(第1実施形態)
以下、図面を参照しながら、地下構造物および地下構造物の構築方法の実施形態について詳細に説明する。まず、第1実施形態の地下構造物および地下構造物の構築方法について図1から図22を用いて説明する。なお、図1の紙面上側を北側として説明する。
図1の符号1は、既存の地上建築物である。この地上建築物1の敷地の地下に第1実施形態の地下構造物2(図10および図11)を構築する。本実施形態では、開削工法によらずに、つまり、地上建築物1の取り壊しを行わずに地下構造物2を構築する。例えば、小型のシールドマシン50(図3)を用いて大型の地下構造物2を構築する。このような工法は、MMST(マルチ・マイクロ・シールドトンネル)工法と称される。
第1実施形態の地下構造物2としては、底版部3と頂版部4と側版部5とを有する直方体状の構造体を例示する。なお、その他の形状を有する地下構造物2であっても良い。
既存の地上建築物1の周囲には、北側の立坑7と南側の立坑8と西側の立坑9と東側の立坑10とが構築される。これらの溝状の立坑7~10は、地上建築物1の四方を囲むように一体的に形成され、平面視で四角形状を成す堀として構築される。
地上に多数の建築物が密集している都市部などでは、工事に利用できる敷地の面積に制限があり、大型のシールドマシンを搬入できない場合がある。第1実施形態では、小型のシールドマシン50(図3)を用いることで、敷地の面積に制限がある場合でも、地下にシールドマシン50を導入することができる。そして、大型の地下構造物2を構築することができる。なお、地下構造物2の内部寸法は、シールドマシン50により形成可能なシールドトンネル51の内部寸法よりも大きいものとする。
図2に示すように、立坑7~10は、土留壁24と支保工11により構築される。また、土留壁24には、鋼矢板、親杭横矢板、ソイルセメント柱列壁、鉄筋コンクリート製の地中連続壁などの各種の壁体が含まれる。また、支保工11には、鋼板、鉄骨(H鋼)またはコンクリートなどで構築された反力壁が含まれる。さらに、地盤52を改良する工事が行われる。例えば、高圧噴射攪拌工法などにより地盤52の改良を行う。高圧噴射攪拌工法とは、空気併用型二重管方式の高圧噴射攪拌装置12により、垂直方向または水平方向に多数の円柱状のセメント改良体13,14を形成して地盤52を改良する技術である。
地盤改良工事では、地上建築物1の基礎部分にセメント改良体14を形成する。地上建築物1の底面に沿って複数本のセメント改良体14を形成し、セメント改良体14の台座(盤状構造)を構築する。
また、地盤改良工事では、シールドマシン50の発進部分または到達部分にセメント改良体13を形成する。第1実施形態では、シールドマシン50の発進部分および到達部分の立坑9,10(図3)の土留壁24の前面に沿って複数本のセメント改良体13を形成する。セメント改良体13,14は、シールドマシン50により掘削可能な硬さに調整されている。なお、土留壁24の前面とは、立坑9,10の内部に居る作業者が土留壁24を見た場合において、シールドマシン50の進行方向の前方側に対応する面を示す。つまり、土留壁24において、地盤52に接する側の面を示す。
地盤52においてセメント改良体13,14が形成された部分は、充分な硬さを有するようになる。例えば、シールドマシン50の発進部分となる立坑9,10から土留壁24を貫通して掘進しても、セメント改良体13により土留壁24の前面(近傍)の地盤52が崩壊することを防ぐことができる。つまり、セメント改良体13,14により地盤52が補強される。なお、シールドマシン50の掘削対象となる地盤52が充分に硬い岩盤のようなものであれば、地盤改良工事を省略しても良い。
第1実施形態では、地上建築物1が建てられている地盤52において、シールドマシン50の発進部分および到達部分となる立坑9,10(図3)の土留壁24の前面に沿って複数本のセメント改良体13が形成されるため、シールドマシン50の発進時および到達時に土留壁24の前面(近傍)の地盤52が崩壊することを防ぐことができる。また、シールドマシン50の進行方向と平行な側部の立坑7~8(図4)を含む四方にセメント改良体13を形成してもよい。このようにすれば、地盤52の四方がセメント改良体13で囲まれるため、シールドマシン50で地中内部を掘削しても地盤52が崩れ難くなる。
西側の立坑9および東側の立坑10は、シールドマシン50の発進位置および到達位置となっている。西側の立坑9と東側の立坑10には、シールドマシン50を移動させるための移動装置15が設けられる。移動装置15は、例えば、シールドマシン50を昇降させるためのジャッキと、シールドマシン50を空気圧で浮かしてUターンまたは水平移動させるためのエアーキャスター(ターンテーブル)とを備える。そして、シールドマシン50を吊り込んで立坑9の底部に配置する。
図3に示すように、一方の立坑9から他方の立坑10に向けてシールドマシン50により掘削を開始する。シールドマシン50によりシールドトンネル51が構築される。
なお、シールドトンネル51とは、シールド工法により構築されたトンネルである。例えば、筒状のシールドマシン50で切羽後方のトンネル壁面を一時的に支え、切羽を掘削しながらシールドマシン50を前進させる。そして、シールドマシン50の後方のトンネル壁面をセグメント53(図14)で補強する。なお、セグメント53は、工場で大量生産できる。このようにシールドマシン50により地盤52を掘削しつつ複数のセグメント53を結合してシールドトンネル51が構築される。
他方の立坑10に到達したシールドマシン50は、移動装置15によりUターンおよび水平移動される。そして、既に形成された一方のシールドトンネル51に隣接するように他方のシールドトンネル51を形成する(図14)。このシールドトンネル51の構築作業を順次繰り返す。それぞれのシールドトンネル51は、互いに平行を成すように構築される。
図4に示すように、シールドマシン50を往復させることで、互いに隣接する複数本のシールドトンネル51が構築される。まず、地下構造物2の底版部3(図11)に対応する深さ位置にシールドトンネル51が構築される。
図5および図6に示すように、西側の立坑9および東側の立坑10の内部に足場16を構築してシールドマシン50の高さ位置を変更する。そして、再びシールドマシン50による掘削を開始し、シールドトンネル51を構築する。このようにして、地下構造物2の頂版部4(図11)に対応する深さ位置に、互いに隣接する複数本のシールドトンネル51が構築される。
なお、北側および南側の端部のシールドトンネル51は、その一部がセメント改良体13を貫通した状態で構築される。
また、北側の立坑7および南側の立坑8の内部では、地下構造物2の側版部5が構築される。例えば、鉄筋コンクリートなどにより側版部5が構築される。側版部5は、北側の立坑7および南側の立坑8を形成している土留壁24に接触させた状態で一体化して構築される。
