以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
<第1の実施形態>
[無線通信システムの概要]
図1は、本技術の第1の実施形態に係る無線通信システムの概要を示す模式図である。無線通信システム500では、二つの通信装置100(第1の通信装置100a及び第2の通信装置100b)の間で無線通信が行われる。また無線通信システム500では、人体通信網(BAN)の通信方式、及び近接通信(NFC)の通信方式による、無線通信が可能である。
BANは、ユーザの人体10及びその周辺において、直径数メートルの範囲内でデータ通信等を行う通信方式である。BANによる通信は、例えば人体10の内部や表面等を通信経路として、人体10の近くの空間で行われる。具体的には、電界を変動させることで人体10を帯電させ、人体10の帯電に伴う電界の変動を検出することで、データの送受信等が行われる。従って、BANによる通信は、電界変動を用いた近距離電界通信となると言える。
BANによる通信では、人体表面から外側には、データが漏えいする可能性が低く、セキュリティの高い通信が可能となる。またユーザが触ったものに信号が伝わるため、直観的に通信相手を選択することが可能となる。
BANの通信方式としては、例えばISO/IEC 17982 CCCC PHY(Closed Capacitive Coupling Communication Physical Layer)や、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)802.15.6等の標準規格が用いられる。これらの規格では、いずれも数Hzから数十MHzの広い周波数帯域が用いられる。本実施形態では、BANの通信方式は、第2の通信方式に相当する。
NFCは、数センチメートル程度の至近距離で、非接触によりデータ通信等を行う通信方式である。NFCは、例えば電子定期券や電子マネー等で利用される。NFCでは、磁界アンテナ等を用いて磁界の変動を検出することで、データ通信等が実行される。すなわち、NFCは、磁界変動を用いた近距離磁界通信となると言える。
NFCの通信方式としては、ISO/IEC 18092(NFCIP-1)等の標準規格が用いられる。NFCによる通信では、13.56MHzを中心周波数とする帯域幅が1MHz程度の比較的狭い周波数帯域が用いられる。本実施形態では、NFCの通信方式は、第1の通信方式に相当する。
第1の通信装置100aは、NFCリーダ/ライターとして機能し、例えば店舗等に配置されて電子マネーの認証・決済等に用いられる。第1の通信装置100aは、処理部110aと、近接通信部120aと、人体通信部130aとを有する。処理部110aには、例えば会計用のアプリケーションやデバイスドライバ(NFCドライバ)等が実装される。
近接通信部120aは、NFCの通信方式に従って符号化されたNFC信号を用いて、NFCの通信方式での通信を行う。近接通信部120aは、NFC信号の送受信を行うNFCアンテナ121aと、NFC信号による通信処理を行うNFCチップ122aとを含む。
NFCアンテナ121aとしては、例えば磁界変動を用いた信号を検出可能なコイルアンテナ等が用いられる。NFCチップ122aは、(Inter Integrated Circuit)やSPI(Serial Peripheral Interface)等のバスを介して処理部110a(NFCドライバ)との通信を行う。またNFCチップ122aは、IDデータ等が格納されたセキュアエレメントにアクセス可能である。
人体通信部130aは、BANの通信方式に従って符号化されたBAN信号を用いて、BANの通信方式での通信を行う。人体通信部130aは、BAN信号の送受信を行うBANアンテナ131aと、BAN信号による通信処理を行うBANチップ132aとを含む。
BANアンテナ131aとしては、例えば電界変動を用いた信号を検出可能な容量性のアンテナ等が用いられる。BANチップ132aは、BANアンテナ131aの出力に基づいて通信処理を行う。なお、図1に示すように、BANチップ132aは、NFCチップ122aに接続される。すなわちBANの通信方式による通信は、NFCチップ122aを介して実行されることになる。
第2の通信装置100bは、例えばユーザが携帯する端末装置やカードデバイス等であり、NFCカード(電子マネー用のICカード等)として機能する。第2の通信装置100bは、処理部110bと、近接通信部120bと、人体通信部130bとを有する。処理部110bには、例えば電子マネーのIDや残高等を扱うためのアプリケーション等が実装される。
近接通信部120bは、NFCアンテナ121bとNFCチップ122bとを含み、NFCの通信方式での通信を行う。また人体通信部130bは、BANアンテナ131bとBANチップ132bとを含み、BANの通信方式での通信を行う。なおBANチップ132bは、NFCチップ122bに接続される。近接通信部120b及び人体通信部130bは、例えば第1の通信装置100aの近接通信部120a及び人体通信部130aと同様の機能を有する。
例えば、ユーザが無線通信システム500を利用して、会計等を行うとする。この場合、第1の通信装置100a(処理部110a)に実装されたアプリケーションからの指示等に基づいて、NFCチップ122aでは、NFCフォーマットのデータ信号等が生成される。このデータ信号は、BANチップ132aに入力され、BANアンテナ131aからBAN信号(電界信号)として送信される。
ユーザは、例えば第2の通信装置100bを携帯したまま、BANアンテナ131aに触れる、あるいは手を近づけるといった動作を行う。これにより、第1の通信装置100aから送信されたBAN信号は、ユーザが携帯する第2の通信装置100b(BANアンテナ131b)により検出される。すなわち、BAN信号は、ユーザの人体を経路として各通信装置100の間で送受信される。
BANアンテナ131bにより受信されたBAN信号は、BANチップ132bを介してNFCチップ122bに入力される。この際、BAN信号は、NFCフォーマットのデータ信号に変換され、変換されたデータ信号に応じた処理が実行される。また第2の通信装置100bから第1の通信装置100aにデータを送る場合にも、NFCフォーマットのデータ信号がBAN信号に変換されて送信される。これにより、ユーザは、通信相手(BANアンテナ131a)に触れる、あるいは手をかざすことで、電子マネー等を使うことが可能となる。
このように、無線通信システム500では、BANの通信方式を使ってNFCフォーマットのデータを伝送する「NFC over BAN」という方法が用いられる。すなわち、NFC over BANは、人体通信によりNFCで用いられる認証やデータ通信を行う方法である。別の観点では、NFCのプラットフォーム(図1の点線のブロック)を利用して、BANによる通信を実現する方法であるとも言える。
[通信装置の構成]
図2は、通信装置100の構成例を示す模式図である。以下で説明する内容は、図1に示す第1の通信装置100a及び第2の通信装置100bの両方に適用可能である。
通信装置100は、アンテナ50と、アンテナスイッチ51と、受信ユニット52と、送信ユニット53と、デジタル処理部54と、アクセス制御部55と、コントローラ56とを有する。なお、図2には、BANの通信方式による通信を行うための構成(人体通信部130aや130b)の一例が示されている。
この他、通信装置100には、NFCの通信方式による通信を行うための構成(近接通信部120aや120b)が適宜設けられてよい。またNFCの通信と共用可能となるように、図2に示す各部が適宜構成されてもよい。
アンテナ50は、他の装置から送信されたBANの通信方式の信号(BAN信号)を受信する。またアンテナ50は、後述する送信ユニット53により生成されるBAN信号を送信する。このようにアンテナ50は、BAN信号の送受信が可能であり、図1に示すBANアンテナ131aや131bとして機能する。本実施形態では、アンテナ50は、受信部に相当する。
図2に示すように、アンテナ50は、所定の間隔で互いに略平行に配置された2枚の電極57を有する。例えば2枚の電極57の容量カップリングにより生じる電界の変化が、電極57の電位の変化として検出される。これにより電界を利用して伝送されるBAN信号等を受信することが可能である。また、電極57間の電位を制御して電極57間の電界を変化させることで、BAN信号等を送信することが可能である。
2枚の電極57は、例えば所定の厚みを持った基板の表面及び裏面にそれぞれ形成される。電極57のサイズや基板の厚み等は、例えばBAN信号を適正に送受信可能となるように適宜設定される。アンテナ50の具体的な構成は限定されない。
アンテナ50により受信される信号には、BANとは異なる他の方式の無線通信の信号等が含まれることがあり得る。例えばBANで用いられる周波数帯域と重なる周波数帯域や、周辺の周波数帯域を使った無線通信等が行われる場合には、その無線通信で用いられる信号が、アンテナ50により受信されるといったことが考えられる。
なお本開示において、無線通信とは、例えば装置間をつなぐ通信用ケーブル等を用いずに行われる通信である。例えば電磁波を利用した無線通信、電界の変動を利用した電界通信、磁界の変動を利用した磁界通信等が無線通信に含まれる。従って、例えば人体を接触あるいは近接することで、人体を介して行われる人体通信も無線通信に含まれる。上記したBANやNFCは、無線通信の一例である。
以下では、通信用ケーブル等を用いずに伝送される信号を無線信号と記載する。無線信号には、例えば電界の変動により搬送されるBAN信号が含まれる。すなわち無線信号は、通信対象と人体との接触及び接近により受信される信号を含む。また例えば、無線信号には、磁界の変動により搬送されるNFC信号や、携帯電話、WiFi(無線LAN)、地上デジタル放送等で用いられる電磁波により搬送される信号等が含まれる。
このように、アンテナ50は、互いに異なる複数の通信方式の信号を含む無線信号を受信することになる。またアンテナ50では、受信された無線信号は、電気信号である受信信号に変換されて出力される。すなわち受信信号は、無線信号の受信に応じて生成された電気信号である。なお図2に示すように、受信信号は、2枚の電極57から出力される差動信号となる。受信信号は、後段のアンテナスイッチ51に出力される。
アンテナスイッチ51は、コントローラ56から出力された制御信号に基づいて、入力する電気信号の出力先を切替える。アンテナ50は、受信ユニット52に接続される受信用スイッチ58aと、送信ユニット53に接続される送信用スイッチ58bとを含む。受信用スイッチ58a及び送信用スイッチ58bは、それぞれアンテナ50の2枚の電極に接続される2つのスイッチ素子を有する。
例えば、通信相手からのBAN信号等を受信する場合には、受信用スイッチ58aの2つのスイッチ素子がONとなり、送信用スイッチ58bの2つのスイッチ素子がOFFとなる。これにより、アンテナ50と受信ユニット52が接続される。また例えばBAN信号を送信する場合には、受信用スイッチ58aがOFFとなり、送信用スイッチ58bがONとなる。これにより、アンテナ50と送信ユニット53が接続される。
受信ユニット52は、受信信号に対して増幅、フィルタリング、AD変換等の処理を実行して、後段のデジタル処理部54に出力する。従って、受信ユニット52に含まれる各部や配線等は、受信信号を伝送する伝送路60として機能するとも言える。
受信ユニット52は、受信用増幅部61、第1のバンドパスフィルタ62、帯域切替部63、自動利得制御部64、第2のバンドパスフィルタ65、及びデジタル変換部66を有する。以下では、第1のバンドパスフィルタ62を、第1のBPF62(Band Pass Filter)と記載し、第2のバンドパスフィルタ65を、第2のBPF65と記載する。
