図1は本発明に係る基板処理装置の一実施形態の概略構成を示す図である。この基板処理装置1は、例えば半導体基板のような各種基板の表面を超臨界流体を用いて処理するための装置である。以下の各図における方向を統一的に示すために、図1に示すようにXYZ直交座標系を設定する。ここで、XY平面は水平面であり、Z方向は鉛直方向を表す。より具体的には、(-Z)方向が鉛直下向きを表す。
ここで、本実施形態における「基板」としては、半導体ウエハ、フォトマスク用ガラス基板、液晶表示用ガラス基板、プラズマ表示用ガラス基板、FED(Field Emission Display)用基板、光ディスク用基板、磁気ディスク用基板、光磁気ディスク用基板などの各種基板を適用可能である。以下では主として円盤状の半導体ウエハの処理に用いられる基板処理装置を例に採って図面を参照して説明するが、上に例示した各種の基板の処理にも同様に適用可能である。また基板の形状についても各種のものを適用可能である。
基板処理装置1は、処理ユニット10、移載ユニット30、供給ユニット50および制御ユニット90を備えている。処理ユニット10は、超臨界乾燥処理の実行主体となるものであり、移載ユニット30は、図示しない外部の搬送装置により搬送されてくる未処理基板Sを受け取って処理ユニット10に搬入し、また処理後の基板Sを処理ユニット10から外部の搬送装置に受け渡す。供給ユニット50は、処理に必要な化学物質および動力を処理ユニット10および移載ユニット30に供給する。
制御ユニット90は、これら装置の各部を制御して所定の処理を実現する。この目的のために、制御ユニット90は、各種の制御プログラムを実行するCPU91、処理データを一時的に記憶するメモリ92、CPU91が実行する制御プログラムを記憶するストレージ93、およびユーザや外部装置と情報交換を行うためのインターフェース94などを備えている。後述する装置の動作は、CPU91が予めストレージ93に書き込まれた制御プログラムを実行し装置各部に所定の動作を行わせることにより実現される。
処理ユニット10は、台座11の上に処理チャンバ12が取り付けられた構造を有している。処理チャンバ12は、いくつかの金属ブロックの組み合わせにより構成され、その内部が空洞となって処理空間SPを構成している。処理対象の基板Sは処理空間SP内に搬入されて処理を受ける。処理チャンバ12の(-Y)側側面には、X方向に細長く延びるスリット状の開口121が形成されており、開口121を介して処理空間SPと外部空間とが連通している。開口121の上部には、液切り部材124が取り付けられている。液切り部材124のより詳しい構造およびその機能については後述する。
処理チャンバ12の(-Y)側側面には、開口121を閉塞するように蓋部材13が設けられている。蓋部材13が処理チャンバ12の開口121を閉塞することにより処理容器が構成され、内部の処理空間SPで基板Sに対する高圧下での処理が可能となる。蓋部材13の(+Y)側側面には平板状の支持トレイ15が水平姿勢で取り付けられており、支持トレイ15の上面は基板Sを載置可能な支持面となっている。蓋部材13は図示を省略する支持機構により、Y方向に水平移動自在に支持されている。
蓋部材13は、供給ユニット50に設けられた進退機構53により、処理チャンバ12に対して進退移動可能となっている。具体的には、進退機構53は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が蓋部材13をY方向に移動させる。進退機構53は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
蓋部材13が(-Y)方向に移動することにより処理チャンバ12から離間し、支持トレイ15が処理空間SPから開口121を介して外部へ引き出されると、支持トレイ15へのアクセスが可能となる。すなわち、支持トレイ15への基板Sの載置、および支持トレイ15に載置されている基板Sの取り出しが可能となる。一方、蓋部材13が(+Y)方向に移動することにより、支持トレイ15は処理空間SP内へ収容される。支持トレイ15に基板Sが載置されている場合、基板Sは支持トレイ15とともに処理空間SPに搬入される。
