JP7428601B2 - ガスシールドアーク溶接方法、構造物の製造方法及びシールドガス - Google Patents
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Description
例えば、フラックス入りワイヤを使用した場合は、フラックス自体が仕事関数の低い酸化物を多く含有し、この酸化物が電子を放出する陰極点として働くため、高いアーク安定性を得ることができる。
これに対して、ソリッドワイヤを使用した場合は、シールドガス中のArの比率が高くなるほど、溶融金属表面に陰極点が形成されにくくなるため、アーク偏向が多発し、アークが不安定になる。したがって、ソリッドワイヤを使用した場合に、高Ar雰囲気においては、フラックス入りワイヤを使用した場合よりも融合不良が発生し易くなる。
しかしながらHeガスは、近時、世界的な供給不足であることが知られており、高コストなガスであるため、汎用的に使用できるガスであるとは言えない。また、特許文献2に記載のシールドガスが適用される溶接条件は1層1パスであり、一対の母材の厚さH1とこれら母材間の開先の間隔W1の比が0.4以下、この開先の角度θ1が10°以下の狭開先に対する溶接用として限定されている。したがって、Heガスを使用することなく、また、溶接条件を特に限定することなく溶接を実施することができる溶接方法の開発が要求されている。
前記シールドガスは、シールドガス全体積に対し、
CO2:0.5体積%以上2.0体積%以下、及び、
H2:0.5体積%以上3.0体積%以下、
を含有し、
残部がAr及び不可避的不純物であり、
前記シールドガス全体積に対する前記CO2の含有量を体積%で[CO2]とし、前記シールドガス全体積に対する前記H2の含有量を体積%で[H2]としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
1.30≦[CO2]+[H2]≦4.40・・・(1)
0.35≦[H2]/([CO2]+[H2])≦0.74・・・(2)
57.0≦0.5×[Ar]+1.5×[CO2]+10×[H2]≦80.0・・・(3)
Cr:18質量%以上28.5質量%以下、及び、
Ni:8.0質量%以上37.0質量%以下、
を含有し、
DeLongの組織図に基づくフェライト百分率で15.3%以下の組織を有することを特徴とする[1]又は[2]に記載のガスシールドアーク溶接方法。
C:0.20質量%以下(0質量%を含む)、
Si:1.00質量%以下(0質量%を含む)、
Mn:4.8質量%以下(0質量%を含む)、
P:0.03質量%以下(0質量%を含む)、
S:0.03質量%以下(0質量%を含む)、
Cu:4.0質量%以下(0質量%を含む)、
Mo:4.0質量%以下(0質量%を含む)、
Nb:1.0質量%以下(0質量%を含む)、及び、
N:0.30質量%以下(0質量%を含む)、
であることを特徴とする[3]に記載のガスシールドアーク溶接方法。
前記開先は、V形、レ形、I形、K形、X形、J形及びU形から選択された1種の開先形状を有し、
前記開先の開先角度は0~90°であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接方法。
前記溶接ワイヤの突出し長さLが10~30(mm)以下であり、
前記ガス流量Q(リットル/分)と前記突出し長さL(mm)との比が、下記式(4)を満足することを特徴とする[1]~[5]のいずれか1つに記載のガスシールドアーク溶接方法。
0.5≦Q/L≦2.2・・・(4)
前記シールドガスは、シールドガス全体積に対し、
CO2:0.5体積%以上2.0体積%以下、及び、
H2:0.5体積%以上3.0体積%以下、
を含有し、
残部がAr及び不可避的不純物であり、
前記シールドガス全体積に対する前記CO2の含有量を体積%で[CO2]とし、前記シールドガス全体積に対する前記H2の含有量を体積%で[H2]としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする構造物の製造方法。
1.30≦[CO2]+[H2]≦4.40・・・(1)
0.35≦[H2]/([CO2]+[H2])≦0.74・・・(2)
シールドガス全体積に対し、
CO2:0.5体積%以上2.0体積%以下、及び、
