JP7370436B1 - 植生地盤の温度制御方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】グローライトを用いて育成を行う場合に、より高精度での植生地盤の温度制御を提供する。【解決手段】グローライト10の照射領域の植生地盤内に敷設された、加熱及び冷却の少なくとも一方を行う温度調節体により、地盤表層領域Xの温度を制御する温度制御方法であって、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライト10の照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、地盤表層領域の地中温度の予測値を求め、この地盤表層領域の地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながら温度調節体を制御するものであり、グローライト10の照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な地中温度計により、地盤表層領域Xの地中温度を計測し、地中温度計で計測した地中温度の実測値に基づいて、地盤表層領域Xの地中温度の予測値を補正し、補正工程で補正した地中温度のデータに基づいて温度調節体を制御する。【選択図】図1
Description
本発明は、特に芝生が植えられた競技場などにおいて、グローライト(育成用の補光照明)を用いて育成を行う場合の植生地盤の温度制御方法に関する。
近年、例えばサッカー場、グランド、ゴルフ場などの競技場における芝生が植生された土壌では、日照り不足や季節による気温低下、降雨や夜間等の一時的な温度低下等による芝生への影響や、各種競技による芝荒れ、積雪、霜の影響や除雪などを目的として、地盤中に熱媒体を循環させるパイプを埋設し、芝にとって生育しやすい環境を人工的に作り、芝の育成を助けることが行われている。
この場合、温度制御の精度は芝の育成に直接影響するため重要である。本出願人においても、よりよい温度制御を実現する技術を開発してきた(例えば、特許文献1~3参照)。
しかし、近年では、芝生の育成を促進するためにグローライトが用いられることがあり、このグローライトにより地温が上昇して、温度制御の精度が低下するおそれが危惧される。
本出願人が、競技場の日陰ゾーンにグローライト(ナトリウムランプ)の照射ゾーン及び非照射ゾーンを設け、それぞれの地中-30cmの温度を熱電対により測定したところ、グローライトの照射ゾーンは非照射ゾーンに比べて1~2℃程度温度が上昇しており、温度制御の精度低下が予測される。
グローライトの利用は、天候による日照不足を解消するため、あるいは観客席の屋根や開閉式の屋根等による日陰の影響を低減するためなど、現代の競技場での芝生の育成には必要不可欠なものとなっており、温度制御への悪影響は低減する必要がある。
そこで、本出願人は特許文献4を発明した。この発明は、植生地盤上からグローライトを照射しつつ、このグローライトの照射領域の植生地盤内に敷設されたパイプ中に熱媒体を供給することにより、地盤表層領域の温度を制御する温度制御方法において、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライトの照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、地盤表層領域の温度を求め、この地盤表層領域の地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながらパイプに供給される熱媒体を制御する、というものである。
しかし、特許文献4の発明において熱伝導解析により求められた地盤表層領域の温度は、あくまでも予測値であるため、実際の地盤表層領域の温度とは数度程度の相違が生じることがあった。
そこで、本発明の主たる課題は、グローライトを用いて育成を行う場合に、より高精度での植生地盤の温度制御を可能にすることにある。
上記課題を解決した植生地盤の温度制御方法は以下のとおりである。
<第1の態様>
グローライトを植生地盤上から照射しつつ、このグローライトの照射領域の植生地盤内に敷設された、加熱及び冷却の少なくとも一方を行う温度調節体により、地盤表層領域の温度を制御する温度制御方法であって、
前記温度制御方法は、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライトの照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求め、この地盤表層領域の地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながら前記温度調節体を制御するものであり、
前記温度制御方法は、前記予測値を補正する補正工程を有し、
前記補正工程は、前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な地中温度計により、地盤表層領域の地中温度を計測し、前記地中温度計で計測した地中温度の実測値に基づいて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を補正し、
前記補正工程で補正した地中温度のデータに基づいて前記温度調節体を制御する、
ことを特徴とする植生地盤の温度制御方法。
<第1の態様>
グローライトを植生地盤上から照射しつつ、このグローライトの照射領域の植生地盤内に敷設された、加熱及び冷却の少なくとも一方を行う温度調節体により、地盤表層領域の温度を制御する温度制御方法であって、
前記温度制御方法は、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライトの照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求め、この地盤表層領域の地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながら前記温度調節体を制御するものであり、
前記温度制御方法は、前記予測値を補正する補正工程を有し、
前記補正工程は、前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な地中温度計により、地盤表層領域の地中温度を計測し、前記地中温度計で計測した地中温度の実測値に基づいて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を補正し、
前記補正工程で補正した地中温度のデータに基づいて前記温度調節体を制御する、
ことを特徴とする植生地盤の温度制御方法。
(作用効果)
屋外競技場や開閉式屋根を有する競技場等では、日光の照射環境下で、補光を目的として植生地盤上からグローライトを照射することがある。本態様では、このようにグローライトを照射する場合において、熱伝導解析により求められる地盤表層領域の地中温度の予測値を、地中温度計で計測した地盤表層領域の地中温度の実測値を用いて補正することで、前記特許文献4よりもさらに高精度な地盤の温度制御が可能となる。
