以下、本実施の形態に係るクラッチ装置について添付図面を参照して説明する。図1から図6は第1の実施形態、図7は第2の実施形態、図8及び図9は第3の実施形態、図10は第4の実施形態を示している。本実施の形態における内燃機関やクラッチ装置は、図示を省略する自動二輪車に搭載されるものである。以下の説明中における上下、左右、前後などの各方向は、自動二輪車の車体を基準とした方向を意味する。
図1は、内燃機関の一例であるエンジン1を示している。図1に示すように、エンジン1は、クランクケース10の上部に、シリンダブロック11、シリンダヘッド12及びシリンダヘッドカバー13を取り付けて構成される。クランクケース10は左右割りであり、右半体10aと左半体10bを組み合わせて構成されている。右半体10aの右側にクラッチカバー14が取り付けられ、左半体10bの左側に発電機カバー15が取り付けられる。クランクケース10とクラッチカバー14によって囲まれるクラッチ室16内に、クラッチ装置17が配置される。クランクケース10と発電機カバー15によって囲まれる発電機室(不図示)内には、発電機(不図示)が配置される。
クランクケース10内に形成されたクランク室に、左右方向に延びるクランクシャフト(不図示)が配置されている。シリンダブロック11の内部にはシリンダ(不図示)が形成され、シリンダ内にピストン(不図示)が往復移動可能に配置されている。ピストンはコンロッド(不図示)によってクランクシャフトと連結されており、ピストンが往復運動すると、クランクシャフトがコンロッドを介して回転される。また、クランクシャフトが回転すると、発電機による発電が行われる。
クランクシャフトの後方にカウンタシャフト20が配置されている。カウンタシャフト20は左右方向に延びており、クランクケース10の右半体10aと左半体10bに取り付けられた軸受21,22を介してカウンタシャフト20が回転可能に支持されている。以下の説明では、カウンタシャフト20の回転軸が延びる方向を回転軸方向とし、カウンタシャフト20の回転軸を中心とする放射方向(回転軸に対して垂直な方向)を半径方向とする。カウンタシャフト20の内部には、回転軸方向に向けて延びる軸方向孔50が形成されている。
クランクシャフトの周囲に配置されたプライマリドライブギヤ(不図示)が、カウンタシャフト20の周囲に配置されたプライマリドリブンギヤ23に噛合している。プライマリドリブンギヤ23は、カウンタシャフト20を囲むスリーブ24の外側に支持されている。
カウンタシャフト20の近傍には、ドライブシャフト(不図示)が配置されている。ドライブシャフトは左右方向に延びており、クランクケース10に取り付けられた軸受(不図示)を介して回転可能に支持されている。カウンタシャフト20に設けたギヤ列25と、ドライブシャフトに設けたギヤ列26(図2)によって変速装置27が構成され、ギヤ列25とギヤ列26に含まれる互いのギヤの噛合関係を変更することで、異なる減速比が選択される。ドライブシャフトの軸端にはスプロケット(不図示)が取り付けられ、スプロケットに巻回されたチェーン(不図示)を介して、ドライブシャフトの回転が自動二輪車の後輪に伝達される。
カウンタシャフト20の軸端に取り付けられたクラッチ装置17は、クランクシャフトからカウンタシャフト20への回転伝達を行う伝達状態と、回転伝達を遮断する遮断状態に切り替えることができる。クラッチ装置17は、複数枚の主動側クラッチプレート30と複数枚の従動側クラッチプレート31を、カウンタシャフト20の回転軸方向に交互に配置した湿式多板クラッチである。以下、クラッチ装置17の詳細について説明する。
クラッチ室16内には、クラッチハウジング32が設けられている。クラッチハウジング32は、複数のダンパ33と複数のリベットピン34を介して、プライマリドリブンギヤ23と一体回転するように取り付けられている。クラッチハウジング32には複数枚の主動側クラッチプレート30が支持されており、クラッチハウジング32と各主動側クラッチプレート30が一体的に回転する。
