(第1の実施の形態)
以下、図1~図11を用いて、第1の実施の形態に係るミシン10について説明する。なお、図面において適宜示される矢印UPは、ミシン10の上側を示し、矢印FRは、ミシン10の前側を示し、矢印RHは、ミシン10の右側(幅方向一方側)を示している。以下、上下、前後、左右の方向を用いて説明する場合は、ミシン10の上下、前後、左右を示すものとする。
(ミシン10の全体について)
図1に示されるように、ミシン10は、全体として、前側から見た正面視で、左側へ開放された略U字形状に形成されている。具体的には、ミシン10は、ミシン10の下端部を構成し且つ左右方向に延在されたベッド部10Aと、ベッド部10Aの右端部から上側へ延出された脚部10Bと、脚部10Bの上端部から左側へ延出されたアーム部10Cと、を含んで構成されている。
また、ミシン10のベッド部10Aの左上端部には、針板11が設けられており、針板11の上側には、後述する押えユニット70の押え73が設けられている。また、押え73の前側には、針棒(図示省略)に固着された針12が設けられている。そして、針板11及び押え73によって生地(縫製対象物)を上下に挟み込んで、針12が上下方向に往復移動することで、生地に対して縫い目を形成するようになっている。具体的には、針12が針板11(の上面)よりも下側に配置されるときに、生地に対して縫い目を形成する。一方、針12が針板11(の上面)よりも上側に配置されているときには、後述する下送り歯35及び上送り歯77によって、生地を後側へ送るようになっている。そして、以下の説明では、針12が針板11よりも下側に配置される状態を、縫目形成状態と称し、針12が針板11よりも上側に配置される状態を送り状態と称する。
また、ミシン10は、タッチパネルを含む操作部13を有しており、操作部13は、ミシン10の脚部10Bに操作可能に露出されている。そして、使用者が操作部13を用いて、ミシン10の各種設定を行える構成になっている。また、ミシン10のアーム部10Cの前面には、操作ボタン14が設けられており、ミシン10の作動を開始又は停止するときには、使用者が操作ボタン14を押圧操作するようになっている。以下、ミシン10の詳細な構成について説明する。
図3に示されるように、ミシン10は、押え機構20と、駆動機構25と、下送り機構30と、上送り機構50と、押えユニット70と、切替機構80と、「検知部」としての制御部90(図2参照)と、を含んで構成されている。
(押え機構20について)
押え機構20は、押え棒21を有している。押え棒21は、上下方向を軸方向とする略丸棒状に形成されて、ミシン10の骨格を構成するフレーム(図示省略)に上下方向に相対移動可能に支持されている。また、押え棒21の上下方向中間部には、後述するバネ解放機構66を構成する押え棒抱き67が固定されており、押え棒抱き67が、操作レバー22によって下側から支持されている。これにより、押え棒21の上下方向の位置が設定されている。また、操作レバー22は、左右方向を軸方向として回転操作可能に構成されている。そして、操作レバー22を図1に示される位置から上側へ回転操作することで、操作レバー22によって押え棒抱き67が持上げられて、押え棒21が、生地を押える押え位置から持上位置へ上昇するようになっている。これにより、生地に対する縫製開始前には、押え棒21を持上げることで、後述する押えユニット70と針板11との間に生地を載置できるようになっている。
また、押え機構20は、レバー操作センサ23を有している。このレバー操作センサ23は、操作レバー22の回転操作を検知して、押え棒21の位置(押え位置、持上位置)を検知するようになっている。そして、レバー操作センサ23が、後述する制御部90へ検知信号を出力する構成になっている(図2参照)。
押え棒21の上部には、押えバネ24が装着されている。押えバネ24は、圧縮コイルスプリングとして構成されている。そして、押えバネ24の上端部が、フレームに係止されている。一方、押えバネ24の下端部は、後述するバネ解放機構66に係止されており、押えバネ24の下側への付勢力が、バネ解放機構66を介して押え棒21に付与されている。
(駆動機構25について)
駆動機構25は、針12、後述する下送り機構30、及び後述する上送り機構50を駆動させるための駆動部として構成されている。駆動機構25は、上軸26を有している。上軸26は、アーム部10Cの内部において左右方向を軸方向として配置されて、フレームに回転可能に支持されている。また、駆動機構25は、ミシンモータ27を有しており、ミシンモータ27は、左右方向を軸方向として脚部10Bの下端部内に配置されている。ミシンモータ27の出力軸及び上軸26の右端部には、モータベルト28が掛け回されており、上軸26とミシンモータ27とがモータベルト28よって連結されている。これにより、ミシンモータ27の駆動によって、上軸26が自身の軸回りに回転する構成になっている。
また、上軸26の左端部には、図示しない針機構が連結されており、針機構によって上軸26の回転動力が針棒に伝達される構成になっている。これにより、上軸26が回転することで、針12(針棒)が上下方向に往復移動するようになっている。なお、針板11には、針12の針落ち位置(針位置)に対応する位置において、針孔が貫通形成されており、針12が上下方向に往復移動するときには、針12が針孔内を挿通するようになっている。また、上軸26は、後述する上送り歯77を上下方向に移動させるための駆動源として構成されている。
(下送り機構30について)
下送り機構30は、下軸31と、下送り歯35と、送り下軸37と、を含んで構成されている。
<下軸31について>
下軸31は、ベッド部10Aの内部において左右方向を軸方向として配置されて、フレームに回転可能に支持されている。下軸31の右端部及び上軸26の右端側の部分には、連結ベルト32が掛け回されており、上軸26と下軸31とが連結ベルト32によって連結されている。これにより、ミシンモータ27が駆動することで、下軸31が上軸26と連動して回転するようになっている。
下軸31の左端部には、第1下送りカム33が一体回転可能に設けられている。第1下送りカム33は、左右方向を板厚方向とする略円板状の板カムとして構成されており、第1下送りカム33の外周面がカム面として構成されている。そして、下軸31の軸心(第1下送りカム33の回転中心)が、第1下送りカム33の中心に対して偏心した位置に配置されている。
下軸31の軸方向中間部には、第2下送りカム34が一体回転可能に設けられている。第2下送りカム34は、左右方向を板厚方向とする略三角形板状の板カムとして構成されており、第2下送りカム34の外周面がカム面として構成されている。そして、下軸31の軸心(第2下送りカム34の回転中心)が、第2下送りカム34の中心に対して偏心した位置に配置されている。
<下送り歯35について>
図4(A)及び(B)にも示されるように、下送り歯35は、針板11の下側に設けられている。下送り歯35の上端部には、前後方向に延在された左右一対の第1歯部35Aが形成されており、第1歯部35Aは、下送り歯35の左右方向両端部に配置されている。また、下送り歯35の上端部には、前後方向に延在された3箇所の第2歯部35Bが形成されており、第2歯部35Bは、下送り歯35の後部で且つ一対の第1歯部35Aの間に配置されている。第1歯部35A及び第2歯部35Bには、それぞれ複数の歯が形成されている。さらに、第1歯部35Aの前端部は、針12の針落ち位置よりも前側に配置されており、第2歯部35Bの全体が、針12の針落ち位置よりも後側に配置されている。なお、針板11には、下送り機構30の作動時に第1歯部35A及び第2歯部35Bが挿通する、孔部が形成されている。
図3に示されるように、下送り歯35の下側には、送り台36が設けられており、下送り歯35が送り台36に固定されている。送り台36は、後述する第1下送りアーム38に、左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。また、送り台36の下側には、前述した第1下送りカム33が配置されており、第1下送りカム33のカム面が送り台36に当接している。これにより、第1下送りカム33が回転することで、送り台36(すなわち、下送り歯35)が上下方向に往復移動するようになっている。
<送り下軸37について>
送り下軸37は、下軸31の前側において左右方向を軸方向として配置されて、フレームに回転可能に支持されている。送り下軸37の左端部には、第1下送りアーム38が一体回転可能に設けられ、送り下軸37の軸方向中間部には、第2下送りアーム39が一体回転可能に設けられ、送り下軸37の右端部には、第3下送りアーム40が一体回転可能に設けられている。これら第1下送りアーム38、第2下送りアーム39、及び第3下送りアーム40は、送り下軸37から送り下軸37の径方向外側へ延出されている。
第1下送りアーム38の先端部には、前述した送り台36が回転可能に連結されている。これにより、送り下軸37が往復回転することで、第1下送りアーム38が送り下軸37の軸回りに揺動して、送り台36(すなわち、下送り歯35)が前後方向に往復移動する構成になっている。すなわち、下送り歯35には、第1下送りカム33の回転による上下方向の駆動と、第1下送りアーム38の揺動による前後方向の駆動と、が伝達されて、側面視で、下送り歯35が、楕円状の軌跡を描くように作動する構成になっている。具体的には、下送り歯35の第1歯部35A及び第2歯部35Bが、初期位置から針板11の上面から突出すると共に、後側へ移動する。また、下送り歯35の第1歯部35A及び第2歯部35Bが後側へ移動した後、下側へ移動して、針板11の上面よりも下側に配置される。その後、下送り歯35の第1歯部35A及び第2歯部35Bが前側へ移動して上昇することで初期位置に配置される。
第2下送りアーム39の先端部には、二股リンク41の基端部が、左右方向を軸方向として揺動可能に連結されている。二股リンク41の先端部は、二股状に形成されている。そして、二股リンク41の先端部の内部に、前述した第2下送りカム34が配置されて、第2下送りカム34のカム面が二股リンク41の先端部の内周面に当接している。
二股リンク41の近傍には、送り設定器42が設けられており、送り設定器42は、左右方向を軸方向としてフレームに回転可能に支持されている。送り設定器42には、溝部42Aが形成されており、この溝部42A内には、角駒43が摺動可能に挿入されている。そして、二股リンク41の先端部が、この角駒43に左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。