屋外競技場や開閉式屋根を有する競技場等では、日光の照射環境下で、補光を目的として植生地盤上からグローライトを照射することがある。本態様では、このようにグローライトを照射する場合において、熱伝導解析により求められる地盤表層領域の地中温度の予測値を、地中温度計で計測した地盤表層領域の地中温度の実測値を用いて補正することで、前記特許文献4よりもさらに高精度な地盤の温度制御が可能となる。
なお、前記予測値の補正は所定時間ごと(例えば1時間ごと)に定期的に行うことが好ましい。この補正を定期的に行うことで、予測値が実際の地中温度と異なる状態が長く続くことを避けることができるため、高精度な地盤の温度制御が可能となる。
<第2の態様>
前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な日射量計測器により、前記グローライトの照射領域の植生地盤上の日射量を計測し、前記日射量計測器で計測した日射量を前記環境データに含ませて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求める、
前記第1の態様の植生地盤の温度制御方法。
前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な日射量計測器により、前記グローライトの照射領域の植生地盤上の日射量を計測し、前記日射量計測器で計測した日射量を前記環境データに含ませて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求める、
前記第1の態様の植生地盤の温度制御方法。
(作用効果)
グローライトの照射領域から離れた箇所(例えば特許文献3のようなサッカー場のフィールドの外側の箇所)に常設の日射量計測器を取り付け、その箇所で計測した日射量をグローライト照射領域の日射量と推定した場合、その推定値はグローライトの照射領域の日射量を正確に表していないという問題がある。すなわち、前述の日射量の推定値は、スタジアムの屋根の影の影響やグローライトから照射される光量などの影響などを考慮に入れられておらず、正確性に欠けるという問題がある。
グローライトの照射領域から離れた箇所(例えば特許文献3のようなサッカー場のフィールドの外側の箇所)に常設の日射量計測器を取り付け、その箇所で計測した日射量をグローライト照射領域の日射量と推定した場合、その推定値はグローライトの照射領域の日射量を正確に表していないという問題がある。すなわち、前述の日射量の推定値は、スタジアムの屋根の影の影響やグローライトから照射される光量などの影響などを考慮に入れられておらず、正確性に欠けるという問題がある。
そこで本態様では、グローライトの照射領域に持ち運び可能な日射量計測器を取り付け、当該照射領域の日射量を直接計測することによって正確な日射量を把握している。その結果、日射量を用いて求められるグローライトの照射領域の地盤表層領域の地中温度の予測値を、実際の地中温度に近いものとすることができる。
<第3の態様>
前記外気温度及び外気湿度は、前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な温湿度計測器により計測され、前記温湿度計測器で計測された前記グローライトの照射領域の植生地盤上の外気温度及び外気湿度を前記環境データに含ませて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求める、
前記第1の態様の植生地盤の温度制御方法。
前記外気温度及び外気湿度は、前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な温湿度計測器により計測され、前記温湿度計測器で計測された前記グローライトの照射領域の植生地盤上の外気温度及び外気湿度を前記環境データに含ませて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求める、
前記第1の態様の植生地盤の温度制御方法。
(作用効果)
前記第2の態様と同様の作用効果を有する。
すなわち、グローライトの照射領域においては、スタジアムの屋根の影の影響やグローライトから照射される光の熱量の影響などにより、例えばサッカー場のフィールドの外側の箇所とは温度や湿度が異なることが多い。
前記第2の態様と同様の作用効果を有する。
すなわち、グローライトの照射領域においては、スタジアムの屋根の影の影響やグローライトから照射される光の熱量の影響などにより、例えばサッカー場のフィールドの外側の箇所とは温度や湿度が異なることが多い。
そこで本態様では、グローライトの照射領域に持ち運び可能な温湿度計測器を取り付け、当該照射領域の外気温度及び外気湿度を直接計測することによって正確な値を把握している。その結果、外気温度及び外気湿度を用いて求められるグローライトの照射領域の地盤表層領域の地中温度の予測値を、実際の地中温度に近いものとすることができる。
<第4の態様>
前記植生地盤を複数の制御ゾーンに区画するとともに、各制御ゾーンに前記温度調節体を独立的に配置し、制御ゾーンごとに独立して前記地盤表層領域の温度制御を可能とし、
前記制御ゾーンのうち、グローライトを照射する照射ゾーン及びグローライトを照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、前記植生地盤にグローライトを照射し、
前記持ち運び可能な地中温度計は前記照射ゾーンに取り付けられ、
前記照射ゾーンが切り替わる度に旧照射ゾーンから取り外されて新たな照射ゾーンに取り付けられる、
前記第1の態様の植生地盤の温度制御方法。
前記植生地盤を複数の制御ゾーンに区画するとともに、各制御ゾーンに前記温度調節体を独立的に配置し、制御ゾーンごとに独立して前記地盤表層領域の温度制御を可能とし、
前記制御ゾーンのうち、グローライトを照射する照射ゾーン及びグローライトを照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、前記植生地盤にグローライトを照射し、
前記持ち運び可能な地中温度計は前記照射ゾーンに取り付けられ、
前記照射ゾーンが切り替わる度に旧照射ゾーンから取り外されて新たな照射ゾーンに取り付けられる、
前記第1の態様の植生地盤の温度制御方法。
(作用効果)
競技場のような広大な面積の植生地盤に対しグローライトを照射する場合、植生地盤の全体にグローライトを設置することは不可能ではないが、通常は、効率及び経済性を考慮して、植生地盤を複数のゾーンに区画し、グローライトを照射する照射ゾーン及びグローライトを照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライトを照射することが一般的である。
競技場のような広大な面積の植生地盤に対しグローライトを照射する場合、植生地盤の全体にグローライトを設置することは不可能ではないが、通常は、効率及び経済性を考慮して、植生地盤を複数のゾーンに区画し、グローライトを照射する照射ゾーン及びグローライトを照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライトを照射することが一般的である。