受信用増幅部61は、受信用スイッチ58aを介して出力される受信信号を増幅する。一般にアンテナ50から出力された電気信号は、強度が小さく微弱である。受信用増幅部61は、こうした微弱な電気信号を信号処理等に用いられる強度まで増幅する低ノイズアンプ(LNA:Low Noise Amplifier)として機能する。増幅された受信信号は、第1のBPF62に出力される。
受信用増幅部61としては、例えばCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)回路等を用いた増幅器が用いられる。この他、例えばガリウム砒素(GaAs)またはシリコンゲルマニウム(SiGe)等を用いた低雑音の増幅器が用いられてもよい。またアンテナ50の受信感度等に応じて、受信用増幅部61のゲインや雑音指数等が適宜設定されてよい。
第1のBPF62は、受信用増幅部61により増幅された受信信号をフィルタリングする。例えば、第1のBPF62は、NFC信号及びBAN信号を含む周波数帯域の信号を通過させ、それ以外の周波数帯域の信号を除去するフィルタとして機能する。すなわち、第1のBPF62は、NFC信号及びBAN信号を抽出するフィルタであるとも言える。
第1のBPF62としては、BAN信号の通信帯域の上限である数十MHzよりも高い周波数を持つ信号を減衰するように構成されたバンドパスフィルタ等が用いられる。第1のBPF62の具体的な構成は限定されず、例えばNFC信号及びBAN信号を抽出可能な任意のフィルタが用いられてよい。
帯域切替部63は、第1のフィルタ71と、第2のフィルタ72と、切替スイッチ73とを有する。また帯域切替部63は、図示しないスルースイッチを有する。
第1のフィルタ71は、NFCの通信方式に応じた周波数帯域を抽出する。この周波数帯域は、例えばNFC信号に用いられる通信帯域(中心周波数が13.56MHz、帯域幅が1MHz程度)を基準として、NFC信号の周波数成分が通過可能となるように適宜設定される。すなわち、第1のフィルタ71は、NFCの通信方式の通信帯域を通過する帯域通過フィルタ(BPF)であるとも言える。本実施形態では、第1のフィルタ71は、抽出部に相当する。
第2のフィルタ72は、NFCの通信方式に応じた周波数帯域を規制する。この周波数帯域は、例えばNFCの通信帯域を基準として、NFC信号の周波数成分等が減衰(除去)されるように適宜設定される。すなわち、第2のフィルタ72は、NFCの通信方式の通信帯域を除去する帯域除去フィルタ(バンドストップフィルタ:BSF)であるとも言える。後述するように、第2のフィルタ72は、NFCの急峻な通信帯域を規制するノッチフィルタとして構成される。本実施形態では、第2のフィルタ72は、規制部に相当する。
本実施形態では、第1のフィルタ71と、第2のフィルタ72とは、所定の回路の接続を切り替えることで実現される。すなわち、第1のフィルタ71及び第2のフィルタ72は、同一回路(以下フィルタ回路70と記載する)により構成されるフィルタとなる。この場合、第1のフィルタ71に設定される周波数帯域(第1の帯域)と、第2のフィルタ72に設定される周波数帯域(第2の帯域)とは、例えば略同様の周波数帯域となる。第1及び第2のフィルタ71及び72については、図5及び図9等を用いて、後に詳しく説明する。
切替スイッチ73は、第1の入力スイッチ74a、第1の出力スイッチ75a、第2の入力スイッチ74b、及び第2の出力スイッチ75bを有する。なお各スイッチは、受信信号(差動信号)に含まれる正相信号及び逆相信号の経路を切り替えるための2つのスイッチ素子により構成される。
第1の入力スイッチ74aは、第1のBPF62と第1のフィルタ71との間に接続される。第1の出力スイッチ75aは、第1のフィルタ71と自動利得制御部64との間に接続される。また、第2の入力スイッチ74bは、第1のBPF62と第2のフィルタ72との間に接続される。第2の出力スイッチ75bは、第2のフィルタ72と自動利得制御部64との間に接続される。
スルースイッチは、第1のBPF62を通過した受信信号をそのまま通過して、自動利得制御部64に出力するスイッチである。すなわちスイッチがONの場合、スルースイッチは、帯域切替部63の入力側と出力側を短絡する配線として機能するとも言える。
スルースイッチとしては、例えば第1及び第2のフィルタ71及び72と並列に接続されるスイッチ素子が用いられる。あるいは、各フィルタ内にスルースイッチが適宜構成されてもよい。この他、スルースイッチを構成する方法は限定されない。本実施形態では、スルースイッチは、受信信号を通過する通過部に相当する。
第1のフィルタ71、第2のフィルタ72、及びスルースイッチは、それぞれが受信信号を伝送する伝送素子として機能する。また第1のフィルタ71、第2のフィルタ72、及びスルースイッチは、互いに通過帯域が異なっている。従って、帯域切替部63は、互いに通過帯域の異なる複数の伝送素子を含んで構成されているとも言える。本実施形態では、伝送素子は、伝送部に相当する。
また帯域切替部63では、例えば切替スイッチ73及びスルースイッチが適宜動作することで、帯域切替部63内での受信信号の経路が切り替えられる。具体的には、第1のフィルタ71を通過する経路と、第2のフィルタ72を通過する経路と、スルースイッチを通過する経路とがそれぞれ切り替えられて、伝送路60として用いられる。すなわち、帯域切替部63では、受信信号を伝送する伝送路60に複数の伝送素子の各々が切り替えて設定される。
自動利得制御部64は、帯域切替部63から出力された受信信号の強弱に応じて、受信信号を適正なレベルに増幅する。自動利得制御部64としては、例えばAGC(Auto Gain Control)機能を持った増幅回路等が用いられる。例えば、受信信号の強度が低い場合には増幅回路の利得を大きくし、受信信号の強度が高い場合には増幅回路の利得を抑えるといった制御が行われる。これにより、受信信号の出力値を安定させることが可能である。自動利得制御部64の具体的な構成は限定されず、AGC機能を持った任意の回路が用いられてよい。
第2のBPF65は、自動利得制御部64により増幅された受信信号をフィルタリングする。具体的には、第2のBPF65は、NFC信号及びBAN信号を含む周波数帯域の信号を通過させ、自動利得制御部64により増幅されたノイズ成分等を除去する。
第2のBPF65としては、BAN信号の通信帯域の上限である数十MHzよりも高い周波数を持つ信号を減衰するように構成されたバンドパスフィルタ等が用いられる。第2のBPF65の具体的な構成は限定されず、例えばNFC信号及びBAN信号を抽出可能な任意のフィルタが用いられてよい。
デジタル変換部66は、第2のBPF65を通過したアナログ信号(受信信号)を、デジタル信号に変換するA/D変換器(ADC:Analog to Digital Converter)である。例えば連続的な電気信号であった受信信号は、所定の分解能でデジタル化される。デジタル変換部66の具体的な構成は限定されず、例えば受信信号をデジタルサンプリング可能な任意のデジタル変換回路等が適宜用いられてよい。デジタル信号に変換された受信信号は、デジタル処理部54に出力される。
送信ユニット53は、デジタル処理部54から出力されるデジタル信号に基づいて、BAN信号を送信するためのアナログ信号(送信用のBAN信号)を出力する。送信ユニット53は、アナログ信号を増幅するための送信用増幅部59を有する。送信用増幅部59は、例えば増幅率を変更可能な増幅器である。これにより、送信用のBAN信号の強度を適正に調整することが可能である。
また、送信ユニット53には、デジタル信号をアナログ信号に変換するD/A変換器(DAC:Digital to Analog Converter)や、ノイズ等を除去するためのフィルタ等が適宜設けられる(いずれも図示省略)。例えば、BAN通信の送信時には、送信ユニット53から出力された送信用のBAN信号が、送信用スイッチ58bを介してアンテナ50に出力される。この結果、アンテナ50からは、BAN通信を行うための無線信号が出力される。
デジタル処理部54は、デジタル変換部66から出力されたデジタル信号の検出処理を実行し、プログラム等で利用可能なデータ信号を生成する。またデジタル処理部54は、コントローラ56等により生成されたデータ信号に基づいてデジタル信号の生成処理を実行する。このようにデジタル処理部54は、物理的な電気信号とプログラムで扱われるデータ信号との間を仲介する物理層として機能する。
デジタル処理部54としては、デジタル領域での信号処理が可能なPHYチップ等が用いられる。デジタル処理部54の具体的な構成は限定されず、例えば物理層として機能する任意の回路等が用いられてよい。
本実施形態では、デジタル処理部54は、NFC信号を伝搬する伝搬波(NFCキャリア)のレベル判定を行う。具体的には、受信信号のうちNFCの通信方式で用いられる第1の帯域の周波数成分の強度(レベル)が検出される。この検出結果に基づいてNFCキャリアのレベルが判定される。レベル判定については、図13等を参照して後に詳しく説明する。
アクセス制御部55は、デジタル処理部54に接続され、データ信号の入出力等の制御を行う。アクセス制御部55は、例えばアドレスの指定や接続先の制御等を行うメディアアクセス制御(MAC:Media Access Control)を実現するMAC層として機能する。
例えば、デジタル処理部54により実行されたレベル判定の結果等を表すデータ信号は、アクセス制御部55を介してコントローラ56に出力される。また例えば、コントローラ56等により生成されたデータ信号が、アクセス制御部55を介してデジタル処理部54に適宜入力される。アクセス制御部55の具体的な構成は限定されない。
コントローラ56は、例えばCPU、ROM、RAM、及びHDD等のコンピュータの構成に必要なハードウェアを有する。CPUがROM等に予め記録されているプログラムをRAMにロードして実行することにより、本技術に係る通信方法が実行される。コントローラ56の具体的な構成は限定されず、例えばFPGA(Field Programmable Gate Array)、やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のデバイスが用いられてもよい。
プログラムは、例えば種々の記録媒体を介して通信装置100にインストールされる。あるいは、インターネット等を介してプログラムのインストールが実行されてもよい。
コントローラ56は、アクセス制御部55から入力された各種のデータ信号等に基づいて、通信装置100の各部を制御する。またコントローラ56は、BANの通信方式による通信を実行する。本実施形態では、コントローラ56は、通信部に相当する。
本実施形態では、コントローラ56は、デジタル処理部54によるNFCキャリアのレベル判定の結果をもとに、通信装置100の動作モードを決定する。通信装置100の動作モードには、例えばNFCの通信方式の信号を検出する検出モード、BANの通信方式による通信を実行する通信モード、待機状態に移行する待機モード、装置を停止する停止モード等が含まれる。
例えば、NFCキャリアは、BANの通信方式において妨害波となる可能性がある。このため通信装置100では、例えばNFCキャリアのレベルが十分に小さい場合には、通信モードを選択してBAN通信を実行し、NFCキャリアのレベルが十分に大きい場合には、通信モード以外の他の動作モードを選択するといった処理が実行される。
このように、通信装置100では、無線信号の受信に応じて生成された受信信号に含まれるNFC信号の強度に基づいて、NFCの通信方式とは異なるBANの通信方式による通信を実行するか否かが判定される。言い換えれば、NFCキャリアの強度を検出することで、BANの通信方式による通信が適正に実行可能であるか否かを判定するとも言える。本実施形態では、デジタル処理部54及びコントローラ56は、判定部として機能する。
