JP7412668B2 - アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体 - Google Patents

アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体 Download PDF

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Description

本発明は、新規アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体及びその用途、並びに該核酸の製造方法などに関する。
近年、核酸医薬と呼ばれる医薬品の現在進行中の開発において、標的遺伝子の高い選択性等の点から、アンチセンス法を利用する核酸医薬の開発が積極的に進められている。アンチセンスヌクレオチド(ASO)のヌクレアーゼ耐性の向上や、標的核酸への結合親和性、特異性などの改善を目的として様々な人工核酸が開発・導入され、様々な製剤が上市されるようになった。
しかし、アンチセンス核酸の臨床での使用経験が増すにつれ、アンチセンスオリゴヌクレオチドが潜在的に有する毒性をどう回避するかという問題が浮き彫りとなり、アンチセンス核酸の臨床使用や適応拡大を阻んでいる現状がある。アンチセンスオリゴヌクレオチドの毒性の原因の1つとして、いわゆる「オフターゲット毒性」が挙げられる。「オフターゲット毒性」の原因は、大きく2種類に分類される(非特許文献1)。標的RNAと同一の配列あるいは類似の配列にASOが結合することにより起因する毒性(ハイブリダイゼーション依存性)と、ASOの高次構造や物理化学的性質に起因するハイブリダイゼーション非依存性の毒性である。しかしながら、これらの2つの機序が毒性発現機序にどのように相互に寄与しているかは明らかとなっていない。
非特許文献2などにおいて、ハイブリダイゼーション依存性の毒性を低減させうる方法として、ASOの非天然ヌクレオチドの数を調節し、標的RNAとの結合力を可能な限り低下させる方法が開示されている。しかしながら、結合力の低下は薬効の低下をしばしば伴う。また、非特許文献3などにおいては、毒性を低減させうる方法として、ギャップマーASOのギャップ領域に非天然核酸を1つ導入する方法が開示されている。しかしながら、本手法では活性や毒性をどのように変化させるかは予想できず、一般性の高い方法とは言えなかった。
他方、アンチセンス法を利用した核酸として、DNA/RNAヘテロ二本鎖核酸(heteroduplex oligonucleotide、HDO)が開発されている(特許文献1、非特許文献4)。HDOは、標的mRNAに結合しアンチセンス活性を有する主鎖と、主鎖に相補的なRNA(cRNA)鎖からなり、2本鎖の中央部において、細胞内のエンドヌクレアーゼであるRNase HによってcRNA鎖が切断される。その結果、単独となった主鎖が標的mRNAとハイブリダイゼーションして、遺伝子発現調節効果を発揮する(非特許文献4)。該cRNAは、主鎖(ASO)を標的細胞へ効率的に輸送する機能も担うが、特に薬物送達リガンド分子であるトコフェロールをcRNA鎖に結合させることで、HDOを肝臓に効率的に送達できることが報告されている(特許文献1、非特許文献5)。
また、特許文献1には、二本鎖核酸複合体にペプチド等の機能性分子を結合させやすくするため、上記DNA/RNAヘテロ二本鎖核酸のRNA鎖の代わりにペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid、PNA)を用いることも記載されている。しかし、特許文献1では、二本鎖核酸の毒性を低減させる観点からPNAが用いられているわけではなく、実際にPNAを有する二本鎖核酸の毒性については何ら記載されていない。
特許文献1の発明者らは、ASOを、二本鎖構造を有する核酸複合体として被験体へ投与すると、中枢神経系において低毒性であることを報告している(特許文献2)。具体的には、特許文献2には、ASOの相補鎖としてRNAやDNAを用いることで毒性が低下することが記載されている。また、特許文献2には、相補鎖にオーバーハングを有するHDO(ODO(overhanging-duplex oligonucleotides)とも称する)が、マウス生体内で遺伝子抑制効果を有することが記載されているが、相補鎖にオーバーハングを有さないHDOが、活性が保持されているかどうかは記載されていない。ここで、ODOに関する論文(非特許文献6)には、オーバーハングを有さないHDOが生体内でほとんど活性を示さなかったことが記載されている。即ち、HDOが十分なアンチセンス効果を発揮するためには、相補鎖にオーバーハングを付加する必要があると考えられていた。
国際公開第2013/089283号 国際公開第2019/181946号
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,PMDRS,51(2),70-82(2020);横田隆徳(2021)実験医学増刊、39巻、17号、洋土社:145-156 Hagedorn et al., Nucleic Acids Res, 46:5366-5380 (2018) Nature Biotechnology volume 37:640-650 (2019) Kuwahara H. et al., Sci Rep. 8(1):4377 (2018) Molecular Therapy, 29(2):838-847 (2021) Mon S et al., FEBS Letters 594:1413-1423 (2020)
本発明の課題は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの活性を有しつつ、毒性が低減されている新規アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体、該アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を含む医薬組成物を提供することを課題とする。また、アンチセンスオリゴヌクレオチドの活性を有しつつ、毒性を低減する方法及び該アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、ハイブリダイゼーション依存性と非依存性の毒性を同時に解決する技術として、アンチセンス鎖の5’末端及び/又は3’末端に、標的RNAの一部に相補的なトーホールド(toehold)を有することを特徴とする新規二本鎖核酸を着想した。具体的には、ASOの一部を、相補鎖を用いて被覆することで、ASO上にトーホールド領域を構築することを着想した。該トーホールド領域を介してASOと標的RNAが標的選択性の高い弱い結合をなし、標的RNA-アンチセンス鎖-相補鎖からなる3次元構造体を介して、相補鎖が除去されて標的RNA-アンチセンス核酸の構造体が形成されることで、アンチセンス効果が発揮できる(図1も参照のこと)と推測した。
該二本鎖核酸において、ASOは相補鎖によりその部分構造を二重らせん構造へと矯正されており、塩基配列によらず良くコントロールされた一様な高次構造および物理化学的性質を付与することとなり、ハイブリダイゼーション非依存性毒性を抑制することができると期待した。本発明者らは、該構造を有する二本鎖アンチセンス核酸をBROTHERS(Brace on Therapeutic ASO)、該相補鎖を弟鎖(Brother strand)又はブレーシング鎖(Bracing strand)と命名した。
該BROTHERSは、ASOが標的RNAと結合する直前まで二本鎖として存在し、トーホールドを介して標的と結合するため、弟鎖の生体内安定性が特に重要である。このような、いわゆる鎖交換反応は、フルマッチの二本鎖核酸に比べてトーホールドを有する二本鎖核酸で106倍も加速されることが知られている(J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 47, 17303-17314)。トーホールドを介した鎖交換反応は、ミスマッチの存在により非効率化することが知られており、適宜、ミスチマッチ認識能を最大化するように設計することができる(Biophysical Journal, 2016, 110, 7, 1476-1484; J. Am. Chem. Soc. 2020, 142, 11451-11463)。この原理をアンチセンスオリゴヌクレオチドに適用すれば、ハイブリダイゼーション依存性の毒性をも回避することが可能となると考えられた。
これらのことから、該弟鎖は、PNAのような、ASOとの結合力が高く、かつ、ヌクレアーゼにより代謝を受けず、かつ、毒性の起源となる生体分子との相互作用の小さい核酸を相補鎖として用いることを特徴とする。一方、HDOがアンチセンス効果を発揮するためには、相補鎖が不特定のヌクレアーゼにより効率的に切断されASOが暴露されることが必要であり、相補鎖をヌクレアーゼの基質とならない核酸に置換するとアンチセンス効果が発揮されないことが知られている(横田隆徳(2021)実験医学増刊、39巻、17号、洋土社:37-43)。抑制する毒性の種類、効果発現メカニズム、相補鎖の構造・設計指針の違いなどから、本願発明のBROTHERSは従来のHDOとは全く異なる発明である。
そこで、本発明者らは、肝毒性を示すことが知られている一本鎖ASOをBROTHERSとしたころ、ASOの肝毒性を大幅に抑えることに成功した。驚くべきことに、異なる長さの弟鎖を持つ種々のBROTHERS複合体において、二本鎖の結合力とアンチセンス効果及び毒性の間に相関関係を見出した。すなわち、二本鎖の結合力を徐々に高めると、肝毒性が徐々に低下する一方で、アンチセンス効果も徐々に減弱することを見出した。そして、二本鎖核酸の結合力及び/又は、トーホールドと標的RNAの結合力及び/又は、ASOと標的RNAの結合力のバランスを最適化することで、アンチセンス効果を維持しつつ、毒性だけを低減させうることを示した。興味深いことに、トーホールドを持たないフルマッチの二本鎖核酸では、ASOのノックダウン活性が完全に失われた。上記現象は、異なる標的mRNAに対するASOでも同様に認められた。腎毒性の改善効果も認めた。次世代シーケンス解析の結果、BROTHERS複合体では、一本鎖ASOと比較して、組織障害に関与すると考えられる酸化ストレス(ROS)を生じさせる遺伝子群や、ROSを低減させる遺伝子群の応答、また、細胞死に関与する遺伝子群の応答が抑制されることが示された。また、BROTHERS複合体とすることで、ミトコンドリア毒性も低減されることが示された。よって、BROTHERS複合体は、肝臓または腎臓だけでなく、普遍的に生体内の組織および臓器に対して低毒性であることが強く示唆された。さらに、意外なことに、ASO自体に標的指向性分子を結合させることで、標的の細胞において効率良く遺伝子の発現を抑制できることを見出した。反対に、一実施態様において、全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する弟鎖に指向性分子を結合させた場合には標的臓器でのアンチセンス活性は著しく減弱された。かかる知見に基づき本発明者らはさらに鋭意検討することで、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は以下の通りである。
[1-1]
アンチセンスオリゴヌクレオチドと、該アンチセンスオリゴヌクレオチドと相補的な配列を含む相補鎖とを含む、アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体であって、
該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、一本鎖構造のトーホールドを有しており、
該相補鎖は全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有している、
ことを特徴とする、アンチセンス効果を有し、毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[1-2]
相補鎖が、天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まないことを特徴とする、[1-1]に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[1-3]
毒性が肝毒性及び/又は腎毒性である、[1-1]又は[1-2]に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[2]
トーホールドの長さが1~10塩基長である、[1-1]~[1-3]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[3-1]
前記相補鎖を構成する全てのヌクレオチドが非天然ヌクレオチドである、[1-1]~[2]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[3-2]
前記相補鎖の全てのヌクレオチド間が修飾された、[1-1]~[3-1]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[4]
前記相補鎖を構成するヌクレオチドの少なくとも1つがPNAヌクレオチドである、[1-1]~[3-2]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[5]
前記相補鎖を構成するヌクレオチドの全てがPNAヌクレオチドである、請求[1-1]~[4]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[6]
(1)二本鎖核酸の融解温度(Tm)が40℃~80℃である、及び/又は
(2)該相補鎖の長さが、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さの35%~95%である
ことを特徴とする、[1-1]~[5]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[7-1]
(1)Tmが50℃~70℃である、及び/又は
(2)該相補鎖の長さが、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さの60%~80%である
ことを特徴とする、[1-1]~[6]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[7-2]
アンチセンス鎖の長さが7~35塩基長である、[1-1]~[7-1]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[7-3]
アンチセンス鎖がギャップマー型オリゴヌクレオチド又はミックスマー型オリゴヌクレオチドである、[1-1]~[7-2]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[8]
アンチセンスオリゴヌクレオチド及び相補鎖の内の少なくともいずれか一方の鎖に少なくとも1つの機能性分子が結合された、[1-1]~[7-3]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[9-1]
アンチセンスオリゴヌクレオチドのみに機能性分子が結合された、[8]に記載のアンチセンスヌクレオチド複合体。
[9-2]
前記機能性分子の少なくとも1つが標的指向性分子である、[9-1]に記載のアンチセンスヌクレオチド複合体。
[9-3]
アンチセンス鎖及び相補鎖の内の少なくともいずれか一方の鎖に、少なくとも1つの標的指向性分子以外の機能性分子が結合された、[8]~[9-2]のいずれか1つに記載のアンチセンスヌクレオチド複合体。
[10]
アンチセンスオリゴヌクレオチドがPCSK9 mRNA、ApoB mRNA、AcsL1 mRNAおよびApoC3 mRNAからなる群から選択されるmRNAを標的とする、[1]~[9-3]のいずれか1つに記載のアンチセンスヌクレオチド複合体。
[11-1]
[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を含む、医薬組成物。
[11-2]
疾患の治療又は予防のための、[11-1]に記載の医薬組成物。
[11-3]
毒性を抑制しつつ疾患を治療又は予防するための、[11-1]又は[11-2]に記載の組成物。
[11-4]
皮下投与のための、[11-1]~[11-3]のいずれか1つに記載の組成物。
[11-5]
疾患が脂質異常症、糖尿病、肝疾患又は腎疾患である、[11-1]~[11-4]のいずれか1つに記載の組成物。
[12-1]
[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を含む、標的遺伝子の発現調節用組成物。
[12-2]
発現調節が発現抑制である、[12-1]に記載の組成物。
[13]
毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を製造する方法であって、
(1)アンチセンスオリゴヌクレオチドを準備する工程、
(2)該アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する
相補鎖を準備する工程、並びに
(3)工程(1)で準備されたアンチセンスオリゴヌクレオチド及び工程(2)で準備された相補鎖をアニーリングする工程
を含む、方法。
[14]
トーホールドの長さが1~10塩基長となる、[13]に記載の方法。
[15]
毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を設計する方法であって、
(1)アンチセンスオリゴヌクレオチドを選択する工程、並びに
(2)該アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する
相補鎖を設計する工程
を含む、方法。
[16]
トーホールドの長さが1~10塩基長となる、[15]に記載の方法。
[17]
相補鎖が、天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まないことを特徴とする、[13]~[16]のいずれか1つに記載の方法。
[18]
前記相補鎖が、アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合に、さらに
(1)二本鎖核酸の融解温度(Tm)が40℃~80℃である、及び/又は
(2)該相補鎖の長さが、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さの35%~95%である
