JP7316827B2 - ジルコニア強化剤、強化方法及び歯冠修復物 - Google Patents

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本発明は、主として歯冠修復に用いるジルコニアの強化剤、強化方法、ジルコニア焼結体及びその製造方法、並びに、歯冠修復物に関する。
歯冠修復に用いる材料の一つとして、ジルコニアが知られている。ジルコニアは、室温では単斜晶系の結晶構造となっており、温度を上げると相転移を生じて正方晶、立方晶の結晶構造となる。特に、正方晶や立方晶のジルコニアは、曲げ強さ及び破壊靭性の特性が格段に優れていることから、オールセラミックス製歯冠修復物として利用されている。
オールセラミックス製歯冠修復物を作製する方法の一つとして、正方晶安定化ジルコニア半焼結体を用いる方法が知られている。この方法では、はじめにCAD/CAMシステムを用いて正方晶安定化ジルコニア半焼結体を所定形状に切削加工し、その後、焼結させることでコアを作製し、このコアに対してサンドプラスト処理を施した後に、前装用陶材を築盛して焼結することで歯冠修復物としている。前装用陶材は、歯冠修復物を患者の歯の色に適合させるための調整材である。コアは、ジルコニア焼結体となっている。
ここで、コアに対してサンドプラスト処理を施しているが、このサンドプラスト処理では、粉末状の研削剤をコアに吹き付けることでコアの表面を研削しており、極めて大きな機械エネルギーがコアの表面に作用していることとなっている。この機械エネルギーによってコアの表面の結晶相に変態が生じて単斜晶が生じていることが知られている。しかも、コアの表面には機械エネルギーによって圧縮応力が生じ、さらにコアの機械的強度が向上することも知られている。
しかしながら、サンドプラスト処理の後工程において前装用陶材の焼結処理を行うことで、この焼結のための熱処理によって結晶回復が生じて単斜晶が立方晶となり、かつ応力緩和が生じることで機械的強度が低下することが知られている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照。)。
オールセラミックス製歯冠修復物を作製する別の方法として、部分安定化ジルコニア半焼結体を用いる方法も知られている。この方法でも、はじめにCAD/CAMシステムを用いて部分安定化ジルコニア半焼結体を所定形状に切削加工し、その後、直ちにサンドプラスト処理を施し、グレージング用陶材を塗布して焼結することで歯冠修復物としている。この部分安定化ジルコニア半焼結体を用いた場合には、サンドプラスト処理によって表面に単斜晶が生じることはなく、また圧縮応力が残留した応力相の形成も認められず、機械的強度が正方晶安定化ジルコニア半焼結体を使用した場合と比較して低いことが知られている。
また別の観点では、安定化剤としてイットリアを含むジルコニア焼結体が、その強度の高さから、近年、歯冠修復物等の歯科材料の用途に使用されている。これらの歯冠修復物は、多くの場合、ジルコニア粒子をプレス成形したりジルコニア粒子を含むスラリーや組成物を用いて成形したりするなどして円盤状や角柱状等の所望の形状を有するジルコニア成形体とし、次いでこれを仮焼して半焼結体(ミルブランク)とし、これを目的とする歯冠修復物の形状に切削(ミリング)した上で、さらに焼結することにより製造されている。
これまでに、ジルコニア焼結体のイットリア量を増量することで、立方晶の割合が増大し、透光性が向上することが確認されている。しかし、立方晶の割合が増大することで強度は低下してしまい、強度が低下すると使用可能な症例が限定されるため、透光性を維持したまま強度を向上させる手法の開発もまた望まれている。一方、セラミックスの強度を向上させる手法として、セラミックスに粒子含有液を噴射する手法が報告されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1に記載の手法では均一に強度を向上させるために専用の装置が必要であり、また、粒子含有液を噴霧後に洗浄を施す必要があるなど煩雑な操作が必要であった。加えて、本発明者らが検討した結果、例えばシリカ粒子など、用いる粒子の種類によっては透光性が低下してしまうことが明らかとなった。
特開2019-013756号公報
Guazzato M, Quach L, Albakry M, Swain MV. Influence of surface and heat treatments on the flexural strength of Y-TZP dental ceramic. J Dent. 2005;33(1):9-18. Passos SP, Linke B, Majora PW, Nychka JA. The effect of air-abrasion and heat treatment on the fracture behavior of Y-TZP. Dent Mater. 2 015;31(9):1011-1021.
本発明は、機械的強度を向上させたオールセラミックス製歯冠修復物を提供可能とするジルコニア強化剤、及びジルコニア焼結体の強化方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の結晶相のジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕~〔16〕に関する。
〔1〕単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤。
〔2〕所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて得られるジルコニア焼結体の表面に塗工して熱処理することで、前記ジルコニア焼結体の機械的強度を向上させる、〔1〕に記載のジルコニア強化剤。
〔3〕所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて得られるジルコニア焼結体の機械的強度を向上させるジルコニア焼結体の強化方法であって、前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程を有するジルコニア焼結体の強化方法。
〔4〕前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程が、前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア粒子、又は単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を塗工する工程と、前記塗工材を塗工したジルコニア焼結体を熱処理する工程と、を有する、〔3〕に記載のジルコニア焼結体の強化方法。
〔5〕所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて得られるジルコニア焼結体の機械的強度を向上させるジルコニア焼結体の強化方法であって、焼結前の前記正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は前記部分安定化ジルコニア半焼結体の表面に単斜晶ジルコニア粒子、又は単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を塗工する工程と、前記正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は前記部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させてジルコニア焼結体を得る工程と、を有する、ジルコニア焼結体の強化方法。
〔6〕表面の少なくとも一部に単斜晶ジルコニア相を有するジルコニア焼結体。
〔7〕所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて成る歯冠修復物において、前記歯冠修復物の表面に単斜晶ジルコニア相を有する歯冠修復物。
〔8〕平均一次粒子径が30nm以下であるジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤。
〔9〕さらに水又はアルコールを含有する、〔8〕に記載のジルコニア強化剤。
〔10〕〔8〕又は〔9〕に記載のジルコニア強化剤を、ジルコニア焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程と、前記ジルコニア強化剤が塗工されたジルコニア焼結体を熱処理する工程を有する、ジルコニア焼結体の強化方法。
〔11〕二軸曲げ強さを5%以上向上させる、〔10〕に記載のジルコニア焼結体の強化方法。
〔12〕△L*(W-B)の変化率が5%以下である、〔10〕又は〔11〕に記載のジルコニア焼結体の強化方法。
〔13〕前記熱処理の温度が、900℃を下限とし前記ジルコニア焼結体を作製した際の焼結温度を上限とする範囲である、〔10〕~〔12〕のいずれかに記載のジルコニア焼結体の強化方法。
〔14〕〔1〕又は〔2〕に記載のジルコニア強化剤を、ジルコニア焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程と、前記ジルコニア強化剤が塗工されたジルコニア焼結体を熱処理する工程を有する、強化ジルコニア焼結体の製造方法。
〔15〕〔1〕又は〔2〕に記載のジルコニア強化剤を、所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程と、前記ジルコニア強化剤が塗工された前記正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は前記部分安定化ジルコニア半焼結体を熱処理する工程を有する、強化ジルコニア焼結体の製造方法。
〔16〕〔8〕又は〔9〕に記載のジルコニア強化剤を、ジルコニア焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程と、前記ジルコニア強化剤が塗工されたジルコニア焼結体を熱処理する工程を有する、強化ジルコニア焼結体の製造方法。