またコントローラ56は、BAN通信を実行するか否かの判定結果に応じて、帯域切替部63の第1のフィルタ71、第2のフィルタ72、及びスルースイッチを切り替えるための制御信号を生成する。これにより、受信信号の伝送路60の通過帯域が適宜切り替えられる。このように、コントローラ56は、BAN通信を実行するか否かの判定結果に基づいて、受信信号を伝送する伝送路60の通過帯域を制御する。本実施形態では、帯域切替部63及びコントローラ56により、帯域制御部が実現される。
[帯域切替部の構成]
以下では、帯域切替部63を構成するフィルタ回路70について説明する。図3は、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)の構成例を示す模式図である。図4は、ハイパスフィルタ(HPF:High Pass Filter)の構成例を示す模式図である。フィルタ回路70は、例えばLPFやHPF等を組み合わせることで構成される。
図3Aは、LPF80の回路図の一例である。LPF80は、入力端子81と、出力端子82と、抵抗素子83と、容量素子84と、分岐点85とを有する。LPF80では、入力端子81と出力端子82とが抵抗素子83を介して接続される。また図3Aに示す例では、抵抗素子83と出力端子82との間に設けられた分岐点85とGNDとの間には、容量素子84が接続される。
図3Bは、LPF80の周波数特性を模式的に示すグラフである。グラフの横軸は周波数fであり、縦軸はLPF80の利得である。グラフに示すように、LPF80は、周波数が低い信号成分だけを通し、周波数が高い成分を減衰(フィルタリング)する。このようにLPF80は、低周波成分を抽出する周波数特性となっている。
図4Aは、HPF86の回路図の一例である。HPF86は、LPF80における接続を切り替えることで実現することが可能である。例えば図4Aに示すように、HPF86では、入力端子81と出力端子82とが容量素子84を介して接続される。また容量素子84と出力端子82との間に設けられた分岐点85とGNDとの間には、抵抗素子83が接続される。従って、HPF86は、図3Aに示すLPF80において入力端子81とGNDとの接続を逆にした接続となっていると言える。
図4Bは、HPF86の周波数特性を模式的に示すグラフである。グラフの横軸は周波数fであり、縦軸はHPF86の利得である。グラフに示すように、HPF86は、周波数が高い信号成分だけを通し、周波数が低い成分を減衰(フィルタリング)する。すなわち、HPF86は、LPF80とは反対に、高周波成分を抽出する周波数特性となっている。
このように、LPF80及びHPF86は、入力端子81とGNDとを入れ替えるだけで、同様の素子(抵抗素子83及び容量素子84)を用いたままそのフィルタ特性を切り替えることが可能である。本実施形態では、これらの性質を応用することで、図2に示す帯域切替部63の第1のフィルタ71及び第2のフィルタ72が構成される。
図5は、第1のフィルタ71の具体的な構成例を示す回路図である。第1のフィルタ71は、
NFC信号の周波数帯域である第1の帯域を通過し、第1の帯域とは異なる帯域の信号を規制するフィルタである。第1のフィルタ71は、8パスのバンドパスフィルタ(8-Path Band Pass filter)となるフィルタ回路70により構成される。
第1のフィルタ71は、差動入力端子20と、第1の接続部21と、出力線22と、差動出力端子23と、抵抗24a及び24bと、キャパシタ25a~25hと、第2の接続部26と、スイッチ素子1a~1hと、スイッチ素子2a~2hと、スイッチ素子3a~3hと、スイッチ素子4a~4hとを有する。また第1のフィルタ71は、局部発振器27、及びリングカウンタ28を有する。
なお図5では、キャパシタ25c~25g、スイッチ素子1c~1gと、スイッチ素子2c~2g、スイッチ素子3c~3g、及びスイッチ素子4c~4gの図示が省略されている。
差動入力端子20は、正相入力端子20a(VINP)と、逆相入力端子20b(VINN)とを有する。正相入力端子20aには、図2に示す第1のBPF62を通過した受信信号(差動信号)のうち、正相信号が入力される。また逆相入力端子20bには、第1のBPF62を通過した受信信号のうち、逆相信号が入力される。本実施形態では、差動入力端子20は、受信された無線信号が入力される入力端子に相当する。
第1の接続部21は、差動入力端子20に接続され、受信信号を伝送する入力線として機能する。第1の接続部21は、正相入力線21aと、逆相入力線21bとを有する。正相入力線21aの一方の端は正相入力端子20aに接続され、他方の端は抵抗24aに接続される。逆相入力線21bの一方の端は逆相入力端子20bに接続され、他方の端は抵抗24bに接続される。本実施形態では、第1の接続部21は、第1の端子部に相当する。
出力線22は、正相出力線22aと、逆相出力線22bとを有する。差動出力端子23は、正相出力線22aに接続される正相出力端子23a(VOUTP)と、逆相出力線22bに接続される逆相出力端子23b(VOUTN)とを有する。正相出力端子23a及び逆相出力端子23bからは、第1のフィルタ71によりフィルタリングされた正相信号及び逆相信号がそれぞれ出力される。本実施形態では、差動出力端子23は、出力端子となる第3の端子部に相当する。
抵抗24aは、正相側の信号源抵抗であり、正相入力線21aと、正相出力線22aとの間に接続される。抵抗24bは、逆相側の信号抵抗源であり、逆相入力線21bと、逆相出力線22bとの間に接続される。抵抗24a及び抵抗24bは、典型的には同一の抵抗値Rに設定される。本実施形態では、抵抗24a及び抵抗24bは、抵抗部に相当する。
キャパシタ25a~25hは、スイッチ素子1a~1h、スイッチ素子2a~2h、スイッチ素子3a~3h、及びスイッチ素子4a~4hのうち、必要なスイッチ素子がONに切り替わることで、正相信号及び逆相信号をフィルタリングする信号パスとして選択される。なおキャパシタ25a~25hは、典型的には同一の容量値Cに設定される。スイッチ素子の切り替えのタイミングや順序等については、図6を用いて後に具体的に説明する。
第2の接続部26は、GNDに接続された伝送線であり、GND電位となるGND線として機能する。第2の接続部26は、正相用GND線26aと、逆相用GND線26bとを有する。正相用GND線26aは、スイッチ素子2a~2hに接続される。逆相用GND線26bは、スイッチ素子4a~4hに接続される。なお、正相用GND線26a及び逆相用GND線26bは、ともにGNDに接続されるため、同電位(GND電位)となる。本実施形態では、第2の接続部26は、第2の端子部に相当する。
スイッチ素子1aは、正相出力線22aと、キャパシタ25aとの間に接続される。スイッチ素子2aは、キャパシタ25aのスイッチ素子1aが接続される側とは反対側から、正相用GND線26aに接続される。スイッチ素子1a及びスイッチ素子2aは、制御信号φ1に基づいてON/OFFが切り替わる。
スイッチ素子1b~1hは、スイッチ素子1aがキャパシタ25aに接続するのと同様に、正相出力線22aとキャパシタ25b~25hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子1b~1hは、制御信号φ2~φ8に基づいてON/OFFがそれぞれ切り替わる。
スイッチ素子2b~2hは、スイッチ素子2aがキャパシタ25aに接続するのと同様に、正相用GND線26aとキャパシタ25b~25hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子2b~2hは、制御信号φ2~φ8に基づいてON/OFFがそれぞれ切り替わる。
スイッチ素子3aは、逆相出力線22bと、キャパシタ25aとの間に接続される。スイッチ素子4aは、キャパシタ25aのスイッチ素子3aが接続される側とは反対側から逆相用GND線26bに接続される。スイッチ素子3a及びスイッチ素子4aは、制御信号φ5に基づいてON/OFFが切り替わる。
スイッチ素子3b~3hは、スイッチ素子3aがキャパシタ25aに接続するのと同様に、逆相出力線22bとキャパシタ25b~25hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子3b~3hは、それぞれ制御信号φ6、φ7、φ8、φ1、φ2、φ3、φ4に基づいてON/OFFが切り替わる。
スイッチ素子4b~4hは、スイッチ素子4aがキャパシタ25aに接続するのと同様に、逆相用GND線26bとキャパシタ25b~25hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子4b~4hは、それぞれ制御信号φ6、φ7、φ8、φ1、φ2、φ3、φ4に基づいてON/OFFが切り替わる。
このように、フィルタ回路70は、抵抗24a及びBが、出力端子と第1の接続部との間に接続され、キャパシタ25a~25hが、各スイッチ素子を介して、出力端子と第2の接続部26との間に接続された構成となっている。本実施形態では抵抗24a及びBは、抵抗部に相当し、キャパシタ25a~25hは、容量部に相当する。
局部発振器27は、所定の周波数のクロック信号を生成し、リングカウンタ28に供給する。局部発振器27としては、例えば水晶振動子等の発振素子からの基準信号に基づいて動作する位相同期(PLL:Phase lock loop)回路等が用いられる。
リングカウンタ28は、局部発振器27から供給されたクロック信号をカウントすることにより、異なるタイミングでハイレベルとなる8相の制御信号φ1~φ8を生成する。生成された制御信号φ1~φ8は、上記したように、対応するスイッチ素子に供給される。
なお、図5に示すように、第1のフィルタ71において、例えば各スイッチ素子がすべてOFFであるような場合には、正相入力端子20aと正相出力端子23aとが抵抗24aを介して短絡され、逆相入力端子20bと逆相出力端子23bとが抵抗24bを介して短絡される。この場合、差動入力端子20から入力した受信信号は、そのまま差動出力端子に出力される。
このように、第1のフィルタ71のスイッチ素子をすべてOFFにすることで、図2を参照して説明したスルースイッチ76を構成することが可能である。すなわち、スイッチ素子をすべてOFFにすることで、スルースイッチ76をONにすることが可能である。具体的には、正相入力線21a、抵抗24a、及び正相出力線22aが正相信号用のスルースイッチ76として機能し、逆相入力線21b、抵抗24a、及び逆相出力線22bが逆相信号用のスルースイッチ76として機能する。例えば、このような構成が採用されてもよい。
図6は、第1のフィルタ用の制御信号の一例を示す模式図である。リングカウンタ28から出力される制御信号φ1~φ8のパルス87の波形が模式的に図示されている。なお、図6では、制御信号φ4~φ7のパルス87の図示が省略されている。
リングカウンタ28では、制御信号φ1~φ8となる8相のパルス87が、この順番で周期的に出力される。従って例えば、制御信号φ8となるパルス87の出力後は、制御信号φ1となるパルス87が出力され、それ以降のパルス87の出力が繰り返される。
各パルス87は、パルス幅τでハイレベルとなる矩形波である。このパルス幅τは、局部発振器27から出力されたクロック信号の周期と等しい。また8相のパルス87は、周期Tsがパルス幅τの8(=N)倍に等しく、パルス87の位置(パルスの出力のタイミング等)がパルス幅τずつシフトしている。
スイッチ素子1a~1h、スイッチ素子2a~2h、スイッチ素子3a~3h、及びスイッチ素子4a~4hは、制御信号がハイレベルの時にONとなり、制御信号がローレベルの時にOFFとなる。従って、第1のフィルタ71に含まれる各スイッチ素子は、周期Tsで、パルス幅τの間だけ一時的にONとなるように制御される。
