以下、本発明の実施形態に使用する加熱装置と、当該加熱装置を使用した定着装置及び画像形成装置(レーザプリンタ)について図面を参照して説明する。レーザプリンタは画像形成装置の一例であり、当該画像形成装置はレーザプリンタに限定されないことは勿論である。すなわち、画像形成装置は複写機、ファクシミリ、プリンタ、印刷機、及びインクジェット記録装置のいずれか一つ、またはこれらの少なくとも2つ以上を組み合わせた複合機として構成することも可能である。
なお、各図中の同一または相当する部分には同一の符号を付し、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。また各構成部品の説明にある寸法、材質、形状、その相対配置などは例示であって、特に特定的な記載がない限りこの発明の範囲をそれらに限定する趣旨ではない。
以下の実施形態では「記録媒体」を「用紙」として説明するが、「記録媒体」は紙(用紙)に限定されない。「記録媒体」は紙(用紙)だけでなくOHPシートや布帛、金属シート、プラスチックフィルム、或いは炭素繊維にあらかじめ樹脂を含浸させたプリプレグシートなども含む。
現像剤やインクを付着させることができる媒体、記録紙、記録シートと称されるものも、すべて「記録媒体」に含まれる。また「用紙」には、普通紙以外に、厚紙、はがき、封筒、薄紙、塗工紙(コート紙やアート紙等)、トレーシングペーパ等も含まれる。
また、以下の説明で使用する「画像形成」とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与することも意味する。
(レーザプリンタの構成)
図1Aは、本発明実施形態で使用する加熱装置ないし定着装置300を備えた画像形成装置100の一実施形態としてのカラーレーザプリンタの構成を概略的に示す構成図である。また図1Bは当該カラーレーザプリンタの原理を単純化して図示する。
画像形成装置100は、画像形成手段としての4つのプロセスユニット1K、1Y、1M、1Cを備える。これらプロセスユニットは、カラー画像の色分解成分に対応するブラック(K)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)の各色の現像剤によって画像を形成する。
各プロセスユニット1K、1Y、1M、1Cは、互いに異なる色の未使用トナーを収容したトナーボトル6K、6Y、6M、6Cを有する以外は、同様の構成となっている。このため、1つのプロセスユニット1Kの構成を以下に説明し、他のプロセスユニット1Y、1M、1Cの説明を省略する。
プロセスユニット1Kは、像担持体2K(例えば感光体ドラム)と、ドラムクリーニング装置3Kと、除電装置を有している。プロセスユニット1Kはさらに、像担持体の表面を一様帯電する帯電手段としての帯電装置4Kと、像担持体上に形成された静電潜像の可視像処理を行う現像手段としての現像装置5K等を有している。そして、プロセスユニット1Kは、画像形成装置100の本体に対して着脱自在に装着され、消耗部品を同時に交換可能となっている。
露光器7は、この画像形成装置100に設置された各プロセスユニット1K、1Y、1M、1Cの上方に配設されている。そして、この露光器7は、画像情報に応じた書き込み走査、すなわち、画像データに基づいてレーザダイオードからレーザ光Lをミラー7aで反射して像担持体2Kに照射するように構成されている。
転写装置15は、この実施形態では各プロセスユニット1K、1Y、1M、1Cの下方に配設されている。この転写装置15は図1Bの転写手段TMに対応する。一次転写ローラ19K、19Y、19M、19Cは、各像担持体2K、2Y、2M、2Cに対向して中間転写ベルト16に当接して配置されている。
中間転写ベルト16は、各一次転写ローラ19K、19Y、19M、19C、駆動ローラ18、従動ローラ17に掛け渡された状態で循環走行するようになっている。二次転写ローラ20は、駆動ローラ18に対向し中間転写ベルト16に当接して配置されている。なお、像担持体2K、2Y、2M、2Cが各色の第1の像担持体とすれば、中間転写ベルト16はそれらの像を合成した第2の像担持体である。
ベルトクリーニング装置21は、中間転写ベルト16の走行方向において、二次転写ローラ20より下流側に設置されている。また、クリーニングバックアップローラが中間転写ベルト16に対してベルトクリーニング装置21と反対側に設置されている。
用紙Pを積載するトレイを有する用紙給送装置200は、画像形成装置100の下方に設置されている。この用紙給送装置200は記録媒体供給部を構成するもので、記録媒体としての多数枚の用紙Pを束状で収容可能であり、用紙Pの搬送手段としての給紙ローラ60やローラ対210と共にユニット化されている。
用紙給送装置200は用紙の補給等のために、画像形成装置100の本体に対して挿脱可能とされている。給紙ローラ60とローラ対210は用紙給送装置200の上方に配置され、用紙給送装置200の最上位の用紙Pを給紙路32に向けて搬送するようになっている。
分離搬送手段としてのレジストローラ対250は、二次転写ローラ20の搬送方向直近上流側に配置され、用紙給送装置200から給紙された用紙Pを一旦停止させることができる。この一旦停止により用紙Pの先端側に弛みが形成されて用紙Pの斜行(スキュー)が修正される。
レジストローラ対250の搬送方向直近上流側にはレジストセンサ31が配設され、このレジストセンサ31によって用紙先端部分の通過が検知されるようになっている。レジストセンサ31が用紙先端部分の通過を検知した後、所定時間が経過すると、当該用紙はレジストローラ対250に突き当てられて一旦停止する。
用紙給送装置200の下流端には、ローラ対210から右側に搬送された用紙を上方に向けて搬送するための搬送ローラ240が配設されている。図1Aに示すように、搬送ローラ240は用紙を上方のレジストローラ対250へ向けて搬送する。
ローラ対210は上下一対のローラで構成されている。当該ローラ対210はFRR分離方式またはFR分離方式とすることができる。FRR分離方式は、駆動軸によりトルクリミッタを介して反給紙方向に一定量のトルクを印加された分離ローラ(戻しローラ)を給送ローラに圧接させてローラ間のニップで用紙を分離する。FR分離方式は、トルクリミッタを介して固定軸に支持された分離ローラ(摩擦ローラ)を給送ローラに圧接させてローラ間のニップで用紙を分離する。