カウンタシャフト20の右端付近にはスリーブハブ35が取り付けられている。カウンタシャフト20とスリーブハブ35はスプラインにより嵌合しており、回転方向に一体となっている。スリーブハブ35は、スリーブ24に当接して軸方向の位置が定められ、カウンタシャフト20の右端に取り付けたナット36によって、スリーブ24から離れる方向への移動(脱落)が規制される。スリーブハブ35には複数枚の従動側クラッチプレート31が支持されており、スリーブハブ35と各従動側クラッチプレート31が一体的に回転する。
交互に重ね合わされた主動側クラッチプレート30と従動側クラッチプレート31は、クラッチスプリング37の付勢力を受けるプレッシャプレート38によって、回転軸方向への押圧を受けて圧接される。圧接された主動側クラッチプレート30と従動側クラッチプレート31の間に働く摩擦力によって、クラッチハウジング32の回転がスリーブハブ35に伝達される。この伝達状態では、クランクシャフトが回転すると、プライマリドリブンギヤ23及びクラッチハウジング32からスリーブハブ35を経由してカウンタシャフト20に回転が伝達される。
プレッシャプレート38は、スリーブハブ35の右端側を覆う蓋状の部品である。プレッシャプレート38の半径方向の中央には、回転軸方向へ貫通する略円形の孔部38aが形成されており、孔部38aの内側にレリーズベアリング39が設けられている。図3及び図4に示すように、レリーズベアリング39は、半径方向の外側と内側に位置する同心状の外輪39aと内輪39bの間に、複数の球体39cを保持した構造の深溝玉軸受(ボールベアリング)である。外輪39aと内輪39bの対向部分に回転方向に沿って軌道面が形成され、球体39cは、図示を省略する保持器を介して転動可能に保持された状態で軌道面に接触している。レリーズベアリング39は回転軸方向の両端が開放された開放型の軸受であり、外輪39a及び内輪39bの一方(左側)の端面によって軸受端部39dが形成され、外輪39a及び内輪39bの他方(右側)の端面によって他方の軸受端部39eが形成されている。
図2及び図5に示すように、スリーブハブ35は、カウンタシャフト20の周囲に、回転軸方向に突出する円筒状のボス35aを複数有する。図2に示すように、プレッシャプレート38は各ボス35aを囲む筒状部38bを有し、ボス35aの内部に螺合するボルト28によって、ボス35aの先端にバネ受け29が固定される。ボス35aと筒状部38bの間の筒状の空間内に、圧縮バネであるクラッチスプリング37が挿入される。クラッチスプリング37は、バネ受け29と筒状部38bの端部との間で回転軸方向に圧縮されて、プレッシャプレート38を図2の左方へ向けて付勢する。
主動側クラッチプレート30と従動側クラッチプレート31の圧接を解除する位置へプレッシャプレート38を移動させる操作部材として、プルピース40を有している。プルピース40は、概ね軸形状の部材であり、カウンタシャフト20の右端部分に取り付けられている。
プルピース40は、カウンタシャフト20の軸方向孔50内に挿入される挿入軸部40aと、挿入軸部40aの右側に位置する外部軸部40bと、回転軸方向で挿入軸部40aと外部軸部40bの間に位置する鍔形状部40cと、外部軸部40bから右方に突出する先端部40dと、を有している。挿入軸部40aと外部軸部40bはそれぞれ、カウンタシャフト20の回転軸を中心とする円筒状の外周面を有し、挿入軸部40aの外径よりも外部軸部40bの外径が大きい。また、鍔形状部40cの外径は外部軸部40bの外径よりも大きい。挿入軸部40aが軸方向孔50に挿入されることにより、プルピース40はカウンタシャフト20と同軸に支持される。軸方向孔50に対して挿入軸部40aは、回転軸方向へ移動可能に支持される。
プルピース40は、レリーズベアリング39を介して、プレッシャプレート38に対して回転自由に支持されている。より詳しくは、プレッシャプレート38の孔部38aの内側に外輪39aが支持され、内輪39bの内側にプルピース40の外部軸部40bが挿入されている(図3及び図4参照)。孔部38a内に嵌合した抜止リング41に対して、レリーズベアリング39の軸受端部39e(右側の端面)が当接する。レリーズベアリング39の軸受端部39d(左側の端面)に対して、プルピース40の鍔形状部40cの側面である接触面40eが当接する。鍔形状部40cは、半径方向で内輪39bと外輪39aの中間位置まで延びている。すなわち、鍔形状部40cの外径は、内輪39bの外径よりも大きく、外輪39aの内径よりも小さい。クラッチスプリング37の付勢力は、プレッシャプレート38及び抜止リング41を介してレリーズベアリング39に伝達され、軸受端部39dが接触面40eに接触する。
