[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1~図5を用いて説明する。
本例のステアリング装置1は、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置であり、操舵部材2を有する操舵装置3と、図示しない1対の操舵輪に舵角を付与するための転舵装置4とを備え、操舵装置3と転舵装置4とが電気的に接続されている。自動車の運転時には、操舵部材2の回転操作量が、操舵装置3を構成する図示しないセンサにより検出され、該センサの出力信号に基づいて、転舵装置4を構成するアクチュエータが駆動されることにより、1対の操舵輪に舵角が付与される。なお、操舵部材2の回転操作量とは、自動車が直進走行している状態での操舵部材2の回転位置である中立回転位置を基準とする、操舵部材2の回転角である。
操舵装置3は、操舵部材2及び前記センサの他、ステアリングシャフト5と、ステアリングコラム6と、図示しないロック機構と、反力付与装置7と、ステアリング装置用回転制限機構である回転制限機構8とを備える。
操舵部材2は、ステアリングシャフト5の後端部に支持固定されている。操舵部材2は、図示の例では、円環状の操舵部材であるステアリングホイールであるが、例えば航空機の操縦桿のような非円環状の操舵部材であっても良い。ステアリングシャフト5は、車体に支持されたステアリングコラム6の内側に回転可能に支持されている。
なお、ステアリング装置1に関して、前後方向は、ステアリング装置1が組み付けられた車両の前後方向をいい、前側は、図1~図3の左側であり、後側は、図1~図3の右側である。
本例のステアリング装置1は、操舵部材2の高さ位置の調節を可能とするための、首振り式のチルト機構を備える。このために、ステアリングコラム6は、前側に配置された筒状の前側コラム9と、後側に配置された筒状の後側コラム10と、前側コラム9の後端部と後側コラム10の前端部とを揺動可能に連結する車幅方向の揺動軸11とを有する。すなわち、後側コラム10は、前側コラム9に対し、車幅方向の揺動軸11を中心とする揺動可能である。前側コラム9は、自身の軸方向を前後方向に一致させることにより水平に配置され、かつ、図示しない支持ブラケットなどを用いて車体に支持固定されている。本例のステアリング装置1では、このように前側コラム9が水平方向に配置されているため、運転席の足元空間を上下方向に関して広く確保することができる。ただし、前側コラム9は、前側に向かうほど下側に向かう方向に傾斜した状態で配置することもできる。
ステアリングシャフト5は、前側に配置された前側シャフト12と、後側に配置された後側シャフト13と、前側シャフト12の後端部と後側シャフト13の前端部とを揺動可能にかつトルク伝達可能に連結した自在継手14とを有する。前側シャフト12は、前側コラム9の内側に、図示しない転がり軸受により回転可能に支持されている。後側シャフト13は、後側コラム10の内側に、図示しない転がり軸受により回転可能に支持されている。自在継手14の揺動中心は、揺動軸11の中心軸線上に位置している。このため、前側コラム9に対する後側コラム10の揺動と、前側シャフト12に対する後側シャフト13の揺動とを、互いに同期して円滑に行える。
操舵部材2は、後側シャフト13の後端部に支持固定されている。操舵部材2は、前側コラム9に対して後側コラム10が揺動変位できる範囲で、その高さ位置を調節可能である。また、前記ロック機構により、前側コラム9に対する後側コラム10の揺動変位を可能として、操舵部材2の高さ位置の調節を可能とする状態と、前側コラム9に対する後側コラム10の揺動変位を不能として、操舵部材2の高さ位置を調節後の位置に保持する状態とを、切り換え可能としている。
反力付与装置7は、前側コラム9の前端部に支持されている。反力付与装置7は、動力源となる電動モータと減速機とを有しており、運転者による操舵部材2の回転操作に伴って、電動モータを駆動する。電動モータのトルクは、減速機により増大されてから、前側シャフト12に対し、操舵部材2の回転操作方向と逆方向のトルクである、逆トルクとして伝達される。これにより、該逆トルクに基づく操作反力が、操舵部材2に付与される。なお、操舵部材2に付与される操作反力の大きさは、基本的には、前記センサにより取得した、操舵部材2の回転操作量や操舵部材2からステアリングシャフト5に入力されるトルクなどに応じて決定される。
回転制限機構8は、操舵部材2の回転操作量を所定量以下に制限するための機構であり、軸部材15と、ガイド部材60と、移動部材である玉17とを備える。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、回転制限機構8に関して、軸方向、径方向、周方向は、特に断らない限り、軸部材15の軸方向、径方向、周方向をいう。
軸部材15は、回転操作される操舵部材2とともに回転する部材である。本例では、このような軸部材15は、前側シャフト12の軸方向中間部を構成している。また、本例では、軸部材15は、機械構造用炭素鋼鋼材(SC材)などの金属製である。ただし、本発明を実施する場合、軸部材15の材質は、特に限定されない。軸部材15は、外周面に螺旋溝19を有する。軸部材15の外径寸法D15(図3(a)参照)は、螺旋溝19から外れた部分で軸方向の全長にわたり一定である。螺旋溝19は、径方向に関する玉17の内側部を係合させるための部位であり、全体がひとつながりに形成された、1条ねじの溝のような、螺旋状の溝である。本例では、螺旋溝19は、単一円弧形の断面形状を有する。なお、螺旋溝19の断面形状とは、軸部材15の中心軸を含む仮想平面で螺旋溝19を切断した場合の断面形状である。螺旋溝19の径方向深さは、螺旋溝19の長さ方向(形成方向、巻き方向)の両側の端部20以外の部分である中間部では、該長さ方向の全長にわたり一定であり、螺旋溝19の長さ方向の両側の端部20では、該長さ方向の両側の端縁21に向かうほど浅くなっている。また、本例では、軸部材15の外周面における螺旋溝19の巻数は、約3である。すなわち、螺旋溝19は、軸部材15の外周面において、約3回転分(回転角にして約1080°分)だけ螺旋状に巻かれるように形成されている。
なお、螺旋溝19は、玉17をガイドする機能を有していれば良く(例えば、軸方向に関する玉のがたつきを抑える必要がなく)、過度に精度良く形成する必要はない。このような螺旋溝19は、切削や転造などの適宜の加工方法で形成することができる。特に、本例の構造では、軸部材15の外径寸法D15が、螺旋溝19から外れた部分で軸方向の全長にわたり一定であるため、螺旋溝19を形成するための加工を容易に行える。また、本発明を実施する場合、螺旋溝により玉をガイドする機能を確保できれば、螺旋溝の断面形状は、本例のような単一円弧形に限らず、V字形、ゴシックアーチ形、U字形、矩形などの適宜の形状を採用することができる。また、螺旋溝の深さは、後述するように玉(移動部材)が螺旋溝の長さ方向の端部に接触する際に、該玉(移動部材)及び該端部の強度を確保することができ、かつ、該玉(移動部材)が該螺旋溝から脱落しなければ、任意の深さとすることができる。
ガイド部材60は、全体を円筒状に構成されており、径方向内側に軸部材15が挿通されている。このようなガイド部材60は、前側コラム9の軸方向中間部を構成している。また、ガイド部材60は、軸部材15の外周面と対向する位置、具体的には、内周面のうちで螺旋溝19と径方向に対向する軸方向位置に、径方向外側に凹入し、かつ、軸方向に伸長する軸方向溝61を有する。軸方向溝61は、径方向に関する玉17の外側部を係合させ、かつ、操舵部材2及び軸部材15が回転することに伴って玉17が軸方向に移動するように案内するための部位である。
軸方向溝61は、ガイド部材60の軸方向中間部の上端部に対応する円周方向位置に配置されている。ただし、軸方向溝61は、本例と異なる円周方向位置に配置することもできる。
軸方向溝61が存在する軸方向範囲は、螺旋溝19が存在する軸方向範囲よりも若干広い。ただし、軸方向溝61が存在する軸方向範囲は、使用時において玉17が軸方向溝61の軸方向両側の端縁部(前端縁部及び後端縁部)に接触しないようにできれば、本例と異なる広さにすることもできる。
軸方向溝61の幅寸法(図4(a)~図4(c)の左右方向寸法)W61は、玉17の直径Dと同程度であり、具体的には、直径Dと同じか、直径Dよりも僅かに大きいか、直径Dよりも僅かに小さい。
軸方向溝61の底面62は、その全体が、径方向に対して直交する平坦面により構成されており、軸方向に対して傾斜していない。
本例の構造では、ガイド部材60は、筒部材16とキャップ18とを含んで構成されている。
筒部材16は、全体を円筒状に構成されており、径方向内側に軸部材15が挿通されている。このような筒部材16は、前側コラム9の軸方向中間部を構成している。本例では、筒部材16は、一般構造用圧延鋼材(SS材)、機械構造用炭素鋼鋼材(SC材)などの金属製である。ただし、本発明を実施する場合、筒部材16の材質は、特に限定されない。筒部材16は、螺旋溝19と径方向に対向する軸方向位置に、軸方向に伸長するとともに、径方向に貫通して内周面と外周面とに開口する通孔である、長孔22を有する。本例では、長孔22のうちの径方向内側部により、軸方向溝61の一部が構成される。