このとき、地中温度計を照射ゾーンに取り付け、照射ゾーンが切り替わる度に旧照射ゾーンから取り外して新たな照射ゾーンに取り付けるようにすることができる。このような方法を用いることで、照射ゾーンだけでなく非照射ゾーンにも地中温度計を設ける必要が無くなるため、地中温度計を用意する費用を抑えることができる。このように費用を抑えつつも、グローライトの照射ゾーンの地中温度を確実に計測できるため、前記第1の態様のように、地中温度の予測値を適切に補正することができる。
本発明によれば、グローライトを用いて育成を行う場合に、より高精度での植生地盤の温度制御が可能になる。
〔植生地盤及び装置等の構成〕
前述のように、競技場のような広大な面積の植生地盤に対しグローライトを照射する場合、植生地盤の全体にグローライトを設置することは不可能ではないが、通常は、効率及び経済性を考慮して、植生地盤を複数のゾーンに区画し、グローライトを照射する照射ゾーン及びグローライトを照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライトを照射することが一般的である。これにより、グローライトの使用数を減らしつつ、効率よく植生地盤の育成促進を図ることができる。グローライトの照射パターンは公知のものを限定なく利用できる。例えば、図1~図3に示すサッカーフィールドの場合、サッカーフィールドを平面的に3つの同時照射ゾーン(後述する制御ゾーンA~D、E~H、I~L)に区画し、表1に示す照射計画(タイムテーブル)に従って、図1(a)~(c)のグローライト10の設置位置の変更を1周期(各同時照射ゾーンにおける照射時間を8時間として合計24時間)として繰り返すことにより、グローライト10を照射する照射ゾーン及びグローライト10を照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライト10を照射することができる。
前述のように、競技場のような広大な面積の植生地盤に対しグローライトを照射する場合、植生地盤の全体にグローライトを設置することは不可能ではないが、通常は、効率及び経済性を考慮して、植生地盤を複数のゾーンに区画し、グローライトを照射する照射ゾーン及びグローライトを照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライトを照射することが一般的である。これにより、グローライトの使用数を減らしつつ、効率よく植生地盤の育成促進を図ることができる。グローライトの照射パターンは公知のものを限定なく利用できる。例えば、図1~図3に示すサッカーフィールドの場合、サッカーフィールドを平面的に3つの同時照射ゾーン(後述する制御ゾーンA~D、E~H、I~L)に区画し、表1に示す照射計画(タイムテーブル)に従って、図1(a)~(c)のグローライト10の設置位置の変更を1周期(各同時照射ゾーンにおける照射時間を8時間として合計24時間)として繰り返すことにより、グローライト10を照射する照射ゾーン及びグローライト10を照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライト10を照射することができる。
グローライト10としては、架台に下向きに多数のナトリウムランプ又はLEDライトが横並びで取り付けられたもの等、市販のものを特に限定なく用いることができる。
グローライト10の照射領域の植生地盤内には、加熱及び冷却の少なくとも一方を行う温度調節体が敷設される。温度調節体は、電熱線式のもの等、公知の物を特に限定なく用いることができるが、加熱及び冷却のいずれにも適用可能である点で、図4等に示す例のように、植生地盤内に敷設されたパイプ1中に熱媒体を供給するものであると好ましい。フィールドの地盤構成は特に限定されるものではないが、例えばサッカーフィールドでは、図4に示されるように、散水車、芝生カッター車などの管理車が往来するため、地盤の沈下や轍掘などを防止するとともに、水はけを考慮して、上層側より細砂層2、粗砂層3、玉砂利層4の3層構成となっていると好ましい。熱媒体を循環させるためのパイプ1の埋設深さは特に限定されるものではないが、地盤の表層近傍に埋設したのでは管理車による上載荷重や槍投げ、ハンマー投げなどの競技の際に変形、破裂することがあるため、地表面下数十cmの安全な深さに埋設することが望ましい。通常の場合、地盤表面からパイプの敷設位置までの深さhは、概ね15~35cm、好ましくは25~30cm程度とすることができる。またパイプ1は、制御ゾーンの全体を可能な限り均一に加熱するために、制御ゾーンの全体にわたり同一平面内で敷き巡らすようにして敷設することが望ましい。また、パイプ1の設置間隔Pは通常の場合15~60cm程度とすることが望ましい。
パイプ1には、図示しない熱源操作手段により所定温度の温水又は冷水等の熱媒体(熱媒及び冷媒の両者を指す。)が供給循環されるようになっている。他の熱媒体としては、例えば高温熱媒体としては、蒸気、高温ガスなどを用いることができるし、また低温熱媒体としてはフロンガス、ブライン、アンモニアなどを用いることができる。パイプ1に供給される熱媒体は、周囲の地盤との熱交換により次第に温度上昇又は温度降下することになるが、敷設されたパイプ1の流路途中に、所定温度の熱媒体が貯留された補助熱媒体槽を設けたり、あるいは加熱/冷却コイル等の熱媒体に対する加熱/冷却手段を設けたりすることにより熱媒体の温度を元の基準温度に回復させることができる。
フィールド全体に対して温度調節体を一系統のみ設け、サッカーフィールド全体を共通的に温度制御することもできる。しかし、グローライト10を照射する照射ゾーン及びグローライト10を照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライト10を照射する場合、グローライト10の影響はフィールドの場所によって異なる。また、日照の影響もフィールドの場所によって異なる。そこで、図1~図3に示したように、植生地盤を複数の制御ゾーンA~Lに区画するとともに、各制御ゾーンA~Lに温度調節体を独立的に配置し、制御ゾーンA~Lごとに独立して地盤表層領域Xの温度制御を可能にすることが好ましい。これにより、グローライト10の同時照射ゾーン(一つの制御ゾーン又は複数の隣接する制御ゾーン)を定め、同時照射ゾーンにおけるグローライト10の照射の有無を加味して独立して温度制御を行うことができる。
また、地盤深さ方向には、解析精度向上のために計算地中温度との比較や熱伝導率の同定のために適宜の間隔で熱電対5などの地中温度計を埋設してもよい。この場合、熱電対5は、各ゾーンA~Lに対応させて1ゾーン当り、例えば2~3箇所とし、管理車による上載荷重や槍投げ、ハンマー投げなどの競技を考慮して地表面下十数cmまでの領域(地盤表層領域X)には埋設しない方がよいため、パイプ1と同じ深さ位置とこれより深い位置に適宜の間隔で複数個埋設することが望ましい。図4に示した例では、深さ方向に計3個の熱電対5を設置してある。熱電対5に代えて光ファイバーなどを使用することもできる。なお、地盤表層領域Xとは、地表面から地表面下十数cmまでの間の領域をいい、具体的には地表面と地表面から下方へ約10~15cm離れた位置との間の領域をいう。
