この発明に係る眼科情報処理装置、眼科装置、眼科情報処理方法、及びプログラムの実施形態の例について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この明細書において引用された文献の記載内容や任意の公知技術を、以下の実施形態に援用することが可能である。
実施形態に係る眼科情報処理装置は、OCT計測対象の被検眼の眼内距離を取得し、OCT計測により得られた干渉信号に対して分散補償処理を施すための所定の分散補償関数の係数を、取得された眼内距離に基づいて決定する。眼科情報処理装置は、決定された係数が適用された分散補償係数に基づいて干渉信号に対して分散補償処理を施す。
いくつかの実施形態では、眼科情報処理装置は、眼科装置から眼内距離を取得する。いくつかの実施形態では、ユーザが操作装置等を用いて眼科情報処理装置に眼内距離を入力することにより、眼科情報処理装置は、眼内距離を取得する。いくつかの実施形態では、眼科情報処理装置は、電子カルテ等に記録された過去の測定結果から眼内距離を取得する。
眼内距離は、被検眼に入射する測定光の進行方向に沿った眼内の所定の部位(組織)間の距離であることが望ましい。例えば、眼内距離は、OCT計測により測定された眼軸長である。例えば、眼内距離は、角膜厚、前房深度、水晶体厚、及び硝子体厚の少なくとも1つである。
以下の実施形態では、被検眼の眼内距離として眼軸長に対応した係数を用いて分散補償処理を行う場合について説明する。しかしながら、被検眼の眼軸長以外の他の眼内距離に対応した係数を用いて分散補償処理を行う場合も同様である。
これにより、被検眼に応じて、OCT計測により得られた干渉信号に対して分散補償を行うことが可能になる。その結果、簡素な処理でOCT計測結果の精度を向上させることができるようになる。
いくつかの実施形態に係る眼科情報処理装置は、分散補償が行われた干渉信号に基づいて、OCT画像を形成することが可能である。それにより、OCT画像の画質を向上させることができる。
いくつかの実施形態に係る眼科情報処理装置は、分散補償が行われた干渉信号を用いて所定の解析処理を行うことが可能である。それにより、OCT計測により得られる解析結果の精度を向上させることができる。
以下の実施形態では、被測定物体として被検眼を例に説明するが、実施形態に係る眼科装置は、被検眼以外の被測定物体に対してOCTを実行するものであってよい。実施形態に係る眼科装置は、例えば眼底や前眼部など、被検眼の任意の部位に対してOCTを実行することが可能である。この明細書では、OCTによって取得される画像をOCT画像と総称することがある。また、OCT画像を形成するための計測動作をOCT計測と呼ぶことがある。
以下、実施形態では、OCTを用いた計測又は撮影においてスウェプトソースタイプのOCTの手法を用いる場合について特に詳しく説明する。しかしながら、他のタイプ(例えば、スペクトラルドメインタイプ又はタイムドメインタイプ)のOCTを用いる眼科装置に対して、実施形態に係る構成を適用することも可能である。
[眼科システム]
図1に、実施形態に係る眼科システムの構成例のブロック図を示す。実施形態に係る眼科システム2000は、眼科装置1000と、眼科情報処理装置(眼科画像処理装置、眼科解析装置)500と、操作装置510と、表示装置520とを含む。
眼科装置1000は、被検眼に対してOCTを実行することにより被検眼のデータを光学的に収集する。眼科装置1000は、被検眼の所定の部位(眼底(網膜)又は前眼部)をスキャンすることにより被検眼の所定の部位のOCTデータ(干渉信号)を光学的に収集する。眼科装置1000は、取得されたOCTデータから被検眼の所定の部位の画像を取得することが可能である。画像には、断層像及び正面画像が含まれる。断層像には、Bスキャン画像などがある。正面画像には、Cスキャン画像、en-face画像、シャドウグラム、又はプロジェクション画像などがある。眼科装置1000は、取得された被検眼のデータ又は取得された画像のデータを眼科情報処理装置500に送信する。
眼科情報処理装置500の機能は、眼科情報処理プログラムに従って処理を実行するコンピュータにより実現される。眼科情報処理装置500は、プロセッサと、眼科情報処理プログラムがあらかじめ記憶された記憶部とを備え、プロセッサが、記憶部から読み出された眼科情報処理プログラムに従って処理を実行することにより眼科情報処理装置500の機能を実現する。
いくつかの実施形態では、眼科装置1000と眼科情報処理装置500とは、データ通信ネットワークを介して接続される。いくつかの実施形態に係る眼科情報処理装置500は、データ通信ネットワークを介して選択的に接続された複数の眼科装置1000の1つから上記のデータを受信する。
操作装置510及び表示装置520は、ユーザインターフェイス部として情報の表示、情報の入力、操作指示の入力など、眼科情報処理装置500とそのユーザとの間で情報をやりとりするための機能を提供する。操作装置510は、レバー、ボタン、キー、ポインティングデバイス等の操作デバイスを含む。いくつかの実施形態に係る操作装置510は、音で情報を入力するためのマイクロフォンを含む。表示装置520は、フラットパネルディスプレイ等の表示デバイスを含む。いくつかの実施形態では、操作装置510及び表示装置520の機能は、タッチパネルディスプレイのような入力機能を有するデバイスと表示機能を有するデバイスとが一体化されたデバイスにより実現される。いくつかの実施形態では、操作装置510及び表示装置520は、情報の入出力を行うためのグラフィカルユーザインターフェイス(GUI)を含む。
いくつかの実施形態では、眼科装置1000は、眼科情報処理装置500、操作装置510、及び表示装置520の少なくとも1つの機能を有する。以下、眼科装置1000が、眼科情報処理装置500、操作装置510、及び表示装置520の機能を有する場合について説明する。
いくつかの実施形態では、眼科装置1000は、上記のOCT計測を実行する機能に加えて、眼底カメラ、走査型レーザー検眼鏡、スリットランプ顕微鏡、及び手術用顕微鏡の少なくとも1つの機能を備える。いくつかの実施形態に係る眼科装置1000は、被検眼の光学的な特性を測定する機能を備える。被検眼の光学的な特性を測定する機能を備えた眼科装置には、レフラクトメーター、ケラトメーター、眼圧計、ウェーブフロントアナライザー、スペキュラーマイクロスコープ、視野計などがある。いくつかの実施形態に係る眼科装置は、レーザー治療に用いられるレーザー治療装置の機能を備える。
以下、眼科装置1000は、OCT計測機能と、レフラクトメーターの機能と、ケラトメーターの機能とを備える場合について説明する。なお、眼科装置1000は、更に、自覚検査を行うための自覚検査光学系や、その他の他覚測定を行うための他覚測定系を含むことが可能である。
自覚検査は、被検者からの応答を利用して情報を取得する測定手法である。自覚検査には、遠用検査、近用検査、コントラスト検査、グレア検査等の自覚屈折測定や、視野検査などがある。
他覚測定は、被検者からの応答を参照することなく、主に物理的な手法を用いて被検眼に関する情報を取得する測定手法である。他覚測定には、被検眼の特性を取得するための測定と、被検眼の画像を取得するための撮影とが含まれる。その他の他覚測定には、ケラト測定、眼圧測定、眼底撮影等がある。
以下、眼底共役位置は、アライメントが完了した状態での被検眼の眼底と光学的に略共役な位置であり、被検眼の眼底と光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。同様に、瞳孔共役位置は、アライメントが完了した状態での被検眼の瞳孔と光学的に略共役な位置であり、被検眼の瞳孔と光学的に共役な位置又はその近傍を意味するものとする。
[眼科装置]
<光学系>
図2に、実施形態に係る眼科装置1000の光学系の構成例を示す。なお、図1の眼科情報処理装置500の機能は、図2の処理部9により実現される。
眼科装置1000は、被検眼Eを観察するための光学系と、被検眼Eを検査するための光学系と、これらの光学系の光路を波長分離するダイクロイックミラーとを含む。被検眼Eを観察するための光学系として、前眼部観察系5が設けられている。被検眼Eを検査するための光学系としてOCT光学系やレフ測定光学系(屈折力測定光学系)が設けられている。
眼科装置1000は、Zアライメント系1、XYアライメント系2、ケラト測定系3、固視投影系4、前眼部観察系5、レフ測定投射系6、レフ測定受光系7、及びOCT光学系8を含む。以下では、例えば、前眼部観察系5が940nm~1000nmの光を用い、レフ測定光学系(レフ測定投射系6、レフ測定受光系7)が830nm~880nmの光を用い、固視投影系4が400nm~700nmの光を用い、OCT光学系8が1000nm~1100nmの光を用いるものとする。
(前眼部観察系5)
前眼部観察系5は、被検眼Eの前眼部を動画撮影する。前眼部観察系5を経由する光学系において、撮像素子59の撮像面は瞳孔共役位置に配置されている。前眼部照明光源50は、被検眼Eの前眼部に照明光(例えば、赤外光)を照射する。被検眼Eの前眼部により反射された光は、対物レンズ51を通過し、ダイクロイックミラー52を透過し、絞り(テレセン絞り)53に形成された孔部を通過し、ハーフミラー23を透過し、リレーレンズ55及び56を通過し、ダイクロイックミラー76を透過する。ダイクロイックミラー52は、レフ測定光学系の光路と前眼部観察系5の光路とを合成(分離)する。ダイクロイックミラー52は、これらの光路を合成する光路合成面が対物レンズ51の光軸に対して傾斜して配置される。ダイクロイックミラー76を透過した光は、結像レンズ58により撮像素子59(エリアセンサー)の撮像面に結像される。撮像素子59は、所定のレートで撮像及び信号出力を行う。撮像素子59の出力(映像信号)は、後述の処理部9に入力される。処理部9は、この映像信号に基づく前眼部像E´を後述の表示部10の表示画面10aに表示させる。前眼部像E´は、例えば赤外動画像である。