本発明によれば、ジルコニア焼結体の機械的強度を向上させることができるジルコニア強化剤、及びジルコニア焼結体の強化方法を提供できる。
また、本発明の別の特定の実施態様によれば、特定の平均一次粒子径のジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤によれば、透光性を損ねることなくジルコニア焼結体の機械的強度を向上させることができるジルコニア強化剤、及びそれを用いたジルコニア焼結体の強化方法を提供できる。
単斜晶ジルコニア粒子のX線回折パターンのグラフである。 単斜晶ジルコニア粒子の塗工量と単斜晶ジルコニア相の形成状態の相関を示すグラフである。 塗工量が0μL/mm2(未処理)の場合と、塗工量が0.2μL/mm2の場合とでの二軸曲げ試験結果のグラフである。 単斜晶ジルコニア粒子の塗工量とジルコニア焼結体表面の表面粗さの相関を示すグラフである。 単斜晶ジルコニア粒子の塗工量とジルコニア焼結体表面のピッカース硬さの相関を示すグラフである。 実施例1-3におけるX線回折の結果である。 実施例1-3における二軸曲げ試験結果のグラフである。 実施例1-4における二軸曲げ試験結果のグラフである。
<第一実施態様;単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤>
本発明の第一実施態様としては、単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤が挙げられる。本実施態様のジルコニア焼結体の強化方法、ジルコニア焼結体及び歯冠修復物では、所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体(以下、これらを総称して単に「ジルコニア半焼結体」と称することがある。)を焼結させて得られるジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成することで機械的強度を向上させている。また、本発明のジルコニア焼結体の強化方法では、正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体の焼結とともにジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成してもよい。
ジルコニア半焼結体は、安定化剤を含むことが好ましい。該安定化剤としては、公知の安定化剤を用いることができ、例えば、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y23;以下、「イットリア」ともいう。)、酸化セリウム(CeO2)、酸化スカンジウム(Sc23)等の酸化物が挙げられ、その中でもイットリアが好ましい。正方晶安定化ジルコニア半焼結体としては、例えば、イットリア安定化正方晶ジルコニア半焼結体(Y-TZP;Yttria-Doped Tetragonal Zirconia Polycrystal)等が挙げられる。部分安定化ジルコニア半焼結体としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア半焼結体(YSZ;Yttria Stabilized Zirconia)等が挙げられる。
単斜晶ジルコニア相を形成するには、単斜晶ジルコニア粒子を用いる。単斜晶ジルコニア粒子は、平均一次粒子径が1nm~200μmであり、1nm~100μmが好ましく、1nm~10μmがより好ましく、1nm~1μmがさらに好ましく、1nm~500nmが特に好ましい。この単斜晶ジルコニア粒子をジルコニア焼結体の表面に付着あるいは担持させて、熱処理することで薄膜状の単斜晶ジルコニア相を形成している。本明細書において、平均粒子径は平均一次粒子径を意味し、平均一次粒子径は、レーザー回折散乱法又は粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的に、別途測定方法が記載されている場合を除いて、平均一次粒子径の測定方法は、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が簡便であり、0.1μm未満の粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。なお、0.1μm以上であるか否かの判別にはレーザー回折散乱法を採用すればよい。レーザー回折散乱法では、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「SALD-2300」等)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することで平均一次粒子径を求めることができる。電子顕微鏡観察では、例えば、粒子の透過型電子顕微鏡(TEM;例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製作所製透過型電子顕微鏡「H-9500」等)画像写真を撮り、そのSEM画像写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Macview」等)を用いて測定することにより平均一次粒子径を求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子の面積と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、粒子の数とその粒子径より平均一次粒子径が算出される。
本実施態様のジルコニア焼結体の強化方法は、所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて得られるジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程を有する。前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程としては、前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア粒子、又は単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を塗工する工程(塗工工程)と、前記塗工材を塗工したジルコニア焼結体を熱処理する工程(熱処理工程)と、を有することが好ましい。前記塗工工程において、単斜晶ジルコニア粒子は、(i)そのままの粉末状としてジルコニア焼結体の表面に付着させてもよく、(ii)単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤として、ジルコニア焼結体の表面に塗工してもよい。該ジルコニア強化剤としては、単斜晶ジルコニア粒子を分散させた分散液の形態であってもよく、単斜晶ジルコニア粒子を含有するチョーク、クレヨン、ペーストもしくはスラリーの形態であってもよい。このように表面塗工が可能なように調製されたジルコニア強化剤を、本発明において「塗工材」と称する。
(i)単斜晶ジルコニア粒子をそのままジルコニア焼結体の表面に付着させる場合、あらかじめ付着剤をジルコニア焼結体の表面に塗工しておくことが好ましく、この付着剤を介して単斜晶ジルコニア粒子をジルコニアの表面に付着させることができる。前記付着剤は、単斜晶ジルコニア粒子を含有していてもよいが、含有していなくてもよい。また、前記付着剤は、アルミナやシリカ等の適宜の粉末粒子を含有していてもよい。また、付着剤としては、バインダー(例えば、ポリアクリル酸、ポリピニルアルコール、ポリ酢酸ピニル、ポリピニルピロリドン等)を含む水溶液もしくはアルコール(例えばエタノール)などの有機溶剤溶液を含有していてもよい。さらに、単斜晶ジルコニア粒子が極めて微粉末である場合には、付着剤ではなく、静電気を利用することもできる。あるいは、単斜晶ジルコニア粒子をテープ状あるいはシール状に加工して、ジルコニアの表面に貼り付けてもよい。
(ii)塗工材の形態としてジルコニア強化剤に含まれる単斜晶ジルコニア粒子をジルコニア焼結体の表面に付着させる場合、塗工材は、水、アルコール、樹脂等の適宜の溶媒を用いる。塗工材には、ポリアクリル酸、ポリピニルアルコール、ポリ酢酸ピニル、ポリピニルピロリドン等のポリマー;シリカ等を分散安定剤あるいはバインダーとして含有させてもよい。また、特に、ジルコニア焼結体を歯冠修復物とする場合には、適宜の顔料や色素を含有させることで色調調整することができる。塗工工程において、単斜晶ジルコニア粒子、又は単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤は、前記ジルコニア焼結体の表面の少なくとも一部に塗工されていればよく、ジルコニア焼結体の全面に塗工されていてもよい。ジルコニア半焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する場合も、ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する場合と同様にして行うことができる。
単斜晶ジルコニア相を形成するために行うジルコニア焼結体の熱処理は、使用する顔料や色素に応じて焼結雰囲気を適宜調整することが好ましい。ジルコニア焼結体の熱処理温度は、500~1600℃が好ましく、800~1550℃がより好ましく、1000~1550℃がさらに好ましい。また、単斜晶ジルコニア相を形成するために行うジルコニア半焼結体の熱処理は、使用する顔料や色素に応じて焼結雰囲気を適宜調整することが好ましい。ジルコニア半焼結体の熱処理は、500~1600℃が好ましく、1300~1600℃がより好ましく、1400~1660℃がさらに好ましい。本発明において、機械的強度が向上する理由は定かではないが、ジルコニア焼結体又はジルコニア半焼結体の表面に塗工された単斜晶ジルコニア粒子又はジルコニア強化剤に含まれる単斜晶ジルコニア粒子が焼結する際に焼結ジルコニア表面に応力集中が発生するためであると考えられる。