との特徴を有する、[13]~[17]のいずれか1つに記載の方法。
[19]
前記相補鎖を構成する全てのヌクレオチドが非天然ヌクレオチドである、[13]~[18]のいずれか1つに記載の方法。
[20]
非天然ヌクレオチドの少なくとも1つがPNAヌクレオチドである、[13]~[19]のいずれか1つに記載の方法。
[21]
哺乳動物に対し、[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の有効量を投与することを特徴とする、該哺乳動物における疾患の治療又は予防方法。
[22]
疾患の治療又は予防における使用のための[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[23]
疾患の治療又は予防薬を製造するための[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の使用。
[24]
細胞又は哺乳動物に対し、[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の有効量を投与することを特徴とする、標的遺伝子の発現調節方法。
[25]
標的遺伝子の発現制御における使用のための[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
[26]
標的遺伝子の発現調節用組成物を製造するための[1-1]~[10]のいずれか1つに記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の使用。
本発明により、新規な二本鎖核酸や該核酸の製造が可能となり、また従来の核酸の毒性を低減することも可能となる。かかる二本鎖核酸は、一本鎖核酸およびHDOよりも低毒性であり得るため、特に医薬用途として有用である。
BROTHERS(Brace on Therapeutic ASO)の構造及び機序の概要を示す。 マウスにアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)又は二本鎖核酸を皮下投与した場合における、二本鎖核酸の融解温度(Tm)、PCSK9 mRNA発現量、ALT活性レベル、AST活性レベル及びCRE量の測定結果を示す。エラーバー:標準偏差(SD) マウスにリガンドを有さない蛍光標識したアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)又は相補鎖側にリガンドを有する二本鎖核酸を尾静脈投与した場合における、体内動態イメージング。全身とex vivoの蛍光画像を示す。 一本鎖ASO又はBROTHERSにおける、結合タンパク質の可視化結果を示す。 マウスにアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)又は二本鎖核酸を皮下投与した場合における、二本鎖核酸の融解温度(Tm)、アポリポタンパク質B(ApoB) mRNA発現量、ALT活性レベル及びCRE量の測定結果を示す。エラーバー:SD マウスにアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)又は二本鎖核酸を皮下投与した場合における、二本鎖核酸の融解温度(Tm)、ApoB mRNA発現量、ALT活性レベル及びCRE量の測定結果を示す。エラーバー:SD ヒト肝癌由来細胞(HepG2)に毒性を有するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)又は二本鎖核酸を導入し、Caspase3/7活性を測定した結果を示す。エラーバー:SD マウスに一本鎖ASO又はBROTHERS核酸を皮下投与した場合における、肝臓組織における遺伝子発現のトランスクリプトーム解析、Pathway解析の結果を示す。 マウスに一本鎖ASO又はBROTHERS核酸を単回皮下投与した場合における、標的PCSK9 mRNA発現量、体重、ALT活性レベルの経時的変化を示す。エラーバー:SD ヒト肝癌由来細胞(Huh-7)にin vivoで毒性を示す一本鎖ASO又は毒性を示さない二本鎖核酸を導入し、細胞生存率と培地中の逸脱酵素LDH活性を測定した結果を示す。エラーバー:SD ヒト肝癌由来細胞(Huh-7)に対して、蛍光標識したin vivoで毒性を示す一本鎖ASO又は毒性を示さない二本鎖核酸を導入し、細胞内動態を共焦点顕微鏡を用いて比較した像を示す。 一本鎖ASO又はBROTHERSにおける、結合タンパク質の可視化結果を示す。 相補鎖としてHDOとして知られる構造に類似する相補鎖を用いた二本鎖核酸を、マウスに皮下投与した場合における、ALT活性の測定結果を示す。エラーバー:SD ヒト肝癌由来細胞(Huh-7)にin vivoで毒性を示す一本鎖ASO又は毒性を示さない二本鎖核酸を導入した場合における、細胞生存率、ミトコンドリアへの影響、Caspase 3/7, 9. 8の活性を評価している。エラーバー:SD ミスマッチ遺伝子に対する鎖交換反応の反応速度を蛍光強度の変化により試験管内で評価した。鎖交換反応速度と実際の細胞内(Huh-7)でのオフターゲットノックダウンの程度を比較した結果を示す。エラーバー:SD パラレル型PNAを用いることで、より長鎖の一本鎖ASOに対しても適切な結合力で、適切なカバー率(鎖長に対する二本鎖領域の割合)をもたせたBROTHERS核酸を構築し、効果的に副作用を軽減できることを示すマウスを用いた実験結果。エラーバー:SD 二本鎖核酸の融解温度(Tm)を測定することにより、末端にアミノ酸などの機能性分子を導入することでBROTHERS核酸の二重鎖の安定性を調整、最適化できることを示した。エラーバー:SD ヒト肝癌由来細胞(Huh-7)に対して、長さやアンチセンス鎖に対する相対位置、またトーホールドの長さ・位置・数を調節した弟鎖を作用させた時の標的遺伝子のノックダウン活性を示す。エラーバー:SD
1.アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体
本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチド(「アンチセンス鎖」とも称する。)と、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの全部又は一部(以下、「二本鎖形成領域」と称することがある。)の配列と相補的な配列(以下、「相補的配列」と称することがある。)を含む相補鎖(「弟鎖」とも称する。)とを有する、アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体(以下、「本発明の複合体」と称することがある。)を提供する。本発明の複合体は、アンチセンスオリゴヌクレオチドと相補鎖からなるもの(即ち、二本鎖核酸)であってもよく、該二本鎖核酸に機能性分子などの他の物質が共有結合又は非共有結合により結合したものであってもよい。一態様において、本発明の複合体の二本鎖核酸は、(1)二本鎖核酸の融解温度(Tm)が特定の範囲内である、及び/又は(2)該相補鎖の長さが、アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さに対して特定の割合となる長さであることを特徴とする。また、本発明の複合体を構成するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’末端、3’末端および中央部の少なくともいずれかにトーホールド(toehold)を有しており、また本発明の複合体を構成する相補鎖は、RNase Hなどのヌクレアーゼに対する耐性を有することも特徴とする。かかるヌクレアーゼに対する耐性は、典型的には、相補鎖に天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まないようにすることにより付与される。本発明の複合体の二本鎖核酸は、上記構造を有することにより、特許文献2に記載の二本鎖核酸結合剤を用いずとも、標的RNAに対するアンチセンス効果の発揮及び低毒性を実現し得る。なお、本明細書において、特に断らない限り、「含む」又は「有する」には、「からなる」の意味も包含されるものとする。
本明細書において、「アンチセンス鎖」又は「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、アンチセンス効果を発揮する一本鎖オリゴヌクレオチドを意味する。本発明の複合体を構成するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、上記二本鎖形成領域と、上記トーホールドとを含み、該二本鎖形成領域とトーホールドとが一体となって、アンチセンス領域を構成し、該アンチセンス領域と標的RNAの一部(以下、「標的領域」と称することがある。)とがハイブリダイゼーションをする。即ち、上記アンチセンス領域の配列は、標的領域の配列(以下、「標的配列」と称することがある。)と相補的である。また、本明細書において、「トーホールド」とは、アンチセンス領域の一部を含む一本鎖の構造を意味し、アンチセンスオリゴヌクレオチドと標的RNAとのハイブリダイゼーションの足がかりとなる。「鎖交換反応」や「インベージョン」とは、二本鎖を形成する核酸のうち片方の核酸鎖が別の核酸鎖と完全に、又は部分的に置き換わり、新たな複合体を形成する反応をさす。
本明細書において、「核酸」は、モノマーのヌクレオチドを意味してもよいが、通常は複数のモノマーからなるオリゴヌクレオチドを意味する。従って、特に断らない限り、モノマーのヌクレオチドを意図する場合には、「核酸ヌクレオチド」と表記するものとし、かかる核酸としては、例えば、リボ核酸、デオキシリボ核酸、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ核酸などが挙げられる。また、特に断らない限り、核酸がオリゴヌクレオチドの場合には、該核酸を構成する各ヌクレオチド残基(5’末端及び3’末端のヌクレオチドも含まれる)を、単に「ヌクレオチド」と称する。さらに、本明細書において、「核酸鎖」及び「鎖」は、特に断らない限り、いずれも一本鎖オリゴヌクレオチドを意味する。核酸鎖は、化学的合成法により(例えば自動合成装置を使用して)、又は酵素的工程(例えば、限定するものではないが、ポリメラーゼ、リガーゼ、又は制限反応)により、全長鎖又は部分鎖を作製することができる。
本明細書において、「アンチセンス活性」とは、標的RNAとハイブリダイゼーションできる活性を意味し、かかるハイブリダイゼーションの結果として、アンチセンス効果(例えば、標的RNA量の減少や、標的RNAから翻訳されるタンパク質量の減少又は増加などの遺伝子の発現調節)が生じる。本発明の複合体の標的RNAとしては、例えば、mRNA、ノンコーディングRNA(non-coding RNA、ncRNA)(例:miRNA等)、外因性RNA(例:ウイルスRNA等)などが挙げられるが、好ましくはmRNAである。なお、本明細書において、「mRNA」には、成熟なmRNAだけでなく、塩基修飾を受けていないmRNA、プロセシングされていないmRNA前駆体(pre-mRNA)なども含まれる。アンチセンス効果によってその発現が調節される「標的遺伝子」は特に限定されないが、例えば、本発明の複合体を導入する生物由来の遺伝子、例えば、様々な疾患においてその発現が増加又は減少する遺伝子などが挙げられる。具体的な標的mRNAとしては、例えば、PCSK9 mRNA、ApoB mRNA、AcsL1 mRNA、ApoC3 mRNAなどが挙げられるが、これらに限定されない。また、本明細書において、「遺伝子の発現」とは、「遺伝子にコードされたmRNAやmiRNAなどの転写産物の産生」を含む意味で用いられるが、「標的mRNAにコードされた機能的なタンパク質の産生」をも含む意味で用いられる。
本発明の複合体として、具体的には、例えばPCSK9 mRNAを標的とする場合、表1及び表2に記載のいずれかのアンチセンス鎖(mPCS1、mPCS1NoG又はmPCS1NoGaf)と、表1及び表2に記載のいずれかの弟鎖(apPNA(12)-mPCS1、apPNA(11)-mPCS1、apPNA(10)-mPCS1、apPNA(C8)-mPCS1又はapPNA(C8)G2-mPCS1)との組み合わせなどが挙げられる。例えばApoB mRNAを標的とする場合、表4、表5及び表8に記載のいずれかのアンチセンス鎖(GN6、hApo1又はhApoB-521-BNA(13);hApo1)と、表4、表5及び表8に記載のいずれかの弟鎖(apPNA(12)-GN6、apPNA(11)-GN6、apPNA(10)-GN6、apPNA(9)-GN6、apPNA(8)-GN6、apPNA(C8)-GN6、apPNA(C5)-hApo1、apPNA(C6)-hApo1、apPNA(C7)-hApo1、apPNA(C8)-hApo1、apPNA(C9)-hApo1、apPNA(C10)-hApo1、apPNA(C11)-hApo1、apPNA(C12)-hApo1又はapPNA(C13)-hApo1)との組み合わせなどが挙げられる。例えばAcsL1 mRNAを標的とする場合、表7に記載のいずれかのアンチセンス鎖(Acsl1、Acsl1n又はAcsl1b)と、表7に記載のいずれかの弟鎖(apPNA(C14)-Acsl1、apPNA(C15)-Acsl1、apPNA(C16)-Acsl1、apPNA(C17)-Acsl1又はapPNA(C18)-Acsl1)との組み合わせなどが挙げられる。例えばApoC3 mRNAを標的とする場合、表9に記載のアンチセンス鎖(hAPOC3-AS)と、表9に記載のいずれかの弟鎖(3-0PNA(6)、3-0PNA(7)、3-0PNA(8)、3-0PNA(9)、3-0PNA(10)、3-1PNA(6)、3-1PNA(7)、3-2PNA(7)、3-2PNA(8)、5-0PNA(6)、5-0PNA(7)、5-1PNA(7)、5-2PNA(7)又は5-2PNA(8))との組み合わせなどが挙げられる。表9に記載の弟鎖の内、3-0PNA(6)、3-1PNA(6)、3-1PNA(7)、3-2PNA(7)、5-0PNA(6)、5-0PNA(7)、5-1PNA(7)、5-2PNA(7)及び5-2PNA(8)が好ましく、3-1PNA(7)、5-0PNA(6)、5-0PNA(7)、5-1PNA(7)、5-2PNA(7)及び5-2PNA(8)がより好ましい。表1、2、4、5、7~9において、配列の末端にGalNAchpやGalNAcapdなどの標的指向性分子が付加されている場合、これらの分子が付加されていないものや、任意の標的指向性分子が任意の数(例:1~4個)付加されているものも好適に用いることができる。また、配列の末端に標的指向性分子に付加されていない場合であっても、任意の標的指向性分子が任意の数(例:1~4個)付加されているものも好適に用いることができる。
アンチセンス効果は、例えば、被験核酸化合物を被験体(例えばマウス)に投与し、例えば数日後~数ヶ月後(例えば2~7日後又は1ヶ月後)に、被験核酸化合物によって提供されるアンチセンス活性により発現が調節される標的遺伝子の発現量又は標的転写産物のレベル(量)(例えば、mRNA量もしくはマイクロRNAなどのRNA量、cDNA量、タンパク質量など)を測定することによって、測定することができる。
本明細書において、「アンチセンス効果の発揮」は、任意の実験系の少なくとも1つにおいて、測定された標的遺伝子の発現量又は標的転写産物のレベルが、陰性対照(例えば核酸を含まないビヒクル投与)と比較して減少(増加)している(例えば、10%、20%、30%以上、40%、50%又はそれ以上に減少(増加)している)ことを意味する。
アンチセンスオリゴヌクレオチドが、標的RNAと二本鎖領域を形成し、該二本鎖領域がリボヌクレアーゼ(例えば、RNase H)により切断されることで、標的RNA量が減少することとなる。あるいは、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、標的mRNAと二本鎖領域を形成し、リボソームによる翻訳を妨げることで、該mRNAにコードされるタンパク質の発現が翻訳レベルで阻害されることとなる。以下では、これらの効果を発揮するアンチセンスオリゴヌクレオチドを抑制型アンチセンスオリゴヌクレオチドと称することがある。
また、アンチセンスオリゴヌクレオチドが、pre-mRNAのスプライシング促進配列と二本鎖領域を形成して該配列をマスキングし、スプライシングをスキップさせることで、機能的なタンパク質の細胞中での存在量が上昇することとなる。あるいは、標的mRNAに含まれる、該mRNAを分解する酵素の結合配列と二本鎖領域を形成して該配列をマスキングし、該mRNAの分解が抑制されることとなる。以下では、これらの効果を発揮するアンチセンスオリゴヌクレオチドを亢進型アンチセンスオリゴヌクレオチドと称することがある。
抑制型アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞又は生体内での安定性及び効率的なRNAの切断の観点から、ギャップマー(Gapmer)型オリゴヌクレオチドであることが好ましい。本発明において「ギャップマー型オリゴヌクレオチド」とは、RNase Hにより認識される複数(例:5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又はそれ以上)のヌクレオチド(典型的には、デオキシリボヌクレオチド)を有する内部領域(本明細書において、「ギャップ領域」と称することがある。)が、リボヌクレアーゼに対する耐性を付与するように修飾された少なくとも一つ(例:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上)のヌクレオチドを有する外部領域(本明細書において、3’側の外部領域を「3’ウイング領域」と、5’側の外部領域を「5’ウイング領域」と称することがある。)間に配置されるキメラアンチセンスオリゴヌクレオチドを意味する。3’ウイング領域と5’ウイング領域の各領域を構成する少なくとも一つのヌクレオチドは、非天然ヌクレオチドであることが好ましい。かかる非天然ヌクレオチドとしては、架橋構造を有するヌクレオチド(以下、「架橋型ヌクレオチド(BNA:Bridged Nucleic Acid)」と称することがある。)が好ましい。
亢進型アンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞又は生体内での安定性の観点から、RNase Hなどのヌクレアーゼに対する耐性を付与するように修飾されたヌクレオチドを少なくとも一つ有するものがよい。かかるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、全てのヌクレオチドが非天然ヌクレオチドであってもよく、一部のヌクレオチドが非天然ヌクレオチド(すなわち、ミックスマー(Mixmer)型オリゴヌクレオチド)であってもよい。かかる非天然ヌクレオチドとしては、架橋型ヌクレオチドが好ましい。
