JP7332879B2 - チタン板のプレス用金型及びチタン板のプレス成形方法 - Google Patents

チタン板のプレス用金型及びチタン板のプレス成形方法 Download PDF

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Description

本発明は、チタン板のプレス用金型及びチタン板のプレス成形方法に関する。
チタンは、耐食性に優れ、特に海水に対してはほぼ腐食しない特性であることから、海水熱交換器に使用されており、中でも板材はプレート式熱交換器に多く使用されている。
この種のプレート式熱交換器は、波状に成形された複数のプレートが積層されて構成されている。伝熱効率を向上させるため、プレートの表面を凹凸形状にするためのプレス成形を行う。近年、より一層の伝熱効率向上のため、板厚の薄肉化、また表面凹凸形状の複雑化等のニーズにより、前記プレス成形時の局部的なくびれあるいは割れ防止の観点から、より成形性の優れたものが要求されるようになっている。また、チタンは、他の金属に対して凝着しやすい性質を有しており、プレス成形の際にチタン板に焼付痕が発生するおそれがあることから、金型との凝着を防止する必要もある。更には、金型の摩耗を抑制して金型寿命を向上させることも望まれている。
チタン板のプレス割れや凝着を防ぎ、更には金型の摩耗を防ぐためには、チタン板と金型との摩擦係数を低減する必要がある。摩擦係数の低減手段として、例えば、チタン板の表面の潤滑性を高めることが考えられる。この点について例えば特許文献1(特開昭63-174749号公報)に記載された方法が知られている。この方法では、潤滑剤キャリアの鉄、亜鉛合金層を形成させ、その後燐酸亜鉛処理して潤滑剤塗布といった多数の工程が必要であり、生産性が低い。
また、ミルボンドで代表される有機系の潤滑皮膜をチタン板の表面に形成させたのち、更に潤滑油を塗布した状態でプレス成形を行う方法もある。しかし、この方法では、ミルボンド溶液を塗布・乾燥させて潤滑皮膜を形成する必要があり、多数の工程が必要になり、生産性が低い。また、ミルボンド等の有機系の潤滑皮膜では、剥離したプレスかすが、プレス加工後の押し込み欠陥となり、加工後の成形品の外観品質を損なう場合がある。
更に、プレート式熱交換器に適した形状にチタン板を成形する際、チタン板の変形状態として平面ひずみ状態を含む場合がある。平面ひずみ状態とは、X軸方向またはY軸方向のいずれか一方の方向のみ歪み、一方の方向に直交する他方の歪み量が0である変形状態をいう。一般に、平面歪み状態を含む成形は材料にとって厳しい状態での成形であり、プレス割れが発生しやすいものとなっている。このため、チタン板と金型との間の摩擦係数の低減がより望まれている。
特開昭63-174749号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、プレス割れや焼付痕が発生することがなく、摩耗が少ないチタン板のプレス用金型を提供することを課題とする。また、プレス割れや焼付痕が発生することがなく、金型の摩耗に伴う成形品の形状不良が起こりにくく、加工後の外観品質に優れ、更には生産性にも優れたチタン板のプレス成形方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、耐摩耗性及び耐凝着性に優れ、表面の摩擦係数が低い表面を有するチタン板のプレス成形用の金型を検討した結果、通常、金型の材質として用いられる合金工具鋼材を基材とし、当該基材上に、Ni主体とし、B及びPを含み、更にh-BN粒子を含む第1めっき層を形成することで、耐摩耗性、耐凝着性および表面の低摩擦性を向上させてチタン板の成形性を高め、かつ、金型の寿命を向上させることが可能になることを知見した。
本発明の要旨は以下の通りである。
(1) チタン板のプレス成形加工に用いるプレス用金型であって、
基材と、前記基材の表面に形成された表面処理皮膜とを備え、
前記基材は、質量%で、
C:1.00~2.30%、
Si:0.10~0.60%、
Mn:0.20~0.80%、
P:0.030%以下、
S:0.030%以下、
Cr:4.80~13.00%を含有し、
残部が鉄及び不純物からなる組成を有する鋼材からなり、
前記表面処理皮膜は、
前記基材上に形成された、Niを含有する第1めっき層を備え、
前記第1めっき層は、P:3.0~7.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなるNi-P-Bめっき層に、0.5~3質量%のh-BN粒子が含有されてなり、ビッカース硬さが700~1100の範囲であり、
前記表面処理皮膜は、更に、前記第1めっき層と前記基材との間に、Niを含有する第2めっき層を備え、
前記第2めっき層は、P:3.0~10.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなり、ビッカース硬さが700~800のNi-B-Pめっき層であることを特徴とする
チタン板のプレス用金型。
(2) 前記第1めっき層のビッカース硬さが800超~1100の範囲である(1)に記載のチタン板のプレス用金型。
(3) 前記第1めっき層のビッカース硬さが700~800の範囲である(1)に記載のチタン板のプレス用金型
(4) 前記基材と、前記第1めっき層または前記第2めっき層との間に、厚み0.1~1μmの電気Niめっき層が形成されている(1)乃至()の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
) 前記第1めっき層の厚みが1~10μmの範囲である(1)乃至()の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
) 前記第2めっき層の厚みが1~2μmの範囲である(1)乃至()の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
) 前記基材のビッカース硬さが550~650である(1)乃至()の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
) 前記基材の表面に窒化層が形成されている、(1)乃至()の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
) 前記窒化層の厚さが0.5μm~50μmである、()に記載のチタン板のプレス用金型。
10) 前記窒化層の平均窒素濃度が、0.10~1.0質量%である、()または()に記載のチタン板のプレス用金型。
11) 前記窒化層における窒素の濃度分布が、前記窒化層表層から深さ方向に向かって減少する濃度勾配を有する、()乃至(10)の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
12) 前記基材が、さらに、質量%で、
Mo:0.70~1.20%、
V:0.15~1.00%、
W:0.60~0.80%
の1種または2種以上を含有する、(1)乃至(11)の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
13) 前記基材がパンチ及びダイである、(1)乃至(12)の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
14) (1)~(13)の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型を用いて、チタン板をプレス成形する、チタン板のプレス成形方法。
15) 前記チタン板をプレス成形する際、チタン板の変形状態として平面ひずみ状態を含む、(14)に記載のチタン板のプレス成形方法。
本発明によれば、プレス割れや焼付痕が発生することがなく、摩耗が少ないチタン板のプレス用金型を提供できる。また、本発明によれば、プレス割れや焼付痕が発生することがなく、金型の摩耗に伴う成形品の形状不良が起こりにくく、加工後の外観品質に優れ、更には生産性にも優れたチタン板のプレス成形方法を提供できる。
図1は本発明の実施形態に係るプレート式熱交換器の要部を示す側面模式図。 図2は本発明の実施形態に係るプレート式熱交換器の要部を示す分解斜視図。 図3は、本発明の実施形態であるチタン板のプレス成形方法を説明する工程図。 図4は、本発明の実施形態であるチタン板のプレス成形方法を説明する図であって、成形前のチタン板を示す模式図。 図5は、本発明の実施形態であるチタン板のプレス成形方法を説明する図であって、成形後のチタン板を示す模式図。 図6は、プレス成形時のパンチのストローク量とチタン板の板厚との関係を示すグラフ。 図7は、実施例に用いたプレス用金型を示す断面模式図。 図8は、実施例1及び比較例6の成形時の押し込み量と成形荷重との関係を示すグラフ。
