JP7394090B2 - プーリ構造体 - Google Patents
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Description
(A)コイルばねの端部の拡径力(拡径方向の自己弾性復元力)による場合(つまり、ばねの端部は、いずれの側も外回転体又は内回転体の内周面に圧接している態様)
(B)コイルばねの端部の縮径力(縮径方向の自己弾性復元力)による場合(つまり、ばねの端部は、いずれの側も外回転体又は内回転体の外周面に圧接している態様)
即ち、コイルばねの端部が外回転体又は内回転体に対して圧接する力(径方向)の向きは、一端側と他端側とにおいて同じである(なお、「逆向き」でもよい旨は、記載も言及も無い)。
(a)コイルばねの端部(一端側、他端側)のいずれの側も、外回転体又は内回転体に対する圧接力が増大し、外回転体又は内回転体と強く摩擦係合していくか、
(b)コイルばねの端部(一端側、他端側)のいずれの側も、外回転体又は内回転体に対する圧接力が低下し、外回転体又は内回転体と滑りだすか(係合解除していくか)、のどちらかの状態((a)又は(b))となる。
即ち、コイルばねの端部は、一端側と他端側とにおいて、同じ作用(上記(a)又は(b))をもたらす、と考えられる。
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第1のコイルばねと、
前記第1のコイルばねに対して径方向内側に並設され、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第2のコイルばねと、を備えたプーリ構造体であって、
前記第1のコイルばねは、
一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の一方に、接触する第1一端側領域と、
他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が縮径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の他方に、接触する第1他端側領域と、
前記第1一端側領域及び前記第1他端側領域の間であって、前記外回転体と前記内回転体との相対回転時において前記外回転体及び前記第2のコイルばねのいずれにも接触しない第1中領域と、を有し、
前記第1のコイルばねが縮径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第1一端側領域の前記外周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記一方、に対して摺動し、
前記第1のコイルばねが拡径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第1他端側領域の前記内周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方、に対して摺動し、
前記第2のコイルばねは、
一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって、前記第1のコイルばねの前記第1一端側領域に接触する第2一端側領域と、
他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が縮径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方に、接触する第2他端側領域と、
前記第2一端側領域及び前記第2他端側領域の間であって、前記外回転体と前記内回転体との相対回転時において前記第1のコイルばね及び前記内回転体のいずれにも接触しない第2中領域と、を有し、
前記第2のコイルばねが縮径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第2一端側領域の前記外周面は、前記第1のコイルばねの前記第1一端側領域を介して前記外回転体及び前記内回転体の前記一方、に対して摺動し、
前記第2のコイルばねが拡径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第2他端側領域の前記内周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方、に対して摺動するように構成されている、ことを特徴とするプーリ構造体である。
しかし、1つのコイルばねだけを有するプーリ構造体において、ばね定数を大きくしようとする場合、ばね線の、外回転体の回転軸を通り且つ該回転軸と平行な方向に沿った断面の大きさが増大する傾向にあり、プーリ構造体が大型化してしまう。
そこで、第1のコイルばね、及び、第2のコイルばねの2つのコイルばねを使用して、第2のコイルばねを第1のコイルばねの径方向内側に並設した構造にすることにより、第1のコイルばねにおける、ばね線の、外回転体の回転軸を通り且つ該回転軸と平行な方向に沿った断面の大きさを、従来2よりも小さくすることができる。また、第2のコイルばねにおける、ばね線の断面積は、第1のコイルばねよりも内径が小さいゆえ、第1のコイルばねよりも顕著に小さくて済む(第1のコイルばねよりも内径が小さいと、その分、ばね定数は大きくなるゆえに、第2のコイルばねのばね定数を低水準に設けるためには、ばね線の断面積が第1のコイルばねよりも顕著に小さくなるように第2のコイルばねを形成することができる)。
従って、上記構成によれば、プーリ構造体が回転軸方向に大型化するのを抑制することができる(効果1)。
このため、双方向において、2つのコイルばねと外回転体及び内回転体との間の摩擦係合状態(2つのコイルばねの圧接状態)は、2つのコイルばねのねじり角度(絶対値)が大きくなるほど、下記(a)且つ(b)の状態となる。(a)2つのコイルばねの各一端側(第1一端側領域の外周面、第2一端側領域の外周面)及び各他端側(第1他端側領域の内周面、第2他端側領域の内周面)の一方は、外回転体又は内回転体に対する圧接力が増大し、外回転体及び内回転体の一方と強く摩擦係合し、(b)2つのコイルばねの各一端側(第1一端側領域の外周面、第2一端側領域の外周面)及び各他端側(第1他端側領域の内周面、第2他端側領域の内周面)の他方は、外回転体又は内回転体に対する圧接力が低下し、外回転体及び内回転体の他方と滑りだす(係合解除していく)、
