以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のリポソームの製造方法は、密閉容器内において、二酸化炭素流体および水の存在下、リン脂質を含む原料に超音波を照射する工程を含む。
本発明において、「リポソーム」は、脂質二分子膜構造を有する閉鎖小胞である。水性環境下(例えば、水を含む環境下)、親水性の頭部(「親水部」)と疎水性の尾部(脂肪酸)(「疎水部」)とを有する脂質分子が集合し、各分子の疎水部を内側にかつ親水部を外側に向けた膜を形成する。この膜は、膜の両方の表面部が親水部であり、内側が疎水部となるように二分子の脂質から形成された層状物であり、これを「脂質二分子膜」という。脂質二分子膜は「脂質二重層」とも呼ばれる。本明細書では、リポソームの「層」は、脂質二分子からなる層を1つの層とし、すなわち、脂質二分子膜の数を層の数(「枚数」ともいう)とする。リポソームの層の数は特に限定されない。単層リポソームは、1つの脂質二分子膜(1枚膜)からなる層を有し、多重層リポソームは、複数の脂質二分子膜が重なって層形成されたものである。例えば、小さな1枚膜(単層)リポソーム(small unilamellar vesicles:SUV)、大きな1枚膜(単層)リポソーム(large unilamellar vesicles:LUV)、および多重層リポソーム(multilamellar vesicles:MLV)のいずれであってもよい。
リポソームの膜構成成分として、リン脂質が用いられ得る。リン脂質は、構造中に、疎水性の脂肪酸エステル部位(疎水部)と親水性のリン酸アニオン部位(親水部)とが存在し、両親媒性を示す。リン脂質は、グリセリンを骨格として結合された2つの脂肪酸鎖を有するグリセロリン脂質と、スフィンゴシンを骨格として結合された1つの脂肪酸鎖とスフィンゴシン由来の不飽和炭化水素鎖とを有するスフィンゴリン脂質とに分けられる。グリセロリン脂質およびスフィンゴリン脂質とも、2つの疎水性の炭化水素鎖および親水性頭部基を有し、リポソームの原料としていずれも用いられ得る。炭化水素鎖の炭素数は、例えば14~22個である。炭化水素鎖は、飽和または種々の不飽和度を有する。
リン脂質の具体例としては、ホスファチジルコリン(PC)(例えば、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルコリン、ミリストイルステアロイルホスファチジルコリン、パルミトイルステアロイルホスファチジルコリンなど);ホスファチジルグリセロール(PG)(例えば、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジリノレオイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルパルミトイルホスファチジルグリセロール、ミリストイルステアロイルホスファチジルグリセロール、パルミトイルステアロイルホスファチジルグリセロールなど);ホスファチジルエタノールアミン(PE)(例えば、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジリノレオイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ミリストイルステアロイルホスファチジエタノールアミン、パルミトイルステアロイルホスファチジルエタノールアミンなど);ホスファチジルセリン(PS);ホスファチジン酸(PA);ホスファチジルイノシトール(PI);スフィンゴミエリン(SM);カルジオリピン;卵黄由来レシチン;大豆由来レシチン;およびこれらのリゾ型または水素添加物、ならびにそれらの任意の2つ以上の組合せなどが挙げられる。
1つの実施形態では、リン脂質は、ホスファチジルコリンを含む。ホスファチジルコリンは、グリセリンに結合した2分子の長鎖脂肪酸を疎水基とし、別に結合するリン酸及びこれに結合するコリンを親水基として含むリン脂質であり、強力な界面活性作用を有する。ホスファチジルコリンは生体膜の主要成分であり、卵黄、大豆などから公知の方法で抽出することができる。ある実施形態では、リン脂質は、大豆由来レシチンを含む。大豆由来レシチンは、その主成分がホスファチジルコリンであり、そして少量のホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンおよびリゾホスファチジルコリンを含む。
また、本発明において用いられるリン脂質は、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーで修飾された誘導体化された脂質を含んでいてもよい。親水性ポリマーの具体例としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルトアミド、親水性ペプチドなどが挙げられる。
このような親水性ポリマー(例えば、PEG)での修飾による誘導体化は、当業者が通常用いる方法によってなされ得る。また、親水性ポリマー(例えば、PEG)で誘導体化されたリン脂質は、市販のものであってもよい(例えば、PEG誘導体化リン脂質として、例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)のPEG誘導体化物(DSPE-PEG)(商品名「DSPE-PEG2000」日油株式会社製)が挙げられる)。
リポソームの膜構成成分である脂質がポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーで誘導体化されることにより、リポソームの表面に水和層が形成され得、よって、補体との結合(オプソニン化)が抑制されて細網内皮系組織(RES)のマクロファージ(貪食細胞)による取り込みが抑制され、ステルス性(RESに捕捉されにくい性質)となり得る。また、ポリエチレングリコール(PEG)などの親水性ポリマーで誘導体化したリン脂質をリポソームの製造に用いることにより、非誘導体化リン脂質を用いた場合に多重層(例えば、二重層または三重層)になりやすいのに対し、リポソームの膜を構成するリン脂質が当該親水性ポリマー基により反発して多重層が形成されにくくなる。非誘導体化リン脂質と誘導体化リン脂質とを組み合わせて用いて、リポソームの大きさまたは層数を調整し得る。粒子径が比較的小さい(例えば、100nm~500nm程度)の単層リポソームの製造のためには、非誘導体化リン脂質(例えば、大豆由来レシチン)と誘導体化リン脂質(例えば、DSPE-PEG)とのモル比が、例えば、1:0.05~0.5、好ましくは1:0.1で組み合わされ得る。
本発明のリポソームの製造方法においては、リン脂質以外にも、リポソームの膜構成成分に通常用いられ得る脂質を原料として用いてもよい。このような脂質としては、例えば、グリセロ糖脂質およびスフィンゴ糖脂質などの糖脂質、コレステロールなどのステロールなどが挙げられる。
1つの実施形態では、原料は、リポソームへの内包を目的とする物質(「内包目的物質」)をさらに含む。内包目的物質としては、親水性物質(例えば、水溶性物質)、疎水性物質(例えば、脂溶性物質)および水不溶性物質のいずれもが用いられ得る。リポソームはその構造から親水部と疎水部に分かれ、この内部にそれぞれ親水性物質と疎水性物質を内包し得る。また、内包目的物質としては、例えば、薬剤、食品添加剤、栄養補助剤、化粧品などにおいて有効成分として使用される物質が挙げられる。内包目的物質は、化合物、混合物または組成物の形態であってもよい。
水は、製造されるリポソームの汚染を回避する等の観点から、好ましくは、精製されたものが用いられる。水は、当業者に公知の任意の適当な方法、例えば、逆浸透、脱イオン化、蒸留、ろ過、限外濾過などによって精製され得る。例えば、イオン交換水、純水または超純水が用いられる。