蓋部材13が(+Y)方向に移動し開口121を塞ぐことにより、処理空間SPが密閉される。蓋部材13の(+Y)側側面と処理チャンバ12の(-Y)側側面との間にはシール部材122が設けられ、処理空間SPの気密状態が保持される。また、図示しないロック機構により、蓋部材13は処理チャンバ12に対して固定される。このように、この実施形態では、蓋部材13は、開口121を閉塞して処理空間SPを密閉する閉塞状態と、開口121から大きく離間して基板Sの出し入れが可能となる離間状態との間で切り替えられる。
処理空間SPの気密状態が確保された状態で、処理空間SP内で基板Sに対する処理が実行される。この実施形態では、供給ユニット50に設けられた流体供給部57から、処理流体として、超臨界処理に利用可能な物質の流体、例えば二酸化炭素を気体または液体の状態で処理ユニット10に供給する。二酸化炭素は比較的低温、低圧で超臨界状態となり、また基板処理に多用される有機溶剤をよく溶かす性質を有するという点で、超臨界乾燥処理に好適な化学物質である。二酸化炭素が超臨界状態となる臨界点は、気圧が7.38Mpa、温度が31.1℃である。
流体は処理空間SPに充填され、処理空間SP内が適当な温度および圧力に到達すると、流体は超臨界状態となる。こうして基板Sが処理チャンバ12内で超臨界流体により処理される。供給ユニット50には流体回収部55が設けられており、処理後の流体は流体回収部55により回収される。流体供給部57および流体回収部55は制御ユニット90により制御されている。
処理空間SPは、支持トレイ15およびこれに支持される基板Sを受け入れ可能な形状および容積を有している。すなわち、処理空間SPは、水平方向には支持トレイ15の幅よりも広く、鉛直方向には支持トレイ15と基板Sとを合わせた高さよりも大きい矩形の断面形状と、支持トレイ15を受け入れ可能な奥行きとを有している。このように処理空間SPは支持トレイ15および基板Sを受け入れるだけの形状および容積を有しているが、支持トレイ15および基板Sと、処理空間SPの内壁面との間の隙間は僅かである。したがって、処理空間SPを充填するために必要な処理流体の量は少なくて済む。
移載ユニット30は、外部の搬送装置と支持トレイ15との間における基板Sの受け渡しを担う。この目的のために、移載ユニット30は、本体31と、昇降部材33と、ベース部材35と、複数のリフトピン37とを備えている。昇降部材33はZ方向に延びる柱状の部材であり、図示しない支持機構により、Z方向に移動自在に支持されている。昇降部材33の上部には略水平の上面を有するベース部材35が取り付けられており、ベース部材35の上面から上向きに、複数のリフトピン37が立設されている。後述するように、リフトピン37の各々は、その上端部が基板Sの下面に当接することで基板Sを下方から水平姿勢に支持する。基板Sを安定的に支持するために、上端部の高さが互いに等しい3以上のリフトピン37が設けられることが望ましい。
昇降部材33は、供給ユニット50に設けられた昇降機構51により昇降移動可能となっている。具体的には、昇降機構51は、例えばリニアモータ、直動ガイド、ボールねじ機構、ソレノイド、エアシリンダ等の直動機構を有しており、このような直動機構が昇降部材33をZ方向に移動させる。昇降機構51は制御ユニット90からの制御指令に応じて動作する。
昇降部材33の昇降によりベース部材35が上下動し、これと一体的に複数のリフトピン37が上下動する。これにより、移載ユニット30と支持トレイ15との間での基板Sの受け渡しが実現される。受け渡し動作については後に詳しく説明する。
図2はこの基板処理装置を含む基板処理システムにより実行される処理の一部を示すフローチャートである。この基板処理装置1は、前工程において洗浄液により洗浄された基板Sを乾燥させる目的に使用される。具体的には以下の通りである。前工程で基板Sが洗浄液に洗浄された後(ステップS101)、イソプロピルアルコール(IPA)による液膜が表面に形成された状態で(ステップS102)、基板処理装置1に搬送されてくる(ステップS103)。
