JP7398804B2 - アクチニウム225の生成方法 - Google Patents
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Description
本発明は、アクチニウム225の生成方法、特に医用に用いるアクチニウム225の生成方法に関する。
近年、医療界でα内用療法(または標的α線治療、Targeted Alpha Therapy: TAT)が急速に発展しつつある。このα内用療法とは、がん腫瘍の内側からα線を照射し、がん細胞を死滅させる治療法である。これに適したα線を放出するα放出核種は、半減期が数時間から数日程度であり、自然界に存在しないため、加速器や原子炉を用いて人工的に生成する必要がある。
α内用療法に適したα放出核種には、アスタチン211(半減期7.21時間)、ラジウム233(半減期11.4日)、アクチニウム225(半減期10.0日)などが挙げられる。この内、アクチニウム225については、その高い治療効果から今後需要が増大すると考えられている。
加速器を用いて人工的にアクチニウム225を生成するために、陽子加速器によるトリウム232の核破砕反応、ラジウム226(p,2n)反応、電子線加速器を用いた(γ,n)反応などが検討されているが、いずれの加速器でも照射物質の体積が小さく限られ、生成量を増大するうえで限界があること、また運転に大きな電力を消費することなどが共通する課題である。
すなわち、加速器で加速される荷電粒子や電子は、そのビーム径が小さく、またターゲット表面への一方向からの照射であるため、有効照射体積を大きく取りにくい。反応率を増大させるためにビーム電流を大きくすると、発熱が過大となり徐熱が困難になるなどの課題がある。
一方、原子炉を用いる場合では、概して粒子(中性子)のフラックスが高く、ターゲットを装荷できる照射エリアが広いこと、また核燃料の冷却のための高い冷却能力が元々備わっているため、効率的なラジオアイソトープ生成へのポテンシャルが高い。
原子炉を用いて人工的にアクチウム225を生成する方法としては、極めて高い熱中性子束を発生する研究炉(米国オークリッジ国立研究所の研究用原子炉)でラジウム226に熱中性子を照射し、3回の(n,γ)反応を経てアクチウム225の親核であるトリウム229を生成する方法が検討されている。一旦、親核であるトリウム229を生成すれば、その後は半永久的にミルキング法によりアクチニウム225を生成することができる。
また、特許文献1には、アクチニウム225及びビスマス213の製法が開示されている。この製法は、核反応器の熱中性子をラジウム226に照射し、照射生成物からトリウム成分を化学的に分離し、さらに崩壊によってトリウム229から連続的に得られる放射性核種ラジウム225及びアクチニウム225を化学的に分離することからなる。
上述したように、原子炉からの熱中性子を照射してトリウム229を生成するには、ラジウム226が出発材料として用いられている。しかし、ラジウム226は天然ウラン1トンに0.3g程度しか存在しない希少な核種である。そこで、天然ウラン1トン当たり16.2g存在するトリウム230を出発材料としてアクチニウム225を生成すための高速中性子照射による「トリウム230照射法」が検討されてきた。
図3にトリウム230に高速中性子を照射することによってアクチニウム225を生成させるまでの流れ(パス)を示す。これは高エネルギーの中性子によって生じる(n,2n)反応に基づく方法である。図2に示すように、トリウム230は、(n,2n)反応によって半減期7900年のトリウム229に変換される。そして、トリウム229のα崩壊、ラジウム225のβ-崩壊を経てアクチニウム225となる。トリウム230の(n,2n)反応は、約7MeVに閾値をもつ閾反応であるため、高速中性子の豊富な原子炉(高速炉)での照射が適する。
アクチニウム225を生成すための高速中性子照射による「トリウム230照射法」では、生成されるトリウム225の生成速度が低く、また核反応でアクチニウム225を生成するためにアクチニウム227の混入が問題となる。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、日本国内の既存の原子炉を用い、かつ原料として存在量が比較的に多いトリウム230を使用し、これに熱中性子を照射してアクチニウム225を効率的に生成し、かつアクチニウム227の混入の問題がないアクチニウム225を永続的に生成する方法を提供することにある。