標的RNA内の標的領域としては、該RNAに存在する領域であれば特に限定されないが、例えば、3'UTR、5'UTR、エクソン、イントロン、タンパク質コード領域、翻訳開始領域、翻訳終結領域、他の核酸領域など挙げられる。
本明細書において、「相補的」とは、核酸塩基同士が水素結合を介して、いわゆるワトソン-クリック塩基対(天然型塩基対)又は非ワトソン-クリック塩基対(フーグスティーン型塩基対、ゆらぎ塩基対(Wobble base pair)など)を形成し得る関係を意味する。従って、「相補的な配列」には、対象の配列(例えば、相補鎖内の相補的配列、標的RNA内の標的領域の配列等)に対して、完全相補的な(即ち、ミスマッチなくハイブリダイズする)配列のみならず、ストリンジェントな条件下で、あるいは哺乳動物細胞の生理的条件下で標的配列とハブリダイズし得る限り、1ないし数個(例:2、3、4、5個又はそれ以上)のミスマッチを含む配列をも含む意味で用いられる。即ち、相補鎖にミスマッチが含まれることが許容される。例えば、標的配列に対して完全相補的な配列と、80%以上(例:85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)、最も好ましくは100%の同一性を有する配列が挙げられる。アンチセンスオリゴヌクレオチドとその相補鎖において、ミスマッチを導入することや、ミスマッチの数によりTmや鎖交換効率を調節できる。また、相補鎖がPNA鎖などの特定の態様の場合には、二本鎖核酸は、アンチパラレル型の形態だけでなく、パラレル型の形態とすることもできる。従って、上記「相補的」の定義は、アンチパラレル型二本鎖核酸の各核酸鎖間における関係だけでなく、パラレル型二本鎖核酸の各核酸鎖間における関係にも適用される。
ストリンジェントな条件は、低ストリンジェントな条件であっても高ストリンジェントな条件であってもよい。低ストリンジェントな条件は、比較的低温で、かつ高塩濃度の条件、例えば、30℃、2×SSC、0.1%SDSであってよい。高ストリンジェントな条件は、比較的高温で、かつ低塩濃度の条件、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSであってよい。温度及び塩濃度などの条件を変えることによって、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを調整できる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む。
アンチセンス領域の長さは、通常、少なくとも7塩基長、少なくとも8塩基長、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長、又は少なくとも13塩基長であってよいが、特に限定されない。アンチセンスオリゴヌクレオチド中のアンチセンス領域は、35塩基長以下、30塩基長以下、25塩基長以下、24塩基長以下、23塩基長以下、22塩基長以下、21塩基長以下、20塩基長以下、19塩基長以下、18塩基長以下、17塩基長以下又は16塩基長以下であってよい。アンチセンス鎖オリゴヌクレオチド中のアンチセンス領域は、例えば、7~35塩基長、7~30塩基長、7~25塩基長、7~20塩基長、8~20塩基長、9~20塩基長、10~20塩基長、11~18塩基長もしくは12~16塩基長であってもよい。
アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さは、特に限定されないが、少なくとも7塩基長、少なくとも8塩基長、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長又は少なくとも13塩基長であってよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、50塩基長以下、45塩基長以下、40塩基長以下、35塩基長以下、30塩基長以下、28塩基長以下、26塩基長以下、24塩基長以下、22塩基長以下、20塩基長以下、18塩基長以下、又は16塩基長以下であってよい。アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、9~50塩基長、10~40塩基長、11~35塩基長、又は12~30塩基長であってもよい。
相補鎖の長さは、特に制限されないが、相補鎖とアンチセンスオリゴヌクレオチドとが二本鎖を形成した場合に、(1)二本鎖核酸の融解温度(Tm)が特定の範囲内となる長さ、及び(2)アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さに対して特定の割合となる長さ、の少なくともいずれかを充足していることが好ましい。具体的には、相補鎖の長さは、少なくとも7塩基長、少なくとも8塩基長、少なくとも9塩基長、少なくとも10塩基長、少なくとも11塩基長、少なくとも12塩基長又は少なくとも13塩基長であってよい。相補鎖は、50塩基長以下、45塩基長以下、40塩基長以下、35塩基長以下、30塩基長以下、28塩基長以下、26塩基長以下、24塩基長以下、22塩基長以下、20塩基長以下、18塩基長以下、又は16塩基長以下であってよい。相補鎖は、例えば、9~50塩基長、10~40塩基長、11~35塩基長、又は12~30塩基長であってもよい。
本明細書において、「二本鎖核酸の融解温度」とは、溶液中のオリゴヌクレオチドの50%が完全に相補的な分子と二本鎖を形成し、残り50%が溶液中に遊離している状態になる温度を意味する。本明細書で具体的な融解温度に言及する場合には、該融解温度は、次の方法により測定した温度である。終濃度を、それぞれリン酸緩衝液(pH 7.0)10 mM、塩化ナトリウム100 mM、エチレンジアミン四酢酸0.1 mM、各オリゴヌクレオチド(アンチセンスオリゴヌクレオチド及び相補鎖)4 μMとしたサンプル溶液(150 μL)を、95℃で3分間昇温した後、毎分1℃の割合で20℃まで徐冷することでアニーリングを行った後、測定を開始する。毎分0.5℃の割合で90℃まで昇温し、1℃間隔で260 nmにおける吸光度をプロットする。Tm値は全て中線法で算出する。小数点以下は四捨五入するものとする。核酸の種類によっては、吸光度の大きさの問題や、溶解性の問題で、上記条件で融解温度が測定できない場合がある。その場合には、塩濃度や有機溶媒の濃度の添加により適宜条件を微調節することで、上記条件に近似した合理的な条件下で測定したTm値を採用するものとする。
上記二本鎖核酸の融解温度の特定の範囲としては、具体的には、40℃以上(例:45℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃又はそれ以上)が好ましく、また80℃以下(例:77℃、75℃、74℃、73℃、72℃、71℃、70℃、69℃、68℃、67℃又はそれ以下)が好ましい。また、本発明の複合体の二本鎖核酸の融解温度は、40℃~80℃、50℃~70℃、40℃~77℃、40℃~73℃、51℃~77℃、52℃~67℃、62℃~72℃、62℃~68℃、64℃~72℃、64℃~79℃であり得る。
上記相補鎖の長さに関する特定の割合としては、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さの35%以上(例:38%、39%、40%、45%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%又はそれ以上)が好ましく、また95%以下(例:94%、92%、90%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、69%又はそれ以下)が好ましい。また、相補鎖の長さは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さの35%~95%、60%~80%、38%~92%、54%~92%、57%~79%、57%~71%であり得る。上記割合は、(相補鎖の塩基数/アンチセンスオリゴヌクレオチドの塩基数)×100により計算し、小数点以下は四捨五入するものとする。
トーホールドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの5’末端に存在してもよく、3’末端に存在してもよく、中央部や両末端に存在してもよい。また、生体内で相補鎖の一部が代謝を受けることにより、トーホールドが生成しても良い。各トーホールドの長さは、1塩基長以上であればよく、少なくとも1塩基長、少なくとも2塩基長、少なくとも3塩基長、少なくとも4塩基長又は少なくとも5塩基長であってよい。また、トーホールドの長さの上限も特に限定はないが、15塩基長以下、14塩基長以下、13塩基長以下、12塩基長以下、11塩基長以下、10塩基長以下、9塩基長以下、8塩基長以下、7塩基長以下、6塩基長以下であってもよい。また、トーホールドの長さは、1塩基長~15塩基長、1塩基長~10塩基長、1塩基長~7塩基長、1塩基長~6塩基長、3塩基長~5塩基長、4塩基長~5塩基長であり得る。
前述の通り、本発明の複合体を構成する相補鎖は、ヌクレアーゼに耐性を示すことを特徴とする。RNase Hを含むヌクレアーゼは、DNA/RNAヘテロ二本鎖及び/又は、DNA/DNAヘテロ二本鎖を形成している相補鎖のヌクレオシド間のホスホジエステル結合に対する加水分解反応を触媒する酵素である。そして、「全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する」とは、本発明の複合体が導入される細胞(例えば、哺乳細胞)内の各種ヌクレアーゼ(少なくともRNase H)により、該核酸を構成する相補鎖に存在するいずれのホスホジエステル結合においても、上記加水分解反応が触媒されないことを意味する。例えば、相補鎖が、天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まないようにすることで、相補鎖に対して、全長にわたるヌクレアーゼ耐性を付与することができる。従って、好ましい態様において、相補鎖は、天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まず、また本明細書において、「全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する」との文言は、「天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まない」と読み替えることもできる。「ヌクレアーゼに耐性を示す」との用語からは、RNase H以外のリボヌクレアーゼにより分解されることは排除されないが、細胞内の安定性の観点から、他のリボヌクレアーゼ、例えばRNase AやDNase Iなど、によっても加水分解されないことが好ましい。
本発明の複合体を構成する相補鎖が、ヌクレアーゼの基質とならないようにするため、相補鎖を構成するヌクレオチドの少なくとも1つを非天然ヌクレオチドとする、相補鎖の少なくとも1箇所のヌクレオシド間の結合をホスホジエステル結合以外の結合とする、相補鎖の末端に非天然分子を結合させキャッピングする、これらを組み合わせることなどが適宜採用できる。これらの組み合わせにより、相補鎖が、天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まないようにすることができる。本発明の一態様において、相補鎖を構成する全てのヌクレオチドが非天然ヌクレオチドである、あるいは相補鎖に存在する全てのヌクレオシド間結合はホスホジエステル結合以外の結合である。ホスホジエステル結合以外の結合(以下、「修飾ヌクレオシド間結合」と称することがある。)としては、例えば、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホトリエステル結合、メチルホスホネート結合、メチルチオホスホネート結合、ボラノホスフェート結合、ホスホロアミデート結合などが挙げられるが、これらに限定されない。非天然ヌクレオチド及び修飾ヌクレオシド間結合は、1種のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
本明細書において、「非天然ヌクレオチド」とは、天然ヌクレオチド(即ち、リボヌクレオチド及びデオキシリボヌクレオチド)の構成要素の少なくとも1つが修飾されている、天然ヌクレオチド以外のヌクレオチド又はヌクレオチドアナログを意味し、「修飾ヌクレオチド」とも称する。ヌクレオチドの構成要素として、糖部(例:リボース、デオキシリボース)、塩基及びリン酸を含む。また、「修飾」には、例えば、該構成要素及び/又はヌクレオシド間結合における置換、付加及び/又は欠失、前記構成要素及び/又はヌクレオシド間結合における原子及び/又は官能基の置換、付加及び/又は欠失が挙げられる。
天然塩基として、アデニン、シトシン、グアニン、チミン及びウラシルが挙げられる。また、該塩基に修飾が施された修飾塩基として、例えば、5-メチルシトシン、5-フルオロシトシン、5-ブロモシトシン、5-ヨードシトシン又はN4-メチルシトシン; N6-メチルアデニン又は8-ブロモアデニン;ならびにN2-メチルグアニン又は8-ブロモグアニンが挙げられるが、これらに限定されない。修飾塩基は、好ましくは、5-メチルシトシンである。
糖部の修飾としては、例えば、糖部の2’-O-メトキシエチル修飾、糖部の2’-O-メチル修飾、糖部の2’フルオロ修飾、糖部の2’位と4’位との架橋(該架橋構造を有するヌクレオチドが、BNAである)などが挙げられる。BNAとしては、例えば、ロックト人工核酸(LNA:Locked Nucleic Acid)、2’-O,4’-C-エチレン架橋核酸(ENA:2’-O,4’-C-Ethylenebridged Nucleic Acid)などが挙げられる。BNAとして、より具体的には、下記ヌクレオシド構造を有するものが挙げられる。
Figure 0007412668000001
(式中、Rは、水素原子、分岐または環を形成していてもよい炭素数1から7のアルキル基、分岐または環を形成していてもよい炭素数2から7のアルケニル基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール基、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数3から12のアリール部分を有するアラルキル基、または核酸合成のアミノ基の保護基を表す。好ましくは、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、またはベンジル基であり、より好ましくは、Rは、水素原子またはメチル基である。Baseは、天然塩基又は修飾塩基である。)
ヌクレオチドアナログとしては、例えば、ペプチド核酸(Peptide Nucleic Acid、PNA)、ガンマPNA(γ-substituted PNA)、モルホリノ核酸(-N(H)-P(=O)(-NR1R2)-O-[R1及びR2は、共にメチル基を示す。]又は他の非ホスホジエステル結合によって結合されるモルホリノ)、ボラノホスフェート型核酸(-O-P(-BH3)(=0)-O-)、acyclic threoninol nucleic acid (aTNA)、serinol nucleic acid (SNA)、acyclic glycol nucleic acid (GNA)、tricyclo-DNAなどが挙げられる。PNAは、糖の代わりにN-(2-アミノエチル)グリシンがアミド結合で結合した主鎖を有するヌクレオチドアナログであり、全ヌクレオチド(n+2個のヌクレオチド)がPNAヌクレオチドであるPNAの構造を以下に示す。適宜、PNA鎖のN末端又はC末端にアミノ酸などのキラルなユニットを導入することで二本鎖のTmを調節することができる。一実施態様において、本発明の複合体を構成する相補鎖の少なくとも1つはPNAヌクレオチドであり、より好ましくは、該相補鎖の全てのヌクレオチドがPNAヌクレオチドである。
Figure 0007412668000002
(式中、Bは、天然塩基又は修飾塩基である。)
モルホリノ核酸ヌクレオチドを、以下に示す。
Figure 0007412668000003
(式中、Baseは、天然塩基又は修飾塩基である。)
ボラノホスフェート型核酸ヌクレオチドを、以下に示す。
Figure 0007412668000004
(式中、Baseは、天然塩基又は修飾塩基である。)
前述の通り、本発明の複合体は、特定の構造を有することにより、標的RNAに対するアンチセンス活性の発揮及び低毒性を実現し得る。本発明書において、「毒性」とは、例えば、死、痛み、振戦、けいれん、運動障害、認知機能障害、意識障害、全身倦怠感、疲労感、嘔気もしくは嘔吐、めまい、しびれ、ふらつきなど、被験体に好ましくない他覚的もしくは自覚的症状又は機能異常を引き起こす作用を意味する。毒性は、いずれかの臓器(例:肝臓、腎臓等)での毒性、即ち、該臓器に機能異常及び/又は機能低下を生じさせる性質、であってもよい。本発明の複合体は、少なくとも低肝毒性であり得、好ましくはさらに低腎毒性であり得る。本明細書において、「毒性が低減されている」又は「低毒性」とは、毒性を有する対照の核酸を同条件で投与した場合と比較して、本発明の複合体を細胞又は生体に投与した場合に、特定の指標に基づき毒性が低い又は毒性が認められないことを意味する。ここで、任意の試験系の少なくとも1つで低毒性である場合に、低毒性と評価することができる。例えば、肝毒性の場合には、該毒性の指標として、例えば、血清中のAST活性レベル、ALT活性レベルなどが挙げられる。腎毒性の場合には、該毒性の指標として、例えば血清中のCRE量などが挙げられる。上記対象の核酸としては、本発明の複合体を構成するアンチセンスオリゴヌクレオチド、HDOを構成するアンチセンスオリゴヌクレオチドなどが挙げられる。また、「毒性を有する」とは、陰性対照(例えば核酸を含まないビヒクル投与)と比較して、毒性が高いことを意味する。