図1に示すように、概ね上下方向に延びるレリーズロッド42が、クラッチカバー14に対して回転可能に支持される。レリーズロッド42の下端付近には、プルピース40の先端部40dに係合可能なレリーズカム42aが形成されている(図2及び図3参照)。自動二輪車の乗員がクラッチレバーなどを介したクラッチ操作(クラッチを遮断させる操作)を行うと、レリーズロッド42の上端に接続するレリーズレバーに操作力が伝達されて、レリーズロッド42が軸回りに回転する。レリーズロッド42の回転によってレリーズカム42aがプルピース40の先端部40dに係合して、プルピース40を右方向に引き込む。すると、右方向に移動するプルピース40の接触面40e(鍔形状部40c)が軸受端部39dを押圧し、クラッチスプリング37の付勢力に抗してプレッシャプレート38及びレリーズベアリング39を右方向に移動させる。このプレッシャプレート38の移動によって、主動側クラッチプレート30と従動側クラッチプレート31の圧接が解除されて、クランクシャフトからカウンタシャフト20への回転伝達が行われなくなり、クラッチ装置17が遮断状態になる。乗員によるクラッチ操作を解除すると、レリーズカム42aがプルピース40を引き込む状態が解消され、クラッチスプリング37の付勢力によってプレッシャプレート38及びプルピース40が左方向に移動してクラッチ装置17が伝達状態に戻る。
エンジン1は、潤滑用のオイルを各部に供給する潤滑構造を有している。カウンタシャフト20に形成された軸方向孔50は潤滑構造の一部である。軸方向孔50はカウンタシャフト20を回転軸方向に貫通している。エンジン1内に形成されたオイル通路(不図示)を通ったオイルが、カウンタシャフト20の左端側から軸方向孔50に流入する。カウンタシャフト20にはさらに、軸方向孔50から半径方向外側に延びてカウンタシャフト20の外周面上に開口する複数のオイル通路51が形成されている。各オイル通路51を通って吐出されたオイルは、変速装置27におけるギヤ列25,26やプライマリドリブンギヤ23付近を潤滑する。
プルピース40の内部には、軸方向孔50に連通するオイル供給通路43が形成されている。オイル供給通路43は、挿入軸部40aの端部に開口して回転軸方向に延びる軸方向通路43aと、軸方向通路43aから半径方向外側に延びる径方向通路43bとを有する。径方向通路43bの先端には、半径方向外側に開口するオイル出口43cが形成されている。図3に示すように、プルピース40の挿入軸部40aをカウンタシャフト20の軸方向孔50内に挿入した状態で、軸方向通路43aが軸方向孔50に連通しており、軸方向孔50内を通るオイルがオイル供給通路43に流入する。図4に示すように、軸方向通路43a内を進んだオイルは、径方向通路43bを通ってオイル出口43cに向かい、オイル出口43cから吐出されたオイルがレリーズベアリング39付近を潤滑する。
レリーズベアリング39が回転軸方向に占めている範囲である軸方向範囲X1を図4に示した。軸方向範囲X1の一端が軸受端部39dであり、他端が軸受端部39eである。軸方向範囲X1のうち、レリーズベアリング39の回転軸方向の中心位置Cから軸受端部39dまでの範囲を第1範囲X1a(接触面40e寄りの範囲)、軸方向の中心位置Cから軸受端部39eまでの範囲を第2範囲X1b(抜止リング41寄りの範囲)とする。
図4に示すように、回転軸方向において、オイル供給通路43の径方向通路43b及びオイル出口43cは、その一部が軸方向範囲X1内に位置しており、特に第1範囲X1a内に位置している。より詳しくは、回転軸方向において、径方向通路43b及びオイル出口43cの一部が第1範囲X1aに含まれ、径方向通路43b及びオイル出口43cの残りの部分は軸受端部39d及び接触面40eよりも左方(軸方向範囲X1の外側)に位置し、オイル出口43cは回転軸方向で接触面40eを含む位置に開口している。つまり、オイル出口43cは、外部軸部40bと鍔形状部40cにまたがって形成されており、外部軸部40bの外周面上に開口して内輪39bの内周面に向く部分と、鍔形状部40cの接触面40e上に溝状に形成(開口)されて軸受端部39dに向く部分とを有する(図4及び図6参照)。