(Zアライメント系1)
Zアライメント系1は、前眼部観察系5の光軸方向(前後方向、Z方向)におけるアライメントを行うための光(赤外光)を被検眼Eに投射する。Zアライメント光源11から出力された光は、被検眼Eの角膜Crに投射され、角膜Crにより反射され、結像レンズ12によりラインセンサー13のセンサー面に結像される。角膜頂点の位置が前眼部観察系5の光軸方向に変化すると、ラインセンサー13のセンサー面における光の投射位置が変化する。処理部9は、ラインセンサー13のセンサー面における光の投射位置に基づいて被検眼Eの角膜頂点の位置を求め、これに基づき光学系を移動させる機構を制御してZアライメントを実行する。
(XYアライメント系2)
XYアライメント系2は、前眼部観察系5の光軸に直交する方向(左右方向(X方向)、上下方向(Y方向))のアライメントを行うための光(赤外光)を被検眼Eに照射する。XYアライメント系2は、ハーフミラー23により前眼部観察系5の光路から分岐された光路に設けられたXYアライメント光源21とコリメータレンズ22とを含む。XYアライメント光源21から出力された光は、コリメータレンズ22を通過し、ハーフミラー23により反射され、前眼部観察系5を通じて被検眼Eに投射される。被検眼Eの角膜Crによる反射光は、前眼部観察系5を通じて撮像素子59に導かれる。
この反射光に基づく像(輝点像)Brは前眼部像E´に含まれる。処理部9は、輝点像Brを含む前眼部像E´とアライメントマークALとを表示部の表示画面に表示させる。手動でXYアライメントを行う場合、ユーザは、アライメントマークAL内に輝点像Brを誘導するように光学系の移動操作を行う。自動でアライメントを行う場合、処理部9は、アライメントマークALに対する輝点像Brの変位がキャンセルされるように、光学系を移動させる機構を制御する。
(ケラト測定系3)
ケラト測定系3は、被検眼Eの角膜Crの形状を測定するためのリング状光束(赤外光)を角膜Crに投射する。ケラト板31は、対物レンズ51と被検眼Eとの間に配置されている。ケラト板31の背面側(対物レンズ51側)にはケラトリング光源32が設けられている。ケラトリング光源32からの光でケラト板31を照明することにより、被検眼Eの角膜Crにリング状光束(円弧状又は円周状の測定パターン)が投射される。被検眼Eの角膜Crからの反射光(ケラトリング像)は撮像素子59により前眼部像E´とともに検出される。処理部9は、このケラトリング像を基に公知の演算を行うことで、角膜Crの形状を表す角膜形状パラメータを算出する。
(レフ測定投射系6、レフ測定受光系7)
レフ測定光学系は、屈折力測定に用いられるレフ測定投射系6及びレフ測定受光系7を含む。レフ測定投射系6は、屈折力測定用の光束(例えば、リング状光束)(赤外光)を眼底Efに投射する。レフ測定受光系7は、この光束の被検眼Eからの戻り光を受光する。レフ測定投射系6は、レフ測定受光系7の光路に設けられた孔開きプリズム65によって分岐された光路に設けられる。孔開きプリズム65に形成されている孔部は、瞳孔共役位置に配置される。レフ測定受光系7を経由する光学系において、撮像素子59の撮像面は眼底共役位置に配置される。
いくつかの実施形態では、レフ測定光源61は、高輝度光源であるSLD(Superluminescent Diode)光源である。レフ測定光源61は、光軸方向に移動可能である。レフ測定光源61は、眼底共役位置に配置される。レフ測定光源61から出力された光は、リレーレンズ62を通過し、円錐プリズム63の円錐面に入射する。円錐面に入射した光は偏向され、円錐プリズム63の底面から出射する。円錐プリズム63の底面から出射した光は、リング絞り64にリング状に形成された透光部を通過する。リング絞り64の透光部を通過した光(リング状光束)は、孔開きプリズム65の孔部の周囲に形成された反射面により反射され、ロータリープリズム66を通過し、ダイクロイックミラー67により反射される。ダイクロイックミラー67により反射された光は、ダイクロイックミラー52により反射され、対物レンズ51を通過し、被検眼Eに投射される。ロータリープリズム66は、眼底Efの血管や疾患部位に対するリング状光束の光量分布を平均化や光源に起因するスペックルノイズの低減のために用いられる。
眼底Efに投射されたリング状光束の戻り光は、対物レンズ51を通過し、ダイクロイックミラー52及びダイクロイックミラー67により反射される。ダイクロイックミラー67により反射された戻り光は、ロータリープリズム66を通過し、孔開きプリズム65の孔部を通過し、リレーレンズ71を通過し、反射ミラー72により反射され、リレーレンズ73及び合焦レンズ74を通過する。合焦レンズ74は、レフ測定受光系7の光軸に沿って移動可能である。合焦レンズ74を通過した光は、反射ミラー75により反射され、ダイクロイックミラー76により反射され、結像レンズ58により撮像素子59の撮像面に結像される。処理部9は撮像素子59からの出力を基に公知の演算を行うことで被検眼Eの屈折力値を算出する。例えば、屈折力値は、球面度数、乱視度数及び乱視軸角度、又は等価球面度数を含む。
(固視投影系4)
ダイクロイックミラー67によりレフ測定光学系の光路から波長分離された光路に、後述のOCT光学系8が設けられる。ダイクロイックミラー83によりOCT光学系8の光路から分岐された光路に固視投影系4が設けられる。
固視投影系4は、固視標を被検眼Eに呈示する。固視投影系4の光路には、固視ユニット40が配置されている。固視ユニット40は、後述の処理部9からの制御を受け、固視投影系4の光路に沿って移動可能である。固視ユニット40は、液晶パネル41を含む。
処理部9による制御を受けた液晶パネル41は、固視標を表すパターンを表示する。液晶パネル41は、レフ測定用の固視標(例えば、風景チャート)を表す第1固視標パターンと、OCT計測用の固視標(例えば、ドット視標(輝点)、クロス視標)を表す第2固視標パターンとを選択的に表示することが可能である。第1固視標パターンは、第2固視標パターンより視角が大きいパターンである。液晶パネル41は、第1固視標パターンに第2固視標パターンを重畳して表示することが可能である。
液晶パネル41の画面上におけるパターンの表示位置を変更することにより、被検眼Eの固視位置を変更できる。被検眼Eの固視位置としては、眼底Efの黄斑部を中心とする画像を取得するための位置や、視神経乳頭を中心とする画像を取得するための位置や、黄斑部と視神経乳頭との間の眼底中心を中心とする画像を取得するための位置などがある。固視標を表すパターンの表示位置を任意に変更することが可能である。
液晶パネル41からの光は、リレーレンズ42を通過し、ダイクロイックミラー83を透過し、リレーレンズ82を通過し、反射ミラー81により反射され、ダイクロイックミラー67を透過し、ダイクロイックミラー52により反射される。ダイクロイックミラー52により反射された光は、対物レンズ51を通過して眼底Efに投射される。いくつかの実施形態では、液晶パネル41及びリレーレンズ42のそれぞれは、独立に光軸方向に移動可能である。
(OCT光学系8)
OCT光学系8は、OCT計測を行うための光学系である。OCT計測よりも前に実施されたレフ測定結果に基づいて、光ファイバーf1の端面が撮影部位(眼底Ef又は前眼部)と光学系に共役となるように合焦レンズ87の位置が調整される。
OCT光学系8は、ダイクロイックミラー67によりレフ測定光学系の光路から波長分離された光路に設けられる。上記の固視投影系4の光路は、ダイクロイックミラー83によりOCT光学系8の光路に結合される。それにより、OCT光学系8及び固視投影系4のそれぞれの光軸を同軸で結合することができる。
OCT光学系8は、OCTユニット100を含む。図3に示すように、OCTユニット100において、OCT光源101は、一般的なスウェプトソースタイプのOCT装置と同様に、出射光の波長を掃引(走査)可能な波長掃引型(波長走査型)光源を含んで構成される。波長掃引型光源は、共振器を含むレーザー光源を含んで構成される。OCT光源101は、人眼では視認できない近赤外の波長帯において、出力波長を時間的に変化させる。
図3に例示するように、OCTユニット100には、スウェプトソースOCTを実行するための光学系が設けられている。この光学系は、干渉光学系を含む。この干渉光学系は、波長可変光源(波長掃引型光源)からの光を測定光と参照光とに分割する機能と、被検眼Eからの測定光の戻り光と参照光路を経由した参照光とを重ね合わせて干渉光を生成する機能と、この干渉光を検出する機能とを備える。干渉光学系により得られた干渉光の検出結果(干渉信号、検出信号)は、干渉光のスペクトルを示す信号であり、処理部9に送られる。
OCT光源101は、例えば、出射光の波長(1000nm~1100nmの波長範囲)を高速で変化させる近赤外波長可変レーザーを含む。OCT光源101から出力された光L0は、光ファイバー102により偏波コントローラ103に導かれてその偏波状態が調整される。偏波状態が調整された光L0は、光ファイバー104によりファイバーカプラー105に導かれて測定光LSと参照光LRとに分割される。