例えば、制御信号φ1のパルス87が入力されると、スイッチ素子1a及び2aがONとなる。この結果、正相信号が通過する経路上には、一時的に抵抗24a及びキャパシタ25aによるLPFが構成される(図3参照)。また制御信号φ1のパルス87が入力されると、図示を省略したスイッチ素子3e及び4eがONとなる。この結果、逆相信号が通過する経路上には、一時的に抵抗24a及びキャパシタ25eによるLPFが構成される。
また例えば、制御信号φ5のパルス87が入力されると、スイッチ素子3a及び4aがONとなる。この結果、逆相信号が通過する経路上には、一時的に抵抗24a及びキャパシタ25aによるLPFが構成される。また制御信号φ5のパルス87が入力されると、図示を省略したスイッチ素子1e及び2eがONとなる。この結果、正相信号が通過する経路上には、一時的に抵抗24a及びキャパシタ25eによるLPFが構成される。
このように、スイッチ素子1a~1h及びスイッチ素子2a~2hが、制御信号φ1~φ8に応じて切り替わることで、正相信号が通過する経路上にはLPFが順次構成される。またスイッチ素子3a~3h及びスイッチ素子4a~4hが、制御信号φ5、φ6、φ7、φ8、φ1、φ2、φ3、φ4に応じて切り替わることで、逆相信号が通過する経路上にはLPFが順次構成される。これにより、差動入力端子20に入力された正相信号及び逆相信号(受信信号)は、第1のフィルタ71(8パスのバンドパスフィルタ)によりフィルタリングされる。
なお、本実施形態では8相の制御信号φ1~φ8(8個のパルス87)の周期Tsは、1/Ts=13.56MHzに設定される。従って制御信号のパルス幅τは、τ=1/108.48MHzに設定される。このようなタイミングで、第1のフィルタ71を制御することで、NFC信号の周波数帯域(第1の帯域)である13.56MHzを中心周波数とする帯域を通過するバンドパスフィルタが構成される。
また第1のフィルタ71では、抵抗24a及びBの抵抗値Rや、キャパシタ25a~25hの容量値C等を調整することで、第1のフィルタ71の周波数特性(減衰率の周波数分布等)を所望の特性に設定することが可能である。例えば抵抗値R及び容量値Cは、NFC信号の帯域幅(1MHz程度)の周波数成分を適正に抽出可能となるように適宜設定される。これにより、受信信号に含まれるNFC信号を精度よく抽出することが可能となる。
図7は、第1のフィルタ71の機能的な構成例を示すブロック図である。図8は、図7に示すブロック図の動作を説明するための模式図である。図7に示すように、第1のフィルタ71は、第1のミキサ88aと、LPF80と、第2のミキサ88bとで構成される回路と見做すことが可能である。
第1のミキサ88aは、図5に示すスイッチ素子1a~1h及びスイッチ素子3a~3hに相当する。第1のミキサ88aには、周波数fLOの局部発振信号(LO信号)が入力される。第1のミキサ88aは、差動入力端子20から入力された受信信号(正相信号及び逆相信号)と、周波数fLOの局部発振信号とをミキシング(積算)することで、受信信号の周波数をfLOだけ下げた信号を生成する。すなわち、受信信号は、第1のミキサ88aにより、fLOだけ低い周波数にダウンコンバートされる。
LPF80は、抵抗24a及び抵抗24bとキャパシタ25a~25bに相当する。LPF80は、第1のミキサ88aによりダウンコンバートされた受信信号をフィルタリングして、高周波成分を減衰させ、低周波成分を抽出する。
第2のミキサ88bは、図5に示すスイッチ素子2a~2h及びスイッチ素子4a~4hに相当する。第2のミキサ88bは、LPF80を通過した受信信号と周波数fLOの局部発振信号とをミキシングすることで、受信信号の周波数をfLOだけ高い周波数にアップコンバートする。すなわち、第2のミキサ88bは、第1のミキサ88aにより低周波数に変換された受信信号を、もとの周波数に戻す処理を行うとも言える。
図8の上側には、第1のミキサ88aによるダウンコンバートの一例を示す模式的なグラフが示されている。グラフの横軸及び縦軸は、信号の周波数及び強度である。例えば第1のフィルタ71の抽出対象となる信号(所望波)の周波数をfdとする。この場合、第1のミキサ88aからは、fd-fLOにダウンコンバートされた所望波が出力される。なお、第1のミキサ88aでは、受信信号に含まれる他の周波数成分もダウンコンバートされることになる。
図8の中央には、LPF80によるフィルタリングの一例を示す模式的なグラフが示されている。グラフ中の台形の範囲が、LPF80の通過帯域である。第1のミキサ88aによりダウンコンバートされた所望波は、LPF80を通過する。一方で、LPF80の通過帯域から外れた他の周波数成分(高周波等)は、LPF80により減衰され除去される。
図8の下側には、第2のミキサ88bによるアップコンバートの一例を示す模式的なグラフが示されている。LPF80を通過した所望波の周波数fd-fLOは、第2のミキサ88bによりfd-fLO+fLOにアップコンバートされる。つまり、所望波の周波数はfdまで上がり、もとの周波数に戻ることになる。
このように、図7に示す第1のフィルタ71は、所望波だけを通すバンドパスフィルタとして機能する。例えば、局部発振信号の周波数fLOを適宜設定することで、NFC信号を所望波とすることが可能である。これによりNFC信号を適正に抽出することが可能となる。
なお図5に示す実際のフィルタ回路70では、スイッチ素子1a~1h及びスイッチ素子3a~3hにより、受信信号がダウンコンバートされる。ダウンコンバートされた受信信号は、抵抗24a及びBとキャパシタ25a~25hにより構成されるLPF80により適宜フィルタリングされ、NFC信号に対応する周波数成分が抽出される。
フィルタリングされた受信信号(NFC信号に対応する周波数成分)は、スイッチ素子1a~1h及びスイッチ素子3a~3hにより、もとの周波数にアップコンバートされる。この結果、第1のフィルタ71では、NFC信号に対応する周波数成分を抽出し、他の周波数成分を除去することが可能となる。
図9は、第2のフィルタ72の具体的な構成例を示す回路図である。第2のフィルタ72は、NFC信号の周波数帯域である第1の帯域を規制し、その他の帯域の信号を通過するフィルタである。すなわち第2のフィルタ72は、第1の帯域の周波数成分を除去するバンドストップフィルタとして機能するともいえる。第2のフィルタ72は、8パスのノッチフィルタ(8-Path Notch filter)として構成される。
第2のフィルタ72は、図5を参照して説明したフィルタ回路70(第1のフィルタ71)を用いて構成される。具体的には、第2のフィルタ72は、フィルタ回路70の第1の接続部21をGNDに接続し、第2の接続部26を差動入力端子20に接続することで構成される。
図9では、図5に示す第1の接続部21の正相入力線21a及び逆相入力線21bがともにGNDに接続される。このため、正相出力線22a(逆相出力線22b)は、抵抗24a(抵抗24b)を介してGNDに接続される。このように、第2のフィルタ72では、第1の接続部21の二つの配線(正相入力線21a及び逆相入力線21b)は、正相用のGND線及び逆相用のGND線として機能する。
また、図5に示す第2の接続部26の正相用GND線26a及び逆相用GND線26bは、差動入力端子20の正相入力端子20a及び逆相入力端子20bにそれぞれ接続される。すなわち、第2のフィルタ72では、第2の接続部26の二つの配線(正相用GND線26a及び逆相用GND線26b)は、正相用の入力線及び逆相用の入力線として機能する。
この接続の切り替えは、図示しないスイッチ機構等を用いて実行される。例えば、第1のフィルタ71が選択される場合、スイッチ機構は、第1の接続部21を差動入力端子20に接続し、第2の接続部26をGNDに接続する。これにより図5に示す第1のフィルタ71が構成される。一方で、第2のフィルタ72が選択される場合、スイッチ機構は、第1の接続部21をGNDに接続し、第2の接続部26を差動入力端子20に接続する。これにより図9に示す第2のフィルタ72が構成される。
なお、図2を参照して説明した切替スイッチ73に含まれる第1の入力スイッチ74a、第1の出力スイッチ75a、第2の入力スイッチ74b、及び第2の出力スイッチ75bは、第1の接続部21及び第2の接続部26の切り替えを行うスイッチ機構を模式的に図示したものである。
図10は、第2のフィルタ72用の制御信号の一例を示す模式図である。図10に示すように、第2のフィルタ72用の制御信号は、図6を参照して説明した第1のフィルタ71用の制御信号と同様の信号が用いられる。
また第2のフィルタ72では、第1のフィルタ71と同様に、スイッチ素子1a~1h、スイッチ素子2a~2h、スイッチ素子3a~3h、スイッチ素子4a~4hが制御される。すなわち、リングカウンタ28から出力される制御信号φ1~φ8に基づいて、各スイッチ素子が順次一時的にONとなるように制御される。
例えば、制御信号φ1のパルス87が入力されると、スイッチ素子1a及び2aがONとなる。この場合、正相入力端子20aから入力された正相信号は、第2の接続部26の正相用の入力線(第1のフィルタ71での正相用GND線26a)、スイッチ素子2a、キャパシタ25a、スイッチ素子1a、及び正相出力線22aをこの順番で通過して正相出力端子23aに出力される。従って、正相信号が通過する経路上には、一時的にキャパシタ25a及び抵抗24aによるHPFが構成される(図4参照)。
なお制御信号φ1のパルス87が入力されると、図示を省略したスイッチ素子3e及び4eがONとなる。この結果、逆相信号が通過する経路上には、一時的にキャパシタ25e及び抵抗24aによるHPFが構成される。
また例えば、制御信号φ5のパルス87が入力されると、スイッチ素子3a及び4aがONとなる。この場合、逆相入力端子20bから入力された逆相信号は、第2の接続部26の逆相用の入力線(第1のフィルタ71での逆相用GND線26b)、スイッチ素子4a、キャパシタ25a、スイッチ素子3a、及び逆相出力線22bをこの順番で通過して逆相出力端子23bに出力される。従って、逆相信号が通過する経路上には、一時的にキャパシタ25a及び抵抗24bによるHPFが構成される。
なお制御信号φ5のパルス87が入力されると、図示を省略したスイッチ素子1e及び2eがONとなる。この結果、逆相信号が通過する経路上には、一時的にキャパシタ25e及び抵抗24bによるHPFが構成される。
このように、スイッチ素子1a~1h及びスイッチ素子2a~2hが、制御信号φ1~φ8に応じて切り替わることで、正相信号が通過する経路上にはHPFが順次構成される。またスイッチ素子3a~3h及びスイッチ素子4a~4hが、制御信号φ5、φ6、φ7、φ8、φ1、φ2、φ3、φ4に応じて切り替わることで、逆相信号が通過する経路上にはHPFが順次構成される。これにより、差動入力端子20に入力された正相信号及び逆相信号(受信信号)は、第2のフィルタ72(8パスのノッチフィルタ)によりフィルタリングされる。
図11は、第2のフィルタ72の機能的な構成例を示すブロック図である。図12は、図11に示すブロック図の動作を説明するための模式図である。図11に示すように、第2のフィルタ72は、第1のミキサ88aと、HPF86と、第2のミキサ88bとで構成される回路と見做すことが可能である。
第1のミキサ88aは、図11に示すスイッチ素子1a~1h及びスイッチ素子3a~3hに相当する。第1のミキサ88aは、受信信号を局部発振信号の周波数fLOだけ低い周波数にダウンコンバートする。
HPF86は、抵抗24a及び抵抗24bとキャパシタ25a~25bとに相当する。HPF86は、第1のミキサ88aによりダウンコンバートされた受信信号をフィルタリングして、低周波成分を減衰させ、高周波成分を抽出する。
第2のミキサ88bは、図11に示すスイッチ素子2a~2h及びスイッチ素子4a~4hに相当する。第2のミキサ88bは、HPFを通過した受信信号を周波数fLOだけ高い周波数にアップコンバートして、元の周波数に戻す。