この実施形態ではローラ対210をFRR分離方式で構成している。すなわち、ローラ対210は、用紙をマシン内部に搬送する上側の給送ローラ220と、この給送ローラ220と逆方向にトルクリミッタを介して駆動軸により駆動力を与えられる下側の分離ローラ230で構成されている。
分離ローラ230は給送ローラ220に向けてバネ等の付勢手段で付勢されている。なお、前記給紙ローラ60は、給送ローラ220の駆動力をクラッチ手段を介して伝達することで図1Aで左回転するようになっている。
レジストローラ対250に突き当てられて先端部に弛みが形成された用紙Pは、中間転写ベルト16上に形成されたトナー像が好適に転写されるタイミングに合わせ、二次転写ローラ20と駆動ローラ18との二次転写ニップ(図1Bでは転写ニップN)に送り出される。そして、送り出された用紙Pは、二次転写ニップにおいて印加されたバイアスによって、中間転写ベルト16上に形成されたトナー像が所望の転写位置に高精度に静電的に転写されるようになっている。
転写後搬送路33は、二次転写ローラ20と駆動ローラ18の二次転写ニップの上方に配設されている。定着装置300は、転写後搬送路33の上端近傍に設置されている。定着装置300は、加熱装置を内包する定着ベルト310と、この定着ベルト310に対して所定の圧力で当接しながら回転する加圧部材としての加圧ローラ320を備えている。なお、定着装置300としては後述する図2B~図2Dのように他の構成も可能である。
定着後搬送路35は、定着装置300の上方に配設され、定着後搬送路35の上端で、排紙路36と反転搬送路41に分岐している。この分岐部に切り替え部材42が配置され、切り替え部材42はその揺動軸42aを軸として揺動するようになっている。また排紙路36の開口端近傍には排紙ローラ対37が配設されている。
反転搬送路41は、分岐部と反対側の他端で給紙路32に合流している。そして、反転搬送路41の途中には、反転搬送ローラ対43が配設されている。排紙トレイ44は、画像形成装置100の上部に、画像形成装置100の内側方向に凹形状を形成して、設置されている。
粉体収容器10(例えばトナー収容器)は、転写装置15と用紙給送装置200の間に配置されている。そして、粉体収容器10は、画像形成装置100の本体に対して着脱自在に装着されている。
本実施形態の画像形成装置100は、転写紙搬送の関係により、給紙ローラ60から二次転写ローラ20までの所定の距離が必要である。そして、この距離に生じたデッドスペースに粉体収容器10を設置し、レーザプリンタ全体の小型化を図っている。
転写カバー8は、用紙給送装置200の上部で、用紙給送装置200の引出方向正面に設置されている。そして、この転写カバー8を開くことで、画像形成装置100の内部を点検可能にしている。転写カバー8には、手差し給紙用の手差し給紙ローラ45、及び手差し給紙用の手差しトレイ46が設置されている。
(側面カバー)
図1Cは前記定着装置300の着脱方法を示す平面図である。画像形成装置100の定着装置300は、その寿命到来や故障その他のエラーなどによって交換される場合がある。
画像形成装置100の本体側面には、メンテナンス等のため、図1Cに示すように開閉可能な外装部材としての側面カバー101が設けられている。定着装置300を着脱する場合、この側面カバー101を開いた状態にして定着装置300を矢印方向(外側)にスライド移動する。
ユーザー自身で定着装置300を購入し交換する画像形成装置100の場合、一般的に定着装置300には新品検知機構が含まれる。この新品検知機構は、ユーザー自身で定着装置300を交換した際に、画像形成装置100側が定着装置300の新品状態を検知することで寿命カウンタをリセットし、自動的に画像形成装置100を継続して使用可能とする。
画像形成装置100の新品検知には、一般的に電流ヒューズや温度ヒューズが使用される。すなわち、交換部品が新品に交換された場合に、当該交換部品が新品であることを画像形成装置100側で検知するため、交換部品の内部に電流ヒューズまたは温度ヒューズを搭載する。
そして画像形成装置100の本体側で電流ヒューズまたは温度ヒューズの接続(未溶断)を検知すると、新品と認識して印字枚数のカウンタ(PMカウンタ)をリセットする。すなわち新品検知におけるPMカウンタ処理を実行する。
このPMカウンタ処理に続いて、電流ヒューズまたは温度ヒューズを通電・加熱にて溶断する。以後は交換部品のヒューズが溶断済で導通しないため画像形成装置100が当該交換部品を旧品として認識する。電流ヒューズや温度ヒューズを定着装置300に搭載することで、当該定着装置300が新品に交換されると、当該新品交換が画像形成装置100の本体側の新品検知作動で検知され、その後、後述の図6DのステップS15で調整用電力デューティの供給が自動的に開始される。
本実施形態では図1Cの側面カバー101の開閉軸に隣接して着脱交換検知手段460が配設されている。定着装置300が画像形成装置100の本体に装着されたり本体から取り外されたりするときは、必ず側面カバー101が開閉される。そこで、前述した電流ヒューズまたは温度ヒューズを使用した新品検知作動の開始トリガー信号として当該着脱交換検知手段460の作動(ON・OFF)を使用する。
定着装置300の発熱部材360が断線した場合、前述のように定着装置300ごと新品に交換するほか、発熱部材360のみを新品の発熱部材360に交換することも行われている。この場合の発熱部材360の交換は、ユーザーによる交換でなく通常はサービスマンによる交換となる。
このサービスマン交換の場合も、発熱部材360が着脱・交換されたか否かを検知する着脱交換検知手段を設けることで、定着装置300の新品交換の場合と同様に、調整用電力デューティの供給を自動的に開始することができる。当該着脱交換検知手段は、例えば図2Aにおいてフォルダ340と発熱部材360との間に新品検知接点を配設することで構成することができる。
すなわち、フォルダ340から断線した旧品発熱部材360を取り外し、続いて新品発熱部材360を装着することで新品検知接点が開閉される。新品検知接点の当該開閉作動を画像形成装置100の本体側で検知することで、発熱部材360が新品に交換されたと認識される。
(レーザプリンタの作動)
次に、本実施形態に係るレーザプリンタの基本的動作について図1Aを参照して以下に説明する。最初に、片面印刷を行う場合について説明する。