キャップ18は、長孔22の径方向外側の開口を塞いだ状態で、筒部材16に固定されている。本例では、キャップ18の径方向内側面により、軸方向溝61の底面が構成される。本例では、キャップ18は、例えばポリアセタール(POM)やMCナイロンといった合成樹脂などの弾性材製である。ただし、本発明を実施する場合、キャップ18の材質は、特に限定されず、例えば金属であっても良い。
キャップ18は、長孔22の径方向外側の開口を塞ぐ塞ぎ部23と、塞ぎ部23の径方向外側部の周縁部に全周にわたり形成されたフランジ部24とを有する。キャップ18の塞ぎ部23の径方向内側部は、長孔22の径方向外側部に、径方向外側から挿入される部位であり、長孔22の内周形状に合致する外周形状を有する。塞ぎ部23の径方向内側面25は、その全体が、径方向に対して直交する平坦面により構成されており、軸方向に対して傾斜していない。
回転制限機構8の組立状態で、キャップ18の塞ぎ部23の径方向内側部は、長孔22の径方向外側部に、径方向外側から挿入されることで内嵌されている。これにより、長孔22の径方向外側の開口が塞がれている。また、フランジ部24は、長孔22の径方向外側の開口周縁部に当接している。これにより、筒部材16に対してキャップ18が径方向に位置決めされている。さらに、この状態で、キャップ18は、筒部材16に対し、接着、かしめ付け、ねじ止め、バンド止め、長孔22への塞ぎ部23の圧入などの適宜の方法で固定されている。
なお、図示は省略するが、筒部材16の外周面のうち長孔22の周囲部分に、キャップ18のフランジ部24を収容する凹部を設けることで、キャップ18の径方向外側面が筒部材16の外周面よりも径方向外側に出っ張らないようにすることもできる。
本例では、ガイド部材60が備える軸方向溝61は、キャップ18の塞ぎ部23の径方向内側面25と、長孔22の径方向内側部(キャップ18の塞ぎ部23よりも径方向内側に位置する部分)とにより構成されている。具体的には、軸方向溝61の底面62は、キャップ18の塞ぎ部23の径方向内側面25により構成されている。また、軸方向溝61の内周壁面は、長孔22の径方向内側部の内周面により構成されている。
玉17は、螺旋溝19と軸方向溝61との間に配置されている。より具体的には、玉17は、螺旋溝19に対して、螺旋溝19に沿う転動を可能に係合(転がり接触)し、かつ、軸方向溝61に対して、軸方向溝61の伸長方向に沿う移動を可能に係合(転がり接触又は近接対向)している。本例では、玉17は、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)などの金属製又はセラミック製である。ただし、本発明を実施する場合、玉17の材質は、特に限定されない。玉17の直径Dは、螺旋溝19の断面形状の曲率半径Rの2倍よりも僅かに小さい(D<2R、図3(a)の部分拡大図である図5(a)参照)。したがって、玉17は、螺旋溝19の表面(内面)に対して1箇所でのみ接触する。また、本例では、玉17の表面と、その相手面である螺旋溝19の表面及び軸方向溝61の表面(内面)とに、潤滑用のグリースが塗布されている。ただし、該グリースは省略することもできる。
玉17は、操舵部材2が中立回転位置にあるとき、図3(a)、及び、図3(a)のC-C断面図である図4(a)に示すように、螺旋溝19の長さ方向の中央部に位置するとともに、軸方向溝61の伸長方向の中央部に位置している。
また、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部に位置している場合には、玉17は、重力の作用により軸方向溝61の内側で下方に移動して螺旋溝19の底面(図5(a)のP部)に接しており、玉17と軸方向溝61の底面62との間には、径方向隙間57が存在している(図5(a)参照)。本例では、この径方向隙間57の大きさを十分に小さくしている。また、螺旋溝19が存在する軸方向範囲において、軸部材15の外周面のうち螺旋溝19から外れた部分と軸方向溝61の底面62との間の径方向幅Wは、玉17の直径Dよりも小さくなっている(W<D)。このため、玉17が径方向外側に浮き上がった場合でも、玉17が螺旋溝19から抜け出すことはない。
なお、本発明を実施する場合に、長孔22の幅寸法(=軸方向溝61の幅寸法W61)を、玉17が長孔22の内側を径方向に通過できる大きさとすれば(例えば、直径Dと同じか、直径Dよりも僅かに大きくすれば)、組立時の玉17の組み付け作業や、メンテナンス時の玉17の交換作業などを、長孔22を通じて容易に行うことができる。また、ねじ止めやバンド止めなどの方法により、キャップ18を筒部材16に対して着脱可能に固定すれば、例えば、メンテナンス時に、キャップ18を取り外すことで、長孔22を通じて、玉17を交換したり、前記グリースを補充したりすることができる。
以上のような構成を有する本例のステアリング装置1では、運転者が操舵部材2を回転操作すると、軸部材15が操舵部材2とともに回転し、換言すれば、軸部材15が操舵部材2と一体に回転する。そして、これに伴い、玉17は、螺旋溝19に沿って該螺旋溝19の長さ方向に転動(移動)しながら、軸方向溝61に沿って該軸方向溝61の伸長方向である軸方向に移動する。
また、玉17は、操舵部材2が中立回転位置にあるとき、図3(a)及び図4(a)に示すように、螺旋溝19の長さ方向の中央部に位置するとともに、軸方向溝61の伸長方向の中央部に位置している。また、軸部材15の外周面における螺旋溝19の巻数は、約3である。すなわち、螺旋溝19は、軸部材15の外周面において、約3回転(回転角にして約1080°)分だけ螺旋状に巻かれるように形成されている。このため、操舵部材2の回転操作量は、回転制限機構8により、一方側(本例では左旋回方向)に約1.5回転(回転角にして約540°)以下、及び、他方側(本例では右旋回方向)に約1.5回転(回転角にして約540°)以下に制限される。
すなわち、運転者が操舵部材2を中立回転位置から左旋回方向に回転操作するとき、換言すれば、操舵部材2(軸部材15)が運転者の側から見て反時計回りに回転するとき、玉17は、螺旋溝19に沿って該螺旋溝19の長さ方向に転動しつつ、軸方向溝61に沿って前側に向けて移動する。そして、操舵部材2を中立回転位置から左旋回方向に約1.5回転(回転角にして約540°回転)させると、図3(b)、及び、図3(b)のD-D断面図である図4(b)に示すように、玉17が軸方向溝61の前側の端部まで移動し、かつ、玉17が螺旋溝19の前側の端部20に接触して、操舵部材2(軸部材15)がそれ以上反時計回りに回転することを制限される。なお、このときの操舵部材2の回転位置を、一方側の回転制限位置とする。また、この状態で、玉17は、図4(b)及び図5(b)に示すように、螺旋溝19の前側の端部20(P部)だけでなく、軸方向溝61の底面62にも接触し、それ以上径方向外側に移動することを阻止される。なお、この状態で、玉17は、軸方向溝61の前端縁部には接触しない。
一方、運転者が操舵部材2を中立回転位置から右旋回方向に回転操作するとき、換言すれば、操舵部材2(軸部材15)が運転者の側から見て時計回りに回転するとき、玉17は、螺旋溝19に沿って該螺旋溝19の長さ方向に転動しつつ、軸方向溝61に沿って後側に向けて移動する。そして、操舵部材2を中立回転位置から右旋回方向に約1.5回転(回転角にして約540°回転)させると、図3(c)、及び、図3(c)のE-E断面図である図4(c)に示すように、玉17が軸方向溝61の後側の端部まで移動し、かつ、玉17が螺旋溝19の後側の端部20に接触して、操舵部材2(軸部材15)がそれ以上時計回りに回転することを制限される。なお、このときの操舵部材2の回転位置を、他方側の回転制限位置とする。また、この状態で、玉17は、図4(c)及び図5(b)に示すように、螺旋溝19の後側の端部20(P部)だけでなく、軸方向溝61の底面62にも接触し、それ以上径方向外側に移動することを阻止される。なお、この状態で、玉17は、軸方向溝61の後端縁部には接触しない。
以上の説明から分かるように、螺旋溝19の巻き数(巻き方向長さ)は、操舵部材2を一方側(他方側)の回転制限位置から他方側(一方側)の回転制限位置まで回転させる回転数に実質的に等しい。すなわち、本例の回転制限機構8では、軸部材15の外周面に形成する溝を単なる円周方向溝とするのではなく、螺旋溝19とすることで、操舵部材2の1回転を、螺旋溝19に対する玉17の1ピッチ分の移動に変換することにより、螺旋溝19の巻き数に応じて、操舵部材2の回転操作量を制限するようにしている。
なお、本例では、軸部材15の外周面における螺旋溝19の巻数を約3としたが、該巻数は、任意の数(整数に限らない)とすることができる。例えば、該巻数を約1.5~約3(回転角にして約540°~約1080°)の範囲の値に設定することができる。