このように、本発明の表面の少なくとも一部に単斜晶ジルコニア相を形成されたジルコニア焼結体は、表面の少なくとも一部に単斜晶ジルコニア相を有することによって機械的強度が向上されている。該ジルコニア焼結体の強化方法を用いて得られる強化後のジルコニア焼結体を歯冠修復物として使用した場合には、前記歯冠修復物の表面に単斜晶ジルコニア相を有する。これによって、該歯冠修復物は、強い破壊靭性を示すことができることから、ジルコニアプリッジの信頼性及び安全性を向上させることができる。また、より薄い補綴物が作製可能となることから、歯の切削量の低減が期待できる。さらには、補綴物の透明性を向上させることができ、審美性により優れた歯科補綴物を作製可能とすることができる。
<第二実施態様;ナノジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤>
次に、本発明の第二実施態様としては、平均一次粒子径が30nm以下であるジルコニア粒子(以下、第一実施態様と区別して「ナノジルコニア粒子」と称することがある。)を含有するジルコニア強化剤が挙げられる。該ジルコニア強化剤を用いることにより、ジルコニア焼結体の透光性を損ねることなく機械的強度を向上させることができる。好適には、該ジルコニア強化剤をジルコニア焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程と、前記ジルコニア強化剤が塗工されたジルコニア焼結体を熱処理する工程を有する、ジルコニア焼結体の強化方法が挙げられる。このようなジルコニア焼結体の強化方法を用いることで、ジルコニア焼結体の透光性を損ねることなく機械的強度を向上させることができる。以下に、該実施態様について詳細を説明する。
〔ジルコニア強化剤〕
本実施態様のナノジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤の形態としては、第一実施態様の塗工材と同様のものが挙げられ、スラリー、分散液が好ましい。ナノジルコニア粒子の結晶相は単斜晶、正方晶、立方晶のいずれでもよく、これらの混合物でも構わないが、好ましくは単斜晶である。ナノジルコニア粒子は安定化剤を含むものであってもよく、含まないものであっても何ら制限なく用いることができる。ナノジルコニア粒子が安定化剤を含む場合、公知の安定化剤を用いることができるが、その中でもイットリアが好ましい。ナノジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有量としては9.0モル%以下が好ましい。ナノジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有量が9.0モル%を超えるジルコニア強化剤を塗工した場合、ジルコニア強化剤とジルコニア焼結体の焼結温度が高くなり過ぎてしまい、ジルコニア焼結体の結晶粒子が粗大化し、機械的強度の低下を引き起こす可能性がある。ナノジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有量としては7.0モル%以下がより好ましく、5.0モル%以下がさらに好ましい。なお、ナノジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有量は、ジルコニアとイットリアの合計モル数に対するイットリアのモル数の割合(モル%)を意味する。
本発明のナノジルコニア粒子の平均一次粒子径は30nm以下である。ナノジルコニア粒子の平均一次粒子径が30nmを超える場合、前述した単斜晶ジルコニア粒子でなければ、ジルコニア焼結体と緻密に焼結することができず、機械的強度の向上が期待できない。ジルコニア粒子の平均一次粒子径は、製造の容易さなどの観点から20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましく、10nm以下であってもよく、また、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。なお、本発明におけるジルコニア粒子の平均一次粒子径は、例えば、ジルコニア粒子(一次粒子)を透過型電子顕微鏡(TEM)にて写真撮影し、得られた画像上で任意の粒子100個について各粒子の粒子径(最大径)を測定し、それらの平均値として求めることができる。
ナノジルコニア粒子の調製方法に特に制限はなく、例えば、粗粒子を粉砕して微粉化するブレークダウンプロセス、原子ないしイオンから核生成と成長過程により合成するビルディングアッププロセスなどを採用することができる。このうち、高純度の微細なナノジルコニア粒子を得るためには、ビルディングアッププロセスが好ましい。
ブレークダウンプロセスは、例えば、ボールミルやビーズミルなどで粉砕することにより行うことができる。この際、微小サイズの粉砕メディアを使用することが好ましく、例えば、100μm以下の粉砕メディアを使用することが好ましい。また粉砕後に分級することが好ましい。
一方、ビルディングアッププロセスとしては、例えば、蒸気圧の高い金属イオンの酸素酸塩又は有機金属化合物を気化させながら熱分解して酸化物を析出させる気相熱分解法;蒸気圧の高い金属化合物の気体と反応ガスとの気相化学反応により合成を行う気相反応法;原料を加熱し気化させ、所定圧力の不活性ガス中で急冷することにより蒸気を微粒子状に凝縮させる蒸発濃縮法;融液を小液滴として冷却固化して粉末とする融液法;溶媒を蒸発させ液中濃度を高め過飽和状態にして析出させる溶媒蒸発法;沈殿剤との反応や加水分解により溶質濃度を過飽和状態とし、核生成と成長過程を経て酸化物や水酸化物等の難溶性化合物を析出させる沈殿法などが挙げられる。
沈殿法はさらに、化学反応により沈殿剤を溶液内で生成させ、沈殿剤濃度の局所的不均一をなくす均一沈殿法;液中に共存する複数の金属イオンを沈殿剤の添加によって同時に沈殿させる共沈法;金属塩溶液、金属アルコキシド等のアルコール溶液から加水分解によって酸化物又は水酸化物を得る加水分解法;高温高圧の流体から酸化物又は水酸化物を得るソルボサーマル合成法などに細別され、ソルボサーマル合成法は、水を溶媒として用いる水熱合成法、水や二酸化炭素等の超臨界流体を溶媒として用いる超臨界合成法などにさらに細別される。
いずれのビルディングアッププロセスについても、より微細なジルコニア粒子を得るために析出速度を速めることが好ましい。また得られたジルコニア粒子は分級することが好ましい。
ビルディングアッププロセスにおけるジルコニウム源としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、アルコキシドなどを用いることができ、具体的には、オキシ塩化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硝酸ジルコニルなどを用いることができる。
また、ナノジルコニア粒子に含まれるイットリアの含有量を上記範囲とするためにナノジルコニア粒子の製造過程でイットリアを配合することができ、例えばナノジルコニア粒子にイットリアを固溶させてもよい。イットリウム源としては、例えば、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、アルコキシドなどを用いることができ、具体的には、塩化イットリウム、酢酸イットリウム、硝酸イットリウムなどを用いることができる。
ナノジルコニア粒子は、必要に応じて、酸性基を有する有機化合物;飽和脂肪酸アミド、不飽和脂肪酸アミド、飽和脂肪酸ビスアミド、不飽和脂肪酸ビスアミド等の脂肪酸アミド;シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物等の有機金属化合物などの公知の表面処理剤で予め表面処理されていてもよい。ナノジルコニア粒子を表面処理するとスラリー中での分散安定性を向上することができる。
酸性基を有する有機化合物としては、例えば、リン酸基、カルボン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する有機化合物が挙げられ、これらの中でも、リン酸基を少なくとも1個有するリン酸基含有有機化合物、カルボン酸基を少なくとも1個有するカルボン酸基含有有機化合物が好ましく、リン酸基含有有機化合物がより好ましい。ナノジルコニア粒子は1種の表面処理剤で表面処理されていてもよいし、2種以上の表面処理剤で表面処理されていてもよい。ジルコニア粒子を2種以上の表面処理剤で表面処理する場合には、それによる表面処理層は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層であってもよいし、複数の表面処理層が積層された複層構造の表面処理層であってもよい。
リン酸基含有有機化合物としては、例えば、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
カルボン酸基含有有機化合物としては、例えば、コハク酸、シュウ酸、オクタン酸、デカン酸、ステアリン酸、ポリアクリル酸、4-メチルオクタン酸、ネオデカン酸、ピバリン酸、2,2-ジメチル酪酸、3,3-ジメチル酪酸、2,2-ジメチル吉草酸、2,2-ジエチル酪酸、3,3-ジエチル酪酸、ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、p-ビニル安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレエート、2-(2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ)酢酸(通称「MEEAA」)、2-(2-メトキシエトキシ)酢酸(通称「MEAA」)、コハク酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、マレイン酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、グルタル酸モノ[2-(2-メトキシエトキシ)エチル]エステル、マロン酸、グルタル酸、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、及びこれらの酸無水物、酸ハロゲン化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられる。
