以下、図面を参照して本発明に係る個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システムについて説明する。本発明に係る個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システムは、以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
[MSFscの問題点]
本発明者の調査によると、日本の女性では、20~24歳は4.90時、25~29歳は4.62時、30~34歳は4.58時、35~39歳は4.20時、40~44歳は3.98時と、年齢と共にMSFscが早まる傾向が見られた。これらの結果は、性別や年齢によって概日リズムの位相が異なるとの従来の知見を、本発明者の調査結果でも裏付けるものである。
日本における30~39歳の一般集団においては、MSFscの平均時刻は4.48時、標準偏差は1.59時であった(図44(a))。また、図44(b)に示したように、25~29歳女性では平均時刻4.63時、標準偏差1.27時であった。すなわち、全体のばらつきの中には年齢要素、性別要素、個人要素があるものの、20歳程度の年齢差や性差よりは、個人要素による差の方が大きい。したがって、概日リズムおよび睡眠覚醒リズムの位相は、個人によって大きく異なること、平均値を中心に正規分布することが明らかである。
ここで既存の概日リズムの指標の一つであるMSFscには、次に挙げる技術的な欠陥(A)~(C)がある。
(A)MSFscは上述の要領で計算されるものの、睡眠負債があり、かつ、平日は就寝時刻が遅くなる場合には正確な計算ができない。例えば、平日に3:30~6:30の3時間の睡眠をとり、休日に0:00~10:00の10時間の睡眠をとった場合、MSFscは以下の要領で計算される。
SDweek=(3×5+10×2)/7=5時間
SDf>SDweekであるため、MSFsc=5:00-(10-5)/2=2:30
しかし、このときのMSWは5:00であり、MSFも5:00であるのに、MSFscはこれらの何れの値とも著しく乖離し、2:30と、強い朝型の値を示す。また、このときのMSFscは深部体温の最下点と全く一致しない。
(B)現在、不眠である場合、つまり、何らかの理由で入眠が著しく障害されていたり、早朝覚醒があったりする場合、あるいは過眠症によって覚醒時刻が病的に遅延している場合などは、直近の入眠・覚醒時刻は本人の睡眠リズムを必ずしも示さない。
(C)多くの者には、通常、休日にも起床時刻や就寝時刻に影響する何らかの予定があったり、家族によって起こされたりするなどの家庭環境がある。このため、「直近の休日はその本人の体内時計をよく反映している」とする前提に無理がある。
よって、単に直近の睡眠時間帯だけから算出するMSFscは、概日リズムを十分正確には反映できないことが多い指標である。
[概日リズムに基づく生活時刻の提示システム]
本発明の一実施形態に係る概日リズムに基づく生活時刻の提示システムは、コンピューターシステムあるいは紙面を用いて睡眠時間帯の中間時刻を推定し、体内時刻の位相に依存して起きる様々な体の事象あるいは推奨される行動時刻を算出するための基準とするとすることを特徴とする。一実施形態において、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システムは、「睡眠時間帯に基づく主観的真夜中」(SPB-SM: Sleep Phase Based Subjective Midnightと称する)を算出する。
概日リズムを代表する指標として他に重要なものには深部体温、脈拍、血圧、副交感神経活動(HF)、交感神経および副交感神経の活動比(LF/HF)の日内変動があり、何れも主観的夜に低下する。本発明者が調査した結果、このSPB-SMに深部体温と脈拍と血圧の最下点域が存在すること、そして、複数の被験者を用いた測定によって、既知の指標であるMSFscよりもこのSPB-SMと深部体温と脈拍と血圧の最下点時刻域は強く相関し、その相関係数および一致度は高いことが明らかとなった。すなわち、SPB-SMは体内における概日リズムの指標として極めて信頼性が高い。
本明細書において、SBP-SMをある程度の幅を持った「時間帯」として定義することも可能である。この場合、体内時計に基づいて各種の行動を提案する時間帯は、最小値から最大値までの、ある程度の幅を持った分布として提示されることになる。
図1は、本発明の一実施形態に係る個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100(以下、システム100ともいう)を示す模式図である。システム100は、例えば、情報処理装置110を含む。本明細書において、「情報処理装置」としては、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)13、スマートフォンを含む携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の利用者が直接操作可能な端末と、サーバ11が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、入力装置と表示装置とを備え装置であればよい。また、一実施形態において、情報処理装置110として、サーバ11が用いられてもよい。なお、後述するように、PC13は、問診票1に記載された回答を入力するために用いられてもよい。また、センサ2を用い、直接又はPC13等の端末を介して、情報処理装置110にデータを送信してもよい。センサ2としては、例えば、脈拍計、心拍計、深部体温計等の睡眠状態をモニタリング可能な公知のセンサを上げることができる。これらのセンサ2は利用者の体表面に直接配置してもよいが、1つ以上のセンサを有するセンサーマットを寝具に装着するデバイスとして用いてもよい。情報処理装置110は、ネットワーク50に接続してもよい。ネットワーク50は、いわゆるインターネットを示し、有線通信又は無線通信により情報処理装置110及び端末と接続可能な通信網である。例えば、サーバ11と、上述した端末の1つ以上が、ネットワーク50を介して接続されてもよい。
図2は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110を説明するブロック構成図である。情報処理装置110は、例えば、制御部111、記憶部113、通信部115及び電源117を備え、出力部119をさらに備えてもよい。制御部111は、例えば、中央処理装置(CPU)、オペレーティングシステム(OS)、情報処理装置110を制御するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。記憶部113は、ハードディスクやソリッドステートディスク(SSD)のような補助記憶装置で構成される。記憶部113には、算出されたSPB-SMを含むデータベース114を格納する。通信部115は、ネットワークアダプタやオンボードの通信用チップ等により構成され、ネットワーク50を介した端末との通信可能である。電源117は、外部のから電力を情報処理装置110の各装置に供給する電源装置であって、特に限定されない。また、出力部119は、表示装置やプリンタであって、公知の装置を任意に配置可能である。さらに、情報処理装置110は、その他に公知の情報処理装置が備える各種の電子機器を備えてもよい。
SPB-SMは、システム100が提示する問診票1に対する回答、または測定デバイス、例えばウェアラブルデバイス19から得られたデータによって算出することができる。
図3は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110の処理を説明するフロー図である。なお、下記の各実施形態においては、情報処理装置110としてサーバ11を用いた例を示すが、本発明に係る概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100はこれに限定されず、情報処理装置110として端末を用い、端末単体で以下の処理を行ってもよい。SPB-SMを算出するために、情報処理装置110は、端末に質問を送信する(S101)。端末がPC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の表示装置及び入力装置を備える端末である場合には、端末は、情報処理装置110から受信した質問を表示装置に表示させ、利用者の回答を促す。また、PC13、携帯電話15又はタブレット型端末17にプリンタが有線又は無線接続により接続されている場合には、プリンタにより情報処理装置110から受信した質問を印刷して、問診票1を作成することができる。
利用者は端末に回答を入力する(S103)。端末は、ネットワーク50を介して、入力された回答を情報処理装置110に送信する(S105)。また、利用者が問診票1に回答を記入した場合には、回答をさせた者(医療従事者等)が問診票1に記入された回答を端末に入力してもよい。また、センサーマット2等の装着するデバイスや、ウェアラブルデバイス19等の装着する端末を用いてデータを測定する場合には、端末又はデバイスは、ネットワーク50を介して、測定されたデータを情報処理装置110に送信する。
情報処理装置110が回答や測定データを受信すると、情報処理装置110は、受信した回答や測定データに例外データが含まれていないかを検証し、例外データが含まれている場合には、受信した回答や測定データから例外データを除外する(S107)。
情報処理装置110は、例外データを除外した回答や測定データに基づき、SPB-SMを算出する(S109)。情報処理装置110は、算出されたSPB-SMを記憶部113に格納する(S111)。
[例外データの除外]
ここで、下記条件(1)~(6)の何れかに該当する場合には、睡眠覚醒リズムからSPB-SMを算出することができない。図4は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110での例外データの除外処理を説明するフロー図である。制御部111は、記憶部113に格納された条件(1)~(6)に関する質問を読み込み、通信部115からネットワーク50を介して、PC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問を送信する(S201)。なお、問診票1を用いる場合には、予め、条件(1)~(6)についての設問を印字しておいてもよい。利用者がPC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問に対する回答を入力すると、通信部115は、端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを端末から受信する(S203)。なお、利用者が問診票1に回答した場合は、回答をさせた者(医療従事者等)が問診票1に記入された回答を端末に入力してもよい。
システム100は、条件(1)~(6)に該当する例外データを除外するデータ除外部112aを備える。データ除外部112aは、問診票1や端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータから、例外データを除外するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。データ除外部112aは、例えば、記憶部113に格納され、制御部111で実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。データ除外部112aは、得られた回答や測定データが条件(1)~(6)の何れかの例外データに該当するか否かを判断する(S205)。例外データに該当しない場合には、データ除外部112aは、SPB-SM算出部112bに質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを受け渡し、SPB-SM算出部112bはSPB-SMを算出する(S213)。
何れかの例外データに該当するとの回答が端末から得られた場合には、条件(1)~(6)にしたがって、データ除外部112aは、例外データの除外が必要であるか否かを判断する(S207)。例外データの除外が必要であると判断した場合は、データ除外部112aは、当該回答や測定データを例外データとして、得られた回答や測定データから除外する(S209)。
条件(1)
ヒトの体内時計(特に視交叉上核の中枢時計)は光によってその位相をコントロールされているため、明暗環境が外界から極端に乖離してしまっている場合には、体内時計の時刻と外界との時刻が異なる外的脱同調(いわゆる時差ボケ)を引き起こす。このため、過度の朝の遮光(雨戸や遮光カーテンを使用していて日の出後も全く部屋が明るくならず、且つ、その暗い部屋で日中に長時間過ごすなど)や夜間の過度の光暴露(深夜になっても高照度の光を受けて生活したり勤務したりしているなど)を条件(1)として、システム100は、条件(1)に該当するか否かを回答として受信し、該当する場合には、データ除外部112aは、SPB-SMの算出に用いるデータから除外する(S209)。
ただし、シフト勤務に従事している、あるいは極端に早いもしくは遅い時間での勤務に従事しているなどして、条件(1)に該当する条件でのデータしか得られない、若しくは条件(1)に該当する条件下で取得されるデータが大多数である場合には、データ除外部112aは、この条件下で得られたデータもSPB-SMの算出に用いるデータとして扱う。このとき、データ除外部112aは、「生活環境・光環境による影響を受けた、本来の体のリズムとは異なる可能性のある時刻である」との内容のフラグを立ててもよい(S211)。
条件(2)
入眠あるいは過眠をきたす睡眠障害や気分障害(うつ病や双極性障害)、精神病症状(統合失調症など)などの精神疾患があり、特にその症状が重い場合には、睡眠覚醒が体内時計によって維持されにくくなり、入眠困難や中途覚醒・早朝覚醒により生理的な睡眠時間帯を把握することが困難になる。このため、現在も寛解していない入眠あるいは過眠をきたす睡眠障害や精神疾患を有することを条件(2)として、システム100は、条件(2)に該当するか否かを回答として受信し、該当する場合には、データ除外部112aは、SPB-SMの算出に用いるデータから除外する(S209)。
ただし、条件(2)に該当しない期間のデータがない場合には、条件(2)の条件下で得られたデータもSPB-SMの算出に用いるデータとして扱う。このとき、データ除外部112aは、「睡眠障害・精神疾患による影響を受けた、本来の体のリズムとは異なる可能性のある時刻である」との内容のフラグを立ててもよい(S211)。
条件(3)
睡眠覚醒リズムが24時間の概日リズムを保てない非24時間型睡眠覚醒リズム障害(non-24)は、睡眠覚醒リズムが約25時間で推移するため、本発明に係るSPB-SMの算出方法を適用できない。このため、非24時間型睡眠覚醒リズム障害を有することを条件(3)として、システム100は、条件(3)に該当するか否かを回答として受信し、データ除外部112aは、SPB-SMの算出に用いるデータから除外する(S209)。
条件(4)
タイムゾーンの異なる地域からの渡航直後は、時差ボケにより体内時計が現地時刻に同期しない。このため、直近に標準時の異なる地域間の移動があることを条件(4)として、システム100は、条件(4)に該当するか否かを回答として受信し、データ除外部112aは、SPB-SMの算出に用いるデータから除外する(S209)。
条件(5)
当該測定日に、入眠時刻を遅延させる作用のある向精神薬(覚醒系薬剤、抗うつ薬)、あるいは過度のカフェインなどの覚醒物質の摂取がある場合には、生理的な入眠時刻を取得できない。このため、向精神薬、あるいは過度の覚醒物質の摂取を条件(5)として、システム100は、条件(5)に該当するか否かを回答として受信し、データ除外部112aは、SPB-SMの算出に用いるデータから除外する(S209)。
ただし、条件(5)に該当しない期間のデータがない場合には、条件(5)の条件下で得られたデータもSPB-SMの算出に用いるデータとして扱う。このとき、データ除外部112aは、「覚醒作用のある物質による影響を受けた、本来の体のリズムとは異なる可能性のある時刻である」との内容のフラグを立ててもよい(S211)。
条件(6)
当該測定日に、入眠時刻を早める作用のある向精神薬(睡眠鎮静薬[Hypnotics and Sedatives]、抗うつ薬、抗不安薬、抗精神病薬)や過度のアルコールの摂取がある場合には、生理的な入眠時刻を取得できない。このため、向精神薬や過度のアルコールの摂取があることを条件(6)として、システム100は、条件(6)に該当するか否かを回答として受信し、データ除外部112aは、SPB-SMの算出に用いるデータから除外する(S209)。
ただし、条件(6)に該当しない期間のデータがない場合には、条件(6)の条件下で得られたデータもSPB-SMの算出に用いるデータとして扱う。このとき、データ除外部112aは、「入眠作用のある物質による影響を受けた、本来の体のリズムとは異なる可能性のある時刻である」との内容のフラグを立ててもよい(S211)。
例外データを除外したデータは、データ除外部112aからSPB-SM算出部112bに受け渡されてもよく、記憶部113に一時的に格納されてもよい。
[SPB-SMの算出方法]
SPB-SM算出部112bは、データ除外部112aから取得したデータに基づいてSPB-SMを算出するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。SPB-SM算出部112bは、例えば、記憶部113に格納され、制御部111で実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。SPB-SM算出部112bは、データ除外部112aから取得したデータに基づいてSPB-SMを算出する(S213)。記憶部113は、算出されたSPB-SMをデータベース114に格納する(S215)。
[SPB-SMの算出方法1]
SPB-SM算出部112bは、問診票1に対する回答、または測定デバイスから得られたデータから、2週間以上連続して、就床あるいは起床に影響する事象や社会的予定がない期間があり、且つ、その間の睡眠が十分に取れていれば、2週間経過時点の睡眠時間帯の中間時刻あるいは2週間経過時点以降の睡眠時間帯の中間時刻の分布もしくはその平均時刻をSPB-SMとして算出する(S213)。
[SPB-SMの算出方法2]
睡眠負債の解消としての「眠りすぎ(over-slept)」の現象は2週間継続するものの、最初の3日間が特に強く、4日目以降は影響が大幅に緩和される(Kitamura, Shingo, et al. “Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt.” Scientific reports 6 (2016): 35812.)。このため、SPB-SM算出部112bは、問診票1に対する回答、または測定デバイスから得られたデータから、2週間以上連続して、就床あるいは起床に影響する事象や社会的予定がない期間があり、且つ、その間の睡眠が十分に取れている期間が2週間未満であるものの、直近に就床あるいは起床に影響する社会的予定がない4日以上連続した休日があれば、4日目における睡眠時間帯の中間時刻あるいは4日目以降の睡眠時間帯の中間時刻の分布若しくはその平均時刻をSPB-SMとして算出する(S213)。
[SPB-SMの算出方法3]
直近に就床あるいは起床に影響する社会的予定がない4日以上の連続した休暇がない場合には、SPB-SM算出部112bは、若年時や在学中なども含め、遡れる範囲で問診票1に対する回答若しくは測定デバイスから得られたデータから、SPB-SMの算出方法1-1に基づき、回答が得られた年齢におけるSPB-SMを算出する。
または、SPB-SM算出部112bは、若年時や在学中なども含め、遡れる範囲で問診票1に対する回答、または測定デバイスから得られたデータから、SPB-SMの算出方法1-2に基づき、回答が得られた年齢におけるSPB-SMを算出する。
思春期後期にヒトの体内時計の位相や睡眠時間帯の中間時刻は最も後退(夜型化)し、それ以降は年齢と共に前進(朝型化)する傾向にある。ここで、任意の年齢時点および性別によって規定される平均のSPB-SMの分布からの乖離幅である個人差は、加齢による変化後も維持されることが本発明者の調査で明らかになった。すなわち、ある年齢時点におけるその年齢の平均SPB-MSに対する偏差値スコア(Zスコア)は加齢によっても大きく変化しない。
よって、SPB-SM算出部112bは、最も直近における問診票1に対する回答、または測定デバイスから得られたデータに基づいてSPB-SMの算出方法1-1又はSPB-SMの算出方法1-2により算出されたその時点におけるSPB-SMを、年齢及び性を基に偏差値化し、これを現時点における年齢及び性別に基づく平均SPB-SMから算出した現時点のSPB-SMとしてもよい(S213)。
たとえば、日本の東京に在住する30歳女性において、当該女性が20歳時に大学の夏休みで存在した1週間連続して休暇を取れた日が最も直近の上記条件に合致する期間である場合、SPB-SM算出部112bは、その期間におけるSPB-SMを算出した上で、それを偏差値化し、現在のSPB-SMを算出する。もし、この女性の20歳時点でのSPB-SMの算出方法1-2から得られた時刻が6.3時(6:18)だった場合、これは平均から1標準偏差乖離した値(+1σ)に相当するため、偏差値では60となる。これを30歳時点にあてはめた場合のSPB-SMは5.9時(5:54)となる。