また、送り設定器42には、送り量設定モータ44が連結されており、送り量設定モータ44の駆動によって、送り設定器42が回転するように構成されている。そして、第2下送りカム34が下軸31の軸回りに回転すると、角駒43が、送り設定器42の溝部42A内を摺動して、二股リンク41が前後方向に揺動するようになっている。これにより、二股リンク41に連結された第2下送りアーム39が揺動して、送り下軸37が自身の軸回りを往復回転するようになっている。そして、送り下軸37の往復回転が、第1下送りアーム38を介して送り台36(下送り歯35)に伝達されて、下送り歯35が、前後方向に往復移動するようになっている。また、送り量設定モータ44の駆動によって送り設定器42が回転すると、溝部42Aの傾斜角度が変化する。これにより、二股リンク41の揺動量が変更されると共に、送り下軸37の往復回転量が変更され、下送り歯35の前後方向の送り量が変更される構成になっている。
(上送り機構50について)
上送り機構50は、後述する押えユニット70の上送り歯77を駆動させるための送り駆動機構部51と、押え棒21に対する押えバネ24の付勢力を解放させるためのバネ解放機構66と、を含んで構成されている。
<送り駆動機構部51について>
送り駆動機構部51は、駆動カム52と、送り上軸53と、上送りアーム54と、上送り足56と、伝達機構60と、「リンク機構」としての送りリンク機構61と、を含んで構成されている。
[駆動カム52について]
図3、図7、及び図8に示されるように、駆動カム52は、上軸26の左端部に一体回転可能に設けられている。駆動カム52は、左右方向を板厚方向とする略円板状の板カムとして構成されており、駆動カム52の外周面がカム面として構成されている。そして、上軸26の軸心(駆動カム52の回転中心)が、駆動カム52の中心に対して偏心した位置に配置されている。
[送り上軸53について]
送り上軸53は、上軸26の後側において左右方向を軸方向として配置され、フレームに回転可能に支持されている。送り上軸53と、下送り機構30の送り下軸37と、の間には、連結リンク機構45(図3参照)が設けられており、送り上軸53が、連結リンク機構45によって送り下軸37に連結されている。具体的には、連結リンク機構45の一端部が、送り上軸53の右端部に連結されており、連結リンク機構45の他端部が、送り下軸37の第3下送りアーム40の先端部に連結されている。これにより、送り下軸37の往復回転に連動して、送り上軸53が、自身の軸回りに往復回転するようになっている。また、送り上軸53は、後述する上送り歯77を前後方向に移動させるための駆動源として構成されている。
[上送りアーム54について]
図3に示されるように、上送りアーム54は、上下方向に延在されており、上送りアーム54の上端部が、送り上軸53の左端部に一体回転可能に固定されている。上送りアーム54の下端部は、前後方向に延在された送りリンク55の一端部に、左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。
[上送り足56について]
上送り足56は、上送りアーム54の下方側に配置されており、左側から見た側面視で、略L字形状に形成されている。そして、上送り足56の上端部が、送りリンク55の他端部に、左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。また、図4(A)に示されるように、上送り足56の下端部における前端部には、連結体57が左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。この連結体57は、押え棒21の下端側の部分に、上下方向に相対移動可能に連結されている。これにより、送り上軸53が軸回りに往復回転することで、上送り足56が、連結体57との連結部を中心に回転する構成になっている。
また、上送り足56の下端部には、後述する押えユニット70を取付けるための前後一対の連結シャフト58R及び連結シャフト58Fが設けられている。連結シャフト58R及び連結シャフト58Fは、左右方向を軸方向とした円柱状に形成されて、上送り足56から左側へ突出している。
[伝達機構60について]
図7及び図8に示されるように、伝達機構60は、「スライド伝達部材」としてのスライドアーム60Aを有している。スライドアーム60Aは、略矩形ブロック状に形成されて、上下方向に延在されている。そして、スライドアーム60Aの上端部が、送り上軸53に揺動可能に支持されている。スライドアーム60Aの右端部における下端部には、前側へ延出されたアーム部60A1が一体に形成されている。また、スライドアーム60Aは、図示しない付勢バネによって前側(駆動カム52側)へ付勢されており、スライドアーム60Aにおけるアーム部60A1の先端部が、駆動カム52のカム面に当接している。これにより、スライドアーム60Aが駆動カム52に連結されており、駆動カム52が回転することで、スライドアーム60Aが、カム面の形状に対応して、送り上軸53の軸回りを揺動するようになっている。また、スライドアーム60Aは、送り上軸53の軸方向において送り上軸53に対して相対移動可能に構成されている。
スライドアーム60Aの上端部には、上側へ突出した連結突起60A2が一体に形成されている。スライドアーム60Aの下端部には、連結軸60Bが一体揺動可能に設けられている。連結軸60Bは、左右方向を軸方向とした円柱状に形成されて、スライドアーム60Aから左側へ延出されている。これにより、スライドアーム60Aの揺動時には、連結軸60Bが、送り上軸53の軸回りに揺動する構成になっている。
[送りリンク機構61について]
図3に示されるように、送りリンク機構61は、連結リンク62と、三角リンク63と、切替リンク65と、を含んで構成されている。
連結リンク62は、スライドアーム60Aの連結軸60Bの前側に配置されており、連結リンク62の一端部が、連結軸60Bに回転可能に連結されている。
三角リンク63は、左右方向を板厚方向とした略三角形プレート状に形成されて、連結リンク62の前側に配置されている。そして、三角リンク63の上端部が、連結リンク62の他端部に左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。これにより、三角リンク63とスライドアーム60Aとが連結リンク62によって連結されている。そして、駆動カム52の回転時に、スライドアーム60Aが、駆動カム52のカム面の形状に対応して、揺動することで、三角リンク63が作動する構成になっている。
三角リンク63の下端部には、解放リンク64の一端部が左右方向を軸方向として回転可能に連結されており、解放リンク64の他端部は、後述するバネ解放機構66のバネホルダ69に回転可能に連結されている。
切替リンク65は、三角リンク63の下側において、上下方向に延在されている。そして、切替リンク65の上端部が、三角リンク63の下端部に左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。一方、切替リンク65の下端部は、前述した連結体57に左右方向を軸方向として回転可能に連結されている。これにより、切替リンク65が、連結体57を介して上送り足56に連結されている。そして、駆動カム52の回転時に、スライドアーム60Aが、駆動カム52のカム面の形状に対応して揺動し、三角リンク63が解放リンク64との連結部を中心に回転することで、切替リンク65及び連結体57が上下方向に往復移動するようになっている。
<バネ解放機構66について>
バネ解放機構66は、押え棒抱き67と、バネ受け68と、バネホルダ69と、を含んで構成されている。
[押え棒抱き67について]
押え棒抱き67は、前後方向に延在されている。そして、押え棒抱き67の一端部が、押え棒21の長手方向中間部に固定されており、押え棒抱き67の他端部が、前述した操作レバー22によって下側から支持されている。
[バネ受け68について]
バネ受け68は、上下方向を軸方向とした略円筒状に形成されている。そして、押え棒21が、バネ受け68の内部に相対移動可能に挿通されており、バネ受け68が、押え棒抱き67の一端部の上側に隣接して配置されている。
[バネホルダ69について]
バネホルダ69は、前側へ開放された略U字形板状に形成されている。そして、バネホルダ69の上端部及び下端部が、押え棒21に上下方向に相対移動可能に連結されている。また、バネホルダ69の上端部と下端部との間には、押え棒抱き67の一端部及びバネ受け68が配置されている。さらに、バネホルダ69の上端部は、押えバネ24の下端部を下側から支持しており、押えバネ24の付勢力によってバネホルダ69が下側へ付勢されている。これにより、バネホルダ69の上端部が、バネ受け68の上端に当接して、押えバネ24の付勢力が、バネホルダ69、バネ受け68、及び押え棒抱き67を介して押え棒21に伝達される構成になっている。なお、バネホルダ69の下端部は、押え棒抱き67に対して下側に離間して配置されている。
また、バネホルダ69には、前述した解放リンク64の他端部が、左右方向を軸方向として、回転可能に連結されている。そして、詳細については後述するが、後述する上送り歯77が針板11又は下送り歯35に当接することで、送りリンク機構61によってバネ解放機構66が作動するようになっている。また、バネ解放機構66が作動するときには、バネホルダ69が、押えバネ24の付勢力に抗して押え棒21に対して上側へ相対移動するようになっている。そして、このときには、バネホルダ69の上端部がバネ受け68から上側へ離間する。このため、押え棒21に対する押えバネ24の付勢力が解放される構成になっている。
(押えユニット70について)
図4(A)及び(B)に示されるように、押えユニット70は、生地を上側から押えるための押え本体71と、前述した下送り歯35と共に生地を後側へ送るための上送り歯ユニット75と、を含んで構成されている。そして、上送り歯ユニット75が、押え本体71に連結されて、押え本体71及び上送り歯ユニット75が、押えユニット70としてユニット化されている。
<押え本体71について>
押え本体71は、押えホルダ72と、押え73と、を有している。
押えホルダ72は、後側から見て、全体として下側へ開放された略U字形ブロック状に形成されている。この押えホルダ72の前端部には、固定溝72Aが左右方向に貫通形成されており、固定溝72Aは、側面視で、前側へ開放された略U字形状に形成されている。そして、固定ネジSC1が固定溝72A内に挿入されて、固定ネジSC1によって押えホルダ72が押え棒21の下端部に締結固定されている。これにより、押えホルダ72(押え本体71)が、押え棒21に着脱可能に固定されている。
押えホルダ72の下端部には、後述する押え73を取付けるための左右一対の押え取付部72Bが一体に形成されており、押え取付部72Bは、押えホルダ72の下端部の幅方向両端部から下側へ延出している。
押え73は、略上下方向を板厚方向とし且つ前後方向を長手方向とした略矩形板状に形成されており、押え73の前端部が、側面視で前側へ向かうに従い上側へ滑らかに傾斜されている。また、押え73の前後方向中間部には、左右一対の取付壁73Aが一体に形成されており、取付壁73Aは、押え73から上側へ突出されている。そして、取付壁73Aが、左右方向を軸方向とした取付ピン74によって、押えホルダ72の押え取付部72Bに連結されている。