本発明の複合体の各核酸には、1つ以上(例:1、2、3、4つ又はそれ以上)の機能性分子が結合していてもよい。前記機能性分子は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの5'末端及び/又は3'末端に結合していてもよく、相補鎖の5'末端及び/又は3'末端に結合していてもよく、アンチセンスオリゴヌクレオチドと相補鎖の両方に結合していてもよい。機能性分子が2つ以上存在する場合には、オリゴヌクレオチドの異なる位置に結合していてもよく、あるいはタンデムに結合していてもよい。また、本発明の複合体の核酸鎖と機能性分子との間の結合は、直接結合であってもよいし、別の物質によって介在される間接結合であってもよい。しかしながら、機能性分子は、共有結合、イオン性結合、水素結合などを介してオリゴヌクレオチドに直接結合されていることが好ましく、またより安定した結合を得ることができるという点からは、共有結合がより好ましい。機能性分子はまた、切断可能な連結基を介してオリゴヌクレオチドに結合されていてもよい。例えば、機能性分子は、ジスルフィド結合を介して連結されていてもよい。また、機能性分子は、1種のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
上記機能性分子は、本発明の複合体の各核酸に所望の機能を与える限り、「機能性分子」の構造について特定の限定はない。所望の機能としては、例えば、標識機能、精製機能、送達機能などが挙げられる。標識機能を与える部分の例としては、例えば、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼなどの化合物が挙げられる。精製機能を与える部分の例としては、例えば、ビオチン、アビジン、Hisタグペプチド、GSTタグペプチド、FLAGタグペプチドなどの化合物が挙げられる。また、機能性分子は、二本鎖核酸に結合させることで、該二本鎖核酸の性質(例えば、Tmや標的配列への結合能等)を変えるものであってもよく、具体的には、例えば、天然や非天然のアミノ酸、キラルな低分子化合物(例:イブプロフェンなどの医薬等)などのTm調節物質などが挙げられる。
一実施態様において、機能性分子は、標的の細胞又は細胞核への輸送を増強する役割を果し、かかる役割を果たす機能性分子を「標的指向性分子」又は「薬物送達(drug delivery)分子」とも称する。例えば、特定のペプチドタグは、オリゴヌクレオチドにコンジュゲートされると、オリゴヌクレオチドの細胞取り込みを増強することが示されている。よって、本発明に用いる標的指向性分子として、例えば、HaiFang Yinら、Human Molecular Genetics, Vol. 17(24), 3909-3918 (2008年)及びその参考文献中に開示されるアルギニンリッチペプチドP007及びBペプチドが挙げられる。核内輸送は、m3G-CAP(Pedro M. D. Morenoら、Nucleic Acids Res., Vol. 37, 1925-1935 (2009年)を参照)などの部分をオリゴヌクレオチドにコンジュゲートすることによって増強することができる。また、標的指向性分子は、1種のみを用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
標的指向性分子は、アミノ糖であってもよい。かかるアミノ糖として、例えば、N-アセチルガラクトサミン(N-Acetylgalactosamine;GalNAc)が挙げられ、より具体的には、(2S,4R)-4-Hydroxy-L-prolinol骨格を有するGalNAcリガンド(GalNAchp)、3-Amino-1,2-propanediol骨格を持つGalNAcリガンド(GalNAcapd)などが挙げられる(Bioorg. Med. Chem, 2016, 24, 26, Nucleos Nucleot Nucl, 2020, 39, 109, Curr Protoc Nucleic Acid Chem, 2019, 78, e99. Nucleic Acid Therapeutics,Doi: 10.1089/nat.2021.0036)。また、標的指向性分子は、脂質であってよい。かかる脂質として、例えば、コレステロール及び脂肪酸などの脂質(例えば、ビタミンE(トコフェロール、トコトリエノール)、ビタミンA、及びビタミンD);ビタミンKなどの脂溶性ビタミン(例えば、アシルカルニチン);アシル-CoAなどの中間代謝産物;糖脂質、グリセリド、及びそれらの誘導体もしくは類縁体が挙げられる。これらの中でも、より高い安全性の観点から、コレステロール又はビタミンE(トコフェロール及びトコトリエノール)が好ましい。また、葉酸などの水溶性ビタミンであっても良い。さらに、様々な臓器の細胞表面上に存在する様々なタンパク質(例えば、受容体)に結合することにより核酸を様々な臓器に高特異性及び高効率で送達し得るという観点から、標的指向性分子として、低分子リガンド、アプタマー、ペプチド又はタンパク質(例えば、受容体リガンドならびに抗体及び/又はそのフラグメント)が好ましい。
上記機能性分子が結合している核酸は、機能性分子が予め結合された核酸種を使用し、公知の方法により合成、精製及びアニーリングを実施することによって製造することができる。機能性分子を核酸に連結するための多数の方法が、当技術分野において周知である。例えば、機能性分子としてGalNAcを用いる場合には、GalNAcアミダイトブロックをホスホロアミダイト法に従って作用させることで、核酸に連結することができる。GalNAcアミダイトブロックは、例えば、Curr Protoc Nucleic Acid Chem. 2019, 78, e99. Doi: 10.1002/cpnc.99.、2. Nucleic Acid Ther. 2021, in press. Doi: 10.1089/nat.2021.0036.などに記載の方法により合成することができる。あるいは、核酸鎖は、塩基配列ならびに修飾部位もしくは種類を指定して、製造業者(例えば、株式会社ジーンデザイン)に注文し、入手することもできる。
下述の実施例で示される通り、標的指向性分子は、アンチセンスオリゴヌクレオチドのみに結合させた場合でも、高いアンチセンス効果が認められた。従って、アンチセンスオリゴヌクレオチドのみに標的指向性分子を結合させることが好ましい。アンチセンスオリゴヌクレオチドのみに標的指向性分子を結合させる場合において、相補鎖に標的指向性分子以外の機能性分子を結合させてもよい。
また、本発明の複合体の二本鎖核酸から、以下の二本鎖核酸(1)及び/又は二本鎖核酸(2)は除かれていてもよい。なお、配列表において、核酸がPNAである場合には、配列をN末端からC末端方向に左から右へ記載する。
Figure 0007412668000005
Figure 0007412668000006
2.本発明の複合体の用途
前述の通り、本発明の複合体は、アンチセンス活性により、標的遺伝子の発現を調節することができる。従って、本発明の複合体は、標的遺伝子の発現調節用組成物(又は遺伝子の発現調節剤)(以下、「本発明の組成物」と称することがある。)として用いることができる。本発明の組成物は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの毒性が低減されている(例えば、低肝毒性、低腎毒性)組成物であり得る。また、「遺伝子の発現調節用組成物」との用語には、「遺伝子の発現抑制用組成物」及び「遺伝子の発現亢進用組成物」の両方の用語が包含されるものとする。本発明の組成物は、化粧品や食品として調製され、経口又は非経口的に投与される。また、本発明の組成物は、試薬や試剤として用いることもできる。
本発明の組成物が2種以上の核酸を含む場合や、その他の試薬類を含む場合、該組成物は、各核酸、試薬類を別個の組成物中に含む組成物キットとして提供され得る。
本発明の組成物は、例えば、対象に、本発明の複合体を単独で、あるいは薬理学上許容される担体とともに投与することができる。前記導入対象は、例えば、ヒトを含む哺乳類動物、該動物の細胞、組織、器官などが挙げられる。よって、本発明の複合体を対象に投与することを含む、該対象における遺伝子の発現調節方法も提供される。
本発明の複合体の標的細胞内への導入を促進するために、本発明の組成物は、更に核酸導入用試薬を含んでいてもよい。該核酸導入用試薬として、塩化カルシウム、Calcium enrichment試薬、アテロコラーゲン;リポソーム;ナノパーティクル;リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質等を用いることができる。
前述のとおり、本発明の複合体は、低毒性であり得るため、医薬として用いることに特に適している。従って、本発明の複合体を含む、医薬組成物(以下、「本発明の医薬組成物」と称することがある。)が提供される。本発明の医薬組成物は、疾患の治療又は予防のために用いることができ、さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドの毒性を抑制しつつ疾患の治療又は予防するために用いることができる。本発明において、「治療」には、症状の軽減や改善、病気や症状の進行、あるいは症状の顕在化の予防、遅延や停止も包含される。このような疾患として、例えば、本発明の複合体の標的mRNAにコードされるタンパク質の過剰発現又は過剰蓄積、あるいは本発明の複合体の標的mRNAにコードされるタンパク質の欠失又は減少に起因する疾患が挙げられる。かかる疾患としては、例えば、高コレステロール血症およびアテローム性動脈硬化症などの脂質異常症(例えば、PCSK9、ApoBまたはApoC3の発現を抑制することなどで治療が可能である)、糖尿病(例えば、AcsL1の発現を抑制することで治療が可能である)、肝疾患、腎疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物として、有効量の本発明の複合体を単独で用いてもよいし、任意の担体、例えば薬理学上許容される担体とともに、製剤化してもよい。
薬理学上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリド等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明の複合体の標的細胞内への導入を促進するために、本発明の医薬組成物はさらに核酸導入用試薬を含んでいてもよい。該核酸導入用試薬としては、上述したものと同じものを用いることができる。
また、本発明の医薬組成物は、本発明の複合体がリポソームに封入されてなる医薬組成物であってもよい。リポソームは、1以上の脂質二重層により包囲された内相を有する微細閉鎖小胞であり、通常は水溶性物質を内相に、脂溶性物質を脂質二重層内に保持することができる。本明細書において「封入」という場合には、本発明の複合体はリポソーム内相に保持されてもよいし、脂質二重層内に保持されてもよい。本発明に用いられるリポソームは単層膜であっても多層膜であってもよく、また、粒子径は、例えば10~1000nm、好ましくは50~300nmの範囲で適宜選択できる。標的組織への送達性を考慮すると、粒子径は、例えば200nm以下、好ましくは100nm以下である。
オリゴヌクレオチドのような水溶性化合物のリポソームへの封入法としては、リピドフィルム法(ボルテックス法)、逆相蒸発法、界面活性剤除去法、凍結融解法、リモートローディング法等が挙げられるが、これらに限定されず、任意の公知の方法を適宜選択することができる。
本発明の医薬組成物は、経口的に又は非経口的に、哺乳動物(例:ヒト、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ウマ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、サル)に対して投与することが可能であるが、非経口的に投与するのが望ましい。よって、哺乳動物に対し、本発明の複合体の有効量を投与することを特徴とする、該哺乳動物における疾患の治療又は予防方法も提供される。
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、静脈内注入、局所注入(局所外用、局所塗布)、脳室内投与、髄腔内投与、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び薬理学上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。非経口的な投与に好適な別の製剤としては、噴霧剤等を挙げることができる。
医薬組成物中の本発明の複合体の含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
本発明の医薬組成物の投与量は、投与の目的、投与方法、対象疾患の種類、重篤度、投与対象の状況(性別、年齢、体重など)によって異なるが、例えば、成人に全身投与する場合、通常、本発明の複合体の一回投与量として0.01 mg/kg以上1000 mg/kg以下、局所投与する場合、0.001 mg/body以上100 mg/body以下が望ましい。かかる投与量を1~10回、より好ましくは5~10回投与することが望ましい。
本発明の医薬組成物は、例えば既に上市されている疾患に対する治療薬と組み合わせて用いることもできる。これらの併用薬剤は、本発明の医薬組成物とともに製剤化して単一の製剤として投与することもできるし、あるいは、本発明の医薬組成物とは別個に製剤化して、本発明の医薬組成物と同一もしくは別ルートで、同時もしくは時間差をおいて投与することもできる。また、これらの併用薬剤の投与量は、該薬剤を単独投与する場合に通常用いられる量であってよく、あるいは通常用いられる量より減量することもできる。
3.毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の設計方法
前述の通り、本発明の複合体は、上記構造を有することにより、標的RNAに対するアンチセンス効果の発揮及び低毒性を実現し得る。従って、毒性を有する従来の一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド、又はDNA/RNAヘテロ二本鎖核酸(HDO)よりも毒性が低減されている(換言すれば、低毒性)二本鎖核酸を設計することができる。具体的には、本発明は、毒性が低減されている二本鎖核酸を設計する方法であって、
(1)アンチセンスオリゴヌクレオチドを選択する工程、並びに
(2)該アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する
相補鎖を設計する工程
を含む、方法(以下、「本発明の設計方法」と称することがある。)
を提供する。
本発明の設計方法の工程(2)において、工程(1)で選択したアンチセンスオリゴヌクレオチドを改変(例えば、ヌクレオチドの挿入又は付加)することにより、二本鎖構造を形成した場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが一本鎖構造のトーホールドを有することとなってもよい。
また、本発明の設計方法の工程(1)で選択するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、相補鎖がRNase Hなどのヌクレアーゼに対する耐性を有さない相補鎖(例えば、天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含む相補鎖)である二本鎖核酸(以下、「HDO」と称することがある。)を構成するアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。この場合には、HDOを構成する相補鎖及び/又はアンチセンスオリゴヌクレオチドを改変することで、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの毒性を低減することもできる。従って、本発明の設計方法の別の態様において、毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を設計する方法であって、
(I)アンチセンスオリゴヌクレオチドと、該アンチセンスオリゴヌクレオチドと相補的な配列を含みヌクレアーゼの基質となる相補鎖とを有する二本鎖核酸を選択する工程、並びに
(II)該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する
ように相補鎖を改変する工程
を含む、方法が提供される。
本発明の設計方法の工程(2)又は(II)における一本鎖構造のトーホールドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの5’末端に存在してもよく、3’末端に存在してもよく、中央部や両末端に存在してもよい。また、生体内で相補鎖の一部が代謝を受けることにより生成されるトーホールドであってもよい。各トーホールドの長さは、1塩基長以上であればよく、少なくとも1塩基長、少なくとも2塩基長、少なくとも3塩基長、少なくとも4塩基長又は少なくとも5塩基長であってよい。また、トーホールドの長さの上限も特に限定はないが、15塩基長以下、14塩基長以下、13塩基長以下、12塩基長以下、11塩基長以下、10塩基長以下、9塩基長以下、8塩基長以下、7塩基長以下、6塩基長以下であってもよい。また、トーホールドの長さは、1塩基長~15塩基長、1塩基長~10塩基長、1塩基長~7塩基長、1塩基長~6塩基長、3塩基長~5塩基長、4塩基長~5塩基長であり得る。
また、本発明の設計方法の工程(2)又は(II)で設計又は改変される相補鎖は、アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合に、さらに
(2-1)二本鎖核酸の融解温度(Tm)が特定の範囲内となる、及び/若しくは
(2-2)長さが、該アンチセンス鎖の長さに対して特定の割合となる、
との特徴を有するものであってもよい。
本発明の設計方法における各核酸鎖やその長さ、相補鎖、非天然オリゴヌクレオチドの定義や種類、Tmの測定方法や具体的な範囲、相補鎖の長さの計算方法やアンチセンスオリゴヌクレオチドの長さに対する具体的な割合などについては、「1.アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体」及び「2.本発明の複合体の用途」に記載の内容が全て援用される。
本発明の設計方法の工程(1)又は(I)で選択されるアンチセンスオリゴヌクレオチドは、公知の核酸であってもよく、あるいは標的RNAの配列情報を元に新たに設計したものであってもよい。また、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、抑制型アンチセンスオリゴヌクレオチドであっても亢進型アンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよく、かかる具体的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、「1.アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体」に記載の通りである。
