攪拌時間)を2時間、4時間、6時間、16時間、24時間、48時間と変動させた。なお、各群4枚の試験片を用い、各群間での有意差検定(t-検定)を行った。
その結果を図4に示すが、ペーパーディスク設置時間16時間までは設置時間が長いほど、レプリカ後に形成されるバイオフィルム中での非増殖ゾーン(ハロー)の直径は拡大した。これは設置時間の伸長に伴い、抗菌剤がバイオフィルム中に広く拡散してS.epidermidisを死滅させたことに起因すると考えられる。しかし、設置時間を48時間まで伸長させた場合、ハロー径は殆ど認められなくなった。この現象は、過度に抗菌剤をバイオフィルム中に拡散させることで抗菌剤の有効濃度が低下することに起因すると考えられた。
(実施例3)
直径90mmのディスポシャーレにポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム1g、寒天15g、逆浸透膜濾過水1LよりなるpH7.0の寒天平板(30ml)を調製した。抗菌剤としてアンピシリン(250μg/disk)を用い、多孔性担体であるペーパーディスク(アドバンテック社製、8mmφ、厚手)への含浸量250μg/diskとなるように設定した。供試菌としてEscherichia coli NBRC 3301の15時間培養液を3倍希釈して300μl植菌、バイオフィルムの転写材としてNo.2濾紙(直径55mm)を用いた。上記の実験系について、ペーパーディスク設置時間(抗菌剤の浸透および攪拌時間)を2時間、4時間、6時間、24時間と変動させた。なお、各群4枚の試験片を用い、各群間での有意差検定(t-検定)を行った。
その結果を図5に示すが、転写後の新鮮寒天平板上におけるバイオフィルム形成時間が長くなるほどハロー径の縮小が認められた。このことは、転写後のバイオフィルム形成時間の伸長に伴い、死滅し切れていない抗菌剤抵抗性の菌体が増殖してくることに起因すると考えられた。このことは、ペーパーディスク設置時間が6時間以上でバイオフィルム形成時間が8時間の場合に、ペーパーディスクの直径よりもハロー径が縮小してしまうことからも明らかである。
(実施例4)
直径90mmのディスポシャーレにポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム1g、寒天15g、逆浸透膜濾過水1LよりなるpH7.0の寒天平板(30ml)を調整した。抗菌剤としてクロラムフェニコールを用い、多孔性担体であるペーパーディスク(アドバンテック社製、8mmφ、厚手)への含浸量250μg/diskとなるように設定した。供試菌としてグラム陽性細菌のStaphylococcus epidermidis NBRC 12993とグラム陰性細菌のPseudomonas putida NBRC 14164の15時間培養液を3倍希釈して300μl植菌、バイオフィルムの転写材としてNo.2濾紙(直径55mm)を用いた。抗菌剤のバイオフィルム中への拡散領域を制限するために、内径20mmのポリプロピレンチューブ(PPチューブ)をバイオフィルム/寒天平板中に挿入し、該チューブ内領域に抗菌剤の拡散領域を制限した。
その結果を図6に示すが、抗菌剤の拡散領域を制限することにより、ハローの形成がより明瞭に写真から確認することができ、直径20mmに抗菌剤の拡散領域を制限することが有効であった。
(実施例5)
直径90mmディスポシャーレにポリペプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム1g、寒天15g、逆浸透膜濾過水1LよりなるpH7.0の寒天平板(30ml)を調製した。供試菌としてPseudomonas putida NBRC 14164とStaphylococcus epidermidis NBRC 12993の16時間培養液を3倍希釈してそれぞれ300μl植菌し、30℃で24時間培養した。
カバーガラス(24×24mm)に厚紙(24×24mm)を貼り、この厚紙にクロラムフェニコールを含浸させた調整物を抗菌媒体とした。上記のようにして形成させた寒天平板上のバイオフィルムの中心に、前記抗菌媒体を積層し、16時間静置した。クロラムフェニコールの添加量(含浸量)は抗菌媒体1枚当たり250、500、1000μgに調整した。なお、各群4枚の試験片を用い、各群間での有意差検定(t-検定)を行った。その後、抗菌媒体を寒天培地とともに切り出して生理食塩水10mlに入れ、1分間超音波処理することにより、抗菌媒体および寒天に付着している全菌体を剥離した。得られた各供試菌の菌懸濁液を10倍まで段階希釈した後、コーンラージ棒およびターンテーブルを用いて菌体懸濁液を上記と同じ組成の新鮮な寒天平板表面に100μl植菌した。16時間静置培養後、寒天平板表面に形成されたコロニー数を計測した。
その結果を図7に示すが、両株ともクロラムフェニコール濃度を形成コロニー数(生菌体数)との間に負の相関関係が認められた。なお、S.epidermidis NBRC 12993のコロニー数が有意に少なく、同株のクロラムフェニコールに対する感受性がP. putida NBRC 14164のそれよりも有意に高いことが確認された。
(実施例6)