押え73には、取付壁73Aの前側において、ミシン10の作動時に針12が挿通される第1挿通孔73Bが貫通形成されている。また、押え73の後部には、左右一対の取付壁73Aの間において、第2挿通孔73Cが貫通形成されており、第2挿通孔73Cは、平面視で略矩形状に形成されている。そして、後述する上送り歯77の送り動作時には、上送り歯77が第2挿通孔73C内を挿通する構成になっている。
ここで、押えユニット70を押え棒21に固定するときには、操作レバー22によって、押え棒21を持上位置に持ち上げた状態で、固定ネジSC1によって押えユニット70を押え棒21に仮固定する。この後、操作レバー22によって、仮固定状態の押えユニット70を押え棒21と共に下側へ下降させる。そして、押え73が、針板11の上面に当接した状態で、固定ネジSC1を本締めして、押えユニット70を押え棒21に固定させる。このため、押えユニット70の押え棒21への固定状態では、押え73の下面が針板11の上面に当接した位置に、押え73が配置されている。これにより、生地が押え73と針板11との間に挿入されることで、押え73が生地に所定の押え圧を付与するようになっている。
<上送り歯ユニット75について>
上送り歯ユニット75は、上送りホルダ76と、上送り歯77と、を含んで構成されている。
上送りホルダ76は、側面視で略クランク形状に形成されて、押えホルダ72内に配置されている。上送りホルダ76の上端の後端部には、上側へ延出され且つ前側へ屈曲された連結片76Aが一体に形成されている。これにより、上送りホルダ76の上端部には、前側へ開放されたリヤ連結溝76Bが形成されており、リヤ連結溝76Bには、前述した上送り足56の後側の連結シャフト58Rが嵌入されている。また、上送りホルダ76の上端部には、リヤ連結溝76Bの前側において、フロント連結溝76Cが形成されており、フロント連結溝76Cは左右方向に貫通されている。このフロント連結溝76Cは、側面視で、上側へ開放した略U字形状に形成されており、前述した上送り足56における前側の連結シャフト58Fがフロント連結溝76C内に嵌入されている。これにより、上送りホルダ76が、上送り足56(送り駆動機構部51)に着脱可能に取付けられている。
また、上送りホルダ76の上端部には、フロント連結溝76Cの後側において、上側へ突出した突起76Dが形成されている。なお、上送りホルダ76は、押えホルダ72内に設けられた支持部材(図示省略)によって、揺動可能に支持されている。
上送り歯77は、前側から見た正面視で、上側へ開放された略U字形ブロック状に形成されている。そして、上送り歯77が、押え73の一対の取付壁73Aの間に配置されて、左右方向を軸方向とする連結ピン78によって、上送りホルダ76の下端部に連結されている。
また、上送り歯77は、下送り歯35の第2歯部35Bの上側に配置されている。すなわち、上送り歯77の全体が、針12の針落ち位置の後側に配置されている。また、上送り歯77の下面には、前後方向に延在された3箇所の歯部が形成されている。この歯部は、下送り歯35の第2歯部35Bに対応して、左右方向に並んで配置されている。また、この歯部の下端部には、複数の歯が形成されている。これにより、上送り歯77の送り動作時には、下送り歯35における第2歯部35Bと上送り歯77とによって、生地を上下に挟み込んで、生地を送るように構成されている。
ここで、上述のように、押えユニット70は、押え棒21及び上送り足56に着脱可能に取付けられている。このため、ミシン10では、各種の押えユニットを、交換して取付けることができるようになっている。一例として、ミシン10には、交換押えユニット100と、交換押えユニット110と、が取付可能に構成されている。以下、ミシン10に取付可能な、他の押えユニット(交換押えユニット100、交換押えユニット110)について説明する。
図5(A)及び(B)に示されるように、交換押えユニット100は、押えユニット70と以下の点を除いて同様に構成されている。なお、以下の説明では、交換押えユニット100において、押えユニット70と同様に構成されている部材には、同一の符号を付している。
すなわち、交換押えユニット100には、上送り歯ユニット75において、上送り歯77の代わりに、上送り歯101が、上送りホルダ76の下端部に設けられている。なお、以下の説明では、上送り歯77と上送り歯101とを区別するために、上送り歯101を通常上送り歯101と称する。通常上送り歯101の幅方向の寸法は、上送り歯77の幅方向の寸法と比べて大きく設定されている。また、通常上送り歯101は、上送り歯77の歯部に加えて、下送り歯35の第1歯部35Aに対応する外側送り歯部101Aを有している。外側送り歯部101Aの前端部は、針12の針落ち位置よりも前側に配置されている。これにより、交換押えユニット100では、針12の針落ち位置の前側でも、通常上送り歯101(外側送り歯部101A)と下送り歯35とによって生地を挟み込むことができる構成になっている。
また、交換押えユニット100では、上送りホルダ76の突起76Dの突出量が、押えユニット70よりも小さくなっている。
図6に示されるように、交換押えユニット110は、押えユニット70と以下の点を除いて同様に構成されている。なお、以下の説明では、交換押えユニット110において、押えユニット70と同様に構成されている部材には、同一の符号を付している。
すなわち、交換押えユニット110では、本実施の形態の上送り歯ユニット75が省略されている。換言すると、交換押えユニット110は、生地を上側から押さえる押え本体71(上送りホルダ76及び押え73)のみを有する構成になっている。
そして、ミシン10では、各種の押えユニットが装着されたときに、装着された押えユニットを検知する押え検知センサ79を有している。この押え検知センサ79は、上送り足56の下端部において、連結シャフト58Rと連結シャフト58Fとの間に設けられている。押え検知センサ79は、レバー式のセンサとして構成されている。具体的には、押え検知センサ79は、センサ本体79Aと、センサ本体79Aから下側へ延出されたレバー部79Bと、を含んで構成されている。レバー部79Bは、左右方向を軸方向としてセンサ本体79Aに回転可能に連結されている。
また、押え検知センサ79は、後述する制御部90に電気的に接続されている(図2参照)。さらに、押え検知センサ79では、レバー部79Bが回転することで、レバー部79Bの回転量に応じて、2種類の検知信号(オン信号)を制御部90へ出力する構成になっている。具体的には、交換押えユニット110がミシン10に装着されたときには、レバー部79Bが押圧されず、押え検知センサ79から制御部90へオフ信号を出力するようになっている。また、交換押えユニット100がミシン10に装着されたときには、レバー部79Bが、交換押えユニット110の突起76Dによって押圧されて、初期位置から回転角θ1分だけ回転するようになっている(図5(A)参照)。これにより、押え検知センサ79から制御部90へオン信号1を出力するようになっている。また、押えユニット70がミシン10に装着されたときには、レバー部79Bが、押えユニット70の突起76Dによって押圧されて、初期位置から回転角θ1よりも大きい回転角θ2分だけ回転するようになっている(図4(A)参照)。これにより、押え検知センサ79から制御部90へオン信号2を出力するようになっている。
(切替機構80について)
図7及び図8に示されるように、切替機構80は、停止カム81と、「切替部材」としてのスライド部材82と、切替ギヤ84と、切替モータ85と、を含んで構成されている。
<停止カム81について>
停止カム81は、左右方向を板厚方向とした円形状の板カムとして構成されている。停止カム81は、上軸26に一体回転可能に設けられており、駆動カム52の右側に隣接して配置されている。なお、本実施の形態では、停止カム81が駆動カム52と一体に形成されている。停止カム81の外周面は、カム面として構成されている。また、停止カム81は、上軸26と同軸上に配置されている。すなわち、上軸26の軸心から停止カム81のカム面までの距離が一定に設定されている。さらに、上軸26の軸心から停止カム81のカム面までの距離は、上軸26の軸心から駆動カム52のカム面までの最小距離と一致している。
<スライド部材82について>
スライド部材82は、前後方向を板厚方向とし且つ左右方向を長手方向とする略長尺板状に形成されている。スライド部材82には、複数(本実施の形態では、3箇所)のスライド孔82Aが貫通形成されており、スライド孔82Aは、左右方向を長手方向とする長孔状に形成されている。また、スライド部材82の後側には、取付プレート83が設けられており、取付プレート83は、ミシン10のフレームに固定されている。この取付プレート83には、スライド部材82のスライド孔82Aに対応する位置において、ボス83Aが設けられており、ボス83Aは、前後方向を軸方向する円柱状に形成されて、取付プレート83から前側へ突出している。そして、ボス83Aがスライド孔82A内に挿入されて、スライド部材82が取付プレート83に左右方向にスライド可能に連結されている。
スライド部材82の左端部には、前側へ屈曲されたアーム連結部82Bが形成されている。アーム連結部82Bは、前述したスライドアーム60Aの上側に隣接して配置されて、スライドアーム60Aの連結突起60A2に連結されている。これにより、スライド部材82が左右方向にスライドすることで、スライドアーム60Aが送り上軸53の軸方向に沿って左右に移動する構成になっている。具体的には、スライドアーム60Aが、第1位置(図7(B)及び(C)に示される位置)と、第1位置から右側へ移動した第2位置(図8(B)及び(C)に示される位置)と、の間を移動する構成になっている。そして、スライドアーム60Aの第1位置では、スライドアーム60Aにおけるアーム部60A1の先端部が駆動カム52のカム面に当接して、スライドアーム60Aと駆動カム52とが連結する構成になっている。また、スライドアーム60Aの第2位置では、アーム部60A1の先端部が停止カム81のカム面に当接して、スライドアーム60Aと停止カム81とが連結する構成になっている。
スライド部材82の右端部には、連結軸部82Cが一体に設けられている。連結軸部82Cは、前後方向を軸方向とした円柱状に形成されて、スライド部材82から前側へ突出している。
<切替ギヤ84について>
切替ギヤ84は、前後方向を板厚方向とした略扇形板状に形成されて、スライド部材82の右端部の前側に配置されている。切替ギヤ84の基端部は、連結軸部82Cの上側の位置において、取付プレート83に設けられた支持軸83Bによって、前後方向を軸方向として回転可能に支持されている。
切替ギヤ84の基端部には、下側へ延出されたギヤ連結片84Aが一体に形成されている。このギヤ連結片84Aには、長孔状の連結孔84Bが貫通形成されている。そして、連結孔84Bの内部に、スライド部材82の連結軸部82Cが相対移動可能に挿入されている。これにより、切替ギヤ84が支持軸83Bの軸回りに回転することで、スライド部材82及びスライドアーム60Aが左右方向に移動するようになっている。