以上のような本例のステアリング装置1では、回転制限機構8を構成する玉17の係合箇所が、軸部材15の外周面に備えられた螺旋溝19、及び、ガイド部材60に備えられた軸方向に伸長する軸方向溝61であるため、回転制限機構8の径方向寸法を小さく抑えることができる。したがって、径方向の設置スペースが限られている場合でも、回転制限機構8を設置しやすい。
また、操舵部材2を左旋回方向に回転操作して玉17を螺旋溝19の前側の端部20に接触させた場合における、軸部材15の回転中心から玉17の中心までの径方向距離と、操舵部材2を右旋回方向に回転操作して玉17を螺旋溝19の後側の端部20に接触させた場合における、軸部材15の回転中心から玉17の中心までの径方向距離とを、実質的に(製造上不可避な誤差を除き)同じ大きさにすることができる。このため、玉17が螺旋溝19の前側の端部20に接触する際の接触荷重と、玉17が螺旋溝19の後側の端部20に接触する際の接触荷重とを、ほぼ等しくすることができる。したがって、操舵部材2を回転操作する運転者に違和感を与えるなどの不都合が生じることを防止できる。
また、本例では、玉17が螺旋溝19の底面に接した状態で、玉17と軸方向溝61の底面62との間に、径方向隙間57が存在している。このため、玉17の移動抵抗を十分に小さく抑えられ、玉17の移動抵抗によって操舵部材2の回転抵抗が大きくなることを防止できる。
また、本例では、玉17が螺旋溝19の底面に接した状態で玉17と軸方向溝61の底面62との間に存在する径方向隙間57を十分に小さくしている。このため、玉17が螺旋溝19の端部20に接触した際に、玉17が螺旋溝19の端縁21に乗り上がって傷付くことを防止できる。
また、本例では、軸方向溝61の底面62がキャップ18の径方向内側面25によって構成されており、かつ、キャップ18が弾性材製であるため、玉17が螺旋溝19の端部20に接触することに伴い、玉17が軸方向溝61の底面62に接触する際に、玉17と軸方向溝61の底面62との衝突音を小さく抑えることができる。
なお、本発明を実施する場合に、キャップ18を金属製とすれば、同じく合成樹脂製とする場合に比べて、キャップ18の温度変化に対する膨張量又は収縮量が少なくなるため、キャップ18の寸法管理がしやすくなる。さらには、玉17が螺旋溝19の端部20に接触することに伴い、玉17が軸方向溝61の底面62(キャップ18の径方向内側面25)に接触することに対する、キャップ18の強度及び耐久性を高くすることができる。
なお、本発明を実施する場合、螺旋溝の長さ方向の両側の端部の形状は任意の形状とすることができる。また、玉と螺旋溝の端部との衝突音を小さくするために、螺旋溝の端部を、例えばポリアセタール(POM)やMCナイロンといった合成樹脂などの弾性材により構成することもできる。
また、本例では、軸部材15の外周面に形成された螺旋溝19は、全体がひとつながりに形成された、1条ねじの溝のような螺旋状の溝である。このため、軸部材の外周面に形成された螺旋溝が、2条ねじなどの多条ねじの溝のような螺旋溝である場合に比べて、螺旋溝19が存在する軸方向範囲を狭くすることができる。
また、本例では、回転制限機構8を構成する移動部材として、玉17を使用しているため、回転制限機構8を構成する部材同士の間でミスアライメントが生じた場合でも、操舵部材2の回転操作に伴う玉17の転動(移動)を滑らかに行わせることができる。
また、本発明を実施する場合、操舵部材2を回転制限位置まで回転操作することにより、玉17が螺旋溝19の端部20に接触した状態では、反力付与装置7による反力の付与が不要になる。このため、この状態で該反力を発生させる電動モータの通電を切る構成を採用すれば、該電動モータの小型化を図れる。
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図6及び図7を用いて説明する。
本例では、回転制限機構8aを構成するガイド部材60aに備えられた軸方向溝61aの底面62a(キャップ18aの塞ぎ部23の径方向内側面25a)は、軸方向中間部に、軸方向に対して傾斜していない平坦部26を有し、かつ、螺旋溝19の長さ方向の両側の端部20と同じ軸方向位置に配置される軸方向両側の端部に、平坦部26よりも径方向内側に張り出した張出部27を有する。本例では、張出部27のそれぞれは、軸方向に関して塞ぎ部23の中央部から遠い側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜した傾斜面である。軸方向に隣り合う平坦部26と張出部27との軸方向端縁同士は直接接続されている。
そして、本例では、玉17が軸方向溝61aの伸長方向の中間部に位置し、かつ、玉17が螺旋溝19の底面に接している状態で、玉17と軸方向溝61aの底面62aの平坦部26との間に、実施の形態の第1例の場合よりも大きな径方向隙間を存在させている。これにより、玉17と平坦部26との接触を生じにくくすることで、玉17の移動抵抗を、より小さく抑えられるようにしている。
また、本例では、玉17が軸方向溝61aの伸長方向の端部まで移動した際に、図7(a)に示すように、玉17が螺旋溝19の端部20に接触するのとほぼ同時に、玉17が軸方向溝61aの底面62aの張出部27に接触するように、張出部27の径方向内側への張り出し量を規制している。これにより、玉17が螺旋溝19の端部20に接触する際に、玉17が螺旋溝19の端縁21に乗り上がることを防止できるようにしている。
すなわち、玉17が軸方向溝61aの伸長方向の中間部に位置し、かつ、玉17が螺旋溝19の底面に接している状態で、玉17と軸方向溝の底面との間に、実施の形態の第1例の場合よりも大きな径方向隙間を存在させる場合において、図7(b)に示す比較例の構造のように、軸方向溝61zの底面62z(キャップ18zの径方向内側面25z)の全体を平坦部26にすると、玉17が螺旋溝19の端部20に接触する際に、図7(b)に示すように、玉17が螺旋溝19の端縁21に乗り上がる可能性がある。本例では、このような事態を回避するために、軸方向溝61aの底面62aの軸方向両側の端部に、平坦部26よりも径方向内側に張り出した張出部27を設けている。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)と同じである。
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図8を用いて説明する。
本例では、回転制限機構8bを構成するガイド部材60bに備えられた軸方向溝61bの底面62b(キャップ18bの塞ぎ部23の径方向内側面25b)の軸方向両側の端部を構成する1対の張出部27aは、軸方向に対して傾斜していない平坦面により構成されている。張出部27aのそれぞれと、軸方向溝61bの底面62bの軸方向中間部を構成する平坦部26とは、軸方向に関して軸方向溝61bの中央側に向いた段部56を介して接続されている。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第2例(図6及び図7参照)と同じである。
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図9を用いて説明する。
本例では、回転制限機構8cを構成するキャップ18cは、筒部材16に対し、径方向の移動を可能に装着されている。また、本例では、軸方向溝61cの底面62cと螺旋溝19の底面との間の径方向幅は、軸方向に関して中央部から両側に向かうほど小さくなっている。このような構成を採用するために、本例では、軸方向溝61cの底面62c(キャップ18cの塞ぎ部23の径方向内側面25c)が、軸方向に関して中央部から両側に向かうほど径方向内側に向かう方向に傾斜している。具体的には、軸方向溝61cの底面62cは、ガイド部材60cの中心軸を含む仮想平面で切断した断面形状が、軸方向に関して中央部から両側に向かうほど径方向内側に向かう方向に湾曲した円弧形である。ただし、本発明を実施する場合には、当該断面形状を、軸方向に関して中央部から両側に向かうほど径方向内側に向かう方向に伸長した直線形とすることもできる。
また、本例の構造では、ガイド部材60cは、カバー28、及び、第1のばね29を、さらに備える。
カバー28は、キャップ18cを径方向外側から覆うようにして、筒部材16の外周面に固定されている。カバー28は、平板状の基板部30と、基板部30の周縁部の全周から径方向内側に突出した周壁部31とを備える。基板部30は、キャップ18cの径方向外側面に対して径方向に間隔をあけて配置されている。カバー28は、周壁部31にキャップ18cのフランジ部24を、径方向の移動を可能に内嵌し、かつ、周壁部31の径方向内端面を筒部材16の外周面に当接させた状態で、筒部材16に支持固定されている。