給紙ローラ60は、図1Aに示すように、画像形成装置100の制御部からの給紙信号によって回転する。そして、給紙ローラ60は、用紙給送装置200に積載された束状用紙Pの最上位の用紙のみを分離し、給紙路32へ送り出す。
給紙ローラ60およびローラ対210によって送り出された用紙Pは、その先端がレジストローラ対250のニップに到達すると、弛みを形成し、その状態で待機する。そして、中間転写ベルト16上に形成されたトナー画像をこの用紙Pに転写する最適なタイミング(同期)を図ると共に、用紙Pの先端スキューを補正する。
手差しによる給紙の場合は、手差しトレイ46に積載された束状用紙が、最上位の用紙から一枚ずつ手差し給紙ローラ45によって反転搬送路41の一部を通り、レジストローラ対250のニップまで搬送される。以後の動作は用紙給送装置200からの給紙と同一である。
ここで、作像動作については、1つのプロセスユニット1Kを説明し、他のプロセスユニット1Y、1M、1Cについてのその説明を省略する。まず、帯電装置4Kは、像担持体2Kの表面を高電位に均一に帯電する。そして、露光器7は、画像データに基づいたレーザ光Lを像担持体2Kの表面に照射する。
レーザ光Lが照射された像担持体2Kの表面は、照射された部分の電位が低下して、静電潜像を形成する。現像装置5Kは、トナーを含む現像剤を担持する現像剤担持体を有し、トナーボトル6Kから供給された未使用のブラックトナーを、現像剤担持体を介して、静電潜像が形成された像担持体2Kの表面部分に転移させる。
トナーが転移した像担持体2Kは、その表面にブラックトナー画像を形成(現像)する。そして、像担持体2K上に形成されたトナー画像を中間転写ベルト16に転写する。
ドラムクリーニング装置3Kは、中間転写行程を経た後の像担持体2Kの表面に付着している残留トナーを除去する。除去された残留トナーは、廃トナー搬送手段によって、プロセスユニット1K内にある廃トナー収容部へ送られ回収される。また、除電装置は、クリーニング装置3Kによって残留トナーが除去された像担持体2Kの残留電荷を除電する。
各色のプロセスユニット1Y、1M、1Cにおいても、同様にして像担持体2Y、2M、2C上にトナー画像を形成し、各色トナー画像が重なり合うように中間転写ベルト16に転写する。
各色トナー画像が重なり合うように転写された中間転写ベルト16は、二次転写ローラ20と駆動ローラ18の二次転写ニップまで走行する。一方、レジストローラ対250は、それに突き当てられた用紙を所定のタイミングで挟み込んで回転し、中間転写ベルト16上に重畳転写して形成されたトナー像が好適に転写されるタイミングに合わせて、二次転写ローラ20の二次転写ニップまで搬送する。このようにして、中間転写ベルト16上のトナー画像をレジストローラ対250によって送り出された用紙Pに転写する。
トナー画像が転写された用紙Pは、転写後搬送路33を通って定着装置300へと搬送される。そして、定着装置300に搬送された用紙Pは、定着ベルト310と加圧ローラ320によって挟まれ、加熱・加圧することで未定着トナー画像が用紙Pに定着される。トナー画像が定着された用紙Pは、定着装置300から定着後搬送路35へ送り出される。
切り替え部材42は、定着装置300から用紙Pが送り出されたタイミングでは、図1Aの実線で示すように定着後搬送路35の上端近傍を開放している位置にある。そして、定着装置300から送り出された用紙Pは、定着後搬送路35を経由して排紙路36へ送り出される。排紙ローラ対37は、排紙路36へ送り出された用紙Pを挟み込み、回転駆動することで排紙トレイ44に排出することで片面印刷を終了する。
次に、両面印刷を行う場合について説明する。片面印刷の場合と同様に、定着装置300は用紙Pを排紙路36へ送り出す。そして、両面印刷を行う場合、排紙ローラ対37は、回転駆動によって用紙Pの一部を画像形成装置100外に搬送する。
そして、用紙Pの後端が、排紙路36を通過すると、切り替え部材42は、図1Aの点線で示すように揺動軸42aを軸として揺動し、定着後搬送路35の上端を閉鎖する。この定着後搬送路35の上端の閉鎖とほぼ同時に、排紙ローラ対37は、用紙Pを画像形成装置100外へ搬送する方向と逆の方向に回転し、反転搬送路41へ用紙Pを送り出す。
反転搬送路41へ送り出された用紙Pは、反転搬送ローラ対43を経て、レジストローラ対250に至る。そして、レジストローラ対250は、中間転写ベルト16上に形成されたトナー画像を用紙Pのトナー画像未転写面に転写する最適なタイミング(同期)を図り、用紙Pを二次転写ニップへ送り出す。
そして、二次転写ローラ20と駆動ローラ18は、用紙Pが二次転写ニップを通過する際に用紙Pのトナー画像未転写面(裏面)にトナー画像を転写する。そして、トナー画像が転写された用紙Pは、転写後搬送路33を通って定着装置300へと搬送される。
定着装置300は、定着ベルト310と加圧ローラ320によって、搬送された用紙Pを挟み、加熱・加圧することで未定着トナー画像を用紙Pの裏面に定着する。このようにして、表裏両面にトナー画像が定着された用紙Pは、定着装置300から定着後搬送路35へ送り出される。
切り替え部材42は、定着装置300から用紙Pが送り出されたタイミングでは、図1Aの実線で示すように定着後搬送路35の上端近傍を開放している位置にある。そして、定着装置300から送り出された用紙Pは、定着搬送路を経由して排紙路36へ送り出される。排紙ローラ対37は、排紙路36へ送り出された用紙Pを挟み、回転駆動し排紙トレイ44に排出することで両面印刷を終了する。
中間転写ベルト16上のトナー画像を用紙Pに転写した後、中間転写ベルト16上には残留トナーが付着している。ベルトクリーニング装置21は、この残留トナーを中間転写ベルト16から除去する。また、中間転写ベルト16から除去されたトナーは、廃トナー搬送手段によって、粉体収容器10へと搬送され、粉体収容器10内に回収される。
(定着装置)
次に、本発明の実施形態で使用する加熱装置と第1~第4の定着装置300について、以下さらに説明する。本実施形態で使用する加熱装置は、定着装置300の定着ベルト310を加熱するためのものである。
第1の定着装置は図2Aに示すように、低熱容量の薄肉の定着ベルト310と加圧ローラ320で構成されている。定着ベルト310は、例えば外径が25mmで厚みが40~120μmのポリイミド(PI)製の筒状基体を有している。