なお、北側の立坑7および南側の立坑8にて側版部5が完成した後に、北側の立坑7および南側の立坑8内の支保工11を撤去しつつ、北側の立坑7および南側の立坑8が埋め戻される。
図7および図8に示すように、互いに隣接するシールドトンネル51同士をトンネル接続部54で接続するとともに、シールドトンネル51の内部に地下構造物2の躯体55を構築する。躯体55は、複数の鋼殻ブロック56(図17)を互いに接合して構築される。なお、頂版部4および底版部3の躯体55は、シールドトンネル51およびトンネル接続部54に沿って一体的に広がるように形成される。つまり、躯体55が面状に広がる部分を有する。
また、頂版部4の水平方向のスパンが長い場合には、頂版部4から底版部3まで繋がる1つまたは複数の縦穴17を構築し、これらの縦穴17の内部にも垂直方向(鉛直方向)に延びる柱体25を構築する。そして、頂版部4の躯体55と底版部3の躯体55とが、垂直方向に延びる柱体25により互いに接続される。頂版部4は、垂直方向に延びる柱体25を介して底版部3の躯体55に支持される。なお、垂直方向に延びる柱体25は、縦柱状に形成されても良いし、縦壁状に形成されても良い。
北側および南側の端部のシールドトンネル51は、トンネル接続部54を介して側版部5と接続される。さらに、頂版部4および底版部3の躯体55が、側版部5に接続される。頂版部4は、側版部5を介して底版部3の躯体55に支持される。
図9に示すように、躯体55および柱体25が完成して地下構造物2が自立して形状を保てるようになった後、地下構造物2の内部の土砂18を西側の立坑9および東側の立坑10から排出する。ここで、西側の立坑9と東側の立坑10には、土砂18を搬送する搬送装置19が設けられる。搬送装置19は、例えば、ベルトコンベヤーまたは空気圧送装置である。これらの搬送装置19を用いて土砂18が地上に向けて搬送される。また、地下構造物2の内部の土砂18の排出作業には、地上の工事で用いるものと同じ重機20(汎用重機)を使用することができる。
なお、シールドトンネル51の一部を除去するようにしても良い。例えば、頂版部4の下面側となるセグメント53を除去しても良い(図16)。また、底版部3の上面側となるセグメント53を除去しても良い。
地下構造物2の内部の土砂18の排出の完了後、西側の立坑9および東側の立坑10の内部にて、地下構造物2の妻壁となる側版部6が構築される(図10)。これらの側版部6は、鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリート、鋼殻構造などで構築される。さらに、側版部6により地下構造物2の西側と東側の開口が閉鎖される。
なお、西側の立坑9および東側の立坑10にて側版部6が完成した後に、西側の立坑9および東側の立坑10内の支保工11を撤去しつつ、西側の立坑9および東側の立坑10が埋め戻される。そして、地下構造物2が完成する(図10および図11)。
次に、地下構造物2の構築方法の一連の流れについて図12のフローチャートを用いて説明する。なお、図1から図11を適宜参照する。
図12に示すように、まず、ステップS11において、作業者は、既存の地上建築物1に近接する敷地に立坑7~10を構築する(図1)。
次のステップS12において、作業者は、土留壁24および支保工11により立坑7~10を構築する(図2)。
次のステップS13において、地盤改良工程が実施される。作業者は、高圧噴射攪拌工法などにより地盤52の改良を行う(図2)。ここで、地上建築物1の底面に沿って複数本のセメント改良体14を形成し、盤状のセメント改良体14を構築する。立坑7~10に沿って複数本のセメント改良体13を形成し、壁状のセメント改良体13を構築する(図3)。
次のステップS14において、トンネル構築工程が実施される。作業者は、シールドマシン50を用いてシールドトンネル51を構築する(図3)。シールドマシン50を往復させることで、地下構造物2の頂版部4および底版部3に対応する深さ位置に、互いに隣接する複数本のシールドトンネル51が構築される(図4から図6)。
次のステップS15において、躯体構築工程が実施される。作業者は、互いに隣接するシールドトンネル51同士をトンネル接続部54で接続するとともに、シールドトンネル51の内部に地下構造物2の躯体55を構築する(図7および図8)。さらに、頂版部4の躯体55と底版部3の躯体55とを、垂直方向に延びる柱体25により接続する。また、頂版部4および底版部3の躯体55を側版部5に接続する。底版部3と頂版部4と側版部5と柱体25が完成して地下構造物2が自立して形状を保てるようになった後、地下構造物2の内部の土砂18を排出する(図9)。土砂18の排出後に地下構造物2の妻壁となる側版部6が構築される(図10)
次のステップS16において、作業者は、立坑7~10の支保工11を撤去する。
次のステップS17において、作業者は、立坑7~10を埋め戻す。ステップS16の支保工11の撤去とステップS17の立坑7~10の埋戻しを所定の工程繰り返す。そして、地下構造物2が完成する(図10および図11)。
次に、シールドマシン50およびシールドトンネル51について図13から図21を用いて詳述する。さらに、地下構造物2の躯体55の構築方法についても詳述する。なお、頂版部4と底版部3では、同一の構築方法で躯体55が構築される。
図13に示すように、トンネル構築工程では、シールドマシン50により地盤52を掘削しつつ複数のセグメント53(図14)を結合してシールドトンネル51が構築される。シールドトンネル51の進行方向の後方側でブロック状を成す複数のセグメント53を互いに連結させつつ、シールドマシン50による掘削が進行する。シールドトンネル51を構成するセグメント53は、鋼鉄製となっている。なお、コンクリート製のセグメント53を用いても良い。
本実施形態では、正面視で矩形状(四角形状)を成す本体57を備えるシールドマシン50を用いる。この矩形型のシールドマシン50を用いて、断面視で四角形状のシールドトンネル51(図14)が構築される。ここで、複数のシールドトンネル51が互いに平行を成すように構築される。構築されたシールドトンネル51同士は、水平方向に等間隔に並んだ状態となる。
シールドトンネル51を構築する際には、縦方向に長いシールドマシン50を用いる。そのため、内部寸法が上下方向に広いシールドトンネル51(図14)を構築することができる。このようにすれば、シールドトンネル51の内部で作業者が様々な作業を実施し易くなる。また、水平方向に多くの側壁が並ぶようになるため、上方からの土圧に耐えられるようになる。仮に、一部の側壁を除去しても隣接する側壁で上方からの土圧を受けることができる。
シールドマシン50の本体57の正面中心には、センターカッター58(図13)が設けられている。センターカッター58を中心として放射状(径方向)に複数本(例えば4本)のメインカッター59が延びている。また、それぞれのメインカッター59に重畳して伸縮カッター60が設けられている。