軸方向孔50からオイル供給通路43に進み、オイル出口43cから吐出されたオイルは、プルピース40がレリーズベアリング39に接する箇所へ直接的に供給される。オイル供給通路43は、軸方向孔50からオイル出口43cまで連続したオイル通路を形成しており、途中のオイルの飛散が生じないので、より効果的なオイル供給が可能である。従って、乗員によるクラッチ操作が頻繁に行われる場合でも、プルピース40とプレッシャプレート38(レリーズベアリング39)が接触する部分を充分に潤滑することができる。
内輪39bの内周面と外部軸部40bの外周面が接する箇所は、プレッシャプレート38及びレリーズベアリング39に対してプルピース40を回転自由(転動可能)に支持する役割を有している。軸受端部39dと接触面40eが接する箇所は、クラッチ遮断時の操作力をプルピース40からプレッシャプレート38に伝達する役割を有している。オイル供給通路43のオイル出口43cは、これら両方の箇所に向けて開口して直接的にオイルを供給する構成であり、効率的で確実な潤滑を実現できる。特に、オイル出口43cは回転軸方向で接触面40eを含む位置に開口しているので、レリーズベアリング39の内輪39bとプルピース40の外部軸部40bが半径方向に対向している部分だけでなく、軸受端部39dと接触面40eが回転軸方向に対向している部分にもオイルを直接的に供給できる。
図4に示すように、半径方向において、鍔形状部40cの外縁は、外輪39aと内輪39bの間の位置(内輪39bの外側)まで延びている。より詳しくは、鍔形状部40cの外縁は、レリーズベアリング39の球体39cの中心(球心)よりも僅かに半径方向外側に位置している。そして、オイル出口43cのうち鍔形状部40c上に形成された溝状部分は、軸受端部39dに対向すると共に、外輪39aと内輪39bの間で軸受端部39dが開放されている領域にも対向している。従って、オイル出口43cから出て鍔形状部40cの接触面40eを伝うオイルが、軸受端部39dの開放部分から外輪39aと内輪39bの間に入り、内輪39bの軌道面や球体39cの転動面にオイルが行き渡りやすくなる。特に、オイル出口43cの一部が接触面40e上に溝状に形成されているため、接触面40eの周りにオイルが広く行き渡りやすくなり、一層効果的なオイル供給が可能になる。このように、オイル出口43cから吐出されるオイルの一部を、レリーズベアリング39の内部の潤滑にも積極的に利用できる。
さらに、オイル出口43cに供給されるオイルは、プルピース40の外面を伝って先端部40dに達し、レリーズカム42aと先端部40dが接触する部分を潤滑する。また、図5に示すように、オイル出口43cはクラッチハウジング32やスリーブハブ35の内側に位置しており、オイル出口43cから吐出されるオイルは、半径方向の内側から主動側クラッチプレート30や従動側クラッチプレート31の付近にも供給される。従って、プルピース40に設けたオイル供給通路43は、レリーズベアリング39の付近に加えて、クラッチ装置17の全体的な潤滑性能の向上にも寄与する。
続いて、本発明を適用した変形例として、第2から第4の実施形態を説明する。これらの実施形態において、上述した第1の実施形態と共通する箇所については、図中の符号を同一にして説明を省略する。なお、第2から第4の実施形態では、部品の形状などが多少異なっていても、第1の実施形態と同様の役割を有する箇所については、同一の符号で示す場合がある。
図7は、プルピース40におけるオイル供給通路43の配置を異ならせた第2の実施形態を示している。第2の実施形態では、オイル供給通路43のうち、軸方向通路43aから半径方向外側に延びる径方向通路43dと、径方向通路43dの先端に位置して半径方向外側に開口するオイル出口43eとを、上述した第1の実施形態の径方向通路43b及びオイル出口43cよりも、回転軸方向でレリーズベアリング39の中心位置C寄りに配置している。径方向通路43d及びオイル出口43eは、全体がレリーズベアリング39の軸方向範囲X1内に位置しており、特に第1範囲X1a内に位置している。より詳しくは、回転軸方向において、径方向通路43d及びオイル出口43eは第1範囲X1aの端部寄りに位置しており、オイル出口43eは、プルピース40の外部軸部40bの外周面のうち、鍔形状部40cに近い位置に開口している。このオイル出口43eの開口位置を、図6に一点鎖線で仮想的に示した。