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基等の、上記以外の酸性基を少なくとも1個有する有機化合物としては、例えば、国際公開第2012/042911号などに記載のものを用いることができる。
飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸アミドとしては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドなどが挙げられる。飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドなどが挙げられる。不飽和脂肪酸ビスアミドとしては、例えば、エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’-ジオレイルセバシン酸アミドなどが挙げられる。
シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)としては、例えば、R1 nSiX4-nで表される化合物などが挙げられる(式中、R1は炭素数1~12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Xは炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子であり、nは0~3の整数であり、ただし、R1及びXが複数存在する場合は、それぞれ、同一であっても異なっていてもよい)。R1の炭化水素基が有する置換基としては、アミノ基、置換アミノ基、フェニル基、ビニル基、メルカプト基、(メタ)アクリロイルオキシ基、グリシドキシ基、エポキシ基等が挙げられる。
シランカップリング剤(有機ケイ素化合物)の具体例としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等〕などが挙げられる。なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」との表記は、メタクリロイルとアクリロイルの両者を包含する意味で用いられる。
これらの中でも、官能基(例えば、アミノ基、置換アミノ基、フェニル基、ビニル基、メルカプト基、(メタ)アクリロイルオキシ基、グリシドキシ基、エポキシ基等)を有するシランカップリング剤が好ましく、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネートなどが挙げられる。
有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニルアセテートなどが挙げられる。
有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物などが挙げられる。
表面処理の具体的な方法に特に制限はなく、公知の方法を採用することができ、例えば、ジルコニア粒子を激しく撹拌しながら上記の表面処理剤をスプレー添加する方法や、適当な溶剤にナノジルコニア粒子と上記の表面処理剤とを分散又は溶解させた後、溶剤を除去する方法などを採用することができる。
本発明のジルコニア強化剤は、分散媒として水又は有機溶媒を含んでいてもよい。分散媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。有機溶媒としては公知の有機溶媒が何ら制限なく使用できるが、取扱いが容易であり、塗工したジルコニア強化剤から分散媒を留去させることが容易なことから、アルコール溶媒(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等)が好ましい。ジルコニア強化剤における分散媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールが好ましく、水、エタノール、2-プロパノールがより好ましく、水、エタノールがさらに好ましい。
本発明のジルコニア強化剤は、ジルコニア焼結体との密着性を向上させたり、ジルコニア粒子(単斜晶ジルコニア粒子、ナノジルコニア粒子)の沈降を防ぐためにバインダー、分散剤、乳化剤、pH調整剤等の添加剤を含んでいてもよい。添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸などが挙げられる。
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム(クエン酸三アンモニウム等)、ポリアクリル酸アンモニウム、アクリル共重合体樹脂、アクリル酸エステル共重合体、ポリアクリル酸、ベントナイト、カルボキシメチルセルロース、アニオン系界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル等など)、非イオン系界面活性剤、オレイングリセリド、アミン系界面活性剤、オリゴ糖アルコールなどが挙げられる。
乳化剤としては、例えば、アルキルエーテル、フェニルエーテル、ソルビタン誘導体、アンモニウム塩などが挙げられる。
pH調整剤としては、例えば、アンモニア、アンモニウム塩(水酸化テトラメチルアンモニウム等の水酸化アンモニウムを含む)、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
〔ジルコニア焼結体の強化方法〕
第二実施態様のジルコニア焼結体の強化方法としては、前記ナノジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を用いることが重要であり、該ジルコニア強化剤を、ジルコニア焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程(塗工工程)と、前記ジルコニア強化剤が塗工されたジルコニア焼結体を熱処理する工程(熱処理工程)を有することが好ましい。ジルコニア強化剤が分散媒を含む場合、塗工工程と熱処理工程の間に、塗工したジルコニア強化剤から分散媒を留去する工程を有していてもよい。
前記塗工工程としては公知の方法が何ら制限なく使用することができ、筆で塗工する方法や、スプレーを用いて吹きかける方法、インクジェットプリンターなどでジルコニア焼結体に印刷する手法などが挙げられるが、簡便さの観点から、筆で塗工する方法や、スプレーを用いて吹きかける方法が好ましく、筆で塗工する方法が特に好ましい。
ジルコニア強化剤が分散媒を含む場合に、塗工したジルコニア強化剤から分散媒を留去する工程としては、公知の方法を何ら制限なく使用することができ、空気や窒素、清掃などに用いるエアーダスターなどの気体を吹きかけて分散媒を留去する方法や、加熱して分散媒を留去する方法などが挙げられるが、簡便さの観点から気体を吹きかけて分散媒を留去する方法が好ましく、気体としては空気が好ましい。
本発明のジルコニア強化剤をジルコニア焼結体に塗工する前処理として、ジルコニア強化剤とジルコニア焼結体の密着性を高めるために、バインダーを含む前処理剤(好適には溶液)をジルコニア焼結体に塗工してもよい。
バインダーとしては、前記したジルコニア強化剤に含まれるバインダーと同じものが使用でき、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、アクリル系バインダー、ワックス系バインダー、ポリビニルブチラール、ポリメタクリル酸メチル、エチルセルロース、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジブチルフタル酸などが挙げられる。
バインダーを含む前処理剤が溶液である場合、その分散媒としては、水又は有機溶媒が挙げられ、有機溶媒としては公知の有機溶媒が何ら制限なく使用できるが、取扱いが容易であり、塗工したバインダーを含む前処理剤から分散媒を留去させることが容易なことからアルコール溶媒が好ましい。バインダーを含む前処理剤に含まれる分散媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールが好ましく、水、エタノール、2-プロパノールがより好ましく、水、エタノールがさらに好ましい。
例えば、筆を用いてジルコニア強化剤をジルコニア焼結体に塗工する場合、ジルコニア焼結体にバインダーを含む前処理剤を塗工し、さらに前処理剤が分散媒を含む場合は分散媒を留去し、次いでジルコニア強化剤を塗工することができる。バインダーを含む前処理剤を塗工した後に分散媒を留去する方法としては、ジルコニア強化剤の分散媒と同様、気体を吹きかけて留去する方法や、加熱する方法の他、流水で洗い流した後に気体を吹きかけて乾燥する方法でも構わない。
ジルコニア強化剤の塗工は積層して行うことが好ましい。積層する方法として、例えば、ジルコニア強化剤を一層塗工し、ジルコニア強化剤が分散媒を含む場合は分散媒を留去し、ジルコニア強化剤の二層目を塗工する方法が好ましい。ジルコニア強化剤の各層の間にバインダーを含む前処理剤を塗工する場合は、ジルコニア強化剤を一層塗工し、ジルコニア強化剤が分散媒を含む場合は分散媒を留去し、バインダーを含む前処理剤を塗工し、前処理剤が分散媒を含む場合は分散媒を留去し、ジルコニア強化剤の二層目を塗工する方法が好ましい。ジルコニア強化剤の積層数としては二層以上が好ましく、五層以上がさらに好ましく、七層以上が特に好ましい。
前記熱処理工程としては公知の方法が何ら制限なく用いることができ、例えば焼結炉を用いて行うことができる。焼結炉の種類に特に制限はなく、一般工業界で用いられる電気炉及び脱脂炉などを用いることができる。特に歯科材料用途で用いる場合は、従来の歯科用ジルコニア用焼結炉以外にも、焼結温度が比較的低い歯科用ポーセレンファーネスを用いることもできる。