メインカッター59が本体57の正面中心を軸として回転または揺動されることで、地盤52が掘削される。なお、伸縮カッター60は、メインカッター59とともに回転または揺動される。これらの伸縮カッター60は、本体57の対角線に近づくに連れて伸長される。伸縮カッター60は、本体57の対角線上にあるときに最も伸長される。そして、本体の対角線から離れるに連れて短縮される。このようにすれば、断面視で四角形状のシールドトンネル51(図14)を形成することができる。なお、センターカッター58についても、本体57の正面中心を軸として回転または揺動され、地盤52の掘削に用いらえる。
シールドマシン50の本体57の四隅(角部)には、サイドカッター61(図13)が設けられている。これらのサイドカッター61は円盤状を成し、それぞれが回転または揺動される。なお、メインカッター59および伸縮カッター60の回転面よりも後方にずれた位置に、サイドカッター61の回転面が設けられている。そのため、サイドカッター61が、メインカッター59および伸縮カッター60が干渉されることがない。
サイドカッター61により地盤52を掘削することで、シールドトンネル51の断面視における四隅に拡張テールボイド62(図14)が形成される。なお、これらの拡張テールボイド62には、固化材、モルタルまたはセメント改良体などで構成される特殊充填材が充填される。また、シールドトンネル51が構築されるときには、その周囲に余堀部63(図14)が設けられる。この余堀部63にも特殊充填材が充填されても良い。
図14に示すように、一方のシールドトンネル51の拡張テールボイド62の少なくとも一部と、他方のシールドトンネル51の拡張テールボイド62の少なくとも一部とが重なって形成される。このようにすれば、トンネル接続部54(図15)に対応する部分に断面欠損を生じさせることなく、アーチ型耐荷構造が形成される。そのため、地盤52が安定した状態でトンネル接続部54を構築することができる。さらに、シールドトンネル51の周囲の地盤52を凍らせる凍土工法を用いて、地盤52を安定させても良い。また、シールドトンネル51の周囲の地盤52に止水補助薬を注入しても良い。
なお、シールドマシン50の掘削対象となる地盤52が充分に硬い岩盤のようなものであれば、拡張テールボイド62を形成しなくても良い。つまり、シールドマシン50のサイドカッター61を省略しても良い。
図15に示すように、躯体構築工程では、まず、トンネル接続部54によりシールドトンネル51同士を連通させた状態で接続する。トンネル接続部54を構築する際に、作業者は、互いに隣接する複数のシールドトンネル51の対向する部分、つまり、側壁の部分のセグメント53を除去する。そして、作業者は、トンネル接続部54を構成する天面鋼板64と底面鋼板65を、セグメント53が除去された部分の上下に差し込む。これら天面鋼板64と底面鋼板65でシールドトンネル51同士を結合させる。さらに、天面鋼板64と底面鋼板65の間の土砂を排出する。
トンネル接続部54が形成されると、一方のシールドトンネル51から他方のシールドトンネル51まで連通された連通空間66が形成される。この連通空間66は、シールドトンネル51が並ぶ方向(水平方向)に向けて一体的(連続的)に広がるようになっている。このようにすれば、複数の鋼殻ブロック56を連通空間66に沿って互いに溶接して一体化させることができる。
図17および図19に示すように、躯体55は、複数の鋼殻ブロック56を組み合わせることで構築される。つまり、躯体55は、鋼殻構造となっている。鋼殻構造とは、水がある空間と空気がある空間とを少なくとも1枚の鋼板で仕切り、この鋼板が水圧に耐え得るようにフレームなどを接続して補強した構造のことである。
鋼殻ブロック56は、直方体状に形成される。なお、鋼殻ブロック56は、工場で大量生産できる。単体の鋼殻ブロック56は、例えば、水平方向に広がる3枚の鋼板と、これらの鋼板を互いに接続する垂直方向に広がる鋼板とを備える。つまり、水がある空間と空気がある空間とを仕切る鋼板が少なくとも2枚以上ある二重鋼殻構造が構築される。そのため、連通空間66が少なくとも2枚の止水板部67で仕切られる。このようにすれば、万が一、一方の止水板部67の水密性(液密性)が維持できなくなっても、他方の止水板部67で水密性を維持することができる。
図15に示すように、鋼殻ブロック56が互いに溶接されることで構築される躯体55の内部には、鋼板で仕切られた箱状の内部空間が多数形成される。これらの箱状の内部空間は、それぞれ単独で密閉された密閉空間となる。
なお、鋼殻ブロック56の少なくとも一部が本実施形態の止水板部67となっている。例えば、頂版部4の鋼殻ブロック56の場合には、地下構造物2の外側に対応する上面側の鋼板が止水板部67となっている。底版部3の鋼殻ブロック56の場合には、地下構造物2の外側に対応する下面側の鋼板が止水板部67となっている。つまり、鋼殻ブロック56におけるセグメント53に対向する部分(対向面)に設けられた鋼板が止水板部67となっている。
複数の鋼殻ブロック56が互いに溶接されて連通空間66に沿って一体的に広がるように止水板部67が形成される。少なくとも一部が止水板部67となっている直方体状の鋼殻ブロック56を用いることで、水密性と強度を兼ね備える地下構造物2を構築することができる。
図17および図19に示すように、それぞれのシールドトンネル51の底面には、メインレール68が設けられる。メインレール68は、シールドトンネル51の長手方向に沿って延び、鋼殻ブロック56を水平方向に移動可能な状態で支持する。このようにすれば、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向の任意の位置まで移動させることができる。なお、特に図示はしないが、鋼殻ブロック56は、台車を介してメインレール68に載置されている。そのため、メインレール68に沿って鋼殻ブロック56を自在に移動させることができる。
また、トンネル接続部54の底面には、サイドレール69が設けられる。サイドレール69は、シールドトンネル51の長手方向に垂直な方向に延び、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の並設方向に移動可能な状態で支持する。なお、サイドレール69は、一方のシールドトンネル51のメインレール68と他方のシールドトンネル51のメインレール68との間に掛け渡される。このようにすれば、一方のシールドトンネル51のメインレール68に沿って移動された鋼殻ブロック56を、サイドレール69でトンネル接続部54まで移動させることができる(図20)。
そして、サイドレール69で移動された鋼殻ブロック56を、他方のメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に接触させることができる。つまり、一方のシールドトンネル51のメインレール68に沿って移動された鋼殻ブロック56を、他方のメインレール68に支持されている鋼殻ブロック56に接触させることができる。