例えば基板Sの表面に微細パターンが形成されている場合、基板Sに残留付着している液体の表面張力によってパターンの倒壊が生じるおそれがある。また、不完全な乾燥によって基板Sの表面にウォーターマークが残留する場合がある。また、基板S表面が外気に触れることで酸化等の変質を生じる場合がある。このような問題を未然に回避するために、基板Sの表面(パターン形成面)を液体または固体の表面層で覆った状態で搬送することがある。
例えば洗浄液が水を主成分とするものである場合には、これより表面張力が低く、かつ基板に対する腐食性が低い液体、例えばIPAやアセトン等の有機溶剤により液膜を形成した状態で搬送が実行される。すなわち、基板Sは水平状態に支持され、かつその上面に液膜L(図1)が形成された状態で、基板処理装置1に搬送されてくる。
基板Sは、パターン形成面を上面にして、しかも該上面が液膜Lに覆われた状態で支持トレイ15に載置され(ステップS104)、支持トレイ15および蓋部材13が一体的に(+Y)方向に移動する。これにより、基板Sを支持する支持トレイ15が処理チャンバ12内の処理空間SPに収容されるとともに、開口121が蓋部材13により閉塞される(ステップS105)。
このとき、基板Sの上面に担持された液膜Lが、開口121の上部に装着された液切り部材124に接触することで、液膜Lの厚さが調整される。すなわち、液切り部材124は、基板Sに担持された液膜Lのうち予め定められた所定厚さを超える部分の液体を基板Sから振り切ることにより、処理チャンバ12内に搬入される基板S上の液膜Lの厚さを適正化する。本明細書では、このような処理を「液切り処理」と称する。この実施形態では、基板Sが載置された支持トレイ15が処理チャンバ12内に進入する動作が、液切り処理を兼ねている。
支持トレイ15とともに基板Sが搬入され密閉された処理空間SPでは、超臨界乾燥処理が実行される(ステップS106)。超臨界乾燥処理の原理や具体的プロセスについては公知であるので詳しい説明を省略するが、処理空間SPに供給される超臨界状態の処理流体により液膜Lを構成する液体が置換され、処理流体が液相を介さずに昇華して排出されることで、基板Sは乾燥状態となる。この間、基板Sのパターン形成面が液相と気相との界面に曝されることがないので、液体の表面張力に起因するパターン倒壊の発生が防止される。
また、超臨界流体は表面張力が極めて低いため、表面に微細なパターンが形成された基板であってもパターン内部まで処理流体がよく回り込む。このため、パターン内部に残留する液体等を効率よく置換することができる。
基板Sを乾燥させるという処理の目的からは、除去すべき液体の残留量は少ない方が好ましい。すなわち、液膜Lの厚さは小さいほどよい。一方、処理前の基板Sの搬送中においては、基板Sの表面を確実に保護し、液体の揮発による基板S表面の露出を防ぐという観点から、液膜Lはある程度厚い方が好ましい。また、もし処理される基板ごとに液体の付着量が異なっているようなことがあれば、乾燥処理の結果にもばらつきを生じるおそれがある。
そこで、この実施形態では、基板Sが支持トレイ15に載置され、そこから水平移動で処理チャンバ12に収容される直前に、開口121を通過する基板S上で液切り処理を行う。これにより、支持トレイ15に載置されるまでは液膜Lにはある程度の厚さが許容される一方、処理チャンバ12内に搬入されるときの液膜Lの厚さは一定となっており、処理空間SPに過剰な液体が持ち込まれることも回避される。これにより、搬送中の基板の保護と、結果が良好で効率的な乾燥処理とを両立させることができる。
処理後の基板Sは後工程へ払い出される(ステップS107)。すなわち、蓋部材13が(-Y)方向へ移動することで支持トレイ15が処理チャンバ12から外部へ引き出され、移載ユニット30を介して外部の搬送装置へ基板Sが受け渡される。このとき、基板Sは乾燥した状態となっている。後工程の内容は任意である。