前記熱処理の温度は、900℃を下限とし前記ジルコニア焼結体を作製した際の焼結温度を上限とする範囲であることが好ましい。前記温度が900℃未満だとジルコニア強化剤がジルコニア焼結体上で焼結せず、機械的強度の向上が期待できないおそれがある。また、前記ジルコニア焼結体を作製した温度よりも高い温度でジルコニア焼結体を加熱すると、ジルコニア焼結体の粒子が成長し機械的強度が低下してしまうおそれがある。なお、ジルコニア強化剤やバインダーを含む前処理剤に含まれる分散媒を留去する工程が、ジルコニア強化剤を塗工したジルコニア焼結体を熱処理する工程の中に含まれていても構わない。
前記熱処理工程において、目的とする強化後のジルコニア焼結体(本明細書において、強化後のジルコニアを「強化ジルコニア焼結体」と称することがある)を生産性よく効率的に安定して得ることができることなどから、熱処理を行う焼結時間は、5分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましく、30分以上であることがさらに好ましく、また、6時間以下であることが好ましく、4時間以下であることがより好ましく、2時間以下であることがさらに好ましい。
前記熱処理工程は常圧下で行ってもよいが、該常圧下での熱処理後に熱間等方圧加圧処理(HIP処理)を行うことで、強化ジルコニア焼結体についてさらなる透光性及び機械的強度の向上が可能である。
前記熱処理工程においてジルコニア焼結体を加熱する速度は2℃/分以上が好ましい。2℃/分を下回ると、作製時間が長くなりすぎるため効率が悪い場合がある。加熱する速度は5℃/分以上がさらに好ましく、7℃/分以上が特に好ましい。加熱する速度の上限は加熱装置に依存するため特にないが、例えば、200℃/分以下が好ましい。
前記ジルコニア焼結体の強化方法により、ジルコニア焼結体の透光性を損ねることなく機械的強度を向上させることができるが、強化前のジルコニア焼結体としては公知のジルコニア焼結体が何ら制限なく用いることができ、例えば、イットリアを2.0~9.0モル%含むジルコニア焼結体を用いることができる。
本発明のジルコニア焼結体は蛍光剤を含んでいてもよい。ジルコニア焼結体が蛍光剤を含むことにより、強化ジルコニア焼結体が蛍光性を有する。蛍光剤の種類に特に制限はなく、いずれかの波長の光で蛍光を発することができるもののうちの1種又は2種以上を用いることができる。このような蛍光剤としては金属元素を含むものが挙げられる。当該金属元素としては、例えば、Ga、Bi、Ce、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Tmなどが挙げられる。蛍光剤はこれらの金属元素のうちの1種を単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。これらの金属元素の中でも、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、Ga、Bi、Eu、Gd、Tmが好ましく、Bi、Euがより好ましい。本発明のジルコニア焼結体を製造する際に使用される蛍光剤としては、例えば、上記金属元素の酸化物、水酸化物、酢酸塩、硝酸塩などが挙げられる。また蛍光剤は、Y2SiO5:Ce、Y2SiO5:Tb、(Y,Gd,Eu)BO3、Y23:Eu、YAG:Ce、ZnGa24:Zn、BaMgAl1017:Euなどであってもよい。
前記蛍光剤の含有量に特に制限はなく、蛍光剤の種類やジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯冠修復物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して、蛍光剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。当該含有量が上記下限以上であることにより、ヒトの天然歯と比較しても蛍光性に劣ることがなく、また、当該含有量が上記上限以下であることにより、透光性や機械的強度の低下を抑制することができる。
本発明のジルコニア焼結体は着色剤を含んでいてもよい。ジルコニア焼結体が着色剤を含むことにより着色された強化ジルコニア焼結体となる。着色剤の種類に特に制限はなく、セラミックスを着色するために一般的に使用される公知の顔料や、公知の歯科用の液体着色剤などを用いることができる。着色剤としては金属元素を含むものなどが挙げられ、具体的には、鉄、バナジウム、プラセオジウム、エルビウム、クロム、ニッケル、マンガン等の金属元素を含む酸化物、複合酸化物、塩などが挙げられる。また市販されている着色剤を用いることもでき、例えば、Zirkonzahn社製のPrettau Colour Liquidなどを用いることもできる。ジルコニア焼結体は1種の着色剤を含んでいてもよいし、2種以上の着色剤を含んでいてもよい。
前記着色剤の含有量に特に制限はなく、着色剤の種類やジルコニア焼結体の用途などに応じて適宜調整することができるが、歯冠修復物として好ましく使用できるなどの観点から、ジルコニア焼結体に含まれるジルコニアの質量に対して、着色剤に含まれる金属元素の酸化物換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、また、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下、さらには0.05質量%以下であってもよい。
前記ジルコニア焼結体の強化方法を施した強化ジルコニア焼結体は機械的強度に優れ、強化前と比較して、ジルコニア焼結体の二軸曲げ強さを5%以上向上させることができる。前記ジルコニア焼結体の強化方法としては、二軸曲げ強さを10%以上向上させるものが好ましく、15%以上向上させるものがより好ましい。二軸曲げ強さの向上率は、ジルコニア強化剤の塗工量、平均粒子径、熱処理温度等によって、調整できる。強化ジルコニア焼結体がこのような二軸曲げ強さを有することで、例えば歯冠修復物として用いた際に口腔内での破折などを抑制することができる。なお、強化ジルコニア焼結体の二軸曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定することができる。
前記ジルコニア焼結体の強化方法を施した場合でも強化ジルコニア焼結体の透光性の低下を抑制することができ、ΔL*(W-B)の変化率を5%以下とすることができる。本発明において、ΔL*(W-B)は、白背景での明度(L*)と、黒背景での明度(L*)との差を意味し、具体的には、白背景でのL*値(JIS Z 8781-4:2013 測色-第4部:CIE 1976 L***色空間)と、黒背景でのL*値の差を意味する。白背景とは、JIS K 5600-4-1:1999第4部第1節に記載の隠ぺい率試験紙の白部を意味し、黒背景とは、前記隠ぺい率試験紙の黒部を意味する。
本発明において、強化前のジルコニア焼結体の主結晶相は正方晶及び立方晶のいずれであってもよく、強化前ジルコニア焼結体における立方晶の割合は結晶相の解析によって求めることができる。具体的には、ジルコニア焼結体の表面を鏡面加工した部分について、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)測定を行い、以下の式により求めることができる。
c = 100 × Ic/(Im+It+Ic
ここで、fcは強化前ジルコニア焼結体における立方晶の割合(%)を表し、Imは2θ=28度付近のピーク(単斜晶の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、Itは2θ=30度付近のピーク(正方晶の(111)面に基づくピーク)の高さを表し、Icは2θ=30度付近のピーク(立方晶の(111)面に基づくピーク)の高さを表す。なお、2θ=30度付近のピークが、正方晶の(111)面及び立方晶の(111)面の混相に基づくピークとして現れ、正方晶の(111)面に基づくピークと立方晶の(111)面に基づくピークとの分離が困難な場合には、リートベルト法を採用するなどして正方晶と立方晶の比を求めた上で、これを当該混相に基づくピークの高さ(It+c)に乗じることにより、It及びIcを求めることができる。
〔強化ジルコニア焼結体の用途〕
本発明のナノジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を用いたジルコニア焼結体の強化方法により得られる強化ジルコニア焼結体の用途に特に制限はなく、透光性及び機械的強度が共に優れることから、歯冠修復物等の歯科材料などとして特に好適である。本発明の強化ジルコニア焼結体は、特に臼歯部に使用される歯冠修復物や破折が起きやすいと思われる切縁部に使用することが好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等によって限定されるものではない。まず、本発明の第一実施態様について、各物性の測定方法は以下のとおりである。
[実施例1-1]
<単斜晶ジルコニア粒子の調製>
本発明で用いた単斜晶ジルコニア粒子は以下のようにして作製した。
すなわち、4モル/LのZrOCl2水溶液を200℃にて3日間水熱処理し、単斜晶ジルコニア粒子を析出させ、遠心洗浄することで得られた。この単斜晶ジルコニア粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察したところ、平均粒子径は約13nmであった。また、この単斜晶ジルコニア粒子の粉末X線回折試験(Rigaku製RINT2500HF)の結果を図1に示す。図1に示すように、単斜晶ジルコニアであることを確認した。以下において、この単斜晶ジルコニア粒子を用いた。
[実施例1-2]
<正方晶安定化ジルコニア半焼結体を焼結させたジルコニア焼結体の場合>
