以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、モニタリングシステム10の全体構成を概略的に示す。モニタリングシステム10は、道路情報板80に関する物理量を測定して、測定した物理量に基づいて、道路情報板80を解析する。例えば、モニタリングシステム10は、道路情報板80の健全性、安全性、構造性能等を診断する。道路情報板80は、構造物の一例である。
モニタリングシステム10は、構造物の振動特性を解析する解析システムの一例である。モニタリングシステム10は、道路情報板80の振動を連続的又は断続的に測定して、道路情報板80の振動特性を解析する。例えば、モニタリングシステム10は、道路情報板80に生じた振動の卓越周波数を特定する。モニタリングシステム10は、卓越周波数の時間的な変化に基づいて、道路情報板80の健全性を解析する。
例えば、道路情報板80の振動の卓越周波数は、道路情報板80の状態によって変化する。具体的には、道路情報板80の疲労や劣化、道路情報板80を構成するボルト等の機械要素の不良、道路情報板80に加えられた外力による損傷等によって道路情報板80の強度が低下する。道路情報板80の強度の低下によって、道路情報板80の振動の卓越周波数が変化し得る。モニタリングシステム10は、特定した卓越周波数が予め定められた基準範囲内に収まっているか否かを示す情報を、道路の管理者等に送信する。
道路情報板80は、支柱81と、支柱82と、ベースプレート83と、表示プレート84とを備える。道路情報板80は、高速道路や都市道路等の道路の路肩に、片持ち式で設置される。ベースプレート83は、コンクリート等の基礎に、アンカーボルト等で固定される。支柱81はベースプレート83に固定される。支柱81は、地面から鉛直上方に延びる。支柱82は、支柱81から、鉛直方向とは略直交する方向に延伸する。表示プレート84は、支柱82に固定される。表示プレート84は、交通状況、道路状況、トンネル等の情報を表示する。
モニタリングシステム10は、加速度センサ40と、加速度センサ50と、収集装置90と、送信機110と、解析装置100とを備える。
道路情報板80は、道路情報板80の近傍を車両が通過するときの振動が地面を通じて道路情報板80に伝わったり、道路情報板80が風等の外力を受けることによって、振動する。加速度センサ40及び加速度センサ50は、道路情報板80の振動を検出するセンサの一例である。
加速度センサ40及び加速度センサ50は、例えば、MEMS型加速度センサである。加速度センサ40及び加速度センサ50は、静電容量式の加速度センサである。加速度センサ40及び加速度センサ50はそれぞれ、3軸加速度センサであってよい。加速度センサ40及び加速度センサ50により生成されたアナログの加速度信号は、デジタルの加速度データに変換されて、無線通信又は有線通信により収集装置90に送信される。
加速度センサ40は、表示プレート84に設けられ、表示プレート84の加速度を測定する。加速度センサ50は、ベースプレート83に設けられ、ベースプレート83の加速度を測定する。なお、加速度センサ50は、支柱81の下部に設けられる。加速度センサ50は、鉛直方向において支柱81の下端部に設けられてよい。
収集装置90は、加速度センサ40及び加速度センサ50により測定された時系列の測定データを、有線又は無線通信により取得する。送信機110は、収集した測定データを、通信ネットワーク190を通じて解析装置100に送信する。通信ネットワーク190は、有線通信又は無線通信の伝送路を含み得る。通信ネットワーク190は、インターネット、P2Pネットワーク、専用回線、VPN、電力線通信回線、携帯電話回線等を含む通信網を含んでよい。
解析装置100は、加速度センサ50の時系列の測定データに基づいて、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングを特定する。衝撃とは、道路情報板80に短時間に加わった基準値より強い力のことを意味してよい。加速度センサ50は、道路情報板80の支点の近くに設けられているので、加速度センサ50の測定データには、道路情報板80に加わった衝撃により生じた振動成分が強く現れる。一方、加速度センサ40は、加速度センサ50より、道路情報板80の支点から遠くに設けられている。そのため、加速度センサ50の測定データに比べて、加速度センサ40の測定データには、道路情報板80に加わった衝撃により生じた振動成分より、道路情報板80の固有の振動成分の影響が強く現れる。