二酸化炭素は、自由に変形可能な連続体(すなわち、流体)の形態を有し、水との間で界面を形成して二酸化炭素-水の二相分離系を生じ得るものであればよい。このような二酸化炭素を「二酸化炭素流体」という。二酸化炭素流体は、有機溶剤の代替として機能し得、このため有機溶剤の使用を回避することができる。二酸化炭素流体は、超臨界状態のもの、亜臨界状態のものもしくは液体状態のもののいずれでもよく、これらの状態は、圧力または温度の制御によって変化され得る。本明細書中では、大気圧よりは高い圧力(すなわち、0.1MPaより高い)を「高圧」という。
超臨界状態とは、その物質の臨界点以上の温度および圧力下においた物質の状態をいい、気体の拡散性と、液体の溶解性を有する。超臨界二酸化炭素とは、臨界温度(Tc:31.1℃)以上でかつ臨界圧力(Pc:7.38MPa)以上の圧力である二酸化炭素をいう。超臨界流体は、臨界点および臨界圧力を超えた高密度の流体であり、好ましくは200kg/m3~900kg/m3の密度を有し、好ましくは10-5Pa・秒~10-4Pa・秒の粘度を有し、好ましくは10-8m2/秒~10-7m2/秒の拡散係数を有し、および/または好ましくは10-3W/m2・K~10-1W/m2・Kの熱伝導度を有する、流体である。
亜臨界状態とは、臨界点よりもやや低い近傍の領域の物質の状態をいう。亜臨界流体は、臨界温度より低い温度域で蒸気圧曲線より高い圧力で液体状態にある流体であり、好ましくは500kg/m3~1100kg/m3の密度を有し、好ましくは10-4Pa・秒~10-3Pa・秒の粘度を有し、好ましくは10-10m2/秒~10-9m2/秒の拡散係数を有し、および/または好ましくは0.08W/m・K~0.10W/m・Kの熱伝導度を有する流体である。
これらに対し、密閉容器内の流体における液体状態とは、大気圧(0.1MPa)よりは高い圧力であり、かつ蒸気圧曲線より高い圧力下、超臨界または亜臨界よりも低い温度での液体状態をいう。
超臨界状態、亜臨界状態、もしくは液体状態は、温度および圧力の制御によって変更され得るので、本発明の製造方法の過程において、密閉容器内の流体は、超臨界状態、亜臨界状態、もしくは液体状態になり得る。したがって、例えば、本明細書においては、「超臨界二酸化炭素を用いる」という場合、必ずしも亜臨界状態もしくは(特に高圧下の)液体状態を排除するわけではない。
本発明のリポソームの製造方法においては、密閉容器内において、二酸化炭素流体、水、およびリン脂質を含む原料が入れられた後、当該容器内に対し超音波照射が施され得る。密閉容器としては、オートクレーブ、耐圧セル、超臨界装置の高圧セルなどが挙げられる。
本発明のリポソームの製造方法は、密閉容器内において、二酸化炭素流体および水を含有するバッチ混合物の存在下でリン脂質などの両親媒性物質を含む原料に超音波を照射する工程を含む。「二酸化炭素流体および水を含有するバッチ混合物」とは、密閉容器内に二酸化炭素流体と水とをそれぞれ添加して共存状態においたもの(二酸化炭素流体と水とのバッチ混合を行ったもの)をいう。例えば、密閉容器に(二酸化炭素が添加されずに)リン脂質を含む原料および水が仕込まれた時点では、リン脂質は、水に溶解せず、水相の下部に固体または液体(例えば、粘度の高い液体)として沈殿し得る。次いでこの容器内に二酸化炭素流体が添加されると、水と二酸化炭素とが界面を形成して共存し、そして一部のリン脂質はこの界面上に並び得るが、残りのリン脂質はなお水相の下部に存在し得る。本発明の製造方法においては、超音波が、該密閉容器内で鉛直方向に指向するように取り付けられた超音波振動子の振動部分から、該原料および該バッチ混合物に対して直接的かつ一軸方向に照射される。リン脂質を含む原料および該バッチ混合物への超音波の照射は、例えば、リン脂質を含む原料および該バッチ混合物と超音波振動子の振動部分との間に、密閉容器等の他の部材が介在することなく、超音波振動子の振動部分に直接的に接したリン脂質を含む原料および該バッチ混合物、あるいはリン脂質とバッチ混合物との混合体に超音波を伝播することによって行われる。本発明の製造方法においては、超音波が、超音波振動子の振動部分から密閉容器内で一軸方向に照射される。このような照射によって、二酸化炭素流体相と水相との間の界面の面積を拡大して原料のリン脂質の溶解を増大し、さらに上記原料と二酸化炭素流体および水を含有するバッチ混合物に対して対流(例えば、密閉容器の蓋側から底部に向かってかつ当該底部から当該蓋側に向かっての対流)が促される。このような超音波照射によって、密閉容器内の水相内にリポソームが生成され得る。リン脂質を含む原料が内包目的物質を含む場合は、当該物質を内包するリポソームが生成され得る。
超音波照射は、例えば、15~400kHz、好ましくは19kHz~21kHzの周波数の超音波振動を引き起こす部品(例えば、密閉容器(例えば、超臨界装置の高圧セル)内部に組み込んだホーン型振動子(すなわち、ホーンを備えた超音波振動子:ホーンを備えた超音波振動子を「ホーン型超音波振動子」または「ホーン型振動子」という)のような超音波振動子)を作動させることによって行われ得る。例えば、ホーン型超音波振動子では、ソリッドステートパワーサプライ(電源)によって、例えば20kHzに増幅した電気的エネルギーが、コンバーターによって一軸方向(縦方向)の機械的振動に変換され得、この変換された機械的振動がホーンに伝達され得る(これを、超音波振動という)。超音波振動は圧力波となり、キャビテーションを引き起こし得る。キャビテーションとは、溶液(流体)中の局所的な圧力低下による無数の極めて小さな気泡の形成および減衰の連続をいう。超音波振動子(例えば、ホーン型超音波振動子)は密閉容器(例えば、高圧セル)に取り付けられるが、当該超音波振動子の振動部分(例えばホーン型超音波振動子のホーン)が当該密閉容器の内部に配置の内部に配置され、かつ当該超音波振動子の当該振動部分から密閉容器内で一軸方向に超音波を発生させるように装着され得る。超音波振動子の振動部分の密閉容器内部での配置は、例えば、超音波振動子の振動部分を密閉容器内に貫設することによって行われる。好ましくは、超音波振動子の振動部分は、密閉容器の鉛直方向に、より好ましくは密閉容器の上側(例えば蓋側)を貫通して当該容器の下側(例えば、底部)の方向に向かって貫設されている。超音波振動子(例えば、ホーン型超音波振動子)は、超音波振動子の当該振動部分が密閉容器内で鉛直方向に指向するように、当該密閉容器に取り付けられている。ホーン型超音波振動子は、ホーンの形状または種類に依存し得るが、例えば、当該ホーン型超音波振動子が鉛直方向を指向して配置された場合、ホーンの軸方向(鉛直方向)に沿って、一軸方向に振動する超音波振動を集中的に伝達させることができる(言い換えれば、超音波振動のエネルギーを集中させることができる)。ホーンは、ホーンの軸方向(鉛直方向)に沿って、一軸方向に振動する超音波振動の集中的な伝達(言い換えれば、超音波振動のエネルギーの集中)をより効果的に行うことができる形状を有することが好ましく、例えば、円柱状である。ホーンは、耐腐食性の材料で構成されていることが好ましく、例えば、チタン製である。ホーン型超音波振動子のホーンを鉛直方向に指向させることにより、超音波振動子で発せられた超音波振動を、一軸方向に振動させながら集中的に伝達させることができる。例えば、ランジュバン型の超音波振動子に円柱状のホーンを接続したホーン型超音波振動子を、そのホーンが密閉容器の内部に貫設されかつ当該ホーンが密閉容器内に鉛直方向に指向するように、密閉容器に取り付けることができる。