定着ベルト310の最表層には、耐久性を高めて離型性を確保するために、PFAやPTFE等のフッ素系樹脂による厚みが5~50μmの離型層が形成される。基体と離型層の間に厚さ50~500μmのゴム等からなる弾性層を設けてもよい。
また、定着ベルト310の基体はポリイミドに限らず、PEEKなどの耐熱性樹脂やニッケル(Ni)、SUSなどの金属基体であってもよい。定着ベルト310の内周面に摺動層としてポリイミドやPTFEなどをコートしてもよい。
加圧ローラ320は、例えば外径が25mmであり、中実の鉄製芯金321と、この芯金321の表面に形成された弾性層322と、弾性層322の外側に形成された離型層323とで構成されている。弾性層322はシリコーンゴムで形成されており、厚みは例えば3.5mmである。弾性層322の表面は離型性を高めるために、厚みが例えば40μm程度のフッ素樹脂層による離型層323を形成するのが望ましい。定着ベルト310に対して加圧ローラ320が付勢手段により圧接している。
定着ベルト310の内側に、ステー330及びフォルダ340が軸線方向に配設されている。ステー330は金属製のチャンネル材で構成され、その両端部分が加熱装置の両側板に支持されている。ステー330は加圧ローラ320の押圧力を確実に受けとめて定着ニップSNを安定的に形成する。
フォルダ340は加熱装置の基材350を保持するためのもので、ステー330によって支持されている。フォルダ340は好ましくはLCPなどの低熱伝導性の耐熱性樹脂で形成することができ、これによりフォルダ340への熱伝達が減って効率的に定着ベルト310を加熱することができる。
フォルダ340の形状は、基材350の高温部との接触を回避するために、基材350の短手方向両端部付近の各2箇所のみを支持する形状にしている。これにより、フォルダ340へ流れる熱量をさらに低減して効率的に定着ベルト310を加熱することができる。
(加熱装置)加熱装置は抵抗発熱体で構成された発熱部材360を有する。この発熱部材360は図3Aに示すように、細長の金属製薄板部材を絶縁材料で被覆した基材350の上に形成されている。
基材350の材料としては低コストなアルミやステンレスなどが好ましい。基材350は金属製に限定されたものではなく、アルミナや窒化アルミなどのセラミックや、ガラス、マイカなどの耐熱性と絶縁性に優れた非金属材料で構成することも可能である。
加熱装置の均熱性を向上し画像品位を高めるため、基材350を銅、グラファイト、グラフェンなどの高熱伝導率の材料で構成してもよい。本実施形態では、短手幅8mm、長手幅270mm、厚さ1.0mmのアルミナ基材を使用している。
図3Aの発熱部材360は、詳しくは基材350の長手方向に平行二列で直列線状に形成されている。二列の発熱部材360の一端部は、基材350の一端側で長手方向に形成された小抵抗値の給電線369a、369cを介して、給電用の電極360c、360dにそれぞれ接続されている。この電極360c、360dは、図4のように交流電源410を含む電力供給手段に接続される。
発熱部材360の他端部は、基材350の他端側で短手方向に形成された小抵抗値の給電線369bを介して、基材350の長手方向反対側に向けて折り返す形で接続されている。発熱部材360、電極360c、360dおよび給電線369a~369cは、スクリーン印刷によって所定の線幅・厚みで形成されている。
発熱部材360の材料は、銀(Ag)もしくは銀パラジウム(AgPd)やガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷等により塗工し、その後の焼成によって形成することができる。発熱部材360の抵抗値は例えば常温で10Ωとすることができる。発熱部材360の抵抗材料はこの他に、銀合金(AgPt)や酸化ルテニウム(RuO2)などを使用することもできる。
発熱部材360と給電線369a~369cの表面は、薄いオーバーコート層ないし絶縁層370で覆われている。当該絶縁層370によって、定着ベルト310の摺動性が確保されると共に、定着ベルト310と発熱部材360、給電線369a~369cとの間の絶縁性が確保される。
この絶縁層370の材料は、例えば厚さ75μmの耐熱性ガラスを用いることができる。発熱部材360は絶縁層370側に接触する定着ベルト310を伝熱により加熱してその温度を上昇させ、定着ニップSNに搬送される用紙Pの未定着画像を加熱して定着する。
(PTC素子を使用した発熱部材)前記発熱部材360は図3B、図3Cのように、線幅を細くして蛇行状に形成した複数(図示例では8個)のPTC素子361~368を電気的に並列接続したもので構成することもできる。この場合、発熱部材360の総抵抗値を10Ωとすると、各PTC素子361~368の抵抗値は80Ωと大きくなる。
この大きな抵抗値を稼ぐために、PTC素子361~368の線幅をできるだけ細くかつ薄厚にして蛇行回数を増やす必要がある。しかし、そうするとPTC素子361~368の線幅・厚みのバラツキが大きくなり、発熱部材360の抵抗値が大きくバラつくという問題がある。本発明の実施形態は、このような発熱部材360の抵抗値の大きなバラツキに対して特に有効である。
PTC素子は、正の温度抵抗係数を有する材料で構成され、温度Tが上昇すると抵抗値が上昇する特徴がある(電流Iが低下してヒータ出力が低下)。温度抵抗係数(TCR=Temperature Coefficient of Resistance)は、例えば1500PPM(parts per million)
とすることができる。当該温度抵抗係数は、後述の電力制御部400のメモリに格納することができる。
図3B、図3CのPTC素子361~368は、基材350の長手方向で直線状かつ等間隔に配置されている。各PTC素子361~368の短手方向両側には小抵抗値の給電線360a、360bが直線状に互いに平行に配設され、この給電線360a、360bに各PTC素子361~368の両端が接続されている。そして給電線360a、360bの各一端部に形成された電極360c、360dに、図4のように交流電源410を含む電力供給手段が接続される。
PTC素子361~368と給電線360a、360bも、前述した直列の発熱部材360(図3A)と同様に薄い絶縁層370で覆われている。この絶縁層370は例えば厚さ75μmの耐熱性ガラスで構成することができる。絶縁層370によってPTC素子361~368と給電線360a、360bを絶縁・保護すると共に、定着ベルト310との摺動性を維持する。
