以下、添付図面を参照して実施例を説明する。実施例は本開示を実現するための一例に過ぎず、本開示の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。各図において共通の構成については同一の参照符号が付されている。以下において、荷電粒子ビームを試料に照射する荷電粒子線装置の例として、電子ビームを使用した試料の観察装置(電子顕微鏡)を示すが、イオンビームを使用する装置の他、計測装置や検査装置に対しても、本開示の特徴を適用することができる。
[システム構成]
図1は、走査電子顕微鏡(SEM)システムの基本構成を模式的に示す。SEMシステムは、SEM装置50及び制御システム42を含む。SEM装置50は荷電粒子線装置の例であり、電子ビーム源1、引き出し電極2、コンデンサレンズ11、コンデンサ絞り12、軸調整偏向器13、非点収差補正装置14、スキャン偏向器15、及び対物レンズ20を含む。図1において、一つのコンデンサレンズのみが例として符号11で指示されている。
非点収差補正装置14はコイルを組み合わせて構成されるもののほか、多極子によって構成されるもの、あるいは複数の多極子の組み合わせによって構成された球面、あるいは各種収差補正を行う装置であってもよい。また各偏向器は異なる高さに配置された複数の偏向器を組み合わせて所定の用途に使用することも可能である。
電子ビーム源1は荷電粒子源の例であり、1次電子ビームを発生する。コンデンサレンズ11は、1次電子ビームの収束条件を調整する。コンデンサ絞り12は、1次電子ビームの拡がり角を制御する。軸調整偏向器13は、対物レンズ20に対する1次電子ビームの位置を調整する。非点収差補正装置14が、試料21に入射する1次電子ビーム(プローブ)のビーム形状を調整する。スキャン偏向器15は試料21に入射する1次電子ビームをラスタ走査する。対物レンズ20は、1次電子ビームの試料21に対するフォーカス位置を調整する。
SEM装置50は、さらに、試料ステージ22、反射板16及び検出器26を含む。試料ステージ22は、試料21の試料室内での位置を決める。試料21から発生した電子、または試料21から反射板16に向かった電子が衝突して生じた電子は、検出器26によって検出される。
制御システム42は、SEM装置50を制御する。例えば、制御システム42は、一次電子ビームの加速電圧や引出し電圧、並びに、レンズ及び偏向器等の構成要素の電流を制御する。また、制御システム42は、試料ステージ22を制御することで、試料21に対する1次電子ビームの照射位置、1次電子ビームのフォーカス位置に対する試料21の位置関係を調整することができる。
制御システム42は、検出器26のゲインやオフセットを制御し、検出された二次電子ビームによる画像を生成する。後述するように、制御システム42は、画像を評価(解析)して、画像における所定の評価値を計算する。制御システム42は、計算した評価値に基づいて所定の処理を実行する。
制御システム42は、制御装置40及び計算機41を含む。計算機41は、制御装置40を介して、SEM装置50の構成要素を制御する。計算機41は、プログラム及びプログラムが使用するデータを格納する記憶装置並びに記憶装置に格納されているプログラムに従って動作するプロセッサを含む。プログラムは、SEM装置50の制御プログラム及び画像処理プログラムを含む。
計算機41は、さらに、ネットワークに接続するためのインタフェース及びユーザインタフェースを含む。ユーザインタフェースは、画像を表示する表示装置及びユーザが計算機41に指示を行うための入力装置を含む。計算機41は、制御装置40を制御する。制御装置40は、AD変換器、DA変換器、メモリ、及びFPGAもしくはマイクロプロセッサ等の演算装置等の構成要素を含む。
SEM像を得る工程を説明する。引き出し電極2は、電子ビーム源1から一次電子ビームを所定引出し電圧で引き出す。光軸と平行な方向をZ方向、光軸と直交する面をXY平面とする。制御システム42は、試料ステージ22のZ位置調整または対物レンズ20の制御パラメータ調整によって、一次電子ビームが試料21の上で収束するように合わせる。この調整は粗調整である。
制御システム42は、フォーカス粗調整の後、試料ステージ22のXY移動機構を用いて電子光学系調整用の視野を選択する。この際、視野の選択は装置の使用者によって直接試料ステージ22のXY移動機構を操作することによって行われてもよい。制御システム42は、当該電子光学系調整用視野で、軸ずれ、フォーカス及び非点を補正する。具体的には、制御システム42は、軸調整偏向器13、非点収差補正装置14、及び対物レンズ20の調整パラメータを補正する。
次に、制御システム42は、試料ステージ22を用いて、観察視野を撮影用視野に移動し、鮮鋭な画像が観察できる様に対物レンズ20のフォーカスをユーザ操作により微調整した後又はフォーカス調整機能によって調整された適切なフォーカス位置において、像を取得する。後述するように、制御システム42のフォーカス判定機能により、視野移動後に素早く試料(表面)の高さ位置に対して適切なフォーカス位置を特定することができる。また、フォーカス追従機能がONである場合、制御システム42は、常にフォーカスを適切な試料の高さ位置に維持することができる。
図2は、走査透過電子顕微鏡(STEM)として使用されるシステムの基本構成を模式的に示す。STEMシステムは、STEM装置51及び制御システム42を含む。STEM装置51は、電子ビーム源1、引き出し電極2、コンデンサレンズ11、コンデンサ絞り12、軸調整偏向器13、非点収差補正装置14、スキャン偏向器15、対物レンズ20、及び試料ステージ22を含む。図2において、一つのコンデンサレンズのみが例として符号11で指示されている。これらの機能はSEM装置50と同様である。
STEM装置51は、試料21の後側に、対物絞り23、軸調整偏向器24、制限視野絞り25、結像系レンズ30、及び検出器31を含む。図2において、一つの結像系レンズのみが例として符号30で指示されているほか、結像系レンズについてはSTEMとしての機能を得る上で必ずしも必須ではない。結像系レンズ30は、試料21を透過した透過電子ビームを結像する。検出器31は、結像された電子ビームを検出する。
制御システム42は、検出された二次電子ビームによる画像を生成する。後述するように、制御システム42は、複数の画像を評価して、画像それぞれにおける複数位置での所定の評価スコアを計算する。制御システム42は、計算した評価スコアに基づいて所定の処理を実行する。
制御システム42は、SEMシステムと同様に、制御装置40及び計算機41を含む。計算機41が実行するプログラムは、STEM装置51の制御プログラム及び画像処理プログラムを含む。
STEM像を得る工程を説明する。引き出し電極2は、電子ビーム源1から一次電子ビームを所定引出し電圧で引き出す。制御システム42は、試料ステージ22上の試料21に、1次電子ビームを照射する。
制御システム42は、試料ステージ22のZ位置調整または対物レンズ20の制御パラメータ調整によって、1次電子ビームのフォーカス粗調整を行う。その後、制御システム42は、試料ステージ22のXY移動機構を用いて電子光学系調整用の視野を選択する。制御システム42は、当該電子光学系調整用視野で、光学系のずれ、フォーカス及び非点収差を補正する。具体的には、軸調整偏向器13、非点収差補正装置14、及び対物レンズ20の調整パラメータを補正する。
次に、制御システム42は、試料ステージ22を用いて、観察視野を撮影用視野に移動し、鮮鋭な画像が観察できる様に対物レンズ20のフォーカスをユーザ操作により微調整した後又はフォーカス追従機能により適切なフォーカス位置に調整した後において、画像を取り込む。後述するように、制御システム42のフォーカス判定機能により、視野移動後に素早く試料(表面)の高さ位置に対して適切なフォーカス位置を特定することができる。また、フォーカス追従機能がONである場合、制御システム42は、フォーカスを適切な試料の高さ位置に維持することができる。
制御システム42は、コンデンサレンズ11、軸調整偏向器13、非点収差補正装置14を用いて、1次電子ビームを試料21に対して入射させる。制御システム42は、スキャン偏向器15により1次電子ビームをスキャンする。1次電子ビームが試料21に入射すると、大部分の電子は試料21を透過する。結像系レンズ30は透過電子ビームを検出器31上に適切な角度で入射させ、STEM像が得られる。STEM像の倍率はスキャン偏向器15を制御する電流によって設定される。