参照光LRは、光ファイバー110によりコリメータ111に導かれて平行光束に変換され、光路長補正部材112及び分散補償部材113を経由し、コーナーキューブ114に導かれる。光路長補正部材112は、参照光LRの光路長と測定光LSの光路長とを合わせるよう作用する。分散補償部材113は、参照光LRと測定光LSとの間の分散特性を合わせるよう作用する。コーナーキューブ114は、参照光LRの入射方向に移動可能であり、それにより参照光LRの光路長が変更される。
コーナーキューブ114を経由した参照光LRは、分散補償部材113及び光路長補正部材112を経由し、コリメータ116によって平行光束から集束光束に変換され、光ファイバー117に入射する。光ファイバー117に入射した参照光LRは、偏波コントローラ118に導かれてその偏波状態が調整され、光ファイバー119によりアッテネータ120に導かれて光量が調整され、光ファイバー121によりファイバーカプラー122に導かれる。
一方、ファイバーカプラー105により生成された測定光LSは、光ファイバーf1により導かれてコリメータレンズユニット89により平行光束に変換され、光スキャナー88、合焦レンズ87、リレーレンズ85、及び反射ミラー84を経由し、ダイクロイックミラー83により反射される。
光スキャナー88は、測定光LSを1次元的又は2次元的に偏向する。光スキャナー88は、例えば、第1ガルバノミラーと、第2ガルバノミラーとを含む。第1ガルバノミラーは、OCT光学系8の光軸に直交する水平方向に撮影部位(眼底Ef又は前眼部)をスキャンするように測定光LSを偏向する。第2ガルバノミラーは、OCT光学系8の光軸に直交する垂直方向に撮影部位をスキャンするように、第1ガルバノミラーにより偏向された測定光LSを偏向する。このような光スキャナー88による測定光LSの走査態様としては、例えば、水平スキャン、垂直スキャン、十字スキャン、放射スキャン、円スキャン、同心円スキャン、螺旋スキャンなどがある。
ダイクロイックミラー83により反射された測定光LSは、リレーレンズ82を通過し、反射ミラー81により反射され、ダイクロイックミラー67を透過し、ダイクロイックミラー52により反射され、対物レンズ51により屈折されて被検眼Eに入射する。測定光LSは、被検眼Eの様々な深さ位置において散乱・反射される。被検眼Eからの測定光LSの戻り光は、往路と同じ経路を逆向きに進行してファイバーカプラー105に導かれ、光ファイバー128を経由してファイバーカプラー122に到達する。
ファイバーカプラー122は、光ファイバー128を介して入射された測定光LSと、光ファイバー121を介して入射された参照光LRとを合成して(干渉させて)干渉光を生成する。ファイバーカプラー122は、所定の分岐比(例えば1:1)で干渉光を分岐することにより、一対の干渉光LCを生成する。一対の干渉光LCは、それぞれ光ファイバー123及び124を通じて検出器125に導かれる。
検出器125は、例えばバランスドフォトダイオードである。バランスドフォトダイオードは、一対の干渉光LCをそれぞれ検出する一対のフォトディテクタを含み、これらフォトディテクタにより得られた一対の検出結果の差分を出力する。検出器125は、この出力(検出信号)をDAQ(Data Acquisition System)130に送る。
DAQ130には、OCT光源101からクロックKCが供給される。クロックKCは、OCT光源101において、波長可変光源により所定の波長範囲内で掃引される各波長の出力タイミングに同期して生成される。OCT光源101は、例えば、各出力波長の光L0を分岐することにより得られた2つの分岐光の一方を光学的に遅延させた後、これらの合成光を検出した結果に基づいてクロックKCを生成する。DAQ130は、検出器125から入力される検出信号をクロックKCに基づきサンプリングする。DAQ130は、検出器125からの検出信号のサンプリング結果を処理部9の演算処理部220に送られる。演算処理部220は、例えば一連の波長走査毎に(Aライン毎に)、サンプリングデータに基づくスペクトル分布にフーリエ変換等を施すことにより、各Aラインにおける反射強度プロファイルを形成する。更に、演算処理部220は、各Aラインの反射強度プロファイルを画像化することにより画像データを形成する。
本例では、参照光LRの光路(参照光路、参照アーム)の長さを変更するためのコーナーキューブ114が設けられているが、これら以外の光学部材を用いて、測定光路長と参照光路長との差を変更することも可能である。
なお、眼科装置1000は、被検眼Eと対物レンズ51との間に挿脱可能な前置レンズを含んでもよい。例えば、前眼部に対してOCT計測を行うとき、前置レンズは被検眼Eと対物レンズ51との間に配置され、眼底に対してOCT計測を行うとき、前置レンズは被検眼Eと対物レンズ51との間から退避される。
処理部9は、レフ測定光学系を用いて得られた測定結果から屈折力値を算出し、算出された屈折力値に基づいて、眼底Efとレフ測定光源61と撮像素子59とが共役となる位置に、レフ測定光源61及び合焦レンズ74それぞれを光軸方向に移動させる。いくつかの実施形態では、処理部9は、合焦レンズ74の移動に連動してOCT光学系8の合焦レンズ87をその光軸方向に移動させる。いくつかの実施形態では、処理部9は、レフ測定光源61及び合焦レンズ74の移動に連動して液晶パネル41(固視ユニット40)をその光軸方向に移動させる。
<処理系の構成>
眼科装置1000の処理系の構成について説明する。眼科装置1000の処理系の構成の例を図4~図7に示す。図4は、眼科装置1000の処理系の機能ブロック図の一例を表す。図4において、図2又は図3と同様の部分には同一符号を付し、適宜説明を省略する。図5は、図4の係数情報212Aの説明図を表す。図6は、図4のデータ処理部240の機能ブロック図の一例を表す。図7は、図6の分散補償処理部242の機能ブロック図の一例を表す。
処理部9は、眼科装置1000の各部を制御する。また、処理部9は、各種演算処理を実行可能である。処理部9は、プロセッサを含む。プロセッサの機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、プログラマブル論理デバイス(例えば、SPLD(Simple Programmable Logic Device)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array))等の回路により実現される。処理部9は、例えば、記憶回路や記憶装置に格納されているプログラムを読み出し実行することで、実施形態に係る機能を実現する。
処理部9は、実施形態に係る「眼科情報処理装置」の一例である。すなわち、処理部9の機能を実現するためのプログラムは、実施形態に係る「眼科情報処理プログラム」の一例である。
処理部9は、制御部210と、演算処理部220とを含む。また、眼科装置1000は、移動機構200と、表示部270と、操作部280と、通信部290とを含む。
移動機構200は、Zアライメント系1、XYアライメント系2、ケラト測定系3、固視投影系4、前眼部観察系5、レフ測定投射系6、レフ測定受光系7及びOCT光学系8等の光学系が収納されたヘッド部を前後方向、左右方向、及び上下方向に移動させるための機構である。例えば、移動機構200には、ヘッド部を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。アクチュエータは、例えばパルスモータにより構成される。伝達機構は、例えば歯車の組み合わせやラック・アンド・ピニオンなどによって構成される。制御部210(主制御部211)は、アクチュエータに対して制御信号を送ることにより移動機構200に対する制御を行う。
(制御部210)
制御部210は、プロセッサを含み、眼科装置1000の各部を制御する。制御部210は、主制御部211と、記憶部212とを含む。記憶部212には、眼科装置を制御するためのコンピュータプログラムがあらかじめ格納される。コンピュータプログラムには、光源制御用プログラム、検出器制御用プログラム、光スキャナー制御用プログラム、光学系制御用プログラム、演算処理用プログラム及びユーザインターフェイス用プログラムなどが含まれる。このようなコンピュータプログラムに従って主制御部211が動作することにより、制御部210は制御処理を実行する。
主制御部211は、測定制御部として眼科装置の各種制御を行う。Zアライメント系1に対する制御には、Zアライメント光源11の制御、ラインセンサー13の制御などがある。Zアライメント光源11の制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、絞り調整などがある。ラインセンサー13の制御には、検出素子の露光調整やゲイン調整や検出レート調整などがある。それにより、Zアライメント光源11の点灯と非点灯とが切り替えられたり、光量が変更されたりする。主制御部211は、ラインセンサー13により検出された信号を取り込み、取り込まれた信号に基づいてラインセンサー13に対する光の投影位置を特定する。主制御部211は、特定された投影位置に基づいて被検眼Eの角膜頂点の位置を求め、これに基づき移動機構200を制御してヘッド部を前後方向に移動させる(Zアライメント)。
XYアライメント系2に対する制御には、XYアライメント光源21の制御などがある。XYアライメント光源21の制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、絞り調整などがある。それにより、XYアライメント光源21の点灯と非点灯とが切り替えられたり、光量が変更されたりする。主制御部211は、撮像素子59により検出された信号を取り込み、取り込まれた信号に基づいてXYアライメント光源21からの光の戻り光に基づく輝点像の位置を特定する。主制御部211は、所定の目標位置(例えば、アライメントマークALの中心位置)に対する輝点像Brの位置との変位がキャンセルされるように移動機構200を制御してヘッド部を左右上下方向に移動させる(XYアライメント)。
