JP7393750B2 - 熱可塑性形状記憶樹脂シート及び熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品 - Google Patents

熱可塑性形状記憶樹脂シート及び熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品 Download PDF

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Description

特許法第30条第2項適用 2018年11月14日の第23回公益財団法人がんの子どもを守る会公開シンポジウム(京都市勧業館みやこめっせ(京都府京都市左京区岡崎成勝寺町9-1))
本発明は、熱可塑性形状記憶樹脂シート及び熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品に関する。
構造的な相転移に基づき、機械的変形の後に加熱等によって、その原形を記憶する能力を有する材料として、形状記憶樹脂が、工業用ばかりでなく、縫合糸、シート、患者の身体固定具や、患者の体内における薬物の担体等の医療用に研究、開発が進められている。
形状記憶樹脂を身体に倣う形状に変形する場合に、人の身体に接して成形される場合がある。例えば、放射線治療等において患者の頭顔部の動きを抑制する目的で使用される固定具(マスク)は、熱可塑性樹脂からできており、個々の患者に合わせた固定具(マスク)の作成は、プレート状の熱可塑性樹脂シートを加温後、軟化した樹脂シートを患者の頭顔部に押し当てて成形し、常温になるまでその状態を維持することで行われる。
市販の固定具(マスク)は、熱可塑性樹脂が軟化する温度が70℃~80℃と高温であるため、成形の際に頭顔部に押し当てられる患者の苦痛は少なくなく、特に、小児においては顔面に高温の樹脂を押し当てられる恐怖からマスク作成時に頭顔部を激しく動かすため、十分な固定機能を有するマスクを作成できず、治療や検査に支障が出ることもあった。
小児のみならず、患者の固定具作成時における熱による苦痛を軽減することは、放射線治療などの効果及び患者のQOLを高める上でも重要であり、軟化する温度が市販の製品よりも低い熱可塑性樹脂を使用した固定具を開発することは、喫緊の課題である。
加えて、上記用途に用いられる熱可塑性形状記憶樹脂は、加温した形状記憶樹脂から発せられる熱エネルギーにより誘発される皮膚への影響に留意する必要がある。
ここで、ヒトの皮膚における不可逆的な組織損傷が、44℃から50℃の臨界温度で生じる可能性があるとする報告がある(A. R. Moritz and F. C. Henriques Jr., “Studies of Thermal Injury, II. The Relative Importance of Time and Surface Temperature in the Causation of Cutaneous Burns,”American J. of Pathology, Vol. 23, pp. 695-720, 1947)。
医学的に、やけどの程度は、I度:紅斑、II度:水泡・びらん・潰瘍、III度:壊死に分類されるが、前記報告は組織温度と持続時間との関係について述べられており、それによると、II度のやけどに達するには、44℃では6時間30分、46℃では1時間30分、50℃では5分25秒かかるとされる(山田幸生,低温やけどについて,製品と安全,第72号,1999年3月)。
熱可塑性樹脂を含む製品の型取りが、皮膚に直接触れて行われる場合に熱可塑性樹脂を含む製品からの熱エネルギーによってやけどが起きてはならない。
更に、固定具(マスク)は、従来、一度利用されると再利用されることなく廃棄されることが通常であった。このことは医療費増大の原因ともなることから、再利用可能な形状記憶樹脂による固定具(マスク)の開発が求められている。
また、近年、プラスチック類の廃棄が環境に及ぼす影響について問題視されており、廃棄される樹脂製品は、生分解性機能を有することが求められている。
これらの課題に対応するため、生分解性形状記憶ポリマーを使用し、プログラムされた温度変化などの刺激によって形状が回復される形状記憶ポリマーや、該ポリマーを使用した製品が提案されてきた。
特許文献1に記載の発明は、生分解性形状記憶ポリマー組成物、それらの製品及びそれらの調製法等を開示する。それによると、生分解性形状記憶ポリマー組成物は、ポリマーの形状回復温度が相対的に高いハードセグメントと相対的に低いソフトセグメントを含むものとし、ポリマーがソフトになり変形する転移温度は、モノマー組成物及びモノマーの種類を変えることによって制御することができるとする。そして、ポリマーの原形が形状回復温度より低い温度で機械的に変形されても、形状回復温度よりも上に加熱することによってその原形を回復し得るとする。また、この形状記憶ポリマー組成物は生体適合性があるとする。
特許文献2に記載の発明は、重量平均分子量が1,000~20,000[g/mol]の範囲のポリ(デプシペプチド)セグメント、及び重量平均分子量が1,000~10,000[g/mol]の範囲のポリ(ε-カプロラクトン)セグメントを含む形状記憶特性を有する多元ブロック共重合体を開示する。そして、ポリ(デプシペプチド)セグメントによって決定される位相のアモルファス成分のガラス転移温度(通常40℃~60℃)がスイッチ温度となるとし、多元ブロック共重合体中におけるポリ(デプシペプチド)セグメントとポリ(ε-カプロラクトン)セグメントの連結によって、形状記憶特性を有する加水分解性の熱可塑的弾性体が得られるとする。
