JP7439015B2 - プーリ構造体 - Google Patents

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Description

本発明は、コイルばねを備えたプーリ構造体に関する。
自動車等のエンジンの動力によってオルタネータ等の補機を駆動する補機駆動ユニットでは、オルタネータ等の補機の駆動軸に連結されるプーリと、エンジンのクランク軸に連結されるプーリにわたってベルトが掛け渡され、このベルトを介してエンジンのトルクが補機に伝達される。特に、他の補機に比べて大きな慣性を有するオルタネータの駆動軸に連結されるプーリには、クランク軸の回転変動を吸収できる、例えば特許文献1のプーリ構造体が用いられる。
特許文献1のプーリ構造体は、外回転体と、外回転体の内側に設けられ且つ外回転体に対して相対回転可能な内回転体とを含み、外回転体に巻回されるベルトのスリップ防止等の観点から、外回転体と内回転体との間に、トルクを一方向に伝達又は遮断する一方向クラッチが設けられている。この一方向クラッチは、ねじりコイルばねを含むコイルばね式クラッチである。一方向クラッチ(コイルばね)で、外回転体(ベルトを介してクランク軸等の駆動軸と連結)と内回転体(軸を介して補機等被駆動体に連結)とを相対回転させることにより、外回転体と内回転体の回転速度差を吸収する。
コイルばね式クラッチを有する従来のプーリ構造体において、特許文献1(例えば第5実施形態)のプーリ構造体(以下、「従来1のプーリ構造体」、あるいは、単に「従来1」)(図9参照)は、外回転体の後端側(一端側)に、コイルばねの後端側(一端側)と径方向に対向する圧接面(クラッチ係合面)が形成され、このコイルばねの後端側(一端側)が、外回転体の圧接面と強く摩擦係合し、且つ、内回転体の前端側(他端側)に、コイルばねの前端面(他端面)4aと周方向に対向する当接面403dが形成され(不図示)(特許文献1の図14参照)、コイルばねの前端面(他端面)4aが内回転体の当接面403dを周方向に押圧することで、外回転体に入力されたトルクを、コイルばねを介して内回転体に伝達できる。
さらに、エンジンの冷間始動時等において、外回転体に過大なトルクが入力され、コイルばねの自由部分(中領域)が拡径し、コイルばねの自由部分(外周面)が外回転体の内周面(環状面2b)に当接したときに、瞬間的にロック機構が作動し(強く摩擦係合しロック状態となり)、コイルばねのそれ以上の拡径方向のねじり変形を規制(阻止、停止)できる。これにより、一方向クラッチ(コイルばね)への過負荷を防止することができる。
ところで、最近は、信号待ち等のアイドル状態でエンジンを停止させ、このアイドルストップ後にエンジンを再始動するシステム(モータ・ジェネレータ(ISG)を搭載した、ISG対応の補機駆動ベルトシステム)(以下、「ISGシステム」と呼ぶ。)を備えた車両が増加し、該ISGシステムへの対応要求が高まっている。
ISG(Integrated Starter Ganerator)は、モータとしての機能(ISGがスタータモータとして動作)と発電機としての機能を併有し、補機駆動ベルトシステムにおける従来のオルタネータの位置に設けられる。ISGでは、駆動軸を含む内部の回転慣性質量(慣性マス)がその特性上従来のオルタネータより大きい。補機駆動ベルトシステムをISGシステムとした場合、ISGの駆動軸に接続されるプーリ構造体(ISG用プーリ)は、駆動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆より前のクランキング中、ISGによるアシスト走行時)と、従動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時)と、になり得る。
このため、プーリ構造体へ入力されるトルク(以下、「入力トルク」)が、双方向(後述する定義参照)において、従来(ISG非対応の場合)よりも増加することになった(表1参照)。
(ISGシステムへの対応(要求事項))
Figure 0007439015000001
従来1のプーリ構造体の構成(図9)をISGシステムに適用する際には、双方向において、ばね定数(トルクカーブの傾き)及びコイルばねのねじり角度が従来1よりも増加することに対応し(図7)、コイルばねのばね線を太くし、且つ巻き数を増やした上で、一方向クラッチが作動しトルクを遮断する際のトルク(スリップトルクTs)(絶対値)を所定の水準に底上げし、且つ、ロック機構が作動する際のトルク(ロック時トルクTL)を所定の水準に底上げできるように(表2参照)、これら設定トルクの変更に係る設計事項を適切に決定し、設計変更すればよい(図10)(この構成を「従来2」とする)、と考えられた。
(設定トルク(水準対比))
Figure 0007439015000002
特開2014-114947号公報 特開2008-057763号公報
しかしながら、従来2のプーリ構造体(図10)をISGシステムに適用した場合、ISGの機能(運転走行パターンi~iii)の内、(ii)アシスト走行時、及び、(iii)発電時には対応できると予測されるものの、(i)エンジン始動(過大トルク入力)時等によるロック機構の作動時に、ベルトの張力が過大に増加するとともにベルトの張力が過大に変動してしまう(ひいてはベルトシステムの耐久性が低下してしまう)虞がある(表3参照)。
Figure 0007439015000003
そこで、ロック機構が作動しない構成とし、その代わりに、コイルばね式のクラッチ機能を、従来1のロック機構作動時の方向(例えばコイルばねの拡径方向)にも確保した構成(ロック機構が作動しない構成、ならびに、コイルばね式のクラッチ機能を双方向に確保できる構成)とすることが考えられる。
例えば、特許文献2(例えば第7実施形態、段落0205~0228、図25~29)には、コイルばねの端部以外の部分が、外回転体と内回転体との相対回転時において径の大きさが変化する方向(コイルばねの拡径方向、縮径方向)に変形しても、外回転体及び内回転体のいずれにも接触しない構成とし(段落0137等、図25等参照)、且つ、プーリ構造体が停止している状態で、コイルばねの端部(一端側、他端側)のそれぞれと、該端部と径方向に対向接触する外回転体又は内回転体の部分とが摩擦係合しており、双方向(コイルばねの拡径又は縮径方向)において、外回転体と内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際に、コイルばねの端部(一端側、他端側)のそれぞれは、外回転体又は内回転体と摺動(スリップ)する係合解除状態となって、外回転体と内回転体との間でのトルクの伝達を遮断できる、とされる構成が記載されている(特には、段落0221~0222)。
しかしながら、特許文献2に開示のプーリ構造体(第1~第8実施形態)において、コイルばねの端部(一端側、他端側)のそれぞれが外回転体又は内回転体と摩擦係合する態様は、下記(A)、(B)のどちらかである。
(A)コイルばねの端部の拡径力(拡径方向の自己弾性復元力)による場合(つまり、ばねの端部は、いずれの側も外回転体又は内回転体の内周面に圧接している態様)
(B)コイルばねの端部の縮径力(縮径方向の自己弾性復元力)による場合(つまり、ばねの端部は、いずれの側も外回転体又は内回転体の外周面に圧接している態様)
即ち、コイルばねの端部が外回転体又は内回転体に対して圧接する力(径方向)の向きは、一端側と他端側とにおいて同じである(なお、「逆向き」でもよい旨は、記載も言及も無い)。
このため、双方向(コイルばねの拡径又は縮径方向)において、コイルばねと外回転体及び内回転体との間の摩擦係合状態(コイルばねの圧接状態)は、コイルばねのねじり角度が大きくなるほど、
(a)コイルばねの端部(一端側、他端側)のいずれの側も、外回転体又は内回転体に対する圧接力が増大し、外回転体又は内回転体と強く摩擦係合していくか、