歯科用の正方晶安定化ジルコニア半焼結体(Lava(登録商標)Plus;3M Japan)を直径17mm、厚さ1.5mmに切削し、室温から800℃までは、20℃/分の速度で昇温し、800℃から1500℃までは、10℃/分の速度で昇温した後、1500℃にて2時間保持した。その後、800℃までは最高15℃/分の速度で降温させ、250℃までは最高25℃/分の速度で降温させ、自然冷却にて室温まで高温させることでジルコニア焼結体とした。このジルコニア焼結体の直径は14mm、厚さは1.2mmであった。
ジルコニア焼結体の両面を耐水ペーパー#120、#320、#600の順で研削し、ジルコニア焼結体の両面が互いに平行となるように調整し、片面にサンドプラスト処理を施した。サンドプラスト処理は、平均粒子径50μmのアルミナ粉末を用い、0.25MPaの条件で行った。
ジルコニア焼結体に塗工するジルコニア強化剤は、ポリアクリル酸を5wt%の濃度で含有させたエタノールに、上記実施例1の単斜晶ジルコニア粒子を分散させて作製した。ここで、ジルコニア強化剤に含まれる単斜晶ジルコニア粒子の濃度は5wt%とした。
ジルコニア焼結体のサンドプラスト処理面に上記ジルコニア強化剤を塗工し、室温で乾燥させた後、室温から950℃までは10℃/分の速度で昇温し、950℃にて1分間保持した。その後、自然冷却により室温まで降温させる熱処理を行った。
ここで、後述するように、ジルコニア焼結体へのジルコニア強化剤の塗工量を0~0.2μL/mm2の比率で異ならせた複数のサンプルを作製した。
熱処理によって形成される単斜晶ジルコニア相の評価は、以下のようにして行った。 すなわち、単斜晶ジルコニア相が形成されたジルコニア焼結体のX線回折(Rigaku製RINT2500HF)測定を行い、以下の式を用いて単斜晶の割合XMを計測した。
M={(-111)M+(111)M}/{(-111)M+(111)M+(101)T
ここで、(-111)Mはジルコニア単斜晶(-111)面(2e=28°)のピーク強度を表し、(111)Mはジルコニア単斜晶(111)面(2e=31.2°)のピーク強度を表し、(101)Tはジルコニア立方晶(101)面(2e=30°)のピーク強度を表す。
得られた結果を図2に示す。図2の横軸はジルコニア焼結体へのジルコニア強化剤の塗工量である。図2より、塗工量が0μL/mm2(未処理)の場合では単斜晶が検出されず、塗工量に応じて単斜晶の割合が増加することが確認できた。なお、正方晶安定化ジルコニア半焼結体を焼結させたジルコニア焼結体で、サンドプラスト処理後に熱処理を行わない場合の単斜晶の割合XMは、約6.6%であった。
単斜晶ジルコニア相が形成されることによる機械的強度向上効果の確認を二軸曲げ試験で行った。ここで、株式会社島津製作所製の試験機を用い、ISO 6872:2015に従い、クロスヘッド速度1.0mm/min、支持円の直径10mm、圧子直径1.4mmの条件として、二軸曲げ試験を行った。また、
dは試験片厚さ
uはポアッソン比(0.25)
1は支持円の半径
2は圧子半径
3は試験片半径
として、最大の曲げ荷重Pから次の式に従って二軸曲げ強さSを算出した。
Figure 0007316827000001
塗工量が0μL/mm2(未処理)の場合と、塗工量が0.2μL/mm2の場合とで二軸曲げ試験を行っており、結果を図3に示す。図3に示すように、塗工量を0.2μL/mm2として単斜晶ジルコニア相を形成することで二軸曲げ強さが有意に増加した。図3では、未処理の場合の二軸曲げ強さは1034MPaであり、ジルコニア強化剤を塗工した場合の二軸曲げ強さは1314MPaであった。よって、単斜晶ジルコニア相を形成することでジルコニア焼結体の機械的強度が向上していることが確認できた。
また、ジルコニア焼結体へのジルコニア強化剤の塗工量を0~0.2μL/mm2の比率で異ならせた各サンプルで、ジルコニア焼結体表面の表面粗さを計測した結果を図4に示す。さらに、ジルコニア焼結体へのジルコニア強化剤の塗工量を0~0.2μL/mm2の比率で異ならせた各サンプルで、ジルコニア焼結体表面のピッカース硬さを計測した結果を図5に示す。図4及び図5に示すように、ジルコニア焼結体表面への単斜晶ジルコニア相の形成により、表面粗さ及びピッカース硬さは変化しないことが確認できた。
[実施例1-3]
<部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させたジルコニアの場合(1)>
歯科用の部分安定化ジルコニア半焼結体(「ノリタケ カタナ(登録商標)ジルコニア」UTML;クラレノリタケデンタル株式会社製)を直径17mm、厚さ1.5mmに切削し、室温から1550℃まで10℃/分の速度で昇温した後、1550℃にて2時間保持した。その後、室温まで最高10℃/分の速度で降温させることで焼結体とした。ジルコニア焼結体の直径は、14mm、厚さ1.2mmであった。
ジルコニア焼結体の両面を耐水ペーパー#120、#320、#600の順で研削し、ジルコニア焼結体の両面が互いに平行となるように調整し、片面にサンドプラスト処理を施した。サンドプラスト処理は、平均粒子径50μmのアルミナ粉末を用い、0.25MPaの条件で行った。
ジルコニア焼結体に塗工するジルコニア強化剤は、水に上記実施例1の単斜晶ジルコニア粒子を分散させて作製した。ここで、ジルコニア強化剤に含まれる単斜晶ジルコニア粒子の濃度は22.5wt%とした。さらに、無機バインダーとしてシリカナノ粒子(LUDOX(登録商標)TM-50;アルドリッチ製; 平均粒子径22nm)を2.5wt%の割合で添加した。
ジルコニア焼結体のサンドプラスト処理面に上記ジルコニア強化剤を0.25μg/mm2の比率で塗工し、室温で乾燥させた後、1200~1400℃において1時間の熱処理を行って単斜晶ジルコニア相を形成した。
単斜晶ジルコニア相の形成を、図6に示すように、X線回折(Rigaku製RINT2500HF)により確認した。図6において、(a)は部分安定化ジルコニア半焼結体の焼結直後の結果を表し、(b)耐水ペーパーによる研削直後の結果を表し、(c)サンドプラスト処理直後の結果を表し、(d)ジルコニア強化剤を塗工して1000℃での熱処理を行った直後の結果を表し、(e)ジルコニア強化剤を塗工して1300℃での熱処理を行った直後の結果を表し、(f)ジルコニア強化剤を塗工して1500℃での熱処理を行った直後の結果を表す。
図6に示すように、単斜晶ジルコニア相の形成が行われていない状態では、正方晶あるいは立方晶のみが検出されるが、ジルコニア強化剤を塗工して熱処理を行うことで単斜晶ジルコニア相が形成されて、単斜晶ジルコニアが検出されていることがわかる。
本実施例においても、実施例1-2の場合と同様の二軸曲げ試験を行った。得られた結果を図7に示す。図7において、「As sintered」は部分安定化ジルコニア半焼結体の焼結直後の結果を表し、「Ground」は耐水ペーパーによる研削直後の結果を表し、「Sand blasted」はサンドプラスト処理直後の結果を表し、「1000℃」はジルコニア強化剤を塗工して1000℃での熱処理を行った直後の結果を表し、「1200℃」はジルコニア強化剤を塗工して1200℃での熱処理を行った直後の結果を表し、「1400℃」はジルコニア強化剤を塗工して1400℃での熱処理を行った直後の結果を表す。
図7に示すように、部分安定化ジルコニア半焼結体の場合では、焼結後に研削処理及びサンドプラスト処理を行うことで機械的強度の低下が生じるのに対して、ジルコニア強化剤を塗工して熱処理を行うことで単斜晶ジルコニア相が形成され、ジルコニア焼結体の機械的強度が向上していることがわかる。
[実施例1-4]
<部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させたジルコニアの場合(2)>
歯科用の部分安定化ジルコニア半焼結体(「ノリタケ カタナ(登録商標)ジルコニア」UTML;クラレノリタケデンタル株式会社製)を直径17mm、厚さ1.5mmに切削した。
次いで、部分安定化ジルコニア半焼結体の片面にジルコニア強化剤を塗工して、室温から1550℃まで10℃/分の速度で昇温した後、1550℃にて2時間保持した。その後、室温まで最高10℃/分の速度で降温させることで焼結体とした。
ここで、ジルコニア強化剤は、バインダーとしてポリエチレングリコールを3.3%含むエタノールと水との混合液に上記実施例1の単斜晶ジルコニア粒子を分散させて作製した。単斜晶ジルコニア粒子の濃度は7.5wt%とした。
ジルコニア強化剤を塗工せずに部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結したジルコニア焼結体(未処理)と、ジルコニア強化剤を塗工した部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結したジルコニア焼結体(表面処理)とで、実施例2の場合と同様の二軸曲げ試験を行った。得られた結果を図8に示す。図3では、未処理の場合の二軸曲げ強さは464MPaであり、ジルコニア強化剤を塗工した場合の二軸曲げ強さは556MPaであった。
図8に示すように、ジルコニア強化剤を塗工して焼結した場合には、ジルコニア焼結体の機械的強度が有意に向上することが確認できた。
次に、本発明の第二実施態様について、具体的な例を示しながら説明する。各物性の測定方法は以下のとおりである。
(1)ジルコニア粒子の平均一次粒子径
ジルコニア粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)にて写真撮影し、得られた画像上で任意の粒子100個について各粒子の粒子径(最大径)を測定し、それらの平均値をジルコニア粒子の平均一次粒子径とした。
(2)二軸曲げ強さ
ジルコニア焼結体の二軸曲げ強さは、ISO 6872:2015に準拠して測定した。
(3)ΔL*(W-B)
ジルコニア焼結体の透光性をΔL*(W-B)の測定により評価した。ジルコニア焼結体の厚さ1.2mmにおけるΔL*(W-B)は、以下の方法により測定した。直径15mm×厚さ1.2mmの円盤形状のジルコニア焼結体を試料として用い、分光測色計(コニカミノルタジャパン株式会社製、「CM-3610A」、幾何条件c(di:8°、de:8°)、拡散照明:8°受光、測定モードSCI、測定径/照明径=φ8mm/φ11mm)を用いて測定し(n=5)、コニカミノルタ株式会社製色彩管理ソフトウェア「SpectraMagic NX ver.2.5」を使用して平均値を算出した。当該測定において、光源はF11を用い、反射光を測定した。