特許文献3に記載の発明は、架橋部位となる官能基を複数有し、数平均分子量が2,000以上、30,000以下の結晶性樹脂を、該結晶性樹脂の前記官能基と同種の官能基を有する多官能化合物及びリンカーを用いて架橋した三次元構造を有し、結晶溶融温度(Tm)が60℃以上かつ結晶化温度(Tc)が45℃以下であることを特徴とする形状記憶樹脂及びこれを用いた成形体を開示する。
特許文献4に記載の発明は、患者の治療部位の運動ブレを抑制するために患者の身体の一部を嵌合保持する形態に熱成形されて使用される熱可塑性樹脂シートであって、該シートは不飽和ポリエステル樹脂85~99重量%と熱可塑性ポリスチレン樹脂15~1重量%とを含む組成物の架橋生成物からなり、透明で、かつ放射線透過性であることを特徴とする放射線治療患者固定具作成用熱可塑性樹脂シートを開示する。
しかしながら、特許文献1から4に記載の発明は、重合させるモノマーの構造が類似しないポリマーに関するもので、人の体温付近における鋭敏な温度応答性の発現という点で懸念があり(特許文献5)、人の身体に接して成形される熱可塑性形状記憶樹脂シートに用いるには不十分であった。また、特許文献1から5に記載の発明は、人の体温付近の融点(Tm)より上では十分に柔軟であるとともに、延性に富み、そして融点(Tm)より下では高い弾性を有するという物性の発現に懸念があるため、人の身体に接して成形される熱可塑性形状記憶樹脂シートに用いるには不十分であった。加えて、特許文献4に記載の発明は、該形状記憶ポリマーが生分解性でない点で環境負荷が大きく、不十分であった。
特表2002-503524号公報 特許5208923号公報 特開2009-96885号公報 特開2003-49057号公報 特許5654786号公報
そこで本発明では、生分解性ポリマーとして、体温に近い融点(Tm)を有し、前記融点(Tm)より高い温度で成形する際には十分な柔軟性と延性を有し、前記融点(Tm)より低い温度では十分な弾性を有するという相転移が、前記融点(Tm)付近の狭い温度範囲で起きる温度応答性ポリマーを含む熱可塑性形状記憶樹脂シート及び該熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品を提供することを課題とする。
上記課題を解決するために、請求項1に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートにあっては、 身体に倣う形状に変形する物品に適用が可能な熱可塑性形状記憶樹脂シートであって、異なる数の分岐鎖を有するε-カプロラクトンのマクロモノマーが架橋されてなる生分解性の温度応答性ポリマー又はアクリレート基を有するε-カプロラクトンのマクロモノマーが架橋されてなる生分解性の温度応答性ポリマーを含むことを特徴とする。
「形状記憶」とは、所望の形状に成形されたポリマーの原形を、融点(Tm)より上の温度で変形させ、その変形状態を維持したまま、結晶化温度(Tc)近くの温度に冷却することで、機械的変形を受けたポリマーのひずみを固定化することが可能であり、次に、融点(Tm)よりも高い温度に再加熱すると変形したポリマーが原形へと回復されることをいう。
「生分解性」とは、生再吸収可能であり、分解し、又は機械的な分解により崩壊することをいい、生理学的な環境と相互作用して、代謝可能又は排出可能な成分に分解することをいう。
「温度応答性」とは、特定の温度を境に、例えば融点(Tm)より下では硬い(例えば数百MPa)が、融点(Tm)より上では突然柔らかくなる(例えば数MPa)というような物性の大きな変化が起こることをいう。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(以下「PNIPAAm」と略することがある。)のような、温度変化による可逆的な親水性/疎水性変化を可能にするポリマーが温度応答性ポリマーとして知られる。
請求項2に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートにあっては、前記温度応答性ポリマーは、融点(Tm)が30.7℃~53℃の範囲であることを特徴とする。
請求項3に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートにあっては、前記温度応答性ポリマーは、融点(Tm)より高温の60℃での引張弾性率が2.4MPa以下であり、かつ、室温での引張弾性率/60℃での引張弾性率≧92の関係を有することを特徴とする。「室温」は23℃を想定している(以下同じ。)。
請求項4に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートにあっては、前記温度応答性ポリマーは、融点(Tm)+4℃での引張弾性率が5MPa以下であり、かつ、室温での引張弾性率/融点(Tm)+4℃での引張弾性率≧47の関係を有することを特徴とする。
