JP6997932B2 - 形状記憶ボーラス - Google Patents
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Description
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
「ボーラス」は、腫瘍が皮膚表面に存在する場合にビルドアップ効果による腫瘍の線量低下を補正する目的で、患者の身体形状に密着させて用いられる。体表面に密着していないボーラスを使用した場合、放射線の最大エネルギーを標的に効率的に投与することが不可能となり、治療効果が低下することが報告されている。
本実施形態の熱可塑性形状記憶樹脂シートに用いられるポリ(ε-カプロラクトン)(以下「PCL」と略称することがある。)は、ポリマー鎖の運動性が著しく変化する温度応答性の「オン - オフ」結晶 - 非晶質転移を示す融点(Tm)と結晶化温度(Tc)を有する脂肪族ポリエステル誘導体の温度応答性ポリマーである。
PCLの融点(Tm)は、ラクチドのような他のモノマーとの共重合又は他のポリマーとのブレンドによって変えることができる。しかし、これらの方法はしばしば温度応答性の点で低い感度を生じる。このため、CLのモノマーで、異なる溶融特性を有する複数のCLのマクロモノマーを含む適切な組み合わせを検討した。
「形状記憶」とは、所望の形状に成形されたポリマーの原形を、融点(Tm)より上の温度で変形させ、その変形状態を維持したまま、結晶化温度(Tc)近くの温度に冷却することで、機械的変形を受けたポリマーのひずみを固定化することが可能であり、次に、融点(Tm)よりも高い温度に再加熱すると変形したポリマーが原形へと回復されることをいう。
本実施形態の温度応答性ポリマーは、生分解性であることを特徴とする。「生分解性」とは、生体吸収可能であり、分解し又は機械的な分解により崩壊することをいい、生理学的な環境と相互作用して、代謝可能又は排出可能な成分に分解することをいう。
本実施形態のPCLシートの合成法を説明する。まず、CLのモノマーで、異なる溶融特性を有する複数のCLのマクロモノマーを合成する。次に、合成した複数のCLのマクロモノマー同士を架橋反応により合成して温度応答性PCLを得る。
形状記憶ボーラスに用いられる温度応答性ポリマーは、直鎖PCLテレケリックジアクリレートの存在下で4分岐PCLをアクリレート末端基で架橋することにより調製した。最初に、テトラメチレングリコール(和光純薬工業株式会社、大阪、日本)とペンタエリスリトールを開始剤として用いたε-カプロラクトン(東京化学工業(TCI)、東京、日本)の開環重合によって4分岐PCLを合成し、次に、アクリロイルクロリド(TCI Co.、Ltd、東京、日本)を分岐鎖のヒドロキシル末端基と反応させた。構造及び分子量は、それぞれ1 H NMR分光法(JEOL、東京、日本)及びゲル浸透クロマトグラフィー(JASCO International、東京、日本)によって推定した。4分岐PCLの平均重合度が100の4分岐PCLは4b100と表記した(図2(a))。
4分岐PCLマクロモノマーを、過酸化ベンゾイル(ポリマーに対して)1.5重量%を含むキシレン(BPO; Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国)に50重量%で溶解した。溶液は、テフロン(登録商標)のフレームスペーサーを備えたスライドガラスの間に注入された。その後、80℃で一晩熱重合を行い、4分岐架橋PCLマクロモノマーを得た(図2(b))。
本実施形態のボーラスの成形は、押し出してシートにするか又は射出成形によっても成形され得る。温度応答性ポリマーを含む組成物は、固体物を成形するための当業者に公知の他の方法、例えば、レーザー切断、ミクロ機械加工、熱線の使用及びCAD/CAMプロセスによっても成形され得る。本実施形態のボーラスは、身体に密着する形状に成形するのに身体に押し当てて形成可能であり、3Dプリンターを使用して患者の身体形状に対応した形状に形成する必要はない。したがって、あらかじめCT画像などにより患者の身体データを取得する必要がない。
本実施形態のボーラスは、再利用可能であるため、原形とほぼ同形状に回復するものが望ましい。次式に示すように、変形前と原形回復後の形状の類似度を表すダイス係数(Dice similarity coefficient: DSC)が0.94以上であることが好ましい。