また、サッカーフィールドのグローライトの照射領域の植生地盤上には、地盤の種々の環境データを測定するための環境データ計測機器ユニット9を設置することが好ましい。この環境データ計測機器ユニット9は容易に持ち運びできかつ容易に植生地盤に設置できるものが好ましい。例えば図5に示したように、測定対象の植生地盤にポール55を差し込んで設置するものであり、このポール55に対して日射計40、外気温湿度計50、地中温度計51をそれぞれ取り付けたものを用いることができる。
なお、日射量は植生地盤の地中温度に大きな影響を及ぼすため、日射計40をグローライトの照射領域の植生地盤から離れた箇所に設置するのではなく、環境データ計測機器ユニット9の一部として日射計40をグローライトの照射領域の植生地盤上に取り付け、グローライトの照射領域の植生地盤上の日射量を直接計測することが好ましい。
また、後で詳述するが、地盤表層領域Xの地中温度の予測値を補正するためにはグローライトの照射領域の地盤表層領域Xの地中温度の実測値が必要になる。そのため、環境データ計測機器ユニット9の一部として地中温度計51をグローライトの照射領域の植生地盤上に取り付け、グローライトの照射領域の植生地盤内の地中温度を直接計測することが好ましい。
反対に、外気温湿度計50は、外気の温度および湿度を計測するものであるが、必ずしも環境データ計測機器ユニット9の一部とする必要はなく、グローライトの照射領域の植生地盤から離れた場所、例えばサッカーフィールド脇の地盤上に設けても良い。ただし外気温湿度計50を環境データ計測機器ユニット9の一部とし、測定対象の植生地盤上に設けるようにすると、後述の地盤表層領域Xの地中温度の予測値の精度を高めることができるため、好ましい。なお、図5の例では外気の温度と湿度の両方を計測できる外気温湿度計50を用いているが、外気温度と外気湿度を別々の機器を用いて計測するようにしても良い。
以上のように、環境データ計測機器ユニット9には、少なくとも日射計40及び地中温度計51を搭載することが好ましいが、風速計43、風向計44、雨量計45などの他の機器を搭載しても良い。また、図5のように環境データ計測機器ユニット9としてそれぞれの機器を一体化すると持ち運び及び設置が容易であるという利点があるが、必ずしもこのような形態に限られるものではなく、日射計40、外気温湿度計50、地中温度計51などをそれぞれ別々に測定対象の植生地盤に設置する形態にしてもよい。
なお、前記環境データ計測機器ユニット9は、例えば図1~図3の例において、同時照射ゾーン(制御ゾーンA~D、E~H、I~L)における各ゾーンのすべてに設けても良いが、必ずしもすべてのゾーンに設ける必要はない。すなわち、図1のように制御ゾーンA~Dにグローライトを照射しているときに、各制御ゾーンA、B、C、Dのすべてにそれぞれ環境データ計測機器ユニット9を設けるようにしても良いが、同時照射ゾーンをいくつかに区分けし、例えば制御ゾーンAまたはBに一台の環境データ計測機器ユニット9を設け、制御ゾーンCまたはDに一台の環境データ計測機器ユニット9を設けるようにしてもよい。同時照射ゾーンをいくつかに区分けする際は、例えばスタジアムにおける屋根の影の状態などを考慮し、同じような環境(日射量、外気温湿度、地中温度)の箇所を一括りとすることが好ましい。各制御ゾーンA、B、C、Dのすべてにそれぞれ環境データ計測機器ユニット9を設けないようにすることで、環境データ計測機器ユニット9の設置数を減らすことができるため、当該ユニット9に係るイニシャルコストを削減することができる。
環境データ計測機器ユニット9は、原則としてグローライトの照射領域に設けることが好ましい。グローライトの照射領域において、地中温度の制御を行い、グローライトの非照射領域においては、地中温度の制御を行わないからである。そのため、例えば図1の状態から図2の状態へグローライトの照射領域を変える際は、制御ゾーンA~D(旧制御ゾーン)に取り付けていた環境データ計測機器ユニット9を取り外し、その取り外した計測機器ユニット9を新たな制御ゾーンE~Hに設置するようにすることが好ましい。
ただし、グローライトの非照射領域においても地中温度の制御を行う場合は、グローライトの非照射領域にも環境データ計測機器ユニット9を設け、日射量や地中温度等を計測するようにすることが好ましい。グローライトの照射領域と非照射領域の両方に環境データ計測機器ユニット9を設けることで、地盤表層領域Xの温度制御の精度が同じにすることができるからである。
ただし、グローライトの非照射領域ではグローライトの影響がないため、グローライトの照射領域よりも地盤表層領域Xの地中温度を予測しやすい。そのため、グローライトの非照射領域には環境データ計測機器ユニット9を多く設ける必要はなく、例えば、図1のように制御ゾーンA~Dにグローライトを照射している際は、ゾーンE~Hのいずれかのゾーンに環境データ計測機器ユニット9を1つ設け、ゾーンI~Lのいずれかのゾーンにも環境データ計測機器ユニット9を1つの設けるようにすればよい。
温度制御を行うためのシステム構成は特に限定されるものではないが、例えば図6に示すシステム構成を採用することができる。すなわち、環境データ計測機器ユニット9によって計測された外部環境の計測データ(日射量、外気温度、外気湿度、風速、風向き、雨量などをいい、以下「環境データ」という)や、地中に埋設された熱電対5による地中温度の計測データは制御コンピュータ52に入力される。また、グローライト10の照射データ(照射計画及び照射量)も制御コンピュータ52に予め入力される。制御コンピュータ52では、これらの情報を基に、後述する熱伝導解析により熱電対5を埋設できない地盤表層領域Xの地中温度を求め、この計算地中温度に基づいて後述する最適制御計算を実行して各ゾーンの通液計画を立案する。そして、この通液計画に基づいて制御器53により各ゾーンへの通液を制御する制御弁に対して指令を発する。
例えば、グローライト10の照射領域で温度制御を行う場合、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライト10の照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、地盤表層領域Xの温度を求め、この地盤表層領域Xの地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながらパイプ1に供給される熱媒体を制御する。屋外競技場や開閉式屋根を有する競技場などにおいて、日光の照射環境下等で、補光を目的として植生地盤上からグローライト10を照射する場合は、環境データに日射計40による計測データを含めて熱伝導解析を行うことが好ましい。
グローライト10を照射する照射ゾーン及びグローライト10を照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、植生地盤にグローライト10を照射する場合、各ゾーンに温度調節体を独立的に設置し、照射ゾーンの温度制御では、グローライト10の照射データを境界条件として含む熱伝導解析に基づいて温度制御を行い、非照射ゾーンの温度制御では、グローライト10の照射データを境界条件として含まない(又は照射ゾーンよりも少ない照射量に補正されたグローライト10の照射データを境界条件として含むようにしてもよい)熱伝導解析に基づいて温度制御を行うことができる。これにより、より高精度な温度制御が可能となる。