次に、この実施形態における液切り処理およびそれを可能とするための装置構成について、図3ないし図5を参照して説明する。図3は液切り処理を実行するための構成を示す斜視図である。より具体的には、図3(a)は処理ユニット10の主要部を示す斜視図であり、図3(b)は液切り部材124の構造を示す図である。また、図4は液切り部材の機能を説明する図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は部分断面図である。また、図5は液切り処理の様子を模式的に示す図である。
以下の説明においては、支持トレイ15の移動により水平搬送される基板Sの移動方向を「搬送方向Dt」と称する。この例では、搬送方向DtはY方向と一致する。また、搬送方向Dtと直交する水平方向を「幅方向Dw」と称する。この例では、幅方向DwはX方向に一致する。
図3(a)および図3(b)に示すように、液切り部材124は、処理空間SPに連通する開口121の上部に、X方向を長手方向として、また開口121の上端に垂れ下がるように設けられる。液切り部材124は、細長い帯状の金属板、例えばステンレス板をその長手方向と平行な方向を軸として折り曲げた形状を有している。その折り曲げ箇所より上部の上側部位124aには、処理チャンバ12の側面に液切り部材124を固定する固定ねじ125を取り付けるためのねじ穴124dが設けられている。
一方、折り曲げ箇所より下部の下側部位124bは、(-Y)側、つまり処理空間SPから外側へ向かうように斜め下方へ延びている。したがって、液切り部材124が処理チャンバ12に装着された状態では、下側部位124bの下端124cが(-Y)側、つまり処理空間SPから外側へ向かう方向に突出している。
図4(a)に示すように、基板Sの幅方向Dwにおいて、液切り部材124は基板Sよりも外側まで延びている。すなわち、液切り部材124の長さは基板Sの直径よりも大きく、液切り部材124の両端部のX方向位置は、基板SのX方向における両端部よりも外側にある。したがって、基板Sが処理空間SPに搬入されるとき、基板Sの上面は必ず液切り部材124の直下位置を通過することになる。
また図4(b)に示すように、鉛直方向においては、液切り部材124の下端124cは、水平面である処理空間SPの天井面12aよりも下方に突出し、しかも基板Sの上面Saの高さに対して一定のギャップGを有する位置に位置決めされている。このギャップGの大きさはX方向において一様である。ギャップGは、処理空間SPに搬入された時点における基板S上の液膜Lの厚さの適正値として予め定められた規定厚さに対応するように定められる。すなわち、支持トレイ15の上面(支持面)151と液切り部材124の下端124cとの間隔が、基板Sの厚さTsに液膜Lの規定厚さを加えた値と等しくなるように設定される。
したがって、支持トレイ15に載置された基板Sに担持された液膜Lの厚さが規定厚さを超えていれば、支持トレイ15とともに基板Sが処理空間SPに進入する際、液膜Lが液切り部材124に接触する。これにより、規定厚さを超える部分の過剰な液体が振り切られて液膜が薄層化される。その結果、処理空間SP内での液膜Lの厚さが最適化される。また、支持トレイ15に載置される段階では液膜Lは規定厚さより厚くてもよく、これにより搬送中に液体が揮発し基板Sの表面が露出するのを防止することができる。
処理空間SPの天井面12aは、液切り部材124の下端124cよりも上方にある。このため、基板Sとともに処理空間SPへ搬入された液膜Lが天井面124aに接触することはない。薄層化された液膜Lを構成する液体の一部が天井面12aに接触すると、基板Sの表面が部分的に露出したり、より極端には基板Sが天井面124に接触したりするおそれがあるが、このような問題は未然に回避されている。