解析装置100は、加速度センサ40の時系列の測定データを、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングで時間的に区切ることによって、複数の部分データに分割する。解析装置100は、複数の部分データをそれぞれFFT等のアルゴリズムを用いた周波数解析によって、振動の周波数成分に分解する。解析装置100は、得られた周波数成分に基づいて、道路情報板80の卓越周波数を特定する。解析装置100は、特定した卓越周波数が基準範囲内に収まっているか否かを示す情報を、道路の管理者等に送信する。
一般に、道路情報板80に衝撃が加わることによって、衝撃の前後で振動位相にズレが生じる。モニタリングシステム10によれば、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングを特定して、特定したタイミングで測定データを複数の部分データに区切って周波数解析を行う。そのため、衝撃の前後で生じた振動位相のズレが周波数成分に影響することを抑制することができる。これにより、卓越周波数を高い精度で特定することができる。ひいては、道路情報板80の振動特性を高精度に特定することができる。
図2は、解析装置100のブロック構成の一例を概略的に示す。解析装置100は、制御部260と、メモリ270と、通信部290とを備える。制御部260は、取得部200と、特定部210と、解析部220とを備える。解析部220は、データ生成部230と、周波数解析部240と、周波数特定部250とを備える。
解析装置100は、コンピュータにより実装されてよい。制御部260は、解析装置100の全体を制御する。制御部260はプロセッサにより実現されてよい。通信部290は、送信機110から送信された加速度センサ40の測定データ及び加速度センサ50の測定データを示す情報を取得する。通信部290により受信した情報は、測定データとして制御部260に提供される。
メモリ270は不揮発性メモリや揮発性メモリ等の記憶装置である。制御部260は、メモリ270に記憶された情報を用いて、解析装置100の各部を制御する。メモリ270は、制御部260が実行するプログラムを格納する。制御部260は、メモリ270からロードされたプログラムを実行し、プログラムに従って動作することにより、解析装置100の各部を制御する。プログラムは、制御部260によって実行された場合に、制御部260を、取得部200、取得部200、特定部210及び解析部220を含む、制御部260の各部として機能させる。
制御部260において、取得部200は、道路情報板80の振動を測定することによって得られた時系列の測定データを取得する。測定データは、具体的には、道路情報板80に設けられた加速度センサ40により測定された加速度データである。また、取得部200は、道路情報板80において加速度センサ40が設けられた位置とは異なる位置に設けられた加速度センサ50により測定された加速度データを取得する。
特定部210は、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングを特定する。特定部210は、加速度センサ50により測定された加速度データに基づいて、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングを特定する。なお、特定部210は、加速度センサ40により測定された加速度データを周波数制限することによって得られたデータに基づいて、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングを特定してもよい。解析部220は、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングに基づいて測定データを時間的に区切ることによって得られた部分データを周波数解析することにより、道路情報板80の振動特性を解析する。
具体的には、データ生成部230は、道路情報板80に衝撃が加わった複数のタイミングで測定データを区切ることにより、道路情報板80に衝撃が加わったタイミングの間の測定データを、部分データとして抽出する。そして、周波数解析部240は、道路情報板80に衝撃が加わった複数のタイミングに基づいて測定データを時間的に区切ることによって得られた複数の部分データのそれぞれを周波数解析することにより、道路情報板80の振動特性を解析する。そして、周波数特定部250は、複数の部分データのそれぞれを周波数解析することによって得られた複数の周波数成分データに統計処理を施すことによって、道路情報板80に生じた振動の卓越周波数を特定する。