第1のばね29は、カバー28の基板部30の径方向内側面とキャップ18cの径方向外側面との間に配置されている。第1のばね29は、板ばねにより構成されており、底辺が存在しない台形形状を有する。具体的には、第1のばね29は、軸方向に伸長する平板状の中間板部63と、それぞれが中間板部63の軸方向両側の端部から径方向内側に鈍角に折れ曲がり、軸方向に関して中間板部63から遠ざかるほど径方向内側に向かう方向に傾斜し、かつ、平板状に構成された1対の端板部64とを備える。中間板部63の径方向外側面は、カバー28の基板部30の径方向内側面の軸方向中間部に当接しており、第1の付勢部に相当する1対の端板部64の径方向内側の端部は、キャップ18cの径方向外側面の軸方向両側の端部に当接している。
本例では、玉17を軸方向溝61cの底面62cと螺旋溝19の底面とに接触させた状態で、第1のばね29を、カバー28の基板部30の径方向内側面とキャップ18cの径方向外側面との間で径方向に弾性的に圧縮している。これにより、第1のばね29の弾力に基づいて、キャップ18cを径方向内側に向けて弾性的に付勢している。そして、このような付勢により、玉17に対して、常に、軸方向溝61cの底面62cと螺旋溝19の底面との間で予圧を付与している。なお、本発明を実施する場合には、第1の付勢部として、板ばねの代わりに、コイルばねや皿ばねなどの他の種類のばねや、ゴム部材などを用いることもできる。
以上のような構成を有する本例の構造では、操舵部材2(図1参照)を中立回転位置から回転操作することにより、玉17を軸方向溝61cの軸方向の中央部から端部に向けて移動させると、これに伴い、キャップ18cは、軸方向溝61cの底面62cを玉17に押されることで、第1のばね29の付勢力に抗して、径方向外側に向け移動する。すなわち、上述のように玉17を軸方向溝61cの軸方向の中央部から端部に向けて移動させると、玉17には、第1のばね29の付勢力に基づいて、軸方向溝61cの底面62cから、軸方向に関して軸方向溝61cの中央部に戻される方向の成分を持った押し付け力が作用する。このため、このような成分を持った押し付け力によって、操舵部材2を中立回転位置に戻しやすくすることができる。また、本例の構造では、玉17が螺旋溝19の端部20に衝突する際の衝撃及び打音を、第1のばね29の弾力によって低減することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)と同じである。
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、図10を用いて説明する。
本例の回転制限機構8dは、実施の形態の第4例のガイド部材60c(図9参照)に、実施の形態の第2例のキャップ18a(図6及び図7(A)参照)を適用した構造を有する。すなわち、本例の回転制限機構8dを構成するガイド部材60dに備えられた軸方向溝61aの底面62a(キャップ18dの塞ぎ部23の径方向内側面25a)は、実施の形態の第2例と同じ形状を有する。また、本例では、螺旋溝19aの径方向深さは、螺旋溝19aの長さ方向の中央部から端部に向かうほど徐々に浅くなっている。すなわち、螺旋溝19aの径方向深さは、螺旋溝19aが存在する軸方向範囲の軸方向中央位置で最も深くなっており、この軸方向中央位置から軸方向両側に向かうほど徐々に浅くなっている。このため、本例の場合も、軸方向溝61aの底面62aと螺旋溝19aの底面との間の径方向幅は、軸方向に関して中央部から両側に向かうほど小さくなっている。
以上のような構成を有する本例の構造では、操舵部材2(図1参照)を中立回転位置から回転操作することにより、玉17を軸方向溝61aの軸方向の中央部から端部に向けて移動させる、すなわち、玉17を螺旋溝19aの長さ方向の中央部から端部に向けて移動させると、玉17には、第1のばね29の付勢力に基づいて、螺旋溝19aの底面から、螺旋溝19aの長さ方向の中央部に戻される方向の成分を持った押し付け反力が作用する。このため、このような成分を持った押し付け反力によって、操舵部材2を中立回転位置に戻しやすくすることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)、第2例及び第4例と同じである。
[実施の形態の第6例]
実施の形態の第6例について、図11~図13を用いて説明する。
本例では、回転制限機構8gを構成するガイド部材60eは、玉17に予圧を付与するための第1のばね29aに加え、第2のばね65を備える。第2のばね65は、第1のばね29aと同様、キャップ18cの径方向外側面とカバー28の基板部30の径方向内側面との間に配置されている。
第2のばね65は、第1のばね29aと同様、板ばねにより構成されており、底辺が存在しない台形形状を有する。具体的には、第2のばね65は、軸方向に伸長する平板状の中間板部66と、それぞれが中間板部66の軸方向両側の端部から径方向内側に鈍角に折れ曲がり、軸方向に関して中間板部66から遠ざかるほど径方向内側に向かう方向に傾斜した平板状に構成された1対の端板部67とを備える。中間板部66は、軸方向中間部の幅方向(図13の表裏方向、図12の上下方向)中間部に、径方向に貫通し、かつ、軸方向に伸長する透孔68を有する。本例の構造では、第2の付勢部に相当する1対の端板部67の径方向内側の端部を、キャップ18cの径方向外側面の軸方向両側の端部に当接させるとともに、中間板部66の径方向外側面を、カバー28の基板部30の径方向内側面の軸方向中間部に対して近接対向又は当接させている。
また、本例の構造では、第2のばね65のサイズを第1のばね29aのサイズよりも大きくしており、換言すれば、第1のばね29aのサイズを第2のばね65のサイズよりも小さくしている。具体的には、第2のばね65の軸方向に関する長さ寸法及び周方向に関する幅寸法を、第1のばね29aの軸方向に関する長さ寸法及び周方向に関する幅寸法よりも大きくし、かつ、第2のばね65の板厚寸法を、第1のばね29aの板厚寸法よりも大きくしている。そして、本例の構造では、このような第1のばね29a及び第2のばね65のそれぞれの寸法を調整することにより、第2のばね65(1対の端板部67)の弾性係数(ばね定数)k2を、第1のばね29a(1対の端板部64a)の弾性係数(ばね定数)k1よりも大きくしている(k2>k1)。
本例の構造では、第1のばね29aは、中間板部63aを第2のばね65の透孔68の内側に配置した状態で、中間板部63aの径方向外側面を、カバー28の基板部30の径方向内側面の軸方向中間部に当接させている。また、第1のばね29aは、1対の端板部64aの径方向内側の端部を、キャップ18cの径方向外側面の軸方向中間部に当接させている。そして、この状態で、第1のばね29aは、カバー28の基板部30の径方向内側面とキャップ18cの径方向外側面との間で径方向に弾性的に圧縮されている。これにより、第1のばね29aは、キャップ18cを径方向内側に向けて弾性的に付勢することで、玉17の軸方向位置にかかわらず、玉17に対して常に予圧を付与している。
また、本例の構造では、玉17が軸方向溝61cの軸方向中間部に位置する場合、すなわち、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部と接触している場合の、キャップ18cの径方向外側面とカバー28の基板部30の径方向内側面との間の径方向に関する間隔よりも、第2のばね65の自由状態での径方向に関する厚さ寸法を小さくしている。これにより、玉17が軸方向溝61cの軸方向中間部に位置する場合、すなわち、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部と接触している場合には、第2のばね65が、カバー28の基板部30の径方向内側面とキャップ18cの径方向外側面との間で径方向に圧縮されないようにしている。これに対し、玉17が軸方向溝61cの軸方向端部まで移動した場合、すなわち、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端部20に接触した場合には、第2のばね65が、キャップ18cの径方向外側面とカバー28の基板部30の径方向内側面との間で径方向に圧縮されて弾性変形するようにしている。
以上のような構成を有する本例の構造では、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端部20に接触する際に、第2のばね65が、キャップ18cの径方向外側面とカバー28の基板部30の径方向内側面との間で径方向に圧縮されて弾性変形する。このため、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音を、第1のばね29の弾力だけでなく、第2のばね65の弾力によっても、低減することができる。すなわち、本例の構造では、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音の低減効果を、第2のばね65の弾力によって向上させることができる。