メインレール68は下部ジャッキ70を介してシールドトンネル51の底面に固定されている。また、サイドレール69も下部ジャッキ70を介してトンネル接続部54の底面(底面鋼板65)に固定されている。下部ジャッキ70によりメインレール68またはサイドレール69の高さ調整が可能となっている。このようにすれば、鋼殻ブロック56をメインレール68またはサイドレール69で移動可能に支持させつつ、鋼殻ブロック56同士を溶接するための高さ調整を下部ジャッキ70により行うことができる。
なお、本実施形態では、下部ジャッキ70が、メインレール68またはサイドレール69の下部に設けられているが、その他の態様でも良い。例えば、鋼殻ブロック56の下面に下部ジャッキ70を接触させて鋼殻ブロック56の高さ調整を行っても良い。つまり、鋼殻ブロック56をメインレール68またはサイドレール69で適切な位置まで移動させた後、下部ジャッキ70による鋼殻ブロック56の支持に切り換えても良い。さらに、切換後にメインレール68またはサイドレール69を除去しても良い。
鋼殻ブロック56が設定された定位置まで移動された後、鋼殻ブロック56の上面側に上部ジャッキ71が設けられる。上部ジャッキ71は、伸張されてシールドトンネル51またはトンネル接続部54の天面(天面鋼板64)に接触される。なお、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71には、油圧で動作する油圧ジャッキを用いている。鋼殻ブロック56同士の溶接を行う際には、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71により鋼殻ブロック56の位置の微調整を行うことができる。
シールドトンネル51に配置された鋼殻ブロック56は、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71によりシールドトンネル51のセグメント53に固定される。また、トンネル接続部54に配置された鋼殻ブロック56は、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71によりトンネル接続部54の天面鋼板64および底面鋼板65に固定される。つまり、下部ジャッキ70または上部ジャッキ71が、本実施形態の固定部材(支持部材)となっている。このようにすれば、セグメント53で囲まれた連通空間66の任意の位置に止水板部67を設けることができる。なお、固定部材による固定の態様は、垂直方向に並ぶ部材を互いに固定する態様と、水平方向に並ぶ部材を互いに固定する態様とを含む。
また、上部ジャッキ71は、鋼殻ブロック56の上面に対して、溶接などで固着せずに、単に、接触させた状態とする。また、メインレール68およびサイドレール69についても、鋼殻ブロック56の下面に対して、溶接などで固着せずに、単に接触させた状態とする。このようにすれば、地震などによりシールドトンネル51が変形されてセグメント53の位置がずれても鋼殻ブロック56に影響がないようにできる。
鋼殻ブロック56は、シールドトンネル51の内部の上下方向の中央位置に配置される。つまり、鋼殻ブロック56の止水板部67の一方と他方の両面がそれぞれセグメント53から離れた位置に設けられる。つまり、単体のシールドトンネル51の内面における互いに対抗する一方面(底面)と他方面(天面)から離れた位置(中間位置)に止水板部67が設けられる。このようにすれば、複数の鋼殻ブロック56同士を溶接するときに、鋼殻ブロック56の上下の両面に作業者がアクセスすることができる。そのため、溶接または検査を行うための作業空間(作業場所)を確保することができる。
また、鋼殻ブロック56同士を溶接した後に、その溶接部の非破壊検査を行っても良い。例えば、作業者は、シールドトンネル51の内部でX線または超音波を用いた非破壊検査を行い、正常に溶接が完了したか否かを検査することができる。そのため、水密性(気密性)が高い地下構造物2の構築が可能になっている。本実施形態の地下構造物2の構築方法は、非破壊検査工程を含んでも良い。
図18および図21に示すように、セグメント53と止水板部67の間には、充填材72が充填される。つまり、連通空間66の躯体55以外の部分であって、躯体55の周囲の空間に充填材72が充填される。このようにすれば、シールドトンネル51の外側(上方側)からセグメント53に加わる土圧を充填材72で分散させつつ止水板部67で受け止めることができる。そのため、土圧による止水板部67の変形を抑制することができる。
なお、充填材72は、モルタル、コンクリート、土砂のうちの少なくともいずれか1つを含む。また、これらのうちの少なくとも2つを混合した混合物(例えば、セメント系流動化処理土)を充填材72として用いても良い。また、充填材72として高流動コンクリートを用いても良い。このようにすれば、充填材72によりシールドトンネル51の内部の剛性と稠密性を高めることができる。
万が一、充填材72にひび割れなどが生じても、止水板部67によって水が地下構造物2の内部に浸透しないで済むようになっている。
図16に示すように、鋼殻ブロック56を組み立てて躯体55が完成した後に、シールドトンネル51の一部を除去しても良い。例えば、頂版部4の場合には、シールドトンネル51の下半分のセグメント53を除去しても良い。また、底版部3の場合には、シールドトンネル51の上半分のセグメント53を除去しても良い。
組み立てられた躯体55は、シールドトンネル51の少なくとも一部が除去されて、シールドトンネル51による支持を失ったときに周囲の土圧に抗して形状を保てる強度を有する。このようにすれば、シールドトンネル51を用いずに自律的に形状を保てる地下構造物2を構築することができる。
なお、充填材72により躯体55が支持されるようになった後に、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71の油圧を抜くようにしても良い。このようにすれば、セグメント53が多少変形したとしても、その変形の影響が躯体55に伝わり難くなる。
次に、躯体構築工程の一連の流れについて図22のフローチャートを用いて説明する。なお、図14から図21を適宜参照する。
図22に示すように、まず、ステップS31において、作業者は、互いに隣接するシールドトンネル51の底面に、メインレール68および下部ジャッキ70を設ける(図15)。そして、作業者は、一方のシールドトンネル51を介して鋼殻ブロック56を搬入する。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56を一方のシールドトンネル51の長手方向に沿って延びるメインレール68で移動させる。