上記のように密閉容器に取り付けられた超音波振動子の振動部分によって、リン脂質を含む原料ならびに二酸化炭素流体および水を含有するバッチ混合物に対して直接的かつ一軸方向に超音波を照射することができる。好ましくは、超音波振動子(例えば、ホーン型超音波振動子)の振動部分(例えばホーン先端)は、密閉可能な容器内の略中央に鉛直方向に指向して取り付けられており、この振動部分から一軸方向に超音波を発する。このように超音波を発することによって、照射された二酸化炭素流体および水中において一軸方向の超音波振動波(縦波)を生じることができ、二酸化炭素と水との間の界面に一軸方向の振動エネルギーを大きく減衰させることなく到達させることができる。例えば、超音波振動子が高圧セルの蓋を貫通して高圧セルの内部に向かって該高圧セルの底面に対して略垂直である方向で取り付けられている場合は、超音波振動子の振動部分の先端から該高圧セルの底面に向かって一軸方向に超音波が発せられる。一軸方向に超音波(縦波)を生じさせて、二酸化炭素と水との間の界面に一軸方向の超音波振動を与えることができる。超音波照射前に静止状態にある界面が、上記のような超音波照射によって水相と二酸化炭素流体相とが交互に入り組んだ構造となり、界面の面積が増大し、リン脂質の溶解量を増大させることができる。さらに、密閉容器内の原料全体(すなわち、リン脂質を含む原料ならびに二酸化炭素流体および水を含有するバッチ混合物)に、対流を促すことができる。このように超音波を照射することにより、密閉容器内で二酸化炭素流体相と水相との界面の面積の増大ならびに原料およびバッチ混合物の対流を生じる強力な撹拌作用が生じ、二酸化炭素および水の界面でのミクロ相分離が誘発され得る。
超音波の周波数は、例えば、15kHz~25kHz、好ましくは19kHz~21kHzであり、上記範囲内であることにより、リポソームの生成効率をより向上し得る。超音波照射は、単回または適切なインターバルを空けて多数回行われ得、例えば、1回または2回~10回、好ましくは3回~8回であり、上記範囲内であることにより、リポソームの生成効率をより向上し得る。周波数または照射回数に依存し得るが、照射1回あたりの超音波照射時間は、例えば、10秒間~50秒間、好ましくは、20秒間~30秒間であり、上記範囲内であることにより、リポソームの生成効率をより向上し得る。
超音波照射は、密閉容器内に二酸化炭素流体が存在し得る温度および圧力に保った状態で行われ得る。上記圧力は、常圧よりも高い圧力下であり、例えば、5MPa~8MPa、好ましくは、6MPa~7MPaであり、上記範囲内であることにより、リン脂質の溶解をより効率的なものとし、リポソームの生成効率をより向上し得る。上記温度は、例えば、10℃~70℃、好ましくは、30℃~50℃であり、上記範囲内であることにより、リン脂質の溶解をより効率的なものとし、リポソームの生成効率をより向上し得る。
容器内へのリン脂質の仕込み量は、例えば、リン脂質の種類、製造されるリポソームの粒子径、製造量に依存して適宜決定され得る。容器内への水の仕込み量は、容器内の高圧流体二酸化炭素との間で水-二酸化炭素二相系を生じかつ生成されたリポソームを含み得る量である限り限定されないが、その容器の容積に対して、例えば、10%(w/v)~40%(w/v)である。内包目的物質の仕込み量は、例えば、目的とする内包物質量に依存して適宜決定され得る。
超音波照射を行ってリポソームが生成された後、容器内を減圧することにより、高圧の二酸化炭素が容器から排気され、リポソームは、容器内に残る水相中に分散して残る。このリポソームを大気圧下で、水相の液体と共に容易に取り出すことができる。
本発明のリポソームの製造方法は、例えば、原料を仕込む容器;二酸化炭素流体を容器に供給する手段;容器内に超音波を照射する手段;および二酸化炭素流体を容器から排出および回収する手段を備えるように設計された装置によって行われ得る。例えば、従来の超臨界技術において用いられる装置を、応用し得る。リポソームの製造のために、以下、このような装置の具体例を説明する。
例えば、図1に示す装置100は、二酸化炭素を高圧に供するための昇圧部110、密閉可能な容器内でリポソームの原料に超音波照射を行うリポソーム生成部130、および密閉可能な容器(以下「高圧セル」ともいう)138から二酸化炭素を除去し回収する回収部160で構成され、昇圧部110とリポソーム生成部130とはストップバルブ131を境にして、そしてリポソーム生成部130と回収部160とはストップバルブ161を境にして区切られ得る。
昇圧部110において、液体二酸化炭素の昇圧用ポンプ120によって、二酸化炭素の昇圧がなされ得る。この昇圧用ポンプ120へ二酸化炭素を供給する二酸化炭素ボンベ112が備えられる。液体二酸化炭素の供給源として、液体二酸化炭素が充填されたサイフォン付きのボンベが使用され得る。
二酸化炭素ボンベ112と昇圧用ポンプ120との間には、乾燥剤が充填された乾燥管114が設けられている。二酸化炭素ボンベ112からの液体二酸化炭素がこの乾燥管120を通過することにより、液体二酸化炭素中の水分が除去される。
乾燥管114の下流に冷却ユニット116を備える。冷却ユニット120内には、例えば、エチレングリコールが充填されており、このエチレングリコールが約260Kに冷却されるようにされている。上記の乾燥管114の通過中に乾燥剤によって水分が除去された液体二酸化炭素は、冷却ユニット116のエチレングリコールによって冷却され、昇圧用ポンプ5に供給される。
また、冷却ユニット116と昇圧用ポンプ120との間には、フィルター118が設けられている。フィルター118によって、ゴミなどの不純物を除去し、昇圧用ポンプ120内に不純物が混入するのが防止され得る。
フィルター118を通過した二酸化炭素が昇圧用ポンプ120に供給される。昇圧用ポンプ120のヘッド部分には、液体二酸化炭素の気化を防ぐために冷却器が装着され得る(図示せず)。
昇圧部110には、圧力調節弁121が設けられている。圧力調節弁121によって、昇圧部110およびリポソーム生成部130の系内の圧力を任意の圧力に設定し得る。
昇圧部110には、圧力計122が設けられている。圧力計122によって昇圧部の系内の圧力を測定し得る。圧力計122には、上限接点出力端子が付いており、指定圧力で、昇圧用ポンプ120の電源を切るように設定され得る。
昇圧部110とリポソーム生成部130との間に、ストップバルブ131が配置されている。ストップバルブ131によってリポソーム生成部への二酸化炭素の供給を調節し得る。
また、昇圧部110とリポソーム生成部130との間には、安全性を確保するために、安全弁124が設けられている。
リポソーム生成部130は、恒温水槽132内に設置される。恒温水槽132内は、温度制御器(図示せず)により、水温を±0.1℃で制御され得る。恒温水槽132内の温度を測定するために、測温部144を備える。
恒温水槽132内に密閉可能な容器(高圧セル)138が設置される。高圧セル138は、密閉可能な蓋体138aと容器部分138bとを備え、耐熱性および耐圧性であることが好ましい。高圧セル138内で、二酸化炭素流体および水の存在下、仕込まれたリポソーム原料への超音波照射が行われる。高圧セル138の内部に、例えば、ホーン型超音波振動子140が備え付けられ得る。図1に示す装置では、ホーン型超音波振動子140は、高圧セル138内部に位置するホーンの内側にランジュバン型超音波振動子のような超音波振動子が組み込まれて接続されたものである。ホーン型超音波振動子140の備え付けは、例えば、ホーン型超音波振動子140の振動部分(ホーンの先端)141が高圧セル138内に貫設することにより行われる。ホーン型超音波振動子の振動部分(ホーンの先端)は、密閉可能な容器(例えば、高圧セル)138の内部に配置され、かつ当該超音波振動子の当該振動部分から密閉容器内で一軸方向に超音波を発生させるように装着され得る。例えば、ホーン型超音波振動子140の振動部分(ホーンの先端)を密閉可能な容器(例えば、高圧セル)138内に(好ましくは、該密閉可能な容器を鉛直方向に、より好ましくは該密閉可能な容器138の上側(例えば蓋体138a側)を貫通して当該容器の下側(例えば、容器部分138bの底部)の方向に)貫設することにより、当該振動部分を密閉可能な容器の内部に配置することができる。