また、本例の構造では、第2のばね65の弾性係数k2は、第1のばね29aの弾性係数k1よりも大きい。このため、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端部20に衝突する際に、第2のばね65の弾力によって、キャップ18cが径方向外側に向けて過度に移動することを有効に防止できる。その結果、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端縁21に乗り上がって傷付くことを有効に防止できる。
また、本例の構造では、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部に接触している場合には、第2のばね65は、キャップ18cの径方向外側面とカバー28の基板部30の径方向内側面との間で径方向に圧縮されない。このため、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部に接触している場合に、玉17に付与されている予圧が過度に大きくなり、操舵部材2(図1参照)を回転操作するのに要する力が過度に大きくなることを回避できる。
また、本例の構造では、ガイド部材60eが、玉17に予圧を付与するための第1の付勢部(1対の端板部64a)と、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音の低減効果を得るための第2の付勢部(1対の端板部67)とを、別々に備えている。このため、第1の付勢部の弾性係数と、第2の付勢部の弾性係数とを、自由に設定することができる。したがって、玉17に付与する予圧と、玉17が螺旋溝19の長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音の低減効果とを、それぞれ適切に管理することができる。
なお、本例では、第1の付勢部(1対の端板部64a)と、第2の付勢部(1対の端板部67)とが、別々の部品(第1の板ばね29a、第2の板ばね65)に備えられた構造を採用したが、本発明を実施する場合には、第1の付勢部(1対の端板部64a)と、第2の付勢部(1対の端板部67)とが、1つの部品(板ばね)に備えられた構造を採用することもできる。
また、本発明を実施する場合には、第1の付勢部と同様、第2の付勢部についても、板ばねの代わりに、コイルばねや皿ばねなどの他の種類のばねや、ゴム部材などを用いることもできる。また、本発明を実施する場合には、第1の付勢部と第2の付勢部とのそれぞれがばねである構成に限らず、第1の付勢部と第2の付勢部とのそれぞれがゴムである構成や、第1の付勢部と第2の付勢部とのうちの一方がばねであり、他方がゴムである構成を採用することもできる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第4例(図9参照)と同じである。
[実施の形態の第7例]
実施の形態の第7例について、図14を用いて説明する。
本例の回転制限機構8hは、実施の形態の第5例(図10参照)の構造と、実施の形態の第6例(図11~図13参照)の構造とを組み合わせた如き構造を有する。すなわち、回転制限機構8hを構成するガイド部材60fは、実施の形態の第5例(図10参照)の構造を基本として、第1のばね29の代わりに、実施の形態の第6例の第1のばね29a及び第2のばね65を備える。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)、第5例及び第6例と同じである。
[実施の形態の第8例]
実施の形態の第8例について、図15を用いて説明する。
本例では、回転制限機構8iを構成するキャップ18hは、玉17と接触する部分である塞ぎ部23の径方向内側面25a(軸方向溝61aの底面62a)を含む一部が金属により構成されており、残部が合成樹脂により構成されている。具体的には、キャップ18hは、塞ぎ部23の径方向内側面25aを含む一部に相当する塞ぎ部23の径方向内側部が、金属製の金属部69により構成されており、残部に相当する塞ぎ部23の径方向外側部及びフランジ部24が、合成樹脂製の樹脂部70により構成されている。
本例では、金属部69は、鋼材などの金属により構成されており、熱処理が施されることで硬度が十分に確保されている。なお、金属部69を構成する金属として、好ましくは、熱処理により硬度を確保しやすい、機械構造用炭素鋼鋼材(SC材)やクロムモリブデン鋼鋼材(SCM材)などを採用することができる。また、金属部69に施す熱処理としては、高周波焼入れや浸炭焼き入れなどを採用することができる。
本例では、樹脂部70は、ポリアセタール(POM)やMCナイロンなどの合成樹脂により構成されている。
本例では、金属部69と樹脂部70とは、金属部69の径方向外側面と樹脂部70の径方向内側面とを接着することにより、互いに結合固定されている。
以上のように、本例の構造では、キャップ18hのうち、塞ぎ部23の径方向内側面25aを含む一部である、塞ぎ部23の径方向内側部が、金属製の金属部69により構成されている。このため、玉17が螺旋溝19の端部20に接触することに伴い、玉17がキャップ18hの径方向内側面25a(軸方向溝61aの底面62a)に接触することに対する、キャップ18hの強度及び耐久性を十分に確保することができる。また、本例の構造では、金属部69は、熱処理が施されることで硬度が確保されている。このため、玉17が螺旋溝19の端部20に接触することに伴い、玉17がキャップ18hの径方向内側面25aに接触することに対する、キャップ18hの強度及び耐久性を、より高くすることができる。
また、本例の構造では、キャップ18hの残部である、塞ぎ部23の径方向外側部及びフランジ部24が、合成樹脂製の樹脂部70により構成されている。このため、キャップの全体を金属により構成する場合に比べて、キャップ18hの重量を軽減することができる。すなわち、本例の構造によれば、キャップ18hの強度及び耐久性の確保と重量の軽減とを両立させることができる。なお、本例の構造では、キャップの径方向内側面の全体が軸方向に連続して金属により構成されているが、本発明を実施する場合には、キャップのうち、玉が最も強く接触する部分である、キャップの径方向内側面の軸方向両側の端部のみを、金属により構成することもできる。このような構成を採用すれば、キャップの重量をさらに軽減することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第2例(図6及び図7参照)と同じである。
[実施の形態の第9例]
実施の形態の第9例について、図16を用いて説明する。
本例の回転制限機構8jは、実施の形態の第6例(図11~図13参照)の構造と、実施の形態の第8例(図15参照)の構造とを組み合わせた如き構造を有する。すなわち、回転制限機構8jを構成するキャップ18iは、実施の形態の第6例の構造を基本として、塞ぎ部23の径方向内側部を、金属製の金属部69aにより構成し、かつ、塞ぎ部23の径方向外側部及びフランジ部24を、合成樹脂製の樹脂部70により構成している。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)、第6例及び第8例と同じである。
[実施の形態の第10例]
実施の形態の第10例について、図17を用いて説明する。
本例の回転制限機構8kは、実施の形態の第7例(図14参照)の構造と、実施の形態の第8例(図15参照)の構造とを組み合わせた如き構造を有する。すなわち、回転制限機構8kを構成するキャップ18jは、実施の形態の第7例の構造を基本として、塞ぎ部23の径方向内側部を、金属製の金属部69bにより構成し、かつ、塞ぎ部23の径方向外側部及びフランジ部24を、合成樹脂製の樹脂部70により構成している。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)、第7例及び第8例と同じである。
[実施の形態の第11例]
実施の形態の第11例について、図18(a)及び図18(b)を用いて説明する。
本例では、軸部材15の外周面に形成された螺旋溝19bは、径方向内側に向かうほど軸方向幅が小さくなる、V字形の断面形状を有する。このため、本例では、図18(a)に示すように、玉17が螺旋溝19bの長さ方向の中間部に位置している場合と、図18(b)に示すように、玉17が螺旋溝19bの長さ方向の端部に位置している場合との、それぞれの場合において、玉17は、螺旋溝19bの底面に対して、軸方向に離隔した2箇所(図18(a)及び図18(b)の2つのQ部)で接触する。
以上のような本例の構造では、玉17は、螺旋溝19bの底面に対して、軸方向に離隔した2箇所で接触するため、それぞれの接触部での面圧を小さくすることができる。したがって、その分、玉17及び螺旋溝19bの耐久性を向上させることができる。換言すれば、本例の構造では、実施の形態の第1例の構造に比べて、玉17と螺旋溝19bとの間に作用する荷重の許容値を大きくすることができる。また、玉17と螺旋溝19bの開口縁58との距離が大きくなるため、玉17が開口縁58に接触することを防止できる。また、玉17は、螺旋溝19bの底面に対して、軸方向に離隔した2箇所で接触するため、玉17を螺旋溝19bの軸方向(幅方向)中央部に位置させる効果(螺旋溝19bに対する玉17のセンタリング効果)が高まる。したがって、操舵部材2(図1参照)の回転操作が両方向に繰り返し行われる場合でも、回転制限機構の動作を安定させることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)と同じである。