即ち、2つのコイルばねの各端部は、各一端側(第1一端側領域の外周面、第2一端側領域の外周面)と各他端側(第1他端側領域の内周面、第2他端側領域の内周面)とにおいて、真逆の作用(上記(a)且つ(b))をもたらす。
その結果、(i)通常トルク(設定されたスリップトルクに到達しない範囲の、2つのコイルばねのねじりトルク)入力時、2つのコイルばねは、双方向(拡径又は縮径方向)にねじり変形した際に、外回転体及び内回転体に係合して、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達する。
一方、(ii)過大トルク(設定されたスリップトルク以上の、2つのコイルばねのねじりトルク)入力時、2つのコイルばねは、双方向(拡径又は縮径方向)において、外回転体と内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際に、外回転体又は内回転体と摺動する係合解除状態となって、外回転体と内回転体との間でのトルクの伝達を遮断する。
その結果、例えば、ISGによるエンジンの冷間始動時において、外回転体に過大トルク(例えば、拡径方向において、スリップトルク30N・m以上のトルク)が入力されても、外回転体からトルク入力側のベルト(張り側)に衝撃荷重(過大な回転制動力)は作用せず、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を抑制できる。
逆に、エンジン走行中、脱輪等により、予期せずエンジンが停止(エンスト)した場合でも(例えば、縮径方向において、スリップトルク45N・m以上のトルクが入力されても)、ベルト張力(張り側)が過度に低下しすぎることはなく、ベルトにスリップが発生するのを防止できる。
これにより、上記(i)、(ii)に示したように、コイルばね式のクラッチ機能(トルクの伝達又は遮断)を双方向(2つのコイルばねの拡径方向、縮径方向)に確保できる(効果2)。
前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、前記第2一端側領域における拡径方向の自己弾性復元力の方が、前記第2他端側領域における縮径方向の自己弾性復元力よりも大きくなるように構成されていることを特徴としてもよい。
これにより、上記のプーリ構造体を、ISG用プーリ(プーリ構造体が、駆動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆より前のクランキング中、ISGによるアシスト走行時)と、従動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時)の両方の役割を果たす)としてISGシステムに適用することにより、エンジン始動時、アシスト走行時、及び、発電時の各走行パターンにおいて好適に対応することができる(効果4)。
以下、本発明の実施形態のプーリ構造体1について説明する。
本実施形態のプーリ構造体1は、自動車の補機駆動ベルトシステム(図示省略)において、モータ・ジェネレータ(ISG)の駆動軸に設置される。
図1及び図8に示すように、プーリ構造体1は、外回転体2、内回転体3、第1のコイルばね4(以下、単に「ばね4」という)、第2のコイルばね5(以下、単に「ばね5」という)、及び、エンドキャップ6を含む。以下、図1における右方を一端(後端)、左方を他端(前端)として説明する。エンドキャップ6は、外回転体2及び内回転体3の他端側(前端側)に配置されている。ばね5は、ばね4の径方向内側に並設されている。
・「双方向」とは、ばね4・ばね5の拡径方向及び縮径方向、を指す場合や、2つの回転体(外回転体2と内回転体3)が相対回転する際の、正方向及び逆方向、を指す場合(下記(a)、(b))や、外回転体2と内回転体3との間のトルクの伝達方向が双方向(下記(i)と(ii))、という場合がある。
(a).外回転体2が内回転体3に対して同方向に相対回転する場合(正方向)(外回転体2が加速する場合)
(b).外回転体2が内回転体3に対して逆方向に相対回転する場合(逆方向)(外回転体2が減速する場合)
(i).内回転体3に入力されたトルクが、外回転体2へ伝達される場合(駆動プーリとして作動する場合)(このとき、内回転体3が加速することで、ばね4及びばね5が縮径方向にねじられる)
(ii).外回転体2に入力されたトルクが、内回転体3へ伝達される場合(従動プーリとして作動する場合)(このとき、外回転体2が加速することで、ばね4及びばね5が拡径方向にねじられる)
・「クラッチ係合部」とは、トルクを伝達又は遮断するためにクラッチ(ばね)が係合又は係合解除する部分のこと。
・有効巻数とは、ばねの全長からばねを固定している部分を除いた範囲の巻数のこと。有効巻数が大きいほど、ばね定数が小さくなる。
・通常トルクとは、設定されたスリップトルクに到達しない範囲の、ばねのねじりトルクのこと。
・過大トルクとは、設定されたスリップトルク以上の、ばねのねじりトルクのこと。
外回転体2及び内回転体3は、共に略円筒状であり、同一の回転軸を有する。外回転体2及び内回転体3の回転軸は、プーリ構造体1の回転軸であり、以下、単に「回転軸」という。また、回転軸方向を、単に「軸方向」という。内回転体3は、外回転体2の径方向の内側に設けられ、外回転体2に対して相対回転可能である。外回転体2の外周面に、ベルトが巻回される。
ばね4は、ばね線(ばね線材)を螺旋状に巻回(コイリング)して形成されたねじりコイルばねである。ばね4は、左巻き(前端面4aから後端面4eに向かって反時計回り)であり、外力を受けていない状態において、全長に亘って径が一定である。ばね4の巻き数Nは、例えば6~10巻きである(本実施形態では、ばね4の巻き数Nは、9巻きである)。ばね4のばね線は、断面形状(回転軸を通り且つ回転軸と平行な方向に沿った断面形状)が矩形状(略長方形)である。ばね線の断面における4つの角は、面取り形状(例えば、曲率半径0.3mm程度のR面、又は、C面)となっている。
また、ばね4の内径は、従来1、従来2と同じとした。ばね4のばね線の断面積は、ばね定数の各水準(ばね4、従来1、従来2)に対応し(図5、図6、図7参照)、従来1と従来2の略中間の水準に設定した(指数は、後述する実施例の表4参照)。