(b)コイルばねの端部(一端側、他端側)のいずれの側も、外回転体又は内回転体に対する圧接力が低下し、外回転体又は内回転体と滑りだすか(係合解除していくか)、
のどちらかの状態((a)又は(b))となる。
即ち、コイルばねの端部は、一端側と他端側とにおいて、同じ作用(上記(a)又は(b))をもたらす、と考えられる。
ここで、上記(a)の場合、双方向(コイルばねの拡径又は縮径方向)において、クラッチを係合解除状態に導くためには、よほど想定外に過大なトルク(外力)が外回転体に入力されない限り、困難である(例えば、オルタネータ等補機に備わる軸受が破損し、当該補機の駆動軸が回転不能になったとき、等に限られる)。
したがって、特許文献2に開示のプーリ構造体では、実質的に、コイルばね式のクラッチ機能を一方向にしか確保できない(コイルばね式のクラッチ機能を双方向に確保できない)、と推察される。
そこで、本発明の目的は、比較的簡単な構成で、コイルばね式のクラッチ機能を双方向に確保して、ISGシステムに対応でき、且つ、外回転体に過大なトルクが入力されても、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を効果的に抑制できるプーリ構造体を提供することである。
本発明は、ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されているコイルばねと、を備えたプーリ構造体であって、
前記コイルばねは、
一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の一方に、接触する一端側領域と、
他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が縮径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の他方に、接触する他端側領域と、
前記一端側領域及び前記他端側領域の間であって、前記外回転体と前記内回転体との相対回転時において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない自由部分である中領域と、を有し、
前記コイルばねが縮径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記一端側領域の前記外周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記一方、に対して摺動し、
前記コイルばねが拡径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記他端側領域の前記内周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方、に対して摺動し、
前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、前記一端側領域における拡径方向の自己弾性復元力の方が、前記他端側領域における縮径方向の自己弾性復元力よりも大きくなるように構成されている。
上記構成によれば、双方向(コイルばねの拡径又は縮径方向)において、コイルばねの端部が外回転体又は内回転体に対して圧接する力(径方向)の向きを、一端側と他端側とにおいて逆向き(バイアス関係)にすることができる。
このため、双方向(コイルばねの拡径又は縮径方向)において、コイルばねと外回転体及び内回転体との間の摩擦係合状態(コイルばねの圧接状態)は、コイルばねのねじり角度(絶対値)が大きくなるほど、下記(a)且つ(b)の状態となる。
(a)コイルばねの一端側(一端側領域の外周面)及び他端側(他端側領域の内周面)の一方は、外回転体又は内回転体に対する圧接力が増大し、外回転体及び内回転体の一方と強く摩擦係合し、
(b)コイルばねの一端側(一端側領域の外周面)及び他端側(他端側領域の内周面)の他方は、外回転体又は内回転体に対する圧接力が低下し、外回転体及び内回転体の他方と滑りだす(係合解除していく)、
即ち、コイルばねの端部は、一端側と他端側とにおいて、真逆の作用(上記(a)且つ(b))をもたらす。
その結果、(i)通常トルク(設定されたスリップトルクに到達しない範囲の、コイルばねのねじりトルク)入力時、コイルばねは、双方向(拡径又は縮径方向)にねじり変形した際に、外回転体及び内回転体に係合して、外回転体と内回転体との間でトルクを伝達する。
一方、(ii)過大トルク(設定されたスリップトルク以上の、コイルばねのねじりトルク)入力時、コイルばねは、双方向(拡径又は縮径方向)において、外回転体と内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際に、外回転体又は内回転体と摺動する係合解除状態となって、外回転体と内回転体との間でのトルクの伝達を遮断する。
その結果、例えば、ISGによるエンジンの冷間始動時において、外回転体に過大トルク(例えば、拡径方向において、スリップトルク30N・m以上のトルク)が入力されても、外回転体からトルク入力側のベルト(張り側)に衝撃荷重(過大な回転制動力)は作用せず、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を抑制できる。
逆に、エンジン走行中、脱輪等により、予期せずエンジンが停止(エンスト)した場合でも(例えば、縮径方向において、スリップトルク45N・m以上のトルクが入力されても)、ベルト張力(張り側)が過度に低下しすぎることはなく、ベルトにスリップが発生するのを防止できる。
これにより、上記(i)、(ii)に示したように、コイルばね式のクラッチ機能(トルクの伝達又は遮断)を双方向(コイルばねの拡径方向、縮径方向)に確保できる(効果1)。
また、コイルばねは、外回転体と内回転体との相対回転時において外回転体及び内回転体のいずれにも接触しない自由部分である中領域を有している。これにより、双方向(コイルばねの拡径又は縮径方向)において、確実に、ロック機構が作動しないようにすることができる。その結果、例えば、外回転体に過大なトルクが入力されても、コイルばね(クラッチ)が外回転体又は内回転体と強く摩擦係合した状態(ロック状態)に陥らないようにすることができる(効果2)。
また、プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、コイルばねの一端側領域における拡径方向の自己弾性復元力の方が、コイルばねの他端側領域における縮径方向の自己弾性復元力よりも大きくなるように構成されている。
即ち、コイルばねが縮径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsa)(絶対値)の方が、コイルばねが拡径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsb)(絶対値)よりも大に設定することを確実にできる。
これにより、上記のプーリ構造体を、ISG用プーリ(プーリ構造体が、駆動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆より前のクランキング中、ISGによるアシスト走行時)と、従動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時)の両方の役割を果たす)としてISGシステムに適用することにより、エンジン始動時、アシスト走行時、及び、発電時の各走行パターンにおいて好適に対応することができる(効果3)。
したがって、上記構成とすれば、比較的簡単な構成で、コイルばね式のクラッチ機能を双方向に確保でき(効果1)、ISGシステムにも対応でき(効果3)、且つ、外回転体に過大なトルクが入力されても、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を効果的に抑制することができる(効果2)。