図3は、計算機41のハードウェア構成例を示す。計算機41は、プロセッサ411、メモリ(主記憶装置)412、補助記憶装置413、出力装置414、入力装置415、及び通信インタフェース(I/F)417を含む。上記構成要素は、バスによって互いに接続されている。メモリ412、補助記憶装置413又はこれらの組み合わせは記憶装置であり、プロセッサ411が使用するプログラム及びデータを格納している。
メモリ412は、例えば半導体メモリから構成され、主に実行中のプログラムやデータを保持するために利用される。プロセッサ411は、メモリ412に格納されているプログラムに従って、様々な処理を実行する。プロセッサ411がプログラムに従って動作することで、様々な機能部が実現される。補助記憶装置413は、例えばハードディスクドライブやソリッドステートドライブなどの大容量の記憶装置から構成され、プログラムやデータを長期間保持するために利用される。
プロセッサ411は、単一の処理ユニットまたは複数の処理ユニットで構成することができ、単一もしくは複数の演算ユニット、又は複数の処理コアを含むことができる。プロセッサ411は、1又は複数の中央処理装置、マイクロプロセッサ、マイクロ計算機、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ、ステートマシン、ロジック回路、グラフィック処理装置、チップオンシステム、及び/又は制御指示に基づき信号を操作する任意の装置として実装することができる。
補助記憶装置413に格納されたプログラム及びデータが起動時又は必要時にメモリ412にロードされ、プログラムをプロセッサ411が実行することにより、計算機41の各種処理が実行される。
入力装置415は、ユーザが計算機41に指示や情報などを入力するためのハードウェアデバイスである。出力装置414は、入出力用の各種画像を提示するハードウェアデバイスであり、例えば、表示デバイス又は印刷デバイスである。通信I/F417は、ネットワークとの接続のためのインタフェースである。
計算機41の機能は、1以上のプロセッサ及び非一過性の記憶媒体を含む1以上の記憶装置を含む1以上の計算機からなる計算機システムに実装することができる。複数の計算機はネットワークを介して通信する。例えば、計算機41の複数の機能が複数の計算機に実装されてもよい。
図4Aは、非点収差補正装置14の構成例を示す。図4Aの構成例において、非点収差補正装置14は、8極子コイルを含む。非点収差補正装置14は、X軸ペア(X1、X2)の非点収差を補正するコイル(X軸非点収差補正コイル)X11、X12、X21、X22と、Y軸ペア(Y1、Y2)の非点収差を補正するコイル(Y軸非点収差補正コイル)Y11、Y12、Y21、Y22と、を含む。
X軸非点収差補正コイルは、Y軸非点収差補正コイルの配置位置に対し、光軸中心の回りに45度回転した位置に配置される。X軸非点収差補正コイルX11、X12は光軸中心を挟んで対向する。X軸非点収差補正コイルX21、X22は光軸中心を挟んで対向する。Y軸非点収差補正コイルY11、Y12は光軸中心を挟んで対向する。Y軸非点収差補正コイルY21、Y22は光軸中心を挟んで対向する。X1軸、X2軸、Y1軸、Y2軸の交点は光軸中心に一致することが好ましい。
非点収差補正装置14は、8極子コイルを用い、電子ビームEBの断面形状を変形する。コイルが生成する磁場の方向と、前記磁場が電子ビームに対して与える力の方向は直行関係にあるため、X軸非点収差補正コイルを用いることによってビームをY軸(Y1、Y2)方向に対して変形させ、Y軸非点収差補正コイルを用いることによってビームをX軸(X1、X2)方向に対して変形させることが可能となる。例として、図4Aは光軸中心からX1軸の正負両方向に引っ張られるように変形された電子ビームEBを示している。このような形状に変形した電子ビームEBの非点収差補正にはY軸非点収差補正コイルが使用される。
制御システム42は、Y軸非点収差補正コイルY11、Y12に電流を流し、Y1軸に沿って光軸の方向に向けた磁束の流れを生み出し、また同時に、Y軸非点収差補正コイルY21、Y22に逆向きの電流を流し、Y2軸においてY1軸とは逆向きの磁場を発生させる。その結果、X1軸上ではX1軸に直行する方向、Y11からY21、Y12からY21、に向かう方向に磁場が生じることにより電子ビームEBに対して楕円の長軸方向(X1軸)に沿って圧縮される方向に変形し、またX2軸上ではX2軸に直行する方向、Y12からY21、Y11からY22に向かう方向に磁場が生じることにより電子ビームEBに対して楕円の長軸方向(X2軸)に沿って発散される方向に変形する。結果的に、非点収差補正コイルが形成する補正磁場を通過した電子ビームEBは円形状に補正される。
Y1軸又はY2軸に一致する長軸及びY2軸又はY1軸に一致する短軸を有する楕円形の断面を持つ電子ビームを補正する場合、制御システム42は、X軸非点収差補正コイルを使用する。具体的には、制御システム42は、X軸非点収差補正コイルX11、X12に電流を流し、X1軸に沿って光軸に向かう方向、もしくは光軸から離れる方向に向けた磁束の流れを生み出し、また同時に、X軸非点収差補正コイルX21、X22に逆向きの電流を流し、X2軸においてX1軸とは逆向きの磁場を発生させる。これによって電子ビームを円形の断面をもつように補正することが可能となる。
例えば、制御システム42は、X軸非点収差補正コイルの電流(Xパラメータ)及びY軸非点収差補正コイルの電流(Yパラメータ)を指定して、非点収差補正装置14を制御する。非点収差補正装置14は、指定されたX、Yパラメータに従って、各補正コイルに電流を与える。
また、上記の説明ではコイルを用いた非点収差補正の例を述べたが、コイルの代わりに電極を使用し、電場による作用を用いることによっても同様の調整を行うことが可能である。この場合、制御を行う電極の方向に対して電子ビームが変形するという点のみが磁場を用いた場合に対する差異となるが、それ以外の点については同様の制御を行うことによって同様の効果を得ることが可能である。また、上述の説明では8極子コイルを用いた非点収差補正の例を述べているが、そのほか12極子コイルなど異なる数の多極子コイルを用いることにより、異なる対称性を有した収差に対しても補正を行うことが可能である。
[フォーカス調整]
以下において、SEM装置50またはSTEM装置51(以下荷電粒子線装置)により取得された画像の解析及び画像解析結果に基づき、SEM装置50またはSTEM装置51のフォーカス位置を評価し、また必要に応じて調整を行うための方法を説明する。フォーカス位置は、対物レンズ20の電流により制御できる。対物レンズ電流を調整することで、試料に対するフォーカスの上下位置を調整することができる。
例えば、制御システム42は、荷電粒子線装置における電子光学系における非点収差に関して少なくともその方向が一定以上の精度で既知となっている状態で、一定フォーカス位置での試料の一つの画像を取得する。さらに計算機41は上記取得された画像に対して鮮鋭度を評価する。さらに計算機41は上記既知の非点収差と上記鮮鋭度の値に基づきフォーカス位置と試料の高さ位置との関係を推定する。
この時に必要となる非点収差の方向に関する既知の情報の精度は、非点収差による電子ビームの伸びの方向に換算する場合は±45°以内、非点収差係数を正負で表す場合にはその符号が区別できるだけの精度があればフォーカス位置と試料の高さ位置との関係を推定することができる。更にその方向が高い精度で既知となっているほど、またその大きさが分かっているほど判定における精度は向上する。
具体的には、計算機41は、異方性フィルタを使用して、画像における2軸に沿った鮮鋭度の評価値を算出し、それら評価値と既知の非点収差に関する情報とに基づいて試料の高さ位置とフォーカス位置との間の関係を推定する。評価値は、像に含まれる軸に沿った像の強度変化の急峻さまたはその最大値、あるいは所定の基準に対応する空間周波数の高さを表す。
以下に説明するように、計算機41は、フォーカス位置が試料の上側又は下側に、どの程度離れているかを推定する。以下の説明において、電子ビーム源1の側が試料の上側、その反対側が試料の下側であり、この試料に対する上下方向に沿った位置を高さと呼ぶ。なお、計算機41は、フォーカス位置が試料の上側又は下側に位置することのみを推定し、それらの距離を推定しなくてもよい。
計算機41は、鮮鋭度と異なる、空間的な広がりに対応して変化する指標を評価してもよい。その例としては、画像をフーリエ変換した結果における、特定方向の周波数強度スペクトルの広がり、あるいは画像から得られる自己相関、相互相関係数に生じるピーク強度の特定方向に対する広がりなどを用いることができる。また、計算機41は、2次元画像信号と異なる信号、例えば、一次元の信号を取得し、その信号の空間的な広がりに対応して変化する指標を評価することで、試料の高さ位置とフォーカス位置(ビームの収束面の位置)との関係を求めてもよい。