ばね5は、ばね線(ばね線材)を螺旋状に巻回(コイリング)して形成されたねじりコイルばねである。ばね5は、左巻き(前端面5aから後端面5eに向かって反時計回り)であり、図8に示すように、外力を受けていない状態において、後端側領域A2(例えば3巻き)と、前端側領域B2及び中領域C2(例えば計6巻き)とで、径が2段階に形成されている。そして、後端側領域A2の径の方が、前端側領域B2及び中領域C2の径よりも、顕著に大きい。また、ばね5の内径は、ばね4の内径よりも小さい。ばね5の巻き数Nは、例えば6~10巻きである(本実施形態では、ばね5の巻き数Nは、9巻きである:後端側領域A2が3巻き、前端側領域B2及び中領域C2が6巻き)。ばね5のばね線は、断面形状が矩形状(略正方形)である。ばね線の断面における4つの角は、面取り形状(例えば、曲率半径0.3mm程度のR面、又は、C面)となっている。
また、ばね5の内径は、ばね4よりも小さい。外力を受けていない状態でのばね5の内径は、外力を受けていない状態でのばね4の内径100(指数)に対し、前端側領域B2(2巻き分)及び中領域C2(4巻き分)が67(指数)、後端側領域A2(3巻き分)が79(指数)、である。
ばね5のばね線の断面積は、ばね定数の水準(ばね4、ばね5)に対応し(図5参照)、ばね4よりも内径が小ゆえ、ばね4よりも顕著に小(約40%)に設定した。
ばね4の後端側領域A1及びばね5の後端側領域A2と圧接面a1(クラッチ係合部a1)との関係を、ばね4及びばね5のばね全体、ばね4単独、及び、ばね5単独に分けて説明する。
ばね4の後端側領域A1の圧接面a1に対する圧接力をFa1、ばね5の後端側領域A2の圧接面a2(ばね4の後端側領域A1とばね5の後端側領域A2とが当接する面)に対する圧接力をFa2とすると、ばね4及びばね5のばね全体(単に、ばね全体)の縮径方向における、目標とするトルクカーブ(図5参照)、特には、スリップトルクTsa(Tsa1とTsa2との総和)(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね全体(ばね4及びばね5)のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTAa(絶対値)が、スリップトルクTsa(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Fa1と圧接力Fa2との合力(Fa1+Fa2)の大きさ(図4(a)参照)、ならびに、ばね4及びばね5に係る以下の設計事項が、適切に決定される。
ばね4の後端側領域A1の圧接面a1に対する圧接力をFa1とすると、ばね4の縮径方向における、目標とするトルクカーブ(図5参照)、特には、スリップトルクTsa1(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね4のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTA1a1(絶対値)が、スリップトルクTsa1(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Fa1の大きさ(図4(a)参照)、即ち、圧接面a1(クラッチ係合部a1)における径方向及び軸方向の長さ、ならびに、ばね4(後端側領域A1)の巻き数、等の設計事項が、適切に決定される。
ばね5の後端側領域A2の圧接面a2に対する圧接力をFa2とすると、ばね5の縮径方向における、目標とするトルクカーブ(図5参照)、特には、スリップトルクTsa2(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね5のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTA2a2(絶対値)が、スリップトルクTsa2(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Fa2の大きさ(図4(a)参照)、即ち、圧接面a2における径方向及び軸方向の長さ、ならびに、ばね5(後端側領域A2)の巻き数、等の設計事項が、適切に決定される。
・縮径方向のスリップトルクTsa(設定値):-45N・m
*Tsa1(下記)とTsa2(下記)との総和に等しい。
*従来2のトルクカーブ(図7参照)におけるスリップトルクTsの大きさと同程度とした。
*許容トルクTm2(図5)は、従来2(図7のTm2)と同様、-40N・mとした。
・縮径方向のスリップトルクTsa1(設定値):-33N・m
・縮径方向のスリップトルクTsa2(設定値):-12N・m
・ばね4の後端側領域A1の巻き数:縮径方向における、ばね4のねじりトルクが上記スリップトルクTsa1に到達しない範囲内では、ばね4(後端側領域A1)と圧接面a1(クラッチ係合部a1)との間、A1a1間を摩擦係合状態に維持できるよう、後端側領域A1の巻き数を、従来2と同程度に3巻き(但し、摩擦係合部分は2.5巻き)とした。
・ばね5の後端側領域A2の巻き数:縮径方向における、ばね5のねじりトルクが上記スリップトルクTsa2に到達しない範囲内では、ばね5(後端側領域A2)と圧接面a2との間、A2a2間を摩擦係合状態に維持できるよう、後端側領域A2の巻き数を、ばね4と同程度に3巻き(摩擦係合部分も3巻き)とした。
・圧接面a1(クラッチ係合部a1)の径方向長さ(外回転体2の内径):外力を受けていない状態でのばね4の外径100(指数)に対し、約93とした。
・圧接面a1(クラッチ係合部a1)の軸方向長さ:対向接触する上記ばね4(後端側領域A1)の巻き数に対応する長さとした。
・圧接面a2(ばね4の後端側領域A1)の径方向長さ(後端側領域A1の内径):外力を受けていない状態でのばね5(後端側領域A2)の外径100(指数)に対し、約93とした。
・圧接面a2(ばね4の後端側領域A1)の軸方向長さ:対向接触する上記ばね5(後端側領域A2)の巻き数に対応する長さとした。
ばね4の前端側領域B1と圧接面b1(クラッチ係合部b1)との関係、並びに、ばね5の前端側領域B2と圧接面b2(クラッチ係合部b2)との関係を、ばね4及びばね5のばね全体、ばね4単独、及び、ばね5単独に分けて説明する。