本発明の設計方法の工程(2)又は(II)では、相補鎖を実際に合成することまでは要さず、頭の中でイメージすることで十分である。しかしながら、典型的には、該イメージされた相補鎖は、電子計算機上で機能するプログラム(例:オリゴヌクレオチド設計用ソフトフェア、グラフィックデザインツール、オフィスソフト等)上や紙面上で具体化される。
相補鎖の「改変」には、相補鎖を構成する1個以上(例:1、2、3、4、5又はそれ以上)のヌクレオチドを他のヌクレオチドに置換されること、相補鎖を構成する1個以上(例:1、2、3、4、5又はそれ以上)のヌクレオチドを欠失させること、1個以上(例:1、2、3、4、5又はそれ以上)のヌクレオチドを挿入若しくは付加する工程、相補鎖を構成する1個以上(例:1、2、3、4、5又はそれ以上)のヌクレオチドが修飾ヌクレオチドに置換される又はヌクレオチド若しくはヌクレオシド間結合に修飾が施されることなどが含まれる。
相補鎖が、ヌクレアーゼの基質とならないようにするため、相補鎖を構成するヌクレオチドの少なくとも1つを非天然ヌクレオチドとする、相補鎖の少なくとも1箇所のヌクレオシド間の結合をホスホジエステル結合以外の結合とする、相補鎖の末端に非天然分子を結合させキャッピングする、これらを組み合わせることなどが適宜採用できる。これらの組み合わせにより、相補鎖が、天然ヌクレオチドが4つ以上連続する領域を含まないようにすることができる。本発明の一態様において、相補鎖を構成する全てのヌクレオチドを非天然ヌクレオチドに置換する(又はヌクレオチドに修飾を施す)、あるいは相補鎖の全てのヌクレオシド間結合を修飾ヌクレオシド間結合に置換する(又はホスホジエステル結合に修飾を施す)ことが好ましい。修飾ヌクレオシド間結合としては、例えば、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホトリエステル結合、メチルホスホネート結合、メチルチオホスホネート結合、ボラノホスフェート結合、ホスホロアミデート結合などが挙げられるが、これらに限定されない。一実施態様において、設計される相補鎖の少なくとも1つはPNAヌクレオチドであり、より好ましくは、該相補鎖の全てのヌクレオチドがPNAヌクレオチドである。
本発明により設計されるアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の各核酸には、1つ以上(例:1、2、3、4つ又はそれ以上)の機能性分子が結合していてもよい。前記機能性分子の具体例、結合態様、結合方法などは、「1.アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体」に記載の内容が全て援用される。
本発明の設計方法を実施することで、理論上は、毒性が低減されている二本鎖核酸が設計される。しかしながら、設計された二本鎖核酸の毒性が実際に低減されていることや、低減の程度を実際に評価してもよい。
4.毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の製造方法及びアンチセンスオリゴヌクレオチドの毒性低減方法
本発明は、毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を製造する方法であって、
(1)アンチセンスオリゴヌクレオチドを準備する工程、
(2)該アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する
相補鎖を準備する工程、並びに
(3)工程(1)で準備されたアンチセンス鎖及び工程(2)で準備された相補鎖をアニーリングする工程
を含む、方法(以下、「本発明の製法」と称することがある。)
を提供する。
また、別の態様において、本発明は、アンチセンスオリゴヌクレオチドの毒性を低減させる方法であって、
(I)アンチセンスオリゴヌクレオチドを準備する工程、
(II)該アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
全長にわたってヌクレアーゼ耐性を有する
相補鎖を準備する工程、並びに
(III)工程(I)で準備されたアンチセンスオリゴヌクレオチド及び工程(II)で準備された相補鎖をアニーリングする工程
を含む、方法(以下、「本発明の毒性低減方法」と称することがある。)
を提供する。以下では、本発明の製法と毒性低減方法の総称として、「本発明の方法」との用語を用いる。
本発明の方法の工程(2)又は(II)における一本鎖構造のトーホールドは、アンチセンスオリゴヌクレオチドの5’末端に存在してもよく、3’末端に存在してもよく、中央部や両末端に存在してもよい。また、生体内で相補鎖の一部が代謝を受けることにより生成されるトーホールドであってもよい。各トーホールドの長さは、1塩基長以上であればよく、少なくとも1塩基長、少なくとも2塩基長、少なくとも3塩基長、少なくとも4塩基長又は少なくとも5塩基長であってよい。また、トーホールドの長さの上限も特に限定はないが、15塩基長以下、14塩基長以下、13塩基長以下、12塩基長以下、11塩基長以下、10塩基長以下、9塩基長以下、8塩基長以下、7塩基長以下、6塩基長以下であってもよい。また、トーホールドの長さは、1塩基長~15塩基長、1塩基長~10塩基長、1塩基長~7塩基長、1塩基長~6塩基長、3塩基長~5塩基長、4塩基長~5塩基長であり得る。
また、本発明の方法の工程(2)又は(II)で準備する相補鎖は、アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合に、さらに
(2-1)二本鎖核酸の融解温度(Tm)が特定の範囲内となる、及び/若しくは
(2-2)長さが、該アンチセンス鎖の長さに対して特定の割合となる、
との特徴を有するものであってもよい。
本発明の製法における各核酸鎖やその長さ、相補鎖、非天然オリゴヌクレオチドの定義や種類、Tmの測定方法や具体的な範囲、相補鎖の長さの計算方法やアンチセンスオリゴヌクレオチドの長さに対する具体的な割合、各工程の具体的方法や態様などについては、「1.アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体」~「3.毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の設計方法」に記載の内容が全て援用される。
本発明の方法の工程(1)又は(I)で準備するアンチセンスオリゴヌクレオチドは、公知のアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよく、あるいは標的RNAの配列情報を元に新たに設計したものであってもよい。該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、毒性(例えば、肝毒性)を有することが既知のものであっても、未知のものであってもよい。また、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、抑制型アンチセンスオリゴヌクレオチドであっても亢進型アンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよく、かかる具体的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、「1.アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体」に記載の通りである。さらに、本発明の方法の工程(2)又は(II)で準備する相補鎖は、例えば、本発明の設計方法により設計された相補鎖であってもよい。これらの核酸は、公知の方法で合成するか、市販品を購入するか、製造業者に注文することなどにより、入手することができる。従って、本発明の方法の工程(2)又は(II)の前に、本発明の設計方法によりアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を設計する工程、及び/又は該複合体の各核酸を合成する工程が含まれていてもよい。
本発明の方法の工程(3)又は(III)におけるアニーリングは、例えば、準備した核酸を適切な緩衝溶液中で混合し、約90℃~98℃で数分間(例えば5分間)変性させ、その後核酸を約30℃~70℃で約1~8時間処理することにより行うことができる。
本発明の方法の工程(1)又は(I)で準備したアンチセンスオリゴヌクレオチド及び/又は相補鎖には、あらかじめ1つ以上(例:1、2、3、4つ又はそれ以上)の機能性分子が結合していてもよく、また本発明の方法の任意のタイミングでアンチセンスオリゴヌクレオチド及び/又は相補鎖に機能性分子を結合させてもよい。前記機能性分子の具体例、結合態様、結合方法などは、「1.アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体」に記載の内容が全て援用される。
本明細書において、「毒性が低減した」とは、対照の核酸(即ち、工程(I)で選択された核酸)を細胞又は生体に投与した場合に発揮される毒性が、本発明の毒性低減方法を施したアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を同条件で投与した場合に低減している、又は消失していることを意味する。
本発明の製法により製造した毒性が低減されている二本鎖核酸を公知の方法により製剤化することで、毒性が低減されている組成物を製造することもできる。
本発明の方法により製造等されたアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体の毒性が実際に低減されていることや、低減の程度を実際に評価してもよい。
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
二本鎖核酸剤の皮下投与によるin vivo活性、肝毒性及び腎毒性の軽減作用を検証するin vivo実験を行った。
本実施例では、二本鎖核酸の形態を有する、下記表1で示す二本鎖核酸剤を、下記表1で示す一本鎖LNA/DNAギャップマー型のアンチセンスオリゴヌクレオチド(以下「ASO」と称する)(mPCS1)を対照として用いて、in vivo活性、肝毒性及び腎毒性の軽減作用について評価した。配列表において、表1の配列を上から順に(但し、10塩基長未満のapPNA(C8)-mPCS1及びapPNA(C8)G2-mPCS1を除く)配列番号1~6とした。配列番号1及び2でそれぞれ示される配列がアンチセンス鎖の配列、配列番号3~6でそれぞれ示される配列が相補鎖の配列に該当する。
Figure 0007412668000007
(核酸の合成)
オリゴヌクレオチドの合成は、市販のdA(Bz)、dG(iBu)、dC(Bz)、dC (Bz)、T、LNA-A(Bz)、LNA-G(DMF)、LNA-mC(Bz)、LNA-Tのホスホロアミダイトを0.067 Mの無水アセトニトリル溶液として調製し、DNA/RNA合成装置(NTS M-2-TRS、日本テクノサービス)を用いて通常のホスホロアミダイト法に従って行った。合成スケールは1 μmolとし、トリチルオン条件で行った。活性化剤として5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール(0.25 M 無水アセトニトリル)を用い、縮合時間はLNAのアミダイトブロックで6分間、天然のアミダイトブロックで30秒間とした。合成後、固相担体を1.0 mL ガスタイトシリンジに移し、リガンド部分をマニュアル合成にて伸長した。GalNAcアミダイトブロック(0.1 Mの無水アセトニトリル)及び、活性化剤として5-エチルチオ-1H-テトラゾール(0.25 M 無水アセトニトリル)を用いて通常のホスホロアミダイト法に従って作用させることでリガンド部分を伸長した。合成完了後、28%アンモニア水で55℃ 13時間処理してカラム担体からの切り出し及び塩基部、リン酸ジエステル部の脱保護を行った。次に簡易逆相カラム(Glen-PakTM DNA Purification Cartridge、Glen Resaerch)で精製し、さらに逆相HPLCにより精製を行った。以下にHPLC測定条件を示す。
溶離液 A液: 100 mM ヘキサフルオロ2-プロパノール 8.6 mMトリエチルアミン (pH 8.3)
B液: メタノール
グラジエント B液濃度: 5-30% (30 min)(精製)
5-40% (20 min)(純度確認)
カラム nacalai 5C18-MS-II (10 × 250 mm) (精製)
nacalai 5C18-MS-II (4.6 × 50 mm) (純度確認)
流速 1.5 mL/min (精製)
0.5 mL/min (純度確認)
カラム温度 60℃
検出 UV (260 nm)
(GalNAc phosphoroamiditeの合成)
2種類のN-Acetylgalactosamine(GalNAc)phosphoroamidite体の合成はそれぞれ以下の非特許文献に従って合成した。
参考文献
1. Curr Protoc Nucleic Acid Chem. 2019, 78, e99. Doi: 10.1002/cpnc.99.
2. Nucleic Acid Ther . 2021, in press. Doi: 10.1089/nat.2021.0036.
(PNA合成用GalNAcモノマーの合成)
Fmoc-Orn-OBn及びGalNAcカルボン酸体(文献1参照)を縮合し、ベンジル基を脱保護することにより下記(化7)の化合物Fmoc-Orn(GalNAc)-OHを得た。
Figure 0007412668000008
PNAの合成は、下記文献3, 4に従い市販のFmoc-A(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-G(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-C(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-T-aeg-OH及び、別途合成したFmoc-Orn(GalNAc)-OH(化7)を用いて、表1に記載したPNAオリゴマーの合成を行った。
参考文献
3. Tetrahedron Letters, 2010, 51 3716-3718
4. J. Org. Chem. 2020, 85, 14, 8812-8824
(融解温度(Tm)測定(二本鎖形成能評価))
終濃度をリン酸緩衝液 (pH 7.0) 10 mM、塩化ナトリウム 100 mM、エチレンジアミン四酢酸 0.1 mM、各オリゴヌクレオチド及び各PNA 1 μMもしくは2 μM(mPCSK1NoG/apPNA(C8)G2, mPCS1/cRNA(14))としたサンプル溶液(150 μL)または4 μM(mPCS1/apPNA(12)以外)を95°Cで3分間昇温した後、毎分1℃の割合で20℃まで徐冷することでアニーリングを行った後、測定を開始した。毎分0.5℃の割合で90℃まで昇温し、1℃間隔で260 nmにおける吸光度をプロットした。Tm値は全て中線法で算出した。
(マウス肝臓におけるASOのKD活性測定)
全ての動物実験のプロトコールは、長崎大学の動物実験委員会で承認を得て実施した。PCSK9 を標的としたASO及びASOに部分的な相補的なPNAを当モル量混合したサンプル溶液を沸騰水中に浴し、室温までゆっくりと冷ました後、サンプル溶液を20℃まで冷却することで核酸鎖をアニーリングした。7週齢の C57Bl/6J (雄、日本SLC) に対して、アニーリングした二本鎖核酸を17.5 nmol/kg の投与量で皮下へ単回投与を行った。投与72時間後にイソフルラン吸入麻酔下にて全血を採取後、肝臓を採取した。肝臓はRNAlaterTM溶液中で4℃にて一晩保存した後、解析まで-20°Cにて保存した。肝臓 total RNA は QuickGene RNA tissue kit SII(富士フィルム社)を使用し、添付のマニュアルに従って抽出した。抽出したtotal RNAを鋳型とし、High Capacity RNA-to-cDNATM kit(Thermo Fisher Scientific社)を使用して逆転写した後、PCSK9 mRNAの発現量をCFXリアルタイムPCRシステム(BIO RAD)にて解析した。マウスPCSK9の解析には、mPCSK9-F: 5’-TCAGTTCTGCACACCTCCAG-3’(配列番号21)とmPCSK9-R: 5’-GGGTAAGGTGCGGTAAGTCC-3’(配列番号22)を、ハウスキーピング遺伝子としてマウスGapdhの解析には、mGAPDH-F: 5’-TGTGTCCGTCGTGGATCTGA-3’(配列番号23)とmGAPDH-R: 5’-TTGCTGTTGAAGTCGCAGGAG-3’(配列番号24)のプライマーセットをそれぞれ使用し、Ct値の差を発現レベルの差に換算した相対発現量によるKD活性を算出した。
(マウスの血液生化学検査)
下大静脈血より採取した血清を使用し、FujiDryChemを用いてAST、ALT、CREの測定を行なった。各項目につき10 μLの血清を使用した。
結果を図2に示す。図2より、高い肝毒性を示す一本鎖ASOに対して、PNAを相補鎖として併用することで、その肝臓における毒性(AST、ALTの上昇)及び腎臓(CREの上昇)が抑えられることを見出した。第二鎖として、相補鎖全長にわたって各種ヌクレアーゼに耐性を有するフルPNAに対して肝臓標的化リガンドであるGalNAc(化7)を導入した場合、肝臓における活性が大きく減弱されたことから、リガンドの活性を効果的に得るためにはHDOのように相補鎖がヌクレアーゼ等で切断され、ASOが適切なタイミングで相補鎖から離される必要性が示唆された。
他方、本発明者らは、標的指向性リガンドをASO側に効果的に導入する方法を先に開発しており、これを導入したASO(mPCS1)では、apPNA(C8)-mPCS1などの相補鎖と組み合わせることで、アンチセンス活性を維持しつつ、肝毒性及び腎毒性を低減させることができた。一方、mPCS1に対して、RNase Hなどのヌクレアーゼに耐性を持たない相補鎖(cRNA(14)-mPCS1)を用いた場合には、毒性の消失には至らなかった。
図2から、ASO側にGalNAcを有さず、相補鎖側にGalNAcを有する二本鎖核酸の場合、アンチセンス効果が大幅に減弱したことから、該二本鎖核酸は、肝臓に移行していない疑いがあった。そこで、二本鎖核酸の肝臓への移行を確認した。