この一実施形態として、ホーン型超音波振動子140が高圧セル138の蓋体138aを貫通して取り付けられ、この蓋体138aを閉じて高圧セル138を密閉した場合に、ホーン型超音波振動子の振動部分が高圧セル138内部に配置される。ホーン型超音波振動子は、当該超音波振動子の振動部分が密閉容器内で鉛直方向に指向して配置されているように、当該密閉容器に取り付けられている。図1に示す装置においては、ホーン型超音波振動子140は、ホーン型超音波振動子140の振動部分(ホーンの先端)141が密閉可能な容器(高圧セル)138内で鉛直方向に指向するように取り付けられている。ホーン型超音波振動子140は、例えば、高圧セル138の蓋のセル内部側で圧力止めパッキン(例えば、Oリングのようなゴムパッキン)にて超音波振動子を当該蓋の面に対して垂直方向に固定し、かつこのホーン型超音波振動子140が備えるホーン(例えば円柱状ホーン)の振動部分141を高圧セル138内で鉛直方向に指向させることにより、当該振動部分141が高圧容器の内部に配置され、そして当該超音波振動子140の当該振動部分141から該高圧セル138内で一軸方向に超音波を発生させるように装着することができる。超音波振動電源142によって、例えば20kHzに増幅した電気的エネルギーが、コンバーター(図示せず)によって一軸方向の機械的振動に変換され、この変換された機械的振動がホーン型超音波振動子140の振動部分(ホーンの先端)141に伝達される(超音波振動)。ホーン型超音波振動子140の振動部分(ホーンの先端)141より発生した超音波振動は圧力波となり、高圧セル138内部の仕込み原料に照射し得る。
図2は、図1に示す製造装置を用いた、超音波振動子による密閉可能な容器(高圧セル)内の二酸化炭素流体および水を含有するバッチ混合物ならびにリン脂質を含む原料への超音波照射を示す模式図である。高圧セル138内には、二酸化炭素流体相202、水相204、ならびにリン脂質を含む原料206が含まれている。超音波照射前では、図2の(A)に示すように、二酸化炭素流体相202と水相204とは界面208を形成して二相に分離して高圧セル内で共存し、この時点では、リン脂質を含む原料206のごく一部が水相204内で界面上に並ぶように存在し、溶解し得ない大部分のリン脂質を含む原料206は、水相204の底部にたまっている。本発明の製造装置では、例えば、ホーン型超音波振動子140の振動部分(ホーンの先端)141が、密閉可能な容器(高圧セル)138内に、該密閉可能な容器の蓋体138a側を貫通して容器部分138bの底部)の方向に貫設されており、そしてこの超音波振動子140の振動部分141が、密閉可能な容器(高圧セル)138内の略中央に鉛直方向に指向して配置されている。この配置によって、振動部分のホーンは一軸方向に超音波(例えば、矢印210に示す方向に向かって縦波)を発することができる(図2の(B))。この超音波によって、図2の(A)に示すような界面208に対して一軸方向の振動エネルギーを与えることができ、高圧セル138内部の界面208が微小振動し、界面208が二酸化炭素流体相と水相とが入り組んだ構造となり、界面208の面積が拡大する。このような界面208の面積の拡大により、リン脂質の溶解量が増大する。本発明の製造装置で超音波照射を行うことにより、図2の(A)に示すような超音波照射前の界面208では水相204の底部にたまっていて溶解し得なかったリン脂質を、拡大した面積の界面208に溶解することができる。本発明の製造装置で超音波照射を行うことにより、さらに、図2の(B)に示すように、高圧セル138内部にて二酸化炭素流体および水を含有するバッチ混合物205の全体に対流212が促される。これに伴って、リン脂質を含む原料206もまた高圧セル138内を対流212と同様の方向に対流する。このように、本発明の製造装置で超音波照射を行うことにより、原料206のリン脂質が大量に溶解され、そして二酸化炭素および水の界面でのミクロ相分離が誘発されて、リポソームを高濃度で生成することができる。
なお、本発明の装置においては、密閉可能な容器(高圧セル)138内で一軸方向に超音波を発することができることから、ホーン型超音波振動子140の振動部分(例えばホーンの先端)141は、二酸化炭素流体202と水204との界面208の位置(言い換えれば、超音波振動子の軸方向における振動部分のホーンの先端141と界面208との間の距離(例えば、図3に示す距離D:界面208が振動部分(例えばホーンの先端)141よりも上にある場合を負(-)の値で示す)に関わらず、照射された二酸化炭素流体202および水204中において一軸方向に超音波振動波(縦波)を生じて二酸化炭素と水との間の界面に一軸方向の振動エネルギーを大きく減衰させることなく到達させることができ、効果的に対流を生じることができる。本発明の装置においては、超音波照射を反復して行う場合であっても、反復照射の間での密閉可能な容器(高圧セル)138内の二酸化炭素流体202および水204の液量の変化によって生じ得るこれらの界面208の位置の変動に関わらず、効果的に超音波を照射することができる。
ホーン型超音波振動子140の振動部分(例えばホーンの先端)141は超音波照射開始前では、静止した状態の界面208に対して近接していることが好ましく、距離Dは、例えば、-5cm~10cm、好ましくは、2cm~7cmである。距離Dがこのような範囲内にあることにより、二酸化炭素と水とで構成される界面208に対して超音波がより効果的に照射されて縦波を生じやすく、高圧セル138内に強力な撹拌力が生じやすくなる。
高圧セル138への二酸化炭素流体の供給は、以下のように行われ得る。ストップバルブ131から供給される液体二酸化炭素は、高圧セル138に供給されるまでに恒温水槽10内で流体とされ得る。ストップバルブ131から供給される液体二酸化炭素は、恒温水槽132内に設置したヒーター134、逆止弁136、およびストップバルブ161を介して高圧セル138内に導入される。ヒーター134は、液体二酸化炭素を加熱し、流体とし得る。逆止弁136は、流体の逆流を防止するために備えられる。ストップバルブ161は、高圧セル138への二酸化炭素流体の供給を調節し得る。
高圧セル138には圧力計146が備えられ、圧力計146は、高圧セル138内の圧力を測定し得る。
また、高圧セル138の下流側に安全弁148が設置され、安全弁148は、高圧セル138内の圧力上昇による爆発を防止し得る。
リポソーム生成部130において、超音波照射後、生成されたリポソームを高圧セル138から取り出す前に、高圧セル138内の圧力を圧力調節弁115によって減圧し、大気圧下に調整し得る。減圧後、二酸化炭素流体を高圧セル138外に排出する。
高圧セル138外に排出した二酸化炭素を気体として回収するために、恒温水槽132外に空気恒温槽168および170が備えられ、回収部160を構成する。回収部160は、空気恒温槽168および170内にトラップ172および174を備え、これらの中に、リポソーム生成部130から排出された二酸化炭素を気体として分離回収し得る。高圧セル138から空気恒温槽168の間には、恒温水槽132内に配置されるストップバルブ161が設けられ、リポソーム生成130と回収部160との境となる。回収部160には、恒温水槽132外の加熱管162、および加熱管162に接続された膨張弁164をさらに備える。減圧に伴う二酸化炭素によるドライアイスの発生を防ぐために、加熱管162は、ヒーター(図示せず)によって加温され得る。トラップ172および174の間にストップバルブ173が設けられ、流量計166がさらに設けられてもよい。