以下、本発明の実施形態であるチタン板用のプレス金型及びチタン板のプレス成形方法について説明する。
なお、本実施形態は、本発明のチタン板用のプレス金型及びチタン板のプレス成形方法の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り本発明を限定するものではない。
図1に、本実施形態に係るプレート式熱交換器の要部を示し、図2には、プレート式熱交換器の要部の分解斜視図を示す。
図1及び図2に示すように、プレート式熱交換器は、波状に成形されたプレートが板厚方向に重ね合わされて構成されている。波状のプレートが重ねられることによって、各プレートの間に流体が流通する流路が形成される。各流路に高温の流体及び低温の流体が流れることにより、プレートを介して各流体の間で熱交換が行われる。プレートは、耐食性に優れるチタン板で構成されている。
より具体的に、図1に示すように、プレート式熱交換器は、チタン板からなるプレート1A~1Eが、所定の間隔をあけて重ねられて構成されている。各プレート1A~1Eはそれぞれ、平坦な原板(チタン板)が波状に成形された波板であり、波長及び振幅が一定の波板であってもよく、波長及び振幅が異なる波板であってもよい。図1に示す例では、各プレート1A~1E同士の間で、波長及び振幅は同一となっている。また、各プレート1A~1Eは重ねられた状態で図示略の締結ボルトによって締結されている。更に、各プレート1A~1Eの外周部には、流体の流出防止のための図示略のガスケットが配設されている。
以上の構成により、プレート1Aと1Bとの間に流路2Aが形成され、プレート1Bと1Cとの間に流路2Bが形成され、プレート1Cと1Dとの間に流路2Cが形成され、プレート1Dと1Eとの間には流路2Dが形成される。各流路2A~2Dにおける流体の流れ方向は、図1に示すように隣接する流路同士の間で相互に逆方向になっている。そして、例えば、流路2A及び2Cに低温の流体(例えば海水)が流通され、流路2B及び2Dには高温の流体(例えば熱水若しくは水蒸気)が流通されることにより、各プレート1A~1Eを介して高温の流体と低温の流体との間で熱交換がなされる。
各プレート1A~1Eは、チタン板をプレス成形することによって製造される。本実施形態におけるチタン板は特に制限はなく、純チタン板またはチタン合金板のいずれでもよい。例えば、以下の純チタン板またはチタン合金板を用いることができる。ただし、以下に挙げるチタン板はあくまで例示であり、下記に列挙する以外の純チタン板またはチタン合金板を用いてもよい。
純チタン板として例えば、工業用純チタン板を用いることができる。工業用純チタンは、JIS規格の1種~4種、およびそれに対応するASTM規格のGrade1~4、DIN規格の3・7025、3・7035、3・7055で規定される工業用純チタンを含むものとする。すなわち、本発明で対象とする工業用純チタンは、質量%で、C:0.1%以下、H:0.015%以下、O:0.4%以下、N:0.07%以下、Fe:0.5%以下、残部Tiからなる。
チタン合金板としては、α型チタン合金、α+β型チタン合金、β型チタン合金を用いることができる。
α型チタン合金としては、例えば高耐食性合金(ASTM Grade 7、11、16、26、13、30、33あるいはこれらに対応するJIS種や更に種々の元素を少量含有させたチタン材)、Ti-0.5Cu、Ti-1.0Cu、Ti-1.0Cu-0.5Nb、Ti-1.0Cu-1.0Sn-0.3Si-0.25Nb、Ti-0.5Al-0.45Si、Ti-0.9Al-0.35Si、Ti-3Al-2.5V、Ti-5Al-2.5Sn、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-6Al-2.75Sn-4Zr-0.4Mo-0.45Siなどがある。
α+β型チタン合金としては、例えば、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-6V-2Sn、Ti-6Al-7V、Ti-3Al-5V、Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Mo-4Cr、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、Ti-1Fe-0.35O、Ti-1.5Fe-0.5O、Ti-5Al-1Fe、Ti-5Al-1Fe-0.3Si、Ti-5Al-2Fe、Ti-5Al-2Fe-0.3Si、Ti-5Al-2Fe-3Mo、Ti-4.5Al-2Fe-2V-3Moなどがある。
さらに、β型チタン合金としては、例えば、Ti-11.5Mo-6Zr-4.5Sn,Ti-8V-3Al-6Cr-4Mo-4Zr,Ti-10V-2Fe-3Mo,Ti-13V-11Cr-3Al,Ti-15V-3Al-3Cr-3Sn,Ti-6.8Mo-4.5Fe-1.5Al、Ti-20V-4Al-1Sn、Ti-22V-4Alなどがある。
次に、本実施形態のチタン板の成形方法の一例を説明する。以下に示す例は、図1及び図2に示すプレート式熱交換器のプレート1A~1Eを製造する例について説明するが、本発明はこれに限られるものではなく、チタン板のプレス成形方法に広く適用可能である。
図3(a)に成形前のチタン板及びプレス用金型を示し、図3(b)には成形後のチタン板及びプレス用金型を示す。まず、図3(a)に示すように、チタン板11a及びプレス用金型21を用意する。プレス用金型21は、パンチ22と、ダイ23とからなる。パンチ22は、パンチプレート22aと、パンチプレート22aの下面に等間隔に取り付けられた複数の突起部22bとからなる。また、ダイ23は、ダイプレート23aと、ダイプレート23aの上面に等間隔に取り付けられた複数の突起部23bとからなる。そして、パンチ22が下死点に下降したときに、パンチ22の突起部22b同士の間にダイ23の突起部23bの先端が侵入し、ダイ23の突起部23b同士の間にパンチ22の突起部22bの先端が侵入するように、各突起部22b、23bが位置決めされている。突起部22b、23bは、本発明における基材であり、所定の成分の鋼材で構成され、また、突起部22b、23b(基材)の表面には表面処理皮膜が形成されている。表面処理膜は、第1めっき層の単層膜または第1めっき層と第2めっき層との積層膜からなる。表面処理皮膜には、電気Niめっき層が含まれる場合がある。また、基材には窒化層が形成される場合がある。基材及び表面処理皮膜については後述するが、突起部22b、23b(基材)に表面処理皮膜が形成されることにより、チタン板11aに対する摩擦係数が小さくなってプレス成形時のチタン板11aの潤滑性が向上する。
図3(a)に示すように、パンチ22とダイ23の間に成形前のチタン板11aが配置される。チタン板11aは、板長さ方向(図中左右方向)の両端が図示しないしわ押さえによって拘束されている。また、チタン板11aは、板幅方向に拘束されてよく、拘束されなくてもよい。
次に、図3(b)に示すように、パンチ22をダイ23に向けて下降させ、ダイ23の突起部23b同士の間にパンチ22の突起部22bの先端を侵入させる。チタン板11aは、図中左右方向両端が拘束された状態でダイ23の突起部23aの上に位置しているところ、パンチ22の下降に伴いチタン板11aに各突起部22b、23bが当接し、更にチタン板11aに対して各突起部22b、23bが押し込まれることによってチタン板11aの複数箇所において曲げ変形がなされ、最終的に波状に成形されたチタン板11bが得られる。
なお、成形時には、通常のチタン板のプレス成形加工に用いられるエマルジョン系またはソリュブル油系の潤滑剤を用いることが好ましい。潤滑剤を用いることで、チタン板11aとプレス用金型21との間の摩擦が更に低減する。潤滑性能及び製品に付着した潤滑剤の除去のし易さの観点から、水溶性切削油剤であるソリュブル油系潤滑剤が最も適している。
図4に成形前のチタン板11aを示し、図5には成形後のチタン板11bを示す。図4及び図5では、チタン板11a、11bを平面図と側面図で示している。図4及び図5に示すように、成形後のチタン板11bの板幅w2は、成形前の板幅w1からほぼ変化していない。一方、チタン板11aは板長さ方向の両端が拘束を受けたまま複数箇所において曲げ変形を受けたため、成形後のチタン板11bの長手方向の表面に沿う長さL2は、成形前のチタン板11aの長手方向の表面に沿う長さL1に対して、波状に変形した分だけ長く伸ばされている。また、両端が拘束されたまま伸ばされたことで、板厚も部分的に減少している。すなわち成形後のチタン板11bは、波状に成形された際に、板長さ方向に沿って変形を受けて歪むが、板長さ方向に直交する板幅方向には変形を受けず歪み量が0となっており、所謂平面歪み状態になっている。