ケラト測定系3に対する制御には、ケラトリング光源32の制御などがある。ケラトリング光源32の制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、絞り調整などがある。それにより、ケラトリング光源32の点灯と非点灯とが切り替えられたり、光量が変更されたりする。主制御部211は、撮像素子59により検出されたケラトリング像に対する公知の演算を演算処理部220に実行させる。それにより、被検眼Eの角膜形状パラメータが求められる。
固視投影系4に対する制御には、液晶パネル41の制御や固視ユニット40の移動制御などがある。液晶パネル41の制御には、固視標を表すパターンの表示のオン・オフや、固視標を表すパターンの切り替え、固視標を表すパターンの表示位置の切り替えなどがある。固視標を表すパターンの切り替えとしては、上記のように、レフ測定用の固視標を表すパターンとOCT計測用の固視標を表すパターンの切り替え、レフ測定用の視角が小さい固視標を表すパターンとレフ測定用の視角が大きい固視標を表すパターンとの切り替えなどがある。
例えば、固視投影系4には、液晶パネル41(又は固視ユニット40)を光軸方向に移動する移動機構が設けられる。この移動機構には、移動機構200と同様に、当該移動機構を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。主制御部211は、アクチュエータに対して制御信号を送ることにより移動機構に対する制御を行い、少なくとも液晶パネル41を光軸方向に移動させる。それにより、液晶パネル41と眼底Efとが光学的に共役となるように液晶パネル41の位置が調整される。
前眼部観察系5に対する制御には、前眼部照明光源50の制御、撮像素子59の制御などがある。前眼部照明光源50の制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、絞り調整などがある。それにより、前眼部照明光源50の点灯と非点灯とが切り替えられたり、光量が変更されたりする。撮像素子59の制御には、撮像素子59の露光調整やゲイン調整や検出レート調整などがある。主制御部211は、撮像素子59により検出された信号を取り込み、取り込まれた信号に基づく画像の形成等の処理を演算処理部220に実行させる。
レフ測定投射系6に対する制御には、レフ測定光源61の制御、ロータリープリズム66の制御などがある。レフ測定光源61の制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、絞り調整などがある。それにより、レフ測定光源61の点灯と非点灯とが切り替えられたり、光量が変更されたりする。例えば、レフ測定投射系6は、レフ測定光源61を光軸方向に移動する移動機構を含む。この移動機構には、移動機構200と同様に、当該移動機構を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。主制御部211は、アクチュエータに対して制御信号を送ることにより移動機構に対する制御を行い、レフ測定光源61を光軸方向に移動させる。ロータリープリズム66の制御には、ロータリープリズム66の回転制御などがある。例えば、ロータリープリズム66を回転させる回転機構が設けられており、主制御部211は、この回転機構を制御することによりロータリープリズム66を回転させる。
レフ測定受光系7に対する制御には、合焦レンズ74の制御などがある。合焦レンズ74の制御には、合焦レンズ74の光軸方向への移動制御などがある。例えば、レフ測定受光系7は、合焦レンズ74を光軸方向に移動する移動機構を含む。この移動機構には、移動機構200と同様に、当該移動機構を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。主制御部211は、アクチュエータに対して制御信号を送ることにより移動機構に対する制御を行い、合焦レンズ74を光軸方向に移動させる。主制御部211は、レフ測定光源61と眼底Efと撮像素子59とが光学的に共役となるように、例えば被検眼Eの屈折力に応じてレフ測定光源61及び合焦レンズ74をそれぞれ光軸方向に移動させることが可能である。
OCT光学系8に対する制御には、OCT光源101の制御、光スキャナー88の制御、合焦レンズ87の制御、コーナーキューブ114の制御、検出器125の制御、DAQ130の制御などがある。OCT光源101の制御には、光源の点灯、消灯、光量調整、絞り調整などがある。光スキャナー88の制御には、第1ガルバノミラーによる走査位置や走査範囲や走査速度の制御、第2ガルバノミラーによる走査位置や走査範囲や走査速度の制御などがある。
合焦レンズ87の制御には、合焦レンズ87の光軸方向への移動制御、撮影部位に対応した合焦基準位置への合焦レンズ87の移動制御、撮影部位に対応した移動範囲(合焦範囲)内での移動制御などがある。例えば、OCT光学系8は、合焦レンズ87を光軸方向に移動する移動機構を含む。この移動機構には、移動機構200と同様に、当該移動機構を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。主制御部211は、アクチュエータに対して制御信号を送ることにより移動機構に対する制御を行い、合焦レンズ87を光軸方向に移動させる。いくつかの実施形態では、眼科装置には、合焦レンズ74及び87を保持する保持部材と、保持部材を駆動する駆動部が設けられる。主制御部211は、駆動部を制御することにより合焦レンズ74及び87の移動制御を行う。主制御部211は、例えば、合焦レンズ74の移動に連動して合焦レンズ87を移動させた後、干渉信号の強度に基づいて合焦レンズ87だけを移動させるようにしてもよい。
コーナーキューブ114の制御には、コーナーキューブ114の光路に沿った移動制御などがある。例えば、OCT光学系8は、コーナーキューブ114を光路に沿った方向に移動する移動機構を含む。この移動機構には、移動機構200と同様に、当該移動機構を移動するための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。主制御部211は、アクチュエータに対して制御信号を送ることにより移動機構に対する制御を行い、コーナーキューブ114を光路に沿った方向に移動させる。検出器125の制御には、検出素子の露光調整やゲイン調整や検出レート調整などがある。主制御部211は、検出器125により検出された信号をDAQ130によりサンプリングし、サンプリングされた信号に基づく画像の形成等の処理を演算処理部220(画像形成部230)に実行させる。
また、主制御部211は、表示制御部211Aを含む。表示制御部211Aは、撮像素子59により得られた被検眼Eの画像(前眼部像、眼底像)、操作部280の機能をタッチパネルにより実現するためのグラフィカルユーザインターフェイス、及び演算処理部220の処理結果に対応した情報などを表示部270に表示させる。演算処理部220の処理結果として、眼屈折力算出部243Aにより算出された被検眼Eの屈折力値、画像形成部230により形成された画像、データ処理部240の処理結果などがある。データ処理部240の処理結果として、解析部243による解析結果などがある。
更に、主制御部211は、記憶部212にデータを書き込む処理や、記憶部212からデータを読み出す処理を行う。
(記憶部212)
記憶部212は、各種のデータを記憶する。記憶部212に記憶されるデータとしては、例えば他覚測定の測定結果、OCT計測の計測結果、断層像の画像データ、眼底像の画像データ、被検眼情報、被検者情報などがある。被検眼情報は、左眼/右眼の識別情報などの被検眼に関する情報を含む。被検者情報は、患者ID、氏名、被検者の年令、性別、身長、体重などの被検者に関する情報を含む。いくつかの実施形態では、被検者情報は、電子カルテから取得される情報である。いくつかの実施形態では、被検眼情報や被検者情報は、操作部280を用いて検者又は被検者により入力される情報である。また、記憶部212には、眼科装置を動作させるための各種プログラムやデータが記憶されている。
更に、記憶部212には、係数情報212Aが記憶されている。係数情報212Aは、所定の範囲内の複数の眼軸長のそれぞれに対応して、OCT計測により得られた干渉信号に対して分散補償処理を施すための所定の分散補償関数の係数が関連付けられた情報である。
例えば、図5に示すように、係数情報212Aとして、眼軸長AL1に対応して係数a21、a31が関連付けられて記憶され、眼軸長AL2に対応して係数a22、a32が関連付けられて記憶され、・・・、眼軸長ALn(nは、2以上の整数)に対応して係数a2n、a3nが関連付けられて記憶される。なお、図5において、係数a21~nは、分散補償関数の2次の項の係数であり、a31~nは、分散補償関数の3次の項の係数である。係数情報212Aは、分散補償関数の4次以上の項の係数を含んでもよい。
(演算処理部220)
演算処理部220は、画像形成部230と、データ処理部240とを含む。
(画像形成部230)
画像形成部230は、検出器125により検出された信号(干渉信号)に基づいて、眼底Efの断層像の画像データを形成する。すなわち、画像形成部230は、干渉光学系による干渉光LCの検出結果に基づいて被検眼Eの画像データを形成する。この処理には、従来のスウェプトソースタイプのOCTと同様に、フィルター処理、FFT(Fast Fourier Transform)などの処理が含まれている。このようにして取得される画像データは、複数のAライン(被検眼E内における各測定光LSの経路)における反射強度プロファイルを画像化することにより形成された一群の画像データを含むデータセットである。