グローライト10の照射開始から照射終了までの全時間帯で、グローライト10を加味した制御を行うほか、グローライト10の照射開始から照射終了までの一部の時間帯のみ、グローライト10を加味した制御を行うこともできる。例えば、グローライト10の照射開始から所定時間経過するまでは、グローライト10の影響が少ないため、グローライト10を加味した制御を行わず、所定時間経過後からグローライト10の照射終了まで、グローライト10を加味した制御を行うようにしてもよい。
以上のように、グローライト10の影響を加味して温度制御を行うこと以外は、特に限定されるものではない。例えば特許文献1~3記載の温度制御をベースとして、グローライト10の影響を加味した温度制御を行ってもよい。
例えば、特許文献3記載の温度制御において、グローライト10の影響を加味する場合は次のようになる。すなわち、植生地盤の温度制御を開始するに当たって、制御コンピュータ52に記憶された過去の計測データとグローライト10の照射データとに基づいて、過去の所定時刻から現在に至る時刻歴に従って仮想的熱伝導解析を実行し、求められた現時刻での地盤表層領域の温度を温度制御開始時における地盤表層領域Xの温度初期条件として設定し、以降は、環境データ計測機器ユニット9によって計測した環境データとグローライト10の照射データとを境界条件とする熱伝導解析により、熱電対5を埋設していない地盤表層領域Xの温度を求め、この地盤表層領域Xの地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながらパイプ1に供給される熱媒体を制御することができる。
この場合、環境データ計測機器ユニット9による環境データの計測は、地温制御を行っている以外にも、定常的、若しくは地温制御を開始する数日前、具体的には2~5日前から行うようにし、計測された環境データを制御コンピュータ52に記憶しておくことが必要になる。同様に、グローライトの照射データも、過去の分を制御コンピュータ52に記憶しておくことが必要になる。
以下、特許文献3記載の温度制御への適用例の解析・制御手法について、より詳細に説明する。他の温度制御へ適用する際の変更については当業者であれば以下の説明から容易に理解できるであろう。
〔ステップ1〕…仮想的熱伝導解析
(環境データの測定)
少なくとも制御開始より数日前(例えば3日前)から、環境データ計測機器ユニット9による各種気象観測データ及び埋設した熱電対5による地中温度測定を行い、制御コンピュータ52に記憶する。
(環境データの測定)
少なくとも制御開始より数日前(例えば3日前)から、環境データ計測機器ユニット9による各種気象観測データ及び埋設した熱電対5による地中温度測定を行い、制御コンピュータ52に記憶する。
(地盤表層領域Xの仮想的地温計算)
制御コンピュータ52に記憶されている過去の環境データ、地中温度データ及びグローライト10の照射データに基づいて、熱伝導解析を用いて各ゾーンA~Lについて地盤内温度を過去の所定時刻(例えば3日前)から現在に至る時刻歴に従って数値計算する。
制御コンピュータ52に記憶されている過去の環境データ、地中温度データ及びグローライト10の照射データに基づいて、熱伝導解析を用いて各ゾーンA~Lについて地盤内温度を過去の所定時刻(例えば3日前)から現在に至る時刻歴に従って数値計算する。
(解析方程式)
2次元熱伝導方程式を下式(1)に示す。
2次元熱伝導方程式を下式(1)に示す。
2次元熱伝導方程式としては、伝熱解析の基礎方程式が用いられる。ここで、Tは温度(解析モデルの各点における地温)、ρ、C、κは地盤材料の密度、定圧比熱、熱伝導率をそれぞれ表し、qは単位体積当りの熱の発生項を意味する。上記式(1)を解くには、以下に示す境界条件が必要となる。
ここで、T^(注;^は直上に符号される)は境界Γ1で与えられる温度、Q^は境界Γ2で与えられる熱のフラックスをそれぞれ示す。
nX、nyはΓ2に対しての外向き法線ベクトルの成分を意味する。図9に示されるような解析領域を考えると、nX=cos(n、x)=cos90°=0、ny=cos(n、y)=cos0°=1となるため、上記式(3)は下式(4)となる。
境界Γ2の熱フラックスは熱収支方程式により計算することができる。
以下、熱収支方程式から境界条件を計算する手法について詳述する。先ず、熱収支方程式は下式(5)により示される。
上式(5)において、左辺は熱伝導項、右辺第1項は日射吸収熱、第2項はグローライトの吸収熱、第3項は長波長放射収支、第4項は対流熱伝達、第5項は蒸発潜熱である。この場合、各パラメータについては、実測及び既往文献による現実的な数値定義を行う。なお、熱収支方程式において、TS(地表面温度)は計測値ではなく、前回の熱伝導解析による計算温度が代入され計算が実行される。
(a)日射吸収率;a
既往文献により、乾燥芝の場合でa=0.66、湿潤芝の場合でa=0.75とする。
既往文献により、乾燥芝の場合でa=0.66、湿潤芝の場合でa=0.75とする。
(b)日射量;TH
日射量は、太陽光による直接的な直接日射量と、放射的な天空日射量とがあり、日向ではそれらの両方が日射量として与えられ、日陰では天空日射量のみが与えられる。したがって、前述のように、複数台の環境データ計測機器ユニット9により、日向と日陰の気象観測データを夫々使い分ける。
日射量は、太陽光による直接的な直接日射量と、放射的な天空日射量とがあり、日向ではそれらの両方が日射量として与えられ、日陰では天空日射量のみが与えられる。したがって、前述のように、複数台の環境データ計測機器ユニット9により、日向と日陰の気象観測データを夫々使い分ける。
(c)輻射放射率;ε
既往文献により、ε=0.93とする。
既往文献により、ε=0.93とする。
(d)大気放射量;AH-σTs4
既往文献により、下式(6)によって求める。
既往文献により、下式(6)によって求める。
ここで、t0;外気温度(℃)、CT;全雲量(10分数で示され0~10の無次元数)、x;外気絶対湿度(g/kg)である。なお、t0は実測外気温度を使い、xは湿度計による実測値から変換する。またCTは既往文献により、日照率SD(日照時間/可照時間)で予測可能であり、下式(7)により求める。
ここで、Hhは太陽高度(degree)である。また、h+1は1時間後を示すため、CTは毎正時の瞬間値となる。また、夜間は日没直前と日の出直後とを直線補間する。
(e)表面熱伝達率;αc
既往文献により、下式(8)により任意高さhでの風速Vhから算出する。なお、風速べき指数を0.25と仮定する。
既往文献により、下式(8)により任意高さhでの風速Vhから算出する。なお、風速べき指数を0.25と仮定する。
(f)水分蒸発比;K
既往文献により、K:0.1~0.2(降水量のうちKの割合で蒸発が発生すると考える。
既往文献により、K:0.1~0.2(降水量のうちKの割合で蒸発が発生すると考える。
(g)空気の湿り比熱;Ca
既往文献により、水蒸気の場合はCa=0.501kcal/kg℃、空気の場合はCa=0.241kcal/kg℃とする。
既往文献により、水蒸気の場合はCa=0.501kcal/kg℃、空気の場合はCa=0.241kcal/kg℃とする。
(h)水の蒸発潜熱;L
既往文献により、L=597.5kcal/kgとする。
既往文献により、L=597.5kcal/kgとする。
(i)グローライトの照射係数;aGL