本実施形態のプーリ構造体の断面図である。 図1のプーリ構造体のI-I線に沿った断面図である。 図1のプーリ構造体のII-II線に沿った断面図である。 本実施形態のプーリ構造体(特にはコイルばね)の動作時の状態を説明する図である。 (a)プーリ構造体の停止時(プーリ構造体に外力が付与されていない状態) (b)外回転体の加速時 (c)外回転体の減速時 本実施形態のプーリ構造体における、コイルばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示すグラフである。 従来1のプーリ構造体(図9)における、コイルばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示すグラフである。 従来2のプーリ構造体(図10)における、コイルばねのねじり角度とねじりトルクとの関係を示すグラフである。 本実施形態のプーリ構造体の分解図である。 従来1のプーリ構造体(特許文献1の第5実施形態:外筒部の内周面に支持突起部403e有り)の断面図である。 従来2のプーリ構造体(特許文献1の第1実施形態:外筒部の内周面に支持突起部403e無し)の断面図である。 エンジンベンチ試験機の概略構成図である。 エンジンベンチ試験機(本実施形態のプーリ構造体を含む、ISG対応の補機駆動ベルトシステム)の概略構成図である。 実施例1及び比較例1に係るベルト張力(動的ベルト張力)の時系列変化を示すグラフ図である。
(実施形態)
以下、本発明の実施形態のプーリ構造体1について説明する。
(補機駆動ベルトシステム)
本実施形態のプーリ構造体1は、自動車の補機駆動ベルトシステム(図示省略)において、モータ・ジェネレータ(ISG)の駆動軸に設置される。
(プーリ構造体1)
図1及び図8に示すように、プーリ構造体1は、外回転体2、内回転体3、コイルばね4(以下、単に「ばね4」という)、及び、エンドキャップ5を含む。以下、図1における右方を一端(後端)、左方を他端(前端)として説明する。エンドキャップ5は、外回転体2及び内回転体3の他端側(前端側)に配置されている。
なお、プーリ構造体1の説明において使用する用語を下記のように定義する。
・「双方向」とは、コイルばね4の拡径方向及び縮径方向、を指す場合や、2つの回転体(外回転体2と内回転体3)が相対回転する際の、正方向及び逆方向、を指す場合(下記(a)、(b))や、外回転体2と内回転体3との間のトルクの伝達方向が双方向(下記(i)と(ii))、という場合がある。
(a).外回転体2が内回転体3に対して同方向に相対回転する場合(正方向)(外回転体2が加速する場合)
(b).外回転体2が内回転体3に対して逆方向に相対回転する場合(逆方向)(外回転体2が減速する場合)
(i).内回転体3に入力されたトルクが、外回転体2へ伝達される場合(駆動プーリとして作動する場合)(このとき、内回転体3が加速することで、コイルばね4が縮径方向にねじられる)
(ii).外回転体2に入力されたトルクが、内回転体3へ伝達される場合(従動プーリとして作動する場合)(このとき、外回転体2が加速することで、コイルばね4が拡径方向にねじられる)
・「スリップトルク」(Ts)とは、クラッチ(コイルばね4)が係合解除状態(摺動状態)となるときのコイルばね4のねじりトルクのこと。
・「クラッチ係合部」とは、トルクを伝達又は遮断するためにクラッチ(コイルばね4)が係合又は係合解除する部分のこと。
・有効巻数とは、コイルばね4の全長からコイルばね4を固定している部分を除いた範囲の巻数のこと。有効巻数が大きいほど、ばね定数が小さくなる。
・通常トルクとは、設定されたスリップトルクに到達しない範囲の、コイルばね4のねじりトルクのこと。
・過大トルクとは、設定されたスリップトルク以上の、コイルばね4のねじりトルクのこと。
(外回転体2及び内回転体3)
外回転体2及び内回転体3は、共に略円筒状であり、同一の回転軸を有する。外回転体2及び内回転体3の回転軸は、プーリ構造体1の回転軸であり、以下、単に「回転軸」という。また、回転軸方向を、単に「軸方向」という。内回転体3は、外回転体2の径方向の内側に設けられ、外回転体2に対して相対回転可能である。外回転体2の外周面に、ベルトが巻回される。
内回転体3は、筒本体3a、及び、筒本体3aの前端の外側に配置された外筒部3bを有する。筒本体3aに、オルタネータ等の駆動軸Sが嵌合される。外筒部3bと筒本体3aとの間に、支持溝部3cが形成されている。外筒部3bの内周面と筒本体3aの外周面は、支持溝部3cの溝底面3dを介して連結されている。
なお、内回転体3の支持溝部3cには、従来1のプーリ構造体のように、ばね4の前端面4a(図2参照)と周方向に対向する当接面や、螺旋状の溝底面は形成されていない。その理由としては、クラッチ係合解除時に、外回転体2及びばね4が内回転体3とBb間で摺動(スリップ)可能にするためである。
外回転体2の後端の内周面と、筒本体3aの外周面との間に、転がり軸受7が介設されている。外回転体2の前端の内周面と、外筒部3bの外周面との間に、滑り軸受8が介設されている。転がり軸受7及び滑り軸受8によって、外回転体2及び内回転体3が相対回転可能に連結されている。
外回転体2と内回転体3との間であって、転がり軸受7よりも前方に、空間9が形成されている。この空間9に、ばね4が収容されている。空間9は、外回転体2の内周面及び外筒部3bの内周面と、筒本体3aの外周面との間に形成されている。
外回転体2の内径は、後端に向かって2段階で小さくなっている。最も小さい内径部分における外回転体2の内周面を圧接面a、2番目に小さい内径部分における外回転体2の内周面を環状面2bという。圧接面aにおける外回転体2の内径は、外筒部3bの内径よりも小さい。環状面2bにおける外回転体2の内径は、外筒部3bの内径と同じかそれよりも大きい。
外回転体2は、転がり軸受7と空間9との間に円環板部2cを有する。円環板部2cの前端面は、軸方向に直交する平坦面を形成している。その理由としては、クラッチ係合解除時に、内回転体3及びばね4が外回転体2とAa間で摺動(スリップ)可能にするためである。
筒本体3aは、前端において外径が大きくなっている。この部分における内回転体3の外周面を圧接面bという。
(コイルばね4)
ばね4は、ばね線(ばね線材)を螺旋状に巻回(コイリング)して形成されたねじりコイルばねである。ばね4は、左巻き(前端から後端に向かって反時計回り)であり、外力を受けていない状態において、全長に亘って径が一定である。ばね4の巻き数Nは、例えば6~10巻きである(本実施形態では、ばね4の巻き数Nは、10巻きである)。ばね4のばね線は、断面形状(回転軸を通り且つ回転軸と平行な方向に沿った断面形状)が台形状の台形線である。ばね線の断面における4つの角は、面取り形状(例えば、曲率半径0.3mm程度のR面、又は、C面)となっている。なお、ばね4の構成(ばねの外径等の構成)は、巻き数以外は、全て従来2(後述する比較例1)と同じである。
(ばね4の後端側領域Aと圧接面a(クラッチ係合面a)との関係:図1、図3) 外力を受けていない状態でのばね4の外径は、圧接面aにおける外回転体2の内径よりも大きい。ばね4は、後端側領域Aが縮径された状態で、空間9に収容されている。プーリ構造体1が停止している状態で、ばね4における後端側領域Aの外周面は、ばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって、圧接面aに押し付けられている。そのため、ばね4の後端側領域Aと圧接面a(クラッチ係合面a)との間(Aa間)は、ばねが拡径方向にねじり変形したとき、係合を強めるように作用し、ばねが縮径方向にねじり変形したとき、係合を解除するように作用する。