[実施の形態の第12例]
実施の形態の第12例について、図19(a)及び図19(b)を用いて説明する。
本例では、軸部材15の外周面に形成された螺旋溝19cは、径方向内側に向かうほど軸方向幅が小さくなる、ゴシックアーチ形の断面形状を有する。すなわち、螺旋溝19cの断面形状は、曲率中心Oa、Obが異なる位置に存在する2つの円弧を略V字形に組み合わせてなる。これら2つの円弧のそれぞれの曲率半径rは、互いに等しく、かつ、玉17の直径Dの1/2よりも大きい(r>D/2)。このため、本例の場合も、図19(a)に示すように、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の中間部に位置している場合と、図19(b)に示すように、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部に位置している場合との、それぞれの場合において、玉17は、螺旋溝19cの底面に対して、軸方向に離隔した2箇所(図19(a)及び図19(b)の2つのQ部)で接触する。さらに、本例では、これら2箇所の接触部のそれぞれにおいて、螺旋溝19cの断面形状が円弧形になっているため、実施の形態の第11例(図18(a)及び図18(b)参照)の場合よりも、接触面積を大きくして、接触面圧を小さくすることができる。したがって、玉17及び螺旋溝19cの耐久性をさらに向上させることができる。換言すれば、本例の構造では、実施の形態の第11例の構造に比べて、玉17と螺旋溝19cとの間に作用する荷重の許容値を大きくすることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第11例(図18(a)及び図18(b)参照)と同じである。
[実施の形態の第13例]
実施の形態の第13例について、図20を用いて説明する。
本例の構造では、キャップ18eは、塞ぎ部23の径方向内側面25dに、軸方向に伸長するキャップ溝59を備える。キャップ溝59は、径方向内側面25dの幅方向(図20の左右方向)中間部に、軸方向の全長にわたり形成されている。そして、このようなキャップ溝59に、径方向に関する玉17の外側部が係合(転がり接触又は近接対向)している。すなわち、本例では、キャップ溝59によって軸方向溝61dが構成されている。キャップ溝59の断面形状(軸部材15の中心軸に直交する仮想平面で切断した場合の断面形状)は、単一円弧形であり、かつ、その曲率半径が、玉17の直径の1/2よりも僅かに大きい。したがって、玉17がキャップ溝59の表面に対して接触する場合は、1箇所でのみ接触する。なお、図20は、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部に位置し、かつ、玉17がキャップ溝59の表面に接触していない状態を示している。
本例の構造では、キャップ溝59に、玉17のうちの径方向外側部が係合しているため、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部に位置している場合でも、玉17が筒部材16(長孔22の内側面や、長孔22の径方向内側の開口周縁部など)に接触することを防止できるか、又は、玉17が筒部材16に接触するとしても、玉17が筒部材16に接触するよりも先に、玉17がキャップ溝59の表面に接触する。このため、通常の操舵時において、玉17と筒部材16との衝突音が発生することを防止又は抑制することができる。
本例の構造では、キャップ溝59の断面形状が単一円弧形であるため、操舵部材を回転制限位置まで回転させた際に、キャップ溝59の表面と玉17との接触面積を大きくすることができ、具体的には、実施の形態の第1例における平坦面状の径方向内側面25と玉17との接触面積よりも大きくすることができる。このため、キャップ溝59の表面と玉17との接触面圧を小さくして、キャップ18eの耐久性を向上させることができる。なお、本発明を実施する場合には、キャップの塞ぎ部の径方向内側面の軸方向両側の端部に張出部を有する構造において、該張出部に軸方向に伸長するキャップ溝を形成することもできる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)と同じである。
[実施の形態の第14例]
実施の形態の第14例について、図21を用いて説明する。
本例の構造では、軸方向溝61eを構成する、キャップ18fの径方向内側面25eに備えられたキャップ溝59aは、径方向外側に向かうほど周方向幅が小さくなる、V字形の断面形状を有する。このため、操舵部材を回転制限位置まで回転させた際に、玉17は、キャップ溝59aの表面に対して、幅方向に離隔した2箇所で接触する。したがって、キャップ溝59aの表面と玉17との接触面圧を小さくして、キャップ18fの耐久性を向上させることができる。なお、図21は、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部に位置し、かつ、玉17がキャップ溝59aの表面に接触していない状態を示している。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第13例(図20参照)と同じである。
[実施の形態の第15例]
実施の形態の第15例について、図22を用いて説明する。
本例の構造では、軸方向溝61fを構成する、キャップ18gの径方向内側面25fに備えられたキャップ溝59bは、径方向外側に向かうほど周方向幅が小さくなる、ゴシックアーチ形の断面形状を有する。すなわち、キャップ溝59bの断面形状は、曲率中心が異なる位置に存在する2つの円弧を略V字形に組み合わせてなる。これら2つの円弧のそれぞれの曲率半径は、互いに等しく、かつ、玉17の直径の1/2よりも大きい。このため、本例の場合も、操舵部材を回転制限位置まで回転させた際に、玉17は、キャップ溝59bの表面に対して、幅方向に離隔した2箇所で接触する。さらに、本例では、これら2箇所の接触部のそれぞれにおいて、キャップ溝59bの断面形状が円弧形になっているため、実施の形態の第14例(図21参照)の場合よりも、接触面積を大きくして、接触面圧を小さくすることができる。したがって、キャップ18gの耐久性をさらに向上させることができる。なお、図22は、玉17が螺旋溝19の長さ方向の中間部に位置し、かつ、玉17がキャップ溝59bの表面に接触していない状態を示している。
なお、本発明を実施する場合には、回転制限機構の耐久性を確保する観点から、キャップ溝(軸方向溝)と螺旋溝との組み合わせとして、ゴシックアーチ形の断面形状を有するキャップ溝59bと、ゴシックアーチ形の断面形状を有する螺旋溝19c(図19(a)及び図19(b)参照)との組み合わせを採用することが最も好ましい。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第13例(図20参照)と同じである。
[実施の形態の第16例]
実施の形態の第16例について、図23及び図24を用いて説明する。
本例の構造では、回転制限機構8lのガイド部材60gを構成する筒部材16cは、軸部材15の螺旋溝19cと径方向に対向する軸方向位置である軸方向中間部の円周方向1箇所(本例では、上端部に対応する円周方向箇所)に、径方向外側に向けて突出する略円筒状の突出部71を有する。また、筒部材16cは、軸方向中間部のうち、突出部71に対応する円周方向箇所を径方向に貫通する通孔72を有する。すなわち、通孔72は、径方向内側の端部が筒部材16cの内周面に開口し、かつ、径方向外側の端部が突出部71の径方向外側の端面に開口している。また、通孔72の径方向内側部及び中間部は、円筒状の内周面を有する円孔73により構成されており、通孔72の径方向外側部は、ねじ孔74により構成されている。
本例の構造では、ガイド部材60gを構成するキャップ18kは、略円柱状に構成されており、円孔73の内側に径方向(図23の上下方向)の移動を可能に内嵌されている。このために、具体的には、キャップ18kは、円孔73の内側に隙間嵌めで内嵌されている。また、キャップ18kは、径方向内側面(図23の下側面)に、軸方向(図23の左右方向)に伸長する軸方向溝61dを有する。そして、この軸方向溝61dと螺旋溝19cとの間に、玉17が配置されている。
また、キャップ18kは、外周面の径方向(図23の上下方向)中間部に、係止溝75を全周にわたり有する。そして、この係止溝75に、ガイド部材60gを構成するOリング76が係止されている。Oリング76は、係止溝75の底面と円孔73の内周面との間で弾性的に圧縮されることにより、キャップ18kの外周面と円孔73の内周面との間をシールしている。これにより、外部空間からの異物の侵入と、玉17と螺旋溝19c及び軸方向溝61dとの間に封入したグリースの外部空間への流出を防止している。