図4Bは電子光学系が有する非点収差の方向及び大きさが変化した際に、電子ビームが収束する部分に対して特定の高さにある面における電子ビームの断面形状がどのように変化するかを示した例である。断面121から断面125は、非点収差の方向が0°であり、その大きさが変化した場合の例を示す。例として、断面123が非点収差量0、断面122が非点収差量1、断面121が非点収差量2、断面124が非点収差量-1、断面125が非点収差量-2である場合に対応している。
断面131から断面135は非点収差の方向が45°であり、その大きさが変化した場合の例を示す。例として、断面133が非点収差量0、断面132が非点収差量1、断面131が非点収差量2、断面134が非点収差量-1、断面135が非点収差量-2である場合に対応している。
このときの収差量の単位や収差の絶対量のスケールは条件や基準の取り方に応じて様々な形を取りうる。また別の収差の表現方法として、収差の大きさを正の数値で表現した場合、断面124を90°方向の大きさ1、断面125を90°方向の大きさ2、断面134を135°方向の大きさ1、断面135を135°方向の大きさ2、に対応する収差と表現することもできる。
2次の非点収差の場合、180°の回転対称性を有しているため、0°方向の収差と180°方向の収差は実質的に同等となる。このことに基づき、ビーム断面の長軸方向が0~180°の範囲で変化する角度領域を収差の方向の1周期として扱い、この1周期に対して新たに0~360°、あるいは-180~180°などの角度を割り当ててその方向を表現することも可能である。また、任意の方向と大きさを持った収差量を、直交する二方向の成分に分解してそれぞれを実部、虚部とした複素数による表現を用いることも可能である。このような収差の方向は位相とも表現される。
図5は、非点収差を有していない、あるいは非点収差がその影響が無視できる程度に小さい量となっている電子光学系によって電子ビームが収束する部分、及び、当該電子ビームによって異なる高さ位置の試料を観察した際に得られるそれぞれの画像を、模式的に示している。
図5において、103はZ軸を光軸として1つの収束点を持った電子ビームの、Z軸とX軸を含む面上における断面を示したものである。更に101とその上側に示す複数の円は前記電子ビームの、Z軸上の異なる複数の面における断面形状を示したものであり、図形の横方向と縦方向はそれぞれX軸とY軸方向に対応する。ビームの収束する位置を基準(Z=0)とした時の各断面形状101に対応するZ軸上の位置をその左に示しており、例えば単位はμmである。フォーカス位置より上の位置は正の数字で示され、フォーカス位置より下の位置は負の数字で示されている。X軸、Y軸、Z軸は互いに垂直である。
荷電粒子線装置の電子光学系は非点収差を有していないため、任意の高さ位置(Z軸での位置)におけるビーム断面形状101は、円である。図5においては、一つの高さ位置におけるビーム断面形状が例として符号101で指示されている。ビーム断面形状の径は、フォーカス位置(Z=0)において最も小さく、フォーカス位置から離れるにしたがって大きくなる。
そのため、試料の高さ位置が電子ビーム103のフォーカス位置(Z=0)と一致する画像203が最も鮮鋭である。試料の高さ位置がフォーカス位置よりも上の位置(Z=10)である画像201及び試料の高さ位置がフォーカス位置よりも下の位置(Z=-10)である画像205は、共に、フォーカス位置における画像203よりもボケており、その精鋭度は低い。このとき電子光学系は非点収差を有していないため画像201及び205のボケは等方的である。
図6は、図5で示した電子ビームに対して電子光学系に所定の非点収差が加わった状態における電子ビームの形状、及び、当該電子ビームによる異なる高さ位置の試料の画像を、模式的に示している。153は前記電子ビームの、Z軸とX軸を含む面上における断面を示したものである。電子ビームの光軸はZ軸と一致しており、更にX軸、Y軸、Z軸は互いに垂直である。
図6左に示すZの値はZ軸上の位置を示しており、図6で示す状態が非点収差を持たない状態、すなわち図5で示す151A、151B、151Cで示す複数の円は電子ビームのZ軸上の異なる複数の面における断面形状を示したものであり、図形の横方向と縦方向はそれぞれX軸とY軸方向に対応する。各図形に対応するZ軸上の位置がその左に示されており、例えば単位はμmである。図5で示すZ軸上の位置と図6で示すZ軸上の位置は同じ位置であり、図5と図6でZ軸上の同じ位置におけるビーム断面形状を比較することは、所定の非点収差が加わる前後におけるZ軸上の同一面におけるビーム断面形状の変化を評価することに対応する。
図6においてZ=0となる位置におけるビーム断面形状151Aは、円である。荷電粒子線装置の電子光学系は非点収差を有しているため、Z=0となる位置におけるビーム断面形状151Aの径は、非点収差を有していない電子光学系のZ=0となる位置におけるビーム断面形状の径よりも大きい。試料の高さ位置がZ=0となる位置と一致する画像253は、非点収差を有していない電子光学系によるZ=0となる位置での画像203と比較して、ややボケている。
非点収差を有している電子光学系において、Z=0となる位置と異なる位置におけるビーム断面形状は、円と異なる。図6に示す非点収差は、一次の非点収差又は二回対称の非点収差であり、Z=0となる位置と異なる高さ位置でのビーム断面形状は、楕円形である。
図6においては、Z=0となる位置よりも高い位置の一つのビーム断面形状が符号151Bで指示されており、長軸がX軸と一致し、短軸がY軸と一致している。またZ=0となる位置よりも低い位置の一つのビーム断面形状が符号151Cで指示されており、長軸がY軸と一致し、短軸がX軸と一致している。
ビーム断面形状は、高さ位置Z=10においてY軸における最も小さい径を有している。高さ位置が、Z=10から離れるにしたがって、Y軸における径が増加する。高さ位置Z=10は、Y軸におけるフォーカス位置と見做すことができる。また、ビーム断面形状は、高さ位置Z=-10においてX軸における最も小さい径を有している。高さ位置が、Z=-10から離れるにしたがって、X軸における径が増加する。高さ位置Z=-10は、X軸におけるフォーカス位置と見做すことができる。
このことより、非点収差を有さない電子光学系ではフォーカス位置の上下近傍においてビームの断面形状は円形で等方的なものとなるのに対し、光学系が非点収差を有する状態ではフォーカス位置の上下近傍においてビームの断面形状は異方的なものとなり、またその方向はフォーカス位置の上下で変化することが分かる。
試料の高さ位置がZ=10であるときの画像251は、Z=0となる位置における画像253と比較して、X軸に沿ったボケは大きく、Y軸に沿ったボケは小さくなっている。そのため、X軸に沿った鮮鋭度は低く、Y軸に沿った鮮鋭度は高い。これは、高さ位置Z=10におけるビーム断面形状のX軸における径がZ=0となる位置における径より大きく、高さ位置Z=10におけるビーム断面形状のY軸における径がZ=0となる位置における径より小さいことに起因する。
また、試料の高さ位置がZ=-10であるときの画像255は、Z=0となる位置における画像253と比較して、X軸に沿ったボケは小さく、Y軸に沿ったボケは大きくなっている。そのため、X軸に沿った鮮鋭度は高く、Y軸に沿った鮮鋭度は低い。これは、高さ位置Z=-10におけるビーム断面形状のY軸における径がZ=0となる位置における径より大きく、高さ位置Z=-10におけるビーム断面形状のX軸における径がZ=0となる位置における径より小さいことに起因する。
図7は、非点収差を有してない電子光学系による画像201、203、205それぞれの、微分画像を示す。画像群211は、試料の高さ位置がZ=10であるときの画像201、画像201のX軸に沿った微分画像201X、及び、画像201のY軸に沿った微分画像201Yで構成されている。
画像群213は、試料の高さ位置がフォーカス位置(Z=0)にあるときの画像203、画像203のX軸に沿った微分画像203X、及び、画像203のY軸に沿った微分画像203Yで構成されている。画像群215は、試料の高さ位置がZ=-10であるときの画像205、画像205のX軸に沿った微分画像205X、及び、画像205のY軸に沿った微分画像205Yで構成されている。