画質を向上させるために、同じパターンでのスキャンを複数回繰り返して収集された複数のデータセットを重ね合わせる(加算平均する)ことができる。
(データ処理部240)
データ処理部240は、検出器125により検出された信号(干渉信号)又は画像形成部230により形成された画像に対して各種のデータ処理(画像処理)や解析処理を施す。例えば、データ処理部240は、干渉信号又は画像の輝度補正や分散補償等の補正処理を実行する。また、データ処理部240は、前眼部観察系5を用い得られた画像(前眼部像等)に対して各種の画像処理や解析処理を施す。
データ処理部240は、断層像の間の画素を補間する補間処理などの公知の画像処理を実行することにより、被検眼Eのボリュームデータ(ボクセルデータ)を形成することができる。ボリュームデータに基づく画像を表示させる場合、データ処理部240は、このボリュームデータに対してレンダリング処理を施して、特定の視線方向から見たときの擬似的な3次元画像を形成する。
データ処理部240は、取得されたボリュームデータ(3次元データセット、スタックデータ等)に各種のレンダリングを施すことで、任意断面におけるBモード画像(縦断面像、軸方向断面像)、任意断面におけるCモード画像(横断面像、水平断面像)、プロジェクション画像、シャドウグラムなどを形成することができる。Bモード画像やCモード画像のような任意断面の画像は、指定された断面上の画素(ピクセル、ボクセル)を3次元データセットから選択することにより形成される。プロジェクション画像は、3次元データセットを所定方向(Z方向、深さ方向、軸方向)に投影することによって形成される。シャドウグラムは、3次元データセットの一部(たとえば特定層に相当する部分データ)を所定方向に投影することによって形成される。Cモード画像、プロジェクション画像、シャドウグラムのような、被検眼の正面側を視点とする画像を正面画像(en-face画像)と呼ぶ。
また、データ処理部240は、OCTにより時系列に収集されたデータ(例えば、Bスキャン画像データ)に基づいて、網膜血管や脈絡膜血管が強調されたBモード画像や正面画像(血管強調画像、アンギオグラム)を構築することができる。例えば、被検眼Eの略同一部位を反復的にスキャンすることにより、時系列のOCTデータを収集することができる。
いくつかの実施形態では、データ処理部240は、略同一部位に対するBスキャンにより得られた時系列のBスキャン画像を比較し、信号強度の変化部分の画素値を変化分に対応した画素値に変換することにより当該変化部分が強調された強調画像を構築する。更に、データ処理部240は、構築された複数の強調画像から所望の部位における所定の厚さ分の情報を抽出してen-face画像として構築することでOCTアンギオグラムを形成する。
図6に示すように、データ処理部240は、係数算出部241と、分散補償処理部242と、解析部243とを含む。解析部243は、眼屈折力算出部243Aと、眼内距離算出部243Bとを含む。
(係数算出部241)
係数算出部241は、OCT計測に先立って、分散補償関数の係数を算出する。係数算出部241は、所定の範囲内の複数の眼内距離のそれぞれについて、被検眼に入射する測定光のスペクトル情報(スペクトル関数)、測定光が通過する部位の厚さ、部位の屈折率、及び部位の波長分散量に基づいて係数を算出する。係数算出部241により算出された係数は、眼軸長と関連付けて係数情報212Aとして記憶部212に保存される。
(分散補償処理部242)
分散補償処理部242は、被検眼Eに対するOCT計測により得られた干渉信号に対して分散補償処理を施す。このとき、分散補償処理部242は、OCT計測対象の被検眼Eの眼軸長に対応した係数が適用された分散補償関数を用いて干渉信号に対して分散補償処理を行う。具体的には、分散補償処理部242は、記憶部212に記憶された係数情報212Aを参照することにより被検眼Eの眼軸長に対応した係数を特定し、特定された係数が適用された分散補償関数を用いる。
図7に示すように、分散補償処理部242は、リスケーリング部242Aと、係数決定部242Bと、分散補償部242Cとを含む。
(リスケーリング部242A)
リスケーリング部242Aは、検出器125により得られた干渉光の検出結果である干渉信号に対してリスケーリング処理を施す。リスケーリング処理は、時間軸上において等間隔で干渉信号をサンプリングすることにより得られたデータを、時間軸上において波数が線形的に(直線的に)変化するように並び替える処理である。
(係数決定部242B)
係数決定部242Bは、係数算出部241により事前に算出された係数を含む係数情報212Aを参照することにより被検眼Eの眼軸長に対応した係数を決定する。例えば、図5に示すように、係数情報212Aとして離散的な眼軸長に対応して係数が記憶されている場合、係数決定部242Bは、隣接する第1眼軸長と第2眼軸長との間の第3眼軸長に対応した係数を公知の補間処理を用いて決定することが可能である。例えば、図5に示すように、係数情報212Aとして離散的な眼軸長に対応して係数が記憶されている場合、係数決定部242Bは、離散的な眼軸長を多項式フィッティングすることにより得られた関数を用いて、被検眼Eの眼軸長に対応した係数を決定することが可能である。
(分散補償部242C)
分散補償部242Cは、係数決定部242Bにより決定された係数が適用された分散補償関数に基づいて干渉信号に対して分散補償処理を施す。
例えば、リスケーリング部242Aによりリスケーリング処理が施された干渉信号I(k)は、式(1)に示すように表すことができる。
式(1)において、kは波数を表し、S(k)はOCT光源101から出力される光のスペクトルを示す関数を表し、Rrは参照光路の反射率を表し、Rsは測定光路の反射率を表し、φは位相を表す。
様々な屈折率を有する媒質を通る光の位相φ(k)は、式(1)に示す干渉信号に対してヒルベルト変換(Hilbert Transform)を施すことにより得られる。得られた位相φ(k)は、式(2)に示すようにTaylor展開することができる。
式(2)において、k0はOCT光源101から出力される光の中心波数を表す。式(2)の2(n=2)次以上の項は、スペクトルの幅を広げてしまい、ピーク強度を下げる。
分散補償関数ph(k)は、式(2)に示す2次以上の高次の項に対応した波長分散量を補償するための関数である。式(2)に示す2次及び3次の項に対応した波長分散量を補償するための分散補償関数ph(k)は、例えば、式(3)のように表すことができる。
式(3)において、f2(k)は式(2)の2次の項に対応し、f3(k)は式(2)の3次の項に対応する。a2はf2(k)の係数であり、a3はf3(k)の係数である。係数a2、a3は、被検眼Eの眼軸長に対応して係数情報212Aに保存されている。
例えば、分散補償前の干渉信号をI(k)と表し、分散補償後の干渉信号をI´(k)と表すと、分散補償部242Cは、式(4)に示すような演算処理を行うことにより分散補償処理を行う。
(解析部243)
解析部243は、レフ測定受光系7又はOCT光学系8により得られたデータに対して所定の解析処理を施す。
解析部243は、レフ測定受光系7により得られたデータに対して眼屈折力の算出処理を行うことが可能である。
解析部243は、OCT光学系8により得られたデータ(干渉信号、OCT画像)に対して表示処理又は眼内距離の算出処理を行うことが可能である。特に、解析部243は、分散補償処理部242により分散補償処理が施された干渉信号、又は当該干渉信号を用いて形成されたOCT画像に対して所定の解析処理を行うことが可能である。所定の解析処理には、被検眼Eにおける所定の部位(組織、病変部)の特定;指定された部位間の距離、面積、角度、比率、密度の算出;指定された計算式による演算;所定の部位の形状の特定;これらの統計値の算出;計測値、統計値の分布の算出;これら解析処理結果に基づく画像処理などがある。所定の組織には、血管、視神経乳頭、中心窩、黄斑などがある。所定の病変部には、白斑、出血、剥離部、浮腫、腫瘍、ドルーゼンなどがある。
部位間の距離には、網膜における層領域の層厚、眼内距離が含まれる。網膜における層領域には、内境界膜、神経繊維層、神経節細胞層、内網状層、内顆粒層、外網状層、外顆粒層、外境界膜、視細胞層、RPEがある。部位間の距離には、ブルッフ膜、脈絡膜、強膜などが含まれてよい。眼内距離には、眼軸長、角膜厚、前房深度、水晶体厚、硝子体厚などがある。
このような解析部243は、眼屈折力算出部243Aと、眼内距離算出部243Bとを含む。
(眼屈折力算出部243A)
眼屈折力算出部243Aは、レフ測定投射系6及びレフ測定受光系7を用いた眼屈折力測定の結果を用いて屈折力値を求める。眼屈折力算出部243Aは、撮像素子59による受光結果に基づいて特定されたリング像の近似楕円を求め、この近似楕円の長径及び短径を公知の式に代入することによって球面度数、乱視度数及び乱視軸角度(屈折力値)を求める。或いは、眼屈折力算出部243Aは、基準パターンに対するリング像の変形及び変位に基づいて眼屈折力のパラメータを求めることができる。
また、眼屈折力算出部243Aは、ケラト測定系3を用いたケラト測定(角膜形状測定)の結果を用いて角膜形状を表すパラメータを求める。眼屈折力算出部243Aは、前眼部観察系5により取得されたケラトリング像に基づいて、角膜屈折力、角膜乱視度及び角膜乱視軸角度を算出する。例えば、眼屈折力算出部243Aは、ケラトリング像を解析することにより角膜前面の強主経線や弱主経線の角膜曲率半径を算出し、角膜曲率半径に基づいて角膜形状を表すパラメータを算出する。