(4)立方晶の割合
強化前のジルコニア焼結体における立方晶の割合は結晶相の解析によって求めた。具体的には、強化前ジルコニア焼結体の表面を鏡面加工した部分について、X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)測定を行い、以下の式から求めた。
c = 100 × Ic/(Im+It+Ic
ここで、fcは強化前ジルコニア焼結体における立方晶の割合(%)を表し、Imは2θ=28度付近のピーク(単斜晶の(11-1)面に基づくピーク)の高さを表し、Itは2θ=30度付近のピーク(正方晶の(111)面に基づくピーク)の高さを表し、Icは2θ=30度付近のピーク(立方晶の(111)面に基づくピーク)の高さを表す。
(5)ジルコニア焼結体の外観
ジルコニア焼結体の外観(色)は目視にて評価した。
(6)ジルコニア焼結体の蛍光性
ジルコニア焼結体の蛍光性はUV光下における蛍光の有無を目視にて評価した。
[実施例2-1](0Yジルコニア強化剤)
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウムを含む水溶液1.0Lと、1.9モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5Lを準備した。
沈殿槽内に純水1.0Lを注ぎ、さらに水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムを沈殿させてスラリーを得た。これを濾過及び洗浄した後、酢酸22.2gを当該スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理した。得られたスラリーを100nmの孔径を有するメンブレンフィルターで遠心濾過し、固形分濃度(ジルコニアの濃度)が5.0質量%となるように純水を加え、粗大粒子を取り除いたジルコニアスラリーを作製し、該スラリーをジルコニア強化剤とした。このジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は17nmであった。
[実施例2-2](3Yジルコニア強化剤)
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウム及び0.038モル/Lの塩化イットリウムを含む混合水溶液1.0Lと、1.9モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5Lをそれぞれ準備した。
沈殿槽内に純水1.0Lを注ぎ、さらに上記混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを共沈させてスラリーを得た。これを濾過及び洗浄した後、酢酸22.2gを当該スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理した。得られたスラリーを100nmの孔径を有するメンブレンフィルターで遠心濾過し、固形分濃度(ジルコニアとイットリアの濃度)が5.0質量%となるように純水を加え、粗大粒子を取り除いたジルコニアスラリーを作製し、該スラリーをジルコニア強化剤とした。このジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は18nmであった。
[実施例2-3](5Yジルコニア強化剤)
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウム及び0.065モル/Lの塩化イットリウムを含む混合水溶液1.0Lと、1.9モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5Lをそれぞれ準備した。
沈殿槽内に純水1.0Lを注ぎ、さらに上記混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを共沈させてスラリーを得た。これを濾過及び洗浄した後、酢酸22.2gを当該スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理した。得られたスラリーを100nmの孔径を有するメンブレンフィルターで遠心濾過し、固形分濃度(ジルコニアとイットリアの濃度)が5.0質量%となるように純水を加え、粗大粒子を取り除いたジルコニアスラリーを作製し、該スラリーをジルコニア強化剤とした。このジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は16nmであった。
[実施例2-4](8Yジルコニア強化剤)
0.62モル/Lのオキシ塩化ジルコニウム及び0.108モル/Lの塩化イットリウムを含む混合水溶液1.0Lと、1.9モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液0.5Lをそれぞれ準備した。
沈殿槽内に純水1.0Lを注ぎ、さらに上記混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液とを同時に注ぎ、オキシ塩化ジルコニウムと塩化イットリウムを共沈させてスラリーを得た。これを濾過及び洗浄した後、酢酸22.2gを当該スラリーに加え、200℃で3時間水熱処理した。得られたスラリーを100nmの孔径を有するメンブレンフィルターで遠心濾過し、固形分濃度(ジルコニアとイットリアの濃度)が5.0質量%となるように純水を加え、粗大粒子を取り除いたジルコニアスラリーを作製し、該スラリーをジルコニア強化剤とした。このジルコニアスラリーに含まれるジルコニア粒子の平均一次粒子径は18nmであった。
[実施例2-5~2-8,比較例2-1]
ジルコニア粒子の粉末「TZ-3Y」「TZ-6YS」「TZ-8YS」(東ソー株式会社製)を一軸プレスにて直径20mm×厚さ2.0mmの円盤状にそれぞれ成形し、これらを冷間等方圧加圧(CIP)処理(圧力170MPa)して密度を上げてジルコニア成形体を得た。これらのジルコニア成形体を常圧下、500℃で2時間仮焼してジルコニア半焼結体を得た。さらに、これらのジルコニア半焼結体を常圧下、1450℃で2時間焼結してジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色であった。得られたジルコニアの立方晶の割合を測定したところ、TZ-3Yは32%、TZ-6YS及びTZ-8YSは100%であった。得られたジルコニア焼結体を厚さ1.2mmとなるように#600耐水性研磨紙にて両面研磨した。
上記の得られたジルコニア焼結体に対し、実施例2-1~2-4で作製したジルコニア強化剤を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、その後、エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。その後、1450℃で2時間加熱して、強化ジルコニア焼結体を得た(実施例2-5~2-8)。得られた各強化ジルコニア焼結体は白色で蛍光性を示さなかった。また、強化処理を施さずに実施例2-5~2-8と同様に作製したTZ-3Y、TZ-6YS及びTZ-8YSのジルコニア焼結体を比較例2-1とした。各測定結果を表1に示した。
Figure 0007316827000002
表1に示したように、本発明のジルコニア強化剤を用いた実施例2-5~2-8は、未強化の比較例2-1と比較して二軸曲げ強さに優れ、かつ透光性の低下が抑制されていることが分かる。
[実施例2-9]
ポリエチレングリコール200(東京化成工業株式会社製)を水に溶解して、ポリエチレングリコール200を30質量%含む、バインダーを含む前処理剤溶液を調製した。
次に、実施例2-5で作製したTZ-6YSを焼結させたジルコニア焼結体に上記バインダーを含む前処理剤溶液を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、十分に水洗した後、エアーブローにて水分を留去した。その後、実施例2-5と同様にして、実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、その後、エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。その後、1450℃で2時間加熱して、強化ジルコニア焼結体を得た。得られた強化ジルコニア焼結体は白色で蛍光性を示さなかった。各測定結果を表2に示した。
[実施例2-10]
実施例2-5で作製したTZ-6YSを焼結させたジルコニア焼結体に、実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、その後、エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。以下、ジルコニア強化剤による処理を4回繰り返し、計5層積層した。その後、1450℃で2時間加熱して、強化ジルコニア焼結体を得た。得られた強化ジルコニア焼結体は白色で蛍光性を示さなかった。各測定結果を表2に示した。
[実施例2-11]
ポリアクリル酸(平均分子量約25,000、富士フイルム和光純薬株式会社製)を水に溶解して、ポリアクリル酸を30質量%含む、バインダーを含む前処理剤溶液を調製した。
次に、実施例2-5で作製したTZ-6YSを焼結させたジルコニア焼結体に上記バインダーを含む前処理剤溶液を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、十分に水洗した後、エアーブローにて水分を留去した。その後、実施例2-5と同様にして、実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、その後、エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。以下、バインダーを含む前処理剤溶液による処理とジルコニア強化剤による処理を各4回ずつ繰り返し、計5層ずつ積層した。その後、1450℃で2時間加熱して、強化ジルコニア焼結体を得た。得られた強化ジルコニア焼結体は白色で蛍光性を示さなかった。各測定結果を表2に示した。