直径90mmディスポシャーレにポリぺプトン10g、酵母エキス2g、硫酸マグネシウム1g、寒天15g、逆浸透膜濾過水1LよりなるpH7.0の寒天平板(30ml)を調製した。供試菌としてP.putida NBRC 14164、S.epidermidis NBRC 12993を用いた。カバーガラス(24mm×24mm)に抗菌材料(24mm×24mm)を両面テープで貼り付け、抗菌媒体とした。抗菌材料として、含銀抗菌シート(大和物産(株)、お弁当用抗菌シート)と防ダニ抗菌不織布((株)ワイズ、含ピレスロイド系防ダニ剤・無機系抗菌剤不織布)を使用した。比較として滅菌済みのポリプロピレンシート(24mm×24mm)を使用した。なお、各群4枚の試験片を用い、各群間での有意差検定(t-検定)を行った。
両供試菌の16時間培養液を3倍希釈して上記寒天平板表面に300μl植菌し、30℃で24時間培養して寒天平板表面にバイオフィルムを形成させた。バイオフィルムの中心に、前記抗菌媒体を積層し、30℃、16時間静置した。その後、抗菌媒体を寒天培地とともに切り出して生理食塩水10mlに入れ、1分間超音波処理することにより、抗菌媒体および寒天に付着している全菌体を剥離した。得られた各供試菌の菌懸濁液を10倍まで段階希釈した後、コーンラージ棒およびターンテーブルを用いて菌体懸濁液を上記と同じ組成の新鮮な寒天平板表面に100μl植菌した。30℃、16時間静置培養後、寒天平板表面に形成されたコロニー数を計測した。
その結果を図8に示す。両抗菌シートのコロニー数がコントロールよりも少なかった。特に、含銀抗菌シートで対象のポリプロピレンシートよりも有意に低い生菌数となり、銀イオンによるバイオフィルム菌体の殺菌能が確認できた。
本発明のバイオフィルム破壊能の評価方法は、バイオフィルムを形成する各種の微生物、例えば、放線菌を含む細菌や酵母、カビなどが形成するバイオフィルムに対する抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価するために利用できる。
1a,1b…菌体懸濁液
2a…含抗菌成分ペーパーディスク
3a…抗菌性塗板
3b…抗菌性プラスチック
4a…転写材
5b…抗菌性プラスチック-寒天積層体

Claims (8)

  1. 水および栄養源を含む第1の親水性ゲルの表面に微生物を植菌して第1のバイオフィルムを形成する第1のバイオフィルム形成工程、得られた第1のバイオフィルム中に抗菌成分を浸透させる浸透工程、転写材を用いて、前記抗菌成分が浸透した第1のバイオフィルムを、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に転写する転写工程、前記第2の親水性ゲルの表面で前記第1のバイオフィルム中の微生物による第2のバイオフィルムを形成する第2のバイオフィルム形成工程、第1のバイオフィルムが占める領域における第2のバイオフィルムが増殖していない領域のサイズを計測する計測工程を経て、前記抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価する方法。
  2. 浸透工程において、第1のバイオフィルムの上に、抗菌成分を含む抗菌媒体を積層して前記第1のバイオフィルム中に前記抗菌成分を浸透させた後、浸透後の抗菌媒体残渣を除去する請求項1記載の方法。
  3. 抗菌媒体が、抗菌成分としての抗菌剤と、この抗菌剤を担持する多孔質担体とを含む請求項2記載の方法。
  4. 転写材が繊維構造体である請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 浸透工程において、筒状部材の開口部を、第1のバイオフィルムを貫通させて第1の親水性ゲルに埋設することにより抗菌成分が浸透する領域を制限する請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 水および栄養源を含む第1の親水性ゲルの表面に微生物を接種してバイオフィルムを形成するバイオフィルム形成工程、得られたバイオフィルムの上に、抗菌成分で形成された抗菌成形体または抗菌成分を含む抗菌媒体を積層して前記バイオフィルムと前記抗菌成分とを接触させた後、前記抗菌成形体または抗菌媒体と前記バイオフィルムと前記第1の親水性ゲルとの積層体を切り出す接触工程、前記積層体から増殖した微生物を水性媒体中に抽出する抽出工程、抽出した微生物を含む水性媒体を、水および栄養源を含む第2の親水性ゲルの表面に植菌して培養してコロニーを形成するコロニー形成工程、形成されるコロニー数をカウントすることで生菌体数を計測する計測工程を経て、前記抗菌成分のバイオフィルム破壊能を評価する方法。
  7. 抗菌成分が、有機系抗菌剤または無機系抗菌剤である請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
  8. 微生物が細菌または酵母である請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
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