請求項5に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートにあっては、前記温度応答性ポリマーは、60℃での状態の破断ひずみが380%以上の範囲であることを特徴とする。
請求項6に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートにあっては、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品であることを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、共重合させるモノマーの構造が類似することにより、鋭敏な温度応答性を有し、加えて生分解性であるため、廃棄の際に環境に負荷を与えないポリマーを含む熱可塑性形状記憶樹脂シートを提供できる。
請求項2に記載の発明によれば、皮膚に組織損傷を引き起こすことのない30.7℃~53℃の温度範囲で軟化する熱可塑性形状記憶樹脂シートを提供できる。
請求項3に記載の発明によれば、融点(Tm)より高温の状態で身体に倣う形状に容易に成形することができ、また、室温の状態で変形後の形状が維持される熱可塑性形状記憶樹脂シートを提供できる。
請求項4に記載の発明によれば、体温に近い温度範囲で身体に倣う形状に容易に成形することができ、また、室温の状態で変形後の形状が維持される熱可塑性形状記憶樹脂シートを提供できる。
請求項5に記載の発明によれば、融点(Tm)より高温の状態で延性が高く、身体に接して成形しても身体に圧迫感を与えることなく変形可能な熱可塑性形状記憶樹脂シートを提供できる。
請求項6に記載の発明によれば、上記物理的性質を有する熱可塑性形状記憶樹脂シートを用いた製品を提供できる。
実施形態の温度応答性ポリマーの合成過程を表す反応図 実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートの作成方法を示す概念図 実施形態の温度応答性ポリマー(サンプル1から4)の融点及び融解熱を表すグラフ 実施形態の温度応答性ポリマー(サンプル1から4)の応力-ひずみ曲線、弾性率、破断ひずみを表すグラフ 実施形態の温度応答性ポリマー(サンプル1)の応力-ひずみ曲線、弾性率、破断ひずみを表すグラフ 実施形態の温度応答性ポリマー(サンプル1及び2)の熱可塑性形状記憶樹脂シートの形状変化を示す写真 実施形態の温度応答性ポリマー(サンプル5から9)の温度と弾性の関係を表したグラフ 実施形態の放射線治療患者固定具試作品の写真 市販品の放射線治療患者固定具の写真 市販品の放射線治療患者固定具の装着写真 人の顔の3D模型 実施形態の放射線治療患者固定具の装着試験の写真 実施形態の放射線治療患者固定具の装着試験の断層写真 市販品の放射線治療患者固定具の装着断層写真
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、温度応答性ポリマーを含み、外部刺激に応じて変化する物理的性質として、外部環境の温度が融点(Tm)超となった場合に弾性率が大きく低下し、結晶化温度(Tc)近くの温度に冷却することで、機械的変形を受けたポリマーのひずみを固定化することが可能となり、次に、融点(Tm)よりも高い温度に再加熱すると変形したポリマーが原形へ回復するポリマーを用いる。
温度応答性ポリマーとは、特定の温度を境に、例えば融点(Tm)より下では比較的硬い(例えば数百MPa)が、融点(Tm)より上では突然柔らかくなる(例えば数MPa)というような大きな変化を起こすポリマーをいう。
温度応答性ポリマーとしては、ポリエチレン主鎖と、N-アルキル置換アクリルアミド側鎖を有するポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)等のN-アルキル置換アクリルアミド誘導体ポリマー等がある。PNIPAAmは、32℃の相転移温度を境にそれ以下の温度領域では水溶性を示し、それ以上の温度領域では急激に不溶化して沈殿を生起することが知られている。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、ε-カプロラクトン(以下「CL」と略称することがある。)のマクロモノマーが架橋されてなる生分解性の温度応答性ポリマーを含む。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートに用いられるポリ(ε-カプロラクトン)(以下「PCL」と略称することがある。)は、ポリマー鎖の運動性が著しく変化する温度応答性の「オン - オフ」結晶 - 非晶質転移を示す融点(Tm)と結晶化温度(Tc)を有する脂肪族ポリエステル誘導体の温度応答性ポリマーである。
PCLは半結晶性ポリマーであり、融点(Tm)を境に大幅に結晶性が変化する。PCLは、異なる数の長鎖を有するCLのマクロモノマーを架橋することによって調製することができる。異なる数の分岐鎖を有するCLの混合比を最適化することによって、架橋シートの結晶 - 非晶質転移温度若しくは融点(Tm)を適切な温度に調整できる。温度応答性ポリマーを含む熱可塑性形状記憶樹脂シートは融点(Tm)より下の温度では硬いが、融点(Tm)より上の温度では突然柔らかくなる。