次に、本実施系形態に係るプレス用金型21に適用される基材及び表面処理皮膜について説明する。基材は、質量%で、C:1.00~2.30%、Si:0.10~0.60%、Mn:0.20~0.80%、P:0.030%以下、S:0.030%以下、Cr:4.80~13.00%、を含有し、残部が鉄及び不純物から成る鋼組成を有する鋼材からなる。この基材からなる突起部22b、23bの表面に表面処理皮膜が備えられている。
表面処理皮膜には、基材の表面に積層された第1めっき層が備えられている。また、表面処理皮膜は、基材表面に積層された第2めっき層と、第2めっき層の上に積層された第1めっき層とを備えたものであってもよい。更に、基材表面に窒化層を形成し、その上に表面処理皮膜を形成してもよい。また、基材と表面処理皮膜との間に、厚み0.1~1μmの電気Niめっき層を形成してもよい。
第1めっき層は、Niを含有する。
第1めっき層は、P:3.0~7.0質量%、B:0.5~3質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなるNi-P-Bめっき層に、0.5~3質量%のh-BN粒子が含有されてなる。第1めっき層のビッカース硬さは700~1100の範囲である。
第1めっき層のビッカース硬さは800超~1100の範囲であってもよく、700~800の範囲でもよい。
第1めっき層の厚みは、1~10μmの範囲であってもよい。また、第2めっき層の厚みは、1~2μmの範囲であってもよい。
第2めっき層は、Niを含有する。
第2めっき層は、B:0.3~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなり、ビッカース硬さが700~820のNi-Bめっき層であってもよい。
また、第2めっき層は、B:0.3~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなり、ビッカース硬さが900~1100のNi-Bめっき層であってもよい。
また、第2めっき層は、P:3.0~10.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなり、ビッカース硬さが700~1100のNi-P層めっきであってもよい。
また、第2めっき層は、P:3.0~10.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなり、ビッカース硬さが900~1100のNi-B-Pめっき層であってもよい。
また、第2めっき層は、P:3.0~10.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなり、ビッカース硬さが700~800のNi-B-Pめっき層であってもよい。
基材のビッカース硬さは、550~650であってもよい。
基材に窒化層を形成する場合の窒化層の厚さは、0.5μm~50μmであってもよい。
窒化層の平均窒素濃度は0.10~1.0質量%であってもよい。窒化層における窒素の濃度分布は、窒化層表層から深さ方向に向かって減少する濃度勾配を有していてもよい。
[基材の組成]
まず、本実施形態の基材の成分組成に関し、各元素の限定理由について詳述する。なお、以下の説明においては、特に指定の無い限り、「%」は質量%を表すものとする。また、以下に示す基本成分及び選択元素の残部は、鉄及び不純物からなる。
(C:炭素) 1.00~2.30%
Cは、炭化物の形成および基材の硬さの確保に必要な元素である。また、Cr、Mo、V等と結合して硬い炭化物を形成するので、焼入れ焼き戻し硬さを高め、耐摩耗性を構成させる元素として重要である。そのため、本実施形態ではCを1.00%以上含有させる。硬さの確保の観点から、1.40%以上含有させることが好ましい。
一方、C含有量が2.30%を超えると、靱性を著しく劣化させる。そこで、本実施形態では、C含有量は2.30%以下と限定する。なお、靭性確保の観点から、C含有量の上限は、2.20%であることが好ましく、2.00%以下であることがさらに好ましい。
(Si:ケイ素) 0.10~0.60%
Siは、脱酸剤として含有される。また、Siは、高温焼戻し中の軟化抵抗性を高める作用があるため含有される。これらの観点から、Siは0.10%以上含有させる。一方、Si含有量が0.60%を超えると、熱間加工性や靱性を低下させるほか、非金属介在物が増加するおそれがある。そのため、Si含有量は0.60%以下とする。なお、基材の靭性確保の観点から、Si含有量の上限は0.50%であることが好ましい。
(Mn:マンガン) 0.20~0.80%
Mnは、Siと同様に脱酸効果のある元素であり、焼入れ性を向上させると同時に、残留オーステナイトを増加させる元素である。この観点から、Mnは0.20%以上含有させる。なお、基材の硬度確保の観点から、0.30以上含有させることが好ましい。なお、靭性とのバランスを考慮し、本実施形態ではMn量の上限を0.80%以下とする。好ましくは、0.60%以下である。
(P:リン) 0.030%以下
(S:硫黄) 0.030%以下
P,Sともに、鋼中に存在しない方が好ましい不純物元素である。このことから、P,Sともに、その含有量を0.030%以下に制限する。好ましくは、0.020%以下に制限する。
(Cr:クロム) 4.80~13.00%
Crは、Cと結合して炭化物を形成することにより、基材の耐摩耗性を向上させる需要な元素である。Cr量は4.80%以上とし、好ましくは8.00%以上、さらに好ましくは11.00%以上とする。一方、Crを過剰に含有させると、粗大な炭化物の生成によって靭性が劣化するおそれがあるので、Cr量の上限を13.00%以下とする。なお、好ましくは12.50%以下である。
なお、本実施形態では、上記成分組成にさらに、Mo:0.70~1.20%及びV:0.15~1.00%の1種または2種以上を含有させてもよい。
(Mo:モリブデン) 0.70~1.20%
Moは、焼戻し軟化抵抗性を向上させるとともに、炭化物の形成により基材に耐摩耗性を付与する効果も有する。これらの観点から、Moは0.70%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.80%以上である。
一方、Moを過剰に含有すると基材の靱性を劣化させるおそれがある。このことから、Moは1.20%以下含有させることが好ましく、より好ましくは1.10%以下である。
(V:バナジウム) 0.15~1.00%
Vは、基材の焼入れ性向上、焼戻し軟化抑制さらには炭化物の微細化に有効である。そのため、Vは0.15%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.20%以上である。
一方、Vを過剰に含有すると、冷間加工性を阻害するおそれがあるため、Vは1.00%以下含有させることが好ましく、より好ましくは0.50%以下である。
また、本実施形態では、上記成分組成にさらに、W:0.60~0.80%を含有させてもよい。
(W:タングステン) 0.60~0.80%
Wは、Vと同様に、基材の焼入れ性向上、焼戻し軟化抑制さらには炭化物の微細化に有効である。そのため、Wは0.60%以上含有させることが好ましい。一方、Wを過剰に含有すると、冷間加工性を阻害するおそれがあるため、Wは0.80%以下含有させることが好ましい。
本実施形態においては、上記した元素以外の残部は実質的にFeからなり、不純物をはじめ、本発明の作用効果を害さない元素を微量に含有することができる。
なお、本実施形態のプレス用金型においては、基材の材質として上記成分組成を有するものを用いるが、その中でも、より安価でかつ耐摩耗性と耐凝着性をバランスよく確保する観点から、JIS G 4404にて規定されている、SKD1,SKD2,SKD10,SKD11もしくはSKD12(いずれも上記成分組成範囲内)を用いることが好ましく、これらの中でも特に、SKD11を用いることがより好ましい。
[表面処理皮膜]