図1および図3(a)に示すように、液切り部材124は、開口121の周囲を囲む環状のシール部材122の配設位置よりも内側、つまり開口121に近い側に設けられている。したがって、蓋部材13が開口121を閉塞するとき、液切り部材124は、処理チャンバ12の内部、つまり処理空間SPと連通する空間の内部に封入されることになる。超臨界乾燥処理では処理空間SPは高圧状態となるため、液切り部材124にはこの圧力に耐えるだけの強度が求められる。処理流体として超臨界状態の二酸化炭素を用いる場合には、例えば厚さ1mm程度のステンレス板を用いて液切り部材124を形成することができる。
次に、図5(a)ないし図5(d)を参照し、基板Sの受け渡しにおける各部の動作について説明する。装置の初期状態は図1に示されている。この状態から、外部から搬入される基板Sを受け取るとき、図5(a)に示すように、蓋部材13が(-Y)側に移動して支持トレイ15が処理チャンバ12から引き出される。このときの支持トレイ15の位置を、以下では「引き出し位置」と称する。また、昇降部材33が上昇することでリフトピン27が支持トレイ15の上面(支持面)151より突出した状態となる。
基板Sは、上面Saに液膜Lを担持し、かつ外部の搬送装置に設けられたハンドHにより保持された状態で搬送されてくる。リフトピン37がハンドHの上面よりも上方まで突出することで、基板SはハンドHからリフトピン37に受け渡される。ハンドHとリフトピン37とは互いに干渉しないように形状および配置が定められる。この状態で、ハンドHは側方へ退避することができる。図5(b)に示すように、昇降部材33が下降することで、リフトピン37により支持される基板Sが下降する。
最終的には図5(c)に示すように、基板Sの下面が支持面151に当接し、リフトピン37が支持面151よりも下方まで下降することで、基板Sはリフトピン37から支持トレイ15へ受け渡される。このようにして、外部搬送装置から支持トレイ15へ基板Sが受け渡される。その後、図5(d)に示すように、蓋部材13が(+Y)方向へ移動することで、支持トレイ15とともに基板Sが処理チャンバ12の処理空間SPに収容される。
このとき、基板Sに担持された液膜Lのうち、適正厚さを超える部分の液体が液切り部材124により振り切られる。液切り部材124の下端が処理空間SPから見て開口121よりも外側に位置しているため、振り切られた液体が基板Sから落下しても処理空間SP内に進入することは回避される。落下した液体は支持トレイ15へ流れ液滴Ldとなって下方へ落下するが、最終的に移載ユニット30の平板状のベース部材35により受け止められる。このように、過剰な液体については処理空間SPの外部で処理することが可能である。
処理後の基板Sの搬出は、上記とは逆の動きとなる。すなわち、図5(c)に示すように、処理後の基板Sが支持トレイ15とともに処理チャンバ12から引き出された後、昇降部材33が上昇することで、リフトピン27が基板Sを支持トレイ15から持ち上げる。そして、図5(a)に示すように、外部から進入してくるハンドHにリフトピン37から基板Sを受け渡すことで、基板SはハンドHにより保持されることとなる。ハンドHが基板Sを外部へ搬出することで、基板Sは基板処理装置1から払い出される。このときには基板Sは乾燥状態となっており、液膜Lは存在しない。
図6は液切り部材の変形例を示す図である。上記実施形態の液切り部材124は、金属製の平板を折り曲げた構造を有しているが、これに代えて、図6(a)ないし図6(c)に示す効能のものが用いられてもよい。図6(a)に示す変形例の液切り部材124Aは、その下端部がナイフ状に先鋭化されている。このような形状とすることで、液切り効果の向上を図ることができる。
一方、図6(b)に示す変形例の液切り部材124Bはより単純な形状を有している。すなわち、この液切り部材124Bは矩形の断面形状を有する板状体である。このような形状であっても、液膜Lから過剰な液体を除去する液切り機能を有している。さらに、図6(c)に示す変形例の液切り部材124Cでは、その下端が先鋭化されている。こうすることにより、液切り効果をさらに高めることができる。