(数1) DSC =(2 | A∩B |)/(| A | + | B |)
A:変形前の輪郭の領域
B:原形回復後の輪郭
本実施形態のボーラスは、ボーラスと患者の身体形状との密着の度合いを表す係数を、(ボーラスと頭頚部ファントムとの間隙の体積/ボーラスの体積)×100と定義したとき、該係数が3.4%以下の範囲であることが好ましい。
上記[0035]~[0040]のとおり、4b100架橋PCLを含む温度応答性ポリマーからサンプル1の形状記憶ボーラスを作製した。サンプル1の形状記憶ボーラスの密度は1.145g/cm3、厚さは0.45cmである。
NJB-300Wパーソナル3Dプリンター(Ninjabot、静岡、日本)とポリ乳酸(PLA)フィラメントを使用して、仮想ボーラスデータからGコードデータに基づき3Dボーラス(3DbolusPLA)を作製した。 印刷パラメーターを表1に示す。3DbolusPLAの密度は1.04g/cm3、厚さは0.5cmである。
先行技術文献2の特許第6446635号の実施例に準じてポリウレタン樹脂からなる3Dボーラス(Adjust Polymer、静岡、日本)(3DbolusPu)を作製した。3DbolusPuの密度は1.03g/cm3、厚さは0.5cmである。
従来のゲル封入型ボーラス(CIVCO Medical Solutions、アイオワ州、米国)を使用した。従来のボーラスの密度は1.03g/cm3、厚さは0.5cmである。
ボーラスを再利用するためには、変形したボーラスの形状が変形前の形状に回復することが好ましい。サンプル1の形状記憶ボーラスの変形前と回復後の形状の類似度を表すダイス係数(DSC)は、0.979±0.006であった。
開発したボーラスの形状記憶特性の評価手順を以下に示す。
(2)70℃の水に30秒間浸漬し、サンプル1の形状記憶ボーラスを軟化させた後、人体模型であるRANDOファントム(The phantom Laboratory、Salem、NY、USA)の鼻部に密着するように形状を変形(図3c)。
(3)70℃の水に30秒間浸漬して形状を復元(図3d)。
(4)形状が復元されたサンプル1の形状記憶ボーラスのCT画像を用いて、再度輪郭作成を実施(図3e)
(5)形状変形前のサンプル1の形状記憶ボーラスの輪郭と、形状復元後のサンプル1の形状記憶ボーラスの輪郭を線形変換によって位置照合を行い、2つの輪郭の類似性を評価。
サンプル1のボーラスの形状記憶の類似性の評価は、変形前の輪郭(A)の領域と原形回復後の輪郭(B)の領域、さらにAとBの輪郭の重複領域から次式で計算したダイス係数(DSC)で評価した。
(数1) DSC =(2 | A∩B |)/(| A | + | B |)
DSCの値は、0(オーバーラップなし)から1(完全なオーバーラップ)までの範囲である。(1)から(5)までの手順を3回繰り返し行い、平均DSC値±1標準偏差を計算した。また、変形を行わず位置のみを変更した場合についても同様にDSC値を計算した。
サンプル1の形状記憶ボーラス、比較例1の3DbolusPLA、比較例2の3DbolusPu及び比較例3の従来のボーラスの密着度を計算した。
サンプル1の形状記憶ボーラスは、70℃の水に30秒間浸漬して軟化した後、RANDOファントムの鼻部に合わせて押圧して変形させたままCTスキャンした(図4a)。3DbolusPLA及び3DbolusPuは、あらかじめ鼻部の形状に合わせて形成したボーラスをRANDOファントムの鼻部に設置してCTスキャンした(順に図4b、図4c)。従来のボーラスは、RANDOファントムの鼻部に設置してCTスキャンした(図4d)。
ボーラスを設置したRANDOファントムのCT画像を使用して、RANDOファントムとボーラス間の間隙の輪郭を描き、次式で計算した密着度を求めた(表2)。サンプル1の形状記憶ボーラスは、従来のボーラスと比べると大幅に密着度が改善し、3Dボーラスと比べても同等の密着度であった。
(数2) 密着度=(ボーラスと体表面との間隙の体積/ボーラスの体積)×100
上記密着度の試験の際に、サンプル1の形状記憶ボーラスについて加熱を停止してから結晶化するまでの時間を測定したところ、70℃の水に浸漬して軟化させた後、軟化後に結晶化するために必要な時間は、1.5分であった。これは、体表面の形状に密着するボーラスを作製するのに短かすぎず、臨床的に許容可能な時間であった。