第2の実施形態では、内輪39bの内周面に対向する位置にオイル出口43eが形成されているため、オイル供給通路43を通ってオイル出口43eから吐出されたオイルによって、レリーズベアリング39付近を充分に潤滑することができる。また、オイル出口43eは、軸方向範囲X1(第1範囲X1a)のうち軸受端部39d及び接触面40e寄りの位置(接触面40eに向かって開口する位置)に設けられているため、オイル出口43eから吐出されたオイルは、軸受端部39dと接触面40eが接触する部分にも回りやすい。従って、第1の実施形態と同様に、プルピース40とプレッシャプレート38(レリーズベアリング39)が接触する部分を充分に潤滑することができる。
なお、第1及び第2の実施形態では、軸方向範囲X1のうち第1範囲X1aの端部寄り(接触面40e寄り)の位置にオイル出口43c,43eを配置しているが、本発明におけるオイル出口の位置はこれに限定されない。回転軸方向において、オイル出口の少なくとも一部が軸方向範囲X1に位置するという条件を満たせば、レリーズベアリング39に対する直接的なオイル供給を実現できる。従って、軸方向範囲X1のうち第2範囲X1bにオイル出口が位置するような構成も選択可能であり、当該構成にも有効性がある。
図8及び図9に示す第3の実施形態は、乗員がクラッチ操作を行ったときに、操作部材であるプッシュピース60を右方に向けて押し込んで、プレッシャプレート38に操作力を伝達するタイプのクラッチ装置に適用したものである。プレッシャプレート38は、半径方向内側に向けて突出する環状の受け部38cを有し、受け部38cの中央には、回転軸方向へ貫通する略円形の孔部38dが形成されている。
プッシュピース60は、概ね軸形状の部材であり、カウンタシャフト20の軸方向孔50内に挿入される挿入軸部60aと、挿入軸部60aの右側に位置する外部軸部60bと、回転軸方向で挿入軸部60aと外部軸部60bの間に位置する鍔形状部60cと、を有している。挿入軸部60aと外部軸部60bはカウンタシャフト20の回転軸を中心とする円筒状の外周面を有し、鍔形状部60cは挿入軸部60a及び外部軸部60bよりも径が大きい。挿入軸部60aが軸方向孔50に挿入されることにより、プッシュピース60はカウンタシャフト20と同軸に支持される。軸方向孔50に対して挿入軸部60aは、回転軸方向へ移動可能に支持される。外部軸部60bはプレッシャプレート38の孔部38dに挿入される。
回転軸方向で受け部38cと鍔形状部60cとの間にレリーズベアリング61が配置されている。レリーズベアリング61はスラスト針状ころ軸受(ニードルベアリング)であり、円板状の保持器61aに、複数の針状ころ61bを放射状に配して保持した構成である。保持器61aの中央には回転軸方向に貫通する円形の孔部61cが形成されており、孔部61cに外部軸部60bが挿入されて、半径方向でのレリーズベアリング61の位置が定まる。鍔形状部60cの外縁と保持器61aの外縁は半径方向で概ね同じ位置にある。
レリーズベアリング61の複数の針状ころ61bは、鍔形状部60cの側面である接触面60dと、受け部38cの側面に接して設けた接触板62との間に挟まれる。プレッシャプレート38に作用するクラッチスプリング37(図8及び図9には示されていない)の付勢力が接触板62を介してレリーズベアリング61に伝わり、この付勢力によって、針状ころ61bが接触面60dに接触する。
カウンタシャフト20の軸方向孔50の内部に操作ロッド63が挿入されている。操作ロッド63は、カウンタシャフト20に対して回転軸方向に移動可能である。操作ロッド63の端部に押圧部64が設けられ、挿入軸部60aの端部に設けた端部板65に対して押圧部64が接触する。自動二輪車の乗員によるクラッチ操作が行われると、不図示の伝達機構を介して、操作ロッド63が右方向に移動する。すると、操作ロッド63の押し込み力が押圧部64及び端部板65を介してプッシュピース60に伝わり、プッシュピース60が右方向に移動される。プッシュピース60の接触面60d(鍔形状部60c)からレリーズベアリング61及び接触板62を介してプレッシャプレート38に移動力が伝達され、クラッチスプリング37の付勢力に抗してプレッシャプレート38が右方向に移動される。その結果、主動側クラッチプレート30と従動側クラッチプレート31の圧接が解除される遮断状態になる。乗員によるクラッチ操作を解除すると、クラッチスプリング37の付勢力によってプレッシャプレート38及びプッシュピース60が左方向に移動して、クラッチ装置17が伝達状態に戻る。