H2:0.5体積%以上3.0体積%以下、
を含有し、
残部がAr及び不可避的不純物であり、
前記シールドガス全体積に対する前記CO2の含有量を体積%で[CO2]とし、前記シールドガス全体積に対する前記H2の含有量を体積%で[H2]としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とするシールドガス。
1.30≦[CO2]+[H2]≦4.40・・・(1)
0.35≦[H2]/([CO2]+[H2])≦0.74・・・(2)
本発明に係るガスシールドアーク溶接方法は、溶接トーチを介して消耗式電極(以下、溶接ワイヤともいう)を送給し、シールドガスを溶接母材の被溶接領域に流しながら溶接を行う方法となる。本発明は、上記溶接方法において使用されるシールドガスにも関するものであるため、まず、本発明に係るシールドガスについて説明する。
本発明に係るシールドガスは、CO2(二酸化炭素)及びH2(水素)を含有し、残部がAr(アルゴン)及び不可避的不純物から構成される。上述の通り、シールドガスは、大気中の窒素や酸素の悪影響から溶融金属を保護するために用いられるが、その一方で、シールドガスにCO2やO2といった酸素原子を有する分子性ガスが含まれる場合、シールドガスに含まれる酸素原子が溶融金属中に入る。本発明の前提である優れた溶接金属の靱性を確保するためには、溶接金属の低酸素化が条件となる。したがって、本発明に係るシールドガスは、酸素原子を有する分子性ガスを極力少なくして、汎用的な不活性ガスであるArガスを主成分としている。
なお、後述する通り、CO2ガスはアーク安定性に寄与するガスとなり、H2ガスはアーク力に寄与するガスとなる。以下、各ガス組成と適正範囲について詳細に説明する。
CO2はアーク中で原子状に解離しやすく、アークから解離熱を奪うことから、アークの緊縮効果に寄与する。なお、空気を1としたときのCO2の電位傾度の比は1.5とされている。また、解離したO(酸素原子)が、溶融池上の脱酸元素と反応し、溶融池表面で酸化物を形成して、この酸化物が陰極点として働くことで、アーク偏向を抑制し、アークが安定する。しかし、解離したOが溶融金属中に入ると、結果として溶接金属の酸素量が増加する可能性があるため、シールドガス中のCO2は適切に制御する必要がある。
CO2含有量が0.5体積%未満であると、主にアーク安定効果を確保することができない。したがって、シールドガス中のCO2含有量は、シールドガス全体積に対して、0.5体積%以上とし、好ましくは0.6体積%以上であり、より好ましくは0.9体積%以上である。
H2は、他の分子と比較しても電位傾度が高い分子であり、空気を1としたときのH2の電位傾度の比は10とされている。これはH2の解離電圧が極端に低いことが要因であり、多量の解離熱を奪うため、アークの緊縮効果に大きく寄与する。また、H2は還元効果もあり、溶融金属中に入る酸素を抑制する効果もある。H2含有量が0.5体積%未満であると、アーク緊縮効果が得られず、電流密度が低下し、アーク力が減少するため、融合不良が発生する。したがって、シールドガス中のH2含有量は、シールドガス全体積に対して、0.5体積%以上とし、好ましくは0.8体積%以上であり、より好ましくは1.0体積%以上である。
(Ar:95体積%以上98.5体積%以下)
Arは単原子分子であり、安定な化学結合を形成しない特性を有するため、Arガスは不活性ガスや希ガスとも呼ばれる。溶接においては、シールドガス中に含まれるArガス、すなわち不活性ガスの割合が大きいほど、シールドガスから溶融金属中に入る酸素等を抑制することができ、溶接金属の低酸素化を図ることができる。したがって、本発明に係るシールドガスは、上記CO2及びH2を含有し、残部がAr及び不可避的不純物であるものとし、Ar含有量については特に制限されない。なお、Ar含有量が95体積%以上であると、溶接金属の酸素量を低くして、優れた靱性を確保することができる。したがって、シールドガス中のAr含有量は、シールドガス全体積に対して、95体積%以上であることが好ましく、95体積%超であることがより好ましく、96体積%以上であることが更に好ましい。
なお、空気を1としたときのArの電位傾度の比は0.5となる。