ストップバルブ161の開放により、二酸化炭素が気体として高圧セル138から排出され、加熱管162を通り、膨張弁164を通じてトラップ172に導入される。ストップバルブ173の開放により、二酸化炭素気体は、トラップ174に導入され、最終的に、流量計166を通じて装置外に排気される。
得られるリポソームは、リン脂質の種類、内包目的物質の種類(例えば、親水性物質か疎水性物質か)などに依存し得るが、例えば、0.1μm~2μm、好ましくは、0.1μm~0.7μm、より好ましくは、0.1μm~0.5μmの粒子径を有する。リポソームの粒子径(粒径)は、動的光散乱法にて測定され得る。単層リポソームは、粒子径が比較的小さいものとなり得、例えば、0.1μm~0.5μmである。多重層(例えば、二重層または三重層)リポソームでは、粒子径は、例えば0.2μm~1μmになり得る。
リポソームの粒子径の分布を所望の範囲内に揃え、かつ不純物の除去、滅菌などを行うために、濾過工程などを必要に応じてさらに設けてもよい。
さらに、リポソームを含む溶液を凍結乾燥してもよい。これにより、リポソームを使用までの間の保管に適した形態にし得る。
本発明の製造方法では、クロロホルムなどの有害有機溶媒を用いずに、水と二酸化炭素のみでリン脂質を溶解し、リポソームを生成することが可能となる。このようにして得られるリポソームは、有害な有機溶媒と接触していないことから、人体に対して用いても、残存有機溶媒が人体に混入する心配がない。このことから、人体に安全なリポソームとして応用が広がる。さらに、本発明は、水と二酸化炭素が超音波照射時に生成する極めて大きな界面をリポソーム生成場として、利用しているので、大量生産が可能となる。
本発明の製造方法で製造されたリポソームは、例えば、医薬品、食品、化粧品等の種々の分野において利用することができる。このようなリポソームは、注射剤、経皮吸収剤、経口投与剤、皮膚外用剤などに用いることができる。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(リポソーム製造装置)
本実施例においては、図1に示すリポソーム製造装置100を組み立てて用いた。
(実施例1:リポソームの製造)
本実施例では、リン脂質として、以下を使用した:
大豆由来レシチン(富士フィルム和光純薬株式会社製)、
水素添加大豆ホスファチジルコリン(COATSOME:日油株式会社製)、
ジミリストイルホスファチジルコリン(Anatrace:日油株式会社製)、
L-α-ホスファチジルコリンジパミルトイル(富士フィルム和光純薬株式会社製)、
L-α-ホスファチジルDL-グリセロール(富士フィルム和光純薬株式会社製)。
本実施例のリポソーム製造手順を以下に説明する。まず、リポソーム製造装置100における容積150mLの高圧セル138内に超純水およびリン脂質を仕込み、高圧セル138の蓋138aを閉じてセル138内を密閉状態とした。次いで、恒温水槽132の温度を所定温度に設定した状態でセル138内に、二酸化炭素ボンベ112から二酸化炭素89g(ρCO2=0.742)を送液し、セル138内を高圧状態(6.8MPa)とした。その後、ホーン型超音波振動子(ランジュバン型の超音波振動子にチタン製円柱状ホーンが鉛直方向を指向して接続されている)140のホーン先端141から20kHz(30%振幅:18.3μm)超音波を照射した。セル138内でリポソーム粒子が生成された後、減圧操作を行い、セル138から粒子を溶液とともに回収した。
上記手順を、水量25mL、リン脂質量1mM、温度25℃、超音波照射回数5回(25秒/回)で行った。超音波照射の開始前、二酸化炭素と水との間で生じた界面とホーン先端との間の距離D(図3)は、0.5cmであった。得られたリポソーム形状を確認した。粒子の形態を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、溶液中の粒子径をレーザー解析型粒度分布測定装置(MICROTRAC-UPA150:日機装社製)で測定した。
図4~図8に、用いた異なるリン脂質について、TEM画像(左)および粒度分布測定による粒子径確認結果(右)をそれぞれ示す:
図4:大豆由来レシチン;
図5:水素添加大豆ホスファチジルコリン;
図6:ジミリストイルホスファチジルコリン;
図7:L-α-ホスファチジルコリンジパミルトイル:および
図8:L-α-ホスファチジルDL-グリセロール。
粒度分布測定によれば、図4における体積平均径は0.1590μm、図5における体積平均径は0.1533μm、図6における体積平均径は0.1858μm、図7における体積平均径は0.2055μm、図8における体積平均径は0.2082μmであった。このように、これらの粒子径は全て文献値(例えば、0.1μm~2μm)の範囲であり、使用した全てのリン脂質においてリポソームが生成されていることが確認できた。なお、粒子径結果とTEM画像を比較するとTEM画像の方が粒子径が大きいように見えるが、これはTEM観察用の試料を作製する際、乾燥工程を含むため、そのときにリポソームが薄膜状になってしまったためである。
(比較例1)
実施例1で使用したのと同じ大豆由来レシチンを有機溶剤(クロロホルム:メタノール=2:1(体積比))に完全に溶解させて、0.025g/10mL(クロロホルム:メタノール=2:1(体積比))リポソーム原料溶液を調製した。ロータリーエバポレーターを用い、減圧乾燥して有機溶剤を完全に留去し、なす型フラスコの底面に脂質薄膜を生成させた。60℃に設定した恒温槽中になす型フラスコの底を付けてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を10mL加えて、よくなじませた。次いで、ボルテックスの機械的振動により脂質薄膜をはがし、リポソームを分散させた。溶液中の粒子径を実施例1と同様に測定した。
図9は、実施例1の大豆由来レシチンを使用して製造したリポソームの粒子径測定結果(右)と、比較例1で製造したリポソームの粒子径測定結果(左)とを示す。
比較例1で製造したリポソームの体積平均径が0.1748μmであるのに対し、実施例1の大豆由来レシチンを使用して製造したリポソームの体積平均径は0.1590μmであり、これらのリポソーム粒子径に差は見られなかった。
したがって、実施例1によれば、有機溶媒を溶剤として用いなくとも、所望の大きさ(例えば、0.1μm~2μm)のリポソームが製造され得ることが分かった。
(実施例1-2:種々の操作因子によるリポソーム生成量および平均粒子径の影響)
実施例1の手順にてリポソームを製造する際の操作因子によって、リポソーム生成量およびリポソーム平均粒子径が変化するかどうかを確認した。操作因子としては、温度、水量、リン脂質量、超音波照射時間の4つの因子について確認した。操作因子以外の条件は、水量25mL、リン脂質量1mM、温度25℃、超音波照射回数5回として実験を行い、リン脂質としては大豆由来レシチンを使用した。
表1~表4に実施条件を、図10~図13に操作因子とリポソーム生成量(左縦軸)およびリポソーム平均粒子径(右縦軸)の関係性をそれぞれ示す。図10~図13において、丸および実線は、リポソーム生成量を表し、そして三角および破線は、リポソーム平均粒子径を表す。
図10は、温度依存の場合の実施条件での結果、すなわち温度とリポソーム生成量(左縦軸)およびリポソーム平均粒子径(右縦軸)の関係性を示すグラフである。
図11は、水量依存の場合の実施条件での結果、すなわち水量とリポソーム生成量(左縦軸)およびリポソーム平均粒子径(右縦軸)の関係性を示すグラフである。
図12は、リン脂質量依存の場合の実施条件での結果、すなわちリン脂質量とリポソーム生成量(左縦軸)およびリポソーム平均粒子径(右縦軸)の関係性を示すグラフである。
図13は、超音波照射時間依存の場合の実施条件での結果、すなわち超音波照射時間とリポソーム生成量(左縦軸)およびリポソーム平均粒子径(右縦軸)の関係性を示すグラフである。