微分画像は、対応する軸に沿った画像強度(輝度)の変化(鮮鋭度)を示し、その強度(輝度)は元画像の強度の勾配が急峻なほど高くなる。図7において、フォーカス位置における微分画像203Xは、X軸に沿った他の微分画像201X、205Xよりも高い最大強度を示している。また、フォーカス位置における微分画像203Yは、Y軸に沿った他の微分画像201Y、205Yよりも高い最大強度を示している。これは、フォーカス位置におけるビーム断面のX軸及びY軸に沿った径が、他の高さ位置におけるビーム断面のX軸及びY軸に沿った径より小さく、得られた画像がX軸およびY軸それぞれの方向にシャープであることを示す。
図8は、非点収差を有している電子光学系による画像251、253、255それぞれの、微分画像を示す。画像群261は、試料の高さ位置がZ=10であるときの画像251、画像251のX軸に沿った微分画像251X、及び、画像251のY軸に沿った微分画像251Yで構成されている。
画像群263は、試料の高さ位置がフォーカス位置(Z=0)にあるときの画像253、画像253のX軸に沿った微分画像253X、及び、画像253のY軸に沿った微分画像253Yで構成されている。画像群265は、試料の高さ位置がZ=-10であるときの画像255、画像255のX軸に沿った微分画像255X、及び、画像255のY軸に沿った微分画像255Yで構成されている。
図8において、高さ位置Z=10におけるY軸に沿った微分画像251Yは、Y軸に沿った他の微分画像253Y、255Yよりも高い最大強度を示している。これは、高さ位置Z=10におけるビーム断面のY軸に沿った径が、他の高さ位置のビーム断面のY軸に沿った径より小さく、得られた画像がY軸方向に対してシャープであることを示す。
また、高さ位置Z=-10におけるX軸に沿った微分画像255Xは、X軸に沿った他の微分画像251X、253Xよりも高い最大強度を示している。これは、高さ位置Z=-10におけるビーム断面のX軸に沿った径が、他の高さ位置のビーム断面のX軸に沿った径より小さく、得られた画像がX軸方向に対してシャープであることを示す。
上述のように、非点収差を有する電子光学系によって得られるビームによって得られる画像は、フォーカス位置に対する試料の高さ位置に依存する鮮鋭度の異方性を有している。図6及び8に示す例において、フォーカス位置(Z=0)よりも高い位置における試料の画像は、Y軸に沿って高い鮮鋭度を示し、X軸に沿って低い鮮鋭度を示す。また、フォーカス位置(Z=0)よりも低い位置における試料の画像は、X軸に沿って高い鮮鋭度を示し、Y軸に沿って低い鮮鋭度を示す。計算機41は、非点収差を有する電子光学系における画像において、鮮鋭度の異方性を評価して、当該画像を取得したときの試料の高さ位置とフォーカス位置との関係を推定する。
画像の鮮鋭度の異方性を評価するため、計算機41は、異なる2軸における鮮鋭度評価値を計算する。一つの軸における鮮鋭度が高いことは、その軸におけるビーム断面形状の径が小さいことを意味する。2軸は、例えば、楕円ビーム断面形状の長軸及び短軸と一致する。これにより、試料の高さ位置の推定に効果的な鮮鋭度評価値を得ることができる。また、電子光学系に対して適切な方向の非点収差を加えることにより、画像を構成する2軸と一致する方向に対して楕円ビームの長軸と短軸を一致させることも可能である。この場合、画像の2軸それぞれの方向における鮮鋭度を評価する際の演算処理が簡潔となる。また鮮鋭度評価値を計算するため、他の2軸が選択されてもよい。フォーカス位置と異なる高さ位置においてビーム断面形状の径が異なる2軸が選択される。2軸は直交していなくてもよい。
次に、2軸の鮮鋭度評価値から試料の高さ位置とフォーカス位置との関係を推定する方法を説明する。以下に説明する例は、図5~図8に示すX軸における鮮鋭度評価値(X鮮鋭度評価値)とY軸における鮮鋭度評価値(Y鮮鋭度評価値)から、試料の高さ位置とフォーカス位置との関係を推定する。鮮鋭度評価値の計算方法の詳細は後述するが、ウェーブレット変換や微分フィルタにより適切な鮮鋭度評価値を得ることができる。
図9は、非点収差を有していない電子光学系における画像の鮮鋭度評価値を示す。グラフ301は、横軸が試料の高さ位置(Z軸上の位置)、縦軸が画像のX鮮鋭度評価値を示す。各点はそれぞれ画像201、203及び205における、X鮮鋭度評価値を示す。フォーカス位置(Z=0)にある試料の画像203のX鮮鋭度評価値が最も高く、フォーカス位置の上下の位置(Z=-10、10)における試料の画像201、205のX鮮鋭度評価値は低い。
グラフ302は、横軸が試料の高さ位置(Z軸上の位置)、縦軸が画像のX鮮鋭度評価値を示す。各点はそれぞれ画像201、203及び205における、Y鮮鋭度評価値を示す。フォーカス位置(Z=0)にある試料の画像203のY鮮鋭度評価値が最も高く、フォーカス位置の上下の位置(Z=-10、10)における試料の画像201、205のY鮮鋭度評価値は低い。
グラフ303は、各画像のX鮮鋭度評価値からY鮮鋭度評価値を引いた値を示す。非点収差を有していない電子光学系における各方向に対する鮮鋭度はいずれも同程度であり、またフォーカス位置が試料の高さ位置から離れた場合に生じる各方向の鮮鋭度の低下は、フォーカス位置が試料の高さ位置から離れる方向には殆ど依存せず、その離れた量のみにおおむね依存する。そのため、それぞれの高さにおけるX鮮鋭度評価値からY鮮鋭度評価値を引いた値は、いずれの高さにおいても0に近い値となる。
なお、光学系が持つ収差のうち、フォーカスずれ(デフォーカス)と1次の非点収差以外を考慮した場合、前述のフォーカス位置が試料の高さ位置から離れる場合の鮮鋭度の変化はフォーカス位置が離れる方向に対していくらかの依存性を示す。しかし、一般的な電子顕微鏡が適切に調整された状態においては3次の球面収差のみがそのような影響を与えうるものであり、その影響自体は観察像を構成する画素の大きさが3次の球面収差の量と同程度、もしくはそれ以下となるような高い倍率での観察以外ではほとんど無視することができる。また上述したような高い倍率での観察においても非点収差に基づくこれまでに述べたような振る舞いは同様に生じるため、多くの状況において本発明で述べる効果が大きく変化することはない。
図10は、非点収差を有している電子光学系における画像の鮮鋭度評価値を示す。グラフ351は、横軸が試料の高さ位置(Z軸上の位置)、縦軸が画像のX鮮鋭度評価値を示す。各点はそれぞれ画像251、253及び255における、X鮮鋭度評価値を示す。Z=0となる位置よりも低い位置(Z=-10)にある試料の画像255のX鮮鋭度評価値が最も高く、Z=0となる位置よりも高い位置(Z=10)にある試料の画像251のX鮮鋭度評価値は最も低い。
グラフ352は、横軸が試料の高さ位置(Z軸上の位置)、縦軸が画像のX鮮鋭度評価値を示す。各点はそれぞれ画像251、253及び255における、Y鮮鋭度評価値を示す。Z=0となる位置よりも高い位置(Z=10)にある試料の画像251のY鮮鋭度評価値が最も高く、Z=0となる位置よりも低い位置(Z=-10)にある試料の画像255のX鮮鋭度評価値は最も低い。
グラフ353は、各画像のX鮮鋭度評価値からY鮮鋭度評価値を引いた値を示す。Z=0となる位置よりも低い位置(Z=-10)の試料の画像の値は、正であり、最も大きい。Z=0となる位置における試料の画像の値はX鮮鋭度評価値とY鮮鋭度評価値が近い値となることから、0に近い値となる。Z=0となる位置よりも高い位置(Z=10)の試料の画像の値は、負であり、最も小さい。
上述のように、非点収差を有する電子光学系において、X鮮鋭度評価値は、試料の高さ位置がZ=-10からZ=10に近づくにつれて減少し、Y鮮鋭度評価値は、試料の高さ位置がZ=-10からZ=10に近づくにつれて増加する。試料がZ=0となる位置にある場合に画像におけるX鮮鋭度とY鮮鋭度が同程度の値となり、試料がZ=0となる位置よりも高い位置にある場合、画像におけるY鮮鋭度が高くX鮮鋭度が低い。反対に、試料がZ=0となる位置よりも低い位置にある場合、画像におけるX鮮鋭度が高くY鮮鋭度が低い。
このように、試料の高さ位置に応じてX鮮鋭度評価値とY鮮鋭度評価値との関係が変化することから、X鮮鋭度評価値とY鮮鋭度評価値の関係から、試料の高さ位置とZ=0となる位置とのずれ(フォーカスずれ)の情報、例えば、フォーカスずれの有無、ずれの方向、ずれの大きさ等、を得ることができる。評価値の関係の評価は、例えば、評価値の大きさを比較する。評価値の大きさを比較するため、評価値の差、比又は商を使用することができる。一例において、X鮮鋭度評価値とY鮮鋭度評価値との差を、フォーカスずれの評価値として使用することができる。