次のステップS32において、作業者は、一方のシールドトンネル51で鋼殻ブロック56同士を溶接する。つまり、メインレール68に沿って並ぶ複数の鋼殻ブロック56を互いに溶接する。このようにすれば、複数の鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向の任意の位置まで移動させて互いに溶接して組み合わせることができる。
次のステップS33において、作業者は、一方のシールドトンネル51の鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図15)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてシールドトンネル51の天井面に接触させる。つまり、一方のシールドトンネル51の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
次のステップS34において、作業者は、互いに隣接するシールドトンネル51の長手方向における一部のセグメント53を除去する(図19および図20)。
次のステップS35において、作業者は、セグメント53が除去された部分に、シールドトンネル51同士を連通させた状態で接続するトンネル接続部54の一部を構築する(図19および図20)。なお、作業者は、構築されたトンネル接続部54の底面に、サイドレール69および下部ジャッキ70を設ける(図15)。
次のステップS36において、作業者は、他方のシールドトンネル51を介して鋼殻ブロック56を搬入する(図19および図20)。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56を他方のシールドトンネル51の長手方向に沿って延びるメインレール68で移動させる。
次のステップS37において、作業者は、他方のシールドトンネル51から一方のシールドトンネル51に向けて鋼殻ブロック56を横移動させる。作業者は、他方のシールドトンネル51を介して移動させた鋼殻ブロック56を他方のシールドトンネル51の長手方向に垂直な方向に移動させてトンネル接続部54に配置する(図19および図20)。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向に垂直な方向に延びるサイドレール69により移動させる。このようにすれば、鋼殻ブロックを他方のメインレール68に沿って移動させて、一方のメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に溶接して一体化させることができる。
次のステップS38において、作業者は、一方のシールドトンネル51の鋼殻ブロック56とトンネル接続部54の鋼殻ブロック56とを溶接する(図19および図20)。つまり、作業者は、サイドレール69に支持された鋼殻ブロック56を一方のシールドトンネル51のメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に溶接する。そして、連通空間66に沿って一体的に広がる止水板部67を形成する(図15)。
次のステップS39において、作業者は、トンネル接続部54に設けられた鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図15)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてトンネル接続部54の天井面に接触させる。つまり、トンネル接続部54の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
次のステップS40において、作業者は、天井面を支持する鋼殻ブロック56に隣接し、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53を除去する(図14および図20)。このようにすれば、鋼殻ブロック56によりトンネル接続部54の天井面を支持しつつ、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53の除去作業を順次行うことができる。
そして、全てのシールドトンネル51で躯体55が完成するまで、この躯体構築工程を繰り返す。このようにすれば、シールドトンネル51の長手方向および並設方向に広がる躯体55を構築することができる。
このように、一方のシールドトンネル51から他方のシールドトンネル51まで連通された連通空間66を作業場所として、この連通空間66に沿って一体的に設けられる躯体55の組立作業を行うようにしている。このようにすれば、単体のシールドトンネル51の内径よりも大きな躯体55を地中で組み立てることができる。
図18および図21に示すように、作業者は、躯体55が完成した後に、シールドトンネル51の内部に充填材72を充填する。
次に、変形例1について図23から図28を用いて説明する。図25に示すように、変形例1のトンネル接続部54の底面には、サブレール73が設けられる。サブレール73は、シールドトンネル51の長手方向に沿って延び、鋼殻ブロック56を移動可能な状態で支持する。このようにすれば、鋼殻ブロック56をトンネル接続部54の任意の位置まで移動させることができる。
次に、変形例1の躯体構築工程の一連の流れについて図28のフローチャートを用いて説明する。なお、図23から図28を適宜参照する。
図28に示すように、まず、ステップS41において、作業者は、互いに隣接するシールドトンネル51の底面に、メインレール68および下部ジャッキ70を設ける(図23)。そして、作業者は、双方のシールドトンネル51を介して鋼殻ブロック56を搬入する。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56をシールドトンネル51の長手方向に沿って延びるメインレール68で移動させる。
次のステップS42において、作業者は、双方のシールドトンネル51で鋼殻ブロック56同士を溶接する。つまり、メインレール68に沿って並ぶ複数の鋼殻ブロック56を互いに溶接する(図24)。
次のステップS43において、作業者は、双方のシールドトンネル51の鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図24)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてシールドトンネル51の天井面に接触させる。つまり、双方のシールドトンネル51の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
次のステップS44において、作業者は、鋼殻ブロック56により天井面が支持された互いに隣接するシールドトンネル51の対向する部分、つまり、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53を除去する(図14および図25)。このようにすれば、鋼殻ブロック56によりシールドトンネル51の天井面を支持しつつ、セグメント53の除去作業を行うことができる。さらに、シールドトンネル51の長手方向に沿って配置され、トンネル接続部54に対応して縦方向に並ぶセグメント53の除去作業を一度に行うことができる。