切替ギヤ84の円弧状の先端部は、ギヤ部84Cとして構成されており、ギヤ部84Cには、複数のギヤ歯が形成されている。
<切替モータ85について>
切替モータ85は、前後方向を軸方向として取付プレート83の後面に固定されている。切替モータ85の出力軸85Aは、取付プレート83よりも前側に配置されて、切替ギヤ84のギヤ部84Cの径方向外側に配置されている。切替モータ85の出力軸85Aには、円筒状のモータギヤ86が固定されており、モータギヤ86の外周部には、複数のギヤ歯が形成されている。そして、モータギヤ86のギヤ歯と、切替ギヤ84のギヤ歯とが噛合されており、切替モータ85の駆動によって切替ギヤ84が回転する構成になっている。
(制御部90について)
図2に示されるように、制御部90には、前述した、操作部13と、レバー操作センサ23と、ミシンモータ27と、送り量設定モータ44と、押え検知センサ79と、切替モータ85と、が電気的に接続されている。そして、ミシン10に対するスタート操作が行われたときに、制御部90が、レバー操作センサ23からの出力信号に基づいて、生地に対する縫製開始(状態)であるか否か判別するようになっている。具体的には、ミシン10の電源投入時もしくは前回の縫製終了時(ミシンモータ27の停止時)から今回のスタート操作までの間で、レバー操作センサ23からの検知信号を制御部90が受信した否かに基づいて、制御部90が、生地に対する縫製開始であるか否かを判別する。なお、制御部90における、生地に対する縫製開始を判別する方法としては、これに限らない。例えば、使用者が、操作部13の操作によって生地に対する縫製開始を入力し、制御部90が、操作部13への入力情報に基づいて、生地に対する縫製が開始されたことを判別してもよい。
また、制御部90には、縫目回数検出装置92が電気的に接続されている。縫目回数検出装置92は、ロータリーエンコーダ等によって構成されている。そして、縫目回数検出装置92が、上軸26の回転数を検出することで、生地に対して縫製開始が行われた後の針12の針落ちの回数を検出して、検出信号を制御部90へ出力するようになっている。そして、制御部90が、生地に対する縫製開始後、針12の針落ちの回数が所定回数に達したときを、生地が上送り歯77に到達したときとして検知するようになっている。
(作用及び効果)
次に、切替機構80、下送り機構30、及び上送り機構50の各動作と、各種押えユニットが押え棒21に取付けられたときのミシン10の動作を説明しつつ、本実施の形態の作用及び効果について説明する。
<切替機構80の動作について>
図7に示されるように、切替機構80の非作動状態では、スライド部材82が第1位置に配置されている。この状態では、上送り機構50のスライドアーム60Aが、駆動カム52の後側に配置されて、スライドアーム60Aにおけるアーム部60A1の先端部が、駆動カム52のカム面に当接している。そして、制御部90の制御によって、切替モータ85が駆動すると、切替モータ85のモータギヤ86が、前側から見た正面視で、時計回りに回転する。これにより、モータギヤ86に噛合された切替ギヤ84が、正面視で、支持軸83Bの軸回りに反時計回りに回転する。
切替ギヤ84が支持軸83Bの軸回りに反時計回りに回転すると、切替ギヤ84に連結軸部82Cを介して連結されたスライド部材82が、右側へスライドして、第2位置に配置される。これにより、図8に示されるように、スライド部材82に連結されたスライドアーム60Aが、スライド部材82と共に右側へスライドする。そして、この状態では、スライドアーム60Aが、停止カム81の後側に配置されて、アーム部60A1の先端部が、停止カム81のカム面に当接する。以上により、切替機構80によって、上軸26から上送り機構50への動力伝達経路が、駆動カム52から停止カム81に切替わる。
なお、スライド部材82の第2位置において、制御部90の制御によって、切替モータ85のモータギヤ86を、正面視で、反時計回りに回転させることで、スライド部材82が第1位置に配置される。これにより、上軸26から上送り機構50への動力伝達経路が、停止カム81から駆動カム52に切替わる。
<下送り機構30の動作について>
下送り機構30が動作するときには、ミシンモータ27の駆動によって上軸26が回転することで、上軸26の回転に連動して下軸31が回転する。これにより、下送り機構30が作動して、下送り歯35が、針板11よりも上側へ突出し且つ後側へ変位しながら、生地を後側へ送る。具体的には、針12が針板11よりも上側に配置されている送り状態のときには、下送り歯35の上端が針板11の上面と一致する位置に上昇して、下送り歯35の生地に対する送りが開始される。その後、下送り歯35が、さらに上昇し且つ後側へ変位する。これにより、下送り歯35の上端が針板11の上面よりも突出して、生地を後方側へ送る。そして、下送り歯35の上端が針板11の上面と略一致する位置へ下降して、下送り歯35の生地に対する送りが完了する。一方、針12が針板11よりも下側に配置される縫目形成状態のときには、下送り歯35が下側へ変位して、針板11よりも下側へ下降する。そして、下送り歯35が前側へ変位して、生地を送る前の状態に復帰する。
<スライド部材82が第1位置に配置されたときの上送り機構50の動作について>
上送り機構50の送り駆動機構部51は、下送り機構30の作動に伴って作動する。具体的には、図9(A)に示されるように、針12が針板11よりも上側に配置された送り状態のときには、送り上軸53が、自身の軸回りを反時計回りに回転する。これにより、上送りアーム54が、送り上軸53を中心として反時計回りに回転すると共に、上送り足56が連結体57との連結部を中心に回転する。その結果、上送り足56に上送りホルダ76を介して連結された上送り歯77が、後側へ変位する。
また、スライドアーム60Aの第1位置では、アーム部60A1の先端部が、駆動カム52のカム面に当接している。そして、針12が針板11よりも上側に配置された送り状態のときには、スライドアーム60Aが、駆動カム52のカム面に伴って、送り上軸53を中心として時計回りに回転する。このとき、スライドアーム60Aの連結軸60Bには、三角リンク63が連結リンク62によって連結されているため、三角リンク63が解放リンク64との連結部を中心に反時計回りに回転する。このため、三角リンク63に連結された切替リンク65が下側へ変位して、切替リンク65に連結された連結体57及び上送り足56が下側へ変位する。これにより、上送り足56に上送りホルダ76を介して連結された上送り歯77が、下側へ変位して、下送り歯35に直接的に又は間接的に(生地を介して)当接する。よって、上送り歯77及び下送り歯35によって生地を挟み込みながら、生地を後側へ送る。
また、スライドアーム60Aが送り上軸53を中心として時計回りにさらに回転するときには、下送り歯35が上送り歯77に直接的に又は間接的に当接するため、下送り歯35によって上送り歯77の下側への変位が制限される。このため、上送り歯77に上送りホルダ76及び上送り足56を介して連結された連結体57(すなわち、切替リンク65)の下側への変位が制限される。これにより、三角リンク63が切替リンク65との連結部を中心として反時計回りに回転して、解放リンク64が上側へ変位する。その結果、バネ解放機構66が作動する。具体的には、解放リンク6によって、バネホルダ69が押え棒21に対して上側へ持ち上げられて、押えバネ24による押え棒21に対する付勢力が、解放される。その結果、送り状態のときには、生地に対して押え73が作用しない状態になる。
そして、スライドアーム60Aの駆動カム52におけるカム面への当接部位が、当該カム面の最大半径部から最小半径部側へ切替り、スライドアーム60Aの揺動が反転する。これにより、バネホルダ69が付勢力を解放した位置から下側へ変位して、バネ受け68に当接する位置に復帰する。その結果、生地に対する送り完了時には、押えバネ24による押え棒21に対する付勢力が付与された状態に復帰して、生地に対して押え73が作用する状態になる。
一方、図9(B)に示されるように、針12が針板11よりも下側に配置された縫目形成状態のときには、送り上軸53が、自身の軸回りを時計回りに回転する。これにより、上送りアーム54が、送り上軸53を中心として時計回りに回転すると共に、上送り足56が連結体57との連結部を中心に回転する。その結果、上送り足56に上送りホルダ76を介して連結された上送り歯77が、前側へ変位する。なお、この縫目形成状態のときには、下送り歯35が、針板11よりも下側に配置されて、上送り歯77が下送り歯35に当接しない。
さらに、駆動カム52には、スライドアーム60Aにおけるアーム部60A1の先端部が当接しているため、駆動カム52が回転することで、スライドアーム60Aが送り上軸53を中心に反時計回りに回転する。これにより、スライドアーム60Aに連結リンク62を介して連結された三角リンク63が解放リンク64との連結部を中心に時計回りに回転する。このため、三角リンク63に連結された切替リンク65が、上側へ変位すると共に、連結体57及び上送り足56が上側へ変位する。よって、上送り足56及び上送りホルダ76を介して連結された上送り歯77も上方側へ変位して、上送り歯77が生地に対して上側へ離間する。
以上により、スライド部材82の第1位置では、送り状態のときに、上送り機構50において、上送り歯77を下送り歯35に直接的に又は間接的に当接する位置に配置して、生地に対して押え73が作用しない状態になる。一方、縫目形成状態のときには、上送り機構50において、上送り歯77を下送り歯35に直接的に又は間接的に当接しない位置に配置して、生地に対して押え73が作用する状態になる。したがって、上送り機構50が、上送り歯77の送り動作に連動して、生地に対して押え73を断続的に作用させる。
<スライド部材82が第2位置に配置されたときの上送り機構50の動作について>
図10(A)及び(B)に示されるように、スライドアーム60Aの第2位置では、アーム部60A1の先端部が、停止カム81のカム面に当接している。ここで、停止カム81は、上軸26と同軸上に配置されているため、上軸26の軸心から停止カム81のカム面までの距離が一定に設定されている。このため、上軸26の回転によって停止カム81が回転しても、スライドアーム60Aが揺動しない。つまり、上軸26の回転動力が、送りリンク機構61に伝達されず、送りリンク機構61が作動しない。これにより、上送り歯77の上下方向の往復移動が停止される。すなわち、上送り機構50において、上送り歯77に対する上下方向の駆動が停止される。