しかし、このSPB-SMの平均時刻は地域によって異なる。同じ国であっても東に位置する地域では早い日の出日の入りの影響を受けてSPB-SMの平均時刻は早まり、西に位置する地域では遅い日の出日の入りの影響を受けてSPB-SMの平均時刻は遅くなる。このため、地域別に偏差値を算出してもよいし、データの蓄積により情報処理装置はこの算出の基となる平均時刻を更新することができる。
なお、SPB-SMの算出方法1-3では、複数の年齢時点での睡眠覚醒時間帯が回答されることで、SPB-SMの候補時刻が複数得られる場合がある。その場合、その分布もしくはその平均時刻をSPB-SMとすることが好ましい。
[SPB-SMの算出方法4]
加速度センサを備えた携帯端末又は人体・被服・寝具に装着するデバイス(アクチグラムやスマートウォッチなどのウェアラブルデバイス19、携帯電話端末15、センサーマット2など)によって推測された各日の睡眠時間帯がある場合、又は、脈拍・心拍の測定値や、深部体温の測定値もしくは推定値がある場合には、SPB-SM算出部112bは、下記の算出方法によりSPB-SMを算出する(S213)。
利用者がウェアラブルデバイス19等を装着した日(装着日)について、それが予定のある日(平日等)であったか休日だったかを把握するデータがある場合には、SPB-SM算出部112bは、そのデータと照合し、SPB-SMの算出方法1-1又はSPB-SMの算出方法1-2によってSPB-SMを算出することができる。
利用者がそれぞれの装着日についてそれが予定のある日(平日等)であったか休日だったかを把握するデータがない場合には、SPB-SM算出部112bは、取得できる期間における睡眠時間帯の中間時刻の平均時刻をSPB-SMとしてもよい。
センサ2により脈拍・心拍を測定できている場合には、SPB-SM算出部112bは、取得できる期間における脈拍・心拍の最低値が生じる時刻をSPB-SMとして決定する。脈拍・心拍の最低値を生じる時間帯に幅がある場合には、SPB-SM算出部112bは、その中間時刻をSPB-SMとして決定する。
センサ2により深部体温又はその推定値を測定できている場合には、SPB-SM算出部112bは、取得できる期間における深部体温の最低値が生じる時刻をSPB-SMとして決定する。最低値を生じる時間帯に幅がある場合には、SPB-SM算出部112bは、その中間時刻をSPB-SMとして決定する。
[SPB-SMの算出方法5]
上述したSPB-SMの算出方法1-1、SPB-SMの算出方法1-2、SPB-SMの算出方法1-3及びSPB-SMの算出方法1-4によって、複数のSPB-SMが取得されることがある。この時は、SPB-SM算出部112bは、以下の(1)~(5)の何れかの方法によりSPB-SMを決定してもよい(S213)。
(1)SPB-SM算出部112bは、SPB-SMをその最低値から最大値までの幅の分布として決定する。
(2)SPB-SM算出部112bは、SPB-SMの平均時刻をSPB-SMとして決定する。
(3)SPB-SM算出部112bは、除外データである時刻を除外した平均(トリム平均:trim mean)をSPB-SMとして決定する。
(4)SPB-SM算出部112bは、それぞれのSPB-SM、(2)の方法、(3)の方法及びSFscの時刻から、後述する個人別の概日リズムに基づく最適な起床・就寝時刻の算出方法による利用者の個人の体内時計に基づく生理的な起床時刻を算出し、利用者に、どの時刻に自然覚醒することがあるかを回答させる。利用者が単一の時刻が適合するとの回答を入力した場合、SPB-SM算出部112bは、回答された単一の時刻をSPB-SMとして決定する。一方、利用者が複数の時刻が適合するとの回答を入力した場合、SPB-SM算出部112bは、回答された複数の時刻の平均値をSPB-SMとして決定する。
(5)SPB-SM算出部112bは、それぞれのSPB-SM、(2)の方法、(3)の方法及びMSFscの時刻から後述する個人別の概日リズムに基づく眠気タイミングの算出方法による「昼間の眠気が生じる時刻」を算出し、利用者にどれが最も現在の実情と適合するかを回答させる。利用者が単一の時刻が適合するとの回答を入力した場合、SPB-SM算出部112bは、回答された単一の時刻をSPB-SMとして決定する。一方、利用者が複数の時刻が適合するとの回答を入力した場合、SPB-SM算出部112bは、回答された複数の時刻の平均値をSPB-SMとして決定する。
[SPB-SMの算出方法6]
上述したSPB-SMの算出方法1-1から上述したSPB-SMの算出方法1-5の何れのデータや結果も得られない場合には、SPB-SM算出部112bは、下記の何れかあるいは複数の方法により、SPB-SMを決定する(S213)。このとき、この値は不正確なものであることを示すために、SPB-SM算出部112bは、暫定的な値である旨のフラグを立てておいてもよい(S215)。
(1)MSFscをSPB-SMとする。
(2)測定・回答期間中における睡眠時間帯の中間時刻の平均時刻をSPB-SMとする。
(3)休日における睡眠時間帯の中間時刻をSPB-SMとする。
(4)「あなたはどちらかといえば、(a)朝型、(b)どちらでもない、(c)夜型」という選択肢をシステム100は端末に表示させ、(a)が選択された時はSPB-SMを2:30、(b)が選択された時はSPB-SMを4:00、(c)が選択された時はSPB-SMを5:30としてもよい。なお、それぞれの規定時刻はシステム管理者が変更することができるが、概ね(a)は0:00~4:00の範囲内、(b)は3:00~5:00の範囲内、(c)は4:00~8:00の範囲内とすることが好ましい。
(5)「あなたはどちらかといえば、(a)とても朝型、(b)朝型、(c)どちらでもない、(d)夜型、(e)とても夜型」という選択肢をシステム100は端末に表示させ、(a)が選択された時はSPB-SMを2:00、(b)が選択された時はSPB-SMを3:00、(c)が選択された時はSPB-SMを4:00、(d)が選択された時はSPB-SMを5:00、(e)が選択された時はSPB-SMを6:00としてもよい。なお、それぞれの規定時刻はシステム管理者が変更することができるが、概ね(a)と(b)は22:00~4:00の範囲内、(c)は3:00~5:00の範囲内、(d)と(e)は4:00~10:00の範囲内とすることが好ましい。
[SPB-SMの算出方法7]
回答する者(利用者)あるいは回答させる者(医療従事者等)は、どのデータを体内時計の指標として算出するために優先的に採用するかを指定してもよい。システム100は「(a)特に指定なし」、「(b)本来の体のリズム」、「(c)直近の生活での体のリズム」の何れを優先させるのかを本人に提示してもよい。何も選択させなかった場合あるいは選択されなかった場合には、SPB-SM算出部112bは、データ(a)を選択する。SPB-SM算出部112bは、データ(a)~データ(c)を下記の算出方法により算出する(S213)。
(a)SPB-SMの算出方法1-1~SPB-SMの算出方法1-6によりSPB-SMを算出する。
(b)概日リズムは光によって規定される。このため、朝は朝日を浴びることができており、日没後以降は人工光を浴びていないか、ごく照度の低い環境で過ごしていた時期について、SPB-SMの算出方法1-1~SPB-SMの算出方法1-6に用いる回答を入力するよう、SPB-SM算出部112bが指示する。
(c)SPB-SM算出部112bは、どの程度の直近の期間のリズムを測定したいのかを利用者に入力させ、その期間におけるSPB-SMの算出方法1-1~SPB-SMの算出方法1-6に用いる回答を入力するよう、SPB-SM算出部112bは端末に要求する。
SPB-SM算出部112bは、上記の何れかの手段あるいはその組み合わせによってSPB-SMを算出し、SPB-SM算出部112bは、算出したSPB-SMを制御部111のメモリ上若しくは記憶部113のデータベース114へ格納する(S215)。なお、本実施形態においては、データ除外部112aとSPB-SM算出部112bと別のプログラム又はモジュールとして記載したが、本発明これに限定されず、SPB-SM算出部112bがデータ除外部112aを含んでもよく、SPB-SM算出部112bが例外データの除外処理を行ってもよい。
[入力エラーの低減方法]
本発明の実施形態に係るシステム100に類似した従来の就寝及び起床に関する時刻を測定するシステム又はプログラムでは、システム又はプログラムへ就寝時刻や起床時刻を入力する際に、何らかのデバイスから自動的に入力されるのではなく、ヒトがインターフェイスを介してシステム又はプログラムへ起床時刻や就寝時刻、あるいはアラーム時刻を入力するため、エラーが頻発していた。
たとえば、任意の利用者が夜間の22:00(午後10時)に就寝している場合でも、インターフェイスには10:00(午前10時)に就寝したと入力してしまうことがある。また、存在しない時刻(30:00など)を入力しようとする場合もある。
本発明者が調査した結果、単に数値を入力させる入力方式では、一般成人(n=10,016)を対象とした場合には約5%が、また、高校生(n=360)を対象とした場合には約6%が上記のような誤回答を発生させることが明らかとなった。
誤回答が発生すると、正しい睡眠時間帯を把握することができない。また、アラーム機能を用いる場合には、利用者が本来望んでいる時刻にシステム又はプログラムを作動させられない。このため、一実施形態において、システム100は、入力エラーを低減する手段を備えることが好ましい。
本発明者は、一般人口においてその時刻に入眠している者(仮眠や昼寝を除く)の割合を調査した。その結果、平日及び休日において、全人口では約16時が最も本睡眠による入眠をしている者が少ない時刻であった。ただし、この時刻は年代によって異なり、9歳以下では15時、10~14歳では16時、15~24歳では17時、25~34歳では16.5時、35~44歳では16時、45~54歳では15.5時、55~64歳では15時、65歳以上では14.5時となった。
このため、当該睡眠時刻を入力する利用者の年齢が予め判明している場合には、その利用者の回答した睡眠時間帯又は睡眠を予定している時間帯(アラーム機能使用時など)に、9歳以下であれば15時、10~14歳であれば16時、15~24歳であれば17時、25~34歳であれは16.5時、35~44歳であれば16時、45~54歳であれば15.5時、55~64歳であれば15時が、65歳以上であれば14.5時が含まれている場合には誤回答である可能性が極めて高い。なお、システム100において、端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを端末から受信し、データ除外部112aが適正なデータとして判断した場合に、SPB-SM算出部112bは、適正なデータとして判断したデータを用いた集計あるいは回帰分析を行い、誤回答である可能性が高い時刻を算出してもよい。または、端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを端末から受信し、データ除外部112aが適正なデータとして判断した場合に、記憶部113は適正なデータとして判断したデータを格納し、データ除外部112aは格納されたデータを用いた集計あるいは回帰分析を定期的に行い、誤回答である可能性が高い時刻を算出してもよい。なお、集計あるいは回帰分析は、データ除外部112aが行うように構成されてもよく、制御部111が集計あるいは回帰分析を行うためのアプリケーションプログラム又はモジュール等(集計あるいは回帰分析部)を備えていてもよい。
本実施形態に係るシステム100においては、データ除外部112aが、このような時刻が入力された場合に、SPB-SM算出部112bは、「本当に当該時刻に眠りにつくのか」、「本当に当該時刻に起床するのか」を確認するアラート(警告)を出す。
図5は、本発明の一実施形態に係る入力エラーの低減方法に基づく情報処理装置110の処理を説明するフロー図である。上述した実施形態においても説明したように、制御部111は、記憶部113に格納された質問を読み込み、通信部115からネットワーク50を介して、PC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問を送信する(S301)。利用者がPC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問に対する回答を入力すると、通信部115は、端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを端末から受信する(S303)。なお、利用者が問診票1に回答した場合は、回答をさせた者(医療従事者等)が問診票1に記入された回答を端末に入力してもよい。
データ除外部112aは、受信した質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータに上述した誤回答である可能性が高い時間が含まれるか否かを判断する(S305)。受信した質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータに誤回答である可能性が高い時間が含まれている場合には、SPB-SM算出部112bは、「本当に当該時刻に眠りにつくのか」、「本当に当該時刻に起床するのか」を確認するアラートを出す(S307)。
また、予め当該睡眠時刻を入力する利用者の年齢が判明していない場合には、回答した睡眠時間帯又は睡眠を予定している時間帯に15~17時の何れかの時刻が含まれている場合には、データ除外部112aは、SPB-SM算出部112bは、「本当に当該時刻に眠りにつくのか」、「本当に当該時刻に起床するのか」を確認するアラートを出してもよい。
[入力エラーを予防するインターフェイス]
上述したように、就寝時刻や起床時刻を数字として入力する場合には、誤入力が生じる可能性がある。一実施形態において、上述した入力エラーを予防するため、システム100は、PC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に、エラーを予防するインターフェイスを表示させ、利用者に就寝時刻や起床時刻を入力させることが好ましい。図6及び図7は、本発明の一実施形態に係る入力エラーを予防するインターフェイスを示す模式図である。システム100において、PC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末には、情報処理装置110と連携するアプリケーションプログラムがインストールされる。図6(a)は、アプリケーションプログラムが提供する円形のインジケーター310を有するインターフェイス301を示す模式図である。インターフェイス301は、円形のインジケーター310上で就寝時刻として設定される選択ボタンやアイコン311a、起床時刻として設定される選択ボタンやアイコン311bを動かすスライダー311を有する。また、インターフェイス301は、インジケーター310に隣接して、昼を意味する太陽などのアイコン・イラスト313a、夜を意味する月や星などのアイコン・イラスト313bを有する。
図6(b)は、直線状のインジケーター上でスライダーを動かすインターフェイス303を示す模式図である。直線状のインジケーターを有するインターフェイス303は、直線状のインジケーター310上で就寝時刻として設定される選択ボタンやアイコン331a、起床時刻として設定される選択ボタンやアイコン331bを動かすスライダー331を有する。また、インターフェイス303は、インジケーター330に隣接して、昼を意味する太陽などのアイコン・イラスト333a、夜を意味する月や星などのアイコン・イラスト333bを有する。
図7は、直線状のインジケーター上でスライダーを動かすインターフェイス305を示す模式図である。直線状のインジケーターを有するインターフェイス305は、直線状のインジケーター350上で就寝時刻として設定される選択ボタンやアイコン351a、起床時刻として設定される選択ボタンやアイコン351bを動かすスライダー351を有する。また、インターフェイス305は、インジケーター350に隣接して、夜を意味する月などのアイコン・イラスト353を有する。インターフェイス305は、SPB-SMを示す星印等のアイコン・イラスト355を有する。また、インターフェイス305は、「入眠することが難しいと推測される時間(Sleep Forbidden Zone)」もゾーン357として提示してもよい。
利用者は、端末に表示されたインターフェイスに時刻を直接入力する場合には、円形のインジケーターを有するインターフェイス301又は直線状のインジケーターを有するインターフェイス303あるいは直線状のインジケーターを有するインターフェイス305上でスライダーを動かして就寝時刻や起床時刻を端末に入力することができる。
直線のインジケーター上でスライダーを移動させて選択させる方式にする時は、全人口において入眠している者が多い時間帯である午前3~4時又はその前後を中心に配置してもよい。また、通常、就寝時刻であることが稀である15:00以前および起床時刻であることが稀である翌日の15:00以降の表示を薄くすることで、利用者による誤入力を減じることができる。
一実施形態において、円形のインジケーター、直線のインジケーター、あるいはテキスト形式での入力などを問わず、睡眠覚醒時間を入力させる際には、その初期値として、就寝時刻を最頻値である約0時、起床時刻を最頻値である7:00に設定しておくことで、利用者による誤入力をさらに減じることができる。
[個人別の概日リズムに基づく最適な起床・就寝時刻の算出方法]
本発明者の研究の結果、各個人の概日リズムから推測される「最適な起床時刻・就寝時刻」から実際の起床時刻・就寝時刻が乖離する割合が大きくなるに連れて、心身の健康度(QOL尺度におけるPhysical component summaryとMental component summary)やパフォーマンス(労働生産性スコア、プレゼンティズムスコア)が低下していくことが明らかになった。図8は、上述したSPB-SMから算出される「最適な起床時刻」から各個人の実際の起床時刻が乖離する割合が大きくなるに連れて、生産性が低下していくことを示す図である。図8に示した時間は、SPB-SM+3.5時間からの起床時刻の乖離幅を示し、縦軸は生産性ロスの割合を示す。なお、図8に示したデータはn=2905である。
人間には、1日の中で「眠りにつきやすい時刻」と「眠りつきにくい時刻」が存在する。「眠りつきにくい時刻」は「Sleep Forbidden Zone」と呼ばれ、夜間であるにも関わらず、就寝前のある特定の時間帯では、人間は入眠が困難となることが知られている(LAVIE, Peretz. Ultrashort sleep-waking schedule. III.‘Gates’ and ‘forbidden zones’ for sleep. Electroencephalography and clinical neurophysiology, 1986, 63.5: 414-425. 文献: STROGATZ, STEVEN H.; KRONAUER, Richard E.; CZEISLER, Charles A. Circadian pacemaker interferes with sleep onset at specific times each day: role in insomnia. American Journal of Physiology-Regulatory, Integrative and Comparative Physiology, 1987, 253.1: R172-R178.)。Sleep Forbidden Zoneには甲状腺ホルモンの分泌等が関わっているとされている。
しかし、Sleep Forbidden Zoneに該当する時刻については、「習慣的就寝時刻の1~3時間前」という曖昧な結論が出ているのみであり、複数の研究でその時刻はばらついており、それが具体的に何時に該当するのかは知られていなかった。さらには、社会生活を営む者の場合、習慣的就寝時刻自体が変動しばらつくため、その時刻を把握することは困難である。
本発明者が調査した結果、Forbidden Zoneは平日の習慣的就寝時刻とは関連が弱いこと、一方で、SPB-SMを用いることで、Forbidden ZoneはSPB-SMの18時間後(6時間前)前後に存在することが明らかとなった。本発明の一実施形態に係る個人別の概日リズムに基づく最適な起床・就寝時刻の算出方法は、SPB-SMの18時間後(6時間前)前後に存在するForbidden Zoneを基準として用いることにより、本来眠ることが困難であることが想定される時刻に入眠しようとして時間をロスすることや、あるいは、入眠困難によって生じる不眠症(精神生理性不眠)を誘発することを防ぐことができる。
また、ヒトは光によって体内時計の中枢をコントロールしているため、光の制御によってSPB-SMを自ら操作することが可能である。なお、このとき、420 nm~480 nmのブルーライトが特に光による体内時計の調整に関わっている。例えば、以下の文献を参照。
Newman, Lucy A., et al. "Melanopsin forms a functional short-wavelength photopigment." Biochemistry 42.44 (2003): 12734-12738.