本発明に係るシールドガスに含有され得る不可避的不純物としては、酸素、窒素及び水等が挙げられる。上記不可避的不純物のうち、酸素の含有量は少ないほどよく、シールドガス中のO2含有量は、シールドガス全体積に対して、0.02体積%以下であれば、本発明の効果を妨げない。また、その他の不可避的不純物の含有量についても、少ないほどよく、シールドガス中のO2以外の各成分の含有量は、シールドガス全体積に対して、それぞれ0.03体積%以下であれば、本発明の効果を妨げない。なお、シールドガスに含有される不可避的不純物の合計量は、シールドガス全体積に対して、好ましくは、0.05体積%以下であり、さらに好ましくは0.03体積%以下に制限できるとよい。
上述の通り、CO2とH2は、いずれもアーク緊縮効果に寄与するとともに、アーク安定性を向上させる効果を有する成分であるため、本発明においては、これらの合計量についても最適範囲を限定する。
シールドガス全体積に対するCO2含有量を体積%で[CO2]とし、H2含有量を体積%で[H2]としたとき、[CO2]+[H2]が1.30未満であると、アーク緊縮効果による融合不良抑制効果及びアーク安定性の向上効果のいずれか一方又は両方の効果を得ることができない。
一方、[CO2]+[H2]が4.40を超えると、アークの緊縮効果が過剰になり、アーク不安定が発生する。
H2はアーク緊縮効果に大きく寄与するため、本発明においては、CO2含有量とH2含有量との合計量に対するH2含有量の比率についても、最適範囲を限定する。すなわち、CO2含有量とH2含有量との合計量が、上記式(1)を満足するものであるとともに、この合計量に対するH2の比率が、下記式(2)を満足するものである場合においてのみ、本発明の効果である融合不良抑制とアーク安定性をともに満たす効果を発揮する。
一方、上記比率が0.74を超えると、CO2のアーク安定効果が発揮されない上に、過度なアーク緊縮効果により、溶滴移行がグロビュール移行形態となるため、より一層アークが不安定となる。したがって、CO2含有量及びH2含有量は、下記式(2)を満足するものとする。なお、[H2]/([CO2]+[H2])により得られる値は0.40以上であることが好ましく、0.47以上であることがより好ましく、0.70以下であることが好ましく、0.67以下であることがより好ましい。
上述の通り、本発明においては、シールドガス中のCO2含有量、H2含有量及びAr含有量を適切に制御することにより、融合不良の発生を抑制することができるとともに、アーク安定性を向上させることができる。これらの各ガスの、融合不良抑制及びアーク安定性の向上に対する影響は、空気を1としたときの電位傾度比によって決定される。
したがって、本発明においては、下記式(3)を満足することが好ましい。なお、0.5×[Ar]+1.5×[CO2]+10×[H2]により得られる値は59.0以上であることがより好ましく、63.0以上であることが更に好ましく、79.0以下であることがより好ましく、78.0以下であることが更に好ましい。
一方、外側と内側の二つのノズルを用いた2重シールドガス方式を用いて、溶融金属近傍で混合する方法は、ガスの組成が不均一になり、本発明の効果が作用しない可能性がある。また、2重シールドガス方式において、例えば、外側をAr、内側をCO2やH2ガスとするときは、活性ガスが局所的に存在することになるため、なじみや光沢性に悪影響を及ぼす可能性がありうる。よって、溶融金属近傍で混合する方法は、本発明の効果が存分に発揮されない可能性があるため、用いないことが望ましい。
本発明に係る溶接方法において使用される溶接ワイヤの形態は、特に問わず、ソリッドワイヤでもよいし、フラックス入りワイヤでもよい。
ソリッドワイヤは、ワイヤ断面が中実である針金状のワイヤとなる。ソリッドワイヤはその表面に銅めっきを施すものと施さないものがあるが、どちらの形態であってもよい。
Crは溶接金属の耐食性を向上させる成分である。また、Niは溶接金属のオーステナイト組織を安定化させ、低温での靱性を向上させる成分であり、フェライト組織の晶出量を調整する目的で一定量添加される成分である。