図12の上側には、第1のミキサ88aによるダウンコンバートの一例を示す模式的なグラフが示されている。例えば第2のフィルタ72において除去対象となる信号(妨害波)の周波数をfudとする。この場合、第1のミキサ88aからは、fud-fLOにダウンコンバートされた妨害波が出力される。
図12の中央には、HPF86によるフィルタリングの一例を示す模式的なグラフが示されている。グラフ中には、HPF86の通過帯域(高周波側の帯域)が模式的に図示されている。第1のミキサ88aによりダウンコンバートされた妨害波は、HPF86の通過帯域から外れた周波数帯域に存在する。このため、妨害波の強度は減衰される。一方で、HPF86の通過帯域に存在する他の周波数成分は、HPF86による減衰等の影響をほとんど受けることなくHPF86を通過する。
図12の下側には、第2のミキサ88bによるアップコンバートの一例を示す模式的なグラフが示されている。HPF86により減衰された妨害波の周波数fud-fLOは、第2のミキサ88bによるアップコンバートにより、周波数fLOだけ増加されて、元の周波数fudに戻る。このように、図11に示す第2のフィルタ72は、妨害波だけを減衰する狭帯域のノッチフィルタ(バンドストップフィルタ)として機能する。
なお上記したように、第2のフィルタ72は、第1のフィルタ71と共通のフィルタ回路70を使って構成される。例えば、第1のフィルタ71がNFC信号を通過するバンドパスフィルタとして設計されている場合には、第2のフィルタ72は、NFC信号を規制するノッチフィルタとなる。すなわち、第2のフィルタ72では、NFC信号が規制の対象となる妨害波となる。
このように、第1及び第2のフィルタ71及び72を切り替えることで、受信信号からのNFC信号の抽出や除去を切り替えて実行することが可能となる。すなわち、1つのフィルタ回路70を用いて、NFC信号を検出することや、減衰することが可能となる。これにより、例えば第1及び第2のフィルタ71及び72を別々に構成する場合と比べ、回路面積を十分に小さくすることが可能となり、素子サイズやコストを十分に抑制することが可能となる。
[通信装置の動作]
図13は、通信装置100の動作の一例を示すフローチャートである。図2を参照して説明したように、通信装置100では、BANの通信方式による通信(BAN通信)が実行される。なお、BAN通信は、ユーザの近くに通信相手となるBAN通信が可能な他の通信装置がある場合に実行される。通信装置100は、BAN通信を行わない場合には、例えば停止モードとなっている。
まず通信装置100が起動される(ステップ101)。通信装置100は、例えばBAN通信が要求されるタイミングで適宜起動される。例えば、タッチセンサ等により、ユーザの人体10と通信相手との接触が検出され、その検出結果に応じて通信装置100が起動される。あるいは、所定の要求信号等が一定のレベルで受信された場合に、通信装置100が起動するといった処理が実行されてもよい。この他、通信装置100を起動する方法は限定されない。
通信装置100が起動すると、NFCキャリア(NFC信号を搬送する搬送波)を検出する検出モードが開始される(ステップ102)。NFCキャリアの検出は、通信装置100の通信環境において、NFCキャリアの有無を検知することや、NFCキャリアのレベル(強度)を測定することを含む。
例えば無線信号にNFCキャリアが含まれている場合、アンテナ50から出力される受信信号にはNFC信号に対応する周波数成分が含まれる。この周波数成分の強度を検出することで、NFCキャリアの有無等を調べることが可能である。すなわち検出モードは、NFCの通信方式の信号(NFC信号)の強度を検出するモードであるとも言える。
図14は、検出モードにおける通信装置100の動作の一例を説明するための図である。図14の上側の図は、伝送路60上の各点を通過する受信信号の波形を示す模式的なグラフである。図14の下側の図は、検出モードで用いられる通信装置100の構成例である。なお、図中の点線の矢印は、検出モードにおける受信信号の伝送路60を表している。
検出モードでは、NFC信号40の強度を検出するために、伝送路60の通過帯域はNFC信号40を通過するように設定される。従って図14に示すように、検出モードでは、帯域切替部63のフィルタ構成として第1のフィルタ71(バンドパスフィルタ)が選択される。
例えば検出モードが開始されると、コントローラ56から、第1の入力スイッチ74aと第1の出力スイッチ75aとをONにし、第2の入力スイッチ74aと第2の出力スイッチ75bとをOFFにする制御信号が出力される。実際には、制御信号により、第1の接続部21を差動入力端子20に接続し、第2の接続部26をGNDに接続するようにスイッチ機構が制御される(図5参照)。
このように、コントローラ56は、検出モードが実行されている場合、伝送路60に第1のフィルタ71を設定する。これにより、受信信号に含まれるNFC信号40の周波数成分を精度よく抽出することが可能となり、NFCキャリアを高精度に検出することが可能となる。なお、検出モードでは、第2のフィルタ72(ノッチフィルタ)及びスルースイッチはOFFになっている。
また検出モードでは、受信用スイッチ58aがONとなり、送信用スイッチ58bがOFFとなる。アンテナ50で受信された無線信号(受信信号)は、受信用スイッチ58aを介して受信ユニット52に出力される。
図14のグラフ89aは、受信用スイッチ58aを通過した受信信号の波形を示すグラフである。グラフ89aに示すように、無線信号にNFCキャリアが含まれている場合、受信信号の13.56MHzを中心とする帯域には、NFC信号40の周波数成分による急峻なピーク波形が表れる。なお受信信号には、NFC信号40(ピーク波形)とは異なる他の周波数成分(ノイズ等)も含まれる。
受信ユニット52に出力された受信信号は、受信用増幅部61により増幅され、1段目のBPFである第1のBPF62を通過する。第1のBPF62は、NFCキャリアを検出する検出モードだけでなく、後述する通信モードでも使用するフィルタである。このため、第1のBPF62は、例えば2段目のBPFとなる第1のフィルタ71よりも周波数通過帯域が広くなっている。
第1のBPF62を通過した受信信号は、第1のフィルタ71に入力される。第1のフィルタ71により、受信信号からNFC信号40が抽出される。このとき、NFC信号40の周波数帯域から外れた周波数成分は、第1のフィルタ71により減衰される。
図14のグラフ89bは、第1のフィルタ71を通過した受信信号の波形を示すグラフである。グラフ89bに示すように、第1のフィルタ71では、13.56MHzのピーク波形とその周辺の周波数成分が抽出され、他の周波数成分はブロックされる。
第1のフィルタ71を通過した受信信号は、自動利得制御部64により適宜増幅され、3断目のバンドパスフィルタである第2のBPF65を通過する。そしてデジタル変換部66によりデジタル信号に変換された受信信号が、デジタル処理部54に出力される。
グラフ89cは、デジタル処理部54に入力される受信信号の波形を示すグラフである。グラフ89cに示すように、デジタル処理部54には、第1のフィルタ71を通過した受信信号の波形と略同様の波形のデジタル信号が入力される。デジタル処理部54では、波形のピーク値等を検出することで、NFC信号40の強度(NFCキャリアのレベル)を検出する。
図13に戻り、NFC信号40の強度が検出されると、NFCキャリアのレベル判定が実行され、判定結果に応じて動作モードが選択される(ステップ103)。ステップ103では、通信モードを実行するか否かが判定される。すなわち、第1のフィルタ71を通過した信号の強度に基づいて、BANの通信方式による通信を実行するか否かが判定される。
例えば、NFC信号40の強度がある規定されたレベルより十分小さい場合、BAN通信が実行可能であるとして、スルースイッチ76を用いたBAN通信が実行される。
また例えば、NFC信号40の強度がある規定されたレベルよりも大きいが、その強度が第2のフィルタ72を用いることで十分に減衰できる場合には、第2のフィルタ72を用いたBAN通信が実行される。
このように、通信装置100では、上記した2通りの方法でBAN通信を実行することが可能となっている。従って、NFCキャリアのレベル判定では、BAN通信を実行するか否かに加え、BAN通信を実行する場合に用いられる経路(伝送素子)を選択するための判定が実行される。
本実施形態では、レベル判定として、NFC信号40の強度に関する2つの閾値を用いた閾値処理が実行される。以下では、2つの閾値のうち、値の高い閾値をレベルAと記載し、値の低い閾値をレベルBと記載する。本実施形態では、レベルAは、第1の閾値に相当し、レベルBは、第1の閾値よりも低い第2の閾値に相当する。図14のグラフ89cには、レベルA及びレベルBを示すラインが模式的に図示されている。
本実施形態では、NFC信号40の強度がレベルA以下である場合、BANの通信方式による通信の実行が判定される。すなわち、レベルAは、通信モードを実行するか否かを判定するための閾値であるとも言える。レベルAは、例えば第2のフィルタ72(ノッチフィルタ)を用いることで減衰されるNFC信号40の強度が、BAN通信で許容されるレベルに収まるように設定される。なおレベルAを設定する方法は限定されない。レベルAは、例えばBAN通信が適正に実行可能となるように適宜設定されてよい。
レベルBは、第2のフィルタ72を用いるか否かを判定するための閾値である。レベルBは、例えばBAN通信で許容される妨害波のレベル等に応じて設定される。なおレベルBを設定する方法は限定されない。レベルBは、例えばBAN通信が適正に実行可能となるように適宜設定されてよい。
本実施形態では、NFC信号40の強度が、レベルB以下でる場合、伝送路60に受信信号を通過するスルースイッチ76が設定される。すなわちNFC信号40の強度Xが、X<Bである場合には、NFC信号40等を除去することなく、受信信号をそのまま通過するスルースイッチ76を用いたBAN通信が実行される。これにより、例えばBAN信号をそのままの状態で検出することが可能となり、通信精度等を向上することが可能である。
また、NFC信号40の強度が、レベルA以下でありレベルBよりも大きい場合、伝送路60にNFCの通信方式に応じた周波数帯域を規制する第2のフィルタ72が設定される。すなわちNFC信号40の強度Xが、B<X≦Aである場合には、NFC信号40を規制するノッチフィルタを用いたBAN通信が実行される。これにより、NFC信号40が多少含まれる場合であっても、BAN通信を適正に実行することが可能となり、ノイズに強い通信装置100を実現することが可能である。
このように、コントローラ56は、BANの通信方式による通信を実行すると判定された場合、伝送路60に第2のフィルタ72及びスルースイッチ76のどちらか一方を設定する。これにより、例えば妨害波となるNFC信号40の強度に合わせて、ノッチフィルタの使用等を切り替えることが可能となる。この結果、通信環境に合わせた信頼性の高い通信処理を実現することが可能となる。
NFC信号40の強度XがレベルA以下(X≦A)となり、BAN通信の実行が判定されると(ステップ103のYes)、BAN通信を行うための通信モードが実行される(ステップ104)。すなわち、BAN通信を実行するか否かの判定結果に基づいて、NFC信号40の強度を検出する検出モードが、BANの通信方式による通信を実行する通信モードに切り替えられる。
図15は、通信モードにおける通信装置100の動作の一例を説明するための図である。図15の上側の図は、伝送路60上の各点を通過する受信信号の波形を示す模式的なグラフである。図15の下側の図は、検出モードで用いられる通信装置100の構成例である。
通信モードでは、BAN通信を行うために、伝送路60の通過帯域はBAN信号41を通過するように設定される。図15に示す例では、帯域切替部63のフィルタ構成として第2のフィルタ72が設定されている。なお、上記したように、NFCキャリアのレベルが十分に小さい場合には、スルースイッチ76が設定される場合もある。