なお、データ生成部230は、複数の部分データのうち、第1の周波数と第2の周波数との差に基づいて決定される閾値より長い区間の部分データを選択する。周波数解析部240は、選択された部分データをそれぞれ周波数解析することにより、道路情報板80の振動特性を解析する。
データ生成部230は、複数の部分データのうち、第1の周波数と第2の周波数との差の逆数に基づいて決定される閾値より長い区間の部分データを選択する。そして、選択した部分データを周波数解析部240がそれぞれ周波数解析することにより、道路情報板80の振動特性を解析する。
なお、周波数解析部240は、複数の部分データのそれぞれを周波数解析することによって複数の周波数成分データを生成する。周波数特定部250は、複数の周波数成分データに基づいて、第1の周波数を含む予め定められた範囲内の周波数成分に対する、第2の周波数を含む予め定められた範囲内の周波数成分の比率を算出してよい。具体的には、周波数特定部250は、複数の周波数成分データに基づいて、第1の周波数を含む予め定められた範囲内の周波数成分のピーク値に対する、第2の周波数を含む予め定められた範囲内の周波数成分のピーク値の比率を算出する。周波数特定部250は、複数の周波数成分データのうち、比率が予め定められた値未満の周波数成分データに基づいて、第1の周波数を含む予め定められた範囲内における卓越周波数を特定する。また、周波数特定部250は、複数の周波数成分データのうち、比率が予め定められた値以上の周波数成分データに基づいて、第2の周波数を含む予め定められた範囲内における卓越周波数を特定する。
なお、解析部220は、部分データを周波数解析することによって得られた卓越周波数の時間的な変化に基づいて、道路情報板80の健全性を解析する。例えば、周波数特定部250により特定された卓越周波数が予め定められた範囲外になった場合に、道路情報板80の健全性が低下したと判断する。通信部290は、道路情報板80の健全性の解析結果を外部に送信する。例えば、通信部290は、周波数特定部250により特定された卓越周波数が予め定められた範囲外になった場合に、道路の管理者等に通知する。
図3は、アンサンブル平均を用いて振動の周波数スペクトルを算出する手法を概念的に示す。グラフ300は、加速度センサ40により得られた1分間の測定データのグラフである。まず、測定データを一定の時間ウィンドウで区切ることによって、測定データを複数の部分データに分割する。例えば、1分間の測定データWallを6秒毎に区切ることによって、10個の部分データに分割する。図3のWi(iは、1から10の自然数)は、部分データを表す。Wallは、Wi(iは、1から10の自然数)の連結で表される。
次に、10個の部分データをそれぞれフーリエ変換することによって、部分データ毎に周波数スペクトルを取得する。例えば、FFTのアルゴリズムを用いて各部分データをフーリエ変換することにより、10個の周波数スペクトルFFT(Wi)(iは、1から10の自然数)を取得する。なお、本実施形態の説明において、FFTのアルゴリズムを用いてデータWをフーリエ変換することによって得られた周波数スペクトルを「FFT(W)」と記載する。
10個のFFT(Wi)を平均化することにより、1つの周波数スペクトル320を算出する。このようにして、1分間の測定データから、アンサンブル平均による1つの周波数スペクトルが得られる。
図4は、FFT(Wall)と、上述したアンサンブル平均を用いて算出した周波数スペクトルを示す。
図4の周波数スペクトル410は、FFT(Wall)を示す。図4の周波数スペクトル420は、図3に関連して説明したように、FFT(Wi)のアンサンブル平均により得られた周波数スペクトルを示す。
周波数スペクトル410及び周波数スペクトル420とを比較すると分かるように、周波数スペクトル410では、例えば45Hz以下の周波数帯では特にバックグランドノイズが大きく、スペクトルのピークを容易に特定することができない。そのため、1分間の測定データWall全体を1つのデータとしてフーリエ変換すると、振動の卓越周波数を特定することが容易でない。
一方、周波数スペクトル420からは、バックグランドの大きな強度振幅が抑えられて、周波数構造をより明確に特定することができる。この2つの周波数スペクトルの類似性から、40Hz以下で9つのピーク構造があるのがわかる。このように、周波数スペクトルのアンサンブル平均をとることによって、バックグランドノイズに埋もれている周波数構造を明確化することができる。