本発明において、溶接ワイヤとしては、オーステナイト系ステンレスであることが好ましい。また、溶接ワイヤ中のCr含有量及びNi含有量は、ともに、JIS Z3321:2013(溶接用ステンレス鋼溶加棒、ソリッドワイヤ及び鋼帯)又はJIS Z3323:2007(ステンレス鋼アーク溶接フラックス入りワイヤ及び溶加棒)で規定されている範囲内であることが好ましい。具体的に、溶接ワイヤ中のCr含有量は、溶接ワイヤ全質量に対して18質量%以上28.5質量%以下であることが好ましい。
また、溶接ワイヤ中のNi含有量は、溶接ワイヤ全質量に対して8.0質量%以上37.0質量%以下であることが好ましい。
また、溶接ワイヤが、DeLongの組織図に基づき、オーステナイトのみからなる組織であるか、又はオーステナイトとフェライトからなる組織であって、フェライト百分率で15.3%以下の組織を有するものであると、より一層溶接金属の割れを防止することができるため好ましい。
Cは溶接金属の強度又は耐食性に影響を及ぼす成分であり、溶接ワイヤ中のC含有量が低いほど、耐食性が良好となることから、溶接ワイヤ中のC含有量は少ないほど好ましく、0質量%であってもよい。得られる溶接金属の機械的性能を調整するために、溶接ワイヤがCを任意元素として含有する場合に、具体的には、溶接ワイヤ中のC含有量はワイヤ全質量に対して0.20質量%以下であることがより好ましい。
Siは溶接金属の強度を向上させる成分である元素であるが、その一方で、靱性を劣化させる成分でもあるため、溶接ワイヤ中のSi含有量は0質量%であってもよい。得られる溶接金属の機械的性能を調整するために、溶接ワイヤがSiを任意元素として含有する場合に、具体的には、溶接ワイヤ中のSi含有量はワイヤ全質量に対して1.00質量%以下であることがより好ましい。
Mnは溶接金属の強度を向上させる成分であるが、本発明においては、溶接ワイヤ中のMn含有量は0質量%であってもよい。得られる溶接金属の機械的性能を調整するために、溶接ワイヤがMnを任意元素として含有する場合に、具体的には、溶接ワイヤ中のMn含有量はワイヤ全質量に対して4.8質量%以下であることがより好ましい。
<S:0.03%質量以下(0%含む)>
P及びSは、溶接金属中の含有量が多くなるほど耐割れ性が低下するため、溶接ワイヤ中のP含有量及びS含有量はいずれも少ないほど好ましく、0質量%であってもよい。具体的には、溶接ワイヤ中のP含有量及びS含有量は、ワイヤ全質量に対して、それぞれ0.03質量%以下であることがより好ましい。
Cuは溶接金属の強度及び耐食性を向上させる成分であるが、本発明においては、溶接ワイヤ中のCu含有量は0質量%であってもよい。得られる溶接金属の機械的性能及び耐食性を調整するために、溶接ワイヤにCuを任意元素として含有する場合や、溶接時の通電性を向上させる等の目的で表面にCuめっきを施す場合に、具体的には、溶接ワイヤ中およびめっきされるCu含有量の合計はワイヤ全質量に対して4.0質量%以下であることがより好ましい。
Moは高温強度及び耐食性を向上させる成分であるが、その一方で、σ脆化を助長する成分でもあるため、溶接ワイヤ中のMo含有量は0質量%であってもよい。得られる溶接金属の機械的性能及び耐食性を調整するために、溶接ワイヤがMoを任意元素として含有する場合に、具体的には、溶接ワイヤ中のMo含有量は溶接ワイヤ全質量に対して4.0質量%以下であることがより好ましい。
Nbは炭化物を生成することによりCを安定化させる効果があり、Cr酸化物の生成を抑制して耐食性を向上させる成分である。なお、ここでいう炭化物は、炭硫化物、炭窒化物等のCを含む複合化合物も含む。その一方で、Nbが溶接ワイヤ中に必要以上に含有されると、結晶粒界に低融点化合物を生成し、耐割れ性を劣化させるため、溶接ワイヤ中のNb含有量は0質量%であってもよい。得られる溶接金属の耐食性を調整するために、溶接ワイヤがNbを任意元素として含有する場合に、具体的には、溶接ワイヤ中のNb含有量は溶接ワイヤ全質量に対して1.0質量%以下であることが好ましい。なお、Nbの代用として、TiをNbと同じ範囲内で含有してもよい。
Nは結晶構造内に侵入型固溶して強度を向上させるとともに、耐孔食性を向上させる成分である。一方、Nは溶接金属にブローホールやピットといった気孔欠陥を発生させる原因ともなるため、溶接ワイヤ中のN含有量は0質量%であってもよい。得られる溶接金属の機械的性能及び耐孔食性を調整するために、溶接ワイヤがNを任意元素として含有する場合に、具体的には、溶接ワイヤ中のN含有量は溶接ワイヤ全質量に対して0.30質量%以下であることが好ましい。