上記目的の達成のため請求項1に記載のアクチニウム225の生成方法は、
トリウム230を熱中性子原子炉に設置し、熱中性子を前記原子炉の運転サイクルの1サイクル~4サイクルの期間照射することで、
(1)前記トリウム230からのビルドアップにより徐々にウラン232を生成させる第1生成パス、
(2)前記ウラン232(半減期69年)のα崩壊でトリウム228を生成させる第2生成パス、
(3)前記トリウム228の(n,γ)反応によりトリウム229を生成させる第3生成パス、
の3つの生成パスを生起させる熱中性子照射工程を行い、
生成された前記トリウム229に対してミルキング法を適用することによりアクチニウム225を生成することを特徴とする。
トリウム230を熱中性子原子炉に設置し、熱中性子を前記原子炉の運転サイクルの1サイクル~4サイクルの期間照射することで、
(1)前記トリウム230からのビルドアップにより徐々にウラン232を生成させる第1生成パス、
(2)前記ウラン232(半減期69年)のα崩壊でトリウム228を生成させる第2生成パス、
(3)前記トリウム228の(n,γ)反応によりトリウム229を生成させる第3生成パス、
の3つの生成パスを生起させる熱中性子照射工程を行い、
生成された前記トリウム229に対してミルキング法を適用することによりアクチニウム225を生成することを特徴とする。
なお、原子炉の運転サイクルは、現在1サイクルが13ヶ月である。この運転サイクルの長さは絶対的なものではないが、現状では一般的な原子炉において13ヶ月となっている。
上記方法によれば、熱中性子の上記1サイクル~4サイクルの長期にわたる照射により、(1)トリウム230からウラン232への第1生成パス、(2)ウラン232からトリウム228への第2生成パス、そして、最終的に(3)トリウム228からトリウム229への第3生成パスが生起される。これによって、これまでにない速度でトリウム229が生成される。次に、親核種トリウム229に対してミルキング法を行うことで、高純度の娘核種のアクチニウム225が得られる。
したがって、トリウム230の(n,2n)反応のみよる方式に比べて、はるかに大量のトリウム229の生成が可能となる。
また、ミルキング法を適用してアクチニウム225を得ているので、核反応により生成される不純物であるアクチニウム227の混入の問題も生じない。
上記長期間の照射により、トリウム229の十分な生成量が確保される。したがって、例えば、1kgのトリウム230に対して上記熱中性子を含む3.4E+14[n/cm2/s]の全中性子束を照射した場合、約10GBqのトリウム229の生成が可能であり、その後、ミルキング法を適用することで半永久的にアクチニウム225を生成することが可能である。ちなみに、およその年間生産量は約100GBq(約3Ci)となる。
請求項2に記載のアクチニウム225の生成方法は、請求項1に記載のアクチニウム225の生成方法において、
前記熱中性子の大きさ(高さ)は、軽水炉における中性子束レベルである3E+13~5E+14[n/cm2/s]であることを特徴とする。
前記熱中性子の大きさ(高さ)は、軽水炉における中性子束レベルである3E+13~5E+14[n/cm2/s]であることを特徴とする。
この大きさの熱中性子束での長期間の照射を行うことにより、トリウム229の十分な生成量が確保される。したがって、その後、ミルキング法を適用することで半永久的にアクチニウム225を生成することが可能となる。
本発明のアクチニウム225の生成方法によれば、熱中性子の長期的な照射によって、トリウム230を出発材料とした新たな3段階の反応パスを生起させ、トリウム229を加速的に生成することができ、一旦トリウム229を効率的に生成すれば半永久的にミルキング法によりアクチニウム225を生成すること可能となる。これにより、がん細胞を死滅させる治療法であるα内用療法に適したα放出核として期待されるアクチニウム225を効率良く生成できる。