上記成分組成を有するような基材の硬度は、ビッカース硬さで約550~650程度である。つまり、上記基材上に皮膜等を形成せず、基材ままの状態でチタン板をプレス成形した場合、基材自体の硬度は確保できていることから耐摩耗性に関しては比較的良好な結果が得られるが、耐凝着性に関しては、チタン板の材料が基材に焼付いてしまう場合があり、プレス用金型に多数の疵が生じてしまうおそれがある。
そこで本発明者らは、チタン板に対する耐凝着性に優れ、耐摩耗性に優れた材料としてNiを含むめっき層に着目した。チタン板を冷間加工する際のプレス用金型21の材料としてNiを含むめっき層を選択した場合に、Niはチタンに対して耐凝着性を示すことを見出した。更に、Niを含むめっき層に潤滑性を持たせるために、めっき層中にh-BN粒子を含有させることが重要であることを見出した。チタンに対する潤滑性を高めることで、耐凝着性をより高めることが可能になる。更にまた、h-BN粒子を含む第1めっき層と基材との間に、別のめっき層を形成することで、第1めっき層の密着性をより高められることを見出した。そこで、本実施形態では、チタン板のプレス用金型21として、基材上に、第1めっき層が積層されてなるものを用いてもよく、第2めっき層と第1めっき層とが積層されてなるものを用いてもよい。以下、第1めっき層及び第2めっき層について説明する。
第1めっき層は、主にNiを含有するめっき層であり、めっき層内部にh-BN粒子が含まれる。第1めっき層は無電解法により形成されためっきであることが好ましく、特に、P及びBを含むNi-P-Bめっき層であることが好ましい。無電解めっき法によって形成するNi-P-Bめっき層は、めっき浴中にh-BN粒子を含有させた場合でも品質が安定しためっき層を得ることができる。よって、第1めっき層は、Ni-P-Bめっき層中に、h-BN粒子が含まれるものである。
第1めっき層を構成するNi-P-Bめっき層の組成は、P:3.0~7.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなることが好ましい。P量またはB量が少ないほど第1めっき層のビッカース硬さが向上するが、P量またはB量が少なすぎるとめっきの緻密性が低下するので、P量は3.0質量%以上とし、Bは0.5%以上とする。P量またはB量が過剰になるとビッカース硬さが低下するので、P量は7.0質量%以下とし、B量は3.0%以下とする。P量のより好ましい範囲は4.0~7.0質量%である。B量のより好ましい範囲は0.5~2.0質量%である。
第1めっき層に六方晶系のh-BN粒子を含有させることで、チタン板に対する第1めっき層の潤滑性を高めることができ、プレス用金型21の使用時のチタン板の凝着を防止できる。h-BN粒子の含有量は、第1めっき層に対する質量比で、0.5~3.0質量%の範囲である。h-BN粒子を0.5質量%以上とすることで、第1めっき層の潤滑性を十分に高め、チタン板の凝着を防止できる。また、h-BN粒子を3.0質量%以下とすることで、第1めっき層のビッカース硬さの低下を防止できる。h-BN粒子の含有量のより好ましい範囲は、第1めっき層における質量比で0.7~2.5%の範囲である。
また、h-BN粒子の平均粒径は、0.1~0.3μmの範囲が好ましい。粒径が大きいと、割れの起点となり、耐久性が得られない。また、h-BN粒子の平均粒径を0.1μm以上とすることで、h-BN粒子同士の凝集を防止して第1めっき層の緻密性を高めることができる。また、h-BN粒子の平均粒径を0.3μm以下にすることによっても、第1めっき層の緻密性を高めることができる。
なお、BN(窒化ホウ素)には、六方晶系のh-BNのほかに、立方晶系のc-BNもあるが、c-BN粒子をNi-P-Bめっき層に含有させた場合は、チタン板に対するめっき層の潤滑性が十分に得られないため、本実施形態では六方晶系のh-BN粒子を第1めっき層に含有させるとよい。
第1めっき層のビッカース硬さは700~1100の範囲である。第1めっき層はh-BN粒子を含有するためビッカース硬さが比較的低くなるが、h-BN粒子による潤滑性向上の効果により、ビッカース硬さが低くてもチタン板に対する耐摩耗性及び耐凝着性を十分に高められる。第1めっき層のビッカース硬さが700以上であれば耐摩耗性及び耐凝着性を十分に向上できる。また、第1めっき層のビッカース硬さはh-BN粒子の含有量にも影響され、第1めっき層のビッカース硬さを高めようとすると、h-BN粒子の含有量を低下させる必要があり、この場合は潤滑性が低下する。よって、第1めっき層は、潤滑性を確保しつつビッカース硬さを可能な限り高めることが好ましい。従って第1めっき層のビッカース硬さの上限は1100以下とする。
また、第1めっき層のビッカース硬さは、第1めっき層の形成後に熱処理を行うか否かによって更に調整することが可能できる。すなわち、第1めっき層形成後に熱処理を行わない場合は第1めっき層のビッカース硬度を700~800の範囲にすることができ、一方、熱処理を行う場合は第1めっき層のビッカース硬度を800超~1100の範囲に調整できる。熱処理条件によっては820~1070の範囲に調整することもできる。チタン板を加工する場合は、ビッカース硬さがより高いほうが好ましい。すなわち、800超850以下の範囲、好ましくは820以上850以下の範囲がよい。
第1めっき層の厚みは1~10μmの範囲であることが好ましい。第1めっき層を1μm以上とすることで、チタン板に対する耐摩耗性を十分に向上できる。また、第1めっき層を10μm以下にすることで、プレス用金型21の使用時に荷重が加わった場合でも第1めっき層にクラックが生じることがない。これらのことから、第1めっき層の厚みは1μm~10μmとすることが好ましく、2μm~8μmとすることがより好ましく、3μm~7μmとすることが更に好ましい。
第1めっき層は無電解めっき法により形成することが好ましい。その際、めっき浴中にh-BN粒子を分散させておくことが好ましい。めっき浴中のh-BN粒子の分散濃度は、Ni-P-Bめっき層に対して0.5~3.0質量%の範囲でh-BN粒子が含有されるように調整すればよい。無電解めっき法により形成された第1めっき層に熱処理を行ってもよく、行わなくてもよい。熱処理条件としては例えば、300~500で0.5~3時間の条件を例示できる。熱処理温度を300℃以上にすることで、第1めっき層のビッカース硬さを十分に高めることができる。また、熱処理温度を500℃超にしても硬度の向上は望めず、基材が軟化する場合があるので、500℃以下とする。
また、チタン板用のプレス金型21は比較的複雑な形状を有しているが、無電解めっき法を採用することで、第1めっき層を均一な厚みに形成できるようになる。
第1めっき層は、プレス用金型の使用時にチタン板に接するめっき層である。チタンは、他の金属に対しして凝着しやすい金属と言われているが、第1めっき層にh-BN粒子を含有させることで、チタンの凝着を大幅に抑制できる。このため、本実施形態では、プレス用金型の基材の摩耗を防止する表面処理皮膜として、Niを主体とするめっき層を採用できる。
上述のように、本実施形態のプレス用金型21の表面処理皮膜は、第1めっき層のみからなるものであってもよく、第1めっき層と第2めっき層とが積層されてなるものであってもよい。すなわち、基材と第1めっき層との間に第2めっき層を設けてもよい。以下、第2めっき層について説明する。
第2めっき層は、Niを主に含有するめっき層である。第2めっき層は無電解法により形成されためっきであることが好ましい。特に、第2めっき層は、無電解法によって形成されるNiめっきのうち、Pを含むNi-Pめっき層、Bを含むNi-Bめっき層、またはP及びBを含むNi-B-Pめっき層が好ましい。
Ni-Pめっき層は、熱処理しためっき層であることが好ましい。Ni-Pめっき層は、めっき浴中に含まれる還元剤が比較的安定であるため、品質が安定しためっき層を得ることができる。また、熱処理後のNi-Pめっき層は、Ni-Bめっき層に比べてビッカース硬度が同等若しくはやや高くなるので、耐摩耗性に優れたものとなる。従って、求められる性能に応じて、第2めっき層の種類を選択するとよい。
Ni-Bめっき層及びNi-B-Pめっき層は、熱処理しためっき層であってもよく、熱処理しないめっき層であってもよい。
第2めっき層をNi-Pめっき層とする場合の組成は、Pを3.0~10.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなることが好ましい。P量が少ないほど第2めっき層のビッカース硬さが向上するが、P量が少なすぎるとめっきの緻密性が低下するのでP量は3.0質量%以上とする。P量が過剰になるとビッカース硬さが低下するので、P量は10.0質量%以下とする。P量のより好ましい範囲は4.0~7.0質量%である。