PCLは、二形状(シート原型と一つの一時的形状)間を変化可能な可逆的に結晶化可能な結晶―非晶化可能なスイッチング領域を提供できる。PCLの結晶融解誘発スイッチとしての融点(Tm)の使用は、固液相の転移のエンタルピー変化がガラス - ゴム転移の変化(Tg)又は液晶転移(TLC)よりはるかに大きいため、温度応答形状記憶を作成するのに有利である。
PCLの融点(Tm)は60℃超であり、融点(Tm)より上の温度で皮膚に接して形状を変形させるには、高すぎる。一方、PCLの融点(Tm)を調整して下げると、PCLの変形能(破断ひずみなど)が低くなる傾向がある。したがって、融点(Tm)を体温近くに下げ、かつ、大きな変形能を維持できる材料の調整を検討した。
PCLの融点(Tm)は、ラクチドのような他のモノマーとの共重合又は他のポリマーとのブレンドによって変えることができる。しかし、これらの方法はしばしば温度応答性の点で低い感度を生じる。このため、CLのモノマーで、異なる溶融特性を有する複数のCLのマクロモノマーを含む適切な組み合わせによるPCLの転移温度調節を検討した。
加えて、本実施形態の温度応答性ポリマーは、生分解性であることを特徴とする。「生分解性」とは、生再吸収可能であり、分解し、又は機械的な分解により崩壊することをいい、生理学的な環境と相互作用して、代謝可能又は排出可能な成分に分解することをいう。
代表的な合成分解性ポリマーとしては、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリラクチド、ポリグリコリド及びこれらのコポリマー;ポリ(エチレンテレフタレート);ポリ(ヒドロキシ酪酸);ポリ(ヒドロキシ吉草酸);ポリ[ラクチド-co-(ε-カプロラクトン)];ポリ[グリコリド-co-(ε-カプロラクトン)]);ポリカーボネート、ポリ(擬アミノ酸);ポリ(アミノ酸);ポリ(ヒドロキシアルカノエート);ポリ無水物;ポリオルトエステル;並びにこれらのブレンド及びコポリマーを含む。
本実施形態の好ましい生分解性ポリマーは、PCLである。PCLは、米国食品医薬品局(FDA)によって生物医学的用途に承認されており、生体適合性及び生分解性の合成ポリマーの重要なクラスに位置づけられる。PCLは、組織工学又は生物医学分野における埋め込み型装置として広く研究されている。
本実施形態のPCLシートの合成法を詳細に説明する。まず、CLのモノマーで、異なる溶融特性を有する複数のCLのモノマーを合成する。次に、合成した複数のCLのモノマー同士を架橋反応により合成して温度応答性PCLを得る。
図1(a)において、4分岐PCLは4bと、2分岐PCLは2bと略した。bの前の数字はPCLの長鎖の数、bの後の数字は4分岐又は2分岐PCLに含まれるCLの単位数である。対応するマクロモノマーは、それぞれ4b50-m及び2b20-mと表記した(以下、本明細書において同様に表記する。)。
(4分岐PCLマクロモノマーの合成)
図1(a)のとおり、最初に、ペンタエリスリトールを開始剤として用いたε-カプロラクトンの開環重合によって4分岐PCLを合成し、続いて架橋性部分として塩化アクリロイルと反応させることで4b50-mを調製した。
ペンタエリスリトールを丸底フラスコに入れ、重合前に減圧下で脱水した。蒸留したε-カプロラクトン及び少量の触媒のヘキサン酸スズを窒素を流しながらフラスコに添加した。混合物を窒素雰囲気下で24時間撹拌した。溶媒のテトラヒドロフランで希釈した後、大量のヘキサン/ジエチルエーテル(1:1体積比)中に再沈殿させることで、未反応のモノマー及び触媒を除去した。上澄みのデカンテーション後、減圧乾燥することで4分岐PCLのサンプルが白色粉末として得られた。4分枝PCLと過剰量の塩化アクリロイルを反応させた。脱水テトラヒドロフラン中、室温で24時間、トリエチルアミンの存在下で反応させた後、反応混合物を大量のメタノール中に注ぎ入れ、続いてメタノール中で再沈殿させた。その後、テトラヒドロフランで沈殿物を再溶解させ、メタノール中に再沈殿させるというプロセスを繰り返し行うことで過剰の塩化アクリロイル及び副生成物のトリエチルアミン塩酸塩を除去した。精製後、マクロモノマーを1日間以上減圧乾燥した。4分岐PCLマクロモノマーの構造は、 H NMRスペクトルによって確認した。
(2分岐PCLマクロモノマーの合成)
図1(a)のとおり、同じ手順で、2分岐のものを開始剤として、ペンタエリスリトールの代わりにテトラメチレングリコールを使用して調製した。
(架橋PCLの調製)
図1(b)及び図2のとおり、4b50-mと2b20-mの混合物を過酸化ベンゾイル(BPO)を含有するキシレンの溶液に溶解し、テフロン(登録商標)のフレームスペーサーを有するガラス板の間の空間に置き、ガラス板を80℃に維持された温度のオーブン内に放置した。3~6時間後、ポリマー膜をプレートから取り出し、大量のアセトンに浸して未反応化合物を除去した。この架橋反応では、4b50-mと2b20-mの混合比を変えて、得られる架橋材料の転移温度を制御した(図3)。PCLの4分岐及び2分岐マクロモノマーの混合する割合を変えることにより、得られる架橋材料の融点(Tm)を調節することができる。
ところで、ヒトの前腕及び上肢の皮膚における可逆的な組織損傷が、44℃から50℃の臨界温度で生じる可能性があり、特に50℃を超えると曝露時間が短くてもやけどの危険が増す傾向があるとの報告があるように、皮膚に触れて物品の型取りをする場合は、物品からの熱エネルギーによって誘発される皮膚への影響に留意する必要がある。