Brainard, George C., et al. "Sensitivity of the human circadian system to short-wavelength (420-nm) light." Journal of biological rhythms 23.5 (2008): 379-386.
Berson DM, Dunn FA. et al. Phototransduction by retinal ganglion cells that set the circadian clock. Science. 2002;295(5557):1070-3.
Dacey DM, Liao HW. et al. Melanopsin-expressing ganglion cells in primate retina signal colour and irradiance and project to the LGN. Nature.2005;433(7027):749-54.
Tu DC, Zhang D. et al. Physiologic diversity and development of intrinsically photosensitive retinal ganglion cells. Neuron. 2005;48(6):987-99.
Emanuel, Alan Joseph, and Michael Tri Hoang Do. "Melanopsin tristability for sustained and broadband phototransduction." Neuron 85.5 (2015): 1043-1055. http://www.cell.com/neuron/pdfExtended/S0896-6273(15)00100-2.
Pilorz, Violetta, et al. "Melanopsin Regulates Both Sleep-Promoting and Arousal-Promoting Responses to Light." PLoS Biol 14.6 (2016): e1002482. http://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.1002482.
図9は、1時間の光照射が睡眠覚醒スケジュールに与える影響を示す図である。図9においては、夜間の過度の光暴露がなく、朝の過度の光遮断がない状態で生活している者において、2日間連続して1時間の光照射を各時刻において行ったときの、その光がSPB-SMに与える影響を検討した。この調査は、日の出が6:00、日没が18:00前後となる9月に実施し、日常生活において、夜間の過度な光暴露、朝や昼の光の遮断を行っているもののデータは除外した。なお、7:00~17:00は外界が明るいため、光照射は行うデータはとっていない。なお、図9において、p < 0.05(一元配置分散分析(one-way ANOVA))であった。
実際のSPB-SMよりも早い時間から光暴露をすることでヒトの体内時計は前進する。また、日没以降からSPB-SMにかけて光照射を受けるとヒトの体内時計は後退する。このため、何時に光を浴びることで体内時計が操作できるかが本発明で明らかとなっており、これを用いて照明を使う時間を提示するか、システムが照明を操作することで、体内時計を操作することができる。
ヒトは光照射が開始されることで「朝の開始」を認識し、光照射の維持で「昼の継続」を認識し、メラトニン分泌が生じる程度の暗さ(概ね50lx以下、ブルーライトであれば概ね10lx以下)の継続で「夜の開始」を認識する。
ここで、メラトニン濃度のピーク値を基準とした、短時間の光照射が体内時計の調整に与える影響(KHALSA, Sat Bir S., et al. A phase response curve to single bright light pulses in human subjects. The Journal of physiology, 2003, 549.3: 945-952.)が知られている。一方、本実施形態においては、絶対時刻を基準として、SPB-SM別に光暴露を実施した結果、図10に示す結果が得られた。図10は、絶対時刻(太陽の南中時刻)を基準とした一時間の光照射が睡眠覚醒スケジュールに与える影響を示す図である。
すなわち、実際の夜明けよりも早い時間から光暴露をすることで体内時計は前進する一方で、SPB-SMよりも早い時間に光暴露をすると体内時計は後退する。朝型の者(SPB-SM=2:00~3:00)が光暴露によって体内時計を前進させられる時間帯は3:00頃から開始するが、夜型の者(SPB-SM=4:00~5:00)が体内時計を前進させられる時間は5:00頃から開始する。このように、個人の体内時計のタイプに応じて、体内時計を前進させやすいのか、後退させやすいのかは異なり、同じ時刻に光を浴びたとしても、それが体内時計に与える影響は異なる。このため、たとえば交替勤務に従事したり時差の生じる地域に移動したりする場合に、その活動時間に合わせて体内時計の位相を変位させる場合には、体内時計を前進させるのか後退させるのかを選択できるようにすることも重要であり、個人の体内時計に応じて「いつから」、「どの時間」光を浴びるかを調整することで、活動時間への早期の適応を促すことができる。
また、体内時計の中枢時計(視交叉上核)に直接の影響は与えないものの、末梢時計に作用し、覚醒度や入眠のしやすさに影響を与える要因として、食事、運動、入浴、嗜好品摂取が存在する。さらに、薬物による体内時計の同調因子として、メラトニンもしくはメラトニン受容体作動薬の摂取がある。一実施形態において、システム100は覚醒度や入眠のしやすさに影響を与える要因を実施する最適な時刻を提示することができる。
なお、発明者が検討した結果、12時間以上の絶食時間を設けると、翌日以降、その時間帯における入眠確率が上昇すること、また、眠気が増大することが明らかとなった。体がその体内時刻の時間帯を休眠期と認識するためと考えられる。
ここで、図1を参照すると、システム100は、本発明の一実施形態に係る最適な起床・就寝時刻の算出方法を実行するために、制御部111に推奨時刻算出部112cをさらに備える。推奨時刻算出部112cは、問診票1や端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータから、利用者の最適な起床・就寝時刻を算出するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨時刻算出部112cは、例えば、記憶部113に格納され、制御部111で実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。
個人別の概日リズムに基づく最適な起床・就寝時刻は、上述した実施形態のSPB-SMの算出方法により算出され、データベース114に格納された利用者本人のSPB-SMと必要睡眠時間に基づいて算出する。また、SPB-SMに代えて、その他の方法により取得された本来の生理的な睡眠時間帯の中間時間と必要睡眠時間に基づいて算出してもよい。利用者の必要睡眠時間は以下の方法を用いて算出することができる。
図11は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110での必要睡眠時間の算出処理を説明するフロー図である。制御部111は、記憶部113に格納された下記の必要睡眠時間の算出方法1~4に対応する条件(1)~(4)に関する質問を読み込み、通信部115からネットワーク50を介して、PC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問を送信する(S401)。なお、問診票1を用いる場合には、予め、条件(1)~(4)についての設問を印字しておいてもよい。
利用者がPC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問に対する回答を入力すると、通信部115は、端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを端末から受信する(S403)。なお、利用者が問診票1に回答した場合は、回答をさせた者(医療従事者等)が問診票1に記入された回答を端末に入力してもよい。
推奨時刻算出部112cは、受信したデータが条件(1)~(4)に該当するか否かを順次判断する。即ち、推奨時刻算出部112cは、受信したデータが条件(1)に該当するか否かを判断し(S405)、条件(1)に該当しない場合は、受信したデータが条件(2)に該当するか否かを判断する(S407)。また、推奨時刻算出部112cは、受信したデータが条件(2)に該当しない場合は、受信したデータが条件(3)に該当するか否かを判断する(S409)。推奨時刻算出部112cは、受信したデータが条件(3)該当しない場合は、受信したデータが条件(4)に該当すると判断する。
推奨時刻算出部112cは、受信したデータが条件(1)~(4)の何れに該当するかを順次判断し、条件(1)~(3)の何れかに該当する場合には、対応する必要睡眠時間の決定方法1~3に基づいて、必要睡眠時間を決定する(S411)。記憶部113は、算出されたSPB-SMをデータベース114に格納する(S417)。または、次の推奨起床時刻、推奨就寝時刻の算出のために、主記憶装置(メモリ)に一時的に格納されてもよい。
[必要睡眠時間の決定方法1]
推奨時刻算出部112cは、利用者の隔離実験や入院等により、自然状態での明暗環境下にて2週間以上の、強制的な就床あるいは覚醒を伴わない、自然入眠・自然起床を継続した場合における、2週間経過時点以降の睡眠時間があるか否か(条件(1))を判断する(S405)。2週間経過時点以降の睡眠時間があると判断した場合は、推奨時刻算出部112cは、2週間経過時点以降の睡眠時間を必要睡眠時間とする(S411)。
[必要睡眠時間の決定方法2]
推奨時刻算出部112cは、受信した回答に条件(1)に該当する睡眠時間がない場合は、2週間以上連続して、就床あるいは起床に影響する社会的予定がない期間における、2週間経過時点以降の睡眠時間があるか否か(条件(2))を判断する(S407)。2週間経過時点以降の睡眠時間があると判断した場合は、推奨時刻算出部112cは、2週間経過時点以降の睡眠時間を必要睡眠時間とする(S411)。
[必要睡眠時間の決定方法3]
推奨時刻算出部112cは、受信した回答に条件(2)に該当する睡眠時間がない場合は、4日間以上連続して、自由に就寝・起床ができたときの、4日目以降の睡眠時間があるか否か(条件(3))を判断する(S409)。4日目以降の睡眠時間があると判断した場合は、推奨時刻算出部112cは、4日目以降の睡眠時間を必要睡眠時間とする(S411)。これは、睡眠負債の解消としての「眠りすぎ(over-slept)」の現象は2週間継続するものの、最初の3日間が特に強く、4日目以降は影響が大幅に緩和されるためである(Kitamura, Shingo, et al. "Estimating individual optimal sleep duration and potential sleep debt." Scientific reports 6 (2016): 35812.)。
[必要睡眠時間の決定方法4]
推奨時刻算出部112cは、受信した回答に条件(3)のデータが得られない時は、下記(i)~(iii)の何れかの方法で得られた時間を必要睡眠時間としてもよい(S413)。
方法(i)
推奨時刻算出部112cは、記憶部113に格納された質問「どのくらいの時間眠れば、昼間眠くなることなく活動できるか」、「どのくらいの時間眠れば、日中心身の体調がよく活動できるか」、「特に学校や仕事などの予定がない日が続くとしたら、どのくらいの時間眠るか」等を読み込み、通信部115からネットワーク50を介して、PC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問を送信する。なお、問診票1を用いる場合には、予め、条件(1)~(4)についての設問を印字しておいてもよい。
利用者がPC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に質問に対する回答を入力すると、通信部115は、端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを端末から受信する。なお、利用者が問診票1に回答した場合は、回答をさせた者(医療従事者等)が問診票1に記入された回答を端末に入力してもよい。推奨時刻算出部112cは、受信した回答から得られた上記の時間の最大値を必要睡眠時間とする(S413)。ただし、このとき、次の2つの例外処理を行う。
例外処理(i-1)
推奨時刻算出部112cは、利用者が勤労者世代で、6時間未満の時間が端末から入力された場合には、6時間を必要睡眠時間とする(S413)。なぜなら6時間未満の睡眠時間は死亡率を有意に高め(AMAGAI, Yoko, et al. Sleep duration and mortality in Japan: the Jichi medical school cohort study. Journal of epidemiology, 2004, 14.4: 124-128.)、また、自殺を初めとするpsychological problemsのリスクを大きく高める(GOODWIN, Renee D.; MARUSIC, Andrej. Association between short sleep and suicidal ideation and suicide attempt among adults in the general population. Sleep, 2008, 31.8: 1097-1101.)ことが知られているためである。
例外処理(i-2)
推奨時刻算出部112cは、小児及び思春期世代(adolescents)で、8時間未満の時間が入力された場合には、8時間を必要睡眠時間とする(S413)。なぜなら8時間未満の睡眠時間は自殺率を高めることが知られているためである(LIU, Xianchen. Sleep and adolescent suicidal behavior. Sleep, 2004, 27.7: 1351-1358.)。
このとき、推奨時刻算出部112cは、健康上必要な最低限の睡眠時間が8時間であり、当該時間を睡眠時間として設定した旨のフラグを立てる(S415)。
ただし、人口の数%程度、6時間未満睡眠でも特に眠気や不調を生じない「ショートスリーパー」が存在する。推奨時刻算出部112cは、幼少期も含めて常に睡眠時間が短かったかを利用者に質問する。利用者が幼少期も含めて生涯、常に睡眠時間が短かったとの回答を入力した場合には、推奨時刻算出部112cは、入力された時間を必要睡眠時間とする(S413)。利用者が生涯、常に睡眠時間が短かったわけではないと回答した場合には、推奨時刻算出部112cは、勤労者世代であれば健康上必要な最低限の睡眠時間が6時間であり、小児及び思春期世代であれば8時間であり、当該時間を睡眠時間として設定した旨のフラグを立てる(S415)。
方法(ii)
推奨時刻算出部112cは、利用者の年齢データが記憶部113に格納されている場合には利用者の年齢データを読み込む。また、推奨時刻算出部112cは、利用者の年齢データが存在しない場合には利用者に年齢の入力要求を端末に送信する。利用者がPC13、携帯電話15、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に年齢を入力すると、通信部115は、利用者の年齢を端末から受信する。なお、利用者が問診票1に回答した場合は、回答をさせた者(医療従事者等)が問診票1に記入された回答を端末に入力してもよい。推奨時刻算出部112cは、受信した利用者の年齢に基づき、既存の研究(ROFFWARG, Howard P.; MUZIO, Joseph N.; DEMENT, William C. Ontogenetic development of the human sleep-dream cycle. Science, 1966.)によって示された各年代における睡眠の平均時間を必要睡眠時間とする(S413)。
方法(iii)
推奨時刻算出部112cは、学術機関により示されている、勤労者の最低必要睡眠時間である7時間(HIRSHKOWITZ, Max, et al. National Sleep Foundation’s sleep time duration recommendations: methodology and results summary. Sleep Health, 2015, 1.1: 40-43.)を必要睡眠時間とする(S413)。
上記の何れかの処理により決定された利用者の必要睡眠時間は、記憶部113に格納されてもよい(S417)。
[個人別の必要睡眠時間に基づく推奨起床時刻及び推奨就寝時刻の算出方法]
その個人の心身の健康度・QOLやパフォーマンスが最大化される、あるいは、交通事故等のアクシデント・インシデントを最小化できる起床時刻は、SPB-SMにその個人の必要睡眠時間の半分を加算した時刻と、その時刻から30分程度前の間の時間帯である。図12は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110での最適な起床・就寝時刻の算出処理を説明するフロー図である。推奨時刻算出部112cは、記憶部113に格納された利用者のSPB-SM及び必要睡眠時間を読み込む(S501)。推奨時刻算出部112cは、利用者のSPB-SMに利用者の必要睡眠時間の半分を加算した時刻又は時間帯を「推奨起床時刻」として算出する(S503)。例えば、利用者のSPB-SMが4:30であり、また、必要睡眠時間が8時間であるならば、利用者の推奨起床時刻は8:00~8:30頃である。推奨時刻算出部112cは、記憶部113に推奨起床時刻を格納する(S509)。通信部115からネットワーク50を介して端末へ推奨起床時刻を送信し(S511)、端末は、受信した推奨起床時刻を表示してもよい。