表1および図10から、操作温度が増加すると、リポソームの平均粒子径に大きな違いは見られないが、リポソーム生成量は増加していることが分かる。これは、温度増加が起こることにより水-液体二酸化炭素系へのリン脂質溶解量が増加し、その結果リポソームの粒子の数が増加したためであると考えられる。
表2および図11から、仕込み水量が増加しても、リポソームの平均粒子径およびリポソーム生成量に大きな違いは見られないことが分かる。これは、リン脂質は水に不溶であり、水量が増加しても水-液体二酸化炭素系への溶解量が変わらないためであると思われる。
表3および図12から、仕込みリン脂質量が増加すると、リポソームの平均粒子径が若干増加し、さらにリポソーム生成量は大きく増加していることが分かる。これは、仕込みリン脂質量が増加すると、単位リポソームの粒子径が増加し、その結果単位リポソーム重量が増加し、全体のリポソーム重量が増加したためであると思われる。
表4および図13から、超音波照射時間が増加すると、リポソームの平均粒子径およびリポソームの平均粒子径が減少傾向にあることが分かる。これは、超音波照射時間が増加することによりセル内で生成したリポソームおよびミセル構造が破壊され、リポソーム量が減少したためであると思われる。平均粒子径については、超音波照射時間が増加することにより生成したリポソームが崩壊し、その後再形成することにより、より凝集したものになったためであると考えられる。
(実施例2:薬剤内包リポソームの製造)
本実施例では、リン脂質として、実施例1と同様の大豆由来レシチンを使用し、そしてリポソームの内包目的物質として、以下の薬剤物質を使用した:
クロモグリク酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)、
L-システイン(富士フィルム和光純薬株式会社製)、
L(+)-アスコルビン酸(富士フィルム和光純薬株式会社製)および
ロラタジン(LKT Laboratories製)をそれぞれ使用した。
本実施例のリポソーム製造手順を以下に説明する。まず、リポソーム製造装置100における容積150mLの高圧セル138内に超純水、リン脂質および薬剤を仕込み、高圧セル138の蓋を閉じてセル138内を密閉状態とした。次いで、恒温水槽132の温度を所定温度に設定した状態でセル138内に、二酸化炭素ボンベ112から二酸化炭素89g(ρCO2=0.742)を送液し、セル138内を高圧状態(6.8MPa)とした。その後、超音波振動子(ホーン)140から20kHz(30%)超音波を照射した。セル138内でリポソーム粒子が生成された後、減圧操作を行い、セル138から粒子を溶液とともに回収した。溶液中の粒子径を実施例1と同様に測定した。
上記手順を、水量25mL、リン脂質量1mM、薬剤濃度10mM、温度25℃、超音波照射回数5回で行った。
リポソーム内の薬剤内包確認に関して、紫外光(Ultraviolet:UV)検出器による薬剤内包率の算出、およびフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR 470-Plus:日本分光株式会社製)を用いた全反射測定法(Attenuated Total Reflection:ATR法)による定性アッセイを行った。
UV検出器による薬剤内包率の算出について、以下のように行った。調製した薬剤内包リポソーム溶液の、リポソーム内以外の薬剤物質量をnout、仕込み薬剤物質量をntotalとすると、薬剤内包率はntotal-nout/ntotal×100[%]として表される。調製した薬剤内包リポソーム溶液から0.1μmフィルターを用いてリポソームを除去し、リポソーム内以外の薬剤物質量noutをUV検出器により算出した。UV検出器において測定した吸光度を以下に示すランベルト・ベールの式に当てはめて用いて、noutを算出した。
(上記式中、
Abs:吸光度[-](Abs=-log(透過光強度/入射光強度)
ε:モル吸光係数[L/mol・cm]
c:モル濃度[mol/L]
l:光路長[cm]=1.3cm)
まず、UV検出器による各薬剤の薬剤内包率算出結果は、下記の通りであった。
クロモグリク酸ナトリウム:
検量線の結果よりε=9.32×103L/mol・cm、
Mw=512.33g/mol、
極大吸収波長=325nmであり、
薬剤内包率を算出すると、
薬剤量=0.1276g、水量=25mL、Abs=0.7708より、(100倍希釈)
ntotal=2.49×10-4mol、nout=1.69×10-4molであり、薬剤内包率=36%であった。
L(+)-アスコルビン酸:
検量線の結果よりε=9.02×103L/mol・cm、
Mw=176.12g/mol、
極大吸収波長=265nmであり、
薬剤内包率を算出すると、
薬剤量=0.1068g、水量=25mL、Abs=1.4337より、(100倍希釈)
ntotal=5.0×10-4mol、nout=3.05×10-4molであり、薬剤内包率=38.9%であった。
ロラタジン:
検量線の結果よりε=5.63×103L/mol・cm、
Mw=382.88g/mol、
極大吸収波長=247.5nmであり、
薬剤内包率を算出すると、
薬剤量=0.1490g、水量=25mL、Abs=1.3400より、(100倍希釈)
ntotal=3.9×10-4mol、nout=0.458×10-4molであり、薬剤内包率=88.3%であった。
L-システインに関しては、極大吸収波長が小さすぎた為、溶媒(水)の吸収帯と重なり、UV測定が困難であった。
クロモグリク酸ナトリウムとアスコルビン酸は薬剤内包率が40%程度であり、ロラタジンは薬剤内包率が90%近くであった。これは、薬剤の極性に起因する、リポソーム内の封入される場所の違いと思われた。クロモグリク酸ナトリウムとアスコルビン酸は親水性薬剤であり、リポソーム内部の親水部に内包され得るのに対し、ロラタジンは疎水性薬剤であり、リポソーム膜の疎水部に内包され得る。この親水部よりも疎水部の方が容積が大きいため、疎水性薬剤の方が、親水性薬剤よりも多くの量にてリポソーム内に封入されたと考えられた。
また、クロモグリク酸ナトリウムを用いた場合の仕込み薬剤濃度と薬剤内包量との関係を調べた。図14は、クロモグリク酸ナトリウムを用いた場合の仕込み薬剤濃度に対する薬剤内包率(左縦軸)およびリポソーム内薬剤物質量(右縦軸)を示すグラフである。図14において、菱形は、薬剤内包率を表し、そして三角は、リポソーム内薬剤物質量を表す。
図14から、クロモグリク酸ナトリウムを用いた場合、仕込み薬剤濃度が5mMを超えると、薬剤内包率は40%程度に収束されることが観察された。このことより、リポソーム内に封入できる溶液の体積量は一定であり、リポソーム内の薬剤物質量は仕込み薬剤濃度にのみ依存することが分かった。
次に、FT-IRを用いた薬剤の定性結果について示す。FT-IR測定結果を図15~図18に示す。図15は、クロモグリク酸ナトリウム内包リポソームの結果であり、図16は、アスコルビン酸内包リポソームの結果であり、図17は、L-システイン内包リポソームの結果であり、そして図18は、ロラタジン内包リポソームの結果である。図15~図18には、実施例2のリポソーム製造手順に従って製造した薬剤内包リポソーム(破線)と、内包する薬剤(点線)と、実施例1において大豆由来レシチンを用いて製造したレシチンリポソーム(実線)とのスペクトルを示す。
図15に示されるように、薬剤内包リポソームのスペクトルの1643nmおよび1735nm付近に、クロモグリク酸ナトリウムのベンゼン環伸縮振動およびエステル基伸縮振動が確認できた。これより、リポソーム内に薬剤が内包されていることが分かる。