以下、本発明のアクチニウム225の生成方法について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の生成方法は、天然ウラン1トン当たり16.2g存在するトリウム230を出発材料として、このトリウム230を熱中性炉に設置し、熱中性子を長期間(原子炉の運転サイクルの1サイクル~4サイクルの期間)に亘り照射することを基礎としている。なお、トリウム230は、半減期約45億年のウラン238を先頭核種とするU系列に属する半減期7.5万年の放射性核種である。
また、熱中性子炉としては、国内に30基以上存在する商用軽水炉(BWRもしくはPWR)を用いる。
本発明の生成方法は、「循環核変換チェーン」を特徴とする「熱炉でのTh-230長期照射法」である。この「循環核変換チェーン」を図1に示す。軽水炉などの熱中性子原子炉でトリウム230を照射すると、(n,γ)反応(中性子捕獲反応)によりトリウム231を経て、半減期3.3万年のプロトアクチニウム231が生成される。このプロトアクチニウム231は、軽水炉において、約50barnの(n,γ)反応断面積を有するため、長期照射の場合、さらに中性子を吸収してプロトアクチニウム232へ変換され、β-崩壊を経てウラン232となる。このウラン232は、半減期69年でやがてα崩壊してトリウム228となる。新たに生じたトリウム228は(n,γ)反応(反応断面積(σγ=123barn)であり、トリウム229を生成する親核種であるため、トリウム228が一定量蓄積するとトリウム229の生成速度が加速されることとなる。
すなわち、トリウム230を熱中性子炉に設置し、熱中性子を照射することで、
(1)トリウム230からのビルドアップにより徐々にウラン232を生成させる第1反応パス、
(2)ウラン232(半減期69年)のα崩壊でトリウム228を生成させる第2反応パス、
(3)トリウム228の(n,γ)反応によるトリウム229を生成させる第3反応パス、
という新たな生成パスを生じさせる。この新たなパスによりトリウム229が生成される。
(1)トリウム230からのビルドアップにより徐々にウラン232を生成させる第1反応パス、
(2)ウラン232(半減期69年)のα崩壊でトリウム228を生成させる第2反応パス、
(3)トリウム228の(n,γ)反応によるトリウム229を生成させる第3反応パス、
という新たな生成パスを生じさせる。この新たなパスによりトリウム229が生成される。
なお、熱中性子原子炉においては、高速中性子の存在もあるため、短期間の照射では、トリウム230の(n,2n)反応によりトリウム229が生成されるが、その生成速度は小さい、これに対して長期的な熱中性子の照射によって、これに加えて以下に説明するような本発明特有の加速的なトリウム229の生成がなされる。
ここで、本発明の新たな生成パスを構成するためには、原子炉で最低でもおよそ1サイクル(13カ月)の照射時間が必要である。一旦このパスが構成されれば、続く3サイクル程度はトリウム229の生成速度が加速し続けるため、全4サイクル(約4年)程度以上の長期照射が望ましい。トリウム229の生成速度はやがて飽和し、4サイクルを超えて照射を継続すると、生成速度は徐々に減少してくる。
なお、1サイクルは、軽水炉の一般的な運転サイクルを表し、13か月連続運転してその後休止して点検している。
図2は、本発明のアクチニウム225の生成方法に係り、核種生成速度の推移を示す。縦軸は、生成速度(dN/dt)[gram/day]を表し、横軸は照射日数[day]を表す。ウラン232、トリウム228、プロトアクチニウム231、トリウム229、アクチニウム228、プロトアクチニウム232のそれぞれの核種について示している。
照射初期においては、トリウム229の生成速度は小さい値で一定である。また、ウラン232(半減期69年)は、大きな速度で生成され、トリウム228に崩壊する。照射日数が1サイクル(390日)以降においては、トリウム229の生成が加速している。
この方法で生成されるトリウム229は、半減期7880年の長寿命核種であるため、いったん生成されれば、ミルキング法を適用することで、半永久的に娘核種のアクチニウム225を高純度で生成し続けることができる。高純度であるとは、β線を放出する有害な不純物アクチニウム227を伴うことなく生成できるということである。