推奨時刻算出部112cは、推奨起床時刻から利用者の必要睡眠時間を減算し、最適な就寝時刻を算出する(S503)。例えば、前掲の例であれば、利用者のSPB-SMが4:30であり、必要睡眠時間が8時間であり、推奨起床時刻が8:00~8:30頃であることから、推奨就寝時刻は0:00~0:30頃となる。推奨時刻算出部112cは、記憶部113に推奨就寝時刻を格納する(S509)。通信部115からネットワーク50を介して端末へ推奨就寝時刻を送信し(S511)、端末は、受信した推奨就寝時刻を表示してもよい。
上述したように、SPB-SMの18時間後(6時間前)の時刻は入眠が困難となるSleep Forbidden Zoneであり、この時間には就床することが推奨されない。そのため、推奨時刻算出部112cは、Sleep Forbidden Zoneを「寝付くのが難しい時刻」として算出する(S503)。例えば、前掲の例であれば、SPB-SMが4:30であり、Sleep Forbidden Zoneが22:30頃と算出される。推奨時刻算出部112cは、記憶部113にSleep Forbidden Zoneを格納する(S509)。通信部115からネットワーク50を介して端末へSleep Forbidden Zoneを送信し(S511)、端末は、受信したSleep Forbidden Zoneを寝付くのが難しい時刻として表示してもよい。また、このため、利用者が早く就寝したい場合でも、その推奨就寝時刻はこの時刻以降となる。
[個人別の概日リズムに基づく入眠関連行動の提示方法]
上記のように仮に体内時計に基づく最適な起床・就寝時刻が分かったとしても、社会生活においてはその起床・就寝時刻で過ごすことが困難な場合があり、いかに体内時計を調整するかが重要となるため、算出された推奨起床時刻及び推奨就寝時刻に基づいて体内時計を調整するための方法や、あるいは、疾患の可能性を伝えることも重要である。
一実施形態において、システム100は、就寝をスムーズにするための生活習慣を利用者に提示することができる。例えば、体温を上昇させる入浴や運動と睡眠との関係が知られており(小田史郎,睡眠前の体温変動が入眠に及ぼす影響(一般),生涯学習研究と実践:北海道浅井学園大学生涯学習研究所研究紀要, 2003, 4: 223-231.)、入浴については、就寝の2~6時間程度前に入浴を行うことで、就寝時に深部体温が効率よく低下し、入眠が促進することが知られている。図13は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110での最適な推奨行動時刻の算出処理を説明するフロー図である。推奨時刻算出部112cは、記憶部113に格納された利用者の推奨就寝時刻を読み込む(S601)。推奨時刻算出部112cは、推奨就寝時刻の2~6時間前を、睡眠を促進するための推奨入浴時刻として算出する(S603)。推奨時刻算出部112cは、記憶部113に推奨入浴時刻を格納する(S609)。通信部115からネットワーク50を介して端末へ推奨入浴時刻を送信し(S611)、端末は、受信した推奨入浴時刻を表示し、利用者へ入浴を推奨してもよい。
また、日中の高体温期間の終わり(SPB-SMの16時間後が該当)に運動を行うことで、就寝時に深部体温が効率よく低下し、入眠が促進され、深睡眠が増加することが知られている。推奨時刻算出部112cは、記憶部113に格納された利用者のSPB-SMを読み込む(S601)。推奨時刻算出部112cは、利用者のSPB-SMに基づいて、SPB-SM+16時前後を、睡眠を改善するための推奨運動時間として算出する(S603)。推奨時刻算出部112cは、記憶部113に推奨運動時刻を格納する(S609)。通信部115からネットワーク50を介して端末へ推奨運動時刻を送信し(S611)、端末は、受信した推奨運動時刻を表示し、利用者へ運動を推奨してもよい。
システム100において機能するアプリケーションプログラムがPC13、携帯電話15、タブレット型端末17等の端末にインストールされている場合、端末は利用者による端末の操作を感知することができる。一実施形態において、推奨就寝時刻が到来しているにも関わらず利用者が端末を操作していることを感知した場合、システム100は、推奨就寝時刻が到来していることを、端末を介して利用者に通知し、就寝を促してもよい。
また、就寝2時間以内の光暴露は入眠を顕著に阻害する。このため、システム100において機能するアプリケーションプログラムを照度計の機能がついた端末にインストールしてもよい。システム100は、推奨就寝時刻の2時間前以降に端末が50lx以上の光あるいは10lx以上の青色波長の光を感知した場合、環境照度を下げるよう端末を介して利用者に推奨することができる。
ヒトは光によって体内時計の中枢をコントロールしているため、光の制御によってSPB-SMを自ら操作することが可能である。そのため、システム100で提示された時刻を前後に動かしたいと思う時には、対応が可能であることを端末に表示してもよい。例えば、利用者がSPB-SMを早めたい場合には、システム100は、朝の光を積極的に浴びること、夜間の光を避けることなどを端末に表示して利用者に推奨してもよい。逆に、利用者がSPB-SMを遅くしたい場合には、朝の光を避けること、夜に光を積極的に浴びること、などを端末に表示して利用者に推奨してもよい。
これらの表示は、例えば、図14に示すようなインターフェイス307により行ってもよい。インターフェイス307は、円形のインジケーター370上で推奨就寝時刻を示すマーク371a、推奨起床時刻を示すマーク371b、推奨睡眠時間を示すバー371を有する。また、インターフェイス307は、インジケーター370に隣接して、昼を意味する太陽などのアイコン・イラスト373a、夜を意味する月や星などのアイコン・イラスト373bを有する。システム100は、このような端末のインターフェイス307を介して、各種推奨時刻を利用者の視覚的にわかりやすい表示として提供することができる。
なお、上述した各推奨時刻は、SPB-SM算出部112bによる集計あるいは回帰分析の結果に基づき、継続的又は定期的に修正されることが好ましい。また、各推奨時刻を算出するために減算又は加算する基準値も、SPB-SM算出部112b又は推奨時刻算出部112cが利用者から取得したデータを用いて、集計あるいは回帰分析により更新してもよい。
[照明制御システム]
一実施形態において、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続することにより照明制御システムを構成することができる。例えば、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100は、接続した照明の照度を下げるか、ブルーライト成分を低減させるか、又は消灯してもよい。
上述したように、ヒトは光によって体内時計の中枢をコントロールしているため、光の制御によって体内時計の位相及びSPB-SMを自ら操作することが可能である。そのため、利用者が個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100で提示された時刻を前後に動かしたい場合には、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100は、提示された時刻を前後に動かすことが可能であることを表示してもよい。
利用者が体内時計の位相及びSPB-SMを早めたい場合には、「朝の光を積極的に浴びること、夜間の光を避けること」を勧奨する文を表示することができる。個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100が照明機器と接続している場合には、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100は、SPB-SM以降から420 nm~480 nmのブルーライト成分を多く含む光照射を開始させることで、SPB-SMを前進させることができる。
利用者が体内時計の位相及びSPB-SMを遅くしたい場合には、「朝の光を避けること、夜に光を積極的に浴びること」を勧奨する文を表示することができる。個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続している場合には、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100は、SPB-SMまでの間に420 nm~480 nmのブルーライト成分を多く含む光照射を行うことで、SPB-SMを後退させることができる。
[個人別の概日リズムに基づく眠気タイミングの算出方法及び最適な仮眠時刻の提示方法]
ヒトは適切な睡眠時間を確保できていない時、睡眠負債の蓄積によるパフォーマンスの低下を起こす(VAN DONGEN, Hans, et al. The cumulative cost of additional wakefulness: dose-response effects on neurobehavioral functions and sleep physiology from chronic sleep restriction and total sleep deprivation. Sleep, 2003, 26.2: 117-126.)。このパフォーマンスの低下や眠気は20~30分程度の短時間の仮眠によって多少の改善を促すことが可能である(林光緒; 堀忠雄. 午後の眠気対策としての短時間仮眠. 生理心理学と精神生理学, 2007, 25.1: 45-59.)。
一方、仮眠に適した時刻を知る技術は現在存在しない。昼過ぎの時刻(12~15時)に眠気が高まるため12時過ぎに短時間の仮眠を取るとよいという専門家の意見がある他、就寝前8時間以内の仮眠、すなわち平均的には15時以降の昼寝が、十分な睡眠誘発物質の蓄積を阻害してしまうため望ましくないとする推奨が存在するにとどまる(内山真, et al. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン. 2002.)。
本発明者が調査した結果、全人口でみた場合に12~16時頃に眠気をきたす者が多いこと、しかしそれは個人の概日リズムによって差があり、SPB-SMを基準とした場合に、極めて鋭敏に眠気が現れる時刻を予測できることが明らかとなった。
図15は、日中に眠気を催す者の割合(「その時間に強い眠気を感じることがある」と回答する者の割合)と実際に昼寝をすることのある者の数の推移を示す図である。図15(a)は、絶対時刻(実時刻)に対する、日中に眠気を催す者の割合と実際に昼寝をすることのある者の数の推移を示す図である。図15(b)は、SPB-SMからの相対時刻に対する、日中に眠気を催す者の割合と実際に昼寝をすることのある者の数の推移を示す図である。なお、図15(a)の「眠気を催す者の割合」は、既知の眠気の客観的測定手法であるMultiple Sleep Latency Test(MSLT)の結果(BIELIC, Toni; ZEC, Damir. Influence of Ship Technology and Work Organization on Fatigue. Pomorski zbornik, 2004, 42.1: 263-276.)とよく一致している。
図15(b)の結果から、昼間の眠気・パフォーマンスの低下と仮眠は、外界の絶対時刻ではなく、その個人の概日リズムに従って現れていること、SPB-SM+11.25時前後をピークとした、SPB-SM+10.5~12時に眠気の強い時間帯があること、そしてSPB-SM+13時を過ぎると急激に眠気が消失することが分かる。すなわち、SPB-SM+10時頃から短時間の仮眠を行うことによって、日中の過度の眠気やパフォーマンスの低下を抑制することができる。一方、SPB-SM+13時以降に仮眠を取ろうとしても、その時刻はそもそも入眠が困難で、仮眠をすることが難しい。この仮眠が推奨されるタイミングと、眠気が起きるタイミングを予測し可視化するシステムは、職務上の生産性向上を図ることができ、また、眠気による事故等を予防できるという点で、重要性が高い。
個人別の概日リズムに基づく眠気タイミング及び最適な仮眠時刻は、上述した利用者のSPB-SMの算出方法により算出され、主記憶装置内もしくはデータベース114に保持された本人のSPB-SM、又は、その他の方法により取得された本来の生理的な睡眠時間帯の中間時間(以下、これも便宜的にSPB-SMと称する)に基づき、以下の処理によって算出し、端末の表示装置に表示することができる。
図16は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Aを説明するブロック構成図である。本実施形態においては、システム100は、個人別の概日リズムに基づく眠気タイミングの予測と最適な仮眠時刻の提示を行うために、情報処理装置110に代えて情報処理装置110Aを備える。情報処理装置110Aは、例えば、制御部111A、記憶部113A、通信部115A及び電源117Aを備え、出力部119Aをさらに備えてもよい。制御部111Aの基本的な構成は、制御部111と同様であるが、個人別の概日リズムに基づく最適な仮眠時刻の提示と眠気タイミングの予測を行う推奨時刻算出部112Acを備える点で制御部111とは異なる。記憶部113A、通信部115A、出力部119Aの構成は、それぞれ記憶部113、通信部115、出力部119と同様の構成であってもよく、詳細な説明は省略する。さらに、情報処理装置110Aは、その他に公知の情報処理装置が備える各種の電子機器を備えてもよい。
推奨時刻算出部112Acは、個人別の概日リズムに基づく眠気タイミングの予測と最適な仮眠時刻の提示を行うアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨時刻算出部112Acは、例えば、記憶部113Aに格納され、制御部111Aで実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。
図17は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Aでの最適な仮眠時刻の算出処理を説明するフロー図である。推奨時刻算出部112Acは、記憶部113Aのデータベース114Aに格納された利用者のSPB-SMを読み込む(S701)。推奨時刻算出部112Acは、利用者のSPB-SMに所定の時間範囲を有する第1の基準値を加算して眠気が生じる可能性がある第1の眠気の時間帯を算出し、SPB-SMに第1の基準値よりも狭い時間範囲の第2の基準値を加算して強い眠気が生じる可能性がある第2の眠気の時間帯を算出し、SPB-SMに第2の基準値よりも狭い時間範囲の眠気のピークとなる可能性が高い第3の基準値を加算して第3の眠気の時間帯を算出する。例えば、推奨時刻算出部112Acは、SPB-SM+9~12時を「眠気が生じる時間帯」として算出し、特にSPB-SM+10.5~12時を「強い眠気が生じる可能性が強い時間帯」、そしてSPB-SM+11.25時を「眠気のピーク」として算出する(S703)。推奨時刻算出部112Acは、記憶部113Aに眠気が生じる時間帯を格納する(S705)。
推奨時刻算出部112Acは、利用者の睡眠状況のデータを取得する(S707)。利用者の睡眠状況のデータは、端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータを端末から受信することにより取得される。推奨時刻算出部112Acは、取得した利用者の睡眠状況のデータに基づいて、利用者の睡眠状況が良好な状態であるか否かについて判断する(S709)。利用者の睡眠状況が良好である場合には、推奨時刻算出部112Acは、通信部115Aからネットワーク50を介して端末へ眠気が生じる時間を送信し(S711)、端末は、受信した眠気が生じる時間帯を表示してもよい。また、利用者が睡眠不足もしくは不眠、過眠である場合には、推奨時刻算出部112Acは、通信部115Aからネットワーク50を介して端末へ眠気が生じる時間を送信するとともに、眠気に注意するよう促すメッセージを送信し(S713)、端末は、受信した眠気が生じる時間帯と、眠気に注意するよう促すメッセージを表示してもよい。
なお、上述した「眠気が生じる可能性がある時間帯」、「強い眠気が生じる可能性がある時間帯」及び「眠気のピーク(眠気のピークとなる可能性が高い時間帯)」は、推奨時刻算出部112Acによる集計あるいは回帰分析の結果に基づき、継続的又は定期的に修正されることが好ましい。このため、「眠気が生じる可能性がある時間帯」、「強い眠気が生じる可能性がある時間帯」及び「眠気のピーク」を算出するために減算又は加算するそれぞれの基準値も、推奨時刻算出部112Acが利用者から取得したデータを用いて、集計あるいは回帰分析により更新してもよい。
一実施形態において、これらの表示は、例えば、図18に示すような端末のインターフェイス401により行ってもよい。図18(a)は、眠気のピークを利用者に提示するインターフェイス401の一例を示す模式図である。インターフェイス401は、例えば、表題411、時刻表示413、アイコン415、注意喚起表示417及びSPB-SM表示419を有してもよい。表題411は、インターフェイス401が眠気のピークを利用者に提示するものであることを明示してもよい。時刻表示413とアイコン415は、推奨時刻算出部112Acが算出した「眠気が生じる時間帯」、「強い眠気が生じる可能性が強い時間帯」及び「眠気のピーク」を時刻表示413に対して配置するアイコン415の数により視覚的に表示する。なお、時刻表示413とアイコン415は、時間軸に対する棒グラフ等の他の公知の表示手段により実現されてもよい。注意喚起表示417は、例えば、眠気のピークとなる時間帯を表示して、利用者へ注意喚起してもよい。また、SPB-SM表示419は、眠気のピークを算出するために用いた利用者のSPB-SMを表示する。なお、インターフェイス401は、眠気のピークを利用者に提示するために、他の公知の表示を含んでもよい。