実際に放射線を照射する前に、最適な範囲や方向を決めるために用いられる治療計画装置において、サンプル1の形状記憶ボーラスと比較例1の3DbolusPLA及び比較例2の3DbolusPuとの線量計算精度及び線量分布を比較した。
まず、ボーラス通過後の線量計算精度を水等価ファントムを使用して評価した。次に、サンプル1の形状記憶ボーラスが比較例1の3DbolusPLA及び比較例2の3DbolusPuと同等の線量分布を作成できるかをRANDOファントムを使用して比較した。
ボーラスを水等価ファントムであるSolid Water HE(公称密度= 1.032 g / cm3)(Sun Nuclear Corporation、メルボルン、オーストラリア)の上に置き、線源表面間距離を100 cmに設定した(図5)。X線エネルギーは6MV、TrueBeam(Varian Medical Systems、カリフォルニア州、米国)を使用してフィールドサイズは10 cm×10 cm、照射MUは100 MUとした。ボーラス直下から20 cmまでの深部線量百分率(PDD)を平行平面形電離箱線量計(PTW34001)(PTW、フライブルク、ドイツ)で取得した。更に、深さ1 cm、5 cm、10 cm及び20 cmの絶対線量を円筒形電離箱線量計(PTW30013)(PTW、Freiburg、Germany)で測定した。測定はそれぞれ5回行い、5回の測定の平均を測定値として採用した。治療計画装置によって得られた中心軸上のPDDを平行平面形電離箱線量計の測定値と比較した。更に、治療計画装置によって計算された線量と円筒形電離箱線量計で測定した線量の線量差を次式で評価した。
(数3) 線量差[%] =(測定線量-計算線量)/(計算線量)×100
これらの結果は、サンプル1の形状記憶ボーラスが治療計画装置によって正確に計算できることを示した。
次に、サンプル1の形状記憶ボーラスが比較例1の3DbolusPLA及び比較例2の3DbolusPuと同等の線量分布と線量指数を生成できるかを調査するために、仮想鼻腔がんの治療計画を作成した。形状記憶ボーラス、3DbolusPLA、3DbolusPuを用いたCT画像を使用して、RANDOファントムの鼻腔領域の仮想計画標的体積(PTV(Planning Target Volume):体積26.2 ml)に対して200 cGy/1回の治療計画を作成した。PTV辺縁から1cm又は2 cm離れた領域をリスク臓器(OAR: organs at risk)として定義した(OAR_1 cm:体積59.3 ml及びOAR_2 cm:104.9 ml)(図7)。PTVに対して前方1門照射及び、強度変調回転照射(VMAT(volumetric modulated arc therapy))の2種類の計画を立案して、線量分布と線量指標を比較した。
上記[0037]の重合度を35とした4b35架橋PCLを含む温度応答性ポリマーからサンプル2の形状記憶ボーラスを作製した。サンプル2の形状記憶ボーラスの密度及び厚さは、サンプル1の形状記憶ボーラスと同じである。
サンプル2の形状記憶ボーラスは、DSC(変形前と原形回復後)は0.948±0.008で、DSC(位置のみを変更)は0.946±0.005であった。密着度は表2のとおりであり、サンプル1の形状記憶ボーラスと同様であった。また、線量評価についてはサンプル1の形状記憶ボーラスと密度が同じであるため同じ結果となる(重複を避けるため例示しない。)。
発明者らは、4分岐と2分岐のポリカプロラクトンが架橋されてなるポリカプロラクトンを含む温度応答性ポリマーを使用するとボーラスの軟化する温度の低下が可能との知見を得た。ボーラスの軟化する温度を低下することができれば、ボーラスを形成する際の患者、特に小児の苦痛を軽減できる。
[0035]~[0038]と同じ手順で、4分岐PCLマクロモノマーを合成した。
図10(a)のとおり、同じ手順で、2分岐のものを開始剤として、ペンタエリスリトールの代わりにテトラメチレングリコールを使用して調製した。
図10(b)及び図11のとおり、4b50-mと2b20-mの混合物を過酸化ベンゾイル(BPO)を含有するキシレンの溶液に溶解し、テフロン(登録商標)のフレームスペーサーを有するガラス板の間の空間に置き、ガラス板を80℃に維持された温度のオーブン内に放置した。3~6時間後、ポリマー膜をプレートから取り出し、大量のアセトンに浸して未反応化合物を除去した。この架橋反応では、4b50-mと2b20-mの混合比を変えて、得られる架橋材料の転移温度を制御した(図12)。PCLの4分岐及び2分岐マクロモノマーの混合する割合を変えることにより、得られる架橋材料の融点(Tm)を調節することができる。