BALB/c nu-nu(雄、6週齢、N=3)に対して、自家蛍光低減食(リサーチダイエット社、D10001)を1週間負荷したのち、300 pmolの表2にあるAlexaFluor647標識した一本鎖核酸と相補鎖側にGalNAcを有するBROTHERS複合体をそれぞれ尾静脈より投与した。その後、IVIS(Caliper Life Science・IVIS Lumina II)を用いて経時的な蛍光画像を取得し、体内動態を評価した。用いた核酸の配列を表2及び配列番号7に示す。
Figure 0007412668000009
結果を図3に示す。図3より、ASO側にGalNAcを有さず、相補鎖側にGalNAcを有する二本鎖核酸も肝臓への移行が示された。このことから、リガンドをASO側に有するBROTHERS法は、相補鎖にリガンドを有するHDOとは異なるメカニズムでアンチセンス効果を発揮していることが示唆された。
[実施例2]
BROTHERS技術により、ハイブリダイゼーション非依存性のオフターゲット効果として知られるタンパク質との相互作用を減弱させ得るかを検証をするために、結合タンパク質の可視化を検討した。
マウスの肝臓片をホモジナイズし、10,000 gで10分間遠心分離し、上清を回収し、肝臓ライセートを調製した。濃度 3.0 mg/mLとなるよう 100 mM 塩化カリウム溶液で希釈した。他方、ストレプトアビジンで被覆された磁性ビーズ (500 μg)をPBSに分散させ、磁気分離を行い、上清を除去した。ビーズの洗浄を3回繰り返した後、それぞれビオチン標識された一本鎖ASO(mPCS1B)とBROTHERS複合体(mPCS1B/apPNA(C8))(100 μM, 50 μL)を加え、4℃で 1h 振盪した。陰性対照(NT)として、核酸を固定化していないビーズを用いた。磁気分離後、ビーズの洗浄を3回行った。ビーズをPBS(200 μL)に分散させた後、2本のチューブに分けた。磁気分離し、上清を除去した後、片方のチューブに相補鎖核酸 (125 μM, 20 μL)を加え、もう一方のチューブにはPBS (20 μL)を加えた。肝臓ライセート(3.0 mg/mL, 150 μL)を各チューブに加え、4℃で2時間反応させた。磁気分離後、上清を除去し、ビーズの洗浄を3回行った。各チューブにビオチンフリーの対応する核酸(それぞれ、mPCS1NoGとmPCS1NoG/apPNA(C8))(500 pmol)を加え競合させ(NTには一本鎖ASO(mPCS1NoG)を添加)、5分間ボルテックスすることでタンパク質を溶出させた。磁気分離後、上清を回収した。さらに各チューブにフリーの核酸(1.5 nmol)をもう一度加え、5分間ボルテックスすることでタンパク質を競合的に溶出させた。磁気分離後、上清を回収した。これらのサンプルについて定法に従って、SDS-PAGEを実施した。すなわち、mPAGETM 4-20% Bis-Tris の well にマーカー、各サンプルをアプライし、180Vで40分泳動した。CBB染色液で60分間染色した後、CBB脱色液で90分間脱色し、その後超純水に置き換えて終夜振盪した。ゲルのCBBの染色像をChemiDocTM Touch イメージングシステム(Bio-Rad)により取得した(N=3)。mPCS1Bの配列を表3及び配列番号8で示す。
Figure 0007412668000010
ゲルのCBB染色像の一例を図4に示した。強い毒性を示す一本鎖ASOでは量、種類ともに多くのタンパク質の結合が確認された。一方で、BROTHERS複合体(mPCS1NoG/apPNA(C8))では、明らかな結合量の低下と結合タンパク質の種類の減少も確認された。
以上から、BROTHERS技術により、結合タンパク質の量を低減させ、あるいは結合タンパク質の種類を減少させることでハイブリダイゼーション非依存性オフターゲット結合を減らし得ることが証明された。このことは少なからず核酸医薬の毒性低減につながるものと考えられる。
[実施例3]
本実施例では、二本鎖核酸の形態を有する、下記表4で示す二本鎖剤を、下記表4で示す一本鎖LNA/DNAギャップマー型のアンチセンスオリゴヌクレオチド(以下「ASO」と称する)(GN6)を対照として用いて、in vivo活性、肝毒性及び腎毒性の軽減作用について評価した。配列表において、表4の配列を上から順に(但し、10塩基長未満のapPNA(8)-GN6及びapPNA(C8)-GN6を除く)配列番号9~13とした。配列番号9で示される配列がアンチセンス鎖の配列、配列番号10~14でそれぞれ示される配列が相補鎖の配列に該当する。
Figure 0007412668000011
(核酸の合成)
アンチセンスオリゴヌクレオチドは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。
(PNAの合成)
PNAの合成は、上記文献3, 4に従い市販のFmoc-A(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-G(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-C(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-T-aeg-OH及び、別途合成したFmoc-Orn(GalNAc)-OH(化7)を用いて、表4に記載したPNAオリゴマーの合成を行った。
(融解温度(Tm)測定(二本鎖形成能評価))
終濃度をリン酸緩衝液(pH 7.0)10 mM、塩化ナトリウム100 mM、エチレンジアミン四酢酸0.1 mM、各オリゴヌクレオチド及び各PNA 1 μMまたは4 μMとしたサンプル溶液(150 μL)を95℃で3分間昇温した後、毎分1℃の割合で20℃まで徐冷することでアニーリングを行った後、測定を開始した。毎分0.5℃の割合で90℃まで昇温し、1℃間隔で260 nmにおける吸光度をプロットした。Tm値は全て中線法で算出した。
(マウス肝臓におけるASOのKD活性測定)
全ての動物実験のプロトコールは、長崎大学の動物実験委員会で承認を得て実施した。ApoBを標的としたASO及びASOに部分的な相補的なPNAを当モル量混合したサンプル溶液を沸騰水中に浴し、室温までゆっくりと冷ました後、サンプル溶液を20℃まで冷却することで核酸鎖をアニーリングした。7週齢のC57Bl/6J雄(日本SLC)に対して、アニーリングした二本鎖核酸を100 nmol/kgの投与量で皮下へ単回投与を行った。投与72時間後にイソフルラン吸入麻酔下にて全血を採取後、肝臓を採取した。肝臓はRNAlaterTM溶液中で4℃にて一晩保存した後、解析まで-20℃にて保存した。肝臓total RNAは、QuickGene RNA tissue kit SII(富士フィルム社)を使用し、添付のマニュアルに従って抽出した。抽出したtotal RNAを鋳型とし、High Capacity RNA-to-cDNATM kit(Thermo Fisher Scientific社)を使用して逆転写した後、ApoB mRNAの発現量をCFXリアルタイムPCRシステム(BIO-RAD)にて解析した。マウスApoBの解析には、mApoB-F: 5’-TCCTCGGTGAGTTCAATGACTTTC-3’(配列番号25)とmApoB-R: 5’-TGGACCTGCTGTAGCTTGTAGGA-3’(配列番号26)を、ハウスキーピング遺伝子としてマウスGapdhの解析には、mGAPDH-F: 5’-TGTGTCCGTCGTGGATCTGA-3’とmGAPDH-R: 5’-TTGCTGTTGAAGTCGCAGGAG-3’のプライマーセットをそれぞれ使用し、Ct値の差を発現レベルの差に換算した相対発現量によるKD活性を算出した。オフターゲット効果の評価として、1塩基ミスマッチを含む遺伝子を複数種選出し、以下のプライマーを用いて、上記と同様の方法でmRNA発現量を解析した。Plastin1-Fw: gtg aag ccg aag atg gtg at(配列番号27)、Plastin1-Rv:gtt tgg tgc gta cag tgt gg(配列番号28)、Lrp2-Fw: ggt tcg tta tgg cag tcg tt(配列番号29)、Lrp2-Rv: tgc tgg ctt gga aga ctt tt(配列番号30)、Atp5c1-Fw: tga agc cct gtg aaa cac tg(配列番号31)、Atp5c1-Rv: agc aaa gag tcg gat ggc ta(配列番号32)、Pirin-Fw: cat ttc agg aga agc ctt gg(配列番号33)、Pirin-Rv:agg aat agg ctg gga atg ct(配列番号34)、Dpyd-Fw: ctc gca aaa gcc tat tcc tg(配列番号35)、Dpyd-Rv: atc agg gcc aca act tgt tc(配列番号36)
(マウスの血液生化学検査)
下大静脈血より採取した血清を使用し、FujiDryChemを用いてALT、CREの測定を行なった。各項目につき10 μLの血清を使用した。
結果を図5に示す。図5より、先の実施例1と別の配列においても、一本鎖ASOに対して、PNAを相補鎖として併用したところ、二本鎖の熱力学的安定性や一本鎖部分の長さに応じて、遺伝子のノックダウン(KD)活性が変化することがわかった。毒性マーカーの変動がない投与条件では、二本鎖の結合力が増すごとにアンチセンス効果の低下が認められた。期待されるBROTHERS現象が最も顕著に起こっていると考えられたGN6/apPNA(10)-GN6に関して、オフターゲット効果への影響を評価するために、標的配列にミスマッチを含む遺伝子を複数選びmRNAの発現量を解析した。結果、一本鎖のGN6ではオフターゲット効果と見られるノックダウンが認められた一方で、BROTHERS複合体を用いた場合には調べた遺伝子のオフターゲットによるノックダウンが消失あるいは減弱することを証明した(図5)。これらから、BROTHERS型の二本鎖核酸は、オフターゲット効果を回避する性質を有することが示された。
[実施例4]
本実施例では、二本鎖核酸の形態を有する、下記表4で示す二本鎖剤を、下記表4で示す一本鎖LNA/DNAギャップマー型のアンチセンスオリゴヌクレオチド(以下「ASO」と称する)(hApo1)を対照として用いて、in vivo活性、肝毒性及び腎毒性の軽減作用について評価した。配列表において、表4の配列を上から順に(但し、10塩基長未満のapPNA(C5)-hApo1、apPNA(C6)-hApo1、apPNA(C7)-hApo1、apPNA(C8)-hApo1及びapPNA(C9)-hApo1を除く)配列番号15~20とした。配列番号15で示される配列がアンチセンス鎖の配列、配列番号16~20でそれぞれ示される配列が相補鎖の配列に該当する。
Figure 0007412668000012
(核酸の合成)
オリゴヌクレオチドの合成は、市販のdA(Bz)、dG(iBu)、dC(Bz)、dC (Bz)、T、LNA-A(Bz)、LNA-G(DMF)、LNA-mC(Bz)、LNA-Tのホスホロアミダイトを0.067 Mの無水アセトニトリル溶液として調製し、DNA/RNA合成装置(NTS M-2-TRS、日本テクノサービス)を用いて通常のホスホロアミダイト法に従って行った。合成スケールは1 μmolとし、トリチルオン条件で行った。活性化剤として5-ベンジルチオ-1H-テトラゾール(0.25 M 無水アセトニトリル)を用い、縮合時間はLNAのアミダイトブロックで6分間、天然のアミダイトブロックで30秒間とした。合成後、固相担体を1.0 mL ガスタイトシリンジに移し、リガンド部分をマニュアル合成にて伸長した。GalNAcアミダイトブロック(0.1 Mの無水アセトニトリル)及び、活性化剤として5-エチルチオ-1H-テトラゾール(0.25 M 無水アセトニトリル)を用いて通常のホスホロアミダイト法に従って作用させることでリガンド部分を伸長した。合成完了後、28%アンモニア水で55℃ 13時間処理してカラム担体からの切り出し及び塩基部、リン酸ジエステル部の脱保護を行った。次に簡易逆相カラム(Glen-PakTM DNA Purification Cartridge、Glen Research)で精製し、さらに逆相HPLCにより精製を行った。以下にHPLC測定条件を示す。
溶離液 A液: 100 mM ヘキサフルオロ2-プロパノール 8.6 mMトリエチルアミン (pH 8.3)
B液: メタノール
グラジエント B液濃度: 5-30% (30 min)(精製)
5-40% (20 min)(純度確認)
カラム nacalai 5C18-MS-II (10 × 250 mm) (精製)
nacalai 5C18-MS-II (4.6 × 50 mm) (純度確認)
流速 1.5 mL/min (精製)
0.5 mL/min (純度確認)
カラム温度 60℃
検出 UV (260 nm)
(PNAの合成)
PNAの合成は、上記文献3, 4に従い市販のFmoc-A(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-G(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-C(Bhoc)-aeg-OH、Fmoc-T-aeg-OH及び、別途合成したFmoc-Orn(GalNAc)-OH(化7)を用いて、表5に記載したPNAオリゴマーの合成を行った。
(融解温度(Tm)測定(二本鎖形成能評価))
終濃度をリン酸緩衝液(pH 7.0)10 mM、塩化ナトリウム100 mM、エチレンジアミン四酢酸0.1 mM、各オリゴヌクレオチド及び各PNA 4 μMとしたサンプル溶液(150 μL)を95℃で3分間昇温した後、毎分1℃の割合で20℃まで徐冷することでアニーリングを行った後、測定を開始した。毎分0.5℃の割合で90℃まで昇温し、1℃間隔で260 nmにおける吸光度をプロットした。Tm値は全て中線法で算出した。
(マウス肝臓におけるASOのKD活性測定)
全ての動物実験のプロトコールは、長崎大学の動物実験委員会で承認を得て実施した。ApoBを標的としたASO及びASOに部分的な相補的なPNAを当モル量混合したサンプル溶液を沸騰水中に浴し、室温までゆっくりと冷ました後、サンプル溶液を20℃まで冷却することで核酸鎖をアニーリングした。7週齢のC57Bl/6J雄(日本SLC)に対して、アニーリングした二本鎖核酸を100 nmol/kgの投与量で皮下へ単回投与を行った。投与72時間後にイソフルラン吸入麻酔下にて全血を採取後、肝臓を採取した。肝臓はRNAlaterTM溶液中で4℃にて一晩保存した後、解析まで-20℃にて保存した。肝臓total RNAは、QuickGene RNA tissue kit SII(富士フィルム社)を使用し、添付のマニュアルに従って抽出した。抽出したtotal RNAを鋳型とし、High Capacity RNA-to-cDNATM kit(Thermo Fisher Scientific社)を使用して逆転写した後、ApoB mRNAの発現量をCFXリアルタイムPCRシステム(BIO-RAD)にて解析した。マウスApoBの解析には、mApoB-F: 5’-TCCTCGGTGAGTTCAATGACTTTC-3’とmApoB-R: 5’-TGGACCTGCTGTAGCTTGTAGGA-3’を、ハウスキーピング遺伝子としてマウスGapdhの解析には、mGAPDH-F: 5’-TGTGTCCGTCGTGGATCTGA-3’とmGAPDH-R: 5’-TTGCTGTTGAAGTCGCAGGAG-3’のプライマーセットをそれぞれ使用し、Ct値の差を発現レベルの差に換算した相対発現量によるKD活性を算出した。
(マウスの血液生化学検査)
下大静脈血より採取した血清を使用し、FujiDryChemを用いてALT、CREの測定を行なった。各項目につき10 μLの血清を使用した。
結果を図6に示す。図6より、先の実施例1、3と別の配列でも、一本鎖ASOに対して、様々な結合力(又はトーホールド長)を有するPNAを相補鎖として用いたところ、二本鎖の熱力学的安定性が大きくなる(又はトーホールド長が短くなる)につれ、肝毒性及び腎毒性が減弱する一方で、アンチセンス活性は減弱することがわかった。ALTは酵素法で測定していることから、データのばらつきが大きいため有意差が認められない例もあるが、全体として鎖長に応じてALTが右下がりとなる傾向があり、hApo1/PNA(C5)においてもALTの平均値はコントロール(hApo1)の平均値よりも低い値であるため、hApo1/PNA(C5)~hApo1/PNA(C13)の全範囲にわたって肝毒性が低減されていると推測される。特に、hApo1/apPNA(C9)では、毒性の指標となるALTとCREの値を適正なレベルに維持しつつ、高いアンチセンス活性を示すことを見出した。二本鎖の結合力、標的とASOの結合力、トーホールド長のバランスを最適化した該BROTHERS型二本鎖核酸により、アンチセンス活性と毒性を切り離すことに成功した。
以上より、相補鎖(第二鎖)の特徴として、以下の点が挙げられる。
1)二本鎖の結合力がTm(二本鎖融解温度)で言えば、40-80℃程度の範囲にあること
もしくは
2)第二鎖の核酸鎖は、鎖長がASOの35-95%程度を占めること
3)トーホールドの長さが少なくとも1塩基以上であり、上限はおおよそ10塩基である
4)第二鎖の核酸鎖は、フルPNAでも良い
5)第二鎖の核酸鎖は、ヌクレオチドアナログを含み、RNase Hなどのヌクレアーゼの基質にならないこと
6)第二鎖の核酸鎖は、DDSリガンドを持たなくともよく、ASO鎖がDDS機能を有すること
[実施例5]
BROTHERS法の特徴である、ASOの毒性を低減させる効果のヒトへの外挿性を見積もるため、ヒト肝臓由来細胞株を用いたカスパーゼ活性の評価を行なった。
96wellプレートにHepG2細胞(5.0×103 cells/well)を播種した後、37℃で4時間インキュベートした。培地を除去した後、mPCS1-NoGオリゴヌクレオチド(終濃度1, 2, 4 μM)、mPCS1/apPNA(C8)複合体(終濃度1, 2, 4 μM)、塩化カルシウム (終濃度10 mM)を加えた培地(100 μL)を各wellに添加し、37℃で72hインキュベートした(CEM法と呼ぶ)。Caspase-Glo(登録商標) 3/7 Assay (Promega, Madison, WI)を各wellに100 μLずつ添加し、室温で30分間インキュベートした後、発光強度をマルチモード・プレートリーダーで測定した。
結果を図7に示す。図7より、一本鎖ASOでは、濃度依存的なCaspase3/7の活性化を認めた一方で、BROTHERS複合体ではCaspase活性の変化は認めなかった。