次に、本発明に係るガスシールドアーク溶接方法に使用することができる溶接装置について説明する。溶接装置としては、ガスシールドアーク溶接を行う溶接装置であれば特に限定されず、従来のガスシールドアーク溶接に用いられている溶接装置を用いることができる。例えば、半自動溶接装置、移動台車等を用いた自動溶接装置、溶接ロボットシステム等が挙げられる。
例えば、図2に示すように、溶接装置1は、溶接トーチ11が先端に取り付けられ、その溶接トーチ11をワークWの溶接線に沿って移動させるロボット10と、溶接トーチ11に溶接ワイヤを供給するワイヤ供給部(図示しない)と、ワイヤ供給部を介して消耗式電極に電流を供給して、消耗式電極と被溶接材との間でアークを発生させる溶接電源部30を備える。また、溶接装置は、溶接トーチ11を移動させるためのロボット動作を制御するロボット制御部20を備え、さらにロボット制御部20に操作者からの指令を入力する為のインターフェースとなる教示ペンダント40を備える。
溶接トーチの姿勢は、母材に対して垂直であっても、傾斜させてもよい。溶接トーチを溶接進行方向の反対側に向かって傾斜させる場合に、母材に対する垂線と該トーチとの成す角を前進角と言い、当該溶接進行方向に向かって傾斜させる場合に、母材に対する垂線と該トーチとの成す角を後退角と言う。溶接トーチに前進角を付けることで、より効果的にアーク溶接中のシールド性を高めることが可能となる。また、電極に後退角を付けることで、ビード後方をシールドできるため、溶接直後のビードの酸化反応を抑制することができる。本発明においては、溶接線上の適正な溶け込みと良好なビード形状とを得るために、前進角及び後退角の条件を必要に応じて変更してもよい。
シールドガス流量Qは、大気から溶融金属を防護するためのシールド性に寄与する。シールドガス流量Qが10(リットル/分)以上であると、十分なシールド性を確保することができる。また、シールドガス流量Qが30(リットル/分)以下であると、ガスの流れは乱流を抑え、安定な層流となる。したがって、シールド性確保の観点から、シールドガス流量Qは、10~30(リットル/分)とすることが好ましく、ビードのなじみ及び光沢性をより一層確保する観点から、シールドガス流量Qは、15~25(リットル/分)であることがより好ましい。
溶接ワイヤの突出し長さLも、大気から溶融金属を防護するためのシールド性に寄与する。溶接ワイヤの突出し長さLが30mm以下であると、大気の巻込みによってガス組成が変化することを抑制し、十分なシールド性を確保することができる。また、溶接ワイヤの突出し長さLが10mm以上であると、アーク熱によるコンタクトチップやシールドノズルの損傷を抑制することができる。したがって、シールド性確保と装置損傷抑制の観点から、溶接ワイヤの突き出し長さLは、10~30mmであることが好ましく、熱損傷を抑え、長時間の溶接性を確保したうえで、アーク安定性、ビードのなじみ及び光沢性をより確保する観点から、溶接ワイヤの突出し長さLは、15~20mmであることがより好ましい。
本発明においては、上記シールドガス流量Qと溶接ワイヤの突出し長さLとを適切に制御するとともに、シールドガス流量Qと突出し長さLとの比を制御することが好ましい。Q/Lが0.5以上であれば、より好ましいシールド性を確保でき、2.2以下であれば、ガスの流れはより安定な層流の状態でアーク領域を保護することができる。したがって、シールドガス流量Qと突出し長さLとの比は、下記式(4)を満足することが好ましい。
本発明に係るガスシールドアーク溶接方法において、溶接母材の開先形状は特に限定されないが、例えば、V形、レ形、I形、K形、X形、J形及びU形から選択された1種の開先形状とすることができる。
また、開先角度についても限定されないが、I形の開先形状を適用することができるため、開先角度は0°以上であることが好ましい。一方、開先角度が90°以下であれば、溶接ワイヤ及びシールドガスの消耗量を適切に調整することができるため好ましい。したがって、開先角度は0~90°とすることが好ましい。
本発明は、溶接ワイヤと、上述の通り組成が制御されたシールドガスを用いたガスシールドアーク溶接により製造される構造物の製造方法にも関する。なお、溶接ワイヤについても、上述の通り組成が制御されたものであることが好ましい。