ばね4の前端側領域B1の圧接面b1に対する圧接力をFb1、ばね5の前端側領域B2の圧接面b2に対する圧接力をFb2とすると、ばね全体の拡径方向における、目標とするトルクカーブ(図5参照)、特には、スリップトルクTsb(Tsb1とTsb2との総和)(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね全体(ばね4及びばね5)のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTBb(絶対値)が、スリップトルクTsb(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Fb1と圧接力Fb2との合力(Fb1+Fb2)の大きさ(図4(a)参照)、ならびに、ばね4及びばね5に係る以下の設計事項が、適切に決定される。
ばね4の前端側領域B1の圧接面b1に対する圧接力をFb1とすると、ばね4の拡径方向における、目標とするトルクカーブ(図5参照)、特には、スリップトルクTsb1(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね4のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTB1b1(絶対値)が、スリップトルクTsb1(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Fb1の大きさ(図4(a)参照)、即ち、圧接面b1(クラッチ係合部b1)における径方向及び軸方向の長さ、ならびに、ばね4(前端側領域B1)の巻き数、等の設計事項が、適切に決定される。
ばね5の前端側領域B2の圧接面b2に対する圧接力をFb2とすると、ばね5の拡径方向における、目標とするトルクカーブ(図5)、特には、スリップトルクTsb2(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね5のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTB2b2(絶対値)が、スリップトルクTsb2(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Fb2の大きさ(図4(a)参照)、即ち、圧接面b2における径方向及び軸方向の長さ、ならびに、ばね5(前端側領域B2)の巻き数、等の設計事項が、適切に決定される。
・拡径方向のスリップトルクTsb(設定値):30N・m
*Tsb1(下記)とTsb2(下記)との総和に等しい。
*従来2のトルクカーブ(図7参照)においてロック機構が作動するときのねじりトルクと同水準に設定した。
*許容トルクTm1(図5)は、従来2(図7のTm1)と同様、25N・mとした。
・拡径方向のスリップトルクTsb1(設定値):22N・m
・拡径方向のスリップトルクTsb2(設定値):8N・m
・ばね4の前端側領域B1の巻き数:拡径方向における、ばね4のねじりトルクが上記スリップトルクTsb1に到達しない範囲内では、ばね4(前端側領域B1)と圧接面b1(クラッチ係合部b1)との間、B1b1間を摩擦係合状態に維持できるよう、前端側領域B1の巻き数を2巻き(但し、摩擦係合部分は1.9巻き)とした(なお、従来2は2巻き(但し、摩擦係合部分は1.2巻き))。
・ばね5の前端側領域B2の巻き数:拡径方向における、ばね5のねじりトルクが上記スリップトルクTsb2に到達しない範囲内では、ばね5(前端側領域B2)と圧接面b2(クラッチ係合部b2)との間、B2b2間を摩擦係合状態に維持できるよう、前端側領域B2の巻き数をばね4と同程度に2巻き(但し、摩擦係合部分は1.9巻き)とした。
・圧接面b1(クラッチ係合部b1)の径方向長さ(第2溝底面3e(内回転体3)の外径):外力を受けていない状態でのばね4の内径100(指数)に対し、105とした。この水準は、従来2のロック機構作動時のコイルばねの中領域(自由部分)の径方向位置(図10)に略一致する水準である。
・圧接面b1(クラッチ係合部b1)の軸方向長さ:対向接触する上記ばね4(前端側領域B1)の巻き数に対応する長さとした。
・圧接面b2(クラッチ係合部b2)の径方向長さ(筒本体3a(内回転体3)の外径):外力を受けていない状態でのばね5(前端側領域B2)の内径100(指数)に対し、106とした。
・圧接面b2(クラッチ係合部b2)の軸方向長さ:対向接触する上記ばね5(前端側領域B2)の巻き数に対応する長さとした。
スリップトルク(N・m)(絶対値)の設定は、Tsa:45>Tsb:30である。
圧接面a1(クラッチ係合部a1)の径方向長さ(外回転体2の内径)、軸方向長さは、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、圧接面a1に対する、圧接力Fa1(後端側領域A1の拡径方向の自己弾性復元力)と圧接力Fa2(後端側領域A2の拡径方向の自己弾性復元力)との合力(Fa1+Fa2)の方が、圧接面b1に対する圧接力Fb1(前端側領域B1の縮径方向の自己弾性復元力)と圧接面b2に対する圧接力Fb2(前端側領域B2の縮径方向の自己弾性復元力)との合力(Fb1+Fb2)よりも大となるように設定されている(図4(a)参照)。
ばね4は、プーリ構造体1に外力が作用していない状態(即ち、プーリ構造体1が停止した状態)において、軸方向に圧縮されている。ばね4の軸方向の圧縮率は、例えば、20%程度であってもよい。ばね4の前端側領域B1の軸方向端面の周方向一部分(前端から約1/4周(約90°))には、軸方向に圧縮されているばね4の姿勢を安定させるために、座研面Be4が形成されている(図8参照)。座研面Be4は、研削加工が施されることによって形成された、ばね4の軸方向と直交する平面である。同様に、ばね4の後端側領域A1の軸方向端面の周方向一部分(後端から約1/4周(約90°))にも、軸方向に圧縮されているばね4の姿勢を安定させるために、座研面Ae4(不図示)が形成されている。そして、ばね4の座研面Be4が、内回転体3の第1溝底面3dに接触し、ばね4の座研面Ae4が、スラストプレート10に接触している(図1参照)。
ばね4の中領域C1は、図1に示すように、ばね4の前端側領域B1と後端側領域A1との間の領域(中領域)であって、圧接面b1と圧接面a1のいずれにも接触しない自由部分である。このばね4の中領域C1(自由部分)の巻き数は、目標とする、ばね4のばね定数(ばね4のねじり角度に対するねじりトルクの割合、即ち、トルクカーブの傾き)、ばね4のねじり角度の許容範囲(例えば拡径方向、縮径方向ともに60°)等、に基づき、適切に設定される。