図5は、道路情報板のベースプレート及び表示プレートで計測された測定データを示す。グラフ550は、ベースプレートに設けられた加速度センサ50により得られた時系列の測定データのグラフである。グラフ540は、表示プレートに設けられた加速度センサ40により得られた時系列の測定データのグラフである。加速度センサのサンプリング周波数は200Hzである。図5の横軸は時刻であり、縦軸は加速度である。
グラフ550から、ベースプレート83では、比較的に高い周波数の振動が間欠的に生じていることがわかる。これは、路肩に近い車線を走行する車両により路面に生じた振動が観測されているものと考えられる。
グラフ540から、表示プレート84では、比較的に低い周波数の振動が継続的に生じていることが分かる。また、ベースプレート83で強い振動が観測される時刻に、表示プレート84の振動の周波数の変化が生じていることが分かる。
図6は、表示プレート84の振動の測定データから得られた周波数スペクトルを示す。図6の周波数スペクトルから、図5のデータ450に示される比較的に低い周波数の振動について、表示プレートの振動は、約1.48Hzと約1.65Hzの2つの周波数に比較的強い周波数成分を有すると予測される。
本実施形態では、約1.48Hzを含む周波数帯で周波数成分が最大となる周波数の時間変化と、約1.65Hzを含む周波数帯で周波数成分が最大となる周波数の時間変化とを解析装置100が評価する手法を説明する。例えば、本実施形態では、1.48Hz±0.075Hzの範囲の周波数帯及び1.65Hz±0.075Hzの範囲の周波数帯のそれぞれで周波数成分が最大となる周波数の時間変化を評価するものとする。本実施形態の説明において、1.48Hz±0.075Hzの範囲の周波数帯のことを「第1周波数帯」と呼び、1.65Hz±0.075Hzの範囲の周波数帯のことを「第2周波数帯」と呼ぶ。
図7は、ベースプレート83の加速度の大きさの時間変化を示す。図7の横軸は時刻であり、縦軸は加速度である。
特定部210は、加速度センサ50で測定された3軸の加速度の二乗和を算出し、二乗和の平方根を算出することによって、ベースプレート83の加速度の大きさを算出する。図7は、ベースプレート83の加速度の大きさの時間変化を示す。特定部210は、算出された加速度の大きさに基づいて、道路情報板80に衝撃が加わった時刻を特定する。本実施形態の説明において、道路情報板80に衝撃が加わった時刻のことを「衝撃時刻」と呼ぶ。
図8は、衝撃時刻を特定する手法を説明するための図である。図8のグラフの横軸は、時間であり、縦軸は加速度の大きさを示す。特定部210は、加速度の大きさに基づいて、閾値Thを超える時刻を判定し、閾値Thを超える時刻から予め定められた判定時間が経過するまでの期間内で加速度の大きさが最大となる時刻を、衝撃時刻として特定する。例えば、図8に示されるように、閾値Thを超える時刻から1.8秒の期間内で加速度の大きさが最大となる時刻を、衝撃時刻として特定する。
図9は、第1周波数帯及び第2周波数帯の周波数スペクトルを取得する手法を概略的に示す。解析部220において、データ生成部230は、加速度センサ40により得られた測定データを、1分間の長さ毎のデータに分割する。グラフ902は、加速度センサ50の1分間の測定データを示す。グラフ901は、加速度センサ40の1分間の測定データを示す。
データ生成部230は、1分間の測定データが得られた期間のそれぞれについて、特定部210が特定した衝撃時刻に基づいて、衝撃時刻の間隔が予め定められた時間閾値より長くなる期間を選択する。時間閾値は、解析対象とする周波数に基づいて定められてよい。本実施形態では、約1.48Hz及び約1.65Hzにピークを有する振動を解析することを目的としている。そのため、1.48Hz、1.65Hz、及び1.65-1.48Hzのうち、最も低い周波数の周波数成分を精度良く算出できる長さの測定データが必要となる。よって、本実施形態では、0.17Hz(1.65-1.48Hz)に基づいて、時間閾値を定める。具体的には、時間閾値として、0.17の逆数により算出される5.88秒を用いる。
データ生成部230は、1分間の測定データから、5.88秒以上の期間の測定データWi'を部分データとして切り出して、FFTに基づく離散フーリエ変換を行うための入力データを生成する。具体的には、データ生成部230は、入力データのサンプル数が131072(2の17乗)になるように、切り出した部分データにゼロデータを付け足す。続いて、周波数解析部240は、各入力データWi'について、FFT(Wi')を算出する。図9には、6個のWi'(i=1,2,3,4,8,9)からの入力データについてFFT(Wi')を算出する様子が示される。