図10に示す例において、グラフ353が示すフォーカスずれ評価値が正である場合、フォーカスは、試料よりも上にある。反対に、フォーカスずれ評価値が負である場合、フォーカスは、試料よりも下にある。このように、計算機41は、フォーカスずれ評価値の正負から、フォーカスずれの方向を推定できる。
このようにして推定したフォーカスずれが小さくなる方向へフォーカス、もしくは試料位置を変化させ、再度同様のフォーカスずれ推定を行った場合、フォーカスずれ評価値の符号は変わらず、その大きさのみが若干小さくなることが期待される。このような動作を繰り返し実行することにより、Z=0となる位置と試料の高さ位置との間の距離を徐々に小さくし、最終的にZ=0となる位置(光学系が非点収差を有さない場合に電子ビームが収束する位置)と試料の高さ位置を一致、もしくは所定の値以下の精度で一致させることができる。
また、フォーカスずれ量が、光学系が有する非点収差量によって定まる非点較差量、すなわちZ=0となる位置の上下においてビームの幅がそれぞれの方向に最小となる面間の距離(非点較差)、の半分よりも大きい場合、得られた二つの鮮鋭度のどちらかは試料から遠ざかる程小さくなる変化を示す場合がある。このような場合においても鮮鋭度から求まる評価値の符号、もしくは基準値からのずれの方向は変わらないため、評価値に基づいた制御を続けることによって最終的にZ=0となる位置と試料の高さ位置を一致、もしくは所定の値以下の精度で一致させることができる。
更に具体的な制御方法としては、推定されたフォーカスずれ評価値に対して、観察倍率や目的とする調整精度、速度に応じた係数を掛け、その結果を対物レンズ、もしくはフォーカス調整に使用するレンズを制御する電流値、あるいは電圧値に対して加えることでフォーカスに対するフィードバックを行うことが挙げられる。
さらに、計算機41は、フォーカスずれ評価値の絶対値から、フォーカスずれ量(距離)を推定できる。先に述べた通り、非点収差を有する電子光学系ではフォーカスが合った条件において2つの軸方向の鮮鋭度が近い値となり、両者の差は0に近い最小の値となり、その状態からフォーカスがずれるほど2つの軸方向の鮮鋭度は正負それぞれの方向に対して増加し、両者の差は大きくなるため、その絶対値の大きさから試料の高さ位置からフォーカス位置がずれた量を推定することができる。
この場合、計算機41は、予め設定された、フォーカスずれ評価値とフォーカスずれ量の関係を示す情報を保持し、その情報と測定されたフォーカスずれの評価値を比較することでフォーカスずれ量を推定することができる。これらの関係は、測定サンプルを使用したフォーカスずれ量の測定や試料ステージの移動量を元にした測定などにより、予め特定しておくことができる。
また、フォーカスずれの評価値からフォーカスずれ量を推定する別の方法として、異なる複数のフォーカス位置もしくは高さ位置において測定されたフォーカスずれの評価値を元にフォーカスずれ量を推定することも可能である。フォーカスずれ評価値を求める際に使用する鮮鋭度の求め方を適切な手法で行った場合、フォーカスずれ量に対するフォーカスずれの評価値の変化は線形ではなくなるため、所定量のフォーカス位置の変化に対するフォーカスずれの評価値の変化量(両者に対するグラフにおける傾き)からフォーカスずれ量の絶対値を推定することが可能である。
図11は、制御システム42による荷電粒子線装置の制御フローの例を示す。本例において、制御システム42は、視野移動のための試料ステージ22のユーザ操作を検出すると、取得した画像のフォーカスずれ評価値に基づき、試料とフォーカスの相対位置の調整を実行する。
これにより、視野移動の間も試料に対するフォーカス位置が試料を認識する上で適切となる位置に保つことができるほか、視野移動を終えた後に改めてフォーカス調整を実施する必要なく適切な条件で画像を観察、もしくは撮影することができる。また、視野移動後にフォーカス位置を更に細かい精度で行う際にも、前述の手法を用いてそれまでに求めたフォーカスずれの方向や大きさの情報を用いることにより、フォーカス位置を試料へ近づく方向のみに変化させることで効率的に調整を実施することができる。
荷電粒子線装置の電子光学系調整の後、制御システム42は、ユーザからのステージ制御操作を受け取ると(S101)、非点収差補正装置14を用いて、所定の非点収差を加える(S102)。非点収差を加える前に電子光学系の非点収差が所定の量以下に補正済みであれば、制御システム42が所定の既知の非点収差を加えることで電子光学系の非点収差の大きさと方向を非点収差補正装置が対応できる範囲内で自由に調整することができる。所定の量、方向を持った非点収差を加える際に必要となる非点収差補正装置14の非点収差補正XYパラメータとの関係は予め測定、もしくは設計された値を用いることができる。倍率や必要な調整精度、視野移動の速度に応じた非点収差を加えることで、より正確にフォーカスずれを推定できる。
次に、制御システム42は、ユーザからのステージ制御操作に応じてステージの制御を実施し、試料を移動する(S103)。制御システム42は、観察画像を取得する(S104)。制御システム42は、得られた画像を評価し、X及びY鮮鋭度評価値を取得する(S105)。制御システム42は、X及びY鮮鋭度評価値からフォーカスずれ評価値を算出する(S106)。
制御システム42は、フォーカスずれ評価値を対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置へフィードバックする(S107)。制御システム42は、フォーカスずれ評価値から、試料とフォーカスとの位置関係、具体的には、試料に対してフォーカスが上又は下のいずれの側に位置するかを推定し、また必要であればそれがどれほど離れているかも推定する。制御システム42は、推定結果に応じて、フォーカスが試料に近づくように、対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置を制御する。
なお、対物レンズ電流値及びステージ高さ位置の一方又は双方を調整してよく、例えば光学系を構成する対物レンズ以外のレンズなど、これらと異なるパラメータを制御してフォーカスと試料との相対位置を調整してもよい。これは、以下に説明する他のフローチャートにおいて同様である。
制御システム42は、ユーザからのステージ制御操作が続いている間(S108:YES)、ステップS103からステップS107を実行し続ける。ユーザからのステージ制御操作が終了すると(S108:NO)、制御システム42は、非点収差補正装置14の状態を、非点収差を加える前の状態に戻し、加えていた非点収差を無くす(S109)。
図12は、制御システム42による荷電粒子線装置の制御フローの他の例を示す。本例において、制御システム42は、フォーカス追従機能が有効とされたことを検出すると、取得した画像のフォーカスずれ評価値に基づき、試料とフォーカスとの相対位置の調整を実行する。これにより、試料に対してフォーカスを効率的に合わせることができる。
荷電粒子線装置の電子光学系調整の後、制御システム42は、フォーカス追従機能を有効とするユーザ操作を受け取ると(S121)、非点収差補正装置14を用いて、所定量の非点収差を加える(S122)。非点収差を加える前に電子光学系の非点収差が所定の量以下に補正済みであれば、制御システム42が所定の既知の非点収差を加えることで電子光学系の非点収差の大きさと方向を非点収差補正装置が対応できる範囲内で自由に調整することができる。加えることを望む非点収差と非点収差補正装置14の非点収差補正XYパラメータとの関係は予め設定されている。所望の非点収差を加えることで、より正確にフォーカスずれを推定できる。
制御システム42は、観察画像を取得する(S123)。制御システム42は、得られた画像を評価し、X及びY鮮鋭度評価値を取得する(S124)。制御システム42は、X及びY鮮鋭度評価値からフォーカスずれ評価値を算出する(S125)。
制御システム42は、フォーカスずれ評価値を対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置へフィードバックする(S126)。制御システム42は、フォーカスずれ評価値から、試料とフォーカスとの位置関係、具体的には、試料に対してフォーカスが上又は下のいずれの側に位置するかを推定し、また必要であればそれがどれほど離れているかも推定する。制御システム42は、推定結果に応じて、フォーカスが試料に近づくように、対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置を制御する。