また、上軸26の軸心から停止カム81のカム面までの距離が、上軸26の軸心から駆動カム52のカム面までの最小距離と一致している。このため、上送り歯77が下送り歯35に対して上側に離間した位置に配置される。具体的には、上送り歯77が、送り動作をする下送り歯35に当接しない位置に配置される。これにより、縫目形成状態及び送り状態の何れの状態においても、バネ解放機構66が作動せず、生地に対して押え73が常に作用する状態になる。その結果、下送り歯35と押え73とによって、生地を挟み込んで後側へ送る。なお、この状態では、上送り歯77が、送り動作をする下送り歯35に当接しない位置において、前後方向に往復移動する。
<各種押えユニットが押え棒21に取付けられたときのミシン10の動作について>
次に、図11に示されるフローチャートを用いて、各種押えユニットが押え棒21に取付けられたときのミシン10の動作について説明する。なお、以下の説明では、ミシン10の作動前の状態として、切替機構80のスライド部材82が第1位置に配置されている状態とする。すなわち、上送り機構50におけるバネ解放機構66の作動が許可された状態になっている。
始めに、ステップS1において、使用者がミシン10の操作ボタン14を用いてスタート操作を行うと、ミシン10の作動が開始される。
そして、ステップS1の処理後、ステップS2に移行する。ステップS2では、制御部90が、押え検知センサ79の検知信号に基づいて、押え棒21に装着された押えの種類を判別する。ステップS2において、交換押えユニット110が押え棒21に装着された場合(ステップS2の「オフ信号を検出」の場合)は、ステップS3に移行する。
ステップS3では、切替機構80によって、バネ解放機構66の作動を停止した状態にする。ここでは、スライド部材82は第1位置に配置されているため、上送り機構50におけるバネ解放機構66の作動が許可された状態になっている。このため、制御部90の制御によって切替機構80の切替モータ85が作動して、スライド部材82が第1位置から第2位置へスライドする。これにより、バネ解放機構66の作動が停止した状態になる。ステップS3の処理後、ステップS4に移行する。
ステップS4では、制御部90の制御によってミシンモータ27が駆動して、生地に対する縫製が開始される。すなわち、上軸26の回転によって針機構が駆動して、針12が上下方向に往復移動する。これにより、生地に縫い目が形成される。また、このときには、上軸26の回転によって下送り機構30が駆動して、下送り歯35が側面視で楕円状の軌跡を描くように作動する。
そして、ステップS4の処理後、ステップS5に移行する。ステップS5において、使用者がミシン10の操作ボタン14を用いてストップ操作を行うと、ステップS6に移行する。そして、ステップS6では、制御部90の制御によって、ミシンモータ27の駆動が停止され、ミシンモータ27の駆動停止後、処理を終了する。
以上により、上送り歯を備えていない交換押えユニット110が押え棒21に装着された場合には、生地に対して押え73が常に作用する状態で縫製が行われる。
一方、ステップS2において、交換押えユニット100が押え棒21に装着された場合(ステップS2の「オン信号1を検出」の場合)は、ステップS7に移行する。
ステップS7では、切替機構80によって、バネ解放機構66の作動を許可した状態にする。ここでは、スライド部材82が第1位置に配置されているため、バネ解放機構66の作動が許可された状態になっている。このため、切替機構80の切替モータ85が作動せずに、スライド部材82の第1位置に配置された状態が維持される。これにより、バネ解放機構66の作動を許可した状態が維持される。そして、ステップS7の処理後、ステップS8に移行する。
ステップS8では、ステップS4と同様の処理が行われる。すなわち、制御部90の制御によってミシンモータ27が駆動して、生地に対する縫製が開始される。
そして、ステップS8の処理後、ステップS9に移行する。ステップS9において、使用者がミシン10の操作ボタン14を用いてストップ操作を行うと、ステップS10に移行する。そして、ステップS10では、制御部90の制御によって、ミシンモータ27の駆動が停止され、ミシンモータ27の駆動停止後、処理を終了する。
以上により、外側送り歯部101Aを有する通常上送り歯101を備えた交換押えユニット100が押え棒21に装着された場合には、生地に対して押え73が断続的に作用する状態で縫製が行われる。
一方、ステップS2において、押えユニット70が押え棒21に装着された場合(ステップS2の「オン信号2を検出」の場合)は、ステップS11に移行する。
ステップS11では、制御部90において、現在の状態が、生地に対する縫製開始であるか否かを判別する。具体的には、ミシン10の電源投入時もしくは前回の縫製終了時(ミシンモータ27の停止時)から今回のスタート操作までの間で、レバー操作センサ23からの検知信号を制御部90が受信した否かに基づいて、制御部90が、生地に対する縫製開始であるか否かを判別する。そして、生地に対する縫製開始ではない場合(ステップS11の「No」の場合)では、ステップS7に移行する。
ステップS11において、生地に対する縫製開始である場合(ステップS11の「Yes」の場合)には、ステップS12へ移行する。ステップS12では、切替機構80によって、バネ解放機構66の作動を停止した状態にする。ここでは、スライド部材82が第1位置に配置されているため、バネ解放機構66の作動を許可した状態になっている。このため、制御部90の制御によって切替機構80の切替モータ85が駆動して、スライド部材82が第1位置から第2位置へスライドする。これにより、バネ解放機構66の作動が停止された状態になる。そして、ステップS12の処理後、ステップS13に移行する。
ステップS13では、ステップS4と同様に、制御部90の制御によってミシンモータ27が駆動して、生地に対する縫製が開始される。ステップS13の処理後、ステップS14へ移行する。
ステップS14では、制御部90が、縫目回数検出装置92からの検出信号に基づいて、ミシン10の生地に対する縫製開始が行われた後の針12の針落ちの回数が所定回数に達したか否かを判別する。そして、ステップS14において、針12の針落ちの回数が所定回数に達していない場合(ステップS14の「No」の場合)には、ステップS14に戻る。
一方、ステップS14において、針12の針落ちの回数が所定回数に達している場合(ステップS14の「Yes」の場合)には、ステップS15に移行する。
ステップS15では、切替機構80によって、バネ解放機構66の作動を許可した状態にする。すなわち、制御部90の制御によって切替機構80の切替モータ85が駆動して、スライド部材82が第2位置から第1位置へスライドする。これにより、バネ解放機構66の作動が許可された状態になる。
そして、ステップS15の処理後、ステップS16に移行する。ステップS16において、使用者がミシン10の操作ボタン14を用いてストップ操作を行うと、ステップS17に移行する。そして、ステップS17では、制御部90の制御によって、ミシンモータ27の駆動が停止され、ミシンモータ27の駆動停止後、処理を終了する。
以上により、上送り歯77を備えた押えユニット70が押え棒21に装着された場合には、生地に対する縫製開始時に、生地に対して押え73が常に作用する状態し、生地に対する縫製開始後に、生地に対して押え73が断続的に作用する状態に切替える。
ところで、生地に対する縫製開始時には、針12の前側において、生地を、押え73と下送り歯35との間に前側から挿入して後側へ送る。ここで、ミシン10に押えユニット70が装着されたときには、押えユニット70の上送り歯77の全体が、針12の針落ち位置の後側に配置されている。これにより、生地に対する縫製開始時(すなわち、生地に対する送り開始時)には、生地が上送り歯77に未だ到達していないため、押え73と下送り歯35と、によって生地を上下に挟み込むようになる。つまり、下送り歯35によって生地を送るようになる。
一方、上送り機構50による上送り歯77の送り動作が行われるときには、針板11の上面から突出した下送り歯35に上送り歯77が直接的又は間接的に当接して、上送り機構50のバネ解放機構66が作動する。つまり、下送り歯35によって生地を送るときには、バネ解放機構66が作動して、押えバネ24の押え棒21に対する付勢力が解放される。このため、上送り歯77の全体が針12の針落ち位置の後側に配置されたミシン10では、生地に対する送り開始時(針12の前側)において、バネ解放機構66が作動すると、押え73から生地に押え圧が付与されない。これにより、下送り歯35と押え73とによって挟み込まれた生地を、良好に送ることができなくなる可能性がある。よって、生地が針12に対して後側に到達するまで(上送り歯77に到達するまで)、使用者が生地を後側へ移動させる必要がある。したがって、使用者に対する操作性が低下する可能性がある。
ここで、本実施の形態のミシン10では、上述のように、生地に対する縫製開始時には、切替機構80によって、上送り機構50におけるバネ解放機構66の作動が停止される。このため、送り状態及び縫目形成状態の何れの状態においても、生地に対して押え73が常に作用する状態になる。よって、全体が針12の針落ち位置の後側に配置された上送り歯77を有するミシン10でも、生地に対する縫製開始時において、押え73と下送り歯35とによって生地を良好に後方側へ送ることができる。
また、生地に対する縫製開始から針12の針落ち回数が所定回数に達すると、切替機構80によって、上送り機構50におけるバネ解放機構66の作動が許可された状態に切替わる。すなわち、上送り機構50が、上送り歯77の送り動作に連動して、生地に対して押え73を断続的に作用させる状態に切替わる。これにより、送り状態のときに、押え73の押え圧が作用していない生地を、上送り歯77と下送り歯35とによって挟み込んで後方側へ送ることができる。一方、縫目形成状態のときに、生地に対して押え73の押え圧を作用させて、生地に縫い目を形成することができる。以上により、使用者に対する操作性を向上することができる。
また、上送り機構50が、上送り歯77を下送り歯35に当接しない位置に配置することで、バネ解放機構66の作動を停止させて、押え73を常に作用させる状態にする。これにより、上送り機構50において、上送り歯77に対する上下駆動を停止させることで、押え73を常に作用させる状態にすることができる。
また、切替機構80は、上送り機構50のスライドアーム60Aに連結されている。そして、切替機構80によって、スライドアーム60Aが駆動カム52の動力を送りリンク機構61に非伝達にする非伝達状態にされて、バネ解放機構66の作動が停止する。一方、切替機構80によって、スライドアーム60Aが駆動カム52の動力を送りリンク機構61に伝達する伝達状態に切替えられて、バネ解放機構66の作動が許可された状態に切替わる。これにより、スライドアーム60Aの状態を切替えることで、押え73を常に作用させる状態から断続的に作用させる状態に自動で切替えることができる。