周波数解析部240は、FFT(Wi')のアンサンブル平均により、第1周波数帯及び第2周波数帯のそれぞれの周波数成分を算出する。また、周波数解析部240は、各入力データから算出した周波数成分の二乗和を周波数毎に算出して、周波数成分データを生成する。
周波数解析部240は、上述した周波数成分データを生成する処理を、加速度センサ40により得られた3軸の測定データのそれぞれについて行い、生成された3軸の周波数成分データに基づいて、各軸の周波数成分の二乗和の和の平方根を、振動強度として周波数毎に算出する。
周波数特定部250は、第1周波数帯内で振動強度が最大となる周波数を第1周波数帯の卓越周波数として特定するともに、当該振動強度の最大値を第1周波数帯のピーク強度として特定する。また、周波数特定部250は、第2周波数帯内で振動強度が最大となる周波数を第2周波数帯の卓越周波数として特定するとともに、当該振動強度の最大値を第2周波数帯のピーク強度として特定する。
また、周波数特定部250は、第1周波数帯のピーク強度と第2周波数帯のピーク強度との比に基づいて、卓越周波数を取捨する。本実施形態において、第1周波数帯のピーク強度に対する第2周波数帯のピーク強度との比のことを、「ピーク強度比」と呼ぶものとする。周波数特定部250は、ピーク強度比に基づいて、一方の卓越周波数を卓越周波数データとして採用し、他方の卓越周波数を卓越周波数データとして採用しない。具体的には、周波数特定部250は、ピーク強度比が閾値以上の場合、第2周波数帯の卓越周波数を卓越周波数データとして採用し、第1周波数帯の卓越周波数のデータを卓越周波数データとして採用しない。また、周波数特定部250は、ピーク強度比が閾値未満の場合、第1周波数帯の卓越周波数を卓越周波数データとして採用し、第2周波数帯の卓越周波数を卓越周波数データとして採用しない。
なお、閾値は、第1周波数帯における周波数成分及び第2周波数帯の卓越周波数の周波数成分の大きさに基づいて、適宜設定されてよい。
図10は、第1周波数帯の卓越周波数データのグラフである。図10に示す各グラフの横軸は時刻であり、縦軸は卓越周波数である。各グラフは、5日間の測定データに基づいて特定された卓越周波数を表す。
グラフ1010は、比較例として、1分間の測定データ全体の離散フーリエ変換により特定された第1周波数帯の卓越周波数を示す。なお、1分間の測定データにつき1つの卓越周波数が特定される。そのため、5日間の測定データからは7200個の卓越周波数が得られる。つまり、グラフ1010の卓越周波数データのデータ点数は7200である。
グラフ1020及びグラフ1030は、図9に関連して説明したように、1分間の測定データを衝撃時刻で分割した部分データの離散フーリエ変換FFT(Wi')のアンサンブル平均に基づいて得られた卓越周波数を示す。グラフ1020は、ピーク強度比に基づく卓越周波数の取捨を行っていないものを示す。したがって、グラフ1020の卓越周波数データのデータ点数は7200である。グラフ1030は、ピーク強度比に基づく卓越周波数の取捨を行ったものを示す。これにより、グラフ1030の卓越周波数データのデータ点数は7200未満となっている。
図11は、第2周波数帯の卓越周波数データのグラフである。図11に示す各グラフの横軸は時刻であり、縦軸は卓越周波数である。各グラフは、5日間の測定データに基づいて特定された卓越周波数を表す。
グラフ1110は、比較例として、1分間の測定データ全体の離散フーリエ変換により特定された第2周波数帯の卓越周波数を示す。なお、1分間の測定データにつき1つの卓越周波数が特定される。そのため、5日間の測定データからは7200個の卓越周波数が得られる。つまり、グラフ1010の卓越周波数データのデータ点数は7200である。
グラフ1120及びグラフ1130は、図9に関連して説明したように、1分間の測定データを衝撃時刻で分割した部分データの離散フーリエ変換FFT(Wi')のアンサンブル平均に基づいて得られた卓越周波数を示す。グラフ1120は、ピーク強度比に基づく卓越周波数の取捨を行っていないものを示す。したがって、グラフ1120の卓越周波数データのデータ点数は7200である。グラフ1130は、ピーク強度比に基づく卓越周波数の取捨を行ったものを示す。これにより、グラフ1030の卓越周波数データのデータ点数は7200未満となっている。