プッシュピース60の内部には、オイル供給通路66が形成されている。オイル供給通路66は、挿入軸部60aの端部に開口して回転軸方向に延びる軸方向通路66aと、軸方向通路66aから半径方向外側に延びる径方向通路66bとを有する。径方向通路66bの先端には、半径方向外側に開口するオイル出口66cが形成されている。
図8に示すように、操作ロッド63の径は軸方向孔50の内径よりも小さく、軸方向孔50の内周面と操作ロッド63の外周面との間にはオイル通路が形成される。押圧部64と端部板65は操作ロッド63よりも外径が大きいが、軸方向孔50の内周面と、押圧部64や端部板65の外縁部分との間には、オイルの通過を許容する所定のクリアランスが設けられている。そのため、軸方向孔50内を進むオイルは、操作ロッド63の外側空間を通ってオイル供給通路66に流入する。オイル供給通路66の軸方向通路66a内を進んだオイルは、径方向通路66bを通ってオイル出口66cに向かい、オイル出口66cから吐出されたオイルがレリーズベアリング61付近を潤滑する。
レリーズベアリング61が回転軸方向に占めている範囲である軸方向範囲X2を図9に示した。針状ころ61bが接触面60dに接触する位置から、針状ころ61bが接触板62に接触する位置までが、レリーズベアリング61の軸方向範囲X2となる。図9に示すように、オイル供給通路66の径方向通路66b及びオイル出口66cは、略全体が軸方向範囲X2内に位置しており、オイル出口66cはレリーズベアリング61の内周部分(孔部61cの内縁)に向けて開口している。
軸方向孔50からオイル供給通路66を経てオイル出口66cに達したオイルは、プッシュピース60(接触面60d)がレリーズベアリング61に接する箇所に直接的に供給される。オイル供給通路66は、軸方向孔50からオイル出口66cまで連続したオイル通路を形成しており、途中のオイルの飛散が生じないので、より効果的なオイル供給が可能である。従って、乗員によるクラッチ操作が頻繁に行われる場合でも、プッシュピース60とプレッシャプレート38(レリーズベアリング61)が接触する部分を充分に潤滑することができる。
接触面60dと複数の針状ころ61bが接する箇所は、クラッチ遮断時の押し込み力をプッシュピース60からプレッシャプレート38に伝達すると共に、プレッシャプレート38及び接触板62に対してプッシュピース60を回転自由に支持する役割を有している。オイル供給通路66のオイル出口66cは、当該箇所へ直接的にオイルを供給する構成である。
レリーズベアリング61は回転軸方向に薄型であり、レリーズベアリング61の軸方向範囲X2は、上述したレリーズベアリング39の軸方向範囲X1に比べて狭い。そのため、オイル供給通路66のオイル出口66cから吐出したオイルは、レリーズベアリング61の孔部61cと外部軸部60bが半径方向に対向している部分だけでなく、針状ころ61bと接触面60dが回転軸方向に対向している部分にも効果的に供給される。
図9に示すように、半径方向において、鍔形状部60cの外縁は、レリーズベアリング61の保持器61a及び接触板62の外縁と略同じ位置にある。すなわち、鍔形状部60cの外縁は、複数の針状ころ61bよりも半径方向外側に広がって形成されている。これにより、オイル出口66cから吐出されたオイルを、鍔形状部60cの接触面60dに沿ってレリーズベアリング61の外縁付近まで導いて、レリーズベアリング61の半径方向全体(特に針状ころ61bの周り)を充分に潤滑することができる。
図10は、プッシュピース60におけるオイル供給通路66の構成を異ならせた第4の実施形態を示している。第4の実施形態では、オイル供給通路66の軸方向通路66dが挿入軸部60aの左方の端部に開口せずに閉塞されており、代わりに、軸方向通路66dから半径方向外側に伸びて挿入軸部60aの外周面に開口する複数の径方向通路66eが形成されている。径方向通路66eは、径方向通路66b及びオイル出口66cよりも左方に位置しており、軸方向孔50の内部で挿入軸部60aの外周面上に開口している。軸方向通路66dの右方の端部付近は蓋部67で塞がれている。