サンプル4の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、サンプル3で得られた架橋材料の4b50-mと2b20-mの混合比を2:1にして得られる架橋材料で、転移温度を計測したところ、融点(Tm)は、50℃であった(表5)。
サンプル5の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、サンプル3で得られた架橋材料の4b50 -mと2b20-mの混合比を1:0にして得られる架橋材料で、転移温度を計測したところ、融点(Tm)は、53℃であった(表5)。また、60℃での破断ひずみが750±30%であるため(表6)、身体に倣う形状に変形する際に、シートの延性が高く、よく伸びることから、身体形状への追従性がよい。
サンプル6の熱可塑性形状記憶樹脂シートは、サンプル3で得られた架橋材料の4b50 -mと2b20-mの混合比を0:1にして得られる架橋材料で、転移温度を計測したところ、融点(Tm)は、39.7℃であった(表5)。また、60℃での破断ひずみが206±75%であるため(表6)、身体に倣う形状に変形する際のシートの延性は確保されている。
サンプル3から6から更に融点を下げることを試みた。
(架橋PCLの調製)
サンプル3から6と同じ手順で、4b10-m(10量体)と2b20-m(20量体)を調製し、その混合する割合を変えることにより、得られる架橋材料の融点(Tm)を調節した結果は、表7のとおりである。サンプル3から6とは異なり、4b10-mが融点(Tm)を下げる役割を果たすことが分かった。
<1>
放射線治療を受ける患者の身体形状に密着するボーラスであって、前記ボーラスは、ε-カプロラクトンのマクロモノマーが架橋されてなる生分解性の温度応答性ポリマーを含む熱可塑性形状記憶樹脂シートからなることを特徴とするボーラス。
<2>
前記温度応答性ポリマーは、4分岐の架橋ポリカプロラクトンを含むことを特徴とする<1>に記載のボーラス。
<3>
前記密着の度合いを表す係数を、(ボーラスと頭頚部ファントムとの間隙の体積/ボーラスの体積)×100と定義したとき、該係数が3.4%以下の範囲であることを特徴とする<1>~<2>に記載のボーラス。
<4>
前記ボーラスは、あらかじめ計算された深部線量曲線(PDD曲線)と測定値との誤差がビルドアップ領域では4.8%以下の範囲で、ビルドアップ後の領域では1.2%以下の範囲であることを特徴とする<1>~<3>に記載のボーラス。
<5>
前記ボーラスは、放射線照射対象物の所定の深度におけるあらかじめ計算された線量と測定された線量との誤差が1.42%以下の範囲であることを特徴とする<1>~<4>に記載のボーラス。
<6>
前記ボーラスは、軟化後に結晶化するのに必要な時間は1.5分以内であることを特徴とする<1>~<5>に記載のボーラス。
<7>
前記ボーラスは、変形前と原形回復後の形状の類似度を表すダイス係数(DSC)が0.94~1の範囲であることを特徴とする<1>~<6>に記載のボーラス。
<8>
前記温度応答性ポリマーは、4分岐と2分岐のポリカプロラクトンが架橋されてなるポリカプロラクトンを含むことを特徴とする<1>に記載のボーラス。
<9>
前記温度応答性ポリマーは、2分岐の架橋ポリカプロラクトンを含むことを特徴とする<1>に記載のボーラス。
Claims (4)
- 放射線治療を受ける患者の身体形状に密着するボーラスであって、前記ボーラスは、ε-カプロラクトンのマクロモノマーが架橋されてなる生分解性の温度応答性ポリマーを含む熱可塑性形状記憶樹脂シートからなることを特徴とするボーラス。
- 前記温度応答性ポリマーは、4分岐の架橋ポリカプロラクトンを含むことを特徴とする請求項1に記載のボーラス。
- 前記密着の度合いを表す係数を、(ボーラスと頭頚部ファントムとの間隙の体積/ボーラスの体積)×100と定義したとき、該係数が3.4%以下の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載のボーラス。
- 前記温度応答性ポリマーは、4分岐と2分岐のポリカプロラクトンが架橋されてなるポリカプロラクトンを含むことを特徴とする請求項1に記載のボーラス。
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