・ばね4の中領域C1(自由部分)の巻き数:4巻き(従来2と同じ、なお従来1は3巻き)
・拡径変形時のばね4の有効巻数:4巻き(上記中領域C1の巻き数に対し増加しない)
なお、従来1は3巻き+α(ばねの前端側領域が内回転体から離れる分、有効巻数が増加する)
・ばね4のねじり角度の許容範囲:±60°
・ばね5の中領域C2(自由部分)の巻き数:4巻き
・拡径変形時のばね5の有効巻数:4巻き(上記中領域C2の巻き数に対し増加しない)
・ばね5のねじり角度の許容範囲:±60°
ばね全体のばね定数k1(図5のトルクカーブの傾き)は、ISG対応プーリとして設計された従来2のプーリ構造体のばね定数k1(図7)と同じであり、その水準は、ISG非対応プーリである従来1のプーリ構造体のばね定数k0(θ1~θ2間)(図6)よりも顕著に大に設定されている。
ばね4の中領域C1及びばね5の中領域C2の各巻き数は、従来(従来2において)、ねじり角度の許容範囲(±60°)内における、ロック機構が働く拡径方向のねじり角度(図7のθ2:約35°)、及び、ねじりトルク(30N・m程度)と同水準で、クラッチが作動(ばね全体のねじりトルクがスリップトルクTsbに到達し、B1b1間及びB2b2間が摺動)でき、且つ、ねじり角度の許容範囲(±60°)内における、縮径方向のねじり角度(図7の-θ3:約-55°)、及び、ねじりトルク(-45N・m程度)と同水準で、クラッチが作動(ばね全体のねじりトルクがスリップトルクTsaに到達し、A1a1間が摺動)できるように、適切に設定されている。
本実施形態のプーリ構造体1は、双方向(ばね4及びばね5の拡径又は縮径方向)において、クラッチ係合部と係合状態にあるクラッチ(ばね4及びばね5)が係合解除状態となるまでは、ロック機構が作動しないように構成されている(図4(b)、図4(c))。
具体的には、ばね4のねじりトルクが、双方向(ばね4の拡径又は縮径方向)において設定されたスリップトルクに到達しない間は、ばね4の中領域C1(自由部分)が外回転体2及びばね5のいずれにも接触しないよう、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、ばね4の中領域C1と外回転体2との間、及び、ばね4の中領域C1とばね5との間、の空隙の大きさ(クリアランス)が十分に広く設けられている(図1、図4(a)参照)。同様に、ばね5のねじりトルクが、双方向(ばね5の拡径又は縮径方向)において設定されたスリップトルクに到達しない間は、ばね5の中領域C2(自由部分)がばね4及び筒本体3aのいずれにも接触しないよう、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、ばね5の中領域C2とばね4との間、及び、ばね5の中領域C2と筒本体3a(内回転体3)との間、の空隙の大きさ(クリアランス)が十分に広く設けられている(図1、図4(a)参照)。
プーリ構造体1が停止時の、ばね4の中領域C1と外回転体2との間の空隙は、従来2よりも広い。そのため、従来2でロック機構が作動するねじり角度(θ2:約35°)においても、ばね4の中領域C1は、環状面2b(外回転体2)に接触しない(つまり、ロック機構が作動しない)ようになっている(図4(b)参照)。
プーリ構造体1が停止時の、ばね4の中領域C1とばね5(特に、前端側領域B2)との間の空隙は、十分に広く設けられている。そのため、ばね4が縮径方向にねじれた場合は、従来2と同様に、縮径方向のねじり角度(-θ3:約-55°)でも、ばね4の中領域C1は、ばね5に接触しない(つまり、ロック機構が作動しない)ようになっている(図4(c)参照)。
次に、プーリ構造体1の動作について説明する。
外回転体2が内回転体3に対して正方向(前端から後端へ向かって時計回り:図2及び図3参照)に相対回転するとき(外回転体2が加速する場合)、ばね4及びばね5の巻き方向が左巻き(前端から後端へ向かって反時計回り)のため、外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域A1及びばね5の後端側領域A2が、外回転体2の圧接面a1と共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4及びばね5は拡径変形する。これは、ISGシステムにおいて、プーリ構造体1(ISG用プーリ)が従動プーリとして作動する場合(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時等、外回転体2が加速する間)に相当する。
ばね4の後端側領域A1と圧接面a1(クラッチ係合部a1)(外回転体2の内周面)との間(A1a1間)の圧接力Fa1は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増大していくが、圧接面a1(クラッチ係合部a1)となる外回転体2の内周面が周方向に閉じた内周壁面であるため、ばね4(後端側領域A1)は、すぐに(殆ど圧接面a1の相対的な摺動を伴わないまま)外回転体2と強く摩擦係合した状態(A1a1間でロック状態)となる(図4(b)参照)。
さらにばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなると、ばね4のねじりトルクが設定されたスリップトルク(Tsb1)(例えば、22N・m)に到達するとともに、減少しつつあるB1b1間の摩擦トルクTB1b1が、スリップトルクTsb1に到達することで(図5参照)、B1b1間で、ばね4と内回転体3とが摺動(スリップ)する(係合解除状態となる)(図4(b)参照)。
外回転体2が内回転体3に対して逆方向(他端から一端へ向かって反時計回り)に相対回転するとき(外回転体2が減速する場合、或いは、内回転体3が加速する場合)、外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域A1及びばね5の後端側領域A2が、外回転体2の圧接面a1と共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4及びばね5が縮径変形する。ここで、内回転体3が加速する場合とは、ISGシステムにおいて、プーリ構造体1(ISG用プーリ)が駆動プーリとして作動する場合(例えば、ISGによるエンジン始動時の初爆前、ISGによるアシスト走行時等)に相当する。