図15には、BAN信号41を受信する受信状態での通信装置100の構成が示されている。この場合、受信用スイッチ58aがONとなり、送信用スイッチ58bがOFFとなる。なお、BAN信号41を送信する送信状態では、受信用スイッチ58aがOFFとなり、送信用スイッチ58bがONとなる。
図15のグラフ89dは、受信用スイッチ58aを通過した受信信号の波形を示すグラフである。グラフ89dには、BAN信号41を表す波形とNFC信号40を表すピーク波形(矢印)が示されている。なおグラフの縦軸は強度であり、横軸はログスケールの周波数となっている。
BAN信号41の波形は、8MHz周辺の帯域にピークを持つ。このピークとなる帯域の高周波側では急激に信号強度が低下する。NFC信号40は、BAN信号41が急激に低下する周波数帯域に重なって受信される。なおグラフ89dに示すNFC信号40の強度は、レベルA以下であり、かつレベルBよりも大きい値となっている。
受信ユニット52に出力された受信信号は、受信用増幅部61、第1のBPF62を通過して第2のフィルタ72に入力される。第2のフィルタ72では、NFCの通信方式で用いられる通信帯域の周波数成分が減衰され、NFC信号40が規制される。なお、他の周波数帯域の信号は、強度をほとんど低下することなく第2のフィルタ72を通過する。
図15のグラフ89eは、第2のフィルタ72を通過した受信信号の波形を示すグラフである。グラフ89eに示すように、第2のフィルタ72では、BAN信号41が抽出され、NFC信号40が減衰される。この結果、グラフ89dに存在した13.56MHzのピーク波形は、ほとんど表れなくなる。このように、ノッチフィルタ通過後の受信信号は、ほとんどがBAN信号41の周波数成分となる。
第2のフィルタ72を通過した受信信号は、自動利得制御部64、第2のBPF65、及びデジタル変換部66を通り、デジタル信号に変換されてデジタル処理部54に出力される。デジタル処理部54では、BAN信号41を復調し、アクセス制御部55を介してコントローラ56に出力する。そしてコントローラ56によりBAN信号41の内容に応じた通信処理が実行される。
このように、BAN通信の通信環境にNFCキャリアが混入するような場合であっても、そのNFCキャリアのレベルを判定することで、BAN通信を適正に実行することが可能である。これにより、BAN通信の確実性を十分に向上することが可能となる。
図13に戻り、NFC信号40の強度が、ある規定されたレベル(レベルA)よりも大きく、第2のフィルタ72を用いてもNFC信号40を十分に減衰することが難しい場合には、通信モードへの切り替えは保留される。すなわちNFC信号40の強度XがレベルAより小さく(X>A)、BAN通信を実行しないと判定されると(ステップ103のNo)、次のレベル判定等を行うための処理が開始される。
まず、BAN通信を実行しないと判定された回数がカウントアップされる(ステップ105)。例えば、カウント変数Nが設定され、カウント変数Nに1を加算するインクリメント処理が実行される。従って例えば、通信装置100が起動されてからBAN通信を実行しないと連続して判定された回数が、カウント変数Nとなる。なおカウント変数Nは、通信装置100が起動された場合や、BAN通信を実行すると判定された場合に、N=0に初期化される。
BAN通信を実行しないと判定された回数が判定される(ステップ106)。例えばカウント変数Nが所定回数以上であるか否かが判定される。
カウント変数Nが所定回数より小さい場合(ステップ106のNo)、所定時間だけ待機する待機モードが実行される(ステップ107)。待機モードでは、通信装置100は、無線信号の送受信や受信信号の判定処理等を行わず、電力消費を抑えたウェイト状態となる。待機モードが継続される時間は限定されず、例えばBANの通信方式における送受信間隔や、通信装置100の消費電力等に応じて適宜設定される。
待機モードが開始されてから所定時間が経過すると、ステップ103のレベル判定処理が再度実行される。このように通信装置100では、BANの通信方式を実行しないと判定された場合、判定処理を所定時間だけ待機する待機モードが選択される。そして待機モードの後に判定処理が実行される。
待機モードを実行することで、NFC信号40の強度が低下するのを、電力消費を抑えて待つことが可能である。これにより余分なレベル判定等が回避され、通信が可能な状態を効率的に判定することが可能となる。この結果、装置の消費電力を抑制しつつ、確実な通信を実現することが可能となる。
待機モードの後に再びレベル判定を行った際に、NFC信号40の強度が、通信可能なレベル(X≦A)になった場合、BAN通信を実行する通信モードが実行される。また、NFC信号40の強度がレベルAよりも大きい場合、再び待機モードとなる。このように、レベル判定と待機モードとを繰り返すことで、BAN通信が可能なレベルまで、NFC信号40が減衰するのを効率的に待つことが可能である。
またカウント変数Nが所定回数以上となった場合(ステップ106のYes)、判定処理等を含む通信処理が停止される(ステップ108)。すなわち、待機モードが所定回数だけ連続して選択された場合、判定処理を停止する停止モードが選択される。このように、レベル判定と待機モードとを繰り返しても、通信可能なレベルまでNFC信号40が減衰しない場合には、受信信号の増幅やデジタル変換等の通信処理そのものを停止する。これにより、消費電力を十分に抑制することが可能である。
通信処理が停止されると、通信装置100は、停止モードのまま一定期間だけ待機する(ステップ109)。そして一定期間が経過すると、再度ステップ101が実行され、通信装置100が起動される。
このように、本実施形態では、BAN通信が可能なときにはBAN通信を行い、NFCキャリア干渉のためBAN通信に障害が出る際は、BAN通信を行わないで待機し、BAN通信が可能になったタイミングでBAN通信を行うことが可能である。これにより、NFCキャリア干渉を回避し、確実にBAN通信を行うことが可能となる。
以上、本実施形態に係る通信装置100では、複数の通信方式の信号を含む無線信号が受信され、受信信号が生成される。受信信号に含まれるNFCの通信方式のNFC信号40の強度から、NFCの通信方式とは異なるBANの通信方式でのBAN通信を実行するか否かが判定される。この判定結果を用いて、受信信号を伝送する伝送路60の通過帯域が制御される。これにより、例えばNFCの通信方式の信号による影響が少ない状態でBANの通信方式での通信が可能となり、通信の確実性を高めることが可能となる。
目的とする通信の妨害波の影響を回避する方法として、ノッチフィルタを用いて、対象となる妨害波を減衰する方法が考えられる。例えばBAN通信を行う場合には、NFC信号40が妨害波となり、BAN通信が適正に実行できないといった問題が生じる可能性がある。ノッチフィルタを用いる方法では、例えば、ノッチフィルタで取り切れない大振幅のNFC信号40が干渉した場合に、BAN通信が成り立たなくなることがあり得る。
例えばNFC over BANのような、NFCフォーマットのデータをBAN通信を用いて伝送する通信システムでは、NFC機器の近くでBAN通信を行う可能性が高い。このため、例えばCCCC規格でのBAN信号41(8.136MHz)に対するNFC信号40(13.56MHz)の干渉等を回避することが重要となる。
本実施形態では、NFC信号40の強度に基づいて、BAN通信を実行するか否かが判定される。これにより、NFC信号40による影響が大きい場合には、通信環境が整うまでBAN通信の実行を待機し、NFC信号40が許容レベルまで減衰したタイミングで、BAN通信を実行することが可能である。これにより、BAN通信での通信エラー等の障害を十分に回避することが可能となり、BAN通信の確実性を大幅に向上することが可能である。
また、検出モードでは、第1のフィルタ71を用いてNFCの通信帯域の周波数成分を抽出することで、NFCキャリアを高精度に検知することが可能である。これにより、NFCの通信帯域に関するキャリアセンスを確実に実行することが可能となり、BAN通信が実行可能であるかどうかを精度よく判定することが可能である。
通信モードでは、NFC信号40の強度に応じて、スルースイッチ76及び第2のフィルタ72が切り替えて用いられる。これにより、例えばNFC信号40が多少含まれている場合であっても、BAN通信を適正に実行することが可能である。この結果、ノイズ耐性の高い通信装置100を実現することが可能となり装置の信頼性を向上することが可能となる。
本実施形態では、第1及び第2のフィルタ71及び72、すなわちBPFとノッチフィルタとが、1つのフィルタ回路70を共有して構成される。このようにフィルタ回路70を共有化することで、ICの面積を削減することが可能となる。これにより、装置コストを抑えつつ、素子の小型化を図ることが可能となる。
このように、通信装置100は、NFCからのキャリア干渉を十分に回避してBAN通信を実現することが可能である。これにより、例えばNFC通信システムとNFC over BAN通信システムとを無理なく共存させることが可能となる。これにより、ユーザの人体を利用したデータ通信や認証処理等を、様々なシーンで活用することが可能となる。
<第2の実施形態>
本技術に係る第2の実施形態の通信装置について説明する。これ以降の説明では、上記の実施形態で説明した通信装置100における構成及び作用と同様な部分については、その説明を省略又は簡略化する。
第2の実施形態では、NFCキャリアのレベルによって、通信信号のレベルを制御する処理が実行される。ここで通信信号とは、アンテナ50により送受信されるBAN通信を行うための無線信号である。通信信号のレベルの制御処理は、例えば図2を参照して説明した、デジタル処理部54及びコントローラ56等により実行される。
また本実施形態では、送信ユニット53が、BAN通信の送信レベルを制御することが可能なように構成される。すなわち、送信ユニット53は、アンテナ50に出力される電気信号の強度を変更可能である。これにより、アンテナ50から送信される通信信号(送信用のBAN信号)の強度を制御することが可能である。
送信ユニット53には、例えば通常の送信処理で用いられる回路に加え、電気信号を増幅するためのブースタ回路が切り替え可能に接続される。ブースタ回路の切り替えは、例えばコントローラ56からの制御信号(以下、送信用の制御信号と記載する)に基づいて実行される。ブースタ回路としては、例えば充電されたキャパシタを用いて電気信号を増幅する回路等が用いられる。この他、ブースタ回路の具体的な構成は限定されない。
なお、ブースタ回路を用いる場合に限定されず、例えば、通常の送信処理よりも高い増幅率で電気信号を増幅する増幅器等が切り替え可能に接続されてもよい。また、負電圧を用いて電気信号の振幅を正極側及び負極側に拡張する回路等が用いられてもよい。また、増幅用の素子や回路を切り替える場合に限定されず、例えば増幅率を変更可能な増幅器等を用いて、電気信号の強度が連続的に制御されてもよい。この他、電気信号の強度(振幅等)を増幅可能な任意の回路が用いられてよい。
本実施形態では、通信装置100が起動されると、NFCキャリアを検出する検出モードが実行される。検出モードでは、デジタル処理部54によりNFCキャリアのレベル、すなわち受信信号に含まれるNFC信号40の強度が検出される。
NFC信号40の強度が検出されると、コントローラ56により、NFC信号40の強度に応じて、BANの通信方式に用いられる通信信号の強度が制御される。
例えばNFC信号40の強度が十分に大きい場合には、通常の通信信号のレベルでBAN通信を実行しても、送受信エラー等が発生する場合がある。この通信障害は、NFC信号(NFCキャリア)等の妨害波に対してBAN通信における信号雑音比(S/N比)が低いために生じると考えられる。