第2めっき層をNi-Bめっき層とする場合の組成は、Bを0.3~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなることが好ましい。B量が少ないほど第2めっき層のビッカース硬さが向上するが、B量が少なすぎるとめっきの緻密性が低下するのでB量は0.3質量%以上とする。B量が過剰になるとビッカース硬さが低下するので、B量は3.0質量%以下とする。B量のより好ましい範囲は0.5~2.0質量%である。
第2めっき層をNi-B-Pめっき層とする場合の組成は、Pを3.0~10.0質量%、Bを0.3~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなることが好ましい。B量またはP量が少ないほど第2めっき層のビッカース硬さが向上するが、B量またはP量が少なすぎるとめっきの緻密性が低下するので、P量は3.0質量%以上、B量は0.3質量%以上が好ましい。B量またはP量が過剰になるとビッカース硬さが低下するので、P量は10.0質量%以下、B量は3.0質量%以下が好ましい。P量のより好ましい範囲は4.0~7.0質量%であり、B量のより好ましい範囲は0.5~2.0質量%である。
第2めっき層がNi-Pめっき層である場合のビッカース硬さは、700~1100の範囲が好ましい。
第2めっき層がNi-Bめっき層であって、第2めっき層を熱処理しない場合のビッカース硬さは、700~820の範囲が好ましい。また、第2めっき層がNi-Bめっき層であって、第2めっき層を熱処理した場合のビッカース硬さは、900~1100の範囲が好ましい。
第2めっき層がNi-B-Pめっき層であって、第2めっき層を熱処理しない場合のビッカース硬さは、700~800の範囲が好ましい。また、第2めっき層がNi-B-Pめっき層であって、第2めっき層を熱処理した場合のビッカース硬さは、900~1100の範囲が好ましい。
第2めっき層は、基材よりもビッカース硬さが高く、荷重が加わった場合にクラックが発生しにくくなる。また、第1めっき層が摩耗した場合でも第2めっき層があることで、耐摩耗性を担保できる。第2めっき層のビッカース硬さが700以上であれば、耐摩耗性を向上できる。一方、ビッカース硬さが高すぎると、クラックの発生を招くおそれがあるため、Ni-Pめっき層の上限を1100以下とし、Ni-Bめっき層の上限を820以下または1100以下とし、Ni-B-Pめっき層の上限を820以下または1100以下とする。例えば、700~800の範囲または700~820の範囲のビッカース硬さを確保したい場合は、Ni-Pめっき層、熱処理なしのNi-Bめっき層または熱処理なしのNi-B-Pめっき層を選択することが好ましく、900~1100の範囲のビッカース硬さを確保したい場合は、熱処理ありのNi-Bめっき層または熱処理ありのNi-B-Pめっき層を選択することが好ましい。
第2めっき層の厚みは1~2μmの範囲であることが好ましい。第2めっき層の厚みを1μm以上とすることで、めっき層表面の平滑性が向上し、また、耐摩耗性及び耐凝着性を十分に高めることができる。また、第2めっき層の厚みを2μm以下とすることで、金型21の使用時に荷重が加わった場合でも第2めっき層にクラックが生じることがない。
これらのことから、第2めっき層の厚みは1μm~2μmにすることが好ましい。第2めっき層の厚みの好ましい範囲は1.2~1.8μmである。
第2めっき層は無電解めっき法により形成することが好ましい。無電解めっき法により形成されためっき層はビッカース硬度が比較的低いままなので、ビッカース硬度を高めるために第2めっき層の形成後に熱処理を行ってもよい。熱処理条件としては例えば、熱処理温度300~500℃、熱処理時間0.5~3時間の条件を例示できる。熱処理温度を300℃以上にすることで、第2めっき層のビッカース硬さを十分に高めることができる。また、熱処理温度を500℃以下とすることで、焼戻しによる基材の軟化を防止できる。熱処理時間を0.5~3時間の範囲にすることで、第2めっき層のビッカース硬さを十分に向上できる。
また、基材の表面粗さが比較的大きい場合であっても、無電解めっき法により第2めっき層を形成することで、基材の表面をならして第2めっき層の表面を平滑にできる。このため、耐用期間が過ぎたプレス用金型21を再生する際の第1めっき層及び第2めっき層の再めっき時に、基材の表面粗さの調整を省略できる場合があり、プレス用金型21の生産性を高めることができる。また、プレス用金型21は比較的複雑な形状を有しているが、無電解めっき法を採用することで、第2めっき層を均一な厚みに形成できるようになる。
第2めっき層は、第1めっき層の下地層であり、第1めっき層の密着性を確保するために形成される。第1めっき層はh-BN粒子を含むものであるため、基材に対する密着性が僅かに低い。一方、第2めっき層はh-BN粒子を含まないため、基材に対する密着性は比較的高い。また、第2めっき層は、第1めっき層と同様にNiを主体とするめっき層であるため、第1めっき層に対する密着性が比較的高い。よって、基材上に第2めっき層を形成し、第2めっき層上に第1めっき層を形成することで、第1めっき層の基材に対する密着性をより高めることができる。
次に、電気Niめっき層について説明する。本実施形態では、基材と表面処理皮膜との間に、電気Niめっき層が形成されていてもよい。表面処理皮膜に第1めっき層が含まれる場合は、基材と第1めっき層との間に電気Niめっき層があればよい。また、表面処理皮膜に第1めっき層及び第2めっき層が含まれる場合は、基材と第2めっき層との間に電気Niめっき層があればよい。この電気Niめっき層は、ストライクめっきと呼ばれるものであり、電気Niめっき層の形成時に基材表面の不動態被膜を除去できる。これにより、基材上に第1めっき層または第2めっき層を直接形成した場合に比べて、第1めっき層または第2めっき層の密着性の向上を期待できる。電気Niめっき層の厚みは0.1~1μmの範囲が好ましい。
また、基材表層をプラズマ窒化処理することによって、基材表面に窒化層を設けてもよい。このように、基材の表層に窒化層を形成することで、基材と表面処理皮膜との密着性、ならびに強度を向上させることができ、特に第1めっき層の剥離を低減することができ、耐凝着性を向上させることが可能となる。
窒化層の厚さは特に限定しないが、本実施形態では、0.5μm~50μmとすることができる。
基材と表面処理皮膜との密着性を高めるためには、窒化層の厚みを0.5μm以上確保することが好ましい。より好ましくは1μm以上である。一方、窒化層の厚みを過度に厚くしすぎることは、プラズマ窒化処理に要する時間が長くなり生産性を低下させるほか、製造コストも高くなる。また、窒化層の厚みを過度に厚くすると、基材の表面粗度が大きくなってしまい、表面処理皮膜の成膜前に基材表面を研磨する必要が生じる。これらの観点から、窒化層の厚みは50μm以下とすることが好ましい。
窒化層中の平均窒素濃度は、0.10~1.0質量%とすることが好ましい。
窒化層中の窒素濃度が低すぎると、強度向上の効果が小さく、十分な耐摩耗性が得られないおそれがあるため、窒化層中の平均窒素濃度は0.10質量%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.20%以上である。
一方、窒化層中の窒素濃度が高すぎると、窒化層表面が脆化する傾向となりやすく、割れが生じるおそれがある。このことから、窒化層中の平均窒素濃度は1.0質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.40%以下である。
また、窒化層における窒素の濃度分布が、窒化層表層から深さ方向に向かって減少するような濃度勾配を有することが好ましい。
基材内部で強度格差が生じることは、表面処理皮膜と基材との密着性、及び強度の観点から好ましくない。従って、基材内部の強度の格差、すなわち基材の深さ方向に沿った強度勾配は緩やかにすることが好ましい。そのためには、窒化層内の窒素の濃度分布を、窒化層表層から基材側に向かって減少するような濃度勾配となるよう制御することが好ましい。
なお、窒素の濃度分布を、窒化層表層から深さ方向に向かって減少する勾配となるよう制御するためには、窒化層を形成するための基材表層に対するプラズマ窒化処理を複数回に分け、かつ、各回の処理を異なる条件で行うことにより、窒化層内における窒素の濃度分布を調整すればよい。