本実施形態の前記温度応答性ポリマーは、身体に倣う形状に変形可能であるため、物品からの熱エネルギーによって誘発される皮膚への影響を減らし、成形後には十分な弾性を確保するため、融点(Tm)が、30.7℃~53℃の範囲であることが好ましく、39.7℃~53℃の範囲が特に好ましい(表1及び表2)。
本実施形態の前記温度応答性ポリマーは、身体に倣う形状に変形可能であるため、融点(Tm)より高温の60℃での弾性率が2.4MPa以下であり、かつ、室温での弾性率/60℃での弾性率≧92の関係を有することが好ましい(表2、図4(c))。
本実施形態の前記温度応答性ポリマーは、身体に倣う形状に変形可能であるため、体温に近い温度で弾性が十分に低下する必要があり、融点(Tm)+4℃での弾性率が5MPa以下であり、かつ、室温での弾性率/融点(Tm)+4℃での弾性率≧47の関係を有することが特に好ましい(表2、図5)。
本実施形態の前記温度応答性ポリマーは、身体に倣う形状に変形可能であるため、延性が高い必要がある。融点(Tm)より高温の60℃での破断ひずみが130%以上であれば身体に倣う形状に変形可能であり、380%以上であることが好ましい(表2、図4(d))。130%未満であれば、延性が低いため、熱可塑性形状記憶樹脂シートが身体形状に沿って変形しない恐れがある。380%以上であれば熱可塑性形状記憶樹脂シートがより大きく変形が可能である。
本実施形態の前記温度応答性ポリマーは、身体に接して成形する場合には、体温に近い温度で延性が高い方が有利であるため、融点(Tm)+4℃での破断ひずみが660%以上であることが特に好ましい(表2、図5)。
本実施形態の温度応答性ポリマーの成形は、身体に押し当てて変形可能であるが、この他、熱ブローするか、押し出してシートにするか、又は射出成形によっても成形され得る。この温度応答性ポリマーを含む組成物は、固体物を成形するための当業者に公知の他の方法、例えば、レーザー切断、ミクロ機械加工、熱線の使用、及びCAD/CAMプロセスによっても成形され得る。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品は、治療や撮影のため患者の位置を確実に決める際に用いられる固定具、特にPCLは放射線透過性を有することから、放射線を使用した診断や治療の際に患者の身体を固定する器具に有用であることを例示できるが、これに限定されない。眼鏡フレーム、補聴器、ギプスなど身体に倣う形状に変形する物品に広く適用が可能である。
以下、本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートの作用効果の一例について図面を参照し具体的に説明する。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、温度応答性ポリマーの融点(Tm)が、従来より低温の30.7℃~53℃の範囲であることから(表1及び表3)、身体に倣う形状に変形する際に、身体に接する時間が長くならないことに留意すれば、皮膚に接して成形しても皮膚に組織損傷を惹き起こすことがない。また、放射線治療において患者の頭顔部の動きを抑制する目的で使用される固定具(マスク)として用いる場合には、軟化するために加熱したシートを顔面に押し当てられる際の患者の苦痛を軽減できる。特に、小児においては熱による恐怖からの解放は治療効果の向上に結び付く。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、温度応答性ポリマーの融点(Tm)より高温の60℃での弾性率が2.4MPa以下であることから、身体に倣う形状に変形する際に、身体に大きな圧力がかかることなく成形可能である。また、室温での弾性率/60℃での弾性率≧92の関係を有することから、変形後の形状を十分保持できる。固定具(マスク)を作成する際にも患者の顔に大きな圧力をかけることなく成形でき、室温の状態の弾性率が高いことから、変形後の固定具(マスク)の強度が担保される(図4(c))。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、温度応答性ポリマーの融点(Tm)より高温の60℃での破断ひずみが130%以上であるため、シートの延性が高い。そのため、身体形状への追従性がよく、固定具(マスク)作成の際にも患者の顔に大きな圧力をかけることなく、顔の形状に忠実に倣って変形可能である(図4(d))。
以上のとおり、本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品は、体温に近い狭い温度範囲で柔軟性を獲得するため、融点(Tm)以上の温度で加温して皮膚に接して成形しても皮膚に組織損傷を惹き起こすリスクが少なく、また、成形時に大きな圧力を加えなくても身体形状に忠実に倣う形状に変形可能であるとともに、室温程度に冷却した場合には十分な強度を有する。
以下、実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートの一例について図面を参照して具体的に説明する。
サンプル1
本発明を実施例によって更に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