このため、本実施形態では、NFC信号40の強度が高くBAN通信のS/N比が低いような状況で、BAN通信用の通信信号の強度を増幅する処理が実行される。これにより、BAN通信におけるS/N比を向上させることが可能となり、通信を確実に実行することが可能となる。
本実施形態では、NFC信号40の強度に応じて、送信用のBAN信号の強度が増幅される。すなわち、通信装置100におけるBAN通信の送信レベルが増強される。具体的には、送信用のBAN信号の強度を増幅するための送信用制御信号が生成されて送信ユニット53に出力される。
コントローラ56は、例えばNFC信号40の強度が所定の閾値よりも大きいか否かを判定する。NFC信号40の強度が所定の閾値よりも大きいと判定された場合、NFC信号40が妨害波となる可能性があるとして、送信用のBAN信号の強度を増幅するための送信用制御信号が生成される。これにより送信用レベルを増強することが可能となり、通信相手は、通信装置100から送信されたデータ等を適正に受信することが可能となる。
またNFC信号40の強度が所定の閾値以下であると判定された場合、NFC信号40が妨害波となる可能性は低いとして、送信用制御信号は生成されない。この場合、送信ユニット53では、通常のレベルでの送信処理が実行される。
所定の閾値は、例えばBAN通信が適正に実行可能となるように、通信信号の増幅率等に合わせて適宜設定される。また図13のステップ103で説明したレベル判定処理(ステップ103)の閾値(レベルA及びB)等を基準に所定の閾値が設定されてもよい。この他、所定の閾値を設定する方法は限定されない。
なお所定の閾値を用いた判定処理に限定されず、NFC信号40の強度に応じて通信信号の強度を調整可能な任意の処理が実行されてもよい。例えばNFC信号40の強度に合わせた増幅率を算出して、送信用のBAN信号の強度を連続的あるいは段階的に制御するといった処理が実行されてもよい。
また本実施形態では、NFC信号40の強度に応じて、受信用のBAN信号の強度が増幅される。受信用のBAN信号とは、通信相手から通信装置100に対して送信され、通信装置100のアンテナ50により受信される通信信号である。
例えばコントローラ56は、NFC信号40の強度が所定の閾値よりも大きい場合等に、通信相手に対して送信用レベルを上げる旨を指示するデータ信号を生成する。データ信号は、送信ユニット53に入力され、アンテナ50から通信相手に向けて送信される。通信相手は、送信用レベルを上げる指示を受信すると自身の送信用レベルを増加させ、それ以降の通信では強度が増加された通信信号を送信する。これにより、通信装置100で受信される受信用のBAN信号の強度を増加させることが可能である。
このように、本実施形態では、NFC信号40の強度に応じて、送信用のBAN信号と受信用のBAN信号とを含む通信信号の強度が制御される。これにより、NFC信号40による影響を相対的に小さくすることが可能となり、BAN通信のS/N比を十分に向上することが可能となる。この結果、BANの通信方式による通信を確実に実行することが可能となる。
なお通信信号の強度を制御する処理は、BAN通信を実行するか否かの判定処理と合わせて適宜実行されてよい。例えば通信信号の強度が増加すれば、BAN通信が可能であるような状況では、BAN通信を実行と通信信号の強度の増加とがともに判定される。また例えば、通信信号の強度を増加しても妨害波の影響が生じるような状況では、検出モードが継続され通信信号の強度の増加も行われない。例えばこのような処理が実行されてもよい。
<第3の実施形態>
上記の実施形態では、図5及び図9等を参照して説明したように、差動信号をフィルタリング可能な、2入力2出力のフィルタ回路70を用いて第1のフィルタ71及び第2のフィルタ72が構成された。フィルタ回路の構成は限定されない。
図16は、第3の実施形態に係る第1のフィルタ171の具体的な構成例を示す回路図である。第1のフィルタ171では、例えば四位相偏移変調(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)方式で変調された差動信号(受信信号)のフィルタリングが行われる。
QPSK方式による変調(IQ変換)では、対象となる信号は複素化される。具体的には、変調用の基準信号と同位相(Inter-Phase)であるI信号と、基準信号と位相が90°ずれた直行位相(Quadrature-Phase)であるQ信号が生成される。差動信号に対するIQ変換は、正相信号及び逆相信号に対してそれぞれ実行される。すなわち正相信号は、正相I信号と正相Q信号とに変換され、逆相信号は、逆相I信号と逆相Q信号に変換される。
従って第1のフィルタ171は、正相I信号、正相Q信号、逆相I信号、逆相Q信号をそれぞれフィルタリングする4入力4出力のフィルタとなる。また、第1のフィルタ171は、8パスの複素バンドパスフィルタ(Complex 8-Path Band Pass filter)となるフィルタ回路170により構成される。
なお、正相I信号、正相Q信号、逆相I信号、逆相Q信号は、互いに位相が直交した信号であり、各信号は互いに干渉しない信号となる。このため第1のフィルタ171では、各信号のフィルタリングに、共通のキャパシタ(静電容量)を用いることが可能となっている。
第1のフィルタ171は、IQ入力端子30と、第1の接続部31と、出力線32と、IQ出力端子33と、抵抗34a~34dと、キャパシタ35a~35hと、第2の接続部36とを有する。また第1のフィルタ171は、スイッチ素子11a~11hと、スイッチ素子12a~12hと、スイッチ素子13a~13hと、スイッチ素子14a~14hと、スイッチ素子15a~15hと、スイッチ素子16a~16hと、スイッチ素子17a~17hと、スイッチ素子18a~18hとを有する。
各スイッチ素子は、図5及び図6等を参照して説明した局部発振器27及びリングカウンタ28により生成されたパルス(制御信号φ1~φ8)により適宜ON/OFFが制御される。
なお図6では、キャパシタ35d~35g、スイッチ素子11d~11g、スイッチ素子12d~12g、スイッチ素子13d~13g、スイッチ素子14d~14g、スイッチ素子15d~15g、スイッチ素子16d~16g、スイッチ素子17d~17g、及びスイッチ素子18d~18gの図示が省略されている。
IQ入力端子30は、正相I信号、逆相I信号、正相Q信号、及び逆相Q信号が入力される、正相I入力端子30a(VINP_I)、逆相I入力端子30b(VINN_I)、正相Q入力端子30c(VINP_Q)、及び逆相Q入力端子30d(VINN_Q)を有する。
第1の接続部31は、抵抗34aと正相I入力端子30aとを接続する入力線31aと、抵抗34bと逆相I入力端子30bとを接続する入力線31bと、抵抗34cと正相Q入力端子30cとを接続する入力線31cと、抵抗34dと逆相Q入力端子30dとを接続する入力線31dとを有する。
出力線32は、出力線32a~32dを有する。IQ出力端子33は、出力線32a~32dに接続される、正相I出力端子33a(VOUTP_I)、逆相I出力端子33b(VOUTN_I)、正相Q出力端子33c(VOUTP_Q)、及び逆相Q出力端子33d(VOUTN_Q)を有する。
抵抗34a~抵抗34dは、互いに同様の抵抗値Rに設定される。抵抗34a~抵抗34dは、入力線31a~31dと出力線32a~32dとの間にそれぞれ接続される。
キャパシタ35a~35hは、互いに同様の容量値Cに設定される。キャパシタ35a~35hの各々は、必要なスイッチ素子がONに切り替わることで、4つの信号(正相I信号、逆相I信号、正相Q信号、及び逆相Q信号)をフィルタリングする信号パスとして選択される。
第2の接続部36は、GNDに接続されGND電位となるGND線36a~36dを有する。GND線36aは、スイッチ素子12a~12hに接続される。GND線36bは、スイッチ素子14a~14hに接続される。GND線36cは、スイッチ素子16a~16hに接続される。GND線36dは、スイッチ素子18a~18hに接続される。
スイッチ素子11aは、出力線32aと、キャパシタ35aとの間に接続される。スイッチ素子12aは、キャパシタ35aのスイッチ素子11aが接続される側とは反対側から、GND線36aに接続される。スイッチ素子11a及びスイッチ素子12aは、制御信号φ1に基づいてON/OFFが切り替わる。
スイッチ素子13aは、出力線32bと、キャパシタ35aとの間に接続される。スイッチ素子14aは、キャパシタ35aのスイッチ素子13aが接続される側とは反対側から、GND線36aに接続される。スイッチ素子13a及びスイッチ素子14aは、制御信号φ5に基づいてON/OFFが切り替わる。
スイッチ素子15aは、出力線32cと、キャパシタ35aとの間に接続される。スイッチ素子16aは、キャパシタ35aのスイッチ素子15aが接続される側とは反対側から、GND線36cに接続される。スイッチ素子15a及びスイッチ素子16aは、制御信号φ3に基づいてON/OFFが切り替わる。
スイッチ素子17aは、出力線32dと、キャパシタ35aとの間に接続される。スイッチ素子18aは、キャパシタ35aのスイッチ素子17aが接続される側とは反対側から、GND線36dに接続される。スイッチ素子17a及びスイッチ素子18aは、制御信号φ7に基づいてON/OFFが切り替わる。
このようにキャパシタ35aの一方の側には、出力線32a~32dに接続されたスイッチ素子11a、13a、15a、17aが接続され、他方の側には、GND線36a~36dに接続されたスイッチ素子12a、14a、16a、18aが接続される。
スイッチ素子11b~11hは、スイッチ素子11aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、出力線32aとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子12b~12hは、スイッチ素子12aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、GND線36aとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。スイッチ素子11b~11h及びスイッチ素子12b~12hは、制御信号φ2~φ8に基づいて制御される。
スイッチ素子13b~13hは、スイッチ素子13aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、出力線32aとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子14b~14hは、スイッチ素子14aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、GND線36bとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。スイッチ素子13b~13h及びスイッチ素子14b~14hは、制御信号φ5、φ6、φ7、φ8、φ1、φ2、φ3、φ4に基づいて制御される。
スイッチ素子15b~15hは、スイッチ素子15aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、出力線32cとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子16b~16hは、スイッチ素子16aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、GND線36cとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。スイッチ素子15b~15h及びスイッチ素子16b~16hは、制御信号φ3、φ4、φ5、φ6、φ7、φ8、φ1、φ2に基づいて制御される。