(眼内距離算出部243B)
眼内距離算出部243Bは、分散補償処理後の干渉信号、又は分散補償処理後の干渉信号に基づいて形成されたOCT画像に基づいて、眼内の所定の部位間の距離である眼内距離を算出する。
干渉信号に基づいて眼内距離を算出する場合、眼内距離算出部243Bは、所定の部位に相当する干渉信号のピーク位置を特定し、特定された2つのピーク位置の間の距離に対応した眼内距離を算出する。OCT画像に基づいて眼内距離を算出する場合、眼内距離算出部243Bは、OCT画像における所定の部位に相当する画像領域を特定し、特定された2つの画像領域の間の距離に対応した眼内距離を算出する。
眼内距離として眼軸長を算出する場合、眼内距離算出部243Bは、角膜頂点に相当する位置と網膜(眼底、RPE等の網膜における所定の層領域)に相当する位置との間の距離に対応した眼内距離を算出する。
以上のように機能する演算処理部220は、例えば、1以上のプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ、回路基板等を含んで構成される。例えば、演算処理部220の機能は、1以上のプロセッサにより実現される。いくつかの実施形態では、演算処理部220の各部の機能は、各部に対応して設けられた1以上のプロセッサにより実現される。ハードディスクドライブ等の記憶装置には、上記機能をプロセッサに実行させるコンピュータプログラムがあらかじめ格納されている。
(表示部270、操作部280)
表示部270は、ユーザインターフェイス部として、制御部210による制御を受けて情報を表示する。表示部270は、図2などに示す表示部10を含む。
操作部280は、ユーザインターフェイス部として、眼科装置を操作するために使用される。操作部280は、眼科装置に設けられた各種のハードウェアキー(ジョイスティック、ボタン、スイッチなど)を含む。また、操作部280は、タッチパネル式の表示画面10aに表示される各種のソフトウェアキー(ボタン、アイコン、メニューなど)を含んでもよい。
表示部270及び操作部280の少なくとも一部が一体的に構成されていてもよい。その典型例として、タッチパネル式の表示画面10aがある。
(通信部290)
通信部290は、図示しない外部装置と通信するための機能を有する。通信部290は、外部装置との接続形態に応じた通信インターフェイスを備える。外部装置の例として、レンズの光学特性を測定するための眼鏡レンズ測定装置がある。眼鏡レンズ測定装置は、被検者が装用する眼鏡レンズの度数などを測定し、この測定データを眼科装置1000に入力する。また、外部装置は、任意の眼科装置、記録媒体から情報を読み取る装置(リーダ)や、記録媒体に情報を書き込む装置(ライタ)などでもよい。更に、外部装置は、病院情報システム(HIS)サーバ、DICOM(Digital Imaging and COmmunication in Medicine)サーバ、医師端末、モバイル端末、個人端末、クラウドサーバなどでもよい。通信部290は、例えば処理部9に設けられていてもよい。
処理部9(眼科情報処理装置500)は、実施形態に係る「眼科情報処理装置」の一例である。通信部290、又はOCT光学系8及び眼内距離算出部243Bは、実施形態に係る「取得部」の一例である。係数決定部242Bは、実施形態に係る「決定部」の一例である。表示装置520又は表示部10、270は、実施形態に係る「表示手段」の一例である。OCT光学系8及び眼内距離算出部243Bは、実施形態に係る「眼内距離測定部」の一例である。
<動作例>
実施形態に係る眼科装置1000の動作例について説明する。以下では、まず、実施形態に係る係数情報212Aの算出処理を説明した後に、実施形態に係る分散補償処理について説明する。
図8及び図9に、実施形態に係る眼科装置1000における係数情報212Aの算出処理の動作説明図を示す。図8は、実施形態に係る眼科装置1000の動作例のフローチャートを表す。図9は、係数情報212Aの算出処理の動作説明図を表す。記憶部212には、図8に示す処理を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されている。主制御部211は、このコンピュータプログラムに従って動作することにより、図8に示す処理を実行する。
(S1:眼軸長を初期化)
まず、主制御部211は、係数算出部241を制御することにより、所定の範囲(例えば、14mm~40mm)内の複数の眼軸長のそれぞれに対応した分散補償関数の係数を決定するために眼軸長をあらかじめ決められた初期値に設定する。例えば、初期値は、所定の範囲内の最小値又は最大値である。
(S2:眼軸長から各部位の厚さを推定)
続いて、主制御部211は、設定された眼軸長に対応して、測定光が通過する眼内の各部位の厚さをデータ処理部240(係数算出部241)に推定させる。例えば、データ処理部240は、設定された眼軸長に応じた角膜厚(CCTi)、前房深度(ACDi)、水晶体厚(LTi)、硝子体厚(VTi)を推定する。
いくつかの実施形態では、主制御部211は、OCT光学系8により得られた分散補償処理前の干渉信号、又は当該干渉信号に基づいて形成されたOCT画像に基づいて角膜厚(CCTi)、前房深度(ACDi)、水晶体厚(LTi)、硝子体厚(VTi)を眼内距離算出部243Bに算出させる。
いくつかの実施形態では、主制御部211は、公知の文献に記載された眼軸長と各部位との関係から眼軸長に対応した角膜厚(CCTi)、前房深度(ACDi)、水晶体厚(LTi)、硝子体厚(VTi)をデータ処理部240(解析部243)に導出させる。例えば、“Axial length, anterior chamber depth and lens thickness: Their intercorrelations in Black South Africans”(K.P.Mashige et al., 2017年1月30日, AOSIS)には、各部位の測定値と眼軸長との関係式が式(5)に示すように開示されている。
従って、データ処理部240(解析部243)は、式(5)から眼軸長に対応した前房深度及び水晶体厚を導出することができる。
例えば、“Relationship Between Central Corneal Thickness, Refractive Error, Corneal Curvature, Anterior Chamber Depth and Axial Length”(M.Chen et al., 2009年 3月, Chin Med Assoc, Vol.72(No.3), pp.133-137)には、角膜厚と眼軸長との関係が記載されている。従って、データ処理部240(解析部243)は、この文献に記載された関係から眼軸長に対応した角膜厚を導出することができる。なお、その他の部位についても、同様に、眼軸長に対応した厚さを導出することが可能である。
(S3:光路長を算出)
続いて、主制御部211は、測定光LSの眼内における光路長OPLi(λ)をデータ処理部240(解析部243)に算出させる。データ処理部240(解析部243)は、式(6)に従って光路長OPLi(λ)を算出する。
式(6)において、角膜厚(CCTi)、前房深度(ACDi)、水晶体厚(LTi)、及び硝子体厚(VTi)は、ステップS2において推定される。各部位の屈折率n(λ)は、例えば、“Development of a human eye model incorporated with intraocular scattering for visual performance assessment”(Y.C.Chen et al., 2012年7月, Journal of Biomedical Optics, Vol.17(7), 075009-1~075009-11)に開示された式(各部位のコーシーの式(Cauchy equation))を用いて導出される。
(S4:シミュレーションを実行、係数を決定)
次に、主制御部211は、係数算出部241を制御してPSF(Point Spread Function)シミュレーションを実行させ、実行結果の半値全幅(Full Width a Half Maximum:FWHM)が小さくなるように(又はピーク値が最大になるように)分散補償関数の係数を係数算出部241に決定させる。
具体的には、係数算出部241は、まず、干渉信号を作成する。例えば、OCT光源101のスペクトル関数(スペクトル情報)S(λ)を決定する。いくつかの実施形態では、スペクトル関数S(λ)は、OCT光源101の仕様から決定される。いくつかの実施形態では、スペクトル関数S(λ)は、OCT光源101から出力される光を測定することにより得られる。係数算出部241は、式(7)に示すように干渉信号I(λ)を作成する。
式(7)において、後述のFFTの結果が検出できるように、z0はOPLi(λ0)(λ0は中心波長)に近い長さ(例えば、z0=OPLi(λ0)+0.5)とすることができる。
続いて、係数算出部241は、作成された干渉信号I(λ)に対してリスケーリング処理を施し、リスケーリング処理後の干渉信号に対して、式(3)と同様の分散補償関数を用いて式(4)と同様に分散補償を行う。係数算出部241は、分散補償処理後の干渉信号に対してFFTを実行し、PSFのシミュレーション結果のFWHMが小さくなるように(又はピーク値が最大値になるように)係数a2、a3を決定する。
(S5:次の眼軸長?)