また、「眠気が生じる時間帯」に業務を行う場合には、利用者による事故が発生する可能性が高まる。このため、一実施形態において、上述した眠気が生じる時間帯を通信部115Aからネットワーク50を介して端末へ送信する際に、「ミス/インシデント/アクシデントが起きやすい時間帯」として、端末に表示させてもよい。また、利用者が車両(電車、バス、タクシー、トラック等)の運転手である場合や、危険を伴う作業の従事者である場合には、眠気が生じる時間帯に「この時間帯には業務に従事しないか細心の注意を払うように」等の注意を喚起する助言を端末に提示してもよい。さらに、眠気のピークとなる時間帯には、推奨時刻算出部112Acは、「休憩をとって下さい」等の助言を端末に送信して、提示させてもよい。
また、「眠気が生じる時間帯」の眠気を抑制するためには、その時間の前半部分で仮眠をとることが望ましい。一実施形態において、推奨時刻算出部112Acは、上述した実施形態において説明した利用者のSPB-SMを記憶部113Aから読み込む(S715)。推奨時刻算出部112Acは、上述した「眠気が生じる時間帯」の開始時から所定の時間を仮眠推奨時間帯として算出する。例えば、推奨時刻算出部112Acは、SPB-SM+9~11時を眠くなりそうな場合の仮眠推奨時間帯として算出する(S717)。推奨時刻算出部112Acは、通信部115Aからネットワーク50を介して端末へ仮眠推奨時間帯を送信し(S719)、端末は、受信した仮眠推奨時間帯を表示してもよい。
この時、就寝前8時間以内の昼寝は推奨されないため、一実施形態において、推奨時刻算出部112Acは、推奨就寝時刻-8時以降を昼寝が推奨されない時間帯として算出してもよい(S717)。
図18(b)は、仮眠推奨時間帯を利用者に提示するインターフェイス403の一例を示す模式図である。インターフェイス403は、例えば、表題431、時刻表示433、アイコン435、推奨時間帯表示437及び非推奨時間帯表示439を有してもよい。表題431は、インターフェイス403が仮眠推奨時間帯を利用者に提示するものであることを明示してもよい。時刻表示433とアイコン435は、推奨時刻算出部112Acが算出した仮眠推奨時間帯を時刻表示433に対して配置するアイコン435の数により視覚的に表示する。なお、時刻表示433とアイコン435は、時間軸に対する棒グラフ等の他の公知の表示手段により実現されてもよい。推奨時間帯表示437は、例えば、仮眠が推奨される時間帯を表示して、利用者へ仮眠を推奨してもよい。また、非推奨時間帯表示439は、仮眠が推奨されない時間帯を利用者へ提示する。また、仮眠は30分以内が望ましい旨を同時に表示してもよい。なお、インターフェイス403は、仮眠が推奨される時間帯を利用者に提示するために、他の公知の表示を含んでもよい。
上述したように、SPB-SM+9~12時は眠気があり、SPB-SM+10.5時以降は眠気が強く、SPB-SM+11時に向けて眠気のピークを迎える。一実施形態において、インターフェイス403には、眠気が生じるSPB-SM+9-12時の範囲で星印を表示し、眠気のピークを迎える前の時間、すなわち、眠気が強く感じる前のSPB-SM+10~10.5時に仮眠をとることが望ましいため、星印の数を多くして、利用者へ仮眠を推奨してもよい。
なお、上述した各推奨時刻は、SPB-SM算出部112bによる集計あるいは回帰分析の結果に基づき、継続的又は定期的に修正されることが好ましい。また、各推奨時刻を算出するために減算又は加算する基準値も、SPB-SM算出部112b又は推奨時刻算出部112cが利用者から取得したデータを用いて、集計あるいは回帰分析により更新してもよい。
[個人別の概日リズムに基づく最適な就業・就学・業務・勉強・運動時間帯の提示方法]
企業では、単一シフトの場合は9時始業17時終業又はその前後であることが一般的である。一方で、変形労働制や交替勤務を伴う場合には、これに限らず勤務時間が各組織によりかなりの差異を持って設定される。しかし、これらは生産性及び健康維持の観点から具体的な理論的根拠をもって設定されているわけではなく、あくまで慣例的なものである。
近年の睡眠医学(Sleep Science)・時間生物学(Chrono Biology)の研究では、個人にはそれぞれの概日リズム(Circadian Rhythm)が存在し、心身が好調な状態で活動できる時間帯が存在することが知られている。例えば、全体的にこのリズムが夜型化している若年者を早朝に起床させることは心身に悪影響があり、例えば、学校においては始業時間を10時頃に変更することで心身の健康が改善され、欠席等が減少し、成績等のパフォーマンスが向上することが明らかとなっている(KELLEY, Paul, et al. Is 8: 30 am Still Too Early to Start School? A 10: 00 am School Start Time Improves Health and Performance of Students Aged 13-16. Frontiers in human neuroscience, 2017, 11: 588.)。
本発明者が調査した結果、心身の不調のためにその個人の本来の生産性がどの程度低下してしまっているのかを表すプレゼンティズムと概日リズムとには、次のような関連があることが明らかになった。
なお、このプレゼンティズムには身体的パフォーマンスも含まれており、本発明の一実施形態においては、運動負荷を伴う肉体労働、トレーニングやスポーツにおけるパフォーマンスも予測できる。
図19は、SPB-SMからの経過時間と生産性損失率(生産性ロス)との関係を示す図である。図19から明らかなように、SPB-SM+0時においてヒトの生産性は最も低くなる。一方、生産性の高い時間帯は二峰性に分布しており、SPB-SM+6.5~8.5時の時間帯およびSPB-SM+13~18.5時の時間帯に生産性が高まること、そして1日の中で最も生産性が高まるのはSPB-SM+17時前後であることが分かる。
これらの知見を利用し、その個人にとって就業・就学、運動や競技に従事するのに最適な時間を提示することができる。また、その個人にとって業務や勉強を行った際に効率が高まることが期待できる時間帯を提示することができる。さらに、交替勤務に就かせる場合には、その個人にとってどの時間帯の勤務が望ましいかも判明する。予め勤務すべき時間長が確定している場合には、図19の曲面下面積(AUC: Area Under the Curve)を計算することで、勤務時間帯のAUCに応じた労働生産性の積分が算出でき、効率的な勤務時間帯を導出できる。
個人別の概日リズムに基づく最適な就学・就業・作業時間帯の提示方法は、上述した利用者のSPB-SMの算出方法により算出され、主記憶装置内もしくはデータベース114に保持された本人のSPB-SM、又は、その他の方法により取得された本来の生理的な睡眠時間帯の中間時間(以下、これも便宜的にSPB-SMと称する)を基づき、以下の処理によって算出し、端末の表示装置に表示することができる。
図20は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Bを説明するブロック構成図である。本実施形態においては、システム100は、個人別の概日リズムに基づく最適な仮眠時刻の提示と眠気タイミングの予測を行うために、情報処理装置110に代えて情報処理装置110Bを備える。情報処理装置110Bは、例えば、制御部111B、記憶部113B、通信部115B及び電源117Bを備え、出力部119Bをさらに備えてもよい。制御部111Bの基本的な構成は、制御部111と同様であるが、個人別の概日リズムに基づく最適な就業・就学・業務・勉強・運動等の活動時間帯を算出する推奨時刻算出部112Bcを備える点で制御部111とは異なる。記憶部113B、通信部115B、出力部119Bの構成は、それぞれ記憶部113、通信部115、出力部119と同様の構成であってもよく、詳細な説明は省略する。さらに、情報処理装置110Bは、その他に公知の情報処理装置が備える各種の電子機器を備えてもよい。
推奨時刻算出部112Bcは、個人別の概日リズムに基づく最適な就業・就学・業務・勉強・運動等の活動時間帯を算出するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨時刻算出部112Bcは、例えば、記憶部113Bに格納され、制御部111Bで実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。
図21は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Bでの最適な活動時間帯の算出処理を説明するフロー図である。推奨時刻算出部112Bcは、記憶部113Bのデータベース114Bに格納された利用者のSPB-SM及び最適な活動時間帯を算出するための利用者の活動条件を読み込む(S801)。推奨時刻算出部112Bcは、利用者の活動時間帯が変形労働制や交替勤務を伴うような活動時間に固定され、活動時間が一般とは異なる条件であるか否かを判断する(S803)。利用者が一般的な活動時間帯で活動する場合には、推奨時刻算出部112Bcは、SPB-SMに所定の時間範囲を有する第4の基準値を加算して一日の中の前半に心身のパフォーマンスが高まる第1の活動時間帯を算出し、SPB-SMに第4の基準値から所定の時間範囲で遅い時間に設定された第5の基準値を加算して一日の中の後半に心身のパフォーマンスが高まる第2の活動時間帯を算出する。例えば、推奨時刻算出部112Bcは、SPB-SM+6.5~10時の時間帯及びSPB-SM+12~18時の時間帯を、就業・就学・業務・勉強時間帯として望ましい推奨活動時間帯として算出する(S805)。推奨時刻算出部112Bcは、記憶部113Bに推奨活動時間帯を格納する(S807)。
また、推奨時刻算出部112Bcは、第1の活動時間帯と第2の活動時間帯との間の時間帯を推奨休憩時間帯として算出する。例えば、推奨時刻算出部112Bcは、SPB-SM+10~12時を「休憩をとることが望ましい時間帯」(推奨休憩時間帯)として算出する(S808)。推奨時刻算出部112Bcは、記憶部113Bに推奨休憩時間帯を格納する(S811)。推奨時刻算出部112Bcは、通信部115Bからネットワーク50を介して端末へ推奨活動時間帯及び/又は推奨休憩時間帯を送信し(S817)、端末は、受信した推奨活動時間帯及び/又は推奨休憩時間帯を表示してもよい。交替勤務などにより主観的真夜中を含む時間に勤務が設定されている場合には、SPB-SMの時間前後を「休憩をとることが望ましい時間帯」(推奨休憩時間帯)として算出することもできる。
一実施形態において、就業・就学時間の長さが固定されている場合には、AUC(Area Under the Curve)を算定することによって、最適な始業・終業時刻を提示することができる。推奨時刻算出部112Bcは、SPB-SMに所定の時間範囲を有する心身のパフォーマンスが高まる第6の基準値を加算して推奨始業時刻を算出する。たとえば、利用者の活動時間帯が変形労働制のように勤務時間帯を自由に設定でき8時間の拘束が予定されている場合には、SPB-SM+6~13時から始業した場合に生産性ロスが最も抑えられるため、推奨時刻算出部112Bcは、SPB-SM+6~13時を推奨始業時刻として算出する(S813)。一方で、交替勤務を伴い、固定された時間帯の中から実際の勤務時間を選択する場合には、当該AUCを算定することで、どの時間帯の勤務がより適切かを推奨できる。推奨時刻算出部112Bcは、記憶部113Bに推奨始業時刻を格納する(S815)。推奨時刻算出部112Bcは、通信部115Bからネットワーク50を介して端末へ推奨始業時刻を送信し(S817)、端末は、受信した推奨始業時刻を表示してもよい。
一実施形態において、端末は、時間帯ごとに推定されるパフォーマンスの高さを数値あるいはアイコンで表して、利用者へ提供してもよい。
また、一実施形態において、システムは個々人へその結果を返すだけでなく、組織に対してどの利用者(学生又は従業員)がどの時刻で就業・就学・業務・勉強・運動をすることが望ましいと考えられるかのリストを出力してもよい。
[個人別の概日リズムに基づく鎮静催眠系向精神薬使用時刻の算出方法]
睡眠薬を始めとする鎮静催眠系向精神薬は、入眠を促進するために用いられる。しかし、その効果は確実なものではなく、また、酩酊様反応、脱抑制や異常行動、記憶欠損などの奇異反応と呼ばれる副作用があることが知られている。
薬剤の効果を最大限に発揮させること、副作用を予防すること、また、効果の乏しい時刻に服用することによる医療資源の浪費や薬物の乱用につながることがないようにすることは重要である。
本発明者が調査した結果、鎮静催眠系向精神薬には、服用によって有効率が高まる時間帯と、服用しても効果が乏しく入眠が困難である時間帯があること、そして服用することで副作用が生じやすくなる時間帯があることが明らかになった。
また、本発明者が調査した結果、不眠症状を有する者がベンゾジアゼピン受容体作動薬を使用した場合の有効率(主観的改善度および服用後30分以内に入眠できた者の割合)は、図22の通り、上述したSPB-SMの算出方法により算出されたSPB-SMを起点とした時刻によって次の通りの明確な差が存在することが判明した。
すなわち、服用者のSPB-SMから4時間頃を経過した時刻(多くの場合には朝に該当)から18時間頃を経過した時刻(多くの場合には夜に該当)までは鎮静催眠系向精神薬の有効率(服用後30分以内に入眠できた者の割合)は50%を下回る(SPB-SMから10~11時間後に一時的に50%を上回る時間帯が存在する)。
また、不眠症状を有する者がベンゾジアゼピン受容体作動薬を使用した場合の何らかの副作用(めまい、ふらつき、倦怠感、幻覚、異常感覚、眠気の翌日への持ち越し、嘔気等)の発現率、および奇異反応と呼ばれる、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の使用による酩酊様反応、脱抑制や異常行動、記憶欠損、興奮、易怒、人格変容などの重篤な副作用をきたした件数の状況は図23のとおりであった。
SPB-SMから2時間頃を経過した時刻から17時間頃を経過した時刻までは10%以上の副作用頻度がある。なお、この副作用は前半部分では眠気の持ち越しが多く、後半部分ではめまい・嘔気などの自律神経症状や、奇異反応が多かった。
また、ベンゾジアゼピン受容体作動薬以外の催眠鎮静系向精神薬においても、効果は、上記と類似のパターンを有することが明らかであった。すなわち、催眠効果発現のタイミングが”Forbidden Zone”(上述の実施形態において、SPB-SM+18時前後に相当することが示された)に当たる場合、催眠鎮静系向精神薬は効果を発揮できず、逆に副作用が生じやすいということが考えられた。
これにより、鎮静催眠系向精神薬には投与が推奨される時刻と推奨されない時刻が、個人によってそれぞれ存在することが判明した。本発明の一実施形態に係るシステム100は、これらの知見に基づいて、任意の時刻に服用者が睡眠薬を服用することが推奨されるか否か、どの程度推奨されるかを表示する。
個人別の概日リズムに基づく鎮静催眠系向精神薬の投与時刻の算出は、上述した利用者のSPB-SMの算出方法により算出され、主記憶装置内もしくはデータベース114に保持された本人のSPB-SM、又は、その他の方法により取得された本来の生理的な睡眠時間帯の中間時間(以下、これも便宜的にSPB-SMと称する)をもとに、以下の処理によって算出し、端末の表示装置に表示することができる。
図24は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Cを説明するブロック構成図である。本実施形態においては、システム100は、個人別の概日リズムに基づく鎮静催眠系向精神薬の投与時刻を算出するために、情報処理装置110に代えて情報処理装置110Cを備える。情報処理装置110Cは、例えば、制御部111C、記憶部113C、通信部115C及び電源117Cを備え、出力部119Cをさらに備えてもよい。制御部111Cの基本的な構成は、制御部111と同様であるが、個人別の概日リズムに基づく鎮静催眠系向精神薬の投与時刻を算出する推奨時刻算出部112Ccを備える点で制御部111とは異なる。記憶部113C、通信部115C、出力部119Cの構成は、それぞれ記憶部113、通信部115、出力部119と同様の構成であってもよく、詳細な説明は省略する。さらに、情報処理装置110Cは、その他に公知の情報処理装置が備える各種の電子機器を備えてもよい。
推奨時刻算出部112Ccは、個人別の概日リズムに基づく鎮静催眠系向精神薬の投与時刻を算出するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨時刻算出部112Ccは、例えば、記憶部113Cに格納され、制御部111Cで実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。
図25は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Cでの鎮静催眠系向精神薬の投与時刻の算出処理を説明するフロー図である。推奨時刻算出部112Ccは、記憶部113Cのデータベース114Cに格納された利用者のSPB-SM及び服用する薬剤の情報を読み込む(S901)。ここで、データベース114Cに薬剤の情報が格納されていない場合には、情報処理装置110Cは、端末に服用する薬剤に関する質問を送信し、端末から利用者の回答を受信してもよい。