現時点の世界のアクチニウム225の供給量は年間60GBq程度とされているが、約40トンのウランに随伴するトリウム230(重量約600g)を軽水炉で4サイクル程度照射すれば、日本のみで世界の全供給量を賄える計算となる。本方式では、稼働率の高い既存の商業用軽水炉を用いるため、アクチニウム225の供給量の増強を計画的に遂行しやすいことも特徴である。
熱中性子を照射するトリウム230の化学形態をThO2と想定すると、その体積は高々60cc程度と小さい。これを複数の原子炉へ分散装荷するなら、一機当たりの装荷量は極めて少量となり、炉特性・安全性への影響は最小化される。トリウム230の適切な照射時間は、通常の核燃料を原子炉へ装荷してから取り出すまでの時間(約4サイクル、もしくはその2倍の約8サイクル)にほぼ一致しているため、原子炉の従来の運転や炉心管理計画に与える影響も僅少である。
以下、本発明によるアクチニウム225の生成方法によれば、以下のような具体的な評価が可能である。
・一般的な加圧水型原子炉において、例えば1gのトリウム230に対し52ケ月(=13ケ月×4サイクル)長期照射することにより、トリウム230の(n,2n)反応でのトリウム229の生成に加え、トリウム228の(n,γ)反応により新たな生成パス(循環核変換チェーン)が構成され、トリウム229の生成速度は10倍以上(>1μg/day)に加速する。また、具体的に1gのトリウム230を加圧水型原子炉にて3.4E+14[n/cm2/s]の全中性子束で照射した場合、52ケ月で約10MBqのトリウム229を生成できる。
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、1gのトリウム230を加圧水型原子炉にて3.4E+14[n/cm2/s]の全中性子束で照射する場合、52ケ月で約10MBqのトリウム229を生成できると評価したが、加圧水型原子炉という炉型やこれらの数値に限定されるものではない。炉型については、熱中性子炉であれば沸騰水型炉、重水炉等でも同様である。
本発明のアクチニウム225の生成方法は、以下の分野で利用の可能性がある。α線源を内用してがん幹細胞を死滅させる医療分野(核医学分野)。原料となるトリウム230の調達を行う資源・鉱物分野。トリウム230を装荷する原子炉の炉特性・安全特性を評価する炉心・安全分野。照射後のトリウムからアクチニウムを分離する再処理分野。発生した放射性廃棄物を処理するサイクル分野等。
Th-230 トリウム230
Th-231 トリウム231
Pa-231 プロトアクチニウム231
Pa-232 プロトアクチニウム232
U-232 ウラン232
Th-228 トリウム228
Th-229 トリウム229
Ac-225 アクチニウム225
Bq ベクレル
Ci シーベルト
Th-231 トリウム231
Pa-231 プロトアクチニウム231
Pa-232 プロトアクチニウム232
U-232 ウラン232
Th-228 トリウム228
Th-229 トリウム229
Ac-225 アクチニウム225
Bq ベクレル
Ci シーベルト
Claims (2)
- トリウム230を熱中性子原子炉に設置し、熱中性子を前記原子炉の運転サイクルの1サイクル~4サイクルの期間照射することで、
(1)前記トリウム230からのビルドアップにより徐々にウラン232を生成させる第1生成パス、
(2)前記ウラン232(半減期69年)のα崩壊でトリウム228を生成させる第2生成パス、
(3)前記トリウム228の(n,γ)反応によりトリウム229を生成させる第3生成パス、
の3つの生成パスを生起させる熱中性子照射工程を行い、
生成された前記トリウム229に対してミルキング法を適用することによりアクチニウム225を生成することを特徴とするアクチニウム225の生成方法。 - 前記熱中性子の大きさ(高さ)は、軽水炉における中性子束レベル(3E+13~5E+14(n/cm2/s))であることを特徴とする請求項1に記載のアクチニウム225の生成方法。
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JP2002517734A (ja) | 1998-06-02 | 2002-06-18 | ユーロピーアン コンミュニティ (エセ) | Ra−226への陽子の照射によるAc−225の製法 |
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