次に、主制御部211は、次の眼軸長があるか否かを判定する。例えば、主制御部211は、ステップS1において設定された眼軸長を所定のステップで増加(又は減少)させ、増加後(又は減少後)の眼軸長が所定の範囲内であるか否かを判定することにより、次の眼軸長があるか否かを判定する。
次の眼軸長があると判定されたとき(S5:Y)、眼科装置1000の動作はステップS6に移行する。次の眼軸長があると判定されなかったとき(S5:N)、眼科装置1000における係数の算出処理は終了である(エンド)。
(S6:眼軸長を変更)
ステップS5において、次の眼軸長があると判定されたとき(S5:Y)、主制御部211は、現在の眼軸長を所定のステップだけ増加(又は減少)させることにより眼軸長を変更する。眼科装置1000の動作は、ステップS2に移行する。
以上のように、係数算出部241は、図9に示すように、複数の眼軸長のそれぞれに対応した分散補償関数の係数を決定することが可能である。図9では、眼軸長AL1、AL2、AL3に対して係数a21、a22、a23が図示されているが、多項式フィッティングを用いて眼軸長AL1~AL3以外の眼軸長に対応した係数を決定することが可能である。
次に、眼科装置1000の計測動作のフローについて説明する。
図10~図12に、眼科装置1000の動作の一例を示す。図10は、眼科装置1000の動作例のフロー図を表す。図11は、図10のステップS14の動作例のフロー図を表す。図12は、図11のステップS22の動作例のフロー図を表す。記憶部212には、図10~図12に示す処理を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されている。主制御部211は、このコンピュータプログラムに従って動作することにより、図10~図12に示す処理を実行する。
(S11:アライメント)
図示しない顔受け部に被検者の顔が固定された状態で、検者が操作部280に対して所定の操作を行うことで、眼科装置1000は、アライメントを実行する。
具体的には、主制御部211は、Zアライメント光源11やXYアライメント光源21を点灯させる。また、主制御部211は、前眼部照明光源50を点灯させる。処理部9は、撮像素子59の撮像面上の前眼部像の撮像信号を取得し、表示部270に前眼部像を表示させる。その後、図2に示す光学系が被検眼Eの検査位置に移動される。検査位置とは、被検眼Eの検査を十分な精度内で行うことが可能な位置である。前述のアライメント(Zアライメント系1及びXYアライメント系2と前眼部観察系5とによるアライメント)を介して被検眼Eが検査位置に配置される。光学系の移動は、ユーザによる操作若しくは指示又は制御部210による指示にしたがって、制御部210によって実行される。すなわち、被検眼Eの検査位置への光学系の移動と、他覚測定を行うための準備とが行われる。また、このアライメントは測定が終わるまで随時行われる。
また、主制御部211は、レフ測定光源61と、合焦レンズ74と、液晶パネル41をそれぞれの光軸に沿って原点の位置(例えば、0Dに相当する位置)に移動させる。
(S12:ケラト測定)
次に、主制御部211は、所望の固視位置に対応した表示位置に固視標を示すパターンを液晶パネル41に表示させる。それにより、所望の固視位置に被検眼Eを注視させる。
その後、主制御部211は、ケラトリング光源32を点灯させる。ケラトリング光源32から光が出力されると、被検眼Eの角膜Crに角膜形状測定用のリング状光束が投射される。眼屈折力算出部243Aは、撮像素子59によって取得された像に対して演算処理を施すことにより、角膜曲率半径を算出し、算出された角膜曲率半径から角膜屈折力、角膜乱視度及び角膜乱視軸角度を算出する。制御部210では、算出された角膜屈折力などが記憶部212に記憶される。主制御部211からの指示、又は操作部280に対するユーザの操作若しくは指示により、眼科装置1000の動作はステップS13に移行する。なお、ケラト測定は、次の眼屈折力測定でリング像を取得するときに同時に、又は連続的に実行されてもよい。
(S13:眼屈折力測定)
次に、主制御部211は、液晶パネル41を制御することにより固視標を被検眼Eに投影させ、眼屈折力測定を実行させる。
眼屈折力測定(レフ測定)では、主制御部211は、前述のようにレフ測定のためのリング状の測定パターン光束を被検眼Eに投射させる。被検眼Eからの測定パターン光束の戻り光に基づくリング像が撮像素子59の撮像面に結像される。主制御部211は、撮像素子59により検出された眼底Efからの戻り光に基づくリング像を取得できたか否かを判定する。例えば、主制御部211は、撮像素子59により検出された戻り光に基づく像のエッジの位置(画素)を検出し、像の幅(外径と内径との差)が所定値以上であるか否かを判定する。或いは、主制御部211は、所定の高さ(リング径)以上の点(像)に基づいてリングを形成できるか否かを判定することにより、リング像を取得できたか否かを判定してもよい。
リング像を取得できたと判定されたとき、眼屈折力算出部243Aは、被検眼Eに投射された測定パターン光束の戻り光に基づくリング像を公知の手法で解析し、仮の球面度数S及び仮の乱視度数Cを求める。主制御部211は、求められた仮の球面度数S及び乱視度数Cに基づき、レフ測定光源61、合焦レンズ74、及び液晶パネル41を等価球面度数(S+C/2)の位置(仮の遠点に相当する位置)へ移動させる。この後もう一度リング像を取得し、解析し、仮の球面度数S及び仮の乱視度数Cを求め、一度目の測定で移動した位置から移動して微調整する。主制御部211は、その位置から液晶パネル41を更に雲霧位置に移動させた後、本測定としてレフ測定投射系6及びレフ測定受光系7を制御することによりリング像を再び取得させる。主制御部211は、前述と同様に得られたリング像の解析結果と合焦レンズ74の移動量から球面度数、乱視度数及び乱視軸角度を眼屈折力算出部243Aに算出させる。
また、眼屈折力算出部243Aは、求められた球面度数及び乱視度数から被検眼Eの遠点に相当する位置(本測定により得られた遠点に相当する位置)を求める。主制御部211は、求められた遠点に相当する位置に液晶パネル41を移動させる。制御部210では、合焦レンズ74の位置や算出された球面度数などが記憶部212に記憶される。主制御部211からの指示、又は操作部280に対するユーザの操作若しくは指示により、眼科装置1000の動作はステップS14に移行する。
リング像を取得できないと判定されたとき、主制御部211は、強度屈折異常眼である可能性を考慮して、レフ測定光源61及び合焦レンズ74をあらかじめ設定したステップでマイナス度数側(例えば-10D)、プラス度数側(例えば+10D)へ移動させる。主制御部211は、レフ測定受光系7を制御することにより各位置でリング像を検出させる。それでもリング像を取得できないと判定されたとき、主制御部211は、所定の測定エラー処理を実行する。このとき、眼科装置1000の動作はステップS14に移行してもよい。制御部210では、レフ測定結果が得られなかったことを示す情報が記憶部212に記憶される。
OCT光学系8の合焦レンズ87は、レフ測定光源61や合焦レンズ74の移動に連動して光軸方向に移動される。
(S14:OCT計測)
次に、主制御部211は、液晶パネル41を制御することにより固視標を被検眼Eに投影させ、OCT計測を実行させる。
主制御部211は、OCT光源101を点灯させ、光スキャナー88を制御することにより眼底Efの所定の部位を測定光LSでスキャンさせる。測定光LSのスキャンにより得られた干渉信号はデータ処理部240に送られる。データ処理部240は、被検眼Eの眼軸長に対応した係数が適用された分散補償関数を用いて干渉信号に対して分散補償処理を行う。例えば、画像形成部230は、分散補償処理後の干渉信号から眼底Efの断層像を形成する。例えば、データ処理部240は、分散補償処理後の干渉信号又は当該干渉信号に基づいて形成された画像に基づいて所定の解析処理を行う。以上で、眼科装置1000の動作は、終了となる(エンド)。
ステップS14では、図11に示すように実行される。
(S21:干渉信号を取得)
図10のステップS14では、スキャンエリア内の複数の測定位置(入射位置)における干渉信号(Aスキャン方向)が得られる。ステップS14において得られた干渉信号は、例えば、記憶部212に保存される。主制御部211は、記憶部212に保存された所望の干渉信号を取得する。
(S22:分散補償)
主制御部211は、ステップS21において得られた干渉信号に対する分散補償を分散補償処理部242に行わせる。これにより、スキャンエリア内の複数の測定位置における、分散補償処理後の干渉信号が得られる。ステップS22の詳細は、後述する。
(S23:解析処理)
続いて、主制御部211は、ステップS22において得られた分散補償処理後の干渉信号を用いて所定の解析処理を解析部243に実行させる。解析部243は、上記の解析処理を行う。
例えば、主制御部211は、ステップS22において得られた分散補償処理後の干渉信号に基づいてOCT画像を画像形成部230に形成させ、形成されたOCT画像を用いて上記の解析処理を解析部243に実行させる。
また、例えば、主制御部211は、ステップS22において得られた分散補償処理後の干渉信号に基づいてOCT画像を画像形成部230に形成させ、形成されたOCT画像を表示部270に表示させる。
以上で、眼科装置1000の処理は終了である(エンド)。
図11のステップS22では、図12に示すように処理が実行される。
(S31:眼軸長を取得)
まず、主制御部211は、被検眼Eの眼軸長を取得する。例えば、主制御部211は、ステップS14におけるOCT計測により得られた干渉信号から眼内距離算出部243Bに眼軸長を算出させる。
(S32:係数を決定)
続いて、主制御部211は、図8に示すように事前に算出された係数情報212Aを参照することにより、ステップS31において取得された眼軸長に対応した分散補償関数の係数を係数決定部242Bに決定させる。
(S33:分散補償処理)
次に、主制御部211は、ステップS32において決定された係数が適用された分散補償関数を用いて、ステップS21において得られた干渉信号に対して分散補償処理を分散補償部242Cに実行させる。