鎮静催眠系向精神薬のうちベンゾジアゼピン受容体作動薬に代表されるGABA受容体に作用する薬剤の速放錠を利用者が服用している場合を基準として、推奨時刻算出部112Ccは、SPB-SM+19時からSPB-SM+27時(+3時)までの時間帯を、高い有効率が期待される時間帯(高有効率時間帯(第7の基準値))として算出する(S903)。また、推奨時刻算出部112Ccは、SPB-SM+18時からSPB-SM+25時(+1時)までの時間帯を、副作用が少ない服用時間帯(少副作用時間帯(第8の基準値))として算出する(S907)。推奨時刻算出部112Bcは、記憶部113Bに少副作用時間帯を格納する(S909)。なお、服用する薬剤の作用時間が長い場合には、少副作用時間帯の終了時刻は、服用する薬剤の作用時間に合わせて、適宜短縮してもよい。
推奨時刻算出部112Ccは、高有効率時間帯及び少副作用時間帯を統合し、SPB-SM+19時からSPB-SM+25時(+1時)(ただし、この後者の時刻は、半減期が長いなどして効果時間が長い場合には、翌日への眠気の持ち越しを予防するために前倒しされる)までの時間帯を、服用する薬剤の効果が高く、副作用が少ない時間帯(第1の推奨時間帯)として算出する。推奨時刻算出部112Ccは、利用者が服用している薬剤がGABA受容体に作用する薬剤の速放錠であるか否かを判断する(S911)。利用者が服用している薬剤がGABA受容体に作用する薬剤の速放錠である場合は、推奨時刻算出部112Bcは、記憶部113Bに推奨時間帯を格納する(S919)。
利用者が服用している薬剤がGABA受容体に作用する薬剤の速放錠ではない場合には、推奨時刻算出部112Ccは、利用者が服用している薬剤が鎮静催眠系向精神薬のうちベンゾジアゼピン受容体作動薬に代表されるGABA受容体に作用する薬剤の遅効性製剤、タイムリリース製剤、あるいはそれに準じる服用直後にCmaxが到来しない薬剤であるか否かを判断する(S911)。利用者が服用している薬剤がGABA受容体に作用する薬剤の遅効性製剤、タイムリリース製剤、あるいはそれに準じる服用直後にCmaxが到来しない薬剤である場合には、推奨時刻算出部112Ccは、服用している薬剤の血中濃度若しくは脳内濃度が有効域に達するまでの時間幅、又は服用後実際に眠気が現れるまでの時間を推奨時間帯から減算し、服用している薬剤の効果が高く、副作用が少ない時間帯(第2の推奨時間帯)として算出する(S915)。推奨時刻算出部112Ccは、記憶部113Bに推奨時間帯を格納する(S919)。
利用者が服用している薬剤が遅効性製剤ではない場合、即ち、利用者が服用している薬剤がオレキシン受容体拮抗薬、セロトニン受容体2あるいは3(5-HT2レセプターあるいは5-HT3レセプター)の拮抗薬、ヒスタミン受容体拮抗薬等の、GABA受容体以外に作用することで鎮静催眠効果を発揮する薬剤である場合には、推奨時刻算出部112Ccは、服用している薬剤の血中濃度若しくは脳内濃度が有効域に達するまでの時間幅、又は服用後実際に眠気が現れるまでの時間を推奨時間帯から減算し、服用している薬剤の効果が高く、副作用が少ない時間帯(第3の推奨時間帯)として算出する(S917)。なお、一例として、利用者がオレキシン受容体拮抗薬を服用している場合には、推奨時間帯はSPB-SM+18時から開始することが好ましい。推奨時刻算出部112Ccは、記憶部113Bに推奨時間帯を格納する(S919)。
推奨時刻算出部112Ccは、通信部115Cからネットワーク50を介して端末へ推奨時間帯を送信し(S921)、端末は、受信した推奨時間帯を表示してもよい。
[個人別の概日リズムに基づくアルコール類摂取時刻の算出方法]
アルコールもGABAA受容体が主な急性精神作用をもたらす作用部位であることから、上述したベンゾジアゼピン受容体作動薬と同様の薬理効果を有する。すなわち、アルコール使用時の精神反応や酩酊反応を生じやすい時刻はベンゾジアゼピン受容体作動薬に関する調査結果と等しい。アルコール摂取による眠気は、SPB-SM+19時~+27時(+3時)に生じやすい。また、アルコール摂取による酩酊反応は、SPB-SM+6時~+9時とSPB-SM+11時~18時の間に起こりやすく、特にSPB-SM+14時~+16時の間が顕著である。
アルコール類を摂取する場合、推奨時刻算出部112Ccは、SPB-SM+19時からSPB-SM+27時(+3時)までの時間帯を、アルコール摂取で眠くなる可能性の高い時間帯であると判定し、ディスプレイ等のインターフェイスに表示してもよい。また、推奨時刻算出部112Ccは、SPB-SM+11時~18時までの時間帯を、アルコール摂取で酩酊する可能性の高い時間帯であると判定し、特にSPB-SM+14時~+16時の間がアルコール摂取で眠くなる可能性が顕著であると表示してもよい。
[個人別の概日リズムに基づく時差ボケ防止のための渡航前及び高速度移動中の行動提示方法]
タイムゾーンの異なる国へ短時間で移動すると、いわゆる時差ボケを起こす。時差ボケは、体内時計が出発地のままであるにも関わらず、渡航先の社会的スケジュールで行動しようとすることによって生じる、体内時計と外界の社会的時刻との外的脱同調(External Dys-synchronization:時間生物学・睡眠学の学術用語)によって引き起こされる。時差ボケでは、現地時刻の夜間に入眠できない、現地時刻の朝に起床できない、現地時刻の日中に強い眠気を引き起こすという睡眠覚醒スケジュールの障害の他、各種臓器の体内時計の外的脱同調のために、様々な心身の不調やパフォーマンス低下を引き起こす。
発明者が検討した結果、時差ボケによる睡眠の問題や体調不良を予防し、パフォーマンスを維持するためには、渡航のパターンによって主に2つの方法が存在すると考えられる。
1.短期(概ね5日以内)の渡航
2.長期(概ね5日以上)の渡航
1.短期の渡航の場合
発明者が実験した結果、出発地の時刻での日の出及び日の入りに合わせた光暴露を心がけていれば、5日間程度は出発地の時刻での体内時計のリズムが維持されることが明らかとなった。図26は、本発明者が行った、光環境をなるべく出発地と同様の状態に保った際の睡眠日誌を示す。また、図27は、睡眠状況・活動量計・光暴露量モニターの測定結果を示す。
上述した実施形態において示した個人の体内時計に応じて規定される、睡眠・覚醒の時間帯や眠気の生じる時間帯、高いパフォーマンスを発揮することが期待される時間帯は、本実施形態において、出発地の光環境を維持すれば、渡航後4~5日は維持される。急激な体内時計の変動は外的・内的脱同調(External/Internal Dyssynchronization)による不調やパフォーマンスの低下をきたすため、概ね5日以内の短期渡航が予定されている場合は、出発地での体内時計を維持することが望まれる。さもないと、現地時刻に同調しかけたタイミングで出発地に帰還することとなり、心身の健康やパフォーマンスに甚大な悪影響を与えることになる。
一実施形態において、システム100は、個人の体内時計で規定される睡眠・覚醒の時間帯や眠気の生じる時間帯、高いパフォーマンスが発揮される時間帯を渡航先において利用できるように、当該時刻を提示すると共に、旅客機などでの高速度移動中の行動の推奨、現地到着後の行動の推奨を提示することができる。
2.長期(概ね5日以上)の渡航の場合
滞在期間が5日を過ぎると有意に現地時刻への同調が生じる。なお、図26の例では睡眠相が後退する形で現地時刻への同調が起きているが、必ずしも後退することで同調するわけではない。タイムゾーンの差の大きい地域へ移動する場合、SPB-SM<1:30の強い朝型の者の場合には、逆に睡眠相が前進することで同調することが多い。また、後退も前進もせず、一時的に睡眠が分断・細分化し、不安定化した上で、現地時刻に同調する者もいる。いずれにしても、長期に渡航する場合にはすみやかに現地の時刻に体内時計を同調させることによって、時差ボケの不調を緩和することができる。
この時、体内時計を調整する方法として、以下の3つ方法が挙げられる。
a)後退させることによって現地時刻に適応させる
b)前進させることによって現地時刻に適応させる
c)一時的に完全に脱同調・不安定化させ、その後リセットすることによって現地時刻に適応させる
自然状態でどれが生じるかは各個人の光に対する反応性と、クロノタイプおよび体内時計の周期長(タウ=τ)により規定されるが、個人の体内時計に合わせた時刻に光を照射することで、後退や前進を作り出すことができる。
図28は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Dを説明するブロック構成図である。本実施形態においては、システム100は、個人別の概日リズムに基づく時差ボケ防止のための渡航前及び高速度移動中の行動を提示するために、情報処理装置110に代えて情報処理装置110Dを備える。情報処理装置110Dは、例えば、制御部111D、記憶部113D、通信部115D及び電源117Dを備え、出力部119Dをさらに備えてもよい。制御部111Dの基本的な構成は、制御部111と同様であるが、個人別の概日リズムに基づく最適な起床・就寝時刻の算出及び最適な仮眠時刻の提示と眠気タイミングの予測を行う推奨時刻算出部112Dcを備える点、及び個人別の概日リズムに基づく時差ボケ防止のための渡航前及び高速度移動中に推奨される行動を提示する推奨行動提示部112Ddを備える点で制御部111とは異なる。記憶部113D、通信部115D、出力部119Dの構成は、それぞれ記憶部113、通信部115、出力部119と同様の構成であってもよく、詳細な説明は省略する。さらに、情報処理装置110Dは、その他に公知の情報処理装置が備える各種の電子機器を備えてもよい。
推奨時刻算出部112Dcは、問診票1や端末の表示装置に表示された質問に対する回答、または測定デバイスから得られたデータから、利用者の最適な起床・就寝時刻を算出するアプリケーションプログラム又はモジュール、及び個人別の概日リズムに基づく眠気タイミングの予測と最適な仮眠時刻の提示を行うアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨時刻算出部112Dcは、例えば、記憶部113Dに格納され、制御部111Dで実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。なお、推奨時刻算出部112Dcは、上述の実施形態に示した最適な起床・就寝時刻の算出方法と同様の処理により最適な起床・就寝時刻を算出することができる。また、推奨時刻算出部112Dcは、上述の実施形態に示した個人別の概日リズムに基づく眠気タイミングの予測方法及び最適な仮眠時刻の提示方法と同様の処理により眠気タイミングの予測及び最適な仮眠時刻の提示を行うことができる。このため、推奨時刻算出部112Dcの詳細な説明は省略する。なお、一実施形態において、システム100が、上述した情報処理装置110、情報処理装置110Aを備える場合、情報処理装置110Dは、推奨時刻算出部112Dcを省略した構成であってもよい。
推奨行動提示部112Ddは、個人別の概日リズムに基づく時差ボケ防止のための渡航前及び高速度移動中に推奨される行動を提示するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨行動提示部112Ddは、例えば、記憶部113Dに格納され、制御部111Dで実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。
図29は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Dでの個人別の概日リズムに基づく渡航前に推奨される行動の提示処理を説明するフロー図である。利用者のSPB-SM、生活パターンに基づいて、個人別の概日リズムに基づく最適な起床・就寝時刻の算出、眠気タイミングの予測及び最適な仮眠時刻の提示をして、利用者の渡航前の生活状況を利用者に提供することができる。
推奨時刻算出部112Dcは、記憶部113Dのデータベース114Dに格納された利用者のSPB-SM、生活パターン、渡航期間及び渡航先のタイムゾーンの情報を読み込む(S1001)。ここで、データベース114Dに利用者の生活パターン、渡航期間及び渡航先のタイムゾーンの情報が格納されていない場合には、情報処理装置110Dは、端末に生活パターン、渡航期間及び渡航先のタイムゾーンに関する質問を送信し、端末から利用者の回答を受信してもよい。また、情報処理装置110Dは、利用者に渡航先の国名を回答させるか、例えば、タッチパネルを備えた表示装置に世界地図を表示したインターフェイスを表示して、利用者に渡航先の位置情報の入力を促してもよい。
推奨時刻算出部112Dcは、読み込んだ利用者のSPB-SMと必要睡眠時間に基づき、最適な起床時刻を算出する(S1103)。また、推奨時刻算出部112Dcは、推奨起床時刻から利用者の必要睡眠時間を減算し、最適な就寝時刻を算出する(S1105)。さらに、読み込んだ利用者のSPB-SMに基づき、眠気が生じる時間帯を算出する(S1107)。推奨時刻算出部112Dcは、読み込んだ利用者のSPB-SMに基づき、仮眠推奨時間帯を算出する(S1109)。推奨時刻算出部112Dcは、記憶部113Dに算出した各推奨時間を格納する(S1111)。推奨時刻算出部112Dcは、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ各推奨時間及び食事時刻を送信し(S1113)、端末は、受信した各推奨時間及び食事時刻を含む渡航前の推奨生活パターンを表示してもよい。
一実施形態において、これらの表示は、例えば、図30に示すような端末のインターフェイス501により行ってもよい。インターフェイス501は、例えば円形のインジケーター510を備え、睡眠時間帯511、浅い睡眠時間帯512、覚醒時間帯513、昼の弱い眠気が生じる時間帯514、昼の強い眠気が生じる可能性が強い時間帯515を表示する。なお、浅い睡眠時間帯512は、上述した実施形態で説明した眠気が生じる時間帯の開始時から強い眠気が生じる可能性が強い時間の開始時までの時間帯示す。また、インターフェイス501は、インジケーター510に隣接して、昼を意味する太陽などのアイコン・イラスト517a、夜を意味する月や星などのアイコン・イラスト517bを有し、食事時刻を示すアイコン・イラスト518を有する。インターフェイス501は、コメント519を表示して、眠気の注意喚起や仮眠の推奨等をしてもよい。
また、推奨行動提示部112Ddは、渡航前の推奨生活パターンを渡航後のタイムゾーンの時刻設定とともに利用者に提示することができる。一実施形態において、例えば、図31に示すような端末のインターフェイス503により行ってもよい。インターフェイス503は、例えば円形のインジケーター530を備え、渡航前の睡眠時間帯531、渡航前の浅い睡眠時間帯532、渡航前の覚醒時間帯533、渡航前の昼の弱い眠気が生じる時間帯534、渡航前の昼の強い眠気が生じる可能性が強い時間帯535を、渡航先の時刻表示に適用して表示する。また、インターフェイス503は、インジケーター530に隣接して、昼を意味する太陽などのアイコン・イラスト537a、夜を意味する月や星などのアイコン・イラスト537bを有し、食事時刻を示すアイコン・イラスト538を有する。インターフェイス503は、コメント539を表示して、パフォーマンスの低下や眠気の注意喚起等をしてもよい。このように、システム100においては、上述した渡航前の利用者の最適な生活パターンと渡航後の生活パターンとの差異を利用者が視覚的に理解することができる。
図32は、本発明の一実施形態に係る渡航後に推奨される行動の提示処理を説明するフロー図である。推奨行動提示部112Ddは、記憶部113Dのデータベース114Dに格納された利用者のSPB-SM、渡航前の推奨生活パターン、渡航期間及び渡航先のタイムゾーンの情報を読み込む(S1201)。推奨行動提示部112Ddは、読み込んだ渡航期間が5日未満(4~5日以内)であるか否かを判断する(S1203)。5日未満の短期の渡航である場合には、出発地における利用者の体内時計をあまり変位させずに現地に適応し、その状態を維持して帰国することが重要である。このため、推奨行動提示部112Ddは、渡航前の推奨生活パターン(出発地での体内時計の位相)を保ち、パフォーマンスを保つための助言を端末に送信する(S1217)。推奨行動提示部112Ddは、可能な限り出発地を模倣した光環境にする(出発地における昼の時間に明るくし、夜の時間には暗くする)ように、助言を端末に送信する。なお、読み込んだ渡航期間が5日以上である場合には、推奨行動提示部112Ddは、図36に示す処理を行う。
推奨行動提示部112Ddは、「帰国時に想定される、又は希望する睡眠・活動スケジュール」についての利用者への入力要求を端末に送信する。利用者がPC13、携帯電話105、タブレット型端末17、ウェアラブルデバイス19等の端末に「帰国時に想定される、又は希望する睡眠・活動スケジュール」を入力すると、通信部115Dは、利用者の帰国時に想定される、又は希望する睡眠・活動スケジュールを端末から受信する(S1205)。なお、渡航期間及び渡航先のタイムゾーンの情報、帰国時に想定される、又は希望する睡眠・活動スケジュールは、渡航する利用者本人が端末入力してもよく、システム100の設定をするサービスプロバイダが行ってもよい。また、利用者が質問票(問診票1)に回答した場合は、回答をさせた者(サービスプロバイダー)が質問票に記入された回答を端末に入力してもよい。
推奨行動提示部112Ddは、端末から受信した帰国時のスケジュールが、渡航前の推奨生活パターンよりも早いか否かを判断する(S1207)。帰国時のスケジュールが、渡航前の概日リズムに基づく推奨生活パターンよりも早ければ、推奨行動提示部112Ddは、渡航先での光環境は出発地のものよりも早めて(Advance)よいとの助言を端末に送信する(S1209)。一方、帰国時のスケジュールが、渡航前の概日リズムに基づく推奨生活パターンよりも遅ければ、推奨行動提示部112Ddは、渡航先での光環境は出発地のものよりも遅くして(Delayさせて)よいとの助言を端末に送信する(S1211)。ただし、上述したように、個人の体内時計とそれに応じた光照射が睡眠覚醒スケジュールに与える影響についての本発明者の検討結果に基づき、利用者のスケジュールを早めたい場合でも、推奨行動提示部112Ddは、光照射の開始をその利用者のSPB-SM(出発地時刻基準)より早くしないようにとの助言を端末に送信する(S1217)。また、情報処理装置110Dは、利用者が渡航先あるいは移動中(飛行機機内等)に使用する照明デバイスとネットワーク50を介して接続し、当該時刻に照明を自動的に点灯・消灯・減灯するよう操作してもよい。上述したように、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続することにより照明制御システムを構成することができる。また、このときの光刺激は連続光であってもよく、パルス光(短時間だけの照射を単回あるいは複数回行う)であってもよい。このとき、体内時計に影響を与える420 nm~480 nmのブルーライトのみを点灯・消灯・減灯してもよい。