また、切替機構80は、上軸26に一体回転可能に設けられた停止カム81と、スライドアーム60Aに連結されたスライド部材82と、を含んで構成されている。さらに、切替モータ85の駆動によってスライド部材82が作動することで、スライドアーム60Aが送り上軸53の軸方向に沿って移動して、駆動カム52又は停止カム81に連結される。そして、スライドアーム60Aが停止カム81に連結されることで、スライドアーム60Aの揺動が停止されて、上送り歯77の上下方向の移動が停止する。これにより、停止カム81の半径を適宜設定することで、上送り歯77を下送り歯35に当接しない位置に配置して、押え73を常に作用させる状態にすることができる。
また、本実施の形態では、上送り足56の下端部に、押え検知センサ79が設けられており、押え棒21に取付けられた押えユニットの種類を押え検知センサ79によって検出する。このため、例えば、上送り歯77、101を備えていない交換押えユニット110が押え棒21に取付けられたときには、切替機構80によってスライド部材82を第2位置に配置させることで、上送り機構50(送り駆動機構部51)の上下駆動を停止させることができる。これにより、ミシン10の作動時における、振動や騒音を低減することができる。
また、例えば、通常上送り歯101を備えた交換押えユニット100が押え棒21に取付けられたときには、切替機構80によってスライド部材82を第1位置に配置させることで、上送り機構50(送り駆動機構部51)の上下駆動を許可した状態にすることができる。すなわち、通常上送り歯101では、外側送り歯部101Aの前端部が、針12の針落ち位置よりも前側に配置されている。このため、生地に対する縫製開始時であっても、外側送り歯部101Aと下送り歯35とによって生地を挟み込んで後方側へ送ることができる。したがって、通常上送り歯101を備えた交換押えユニット100が押え棒21に取付けられたときには、生地に対する縫製開始から、通常上送り歯101の送り動作を許可した状態にして、生地に対して縫製を行うことができる。これにより、使用者に対する利便性を向上することができる。
(第2の実施の形態)
図12を用いて第2の実施の形態に係るミシン200について説明する。第2の実施の形態のミシン200では、以下に示す点を除いて、第1の実施の形態のミシン10と同様に構成されている。なお、図12では、第1の実施の形態のミシン10と同様に構成されている部材には、同一の符号を付している。
すなわち、ミシン200では、切替機構80において停止カム81が省略されている。また、ミシン200では、上送り機構50が、第1の実施の形態の伝達機構60の代わりに、伝達機構210を有している。伝達機構210は、「第1伝達部材」としての伝達アーム212と、「第2伝達部材」としての連結スライドアーム214と、を含んで構成されている。
伝達アーム212は、略矩形ブロック状に形成されて、駆動カム52の後側において上下方向に延在されている。そして、伝達アーム212の上端部が、送り上軸53に揺動可能支持されている。伝達アーム212の下端部には、前側へ延出されたアーム部212Aが形成されている。また、伝達アーム212は、図示しない付勢バネによって前側(駆動カム52側)へ付勢されており、アーム部212Aの先端部が、駆動カム52のカム面に当接している。これにより、伝達アーム212が駆動カム52に連結されており、駆動カム52が回転することで、伝達アーム212が、カム面の形状に対応して、送り上軸53の軸回りを揺動するようになっている。
伝達アーム212の長手方向中間部には、伝達ピン212Bが一体に設けられている。伝達ピン212Bは、左右方向を軸方向として伝達アーム212から左側へ突出されている。また、伝達ピン212Bの径寸法は先端側へ向かうに従い小さくなるように設定されている。すなわち、伝達ピン212Bが円錐状に形成されている。
連結スライドアーム214は、左右方向を長手方向とする略長尺ブロック状に形成されている。連結スライドアーム214は、伝達アーム212の左側に配置されており、連結スライドアーム214の上端部が、送り上軸53に揺動可能に支持されている。また、連結スライドアーム214は、送り上軸53の軸方向において送り上軸53に対して相対移動可能に構成されている。
連結スライドアーム214の右側面には、連結凹部214Aが形成されている。連結凹部214Aは、右側へ開放された凹状に形成されており、右側から見て円形状に形成されている。そして、伝達アーム212の伝達ピン212Bが連結凹部214A内に挿入可能に構成されている。また、連結スライドアーム214の下端部には、左側へ突出された連結軸216が設けられており、連結軸216には、送りリンク機構61の連結リンク62が回転可能に連結されている。なお、送り上軸53の軸線から連結軸216の軸線までの距離は、第1の実施の形態の送り上軸53の軸線から連結軸60Bの軸線までの距離と同じに設定されている。
さらに、連結スライドアーム214の上端部には、上側へ突出された連結突起214Bが形成されており、連結突起214Bが、切替機構80におけるスライド部材82のアーム連結部82Bに連結されている。これにより、切替機構80のスライド部材82が左右方向にスライドすることで、連結スライドアーム214が送り上軸53の軸方向に沿って左右に移動するようになっている。なお、第2の実施の形態では、スライド部材82の第1位置と第2位置とが、第1の実施の形態と比べて、左右逆に設定されている。
具体的には、スライド部材82が第1位置に配置された状態では、連結スライドアーム214が伝達アーム212の左側に隣接して配置されて、伝達アーム212の伝達ピン212Bが連結スライドアーム214の連結凹部214A内に挿入されるようになっている。この状態では、伝達ピン212Bが連結凹部214Aに係合して、連結スライドアーム214が伝達アーム212と一体に揺動する構成になっている。これにより、上軸26の回転駆動が伝達機構210によって送りリンク機構61に伝達されて、上送り歯77(図示省略)を上下方向に駆動する構成になっている。
一方、スライド部材82が第1位置から左側へスライドして第2位置に配置された状態では、連結スライドアーム214が伝達アーム212から左側へ離間して、伝達アーム212の伝達ピン212Bと連結スライドアーム214の連結凹部214Aとの係合状態が解除される構成になっている。この状態では、伝達アーム212の揺動運動が連結スライドアーム214に伝達されず、連結スライドアーム214の揺動が停止する構成になっている。これにより、上軸26の回転駆動が送りリンク機構61に伝達されず、上送り歯77の上下方向の駆動が停止する構成になっている。
また、連結スライドアーム214の前側には、アーム付勢バネ218が設けられている。アーム付勢バネ218の一端部は、連結スライドアーム214の下端部に係止され、アーム付勢バネ218の他端部は、ミシン200のフレームに係止されており、連結スライドアーム214がアーム付勢バネ218によって前側へ付勢されている。これにより、スライド部材82が第2位置に配置された状態では、連結スライドアーム214が、左側から見て反時計回りに回動するようになっている。具体的には、第1の実施の形態においてスライドアーム60Aが停止カム81のカム面に当接したときの連結軸60Bの位置と同じ位置に連結軸216が位置するように、連結スライドアーム214が回動するようになっている。このため、スライド部材82が第2位置に配置された状態では、第1の実施の形態と同様に、上送り歯77が下送り歯35に対して上側に離間した位置に配置されて、上送り歯77の送り動作が停止するようになっている。具体的には、上送り歯77が、送り動作をする下送り歯35に当接しない位置に配置される。これにより、バネ解放機構66の作動が停止する構成になっている。
また、スライド部材82が第2位置に配置された状態では、伝達アーム212の伝達ピン212Bの先端部が、連結スライドアーム214の連結凹部214Aの開口部内に配置されている。このため、スライド部材82が第2位置から右側へスライドすると、連結スライドアーム214の連結凹部214Aの内周面が伝達ピン212Bの外周面に当接して、連結スライドアーム214が送り上軸53の軸回りに回動しながら、連結スライドアーム214が伝達アーム212に接近するようになっている。このため、スライド部材82が第1位置に配置されときには、伝達ピン212Bが連結スライドアーム214の連結凹部214A内に再度挿入して係合するようになっている。
そして、第2の実施の形態のミシン200においても、押え73を有する押えユニット70が押え棒21に取付けられたときには、生地に対する縫製開始時に、切替機構80のスライド部材82を第2位置に配置することで、バネ解放機構66の作動を停止させて、上送り機構50において押え73を常に作用させる状態にすることができる。また、生地に対する縫製開始から針12の針落ち回数が所定回数に達した後に、切替機構80のスライド部材82の位置を第1位置に切替えることで、バネ解放機構66の作動を許可した状態にして、上送り機構50において押え73を断続的に作用させる状態に切替えることができる。以上により、第2の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、使用者に対する操作性を向上することができる。
(第3の実施の形態)
図13~図17を用いて第3の実施の形態に係るミシン300について説明する。第3の実施の形態のミシン300では、以下に示す点を除いて、第1の実施の形態のミシン10と同様に構成されている。なお、図13~図17では、第1の実施の形態のミシン10と同様に構成されている部材には、同一の符号を付している。
すなわち、第3の実施の形態のミシン300は、第1の実施の形態の切替機構80の代わりに、切替機構310を備えている。切替機構310は、押えユニット70に設けられた連結機構311及び保持機構313と、押えバネ24に連結された押圧機構315と、を含んで構成されている。また、第3の実施の形態では、押えユニット70の押えホルダ72が、上下に分割されている。以下、押えホルダ72及び切替機構310の構成について説明する。
(押えホルダ72について)
図13に示されるように、押えホルダ72は、押えホルダ72の上部を構成する上側押えホルダ302と、押えホルダ72の下部を構成する下側押えホルダ304と、に分割されている。上側押えホルダ302の下端部には左右一対の取付片302Aが形成されており、取付片302Aが、上側押えホルダ302から下側へ延出されている。左側の取付片302Aの上端部には、支持孔302Bが左右方向に貫通形成されている。また、取付片302Aの前面には、被係合部302Cがそれぞれ形成されており、被係合部302Cは、側面視で凹凸状に形成されている。
下側押えホルダ304は、正面視で下側へ開放された略逆U字形状に形成されている。具体的には、下側押えホルダ304は、左右一対の押え取付部72Bと、左右方向に延在され且つ押え取付部72Bの上端部を連結する取付連結部304Aと、を含んで構成されている。そして、押え73が、下側押えホルダ304の押え取付部72Bに取付けられている。