グローライトの照射係数aGLは、グローライトがon(照射)の時は1とし、グローライトがoff(非照射)の時は0又は0に近い数値とすることにより、照射ゾーンではグローライトの照射データを加味し、非照射ゾーンではグローライトの照射データを加味しないか、又は加味するとしても照射ゾーンよりも少ない照射量に補正して加味することとなる。
(j)グローライトの照射量;THGL
グローライトの照射量THGLはゾーンごとに配置されるグローライトの光量に応じて設定することができる。
グローライトの照射係数aGLは、グローライトがon(照射)の時は1とし、グローライトがoff(非照射)の時は0又は0に近い数値とすることにより、照射ゾーンではグローライトの照射データを加味し、非照射ゾーンではグローライトの照射データを加味しないか、又は加味するとしても照射ゾーンよりも少ない照射量に補正して加味することとなる。
(j)グローライトの照射量;THGL
グローライトの照射量THGLはゾーンごとに配置されるグローライトの光量に応じて設定することができる。
ところで、地表面の熱収支方程式において日射を考慮する場合、各パラメータの影響度は日射吸収熱>グローライトの吸収熱>長波長放射収支>対流熱伝達>蒸発潜熱の順であり、少なくとも右辺第1項の日射吸収熱と第2項の長波長放射収支は必ず考慮する必要があるが、例えば第3項の対流熱伝達は、周囲が屋根で囲まれた競技場のように、地面を這う風の影響が小さくなるような条件の下では、これを省略することができる。また、高い精度が要求されない場合などは第4項の蒸発潜熱は無視することもできる。したがって、右辺第1項の日射吸収熱と第2項の長波長放射収支との2つのパラメータを考慮する熱収支方程式とした場合には、気象観測データとしては日射量、外気温度、外気湿度の3項目で十分である。また、日射がほとんどない室内競技場の場合には、日射吸収熱を考慮しなくてもよく、その場合、気象観測データとしては外気温度及び外気湿度の2項目で十分である。
なお、仮想的熱伝導解析において、熱電対5を埋設した位置の温度は計測によって判っているので、解析モデル上の節点位置に計測温度を代入し計算精度の向上を図ることができる。
一方、初期条件は、下式(9)により与えられる。
基礎方程式に対して通常のGalerkin法を適用し、三節点三角形要素で変数を離散化することにより、以下の有限要素方程式が得られる。
ここで、Mαβ、Sαβ、Ωα(注;α及びβは添字)は質量マトリックス、拡散マトリックス、フラックスベクトルをそれぞれ表し、Δtは微小時間増分である。時間方向の離散化には,Crank-Nicolson法を採用する。
以上の仮想的熱伝導解析により、現時刻での地盤表層領域Xの温度が計算により求められる。
〔ステップ2〕…熱伝導解析
上記仮想的熱伝導解析の結果、求められた地盤表層領域Xの温度を温度制御開始時における地盤表層領域Xの境界条件として設定し、以降は、所定の時間毎、例えば2~3時間に、日射計40及び外気温湿度計50の環境データ、及びグローライト10の照射データを境界条件とする熱伝導解析を行い地盤表層領域Xの温度を求めるようにすることができる。熱伝導解析は、仮想的熱伝導解析と同様の計算方法により行うことができる。
上記仮想的熱伝導解析の結果、求められた地盤表層領域Xの温度を温度制御開始時における地盤表層領域Xの境界条件として設定し、以降は、所定の時間毎、例えば2~3時間に、日射計40及び外気温湿度計50の環境データ、及びグローライト10の照射データを境界条件とする熱伝導解析を行い地盤表層領域Xの温度を求めるようにすることができる。熱伝導解析は、仮想的熱伝導解析と同様の計算方法により行うことができる。
〔ステップ3〕…最適制御計算による通水計画立案
以上、ステップ2までの手順により、直接、温度計測できない地盤表層領域Xの地温が把握できたことになるため、次の手順としては、地盤表層領域X内に設定した着目点S(図4参照、芝生の育成にとって温度管理が重要となる地表面下数cmの点)が目標温度となるように、温度調節体の調節計画、すなわち本例ではパイプ1に供給される熱媒体の通液計画を立てる。
以上、ステップ2までの手順により、直接、温度計測できない地盤表層領域Xの地温が把握できたことになるため、次の手順としては、地盤表層領域X内に設定した着目点S(図4参照、芝生の育成にとって温度管理が重要となる地表面下数cmの点)が目標温度となるように、温度調節体の調節計画、すなわち本例ではパイプ1に供給される熱媒体の通液計画を立てる。
(熱媒体の制御管理)
本例においては、前述した地温制御対象領域の地温計算結果を基に、例えば有限要素法によって地盤の熱伝導率を考慮しながら空間的及び時間的な温度変化を把握して、着目点Sの目標温度と計算温度との差を最小にするようにパイプ通液温度(熱媒体温度)を求めて地温を制御する。したがって、芝生の育成に最も影響の大きい地盤表層域Xを適切な温度環境にコントロールすることができる。この場合の熱源供給制御としては、所定時間ごとに高温熱媒体と低温熱媒体とを交互に供給する制御とすることにより、その制御が容易かつ現実的なものとなる。
本例においては、前述した地温制御対象領域の地温計算結果を基に、例えば有限要素法によって地盤の熱伝導率を考慮しながら空間的及び時間的な温度変化を把握して、着目点Sの目標温度と計算温度との差を最小にするようにパイプ通液温度(熱媒体温度)を求めて地温を制御する。したがって、芝生の育成に最も影響の大きい地盤表層域Xを適切な温度環境にコントロールすることができる。この場合の熱源供給制御としては、所定時間ごとに高温熱媒体と低温熱媒体とを交互に供給する制御とすることにより、その制御が容易かつ現実的なものとなる。
熱媒体の供給にあたっては、ヒートポンプにより区間ごとに冷水と温水とを交互に作り出すことができるが、図7に示されるように、高温側(a温度)の温水を貯留する温水槽30と、低温側(b温度)の冷水を貯留する冷水槽31とを別々に用意しておき、切換制御弁32、33a、33b…より温水槽30と冷水槽31との切り換えを行うことにより、所定時間ごとに一定温度の温水又は冷水を制御遅れなく迅速かつ容易に供給するようにすることができる。また、季節に応じて温水槽30又は冷水槽31の一方側のみを用意して1段階制御を行うこともできる。具体的には夏期には冷水槽31のみを用意し、所定時間はこの冷水槽31から冷水を供給した後、しばらくの間は冷水の供給を停止する操作を繰り返して行うことにより、冷水を供給した際には地盤が冷やされるとともに、供給を停止することにより地温が常温化して温められることになり、地盤表面近傍の地温を周期関数曲線状に変化させることができる。逆に、冬季の場合には温水槽30のみを用意し、所定時間はこの温水槽30から温水の供給を行った後、しばらくの間は温水の供給を停止する操作を繰り返して行うことにより、地盤表面近傍の地温を周期関数曲線状に変化させることができる。
これらの温水又は冷水供給制御に際し、インバータポンプを使用して外部条件の負荷を考慮しながらその供給量を調節することにより、制御応答性(熱交換の応答性)を向上させることもできる。
〔物性値(熱伝導率)の同定〕