次のステップS45において、作業者は、トンネル接続部54を構成する天面鋼板64と底面鋼板65を、セグメント53が除去された部分の上下に差し込む。これら天面鋼板64と底面鋼板65でシールドトンネル51同士を結合させる。さらに、天面鋼板64と底面鋼板65の間の土砂を排出する。このようにして、シールドトンネル51同士を連通させた状態で接続するトンネル接続部54を構築する(図25)。なお、作業者は、構築されたトンネル接続部54の底面に、サブレール73および下部ジャッキ70を設ける。
次のステップS46において、作業者は、トンネル接続部54を介して鋼殻ブロック56を搬入する(図26)。ここで、作業者は、鋼殻ブロック56をメインレール68と平行に並ぶサブレール73により移動させる。トンネル接続部54に沿って並ぶ鋼殻ブロック56をサブレール73で直線的に搬送できるため、搬送効率が向上する。
次のステップS47において、作業者は、シールドトンネル51の鋼殻ブロック56とトンネル接続部54の鋼殻ブロック56とを溶接する(図26)。つまり、作業者は、サブレール73に支持された鋼殻ブロック56をメインレール68に支持された鋼殻ブロック56に溶接する。さらに、トンネル接続部54で鋼殻ブロック56同士を溶接する。つまり、サブレール73に沿って並ぶ複数の鋼殻ブロック56を互いに溶接する。
次のステップS48において、作業者は、トンネル接続部54に設けられた鋼殻ブロック56の上面に上部ジャッキ71を設ける(図26)。そして、上部ジャッキ71を伸張させてトンネル接続部54の天井面に接触させる。つまり、トンネル接続部54の天井面を鋼殻ブロック56により支持させる。
そして、全てのシールドトンネル51で躯体55が完成するまで、この躯体構築工程を繰り返す。このようにすれば、シールドトンネル51の長手方向および並設方向に広がる躯体55を構築することができる。
図27に示すように、作業者は、躯体55が完成した後に、シールドトンネル51の内部に充填材72を充填する。
なお、シールドトンネル51による掘削作業とメインレール68を用いた鋼殻ブロック56の搬送作業とを同時並行で行っても良い。
次に、変形例2について図29から図30を用いて説明する。図29に示すように、変形例2では、鋼殻ブロック56が互いに溶接されて躯体55が構築された後に、作業者は、躯体55の上方位置と下方位置に複数の台座ブロック74を配置する。例えば、台座ブロック74を、躯体55の上面と、シールドトンネル51の底面と、トンネル接続部54の底面に配置する。台座ブロック74は、コンクリート製または鋼鉄製の部材である。
図30に示すように、作業者は、台座ブロック74の上面側にフラットジャッキ75を設ける。例えば、台座ブロック74とセグメント53との間、および台座ブロック74と躯体55の間にフラットジャッキ75を設ける。
ここで、フラットジャッキ75とは、薄い円盤状を成す装置であり、上下に設けた凹みを有する2枚の薄い軟鋼板の外縁部を溶接により接合したものである。フラットジャッキ75の上下両面には、メッシュで補強されたモルタル製の支圧板が設けられている。さらに、フラットジャッキ75の外縁部には、外部から流体が注入される注入口と、内部の流体を排出するための排出口が設けられている。注入口より流体を導入して内圧を生じさせる。すると、フラットジャッキ75の上下の両面が互いに引き離されるように鋼板が塑性変形する。つまり、フラットジャッキ75の内圧により載置されたものを引き上げる揚力を発生させることができる。このフラットジャッキ75は、作業空間の極めて狭い場所にも設置することができる。また、フラットジャッキ75は、油圧ジャッキである下部ジャッキ70および上部ジャッキ71よりも製造コストが低くなっている。
台座ブロック74の上面側にフラットジャッキ75を設けた後、フラットジャッキ75を作動させる。すると、フラットジャッキ75により躯体55がシールドトンネル51に固定されるようなる。この変形例2では、フラットジャッキ75が固定部材となっている。
その後、作業者は、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71を除去するとともに、メインレール68およびサイドレール69を除去する。このようにすれば、コストが嵩む下部ジャッキ70および上部ジャッキ71を回収することができる。そして、作業者は、フラットジャッキ75による受け替えを行った後に、セグメント53と止水板部67の間に充填材72(図18)を充填する。なお、下部ジャッキ70および上部ジャッキ71を用いずに、最初からフラットジャッキ75のみを用いて躯体55を固定しても良い。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態の地下構造物2Aおよび地下構造物2Aの構築方法について図31から図35を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。また、前述の図面を適宜参照する。
図31に示すように、第2実施形態では、既存の地上建築物1Aの両側の2箇所に溝状の立坑9,10が構築される。この第2実施形態では、底版部3、頂版部4のみならず、側版部5Aについてもシールドマシン50を用いて構築する(図35)。
図32および図33に示すように、シールドマシン50を往復させることで、互いに隣接する複数本のシールドトンネル51が構築される。まず、地下構造物2Aの底版部3(図35)に対応する深さ位置にシールドトンネル51が構築される。さらに、底版部3において、北側および南側の端部のシールドトンネル51の上方に側版部5A(図35)となるシールドトンネル51が構築される。また、南北方向の中央部にも支持版部21となるシールドトンネル51が構築される。なお、この支持版部21は、第1実施形態と同様に、頂版部4と底版部3を連結する柱体25で代替することもできる。
また、水平方向に互いに隣接するシールドトンネル51同士をトンネル接続部54で接続するとともに、シールドトンネル51の内部に地下構造物2Aの底版部3(図35)となる躯体55を構築する。さらに、垂直方向に互いに隣接するシールドトンネル51同士をトンネル接続部54で接続するとともに、シールドトンネル51の内部に地下構造物2Aの側版部5Aおよび支持版部21(図35)となる躯体55を構築する。なお、側版部5Aおよび支持版部21となる垂直方向に延びる躯体55は、縦柱状に形成されても良いし、縦壁状に形成されても良い。
次に、底版部3(図35)となるシールドトンネル51と側版部5Aおよび支持版部21(図35)となるシールドトンネル51とを連結する工程について説明する。これらのシールドトンネル51同士は、垂直方向に近接した状態で構築される。ここで、上下に並ぶシールドトンネル51同士の拡張テールボイド62(図14)が重畳されている。なお、シールドトンネル51の周囲の地盤52を、凍結させても良いし、セメント改良体などで地盤改良を行っても良い。