図16に示されるように、薬剤内包リポソームのスペクトルの1322nmおよび3640nm付近に、アスコルビン酸のOH基の面内変角振動およびOH基による伸縮振動が確認できた。これより、リポソーム内に薬剤が内包されていることが分かる。
図17に示されるように、薬剤内包リポソームのスペクトルの1640nmおよび2960nm付近に、L-システインのベンゼン環伸縮振動およびエステル基伸縮振動が確認できた。これより、リポソーム内に薬剤が内包されていることが分かる。
図18に示されるように、薬剤内包リポソームのスペクトルの1600nmおよび2000nm付近に、ロラタジンのC=C伸縮振動が確認できた。これより、リポソーム内に薬剤が内包されていることが分かる。
以上のように、使用した薬剤物質のいずれにおいても、リポソーム内への内包を確認することができた。
(比較例2)
比較のため、以下の手順を用いる従来法のリピドフィルム法にて、リポソーム内への薬剤の封入を行った。有機溶剤(クロロホルム:メタノール=2:1(体積比))に大豆由来レシチン1mMを完全に溶解させて、0.025g/10mL(クロロホルム:メタノール=2:1(体積比))のリポソーム原料溶液を調製した。ロータリーエバポレーターを用い、減圧乾燥して有機溶剤を完全に留去し、なす型フラスコの底面に脂質薄膜を形成させた。60℃に設定した恒温槽中になす型フラスコの底を付けて10mLのPBSおよび薬剤(クロモグリク酸ナトリウム)10mMを加えて、よくなじませた。次いで、ボルテックスの機械的振動により脂質薄膜をはがし、リポソームを分散させた。
比較例2のリポソームについて、実施例2と同様にUV検出器による薬剤内包率の算出を行った。その結果、
薬剤量=0.1317g、水量=25mL、Abs=0.7746より、(100倍希釈)
ntotal=2.58×10-4mol、nout=1.60×10-4molであり、薬剤内包率=38%であった。
比較例2のリポソームの薬剤内包率(38%)と、実施例2のリポソーム(10mMクロモグリク酸ナトリウムを用いた場合)の薬剤内包率(36%)とを比較しても、その薬剤内包率に差は見られなかった。
したがって、実施例2によれば、有機溶剤を用いることなく、仕込み原料に超音波照射を行うという簡便な方法にて、従来通りの薬剤内包リポソームが製造され得ることが分かった。
また、リポソームに内包する薬剤と粒子径の関係を調べた。図19は、薬剤なし(「レシチンリポソーム」)、3種の親水性薬剤のクロモグリク酸ナトリウム(「クロモグリク酸ナトリウム内包リポソーム」)、アスコルビン酸(「アスコルビン酸内包リポソーム」)およびL-システイン(「L-システイン内包リポソーム」)、ならびに疎水性薬剤であるロラタジン(「L-システイン内包リポソーム」)のそれぞれの体積平均径を示すグラフである。
図19に示されるように、内包される薬剤が存在しない場合よりも、薬剤が内包されたリポソームにおいて全体的に粒子径の増加が見られた。親水性薬剤と疎水性薬剤とを比較すると、体積平均径は、疎水性薬剤内包の方が増加していることが分かる。これもまた、リポソーム内の封入される場所の違いにより生じると考えられた。
(実施例3:親水性ポリマー修飾リン脂質を用いたリポソームの製造)
リン脂質として、大豆由来レシチンとPEG修飾型リン脂質(DSPE-PEG2000:日油株式会社製)とが1:0.1のモル比で混合したもの、薬剤としてクロモグリク酸ナトリウムを用い、実施例2のリポソーム製造手順において、水量25mL、リン脂質量1mM、薬剤濃度10mM、温度25℃、超音波照射回数5回で行った。
実施例1と同様に、得られたリポソーム形状の確認のため、粒子の形態をTEMで観察し、溶液中の粒子径について粒度分布測定を行った。さらに、実施例2と同様に、リポソーム内の薬剤内包確認に関して、UV検出器による薬剤内包率の算出、およびFT-IRを用いたATR法による定性アッセイを行った。これらの結果を、実施例2のクロモグリク酸ナトリウム内包レシチンリポソームと対比して示す。
図20および図21に、それぞれのTEM画像(左)および粒度分布測定による粒子径確認結果(右)を示す(各図中、粒子径確認結果について、右縦軸は頻度(%)であり、粒子径毎の結果を棒で表し、左縦軸は累積(%)であり、その結果は各粒子径に対する線で表される):
図20:実施例2のクロモグリク酸ナトリウム内包レシチンリポソーム(レシチンリポソーム);
図21:実施例3のリポソーム(DSPE-PEG混合リポソーム)。
図20におけるレシチンリポソームの体積平均径は0.2428μmであり、図21におけるDSPE-PEG混合リポソームの体積平均径は0.1289μmであった。このように、これらの粒子径は全て文献値(例えば、0.1μm~2μm)の範囲であり、いずれのリン脂質においても、リポソームが生成されていることが確認できた。なお、粒子径結果とTEM画像を比較するとTEM画像の方が粒子径が大きいように見えるが、これはTEM観察用の試料を作製する際、乾燥工程を含むため、そのときにリポソームが薄膜状になってしまったためである。
レシチンリポソームと、DSPE-PEG混合リポソームの粒子径の違いについては、以下のように考えられた。通常のリン脂質のみで構成されたリポソームは多重層になりやすく、特に二重から三重までが確率的に起きやすいとされる。一方、DSPE-PEG2000が混合されていると、PEG基によりリン脂質が反発し、多重層が形成されにくくなる、このため、単層の0.1μm程度のリポソームが生成されるようになる。このことを考慮しても、リポソームの粒子径は文献の範囲内である。
まず、UV検出器による薬剤内包率算出結果を示す。DSPE-PEG混合リポソームについては、
薬剤量=0.1264g、水量=25mL、Abs=0.8278より、(100倍希釈)
ntotal=2.45×10-4mol、nout=1.71×10-4molであり、薬剤内包率=30%であった。
レシチンリポソームの薬剤内包率は36%で、DSPE-PEG混合リポソームの薬剤内包率は30%であり、いずれのリポソームも薬剤を内包できていることが確認できた。DSPE-PEG混合リポソームの内包率の方が若干低いが、これはDSPE-PEG混合リポソームは単層構造を形成しており、薬剤を内包できる体積が少ないためであると考えられた。
次に、FT-IRを用いた薬剤の定性結果について示す。DSPE-PEG混合リポソームのFT-IR測定結果を図22に示す。図22には、実施例3のDSPE-PEG混合リポソーム(破線)と、内包目的の薬剤(クロモグリク酸ナトリウム)(点線)と、実施例1において大豆由来レシチンとPEG修飾型リン脂質(DSPE-PEG2000:日油株式会社製)とが1:0.1のモル比で混合したものを用いて製造したDSPE-PEG混合リポソーム(実線)とのスペクトルを示す。
DSPE-PEG混合リポソームにおいても、図22の薬剤内包DSPE-PEG混合リポソームのスペクトルに示されるように、レシチンリポソーム(図15)と同様、1643nmおよび1735nm付近に、クロモグリク酸ナトリウムのベンゼン環伸縮振動およびエステル基伸縮振動が確認できた。これより、DSPE-PEG混合リポソーム内に薬剤が内包されていることが分かる。
(実施例3-2:マクロファージ貪食アッセイ)
細胞株から培養したマクロファージにリポソームを接触させることにより、貪食が起こるかどうかを確認した。
マクロファージによる貪食確認実験は以下のように行った。まずJ774マウスマクロファージ細胞株を10%ウシ胎児血清(FBS)を加えて培養し、緑色の蛍光標識としてファロイジンを加え、チャンバースライド(0.8cm2/ウェル、8ウェル)の1ウェル毎に細胞数にして3.3×104となるように400μL入れ、1日CO2インキュベータにて接着作業を行った。その後、赤色の蛍光染料ローダミンBを0.1mM/20μLかつ薬剤を1mM/20μLにて加えて調製したリポソームを凍結乾燥させ、PBS溶液3mLと共にチャンバースライドの1ウェルに20μL入れ、2時間CO2インキュベータにて接着作業を行った。こうして作製した試料を蛍光顕微鏡にて観察した。蛍光顕微鏡下では、緑の蛍光がマクロファージ、赤の蛍光がリポソームを示す。