押え取付部72Bの後面には、上側押えホルダ302の被係合部302Cと係合可能に構成された係合部304Bが形成されており、係合部304Bは、側面視で凹凸状に形成されている。また、左側の押え取付部72Bには、支持凹部304Cが形成されており、支持凹部304Cは、左側へ開放された凹状に形成されると共に、左側から見て円形状に形成されている。さらに、押え取付部72Bの上端部の前面には、上下一対の保持溝304Dがそれぞれ形成されている。保持溝304Dは、側面視で、前側へ開放された略C字形状に形成されている。
ここで、下側押えホルダ304の上端部が上側押えホルダ302の取付片302Aの前側に隣接して配置されて、下側押えホルダ304が、後述する切替機構310の連結機構311によって、上側押えホルダ302に上下方向に相対移動可能に連結されている。具体的には、下側押えホルダ304が、図14(A)に示される下降位置と、下降位置から上側へ変位した上昇位置(図14(B)に示される位置)と、の間を移動可能に構成されている。
そして、下側押えホルダ304の上昇位置では、固定ネジSC1の軸心から押え73の下面までの上下距離H1(図14(B)参照)が、第1の実施の形態と同じ寸法に設定されている。一方、下側押えホルダ304の下降位置では、固定ネジSC1の軸心から押え73の下面までの上下距離H2(図14(A)参照)が、上下距離H1よりも大きくなる設定になっている。詳しくは、下側押えホルダ304が下降位置に配置された状態で、押えユニット70が押え棒21に取付けられたときには、押え73の下面が上送り歯77の下端よりも下側に配置されるように、上下距離H2が設定されている。
(切替機構310について)
図13、図15、及び図16に示されるように、切替機構310は、下側押えホルダ304を上側押えホルダ302に連結する連結機構311と、下側押えホルダ304を下降位置及び上昇位置において保持する保持機構313と、押えバネ24に連結された押圧機構315と、を含んで構成されている。
図13及び図14に示されるように、連結機構311は、切替レバー312を主要部として構成されている。切替レバー312は、左右方向を板厚方向とし且つ略前後方向に延在された略長尺板状に形成されている。切替レバー312の前端部には、取手部312Aが形成されており、取手部312Aは、切替レバー312から左側へ突出している。また、切替レバー312の後端部には、回転軸部312Bが一体に形成されており、回転軸部312Bは、左右方向を軸方向として切替レバー312から右側へ突出している。そして、回転軸部312Bが、上側押えホルダ302の支持孔302Bに嵌入されて、切替レバー312が上側押えホルダ302に回転可能に連結されている。さらに、切替レバー312の前端部には、連結軸部312Cが一体に形成されており、連結軸部312Cは、左右方向を軸方向として切替レバー312から右側へ突出している。そして、連結軸部312Cが、下側押えホルダ304の支持凹部304Cに嵌入されて、切替レバー312が下側押えホルダ304に回転可能に連結されている。これにより、下側押えホルダ304が、上側押えホルダ302に上下方向に相対移動可能に連結されている。
具体的には、下側押えホルダ304の上昇位置では、下側押えホルダ304の取付連結部304Aが上側押えホルダ302の下端部に下側から当接している。また、この状態の切替レバー312の位置を第1操作位置としており、切替レバー312の第1操作位置では、切替レバー312が、左側から見て前側へ向かうに従い上側へ傾斜している。そして、使用者が、切替レバー312の取手部312Aを把持して、切替レバー312を下側へ操作することで、切替レバー312が回転軸部312Bの軸回りを回転すると共に、下側押えホルダ304が下降位置に配置される構成になっている。また、この状態の切替レバー312の位置を第2操作位置としており、切替レバー312の第2操作位置では、切替レバー312が、左側から見て前側へ向かうに従い下側へ傾斜している。また、切替レバー312が第1操作位置から第2操作位置へ回転されるときには、下側押えホルダ304の係合部304Bと上側押えホルダ302の被係合部302Cとの係合状態が一旦解除され、その後、係合部304Bと被係合部302Cとが再び係合するようになっている。
保持機構313は、板バネ314を主要部として構成されて、上側押えホルダ302の下端部の前側に配置されている。板バネ314は、前後方向を板厚方向とし、且つ正面視で略逆Y字形に形成されている。具体的には、板バネ314は、正面視で略逆T字形状に形成されたバネ本体部314Aと、バネ本体部314Aの左右方向両端部から下側へ延出さえた左右一対のバネ部314Bと、を含んで構成されている。バネ本体部314Aには、取付孔314Cが貫通形成されている。そして、バネ固定ネジSC2が取付孔314C内に挿入されて、バネ固定ネジSC2によって板バネ314が上側押えホルダ302に締結固定されている。
左右一対のバネ部314Bは、下側押えホルダ304の押え取付部72Bの前側に隣接して配置されている。バネ部314Bの下端部には、フック部314Dが形成されており、フック部314Dは、側面視で、前側へ開放された略V字形状に屈曲されている。そして、下側押えホルダ304が、下降位置に配置された状態では、フック部314Dが下側の保持溝304D内に配置されて、バネ部314Bが前側へ弾性変形している。これにより、板バネ314によって下側押えホルダ304が後側へ付勢されて下降位置に保持される構成になっている。一方、下側押えホルダ304が、上昇位置に配置された状態では、フック部314Dが上側の保持溝304D内に配置されて、バネ部314Bが前側へ弾性変形している。これにより、板バネ314によって下側押えホルダ304が後側へ付勢されて上昇位置に保持される構成になっている。
図15及び図16に示されるように、押圧機構315は、押えアーム316と、押え圧設定モータ317と、を含んで構成されている。押えアーム316は、前後方向に延在されており、押えアーム316の一端部が、押え棒21の上端部に相対回転に連結している。具体的には、押えアーム316の一端部が、押えバネ24の上端部の上側に隣接して配置されて、押えバネ24の上端部を係止している。これにより、押えアーム316と押えバネ24とが連結されている。また、押えアーム316の他端部は、ミシン300のフレームに左右方向を軸方向として回転可能に支持されている。また、押えアーム316の他端部には、後述する押え圧設定モータ317と連結される連結ギヤ316Aが一体に形成されている。
押え圧設定モータ317は、押えアーム316の他端部の近傍に設けられている。押え圧設定モータ317の出力軸には、モータギヤ318が一体回転可能に設けられており、モータギヤ318が、押えアーム316の連結ギヤ316Aに噛合されている。また、押え圧設定モータ317は、制御部90に電気的に接続されている。そして、制御部90の制御によって、押え圧設定モータ317が駆動すると、押えアーム316が回転して、押えアーム316の一端部が下降するようになっている。これにより、押えバネ24が圧縮変形して、押え棒21に対する付勢力が増加する構成になっている。具体的には、押え棒21の付勢力による押え73の生地に対する押え圧が最大押え圧になるように設定されている。
ここで、押えユニット70の初期状態では、下側押えホルダ304が下降位置に配置されている。すなわち、使用者の操作によって、切替レバー312が第2操作位置に配置されている。この初期状態では、押え73の下面が上送り歯77の下端よりも下側に配置されている。このため、図15(A)及び(B)に示されるように、押え棒21が押え位置に下降した状態では、上送り歯77が、針板11の上面よりも上側に離間した位置に配置されるようになっている。より詳しくは、上送り歯77が、下送り機構30によって作動する下送り歯35に直接的又は間接的に当接しないように、下降位置における、固定ネジSC1の軸心から押え73の下面までの上下距離H2が設定されている。
これにより、押えユニット70の初期状態では、上送り機構50の作動によって、上送り歯77自体の送り動作(運動)は行われるものの、上送り歯77が生地に当接しないため、上送り歯77において生地を送る送り動作は行われない。よって、上送り機構50の作動時には、バネ解放機構66が作動しないため、生地に対して押え73が常に作用する状態になっている。
一方、押えユニット70の初期状態において、切替機構310の押圧機構315が作動すると、押え73の押え圧が最大押え圧になる。このときには、生地(針板11)から押え73に上側への反力が作用して、下降位置の下側押えホルダ304に対する板バネ314の保持状態が解除される構成になっている。これにより、切替機構310の切替レバー312が第2操作位置から第1操作位置へ回転して、下側押えホルダ304が上昇位置に変位すると共に、押え棒21が下側へ変位する。
そして、上述のように、下側押えホルダ304の上昇位置では、固定ネジSC1の軸心から押え73の下面までの上下距離H1が、第1の実施の形態と同じ寸法に設定されている。このため、下側押えホルダ304の上昇位置では、上送り歯77の生地に対する送り動作時にバネ解放機構66が作動して、上送り機構50において、押え73を生地に対して断続的に作用させる状態になる。
次に、図17に示されるフローチャートを用いて、各種の押えユニットが装着されたときのミシン300の動作を説明する。なお、押えユニット70がミシン300に装着されたときには、押えユニット70が初期状態になっている。
始めに、ステップS101において、使用者がミシン300の操作ボタン14を用いてスタート操作を行うと、ミシン300の作動が開始される。
そして、ステップS101の処理後、ステップS102に移行する。ステップS2では、制御部90が、押え検知センサ79の検知信号に基づいて、押え棒21に装着された押えの種類を判別する。ステップS2において、交換押えユニット100又は交換押えユニット110が押え棒21に装着された場合(ステップS102の「オフ信号又はオン信号1を検出」の場合)は、ステップS103に移行する。
ステップS103では、制御部90の制御によってミシンモータ27が駆動して、生地に対する縫製が開始される。すなわち、上軸26の回転によって針機構が駆動して、針12が上下方向に往復移動する。これにより、生地に縫い目が形成される。また、このときには、上軸26の回転によって下送り機構30が駆動して、下送り歯35が側面視で楕円状の軌跡を描くように作動する。
そして、ステップS103の処理後、ステップS104に移行する。ステップS104において、使用者がミシン10の操作ボタン14を用いてストップ操作を行うと、ステップS105に移行する。そして、ステップS105では、制御部90の制御によって、ミシンモータ27の駆動が停止され、ミシンモータ27の駆動停止後、処理を終了する。
以上により、外側送り歯部101Aを有する交換押えユニット100が押え棒21に装着された場合には、上送り機構50が作動して、上送り歯77と下送り歯35とによって生地を後側へ送りながら縫製を行う。また、上送り歯を備えていない交換押えユニット110が押え棒21に装着された場合には、下送り歯35によって生地を後側へ送りながら縫製を行う。