1分間の測定データ全体を離散フーリエ変換した場合、第1周波数帯の卓越周波数の標準偏差σは5.1mHzであり、第2周波数帯の卓越周波数の標準偏差σは6.3mHzであった。また、グラフ1010及びグラフ1110から分かるように、卓越周波数の時間変化を判別することができない。
これに対し、衝撃時刻で分割して離散フーリエ変換してアンサンブル平均することにより、第1周波数帯の卓越周波数の標準偏差は2.4mHzであり、第2周波数帯の卓越周波数の標準偏差は3.9mHzとなった。また、ピーク強度比に基づく卓越周波数の取捨を行うことにより、第1周波数帯の卓越周波数の標準偏差は1.5mHzに減少し、第2周波数帯の卓越周波数の標準偏差は2.4mHzに減少した。このように、衝撃時刻で分割することにより、卓越周波数のばらつきを減少させことができることが分かる。
特にグラフ1030及びグラフ1130から分かるように、約5000分と約6500分の時間帯で卓越周波数が低下したことを容易に判別できるようになっている。この卓越周波数の低下は、この時間帯の気象データから、日中の晴天時の太陽光によって道路情報板の支柱が暖められてバネ定数が低くなり、共振周波数が低下したことが原因であることが判明している。
以上に説明した卓越周波数の解析手法によれば、比較的に高い精度で卓越周波数を算出することが可能となる。そのため、構造体の振動特性をより詳細に診断することが可能となる。
図12は、測定データのデータ長と卓越周波数の標準偏差との関係を示す。図12の横軸はデータ長を示し、縦軸は、第1周波数帯の卓越周波数の標準偏差を示す。
グラフ1210は、FFT(Wall)に基づく標準偏差のデータ長依存性を示す。グラフ1220は、上述したように、FFT(Wi')のアンサンブル平均とピーク強度比に基づく卓越周波数の取捨とを行った場合の標準偏差のデータ長さ依存性を示す。
図12のグラフに示されるように、データ長を長くすれば、卓越周波数の精度は高まる。上述したように、測定データ全体をフーリエ変換する手法によれば、データ長を1分とした場合、第1周波数帯の標準偏差σは5.1mHzとなった。これに対し、図12のグラフに示されるように、データ長を60分にすることで、標準偏差σは1.5mHzまで低下した。
つまり、本実施形態で説明した解析手法を用いることで、1分のデータ長から1.5mHzの標準偏差で卓越周波数を特定することが可能である。グラフ1210とグラフ1220とを比較して分かるように、本実施形態で説明した解析手法により得られる周波数精度は、60分のデータ長の測定データ全体をフーリエ変換する手法により得られる周波数精度より高いことがわかる。すなわち、所望の精度を得るために60分間の測定が必要な用途において、本実施形態で説明した解析手法を用いることで、1分間の測定によって同等以上の精度が得られることを意味する。そのため、本実施形態で説明した解析手法を用いることで、低消費電力が要求される用途では間欠計測を行って、測定を行う時間を短くすることが可能になる。
例えば、収集装置90は、加速度センサ40及び加速度センサ50に1分間の測定を間欠的に行わせ、加速度センサ40及び加速度センサ50から収集した1分間のデータを、送信機110から間欠的に送信させてよい。これにより、加速度センサ40及び加速度センサ50の測定に必要な消費電力と、送信機110の通信に必要な消費電力を削減することができる。
図13は、解析装置100が行うデータ解析方法に係るフローチャートである。図13のフローチャートは、送信機110から測定データを受信する毎に、制御部260が主体となって実行される。
S1300において、取得部200は、送信機110から送信された加速度センサ40及び加速度センサ50の測定データを、通信部290を通じて取得する。測定データのデータ長は1分間であるとする。S1302において、特定部210は、加速度センサ50の測定データに基づいて、衝撃時刻を特定する。
S1304において、データ生成部230は、衝撃時刻の間の時間間隔が、時間閾値以上の期間を、解析対象期間として特定する。時間閾値は、解析対象とする複数の周波数に基づいて定まる。例えば、1.48Hz及び1.65Hzの周波数を解析対象とする場合、時間閾値は5.88秒に定められる。
S1306において、データ生成部230は、1分間の測定データから、衝撃時刻で区切ることにより、解析対象期間のデータを切り出して、部分データを生成する。S1308において、データ生成部230は、各部分データをゼロ詰めして、FFTに基づく離散フーリエ変換の対象となる入力データを生成する。具体的には、データ生成部230は、サンプル数が131072になるように、切り出した部分データにゼロデータを付け足す。