制御システム42は、フォーカス追従機能が有効である間(S127:NO)、ステップS123からステップS126を実行し続ける。フォーカス追従機能が無効とされると(S127:YES)、制御システム42は、非点収差補正装置14の状態を、非点収差を加える前の状態に戻し、加えていた非点収差を無くす(S128)。
図13は、制御システム42による荷電粒子線装置の制御フローの他の例を示す。本例において、制御システム42は、非点収差補正された電子光学系にフォーカスずれ評価値を計算するための非点収差を加える代わりに、電子光学系の既存の非点収差を測定し、その非点収差に基づきフォーカスずれ評価値を計算する。
荷電粒子線装置の電子光学系調整の後、制御システム42は、フォーカス追従機能を有効とするユーザ操作を受け取ると(S141)、画像を取得して非点収差を測定する(S142)。非点収差の測定は広く知られた技術であり詳細説明を省略する。例えば、制御システム42は、直交する2軸に沿って一次電子ビームを走査し、画像のコントラストを最大になるように非点収差補正装置14を動作させることで、電子光学系の非点収差を測定できる。また、フォーカス追従機能を有効とするユーザ操作を受け取った際に既に光学系が有する非点収差が既知となっている場合、それを利用してもよい。
または取得した1枚以上の像の自己相関関数や相互相関関数の結果から非点収差の大きさを測定する、さらに対物レンズに入射する電子ビームの角度を変えた複数の条件において取得した像からフォーカスずれ量と非点収差の値を求め、その結果に対してフィッティング計算を行うことによっても収差を測定することが可能である。
制御システム42は、観察画像を取得する(S143)。制御システム42は、得られた画像を評価し、X及びY鮮鋭度評価値を取得する(S144)。制御システム42は、非点収差の測定結果に応じて、上述のように鮮鋭度評価値を取得するX軸及びY軸を決定してもよい。制御システム42は、X及びY鮮鋭度評価値からフォーカスずれ評価値を算出する(S145)。
制御システム42は、フォーカスずれ評価値を対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置へフィードバックする(S146)。制御システム42は、フォーカスずれ評価値及び測定した非点収差から、試料に対してフォーカスが上又は下のいずれの側に位置するかを、また必要であればそれらがどれほど離れているかを推定する。非点収差とフォーカスずれ評価値との間の関係は、予め制御システム42に設定されていてよい。制御システム42は、推定結果に応じて、フォーカスが試料に近づくように、対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置を制御する。
制御システム42は、フォーカス追従機能が有効である間(S147:NO)、ステップS143からステップS146を実行し続ける。フォーカス追従機能が無効とされると(S147:YES)、制御システム42は、非点収差補正装置14を使用して、電子光学系の非点収差を補正する(S148)。
フォーカスずれ評価値は、X鮮鋭度評価値及びY鮮鋭度評価値の関係に基づき決定される。上記例において、制御システム42は、X鮮鋭度評価値及びY鮮鋭度評価値の差によりフォーカスずれ評価値を計算するが、他の方法により評価値の大きさを比較してよく、例えば、X鮮鋭度評価値及びY鮮鋭度評価値の比又は商を使用してフォーカスずれ評価値を計算してもよい。または、制御システム42は、得られたX鮮鋭度評価値及びY鮮鋭度評価値それぞれに対して所定のオフセットを加える、もしくは除いた結果、あるいは所定の係数を乗じた結果を用いて上述の評価を実施してもよい。
試料が評価を行う軸の1方向に対して変化が少ない試料、例えば滑らかな表面を持つ膜状試料のエッジ部分や、均一な構造を持って積層された膜構造の断面などを観察した場合、試料観察像は1方向に対して主だった構造の変化を持たないため、当該の方向に対する鮮鋭度の評価値はその方向に対するプローブ幅の変化、もしくは試料とフォーカスとの相対位置の変化に対して変化が小さくなりうる。このような場合、制御システム42は、試料とフォーカスとの相対位置の変化に対して変化を示す一方の鮮鋭度評価値に基づき、フォーカスずれ評価値を計算してもよい。
例えば制御システム42は前述のような場合を何らかの方法で判別することでその振る舞いを切り替えてよい。前述の判別方法としては複数の方法が考えられ、例えば、一方の鮮鋭度評価値が閾値より小さく、他方の鮮鋭度評価値が閾値より大きい場合、あるいは画像の自己相関関数において特定の方向に対して顕著な相関値の集中、すなわちピークの発生がみられない場合、あるいは画像認識やHough変換といった手法を用いることでそのような場合を判別することが可能である。このような場合、制御システム42は、像において変化の少ない方向の鮮鋭度評価値をフォーカスずれ評価値と決定する。フォーカスずれ評価値を予め設定されている基準値と比較することで、試料に対するフォーカスずれの方向及びずれ量を推定できる。
図14は、ユーザが荷電粒子線システムを制御するためのグラフィカルユーザインタフェースの例を示す。図14は、非点収差に基づくフォーカス調整の制御画面を示す。チェックボックス501がチェックされると、制御システム42は、フォーカス追従機能を有効にする。チェックがチェックボックス501から外されると、制御システム42は、フォーカス追従機能を無効にする。
入力フィールド502に入力された角度に従って、制御システム42は、電子光学系に追加する非点収差の方向を決定する。角度の基準軸(0°の軸)は、例えば、非点収差補正装置14における、X1軸やX2軸である。選択リスト503において選択されたレベルに従って、制御システム42は、電子光学系に追加する非点収差の大きさを決定する。非点収差が大きいほど、X軸又はY軸におけるビーム断面形状の径が最も小さい位置とフォーカス位置との距離が大きい。非点収差の角度及び大きさを調整可能とすることで、対象試料の観察に適した非点収差を加えることができる。また、入力フィールド502、および503で設定される値は所定の初期値を持っていてよく、こうした設定を行う入力部はユーザが通常の操作で使用する画面とは異なる、専用の画面においてなされても良い。
制御システム42は、観察画像504を制御画面において表示する。さらに、制御システム42は、試料の高さ位置または現在のフォーカス位置の一方を基準とする他方の相対位置をボックス505に表示する。図14の例は、試料の高さ位置を基準とするフォーカス相対位置を示す。
フォーカス追跡機能が無効である場合、ユーザは、ボックス505の数値を参照しながらスライダ506、あるいは制御装置40や計算機41に備えられた操作つまみなどを操作することで、試料の高さ位置に対するフォーカス相対位置を調整することができる。制御システム42は、その操作に応答して、対物レンズ電流または試料ステージ高さを制御する。
次に、鮮鋭度評価値の計算方法の例を説明する。鮮鋭度評価値の計算方法の一例は、ウェーブレット変換または離散ウェーブレット変換を使用する。ウェーブレット変換は、画像を、スケール、位置を変えて重ねたウェーブレット(局在した小さな波/基底)に変換する。そのため、画像の位置情報を保ったまま、局所的な周波数情報を評価することが可能である。試料内において、特にエッジのような構造を含む局所領域に着目した場合、フォーカスが試料と合っていると当該領域における像の強度変化は急峻なものとなり、ウェーブレット変換係数の絶対値は大きくなる。
逆にフォーカスが試料からずれていると、フォーカスが合っている条件よりも広い領域の情報を用いて像の強度を得るために結果として当該領域における像の強度変化は相対的にゆるやかなものとなり、ウェーブレット変換係数の絶対値は小さくなる。このことから、ウェーブレット変換係数の絶対値が大きいことは、フォーカスが試料に近いことを示す。
一例において、制御システム42は、特定の一つのレベルj+1のX軸に沿ったX方向(横)ウェーブレット変換係数及びY軸に沿ったY方向(縦)ウェーブレット変換係数に基づき、X鋭度評価値及びY鮮鋭度評価値それぞれを決定する。例えば、制御システム42は、レベルj+1(例えばレベル1)のX方向ウェーブレット変換係数の絶対値の最大値をX鮮鋭度評価値と決定し、レベルj+1のY方向ウェーブレット変換係数の絶対値の最大値をY鮮鋭度評価値と決定する。
なお、ウェーブレット変換係数の絶対値の最大値は、ノイズが除去されたデータや、ニューラルネットワーク、圧縮センシングなど技術を用いて情報の復元処理を適用された像において決定されてよい。また、ウェーブレット変換係数を得る方法としては複数のアルゴリズムが知られているが、任意のアルゴリズムを使用できる。制御システム42は、複数レベルのウェーブレット変換係数から鋭度評価値を決定してもよい。