ステンレス鋼の母材に対して、種々の組成のシールドガスを使用して、種々の溶接条件で、1層1パスのビードオンプレート溶接を実施した。本発明例及び比較例において、共通して使用した溶接条件の詳細を下記表1に示し、シールドガスの組成を下記表2に示す。なお、表1に示すアーク長は、高速度ビデオカメラを用いてアークを撮影し、基準長とした6mmになるように、溶接電源の電圧調整ボリュームを適宜変更して調整を行った。使用した高速度ビデオカメラのレンズ部には適切なフィルタを適用し、アーク光が観察できるようにした。
また、溶接時に溶滴移行を観察することにより、アーク安定性を評価するとともに、溶接により得られたビードを試料とし、観察することにより、溶融性能、なじみ及び光沢性を評価した。各評価方法における測定方法及び評価基準を下記表3~表9に示す。また、下記表1に示す条件以外の溶接条件を下記表10に示し、評価結果を下記表11に示す。
<溶接電流を100Aとした場合の溶融性能試験方法>
溶接電流を100Aとした低電流の溶接条件は、通常は立向溶接や上向溶接等の難溶接姿勢に適用される条件である。このような姿勢での溶接は通常、溶接速度が非常に遅くなることから、溶接入熱が高くなるため、融合不良欠陥は発生しにくい。本実施例においては、簡易的に下向溶接とした。
溶融性能は、ビード幅及びビード高さを測定し、ビード幅とビード高さの比(ビード幅/ビード高さ)を算出することにより評価した。溶接電流を100Aとした場合に、(ビード幅/ビード高さ)により得られる値が2.3以上であれば、開先施工を行う際にも融合不良の発生は防止できると判断し、合格とした。
溶接電流を150Aとした高電流の溶接条件は、下向溶接に適用される条件であり、本試験において得られるビード形状が重要となる。
溶接電流を100Aとした場合と同様に、ビード幅及びビード高さを測定し、ビード幅とビード高さの比(ビード幅/ビード高さ)を算出することにより評価した。溶接電流を150Aとした場合に、(ビード幅/ビード高さ)により得られる値が3.3以上であれば、融合不良の発生は防止できると判断し、合格とした。評価方法を下記表3に示す。なお、ビード幅、ビード高さはそれぞれノギスで測定を行った。
なじみ性については、溶接電流を100Aとした場合と、150Aとした場合の両方における官能評価とした。なお、各溶接電流におけるなじみ性は1~5の5段階評価とし、溶接電流を100Aとした場合のなじみ性の点数と、溶接電流を150Aとした場合のなじみ性の点数との合計を総合評価とした。なじみ性の評価基準を下記表4に示し、なじみ性の総合評価の評価基準を下記表5に示す。
光沢性についても、溶接電流を100Aとした場合と、150Aとした場合の両方における官能評価とした。なお、各溶接電流における光沢性は1~3の3段階評価とし、溶接電流を100Aとした場合の光沢性の点数と、溶接電流を150Aとした場合の光沢性の点数との合計を総合評価とした。光沢性の評価基準を下記表6に示し、光沢性の総合評価の評価基準を下記表7に示す。
溶滴移行については、溶接電流を100Aとした場合と、150Aとした場合の両方において、高速度ビデオカメラにより観察し、各溶接電流における溶滴移行を1~3の3段階で評価した。また、溶接電流を100Aとした場合の溶滴移行の点数と、溶接電流を150Aとした場合の溶滴移行の点数とに基づき、アーク安定性の総合評価とした。溶滴移行の評価基準を下記表8に示し、アーク安定性の総合評価の評価基準を下記表9に示す。
下記表10~表12に示すように、試験No.T1~T13は、シールドガスの組成が本発明の範囲内であるとともに、CO2含有量及びH2含有量により得られる式(1)及び式(2)を満足しているため、溶融性能、アーク安定性、なじみ性及び光沢性のいずれの項目についても、優れた結果となった。
また、試験No.T13は、シールドガス中のCO2含有量が本発明範囲内であって高い値であるため、優れたアーク安定性を得ることができた。
10 ロボット
11 溶接トーチ
20 ロボット制御部
30 溶接電源部
40 教示ペンダント
Claims (8)
- 溶接ワイヤを電極として使用し、シールドガスを溶接母材の被溶接領域に流しながら溶接するガスシールドアーク溶接方法であって、
前記シールドガスは、シールドガス全体積に対し、
CO2:0.6体積%以上2.0体積%以下、及び、