S1310において、周波数解析部240は、FFTにより、各入力データから第1周波数帯及び第2周波数帯のそれぞれの周波数成分を算出して振動強度を算出する。具体的には、周波数解析部240は、入力データのそれぞれから周波数毎に周波数成分を算出し、アンサンブル平均をとる。周波数解析部240は、3軸の各軸について、算出した周波数成分の二乗和を算出する。周波数解析部240は、各軸について得られた周波数成分の二乗和の和の平方根を、振動強度として周波数毎に算出する。
S1312において、周波数特定部250は、各周波数帯について、卓越周波数及びピーク強度を特定する。S1314において、周波数特定部250は、ピーク強度比に基づいて、卓越周波数を取捨する。具体的には、周波数特定部250は、ピーク強度比が閾値以上の場合、第2周波数帯の卓越周波数を卓越周波数データとして採用し、ピーク強度比が閾値未満の場合、第1周波数帯の卓越周波数を卓越周波数データとして採用する。
S1316において、S1314において算出した卓越周波数が予め定められた範囲外であるか否かを判断する。卓越周波数が予め定められた範囲外である場合、S1320において、卓越周波数が範囲外になったことを道路の管理者に通知し、卓越周波数が予め定められた範囲内にある場合、本フローチャートの処理を終了する。
なお、図13は、送信機110から1分間のデータ長の測定データが送信される場合のフローチャートである。送信機110から1分間以上のデータ長の測定データが送信される場合、解析装置100は、受信した測定データを1分間毎に切り出して、切り出した1分間の測定データのそれぞれについて、S1302以降の処理を繰り返し行ってよい。なお、測定データとするデータ長は1分に限定されない。測定データのデータ長は、解析対象とする構造物や解析対象とする周波数に応じて適宜設定されてよい。
以上に説明したように、本実施形態のモニタリングシステム10によれば、衝撃時刻で測定データを分割して周波数解析を行うので、より高い精度で道路情報板80の卓越周波数を特定することができる。
なお、以上に説明したモニタリングシステム10では、第1周波数帯及び第2周波数帯のそれぞれについて周波数成分を算出するものとした。しかし、周波数解析部240は、第1周波数帯及び第2周波数帯を含む単一の周波数帯全体にわたって周波数成分を算出して、周波数特定部250は、単一の周波数帯全体にわたる周波数成分に基づいて周波数スペクトルのピーク分離を行うことによって、複数の卓越周波数を特定してもよい。
本実施形態では、衝撃時刻を特定するためにベースプレート83に設置した加速度センサ50を用いた。道路情報板80のように路肩近傍を車両が通過することにより道路情報板80に衝撃が加わる場合、特定部210は、道路情報板80の周囲を撮影するカメラから得られた画像情報や、走行車線を走行する車両を検出するための赤外線センサ等の物体センサから得られたセンサ情報に基づいて、道路情報板80の近傍を車両が通過した時刻を衝撃時刻として特定してよい。
本実施形態において、特定部210は、加速度センサ40によって測定された加速度の測定データに基づいて衝撃時刻を特定してよい。表示プレート84の振動は、道路情報板80の全体の振動成分に加えて、ベースプレート83及び支柱81を通じて伝わる振動成分が含まれると考えられる。そのため、加速度センサ40の測定データから、ベースプレート83及び支柱81を通じて表示プレート84に伝わる振動成分に対応する加速度成分を抽出することによって、衝撃時刻を特定し得る。図14から図16に関連して、加速度センサ40の測定データから衝撃時刻を特定するための解析方法を説明する。
図14は、加速度センサ50により測定された加速度データ、加速度センサ40により測定された加速度データ、及び加速度センサ40により測定された加速度データを周波数制限することにより得られる加速度データを示す。図14に示されるグラフ1450、グラフ1440、グラフ1442の横軸は時刻であり、縦軸は加速度である。グラフ1450は、加速度センサ50により測定された時系列の加速度データのグラフである。グラフ1440は、加速度センサ40により測定された時系列の加速度データのグラフである。