一方、ステップS102において、押えユニット70が押え棒21に装着された場合(ステップS102の「オン信号2を検出」の場合)は、ステップS106に移行する。
ステップS106では、第1の実施の形態と同様に、制御部90において、現在の状態が、生地に対する縫製開始であるか否かを判別する。そして、生地に対する縫製開始状態ではない場合(ステップS106において、「No」の場合)では、ステップS103に移行する。
ステップS106において、生地に対する縫製開始である場合(ステップS106の「Yes」の場合)には、ステップS107へ移行する。ステップS107では、ステップS103と同様に、制御部90の制御によってミシンモータ27が駆動して、生地に対する縫製が開始される。すなわち、押えユニット70が初期状態になっているため、生地に対して、押え73が常に作用する状態で、縫製が開始される。ステップS107の処理後、ステップS108へ移行する。
ステップS108では、制御部90が、縫目回数検出装置92からの検出信号に基づいて、ミシン300の生地に対する縫製開始後における針12の針落ちの回数が所定回数に達したか否かを判別する。そして、ステップS108において、針12の針落ちの回数が所定回数に達していない場合(ステップS108の「No」の場合)には、ステップS108に戻る。
一方、ステップS108において、針12の針落ちの回数が所定回数に達した場合(ステップS108の「Yes」の場合)には、ステップS109に移行する。
ステップS109では、制御部90の制御によって切替機構310が作動して、切替機構310によって、下側押えホルダ304を下降位置から上昇位置へ変位させる。具体的には、押圧機構315の押え圧設定モータ317が駆動して、押えアーム316が回動する。そして、押えバネ24が圧縮変形して、押え棒21による押え圧が最大押え圧になる。これにより、板バネ314の下側押えホルダ304への保持状態が解除されて、切替レバー312が第2操作位置から第1操作位置に回転する。よって、下側押えホルダ304を上昇位置に変位する。その結果、上送り機構50において、生地に対する押え73を断続的に作用させる状態に切替わる。
そして、ステップS109の処理後、ステップS110に移行する。ステップS110において、使用者がミシン300の操作ボタン14を用いてストップ操作を行うと、ステップS111に移行する。そして、ステップS111では、制御部90の制御によって、ミシンモータ27の駆動が停止され、ミシンモータ27の駆動停止後、処理を終了する。
以上により、第3の実施の形態においても、押え73を有する押えユニット70が押え棒21に取付けられたときには、生地に対する縫製開始時に、上送り機構50において押え73を常に作用させる状態にし、生地に対する縫製開始から針12の針落ち回数が所定回数に達した後に、上送り機構50において押え73を断続的に作用させる状態に切替えることができる。以上により、第3の実施の形態においても、第1の実施の形態と同様に、使用者に対する操作性を向上することができる。
また、第3の実施の形態では、上送りホルダ76が上側押えホルダ302と下側押えホルダ304とに分割されている。さらに、切替機構310の連結機構311(切替レバー312)及び保持機構313(板バネ314)によって、下側押えホルダ304が上側押えホルダ302に上下方向に相対移動可能に連結されている。そして、切替機構310によって下側押えホルダ304を下降位置に配置させることで、上送り機構50の作動時において、上送り歯77が下送り歯35に直接的又は間接的に当接しない位置に配置されて、押え73が生地に対して常に作用する状態になる。一方、切替機構310によって下側押えホルダ304を上昇位置に配置させることで、上送り機構50の作動時に、上送り歯77が下送り歯35に直接的又は間接的に当接する位置と当接しない位置とに交互に配置されて、押え73が生地に対して断続的に作用する状態になる。これにより、切替機構310によって下側押えホルダ304を下降位置から上昇位置に切替えることで、上送り機構50において、押え73を常に作用させる状態から断続的に作用させる状態に切替えることができる。
また、第3の実施の形態では、切替機構310が押圧機構315を有しており、押圧機構315が作動することで、下側押えホルダ304が下降位置から上昇位置に変位する。このため、自動で、押え73を常に作用させる状態から断続的に作用させる状態に切替えることができる。また、押え圧調節機構を有するミシンにおいて、第3の実施の形態の押えユニット70を装着することで、押え73を常に作用させる状態から断続的に作用させる状態へ自動で切替えることができる。
(変形例)
なお、第1~第3の実施の形態では、上送り歯77を備えたミシン10、200、300において、制御部90が、生地に対する縫製開始後、針12の針落ちの回数が所定回数に達したときを、生地が上送り歯77に到達したときとして検知している。また、第1~第3の実施の形態では、この所定回数については特に規定していないが、所定回数を以下のように規定してもよい。例えば、一般的な押さえのサイズや縫いピッチから、所定回数を、1~3回と規定してもよい。そして、この場合には、予め制御部90に当該所定回数を記憶させ、制御部90が、縫目回数検出装置92によりカウントされた縫目回数と比較することで、生地の上送り歯77への到達を検知してもよい。また、例えば、下送り歯35のピッチ(一回の布送りの距離)等の縫製条件の変更に応じて、制御部90が、予め設定された所定回数を変更してもよい。この変更により理想により近いタイミングでバネ解放機構66の作動を許可することができる。
また、使用者に対する操作性を向上するという観点からすると、生地が送り動作により針12の針落ち位置の後側に配置された上送り歯77に到達するまで、バネ解放機構66の作動を停止させることが望ましいが、生地が上送り歯77に到達する手前の位置において、バネ解放機構66の作動が許可された場合でも、本発明の効果は十分に期待できる。このため、本発明における「縫製開始後から縫製対象物の上送り歯への到達を検知する」とは、縫製開始後において生地の上送り歯77への到達を予測する場合も含んでいる。つまり、厳密には、生地が上送り歯77に到達していなくても、制御部90によって生地の上送り歯77への到達を予測して、生地が上送り歯77の近接した位置に到達したときに、バネ解放機構66の作動を許可してもよい。
また、第1~第3の実施の形態では、上述のように、上送り歯77を備えたミシン10、200、300において、制御部90が、生地に対する縫製開始後、針12の針落ちの回数が所定回数に達したときを、生地の上送り歯77への到達を検知しているが、生地の上送り歯77への到達を検知(予測)する方法は、これに限らない。例えば、制御部90が、縫製開始からの時間をカウントし、ミシンモータ27が駆動して一定の時間が経過したときを、生地が上送り歯77に到達したときとして検知してもよい。また、例えば、生地の動きを検知する画像センサ等を用いて、生地が上送り歯77に到達したこと、制御部90によって検知してもよい。さらに、生地が上送り歯77に到達したときに、作業者に所定のボタンを押させる、ミシンを一時停止させる、等の所定操作をさせることで、生地が上送り歯77に到達したことを、制御部90によって検知してもよい。
また、第1及び第2の実施の形態では、バネ解放機構66の作動を許可又は停止することで、上送り機構50において、生地に対する押え73を断続的に作用させる状態にするが、上送り機構50において、生地に対する押え73を断続的に作用させる方法はこれに限らない。例えば、上送り機構50において、バネ解放機構66を省略して、押え73及び上送り歯77を交互に上下運動させることで、生地に対する押え73を断続的に作用させる状態にしてもよい。
この場合には、例えば、解放リンク64を押え棒21に連結させる。そして、スライドアーム60Aが、送り上軸53を中心として時計回りに回転するときに、三角リンク63を反時計回りに回転させて、解放リンク64によって押え棒21を持上げる。これにより、生地に対して押え73が作用しない状態になる。また、このときには、三角リンク63が反時計回りに回転することで、切替リンク65によって、上送り足56及び上送り歯77が下側へ変位する。一方、スライドアーム60Aが、送り上軸53を中心として反時計回りに回転するときには、三角リンク63が時計回りに回転されて、解放リンク64によって押え棒21が下降する。これにより、生地に対して押え73が作用する状態になる。そして、このときには、三角リンク63が時計回りに回転することで、切替リンク65によって、上送り足56及び上送り歯77が上側へ変位する。さらに、切替機構80によって、スライドアーム60Aを停止カム81に連結することで、押え73及び上送り歯77の交互の上下運動が停止され、押え棒21が下降し且つ上送り歯77が上側へ変位した状態になる。つまり、上送り機構50において、生地に対する押え73を常に作用させる状態になる。
また、第1~第3の実施の形態では、針12の針落ち位置の後側に配置された上送り歯77において縫い始めに発生する押さえ不良への解決を想定しているが、本発明の利用可能な状況はそれだけではない。例えば、ミシン10,200,300から見て全体が針12の針落ち位置の「前側」に配置された上送り歯を持つ上送りユニットを用いて縫製した際、縫製終わりに実施される生地(縫製対象物)の送り方向が逆になる、いわゆる返し縫い(バック縫い)のときには、針12に対する生地と上送り歯との位置関係が第1~第3の実施の形態と前後逆の形で現れる。つまり、ミシン10,200,300の後側から見て、端まで縫製が終わった布、押さえ、針12、上送り歯、という位置関係になり、この位置関係からバック縫いを開始する必要があると、返し縫い開始直後はやはり押さえ不良が発生する。以上のような状況においても本発明を応用することにより、押さえ不良の発生を防ぐことが可能となる。このため、本発明の「針の針位置の後側に配置された上送り歯」とは、単にミシン10,200,300の後側という意味だけではなく、縫製対象物の送られる後側という意味も含んでいる。
また、第1及び第2の実施の形態では、押えユニット70、110は上送り機構50から着脱可能な構造となっているが、着脱可能な構造に限定されない。その他、例えば、着脱可能な構造の代わりに、上送り足56などの上送り機構50の一部が折り畳み構造や伸縮可能な構造になっており、上送りを使用しない場合に上送り機構50の一部をミシン内部に収納可能となっているような構成や、さらには着脱構造や折り畳み構造、伸縮構造が無い上送りであっても本発明の効果は期待できる。
なお、本発明は、第1~第3の実施の形態及び上記変形例を全て又はいずれかを組み合わせた形態も包含する。さらに、これらの実施形態を発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができ、その変形も本発明に含まれる。