H2:0.5体積%以上3.0体積%以下、
を含有し、
残部がAr及び不可避的不純物であり、
前記シールドガス全体積に対する前記CO2の含有量を体積%で[CO2]とし、前記シールドガス全体積に対する前記H2の含有量を体積%で[H2]としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とするガスシールドアーク溶接方法。
1.56≦[CO2]+[H2]≦4.40・・・(1)
0.35≦[H2]/([CO2]+[H2])≦0.74・・・(2) - 前記シールドガス全体積に対する前記Arの含有量を体積%で[Ar]としたとき、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接方法。
57.0≦0.5×[Ar]+1.5×[CO2]+10×[H2]≦80.0・・・(3) - 前記溶接ワイヤは、溶接ワイヤ全質量に対し、
Cr:18質量%以上28.5質量%以下、及び、
Ni:8.0質量%以上37.0質量%以下、
を含有し、
DeLongの組織図に基づくフェライト百分率で15.3%以下の組織を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガスシールドアーク溶接方法。 - 前記溶接ワイヤは、前記溶接ワイヤ全質量に対し、
C:0.20質量%以下(0質量%を含む)、
Si:1.00質量%以下(0質量%を含む)、
Mn:4.8質量%以下(0質量%を含む)、
P:0.03質量%以下(0質量%を含む)、
S:0.03質量%以下(0質量%を含む)、
Cu:4.0質量%以下(0質量%を含む)、
Mo:4.0質量%以下(0質量%を含む)、
Nb:1.0質量%以下(0質量%を含む)、及び、
N:0.30質量%以下(0質量%を含む)、
であることを特徴とする請求項3に記載のガスシールドアーク溶接方法。 - 前記溶接母材の被溶接領域は開先を有し、
前記開先は、V形、レ形、I形、K形、X形、J形及びU形から選択された1種の開先形状を有し、
前記開先の開先角度は0~90°であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接方法。 - 前記シールドガスのガス流量Qが10~30(リットル/分)以下、
前記溶接ワイヤの突出し長さLが10~30(mm)以下であり、
前記ガス流量Q(リットル/分)と前記突出し長さL(mm)との比が、下記式(4)を満足することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接方法。
0.5≦Q/L≦2.2・・・(4) - 溶接ワイヤ及びシールドガスを用いたガスシールドアーク溶接により製造される構造物の製造方法であって、
前記シールドガスは、シールドガス全体積に対し、
CO2:0.6体積%以上2.0体積%以下、及び、
H2:0.5体積%以上3.0体積%以下、
を含有し、
残部がAr及び不可避的不純物であり、
前記シールドガス全体積に対する前記CO2の含有量を体積%で[CO2]とし、前記シールドガス全体積に対する前記H2の含有量を体積%で[H2]としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする構造物の製造方法。
1.56≦[CO2]+[H2]≦4.40・・・(1)
0.35≦[H2]/([CO2]+[H2])≦0.74・・・(2) - ガスシールドアーク溶接に用いられるシールドガスであって、
シールドガス全体積に対し、
CO2:0.6体積%以上2.0体積%以下、及び、
H2:0.5体積%以上3.0体積%以下、
を含有し、
残部がAr及び不可避的不純物であり、
前記シールドガス全体積に対する前記CO2の含有量を体積%で[CO2]とし、前記シールドガス全体積に対する前記H2の含有量を体積%で[H2]としたとき、下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とするシールドガス。
1.56≦[CO2]+[H2]≦4.40・・・(1)
0.35≦[H2]/([CO2]+[H2])≦0.74・・・(2)
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