次いで、熱伝導率の同定手法を示す。熱伝導率の同定に当り、試料を採取して室内実験により熱伝導率を決定することは容易であるが、地盤の不均一性、含水比の未確定性により原位置での熱伝導率を正確に表しているとは言い難い。また、熱伝導率も地盤中の含水状態で変化するため、解析精度を上げるには、適時、熱伝導率の較正を行う必要がある。
次いで、熱伝導率の同定手法を示す。熱伝導率の同定に当り、試料を採取して室内実験により熱伝導率を決定することは容易であるが、地盤の不均一性、含水比の未確定性により原位置での熱伝導率を正確に表しているとは言い難い。また、熱伝導率も地盤中の含水状態で変化するため、解析精度を上げるには、適時、熱伝導率の較正を行う必要がある。
例えば、不定期又は定期に一時的に、環境データ計測機器ユニット9を取り付け、この環境データ計測機器ユニット9の地中温度計51によって計測された実測地中温度と、環境データ計測機器ユニット9によって計測した環境データを境界条件として熱伝導解析により求めた地中温度計埋設位置の計算地中温度とを比較して、その残差を少なくするように熱伝導率の補正を行うことができる(第1の手法)。また、地中温度計51を埋設できない領域以外の地盤表層領域X又はその近傍域、具体的には図1~図3に示されたサッカー場の例で言えばゴールポスト裏など競技によって荒らされない芝生領域などに熱伝導率較正用熱電対(図示しない)を埋設し、この熱伝導率較正用熱電対によって計測された実測地中温度と、環境データ計測機器ユニット9によって計測した環境データを境界条件として熱伝導解析により求めた地中温度計埋設位置の計算地中温度とを比較して、その残差を少なくするように熱伝導率を補正することもできる(第2の手法)。
これら熱伝導率の同定に際しては、熱伝導率の推定を逆問題として取扱い、非線型最小二乗法を用いて同定する方法を用いる。すなわち、地盤内で観測された温度の時刻歴を用い、観測点(着目点S)に対応する位置における計算値と計測値との残差を最小にすることにより求める。この場合、計算値と計測値の残差平方和すなわち評価関数の最小化には、Gauss-Newton法を用いる。
地盤構造を図8に示すように、いくつかの層(部分領域)からなるものとし、各層内の熱伝導率は一定、という仮定を用いる。熱伝導率を一般的に書き表せば下式(11)となる。
ここで、λは部分領域に対応する熱伝導率の番号を表し、nは部分領域の総数である。
また、解析領域内に設けられた観測点での温度を次のように表す。
ここで、~は観測値であることを意味し、μは観測点の番号、mは観測点の総数を表す。同様に観測点1~mに対応する節点での計算値を以下のように表しておく。
熱伝導率を求めるための評価関数は、以下に示すように、観測された温度と対応する温度の計算値との残差平方和で表される。
ここに、t0、tfは計算開始時刻、計算終了時刻をそれぞれ表す。この式から分かるように、評価関数は熱伝導率kλの関数であるため、最適な熱伝導率kλは、(14)式を、例えばGauss-Newton法により最小化することにより求めることができる。
また、各パラメータの感度マトリックスは感度方程式法により求める。
増分値Δkλ
iは、以下の式(16)(17)によって求めることができる。
以上の手順により、各領域の熱伝導率を求めることができる。
(補正工程)
以上のように、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライト10の照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、地盤表層領域Xの地中温度を求めることができるが、このようにして求めた地中温度は予測値にすぎない。
以上のように、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライト10の照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、地盤表層領域Xの地中温度を求めることができるが、このようにして求めた地中温度は予測値にすぎない。
そのため、前記予測値が実際の地盤表層領域Xの地中温度と大きく異なる場合もあり得る。そこで、前記予測値を補正する補正工程を設けることが好ましい。
具体的には、グローライト10の照射領域の植生地盤上に持ち運び可能な地中温度計51を取り付け、地盤表層領域Xの地中温度を実際に計測し、地中温度計51で計測した地中温度の実測値を用いて、地盤表層領域Xの地中温度の予測値を実測値へ補正することが好ましい。
そして、補正工程で補正した地中温度のデータ(実測値)に基づいて温度調節体を制御することが好ましい。
この補正工程を行うタイミングは任意に決めることができるが、補正を長期間行わないと、地中温度の予測値と実際の値の乖離状態を長期間放置してしまうため、1時間に1回程度の頻度で補正を実行することがより好ましい。
(その他)
以上の植生地盤の温度制御方法では、将来の任意の時点における地盤表層領域Xの地中温度を予測し、その予測値に基づいて、地盤表層領域Xの地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながら温度調節体を制御する。具体的には、加熱の場合は、将来の予測期間における地盤表層領域Xの地中温度が目標地温よりも下回ることがないように、温度調節体によって地盤を温める熱伝導解析の時間ステップΔtごとの通液を、冷却の場合は、将来の予測期間における地盤表層領域Xの地中温度が目標地温よりも上まることがないように、温度調節体によって地盤を冷やす熱伝導解析の時間ステップΔtごとの通液を最適制御計算により決定する。地盤は熱容量が大きいため、このような予測制御が必要となる。
以上の植生地盤の温度制御方法では、将来の任意の時点における地盤表層領域Xの地中温度を予測し、その予測値に基づいて、地盤表層領域Xの地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながら温度調節体を制御する。具体的には、加熱の場合は、将来の予測期間における地盤表層領域Xの地中温度が目標地温よりも下回ることがないように、温度調節体によって地盤を温める熱伝導解析の時間ステップΔtごとの通液を、冷却の場合は、将来の予測期間における地盤表層領域Xの地中温度が目標地温よりも上まることがないように、温度調節体によって地盤を冷やす熱伝導解析の時間ステップΔtごとの通液を最適制御計算により決定する。地盤は熱容量が大きいため、このような予測制御が必要となる。
そして、以上のような予測制御を行うにあたって、地盤表層領域Xの地中温度の実測値を計測し、計測時点における地中温度の予測値と実測値の誤差を修正する。このように予測値と実測値の誤差を定期的に修正することにより、予測制御の精度を向上させることができる。
上述の植生地盤、パイプ1、熱電対5等を有する実際の競技場のフィールドにおいて、グローライト(ナトリウムランプ)を表1のパターンで照射しながら、10分毎に日射計40、外気温湿度計50により計測した環境データ、並びにグローライトの照射データを境界条件とした熱伝導解析を行い、この熱伝統解析に基づいて地表面下5cmの深さの地中温度の予測値(将来の任意の時点(本実験では現時点から72時間後まで)における地表面下5cmの深さの地中温度を予測した値)を求め、この地中温度が目標地温(本実験では19℃)を下回らないように、地盤の熱伝導率を考慮しながら温度制御を行った。また、同時に、環境データ計測機器ユニット9の地中温度計51により、地表面下5cmの深さの温度を実測し、実測値を得た。そして、1時間に1回の頻度で、前記予測値と実測値の差を埋める修正(予測値を実測値に合わせる補正)を行った。