図7は液切り効果を他の構造により得るための変形例を示す図である。上記実施形態および変形例では、処理チャンバ12に各種形状の液切り部材が装着されている。これに代えて、処理チャンバの形状自体を工夫することで、上記と同様の液切り効果を得ることも可能である。
図7(a)に示す変形例の処理チャンバ12Aでは、開口121から下方へ垂下するように設けられた液切り部位126Aは、処理チャンバ12Aと一体的に形成されている。なお、液切り部位126Aの(-Y)側端面が、開口121よりも(-Y)側に突出する形状であることがより好ましい。また、図7(b)に示す変形例の処理チャンバ12Bでは、下端が先鋭化され、かつ(-Y)側に突出した液切り部位126Bが設けられている。これらの形状の液切り部位を設けることによっても、上記実施形態と同様の液切り効果を得ることが可能である。
これらの例ではいずれも、液切り部位126A,126Bの下端が処理空間SPの天井面12aよりも下方に突出している。言い換えれば、外部空間側から開口を介して処理空間SPを見たとき、開口の上端部よりも、その奥の天井面の方が高くなっている。このような構造は、以下のようにして実現可能である。ここでは図7(b)に示す処理チャンバ12Bを例として説明するが、同じ原理で他の形状も実現可能である。
処理チャンバ12Bを単一のブロックから削り出して製造するとき、上記のように開口サイズよりもその奥の断面サイズの方が大きい形状を実現することは容易ではない。しかしながら、図7(c)に示すように、処理空間SP以外に、流体供給部57から供給される処理流体を処理空間SPに案内する流路127Bが形成されることまでを考慮すれば、処理チャンバ12Bは2つのピース128B,129Bに分割することが可能である。2つのピース128B,129Bはそれぞれ、例えば金属ブロックからの削り出しにより製造可能である。このようにすれば、開口サイズと処理空間の断面サイズとは互いに独立して定めることが可能であり、上記のような形状を実現することも難しくはない。
以上説明したように、上記実施形態においては、蓋部材13、支持トレイ15および昇降機構51が、それぞれ本発明の「蓋部」、「支持部」および「移動部」として機能している。また、液切り部材124,124A,124B,124C、液切り部位126A,126Bが、いずれも本発明の「液切り部位」に相当するものである。
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記した液切り部材(あるいは液切り部位)の断面形状は、一部の例を示したものであって、上記以外にも各所の形状を採ることが可能である。ここで考慮すべきは以下の点である。すなわち、液切り部位の断面形状によっては、液体の一部が、その表面張力により液切り部位の下面に沿って回り込み、処理空間SPの天井面12aに付着してしまうおそれがある。液膜の形成に用いられる液体は本質的に表面張力が比較的低いものではあるが、その回り込みを防止するために、液切り部位のうち処理空間SPに臨む側の端面については、液面に対し比較的大きい角度で接するように構成されることが好ましい。
また例えば、上記実施形態の液切り部材124等は処理チャンバ12等に対する取り付け位置が固定されているが、例えば基板の厚さや残留させるべき液膜の厚さに応じて、液切り部材の取り付け位置を鉛直方向に調整可能な構造としてもよい。
また例えば、上記実施形態の処理チャンバ12は内部の処理空間SPで超臨界乾燥処理を実行するものである。しかしながら、本発明の技術思想はこれ以外の基板処理に対しても適用可能なものである。すなわち、基板がその上面を液膜で覆った状態で搬入される各種の処理に、本発明を適用可能である。そのような処理としては、例えば超臨界流体を用いず、液膜を直接乾燥させる乾燥処理や、液膜を構成する液体を凍結させてから昇華させる昇華乾燥処理などにも、本発明を適用可能である。
また、上記実施形態における基板Sの受け渡しでは、外部の搬送装置が基板SをY方向に搬送する。このため、リフトピン37は蓋部材13の上端部よりも上方で基板Sを支持する必要がある。これに代えて、例えば基板がX方向に搬送される構成とすれば、基板Sが蓋部材13の上方を通る必要がなくなり、リフトピン37はより低い位置で基板Sを支持することができれば足りる。