蛍光顕微鏡による観察の結果、レシチンリポソーム(実施例2)では、緑のマクロファージの中に赤のリポソームが取り込まれており、マクロファージによるリポソームの貪食が確認された。このことにより、レシチンリポソーム(実施例2)の安全性を確認することができる。DSPE-PEG混合リポソーム(実施例3)では、緑のマクロファージの中に赤のリポソームが一切取り込まれていなかった。このように、リポソームの製造にPEG修飾型リン脂質を用いることにより、マクロファージからの貪食が抑制された。PEGで修飾されたリン脂質の使用によってステルスリポソームが生成され、これにより、マクロファージからの貪食が回避されたと考えられた。
(実施例4:水不溶性物質内包リポソームの製造)
リン脂質として、(i)大豆由来レシチンのみ、または(ii)大豆由来レシチンとPEG修飾型リン脂質(DSPE-PEG2000)とが1:0.1のモル比で混合したものを用い、そして内包目的物質の薬剤として塩素化亜鉛フタロシアニン0.01734gを用い、実施例2のリポソーム製造手順において、水量25mL、リン脂質量1mM、温度40℃、超音波照射回数5回で行った。
実施例1と同様に、得られたリポソーム形状の確認のため、粒子の形態をTEMで観察し、溶液中の粒子径について粒度分布測定を行った。対照として、塩素化亜鉛フタロシアニンについてもTEM観察および粒度分布測定を行った。さらに、リポソーム内の薬剤内包確認に関して、実施例2と同様のFT-IRを用いたATR法による定性アッセイを行った。
図23~25に、それぞれのTEM画像(左)および粒度分布測定による粒子径確認結果(右)を示す(各図中、粒子径確認結果について、右縦軸は頻度(%)であり、粒子径毎の結果を棒で表し、左縦軸は累積(%)であり、その結果は各粒子径に対する線で表される):
図23:塩素化亜鉛フタロシアニン;
図24:(i)大豆由来レシチンのみ(レシチンリポソーム);
図25:(ii)大豆由来レシチンとPEG修飾型リン脂質との混合物(DSPE-PEG混合リポソーム)。
図23のTEM画像に見られるように、塩素化亜鉛フタロシアニンは凝集しており、その凝集体の体積平均径は1.4544μmであった。しかし、TEM画像より単位塩素化亜鉛フタロシアニンの粒子径は約100nmであることが確認できる。
図24における体積平均径は0.2813μmであり、図25における体積平均径は0.3644μmであった。図23と比較すると体積平均径は小さくなっていた。超音波の照射によって、塩素化亜鉛フタロシアニンが分散し、体積平均径が小さくなったと確認できる。また、図24および図25のTEM画像よりリポソームが生成されていることが確認できる。したがって、超音波の照射によって、塩素化亜鉛フタロシアニンが分散し、そしてリポソームの生成が確認できた。なお、粒子径結果とTEM画像を比較するとTEM画像の方が粒子径が大きいように見えるが、これはTEM観察用の試料を作製する際、乾燥工程を含むため、そのときにリポソームが薄膜状になってしまったためである。
次に、FT-IRを用いた薬剤の定性結果について示す。FT-IR測定結果を図26および図27に示す。図26は、(i)レシチンリポソームの結果であり、図27は、(ii)DSPE-PEG混合リポソームの結果である。図26および図27には、実施例4の塩素化亜鉛フタロシアニン内包リポソーム(破線)と、内包する薬剤(塩素化亜鉛フタロシアニン)(点線)と、実施例1において大豆由来レシチン(図26)または大豆由来レシチンとPEG修飾型リン脂質(DSPE-PEG2000:日油株式会社製)とが1:0.1のモル比で混合したもの(図27)を用いて製造したリポソーム(実線)とのスペクトルを示す。
図26および図27よりそれぞれ1640nmでベンゼン環による伸縮振動が確認できた。レシチン、DSPE-PEGにはベンゼン環は存在せず、塩素化亜鉛フタロシアニンのみベンゼン環を持っている。よって、レシチンリポソームおよびDSPE-PEG混合リポソームは塩素化亜鉛フタロシアニンが内包されているということが確認できた。
(実施例5:リポソームの製造における超音波照射方法の検討)
超音波直接照射、超音波間接照射および超音波未照射の間で製造されたリポソームの濃度及び個数を対比し、リポソームの製造効率について検討した。
超音波直接照射については、リン脂質として大豆由来レシチンを採用し、リポソーム製造装置100を用いて実施例1の手順に従ってリポソームを製造した(なお、リン脂質1mM=0.03gであった)。超音波照射によりリポソーム粒子が生成された後、減圧操作を行い、セル11から粒子を溶液とともに回収した。
超音波間接照射については、リポソーム製造装置100のホーン型超音波振動子140に代えて、ランジュバン型振動子を備え付けた振動板を高圧セル138の底面の外部に取り付けた。容積150mLの高圧セル138内に超純水およびリン脂質(大豆由来レシチン)を仕込み、高圧セル138の蓋を閉じてセル138内を密閉状態とした。次いで、恒温水槽132の温度を所定温度に設定した状態でセル138内に、二酸化炭素ボンベ112から二酸化炭素89g(ρCO2=0.742)を送液し、セル138内を高圧状態(6.8MPa)とした。その後、ランジュバン型振動子から20kHz(30%振幅:18.3μm)超音波を照射した。セル138内でリポソーム粒子が生成された後、減圧操作を行い、セル138から粒子を溶液とともに回収した。
超音波未照射については、超音波照射を行わなかったこと以外は、超音波直接照射と同様に行った。リポソーム製造装置100における容積150mLの高圧セル138内に超純水およびリン脂質(大豆由来レシチン)を仕込み、高圧セル138の蓋を閉じてセル138内を密閉状態とした。次いで、恒温水槽132の温度を所定温度に設定した状態でセル138内に、二酸化炭素ボンベ112から二酸化炭素89g(ρCO2=0.742)を送液し、セル138内を高圧状態(6.8MPa)とした。1時間静置させた後、減圧操作を行い、セル138から粒子を溶液とともに回収した。
それぞれ回収したリポソーム含有溶液をUV検出器によってリポソーム濃度を測定したところ、超音波直接照射では0.711mg/mLであり、超音波間接照射では0.234mg/mLであり、超音波未照射では0.113mg/mLであった。この結果を図28に示す。さらにNanosightナノ粒子解析システム(富士フィルム和光純薬株式会社製)によって溶液1mL当たりのリポソーム粒子個数を測定したところ、超音波直接照射では1.50×1011個/mLであり、超音波間接照射では4.94×1010個/mLであり、超音波未照射では2.37×1010個/mLであった。この結果を図29に示す。
超音波直接照射では、超音波間接照射と比べても約3倍量のリポソームを得ることができた。また、本実施例の超音波直接照射で回収したリポソーム含有溶液のリポソーム濃度は、例えば、親水性薬剤内包リポソームを製造する際に望ましいリポソーム濃度を十分達成していたのに対し、超音波間接照射および未照射では当該望ましいリポソーム濃度に到底及ばなかった。
さらに仕込みリン脂質量に対するリポソーム生成率を、仕込みリン脂質量から未反応リン脂質量を差し引いたものを仕込みリン脂質量で除することによって求めた。超音波直接照射では、仕込みリン脂質量0.0303gに対し未反応リン脂質量は0.009gであり、リポソーム生成率は70.3%であった。超音波間接照射では、仕込みリン脂質量0.0307gに対し未反応リン脂質量は0.0145gであり、リポソーム生成率は52.7%であった。このように、リポソーム生成率においても超音波直接照射は、超音波間接照射を顕著に上回った。