ウェーブレット変換と異なる方法により、鮮鋭度評価値を決定することができる。例えば、窓付きフーリエ変換、窓付き離散コサイン変換、微分フィルタの畳み込み等を使用して鮮鋭度評価値を決定することができる。例えば、観察画像に対するX方向の微分フィルタとY方向の微分フィルタの畳み込みによる係数の最大値を、X鮮鋭度評価値及びY鮮鋭度評価値とすることができる。微分フィルタの例は、一次微分フィルタ、Sobelフィルタ、Prewittフィルタ等を含む。画像における特定軸に沿った鮮鋭度を評価することができれば、鮮鋭度評価値の計算方法は限定されない。
図15Aから15Fは上述の手法を用いて評価した結果を用いて試料の高さ分布を行う例を示す。例として、試料構造がY軸方向には一様な高さを持ち、X軸方向には複数の高さを持つ場合、試料構造のX軸とZ軸を含む断面構造を図15Aのように表すことができ、また観察方向であるZ軸方向から試料上面を見た際の外観は図15Bのように表すことができる。
試料表面の高さは5段階の高さを有しており、X軸上で正方向に進むごとに段階的に高さが変化する形状を持っている。このような試料に対し、非点収差を有さない荷電粒子光学系を用いて視野の中央部分にフォーカスを併せて観察した場合、図15Cに示すような観察像が得られる。視野の左右側はともにフォーカス面と試料表面の間にずれが生じるために観察像はぼける。この際、荷電粒子光学系は非点収差を有していないため、観察像の左右領域におけるぼけの具合から試料表面高さとフォーカス面の間の上下関係を評価することは難しい。
一方、電子光学系が図6で示したようにフォーカス位置から上側ほどビームがY方向よりもX方向に対して広がるような非点収差を有している場合、観察像は図15Dに示すようになる。また、電子光学系がフォーカス位置から上側ほどビームがX方向よりもY方向に対して広がるような非点収差を有している場合、観察像は図15Eに示すようになる。
このような場合、観察像を複数の局所領域に分割したうえで、それぞれの領域において上述したような鮮鋭度の評価に基づいたフォーカス位置と試料高さ位置の間の関係を評価することにより、単独の画像、もしくは複数の画像から視野内における試料の高さ分布を評価することができる。そのような結果はX軸、Y軸、Z軸によって構成される3次元空間内における試料表面の高さ分布を図15Fに示すような疑似的な3次元表示によって表示することができるほか、Z軸方向の高さ情報を色に置き換えて表示するなどの方法により、制御システム42はユーザに対して試料の立体的な構造の情報を示すことができる。
以下において、鮮鋭度評価値の他の決定方法を説明する。上記方法は、一つの画像において異なる二つの軸に沿った鮮鋭度評価値を決定する。以下に説明する例は、異なる非点収差を加えた電子光学系における画像それぞれにおいて、同一軸に沿った鮮鋭度評価値を計算し、それら鮮鋭度評価値に基づいて、試料とフォーカスの相対位置を推定する。これにより、一軸に沿った構造の変化が小さい試料の高さ位置をより適切に推定できる。画像における鮮鋭度評価値は、実施例1で説明したように計算できる。また、フォーカスずれ評価値は、実施例1で説明したように様々な方法で計算できる。
図16は、電子光学系に加える非点収差量を複数の条件に変化させて評価を行う際の、電子光学系に加えられる非点収差、ビーム断面形状の径及び評価値の関係を示す。本例は試料高さ位置がフォーカス位置よりも高く、フォーカス位置は一定とした場合に対応するものである。グラフ601は、電子光学系の非点収差を補正した状態の非点収差補正装置14に対するXパラメータ(X軸非点収差補正コイル電流)の時間変化を示す。本例では時間軸方向に対して周期的に、正負二つの非点補正量を繰り返しとる場合を示しているが、変化は周期的である必要はなく、また繰り返しの実施ではなく各条件が1回のみであってもよい。
また非点収差補正装置に対するパラメータは相対的なものであり、例えば上述のようなXパラメータの時間変化を開始する前の時点で既に非点収差補正装置に対して何らかのパラメータが設定されている場合、上述のXパラメータの時間変化は既に設定されているXパラメータの値に対して重畳する形で実施されても良い。このことはYパラメータ、あるいはXパラメータとYパラメータを所定の比率で組み合わせることで実行的に作られた新たなパラメータなどに対しても同様に成り立つ。
グラフ602は試料高さの面におけるビーム断面形状のX軸における径の時間変化、グラフ603はビーム断面形状のY軸における径の時間変化を示す。Xパラメータは、正負の値の矩形波となっている。Xパラメータが正の値のとき、楕円のビーム断面形状のX軸の径が大きく、Y軸の径が小さい。Xパラメータが負の値のとき、楕円のビーム断面形状のX軸の径が小さく、Y軸の径が大きい。Xパラメータが正の値である電子光学系の状態をA状態、Xパラメータが負の値である電子光学系の状態をB状態と呼ぶ。電子光学系は、A状態とB状態とを繰り返す。
なお、本例での説明ではXパラメータを増加させた際に、試料近傍で収束する電子線の上側においてビーム断面形状の径が大きくなる方をX軸、小さくなる方をY軸として説明を行っている。先にも述べた通り、このX軸、Y軸は必ずしも観察される2次元像を構成する画素の配列する2方向と一致する必要はない。
グラフ604はX鮮鋭度評価値の時間変化を示し、グラフ605はY鮮鋭度評価値の時間変化を示す。X鮮鋭度評価値は、X軸における径の変化に応じて変化し、X軸における径が大きいときに(A状態)低い値を示し、X軸における径が小さいときに(B状態)高い値を示す。Y鮮鋭度評価値は、Y軸における径の変化に応じて変化し、Y軸における径が小さいときに(A状態)高い値を示し、Y軸における径が大きいときに(B状態)低い値を示す。
グラフ606は、A状態におけるX鮮鋭度評価値から直前のB状態におけるX鮮鋭度評価値を引いた値(Xフォーカスずれ評価値)を示す。Xフォーカスずれ評価値は、負の値を示す。グラフ607は、B状態におけるY鮮鋭度評価値から直前のA状態におけるY鮮鋭度評価値を引いた値(Yフォーカスずれ評価値)を示す。Yフォーカスずれ評価値は、負の値を示す。
図17は、試料高さ位置がフォーカス位置よりも低い場合の、電子光学系に加えられる非点収差、ビーム断面形状の径及び評価値の関係を示す。フォーカス位置は一定である。グラフ621は、電子光学系の非点収差を補正した状態の非点収差補正装置14に対するXパラメータ(X軸非点収差補正コイル電流)の時間変化を示す。
グラフ622は試料高さの面におけるビーム断面形状のX軸における径の時間変化、グラフ623はビーム断面形状のY軸における径の時間変化を示す。Xパラメータは、正負の値の矩形波を示す。Xパラメータが正の値のとき、楕円のビーム断面形状のX軸の径が小さく、Y軸の径が大きい。Xパラメータが負の値のとき、楕円のビーム断面形状のX軸の径が大きく、Y軸の径が小さい。Xパラメータが正の値である電子光学系の状態はA状態、Xパラメータが負の値である電子光学系の状態はB状態である。電子光学系は、A状態とB状態とを繰り返す。
グラフ624はX鮮鋭度評価値の時間変化を示し、グラフ625はY鮮鋭度評価値の時間変化を示す。X鮮鋭度評価値は、X軸における径の変化に応じて変化し、X軸における径が小さいときに(A状態)高い値を示し、X軸における径が大きいときに(B状態)低い値を示す。Y鮮鋭度評価値は、Y軸における径の変化に応じて変化し、Y軸における径が大きいときに(A状態)低い値を示し、Y軸における径が小さいときに(B状態)高い値を示す。
グラフ626は、A状態におけるX鮮鋭度評価値から直前のB状態におけるX鮮鋭度評価値を引いた値(Xフォーカスずれ評価値)を示す。Xフォーカスずれ評価値は正の値を示す。グラフ627は、B状態におけるY鮮鋭度評価値から直前のA状態におけるY鮮鋭度評価値を引いた値(Yフォーカスずれ評価値)と時間との関係を示す。Yフォーカスずれ評価値は正の値を示す。
上述のように、Xフォーカスずれ評価値及びYフォーカスずれ評価値の双方は、試料とフォーカスの相対位置の変化に応じて変化し得る。試料が特定の方向に対して構造の変化が少ない場合、その方向に対する画像の鮮鋭度、あるいはそれを用いたフォーカスずれ評価値は試料とフォーカスの相対位置の変化に対して大きな変化を示さない。そのような場合、他方の軸のフォーカスずれ評価値を用いることによって、試料とフォーカスの相対位置を示すことができる。