CLは,水素化カルシウム上での減圧下での蒸留により精製した。トリエチルアミンを水酸化カリウム上で蒸留により脱水した。 ペンタエリスリトール、テトラメチレングリコール、塩化アクリロイル、過酸化ベンゾイル(BPO)、オクタン酸スズ、並びに脱水テトラヒドロフラン及びメタノールなどの溶媒は市販されており、入手したままの状態で使用した。
(分岐PCLマクロモノマーの合成)
図1(a)のとおり、最初に、ペンタエリスリトールで開始し、続いて架橋性部分として塩化アクリロイルと反応させるCLを開環重合によって4b50-mを調製した。
ペンタエリスリトール(0.32g、2.373mmol)を丸底フラスコに入れ、重合前に16時間減圧下で脱水した。新たに蒸留した(ε - カプロラクトン(50mL、473mmol)及び触媒量のヘキサン酸スズを窒素を流しながらフラスコに添加した。混合物を窒素雰囲気下120℃で24時間撹拌した。テトラヒドロフランで希釈した後、ポリマーをヘキサン/ジエチルエーテル(1:1体積比)中に滴下し再沈殿を行った。デカンテーション後、減圧乾燥を行い、4分岐PCLのサンプル49.6 gが白色粉末として得られ、H NMRスペクトルにより、各分枝の平均重合度は、約45であると推定された。 20.0 g(3.27 mmol)の分枝PCLと過剰量の塩化アクリロイル(10.5mL、127.2 mmol)を反応させた。脱水テトラヒドロフラン中、室温で24時間、トリエチルアミン(20.3mL、143.2mmol)の存在下で反応させた後、反応混合物を大量のメタノール中に注ぎ入れ、続いてメタノールで沈殿物を繰り返し洗浄して過剰の塩化アクリロイル及び副生成物のトリエチルアミン塩酸塩を除去した。精製後、マクロモノマーを1日間減圧乾燥した。4分岐PCLマクロモノマーの構造は、 H NMRスペクトルによって確認された。化学シフトは以下の通りであった: H NMR、σ(CDCL 3、ppm)、1.40(m、-CO CH 2 CH 2 CH 2 CH 2 CH 2 O -)、1.65(m、-CO - CH 2CH 2CH 2 CH 2CH 2 O-)、2.31(t、-CO CH 2CH 2CH 2 CH 2CH 2O-)、( m、C - CH 2O-及び-CH 2 CH 2CH 2 CH 2 CH 2O-)、5.85、6.12、6.40(m、-CH = CH 2)。H NMRスペクトルにより、アクリレート基の導入量は94%であると推定された。
図1(a)のとおり、同じ手順で、2分岐のものを開始剤として、ペンタエリスリトールの代わりにテトラメチレングリコールを使用して調製した。H NMRスペクトルにより、各分枝の平均重合度は、約20で、アクリレート基の導入量は91%であると推定された。
(架橋PCLの調製)
図1(b)及び図2のとおり、4b50-m(50量体)と2b20-m(20量体)の粉末の混合物を過酸化ベンゾイル(BPO)を含有するキシレンの溶液に、ボルテックスや超音波を使って完全に溶解し、テフロン(登録商標)のフレームスペーサーを有する3×3cmの2枚のガラス板の間の0.2mmの空間に置き、ガラス板を80℃に維持された温度のオーブン内に放置した。 3時間後、ポリマー膜をガラスプレートから取り出し、大量のアセトンに浸して未反応化合物を除去した。PCLの4分岐及び2分岐マクロモノマーの混合する割合を変えることにより、得られる架橋材料の融点(Tm)を調節することができる。この架橋反応では、4b50-mと2b20-mの混合比を1:2にして得られる架橋材料の転移温度を計測したところ、融点は46℃であった。
サンプル1の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、60℃での弾性率は1.5MPa以下であることから、身体に倣う形状に変形する際に、身体に大きな圧力をかけることなく成形可能である。室温での弾性率は233.6MPa以上で、室温での弾性率/60℃での弾性率≧155.7の関係を有することから、変形後の形状が保持され、固定具(マスク)の強度が担保される(表2)。更に、60℃での破断ひずみが388%以上であるため(表2)、身体に倣う形状に変形する際に、シートの延性が高く、身体形状への追従性がよい。
サンプル1の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、温度応答性ポリマーの融点(Tm)+4℃での弾性率が5MPa以下であることから、人体に近い温度で身体に倣う形状に変形する際に、身体に大きな圧力がかかることなく成形可能である。また、室温での弾性率/融点(Tm)+4℃での弾性率≧47を有することから、変形後の形状が保持され、固定具(マスク)の強度が担保される(表2)。
サンプル1の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、温度応答性ポリマーの融点(Tm)+4℃での破断ひずみが660%以上であるため、人体に近い温度で身体に倣う形状に変形する際に、シートの延性が高く、よく伸びることから、身体形状への追従性が特によく、固定具(マスク)作成の際にも患者の顔に大きな圧力をかけることなく、顔の形状に忠実に倣う形状に変形可能である(図5)。
サンプル2