なお、「窒化層」の判別(基材と「窒化層」との境界の判定)は、グロー放電発光分析装置(GDS)によって行うことができる。具体的には、まず、上記プラズマ窒化処理によって窒化させた基材表層において、分析領域を直径1mmとし、通常のグロー放電発光分析を行う。引き続き、深さ方向に分析を進め、分析領域の窒素量が母材(基材)の平均窒素濃度を超えているところまでの領域を「窒化層」とする。つまり、グロー放電発光分析を深さ方向に行い、窒素量が基材の平均窒素濃度まで下がった地点を基材と「窒化層」との境界の判定することとする。
また、窒化層中の平均窒素濃度についても、GDSを用いて測定することができる。なお、本実施形態では、分析領域を直径1mmとし、GDSを用いて深さ方向に分析を行い、JIS K 0150に規定されているQDP(Quantitative Depth Profile)法を適用し、深さ50nmごとの窒素濃度を測定する。これにより、窒化層における窒素の濃度分布を得る事ができる。また、窒化層全体の平均窒素濃度は、深さ50nmごとの各窒素濃度の平均を算出することで求めることができる。
次に、チタン板のプレス用金型21の製造方法について説明する。
プレス用金型21は、基材に対して無電解めっき法により表面処理皮膜を形成することにより製造するが、表面処理皮膜を形成する前に、基材に対して以下に説明する各種の処理を適宜選択して行ってもよいし、行わなくてもよい。
基材のうち、表面処理皮膜を形成する面には、予め研磨等を行って平滑性を高めておくことが好ましい。
また、表面処理皮膜の形成前に、基材に対してサブゼロ処理を実施して、基材の組織中に含まれる残留オーステナイトをマルテンサイトに変態させてもよい。サブゼロ処理は、焼入れ時に-75℃乃至-130℃程度まで冷却すればよい。これにより、基材のビッカース硬さをより高めることができ、例えば、ビッカース硬さを600~700の範囲にできる。また、残留オーステナイト量を減少させることで、第1めっき層または第2めっき層の熱処理時の形状安定性を高めることができる。
また、基材に対してプラズマ窒化処理を行って、基材表面に窒化層を形成してもよい。プラズマ窒化処理を実施することで、基材表面のビッカース硬さを1000HV以上にすることができる。
更に、表面処理皮膜を形成する前に、基材表面に電気Niめっき層を形成してもよい。
電気Niめっき層を形成することで、基材表面の不動態被膜を除去でき、基材に対する表面処理皮膜の密着性をより高めることができる。
以下、表面処理皮膜の形成方法について説明する。表面処理皮膜は、第1めっき層を形成する工程、または、第2めっき層と第1めっき層を順次形成する工程のいずれかにより形成することができる。各工程における第1めっき層及び第2めっき層の形成方法は次の通りである。
(第2めっき層の形成方法)
第2めっき層は、無電解めっき法により形成する。めっき浴は、次の3つのうちのいずれかのめっき浴がよい。すなわち、Pを3.0~10.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなるNi-Pめっき層を形成可能なめっき浴か、Bを0.3~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなるNi-Bめっき層を形成可能なめっき浴か、または、Pを3.0~10.0質量%、Bを0.3~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなるNi-B-Pめっき層を形成可能なめっき浴とする。
無電解めっき法により形成された第2めっき層は、ビッカース硬度を高めるために、熱処理を行ってもよい。熱処理条件としては例えば、300~500℃で0.5~3時間の条件を例示できる。第2めっき層としてNi-Pめっき層を形成する場合は、熱処理を行うことが望ましい。第2めっき層としてNi-Bめっき層またはNi-B-Pめっき層を形成する場合は、熱処理を行ってもよく、行わなくてもよい。
(第1めっき層の形成方法)
第1めっき層は、無電解めっき法により形成する。第2めっき層を形成した場合は、第2めっき層の上に第1めっき層を形成することが好ましい。また、第2めっき層を形成しない場合は、基材上に第1めっき層を形成することが好ましい。
第1めっき層を形成する際には、めっき浴中にh-BN粒子を分散させておく。めっき浴中のh-BN粒子の分散濃度は、第1めっき層に対する質量比でh-BN粒子が0.5~3.0質量%の範囲で含有されるように調整すればよい。めっき浴は、P:3.0~7.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなるNi-P-Bめっき層を形成可能なめっき浴とする。
無電解めっき法により形成された第1めっき層は、ビッカース硬度を高めるために、熱処理を行ってもよい。熱処理条件としては例えば、300~350℃で0.5~3時間の条件を例示できる。
また、本実施形態では、第1めっき層及び第2めっき層を形成した後に一度に熱処理を行うことで、第1めっき層及び第2めっき層のビッカース硬度を同時に高めてもよい。その場合の熱処理条件は、例えば、300~350℃で0.5~3時間の条件を例示できる。
以上の工程により、チタン板のプレス用金型を製造できる。
図6には、パンチのストローク量と、チタン板の板厚との関係をグラフで示す。図6のグラフは、図2に示すプレス用金型でチタン板をプレス成形した場合を簡易的に模擬した実験によって得られた結果である。板厚0.5mmの純チタン板の長手方向両端を拘束し、純チタン板の長手方向両端を2本のロールで下側から支持した状態で、チタン板の長手方向中央に1本のロールを上側から下降させて曲げ成形を行った場合の、チタン板の板厚の減少挙動を示したものである。加工後のチタン板は平面歪み状態になるようにしている。図6の横軸のパンチのストローク量は上側に配置したロールの下降量であり、縦軸の板厚は曲げ加工を受けた部位における最小板厚である。ロールの種類を変更することで、チタン板とロールとの静摩擦係数μを0.05と0.1に設定している。板厚が0.3mm(減少率40%)まで減少した時点のストローク量を見ると、静摩擦係数μが0.1の場合は4.3mmであるが、静摩擦係数μが0.05の場合は4.5mmまでストローク量が増加している。このように、金型とチタン板の静摩擦係数を高めて潤滑性を向上させることで、ストローク量を増加させることができ、割れを生じさせずに所望の形状に加工することが可能になる。
本実施形態のチタン板のプレス用金型には、本実施形態に係る表面処理皮膜が形成されるため、表面処理皮膜を形成しない場合に比べて、チタン板とプレス用金型との間の潤滑性を大幅に高めることができる。これによりチタン板のプレス成形方法において、プレス成形時のチタン板の割れを抑制できるようになる。
また、本実施形態のチタン板のプレス用金型によれば、基材上に、第1めっき層を形成することで、プレス用金型21の潤滑性、耐摩耗性及び耐凝着性を向上させることができる。特に、第1めっき層にh-BN粒子を含有させることで、チタン板に対する潤滑性を高めることができ、チタン板成形時のチタンの凝着を防止できる。また、第1めっき層と基材との間に、基材よりもビッカース硬さが高い第2めっき層を形成することで、高硬度の第2めっき層で基材を覆うことができ、基材と第1めっき層との硬度差を解消することができ、第1めっき層の密着性を高めて剥離を抑制できる。
また、本実施形態のチタン板のプレス成形方法は、成形後のチタン板の変形状態が平面ひずみ状態を含むものとなる場合でも、プレス成形後の割れ、チタン材料の凝着及び金型の摩耗を防止することができる。すなわち、本実施形態のチタン板のプレス成形方法では、表面処理皮膜によって突起部22b、23bとチタン板11aとの潤滑性が高まるので、チタン板11aを拘束したまま突起部22b、23bによって曲げ加工を行った場合でも、曲げ加工中にチタン板11aが突起部表面上を滑って凝着せず、チタン板11aは突起部22b、23bに拘束されずに伸ばされて、所望の形状に成形できる。また、パンチ22の下降により突起部22b、23bがチタン板11aに衝突して表面処理膜及び基材に衝撃が加わっても、表面処理皮膜に第1めっき層があり、更に必要に応じて電気Niめっき層があるため、第1めっき層が剥離することなく、潤滑性、耐凝着性及び耐摩耗性を損なうことがない。これにより、成形後のチタン板の変形状態が平面ひずみ状態を含むものとなる場合でも、プレス成形後の割れ、チタン材料の凝着及び金型の摩耗を防止できる。
また、チタン板を成形する際、潤滑剤をチタン板に塗布してからプレス成形することで、チタン板とプレス用金型との潤滑性をより高めることができる。