図36に示すように、作業者は、拡張テールボイド62を用いた拡張テールボイド工法、または、凍結させる凍結工法で地盤52が改良された底版部3の端部と側版部5Aを連結させる。この連結部において、作業者は、まず、上方の側版部5Aのシールドトンネル51の底面の一部のセグメント53を除去し、トンネル接続部54を構成する支持鋼板26(スライド鋼板)を下方のシールドトンネル51に向けて差し込む。これらの支持鋼板26により上下のシールドトンネル51同士が接続される。つまり、支持鋼板26により上方の側版部5Aのシールドトンネル51を、底版部3のシールドトンネル51に支持させる。
図37に示すように、作業者は、支持鋼板26で接続された部分にある隙間の土砂を排出し、下方の底版部3の端部のシールドトンネル51の天面のトンネル接続部54に対応する部分のセグメント53を除去する。なお、支持鋼板26を、底版部3の端部と側版部5Aの連結部のシールドトンネル51のセグメント53に予め装着しておいても良い。
上下のシールドトンネル51同士を接続するトンネル接続部54が形成されると、上方側のシールドトンネル51から下方側のシールドトンネル51まで連通された連通空間66が形成される。この連通空間66は、シールドトンネル51が並ぶ方向(垂直方向)に向けて一体的(連続的)に広がるようになっている。
シールドトンネル51の内部に鋼殻ブロック56を搬入し、これら鋼殻ブロック56同士を互いに溶接し、シールドトンネル51の内部に地下構造物2Aの躯体55を構築する。また、鋼殻ブロック56は、支持ジャッキ27によりシールドトンネル51のセグメント53に固定される。つまり、支持ジャッキ27が、本実施形態の固定部材(支持部材)となっている。鋼殻ブロック56同士の溶接を行う際には、支持ジャッキ27により鋼殻ブロック56の位置の微調整を行うことができる。なお、躯体55は、シールドトンネル51およびトンネル接続部54の内部の連通空間66に沿って一体的に広がるように形成される。
図34および図35に示すように、地下構造物2Aの頂版部4に対応する深さ位置にシールドトンネル51が構築される。そして、頂版部4のシールドトンネル51と、側版部5Aおよび支持版部21のシールドトンネル51とがトンネル接続部54で接続される。また、頂版部4の内部にも躯体55が構築される。さらに、頂版部4の躯体55と、側版部5Aおよび支持版部21の躯体55とが互いに接続される。
そして、セグメント53と止水板部67の間には、充填材72が充填される(図18および図27)。つまり、連通空間66(図15)の躯体55以外の部分であって、躯体55の周囲の空間に充填材72が充填される。
なお、躯体55の完成後、地下構造物2Aの内部の土砂を排出する。この土砂の排出の完了後、西側の立坑9および東側の立坑9,10の内部にて、地下構造物2Aの妻壁となる側版部6が、鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリート、鋼殻構造などを用いて構築される。さらに、これらの立坑9,10が埋め戻される。そして、地下構造物2Aが完成する。
第2実施形態では、地下構造物2Aの側版部5Aおよび支持版部21をシールドマシン50で構築することができる。また、側方の溝状立坑を構築する必要がないため、作業スペースの制約がある場合においても効率的に作業を進めることができる。
なお、シールドトンネル51において、地下構造物2Aの内部側に面するセグメント53を除去しても良い。そして、地下構造物2Aの内部側に躯体55を露出させても良い。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態の地下構造物2Bおよび地下構造物2Bの構築方法について図38から図43を用いて説明する。なお、前述した実施形態に示される構成部分と同一構成部分については同一符号を付して重複する説明を省略する。また、前述の図面を適宜参照する。
図38に示すように、第3実施形態では、既存の地上建築物1Bが道路22に近接して設けられている。この道路22と地上建築物1Bの双方を挟むように、西側と東側の2箇所に立坑9,10が構築される。第3実施形態では、地上建築物1Bの地下部分の一部を地下構造物2Bとして利用する(図42)。
図39に示すように、シールドマシン50を往復させることで、互いに隣接する複数本のシールドトンネル51が構築される。まず、地下構造物2Bの底版部3(図43)に対応する深さ位置にシールドトンネル51が構築される。
また、高圧噴射攪拌工法などにより地盤52の改良を行う。第3実施形態では、地上建築物1Bの地下部分に沿うように壁状のセメント改良体13Bが構築される。そして、地下構造物2Bの一部の壁23が除去される。
図40および図41に示すように、底版部3において、北側および南側の端部のシールドトンネル51の上方に側版部5B(図43)となるシールドトンネル51Bが構築される。側版部5Bのシールドトンネル51Bを構築するためのシールドマシン50Bは、底版部3および頂版部4を構築するためのシールドマシン50よりも縦長になっている。つまり、側版部5Bのシールドトンネル51Bは縦長に形成される。この第3実施形態では、縦寸法が異なる2種類のシールドマシン50,50Bを用いる。なお、側版部5Bのシールドトンネル51Bを構築したシールドマシン50Bは、到達側で回収して発進側に移動させて再利用しても良い。また、側版部5Bが複数のシールドトンネル51Bで構築される場合は、シールドマシン50Bを到達位置で上方に移動させて、さらに反転させその上部の側版部5Bの構築に用いることもできる。
地下構造物2Bの頂版部4に対応する深さ位置にシールドトンネル51が構築される。地上建築物1Bの地下階には、シールドマシン50の移動装置15が設けられる。この移動装置15でシールドマシン50をUターンまたは水平移動させる。シールドマシン50を往復させることで、互いに隣接する複数本のシールドトンネル51が構築される。
図42および図43に示すように、水平方向に互いに隣接するシールドトンネル51同士をトンネル接続部54で接続するとともに、シールドトンネル51の内部に地下構造物2Bの底版部3および頂版部4となる躯体55を構築する。さらに、垂直方向に互いに隣接するシールドトンネル51Bを隣接するシールドトンネル51に接続するとともに、シールドトンネル51Bの内部に地下構造物2Bの側版部5Bとなる躯体55を構築する。なお、頂版部4の躯体55と、側版部5Bの躯体55と、底版部3の躯体55が互いに接続される。これにより、地上建築物1Bの地下階と地下構造物2Bとが連結され、地下空間として一体化される。
そして、セグメント53と止水板部67(図15)の間には、充填材72が充填される(図18および図27)。つまり、連通空間66(図15)の躯体55以外の部分であって、躯体55の周囲の空間に充填材72が充填される。