ばね4の後端側領域Aは、ばね4の後端から1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。この後端側領域Aの大きさ(巻き数)、及び、圧接面a(クラッチ係合面a)の径方向長さ(外回転体2の内径)、軸方向長さは、下記設計手法に従い、決定される。
ばね4の後端側領域Aの圧接面aに対する圧接力をFaとすると、ばね4の縮径方向における、目標とするトルクカーブ(図5)、特には、スリップトルクTsa(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね4のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTAa(絶対値)が、スリップトルクTsa(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Faの大きさ(図4(a))、即ち、圧接面a(クラッチ係合面a)における径方向及び軸方向の長さ、ならびに、ばね4(後端側領域A)の巻き数、等の設計事項が、適切に決定される。
例えば、本実施形態では、以下のように設計した(後述する実施例1)。
・縮径方向のスリップトルクTsa(設定値):-45N・m
*従来2のトルクカーブ(図7参照)におけるスリップトルクの大きさと同程度とした。
*許容トルクTm2(図5)は、従来2(図7のTm2)と同様、-40N・mとした。
・後端側領域Aの巻き数:縮径方向におけるばね4のねじりトルクが上記スリップトルクTsaに到達しない範囲内では、ばね4(後端側領域A)と圧接面a(クラッチ係合面a)との間、Aa間を摩擦係合状態に維持できるよう、後端側領域Aの巻き数を従来2と同程度に2~3巻きとした。
・圧接面a(クラッチ係合面a)の径方向長さ(外回転体2の内径):外力を受けていない状態でのばね4の外径100(指数)に対し、約93とした。
・圧接面a(クラッチ係合面a)の軸方向長さ:対向接触する上記ばね4(後端側領域A)の巻き数に対応する長さとした。
(ばね4の前端側領域Bと圧接面b(クラッチ係合面b)との関係:図1、図2) 外力を受けていない状態でのばね4の内径は、圧接面bにおける内回転体3の外径よりも小さい。ばね4は、前端側領域Bが拡径された状態で、空間9に収容されている。プーリ構造体1が停止しており、ばね4における後端側領域Aの外周面が、ばね4の拡径方向の自己弾性復元力によって圧接面aに押し付けられた状態において、ばね4の前端側領域Bは、ばね4の縮径方向の自己弾性復元力によって圧接面bに押し付けられている。そのため、ばね4の前端側領域Bと圧接面b(クラッチ係合面b)との間(Bb間)は、ばね4が縮径方向にねじり変形したとき、係合を強めるように作用し、ばねが拡径方向にねじり変形したとき、係合を解除するように作用する。
ばね4の前端側領域Bは、ばね4の前端から1周以上(回転軸回りに360°以上)の領域である。この前端側領域Bの大きさ(巻き数)、及び、圧接面b(クラッチ係合面b)の径方向長さ(内回転体3の外径)、軸方向長さは、下記設計手法に従い、決定される。
ばね4の前端側領域Bの圧接面bに対する圧接力をFbとすると、ばね4の拡径方向における、目標とするトルクカーブ(図5)、特には、スリップトルクTsb(絶対値)の大きさに基づいて、通常トルク入力時において、ばね4のねじり角度(絶対値)が大きくなるほどトルク(絶対値)が減少していく摩擦トルクTBb(絶対値)が、スリップトルクTsb(設定値)よりも大の水準に維持されるように、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態(プーリ構造体1の停止時)における、圧接力Fbの大きさ(図4(a))、即ち、圧接面b(クラッチ係合面b)における径方向及び軸方向の長さ、ならびに、ばね4(前端側領域B)の巻き数、等の設計事項が、適切に決定される。
例えば、本実施形態では、以下のように設計した(後述する実施例1)。
・拡径方向のスリップトルクTsb(設定値):30N・m
*従来2のトルクカーブ(図7参照)においてロック機構が作動するときのねじりトルクと同水準に設定した。
*許容トルクTm1(図5)は、従来2(図7のTm1)と同様、25N・mとした。
・前端側領域Bの巻き数:拡径方向におけるばね4のねじりトルクが上記スリップトルクTsbに到達しない範囲内では、ばね4(前端側領域B)と圧接面b(クラッチ係合面b)との間、Bb間を摩擦係合状態に維持できるよう、前端側領域Bの巻き数を2~3巻きとした(なお、従来2は1~2巻き)。
・圧接面b(クラッチ係合面b)の径方向長さ(内回転体3の外径):外力を受けていない状態でのばね4の内径100(指数)に対し、105とした。この水準は、ばね4の前端側領域Bの径方向位置(図1参照)が、従来2のロック機構作動時のばねの中領域(自由部分)の径方向位置(図10)に略一致する水準である。
・圧接面b(クラッチ係合面b)の軸方向長さ:対向接触する上記ばね4(前端側領域B)の巻き数(2~3巻き)に対応する長さとした。
・対比(圧接面aと圧接面bとの比較)
スリップトルク(N・m)(絶対値)の設定は、Tsa:45>Tsb:30である。
圧接面a(クラッチ係合部a)の径方向長さ(外回転体2の内径)、軸方向長さは、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、圧接面aに対する圧接力Fa(後端側領域Aの拡径方向の自己弾性復元力)の方が、圧接面bに対する圧接力Fb(前端側領域Bの縮径方向の自己弾性復元力)よりも大となるように設定されている(図4(a)参照)。
即ち、コイルばね4が縮径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsa)(絶対値)の方が、コイルばね4が拡径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsb)(絶対値)よりも大に設定した、プーリ構造体1を、ISG用プーリ(プーリ構造体1が、駆動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆より前のクランキング中、ISGによるアシスト走行時)と、従動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時)の両方の役割を果たす)としてISGシステムに適用することにより、エンジン始動時、アシスト走行時、及び、発電時の各走行パターンにおいて好適に対応することができる。
(ばね4の軸方向の構成)
ばね4は、プーリ構造体1に外力が作用していない状態(即ち、プーリ構造体1が停止した状態)において、軸方向に圧縮されている。ばね4の軸方向の圧縮率は、例えば、20%程度であってもよい。ばね4の前端側領域Bの軸方向端面の周方向一部分(前端から約1/4周(約90°))には、軸方向に圧縮されているばねの姿勢を安定させるために、座研面Beが形成されている(図8参照)。座研面Beは、研削加工が施されることによって形成された、ばね4の軸方向と直交する平面である。同様に、ばね4の後端側領域Aの軸方向端面の周方向一部分(後端から約1/4周(約90°))にも、軸方向に圧縮されているばねの姿勢を安定させるために、座研面Aeが形成されている。そして、ばね4の座研面Beが、内回転体3の溝底面3dに接触し、ばね4の座研面Aeが、外回転体2の円環板部2cの前端面に接触している(図1参照)。
(ばね4の中領域C)
ばね4の中領域Cは、図1に示すように、ばね4の前端側領域Bと後端側領域Aとの間の領域(中領域)であって、圧接面bと圧接面aのいずれにも接触しない自由部分である。このばね4の中領域C(自由部分)の巻き数は、目標とする、ばね4のばね定数(ばねのねじり角度に対するねじりトルクの割合、即ち、トルクカーブの傾き)、ばね4のねじり角度の許容範囲(例えば拡径方向、縮径方向ともに60°)等、に基づき、適切に設定される。