[実施例2-12]
実施例2-5で作製したTZ-6YSを焼結させたジルコニア焼結体に、実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、その後、エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。その後、1100℃で2時間加熱して、強化ジルコニア焼結体を得た。得られた強化ジルコニア焼結体は白色で蛍光性を示さなかった。各測定結果を表2に示した。
[実施例2-13,比較例2-2]
「ノリタケ カタナ(登録商標) ジルコニアディスク」HT13(クラレノリタケデンタル株式会社製)をミリング装置(「ノリタケ カタナ(登録商標)H-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて直径20mm×厚さ2.0mmの円盤状、上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状に加工し、該加工物を1500℃で2時間焼成してジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体はやや赤みがかっており、蛍光性を示さなかった。
得られた円盤状ジルコニア焼結体に、実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、その後、エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア焼結体については、各歯冠形状の外表面部分に筆を用いて実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を塗工し、その後エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。その後、各サンプルを1500℃で2時間加熱して、強化ジルコニア焼結体を得た(実施例2-13)。得られた強化ジルコニア焼結体はやや赤みがかっており、蛍光性を示さなかった。上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア焼結体については、強化処理の前後において目視上変化は認められなかった。また、強化処理を施さなかったジルコニア焼結体を比較例2-2とした。各測定結果を表2に示した。
[実施例2-14,比較例2-3]
Lava(登録商標)Esthetic Zirconia Bleach(3M Deutschland GmbH製)をミリング装置(「ノリタケ カタナH-18」、クラレノリタケデンタル株式会社製)を用いて直径20mm×厚さ2.0mmの円盤状、上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状に加工し、該加工物を1500℃で2時間焼成してジルコニア焼結体を得た。得られたジルコニア焼結体は白色で蛍光性を示した。
得られた円盤状ジルコニア焼結体に、実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を、スポイトを用いてジルコニア焼結体の片面が全て覆われるように滴下し、その後、エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア焼結体については、各歯冠形状の外表面部分に筆を用いて実施例2-1で作製したジルコニア強化剤を塗工し、その後エアーブローにてジルコニア強化剤に含まれる分散媒を留去した。その後、各サンプルを1500℃で2時間加熱して、強化ジルコニア焼結体を得た(実施例2-14)。得られた強化ジルコニア焼結体は白色で蛍光性を示した。上顎中切歯単冠形状及び下顎第一大臼歯単冠形状のジルコニア焼結体については、強化処理の前後において目視上変化は認められなかった。また、強化処理を施さなかったジルコニア焼結体を比較例2-3とした。各測定結果を表2に示した。
Figure 0007316827000003
表2に示したように、本発明のジルコニア強化剤を用いた実施例2-9~2-14は、バインダーの有無及び種類、ジルコニア強化剤からなる層の数、熱処理の温度、着色剤及び蛍光剤の有無にかかわらず、透光性を損ねずに機械的強度を向上できたことが分かる。

Claims (13)

  1. 単斜晶ジルコニア粒子を含有し、所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて得られるジルコニア焼結体の表面に塗工して熱処理することで、前記ジルコニア焼結体の機械的強度を向上させる、ジルコニア強化剤。
  2. 前記単斜晶ジルコニア粒子の平均一次粒子径が1nm~500nmである、請求項1に記載のジルコニア強化剤。
  3. さらに水又はアルコールを含有する、請求項1又は2に記載のジルコニア強化剤。
  4. 所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて得られるジルコニア焼結体の機械的強度を向上させるジルコニア焼結体の強化方法であって、
    前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程を有するジルコニア焼結体の強化方法。
  5. 前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程が、前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア粒子、又は単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を塗工する工程と、
    前記ジルコニア強化剤を塗工したジルコニア焼結体を熱処理する工程と、を有する、請求項に記載のジルコニア焼結体の強化方法。
  6. 所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて得られるジルコニア焼結体の機械的強度を向上させるジルコニア焼結体の強化方法であって、
    焼結前の前記正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は前記部分安定化ジルコニア半焼結体の表面に単斜晶ジルコニア粒子、又は単斜晶ジルコニア粒子を含有するジルコニア強化剤を塗工する工程と、
    前記正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は前記部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させてジルコニア焼結体を得る工程と、を有する、ジルコニア焼結体の強化方法。
  7. 二軸曲げ強さを5%以上向上させる、請求項4~6のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の強化方法。
  8. △L*(W-B)の変化率が5%以下である、請求項4~7のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の強化方法。
  9. 前記熱処理の温度が、900℃を下限とし前記ジルコニア焼結体を作製した際の焼結温度を上限とする範囲である、請求項4~8のいずれか一項に記載のジルコニア焼結体の強化方法。
  10. 請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア強化剤を塗工されてなる、表面の少なくとも一部に単斜晶ジルコニア相を有するジルコニア焼結体。
  11. 所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体を焼結させて成る歯冠修復物において、
    前記歯冠修復物の表面に、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア強化剤を塗工されてなる、単斜晶ジルコニア相を有する歯冠修復物。
  12. ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程を有し、
    前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程が、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア強化剤を、ジルコニア焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程と、前記ジルコニア強化剤が塗工されたジルコニア焼結体を熱処理する工程を有し、得られる強化ジルコニア焼結体が表面の少なくとも一部に単斜晶ジルコニア相を有する、強化ジルコニア焼結体の製造方法。
  13. ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程を有し、
    前記ジルコニア焼結体の表面に単斜晶ジルコニア相を形成する工程が、請求項1~3のいずれか一項に記載のジルコニア強化剤を、所定形状とした正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は部分安定化ジルコニア半焼結体の表面の少なくとも一部に塗工する工程と、前記ジルコニア強化剤が塗工された前記正方晶安定化ジルコニア半焼結体又は前記部分安定化ジルコニア半焼結体を熱処理する工程を有し、得られる強化ジルコニア焼結体が表面の少なくとも一部に単斜晶ジルコニア相を有する、強化ジルコニア焼結体の製造方法。
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