ばね4の後端側領域A1と圧接面a1(クラッチ係合部a1)(外回転体2の内周面)との間(A1a1間)の圧接力Fa1は、ばね4の縮径方向のねじり角度が大きくなるほど低下し、A1a1間の摩擦トルク(TA1a1)が減少する(図4(c)、図5参照)。
さらにばね4及びばね5のばね全体の縮径方向のねじり角度が大きくなると、ばね全体のねじりトルクが設定されたスリップトルクTsa(例えば、-45N・m)に到達するとともに、減少しつつあるばね全体と圧接面a1との間の摩擦トルク(TAa)(絶対値)がスリップトルクTsa(絶対値)に到達することで(図5参照)、ばね全体と圧接面a1との間で、外回転体2と、内回転体3及びばね全体とが摺動(スリップ)する(係合解除状態となる)(図4(c)参照)。なお、圧接面a1(クラッチ係合部a1)でクラッチが作動する時、即ち、ばね4(後端側領域A1)の外周面が圧接面a1に対して摺動している状態では、ばね5(後端側領域A2)の外周面は、ばね4(後端側領域A1)を介して(とともに)圧接面a1に対して摺動しているのであって、ばね4(後端側領域A1)に対しては、摺動しない(相対回転しない)。
従って、上記構成によれば、プーリ構造体1が回転軸方向に大型化するのを抑制することができる(効果1)。
このため、双方向において、ばね4及びばね5の2つのコイルばねと外回転体2及び内回転体3との間の摩擦係合状態(2つのコイルばねの圧接状態)は、2つのコイルばねのねじり角度(絶対値)が大きくなるほど、下記(a)且つ(b)の状態となる。(a)後端側領域A1の外周面は、外回転体2に対する圧接力(Fa1+Fa2)が増大し、外回転体2と強く摩擦係合し、(b)前端側領域B1の内回転体3に対する圧接力Fb1及び前端側領域B2の内回転体3に対する圧接力Fb2が低下し、内回転体3に対して滑りだす(係合解除していく)、
又は、(a)前端側領域B1の内回転体3に対する圧接力Fb1及び前端側領域B2の内回転体3に対する圧接力Fb2が増大し、内回転体3と強く摩擦係合し、(b)後端側領域A1の外周面は、外回転体2に対する圧接力(Fa1+Fa2)が低下し、外回転体2に対して滑りだす(係合解除していく)、
即ち、2つのコイルばねの各端部は、真逆の作用(上記(a)且つ(b))をもたらす。
その結果、(i)通常トルク(設定されたスリップトルクに到達しない範囲の、2つのコイルばねのねじりトルク)入力時、2つのコイルばねは、双方向(拡径又は縮径方向)にねじり変形した際に、外回転体2及び内回転体3に係合して、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する。
一方、(ii)過大トルク(設定されたスリップトルク以上の、2つのコイルばねのねじりトルク)入力時、2つのコイルばねは、双方向(拡径又は縮径方向)において、外回転体2と内回転体3との間で所定以上のトルクが伝達された際に、外回転体2又は内回転体3と摺動する係合解除状態となって、外回転体2と内回転体3との間でのトルクの伝達を遮断する。
その結果、例えば、ISGによるエンジンの冷間始動時において、外回転体2に過大トルク(例えば、拡径方向において、スリップトルク30N・m以上のトルク)が入力されても、外回転体2からトルク入力側のベルト(張り側)に衝撃荷重(過大な回転制動力)は作用せず、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を抑制できる。
逆に、エンジン走行中、脱輪等により、予期せずエンジンが停止(エンスト)した場合でも(例えば、縮径方向において、スリップトルク45N・m以上のトルクが入力されても)、ベルト張力(張り側)が過度に低下しすぎることはなく、ベルトにスリップが発生するのを防止できる。
これにより、上記(i)、(ii)に示したように、コイルばね式のクラッチ機能(トルクの伝達又は遮断)を双方向(2つのコイルばねの拡径方向、縮径方向)に確保できる(効果2)。
このため、ばね4及びばね5が縮径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsa1、Tsa2)(絶対値)の方が、ばね4及びばね5が拡径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsb1、Tsb2)(絶対値)よりも大に設定することを確実にできる。
これにより、プーリ構造体1を、ISG用プーリ(プーリ構造体1が、駆動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆より前のクランキング中、ISGによるアシスト走行時)と、従動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時)の両方の役割を果たす)としてISGシステムに適用することにより、エンジン始動時、アシスト走行時、及び、発電時の各走行パターンにおいて好適に対応することができる(効果4)。
上述の実施形態では、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、ばね4の一端側領域(後端側領域A1)の外周面が、拡径方向の自己弾性復元力によって、外回転体2における圧接面a1(クラッチ係合部a1)に接触し、且つ、ばね5の一端側領域(後端側領域A2)の外周面が、拡径方向の自己弾性復元力によって、ばね4の一端側領域(後端側領域A1)に接触し、ばね4の他端側領域(前端側領域B1)の内周面が、縮径方向の自己弾性復元力によって、内回転体3における圧接面b1(クラッチ係合部b1)に接触し、且つ、ばね5の他端側領域(前端側領域B2)の内周面が、縮径方向の自己弾性復元力によって、内回転体3における圧接面b2(クラッチ係合部b2)に接触していたが(※特許文献1第1実施形態図1に対応)、これには限らない。即ち、プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、第1のコイルばねの一端側領域(この場合は前端側領域B1)の外周面が、拡径方向の自己弾性復元力によって、内回転体における圧接面(クラッチ係合部)に接触し、且つ、第2のコイルばねの一端側領域(この場合は前端側領域B2)の外周面が、拡径方向の自己弾性復元力によって、第1のコイルばねの一端側領域(この場合は前端側領域B1)に接触し、第1のコイルばねの他端側領域(この場合は後端側領域A1)の内周面が、縮径方向の自己弾性復元力によって、外回転体における圧接面(クラッチ係合部)に接触し、且つ、第2のコイルばねの他端側領域(この場合は後端側領域A2)の内周面が、縮径方向の自己弾性復元力によって、外回転体における圧接面(クラッチ係合部)に接触していてもよい(特許文献1第2実施形態図5に対応)。