更に、本実施形態に係るプレス用金型によれば、金型の寿命を格段に向上でき、金型の交換頻度を低減でき、製造コストを大幅に削減できる。また、金型の交換頻度の低減によって、金型交換時の位置調整等に伴う歩留まり低下を防止し、また、成形寸法精度向上による歩留まり向上を達成できる。
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、チタン板のプレス成形に用いられる金型であれば、いかなる金型にも適用できる。
次に、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
(実施例1、2)
まず、プレス用金型のダイ及びパンチの基材としてJIS G 4404にて規定されている工具鋼SKD11(C,Si,Mn,Cr,Mo,V,P,S,残部鉄及び不純物を本発明の範囲で含む鋼)を採用し、所定の形状に成形後、焼入れ及び焼戻し処理を行った。次に、電気めっき法により厚さ0.2μmのNi電気めっき層を形成した。
次に、Ni電気めっき層上に、P及びBを含むNi-B-Pめっき層からなる第1めっき層を形成した。第1めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-B-Pめっき層用のめっき浴には、硫酸ニッケル、次亜りん酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、pH緩衝剤、安定剤及び錯化剤を含むものを用いた。また、めっき浴には、平均粒径0.3μmのh-BN粒子を添加した。これにより、第1めっき層にh-BN粒子を含有させた。第1めっき層の形成後、実施例1について、熱処理温度300℃、熱処理時間1時間の条件で熱処理を行った。実施例2は熱処理を行わなかった。
このようにして、表1に示すような、実施例1、2のプレス成形用金型を製造した。
(実施例3~6)
プレス用金型のダイ及びパンチの基材としてJIS G 4404にて規定されている工具鋼SKD11(C,Si,Mn,Cr,Mo,V,P,S,残部鉄及び不純物を本発明の範囲で含む鋼)を採用し、焼入れ及び焼戻し処理を行った。次に、電気めっき法により厚さ0.2μmのNi電気めっき層を形成した。
次に、Ni電気めっき層上に、P及びBを含むNi-B-Pめっき層からなる第2めっき層を形成した。第2めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-B-Pめっき層用のめっき浴は、硫酸ニッケル、次亜りん酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、pH緩衝剤、安定剤及び錯化剤を含むものを用いた。
次に、第2めっき層上に、P及びBを含むNi-B-Pめっき層からなる第1めっき層を形成した。第1めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-B-Pめっき層用のめっき浴には、実施例1、2の場合と同様にした。第1めっき層の形成後、実施例3、5について、熱処理温度300℃、熱処理時間1時間の条件で熱処理を行った。実施例4、6は熱処理を行わなかった。
このようにして、表1に示すような、実施例3~6のプレス成形用金型を製造した。
(実施例7、8)
プレス用金型のダイ及びパンチの基材としてJIS G 4404にて規定されている工具鋼SKD11(C,Si,Mn,Cr,Mo,V,P,S,残部鉄及び不純物を本発明の範囲で含む鋼)を採用し、焼入れ及び焼戻し処理を行った。次に、電気めっき法により厚さ0.2μmのNi電気めっき層を形成した。
次に、Ni電気めっき層上に、Bを含むNi-Bめっき層からなる第2めっき層を形成した。第2めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-Bめっき層用のめっき浴は、硫酸ニッケル、ジメチルアミンボラン、pH緩衝剤、安定剤及び錯化剤を含むものを用いた。
次に、第2めっき層上に、P及びBを含むNi-B-Pめっき層からなる第1めっき層を形成した。第1めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-B-Pめっき層用のめっき浴には、実施例1、2の場合と同様にした。第1めっき層の形成後、実施例7について、熱処理温度300℃、熱処理時間1時間の条件で熱処理を行った。実施例8は熱処理を行わなかった。
このようにして、表1に示すような、実施例7、8のプレス成形用金型を製造した。
(実施例9、10)
プレス用金型のダイ及びパンチの基材としてJIS G 4404にて規定されている工具鋼SKD11(C,Si,Mn,Cr,Mo,V,P,S,残部鉄及び不純物を本発明の範囲で含む鋼)を採用し、焼入れ及び焼戻し処理を行った。
次に、プラズマ窒化処理より表面に窒化層を形成した後、電気めっき法により厚さ0.2μmのNi電気めっき層を形成した。
次に、Ni電気めっき層上に、Pを含むNi-Pめっき層からなる第2めっき層を形成した。第2めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-Pめっき層用のめっき浴は、硫酸ニッケル、次亜りん酸ナトリウム、pH緩衝剤、安定剤及び錯化剤を含むものを用いた。
次に、第2めっき層上に、P及びBを含むNi-B-Pめっき層からなる第1めっき層を形成した。第1めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-B-Pめっき層用のめっき浴には、実施例1、2の場合と同様にした。第1めっき層の形成後、実施例9について、熱処理温度300℃、熱処理時間1時間の条件で熱処理を行った。実施例10は、第2めっき層の形成後に、熱処理温度300℃、熱処理時間1時間の条件で熱処理を行った。第1めっき層形成後は熱処理を行わなかった。
このようにして、表1に示すような、実施例9、10のプレス成形用金型を製造した。なお、表1における実施例1~3、5、7~10は参考例である。
(比較例1、2)
プレス用金型のダイ及びパンチの基材としてJIS G 4404にて規定されている工具鋼SKD11(C,Si,Mn,Cr,Mo,V,P,S,残部鉄及び不純物を本発明の範囲で含む鋼)を採用し、焼入れ及び焼戻し処理を行った。次に、プラズマ窒化処理により表面に窒化層を形成した後、電気めっき法により厚さ0.2μmのNi電気めっき層を形成した。
次に、Ni電気めっき層上に、Bを含むNi-Bめっき層からなる第1めっき層を形成した。第1めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-Bめっき層用のめっき浴には、硫酸ニッケル、ジメチルアミンボラン、pH緩衝剤、安定剤及び錯化剤を含むものを用いた。また、めっき浴には、h-BN粒子を添加しなかった。第1めっき層の形成後、比較例1について、熱処理温度300℃、熱処理時間1時間の条件で熱処理を行った。比較例2は熱処理を行わなかった。
このようにして、表1に示すような、比較例1、2のプレス成形用金型を製造した。
(比較例3、4)
第1めっき層として、P及びBを含むNi-B-Pめっき層からなる第1めっき層を形成した以外は、比較例1、2と同様にして、比較例3、4の成形ロールを製造した。比較例4について、熱処理温度300℃、熱処理時間1時間の条件で熱処理を行った。比較例3は熱処理を行わなかった。
このようにして、表1に示すような、比較例3、4のプレス成形用金型を製造した。
(比較例5)
プレス用金型のダイ及びパンチの基材としてJIS G 4404にて規定されている工具鋼SKD11(C,Si,Mn,Cr,Mo,V,P,S,残部鉄及び不純物を本発明の範囲で含む鋼)を採用し、焼入れ及び焼戻し処理を行った。次に、プラズマ窒化処理により表面に窒化層を形成した後、電気めっき法により厚さ0.2μmのNi電気めっき層を形成した。
次に、Ni電気めっき層上に、P及びBを含むNi-B-Pめっき層からなる第1めっき層を形成した。第1めっき層は無電解めっき法により形成した。Ni-B-Pめっき層用のめっき浴には、硫酸ニッケル、次亜りん酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン、pH緩衝剤、安定剤及び錯化剤を含むものを用いた。また、めっき浴には、c-BN粒子を添加した。c-BN粒子は、第1めっき層中に1質量%が含まれるようにした。第1めっき層の熱処理は行わなかった。
このようにして、表1に示すような、比較例5のプレス成形用金型を製造した。
Figure 0007332879000001
<プレス成形についての評価>
(成形性)