試料の構造変化が少ない方向と鮮鋭度評価を行う方向が一致していない場合、試料の構造変化が少ない方向とそれに直交する方向それぞれにおける鮮鋭度は、鮮鋭度を評価する2つの方向それぞれにその成分が含まれることになる。この場合、鮮鋭度評価を行った両方の軸方向の情報からは同等のフォーカスずれ評価値を得ることができるため、両者のどちらか、もしくは両方の平均や和などを用いることによっても試料とフォーカスの相対位置を示すことができる。
制御システム42は、例えば、一方のフォーカスずれ評価値の絶対値が閾値より小さく、他方のフォーカスずれ評価値が閾値より大きい場合、他方のフォーカスずれ評価値に従って、実施例1において説明したように、試料とフォーカスの相対位置を変化させる。X、Yフォーカスずれ評価値の双方が閾値より大きい場合、制御システム42は、いずれか一方又は双方のフォーカスずれ評価値に基づき、試料とフォーカスの相対位置を変化させる。例えば、X、Yフォーカスずれ評価値の平均値、あるいは和、あるいはどちらか値の大きな方、あるいは評価値を複数回求めた際の分散や安定性などを使用することができる。
上記例において、フォーカスずれ評価値が負の値を示す場合、制御システム42は、試料の高さ位置がフォーカス位置よりも高いと推定し、さらに、フォーカスずれ評価値の絶対値から試料の高さ位置とフォーカス位置との間の距離を推定する。フォーカスずれ評価値が正の値を示す場合、制御システム42は、試料の高さ位置がフォーカス位置よりも低いと推定し、さらに、フォーカスずれ評価値の絶対値から試料の高さ位置とフォーカス位置との間の距離を推定する。
図18は、図16及び17を参照して説明した例に対応する制御システム42による荷電粒子線装置の制御フローの例を示す。制御システム42は、フォーカス追従機能が有効とされたことを検出すると、取得した画像のフォーカスずれ評価値に基づき、試料とフォーカスとの相対位置の調整を実行する。これにより、試料に対してフォーカスを効率的に合わせることができる。
荷電粒子線装置の電子光学系調整の後、制御システム42は、フォーカス追従機能を有効とするユーザ操作を受け取ると(S161)、非点収差補正装置14を用いて、[状態A]の非点収差を加える(S162)。制御システム42は、観察画像を取得する(S163)。制御システム42は、得られた画像を評価し、X及びY鮮鋭度評価値を取得する(S164)。
次に、制御システム42は、非点収差補正装置14を用いて、[状態B]の非点収差を加える(S165)。制御システム42は、観察画像を取得する(S166)。制御システム42は、得られた画像を評価し、X及びY鮮鋭度評価値を取得する(S167)。制御システム42は、[状態A]及び[状態B]におけるX鮮鋭度評価値からXフォーカスずれ評価値を計算し、[状態A]及び[状態B]におけるY鮮鋭度評価値からYフォーカスずれ評価値を計算する(S168)。
上述のように、制御システム42は、X、Yフォーカスずれ評価値の一方又は双方に基づき、対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置のフィードバック制御を行う(S169)。制御システム42は、フォーカスずれ評価値から、試料とフォーカスとの位置関係、具体的には、試料に対してフォーカスが上又は下のいずれの側に位置しそれらがどれほど離れているかを推定する。制御システム42は、推定結果に応じて、フォーカスが試料に近づくように、対物レンズ電流値又は試料ステージ22の高さ位置を制御する。
制御システム42は、フォーカス追従機能が有効である間(S170:NO)、ステップS162からステップS169を実行し続ける。フォーカス追従機能が無効とされると(S170:YES)、制御システム42は、非点収差補正装置14の状態を、非点収差を加える前の状態に戻し、加えていた非点収差を無くす(S171)。
上記例は、状態Bにおける鮮鋭度評価を行った後にフォーカスずれ評価値を計算する。他の例は、状態が切り替わる度に、現在の状態及び直前の状態における鮮鋭度評価値からフォーカスずれ評価値を計算してもよい。制御システム42は、図18に示すフォーカス調整を視野移動のための試料ステージ22のユーザ操作に応答して実行してもよい。制御システム42は、上記方法により取得したフォーカスずれ評価値により、フォーカス調整を自動で行うことなく、フォーカスと試料との間の相対位置の推定結果を表示してもよい。
図19は非点収差を加えた状態におけるフォーカスずれ評価と、非点収差が加わっていない状態で取得された観察像の表示を、見かけ上同時に行う場合の、電子光学系に加えられる非点収差、ビーム断面形状の径及び評価値の関係を示す。グラフ641は、電子光学系の非点収差を補正した状態の非点収差補正装置14に対するXパラメータ(X軸非点収差補正コイル電流)の時間変化を示す。
Xパラメータに0でない値が設定されている場合、荷電粒子光学系には一定の非点収差が加わり[状態A]、Xパラメータが0となっている場合、荷電粒子光学系には追加の非点収差は加わらず、非点収差が補正された状態に戻る[状態C]。[状態A]では上述した方法を用いることでフォーカスずれの評価のみを行い、取得した像は表示しない。[状態C]では取得した像の表示のみを行うことにより、装置を使用するユーザに対して、見かけ上非点収差を加えていることを感じさせることなく、フォーカスずれの評価を行うことができる。
これにより、ユーザは通常の操作時と同様に、装置の非点収差が調整された状態の像を確認しながら視野の調整を行うと同時に、自動的にフォーカスのずれを調整し続けながら装置を利用することが可能となる。また、他の例として[状態C]で取得した像の評価結果と[状態A]で取得した像の評価結果の両方を用いてフォーカスずれの評価を行ってもよい。
また、グラフ642に示すように、非点収差補正装置14に対して異なるXパラメータを設定した二つの状態[状態A]、[状態B]と、Xパラメータが0となった状態[状態C]を順に設定する。これにより、上述した方法により非点補正量を複数の条件に変化させてフォーカスずれを評価すると同時に、ユーザに対しては非点収差が調整された状態の像のみを見せ続けることが可能となる。この場合、フォーカスずれの評価は[状態A]、[状態B]の評価結果を元に評価を行うことが好ましいが、[状態A]、[状態B]、[状態C]のうちの2条件、あるいは3条件の評価結果を用いて行ってもよい。
また、グラフ643に示すように、非点収差補正装置14に対して異なるXパラメータを設定した二つの状態[状態A]、[状態B]を繰り返し設定するそれぞれの合間に[状態C]を設定する構成も可能である。この場合、グラフ642に示した制御よりも倍の頻度で[状態C]における像取得を実施することができるため、ユーザが利用する際の像の更新頻度を高めることが可能となる。
図20は先に説明した、図19のグラフ642に示したXパラメータの制御を非点収差補正装置14に対して適用してフォーカスずれを評価する際の、具体的な制御フローの例を示す。基本的な流れは図18で説明した流れと共通する。制御システム42は、[状態A]と[状態B]で取得した鮮鋭度評価値からフォーカスずれ評価値を算出した(S188)後、その結果をレンズ電流またはステージの高さ位置へフィードバックする(S189)。その後、制御システム42は、非点収差補正装置14に対して[状態C]の非点収差を与える(S190)ことで非点収差が調整された状態へ戻し、その状態で観察像を取得(S191)し、得られた観察像を表示する(S192)。
この一連の流れを繰り返すことにより、ユーザは、S192で表示される[状態C]で取得された観察像のみを確認しながら、フォーカスずれが小さくなった状態へ自動的に調整し、その状態を維持し続けることが可能となる。このフローが実施されている最中にユーザが観察視野を変更した場合、その変化に応じたフィードバック(S189)が行われることにより、フォーカスは常に観察視野において適切に調整された状態を自動的に保ち続ける。
また、上記の例では非点収差量を変えた複数の条件で像を取得する例を説明したが、像の代わりに1方向に対して電子ビームを走査して得られる1次元信号から得られる1方向に対する評価値のみを用いて同様の制御を行ってもよい。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
また、上記の各構成・機能・処理部等は、それらの一部または全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、または、ICカード、SDカード等の記録媒体に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆どすべての構成が相互に接続されていると考えてもよい。