PTC素子361~368は、例えば、銀パラジウム(AgPd)やガラス粉末などを調合したペーストをスクリーン印刷等により基材350に塗工し、その後、当該基材350を焼成することによって形成することができる。本実施形態では各PTC素子361~368の抵抗値を常温で80Ωとした(総抵抗値は10Ω)。
PTC素子361~368の材料は、前述したもの以外に、銀合金(AgPt)や酸化ルテニウム(RuO2)の抵抗材料を用いてもよい。給電線360a、360bや電極360c、360dの材料は、銀(Ag)もしくは銀パラジウム(AgPd)をスクリーン印刷等で形成することができる。
PTC素子361~368の絶縁層370側が定着ベルト310と接触して加熱し、伝熱により定着ベルト310の温度を上昇させ、定着ニップSNに搬送される未定着画像を加熱して定着する。
図3B(a)のように、PTC素子361~368は長手方向に8分割され、それぞれ電気的に並列接続されている。各PTC素子361~368は図3B(a)では長方形にしているが、所望の出力(抵抗値)を得るために、各PTC素子361~368の焼成パターンを折り返し蛇行状にすることも可能である。
PTC素子361~368を使用することで、小サイズ通紙などで非通紙領域のPTC素子の温度が上昇した際に、図5(a)に示すような抵抗発熱体の温度抵抗依存性により、当該PTC素子の発熱量が低下し、温度上昇を抑制することができる。この特徴により、例えばPTC素子361~368の全幅よりも狭い紙(例えばPTC素子363~366の幅内)を印刷した場合、紙幅より外側のPTC素子361、362、367、368は紙に熱を奪われないため温度が上昇する。するとそれらPTC素子361、362、367、368の抵抗値が上昇する。
PTC素子361~368にかかる電圧は一定なので、用紙幅より外側のPTC素子361、362、367、368の出力が相対的に低下し、端部温度上昇が抑制される。PTC素子361~368を電気的に直列に接続した場合、連続印刷において紙幅よりも外側の抵抗発熱体の温度上昇を抑制するには、印刷スピードを低下させる以外に方法がない。PTC素子361~368を電気的に並列接続することで、印刷スピードを維持したまま非通紙部温度上昇を抑制することができる。
PTC素子361~368の配置は図3B(a)の状態に限られない。図3B(a)ではPTC素子361~368の相互間に短手方向に続く隙間があるので、当該隙間部分で発熱量低下が発生し、それによって定着ムラが発生しやすい。そこで、図3B(b)と(c)ではPTC素子361~368の端部同士を長手方向で互いにオーバーラップさせている。
図3B(b)はPTC素子361~368の端部にL字状の切り欠きによる段部を形成し、当該段部を隣接する抵抗発熱体の端部の段部とオーバーラップさせている。図3B(c)はPTC素子361~368の端部に斜めの切り欠きによる傾斜部を形成し、当該傾斜部を隣接する抵抗発熱体の端部の傾斜部とオーバーラップさせている。このようにPTC素子361~368の端部同士を互いにオーバーラップさせることで、抵抗発熱体間の隙間での発熱量低下の影響を抑制することができる。
また電極360c、360dはPTC素子361~368の両端に配置する他、図3B(a)~(c)のようにPTC素子361~368の片側に配置することも可能である。このように電極360c、360dを片側配置にすることで長手方向の省スペース化を図ることができる。
(温度センサ)
本実施形態の加熱装置は、抵抗発熱体の温度を検知する温度検知手段として、第1温度センサTH1と第2温度センサTH2を有する。温度センサTH1、TH2は例えばサーミスタで構成することができる。
第1温度センサTH1と第2温度センサTH2は、図4のように、基材350の裏側に対してバネにより圧着する形で配設されている。第1温度センサTH1は温度制御用で、第2温度センサTH2が安全補償用である。2つの温度センサTH1、TH2は、ともに熱時定数が1秒未満の接触式のサーミスタで構成することができる。
温度制御用の第1温度センサTH1は、最小通紙幅内である長手方向中央領域の第1抵抗発熱体としてのPTC素子364(左端から4番目)の加熱領域に配置されている。安全補償用の第2温度センサTH2は、長手方向最端部である第2抵抗発熱体としてのPTC素子368(左端から8番目)(またはPTC素子361(左端から1番目))の加熱領域に配置されている。
2つの温度センサTH1、TH2は、共に、発熱量低下が発生する抵抗発熱体間の隙間を回避したPTC素子364、368の領域内に配置されている。これにより温度制御性が良くなり、また一部の抵抗発熱体で断線が生じた場合の断線検知もしやすくなる。
なお、第1温度センサTH1はPTC素子363、365、366のいずれかの加熱領域に配置してもよい。また第2温度センサTH2は、長手方向端部領域であれば、左端から2番目のPTC素子362または7番目のPTC素子367の加熱領域に配置することも可能であり、必ずしも長手方向最端部に配置する必要はない。
(電力供給回路)図4は、加熱装置に電力を供給する電力供給回路を示している。加熱装置の発熱部材360は、ここでは図3Bや図3CのPTC素子361~368を使用している。加熱装置の下方に、発熱部材360ないしPTC素子361~368に電力を供給する電力供給回路を示している。
この電力供給回路は、電力制御手段としての電力制御部400、交流電源410、トライアック420、電流検出手段430、ヒータリレー440、電圧検知手段450で構成されている。交流電源410と、電流検出手段430のカレントトランスCTと、トライアック420と、ヒータリレー440が、電極360c、360dの間に直列に配置されている。また、電極360c、360dの間に電圧検知手段450が配置されている。
第1温度センサTH1と第2温度センサTH2で検知された温度T4、T8は、電力制御部400に入力される。電力制御部400は、第1温度センサTH1から得られた温度T4に基いて、各PTC素子361~368が所定目標温度になるように、トライアック420により電極360c、360dに対する供給電流をデューティ制御する。
具体的には、第1温度センサTH1の現在温度T4と目標温度の温度差に応じたデューティ比で、トライアック420が発熱部材360に流れる電流をデューティ制御する。デューティ比0%で電流がゼロになり、デューティ比100%で電流が最大になる。