実施例1は、上記実施形態に係るプーリ構造体1に対応するものである。
エンジン冷間始動時には、外回転体2が急加速してばね4及びばね5が拡径方向に捩れた場合にクラッチがB1b1間及びB2b2間で作動するように構成されている。
ばね全体が縮径方向に捩れた場合にクラッチがA1a1の間で作動する構成、及び、そのトルク(スリップトルクTsa)の水準は、比較例1(従来2)と同じである。
したがって、エンジン冷間始動時における、1発目の気筒内爆発時の動的ベルト最小張力の大きさ)については、比較例1と略同等になる、と推測された。
・ばね4及びばね5のばね線は、ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠)とした。
・ばね4及びばね5の巻き数Nは、9巻きとし、巻き方向は、左巻きとした。
・ばね4及びばね5の軸方向の圧縮率は、約20%とした。軸方向に隣り合うばね線間の隙間は、ばね4及びばね5が軸方向に圧縮された状態で0.3mmとした。
・ばね4のばね線は、矩形状であって、軸方向長さは、4.4mmとし、径方向長さは、6.0mmとした。なお、ばね線の断面における4つの角は、面取り形状(曲率半径0.3mm程度のR面)とした。
・ばね5のばね線は、矩形状であって、軸方向長さは、3.4mmとし、径方向長さは、3.4mmとした。なお、ばね線の断面における4つの角は、面取り形状(曲率半径0.3mm程度のR面)とした。
・外回転体2の軸方向長さは、比較例1(従来2)を100(指数)とした場合、約90(指数)であった。
比較例1は、上述の従来2のプーリ構造体(図10参照)に対応するものである。
エンジン冷間始動時には、外回転体が急加速してばねが拡径方向に捩れた場合にロック機構が作動するように構成されている。
ばねの巻き数Nを9巻きとし、ばね線は、台形状で、その断面積は実施例1の約1.3倍(従来1の約2倍)である。なお、比較例1の他の各部の構成は、前述(本実施形態)の従来との対比部分に述べた構成である。
以上の実施例1及び比較例1の各プーリ構造体について、図11及び図12に示すエンジンベンチ試験機200を用いて、エンジン冷間始動試験を行った。このエンジン冷間始動試験は、ベルトを介してプーリ構造体の外回転体に過大なトルクが入力され、ばねが拡径方向に捩れ、実施例1の場合にはクラッチ(B1b1間及びB2b2間)が確実に作動し、比較例1の場合にはロック機構が確実に作動し得るよう、エンジンの回転変動を最大化できる実機台上試験とされる。ここで、エンジン冷間始動とは、エンジン始動の一形態であって、具体的には、エンジンが完全に冷え切った状態下(例えば、エンジン冷却水の水温が30℃以下)での、エンジン始動を指す。そのため、走行途上(暖気完了後)にエンジンを一時停止させた状態(アイドルストップ等)からのエンジン始動は、当試験条件から除外される。
エンジン冷間始動時(エンジンが完全に冷え切った状態でのエンジン始動時)のベルト張力(動的ベルト張力)(張り側)の時系列変化(アウトプット)を評価した。
雰囲気温度約0℃(エンジンが完全に冷え切った状態でのエンジン始動とするため、低温室内に試験機を設置)、ベルト張力(取付時)1200Nにおいて、エンジン冷間始動(クランキング)を行った。なお、ISGによるエンジン始動時に、プーリ構造体100(ISG用プーリ)の内回転体に入力されるトルクの水準は、-30N・m程度であった。
電子制御装置(不図示)からエンジン始動信号がモータ・ジェネレータ(ISG)(不図示)に送られ、モータ・ジェネレータ(ISG)が起動し、クランキングが始まる。このとき(各気筒における燃焼爆発前)の、クランク軸211の回転速度は200rpm程度である。
電子制御装置から燃料噴射信号および点火信号が燃料噴射装置(不図示)および着火装置(不図示)に送られ、各気筒における燃焼爆発が順々に開始される。
各気筒における燃焼爆発時期に同期して、クランク軸211の回転速度が上昇してゆく。クランク軸211の回転トルク(動力)がクランクプーリ201(外輪)に伝達されて、更に、エンジンベンチ試験機200に伝達される。
エンジンが始動されると、モータ・ジェネレータ(ISG)によるクランキング動作が停止する。
実施例1及び比較例1のプーリ構造体毎に、上記動作によるエンジン冷間始動試験によって得られた、エンジン冷間始動時におけるベルト張力の時系列変化を示す波形データ(グラフ)に基づいて、ベルト張力が最も過大に増加し、かつ最も過度に低下した波形(つまり、1発目の気筒内爆発時の波形)における、ベルト最大張力(ベルト張力の最大値)(N/ベルト)、ベルト最小張力(ベルト張力の最小値)(N/ベルト)及び、ベルト張力の変動幅(N/ベルト)を読み取ったうえで、下記評価基準に基づき、実施例1の評価を行った。
1発目の気筒内爆発時のベルト張力およびベルト張力変動の大きさに関する、実施例1と比較例1との差異量(N/ベルト)(つまり、図13において「m」で表示した部分)を読み取る。この差異量m(N/ベルト)の、比較例1における動的ベルト最大張力(N/ベルト)に対する割合(百分率)(%)が、実施例1の比較例1に対するベルト張力およびベルト張力変動の抑制効果に相当する。
その抑制効果が25%以上(顕著)である場合、ベルトシステムの耐久性を損なうおそれがないとして、評価「○」とした。
一方、その抑制効果が25%を下回った場合、ベルトシステムの耐久性を損なうおそれがあるとして、評価「×」にした。
エンジン冷間始動試験によって得られた、エンジン冷間始動時における動的ベルト張力(単に、ベルト張力)の時系列変化を示すグラフを図13に示した。また、評価結果(試験結果の一覧)を表5に示した。