スイッチ素子17b~17hは、スイッチ素子17aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、出力線32dとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。またスイッチ素子18b~18hは、スイッチ素子18aがキャパシタ35aに接続するのと同様に、GND線36dとキャパシタ35b~35hとの間にそれぞれ接続される。スイッチ素子17b~17h及びスイッチ素子18b~18hは、制御信号φ7、φ8、φ1、φ2、φ3、φ4、φ5、φ6に基づいて制御される。
このように、第1のフィルタ171は、8つのキャパシタ35a~35dに、出力線32a~32dが順次接続されることで、正相I信号、逆相I信号、正相Q信号、及び逆相Q信号を適正にフィルタリングすることが可能となっている。これにより、4つの信号の各々から所望の周波数帯域(例えばNFCの通信帯域)の周波数成分を抽出することが可能である。
なお、正相I信号及び正相Q信号をフィルタリングするタイミングはπ/2だけ位相のずれたタイミング(例えばφ1とφ3)に設定される(図6等参照)。同様に、逆相I信号及び逆相Q信号をフィルタリングするタイミングもπ/2だけ位相のずれたタイミング(例えばφ5とφ7)に設定される。これにより、IQ変換された差動信号を高精度にフィルタリングすることが可能となる。
図17は、第3の実施形態に係る第2のフィルタ172の具体的な構成例を示す回路図である。第2のフィルタ172は、正相I信号、正相Q信号、逆相I信号、逆相Q信号からNFC信号を除去するフィルタであり、8パスの複素ノッチフィルタ(Complex 8-Path Notch filter)として構成される。
第2のフィルタ172は、図16に示す第1のフィルタ171を構成するフィルタ回路170の接続を切り替えることで実現可能である。具体的には、フィルタ回路170の第1の接続部31をGNDに接続し、第2の接続部36をIQ入力端子30に接続することで第2のフィルタ172が構成される。
図17に示すように、第2のフィルタ172では、第1の接続部31の入力線31a~31bがGNDに接続される。また第2の接続部36のGND線36aが正相I入力端子30aに接続され、GND線36bが逆相I入力端子30bに接続され、GND線36cが正相Q入力端子30cに接続され、GND線36dが逆相Q入力端子30dに接続される。
なお、第2のフィルタ172では、各スイッチ素子は、図16に示す第1のフィルタ171と同様のタイミングで制御される。これにより正相I信号、逆相I信号、正相Q信号、及び逆相Q信号から所望の周波数帯域(例えばNFCの通信帯域)の周波数成分を除去することが可能である。
このように、フィルタ回路170を構成することで、IQ変換を用いた通信が実行される場合であっても、4つの信号を高精度にフィルタリングすることが可能である。また、共通のフィルタ回路170を用いて、第1のフィルタ171及び第2のフィルタ172を構成することができるため、回路の面積等を十分に小さくすることが可能となる。
<その他の実施形態>
本技術は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
図13に示すフローチャートでは、通信モードが実行できない場合に、通信を停止するシーケンスを実行することで消費電力を抑えた通信が実現された。これに限定されず、BAN通信を実行するための任意のシーケンス処理が実行されてよい。
図18は、他の実施形態に係る通信装置の動作の一例を示すフローチャートである。図18に示すように、まず通信装置が起動され(ステップ201)、NFCキャリアを検出するための検出モードが実行される(ステップ202)。そして検出されたNFCキャリアのレベル(NFC信号の強度)についてのレベル判定が実行される(ステップ203)。
NFCキャリアが十分に小さい場合(ステップ203のYes)、BAN通信を行う通信モードが実行される。一方で、NFCキャリアが大きくBAN通信を実行しないと判定された場合(ステップ203のNo)、所定時間の待機モードが実行される(ステップ204)。そして所定時間が経過すると、再度ステップ203のレベル判定が実行される。図18に示す処理では、レベル判定と待機モードとが、BAN通信が可能と判定されるまで繰り返し実行される。BAN通信が可能と判定されると、通信モードが実行される(ステップ205)。
このように、レベル判定を継続的に繰り返すことで、BAN通信が可能となるタイミング(例えばNFCキャリアが弱まるタイミング等)を逃すことなく、BAN通信を実行することが可能である。これにより、BAN通信を確実に実行することが可能である。例えばこのような処理が実行されてもよい。
上記の実施形態では、接続を切り替えることで第1のフィルタ及び第2のフィルタとして機能するフィルタ回路が用いられた。これに限定されず、例えば第1のフィルタ及び第2のフィルタが別々の回路を用いて構成されてもよい。あるいは、第1のフィルタ及び第2のフィルタのどちらか一方が設けられる、例えばこのような構成が採用されてもよい。
また第1のフィルタが抽出する周波数帯域と、第2のフィルタが規制する周波数帯域とが互いに異なる帯域に設定されてもよい。第1のフィルタや第2のフィルタの周波数特性等は限定されず、例えばNFC信号の検出やBAN通信が適正に実行可能となるように適宜設定されてよい。
図1では、NFC over BANの通信システムについて説明した。これに限定されず、例えばNFCのプラットフォームを用いることなく、BANの通信方式による通信が実行されてもよい。このような場合であっても、想定される妨害波を事前に検出することで、BAN通信を確実に実行することが可能である。
上記では、NFC信号をBAN通信の妨害波として説明した。本技術はNFC信号のみならず、BAN通信の妨害波となる任意の通信方式の信号に対して適用可能である。またBAN通信を実行する場合に限定されず、他の通信方式による通信が実行される場合にも、本技術を用いることで、目的とする通信方式での通信を確実に実現することが可能である。
目的とする通信方式としては、例えばNFC、携帯電話の移動体通信、WiFi(無線LAN)、Bluetooth(登録商標)等の任意の無線通信方式が用いられてよい。これらの通信方式に対して妨害波となる他の通信方式の信号を適宜検出することで、各通信方式での通信の確実性を十分に向上することが可能である。
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)互いに異なる複数の通信方式の信号を含む無線信号を受信する受信部と、
前記無線信号の受信に応じて生成された受信信号に含まれる第1の通信方式の信号の強度に基づいて、前記第1の通信方式とは異なる第2の通信方式による通信を実行するか否かを判定する判定部と、
前記判定部による判定結果に基づいて、前記生成された受信信号を伝送する伝送路の通過帯域を制御する帯域制御部と
を具備する通信装置。
(2)(1)に記載の通信装置であって、
前記帯域制御部は、互いに通過帯域の異なる複数の伝送部を有し、前記伝送路に前記複数の伝送部の各々を切り替えて設定する
通信装置。
(3)(2)に記載の通信装置であって、
前記複数の伝送部は、前記第1の通信方式に応じた周波数帯域を抽出する抽出部と、前記第1の通信方式に応じた周波数帯域を規制する規制部と、前記受信信号を通過する通過部との少なくとも1つを含む
通信装置。
(4)(3)に記載の通信装置であって、
前記判定部は、前記抽出部を通過した信号の強度に基づいて、前記第2の通信方式による通信を実行するか否かを判定する
通信装置。
(5)(3)又は(4)に記載の通信装置であって、
前記判定部は、前記判定結果に基づいて、前記第1の通信方式の信号の強度を検出する検出モードを、前記第2の通信方式による通信を実行する通信モードに切り替える
通信装置。
(6)(5)に記載の通信装置であって、
前記帯域制御部は、前記検出モードが実行されている場合、前記伝送路に前記抽出部を設定する
通信装置。
(7)(6)に記載の通信装置であって、
前記帯域制御部は、前記第2の通信方式による通信を実行すると判定された場合、前記伝送路に前記規制部及び前記通過部のどちらか1方を設定する
通信装置。
(8)(3)から(7)のうちいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記抽出部は、前記第1の通信方式の通信帯域を通過する帯域通過フィルタであり、
前記規制部は、前記第1の通信方式の通信帯域を除去する帯域除去フィルタである
通信装置。
(9)(1)から(8)のいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記判定部は、前記第1の通信方式の信号の強度が、第1の閾値以下である場合、前記第2の通信方式による通信の実行を判定する
通信装置。
(10)(9)に記載の通信装置であって、
前記帯域制御部は、前記第1の通信方式の信号の強度が、前記第1の閾値よりも低い第2の閾値以下である場合、前記伝送路に前記受信信号を通過する通過部を設定する
通信装置。
(11)(10)に記載の通信装置であって、
前記帯域制御部は、前記第1の通信方式の信号の強度が、前記第1の閾値以下であり前記第2の閾値よりも大きい場合、前記伝送路に前記第1の通信方式に応じた周波数帯域を規制する規制部を設定する
通信装置。
(12)(1)から(11)のいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記判定部は、前記第2の通信方式による通信を実行しないと判定された場合、判定処理を所定時間だけ待機する待機モードを選択し、前記待機モードの後に前記判定処理を実行する
通信装置。
(13)(12)に記載の通信装置であって、
前記判定部は、前記待機モードが所定回数だけ連続して選択された場合、前記判定処理を停止する停止モードを選択する
通信装置。
(14)(1)から(13)のいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記判定部は、前記第1の通信方式の信号の強度に応じて、前記第2の通信方式に用いられる通信信号の強度を制御する
通信装置。
(15)(14)に記載の通信装置であって、
前記通信信号は、受信用の信号及び送信用の信号の少なくとも一方を含む
通信装置。
(16)(3)から(15)のいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記抽出部は、前記受信信号が入力される入力端子に接続される第1の端子部と、GNDに接続される第2の端子部とを含むフィルタ回路により構成され、
前記規制部は、前記フィルタ回路の前記第1の端子部を前記GNDに接続し、前記第2の端子部を前記入力端子に接続することで構成される
通信装置。
(17)(16)に記載の通信装置であって、
前記フィルタ回路は、出力端子となる第3の端子部と、前記第3の端子部と前記第1の端子部との間に接続される抵抗部と、前記第3の端子部と前記第2の端子との間に接続される容量部とを有する
通信装置。
(18)(1)から(17)のいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記第1の通信方式は、近接通信(NFC)の通信方式であり、
前記第2の通信方式は、人体通信網(BAN)の通信方式である
通信装置。
(19)(1)から(18)のいずれか1つに記載の通信装置であって、
前記無線信号は、通信対象と人体との接触及び接近により受信される信号を含む
通信装置。
(20)互いに異なる複数の通信方式の信号を含む無線信号を受信し、
前記無線信号の受信に応じて生成された受信信号に含まれる第1の通信方式の信号の強度に基づいて、前記第1の通信方式とは異なる第2の通信方式による通信を実行するか否かを判定し、
前記判定結果に基づいて、前記生成された受信信号を伝送する伝送路の通過帯域を制御する
通信方法。