クラッチ遮断時には、閉塞されている(軸方向通路66dが開口していない)挿入軸部60aの端部に対して押圧部64が直接に当接して、操作ロッド63側からプッシュピース60への押圧力(図10中の右方向への移動力)を伝える。プッシュピース60の移動に応じてクラッチ装置17での回転伝達が遮断されるという動作は、第3の実施形態と同じである。
第4の実施形態では、カウンタシャフト20の軸方向孔50内で操作ロッド63の外側を通ったオイルは、軸方向孔50の内周面と押圧部64や挿入軸部60aとの間に設定されているクリアランス部分を通って進み、径方向通路66eの開口からオイル供給通路66内に入る。径方向通路66eからオイル供給通路66内に入ったオイルは、軸方向通路66dと径方向通路66bを経て、オイル出口66cからレリーズベアリング61付近に供給される。レリーズベアリング61に対する径方向通路66b及びオイル出口66cの位置関係は、上述した第3の実施形態(図8及び図9)と同様であり、第3の実施形態と同様の潤滑を実現できる。
以上の各実施形態に示した通り、回転軸方向で操作部材(プルピース40、プッシュピース60)の接触面40e,60dと接するレリーズベアリング39,61をプレッシャプレート38が備えているクラッチ装置17において、操作部材(プルピース40、プッシュピース60)の内部にオイル供給通路43,66を設け、オイル供給通路43,66のオイル出口43c,43e,66cを、レリーズベアリング39,61付近で半径方向外側に開口するように構成している。これにより、レリーズベアリング39,61の付近に直接にオイルを供給して、頻繁なクラッチ操作が行われる中でも操作部材(プルピース40、プッシュピース60)側とプレッシャプレート38(レリーズベアリング39,61)側の接触箇所を充分に潤滑して、クラッチ装置17の作動性を向上させることができる。
本発明は上記実施の形態や変形例に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態や変形例において、添付図面に図示されている構成や制御については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、クラッチ遮断の際にプレッシャプレートを移動させる操作部材は、乗員による操作力を機械的に伝達して操作するタイプ以外に、電気的制御などによって操作するタイプでも適用が可能である。また、自動二輪車のクラッチレバーのように独立した操作手段を介してクラッチ操作を行うタイプ以外に、シフトペダルの動作に連動してクラッチ遮断とシフト動作が順次行われるシフト連動タイプのクラッチ装置にも適用が可能である。
上記実施形態では、潤滑用のオイル供給対象として、レリーズベアリング39とレリーズベアリング61を例示したが、同様の用途(プレッシャプレートに設けられて操作部材が接触する)を有するものであれば、上記実施形態以外の種類のレリーズベアリングを適用することも可能である。
上記実施形態のオイル供給通路43,66は、カウンタシャフト20の回転軸方向に延びる軸方向通路43a,66aと、カウンタシャフト20の回転軸方向に対して垂直(放射方向)に延びる径方向通路43b,66bを有している。しかし、操作部材に設けるオイル供給通路の形状はこれに限定されるものではない。例えば、軸方向通路43a,66aからオイル出口43c,66cに向かうオイル通路が、カウンタシャフト20の回転軸方向に対して斜めに延びるような構成でもよい。
操作部材に設けるオイル出口の数や形状は、任意に選択することができる。例えば、図3から図10では、プルピース40やプッシュピース60に設けた1つのオイル出口43c,43e,66cを図示しているが、複数のオイル出口を設けてもよい。この場合、複数のオイル出口は、プルピース40やプッシュピース60の回転方向(周方向)に位置を異ならせてもよいし、回転軸方向に位置を異ならせてもよい。
本発明のクラッチ装置は、自動二輪車用には限定されず、四輪車用、その他の輸送機械用など、同様の構成を備えるクラッチ装置全般に適用が可能である。