図5(b)に100%デューティと75%デューティのときの供給電流の電圧変換値Viacを例示する。75%デューティ制御では、電圧変換値Viacが所定周期で大きく変動する
のが分かる。
電力制御部400は、CPU、ROM、RAM、I/Oインターフェース等を包含するマイクロコンピュータで構成することができる。定着ニップSNに通紙すると、通紙による抜熱分(用紙への熱移動分)が発生するので、第1温度センサTH1から得られた温度T4だけでなく、当該抜熱分も考慮して供給電流を制御することで、定着ベルト310の温度を所望の温度に制御することができる。
電流検出手段430は、発熱部材360に流れる電流値の総和を検知する。すなわち、カレントトランスCTの二次側抵抗に発生する電圧を介して電極360c、360d間に流れる電流の大きさを電力制御部400で読み取る。また、電圧検知手段450は発熱部材360の電極360c、360d間の電圧値Eを検知し、当該電圧Eを電力制御部400で読み取る。そして電力制御部400において電流値Iと電圧値Eから発熱部材360の抵抗値R(=E/I)を算出する。
ここで、いずれか1つのPTC素子361~368が故障または断線すると、電力制御部400で読み取る電流値が減少する。特に、第1温度センサTH1が温度検出するPTC素子364が故障または断線すると、電力制御部400による温度制御機能が喪失する。そうすると他のPTC素子361~363、365~368の温度に関わりなく、トライアック420により電極360c、360dに対してデューティ比100%で電力が供給され続ける事態が発生する。
そこで本実施形態では、電流検出手段430で得られた電流が、所定の閾値電流未満となったとき、ヒータリレー440をOFF作動させて電極360c、360dに流れる電流を遮断することにした。具体的には、PTC素子361~368に流れる電流量が、カレントトランスCTにより電圧変換された電圧変換値Viacで電流検出手段430により検出される。
当該電圧変換値Viacは、電力制御部400に予め格納された所定閾値電圧Vithと比較される。その結果、Viac<Vithになったとき、すなわちPTC素子361~368への電流量が所定閾値電流を下回ったとき、ヒータリレー440をOFF作動することで、PTC素子361~368への給電を停止する。
トライアック420によってデューティ比を0%にすることでも、同様に給電を停止することができるが、電流を確実に遮断するためにヒータリレー440をOFF作動する。なお、第2温度センサTH2で検知された温度T8が所定閾値を高温側に越えたときに、ヒータリレー440をOFF作動して電極360c、360dに流れる電流を実質的に遮断することも可能である。
(定着動作)
図2Aにおいて、定着ニップSNに向けて矢印方向から用紙Pを通紙すると、定着ベルト310と加圧ローラ320との間で用紙Pが加熱されてトナー像が用紙Pに定着される。この際、定着ベルト310は発熱部材360の絶縁層370と摺動しつつ発熱部材360からの熱で加熱される。
定着ベルト310を所定温度にする発熱部材360の温度制御において、第1温度センサTH1のみ配置した場合、第1温度センサTH1を配置しているPTC素子364のみが部分的に断線して給電が遮断すると、当該PTC素子364の温度が上昇しない。このため、当該PTC素子364を温度制御により一定温度にしようとして、他の正常なPTC素子361~363、365~368に必要以上の電流供給が続いて異常高温が発生する。
そこで本実施形態では、端部のPTC素子368の加熱領域に第2温度センサTH2を配置している。この第2温度センサTH2は、PTC素子368の温度T8を検知し、その温度T8が前述した異常高温になると、電極360c、360dに対する供給電流を遮断するように電力制御部400がトライアック420を制御する。また、第2温度センサTH2自体が断線により所定温度TN以下(T8<TN)になった場合も、電極360c、360dに対する供給電流を遮断するように電力制御部400がトライアック420を制御する。
(定着装置の他の実施形態)
定着装置300は図2Aの第1の定着装置に限定されない。以下、図2B~図2Dを参照して第2~第4の定着装置について説明する。第2の定着装置は、図2Bに示すように、加圧ローラ320と反対側に押圧ローラ390を有し、当該押圧ローラ390と加熱装置との間で定着ベルト310を挟んで加熱する。
定着ベルト310の内側に前述した加熱装置が配設されてる。ステー330の片側に補助ステー331が取り付けられ、反対側にニップ形成部材332が取り付けられている。加熱装置はこの補助ステー331に保持されている。ニップ形成部材332は定着ベルト310を介して加圧ローラ320と当接して定着ニップSNを形成している。
第3の定着装置は、図2Cに示すように、定着ベルト310の内側に加熱装置が配設されてる。この加熱装置は、前述した押圧ローラ390を省略する代わりに、定着ベルト310との周方向接触長さを長くするため、定着ベルト310の曲率に合わせて基材350と絶縁層370の横断面を円弧状に形成している。発熱部材360は円弧状の基材350の中央に配置されている。その他は図2Bの第2の定着装置と同じである。
第4の定着装置は、図2Dに示すように、加熱ニップHNと定着ニップSNに分けて構成している。すなわち、加圧ローラ320の定着ベルト310とは反対側に、ニップ形成部材332と、金属製のチャンネル材で構成されたステー333を配置し、これらニップ形成部材332とステー333を内包するように加圧ベルト334を周回可能に配設している。そして当該加圧ベルト334と加圧ローラ320との間の定着ニップSNに用紙Pを通紙して加熱・定着する。その他は図2Aの第1の定着装置と同じである。
また、安全補償用の第2温度センサTH2は、図2Aの破線にて示すように、温度制御用の第1温度センサTH1が検知するPTC素子366とは異なるPTC素子368で加熱される定着ベルト310の内周面(PTC素子368の下流側内周面)に、付勢手段により圧着するように配置してもよい。抵抗発熱体の数を増加すると温度センサの配設スペースを確保しにくくなるが、第2温度センサTH2を前記のように配設することでスペース確保の困難性を緩和することができる。また安全補償用の第2温度センサTH2は、PTC素子368だけでなく、定着ベルト310の内周面を含む、他のPTC素子361~363、365~367の加熱域毎に配置してもよい。
(異常検知)