例えば、本実施形態では、以下のように設計した(後述する実施例1)。
・ばね4の中領域C(自由部分)の巻き数:4巻き(従来2と同じ、なお従来1は3巻き)
・拡径変形時のばねの有効巻数:4巻き(上記中領域Cの巻き数に対し増加しない)
なお、従来1は3巻き+α(ばねの前端側領域が内回転体から離れる分、有効巻数が増加する)
・ねじり角度の許容範囲:±60°
(従来との対比(ばね定数))
ばね4のばね定数k1(図5のトルクカーブの傾き)は、ISG対応プーリとして設計れた従来2のプーリ構造体のばね定数k1(図7)と同じであり、その水準は、ISG非対応プーリである従来1のプーリ構造体のばね定数k0(θ1~θ2間)(図6)よりも顕著に大に設定されている。
ばね4の中領域C(自由部分)の巻き数は、従来(従来2において)、ねじり角度の許容範囲(±60°)内における、ロック機構が働く拡径方向のねじり角度(図7のθ2:約35°)、及びねじりトルク(30N・m程度)と同水準で、クラッチが作動(ばね4のねじりトルクがスリップトルクTsbに到達し、Bb間が摺動)でき、且つ、ねじり角度の許容範囲(±60°)内における、縮径方向のねじり角度(図7の-θ3:約-55°)、及びねじりトルク(-45N・m程度)と同水準で、クラッチが作動(ばね4のねじりトルクがスリップトルクTsaに到達し、Aa間が摺動)できるように、適切に設定されている。
本実施形態のプーリ構造体1は、双方向(ばね4の拡径又は縮径方向)において、クラッチ係合面と係合状態にあるクラッチ(ばね4)が係合解除状態となるまでは、ロック機構が作動しないように構成されている(図4(b)、図4(c))。
具体的には、ばね4のねじりトルクが、双方向(ばね4の拡径又は縮径方向)において設定されたスリップトルクに到達しない間は、ばね4の中領域C(自由部分)が外回転体2及び内回転体3のいずれにも接触しないよう、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、ばね4の中領域C(自由部分)と外回転体2、及び、ばね4の中領域C(自由部分)と内回転体3、との間の空隙の大きさ(クリアランス)が十分に広く設けられている(図1、図4(a)参照)。
(従来との対比:ばね4が拡径方向にねじれた場合)
ばね4単体の外径は従来2と同じだが、プーリ構造体1が停止時の、ばね4の中領域C(自由部分)と外回転体2との間の空隙は、従来2よりも広い。そのため、従来2でロック機構が作動するねじり角度(θ2:約35°)においても、ばね4の中領域C(自由部分)は、環状面2b(外回転体2)に接触しない(つまり、ロック機構が作動しない)ようになっている(図4(b)参照)。
(従来との対比:ばねが縮径方向にねじれた場合)
プーリ構造体1が停止時の、ばね4の中領域C(自由部分)と内回転体3との間の空隙の大きさは、従来2と同じであり、従来1(縮径方向のねじり角度約-3°でクラッチが作動する構成)よりも大きくなっている。そのため、ばね4が縮径方向にねじれた場合は、従来2と同様に、縮径方向のねじり角度(-θ3:約-55°)でも、ばね4の中領域C(自由部分)は、筒本体3a(内回転体3)に接触しない(つまり、ロック機構が作動しない)ようになっている(図4(c)参照)。
(プーリ構造体1の動作)
次に、プーリ構造体1の動作について説明する。
(I 外回転体が加速する場合)
外回転体2及びばね4が内回転体3に対して正方向(前端から後端へ向かって時計回り:図2及び図3参照)に相対回転するとき(外回転体2が加速する場合)、ばね4の巻き方向が左巻き(前端から後端へ向かって反時計回り)のため、外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域Aが、外回転体2の圧接面aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4は拡径変形する。これは、ISGシステムにおいては、プーリ構造体1(ISG用プーリ)が従動プーリとして作動する場合(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時等、外回転体が加速する間)に相当する。
(I-I 外回転体への通常トルク入力時)
ばね4の後端側領域Aと圧接面a(クラッチ係合面a)(外回転体2の内周面)との間(Aa間)の圧接力Faは、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増大していくが、圧接面a(クラッチ係合面a)となる外回転体2の内周面が周方向に閉じた内周壁面であるため、ばね4(後端側領域A)は、すぐに(殆ど圧接面aの相対的な摺動を伴わないまま)外回転体2と強く摩擦係合した状態(Aa間でロック状態)となる(図4(b)参照)。
一方、ばね4の前端側領域Bと圧接面b(クラッチ係合面b)(内回転体3の外周面)との間(Bb間)の圧接力Fbは、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど低下し、Bb間の摩擦トルク(TBb)が減少する(図4(b)、図5参照)。
この間、ばね4のねじりトルク(伝達トルク)(絶対値)は、ばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなるほど増加していく(図5参照)。そのため、ばね4のねじりトルクが、設定されたスリップトルクTsb(例えば、30N・m)に到達しない間(図5)は、外回転体2と内回転体3との間でばね4を介してトルクが伝達されるとともに、ばね4のばね定数k1(トルクカーブの傾き)に従って、ばね4が周方向にねじれることにより、ベルトの張力変動が適切に抑制される。
したがって、ISGシステムにおける、ISGによる運転走行パターンの内、例えば、ISGによる発電時についても、その際の入力トルクの水準が設定された、拡径方向のスリップトルク(Tsb)未満であれば(例えば、入力トルクの水準15~25N・mに対し、スリップトルクTsbの水準が30N・m程度に設定されていれば)、ISG用プーリとして問題なく作動させることができ、ベルトの張力変動を適切に抑制することができる。
(I-II 外回転体への過大トルク入力時(外回転体の急加速時))
さらにばね4の拡径方向のねじり角度が大きくなると、ばね4のねじりトルクが設定されたスリップトルク(Tsb)(例えば30N・m)に到達するとともに、減少しつつあるBb間の摩擦トルクTBbが、スリップトルクTsbに到達することで(図5参照)、Bb間で、外回転体2及びばね4と、内回転体3とが摺動(スリップ)する(係合解除状態となる)(図4(b)参照)。
なお、クラッチ係合面においてクラッチ(ばね4)が係合解除状態となるまでは、ロック機構が作動しないように構成されている(図4(b)参照)。そのため、従来1のロック機構が作動する拡径方向のねじり角度θ2(約45°)(図6参照)において拡径したばね4の中領域C(自由部分)の外径は、従来1(図9参照)の環状面(外回転体)の内径、ならびに、前端側領域の外径、と略同水準となる。
(II 外回転体が減速する場合)
外回転体2及びばね4が内回転体3に対して逆方向(他端から一端へ向かって反時計回り)に相対回転するとき(外回転体2が減速する場合、或いは、内回転体3が加速する場合)、外回転体2の相対回転に伴って、ばね4の後端側領域Aが、外回転体2の圧接面aと共に移動し、内回転体3に対して相対回転する。これにより、ばね4が縮径変形する。ここで、内回転体3が加速する場合とは、ISGシステムにおいて、プーリ構造体1(ISG用プーリ)が駆動プーリとして作動する場合(例えば、ISGによるエンジン始動時の初爆前、ISGによるアシスト走行時等)に相当する。
(II-I 外回転体への通常トルク入力時)
ばね4の後端側領域Aと圧接面a(クラッチ係合面a)(外回転体2の内周面)との間(Aa間)の圧接力Faは、ばね4の縮径方向のねじり角度が大きくなるほど低下し、Aa間の摩擦トルク(TAa)が減少する(図4(c)、図5参照)。