その結果を図10に示した。この図10では、予測値を実線で表し、実測値を破線で表している。2022年6月1日から6月8日の間は、予測値と実測値がほぼ同じになっていることが分かる。
他方、2022年6月9日午前7時から2022年6月12日の午前7時までは予測値と実測値の差が大きくなっていることが分かる。これは、2022年6月9日午前7時にシステムエラーが発生し、その後72時間の間は予測値と実測値の差を埋める修正を行うことができなかったことを示している。そして、2022年6月12日の午前7時以降は、当該修正を行うことができるようになったため、再び予測値と実測値がほぼ同じになっていることが分かる。
以上のように、熱伝統解析に基づいて求めた地表面下5cmの深さの地中温度の予測値は、地盤表面の熱収支などの影響が大きいため、気象の急変やグローライトの影響で予測値の精度が下がることがある。
そこで、単に熱伝統解析を行って予測値を求めるだけではなく、環境データ計測機器ユニット9の地中温度計51により、定期的に(例えば1時間に1回の頻度で)地表面下5cmの深さの温度を実測し、実測値を用いて予測値を補正し(予測値を実測値に合わせ)、その補正した値をその後の熱媒体の制御に利用することが好ましい。このような制御を行うことで、より適切に熱媒体の制御を行うことができることが分かった。
(その他)
実測値を用いた予測値の補正は、グローライトの照射領域の植生地盤で行うことが好ましいことは勿論であるが、グローライトの非照射領域の植生地盤においても行うようにしてもよい。グローライトの非照射領域の植生地盤においても実測値を用いた予測値の補正を行うことで、グローライトの非照射領域においても熱媒体の制御の精度を向上させることができ、結果として、グローライトの非照射領域における熱媒体の制御も適切に行うことができる。
実測値を用いた予測値の補正は、グローライトの照射領域の植生地盤で行うことが好ましいことは勿論であるが、グローライトの非照射領域の植生地盤においても行うようにしてもよい。グローライトの非照射領域の植生地盤においても実測値を用いた予測値の補正を行うことで、グローライトの非照射領域においても熱媒体の制御の精度を向上させることができ、結果として、グローライトの非照射領域における熱媒体の制御も適切に行うことができる。
また、以上の説明においては、熱伝導解析により将来の任意の時点における予測値を求めることを説明した。この将来の任意の時点は特に限定されるものではなく、地盤における熱の伝達速度等を考慮して決定することが好ましい。具体的に将来の任意の時点とは、現時点から48~72時間後とすることが好ましい。熱媒体を用いて地盤表層領域の温度を目標とする地温(目標地温)にする制御を行うとき、熱媒体の熱が地盤表層領域に伝わり、その地盤表層領域の温度を変化させるためにはある程度の時間がかかる。そのため、前述の将来の任意の時点の設定を現時点に近づけすぎると、熱媒体による制御が追いつかないおそれがある。反対に、将来の任意の時点の設定を現時点から遠ざけすぎると、熱伝導解析による予測値の精度が低下するおそれがある。
なお、温度調節体による地中温度の制御は、地盤表層領域Xを冷却する制御と温める制御の両方またはいずれか一方を行うことができる。例えば、夏場の気温が高い時期には、地盤表層領域Xの温度が高くなる傾向があるため、例えばパイプ1に冷水を流し、地盤表層領域Xを冷却する制御を行うことが好ましい。反対に冬場の気温が低い時期には、地盤表層領域Xの温度が低くなる傾向があるため、例えばパイプ1に温水を流し、地盤表層領域Xを温める制御を行うことが好ましい。
本発明の植生地盤の温度制御方法は、サッカー場、野球場、ゴルフ場などのスポーツ競技場における天然芝生地盤に好適なものであるが、これに限定されず、他の場所における他の植生地盤にも利用できるものである。
1…パイプ、2…細砂層、3…粗砂層、4…玉砂利層、5…熱電対、7…熱伝導率較正用熱電対、9…環境データ計測機器ユニット、10…グローライト、30…温水層、31…冷水層、32・33a~33f…切換制御弁、40…日射計、43…風速計、44…風向計、45…雨量計、50…外気温湿度センサ、51…地中温度計、51A…検知部、51B…コード、51C…本体、52…制御コンピュータ、53…制御器、55…ポール
Claims (4)
- グローライトを植生地盤上から照射しつつ、このグローライトの照射領域の植生地盤内に敷設された、加熱及び冷却の少なくとも一方を行う温度調節体により、地盤表層領域の温度を制御する温度制御方法であって、
前記温度制御方法は、外気温度及び外気湿度を含む環境データ、並びにグローライトの照射データを境界条件として含む熱伝導解析により、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求め、この地盤表層領域の地中温度が目標地温となるように、地盤の熱伝導率を考慮しながら前記温度調節体を制御するものであり、
前記温度制御方法は、前記予測値を補正する補正工程を有し、
前記補正工程は、前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な地中温度計により、地盤表層領域の地中温度を計測し、前記地中温度計で計測した地中温度の実測値に基づいて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を補正し、
前記補正工程で補正した地中温度のデータに基づいて前記温度調節体を制御する、
ことを特徴とする植生地盤の温度制御方法。 - 前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な日射量計測器により、前記グローライトの照射領域の植生地盤上の日射量を計測し、前記日射量計測器で計測した日射量を前記環境データに含ませて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求める、
請求項1記載の植生地盤の温度制御方法。 - 前記外気温度及び外気湿度は、前記グローライトの照射領域の植生地盤上に取り付けられた持ち運び可能な温湿度計測器により計測され、前記温湿度計測器で計測された前記グローライトの照射領域の植生地盤上の外気温度及び外気湿度を前記環境データに含ませて、前記地盤表層領域の地中温度の予測値を求める、
請求項1記載の植生地盤の温度制御方法。 - 前記植生地盤を複数の制御ゾーンに区画するとともに、各制御ゾーンに前記温度調節体を独立的に配置し、制御ゾーンごとに独立して前記地盤表層領域の温度制御を可能とし、
前記制御ゾーンのうち、グローライトを照射する照射ゾーン及びグローライトを照射しない非照射ゾーンを順次切り替えて、前記植生地盤にグローライトを照射し、
前記持ち運び可能な地中温度計は前記照射ゾーンに取り付けられ、
前記照射ゾーンが切り替わる度に旧照射ゾーンから取り外されて新たな照射ゾーンに取り付けられる、
請求項1記載の植生地盤の温度制御方法。
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