ここで、電力制御部400による異常検知の作動を図6A~図6Cのフローチャートで説明する。図6Aは加熱装置の基本制御動作のフローチャートである。加熱装置ないし定着装置300の立上げ開始信号によってステップS1でヒータリレー440がON作動が確認される。電流検出手段430のカレントトランスCTによって電圧変換された電圧変換値Viacは、電力制御部400に読み込まれる。この読み込みのタイミングは、定着装置
300の立上げ開始直後である。
この立上げ開始直後は、詳しくはステップS2のように、ヒータリレー440のON作動から所定時間T[ms]を経過した後が望ましい。すなわち、電流検出手段430の回路の特性上、カレントトランスCTにより電流値を電圧値に変換して安定した電流検出ができるまでには所定時間を要するからである。
そこで、所定時間T[ms]を経過した後に、ステップS3の電流検出許可OK(Yes)を受けて、ステップS4で電流検出すなわち電圧変換値Viacが電力制御部400に読み込まれる。この読み込みの際、電流検出時に拾うノイズの影響も考慮して、電流検出のサンプリング回数を所定期間に複数回とし、検知した複数電流値のうち最大と最小の極端値を除外するなどの集計処理を行うのが望ましい。ステップS3で電流検出許可Noの場合はフローを終了する。
立上げ時の所定期間に電流値を複数回サンプリング検出する場合、図5(b)に示すように、デューティ比が100%の時に検出するのが最も電流検出精度が良い。デューティ比が例えば75%では一定間隔で電流値が小さくなり、この関係で電流検出期間をあまり長く取ることができず、その分だけノイズによる影響を受けやすくなる。一方、立上げ時のデューティ比100%で検知することは、通紙開始前に異常の有無を判断することにも繋がり、定着不良(プリント不良)の発生を未然に防止することができる効果がある。
但し、デューティ比が100%未満でも、電流検出期間中に一定のデューティ比が所定期間継続する場合は、デューティ制御による前述の電流値の落ち込み量も事前に予測可能である。このため、立上げ時以降であって、PTC素子361~368の温度がある程度上がった状態でも、電流検出を行うことが可能である。
ここで、PTC素子361~368の電流-電圧の目標とする相関関係を図5(c)の実線に示す。当該実線の上下にある破線が抵抗下限と抵抗上限における電流-電圧の相関関係である。
前述のようにPTC素子361~368の温度がある程度上がった状態では温度が安定化するので、図5(c)のように電流-電圧の相関関係が直線状に安定化する。このため、PTC素子361~368に流れる電流Iacを安定状態で検出しやすくなる。この場合も、通紙開始前にPTC素子361~368に流れる電流値Iacを検出し、異常の有無を判断するのが望ましい。
図6Bは、図6AのステップS4(電流検出実施)を、ステップS8~ステップS11のようにさらに具体化したものである。なお、ステップS7で故障検知実施Noの場合はフローを終了する。
ステップS7で故障検知実施OK(Yes)の場合、ステップS8で、PTC素子361~368の電極360c、360d間に流れる電流値Iacを電圧変換したViacを電流検出手段430により検出し、当該Viacを電力制御部400に読み込む。そしてステップS9で電極360c、360d間の電圧値Vacを電圧検知手段450により検出し、当該電圧値Vacを電力制御部400に読み込む。
その後、ステップS10で故障閾値電流Ith(故障閾値電圧Vith)を算出し、ステップS11で前記電圧変換値Viacを当該故障閾値電圧Vithと比較する。電圧変換値Viacが故障閾値Vith以上の場合(Viac≧Vith)はフローを終了する。
一方、検出した電圧変換値Viacが故障閾値Vithよりも小さい場合(Viac<Vith)、PTC素子361~368のいずれかで「故障」すなわち「断線あり」として、ステップS12でヒータリレー440をOFF作動すると共に、ステップS13でプリンタ100の操作パネル上でのエラー表示でエラー報知する。
なお、通紙中に給電を遮断すると同時に給紙ローラ60等の回転動作も停止する場合は用紙ジャムとなり、他方、給紙ローラ60等の回転動作を継続する場合は定着不良の発生が増加する。このため、PTC素子361~368の部分断線による影響が、安全性及びFAX受信による印刷など、特に大きい場合を除いて、エラー報知のみで動作を継続する方が望ましい。
ここで、電極360c、360d間の電圧値Vacを別途検出するのは、図5(b)に示すように、電極360c、360d間に印加される電圧値Vacにより、電極360c、360d間に流れる電流値Iacが大きく影響を受けるためである。このため、検出された電圧値Vacの大きさによっては、故障閾値電流Ith(Vith)を補正する必要がある。
また、図5(c)の破線(抵抗下限、抵抗上限)に示すように、PTC素子361~368の電極360c、360d間の総抵抗値も、PTC素子361~368の製造バラツキによって±5~10%程度の範囲で変動する。これらバラツキに対応するためにも、電圧値Vacによる故障閾値電流のIth(Vith)の補正が必要な場合がある。
本実施形態では、故障閾値電流Ith(Vith)の補正をしない電圧値Vacの許容変動閾値を、例えば±5%の範囲内とし、±5%を越えた場合に故障閾値電流Ith(Vith)の補正をすることができる。この補正は、具体的には前記ステップS11で電圧変換値Viacを故障閾値電圧Vithと比較する際、当該故障閾値電圧Vithを電圧値Vacの変動率(%)に対応して増減する。
図6Cは、第1温度センサTH1と第2温度センサTH2による加熱装置の前述の制御動作を示すフローチャートである。図6CのステップS21において、プリンタ100に対して印刷ジョブの実行が指示される。
すると、ステップS22において、電力制御部400により交流電源410から発熱部材360の各PTC素子361~368への給電が開始される。そしてステップS23において、第1温度センサTH1により発熱部材360の中央領域に位置するPTC素子364の温度T4が検知される。
次に、ステップS24でトライアック420による発熱部材360の温調制御が開始される。またステップS25で第2温度センサTH2によってPTC素子368の温度T8が検知される。