Caspase3/7は、個体で強い毒性を示すASOを選別するための信頼性の高いマーカーとして知られている。他方、塩化カルシウムを用いたCEM法は個体でのASOの活性を予測優れたトランスフェクションの方法であることが知られている(Nucleic Acids Research, 2015, 43(19), e128)。BROTHERS法により、CEM法の条件下、ヒト由来の細胞株でCaspase活性の濃度依存的な上昇を抑制できたことは、本法がヒトにおいても毒性の低減に寄与することを強く示唆する結果と言える。
[実施例6]
本実施例では、実施例1で示した肝毒性を示すASO及び、毒性を低減した二本鎖核酸(mPCS1/apPNA(C8))のマウス投与に伴う遺伝子変化を次世代シーケンス解析により評価した。
(ASO及び二本鎖核酸投与マウスの肝臓RNAの抽出)
全ての動物実験のプロトコールは、長崎大学の動物実験委員会で承認を得て実施した。PCSK9を標的としたASOおよびASOに部分的な相補的なPNAを当モル量混合したサンプル溶液を沸騰水中に浴し、室温までゆっくりと冷ました後、サンプル溶液を20℃まで冷却することで核酸鎖をアニールした。7週齢のC57Bl/6J 雄(日本SLC)に対して、アニールした二本鎖核酸を100 nmol/kg の投与量で皮下へ単回投与を行った。投与72時間後にイソフルラン吸入麻酔下にて全血を採取後、肝臓を採取した。肝臓はRNAlaterTM溶液中で4℃にて一晩保存した後、解析まで-20℃にて保存した。肝臓 total RNA は QuickGene RNA tissue kit SII (富士フィルム社) を使用し、添付のマニュアルに従って抽出した。
(次世代シーケンス解析)
total RNA溶液を10倍希釈した後に、Qubit RNA BR Assay Kitで定量した。RNAサンプルについて、バイオアナライザ(Agilent 2100)(RNA pico)で品質チェック後、Collibri 3' mRNA Library prep kit for illumina Systems (24 reactions)(A38110024、Thermo fisher Scientific社)を用いて、ライブラリの調整を行なった。最終産物をQubitおよびバイオアナライザにて解析した。次世代シーケンス解析は、Novaseq6000(イルミナ社)にて実施された。
結果を図8に示す。図8より、次世代シーケンス解析により投与に伴う有意な遺伝子変動が約75%抑制されたことが示された。GO解析やPathway解析の結果、一本鎖ASOでは組織障害に関与すると考えられる酸化ストレス(ROS)を生じさせる遺伝子群や、ROSを低減させる遺伝子群の応答、また、細胞死に関与する遺伝子群の応答が強くみとめられた。一方で、二本鎖核酸にすることでこれらの遺伝子変動は限定的であった。これら変化した遺伝子群は、肝臓以外の組織障害においても普遍的に変動する遺伝子群と考えられる。
[実施例7]
本実施例では、実施例1で示した肝毒性を示すASO及び、毒性を低減した二本鎖核酸(mPCS1/apPNA(C8))をマウス投与後の肝毒性を長期間で評価した。
(核酸剤の合成)
アンチセンスオリゴヌクレオチドは、実施例1と同じ方法にて合成した。
(PNAの合成)
PNAの合成は、実施例1と同じ方法にて合成した。
(マウス肝臓におけるASOのKD活性測定)
全ての動物実験のプロトコールは、長崎大学の動物実験委員会で承認を得て実施した。PCSK9を標的としたASOおよびASOに部分的な相補的なPNAを当モル量混合したサンプル溶液を沸騰水中に浴し、室温までゆっくりと冷ました後、サンプル溶液を20℃まで冷却することで核酸鎖をアニールした。7週齢のC57Bl/6J(雄、日本SLC)に対して、アニールした二本鎖核酸を100 nmol/kgの投与量で皮下へ単回投与を行った。投与3、6、9日後に体重を測定後、それぞれイソフルラン吸入麻酔下にて全血を採取後、肝臓を採取した。肝臓はRNAlaterTM溶液中で4℃にて一晩保存した後、解析まで-20℃にて保存した。肝臓total RNAはQuickGene RNA tissue kit SII(富士フィルム社)を使用し、添付のマニュアルに従って抽出した。抽出したtotal RNAを鋳型とし、High Capacity RNA-to-cDNATM kit(Thermo Fisher Scientific社)を使用して逆転写した後、PCSK9 mRNAの発現量をCFXリアルタイムPCRシステム(BIO RAD)にて解析した。マウスPCSK9の解析には、mPCSK9-F: 5’-TCAGTTCTGCACACCTCCAG-3’とmPCSK9-R: 5’-GGGTAAGGTGCGGTAAGTCC-3’を、ハウスキーピング遺伝子としてマウスGapdhの解析には、mGAPDH-F: 5’-TGTGTCCGTCGTGGATCTGA-3’とmGAPDH-R: 5’-TTGCTGTTGAAGTCGCAGGAG-3’のプライマーセットをそれぞれ使用し、Ct値の差を発現レベルの差に換算した相対発現量によるKD活性を算出した。
(マウスの血液生化学検査)
下大静脈血より採取した血清を使用し、FujiDryChemを用いてAST、ALT、CREの測定を行なった。各項目につき10 μLの血清を使用した。血清総コレステロール濃度は、ラボアッセイTMコレステロール細胞生物学用(富士フィルム和光)を用いて測定した。
結果を図9に示す。図9より、二本鎖核酸は投与後長期間にわたって逸脱酵素の上昇は認められなかった。他方、ASO単鎖投与時にみられた毒性に起因する体重の減少も二本鎖核酸投与群では顕著に抑制された。
[実施例8]
本実施例では、実施例1で示した肝毒性を示すASO及び、毒性を低減した二本鎖核酸(mPCS1/apPNA(C8))の細胞障害性を評価した。
(核酸剤の合成)
実施例1に示すmPCS1NoGを準備し調製した。
(PNAの合成)
実施例1に示すmPCS1-apPNA(C8)を準備し調製した。
(細胞実験)
ASO及び二本鎖核酸のトランスフェクションは参考文献5、6を参考に実施した。具体的には、グルコース不含DMEM培地(10 mM (D+)-Galactose, 9 mM CaCl2添加)でASO及び二本鎖核酸(mPCS1/apPNA(C8))を終濃度0.01-2 μMになるよう希釈し、96 wellプレートに添加した。上述の培地で希釈した細胞Huh-7を各ウェルに5,000細胞ずつ播種し、インキュベーターで72時間培養し、各アッセイを実施した。
参考文献
5:Nucleic Acids Research, 2015, e128
6:Mol Ther Nucleic Acids, 2021, 957-969
(死細胞染色)
培地を除去後、1xPBSで細胞を洗浄した後、終濃度1.0 μg/mLに希釈したPI solution (同仁化学)を各ウェルに添加し、37℃で15分間インキュベートした。染色溶液を除去後、1xPBS(200 μL)を添加し、蛍光顕微鏡にて観察した。
(細胞生存率アッセイ)
培地をグルコース不含DMEM培地(10 mM (D+)-Galactose, 9 mM CaCl2添加)(200 μL/well)に置換し、Cell Counting Kit-8(同仁化学)を10 μL(/well)添加した後、インキュベーター内にて2時間インキュベートした。マイクロプレートリーダーにて450 nmの吸光度を測定した。
(LDHアッセイ)
培地を除去後、1xPBSで細胞を洗浄した後、Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST(同仁化学)を用いて製造業者のプロトコールに従いLDH活性を測定した。
結果を図10に示す。図10より、死細胞染色、細胞生存率アッセイやLDH活性評価の結果、in vitroにおいても一本鎖ASOでは濃度依存的な細胞死及び細胞障害が見られた一方で、二本鎖核酸ではこれらの現象は見られなかった。
[実施例9]
本実施例では、実施例1で示した肝毒性を示すASO及び、毒性を低減した二本鎖核酸(mPCS1/apPNA(C8))の細胞内挙動を蛍光標識した核酸を用いてイメージングにより評価した。
(蛍光標識核酸剤の合成)
固相にamino-on CPG(sigma)を用いて、実施例1と同様の手順で3’末端にC6-アミノ基を有するASOを合成及び精製した。本ASOを100 μMになるよう1xPBSに溶解させた後、5等量のAlexa-Fluor 647 NHS ester(thermo)を添加し、遮光化で24時間震盪させた。反応後、脱塩カラム(NAP-5)にて粗精製を行なった後、逆相HPLCにてさらに精製した。以下にHPLC測定条件を示す。
溶離液 A液: 100 mM ヘキサフルオロ2-プロパノール 8.6 mMトリエチルアミン (pH 8.3)
B液: メタノール
グラジエント B液濃度: 5-40% (30 min)(精製)
5-40% (20 min)(純度確認)
カラム nacalai 5C18-MS-II (10 × 250 mm) (精製)
nacalai 5C18-MS-II (4.6 × 50 mm) (純度確認)
流速 3.0 mL/min (精製)
1.0 mL/min (純度確認)
カラム温度 60℃
検出 UV (260 nm)
(PNAの合成)
実施例1に示すmPCS1-apPNA(C8)を準備し調製した。
(細胞実験)
実施例8に倣って実施した。コラーゲンコーティングを施した35 mmガラスボトムディッシュに低DMEM培地(9 mM CaCl2添加)で終濃度200 nMになるよう希釈したASO及び二本鎖核酸を添加した。上述の培地で希釈した細胞Huh-7を各ウェルに10,000細胞を播種し、インキュベーターで48時間培養した。培地除去後、1xPBSで細胞を3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド溶液で細胞を固定した。0.1% NP-40(1xPBS溶液)で10分間インキュベーションし、細胞膜透過処理を行なった後、1xPBSで細胞を3回洗浄した。1% BSA(1xPBS-T溶液)で30分間ブロッキングを行った後、各種抗体で免疫染色を実施した。cellstain Hoechst 33342 solutionを用いて製造業者のプロトコールに従って細胞核を染色した後、封入剤を滴下し、共焦点レーザー顕微鏡にて核酸の細胞内挙動を観察した。
結果を図11に示す。図11より、一本鎖ASOと本発明の二本鎖核酸について、細胞内動態を比較したところ、一本鎖は二本鎖核酸と比較して核小体への移行が特徴的であった。二本鎖化することで局在が核小体を避けるようなものへ変化しており、mPCS1/apPNA(C8)は二本鎖として細胞質内へ移行し一本鎖ASOと異なる細胞内動態が示された。
[実施例10]
ASO配列が異なっても二本鎖化により非特異的タンパク質相互作用が低減し、毒性低減に寄与しているかを評価した。
(ビオチン標識核酸剤の合成)
アンチセンスオリゴヌクレオチドは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。
(PNAの合成)
実施例4に示す各PNA配列を準備し調製した。
(SDS-PAGEによる結合タンパク質量の評価)
マウス肝臓をホモジナイズし、10,000 gで15分遠心分離した後、上清を回収し、タンパク質濃度をBCA法(TaKaRa BCA Protein Assay Kit、タカラバイオ)で決定した。ストレプトアビジンビーズ(多摩川精機)2 mgに対し、100 μMビオチン標識ASOを添加し4℃で1時間振盪した。磁気分離を行った後、100 mM KCl bufferで3回洗浄した後、100 μM PNA(C5-C13)を25 μL添加し分散させた。固定化したビーズに対して、100 mM KCl bufferでタンパク質濃度 3.0 mg/mLになるよう希釈した肝ライセート(150 μL)を添加し、4℃で2時間結合反応を行った。磁気分離後、100 mM KCl bufferで3回洗浄した後、ASOあるいは二本鎖核酸(1nmol)を添加し、5分間振盪することで結合タンパク質を競合、溶出させた。SDS sample bufferを添加し、95℃で5分加熱した後、mPAGE 4-20% Bis-Tris Precast Gel(メルク)にアプライし180V、40分電気泳動した。ゲルを1時間CBB染色した後、2時間CBB脱色液で脱色し、chemidoc touchで撮像した。
結果を図12に示す。図12より、異なる配列のASO(hApo1)でも相補鎖(弟鎖)の導入によりタンパク結合量が大幅に低減していることが観察された。また、相補鎖を伸長するにつれ、結合タンパク質が徐々に減少していることが明らかとなり、結合タンパク質量と毒性との関係が示唆された。
[実施例11]
相補鎖を汎用されるHDOを用いてASOの毒性を低減できるかどうかを検証した。
(核酸剤の合成)
実施例1に示すアンチセンスオリゴヌクレオチド(mPCSK9-2590-BNA(14);mPCS1)を実施例1と同様の方法で調製した。
(相補鎖の合成)
相補鎖(HDO(14)-mPCS1)は株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。相補鎖の配列は以下の通りである。G(M)^G(M)^A(M)^GAACUUGG^U(M)^G(M)^U(M)(配列番号40)
^: ホスホロチオエート(PS)結合、N(M): 2’-OMe RNA、大文字:RNA
(マウス肝臓におけるASOのKD活性測定)
全ての動物実験のプロトコールは、長崎大学の動物実験委員会で承認を得て実施した。PCSK9を標的としたASOおよびASOに相補的なHDOを当モル量混合したサンプル溶液を沸騰水中に浴し、室温までゆっくりと冷ました後、サンプル溶液を20℃まで冷却することで核酸鎖をアニールした。7週齢のC57Bl/6J(雄、日本SLC)に対して、アニールした二本鎖核酸を400 nmol/kgの投与量で皮下へ単回投与を行った。投与72時間後にイソフルラン吸入麻酔下にて全血を採取後、肝臓を採取した。肝臓はRNAlaterTM溶液中で4℃にて一晩保存した後、解析まで-20℃にて保存した。肝臓total RNAはQuickGene RNA tissue kit SII(富士フィルム社)を使用し、添付のマニュアルに従って抽出した。抽出したtotal RNAを鋳型とし、High Capacity RNA-to-cDNATM kit(Thermo Fisher Scientific 社)を使用して逆転写した後、PCSK9 mRNAの発現量をCFXリアルタイムPCRシステム(BIO RAD)にて解析した。マウスPCSK9の解析には、mPCSK9-F: 5’-TCAGTTCTGCACACCTCCAG-3’とmPCSK9-R: 5’-GGGTAAGGTGCGGTAAGTCC-3’を、ハウスキーピング遺伝子として、マウスGapdhの解析には、mGAPDH-F: 5’-TGTGTCCGTCGTGGATCTGA-3’とmGAPDH-R: 5’-TTGCTGTTGAAGTCGCAGGAG-3’のプライマーセットをそれぞれ使用し、Ct値の差を発現 レベルの差に換算した相対発現量によるKD活性を算出した。
(マウスの血液生化学検査)
下大静脈血より採取した血清を使用し、ALTの測定をオリエンタル酵母工業(株)に委託した。測定はLタイプワコーALT・J2(富士フィルム和光)を用いて測定された。
結果を図13に示す。図13より、相補鎖として既知のHDOに類似するHDO(14)-mPCS1を用いた場合では、PCSK9 mRNAのノックダウンは得られたものの、ALTの大幅な上昇が認められた。HDOは相補鎖に非修飾核酸領域を有し、エンドソームやリソソームで分解を受け一本鎖となることが重要である点が開示されている。一方、BROTHERS核酸は先に示す通り、二本鎖として細胞内へ移行し機能していることが示されており、BROTHERS核酸の特徴的な細胞内動態と低い毒性との関連性が示唆される。
[実施例12]
毒性の高いASOで一般的に見られるCaspase3/7経路の活性化が二本鎖化することで抑制できるかどうか、in vitroで評価した。
(核酸剤の合成)
実施例1に示すmPCS1NoGを準備し調製した。
(PNAの合成)
実施例1に示すmPCS1-apPNA(C8)を準備し調製した。
(細胞実験)
ASO及び二本鎖核酸のトランスフェクションは実施例8と同様の方法で実施した。グルコース不含DMEM培地(10 mM (D+)-Galactose、9 mM CaCl2添加)または低グルコースDMEM培地(9 mM CaCl2添加)でASO及び二本鎖核酸(mPCS1/apPNA(C8))を終濃度2 μMになるよう希釈し、96 wellプレートに添加した。上述の培地で希釈した細胞Huh-7を各ウェルに5,000細胞ずつ播種し、インキュベーターで48時間培養し、各アッセイを実施した。
(Caspaseアッセイ)
培地を置換した後、Caspase 3/7、Caspase 8、Caspase 9の活性化をCaspase-Glo(登録商標) 3/7 Assay Systems、Caspase-Glo(登録商標) 8 Assay Systems、Caspase-Glo(登録商標) 9 Assay Systems(プロメガ)を用い、製造業者のプロトコールに従って測定した。
(死細胞染色)
実施例8と同様の手順で死細胞を染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
(ミトコンドリア膜電位の観察)
JC-1 MitoMP Detection Kit(同仁化学)を用いて製造業者のプロトコルに従って染色し、蛍光顕微鏡で観察した(Green:Ex 488 nm / Em 500-550 nm、Red :Ex 561 nm / Em 560-610 nm)。
結果を図14に示す。図14より、ガラクトース培地に変えることにより一本鎖ASOで顕著な細胞毒性が確認された。一般に、ガラクトース培地は薬剤のミトコンドリア毒性を調べるために使われており、一本鎖ASOはミトコンドリア毒性に関与するものと考えられる。他方、該二本鎖核酸は、一本鎖ASOで頻繁に認められるCaspase 3/7、9、8の活性化、及びミトコンドリア毒性を抑制し、目立った細胞毒性を示さなかった。このin vitroでの比較結果は、in vivoで観察された一本鎖ASOと二本鎖核酸の毒性の差異と良い一致を示すものである。ここで、ミトコンドリア毒性やCaspase 3/7の活性化は、肝細胞に限らず、普遍的な細胞死のメカニズムであること(参考文献7等)からも、これらの細胞死経路を抑制できる該二本鎖核酸技術は、肝毒性に限定せず広く細胞毒性を低減する方法として有効である。
参考文献
7: Mol Ther Nucleic Acids., 2018, 45-54.