なお、躯体55の完成後、地下構造物2Bの内部の土砂を西側の立坑9および東側の立坑10から排出する。この土砂の排出の完了後、西側の立坑9および東側の立坑10の内部にて、地下構造物2Bの妻壁となる側版部6が、鉄筋コンクリート、鉄骨コンクリート、鋼殻構造などを用いて構築される。また、地下構造物2Bの内部で、土砂の排出と同時進行で支持版部21Bとなる躯体55が構築される。さらに、立坑9,10が埋め戻される。そして、地下構造物2Bが完成する。
第3実施形態では、既存の地上建築物1Bの地下構造に新設の地下構造物2Bを連結させることができる。また、既存の地上建築物1Bの地下構造を、シールドマシン50Bの到達立坑の一部として利用することができる。そのため、狭い敷地を合理的に活用でき、周辺への影響が少なく、工事に必要な材料を節約することができる。
また、道路22などの既存のインフラの地下に、地下構造物2Bを構築することで、都市部における地下空間の民間利用が促進される。
本実施形態に係る地下構造物および地下構造物の構築方法を第1実施形態から第3実施形態に基づいて説明したが、いずれか1の実施形態(または変形例)において適用された構成を他の実施形態に適用しても良いし、各実施形態において適用された構成を組み合わせても良い。
なお、本実施形態のフローチャートにおいて、各ステップが直列に実行される形態を例示しているが、必ずしも各ステップの前後関係が固定されるものでなく、一部のステップの前後関係が入れ替わっても良い。また、一部のステップが他のステップと並列に実行されても良い。
また、既存の地上建築物1は、高速道路または鉄道の高架橋などであっても良い。このような高架橋の下部は、敷地が広がっていても高架橋の基礎部分があるため、開削工法ができない。このような場所でも本実施形態の構築方法であれば地下構造物2を構築することができる。また、基礎部分を補強するために地下構造物2を構築しても良い。
本実施形態では、小断面のシールドマシン50を用いるため、立坑9,10のスペースを小さくすることができる。そのため、狭い面積の敷地でも工事を行うことができる。さらに、小断面の掘削が行えるため、土被りが少ない場所でも切羽の安定性を高くすることができる。また、縦長および横長の複数種類のシールドマシン50を組み合わせることで、任意の断面形状の地下構造物2を構築することができる。
また、小断面のシールドマシン50を用いた掘削を行うため、産業廃棄物となる泥水処理が必要な掘削土の発生を低減させることができる。
また、既存の地下構造物がある場合には、既存の土留壁が残されている場合がある。その場合は、立坑7~10の外側の土留壁24として利用しても良い。土留壁の一部を撤去した空間からシールドトンネル51を外側に進行させることで、既存の地下構造物を拡張することができる。このようにすれば、既存の地下構造物と新規の地下構造物2とを連続させることができる。
なお、本実施形態では、鋼殻ブロック56がメインレール68を介して下部ジャッキ70に支持されているが、その他の態様であっても良い。例えば、メインレール68を支持する下部ジャッキ70とは異なる下部ジャッキを設けるようにし、この下部ジャッキ70により鋼殻ブロック56を直接支持しても良い。
なお、本実施形態では、既存の地上建築物1を挟むように西側と東側の立坑9,10を構築し、東西方向(一方向)に沿ってシールドトンネル51を構築しているが、その他の態様であっても良い。例えば、地上建築物1の四方に構築した立坑7~10を用いて、東西方向と南北方向の2方向にシールドトンネル51を構築しても良い。例えば、底版部3を東西方向に延びるシールドトンネル51で構築し、頂版部4を南北方向に延びるシールドトンネル51で構築しても良い。そして、底版部3と頂版部4の構築作業を同時並行で行っても良い。
なお、本実施形態では、地下構造物2の全体が地中に埋まっているが、その他の態様であっても良い。例えば、地下構造物2の少なくとも一部が地上に露出された状態で建設されても良い。つまり、地下構造物2と連続する地上建築物1を構築しても良い。例えば、地下構造物2から上方に延びる縦壁を構築し、この縦壁を地上まで延ばしても良い。
なお、本実施形態では、それぞれのシールドトンネル51が互いに平行を成すように構築されているが、その他の態様であっても良い。例えば、地下構造物2の内部寸法を途中で変更する場合には、シールドトンネル51が互いに平行に並ばなくても良い。シールドトンネル51同士を次第に離れるように並べたり、次第に近づくように並べたりしても良い。このようにすれば、地下構造物2の内部寸法をその長手に沿って次第に拡大したり、次第に縮小したりすることができる。また、既存の地中の構造物(例えば、ガス、水道などのインフラ設備)を避けたフレキシブルで複雑な形状の地下構造物2を構築することができる。
なお、本実施形態では、矩形型のシールドマシン50を用いて、断面視が四角形状のシールドトンネル51を構築しているが、その他の態様であっても良い。例えば、円形シールドマシンを用いて、断面視が円形状のシールドトンネルを構築しても良い。
なお、本実施形態では、地下構造物2が止水板部67により水密性を有する構成となっているが、その他の態様であっても良い。例えば、地下構造物2が止水板部67(気密板部)により気体の通過を阻止して気密性を有するものでも良い。
本実施形態の水密性(気密性)とは、地下構造物2の外部から内部へ液体(気体)が進入しない態様を含むばかりか、地下構造物2の内部から外部へ液体が流出しない態様を含む。例えば、地下構造物2の内部に流体を溜めた場合に、その流体が長期間に亘って外部へ流出しない態様を含む。
本実施形態の地下構造物2は、例えば、オフィス、店舗、住居、駐車場、道路、倉庫、貯水漕、治水施設、発電施設、鉄道施設、燃料タンク、ガスタンク、廃棄物貯蔵施設、水チェレンコフ検出器(ニュートリノ観測装置)などに用いることができる。
また、移設が不可能な既存の重要施設がある場合に、その位置を変更せずに、地下に底版部を構築し、その周囲に遮水壁を構築しても良い。
なお、本実施形態では、互いに隣接するシールドトンネル51同士が離間されており、その間を天面鋼板64と底面鋼板65で接続することでトンネル接続部54が構成されているが、その他の態様であっても良い。例えば、互いに隣接するシールドトンネル51同士が接触していても良い。その場合には、シールドトンネル51同士を接合する接合部材によりトンネル接続部が構成される。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、一方のトンネルから他方のトンネルまで連通された連通空間で複数の鋼板が互いに溶接されて連通空間に沿って一体的に広がる止水板部を備えることにより、水密性を有する地下構造物をシールドマシンにより構築することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。