例えば、分散補償部242Cは、式(3)に示す演算処理を行うことで、干渉信号に対して分散補償処理を行う。例えば、分散補償部242Cは、ステップS21において得られた干渉信号のそれぞれに対して、式(3)に示す演算処理を行うことで、干渉信号に対して分散補償処理を行う。
以上で、図11のステップS22は終了である(エンド)。
(変形例)
実施形態に係る構成は、上記の構成に限定されるものではない。いくつかの実施形態では、係数算出部241は、被検眼Eの眼軸長以外の眼内距離に基づいて、測定光が通過する他の部位の厚さを求め、求められた厚さを用いて分散補償関数の係数を算出する。例えば、係数算出部241は、被検眼Eの水晶体厚に基づいて、測定光が通過する角膜厚、前房深度、及び硝子体厚の少なくとも1つの厚さを所定の比率(例えば、水晶体厚に対する前房深度の比率)を用いて求め、求められた厚さを用いて分散補償関数の係数を算出する。すなわち、係数算出部241は、被検眼Eの眼内距離に基づいて、測定光が通過する少なくとも1つの部位の厚さを求め、求められた厚さを用いて分散補償関数の係数を算出することが可能である。
実施形態に係る眼科情報処理方法は、実施形態に係る眼科情報処理装置によって実現される。いくつかの実施形態では、上記の眼科情報処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。このようなプログラムを、コンピュータによって読み取り可能な非一時的な(non-transitory)任意の記録媒体に記憶させることができる。記録媒体は、磁気、光、光磁気、半導体などを利用した電子媒体であってよい。典型的には、記録媒体は、磁気テープ、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリ、ソリッドステートドライブなどである。また、インターネットやLAN等のネットワークを通じてこのプログラムを送受信することも可能である。
[作用・効果]
実施形態に係る眼科情報処理装置、眼科装置、眼科情報処理方法、及びプログラムの作用及び効果について説明する。
いくつかの実施形態に係る眼科情報処理装置(500、演算処理部220)は、取得部(通信部290、又はOCT光学系8及び眼内距離算出部243B)と、決定部(係数決定部242B)と、分散補償部(242C)とを含む。取得部は、被検眼(E)の眼内距離(例えば、眼軸長)を取得する。決定部は、被検眼に対して光コヒーレンストモグラフィを実行することにより得られた干渉信号に対して分散補償処理を施すための所定の分散補償関数の係数(a2、a3)を眼内距離に基づいて決定する。分散補償部は、上記の係数が適用された分散補償関数に基づいて干渉信号に対して分散補償処理を施す。
このような構成によれば、被検眼の眼内距離に応じて干渉信号に対して分散補償処理を施すことができる。それにより、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態では、眼内距離は、被検眼に入射する測定光(LS)の進行方向に沿った距離である。
このような構成によれば、測定光の進行方向について、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態は、複数の眼内距離のそれぞれに対応して所定の分散補償関数の係数があらかじめ関連付けられた係数情報(212A)を記憶する記憶部(212)を含み、決定部は、記憶部に記憶された係数情報を用いて、取得部により取得された眼内距離に対応する係数を決定する。
このような構成によれば、非常に簡素な構成、且つ簡素な処理で高精度な分散補償を行うことが可能になる。
いくつかの実施形態は、複数の眼内距離のそれぞれについて、被検眼に入射する測定光のスペクトル情報、測定光が通過する部位の厚さ、部位の屈折率、及び部位の波長分散量に基づいて係数を算出する係数算出部(241)を含む。
このような構成によれば、複数の眼内距離について、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態では、係数算出部は、眼内距離に基づいて、測定光が通過する少なくとも1つの部位の厚さを求め、求められた厚さを用いて係数を算出する。
このような構成によれば、複数の眼内距離について、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態は、分散補償部により分散補償が行われた干渉信号に基づいて被検眼の画像を形成する画像形成部(230)と、画像形成部により形成された画像を表示手段(表示装置520、表示部10、270)に表示させる表示制御部(211A)と、を含む。
このような構成によれば、簡素な処理で、被検眼の眼内距離にかかわらず被検眼の画像の画質を向上させることが可能になる。
いくつかの実施形態では、眼内距離は、眼軸長、又は、角膜厚、前房深度、水晶体厚、及び硝子体厚の少なくとも1つである。
このような構成によれば、被検眼の眼軸長、又は被検眼の角膜厚、前房深度、水晶体厚、及び硝子体厚の少なくとも1つに応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態は、分散補償部により分散補償が行われた干渉信号に基づいて、被検眼の眼内距離を新たに特定する解析部(243)を含む。
このような構成によれば、簡素な処理で、被検眼の眼内距離にかかわらず被検眼の眼内距離を高精度に特定することが可能になる。
いくつかの実施形態に係る眼科装置(1000)は、被検眼の眼内距離を測定する眼内距離測定部(OCT光学系8及び眼内距離算出部243B)と、上記のいずれかに記載の眼科情報処理装置と、を含む。
このような構成によれば、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことが可能な眼科装置を提供することができるようになる。
いくつかの実施形態では、眼内距離測定部は、光源(OCT光源101)からの光(L0)を測定光(LS)と参照光(LR)とに分割し、測定光を被検眼に照射し、被検眼からの戻り光と参照光との干渉光(LC)を検出する干渉光学系と、干渉光の検出結果に基づいて眼内距離を算出する眼内距離算出部(243B)と、を含む。
このような構成によれば、簡素な構成で、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことが可能な眼科装置を提供することができるようになる。
いくつかの実施形態に係る眼科情報処理方法は、被検眼(E)の眼内距離(例えば、眼軸長)を取得する取得ステップと、被検眼に対して光コヒーレンストモグラフィを実行することにより得られた干渉信号に対して分散補償処理を施すための所定の分散補償関数の係数を眼内距離に基づいて決定する決定ステップと、係数が適用された分散補償関数に基づいて干渉信号に対して分散補償処理を施す分散補償ステップと、を含む。
このような方法によれば、被検眼の眼内距離に応じて干渉信号に対して分散補償処理を施すことができる。それにより、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態では、眼内距離は、被検眼に入射する測定光の進行方向に沿った距離である。
このような方法によれば、測定光の進行方向について、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態では、決定ステップは、複数の眼内距離のそれぞれに対応して所定の分散補償関数の係数があらかじめ関連付けられた係数情報(212A)を用いて、取得ステップにおいて取得された眼内距離に対応する係数を決定する。
このような方法によれば、非常に簡素な構成、且つ簡素な処理で高精度な分散補償を行うことが可能になる。
いくつかの実施形態は、複数の眼内距離のそれぞれについて、被検眼に入射する測定光のスペクトル情報、測定光が通過する部位の厚さ、部位の屈折率、及び部位の波長分散量に基づいて係数を算出する係数算出ステップを含む。
このような方法によれば、複数の眼内距離について、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態では、係数算出ステップは、眼内距離に基づいて、測定光が通過する少なくとも1つの部位の厚さを求め、求められた厚さを用いて係数を算出する。
このような方法によれば、複数の眼内距離について、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態は、分散補償ステップにおいて分散補償が行われた干渉信号に基づいて被検眼の画像を形成する画像形成ステップと、画像形成ステップにおいて形成された画像を表示手段(表示装置520、表示部10、270)に表示させる表示制御ステップと、を含む。
このような方法によれば、簡素な処理で、被検眼の眼内距離にかかわらず被検眼の画像の画質を向上させることが可能になる。
いくつかの実施形態では、眼内距離は、眼軸長、又は、角膜厚、前房深度、水晶体厚、及び硝子体厚の少なくとも1つである。
このような方法によれば、被検眼の眼軸長、又は被検眼の角膜厚、前房深度、水晶体厚、及び硝子体厚の少なくとも1つに応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
いくつかの実施形態は、分散補償ステップにおいて分散補償が行われた干渉信号に基づいて、被検眼の眼内距離を新たに特定する解析ステップを含む。
このような方法によれば、簡素な処理で、被検眼の眼内距離にかかわらず被検眼の眼内距離を高精度に特定することが可能になる。
いくつかの実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上記のいずれかに記載の眼科情報処理方法の各ステップを実行させる。
このようなプログラムによれば、被検眼に応じて、簡素な処理で高精度に分散補償を行うことができるようになる。
以上に説明した構成は、この発明を好適に実施するための一例に過ぎない。よって、この発明の要旨の範囲内における任意の変形(省略、置換、付加等)を適宜に施すことが可能である。適用される構成は、例えば目的に応じて選択される。また、適用される構成に応じ、当業者にとって自明の作用効果や、本明細書において説明された作用効果が得られる。