また、上記実施形態では、支持トレイ15が蓋部材13の側面に取り付けられておりこれらが一体的に移動するが、これに限定されない。例えば、蓋部材とは独立して支持トレイが移動可能な構成であってもよい。この場合、蓋部材は処理チャンバの開口に対して開閉自在に取り付けられる扉状の部材であってもよい。
また、上記実施形態の処理で使用される各種の化学物質は一部の例を示したものであり、上記した本発明の技術思想に合致するものであれば、これに代えて種々のものを使用することが可能である。
以上、具体的な実施形態を例示して説明してきたように、本発明に係る基板処理装置においては、例えば液切り部位の下端は、処理空間側から見て開口よりも外側に突出していてもよい。このような構成によれば、液切り部位により振り切られた液体が処理空間に流入するのを防止することができる。
また例えば、液切り部位は、開口に取り付けられた、幅方向を長手方向とする平板状部材であってもよい。すなわち、液切り部位は、処理チャンバとは別体として形成され処理チャンバに取り付けられたものであってよい。この場合、開口の上端は処理空間の天井面と同一の連続した水平面にあり、平板状部材の下端が開口の上端よりも下方に延びている構成とすることができる。このような構成によれば、処理空間の天井面から開口の上端までを同一平面として形成することができるので、製造が容易である。
あるいは例えば、液切り部位は、処理チャンバと一体に形成されてもよい。すなわち、開口の上端近傍において処理チャンバの一部が下方へ延びるような形状とすることで当該部位を液切り部位として機能させることが可能である。この場合、液切り部位が処理チャンバと一体形成されるので、機械的強度の点で有利である。特に、処理空間が高圧となる場合には、このような一体構造とすることで高圧に耐える構造を実現することが可能となる。
また例えば、基板を支持する支持部が処理空間に収容された状態で開口を閉塞する蓋部と、蓋部を処理チャンバに対し相対的に進退移動させて、蓋部が開口を閉塞する閉塞状態と、蓋部が開口から離間した離間状態とを切り替える移動部とがさらに設けられてもよい。このような構成によれば、蓋部が開口を閉塞することで処理空間を密閉することができる一方、蓋部が開口から離間することで、処理空間に対する基板の搬入・搬出が可能となる。
この場合さらに、例えば支持部が蓋部に取り付けられ、移動部は蓋部と支持部とを一体的に処理チャンバに対し相対移動させる構成としてもよい。このような構成によれば、開口に対する蓋部の開閉動作が、支持部に載置された基板を処理空間に対し搬入・搬出する動作を兼ねるとともに、さらに基板から過剰な液体を振り切る液切り処理も兼ねることとなる。これにより、各部の移動のための機構を簡素化することができる。
ここで、閉塞状態においては、液切り部位が処理空間と連通する空間に収容される構造であってもよい。基板の搬入時には開口の近傍に配置される液切り部位を、開口が閉塞されるときに処理空間から隔絶させる、つまり処理チャンバの外部へ退避させるためには複雑な移動機構が必要となるが、閉塞状態でも処理チャンバ内に残留させるようにすれば、そのような機構を省くことが可能となる。
また、本発明に係る基板処理装置は、処理空間へ処理流体を供給する流体供給部をさらに備え、処理空間内で超臨界状態の処理流体により基板を処理するものであってもよい。超臨界状態の処理流体は各種の液体に比べて表面張力が極めて低く、例えば微細パターンが形成された基板でも、パターン内部に残留する液体等を効率よく置換し除去する能力を有している。また、超臨界状態から液相を介さずに気化させることで、気液界面に曝されることに起因するパターン倒壊を防止することができる。
このような処理を行うための基板処理装置に、本発明を好適に適用することが可能である。このような超臨界状態を比較的容易に実現しやすい処理流体としては例えば二酸化炭素があり、この場合、液膜を構成する液体としては有機溶剤を用いることが可能である。