また、キャップ18kは、径方向外側面(図23の上側面)の中央部に、径方向内側に凹入する有底の凹孔77を有し、かつ、径方向外側面のうちで凹孔77の周囲部分に、径方向内側に凹入する円環状の凹部78を全周にわたり有する。凹部78の径方向に関する深さは、凹孔77の径方向に関する深さよりも小さい(浅い)。
本例の構造では、ガイド部材60gを構成するカバー28aは、円柱状に構成されている。カバー28aは、外周面に雄ねじ部79を有し、かつ、径方向内側面の中央部に、径方向内側に向けて突出した円柱状の凸部80を有する。このようなカバー28aは、雄ねじ部79を筒部材16cのねじ孔74に螺合し、さらに締め付けることにより、ねじ孔74の内側に固定されている。また、この状態で、カバー28aの凸部80は、キャップ18kの凹部78の内側に挿入されている。
本例の構造では、ガイド部材60gを構成する第1のばね29bは、コイルばねにより構成されている。第1の付勢部に相当する第1のばね29bは、自身の中心軸を径方向に一致させた状態で、キャップ18kの凹孔77の内側に配置されており、かつ、凹孔77の底面とカバー28aの凸部80の径方向内側面との間で径方向に圧縮されている。これにより、第1のばね29bは、キャップ18kを径方向内側に向けて弾性的に付勢し、玉17に予圧を付与している。
本例の構造では、ガイド部材60gを構成する第2のばね65aは、皿ばねにより構成されている。第2の付勢部に相当する第2のばね65aは、第1のばね29bの径方向外側の端部の周囲に、第1のばね29bと同軸に配置されており、かつ、径方向に関して、キャップ18kの凹部78の底面とカバー28aの凸部80の径方向内側面との間に挟まれた位置に配置されている。第2のばね65aは、第1のばね29bの弾性係数(ばね定数)k1よりも大きい弾性係数(ばね定数)k2を有する(k2>k1)。このために、本例の構造では、第1のばね29b及び第2のばね65aのそれぞれの形状や寸法などを調整している。
本例の構造では、玉17が軸方向溝61dの軸方向中間部に位置する場合、すなわち、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の中間部と接触している場合の、キャップ18kの凹部78の底面とカバー28aの凸部80の径方向内側面との間の径方向幅寸法(図23の上下方向寸法)よりも、第2のばね65aの自由状態での径方向幅寸法(図23の上下方向寸法)を小さくしている。これにより、玉17が軸方向溝61dの軸方向中間部に位置する場合、すなわち、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の中間部と接触している場合には、第2のばね65aが、キャップ18kの凹部78の底面とカバー28aの凸部80の径方向内側面との間で径方向に圧縮されないようにしている。これに対し、玉17が軸方向溝61dの軸方向端部まで移動した場合、すなわち、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部20に接触した場合には、第2のばね65aが、キャップ18kの凹部78の底面とカバー28aの凸部80の径方向内側面との間で径方向に圧縮されて弾性変形するようにしている。
以上のような構成を有する本例の構造では、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部20に接触する際に、第2のばね65aが、キャップ18kの凹部78の底面とカバー28aの凸部80の径方向内側面との間で径方向に圧縮されて弾性変形する。このため、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音を、第1のばね29bの弾力だけでなく、第2のばね65aの弾力によっても、低減することができる。
また、本例の構造では、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部20に接触する際に、キャップ18kの径方向外側面のうちで凹部78の周囲部分が、カバー28aの径方向内側面のうちで凸部80の周囲部分に衝突する場合には、この衝突の衝撃及び打音を、第1のばね29bの弾力だけでなく、第2のばね65aの弾力によっても、低減することができる。
なお、本例の構造では、第1のばね29bの弾性係数k1を大きくしすぎると、玉17の動き(操舵部材2の回転操作)が重くなったり滑らかに行われなくなったりしてしまうため、第1のばね29bの弾性係数k1を、第2のばね65aの弾性係数k2よりも小さくしている(k1<k2)。第1のばね29bであるコイルばねは、玉17の動き(操舵部材2の回転操作)が重くなったり滑らかに行われなくなったりしない程度に適度に玉17に予圧を付与しつつ、ダンパー的な役割を果たし、例えば、螺旋溝19c及び軸方向溝61dの形状精度の影響を吸収する。一方、第2のばね65aは、弾性係数k2を適度に大きく設定されることで、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音などを適切に低減する役割を果たす。すなわち、本例の構造では、玉17に予圧を付与するための第1の付勢部(第1のばね29b)と、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音の低減効果を得るための第2の付勢部(第2のばね65a)とを、別々に備えている。このため、第1の付勢部の弾性係数と、第2の付勢部の弾性係数とを、自由に設定することができる。したがって、玉17に付与する予圧と、玉17が螺旋溝19cの長さ方向の端部20に衝突する際の衝撃及び打音の低減効果とを、それぞれ適切に管理することができる。
また、本例の構造では、筒部材16cを径方向に貫通する通孔72のうち、キャップ18kを内嵌する径方向内側部が円孔73により構成されているため、この円孔73の内側でのキャップ18kの径方向に関する移動を安定させることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第6例(図13参照)と同じである。
[実施の形態の第17例]
実施の形態の第17例について、図25を用いて説明する。
本例の構造では、回転制限機構8mを構成するキャップ18lは、外周面のうちで径方向(図25の上下方向)に離隔した2箇所に1対の係止溝75を全周にわたり有する。また、係止溝75のそれぞれに、Oリング76が係止されている。Oリング76のそれぞれは、係止溝75の底面と円孔73の内周面との間で弾性的に圧縮されることにより、キャップ18lの外周面と円孔73の内周面との間をシールしている。
以上のような本例の構造では、円孔73の内周面に対してキャップ18lが、1対のOリング76により、径方向に離隔した2箇所で全周にわたり支持されるため、円孔73の中心軸に対してキャップ18lの中心軸が傾くことを抑制して、円孔73の内周面とキャップ18lの外周面との干渉を抑制することができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第16例(図23及び図24参照)と同じである。
[実施の形態の第18例]
実施の形態の第18例について、図26及び図27を用いて説明する。
本例の構造では、回転制限機構8nを構成するキャップ18mは、玉17と接触する部分である軸方向溝61dの表面を含む一部が金属により構成されており、残部が合成樹脂により構成されている。具体的には、キャップ18mは、前記一部に相当する軸方向溝61dの表層部が、金属製の金属部69cにより構成されており、残部が合成樹脂製の樹脂部70aにより構成されている。
金属部69cは、鋼材などの金属により半円筒状に構成されており、径方向内側面に、半円筒状の凹面により構成された軸方向溝61dを有する。金属部69cは、熱処理が施されることで硬度が確保されている。樹脂部70aは、径方向内側面に、保持凹部81を有する。保持凹部81の表面(内面)は、金属部69cの径方向外側面である半円筒状の凸面と合致する、半円筒状の凹面により構成されている。金属部69cと樹脂部70aとは、金属部69cの径方向外側面と樹脂部70aの保持凹部81の表面とを接着することにより、互いに結合固定されている。
以上のような本例の構造では、キャップ18mのうち、玉17と接触する部分である軸方向溝61dの表面を含む一部が金属により構成されており、残部が合成樹脂により構成されているため、実施の形態の第8例(図15参照)と同様、キャップ18mの強度及び耐久性の確保と重量の軽減とを両立させることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)、第8例(図15参照)及び第17例(図25参照)と同じである。
[実施の形態の第19例]
実施の形態の第19例について、図28及び図29を用いて説明する。