実施例1~10及び比較例1~5のダイ及びパンチを用いて、チタン板をプレス成形することにより、プレス成形性を評価した。
図7に、試験に用いたプレス用金型の断面模式図を示す。図7に示すプレス用金型は、パンチ21と、ダイ22と、しわ押さえパッド23とから構成された。パンチ21には、3つの突起部21aを等間隔に設けた。また、ダイ22には2つの突起部22a、22aを設けた。ダイ21及びパンチ22における突起部先端は、断面視した場合に曲率半径3.0mmの曲面とされた。パンチ21の突起部21a及びダイ22の突起部22aは、パンチ21が下死点に下降したときに各突起部21a、22a同士の隙間が1.5mmになるように位置決めされた。パンチ21の図中幅方向の寸法は36mmであり、パンチ21及びダイ22のそれぞれの突起部の高さは10mmであった。ダイ22の外周部の上方には、しわ押さえパッド23を配置した。ダイ22には、パンチ21を囲むように材料の流入防止ビード22bを設けた。これにより、成形加工を受けたチタン板は、平面ひずみ状態となる。
図7に示すプレス用金型を用いて、厚み0.5mmのチタン板のプレス成形を行った。
チタン板は、JIS1種のチタンからなるチタン板を用いた。実施例1~10のプレス用金型を用いた場合は、チタン板に防錆油(商品名:ノックスラスト、パーカー興産株式会社製)のみを潤滑剤として塗布し、プレス成形した。また、比較例1~5のプレス用金型を用いた場合は、ミルボンドによって表面処理したチタン板に、実施例1~10と同じ潤滑剤を塗布して、プレス成形した。プレス成形によって、チタン板を図2に示すような波形状に成形加工した。このとき、波の振幅が狙い値で2.5mmになるようにポンチ21を押し込んだ。
プレス成形の結果、実施例1~10、比較例1~5とも、図2に示すような波形状に成形され、一方及び他方の突出部の断面の曲率半径が3.05~3.11mmの範囲となり、振幅が4.8mmとなり、ほぼ狙い通りの形状が得られた。実施例1~10、比較例1~5との割れは生じなかった。
板厚の最小値は、実施例1で0.38mm、比較例1で0.37mmとなり、両者に大きな差はなかった。
このように、実施例1~10のプレス用金型を用いてプレス成形したチタン板は、ミルボンドの処理を行わないものであったが、比較例1~5と同様に割れを生じさせることなく、狙い通りの形状に成形が可能となった。
(耐久性)
また、JIS Z 2247に規定するエリクセン試験のパンチに本発明の金型を適用して耐久試験を行った。すなわち、パンチの基材の形状をJIS Z 2247に規定された形状にしたこと以外は上記実施例1~10と同様にして、エリクセン試験用のパンチを製造した。そして、厚み0.5mmのJIS1種のチタン板を試験片とし、試験片に貫通割れが発生するまでパンチを押し込んだ。これを200回繰り返した。その結果、実施例1~10のパンチは、パンチの表面に形成された第1めっき層の膜厚がやや薄くなったものの、第1めっき層そのものが剥がれることがなく、耐久性は良好だった。一方、比較例1~5のパンチは、第1めっき層の摩耗が激しく、プレス割れや焼付痕が発生した。
(低摩擦性)
図8には、横軸をプレスの成形時の押し込み量とし、縦軸を荷重とした場合の、押し込み量と荷重との関係を示すグラフである。
図8の実線は、実施例1のプレス金型を用いて、チタン板に防錆油(商品名:ノックスラスト、パーカー興産株式会社製)のみを潤滑剤として塗布し、プレス成形した例である。
図8の点線は、比較例6として、JIS G 4404にて規定されている工具鋼SKD11からなるプレス金型を用いて、ミルボンドによって表面処理したチタン板に、実施例1と同じ潤滑剤を塗布して、プレス成形した例である。
実施例1、比較例6とも、押し込み量が5mm付近で荷重が最大になっているが、実施例1の荷重は、防錆油のみを潤滑剤として使用したにもかかわらず、ミルボンド及び防錆油を用いた比較例6の荷重に比べて、15%程度低減している。このように、本発明に係る表面処理被膜を備えたプレス用金型は、プレス成形時の荷重低減の効果が大きい。これは、表面処理被膜の形成によって、プレス金型の潤滑性が向上し、摩擦が低減されたためと考えられる。
1A~1E…プレート(チタン板)、11a、11b…チタン板、21…プレス用金型、22…パンチ、22a…パンチプレート、22b…突起部(基材)、23…ダイ、23a…ダイプレート、23b…突起部(基材)。

Claims (15)

  1. チタン板のプレス成形加工に用いるプレス用金型であって、
    基材と、前記基材の表面に形成された表面処理皮膜とを備え、
    前記基材は、質量%で、
    C:1.00~2.30%、
    Si:0.10~0.60%、
    Mn:0.20~0.80%、
    P:0.030%以下、
    S:0.030%以下、
    Cr:4.80~13.00%を含有し、
    残部が鉄及び不純物からなる組成を有する鋼材からなり、
    前記表面処理皮膜は、
    前記基材上に形成された、Niを含有する第1めっき層を備え、
    前記第1めっき層は、P:3.0~7.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなるNi-P-Bめっき層に、0.5~3質量%のh-BN粒子が含有されてなり、ビッカース硬さが700~1100の範囲であり、
    前記表面処理皮膜は、更に、前記第1めっき層と前記基材との間に、Niを含有する第2めっき層を備え、
    前記第2めっき層は、P:3.0~10.0質量%、B:0.5~3.0質量%を含有し、残部がNi及び不純物からなり、ビッカース硬さが700~800のNi-B-Pめっき層であることを特徴とする
    チタン板のプレス用金型。
  2. 前記第1めっき層のビッカース硬さが800超~1100の範囲である請求項1に記載のチタン板のプレス用金型。
  3. 前記第1めっき層のビッカース硬さが700~800の範囲である請求項1に記載のチタン板のプレス用金型。
  4. 前記基材と、前記第1めっき層または前記第2めっき層との間に、厚み0.1~1μmの電気Niめっき層が形成されている請求項1乃至請求項の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  5. 前記第1めっき層の厚みが1~10μmの範囲である請求項1乃至請求項の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  6. 前記第2めっき層の厚みが1~2μmの範囲である請求項1乃至請求項の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  7. 前記基材のビッカース硬さが550~650である請求項1乃至請求項の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  8. 前記基材の表面に窒化層が形成されている、請求項1乃至請求項の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  9. 前記窒化層の厚さが0.5μm~50μmである、請求項に記載のチタン板のプレス用金型。
  10. 前記窒化層の平均窒素濃度が、0.10~1.0質量%である、請求項または請求項に記載のチタン板のプレス用金型。
  11. 前記窒化層における窒素の濃度分布が、前記窒化層表層から深さ方向に向かって減少する濃度勾配を有する、請求項乃至請求項10の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  12. 前記基材が、さらに、質量%で、
    Mo:0.70~1.20%、
    V:0.15~1.00%、
    W:0.60~0.80%
    の1種または2種以上を含有する、請求項1乃至請求項11の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  13. 前記基材がパンチ及びダイである、請求項1乃至請求項12の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型。
  14. 請求項1~13の何れか一項に記載のチタン板のプレス用金型を用いて、チタン板をプレス成形する、チタン板のプレス成形方法。
  15. 前記チタン板をプレス成形する際、チタン板の変形状態として平面ひずみ状態を含む、請求項14に記載のチタン板のプレス成形方法。
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