食事の摂取は、睡眠覚醒リズム上は覚醒刺激となることが知られている。一実施形態において、推奨行動提示部112Ddは、利用者が活動を希望する時間が始まる頃に食事を摂り、就寝直前には摂食しないようにとの助言を端末に送信する(S1217)。このため、推奨行動提示部112Ddは、利用者が活動を希望する時間が始まる時刻を食事の時刻として算出し、利用者の就寝直前を食事が推奨されない時刻として算出する(S1213)。推奨時刻算出部112Dcは、記憶部113Dに算出した推奨食事時刻を格納する(S1215)。推奨時刻算出部112Dcは、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ推奨食事時刻を送信する。また、おおよそ12時間以上の絶食時間を設けることで、その時間における翌日以降の入眠確率が高まるため、推奨行動提示部112Ddは、到着地において利用者が休息・睡眠を希望する時間帯の前後の食事間隔を長めにし、可能であれば12時間以上空けるようにとの助言を端末に送信する(S1217)。
一実施形態において、これらの表示は、例えば、図33に示すような端末のインターフェイス505により行ってもよい。インターフェイス505は、例えば円形のインジケーター550を備え、渡航前の睡眠時間帯551、渡航前の浅い睡眠時間帯552、渡航前の覚醒時間帯553、渡航前の昼の弱い眠気が生じる時間帯554、渡航前の昼の強い眠気が生じる可能性が強い時間帯555を、渡航先の時刻表示に適用して表示する。また、インターフェイス505は、インジケーター550に隣接して、昼を意味する太陽などのアイコン・イラスト557a、夜を意味する月や星などのアイコン・イラスト557bを有し、食事時刻を示すアイコン・イラスト558を有する。インターフェイス505は、コメント559を表示して、パフォーマンスの低下や眠気の注意喚起等をしてもよい。このように、システム100においては、上述した渡航前の利用者の最適な生活パターンと推奨食事時刻に基づいて、渡航後に推奨される生活パターンを利用者が視覚的に理解することができる。
一実施形態において、推奨行動提示部112Ddは、利用者がカフェインその他の覚醒物質を摂取するのであれば、利用者が活動を希望する時間帯の前半に摂取するようにし、後半には摂取しないようにとの助言を端末に送信する(S1217)。
推奨行動提示部112Ddは、利用者が高速度での移動中(旅客機など)やその中途(中継地滞在中等)の環境にある場合でも、端末を介して上述した各助言を利用者へ提供してもよい。例えば、利用者が移動中も、上述した各助言の状況を利用者が維持するように、推奨行動提示部112Ddは、利用者又は利用者への移動・滞在サービスを提供している者(航空会社スタッフやホテルスタッフなど)へ上述した各助言を提示してもよい。具体的には、助言された光環境、助言された食事タイミング、助言されたカフェイン等覚醒物質を避けるべきタイミングについての助言を、ユーザーあるいはサービス提供者へ提示してもよい。
一実施形態において、推奨行動提示部112Ddは、算出した推奨起床・就寝時刻(利用者の体内時計に応じて推奨される生理的睡眠時間帯)と、現地における休息が可能な時間とが乖離する場合(例えば、時差の大きい地域間の渡航)には、上述した実施形態において示した体内時刻に応じた仮眠に適した時間帯を利用した休息を行うように助言してもよい。また、推奨行動提示部112Ddは、上述した実施形態において示した「入眠することが難しいと推測される時間(Sleep Forbidden Zone)」も提示してもよい。
また、推奨行動提示部112Ddは、算出した推奨起床・就寝時刻(利用者の体内時計に応じて推奨される生理的睡眠時間帯)が、現地における休息が可能な時間と大部分重複する場合(例えば、時差の少ない地域間の渡航や、夜型な者の西廻りの渡航、朝型な者の東廻りの渡航)には、推奨就寝時刻及び起床時刻からそれぞれ±2時間以内のずれにとどめて起床覚醒するよう助言してもよい。また、推奨行動提示部112Ddは、上述した実施形態において示した「入眠することが難しいと推測される時間(Sleep Forbidden Zone)」も提示してもよい。
図34は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Dでの算出した推奨起床・就寝時刻(利用者の体内時計に応じて推奨される生理的睡眠時間帯)と、現地における休息が可能な時間との差異に基づき推奨される行動の提示処理を説明するフロー図である。推奨行動提示部112Ddは、記憶部113Dのデータベース114Dに格納された利用者のSPB-SM、推奨生活パターン及び渡航先のタイムゾーンの情報を読み込む(S1301)。
推奨行動提示部112Ddは、推奨生活パターンと渡航先のタイムゾーンに基づくスケジュールとの乖離を判断する(S1303)。乖離が大きい場合、例えば、概日リズムに基づく生理的な睡眠時間帯と、現地での休息が可能な時間帯とが重複しない場合に、乖離が大きいと判断してもよい。具体的には、日本で0:00~8:00が自然な睡眠時間帯である場合に、ヨーロッパなどの渡航先では日本時間で8:00~16:00にしか休息を取ることができず、このような場合を乖離が大きいと判断するように設定してもよい。推奨行動提示部112Ddは、上述した実施形態で説明した仮眠推奨時間帯を算出する(S1305)。また、推奨行動提示部112Ddは、Sleep Forbidden Zoneを算出する(S1307)。推奨時刻算出部112Dcは、記憶部113Dに算出した仮眠推奨時間帯及びSleep Forbidden Zoneを格納する(S1309)。推奨行動提示部112Ddは、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ仮眠推奨時間帯及びSleep Forbidden Zoneを送信し(S1311)、端末は、受信した仮眠推奨時間帯及びSleep Forbidden Zoneを利用者に提示してもよい。
また、乖離が小さい場合、推奨行動提示部112Ddは、推奨就寝時刻及び起床時刻からそれぞれ±2時間を許容就寝時刻及び起床時刻として算出する(S1315)。また、推奨行動提示部112Ddは、Sleep Forbidden Zoneを算出する(S1317)。推奨行動提示部112Ddは、記憶部113Dに算出した許容就寝時刻、許容起床時刻及びSleep Forbidden Zoneを格納する(S1309)。推奨行動提示部112Ddは、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ許容就寝時刻、許容起床時刻及びSleep Forbidden Zoneを送信し(S1311)、端末は、受信した許容就寝時刻、許容起床時刻及びSleep Forbidden Zoneを利用者に提示してもよい。
一実施形態において、これらの表示は、例えば、図35に示すような端末のインターフェイス507により行ってもよい。インターフェイス507は、例えば円形のインジケーター570を備え、渡航前の睡眠時間帯571、渡航前の浅い睡眠時間帯572、渡航前の覚醒時間帯573、渡航前の昼の弱い眠気が生じる時間帯574、渡航前の昼の強い眠気が生じる可能性が強い時間帯575を、渡航先の時刻表示に適用して表示する。また、インターフェイス507は、インジケーター570に隣接して、昼を意味する太陽などのアイコン・イラスト577a、夜を意味する月や星などのアイコン・イラスト577bを有し、食事時刻を示すアイコン・イラスト558を有する。インターフェイス505は、コメント579を表示して、睡眠の推奨や仮眠を取らないように注意喚起等をしてもよい。このように、システム100においては、算出した推奨起床・就寝時刻(利用者の体内時計に応じて推奨される生理的睡眠時間帯)と、現地における休息が可能な時間との差異に基づいて、渡航後に推奨される生活パターンを利用者が視覚的に理解することができる。
図32で説明した処理において、利用者の渡航期間が5日以上である場合には、速やかに渡航先での活動スケジュールに体内時計を同調させることが重要である。このため、渡航先の時刻に速やかに体内時計を適合させ、パフォーマンスを早急に回復させる必要がある。
図36(a)は、本発明の一実施形態に係る利用者の渡航期間が5日以上である場合の推奨時刻提示方法を説明するフロー図である。なお、図36(a)の結合子Aは、図32に示した結合子Aに対応する。即ち、図36(a)の処理S1401は、図32の判断S1203において、5日以上の長期の渡航であると判断された場合の処理を示す。推奨行動提示部112Ddは、利用者が活動を希望する時間が始まる時刻を食事の時刻として算出し、利用者の就寝直前には食事を推奨しない時刻として算出する(S1401)。推奨行動提示部112Ddは、記憶部113Dに算出した推奨食事時刻を格納する(S1403)。推奨行動提示部112Ddは、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ推奨食事時刻を送信する。また、おおよそ12時間以上の絶食時間を設けることで、その時間における翌日以降の入眠確率が高まるため、推奨行動提示部112Ddは、渡航先において休息・睡眠を希望する時間帯の前後の食事間隔を長めにし、可能であれば12時間以上空けるようにとの助言を端末に送信する(S1405)。また、上述したように、カフェイン及びその他の覚醒物質も、もし摂取するのであれば活動を希望する時間帯の前半に摂取するようにし、後半には摂取しないように助言してもよい。
利用者のクロノタイプやSPB-SMが不明である、又は、簡易的な対策を行うことが選択された際には、到着地における光環境を出発前および移動中に模倣するよう、推奨行動提示部112Ddは利用者又はサービス提供者へ助言してもよい。図36(b)は、一実施形態に係る利用者の渡航期間が概ね5日以上である場合の推奨時刻提示方法を説明するフロー図である。なお、図36(b)の結合子Aは、図32に示した結合子Aに対応する。即ち、図36(b)の処理S1411は、図32の判断S1203において、5日以上の長期の渡航であると判断された場合の処理を示す。例えば、ロンドンにいる利用者がニューヨークへ5日以上渡航することが想定される場合には、推奨行動提示部112Ddは、ニューヨークの日の出・日の入り時刻を読み込み(S1411)、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ光を浴びることが推奨される時刻を送信するとともに、出発前から渡航先の時間における日の出・日の入りに合わせて光を浴び、また、移動中も渡航先の時間における日の出・日の入りに合わせて光を浴びるよう助言する。また、推奨行動提示部112Ddは、ネットワーク50を介して照明デバイスと接続し、渡航先での光環境にあわせて利用者が用いる照明又はブルーライトを自動的に消灯又は減灯するよう操作してもよい。上述したように、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続することにより照明制御システムを構成することができる。
一実施形態において、図32で説明した処理において、利用者の渡航期間が5日以上である場合には、利用者の体内時計に応じて、より速やかに到着地でのスケジュールに体内時計をあわせ、且つ脱同調による心身への不調を最小限にできるようにすることが好ましい。図37は、本発明の一実施形態に係る利用者の渡航期間が5日以上である場合の渡航後に推奨される行動の提示処理を説明するフロー図である。なお、なお、図37の結合子Aは、図32に示した結合子Aに対応する。即ち、図37の処理S1431は、図32の判断S1203において、5日以上の長期の渡航であると判断された場合の処理を示す。
推奨行動提示部112Ddは、利用者又はサービスプロバイダへ、(A)体内時計の周期を24時間より早め、睡眠覚醒スケジュールを前進させることにより渡航先での適応を図りたいか、(B)体内時計の周期を24時間より遅らせ、睡眠覚醒スケジュールを後退させることにより渡航先での適応を図りたいかを端末を介して選択させる。情報処理装置110Dは、端末に生活パターン、渡航期間及び渡航先のタイムゾーンに関する質問を送信し、端末から利用者の回答を受信してもよい。また、記憶部113Dのデータベース114Dに利用者の回答が格納されている場合には、推奨行動提示部112Ddは、記憶部113Dのデータベース114Dに格納された利用者の回答結果を読み込んでもよい(S1431)。
(A)体内時計の周期を24時間より早め、睡眠覚醒スケジュールを前進させることにより渡航先での適応を図る場合には、ごく短時間の東廻りの時差がある場合、朝型の者(SPB-SMが概ね3:00以前)が東廻りの渡航をする場合、睡眠覚醒スケジュールを早めることが体質的に得意である場合、現地で希望する睡眠時間帯がSPB-SMから推奨される睡眠時間帯と比較して短時間の前倒しとなっている場合などに推奨される。また、(B)体内時計の周期を24時間より遅らせ、睡眠覚醒スケジュールを後退させることにより渡航先での適応を図る場合には、西廻りの渡航である場合や、夜型の者(SPB-SMが概ね5:00以降)が時差の強い東回りの渡航をするような場合、睡眠覚醒スケジュールを遅らせることが体質的に得意である場合、現地で希望する睡眠時間帯がSPB-SMから推奨される睡眠時間帯と比較して後ろ倒しとなっている場合などに推奨される。一実施形態において、システム100は、これをパターン(A)又はパターン(B)の推奨文の端末に表示してもよいし、前記情報が得られている場合には前記情報に基づいてそのパターンをデフォルトの設定としてもよい。
推奨行動提示部112Ddは、読み込んだ回答において、利用者がパターン(A)又はパターン(B)の何れを選択したかを判断する。例えば、推奨行動提示部112Ddは、読み込んだ回答において、利用者が体内時計を前進させること、即ちパターン(A)を選択したか否かを判断する(S1433)。利用者が(A)睡眠覚醒スケジュールを前進させることにより現地での適応を図ることを選択した場合、出発地における日の出時刻よりも早い時間であって、且つ、SPB-SMよりも遅い時間に光を浴びることで、速やかな体内時計の位相を前進させることができ、それにより速やかな渡航先時刻への同調が図れる。このため、推奨行動提示部112Ddは、記憶部113Dのデータベース114Dに格納された利用者のSPB-SMを読み込むとともに、ネットワーク50を介して、出発地の日の出時刻及び日の入り時刻を読み込む(S1435)。推奨行動提示部112Ddは、読み込んだ利用者のSPB-SMと出発地の日の出時刻及び日の入り時刻に基づき、利用者に推奨する光照射時間帯を算出する(S1437)。推奨行動提示部112Ddは、算出した光照射時間帯を記憶部113Dに格納する(S1439)。
推奨行動提示部112Ddは、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ光照射時間帯を送信し(S1441)、端末は、受信した利用者に推奨する光照射時間帯を表示する。例えば、推奨行動提示部112Ddは、「出発地の日の出時刻より以前、ただしSPB-SMの時間が経過してから、利用者の環境を明るくしておくよう」に利用者又はサービスプロバイダへ助言を送信してもよい。このとき、情報処理装置110Dは、利用者が使用する照明デバイスとネットワーク50を介して接続し、出発地における日の出時刻よりも早い時間であって、且つ、SPB-SMよりも遅い時間に照明又はブルーライトを自動的に点灯するよう操作してもよい。上述したように、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続することにより照明制御システムを構成することができる。このときの光刺激は連続光であってもよく、パルス光(短時間だけの照射を単回あるいは複数回行う)であってもよい。
さらに、推奨行動提示部112Ddは、主観的朝型の光照射によって利用者の起床時刻(睡眠覚醒時間帯)が実際に前進しているか否かを判断する(S1443)。光照射時間帯を提示した後の利用者の起床時刻は、端末を介して利用者が入力してもよく、ウェアラブル端末による検出や携帯端末のアラーム停止操作時刻を、ネットワーク50を介して情報処理装置110Dが受信してもよい。利用者の睡眠覚醒時間帯が実際に前進していない場合は、推奨行動提示部112Ddは、同じ光照射時間帯を端末に送信し、表示させる(S1441)。また、利用者の睡眠覚醒時間帯が実際に前進している場合には、推奨行動提示部112Ddは、渡航先のスケジュールに対応可能な範囲まで十分に睡眠覚醒時間帯が前進しているか否かを判断する(S1445)。推奨行動提示部112Ddは、前進させた睡眠覚醒時間帯に基づき利用者のSPB-SMを再計算し、再計算した利用者のSPB-SMと出発地の日の出時刻及び日の入り時刻に基づき、利用者に推奨する光照射時間帯を再計算する(S1447)。推奨行動提示部112Ddは、再計算した光照射時間帯を記憶部113Dに格納する(S1439)。推奨行動提示部112Ddが、処理S1439~処理S1447を繰り返すことにより、睡眠覚醒スケジュールを前進させることにより渡航先での適応を図ることができる。例えば、渡航の2~3日以上前から調整を行う場合には、調整開始後の2~3日後以降、睡眠覚醒時間帯が実際に前進していれば、光照射のタイミングはその前進した幅以内で、SPB-SMを超えて前倒しすることが可能である。