本例の構造では、回転制限機構8oを構成するキャップ18nは、外周面が、係止溝を有さない円筒面により構成されている。本例の構造では、キャップ18nの外周面と円孔73の内周面との間にOリングは組み付けられていない。その代わりに、本例の構造では、キャップ18nの外周面を、円孔73の内周面に対し、円孔73の径方向に関するがたつきがない隙間嵌め、又は、円孔73の内側でキャップ18nが径方向(図28の上下方向)に移動することを阻害しない程度の軽圧入により内嵌している。これにより、キャップ18nの外周面と円孔73の内周面との間のシール性を確保している。
以上のような本例の構造では、キャップ18nの外周面と円孔73の内周面との間にOリングが組み付けられていない。このため、部品点数を少なくすることができる。また、Oリングと円孔73との接触部の円周方向一部を支点として、キャップ18nの中心軸が円孔73の中心軸に対して傾くことを回避できる。また、キャップ18nの外周面にOリングを係止するための係止溝が備えられていないため、キャップ18nの成形コストを抑えることができる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第18例(図26及び図27参照)と同じである。
[実施の形態の第20例]
実施の形態の第20例について、図30~図32を用いて説明する。
本例は、操舵部材2と図示しない1対の操舵輪とが機械的に接続されたステアリング装置1aに対して、操舵部材2の回転操作量を制限するための回転制限機構8eを適用した例である。
本例のステアリング装置1aは、操舵部材2と、ステアリングシャフト32と、ステアリングコラム33と、電動アシスト装置34と、1対の自在継手35a、35bと、中間シャフト36と、ステアリングギヤユニット37と、1対のタイロッド38と、回転制限機構8eとを備える。
ステアリングシャフト32は、車体に支持されたステアリングコラム33の内側に、回転自在に支持されている。ステアリングシャフト32の後端部には、操舵部材2が支持固定されており、ステアリングシャフト32の前端部は、電動アシスト装置34と、後側の自在継手35aと、中間シャフト36と、前側の自在継手35bとを介して、ステアリングギヤユニット37のピニオン軸39に接続されている。このため、運転者が操舵部材2を回転させると、操舵部材2の回転が、ステアリングギヤユニット37のピニオン軸39に伝達される。ピニオン軸39の回転は、ピニオン軸39と噛合した図示しないラック軸の直線運動に変換され、1対のタイロッド38を押し引きする。この結果、1対の操舵輪に操舵部材2の回転操作量に応じた舵角が付与される。
本例のステアリング装置1aでは、操舵部材2の前後位置を調節可能とするためのテレスコピック機構を備えている。このために、ステアリングコラム33は、筒状のインナコラム40の後端部に筒状のアウタコラム41の前端部を軸方向の相対変位を可能に内嵌することにより、全長を伸縮可能に構成されている。また、ステアリングシャフト32は、インナシャフト42の後端部外周面に筒状のアウタシャフト43の前端部内周面をスプライン係合させることにより、インナシャフト42とアウタシャフト43との間でのトルク伝達を可能に、かつ、全長を伸縮可能に構成されている。アウタシャフト43は、後端部をアウタコラム41よりも後方に突出させた状態で、アウタコラム41の内側に玉軸受44により回転のみを可能に支持されている。したがって、アウタシャフト43の後端部に支持固定された操舵部材2の前後位置を調節する際には、アウタシャフト43とともにアウタコラム41が、インナコラム40及びインナシャフト42に対して前後方向に変位することで、ステアリングシャフト32及びステアリングコラム33が伸縮する。
電動アシスト装置34は、ハウジング45と、電動モータ46と、トーションバー47と、出力軸48と、1対の玉軸受49a、49bと、ウォーム減速機50と、トルクセンサ51とを備える。
ハウジング45は、インナコラム40の前端部に結合固定されている。電動モータ46は、ハウジング45に支持固定されている。インナシャフト42の前端部は、ハウジング45の内側に挿入されている。インナシャフト42の前端部は、トーションバー47を介して、出力軸48に連結されている。出力軸48の前端部は、ハウジング45の前端面から前方に突出している。このような出力軸48の前端部の前側部には、後側の自在継手35aが結合される。出力軸48は、ハウジング45の内側に、1対の玉軸受49a、49bにより回転のみを可能に支持されている。出力軸48のうち、1対の玉軸受49a、49bにより支持された部分の間には、ウォーム減速機50を構成するウォームホイール52が外嵌固定されている。ウォームホイール52には、ウォーム減速機50を構成するウォーム53が噛合している。ウォーム53には、電動モータ46の出力軸がトルク伝達可能に連結されている。
出力軸48の後端部の周囲には、トルクセンサ51が配置されている。トルクセンサ51は、操舵部材2からステアリングシャフト32に加えられたトルクの方向及び大きさを検出する。電動モータ46は、トルクセンサ51の検出信号や車速信号に基づいて駆動制御される。これにより、電動モータ46は、ステアリングシャフト32に加えられたトルクの方向及び大きさや車速に応じて、ウォーム53を回転駆動し、出力軸48に補助トルクを付与する。この結果、運転者が操舵部材2を回転操作するのに要する力が軽減される。
回転制限機構8eは、実施の形態の第2例と同様の基本構造を有するが、本例では、軸部材15aは、出力軸48の前端部のうち、後側の自在継手35aが結合される部分よりも後側に位置する部分を構成している。また、筒部材16aは、長孔22が形成された円筒部54と、円筒部54の後端部から径方向外方に突出した円輪部55とを備え、円輪部55がハウジング45の前端面にねじ止めなどにより結合固定されている。そして、螺旋溝19と長孔22とに玉17が係合し、かつ、長孔22の径方向外側の開口部がキャップ18aにより塞がれている。回転制限機構8eに関するその他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例と同様である。
本例のステアリング装置1aでは、回転制限機構8eがハウジング45の前端面よりも前方に突出した部分に配置されている。このため、回転制限機構8eの組み立ては、最終工程で行うことができ、既存の生産ラインへの影響を少なくすることができる。
[実施の形態の第21例]
実施の形態の第21例について、図33及び図34を用いて説明する。
本例では、実施の形態の第20例とは異なり、回転制限機構8fを、出力軸48aの前端部ではなく、ステアリングシャフト32a及びステアリングコラム33aの後側部に設置している。
すなわち、本例では、軸部材15bは、アウタシャフト43aの軸方向中間部を構成している。軸部材15bは、アウタシャフト43aのうちで、自身の軸方向両側に隣接する部分に比べて、径方向の肉厚が大きく、かつ、外径寸法が大きくなっている。筒部材16bは、アウタコラム41aの軸方向中間部を構成している。そして、螺旋溝19と長孔22とに玉17が係合し、かつ、長孔22の径方向外側の開口部がキャップ18aにより塞がれている。なお、図示の例では、長孔22が軸部材15bの下端部に配置されているが、長孔22は、軸部材の上端部などの他の円周方向位置に配置することもできる。
その他の構成及び作用効果は、実施の形態の第1例(図1~図5参照)及び第20例(図30~図32参照)と同じである。
本発明は、上述した各実施の形態の構成を、矛盾が生じない範囲で、適宜組み合わせて実施することができる。
本発明のステアリング装置は、各種の基本構成を有するステアリング装置に適用可能である。例えば、本発明のステアリング装置を、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置に適用する場合には、緊急時などに操舵装置と転舵装置との間での機械的なトルク伝達を可能とするフェイルセーフ機構を備えた構成を採用することもできる。
本発明のステアリング装置を実施する場合、回転制限機構の設置位置は、特に限定されない。また、本発明を既存のステアリング装置に適用する場合、既存部品に対する変更は、螺旋溝や通孔などの追加工だけで済むため、当該適用を容易に行える。
また、本発明の回転制限機構を実施する場合、移動部材は、玉以外の部材を用いることもできる。すなわち、移動部材は、ガイド部材に対する軸部材の回転に伴い、螺旋溝に沿って該螺旋溝の長さ方向に移動しながら、軸方向溝に沿って該軸方向溝の伸長方向に移動することが可能であり、かつ、螺旋溝の長さ方向の両側の端部のそれぞれと接触することが可能であればよい。ただし、移動部材の移動抵抗を小さくしたり、移動部材と螺旋溝との接触部の耐久性を確保したりする観点から、移動部材のうちで螺旋溝に係合する部分は、凸球面状や凸円筒面状などの凸曲面状とすることが好ましい。また、この場合に、螺旋溝の断面形状が円弧形状である場合には、移動部材のうちで螺旋溝に係合する部分の断面形状の曲率半径は、螺旋溝の断面形状の曲率半径よりも小さくするのが好ましい。