グラフ1442は、加速度センサ40により得られた時系列の加速度データにハイパスフィルタを適用することによって低周波成分を制限して得られた時系列の加速度データのグラフである。ハイパスフィルタのカットオフ周波数は11Hzである。グラフ1442とグラフ1450を比較すると、加速度センサ40の加速度データの低周波成分を制限して得られる波形は、加速度センサ50により得られる波形と相関があることが分かる。
図15は、加速度センサ50で測定された加速度の大きさの時間変化と、加速度センサ40で測定された加速度を周波数制限して得られる加速度の大きさの時間変化とを示す。図15の横軸は時刻であり、縦軸は加速度である。グラフ1550及びグラフ1542は、それぞれ加速度センサ50及び加速度センサ40により測定された加速度の大きさの時系列データである。具体的には、グラフ1550は、加速度センサ50で測定された3軸の加速度の二乗和の平方根をとることにより得られる時系列データのグラフである。グラフ1542は、加速度センサ40で測定された3軸の加速度にハイパスフィルタを適用して得られた加速度の二乗和の平方根の平方根をとることにより得られる時系列データのグラフである。
グラフ1550及びグラフ1542において、衝撃時刻を特定するために設定した閾値を点線で示す。グラフ1550において、閾値を1.8galに設定すると、矢印で示す8個の衝撃時刻が得られる。グラフ1542において、閾値を4.2galに設定すると、矢印で示す8個の衝撃時刻が特定される。グラフ1550において特定された衝撃時刻とグラフ1542において特定された衝撃時刻とを比較すると、黒塗りの矢印で示される衝撃時刻を除く7個の衝撃時刻は概ね一致していることがわかる。
図16は、加速度センサ50から特定される衝撃時刻と加速度センサ40から特定される衝撃時刻との間の時刻差の分布を示す。図16のグラフの横軸は衝撃時刻の時刻差であり、縦軸は衝撃時刻の個数である。時刻差は、時刻差加速度センサ50で測定された加速度データから特定した衝撃時刻を基準時刻として、加速度センサ40で測定された加速度データを周波数制限したデータから特定した衝撃時刻から基準時刻を差し引くことによって算出される。
なお、図16のグラフは、5日間の測定データから得られたものである。基準時刻は、加速度センサ50で測定された加速度の大きさの時系列データに対して1.8galの閾値を設定することによって特定された衝撃時刻であるとする。また、上述したように加速度センサ40で得られた加速度に11Hzのカットオフ周波数を持つハイパスフィルタを適用して得られた加速度の大きさの時系列データに対して、4.2galの閾値を設定することによって、加速度センサ40の加速度データから衝撃時刻を特定した。
以上により特定された衝撃時刻のうち、時刻差が±0.3秒以内の割合は約85%であり、時刻差が±0.5秒以内の割合は約92%であった。したがって、加速度センサ40で測定された加速度データを周波数制限したデータを用いて、十分な精度で衝撃時刻を特定し得るといえる。
図14から図16に関連して説明したように、表示プレート84に設置された加速度センサ40の測定データを周波数制限することによって、十分な精度で衝撃時刻を特定し得ることが検証された。そこで、特定部210は、加速度センサ40で測定された加速度にハイパスフィルタを適用することによって周波数制限した加速度の時系列データを生成して、生成した加速度の時系列データに基づいて、衝撃時刻を特定する。具体的には、特定部210は、上述したように、加速度センサ40で測定された3軸の加速度にハイパスフィルタを適用して得られた加速度の二乗和を算出し、二乗和の平方根を算出することによって加速度の大きさの時系列データを生成し、当該加速度の大きさの時系列データに基づいて、衝撃時刻を特定する。
道路情報板80は、解析装置100による解析対象となる構造体の一例である。解析装置100による解析対象となる構造体としては、鉄塔、電信柱、電力柱、架線柱、照明塔、広告塔、標識塔、信号機、電波塔、橋梁、トンネル、建築物、ガードレール、空港の管制塔、飛行場灯台、鉄道信号機、鉄道橋、クレーン、ダム、堤防、溝渠等を含んでよい。道路情報板80は、工作物以外の構造物、例えば土構造物等であってよい。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
特許請求の範囲、明細書、及び図面中において示した装置、システム、プログラム、及び方法における動作、手順、ステップ、及び段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、及び図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。