そしてステップS26で温度T8≧TN(TN:所定温度)か否かが判定され、T8<TNであれば異常低温発生(断線発生)として、ステップS27で発熱部材360への給電が実質的に遮断されるように、電力制御部400によりトライアック420が制御される。そしてステップS28で、プリンタ100の操作パネルにエラー表示が示される。なお、第2温度センサTH2の温度T8が異常高温になった場合にも、同様に発熱部材360への給電が遮断(OFF)されるようにトライアック420を制御してもよい。
また、T8≧TNであれば異常低温発生なしとして、ステップS29で印字動作が開始される。このように、前述した電流検出手段430による図6A、図6Bのフローチャートに加えて、第2温度センサTH2による図6Cのフローチャートで電力制御部400を作動することで、加熱装置ないし定着装置300の安全性がより高まる。
(調整用電力デューティ)
図6Dは、定着装置300を新しい装置に交換し、それを検知した後の電力制御手段としての電力制御部400の動作(診断モード)を示すフローチャートである。この診断モードは、定着装置300を新品に交換した場合に、発熱部材360の抵抗温度特性のバラツキに関わらず、発熱部材360の電力を狙い通り適正に制御するためのモードである。
ステップS31で着脱交換検知手段460が定着ユニット1の着脱・交換を検知すると、ステップS32で発熱部材360に調整用電力デューティが供給される。このときの調整用電力デューティは、電力デューティ100%とする。ステップS33で発熱部材360の裏面温度がサーミスタ等の温度検知手段で検知される。
その後、ステップS34で発熱部材360の電流と電圧が検出される。ステップS35で検出した電流値Iと電圧値Eから、発熱部材360の抵抗値R(=E/I)が算出される。算出された抵抗値Rは、発熱部材360の温度情報と紐付けられて、ステップS36で電力制御部400内の不揮発性メモリに格納される。
ステップS33からステップ36までのフローは、ステップ37で調整用電力デューティの供給期間が所定期間Tに達するまで数回繰り返し行われる。これにより、図7のような発熱部材360の温度―抵抗値特性(温度抵抗特性)が取得される(実線a)。
所定期間Tは、特に、電力デューティを100%ではなく例えば20~50%のように小さい比率にする場合、電力デューティ100%の通常の立ち上げ動作よりも長い時間をかける。電力デューティが小さいと発熱部材360の温度上昇が緩やかなため、電流・電圧を安定して検知可能になるまでの時間が、電力デューティ100%のときに比べて長時間を要するためである。
発熱部材360の温度抵抗特性の検出精度を良好にするため、発熱部材360の温度変化は、当該発熱部材360の使用温度範囲を考慮して、昇温時の温度勾配が70℃/秒以下、望ましくは50℃/秒以下に設定するのがよい。当該温度勾配は電力デューティ100%でも不可能ではないが、電力デューティ100%未満の方が容易に実現可能である。調整用電力デューティ100%未満の供給期間を、前記温度勾配で少なくとも1秒以上、望ましくは2秒以上供給し続けることで、発熱部材360を所定の使用温度、例えば200℃、望ましくは180℃に昇温することができる。
ここで、電源電圧のバラツキが±15%(100V系で85V~115V、240V系で204V~276V)、発熱部材360の抵抗値のバラツキが±10%あるとすると、発熱部材360の電力はこれらバラツキがない場合に比べて最大で1.4倍程度大きくなる可能性がある(電源電圧が+15%、発熱部材360の抵抗値が-10%のバラツキの場合)。
このように発熱部材360の電力が最大化した場合、電力デューティ100%では発熱部材360が180℃に到達するまでの時間が2秒未満となり(温度勾配>70℃/秒)、温度抵抗特性の検出精度が悪化する。そこで、このように発熱部材360の電力がバラツキにより最大化した場合も考慮して、電力デューティを100%未満に設定するのがよい。
ステップ37で所定期間Tが経過したと判断されると、次のステップS38で調整用電力デューティの供給が終了される。そしてステップS39で、温度-抵抗値特性に基づいて発熱部材360の使用時の電力デューティが調整される。すなわち、検知された温度に対する抵抗値特性が発熱部材360の設計値よりも小さい場合(図7の破線c)は、予定した電力デューティを供給しても設計電力(単位時間当りの発熱量)が得られないので、予定した電力デューティよりもデューティを増大する。この増大する割合は、図7の実線aと破線cの乖離量に対応させる。
この反対に、検知された温度に対する抵抗値特性が発熱部材360の設計値よりも大きい場合((図7の破線b)は、予定した電力デューティを供給すると設計電力(単位時間当りの発熱量)よりも過大な電力になるので、予定した電力デューティよりもデューティを減少する。この減少する割合は、図7の実線aと破線bの乖離量に対応させる。このように電力デューティが調整された後、ステップS40で診断モードが終了となり、印刷動作すなわち発熱部材360に対する調整済み電力デューティの供給が開始される。
印刷動作を終了した後、再度印刷動作を開始するときは、定着装置300の交換がない限り、前回の調整用電力デューティにより検出し不揮発性メモリに格納した抵抗値Rを読み出し、当該抵抗値Rと電圧検知手段450の検知結果に基づいて、発熱部材360の使用時の電力デューティを調整する。この場合、発熱部材360に対する調整用電力デューティの供給は行わない。
このように、発熱部材360の実際の抵抗値Rの温度特性を算出して所期の電力(発熱量)が得られるように電力デューティを調整したうえで発熱部材360に対する電力デューティの供給が行われるので、発熱部材360の抵抗値のバラツキに関わりなく、発熱部材360の電力を狙い通り適正に制御することができる。
以上、本発明を実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の技術的思想の範囲内で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば加熱装置は乾燥装置など定着装置以外の用途に使用することも可能である。また抵抗発熱体はPTC素子のほかセラミックヒータなど他の抵抗発熱体も使用可能である。また図3A(b)(c)や図3B(b)(c)のPTC素子のオーバーラップ形態は、凹凸形状や櫛歯形状の相互嵌合なども可能であることは勿論である。またPTC素子の数は8個未満または9個以上としてもよい。さらにPTC素子を基材350の短手方向に複数列で配置することも可能である。