[実施例13]
表6に記載するミスマッチを含むオフターゲット遺伝子に対する二本鎖核酸の鎖交換反応速度およびそのオフターゲット効果について評価した。配列表において、表6の配列を上から順に配列番号41~45とした。
Figure 0007412668000013
(核酸剤の合成)
株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。
(PNAの合成)
実施例4に示すhApo1-apPNA(C9)を準備し調製した。
(鎖交換速度の評価)
終濃度をリン酸緩衝液(pH 7.0) 10 mM、塩化ナトリウム 100 mM、エチレンジアミン四酢酸 0.1 mM、hApo1Fおよび、hApo1F/apPNA(C9) 100 nMとしたサンプル溶液(50 μL)に対しBHQ2標識した各100 nM RNA(50 μL)を添加し、減衰する蛍光強度の経時変化を測定した。
(細胞実験)
ASO及び二本鎖核酸のトランスフェクションは実施例8と同様の方法で実施した。低グルコースDMEM培地(9 mM CaCl2添加)でASO及び二本鎖核酸(mPCS1/apPNA(C8))を終濃度1 μMになるよう希釈し、96 wellプレートに添加した。上述の培地で希釈した細胞Huh-7を各ウェルに10,000細胞ずつ播種し、インキュベーターで24時間培養した。SuperPrep(登録商標) II Cell Lysis & RT Kit for qPCR(TOYOBO)を使用し、製造業者のプロトコールに従い細胞溶解液からcDNAを調製した。ApoBおよび表6に示すオフターゲット遺伝子のmRNAの発現量をCFXリアルタイムPCRシステム(BIO RAD)にて解析した。ヒトApoBの解析には、hApoB-F: 5’-TTCTCAAGAGTTACAGCAGATCCA-3’(配列番号58)とhApoB-R: 5’-TGGAAGTCCTTAAGAGCAACTAACA-3’(配列番号59)を、ヒトCopgの解析には、hCopg-F: 5’-CCATGCATTGGGAGTCCTGT-3’(配列番号60)とhCopg-R: 5’-ACTGGCAATTCGGATCAGCA-3’(配列番号61)を、ヒトMast2の解析には、hMast2-F: 5’-TGACTTTCGCTGAGAACCCC-3’(配列番号62)とhMast2-R: 5’-TCTTCAGCAGAGTGGCACAG-3’(配列番号63)を、ヒトHltfの解析には、hHltf-F: 5’-CCTGTGCCGTTTTCTTGCTC-3’(配列番号64)とhHltf-R: 5’-CCCTGCAGAAAGGTCTTGGT-3’(配列番号65)を、ハウスキーピング遺伝子としてヒト Gapdhの解析には、hGAPDH-F: 5’-GCACCGTCAAGGCTGAGAAC-3’(配列番号66)とhGAPDH-R: 5’-TGGTGAAGACGCCAGTGGA-3’(配列番号67)のプライマーセットをそれぞれ使用し、Ct値の差を発現レベルの差に換算した相対発現量によるKD活性を算出した。
結果を図15に示す。図15より、一本鎖核酸はオフターゲット遺伝子がオンターゲット遺伝子と同程度の速度で結合したのに対し、BROTHERS型二本鎖核酸にすることでオンターゲット遺伝子と比較してオフターゲット遺伝子との鎖交換反応が大幅に減速することが示された。水溶液中での鎖交換反応速度に相関して、培養細胞においてもオフターゲット遺伝子の不本意なノックダウンが解消された。該二本鎖核酸のハイブリダイゼーション依存性オフターゲットの抑制効果は、特徴的なBROTHERS構造に起因する効果であると考えられる。
[実施例14]
より長鎖のASOに対してはパラレルPNA(pPNA)を採用することで、適切な鎖長と結合力を有した二本鎖核酸が設計でき、同様に毒性を低減できるかどうかを検証した。本実施例で用いたASO及びpPNAを表7に示す。配列表において、表7の配列を上から順に配列番号46~54とした。配列番号46~48でそれぞれ示される配列がアンチセンス鎖の配列、配列番号49~54でそれぞれ示される配列(N末端→C末端)が相補鎖の配列に該当する。
Figure 0007412668000014
(核酸剤の合成)
実施例1と同様に、表7のAcsl1およびAcsl1nを合成した。ビオチン標識ASOは株式会社ジーンデザイン(Gene Design)(大阪、日本)によって委託合成された。
(PNAの合成)
実施例1と同様に、表7の各PNAを合成した。
(融解温度(Tm)測定(二重鎖形成能評価))
終濃度をリン酸緩衝液 (pH 7.0) 10 mM、塩化ナトリウム 100 mM、エチレンジアミン四酢酸 0.1 mM、各オリゴヌクレオチドおよび各PNA 4 μMとしたサンプル溶液(150 μL)を95℃で3分間昇温した後、毎分1℃の割合で20℃まで徐冷することでアニーリングを行った後、測定を開始した。毎分0.5 ℃の割合で90 ℃まで昇温し、1 ℃間隔で260 nmにおける吸光度をプロットした。Tm値は全て中線法で算出した。
(マウス肝臓におけるASOのKD活性測定)
全ての動物実験のプロトコールは、長崎大学の動物実験委員会で承認を得て実施した。Acsl1を標的としたASOおよびASOに部分的な相補的なPNAを当モル量混合したサンプル溶液を沸騰水中に浴し、室温までゆっくりと冷ました後、サンプル溶液を20℃まで冷却することで核酸鎖をアニールした。7週齢のC57Bl/6J(雄、日本SLC)に対して、アニールした二本鎖核酸を100 nmol/kg の投与量で皮下へ単回投与を行った。投与4日後にそれぞれイソフルラン吸入麻酔下にて全血を採取後、肝臓を採取した。肝臓はRNAlaterTM溶液中で4℃にて一晩保存した後、解析まで-20℃にて保存した。肝臓total RNAは、QuickGene RNA tissue kit SII(富士フィルム社)を使用し、添付のマニュアルに従って抽出した。抽出したtotal RNAを鋳型とし、High Capacity RNA-to-cDNATM kit(Thermo Fisher Scientific 社)を使用して逆転写した後、Acsl1 mRNAの発現量をCFXリアルタイムPCRシステム(BIO RAD)にて解析した。マウスAcsl1の解析には、mAcsl1-F: 5’-AGGTGCTTCAGCCCACCATC-3’(配列番号68)とmAcsl1-R: 5’-AAAGTCCAACAGCCATCGCTTC-3’(配列番号69)を、ハウスキーピング遺伝子としてマウスGapdhの解析には、mGAPDH-F: 5’-TGTGTCCGTCGTGGATCTGA-3’とmGAPDH-R: 5’-TTGCTGTTGAAGTCGCAGGAG-3’のプライマーセットをそれぞれ使用し、Ct値の差を発現レベルの差に換算した相対発現量によるKD活性を算出した。
(マウスの血液生化学検査)
下大静脈血より採取した血清を使用し、FujiDryChemを用いてAST、ALT、CREの測定を行なった。各項目につき10 μLの血清を使用した。血清総コレステロール濃度は、ラボアッセイTMコレステロール細胞生物学用(富士フィルム和光)を用いて測定した。
(SDS-PAGEによる結合タンパク質量の評価)
マウス肝臓をホモジナイズし、10,000 gで15分遠心分離した後、上清を回収し、タンパク質濃度をBCA法(TaKaRa BCA Protein Assay Kit、タカラバイオ)で決定した。ストレプトアビジンビーズ(多摩川精機)2 mgに対し、100 μMビオチン標識ASOを添加し4℃で1時間振盪した。磁気分離を行った後、100 mM KCl bufferで3回洗浄した後、100 μM PNA(C5-C13)を25 μL添加し分散させた。固定化したビーズに対して、100 mM KCl bufferでタンパク質濃度 3.0 mg/mLになるよう希釈した肝ライセート(150 μL)を添加し、4℃で2時間結合反応を行った。磁気分離後、100 mM KCl bufferで3回洗浄した後、ASOあるいは二本鎖核酸(1nmol)を添加し、5分間振盪することで結合タンパク質を競合、溶出させた。SDS sample bufferを添加し、95℃で5分加熱した後、mPAGE 4-20% Bis-Tris Precast Gel(メルク)にアプライし180V、40分電気泳動した。ゲルを1時間CBB染色した後、2時間CBB脱色液で脱色し、chemidoc touchで撮像した。
結果を図16に示す。図16より、長鎖のASOに対して、適切な鎖長のpPNAを設計することで、ノックダウン活性を維持しながら肝逸脱酵素上昇の抑制、並びに各種サイトカイン発現の有意な抑制も確認された。また、他の例と同様に二本鎖化することにより毒性に起因していると考えられる結合タンパク質の量が大幅に減少した。この結果は、異なる長さや配列、化学的性質を持つASOに対する弟鎖の設計においては、物理化学的・有機化学的手法によって結合力とトーホールドとのバランスを調節することで、さまざまなASOが示す多様な毒性(細胞成分や血液成分との相互作用に起因する組織障害や(自然)免疫応答等)を抑制しうることを示すものである。
[実施例15]
(核酸剤の合成)
実施例1と同様に、表8のhApo1を合成した。
Figure 0007412668000015
(PNAの合成)
実施例1と同様に表8に示すPNAを合成した。
(融解温度(Tm)測定(二重鎖形成能評価))
終濃度をリン酸緩衝液 (pH 7.0) 10 mM、塩化ナトリウム 100 mM、エチレンジアミン四酢酸 0.1 mM、各オリゴヌクレオチドおよび各PNA 4 μMとしたサンプル溶液(150 μL)を95℃で3分間昇温した後、毎分1℃の割合で20℃まで徐冷することでアニーリングを行った後、測定を開始した。毎分0.5 ℃の割合で90 ℃まで昇温し、1 ℃間隔で260 nmにおける吸光度をプロットした。Tm値は全て中線法で算出した。
結果を図17に示す。図17より、一本鎖ASOに対する相補鎖(弟鎖)の末端に各種アミノ酸を導入した場合に、結合力に摂動を与えることが可能であることが実証された。実施例14のパラレル型PNAを使うアプローチと同様、PNA鎖の化学修飾やモノマーの改変によって、狙いの結合力とトーホールド長を有する二本鎖核酸へと最適化することが可能である。
[実施例16]
(核酸の合成)
Control-ASは株式会社ジーンデザイン、hAPOC3-ASは日東電工株式会社、PNAを含むオリゴヌクレオチド(表9)については株式会社ファスマックにて委託合成した。配列表において、塩基数が10以上である表9のhAPOC3-AS(アンチセンス鎖)、3-0PNA(10)(相補鎖)およびControl-ASの配列をそれぞれ、配列番号55~57とした。
Figure 0007412668000016
(ヒト肝がん由来細胞株Huh-7を用いた活性評価)
96wellプレートに塩化カルシウム (終濃度9 mM)を加えた低グルコースDMED培地で懸濁したHuh7細胞(1.0×104 cells/well)を播種するのと同時に、Control-ASおよびhAPOC3-AS(終濃度25nM)、hAPOC3-AS vs PNA(hAPOC3-AS, 3-0PNA(6),3-0PNA(7), 3-0PNA(8), 3-0PNA(9), 3-0PNA(10), 3-1PNA(6), 3-1PNA(7) , 3-2PNA(7), 3-2PNA(8), 5-0PNA(6), 5-0PNA(7), 5-1PNA(7), 5-2PNA(7), 5-2PNA(8))複合体(終濃度25 nM)を各4wellずつに添加し、37℃で24hインキュベートした。SuperPrep(登録商標) II Cell Lysis & RT Kit for qPCR (TOYOBO)にてcDNAを作成し、TaqmanTM probe(Thermo Fisher Scientific, Hs02758991 _g1 GAPDH VIC PL, Hs00163644_m1 APOC3 FAM)を用いてリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)にてGAPDHをハウスキーピング遺伝子としてAPOC3 mRNAの定量を行なった。
結果を図18に示す。図18より、弟鎖の長さやアンチセンス鎖に対する相対位置、またトーホールドの長さ・位置・数を調節することで、標的mRNAのノックダウン活性が増減することが実証された。このことから、弟鎖の長さやアンチセンス鎖に対する位置、またトーホールドの長さ・位置・数を調節もしくは最適化することは、BROTHERS核酸の効果を最大化する有効な手段であることが示された。
本発明により、新規な二本鎖核酸が提供される。該核酸は、細胞あるいは個体への投与により、毒性を抑制しつつ遺伝子発現の制御が可能となるため、特に疾患の治療薬として用いることができる。
本出願は、日本で出願された特願2021-198890(出願日:2021年12月7日)を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。

Claims (16)

  1. アンチセンスオリゴヌクレオチドと、該アンチセンスオリゴヌクレオチドと相補的な配列を含む相補鎖とを含む、アンチセンスオリゴヌクレオチド複合体であって、
    該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’末端及び/又は3’末端に標的領域に相補的な一本鎖構造のトーホールドを有しており、
    該相補鎖を構成するヌクレオチドがPNAヌクレオチドである
    ことを特徴とする、アンチセンス効果を有し、一本鎖の形態のアンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
  2. トーホールドの長さが2塩基長以上である、請求項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体
  3. トーホールドの長さが~10塩基長である、請求項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
  4. (1)二本鎖核酸の融解温度(Tm)が40℃~80℃である、及び/又は
    (2)該相補鎖の長さが、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さの35%~95%である
    ことを特徴とする、請求項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
  5. (1)Tmが50℃~70℃である、及び/又は
    (2)該相補鎖の長さが、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの長さの60%~80%である
    ことを特徴とする、請求項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
  6. アンチセンスオリゴヌクレオチド及び相補鎖の内の少なくともいずれか一方の鎖に少なくとも1つの機能性分子が結合された、請求項1に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体。
  7. アンチセンスオリゴヌクレオチドのみに機能性分子が結合された、請求項に記載のアンチセンスヌクレオチド複合体。
  8. アンチセンスオリゴヌクレオチドがPCSK9 mRNA、ApoB mRNA、AcsL1 mRNAおよびApoC3 mRNAからなる群から選択されるmRNAを標的とする、請求項1に記載のアンチセンスヌクレオチド複合体。
  9. 請求項1~のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を含む、医薬組成物。
  10. 請求項1~のいずれか1項に記載のアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を含む、標的遺伝子の発現調節用組成物。
  11. (1)アンチセンスオリゴヌクレオチドを準備する工程、
    (2)該アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが、5’末端及び/又は3’末端に標的領域に相補的な一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
    構成するヌクレオチドがPNAヌクレオチドである
    相補鎖を準備する工程、並びに
    (3)工程(1)で準備されたアンチセンスオリゴヌクレオチド及び工程(2)で準備された相補鎖をアニーリングする工程
    を含む、工程(1)で準備されたアンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を製造する方法。
  12. トーホールドの長さが2塩基長以上となる、請求項11に記載の方法
  13. トーホールドの長さが~10塩基長となる、請求項11または12に記載の方法。
  14. (1)アンチセンスオリゴヌクレオチドを選択する工程、並びに
    (2)該アンチセンスオリゴヌクレオチドと二本鎖を形成させた場合にアンチセンスオリゴヌクレオチドが、5’末端及び/又は3’末端に標的領域に相補的な一本鎖構造のトーホールドを有することとなる、及び
    構成するヌクレオチドがPNAヌクレオチドである
    相補鎖を設計する工程
    を含む、工程(1)で選択されたアンチセンスオリゴヌクレオチドと比較して毒性が低減されているアンチセンスオリゴヌクレオチド複合体を設計する方法。
  15. トーホールドの長さが2塩基長以上となる、請求項14に記載の方法
  16. トーホールドの長さが~10塩基長となる、請求項14または15に記載の方法。
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