一方、ばね4の前端側領域Bと圧接面b(クラッチ係合面b)(内回転体3の外周面)との間(Bb間)の圧接力Fbは、ばね4の縮径方向のねじり角度が大きくなるほど増大していくが、圧接面b(クラッチ係合面b)となる内回転体3の外周面が周方向に閉じた外周壁面であるため、ばね4(前端側領域B)は、すぐに(殆ど圧接面bの相対的な摺動を伴わないまま)内回転体3と強く摩擦係合した状態(Bb間でロック状態)となる(図4(c)参照)。
この間、ばね4のねじりトルク(伝達トルク)(絶対値)は、ばね4の縮径方向のねじり角度が大きくなるほど増加していく(図5参照)。そのため、ばね4のねじりトルクが、設定されたスリップトルクTsa(例えば、-45N・m)に到達しない間(図5)は、外回転体2と内回転体3との間でばね4を介してトルクが伝達されるとともに、ばね4のばね定数k1(トルクカーブの傾き)に従って、ばね4が周方向にねじれることにより、ベルトの張力変動が適切に抑制される。
したがって、ISGシステムにおける、ISGによる運転走行パターンの内、例えば、ISGによるアシスト走行時についても、その際の入力トルクの水準(絶対値)が設定された、縮径方向のスリップトルク(Tsa)の水準(絶対値)未満であれば(例えば、入力トルクの水準-35~-30N・mに対し、スリップトルクTsaが-45N・m程度に設定されていれば)、ISG用プーリとして問題なく作動させることができ、ベルトの張力変動を適切に抑制することができる。
(II-II 外回転体への過大トルク入力時(外回転体の急減速時))
さらにばね4の縮径方向のねじり角度が大きくなると、ばね4のねじりトルクが設定されたスリップトルクTsa(例えば、-45N・m)に到達するとともに、減少しつつあるAa間の摩擦トルクTAa(絶対値)がスリップトルクTsa(絶対値)に到達することで(図5参照)、Aa間で、外回転体2と、内回転体3及びばね4とが摺動(スリップ)する(係合解除状態となる)(図4(c)参照)。
なお、クラッチ係合面においてクラッチ(ばね4)が係合解除状態となるまでは、ロック機構が作動しないように構成されている。
上記構成によれば、双方向(コイルばね4の拡径又は縮径方向)において、コイルばね4の端部(後端側領域Aと前端側領域B)が外回転体2又は内回転体3に対して圧接する力(径方向)の向きを、一端側(後端側領域A)と他端側(前端側領域B)とにおいて逆向き(バイアス関係)にすることができる。
このため、双方向(コイルばね4の拡径又は縮径方向)において、コイルばね4と外回転体2及び内回転体3との間の摩擦係合状態(コイルばね4の圧接状態)は、コイルばね4のねじり角度(絶対値)が大きくなるほど、下記(a)且つ(b)の状態となる。
(a)コイルばね4の後端側領域A(一端側領域の外周面)及び前端側領域B(他端側領域の内周面)の一方は、外回転体2又は内回転体3に対する圧接力が増大し、外回転体2及び内回転体3の一方と強く摩擦係合し、
(b)コイルばね4の後端側領域A(一端側領域の外周面)及び前端側領域B(他端側領域の内周面)の他方は、外回転体2又は内回転体3に対する圧接力が低下し、外回転体2及び内回転体3の他方と滑りだす(係合解除していく)、
即ち、コイルばね4の端部は、一端側(後端側領域A)と他端側(前端側領域B)とにおいて、真逆の作用(上記(a)且つ(b))をもたらす。
その結果、(i)通常トルク(設定されたスリップトルクに到達しない範囲の、コイルばね4のねじりトルク)入力時、コイルばね4は、双方向(拡径又は縮径方向)にねじり変形した際に、外回転体2及び内回転体3に係合して、外回転体2と内回転体3との間でトルクを伝達する。
一方、(ii)過大トルク(設定されたスリップトルク以上の、コイルばね4のねじりトルク)入力時、コイルばね4は、双方向(拡径又は縮径方向)において、外回転体2と内回転体3との間で所定以上のトルクが伝達された際に、外回転体2又は内回転体3と摺動する係合解除状態となって、外回転体2と内回転体3との間でのトルクの伝達を遮断する。
その結果、例えば、ISGによるエンジンの冷間始動時において、外回転体2に過大トルク(例えば、拡径方向において、スリップトルク30N・m以上のトルク)が入力されても、外回転体2からトルク入力側のベルト(張り側)に衝撃荷重(過大な回転制動力)は作用せず、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を抑制できる。
逆に、エンジン走行中、脱輪等により、予期せずエンジンが停止(エンスト)した場合でも(例えば、縮径方向において、スリップトルク45N・m以上のトルクが入力されても)、ベルト張力(張り側)が過度に低下しすぎることはなく、ベルトにスリップが発生するのを防止できる。
これにより、上記(i)、(ii)に示したように、コイルばね式のクラッチ機能(トルクの伝達又は遮断)を双方向(コイルばね4の拡径方向、縮径方向)に確保できる(効果1)。
また、コイルばね4は、外回転体2と内回転体3との相対回転時において外回転体2及び内回転体3のいずれにも接触しない自由部分である中領域Cを有している。これにより、双方向(コイルばね4の拡径又は縮径方向)において、確実に、ロック機構が作動しないようにすることができる。その結果、例えば、外回転体2に過大なトルクが入力されても、コイルばね4(クラッチ)が外回転体2又は内回転体3と強く摩擦係合した状態(ロック状態)に陥らないようにすることができる(効果2)。
また、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、コイルばね4の後端側領域Aにおける拡径方向の自己弾性復元力の方が、コイルばね4の前端側領域Bにおける縮径方向の自己弾性復元力よりも大きくなるように構成されている。
即ち、コイルばね4が縮径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsa)(絶対値)の方が、コイルばね4が拡径方向にねじられた場合にクラッチが作動するトルク(スリップトルクTsb)(絶対値)よりも大に設定することを確実にできる。
これにより、上記のプーリ構造体1を、ISG用プーリ(プーリ構造体が、駆動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆より前のクランキング中、ISGによるアシスト走行時)と、従動プーリ(例えば、ISGによるエンジン始動時における初爆以降、ISGによる発電時)の両方の役割を果たす)としてISGシステムに適用することにより、エンジン始動時、アシスト走行時、及び、発電時の各走行パターンにおいて好適に対応することができる(効果3)。
したがって、上記構成とすれば、比較的簡単な構成で、コイルばね式のクラッチ機能を双方向に確保でき(効果1)、ISGシステムにも対応でき(効果3)、且つ、外回転体2に過大なトルクが入力されても、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を効果的に抑制することができる(効果2)。
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、プーリ構造体1に外力が付与されていない状態において、ばね4の一端側領域(後端側領域A)の外周面が、拡径方向の自己弾性復元力によって、外回転体2における圧接面a(クラッチ係合部a)に接触し、ばね4の他端側領域(前端側領域B)の内周面が、縮径方向の自己弾性復元力によって、内回転体3における圧接面b(クラッチ係合部b)に接触していたが(※特許文献1第1実施形態図1に対応)、これには限らない。即ち、プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、ばねの一端側領域(この場合は前端側領域B)の外周面が、拡径方向の自己弾性復元力によって、内回転体における圧接面(クラッチ係合部)に接触し、ばねの他端側領域(この場合は後端側領域A)の内周面が、縮径方向の自己弾性復元力によって、外回転体における圧接面(クラッチ係合部)に接触していてもよい(特許文献1第2実施形態図5に対応)。