サンプル2の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、サンプル1で得られた架橋材料の4b50-mと2b20-mの混合比を2:1にして得られる架橋材料で、転移温度を計測したところ、融点(Tm)は、50℃であった(表1)。
サンプル3
サンプル3の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、サンプル1で得られた架橋材料の4b50 -mと2b20-mの混合比を1:0にして得られる架橋材料で、転移温度を計測したところ、融点(Tm)は、53℃であった(表1)。また、60℃での弾性率は1.3MPa以下であり、室温での弾性率は284.1MPa以上で、室温での弾性率/60℃での弾性率≧218.5の関係を有する。更に、60℃での破断ひずみが720%以上であるため(表2)、身体に倣う形状に変形する際に、シートの延性が高く、よく伸びることから、身体形状への追従性がよい。
サンプル4
サンプル4の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、サンプル1で得られた架橋材料の4b50 -mと2b20-mの混合比を0:1にして得られる架橋材料で、転移温度を計測したところ、融点(Tm)は、39.7℃であった(表1)。また、60℃での弾性率は2.4MPa以下であり、室温での弾性率は221.6MPa以上で、室温での弾性率/60℃での弾性率≧92.3の関係を有する(表2)。更に、60℃での破断ひずみが131%以上であるため(表2)、身体に倣う形状に変形する際のシートの延性は確保されている。
サンプル1から4の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、4b50 -mと2b20-mとの混合系であるところ、39.7℃~53℃の温度範囲で融点(Tm)を調節することができ、いずれも熱エネルギーによって誘発される皮膚への影響を抑えることができるものであった(表1)。また、サンプル1から4の4b50- mと2b20-mとの混合系においては、2b20-mが融点を下げる役割を果たすことが分かった。
サンプル1から4までの融点(Tm)の計測結果は、表1、図3のとおりである。
なお、サンプル1、サンプル3、サンプル4の結晶化温度(Tc)は、それぞれ22.1℃、26.2℃、18.4℃であった(DSC測定結果:冷却速度(10℃/分)における結晶化(発熱)ピークの最大点から算出したもの)。測定した各サンプルの結晶化温度(Tc)は、室温(23℃)付近であり、融点に応じて低下することが分かった。
Figure 0007393750000001
また、融点(Tm)より高い温度及び室温でのPCLの柔軟性及び延性は、表2、図4のとおりである。なお、「破断ひずみ」は、延性の指標として公知である。
Figure 0007393750000002
融点(Tm)より高い温度での弾性率を、サンプル1、3及び4について調べたところ、表2のとおり、いずれも概ね2.4MPa以下であり、熱可塑性形状記憶樹脂シートを人の身体に接して成形する場合、例えば、患者の頭顔部の動きを抑制する目的で使用される固定具(マスク)を患者の顔面に押し当てて成形する場合には、シートの弾性率が低いほど柔軟性が高く、顔面への圧力を減らせるため、好適である。
また、室温での弾性率をサンプル1、3及び4について調べたところ、表2のとおり、いずれも概ね218MPa以上であり、成形後の形状を維持するのに必要な弾性力が得られる。
材料を必要な形状に加工できるためには延性が高いことは大きな長所である。サンプル1から4の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、PCLの分子量が大きいほどシートの延性が高いことが分かる。熱可塑性形状記憶樹脂シートを人の身体に接して成形する場合、例えば、患者の頭顔部の動きを抑制する目的で使用される固定具(マスク)を患者の顔面に押し当てて成形する場合には、シートの延性が高いほど大きな変形が可能であり、顔面形状への追従性に優れる。
図6のとおり、サンプル1(4b50/2b20=1:2(wt%))及びサンプル2(4b50/2b20=2:1(wt%))の形状記憶性について確認した。融点(Tm)より上の温度で機械的に変形したポリマーの原形が、融点(Tm)より下の温度に冷却した後、融点(Tm)よりも高い温度に加熱すると変形したポリマーの原形が回復した。
サンプル5から9
サンプル1から4から更に融点を下げることを試みた。
(架橋PCLの調製)
サンプル1から4と同じ手順で、4b10-m(10量体)と2b20-m(20量体)を調製し、その混合する割合を変えることにより、得られる架橋材料の融点(Tm)を調節した結果は、表3のとおりである。サンプル1から4とは異なり、4b10-mが融点(Tm)を下げる役割を果たすことが分かった。
Figure 0007393750000003
図7のとおり、サンプル5から9を引張試験により機械的特性を調べた。サンプル7(2b/4b=50/50)、サンプル(同70/30)、サンプル(同100/0)では、弾性率は温度とともに徐々に減少し、サンプル7は、30℃~35℃、サンプルは、35℃~40℃、サンプルは、40℃~45℃の狭い温度範囲で急激な軟化転移が起きた。また、サンプル7は、42.2MPa、サンプルは、68.9MPa、サンプルは、112.7MPaから大きく弾性率が低下した。