また、出発地における日の入り時刻よりも遅い時間に光を浴びることで体内時計の位相の前進が妨げられ、後退してしまう。このため、推奨行動提示部112Ddは、「出発地における日没時刻以降に光を浴びないよう」に利用者又はサービスプロバイダへ助言を送信してもよい。このとき、情報処理装置110Dは、利用者が使用する照明デバイスとネットワーク50を介して接続し、出発地における日の入りに照明又はブルーライトを自動的に消灯又は減灯するよう操作してもよい。上述したように、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続することにより照明制御システムを構成することができる。さらに、出発地における午後(南中時刻以降)の遮光により体内時計の位相の前進が促される。このため、推奨行動提示部112Ddは、「出発地における午後以降に光を浴びないよう」に利用者又はサービスプロバイダへ助言を送信してもよい。また、情報処理装置110Dは、利用者が使用する照明デバイスとネットワーク50を介して接続し、その時刻に照明又はブルーライトを自動的に消灯又は減灯するよう操作してもよい。上述したように、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続することにより照明制御システムを構成することができる。
ここで、(B)体内時計の周期を一時的に24時間より大きく延長させ、睡眠覚醒スケジュールを後退させることにより渡航先での適応を図りたい場合の処理について説明する。図38は、本発明の一実施形態に係る体内時計の周期を24時間より遅らせ、睡眠覚醒スケジュールを後退させる場合の処理を説明するフロー図である。なお、なお、図38の結合子Bは、図37に示した結合子Bに対応する。即ち、図38の処理S1451は、図37の判断S1433において、利用者が体内時計を前進させること、即ちパターン(A)を選択しなかったと判断された場合の処理を示す。
(B)体内時計の周期を一時的に24時間より大きく延長させ、睡眠覚醒スケジュールを後退させることにより渡航先での適応を図ることを選択した場合、SPB-SMから南中時刻まで(午前中)の遮光及び日の入り以降SPB-SMまで(夜間前半)の光照射により体内時計の位相の後退が促される。このため、推奨行動提示部112Ddは、記憶部113Dのデータベース114Dに格納された利用者のSPB-SMを読み込むとともに、ネットワーク50を介して、出発地の日の出時刻及び日の入り時刻を読み込む(S1451)。推奨行動提示部112Ddは、読み込んだ利用者のSPB-SMと出発地の日の出時刻及び日の入り時刻に基づき、利用者に推奨する光照射時間帯を算出する(S1453)。推奨行動提示部112Ddは、算出した光照射時間帯を記憶部113Dに格納する(S1455)。
推奨行動提示部112Ddは、通信部115Dからネットワーク50を介して端末へ光照射時間帯を送信し(S1457)、端末は、受信した利用者に推奨する光照射時間帯を表示する。例えば、推奨行動提示部112Ddは、SPB-SMから南中時刻まで及び日の入り以降SPB-SMまでの時刻に遮光及び光照射を行うよう利用者又はサービスプロバイダへ助言する。このとき、情報処理装置110Dは、利用者が使用する照明デバイスとネットワーク50を介して接続し、SPB-SMから南中時刻まで及び日の入り以降SPB-SMまでの時刻に照明又はブルーライトを自動的に点灯、消灯、減灯するよう操作してもよい。上述したように、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100を照明機器と接続することにより照明制御システムを構成することができる。
さらに、推奨行動提示部112Ddは、利用者の起床時刻(睡眠覚醒時間帯)が実際に後退しているか否かを判断する(S1459)。光照射時間帯を提示した後の利用者の起床時刻は、端末を介して利用者が入力してもよく、ウェアラブル端末による検出や携帯端末のアラーム停止操作時刻を、ネットワーク50を介して情報処理装置110Dが受信してもよい。利用者の睡眠覚醒時間帯が実際に後退していない場合は、推奨行動提示部112Ddは、同じ光照射時間帯を端末に送信し、表示させる(S1457)。また、利用者の睡眠覚醒時間帯が実際に後退している場合には、推奨行動提示部112Ddは、渡航先のスケジュールに対応可能な範囲まで十分に睡眠覚醒時間帯が後退しているか否かを判断する(S1461)。推奨行動提示部112Ddは、後退させた睡眠覚醒時間帯に基づき利用者のSPB-SMを再計算し、再計算した利用者のSPB-SMと出発地の日の出時刻及び日の入り時刻に基づき、利用者に推奨する光照射時間帯を再計算する(S1463)。推奨行動提示部112Ddは、再計算した光照射時間帯を記憶部113Dに格納する(S1455)。推奨行動提示部112Ddが、処理S1455~処理S1463を繰り返すことにより、睡眠覚醒スケジュールを後退させることにより渡航先での適応を図ることができる。例えば、渡航の2~3日以上前から調整を行う場合には、調整開始後の2~3日後以降、睡眠覚醒時間帯が実際に後退していれば、光照射のタイミングはその後退した幅以内で、SPB-SMを超えて後退させることが可能である。
[個人別の概日リズムに基づく肥満及び高血糖予防に最適な摂食時刻の提示方法]
肥満やメタボリック症候群によって生じる、高血圧、高脂血症、耐糖能異常、そして糖尿病や心筋梗塞や脳梗塞などは公衆衛生上の非常に重大な問題である。一方、脂肪細胞・脂肪組織やインスリン分泌能・耐糖能には日内リズムが存在することが知られている。たとえば、夜に脂肪細胞は合成能が高まり、また、インスリン分泌能が低下すること、逆に朝は脂肪細胞の活性は低く、インスリン分泌能が高いことが知られている。さらには、起床覚醒リズムの乱れが肥満や耐糖能異常につながることも知られている。例えば、以下の文献を参照。
GIMBLE, Jeffrey M., et al. Circadian rhythms in adipose tissue: an update. Current Opinion in Clinical Nutrition & Metabolic Care, 2011, 14.6: 554-561.
KIEHN, Jana‐Thabea, et al. Circadian rhythms in adipose tissue physiology. Comprehensive Physiology, 2011, 7.2: 383-427.
BODEN, Guenther, et al. Evidence for a circadian rhythm of insulin secretion. American Journal of Physiology-Endocrinology And Metabolism, 1996, 271.2: E246-E252.
Shi, S. Q., Ansari, T. S., McGuinness, O. P., Wasserman, D. H., & Johnson, C. H. (2013). Circadian disruption leads to insulin resistance and obesity. Current biology : CB, 23(5), 372-81.
ROENNEBERG, Till, et al. Social jetlag and obesity. Current Biology, 2012, 22.10: 939-943.
一方で、大雑把に「1日の中で朝などの早い時間に食べると肥満が生じにくい」、「1日の中で夜などの遅い時間に食べると肥満が生じやすい」ということは既存研究で示されているが、具体的にそれが何時なのか、また、個人による差がどの程度存在しているのかについては、全く明らかではなかった。
本発明者は、コホート調査により、概日リズムとそれに基づく摂食時刻に応じた体重変動を調査することで、個人によって体重変動や体脂肪量の増減に結びつきやすい食事時刻がそれぞれ異なって存在することを明らかにした。
また、主観的真夜中時刻がそれぞれ異なる個人に対して、一定量の炭水化物負荷を行い、その血糖値変動を測定することで、個人によって血糖値が上昇しにくい時刻と上昇しやすい時刻がそれぞれ存在することを明らかにした。
図39は、普段の主観的食事時刻が体重変動に与える影響を、食事時刻間の相関を共分散構造分析にて調整した解析結果を示す図である。図39においては、共分散構造分析による諸変数の相関を調整した標準化係数の値をプロットした。この共分散構造分析における、体重増加値の重相関係数の平方(R square)は14%となっており、絶対時刻を基準にした際の7%よりも顕著に高く、体重増加に対する食事時刻の効果は、絶対時刻ではなく相対時刻が重要であることが明らかとなった。
また、図40は、1日の中で任意の時刻に40gの炭水化物(rice ball等)を摂取した際の、摂取時点の血糖値と、その1時間後の血糖値の差分を示す図である(横軸は摂取時点の相対時刻)。図40においても、絶対時刻で分析をすると有意差(p < 0.05)が出ないものの、主観的真夜中を基準とした相対時刻で分析を行った結果、有意差が出た。
上記のように肥満・体重増加・体脂肪量の増加と高血糖は「その者の体内時計に照らしていつ食事を食べるか」に強く影響を受けることが明らかとなった。また、本発明者の調査により、食事時刻の不規則性(一日の中で行われる摂食時刻のばらつき、時刻の標準偏差)も、肥満・体重増加・体脂肪量増加と高血糖を引き起こすことが明らかとなった。一実施形態において、肥満・高血糖・体重増加・体脂肪量増加を予防する、又は改善させるための最適な摂食時刻を提示する方法を提供する。
また、Social Jet Lag(平日と休日の睡眠時間帯のズレ)は肥満及び高血糖を引き起こすことが知られている(ROENNEBERG, Till, et al. Social jetlag and obesity. Current Biology, 2012, 22.10: 939-943.)。さらには、その者の本来の体内リズムから乖離した睡眠覚醒スケジュールを送ることも体重増加及び糖尿病発症のリスクとなることが本発明者の調査で明らかとなった。しがって、一実施形態において、個人別の概日リズムに基づく生活時刻の提示システム100は、睡眠時間帯に関する助言も同時に行う。
図41は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Eを説明するブロック構成図である。本実施形態においては、システム100は、個人別の概日リズムに基づく肥満及び高血糖予防に最適な摂食時刻を提示するために、情報処理装置110に代えて情報処理装置110Eを備える。情報処理装置110Eは、例えば、制御部111E、記憶部113E、通信部115E及び電源117Eを備え、出力部119Eをさらに備えてもよい。制御部111Eの基本的な構成は、制御部111と同様であるが、個人別の概日リズムに基づく肥満及び高血糖予防に最適な摂食時刻の提示を行う推奨時刻算出部112Ecを備える点、及び個人別の概日リズムに基づく肥満および高血糖予防に最適な摂食時刻を提示する推奨行動提示部112Edを備える点で制御部111とは異なる。記憶部113E、通信部115E、出力部119Eの構成は、それぞれ記憶部113、通信部115、出力部119と同様の構成であってもよく、詳細な説明は省略する。さらに、情報処理装置110Eは、その他に公知の情報処理装置が備える各種の電子機器を備えてもよい。
推奨時刻算出部112Ecは、利用者のSPB-SM、又はその他の方法により取得された本来の生理的な睡眠時間帯の中間時間(以下、これも便宜的にSPB-SMと称する)を基に、利用者の肥満及び高血糖予防に最適な摂食時刻を算出するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨時刻算出部112Ecは、例えば、記憶部113Eに格納され、制御部111Eで実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。なお、推奨時刻算出部112Ecは、記憶部113Eに格納された利用者のSPB-SM、又はその他の方法により取得された本来の生理的な睡眠時間帯の中間時間を読み込んで、利用者の肥満及び高血糖予防に最適な摂食時刻を算出してもよく、上述したSPB-SM算出部112bのように、利用者のSPB-SMを算出してもよい。
推奨行動提示部112Edは、個人別の概日リズムに基づく肥満および高血糖予防に最適な行動時刻を提示するアプリケーションプログラム又はモジュール等により構成される。推奨行動提示部112Edは、例えば、記憶部113Eに格納され、制御部111Eで実行されるアプリケーションプログラム又はモジュール等であってもよい。
図42は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置110Eでの最適な摂食時刻の算出処理を説明するフロー図である。推奨時刻算出部112Ecは、記憶部113Eのデータベース114Eに格納された利用者のSPB-SMを読み込む(S1501)。推奨時刻算出部112Ecは、SPB-SM算出部112bのように、利用者のSPB-SMを算出してもよい。
推奨時刻算出部112Ecは、利用者のSPB-SMに所定の時間範囲を有する第9の基準値を加算して体重増加に与える影響が少なく、血糖値の上昇も比較的抑制される第1の摂食推奨時間帯を算出する。ここで、第9の基準値とは、1~12時間の範囲であり、第1の摂食推奨時間帯は、SPB-SM+1~12時として算出される。また、SPB-SMに第9の基準値よりも遅い時間範囲の第10の基準値を加算して摂食が有意に体重・体脂肪量を増加させ、血糖値もより高度に上昇させる傾向がある第1の摂食非推奨時間帯を算出する(S1503)。ここで、第10の基準値とは、13~24時間の範囲であり、第1の摂食非推奨時間帯は、SPB-SM+13~24時として算出される。推奨時刻算出部112Ecは、摂食はなるべくSPB-SM+1~12時の間に行うようにし、SPB-SM+13~24時の間の摂食は避けるか、あるいは控えめにするよう助言を提示する(1505)。
第1の摂食非推奨時間帯のうちでも、特にSPB-SM+2~4時の間の摂食は体重増加に与える影響が最小化され、かつ、血糖値の過度な上昇もほとんど生じない。このため、推奨時刻算出部112Ecは、2~4時間の範囲を第11の基準値としてSPB-SM+2~4時を一日の中の最初の食事とするのに最適な第2の摂食推奨時間帯として提示してもよい。なお、この時間は多くの場合に朝食に相当する。
SPB-SM+13~24時はどの時点で摂食しても体重増加および血糖値の増加に有意に影響が生じるため、推奨時刻算出部112Ecは、SPB-SM+13~24時を「体重増加・血糖値上昇に注意が必要な食事時間」として提示してもよい。一方、SPB-SM+16~17時、SPB-SM+19時、SPB-SM+23時に摂食しても体重・体脂肪量増加および血糖値の増加に影響がやや小さい時刻が存在する。そのため、推奨時刻算出部112Ecは、16~17時間、19時間、23時間の範囲を第12の基準値としてSPB-SM+16~17時、SPB-SM+19時、SPB-SM+23時を「やむを得ず摂食をする場合には、肥満および高血糖に与える影響が比較的弱い時間帯」(第3の摂食推奨時間帯)として提示でしてもよい。
一実施形態において、これらの表示は、例えば、図43に示すような端末のインターフェイス601により行ってもよい。インターフェイス601は、例えば、表題611、時刻表示613、アイコン615、注意喚起表示617及びSPB-SM表示619を有してもよい。表題611は、インターフェイス601が肥満及び高血糖予防に最適な摂食時刻を利用者に提示するものであることを明示してもよい。時刻表示613とアイコン615は、推奨時刻算出部112Ecが算出した第1の摂食推奨時間帯、第2の摂食推奨時間帯、第3の摂食推奨時間帯及び第1の摂食非推奨時間帯を時刻表示613に対して配置するアイコン615の数により視覚的に表示する。なお、時刻表示613とアイコン615は、時間軸に対する棒グラフ等の他の公知の表示手段により実現されてもよい。注意喚起表示617は、例えば、摂食は有意に体重を増加させ、血糖値もより高度に上昇させる傾向がある時間帯を表示して、利用者へ注意喚起してもよい。また、SPB-SM表示619は、摂食推奨時間帯を算出するために用いた利用者のSPB-SMを表示する。なお、インターフェイス601は、摂食推奨時間帯を利用者に提示するために、他の公知の表示を含んでもよい。
体重増加には糖質と脂質が、血糖値に対しては糖質が主な影響を与える。このため、SPB+1~12時以外の時刻、又はSPB-SM+16~17時、SPB-SM+19時、SPB-SM+23時以外に利用者が摂食を行う必要がある場合には、推奨時刻算出部112Ecは、糖質と脂質を控えめにし、タンパク質や野菜類などの摂取を優先的に行うように提示してもよい。
相対的な摂食時刻の他に、食事時刻がばらつくことも体重増加および血糖値の増加に有意に影響する。このため、推奨時刻算出部112Ecは、上記で提示された時刻の中で食事時間を選択できたとしてもできなかったとしても、毎日同様の時刻に摂食を行うよう助言を提示することが好ましい。
病院・宿泊施設・交通機関等、業務として顧客に対して食事を提供するサービスを営む者の場合には、推奨時刻算出部112Ecは、利用者にとって望ましい食事時間を一覧で表示することによって、各利用者に最適なタイミングで食事を提供することを可能にできる。
Social Jet Lag(平日と休日の睡眠時間帯のズレ)や、利用者の本来の生理的な睡眠時間帯から乖離した睡眠覚醒スケジュールは、それ自体も肥満および高血糖を引き起こす。このため、推奨行動提示部112Edは、上述した実施形態において説明した個人別の概日リズムに基づく最適な睡眠時間帯を提示し、体重増加及び高血糖を予防したい場合には、最適な睡眠時間帯に従うか、あるいは乖離する場合でも、極力毎日一定の時刻に就寝・起床するよう提示することができる。