ベルト張力(張り側のタッチプーリ205のベルト張力)は、クランキング中(約1秒間)の各気筒における燃焼爆発中、特に、1発目の気筒内爆発時(図中a)において、最も過大に増加し、かつ最も過大に変動することがわかった(図13参照)。
表5に示した評価結果(判定)のとおり、この1発目の気筒内爆発時(図中a)に着目すると、ベルト張力(張り側のタッチプーリ205のベルト張力)の大きさおよび変動幅は、実施例1の方が比較例1の場合よりも顕著に小さく、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を効果的に抑制できていることがわかった。
(1)実施例1において、エンジン冷間始動時に、外回転体2の回転速度が一時的に大きく増加する1発目の気筒内爆発時(図13のa参照)において、外回転体2から内回転体3へ伝達されるトルクのうち、通常トルクよりも過大なトルクは伝達されない結果となった(図13のi参照)。これは、ばね4及びばね5のばね全体の拡径方向に、通常トルクの入力時よりも過大なトルク(スリップトルクTsb(30N・m)以上のトルク)が外回転体2に入力された際に、内回転体3とばね4との間(B1b1間)及び内回転体3とばね5との間(B2b2間)に係合作用がほとんど働かない状態で、外回転体2を急加速状態のまま空転(スリップ)させ、慣性の大きい内回転体3を急加速させようとすることによる衝撃荷重(過大な回転制動力)をトルク入力側のベルト250に作用させないこと、が可能であったためと考えられる。
したがって、実施例1のプーリ構造体1は、ISGシステムにおける、ISGによるエンジン始動以外の運転走行パターン、例えば、ISGによるアシスト走行時(入力トルク:例えば-35~-30N・m)や、ISGによる発電時(入力トルク:例えば15~25N・m)についても、ISG用プーリとして何ら問題なく作動可能である、と推察できる。
2 外回転体
3 内回転体
4 第1のコイルばね
5 第2のコイルばね
A1 後端側領域(第1一端側領域)
B1 前端側領域(第1他端側領域)
C1 中領域(第1中領域)
A2 後端側領域(第2一端側領域)
B2 前端側領域(第2他端側領域)
C2 中領域(第2中領域)
6 エンドキャップ
7 転がり軸受
8 滑り軸受
9 空間
10 スラストプレート
a1 圧接面(クラッチ係合部)
a2 圧接面
b1 圧接面(クラッチ係合部)
b2 圧接面(クラッチ係合部)
Claims (2)
- ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第1のコイルばねと、
前記第1のコイルばねに対して径方向内側に並設され、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されている、第2のコイルばねと、を備えたプーリ構造体であって、
前記第1のコイルばねは、
一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の一方に、接触する第1一端側領域と、
他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が縮径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の他方に、接触する第1他端側領域と、
前記第1一端側領域及び前記第1他端側領域の間であって、前記外回転体と前記内回転体との相対回転時において前記外回転体及び前記第2のコイルばねのいずれにも接触しない第1中領域と、を有し、
前記第1のコイルばねが縮径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第1一端側領域の前記外周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記一方、に対して摺動し、
前記第1のコイルばねが拡径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第1他端側領域の前記内周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方、に対して摺動し、
前記第2のコイルばねは、
一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって、前記第1のコイルばねの前記第1一端側領域に接触する第2一端側領域と、
他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が縮径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方に、接触する第2他端側領域と、
前記第2一端側領域及び前記第2他端側領域の間であって、前記外回転体と前記内回転体との相対回転時において前記第1のコイルばね及び前記内回転体のいずれにも接触しない第2中領域と、を有し、
前記第2のコイルばねが縮径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第2一端側領域の前記外周面は、前記第1のコイルばねの前記第1一端側領域を介して前記外回転体及び前記内回転体の前記一方、に対して摺動し、
前記第2のコイルばねが拡径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記第2他端側領域の前記内周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方、に対して摺動するように構成されている、ことを特徴とするプーリ構造体。 - 前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、前記第1一端側領域における拡径方向の自己弾性復元力の方が、前記第1他端側領域における縮径方向の自己弾性復元力よりも大きくなっており、
前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、前記第2一端側領域における拡径方向の自己弾性復元力の方が、前記第2他端側領域における縮径方向の自己弾性復元力よりも大きくなるように構成されていることを特徴とする、請求項1に記載のプーリ構造体。
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