また、上述の実施形態では、ばね4の巻き方向を左巻き(前端から後端へ向かって反時計回り)としていたが、ばね4の巻き方向を右巻き(前端から後端へ向かって時計回り)としてもよい。
この場合、プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、ばねの一端側領域(この場合は前端側領域B)の外周面が、拡径方向の自己弾性復元力によって、外回転体における圧接面(クラッチ係合部)に接触し、ばねの他端側領域(この場合は後端側領域A)の内周面が、縮径方向の自己弾性復元力によって、内回転体における圧接面(クラッチ係合部)に接触する(特許文献1第4実施形態図11に対応)。
次に、上記実施形態のプーリ構造体1(図1)を実施例1とし、従来2のプーリ構造体(図10)を比較例1とし、各プーリ構造体を、図12に示すベルトシステムに取り付けて、ISGによるエンジン冷間始動試験を行った(以下、単に「エンジン冷間始動試験」)。このエンジン冷間始動試験で、エンジン冷間始動時の下記評価項目について、時系列に検出、記録し、実施例1と比較例1との比較により本発明の効果の検証を行った。
(供試体:実施例1のプーリ構造体)
実施例1は、上記実施形態に係るプーリ構造体1に対応するものである。
エンジン冷間始動時には、外回転体2が急加速してばね4が拡径方向に捩れた場合にクラッチがBb間で作動するように構成されている。
比較例1との対比(共通点)
ばね4が縮径方向に捩れた場合にクラッチがAa間で作動する構成、及び、そのトルク(スリップトルクTsa)の水準は、比較例1(従来2)と同じである。
したがって、エンジン冷間始動時における、1発目の気筒内爆発時の動的ベルト最小張力の大きさについては、比較例1と略同等になる、と推測された。
(実施例1のコイルばね(図1、図8))
・ばね4のばね線は、ばね用オイルテンパー線(JISG3560:1994に準拠)とした。
・ばね線は、台形線であって、内径側軸方向長さは、5.3mmとし、外径側軸方向長さは、5.0mmとし、径方向長さは、7.0mmとした。なお、ばね線の断面における4つの角は、面取り形状(曲率半径0.3mm程度のR面)とした。
・ばね4の巻き数Nは、10巻きとし、巻き方向は、左巻きとした。
・ばね4の軸方向の圧縮率は、約20%とした。軸方向に隣り合うばね線間の隙間は、ばね4が軸方向に圧縮された状態で0.3mmとした。
(供試体:比較例1のプーリ構造体)
比較例1は、上述の従来2のプーリ構造体(図10参照)に対応するものである。
エンジン冷間始動時には、外回転体が急加速してばねが拡径方向に捩れた場合にロック機構が作動するように構成されている。
(比較例1のコイルばね(図10))
・ばねの巻き数Nを9巻きとした以外のばねの構成は、実施例1と同じである。
なお、比較例1の他の各部の構成は、前述(本実施形態)の従来との対比部分に述べた構成である。
(エンジン冷間始動試験)
以上の実施例1及び比較例1の各プーリ構造体について、図11及び図12に示すエンジンベンチ試験機200を用いて、エンジン冷間始動試験を行った。このエンジン冷間始動試験は、ベルトを介してプーリ構造体の外回転体に過大なトルクが入力され、ばねが拡径方向に捩れ、実施例1の場合にはクラッチ(Bb間)が確実に作動し、比較例1の場合にはロック機構が確実に作動し得るよう、エンジンの回転変動を最大化できる実機台上試験とされる。ここで、エンジン冷間始動とは、エンジン始動の一形態であって、具体的には、エンジンが完全に冷え切った状態下(例えば、エンジン冷却水の水温が30℃以下)での、エンジン始動を指す。そのため、走行途上(暖気完了後)にエンジンを一時停止させた状態(アイドルストップ等)からのエンジン始動は、当試験条件から除外される。
エンジンベンチ試験機200は、補機駆動システムを含む試験装置であって、エンジン210のクランク軸211に取り付けられたクランクプーリ201と、エアコン・コンプレッサ(AC)に接続されたACプーリ202、ウォーターポンプ(WP)に接続されたWPプーリ203とを有する。実施例1及び比較例1の各プーリ構造体(図11及び図12ではプーリ構造体100)は、モータ・ジェネレータ(ISG)220の軸221に接続される。また、クランクプーリ201とプーリ構造体100とのベルトスパン間に、オートテンショナ(A/T)204が設けられる。エンジンの出力は、1本のベルト(Vリブドベルト)250を介して、クランクプーリ201から時計回りに、プーリ構造体100、WPプーリ203、ACプーリ202に対してそれぞれ伝達されて、各補機(モータ・ジェネレータ(ISG)、ウォーターポンプ、エアコン・コンプレッサ)は駆動される。
また、図12に示すように、動的ベルト張力測定用のセンサ(歪ゲージ)(不図示)を取付軸上に貼り付けたタッチプーリ205が、ベルトシステム上の張り側ベルトスパン間に仮設置されている。センサ(歪ゲージ)は、図示しない、ブリッジボックス、歪アンプ、及びデータロガーを経由して、PC(パーソナルコンピューター)に接続されている。こうすることで、ベルト250の走行中のベルト張力(動的ベルト張力、以下単にベルト張力)を連続的に計測することができ、動的ベルト最大張力(動的ベルト張力の最大値)(N/ベルト)を動的ベルト張力の時系列変化のデータから読み取り可能となる。
(評価項目)
エンジン冷間始動時(エンジンが完全に冷え切った状態でのエンジン始動時)のベルト張力(動的ベルト張力)(張り側)の時系列変化(アウトプット)を評価した。
(条件)
雰囲気温度約0℃(エンジンが完全に冷え切った状態でのエンジン始動とするため、低温室内に試験機を設置)、ベルト張力(取付時)1200Nにおいて、エンジン冷間始動(クランキング)を行った。なお、ISGによるエンジン始動時に、プーリ構造体100(ISG用プーリ)の内回転体に入力されるトルクの水準は、-30N・m程度であった。
(エンジン始動動作)
電子制御装置(不図示)からエンジン始動信号がモータ・ジェネレータ(ISG)(不図示)に送られ、モータ・ジェネレータ(ISG)が起動し、クランキングが始まる。このとき(各気筒における燃焼爆発前)の、クランク軸211の回転速度は200rpm程度である。
電子制御装置から燃料噴射信号および点火信号が燃料噴射装置(不図示)および着火装置(不図示)に送られ、各気筒における燃焼爆発が順々に開始される。
各気筒における燃焼爆発時期に同期して、クランク軸211の回転速度が上昇してゆく。クランク軸211の回転トルク(動力)がクランクプーリ201(外輪)に伝達されて、更に、エンジンベンチ試験機200に伝達される。
エンジンが始動されると、モータ・ジェネレータ(ISG)によるクランキング動作が停止する。
なお、実施例1、比較例1のプーリ構造体は、ISGによるエンジン始動時の入力トルクの水準-30N・m程度に対し、スリップトルクTsaの水準が-45N・m程度となるように構成されている。このため、問題なく、内回転体に入力されたトルクを、ばねを介して(内回転体が加速することで、ばねが縮径方向にねじられ)、外回転体へ伝達させることができる。つまり、ISGによるエンジン始動時に、ISG用プーリとして問題なく作動させることができ、ベルトの張力変動を適切に抑制しつつ、クランキングさせることができる。
(評価方法)