表3のとおり、サンプル5から9は、融点(Tm)をサンプル1から4よりも人の体温に近いレベルに下げることができた。一方、室温における弾性率は、サンプル1から4と比べると相対的に低いレベルであったものの、身体に接して製品の型取りに用いるなど一時的な形状の保持で足りる用途では十分な強度が得られた(図7)。
サンプル1から9の本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品として、固定具(マスク)を例示できるが、前記物品は、これに限定されない。眼鏡フレーム、補聴器、ギプスなどオーダーメイド的に個々の身体に倣う形状に成形する物品、あるいはこれらの物品の型取り用いる物品などに広く適用が可能である。
発明者らは本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを使用した実施形態の一例として、頭部を固定する固定具(マスク)の作成を行った(図8)。市販のマスク(図9及び図10)と同様に、本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを外枠に挟持して固定した(図8)。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを使用した固定具(マスク)が顔の形状に密着できるか(密着度)を評価するために、あらかじめ3Dプリンターを用いて頭部模型を製作した(図11)。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを使用して、放射線治療時と同様の手順で頭部模型に対して固定具(マスク)の作成を行った(図12)。作成直後の頭部模型と本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートをComputed tomography (CT)を用いて断層撮影を行った(図13)。得られたCT画像を用いて、本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを使用した固定具(マスク)の密着度の視覚評価を行った(図13)。密着度の比較のために市販のマスクでもマスク作成を行い、CT画像を用いて同様に視覚評価を行った(図14)。
頭顔部に対する密着度合いを調べた結果、本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを使用した固定具(マスク)は、市販のマスクと同等以上であった(図13及び図14)。すなわち、頭部の突起部である鼻の形状への追従性が本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを使用した固定具(マスク)の方が良いことが確認できた。また、本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートを使用した固定具(マスク)は、体温付近に融点(Tm)を有することから、作成時の熱による患者、特に小児患者の負担・不安を軽減できることも期待できた。
生分解性ポリマーとして、体温に近い融点(Tm)を有し、前記融点(Tm)より高い温度での成形時には高い柔軟性と延性を有し、前記融点(Tm)より低い温度では十分な弾性を有するという相転移が、前記融点(Tm)付近の狭い温度範囲で起きる熱可塑性形状記憶樹脂及びこれを含む物品を提供することができるもので、産業上の利用可能性は大である。

Claims (6)

  1. 身体に倣う形状に変形する物品に適用が可能な熱可塑性形状記憶樹脂シートであって、
    前記熱可塑性形状記憶樹脂シートは、異なる数の分岐鎖を有するε-カプロラクトンのマクロモノマーが架橋されてなる生分解性の温度応答性ポリマー又はアクリレート基を有するε-カプロラクトンのマクロモノマーが架橋されてなる生分解性の温度応答性ポリマーを含むことを特徴とする熱可塑性形状記憶樹脂シート。
  2. 前記温度応答性ポリマーは、融点(Tm)が30.7℃~53℃の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シート。
  3. 前記温度応答性ポリマーは、60℃での引張弾性率が2.4MPa以下であり、かつ、室温での引張弾性率/60℃での引張弾性率≧92の関係を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シート。
  4. 前記温度応答性ポリマーは、融点(Tm)+4℃での引張弾性率が5MPa以下であり、かつ、室温での引張弾性率/融点(Tm)+4℃での引張弾性率≧47の関係を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シート。
  5. 前記温度応答性ポリマーは、60℃での破断ひずみが380%以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シート。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載の熱可塑性形状記憶樹脂シートを含む物品。
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