実施例1及び比較例1のプーリ構造体毎に、上記動作によるエンジン冷間始動試験によって得られた、エンジン冷間始動時におけるベルト張力の時系列変化を示す波形データ(グラフ)に基づいて、ベルト張力が最も過大に増加し、かつ最も過度に低下した波形(つまり、1発目の気筒内爆発時の波形)における、ベルト最大張力(ベルト張力の最大値)(N/ベルト)、ベルト最小張力(ベルト張力の最小値)(N/ベルト)及び、ベルト張力の変動幅(N/ベルト)を読み取ったうえで、下記評価基準に基づき、実施例1の評価を行った。
(評価基準:ベルト張力(過大な増加)およびベルト張力(の過大な)変動の抑制、に係る評価)
1発目の気筒内爆発時のベルト張力およびベルト張力変動の大きさに関する、実施例1と比較例1との差異量(N/ベルト)(つまり、図13において「m」で表示した部分)を読み取る。この差異量m(N/ベルト)の、比較例1における動的ベルト最大張力(N/ベルト)に対する割合(百分率)(%)が、実施例1の比較例1に対するベルト張力およびベルト張力変動の抑制効果に相当する。
その抑制効果が25%以上(顕著)である場合、ベルトシステムの耐久性を損なうおそれがないとして、評価「○」とした。
一方、その抑制効果が25%を下回った場合、ベルトシステムの耐久性を損なうおそれがあるとして、評価「×」にした。
(評価結果)
エンジン冷間始動試験によって得られた、エンジン冷間始動時における動的ベルト張力(単に、ベルト張力)の時系列変化を示すグラフを図13に示した。また、評価結果(試験結果の一覧)を表4に示した。
(エンジン冷間始動試験 試験結果)
Figure 0007439015000004
図13において1発目の気筒内爆発時(図中a)の「m」で表示した部分は、1発目の気筒内爆発時のベルト張力およびベルト張力変動の大きさに関し、実施例1と比較例1との差異部分である。図示例では、その差異量は、1600Nであった。これは、実施例1の比較例1に対するベルト張力およびベルト張力変動の抑制効果に相当する。図示例では、その抑制効果は約33%に達した。なお、図13において、ベルト張力の値(縦軸の目盛り)は不図示とした。
(考察)
ベルト張力(張り側のタッチプーリ205のベルト張力)は、クランキング中(約1秒間)の各気筒における燃焼爆発中、特に、1発目の気筒内爆発時(図中a)において、最も過大に増加し、かつ最も過大に変動することがわかった(図13参照)。
表4に示した評価結果(判定)のとおり、この1発目の気筒内爆発時(図中a)に着目すると、ベルト張力(張り側のタッチプーリ205のベルト張力)の大きさおよび変動幅は、実施例1の方が比較例1の場合よりも顕著に小さく、ベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を効果的に抑制できていることがわかった。
(得られた効果)
(1)実施例1において、エンジン冷間始動時に、外回転体2の回転速度が一時的に大きく増加する1発目の気筒内爆発時(図13のa参照)において、外回転体2から内回転体3へ伝達されるトルクのうち、通常トルクよりも過大なトルクは伝達されない結果となった(図13のi参照)。これは、ばね4の拡径方向に、通常トルクの入力時よりも過大なトルク(スリップトルクTsb(30N・m)以上のトルク)が外回転体2に入力された際に、内回転体3とばね4との間(Bb間)に係合作用がほとんど働かない状態で、外回転体2を急加速状態のまま空転(スリップ)させ、慣性の大きい内回転体3を急加速させようとすることによる衝撃荷重(過大な回転制動力)をトルク入力側のベルト250に作用させないこと、が可能であったためと考えられる。
(2)結果として、実施例1は、エンジン冷間始動時には、外回転体が急加速してばねが拡径方向に捩れた場合にクラッチがBb間で作動し、補機駆動ベルトシステムで特に問題となる、エンジン冷間始動時に外回転体へ過大なトルクが入力される際に生じるベルト張力の過大な増加やベルト張力の過大な変動を効果的に抑制できることが判った。
(3)比較例1においては、外回転体の急加速時に外回転体から内回転体へ伝達されるトルクのうち、通常トルクよりも過大なトルクを伝達してしまう結果となった。これは、比較例1の、外回転体の急加速時にクラッチが作動せずロック機構が作動する構成では、通常トルクの入力時よりも過大なトルクが外回転体に入力された際に、内回転体とばねとの間(Bb間)に係合作用がほとんど働かない状態で、外回転体を急加速状態のまま空転(スリップ)させることができないために、慣性の大きい内回転体を急加速させようとすることによる衝撃荷重(過大な回転制動力)をトルク入力側のベルトに作用させないこと、が不可能であったためと考えられる。
(4)また、実施例1のプーリ構造体は、ばねのねじりトルクが、縮径方向のスリップトルクTsa(-45N・m)又は拡径方向のスリップトルクTsb(30N・m)に到達しない間(図5参照)は、2つの回転体の間でばねを介してトルクが伝達されるとともに、ばね定数k1(トルクカーブの傾き)に従って、ばねが周方向にねじれることにより、ベルトの張力変動が適切に抑制されるように構成されている。
したがって、実施例1のプーリ構造体は、ISGシステムにおける、ISGによるエンジン始動以外の運転走行パターン、例えば、ISGによるアシスト走行時(入力トルク:例えば-35~-30N・m)や、ISGによる発電時(入力トルク:例えば15~25N・m)についても、ISG用プーリとして何ら問題なく作動可能である、と推察できる。
1 プーリ構造体
2 外回転体
3 内回転体
4 コイルばね(ばね)
A 後端側領域(一端側領域)
B 前端側領域(他端側領域)
C 中領域(自由部分)
5 エンドキャップ
7 転がり軸受
8 滑り軸受
9 空間
a 圧接面(クラッチ係合面)
b 圧接面(クラッチ係合面)

Claims (1)

  1. ベルトが巻き掛けられる筒状の外回転体と、
    前記外回転体の径方向内側に設けられ、前記外回転体と同一の回転軸を中心として前記外回転体に対して相対回転可能な内回転体と、
    前記外回転体と前記内回転体との間に設けられ、前記回転軸に沿った軸方向に圧縮されているコイルばねと、を備えたプーリ構造体であって、
    前記コイルばねは、
    一端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において外周面が拡径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の一方に、接触する一端側領域と、
    他端側で、前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において内周面が縮径方向の自己弾性復元力によって、前記外回転体及び前記内回転体の他方に、接触する他端側領域と、
    前記一端側領域及び前記他端側領域の間であって、前記外回転体と前記内回転体との相対回転時において前記外回転体及び前記内回転体のいずれにも接触しない自由部分である中領域と、を有し、
    前記コイルばねが縮径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記一端側領域の前記外周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記一方、に対して摺動し、前記コイルばねと前記外回転体及び前記内回転体の前記一方との間で係合が解除され、
    前記コイルばねが拡径方向にねじられ、前記外回転体と前記内回転体との間で所定以上のトルクが伝達された際、前記他端側領域の前記内周面は、前記外回転体及び前記内回転体の前記他方、に対して摺動し、前記コイルばねと前記外回転体及び前記内回転体の前記他方との間で係合が解除され、
    前記プーリ構造体に外力が付与されていない状態において、前記一端側領域における拡径方向の自己弾性復元力の方が、前記他端側領域における縮径方向の自己弾性復元力よりも大きくなるように構成されている、
    ことを特徴とするプーリ構造体。
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